(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−126135
【特許文献2】PCT/JP2011/53954
【0004】
上記全身浸漬温熱治療法は、患者を浴槽内に浸漬させた後、浴槽内の温水の温度を上昇させて患者の体温を上昇させ、所定の体温を維持できるよう温水を一定の時間保温することによって体内のウィルスやがん細胞を死滅させることを目的とする治療法である。そして、上昇した患者の体温を下げるため、温水に冷水を入れて降温することによって治療を終了する。
【0005】
ところで、出願人は、上記温熱治療装置で長年に渡る実験を行った結果、上記装置において体温の上昇及び下降を繰り返し行うことで、免疫機能が飛躍的に向上し、がんの治療に極めて効果的であることを発見した。
【0006】
すなわち、最初の体温の上昇過程において、HLA−DRの発現に代表されるTリンパ球が活性化し、がん細胞内でのユビキチン・プロテアソーム活性増強によるがん特異的タンパク質の分解とHsp72の産生による分解ペプチドの細胞表面への提示が行われ、がん組織では樹状細胞によるがん細胞の貪食が進行する。
【0007】
つぎに、降温過程において速やかに体温を降下させることにより、末梢神経中の活性化Tリンパ球の一部はリンパ節に戻り、がん組織近傍のリンパ節内で、樹状細胞からTリンパ球への抗原提示が極めて効率よく行われる。
【0008】
その後再び体温を上昇させることにより、リンパ節にて樹状細胞より抗原提示を受け、特異的ながんに対する活性を獲得した活性化リンパ球は、末梢血中に放出され、ターゲットのがん細胞を効率よく攻撃する。
【0009】
このように、体温の上昇及び下降を繰り返すことによって、最初の体温上昇時に産生され、抗原提示を受けたリンパ球やHsp72が、次回の体温上昇時において強力に機能する。
【0010】
しかしながら、従来の温熱治療装置においては、浸漬槽内の温水の温度のみを下げることにより体温を降下させるため、目標とする体温に到達するまで時間がかかっていた。このため、患者の体力が消耗し、体温を目標値まで降下させた後は、疲労により再び温水によって体温を上昇させる体力や気力が残っていないのが実情であった。すなわち、従来例の装置は一度の昇温・降温のみを念頭に構成されていた。
【0011】
また、体温の高温時には、サイトカインが産生される。このサイトカインは、免疫を活性化させる働きを有するが、過剰産生される場合(サイトカインストーム)には、染色体の不安定性を増大させ、例えばがん細胞の悪性化を招く等さまざまな弊害を生じさせる。従来装置においては、患者の高体温状態が続くため、患者によってはサイトカインストームを生じさせ、治療によりかえって病状を悪化させる例が報告されていた。
【0012】
さらに、患者によっては、体の表面の温度は下がっても、体の深部の体温まではなかなか下がらないことから、自律神経の調整がうまくいかずに、風邪などを引いてしまったり、脱水症状を伴うことがあった。特に神経変性疾患患者(パーキンソン病やアルツハイマー病等)では、体温調節中枢がうまく働かず、余熱が長時間体内に留まり、体温のコントロールができずに、体調を崩すケースが見られる。
【0013】
さらにまた、従来の温熱治療装置においては、温水の温度(約42°C)を一定の時間維持し、体温を高く保った状態にして治療を行うため、通常の状態ではがまんできず、麻酔を行って治療槽に入ることが前提であるため、麻酔技術のある医師が付き添っている必要があり、またその分危険性が伴っていた。
【0014】
ところで、足裏部には、バニロイド受容体が集中しており、これにより暑熱寒冷や痛みを鋭敏に感知し、神経伝達を行って体温調節系に影響を与えることが知られている。
【0015】
そこで本願出願人は、足裏部に着目し、実験を繰り返した結果、全身浸漬温熱治療法において、足裏部を局所的に冷却することにより、急速かつ安全に全身冷却が得られることを発見した。
【0016】
