(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ペプチド性生理活性物質を含む水系溶媒に、重金属塩を添加し、ペプチド性生理活性物質の重金属塩を含む水系溶媒を得る工程をさらに含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
前記工程EにおいてS/W/O/W型エマルションから有機溶媒を除いて得られたマイクロカプセルを凍結乾燥又は噴霧乾燥して粉末を得る工程Fをさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
なお、本明細書中においては特に断りのない限り、「室温」とは、1〜30℃の範囲の温度を意味する。
【0016】
マイクロカプセル製剤の製造方法
本発明のマイクロカプセル製剤の製造方法は、
ペプチド性生理活性物質の重金属塩を含む水系溶媒に、塩基性アミノ酸を添加して、アミノ酸含有S/W型懸濁液を得る工程A、
生体内分解性ポリマーを含む有機溶媒に、塩基性アミノ酸を添加して、アミノ酸含有ポリマー溶液を得る工程B、
前記アミノ酸含有S/W型懸濁液を、前記アミノ酸含有ポリマー溶液である油相に分散し
て、S/W/O型エマルションを得る工程C、
前記S/W/O型エマルションを水相に分散して、S/W/O/W型エマルションを得る工程D、及
び
前記S/W/O/W型エマルションにおける有機溶媒を除去する工程Eを含む。以下、各工程について説明する。
【0017】
工程A
工程Aでは、ペプチド性生理活性物質の重金属塩(以下、本明細書中において「ペプチド塩」ということがある。)を含む水系溶媒に、塩基性アミノ酸を添加して、アミノ酸含有S/W型懸濁液を得る。
【0018】
ペプチド性生理活性物質としては、複数のアミノ酸残基からなるペプチドを有し、生体内において有用な生理活性を示し得る化合物が挙げられる。その分子量としては、特に限定されず、15万を超えるようなペプチド性生理活性物質でも好適に用いることができる。ペプチド性生理活性物質として、より具体的には、例えば、ホルモン、サイトカイン、増血因子、増殖因子、酵素、可溶性又は可溶化受容体、抗体、抗体を構成する一部の領域、ペプチド性抗原、血液凝固因子、接着因子あるいはこれらの結合によって得られる物質等が挙げられる。
【0019】
ホルモンとしては、例えばインスリン、 成長ホルモン、 ナトリウム利尿ペプチド、 ガストリン、 プロラクチン、 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、 黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、ヒト絨毛ゴナドトロピン(HCG)、モチリン、カリクレイン等が挙げられる。
【0020】
サイトカインとしては、例えばリンホカイン、 モノカイン等が挙げられる。リンホカインとしては、例えばインターフェロン( アルファ、 ベータ、ガンマ)、インターロイキン(IL-2 乃至IL-12) 等が挙げられる。モノカインとしては、例えばインターロイキン1(IL-1)、腫瘍壊死因子等が挙げられる。
【0021】
造血因子としては、例えばエリスロポエチン、 顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、トロンボポエチン、血小板増殖刺激因子、メガカリオサイトポテンシエーター等が挙げられる。
【0022】
増殖因子としては、例えば塩基性あるいは酸性の繊維芽細胞増殖因子(FGF)あるいはこれらのファミリー(例えば、FGF-9等)、神経細胞増殖因子(NGF) あるいはこれらのファミリー、インスリン様成長因子(例えば、IGF-1、IGF-2等)、骨増殖に関与する因子(BMP)、肝細胞増殖因子(HGF) あるいはこれらのファミリー等が挙げられる。
【0023】
酵素としては、例えばスーパーオキシドディスミュターゼ(SOD)、ティシュープラスミノーゲンアクティベーター(tPA)等が挙げられる。
【0024】
可溶性受容体としては、可溶性インターロイキン6(IL-6)受容体、インスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)、可溶性腫瘍壊死因子受容体、可溶性上皮成長因子受容体、可溶性インターロイキン1受容体等が挙げられる。
【0025】
可溶化受容体としては、公知の受容体、例えばインターロイキン1受容体, インターロイキン6受容体、腫瘍壊死因子受容体、ファス(Fas)リガンド等を遺伝子工学的手法で可溶化したもの等が挙げられる。
【0026】
抗体としては、例えばヒトモノクーナル抗体, マウス由来の可変部とヒト由来の定常部とからなるヒト− マウスキメラモノクローナル抗体等が挙げられる。抗体のタイプとしては、例えばIgM、IgG、IgE等が挙げられる。抗原としては、例えば前記抗体によって認識されるもの等が挙げられ、さらに血小板、ウイルス等も挙げられる。また、抗体と細胞との結合によって得られる物質、抗体とその他の化合物との結合によって得られる物質等も挙げられる。
【0027】
血液凝固因子としては、例えば第VIII因子等が挙げられる。
【0028】
接着因子としては、フィブロネクチン、ICAM-1等が挙げられる。
【0029】
生理活性物質としては、さらにエンドセリン、Arg-Gly-Asp-Ser (RGDS)、脳下垂体アデニレートシクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)等も挙げられる。
【0030】
上記のペプチド性生理活性物質の中で、IgG抗体を用いる場合の一実施形態としては、遺伝子組み換えTNF-α受容体蛋白であって、エタネレセプト又はエタネレセプトと類似のアミノ酸配列を有する分子量約15万の抗体であるTuNEXを用いることができる。エタネレセプト及びTuNEXは、生体内での半減期が短く、特に徐放性製剤化の開発が求められるペプチド性生理活性物質の一つである(非特許文献6)。
【0031】
なお、ペプチド性生理活性物質としては、上記のうち、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いていもよい。
