【文献】
Am.J.Physiol.Gastrointest.Liver.Physiol,2006年,Vol.291,ppG203−G210
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号3のペプチド(4176−4390)に結合し、かつ配列番号4のペプチド(4244−4390)および配列番号5のペプチド(4115−4243)には結合しないことを特徴とするMucin 17(Muc17)に結合するモノクローナル抗体。
配列番号23に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と配列番号25に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有する抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する、抗Mucin 17(Muc17)抗体。
配列番号23に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2およびCDR3配列、ならびに配列番号25に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2およびCDR3配列を含む、抗Mucin 17(Muc17)抗体。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
Muc17
Muc17(Accession No. NM_001040105)は4,493アミノ酸からなる一型膜蛋白質である。Muc17をコードする遺伝子配列を配列番号1に、Muc17のアミノ酸配列を配列番号2にそれぞれ示す。Muc17は膜型のムチンファミリーに属し、細胞外領域の大部分はセリン、スレオニン、プロリンに富んだ59merのタンデムリピート配列の繰り返しからなり、糖鎖による修飾を受ける。また、SEAドメイン(4182Glu-4287Asn)を有する事から切断されることが予測され、一部分泌蛋白として存在する可能性が考えられる。また、分泌型のスプライシングバリアント(1Met-
4240Leuは同一配列)の存在が報告されている(非特許文献2)。
【0014】
抗Muc17抗体
本発明の抗Muc17抗体はMuc17に結合する限りその由来(マウス、ラット、ヒト、等)、種類(モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体)および形状(改変抗体、低分子化抗体、修飾抗体、など)等は問われない。
【0015】
本発明で用いられる抗Muc17抗体は特異的にMuc17に結合することが好ましい。又、本発明で用いられる抗Muc17抗体はモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0016】
本発明の抗Muc17抗体は、好ましくはMuc17タンパク質の細胞外領域を認識して結合する。Muc17タンパク質の細胞外領域は配列番号1のアミノ酸配列において1−4389番目が相当する。さらに好ましくは、本発明のMuc17抗体はMuc17タンパク質の細胞外領域に結合し、かつ分泌型Muc17には結合しない抗体である。分泌型Muc17は配列番号2のアミノ酸配列において1−4241番目が相当する。
【0017】
本発明の好ましい態様において、抗Muc17抗体は配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチド(4176−4390)に結合し、配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチド(4244−4390)および配列番号5のアミノ酸配列からなるペプチド(4115−4243)に結合しない抗体である。
【0018】
抗体が目的のペプチドに結合するか否かは公知の手段により測定することが可能である(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光免疫法などを用いることができる。より具体的には、下記の実施例記載の方法により、抗体が目的のペプチドに結合するか否かを確認することが可能である。
【0019】
本発明の抗Muc17抗体の具体的な例として、例えば以下の抗体を挙げることができる。
(1)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるCDR2および配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有する重鎖可変領域を含む抗体(MQ128);
(2)配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるCDR2および配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体;
(3)(1)の重鎖可変領域と(2)の軽鎖可変領域を含む抗体;
(4)配列番号19に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗体;
(5)配列番号21に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体;
(6)(4)の重鎖可変領域と(5)の軽鎖可変領域を含む抗体;
(7)配列番号12に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号13に記載のアミノ酸配列からなるCDR2および配列番号14に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有する重鎖可変領域を含む抗体(MQ155);
