特許第5938768号(P5938768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 浜松ホトニクス株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧

特許5938768植物の生育状態を診断する方法及びこれに用いられる装置
<>
  • 特許5938768-植物の生育状態を診断する方法及びこれに用いられる装置 図000007
  • 特許5938768-植物の生育状態を診断する方法及びこれに用いられる装置 図000008
  • 特許5938768-植物の生育状態を診断する方法及びこれに用いられる装置 図000009
  • 特許5938768-植物の生育状態を診断する方法及びこれに用いられる装置 図000010
  • 特許5938768-植物の生育状態を診断する方法及びこれに用いられる装置 図000011
  • 特許5938768-植物の生育状態を診断する方法及びこれに用いられる装置 図000012
  • 特許5938768-植物の生育状態を診断する方法及びこれに用いられる装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938768
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】植物の生育状態を診断する方法及びこれに用いられる装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
   A01G7/00 603
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-52089(P2012-52089)
(22)【出願日】2012年3月8日
(65)【公開番号】特開2013-183702(P2013-183702A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124291
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】勝又 政和
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐子
(72)【発明者】
【氏名】今西 純一
【審査官】 本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−301638(JP,A)
【文献】 特開2004−101196(JP,A)
【文献】 特開2007−218863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
G01N 21/00−21/01;21/17−21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の生育状態を診断する方法であって、
(a)所定の温度条件下で植物の葉の遅延発光を測定し、遅延発光データを取得する、遅延発光測定ステップと、
(b)前記植物の葉のクロロフィル量を測定し、クロロフィルデータを取得する、クロロフィル測定ステップと、
(c)前記遅延発光データ及び前記クロロフィルデータを基に、
木部圧ポテンシャルを下げた場合に、自然状態に比べて遅延発光量が増加する時間領域に対応する遅延発光量である第一の遅延発光量と、
木部圧ポテンシャルを下げた場合に、自然状態に比べて遅延発光量が減少する時間領域に対応する遅延発光量である第二の遅延発光量と、
を求め、それぞれ前記植物の葉の所定の面積あたりのクロロフィル量で補正して第一の補正遅延発光量と第二の補正遅延発光量とを算出する、遅延発光量補正ステップと、
(d)前記遅延発光量補正ステップで算出した第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量と、前記植物の基準となる第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量との比較に基づいて、前記植物の葉の近傍部分における植物の活力を判定する、判定ステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記活力が渇水ストレスの影響を反映したものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遅延発光量補正ステップで算出した第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量と、前記植物の基準となる第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量との差が大きい程、前記植物の葉の近傍部分における植物の活力が低いと判定する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