【0032】
また、ペプチド塩を形成する重金属としては、例えば、2価、3価又は4価の金属等が挙げられ、具体的には、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、鉄、銅、亜鉛等の遷移金属、アルミニウム、スズ等が挙げられる。このうち、アルカリ土類金属又は遷移金属が好ましく、亜鉛が特に好ましい。
【0033】
塩基性アミノ酸としては、特に限定されず、例えば、アルギニン、リジン、ヒスチジン等が挙げられる。塩基性アミノ酸は、D体及びL体のいずれであってもよく、D体とL体が混合していてもよい。これらのうちL-アルギニン又はL-リジンが好ましく、L-アルギニンが特に好ましい。工程Aで得られるS/W型懸濁液は、これらの塩基性アミノ酸のうち、1種類のみを含有してもよいし、2種以上を含有してもよい。塩基性アミノ酸は、塩の形態ではなく、遊離型でなければならない。
【0034】
ペプチド塩を含む水系溶媒は、ペプチド性生理活性物質の水溶液に、重金属塩(以下、本明細書において「添加用重金属塩」ということがある。)を添加し、混合することによって得られる。
【0035】
ペプチド塩の調製方法としては、例えば、以下に示す方法が挙げられる。但し、以下の方法に限定されるものではない。
【0036】
まず、ペプチド性生理活性物質を含む水溶液と添加用重金属塩とを、攪拌しながら混合し、ペプチド性生理活性物質の重金属塩を沈殿させる。これを遠心分離によって分離することによってペプチド塩を得ることができる。遠心分離の条件としては、特に限定されず、例えば、7400 rpm及び4℃で10分間とすることができる。
【0037】
ペプチド性生理活性物質を含む水溶液中のペプチド性生理活性物質の濃度は、通常5 w/v%以下とすることが好ましい。
【0038】
添加用重金属塩のペプチド性生理活性物質に対するモル比(添加用重金属塩/ペプチド性生理活性物質)としては、特に限定されず、1000以下の範囲内であれば良い。その下限値としては、10が好ましく、30がより好ましい。その上限値としては650が好ましく、400がより好ましく、100が特に好ましい。下限値が10である場合は、上限値は650が好ましく、400がより好ましく、100が特に好ましい。下限値が30である場合は、上限値は650が好ましく、400がより好ましく、100が特に好ましい。
【0039】
得られたペプチド塩は、凍結乾燥し、粉末状とすることが好ましい。これにより、より長期間の化学的安定性を向上させることができる。
【0040】
次に、該ペプチド塩を水系溶媒に分散する。そして、該ペプチド塩を分散した水系溶媒に塩基性アミノ酸を添加し、混合することによって、下記の工程Bに供するアミノ酸含有S/W型懸濁液を得る。
【0041】
添加用重金属塩は、該添加用重金属塩を含む水溶液として添加することができる。このとき、該添加用重金属塩を含む水溶液における重金属塩の濃度は、ペプチド性生理活性物質の種類によって異なるが、下限値としては0.01w/v%とすることができ、上限値としては1w/v%とすることができ、0.5 w/v%が好ましい。すなわち、0.01〜1w/v%とすることができ、0.01〜0.5w/v%とすることが好ましい。
【0042】
添加用重金属塩としては、特に限定されず、例えば、重金属と有機酸との塩又は重金属と無機酸との塩が挙げられ、無機酸との塩が好ましい。
【0043】
前記無機酸との塩としては、例えば、ハロゲン化塩(例えば、塩化亜鉛、塩化カルシウム等)、硫酸塩、硝酸塩、チオシアン酸塩等が挙げられ、特に塩化亜鉛が好ましい。
【0044】
前記有機酸との塩における有機酸としては、例えば脂肪族カルボン酸, 芳香族酸が挙げられる。脂肪族カルボン酸は、好ましくは炭素数2〜9 の脂肪族カルボン酸である。脂肪族カルボン酸としては、例えば脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸等が挙げられる。これらの脂肪族カルボン酸は、飽和あるいは不飽和のいずれであってもよい。
【0045】
ペプチド塩における、ペプチド性生理活性物質の含有量は、ペプチド塩の量を100w/w%とした場合に、1〜30 w/w%の範囲であることが好ましい。
【0046】
ペプチド塩の粒径としては、1μm以下であることが好ましく、より微細であることが好ましい。また、ペプチド塩の粒径としては、特に限定されず、その下限値としては100 nmであってもよく、その上限値としては600 nmが好ましい。
【0047】
前記ペプチド性生理活性物質を含む水溶液及び前記添加用重金属塩を含む水溶液のいずれか又は両方は、さらに他の添加物を含んでいてもよい。該添加物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリソルベート80等が挙げられ、このうち、PVAが好ましい。かかる添加物をさらに含むことにより、前記ペプチド塩を含む水系溶媒におけるペプチド塩の粒径をより小さくすることができる。ペプチド塩の粒径をより小さくすることにより、本発明により得られるマイクロカプセル製剤中において、ペプチド性生理活性物質がより均一に分散した製剤を得ることができる。
【0048】
PVAをペプチド性生理活性物質を含む水溶液及び添加用重金属塩を含む水溶液のいずれかに添加する場合の、PVAの濃度としては、特に限定されず、0.05〜2 w/v%とすることができる。
【0049】
添加用重金属塩のペプチド性生理活性物質に対するモル比(添加用重金属塩/ペプチド性生理活性物質)としては、特に限定されず、10〜1250であることが好ましい。
【0050】
前記ペプチド塩を水系溶媒に分散する方法としては、例えば、断続振とう法、プロペラ型撹拌機あるいはタービン型撹拌機等のミキサーによる方法、コロイドミル法、ホモジナイザー法、超音波照射法等が挙げられる。
【0051】
水系溶媒としては、前記ペプチド塩を溶解し得る水系溶媒(例えば、生理食塩水等)ではない水系溶媒であればよく、水、pH緩衝液等を用いることができる。
【0052】
前記ペプチド塩を水系溶媒に分散する際は、前記ペプチド塩を含む水系溶媒に超音波照射することが好ましく、これにより、得られるペプチド塩の粒径を小さくすることができる。超音波照射の照射条件としては、特に限定されず、例えば、5秒間隔で20秒間ずつ合計20分間、すなわち、合計の超音波照射時間としては16分間、周波数20 kHzで照射することができる。