表1及び表2は、足裏を冷却した場合としなかった場合の目標温度までの到達時間を表したものの一例である。ここでは、浸漬槽の水温の加温開始前の直腸温度から約1℃あるいは1.5℃上がったところで水温の降温を開始し、加温開始前の直腸温度よりプラス約0.5℃のあたりを目標温度として降温処理の終了時とし、降温開始から降温終了までの時間を表したものである。
【0017】
【表1】
【0018】
表1の例では、足裏冷却を行った場合、加温開始前の直腸温度は37.09℃で、直腸温度が38.13℃まで到達した37分25秒から降温を開始し、目標値である直腸温度37.63℃に至った57分05秒を降温処理の終了時とした。このときの降温開始から終了までの時間は、19分40秒となった。
【0019】
一方で、足裏冷却を行わなかった場合は、加温開始前の直腸温度は37.38℃で、直腸温度が38.41℃まで到達した41分05秒から降温を開始し、目標値である直腸温度37.89℃に至った73分30秒を降温処理の終了時とした。このときの降温開始から終了までの時間は、32分25秒となった。
【0020】
以上のことから、表1の例では、足裏冷却を行った場合、それをしなかった場合と比べて12分45秒冷却の時間が短かかったことがわかる。
【0021】
【表2】
【0022】
次に表2の例では、足裏冷却を行った場合、加温開始前の直腸温度は37.17℃で、直腸温度が38.69℃まで到達した41分55秒から降温を開始し、目標値である直腸温度37.66℃近辺に至るまでを降温処理の終了時とした。このときの降温開始から終了までの時間は、22分05秒となった。
【0023】
一方で、足裏冷却を行わなかった場合は、加温開始前の直腸温度は36.6℃で、直腸温度が38.15℃まで到達した46分10秒から降温を開始し、目標値である直腸温度37.1℃近辺に至るときを降温処理の終了時としようとしたが、直腸温度が37.48℃から下がらなくなり、被実験者の健康の観点から浸漬開始から82分を経過した時点で打ち切り、このときを降温処理の終了時とした。このときの降温開始から終了までの時間は、35分50秒となった。
【0024】
以上のことから、表2の例では、足裏冷却を行った場合、それをしなかった場合と比べて13分45秒冷却の時間が短かかったことがわかる。なお、表2の例では、目標温度までの正確な時間を計ったならば、もっと多くの時間がかかっていた。また、このことからも従来の方法では、降温のコントロールがうまくできないことが分かる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の第一の目的は、全身浸漬温熱治療法において、体温を目標値まで上昇させた後、局所的に患者の足裏部及び頚部を冷却することにより、短い時間で安全に体温を降温することで、体温の昇温・降温を無理なく繰り返し行うことのできる温冷熱治療装置を提供することを目的とする。
【0026】
また、本発明における第2の目的は、全身浸漬温熱治療後に、患者の体温を治療前の温度にスムーズに戻すための降温コントロールを可能とした温冷熱治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するために、本発明に係る温冷熱治療装置の第1の特徴は、浸漬槽に貯めた温水に患者を浸漬させ、温水を昇温及び降温することによって温冷熱治療を施す温冷熱治療装置であって、前記浸漬槽の中で患者を支持し、
かつ患者の足部を温水の中から外に露出させる昇降可動部位を有するベッドと、前記温水の温度を測定する第1の温度センサと、患者の直腸温度を測定する第2の温度センサと、
温水面より上方で温水から露出した患者の足裏
に向かって冷水を噴射して冷却する足裏冷却手段と、患者の頚部を冷却する頚部冷却手段と、 前記温水の温度、前記足裏冷却手段及び前記頚部冷却手段を制御するコントローラと、前記コントローラに制御指令を与えるコンピュータとを備え、前記コンピュータは、前記第1の温度センサで測定された温水の温度及び前記第2の温度センサで測定された患者の体温に基づき、前記コントローラに対し、あらかじめ設定した所定の数値に到達するまで水温を昇温及び降温する制御指令を与えるとともに、水温の降温時に