植物の葉に光を照射するための光源部と、
前記光源部が照射する光によって生じる前記植物の葉の遅延発光を検出する第一の検出部と、
所定の温度条件下で前記遅延発光を検出するための温度調節部と、
前記光源部が照射する光によって生じる前記植物の葉のクロロフィル量を反映する光を検出する第二の検出部と、
前記第一の検出部によって検出した前記遅延発光に対応する遅延発光データ及び前記第二の検出部によって検出した前記クロロフィル量を反映する光に対応するクロロフィルデータを記録する記録部と、
演算部と、
を備える、植物の生育状態を診断するための装置であって、
前記演算部は、
前記遅延発光データ及び前記クロロフィルデータを基に、
木部圧ポテンシャルを下げた場合に、自然状態に比べて遅延発光量が増加する時間領域に対応する遅延発光量である第一の遅延発光量と、
木部圧ポテンシャルを下げた場合に、自然状態に比べて遅延発光量が減少する時間領域に対応する遅延発光量である第二の遅延発光量と、
を求め、それぞれ前記植物の葉の所定の面積あたりのクロロフィル量で補正した第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量を、前記植物の基準となる第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量との比較のために算出する、
装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生育状態を診断する方法及びこれに用いられる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹木、園芸植物、野菜等の農産品植物について、その生育状態を診断して、病変、老化又は枯死等の変異を早期に判別することが、環境保全、農業、農産加工業等にとって重要な課題になってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−308733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来では、これら植物の生育状態を判別するには目視等の経験による主観的な手法が一般的であって、客観的な指標をもっての判別はほとんど実現されていないのが実情である。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡便で、客観的な判定が可能な、植物の生育状態を診断する方法及びこれに用いられる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、植物の生育状態を診断する方法であって、
(a)所定の温度条件下で植物の葉の遅延発光を測定し、遅延発光データを取得する、遅延発光測定ステップと、
(b)上記植物の葉のクロロフィル量を測定し、クロロフィルデータを取得する、クロロフィル測定ステップと、
(c)上記遅延発光データ及び上記クロロフィルデータを基に、
木部圧ポテンシャルを下げた場合に、遅延発光量が増加する時間領域に対応する遅延発光量である第一の遅延発光量と、
木部圧ポテンシャルを下げた場合に、遅延発光量が減少する時間領域に対応する遅延発光量である第二の遅延発光量と、
を求め、それぞれ上記植物の葉の所定の面積あたりのクロロフィル量で補正して第一の補正遅延発光量と第二の補正遅延発光量とを算出する、遅延発光量補正ステップと、
(d)上記遅延発光量補正ステップで算出した第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量と、上記植物の基準となる第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量との比較に基づいて、上記植物の葉の近傍部分における植物の活力を判定する、判定ステップと、
を含む、方法を提供する。
【0007】
本発明は、植物の葉の所定の面積あたりの第一の遅延発光量及び植物の葉の所定の面積あたりの第二の遅延発光量を、それぞれ葉の所定の面積あたりのクロロフィル量によって補正した第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量を求め、上記第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量を指標とすることによって、簡便で、客観的な判定が可能な、植物の生育状態を診断する方法を提供することが可能になる。
【0008】
上記活力は渇水ストレスの影響を反映したものであることが好ましい。
【0009】