【0053】
また、前記ペプチド塩を分散した水系溶媒に塩基性アミノ酸を添加し、混合する際、ペプチド性生理活性物質が有する活性及び本願発明の効果を損なわない程度に前記水系溶媒を加温することができる。加温することにより、前記水系溶媒の粘度を低下させ、前記塩基性アミノ酸の溶解度を向上させることができるため、ペプチド性生理活性物質等がより均一に分散したアミノ酸含有S/W型懸濁液を得ることができる。
【0054】
加温することに代えて又は加えて、ペプチド性生理活性物質が有する活性及び本願発明の効果を損なわない程度に超音波照射することもペプチド性生理活性物質等をより均一に分散させるために有効である。
【0055】
ペプチド性生理活性物質がマイクロカプセル製剤中においてより均一に分散することは、一定の速度でペプチド性生理活性物質を放出することに寄与するため、かかる加温条件下及び/又は超音波照射条件下での塩基性アミノ酸の添加及び混合は有用性が高いと考えられる。
【0056】
加温する際の温度範囲の下限値としては25℃とすればよく、30℃が好ましく、35℃がより好ましい。また、その上限値としては45℃とすればよく、40℃がより好ましい。下限値が25℃である場合は、上限値は45℃とすればよく、40℃であることが好ましい。下限値が30℃である場合は、上限値は45℃とすればよく、40℃であることが好ましい。下限値が35℃である場合は、上限値は45℃とすればよく、40℃であることが好ましい。かかる温度範囲とすることにより、ペプチド性生理活性物質の活性を維持しつつ、より均一性の高いアミノ酸含有S/W型懸濁液を調製することができる。
【0057】
前記ペプチド塩は、水及び有機溶媒のいずれにも不溶であるが、生理食塩水には溶解する。前記ペプチド塩を生理食塩水に溶解することにより溶出したペプチド性生理活性物質は、ペプチド塩となる前のペプチド性生理活性物質に対して同等の生理活性を示すことができる。すなわち、ペプチド塩が生体内に投与された場合、ペプチド塩は生体内で溶解し、溶出したペプチド性生理活性物質は所望の生理活性を示すことができる。
【0058】
工程B
工程Bでは、生体内分解性ポリマーを含む有機溶媒に、塩基性アミノ酸を添加して、アミノ酸含有ポリマー溶液を得る。
【0059】
生体内分解性ポリマーとしては、生体内で徐々に分解されて所望の徐放性能が得られるものであればよく、例えば、脂肪族ポリエステル、ポリ-α-シアノアクリル酸エステル、ポリアミノ酸等が挙げられる。好ましくは脂肪族ポリエステルである。これらは、適宜の割合で混合して用いてもよい。重合の形式はランダム、ブロック、グラフトのいずれでもよいがランダム重合が最も好ましい。
【0060】
生体内分解性ポリマーとしては、より具体的には、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、乳酸-アスパラギン酸共重合体、乳酸-ヒドロキシカプロン酸共重合体、グリコール酸-ヒドロキシカプロン酸共重合体、ポリプロピオラクトン、ポリブチロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリカプロラクトン、ポリトリメチレンカーボネート、ポリ(p-ジオキサノン)、ポリ(a-シアノアクリル酸エステル)、ポリ(β-ヒドロキシ酪酸)、ポリトリメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリγ-ベンジル-L-グルタミン酸、ポリL-アラニン及びポリアルギン酸、ポリカーボネート、ポリエステルアミド、ポリアミノ酸、ポリアルキレンアルキレート、ポリエチレングリコール、ポリウレタン等の単独重合体及びこれらの共重合体が挙げられる。これらの中でもポリ乳酸及び乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)が好ましい。これらの生体分解性ポリマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0061】
ポリ乳酸又は乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)を使用する場合、その重量平均分子量は、広い範囲から適宜選択すればよいが、例えば、3000〜200000程度、好ましくは3000〜50000程度、より好ましくは5000〜20000程度である。
【0062】
また、上記乳酸-グリコール酸共重合体における乳酸:グリコール酸(lactic acid:glycolic acid)の比率は、特に限定されず広い範囲から適宜選択すればよいが、一般には乳酸:グリコール酸(lactic acid:glycolic acid)のモル比は、99:1〜50:50程度、好ましくは75:25〜50:50程度である。
【0063】
ポリ乳酸は、ポリ-D-乳酸、ポリ-L-乳酸、ポリ-DL-乳酸のいずれでもよく、好ましくはポリ-DL-乳酸である。また、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)は、D-乳酸-グリコール酸共重合体、L-乳酸-グリコール酸共重合体、DL-乳酸-グリコール酸共重合体のいずれでもよく、好ましくはDL-乳酸-グリコール酸共重合体である。
【0064】
生体内分解性ポリマーは、好ましくは末端に遊離のカルボキシル基を有する。遊離のカルボキシル基を有することにより、後述する工程Cにおいて、生体内分解性ポリマーが、アミノ酸含有S/W型懸濁液とアミノ酸含有ポリマー溶液との界面において界面活性作用を発揮し、より安定したS/W/O型エマルションを形成することができると考えられる。
【0065】
生体内分解性ポリマーの濃度としては、特に限定されず、その下限値は5w/v%とすればよく、20w/v%が好ましく、40w/v%がより好ましい。また、その上限値は30w/v%とすればよく、40w/v%が好ましく、60w/v%がより好ましい。下限値が5w/v%である場合は、上限値は30w/v%とすればよく、40w/v%が好ましく、60w/v%がより好ましい。下限値が20w/v%である場合は、上限値は30w/v%とすればよく、40w/v%が好ましく、60w/v%がより好ましい。下限値が40w/v%である場合は、上限値は60w/v%が好ましい。