(8)配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号16に記載のアミノ酸配列からなるCDR2および配列番号17に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有する軽鎖可変領域を含む抗体;
(9)(7)の重鎖可変領域と(8)の軽鎖可変領域を含む抗体;
(10)配列番号23に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗体;
(11)配列番号25に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗体;
(12)(10)の重鎖可変領域と(11)の軽鎖可変領域を含む抗体;
(13)(1)から(12)いずれかに記載の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体。
【0020】
被検抗体が、ある抗体とエピトープを共有することは、両者の同じエピトープに対する競合によって確認することができる。抗体間の競合は、交叉ブロッキングアッセイなどによって検出される。例えば競合ELISAアッセイは、好ましい交叉ブロッキングアッセイである。具体的には、交叉ブロッキングアッセイにおいては、マイクロタイタープレートのウェル上にコートしたMuc17タンパク質を、候補の競合抗体の存在下、または非存在下でプレインキュベートした後に、本発明の抗Muc17抗体が添加される。ウェル中のMuc17タンパク質に結合した本発明の抗Muc17抗体の量は、同じエピトープへの結合に対して競合する候補競合抗体(被検抗体)の結合能に間接的に相関している。すなわち同一エピトープに対する被検抗体の親和性が大きくなればなる程、本発明の抗Muc17抗体のMuc17タンパク質をコートしたウェルへの結合量は低下し、被検抗体のMuc17タンパク質をコートしたウェルへの結合量は増加する。
【0021】
ウェルに結合した抗体量は、予め抗体を標識しておくことによって、容易に測定することができる。たとえば、ビオチン標識された抗体は、アビジンペルオキシダーゼコンジュゲートと適切な基質を使用することにより測定できる。ペルオキシダーゼなどの酵素標識を利用した交叉ブロッキングアッセイを、特に競合ELISAアッセイと言う。抗体は、検出あるいは測定が可能な他の標識物質で標識することができる。具体的には、放射標識あるいは蛍光標識などが公知である。
【0022】
更に被検抗体が本発明の抗Muc17抗体と異なる種に由来する定常領域を有する場合には、ウェルに結合した抗体の量を、その抗体の定常領域を認識する標識抗体によって測定することもできる。あるいは同種由来の抗体であっても、クラスが相違する場合には、各クラスを識別する抗体によって、ウェルに結合した抗体の量を測定することができる。
【0023】
候補の競合抗体非存在下で実施されるコントロール試験において得られる結合活性と比較して、候補抗体が、少なくとも20%、好ましくは少なくとも20-50%、さらに好ましくは少なくとも50%、抗Muc17抗体の結合をブロックできるならば、該候補競合抗体は本発明の抗MUC17抗体と実質的に同じエピトープに結合するか、又は同じエピトープへの結合に対して競合する抗体である。
【0024】
本発明においてエピトープは如何なるエピトープでもよく、立体エピトープ、線状エピトープ等を挙げることができる。
【0025】
細胞障害活性
本発明の抗体の好ましい態様として細胞障害活性を有する抗体を挙げることができる。本発明における細胞傷害活性としては、例えば抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)活性、補体依存性細胞傷害(complement-dependent cytotoxicity:CDC)活性などを挙げることができる。本発明において、CDC活性とは補体系による細胞傷害活性を意味する。一方ADCC活性とは標的細胞の細胞表面抗原に特異的抗体が付着した際、そのFc部分にFcγ受容体保有細胞(免疫細胞等)がFcγ受容体を介して結合し、標的細胞に障害を与える活性を意味する。
【0026】
本発明において、抗体がADCC活性を有するか否か、又はCDC活性を有するか否かは公知の方法により測定することができる(例えば、Current protocols in Immunology, Chapter7. Immunologic studies in humans, Editor, John E, Coligan et al., John Wiley & Sons, Inc.,(1993)等)。
【0027】
具体的には、まず、エフェクター細胞、補体溶液、標的細胞の調製が実施される。
(1)エフェクター細胞の調製
CBA/Nマウスなどから脾臓を摘出し、RPMI1640培地(Invitrogen社製)中で脾臓細胞が分離される。10%ウシ胎児血清(FBS、HyClone社製)を含む同培地で洗浄後、細胞濃度を5×10
6/mlに調製することによって、エフェクター細胞が調製できる。
【0028】
(2)補体溶液の調製
Baby Rabbit Complement(CEDARLANE社製)を10% FBS含有培地(Invitrogen社製)にて10倍希釈し、補体溶液が調製できる。
【0029】
(3)標的細胞の調製