上記遅延発光量補正ステップで算出した第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量と、上記植物の基準となる第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量との差が大きい程、上記植物の葉の近傍部分における植物の活力が低いと判定することが好ましい。
【0010】
また本発明は、植物の葉に光を照射するための光源部と、
上記光源部が照射する光によって生じる上記植物の葉の遅延発光を検出する第一の検出部と、
所定の温度条件下で上記遅延発光を検出するための温度調節部と、
上記光源部が照射する光によって生じる上記植物の葉のクロロフィル量を反映する光を検出する第二の検出部と、
上記第一の検出部によって検出した上記遅延発光に対応する遅延発光データ及び上記第二の検出部によって検出した上記クロロフィル量を反映する光に対応するクロロフィルデータを記録する記録部と、
を備える、植物の生育状態を診断するための装置を提供する。
【0011】
本発明によれば、このような構成をとることによって、簡便で、客観的な判定が可能な、植物の生育状態を診断する装置を提供することが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便で、客観的な判定が可能な、植物の生育状態を診断する方法及びこれに用いられる装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る植物の生育状態を診断する方法を説明するフローチャートである。
図2】木部圧ポテンシャルを変化させたときの植物の遅延発光パターンの変化を表したグラフである。
図3】遅延発光量と渇水ストレスとの相関関係を示すグラフである。
図4】遅延発光量と渇水ストレスとの相関関係を示すグラフである。
図5】野外に自生する植物の生育状態と遅延発光量との相関関係を示すグラフである。
図6】植物の生育状態を診断するための装置の一実施形態を示す模式図である。
図7】植物の生育状態を診断するための装置の他の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本実施形態に係る植物の生育状態を診断する方法を説明するフローチャートである。本実施形態は、(a)遅延発光測定ステップと、(b)クロロフィル測定ステップと、(c)遅延発光量補正ステップと、(d)判定ステップと、を備える。
【0016】
(a)遅延発光測定ステップでは、所定の温度条件下で植物の葉の遅延発光を測定し遅延発光データを取得する。葉は植物から採取したものを用いてもよいし、植物に生えている葉を直接用いてもよい。
【0017】
遅延発光の測定における所定の温度条件は、測定中一定であれば特に制限はないが、5〜35℃が好ましく、20〜30℃がより好ましい。
【0018】
遅延発光の測定は、公知の装置及び方法、例えば、国際公開第2005/062027
号に記載の装置及び方法により、行うことができる。より具体的には、例えば、植物の葉に暗処理を施し、励起光を照射した後、暗黒条件下で上記植物の葉が発する微弱発光を測定する方法が挙げられる。
【0019】
上記植物の葉に暗処理を施す時間は、5〜1200秒間が好ましく、150〜600秒間がより好ましい。
【0020】
上記植物の葉に照射する励起光の波長は、280〜900nmが好ましく、400〜750nmがより好ましい。
【0021】
上記植物の葉に励起光を照射する時間は、0.1〜60秒間が好ましく、0.5〜20秒間がより好ましい。
【0022】
上記植物の葉から発する微弱発光を測定する時間は、0.01〜1200秒間が好ましく、5〜600秒間がより好ましい。
【0023】
遅延発光の測定において、遅延発光の検出器に対する葉の露出面積は、所定の面積であることが好ましい。このようにすることで、後述する(c)遅延発光量補正ステップがより簡便に行える。上記所定の面積は、特に制限はないが0.15〜80cmが好ましく、0.5〜10cmがより好ましい。
【0024】
(b)クロロフィル測定ステップでは、上記植物の葉のクロロフィル量を測定し、クロロフィルデータを取得する。
【0025】
上記クロロフィル量を測定する方法は公知の方法であれば特に制限はないが、特開2011−38879号公報に記載の、上記植物の葉に光を照射して得られる反射光を利用した方法やSPAD−502葉緑素計(コニカミノルタ社製)等の様な、上記植物の葉に光を照射して得られる透過光を利用した方法が好ましく用いられる。
【0026】
反射光や透過光を利用してクロロフィル量の測定する場合、反射光や透過光の検出器に対する葉の露出面積は、所定の面積であることが好ましい。このようにすることで、後述する(c)遅延発光量補正ステップがより簡便に行える。上記所定の面積は、特に制限はないが0.06〜80cmが好ましく、0.5〜10cmがより好ましい。
【0027】