【0066】
有機溶媒としては、生体内分解性ポリマーを溶解し得るものであれば特に限定されず、例えば、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;エチルエーテル、イソプロピルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪酸エステル;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エタノール、メタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトニトリル等のニトリル;ジメチルホルムアミド等のアミド;ジメチルケトン、メチルエチルケトン等のアセトン類等が挙げらる。これらの中でも、水に非混和性の有機溶媒が好ましく、特にジクロロメタンが好ましい。これらの有機溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、エーテル類及びアルコール類は2種以上の混合溶媒とすることが好ましい。
【0067】
塩基性アミノ酸としては、前記に掲げるものを1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。また、工程Bにおいて用いる塩基性アミノ酸と工程Aにおける塩基性アミノ酸の種類が異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0068】
生体内分解性ポリマーを含む有機溶媒は、例えば、有機溶媒に生体内分解性ポリマーを添加し、攪拌することによって得られる。本願発明の効果を損なわない程度に超音波照射することにより、生体内分解性ポリマーの溶解が容易となる場合がある。
【0069】
アミノ酸含有ポリマー溶液は、例えば、前記生体内分解性ポリマーを含む有機溶媒に塩基性アミノ酸を添加し、溶解させることによって調製することができる。
【0070】
塩基性アミノ酸を溶解させる際、例えば、生体内分解性ポリマーを含む有機溶媒に塩基性アミノ酸を添加し、室温条件下で一夜放置することも生体内分解性ポリマー及び塩基性アミノ酸の溶解を容易にすることができる。このように長時間かけて溶解させることは、生体内分解性ポリマーと塩基性アミノ酸の両方が均一に溶解したアミノ酸含有ポリマー溶液を得るために有効である。また、一夜放置後にさらに超音波照射することも上記の均一な溶液を得るために有効である。超音波照射の照射条件としては、特に限定されず、例えば、5秒間隔で20秒間ずつ合計20分間、すなわち、合計の超音波照射時間としては16分間、周波数20 kHzで照射することができる。
【0071】
工程C
工程Cでは、前記アミノ酸含有S/W型懸濁液を、前記アミノ酸含有ポリマー溶液である油相に分散して、S/W/O型エマルションを得る。
【0072】
アミノ酸含有ポリマー溶液における有機溶媒が水に非混和性の溶媒である場合、前記アミノ酸含有S/W型懸濁液は、アミノ酸含有ポリマー溶液中に微細な液滴となって分散する。
【0073】
分散する方法としては、例えば、断続振とう法、プロペラ型撹拌機あるいはタービン型撹拌機等のミキサーによる方法、コロイドミル法、ホモジナイザー法、超音波照射法等が挙げられる。
【0074】
S/W/O型エマルションの調製方法としては、特に限定されず、例えば、ホモジナイザー等でアミノ酸含有S/W型懸濁液と前記アミノ酸含有ポリマー溶液の混合物を適当な回転速度で攪拌し、水系溶媒中でS/W型懸濁液を微細化してS/W/O型エマルションとする方法、セラミックフィルター等の微細な貫通孔を有するフィルターにアミノ酸含有S/W型懸濁液とアミノ酸含有ポリマー溶液の混合物を一定速度で通過させることにより上記溶液を微細化してS/W/O型エマルションとする方法、セラミックフィルター等の微細な貫通孔を有するフィルターにアミノ酸含有S/W型懸濁液を一定速度で通過させて上記溶液を微細化した後、アミノ酸含有ポリマー溶液と混合する方法等を用いればよい。
【0075】
S/W/O型エマルションの調製方法のより具体的な方法としては、例えば、以下に示す方法が挙げられる。但し、以下の方法に限定されるものではない。
【0076】
まず、前記アミノ酸含有S/W型懸濁液を、前記アミノ酸含有ポリマー溶液にゆっくりと滴下する。
【0077】
アミノ酸含有S/W型塩濁液を添加したアミノ酸含有ポリマー溶液をホモジナイザーを用いて9600 rpmで攪拌し、S/W/O型エマルションを得る。
【0078】
アミノ酸含有S/W型懸濁液とアミノ酸含有ポリマー溶液との混合比としては、S/W/O型エマルションが得られる範囲であれば特に限定されず、容積比として1:3〜1:30の範囲内が好ましく、1:5〜1:20がより好ましい。
【0079】
また、S/W/O型エマルション中の塩基性アミノ酸の含有量としては、前記生体内分解性ポリマーに対して1〜10w/w%であることが好ましく、1〜8w/w%であることがより好ましく、2〜6w/w%であることがさらに好ましい。
【0080】
工程Cでは、ペプチド性生理活性物質が有する活性及び本願発明の効果を損なわない程度に、アミノ酸含有S/W型塩濁液を添加したアミノ酸含有ポリマー溶液に超音波照射することもペプチド性生理活性物質をより均一に分散させるために有効である。超音波照射することにより、工程Cで得られるS/W/O型エマルション中の液滴の粒径が小さくなるため、アミノ酸含有S/W型懸濁液が、アミノ酸含有ポリマー溶液中により均一に分散し易くなる。
【0081】
ペプチド性生理活性物質がマイクロカプセル製剤中においてより均一に分散することは、一定の速度でペプチド性生理活性物質を放出することにも寄与するため、工程Cを、かかる加温条件下及び/又は超音波照射条件下で行うことの有用性は高いと考えられる。
【0082】
本発明の製造方法においては、アミノ酸含有S/W型懸濁液及びアミノ酸含有ポリマー溶液の両方に塩基性アミノ酸が含有される。
【0083】