Muc17タンパク質を発現する細胞を0.2mCiの51Cr-クロム酸ナトリウム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)とともに、10%FBS含有DMEM培地中で37℃にて1時間培養することにより該標的細胞を放射性標識できる。Muc17タンパク質を発現する細胞としては、Muc17タンパク質をコードする遺伝子で形質転換された細胞、癌細胞(膵臓癌細胞、大腸癌細胞など)等を利用することができる。放射性標識後、細胞を10%FBS含有RPMI1640培地にて3回洗浄し、細胞濃度を2×10
5/mlに調製することによって、該標的細胞が調製できる。
【0030】
ADCC活性、又はCDC活性は下記に述べる方法により測定できる。ADCC活性の測定の場合は、96ウェルU底プレート(Becton Dickinson社製)に、標的細胞と、抗Muc17抗体を50μlずつ加え、氷上にて15分間反応させる。その後、エフェクター細胞100μlを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養する。抗体の終濃度は0または10μg/mlとする。培養後、100μlの上清を回収し、ガンマカウンター(COBRAII AUTO-GAMMA、MODEL D5005、Packard Instrument Company社製)で放射活性を測定する。細胞傷害活性(%)は得られた値を使用して(A-C)/(B-C)x100の計算式に基づいて計算できる。Aは各試料における放射活性(cpm)、Bは1%NP-40(nacalai tesque社製)を加えた試料における放射活性(cpm)、Cは標的細胞のみを含む試料の放射活性(cpm)を示す。
【0031】
一方、CDC活性の測定の場合は、96ウェル平底プレート(Becton Dickinson社製)に、標的細胞と、抗Muc17抗体を50μlずつ加え、氷上にて15分間反応させる。その後、補体溶液100μlを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養する。抗体の終濃度は0または3μg/mlとする。培養後、100μlの上清を回収し、ガンマカウンターで放射活性を測定する。細胞傷害活性はADCC活性の測定と同様にして計算できる。
【0032】
糖鎖改変抗体
本発明の抗体の好ましい態様として糖鎖が改変された抗体を挙げることができる。抗体の糖鎖を改変することにより抗体の細胞傷害活性を増強できることが知られている。
【0033】
糖鎖が改変された抗体の例としては、例えば、グリコシル化が修飾された抗体(WO99/54342など)、糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(WO00/61739、WO02/31140、WO2006/067847、WO2006/067913など)、バイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体(WO02/79255など)などを挙げることができる。
【0034】
本発明の好ましい糖鎖改変抗体としてフコースが欠損した抗体を挙げることができる。抗体に結合する糖鎖には、抗体分子のアスパラギンの側鎖のN原子に結合するN−グリコシド結合糖鎖と、抗体分子のセリンまたはスレオニンの側鎖ヒドロキシル基に結合するO−グリコシル結合糖鎖があるが、本発明においてフコースの存否が問題となるのはN−グリコシド結合糖鎖である。
【0035】
本発明においてフコースが欠損した抗体とは、組成物中の抗体のN−グリコシド結合糖鎖のうち、20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上のN―グリコシド結合糖鎖においてフコースが欠損していることをいう。
【0036】
フコースが欠損した抗体は当業者に公知の方法により作製することが可能であり、例えば、α-1,6コアーフコース(α-1,6core fucose)を付加する能力を有しないかまたはその能力が低い宿主細胞中で抗体を発現させることにより製造することができる。フコースを付加する能力を有しないまたはその能力が低い宿主細胞は特に限定されないが、例えば、ラットミエローマYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(YB2/0細胞と略される)(ATCC CRL 1662として保存されている)、FTVIIIノックアウトCHO細胞(WO02/31140)、Lec13細胞(WO03/035835)、フコーストランスポーター欠損細胞(WO2006/067847、WO2006/067913)などを挙げることができる。
【0037】
糖鎖の解析は当業者に公知の方法で行うことができる。例えば、抗体にN-Glycosidase F(Roche)等を作用させ、糖鎖を抗体から遊離させる。その後、セルロースカートリッジを用いた固相抽出(Shimizu Y. et al., Carbohydrate Research 332(2001), 381-388)による脱塩後に濃縮乾固し、2-アミノピリジンによる蛍光標識を行う(Kondo A. et al., Agricultural and Biological Chemistry 54:8(1990), 2169-2170)。得られたPA化糖鎖を、セルロースカートリッジを用いた固相抽出により脱試薬した後遠心濃縮し、精製PA化糖鎖とする。その後、ODSカラムによる逆相HPLC分析を行うことにより測定することが可能である。また、PA化糖鎖の調製を行った後、ODSカラムによる逆相HPLC分析およびアミンカラムによる順相HPLC分析を組み合わせた、二次元マッピングを実施することにより行うことも可能である。
【0038】
キメラ抗体およびヒト化抗体