(c)遅延発光量補正ステップでは、上記遅延発光データ及び上記クロロフィルデータを基に、第一の遅延発光量と第二の遅延発光量とを求め、それぞれ前記植物の葉の所定の面積あたりのクロロフィル量で補正して第一の補正遅延発光量と第二の補正遅延発光量とを算出する。
【0028】
第一の遅延発光量は、木部圧ポテンシャルを下げた場合に、遅延発光量が増加する時間領域に対応する、上記植物の葉の所定の面積あたりの遅延発光量である。第二の遅延発光量は、木部圧ポテンシャルを下げた場合に、遅延発光量が減少する時間領域に対応する、上記植物の葉の所定の面積あたりの遅延発光量である。
【0029】
例えば、図2に示すような、木部圧ポテンシャルを変化させてヤマザクラの葉の遅延発光パターンをみた場合、木部圧ポテンシャルを下げた場合に、遅延発光量が増加する時間領域は(A)の領域であり、木部圧ポテンシャルを下げた場合に、遅延発光量が減少する時間領域とは(B)の領域である。これらの時間領域は、植物の種類によって異なる。植物の種類に応じて、木部圧ポテンシャルを変化させることで、その植物に固有の時間領域を決めることが可能である。また、ストレスを受けていることが明確なサンプル群と、適正な生育であると判断できるサンプル群についてあらかじめ計測した結果を参考に、より最適な時間領域を設定することもできる。
【0030】
上述のようにして定まった第一の遅延発光量及び第二の遅延発光量は、例えば、植物の葉の所定の面積あたりのクロロフィル量で、それぞれ除することによって補正する。また、第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量(S)は以下の式から算出してもよい。
【0031】
【数1】
【0032】
T:第一の遅延発光量及び第二の遅延発光量
U:所定の面積あたりのクロロフィル量
e,g:遅延発光量とクロロフィル量の値の重み付けを表す
f,h:遅延発光の測定値及びクロロフィル量の測定値のベースラインである。
【0033】
以下、補正後のそれぞれの遅延発光量を、第一の補正遅延発光量、第二の補正遅延発光量という。補正によって第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量を求めることによって、後述の(d)判定ステップにおいて、植物の活力の判定が明確に行える。
【0034】
(d)判定ステップでは、上記遅延発光量補正ステップで算出した第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量と、上記植物の基準となる第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量との比較に基づいて、上記植物の葉の近傍部分における植物の活力を判定する。
【0035】
上記植物の基準となる第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量は、適宜設定が可能であるが、例えば、標準的な生育状態を示している上記植物の葉から得られた第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量の平均値が挙げられる。
【0036】
上記遅延発光量補正ステップで算出した第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量と、上記植物の基準となる第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量との比較は、第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量をそれぞれ直接比較してもよいし、第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量に基づいて他のパラメータを算出し、得られた他のパラメータ同士を比較してもよい。他のパラメータとしては、例えば、以下に示す距離パラメータ及び角度パラメータが挙げられる。
【0037】
基準サンプルの基準位置座標からの距離パラメータの算出
基準位置座標は、基準となる植物の葉の第一の補正遅延発光量の平均値xと、第二の補正遅延発光量の平均値yとによって定める。対象となる植物の葉の距離パラメータdは、基準位置座標(x,y)と、対象となる植物の葉の遅延発光量座標(a,b)から以下の式に従って求める。ここで、aは第一の補正遅延発光量を示し、bは第二の補正遅延発光量を示す。
【0038】
【数2】
【0039】
基準サンプルの基準位置座標からの角度パラメータの算出
基準位置座標(x,y)と対象となる植物の葉の遅延発光量座標(a,b)を結ぶ線の角度を求める。角度は例えば、以下の式に示すようなアークタンジェント関数を用いて(x,y)と(a,b)とを結ぶ線のラジアンθを求めそこから角度を算出することができる。