アミノ酸含有S/W型懸濁液及びアミノ酸含有ポリマー溶液に含有される塩基性アミノ酸の分配比は、モル比(アミノ酸含有S/W型懸濁液に含有される塩基性アミノ酸:アミノ酸含有ポリマー溶液に含有される塩基性アミノ酸)として1:5〜5:1の範囲とすることができ、1:3〜3:1が好ましく、1:1が特に好ましい。
【0084】
塩基性アミノ酸としてアルギニンを用いた場合、アミノ酸含有S/W型懸濁液及びアミノ酸含有ポリマー溶液に含有される塩基性アミノ酸の濃度は、例えば、アミノ酸含有S/W型懸濁液では0.05〜0.075w/v%、アミノ酸含有ポリマー溶液では0.01〜0.03w/v%とすることができる。工程Cで得られるS/W/O型エマルションに含まれる塩基性アミノ酸の濃度の下限値は、0.01 w/v%とすればよく、0.03 w/v%が好ましく、0.05 w/v%がより好ましい。また、その上限値は、0.1 w/v%とすればよく、0.5 w/v%がより好ましく、1 w/v%がより好ましい。下限値が0.01w/v%である場合は、上限値は0.1w/v%とすればよく、0.5w/v%が好ましく、1w/v%がより好ましい。下限値が0.03w/v%の場合は、上限値は0.1w/v%とすればよく、0.5w/v%が好ましく、1w/v%がより好ましい。下限値が0.05w/v%である場合は、0.1w/v%とすればよく、0.5w/v%が好ましく、1w/v%がより好ましい。
【0085】
生体内分解性ポリマーとして、PLGAを用いた場合、S/W/O型エマルションに含有される塩基性アミノ酸と数平均分子量を用いて算出したPLGAのモル比(塩基性アミノ酸:PLGA)が2:1〜1:5であることが好ましく、2:1〜1:2がより好ましい。
【0086】
前記塩基性アミノ酸の分配比を上記の範囲とすることで、S/W/O/W型エマルションにおけるペプチド性生理活性物質の封入効率を顕著に向上させることができるという、驚くべき効果が得られる。
【0087】
工程D
工程Dでは、前記S/W/O型エマルションを水相に分散して、S/W/O/W型エマルションを得る。
【0088】
前記水相としては、特に限定されず、任意の水系溶媒を用いることができ、好ましくは水を用いることができる。
【0089】
前記水相は乳化剤を含んでいてもよい。乳化剤は、好ましくは安定なS/W/O/W型エマルションを形成できるものであればいずれでもよく、例えば、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体等の非イオン性界面活性剤;ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース、レシチン、ゼラチン、ヒアルロン酸等が用いられる。これら、乳化剤は、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0090】
前記水相が乳化剤を含む場合、その濃度は、特に限定されず、乳化剤の種類によって異なる。臨界ミセル濃度以上の濃度が好ましく、水相に対して例えば、非イオン性界面活性の場合は、0.005〜0.5 w/v%程度、好ましくは0.01〜0.1 w/v%程度、より好ましくは0.01〜0.05 w/v%程度である。PVAの場合は、0.01〜0.5 w/v%程度、好ましくは0.01〜0.1 w/v%程度、より好ましくは0.05〜0.1 w/v%程度である。
【0091】
S/W/O/W型エマルションの調製方法は、特に限定されず、例えば、ホモジナイザー等でS/W/O型エマルションと水相である水系溶媒との混合物を適当な回転速度で攪拌し、水系溶媒中でS/W/O型エマルションを微細化してS/W/O/W型エマルションとする方法、セラミックフィルター等の微細な貫通孔を有するフィルターにS/W/O型エマルションと水相である水系溶媒の混合物を一定速度で通過させることにより上記溶液を微細化してS/W/O/W型エマルションとする方法、セラミックフィルター等の微細な貫通孔を有するフィルターにS/W/O型エマルションを一定速度で通過させて上記溶液を微細化した後、水相である水系溶媒と混合する方法等を用いればよい。この時、水相の温度は20℃以下であることが好ましく、15℃以下であることがより好ましい。
【0092】
S/W/O/W型エマルションの調製方法として、より具体的には、例えば、以下に示す方法が挙げられる。但し、以下の方法に限定されるものではない。
【0093】
まず、水相を予め15℃以下とし、これをホモジナイザーを用いて攪拌しながら、S/W/O型エマルションを、前記水系溶媒にゆっくりとローターの直下に滴下する。S/W/O型エマルションを添加した水相をさらにゆるやかに攪拌し、S/W/O/W型エマルションを得ることができる。
【0094】
S/W/O型エマルションを分散させるための水相の量は、S/W/O/W型エマルションが得られる範囲であれば特に限定されず、S/W/O型エマルションの量に対して過剰量あればよく、例えば、5倍当量以上が好ましく、10倍当量以上がより好ましい。
【0095】
工程E
工程Eでは、工程Dで得られたS/W/O/W型エマルションにおける有機溶媒を除去してマイクロカプセル製剤を得る。
【0096】
工程Eにおける有機溶媒を除去する方法としては、通常用いられる水中乾燥法等が採用され、例えば、パドルミキサー又はマグネチックスターラー等で撹拌する方法、パドルミキサー又はマグネチックスターラー等で撹拌しながら徐々に減圧する方法、ロータリーエバポレーター等を用いて、真空度を調節する方法等が挙げられる。この時、S/W/O/W型エマルションの温度は室温であればよく、20℃以下であることが好ましく、15℃以下であることがより好ましい。
【0097】
S/W/O/W型エマルションにおける有機溶媒を除去する方法として、より具体的には、例えば、以下に示す方法が挙げられる。但し、以下の方法に限定されるものではない。
【0098】
すなわち、工程Dで得られたS/W/O/W型エマルションを室温で3時間、パドルミキサーを用いて650 rpmで撹拌する。
【0099】
工程EにおいてS/W/O/W型エマルションから有機溶媒を除くことにより、ペプチド性生理活性物質が内部に分散したマイクロカプセルが形成される。
【0100】
工程F
本発明の製造方法は、さらに工程Fを含むことができる。