前記昇降可動部位を上昇させて患者の足部を温水から露出させるとともに、前記足裏冷却手段及び前記頚部冷却手段による冷却開始及び停止の制御指令を与えて温水から露出した患者の足裏及び頚部の冷却を行うことにある。
【0028】
また、本発明に係る温冷熱治療装置の第2の特徴は、浸漬槽に貯めた温水に患者を浸漬させ、温水を昇温及び降温することによって温冷熱治療を施す温冷熱治療装置であって、前記浸漬槽の中で患者を支持し、
かつ患者の足部を温水の中から外に露出させる昇降可動部位を有するベッドと、前記温水の温度を測定する第1の温度センサと、患者の直腸温度を測定する第2の温度センサと、患者の鼓膜温度を測定する第3の温度センサと、
温水面より上方で温水から露出した患者の足裏
に向かって冷水を噴射して冷却する足裏冷却手段と、患者の頚部を冷却する頚部冷却手段と、前記温水の温度、前記足裏冷却手段及び前記頚部冷却手段を制御するコントローラと、前記コントローラに制御指令を与えるコンピュータとを備え、前記コンピュータは、前記第1の温度センサで測定された温水の温度及び前記第2の温度センサで測定された患者の体温に基づき、前記コントローラに対し、あらかじめ設定した所定の数値に到達するまで水温を昇温及び降温する制御指令を与えるとともに、水温の降温時に
前記昇降可動部位を上昇させて患者の足部を温水から露出させ、前記足裏冷却手段及び前記頚部冷却手段による冷却開始及び停止の制御指令を与えて温水から露出した患者の足裏及び頚部の冷却を行うこと、及び前記コンピュータは、前記第3の温度センサにより測定した患者の鼓膜温度があらかじめ設定した所定の数値まで上昇したときに、前記頚部冷却手段による冷却開始の制御指令を随時前記コントローラへ与え、あらかじめ設定した所定の時間内で頚部の冷却を行うことにある。
【0029】
さらに、本発明に係る温冷熱治療装置の第3の特徴は、前記第1又は第2の特徴における温冷熱治療装置において、前記足裏冷却手段が、足裏に冷水を噴射するノズルを備えていることにある。
【0030】
さらにまた、本発明に係る温冷熱治療装置の第4の特徴は、前記第1から第3までのいずれか1の特徴を有する温冷熱治療装置において、前記頚部冷却手段が、吸水性繊維質で形成されたヘッドレストを備え、該ヘッドレストに水が給水されることにより頚部の冷却が行われることにある。
【0031】
また、本発明に係る温冷熱治療装置の第5の特徴は、前記第1から第4までのいずれか1の特徴を有する温冷熱治療装置において、前記足裏冷却手段による冷却が、8℃に冷却された冷水により行われることにある。
【0032】
さらに、本発明に係る温冷熱治療装置の第6の特徴は、前記第1から第5までのいずれか1の特徴を有する温冷熱治療装置において、前記頚部冷却手段による冷却が、10℃から15℃に冷却された冷水により行われることにある。
【0033】
さらにまた、本発明に係る温冷熱治療装置の第7の特徴は、前記第3から第6までのいずれか1の特徴を有する温冷熱治療装置において、前記ノズルより足裏に噴射される冷水が、所定の間隔をおいて噴射されることにある。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、体温が上昇した後、体温を急速かつ安全に冷却することができるので、患者の体力が温存され、全身浸漬温熱治療法において体温の昇温・降温を繰り返し行うことが可能になる。その結果、従来例のように、昇温・降温を1度だけ行う温熱治療装置に比べ、癌など治療に対して抗原提示を受けたリンパ球やHsp72が発現できる環境を与えることができるため、格段の治療効果が得られる。
【0035】
また、上昇した体温を容易に降温することができ、治療による疲労を軽減することができる。加えて、体温上昇によるサイトカインストームを抑制することができ、患者の治療によるリスクを防止することができる。
【0036】
さらに、水温を高温で保持する時間が短いため、麻酔の必要がなく、その分安全であるほか、治療コストも低く抑えることができる。
【実施例1】
【0039】
図1から
図7は、本発明に係る温冷熱治療装置の一の実施例を示したものである。このうち
図1には、温冷熱治療装置1の大略的な構成が示されている。また、