【0040】
【数3】
【0041】
上記植物の葉の近傍部分とは、例えば、上記植物の葉が着いている枝や茎等が挙げられる。しかし、植物は、土壌の水や養分を吸い上げて枝、茎及び葉に送っているため、植物の葉の近傍部分は根、幹、枝、茎等、植物全体の状態を反映する。植物の生育状態をより適切に診断するために、上記植物の葉はストレスを受けやすい部位、例えば、植物体の上部に位置し光のよく当たる部位の葉等を測定することが好ましい。
【0042】
植物の活力はストレスの影響を受けて低下するが、ストレスとしては、渇水、高温、凍結、貧栄養、微量元素欠乏、塩類障害、病虫害等が挙げられる。本実施形態における方法では、上記活力が渇水ストレスの影響を反映したものであることが好ましい。
【0043】
上記比較に基づく上記植物の葉の近傍部分における植物の活力の判定は、例えば、遅延発光量補正ステップで算出した第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量と、植物の基準となる第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量との差が大きい程、植物の葉の近傍部分における植物の活力が低いと判定することが挙げられる。
【0044】
また、上述の距離パラメータ及び角度パラメータを用いた場合、角度パラメータを評価することによって、渇水ストレスを特異的に検出することができる。植物としてヤマザクラを用いた場合、基準位置に対してマイナスの角度パラメータを示すものは、渇水ストレスを受けていると判定できる。
【0045】
次に本実施形態に係る植物の生育状態を診断するための装置について説明する。本実施形態に係る装置は、植物の葉に光を照射するための光源部と、光源部が照射する光によって生じる植物の葉の遅延発光を検出する第一の検出部と、所定の温度条件下で遅延発光を検出するための温度調節部と、光源部が照射する光によって生じる植物の葉のクロロフィル量を反映する光を検出する第二の検出部と、第一の検出部によって検出した遅延発光に対応する遅延発光データ及び第二の検出部によって検出したクロロフィル量を反映する光に対応するクロロフィルデータを記録する記録部と、を備える。以下、詳細に説明する。
【0046】
図6は、植物の生育状態を診断するための装置の一実施形態を示す模式図である。上記植物の生育状態を診断するための装置100は、植物の葉等の試料3に光を照射するための光源部6と、光源部6が照射する光によって生じる植物の葉等の試料3の遅延発光を検出する第一の検出部1と、所定の温度条件下で遅延発光を検出するための温度調節部19と、光源部6が照射する光によって生じる植物の葉等の試料3のクロロフィル量を反映する光を検出する第二の検出部8と、第一の検出部1によって検出した遅延発光に対応する遅延発光データ及び第二の検出部8によって検出したクロロフィル量を反映する光に対応するクロロフィルデータを記録する記録部15とを備えている。
【0047】
光源6は、複数の波長が照射可能な単一または複数の光源から構成されている。すなわち、ハロゲンランプのように多波長の光源やそれに波長選択フィルターを組み合わせたもの、また異なるピーク波長のLEDの集合体などである。
【0048】
光源部6は、試料3に所定の波長の光を照射するものであって、その波長は、400nm〜1000nmである。ここで、光源部6は、単色光源であっても、複数の光源を組み合せた光源であってもよい。光源部6の発光は、所定時間連続してもよいし、任意のパターンでパルス点灯させてもよい。また、同一または異なる波長特性を有する複数の光源を順番に発光させたり、複数の光源を同時に発光させたりしてもよい。また、光源の残光をカットするため光源部6の点灯及び消灯と同期して開閉するにシャッター2を組み合わせても良い。
【0049】
第一の検出部1は、励起光が照射されたことによって試料3から生じる遅延発光量を検出するものであり、遅延発光を検知する光センサーと、光センサーに入射する光を制限するためのフィルター、光センサーが検知して出力する信号に基づいて遅延発光量を算出する遅延発光量算出部を有している。
【0050】
第一の検出部1にはたとえば、光電子増倍管を用いたフォトンカウンターや、アバランシェフォトダイオードを用いた微弱光計測装置などを用いる事ができる。
【0051】
第二の検出部8は光源部6から発せられた光が試料3の開口部7で露出した部分で反射した反射光の分光情報を得るために小型の分光器や波長選択フィルターと複数の受光器を組み合わせた構造となっている。
【0052】
第二の検出部8には光電子増倍管やアバランシェフォトダイオード、シリコンフォトダイオードなどを用いることができる。
【0053】
記録部15は、後述するように解析装置11に備えられてもよい。
【0054】