【0101】
工程Fにおいては該マイクロカプセルを洗浄し、これを凍結乾燥又は噴霧乾燥して粉末を得る。
【0102】
前記工程Eにおいて形成されたマイクロカプセルは、遠心分離等の方法により捕集することができる。捕集したマイクロカプセルは水により洗浄することができる。
【0103】
マイクロカプセルの凍結乾燥条件及び噴霧乾燥条件は、適宜設定することができる。マイクロカプセルを凍結乾燥又は噴霧乾燥して得られた粉末は、用時に、注射用蒸留水、注射用生理食塩水、その他適当な分散剤を加えることにより、より投与に適した注射剤であるマイクロカプセル製剤として使用することができる。
【0104】
マイクロカプセル製剤
本発明の製造方法によれば、ペプチド性生理活性物質の安定で、かつ、封入効率が高い製造方法が提供される。また、本発明の製造方法によって得られたマイクロカプセル製剤は、製剤中におけるペプチド性生理活性物質がより均一に分散したものであることができる。より具体的には、微細なペプチド塩が生体内分解性ポリマーのマトリックス中に均一に分散し、ペプチド塩と生体内分解性ポリマーのマトリックスとの界面に塩基性アミノ酸が介在する構造を有すると考えられる。
【0105】
好適な一実施形態においては、ほぼ一定の割合でペプチド性生理活性物質を放出するマイクロカプセル製剤を得ることができる。
【0106】
測定方法等
<マイクロカプセル製剤からのペプチド性生理活性物質の抽出方法>
マイクロカプセル製剤を5〜10 mg採り、1 mLのアセトンに分散する。この液に氷浴中で20分間超音波照射する。得られた液を9 mLの0.9 w/v%塩化ナトリウム水溶液に加えて混和する。得られた液に氷浴中で20分間超音波照射する。この液を遠心分離し、沈殿物を除去する。得られた液を、以下のマイクロBCAタンパク質定量法及びELISA法の測定対象とする。
【0107】
ペプチド塩からペプチド性生理活性物質の抽出する場合は、該ペプチド塩を0.9 w/v%塩化ナトリウム水溶液に加えて混和する。得られた液に氷浴中で20分間超音波照射する。この液を遠心分離し、沈殿物を除去する。得られた液を、以下のマイクロBCAタンパク質定量法及びELISA法の測定対象とする。
【0108】
<生理活性物質含有量> 測定方法: マイクロBCA(Bicinchoninic Acid)タンパク質定量法
測定条件:マイクロBCAタンパク質定量法試薬A、B及びCをA:B:C=25:24:1の割合で混合した。2〜50μg/mLの範囲でTuNEXの5段階の濃度の標準溶液を調製した測定対象及び標準溶液をそれぞれ150μLずつ、96ウェルプレートに滴下し、さらに各ウェルに、150μLの染色液を添加し混和する。37℃で2時間インキュベートした後、プレートリーダーを用いて570 nmにおける吸光度を測定する。標準溶液の吸光度により得られた検量線に基づいて、タンパク質量を算出する。
【0109】
<結合活性>
測定方法:ELISA法
測定機器:Thermo Scientific Multiskan Ascent(Thermo社製プレートリーダー)
測定条件:マウス抗ヒトTNF RII/TNFRSF1Bモノクローナル抗体を96ウェルプレートの各ウェルにコーティングする。1%ウシ血清アルブミンリン酸緩衝生理食塩水(BSA-PBS)を別に採り、これにTuNEX(100μg/mL)を加え標準溶液を調製し、測定対象及び標準溶液を各ウェルに100μLずつ滴下する。1%BSA-PBSを別に採り、これに抗ヒトIgG Fc-HRPを加え、この液を各ウェルに100μLずつ滴下し、37℃で1時間インキュベートする。各ウェルを洗浄後、オルトフェニルジアミン(OPD)溶液を各ウェルに100μLずつ滴下し、37℃で穏やかに攪拌しながら10分間インキュベートする。各ウェルに硫酸を50μLずつ滴下して酵素反応を停止し、マイクロプレートリーダーを用いて波長490 nmにおける吸光度を測定する。得られたシグモイド曲線から、結合活性を算出する。
【0110】
<平均粒径の測定>
測定機器:Beckmann Coulter Multisizer III(Beckmann社製)
測定条件:測定対象の適量を生理食塩水中に分散し、電気抵抗ナノパルス方式(electro sensing zone method)により測定する。
【0111】
<封入効率(EE)>
算出方法:TuNEXの封入効率は以下の式により算出する。
【0114】
[式中、
DL:初期薬物負荷量(mg)
Mmc:TuNEXの亜鉛塩及びPLGAを含むマイクロカプセルの重量(mg)
Mt:TuNEXの重量(mg)
Mp:PLGAの重量(mg)
Mtz:TuNEXの亜鉛塩の重量(mg)
Mar:塩基性アミノ酸の重量(mg)]
により、薬物負荷量を算出し、これを用いて以下の式(2):
【0116】
[式中、
EE:封入効率(%)
Md:マイクロBCAタンパク質定量法により測定された薬物量(mg)
DL:初期薬物負荷量(mg)]
により算出する。
【実施例】
【0117】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0118】
実施例において使用した各種評価パラメータは、上記の測定方法に基づいて測定した。
【0119】
実施例1(TPM048)
TuNEX(3.5 mg/mL)20 mLと塩化亜鉛水溶液(1.0 mg/mL)4 mLとを混合し、TuNEXの亜鉛塩を得た。この液を遠心分離して該亜鉛塩を分離し、水で洗浄後凍結乾燥した。凍結乾燥した該亜鉛塩550 mgを水1.1 mL中に分散し、該亜鉛塩を含む水系溶媒を得た。該亜鉛塩の平均粒径は約170 nmであった。
【0120】
前記亜鉛塩を含む水系溶媒に、L-アルギニン(Sigma-Ardrich社製)を71.8 mg添加した。これを40℃に加温し、超音波を照射してL-アルギニンを溶解し、アミノ酸含有S/W型懸濁液を得た。これとは別に、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)(和光純薬社製、重量平均分子量約10000、乳酸・グリコール酸組成比50:50、遊離カルボキシル基を含む。)2750 mgをジクロロメタン(DCM)5.5 mLに溶解し、さらにL-アルギニン(Sigma-Ardrich社製)を71.8 mg添加した。これを一夜放置してL-アルギニンを溶解し、アミノ酸含有ポリマー溶液を得た。次に、前記S/W型懸濁液を前記ポリマー溶液に添加してホモジナイザー(Homogenizer T10)を用いてスケール6で1 分間攪拌し、S/W/O型エマルションを得た。