本発明の抗体の好ましい他の態様としてキメラ抗体またはヒト化抗体を挙げることができる。キメラ抗体は、互いに由来の異なる領域同士を連結した抗体を言う。一般にキメラ抗体は、ヒト以外の動物由来抗体のV領域とヒト抗体由来のC領域とから構成される。例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域と、ヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体は、マウス−ヒト異種キメラ抗体である。
【0039】
これに対してヒト化抗体は、ヒト以外の動物由来抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)と、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR;framework region)およびヒト抗体由来のC領域とから構成される。ヒト化抗体はヒト体内における抗原性が低下しているため、本発明の治療剤の有効成分として有用である。ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。具体的には、ヒト以外の動物、たとえばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法も知られている。
【0040】
具体的には、マウスの抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、たとえばOverlap Extension PCRが公知である。Overlap Extension PCRにおいては、ヒト抗体のFRを合成するためのプライマーに、移植すべきマウス抗体のCDRをコードする塩基配列が付加される。プライマーは4つのFRのそれぞれについて用意される。一般に、マウスCDRのヒトFRへの移植においては、マウスのFRと相同性の高いヒトFRを選択するのが、CDRの機能の維持において有利であるとされている。すなわち、一般に、移植すべきマウスCDRに隣接しているFRのアミノ酸配列と相同性の高いアミノ酸配列からなるヒトFRを利用するのが好ましい。
【0041】
また連結される塩基配列は、互いにインフレームで接続されるようにデザインされる。それぞれのプライマーによってヒトFRが個別に合成される。その結果、各FRにマウスCDRをコードするDNAが付加された産物が得られる。各産物のマウスCDRをコードする塩基配列は、互いにオーバーラップするようにデザインされている。続いて、ヒト抗体遺伝子を鋳型として合成された産物のオーバーラップしたCDR部分を互いにアニールさせて相補鎖合成反応が行われる。この反応によって、ヒトFRがマウスCDRの配列を介して連結される。
【0042】
最終的に3つのCDRと4つのFRが連結されたV領域遺伝子は、その5’末端と3'末端にアニールし適当な制限酵素認識配列を付加されたプライマーによってその全長が増幅される。上記のように得られたDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとをインフレームで融合するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト型抗体発現用ベクターが作成できる。該組込みベクターを宿主に導入して組換え細胞を樹立した後に、該組換え細胞を培養し、該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、該ヒト化抗体が該培養細胞の培養物中に産生される(欧州特許公開EP239400、国際公開WO96/02576参照)。
【0043】
上述のように作製されたヒト化抗体の抗原への結合活性を定性的又は定量的に測定し、評価することによって、CDRを介して連結されたときに該CDRが良好な抗原結合部位を形成するようなヒト抗体のFRが好適に選択できる。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。たとえば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。具体的には、FRにアニーリングするプライマーに部分的な塩基配列の変異を導入することができる。このようなプライマーによって合成されたFRには、塩基配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原への結合活性を上記の方法で測定し評価することによって所望の性質を有する変異FR配列が選択できる(Sato, K.et al., Cancer Res, 1993, 53, 851-856)。
【0044】
二価抗体、低分子化抗体、修飾抗体
本発明の抗Muc17抗体には、Muc17タンパク質に結合する限り、IgGに代表される二価抗体だけでなく、一価抗体、若しくはIgMに代表される多価抗体も含まれる。本発明の多価抗体には、全て同じ抗原結合部位を有する多価抗体、または、一部もしくは全て異なる抗原結合部位を有する多価抗体が含まれる。
【0045】
又、本発明の抗体は、抗体の全長分子に限られず、Muc17タンパク質に結合する限り、低分子化抗体またはその修飾物であってもよい。
【0046】