更に上記装置100は、第一の検出部1に入射する光を制御するシャッター2と、試料3から発せられる遅延発光を第一の検出部1に導く第一の集光部4と、試料3を設置する試料設置部5と、試料設置部5に収納した試料3のうち所定の形状、面積のみを露出させる開口部7と、試料3から反射した反射光を第二の検出部8に導く第二の集光部9と、第一の検出部1および第二の検出部8によって得られたデータを後述する解析装置11に電気的に送信する通信部10が設けられている。
【0055】
第一の検出部1および第二の検出部8、シャッター2、試料3、第一の集光部4、第二の集光部9、試料設置部5及び光源部6は、外部からの光が遮断可能な遮光部13に格納されている。遮光部13は例えば暗箱である。
【0056】
試料設置部5は試料3を入れた容器を設置したり、あらかじめ固定されている試料設置部5に試料3を挿入したりする事ができるようになっている。試料設置部5はハッチ14によって外部と隔てられており、必要に応じてハッチ14を開閉し試料3の交換を行うことができる。
【0057】
第一の検出部1および第二の検出器8、シャッター2、光源部6、通信部10及び温度調節部19は、解析装置11と電気的に接続されており、解析装置11内にある制御部12によってその機能が制御されている。
【0058】
解析装置11には、通信部10から伝達されてきた測定データや解析に必要な情報を記録するための記録部15、計測結果の演算解析を行う演算部16、解析結果の表示を行う表示部17、制御に必要な情報を入力するため入力部18を備えている。
【0059】
制御部12は装置100の作動状況を所定の手順に従って制御可能な制御装置であり、コンピュータやタイマーとリレー等を組み合わせたものなどが使用できる。
【0060】
解析装置11と制御部12は双方の機能を備えた1つのコンピュータを使用しても良いし、制御部12、記録部15、演算部16、表示部17、入力部18に相当する機能を備えたコンピュータなどを用いてもよい。
【0061】
図7は、植物の生育状態を診断するための装置の他の実施形態を示す模式図である。基本的な装置の構成要素は、図6に示す装置100と同一であるが、第二の検出部8と第二の集光部9とが、光源部6から発せられた光が試料3の開口部7で露出した部分で試料3を透過した透過光を検出するように配置されている点で異なる。第二の検出部8および第二の集光部9は、試料設置部5の開口部7aを挟んで光源部6の反対側に設置されている。たとえば、第二の検出部8および第二の集光部9は、ハッチ14内に設置することができる。このような構成では光源部6から発せられた光が試料設置部5の開口部7aから、第二の検出器8に向かって透過できるように開口部7aから試料3を挟んで反対側に第二の集光部9とつながった開口部7bが設けられる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明について、実施例を挙げて更に詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0063】
試験1:ヤマザクラの葉の脱水試験(渇水ストレス実験)
健全な生育状態を示すヤマザクラ(Cerasus jamasakura var. jamasakura)の葉を採取し、直ちに実験室に運搬し、次のプロトコールに従って測定を行った。まず、葉をプレッシャーチャンバー(大起理化社製、商品名:DIK−7000)に入れ、高圧窒素ガスにより自然状態の木部圧ポテンシャルを測定した。次に、葉を微弱発光測定装置(浜松ホトニクス社製、TYPE−6100A、マスク付きリーフアダプター)に入れ、300秒間の暗処理を施し、10秒間励起光(680nm、10μmol/m/s)を照射した後、暗黒条件下で400秒間微弱発光を測定した。このとき、検出器に対して露出する葉の面積が直径7mmの円形部分2個が葉の中央の葉脈(主脈)を挟んで対称に露出するようにした。その後、葉緑素計値(SPAD)、分光反射率の測定を順次行った。同様に、プレッシャーチャンバーで−1.0MPa〜−3.0MPaの範囲で脱水して、上記のプロトコールに従い測定を繰り返した。
【0064】
木部圧ポテンシャルと遅延発光パターンとの相関