図2には、温水のフローの様子が示されている。
【0040】
浸漬槽10は、患者Pの頭部以外の全身を温水に浸漬させるための、上方が開放されたほぼ箱状の浴槽で、循環ライン20を通して加温された温水が浴槽内に注入され、排水ライン50を通して排出される。温水は、コントローラ60によって温度が制御され、浸漬槽10を含む循環ラインを循環する。治療を行う際、浸漬槽10の上面は、患者Pの首から上の部分を除いて外蓋11で覆われ、温水の熱が外部に逃げることを防止している。
【0041】
浸漬槽10内には、温水の温度を計測する温度センサ12と、水位が規定の量をオーバーしないようオーバーフロー13を備えている。また、多数の噴出穴を有する複数の攪拌ノズル14が分散配備され、循環ライン20より運ばれてくる温水を拡散噴出する。
【0042】
ベッド16は、浸漬槽10に患者を浸漬する際に患者を乗せるもので、浸漬槽10は、該ベッド16を浸漬槽10内で昇降させて、患者を温水に浸漬させたり、脱出させたりするための昇降ベース17からなる昇降機構を備えている。また、ベッド16は、患者が最も楽な体位を取れるように、腰の角度・足の角度・首の角度を調節できる体位調節機構を有する。
【0043】
ベッド16の後方部
は、昇降作動が可能な部位として形成されているとともに、当該後方部には患者の足を乗せて患者の足を固定
させ、リラックスさせるためのシリコン材で形成された足固定用マット67が設置されている。該マット67は、患者の足の位置に合せて位置の調節が可能であり、該マット67と直結し、かつベッド16の底面に形成された調整レバー71にて緩めたり締めたりすることにより、該マット67の位置の調整が行われる。
【0044】
前記マット67には、足を乗せた際に患者の足にフィットするように、その上面に窪みが形成されているとともに、後方への患者の足を規制し、かつ足裏を刺激するためのパイプ69が形成されている。
【0045】
足裏冷却手段70は、患者Pの足裏を局所的に冷却する手段であり、主として足裏冷却用ノズル73、ノズル用ヘッダー75及び足裏用冷水供給装置76により構成される。
【0046】
前記足裏冷却用ノズル73は、患者Pの足裏を冷却するための部材で、患者Pの足裏の特定部位に向かって複数の前記ノズル73の先端から冷水が拡散噴射されるようになっている。前記ノズル73は、配管としての役割を有するノズル用ヘッダー75にフレキシブルチューブ74を通して接続されており、該ノズル用ヘッダー75から供給される冷水を噴射する。該ノズル用ヘッダー75は、前記足裏用冷水供給装置76と接続する配管77と連通している。また、該ノズル用ヘッダー75の底部には、板状のヘッダー支持板78が形成されていて、該支持板78を通して該ヘッダー75は前記ベッド16の後端にとりつけられている。
【0047】
足裏用冷水供給装置76は、冷水の温度を管理し、前記コンピュータ61からの指令に基づき前記足裏冷却用ノズル73へ冷水を供給する。冷水の温度は、8°C前後で冷却するのが望ましい。
【0048】
なお、前記ベッド16の後方には、足裏を冷却する水が飛散しないように、取り外し式又は固定式の飛散防止カバー79を取り付けてもよい。この場合、図示の例では飛散防止カバー79に、開口80を設けて前記配管77を通している。
【0049】
次に頚部冷却手段90は、頚部用冷水供給装置95及びヘッドレスト102とから構成される。
【0050】
前記ヘッドレスト102は、2つの吸水繊維質で形成された部材からなり、前記ベッド16の前方に取り付けられた受台101上に設置されている。2つのヘッドレスト102の上面には、患者Pの頚部が密着するように左右対称に窪103がそれぞれ形成されており、患者が首を載せるときは、受台101上において左右のヘッドレスト102を左右に動かしながら、その患者の頚部に密着するように調整する。なお、前記窪103の深さは、ヘッドレスト102の内側の高さが患者の頚動脈付近にあるように形成されている。
【0051】