低分子化抗体は、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)の一部分が欠損している抗体断片を含む。Muc17抗原への結合能を有する限り、抗体分子の部分的な欠損は許容される。本発明における抗体断片は、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)のいずれか、または両方を含んでいることが好ましい。VHまたはVLのアミノ酸配列は、置換、欠失、付加および/又は挿入を含むことができる。さらにMuc17抗原への結合能を有する限り、VHおよびVLのいずれか、または両方の一部を欠損させることもできる。又、可変領域はキメラ化やヒト化されていてもよい。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fvなどを挙げることができる。また、低分子化抗体の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv(single chain Fv)、ディアボディー(Diabody)、sc(Fv)2(single chain (Fv)2)などを挙げることができる。これら抗体の多量体(例えば、ダイマー、トリマー、テトラマー、ポリマー)も、本発明の低分子化抗体に含まれる。
【0047】
抗体の断片は、抗体を酵素で処理して抗体断片を生成させることによって得ることができる。抗体断片を生成する酵素として、例えばパパイン、ペプシン、あるいはプラスミンなどが公知である。あるいは、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させることができる(例えば、Co, M.S.et al., J. Immunol.(1994)152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496、Lamoyi, E., Methods in Enzymology(1989)121, 652-663、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology(1989)121, 663-669、Bird, R. E. et al., TIBTECH(1991)9, 132-137参照)。
【0048】
ダイアボディーは、遺伝子融合により構築された二価(bivalent)の抗体断片を指す(Holliger P et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90: 6444-6448 (1993)、EP404,097号、WO93/11161号等)。ダイアボディーは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーである。通常、ダイマーを構成するポリペプチド鎖は、各々、同じ鎖中でVLおよびVHがリンカーにより結合されている。ダイアボディーにおけるリンカーは、一般に、VLとVHが互いに結合できない位に短い。具体的には、リンカーを構成するアミノ酸残基は、例えば、5残基程度である。そのため、同一ポリペプチド鎖上にコードされるVLとVHとは、単鎖可変領域フラグメントを形成できず、別の単鎖可変領域フラグメントと二量体を形成する。その結果、ダイアボディーは2つの抗原結合部位を有することとなる。
【0049】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域とを連結することにより得られる。scFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域は、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A, 1988, 85, 5879-5883.)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、本明細書に抗体として記載されたもののいずれの抗体由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーには、特に制限はない。例えば3から25残基程度からなる任意の一本鎖ペプチドをリンカーとして用いることができる。
【0050】
sc(Fv)2は、2つのVHおよび2つのVLをリンカー等で結合して一本鎖にした低分子化抗体である(Hudson et al、J Immunol. Methods 1999;231:177-189)。sc(Fv)2は、例えば、scFvをリンカーで結ぶことによって作製できる。
【0051】
さらに、本発明の抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)や細胞障害性物質等の各種分子と結合させた抗体修飾物として使用することもできる。このような抗体修飾物は、本発明の抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0052】
本発明の抗体に結合される細胞障害性物質としては、トキシン、放射性物質、化学療法剤などを挙げることができる。細胞障害性物質は、生体内で活性な細胞障害性物質に変換されるプロドラッグを含む。プロドラッグの活性化は酵素的な変換であっても、非酵素的な変換であっても良い。本発明においてトキシンとは、微生物、動物又は植物由来の細胞毒性を示す種々のタンパク質やポリペプチド等を意味する。又、本発明において放射性物質とは、放射性同位体を含む物質のことをいう。放射性同位体は特に限定されず、如何なる放射性同位体を用いてもよい。又、本発明において化学療法剤とは、上記のトキシン、放射性物質以外の細胞障害活性を有する物質を意味する。化学療法剤にはサイカイン、抗腫瘍剤、酵素などが含まれる。
【0053】