ヤマザクラの葉に渇水ストレスを与えていない対照群(control)と、木部圧ポテンシャルが−3.0MPaになるまでヤマザクラの葉に渇水ストレスを与えたストレス群とのヤマザクラの葉の遅延発光パターン図2に示す。脱水により木部圧ポテンシャルが下がると遅延発光パターンは変化し、自然状態(対照群)の遅延発光パターンと木部圧ポテンシャル−3.0MPaの遅延発光パターンが交わる点(クロスポイント)ができる。木部圧ポテンシャル−3.0MPaでは、クロスポイントより前の時間領域(Aの領域)では自然状態に比べて遅延発光量が増加した(すなわち、第一の遅延発光量)。また、クロスポイントより後の時間領域(Bの領域)では自然状態に比べて遅延発光量は減少した(すなわち、第二の遅延発光量)。つまり、クロスポイントの時間を第一の遅延発光量と第二の遅延発光量とを、区別する基準とすることができる。例えば計測後1〜5秒(Aの領域)の遅延発光量を第一の遅延発光量、計測後20〜300秒(Bの領域)の遅延発光量を第二の遅延発光量とすることができる。なお、図2では二つサンプルの遅延発光パターンの比較のためクロスポイントは一つとなる。複数のサンプルの遅延発光パターンを比較する場合でも、このクロスポイントが複数のサンプルで一致すれば1点に設定できる。また、クロスポイントが複数のサンプルで一致しない場合は1点に設定できないが、全てまたは一部のクロスポイントが含まれる時間領域を第一の遅延発光量と第二の遅延発光量とを区別する基準とすることができる。
【0065】
遅延発光量と渇水ストレスとの相関
試験1のサンプルの遅延発光の計測結果について、上述の方法によって選択した第一の遅延発光量(計測後1〜5秒の時間領域)を横軸に、第二の遅延発光量(計測後20〜300秒の時間領域)を縦軸にとりプロットすることで、ヤマザクラの葉に渇水ストレスを与えていない対照群と、木部圧ポテンシャルが−3.0MPaになるまでヤマザクラの葉に渇水ストレスを与えたストレス群とを比較した(図3(a))。また、第一の遅延発光量をクロロフィル量で除した第一の補正遅延発光量を横軸に、第二の遅延発光量をクロロフィル量で除した第二の補正遅延発光量を縦軸にとったプロットでも、上記対照群と上記ストレス群とを比較した(図3(b))。図3(b)では、対照群、ストレス群ともに、第一の補正遅延発光量を横軸に、第二の補正遅延発光量を縦軸にとったプロットとすることで、各群のバラツキが抑えられ、それぞれ異なる位置に分布が集まることがわかった。
【0066】
図3(a)、(b)のプロットを描いた場合の評価をより明確にするため、以下の方法によって、再度対照群とストレス群とを比較検討した。
【0067】
1.基準サンプルの基準位置座標からの距離パラメータの算出
基準位置座標は、基準サンプルの第一の遅延発光量の平均値xと、第二の遅延発光量の平均値yとによって定めた。この場合の基準サンプルは、木部圧ポテンシャルの80〜100パーセンタイル群とした。ここで、80パーセンタイルとは、全サンプルを木部圧ポテンシャルの小さい順に並べたとき、木部圧ポテンシャルが最小のサンプルから数えて、サンプル全体の80%に相当する位置にある葉のサンプルである。したがって、80〜100パーセンタイル群は、対照群の中でも特にストレスの小さいサンプルと推定される。各サンプルの距離パラメータdは、基準位置座標(x,y)と、各サンプルの遅延発光量座標(a,b)から以下の式に従って求めた。ここで、aは第一の遅延発光量を示し、bは第二の遅延発光量を示す。
【0068】
【数4】
【0069】
2.基準サンプルの基準位置座標からの角度パラメータの算出
基準位置座標(x,y)と各サンプルの遅延発光量座標(a,b)を結ぶ線の角度を求める。角度は例えば、以下の式に示すようなアークタンジェント関数を用いて(x,y)と(a,b)とを結ぶ線のラジアンθを求めそこから角度を算出することができる。
【0070】
【数5】
【0071】
図3(a)及び(b)のプロットを描いたときに用いた各サンプルのデータを用いて、上述の方法に従い、距離パラメータと角度パラメータとを求め、プロットを行った。その結果を図3(c)に示す。渇水ストレスを受けた葉のサンプルの遅延発光量座標は、基準位置に対して離れた位置に分布して、一定の範囲の角度パラメータ(−30°〜−60°)を有したが、ストレス群の中に分布する対照群のサンプルがあり、対照群の中に分布するストレス群のサンプルもあった。このため、このAの領域とBの領域は対照群とストレス群を大まかに区別することができるが、一部は判別不能であることがわかった。そこで第一の遅延発光量の代わりに第一の補正遅延発光量を、第二の遅延発光量の代わりに第二の補正遅延発光量を用いた。その結果を(図3(d)に示す。図3(d)からわかるように、図3(c)に比べて分布のバラツキが抑えられた。
【0072】