頚部冷水用供給装置95は、冷水の温度を管理し、コンピュータ61からの指令に基づき前記ヘッドレスト102へ冷水を供給する。冷水の温度は、10°Cから15°C前後の間で冷却するのが望ましい。前記ヘッドレスト102は、スポンジのような吸水繊維質で形成されているため、それに冷水を供給することで冷水を吸収し、患者の頚部を冷却する。
【0052】
次に、温冷熱治療装置1における温冷熱治療の流れを説明する。
患者Pは、ベッド16に乗せられた状態で車輪付きのリフト(図示せず)により浸漬槽10まで搬送される。患者Pを温水に浸漬する際は、リフトを用いてベッド16を上下方向に昇降し、スライドレール(図示せず)を用いてベッド16を昇降ベース17上に設置する。
【0053】
次に、患者Pの核心温を測定するために直腸温度センサ62を直腸に挿入するとともに、患者の鼓膜温を図るための鼓膜温度センサ65を一方の耳孔に挿入する。
【0054】
次いで、昇降ベース17とともにベッド16を下降させ、患者Pを温水に浸漬し、外蓋11で浸漬槽10の上面を覆った後、治療を開始する。患者Pは、温水に浸漬した状態では、ハンドレスト18に腕をおいている。
【0055】
循環ライン20は浸漬槽10とヒーター21との間で温水を強制循環させる配管で、途中に温水を加熱するヒーター21、温水を循環させるポンプ22、及び逆止弁23が配置されている。
【0056】
給水ライン40は、温水の温度を下げるために水道水を温水に注入する配管で、途中に、水道水の供給を遮断するモータ弁41、水道水の流量を測定する流量計43、水道水の温度を測定する温度センサ44、及び逆止弁42が設置されている。モーター弁41を開くと、給水ライン40を介して水道水が循環ライン20に注入され、温水と混合される。
【0057】
排水ライン50は、浸漬槽10から温水を排水する配管で、モーター弁51及びオーバーフロー13を介して、それぞれ温水が排水溝に排出される。
【0058】
温水供給ライン30は、最初の温水を浸漬槽10へ供給するのに使用する。供給される温水の温度は39.3℃から40℃程度を想定しており、モーター弁31を介した温水と、モーター弁32を介した冷水を比例弁33で混合して温水を供給する。
【0059】
次に、温冷熱治療装置1の制御系について説明する。制御系は、温度センサ12で測定した水温、直腸温度センサ62において測定した患者の直腸温度および鼓膜温センサ65で測定した患者の鼓膜温度に基づいて、ポンプや弁、ヒーター等の動作を制御するコントローラ60と、温冷熱治療装置1や前記各測定温度の状態をモニタするとともに、コントローラ60に制御指令を与えるコンピュータ61とで構成されている。
【0060】
コントローラ60は、流量計43で測定した流量、温度センサ12で測定された浸漬槽10の水温、給水ライン40の水温、直腸温度センサ62及び鼓膜温度センサ65からのデータを受け取り、コンピュータ61により設定された数値に基づいて、ポンプ22、モーター弁31、32、41、51、76、77、86、87、96、97、ヒーター21を制御する。
【0061】
また、コンピュータ61は、表示装置と入力装置を備え、コントローラ60から受信したデータを表示装置に表示し、治療従事者に対してガイダンスを与える。さらに、コンピュータ61は、入力装置から直接入力された設定条件に基づき、コントローラ60に対して制御指令を与え、一連の治療処理を行う。
【0062】
次に、コントローラ60による温水の温度制御について説明する。コントローラ60は、コンピュータ61からの指令信号により、温度センサ12で測定した水温が設定した温度より低いときは、ヒーター21をオンにして温水を加熱する。一方、浸漬槽10の水温が設定した温度より高いときは、モーター弁41を開いて水道水を循環ライン20に注入し、温水の温度を下げる。また、患者の直腸温度や鼓膜温度が設定した温度に達したときは、足裏冷却手段70及び頚部冷却手段90を作動させて足裏及び頚部を冷水その他で冷却する。
【0063】
次に、
図8から
図12を用いて、温冷熱治療装置1における温冷熱治療の流れを説明する。
【0064】
本装置1における温冷熱治療は、水温の昇温及び降温の過程を1フェーズとし、これをいくつかの連続するフェーズとして行う。本実施例においては、第1フェーズから第2フェーズまでの治療の例を示している(