次に、前記S/W/O型エマルションを、水相である0.1w/v%のポリビニルアルコール(PVA)を含む水溶液330 mLに添加してホモジナイザー(Homogenizer T10)を用いて18000 rpmで3 分間攪拌し、S/W/O/W型エマルションを得た。前記S/W/O/W型エマルションを室温で3時間、パドルミキサーを用いて650 rpmで撹拌してジクロロメタンを気化させて除去し、6000 rpmで2分間遠心分離してマイクロカプセルを回収し、水で洗浄後、凍結乾燥して粉末状のマイクロカプセル製剤とした。
【0121】
実施例2(TPM051R)
前記亜鉛塩を含む水系溶媒に、L-アルギニン(Sigma-Ardrich社製)を35.9 mg添加したこと、及び、前記PLGAが溶解したDCMにL-アルギニン(Sigma-Ardrich社製)を107.7 mgを添加したことを除き、実施例1と同様に製造した。
【0122】
実施例3(TPM052R)
前記亜鉛塩を含む水系溶媒に、L-アルギニン(Sigma-Ardrich社製)を107.7 mg添加したこと、及び、前記PLGAが溶解したDCMにL-アルギニン(Sigma-Ardrich社製)を35.9 mgを添加したことを除き、実施例1と同様に製造した。
【0123】
実施例4(TPM045)
TuNEX(3.5 mg/mL)20 mLと塩化亜鉛水溶液(1.0 mg/mL)4 mLとを混合し、TuNEXの亜鉛塩を得た。この液を遠心分離して該亜鉛塩を分離し、水で洗浄後凍結乾燥した。凍結乾燥した該亜鉛塩302.5 mgを水1.1 mL中に分散し、該亜鉛塩を含む水系溶媒を得た。該亜鉛塩の平均粒径は約170 nmであった。前記亜鉛塩を含む水系溶媒に、L-アルギニン(Sigma-Ardrich社製)を47.9 mg添加した。これを40℃に加温し、超音波を照射してL-アルギニンを溶解し、アミノ酸含有S/W型懸濁液を得た。これとは別に、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)(和光純薬社製、重量平均分子量約10000、乳酸・グリコール酸組成比50:50、遊離カルボキシル基を含む。)2750 mgをジクロロメタン(DCM)5.5 mLに溶解し、さらにL-アルギニン(Sigma-Ardrich社製)を47.9 mg添加した。これを40℃に加温し、超音波を照射してL-アルギニンを溶解し、アミノ酸含有ポリマー溶液を得た。
【0124】
次に、前記S/W型懸濁液を前記ポリマー溶液に添加してホモジナイザーを用いて攪拌し、S/W/O型エマルションを得た。次に、前記S/W/O型エマルションを、水相である0.1w/v%のポリビニルアルコール(PVA)を含む水溶液330 mLに添加してホモジナイザーを用いて攪拌し、S/W/O/W型エマルションを得た。
【0125】
前記S/W/O/W型エマルションを室温で3時間、パドルミキサーを用いてゆっくりと撹拌してジクロロメタンを気化させ、水で洗浄後、凍結乾燥して粉末状のマイクロカプセル製剤とした。
【0126】
比較例1(TP053R)
前記亜鉛塩を含む水系溶媒に、L-アルギニン(Sigma-Ardrich社製)を144 mg溶解し、アミノ酸含有S/W型懸濁液を得たこと、及び、前記PLGAが溶解したDCMにL-アルギニン(Sigma-Ardrich社製)を加えずに、アミノ酸含有ポリマー溶液を得たことを除き、実施例1と同様に製造した。
【0127】
比較例2(TPM026)
TuNEX(3.5 mg/mL)20 mLと塩化亜鉛水溶液(1.0 mg/mL)4 mLとを混合し、TuNEXの亜鉛塩を得た。この液を遠心分離して該亜鉛塩を分離し、水で洗浄後凍結乾燥した。凍結乾燥した該亜鉛塩60 mgを水0.6 mL中に分散し、該亜鉛塩を含む水系溶媒を得た。前記亜鉛塩を含む水系溶媒に、L-アルギニン(Sigma-Ardrich社製)を90 mg添加した。これを40℃に加温し、超音波を照射してL-アルギニンを溶解し、アミノ酸含有S/W型懸濁液を得た。これとは別に、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)(和光純薬社製、重量平均分子量約10000、乳酸・グリコール酸組成比50:50、遊離カルボキシル基を含む。)300 mgをジクロロメタン(DCM)6 mLに溶解し、アミノ酸含有ポリマー溶液を得た。次に、前記S/W型懸濁液を前記ポリマー溶液に添加してホモジナイザーを用いて攪拌し、S/W/O型エマルションを得た。次に、前記S/W/O型エマルションを、水相である0.1w/v%のポリビニルアルコール(PVA)を含む水溶液660 mLに添加してホモジナイザーを用いて攪拌し、S/W/O/W型エマルションを得た。前記S/W/O/W型エマルションを室温で3時間、パドルミキサーを用いてゆっくりと撹拌してジクロロメタンを気化させ、水で洗浄後、凍結乾燥して粉末状のマイクロカプセル製剤とした。
【0128】
試験例1
上記の実施例及び比較例により得られた粉末状のマイクロカプセル製剤における、TuNEXの封入効率を算出した。それぞれの封入効率及びL-アルギニンの分配比(モル比)を表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
アルギニンをS/W型懸濁液相とポリマー溶液相の両方に分配して含ませることにより、TuNEXの高い封入効率が得られた。
【0131】
試験例2
実施例1及び実施例4の粉末を、分散媒に分散し、これを体重230〜240 gのLewis雄性ラットに100 mg/kgの投与量で皮下投与した。また、対照として、TuNEX(水溶液)を同様に5 mg/kgの投与量で皮下投与した。前記分散媒は、カルボキシメチルセルロース1.25 w/v%及びポリソルベート80 0.05w/v%を含むリン酸緩衝生理食塩水をオートクレーブで滅菌したものを使用した。投与されたTuNEXの量は、100 mg/kgである。投与後経時的に採血を行い、血清中のTuNEXをELISA法により測定した。投与後の時間に対して血清中のTuNEX濃度(μg/mL)をプロットした薬物動態プロファイルを