さらに解析精度を上げるために、Aの領域とBの領域の範囲をそれぞれ計測後0.5〜1.5秒、計測後20〜100秒に狭めて解析をやり直した。その結果を図4に示す。図4(a)は、補正なしの結果、すなわち、第一の遅延発光量を横軸、第二の遅延発光量を縦軸にとったプロットによってヤマザクラの葉に渇水ストレスを与えていない対照群と、木部圧ポテンシャルが−3.0MPaになるまでヤマザクラの葉に渇水ストレスを与えたストレス群とを比較した結果である。図4(b)は、クロロフィル量で補正した結果、すなわち、第一の遅延発光量をクロロフィル量で除した第一の補正遅延発光量を横軸に、第二の遅延発光量をクロロフィル量で除した第二の補正遅延発光量を縦軸にプロットして上記対照群と上記ストレス群とを比較した結果である。図4(b)では、対照群、ストレス群ともに、第一の補正遅延発光量を横軸に、第二の補正遅延発光量を縦軸にとったプロットとすることで、各群のバラツキが抑えられ、それぞれ異なる位置に分布が集まることがわかる。図4(a)及び(b)のプロットを描いたときに用いた各サンプルのデータを用いて、上述の方法に従い、距離パラメータと角度パラメータとを求め、プロットを行った。その結果を図4(c)に示す。いずれのプロットでも、渇水ストレスを受けた葉のサンプルの遅延発光量座標は、基準位置に対して離れた位置に分布して、ある一定の範囲の角度パラメータ(−30°〜−60°)を有し、Aの領域、Bの領域の範囲の広い図3(c)、図3(d)で見られたストレス群の中に分布する対照群のサンプルや、対照群の中に分布するストレス群のサンプルが大幅に減少した。このようにAの領域、Bの領域について最適な時間領域を設定することによって、対照群とストレス群の区別が容易になった。また、第一の遅延発光量の代わりに第一の補正遅延発光量を、第二の遅延発光量の代わりに第二の補正遅延発光量を用いて得られた場合のプロットを示した図4(d)でも図4(c)と同様に分布した。
【0073】
試験2:フィールドでの計測(ヤマザクラ)
フィールド(野外)に生育するヤマザクラ(Cerasus jamasakura var. jamasakura)の樹頂枝を採取し、傷つけないよう注意して計測場所まで運搬し、次のプロトコールに従って測定を行った。運搬された樹頂枝の頂枝成長量を測定し、その樹頂枝の葉の中で外見上代表的である葉2枚を選定し、その2枚を直ちに微弱発光を測定した。計測時間が300秒である点は試験1と異なるが、その他の条件は試験1の条件と同一にした。その後、葉緑素計値(SPAD)、分光反射率の測定を順次行った。また、樹勢、樹形、枝の伸長量、梢端の枯損、枝葉の密度、葉の形・大きさ、葉色、樹皮の8項目について、樹木の診断について熟練した者2名が目視判定によって樹木の活力評価を行った。
【0074】
得られた各葉のサンプルは、その葉が生えていた枝の伸長量に応じて、0〜20パーセンタイル群と80〜100パーセンタイル群との2群に分けた。例えば、各葉のサンプルをその葉が生えていた枝の伸長量の小さい順に並べたとき、枝の伸長量が最小のサンプルから数えて、サンプル全体の20%に相当する位置にある葉のサンプルを20パーセンタイルに位置するサンプルという。ここでは、0〜20パーセンタイル群を「生育不良群」とし、80〜100パーセンタイル群を「基準サンプル群」とした。この2群について、第一の遅延発光量(計測後0.5〜1.5秒)及び第二の遅延発光量(計測後20〜100秒)に基づいて、距離パラメータと角度パラメータとを求めプロットを行った。このとき、基準位置は、基準サンプル群のサンプルを基準サンプルとして求めた。その結果を図5(a)に示す。また、第一の遅延発光量の代わりに第一の補正遅延発光量を、第二の遅延発光量の代わりに第二の補正遅延発光量を用いて得られた場合のプロットを図5(b)に示す。
【0075】
図5(a)では、生育不良群の距離パラメータは基準位置から分離する傾向は見られたが、角度パラメータは基準位置から±90°の方向に分散していた。これに対し、遅延発光量をクロロフィル量で補正したデータ(第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量)を用いることによって、生育不良群の距離パラメータが基準位置から分離する傾向が見られたのに加え、試験1の渇水ストレス実験(理想条件)の場合と同様に、生育不良群の角度パラメータが−30°〜−60°に向かっていた(図5(b))。この結果は、クロロフィル濃度による遅延発光量の補正が植物の生育状態の診断に対して有効であることを示している。
【0076】
従って、第一の補正遅延発光量及び第二の補正遅延発光量を使って、樹木のストレス(特に渇水ストレス)を診断しようとする場合には、あらかじめ設定した対照群の基準位置に基づいてフィールドで計測した各植物の葉の角度パラメータと距離パラメータとを算出し、距離パラメータが基準位置から遠ざかっているものがストレスを受けているサンプルであると推定することができる。また、試験1(理想条件)の実験から、渇水ストレスを受けているヤマザクラは、基準位置に対して特定の角度(−30°〜−60°)で分離していくことがわかっているので、角度パラメータを評価することによって、渇水ストレスを特異的に検出することができる。
【符号の説明】
【0077】
1…第一の検出部、3…試料(植物の葉)、6…光源部、8…第二の検出部、15…記録部、19…温度調節部、100…植物の生育状態を診断するための装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7