図8を参照)。
【0065】
まず、第1フェーズについて説明する。図示しないリフト及びスライドレールを用いて、ベッド16に乗せられた状態の患者Pを浸漬槽10内に降ろし、温水に浸漬する。このときの水温は39.2℃から39.5℃の範囲で設定されており(図中のa)、その後コントローラ60はコンピュータ61からの制御指令に従い、水温の昇温処理を行う(図中の丸付き1)。昇温時の水温は、直腸温度プラス2.5℃からプラス3.2℃の範囲で制御されるようコンピュータ61で設定する。
【0066】
ここで、体温の昇温及び降温は、水温の昇温・降温に遅れるため、体温の昇温・降温ポイントに到達する以前に、水温の昇温・降温を行う必要がある。
【0067】
昇温処理(図中の丸付き1)の開始後、コンピュータ61は、直腸温度センサ62で測定した直腸温度があらかじめ設定した数値(浸漬前の直腸温度のプラス1℃からプラス2.5℃)に達したら(図中のA)、水温の降温処理を行うようコントローラ60に制御指令を送信する。このとき、コンピュータ61に対し、水温の降下速度を、マイナス1.2℃/minからマイナス0.4℃/minの範囲で設定し、その降下速度による降温(図中の丸付き2―1)の終了時(図中のb)を目標とする直腸温度からマイナス5℃からマイナス6℃に設定する。
【0068】
また、水温の降温が開始されると同時に、前記ベッド16の後方部が上がって、前記足裏冷却ノズル73及び患者Pの足部が水面より上がり、足裏用冷水供給装置76が起動して(図中の丸付き5)、足裏の冷却が行われる。足裏の冷却は、
温水面より上方で足裏冷却用ノズル73によって冷水がかけられることによって行われる。冷水は例えば5秒間噴射された後、25秒程度のインターバルをおいて再噴射を繰り返し、直腸温度が設定値より下がると(ピーク時よりマイナス0.1℃からマイナス0.3℃前後の間)下がると、コントローラ60により自動的に停止する。そして、前記ベッド16の後方部が下がり、前記足裏冷却ノズル73及び患者Pの足部が水面下へと戻る。
【0069】
また、足裏冷却とほぼ同時に、頚部冷水供給装置95が起動し(図中の丸付き4)、頚部の冷却も行われる。すなわち、へッドレスト102に約20CCの10℃から15℃の冷水が吸収され、頚部の冷却が行われる。
【0070】
なお、頚部の冷却は、足裏冷却と同時に行う他に、鼓膜温度が設定値より高くなった場合(通常は39.5℃を想定)には、随時行われるように頚部冷却装置95は制御されている。
【0071】
前記降温処理(図中の丸付き2−1)により、前記所定の水温及び患者の体温が下がりはじめ、前記bの設定値に達すると、水温の降下速度をマイナス0.7℃/minからマイナス0.2℃/minの範囲で設定し(図中の丸付き2―2)、所定の直腸温度に達したら(浸漬前の直腸温度プラス0.3℃からプラス0.5℃程度の間)降温処理を終了するように設定する(図中のC)。
【0072】
前記降温処理終了設定値に到達したことで、本装置による第1フェーズは終了し、第2フェーズに移る(図中のC)。なお、患者の体調に応じ、第1フェーズ終了をもって、治療の終了とすることもできる。
【0073】
第2フェーズは、前記降温処理終了設定値に到達した時点(図中のC)で水温を再加温し、前記[0060]のaの設定値まで急速に水温を昇温させる。
【0074】
前記aの設定値まで水温が上昇したら、降温処理を開始する設定値(図中のA)まで水温を昇温させ(図中の丸付き1)、以後第1フェーズと同様の制御を行う。
【0075】
第2フェーズの降温処理終了設定値(通常33.5℃から31.8℃の水温の範囲で設定)に到達したら、外蓋11を開け、昇降ベース17とともにベッド16を上昇させ、患者Pを温水から上がらせる。最後に、患者を乗せたベッド16をスライドレール(図示せず)によってリフト(図示せず)に移送する。
【0076】
以上、本発明の実施例につき図面や表など参照して詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載した構成の範囲内において様々な態様で実施することができる。