図1に示す。実施例1及び実施例4のいずれにおいても、長期間にわたって、ほぼ一定の血清中TuNEX濃度が認められた。
【0132】
試験例3
以下の調製例1〜10に示す、種々の調製方法によって得られた、TuNEXの亜鉛塩について、上記の方法により、その平均粒径を測定した。また、調製例1、2、4及び5については、前記TuNEXの亜鉛塩を生理食塩水に溶解した際のTuNEXの力価(結合活性)の活性比を評価した。
【0133】
調製例1
TuNEX(3.5 mg/mL)1 mLに、塩化亜鉛水溶液(1.0 mg/mL)をTuNEXを攪拌しながらゆっくりと添加し、不溶性物質を生成した。塩化亜鉛のTuNEXに対するモル比(塩化亜鉛/TuNEX)は31であった。この不溶性物質を遠心分離(14000rpm, 30min)によって沈降させ、分離した。これを洗浄し、過剰の塩化亜鉛等を除去し、凍結乾燥することで粉末状のTuNEX亜鉛塩を得た。
【0134】
調製例2
TuNEX(3.5 mg/mL)1 mLに、塩化亜鉛水溶液(1.0 mg/mL)をTuNEXを攪拌しながらゆっくりと添加し、不溶性物質を生成した。塩化亜鉛のTuNEXに対するモル比(塩化亜鉛/TuNEX)は62であった。この不溶性物質を遠心分離(14000rpm, 30min)によって沈降させ、分離した。これを洗浄し、過剰の塩化亜鉛等を除去し、凍結乾燥することで粉末状のTuNEX亜鉛塩を得た。
【0135】
調製例3
TuNEX(3.5 mg/mL)1 mLにポリビニルアルコール(PVA)を0.05w/v%となるように溶解した。この液を攪拌しながら、これに塩化亜鉛水溶液(10 mg/mL)をゆっくりと添加し、不溶性物質を生成した。塩化亜鉛のTuNEXに対するモル比(塩化亜鉛/TuNEX)は63であった。この不溶性物質を遠心分離(14000rpm, 30min)によって沈降させ、分離した。これを洗浄し、過剰の塩化亜鉛等を除去し、凍結乾燥することで粉末状のTuNEX亜鉛塩を得た。
【0136】
調製例4
TuNEX(3.5 mg/mL)1 mLに、塩化亜鉛水溶液(1.0 mg/mL)をTuNEXを攪拌しながらゆっくりと添加し、不溶性物質を生成した。塩化亜鉛のTuNEXに対するモル比(塩化亜鉛/TuNEX)は67であった。この不溶性物質を遠心分離(14000rpm, 30min)によって沈降させ、分離した。これを洗浄し、過剰の塩化亜鉛等を除去し、凍結乾燥することで粉末状のTuNEX亜鉛塩を得た。
【0137】
調製例5
TuNEX(3.5 mg/mL)1 mLに、塩化亜鉛水溶液(1.0 mg/mL)をTuNEXを攪拌しながらゆっくりと添加し、不溶性物質を生成した。塩化亜鉛のTuNEXに対するモル比(塩化亜鉛/TuNEX)は314であった。この不溶性物質を遠心分離(14000rpm, 30min)によって沈降させ、分離した。これを洗浄し、過剰の塩化亜鉛等を除去し、凍結乾燥することで粉末状のTuNEX亜鉛塩を得た。
【0138】
調製例6
TuNEX(3.5 mg/mL)1 mLに、塩化亜鉛水溶液(50.0 mg/mL)をTuNEXを攪拌しながらゆっくりと添加し、不溶性物質を生成した。塩化亜鉛のTuNEXに対するモル比(塩化亜鉛/TuNEX)は377であった。この不溶性物質を遠心分離(14000rpm, 30min)によって沈降させ、分離した。これを洗浄し、過剰の塩化亜鉛等を除去し、凍結乾燥することで粉末状のTuNEX亜鉛塩を得た。
【0139】
調製例7
TuNEX(3.5 mg/mL)1 mLに、塩化亜鉛水溶液(10.0 mg/mL)をTuNEXを攪拌しながらゆっくりと添加し、不溶性物質を生成した。塩化亜鉛のTuNEXに対するモル比(塩化亜鉛/TuNEX)は628であった。この不溶性物質を遠心分離(14000rpm, 30min)によって沈降させ、分離した。これを洗浄し、過剰の塩化亜鉛等を除去し、凍結乾燥することで粉末状のTuNEX亜鉛塩を得た。
【0140】
調製例8
TuNEX(3.5 mg/mL)1 mLに、塩化亜鉛水溶液(20.0 mg/mL)をTuNEXを攪拌しながらゆっくりと添加し、不溶性物質を生成した。塩化亜鉛のTuNEXに対するモル比(塩化亜鉛/TuNEX)は1257であった。この不溶性物質を遠心分離(14000rpm, 30min)によって沈降させ、分離した。これを洗浄し、過剰の塩化亜鉛等を除去し、凍結乾燥することで粉末状のTuNEX亜鉛塩を得た。
【0141】
調製例9
TuNEX(3.5 mg/mL)1 mLに、塩化亜鉛水溶液(30.0 mg/mL)をTuNEXを攪拌しながらゆっくりと添加し、不溶性物質を生成した。塩化亜鉛のTuNEXに対するモル比(塩化亜鉛/TuNEX)は1885であった。この不溶性物質を遠心分離(14000rpm, 30min)によって沈降させ、分離した。これを洗浄し、過剰の塩化亜鉛等を除去し、凍結乾燥することで粉末状のTuNEX亜鉛塩を得た。
【0142】
調製例10
TuNEX(3.5 mg/mL)1 mLに、塩化亜鉛水溶液(40.0 mg/mL)をTuNEXを攪拌しながらゆっくりと添加し、不溶性物質を生成した。塩化亜鉛のTuNEXに対するモル比(塩化亜鉛/TuNEX)は2514であった。この不溶性物質を遠心分離(14000rpm, 30min)によって沈降させ、分離した。これを洗浄し、過剰の塩化亜鉛等を除去し、凍結乾燥することで粉末状のTuNEX亜鉛塩を得た。
【0143】
以上の調製例により調製した粉末状のTuNEX亜鉛塩の平均粒径、及び調製時に混合したTuNEXに対する塩化亜鉛のモル比を表2に示す。
【0144】
【表2】
【0145】
調製例1、2、4及び5における、TuNEXの亜鉛塩を生理食塩水に溶解した際のTuNEXの力価(結合活性)の活性比は、それぞれ90%、100%、100%及び100%であった。
ペプチド性生理活性物質の直接的な有機溶媒層との接触を回避できる、生体内分解性ポリマーを用いた、ペプチド性生理活性物質の封入効率が高いマイクロカプセル製剤の製造方法を提供する。