さらに、本発明の抗体は二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体とは、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体をいうが、当該エピトープは異なる分子中に存在していてもよいし、同一の分子中に存在していてもよい。すなわち本発明において、二重特異性抗体はMuc17タンパク質上の異なるエピトープを認識する抗原結合部位を有することができる。このような二重特異性抗体は、1分子のMuc17に対して2分子の抗体分子が結合できる。その結果、より強力な細胞障害作用を期待できる。本発明における「抗体」にはこれらの抗体も包含される。
【0054】
また本発明においては、Muc17以外の抗原を認識する二重特異性抗体を組み合わせることもできる。たとえば、Muc17と同様に標的とする癌細胞の細胞表面に特異的に発現する抗原であって、Muc17とは異なる抗原を認識するような二重特異性抗体を組み合わせることができる。
【0055】
二重特異性抗体を製造するための方法は公知である。たとえば、認識抗原が異なる2種類の抗体を結合させて、二重特異性抗体を作製することができる。結合させる抗体は、それぞれがH鎖とL鎖を有する1/2分子であっても良いし、H鎖のみからなる1/4分子であっても良い。あるいは、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて、二重特異性抗体産生融合細胞を作製することもできる。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体が作製できる。
【0056】
抗体の製造方法
本発明の抗Muc17抗体は、公知の手段を用いて取得できる。本発明の抗Muc17抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主により産生されるもの等を含む。
【0057】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは公知技術を使用して、例えば、以下のようにして作製できる。まず、Muc17タンパク質を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫する。免疫動物から得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させて、ハイブリドーマを得る。更に、このハイブリドーマから、通常のスクリーニング法により、目的とする抗体を産生する細胞をスクリーニングすることによって抗Muc17抗体を産生するハイブリドーマが選択できる。
【0058】
具体的には、モノクローナル抗体の作製は例えば以下に示すように行われる。まず、Muc17遺伝子を発現することによって、抗体取得の感作抗原として使用されるMuc17タンパク質が取得できる。ヒトMuc17遺伝子の塩基配列は、GenBank登録番号NM_001040105(配列番号1)などに開示されている。すなわち、Muc17をコードする遺伝子配列を公知の発現ベクターに挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中または培養上清中から目的のヒトMuc17タンパク質が公知の方法で精製できる。また、精製した天然のMuc17タンパク質も同様に使用できる。生成は通常のイオンクロマトグラフィやアフィニティクロマトグラフィなどの複数のクロマトグラフィを単数回又は複数回、組み合わせて又は単独で使用することにより生成することができる。また、本発明で用いられるように、Muc17タンパク質の所望の部分ポリペプチドを異なるポリペプチドと融合した融合タンパク質を免疫原として利用することもできる。免疫原とする融合タンパク質を製造するために、例えば抗体のFc断片やペプチドタグ等を利用することができる。融合タンパク質を発現するベクターは所望の二種類又はそれ以上のポリペプチド断片をコードする遺伝子をインフレームで融合させ、当該融合遺伝子を前記の様に発現ベクターに挿入することにより作製することができる。融合タンパク質の作製方法はMolecular Cloning 2nd ed. (Sambrook,J. et al., Molecular Cloning 2
nded., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab.Press, 1989)に記載されている。
【0059】
このようにして精製されたMuc17タンパク質を哺乳動物に対する免疫に使用する感作抗原として使用できる。Muc17の部分ペプチドもまた感作抗原として使用できる。たとえば、次のようなペプチドを感作抗原とすることができる。
ヒトMuc17のアミノ酸配列より化学合成によって取得されたペプチド;
ヒトMuc17遺伝子の一部を発現ベクターに組込んで発現させることによって取得されたペプチド;
ヒトMuc17タンパク質をタンパク質分解酵素により分解することによって取得されたペプチド。
【0060】
部分ペプチドとして用いるMuc17の領域および大きさは限定されるものではない。好ましい領域はMuc17の細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列(配列番号2のアミノ酸配列において1−4389番目)から選択することができる。感作抗原とするペプチドを構成するアミノの数は、少なくとも3以上、たとえば、5以上、あるいは6以上であることが好ましい。より具体的には、8〜50、好ましくは10〜30残基のペプチドを感作抗原とすることができる。
【0061】
該感作抗原で免疫される哺乳動物は、特に限定されない。モノクローナル抗体を細胞融合法によって得るためには、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して免疫動物を選択するのが好ましい。一般的には、げっ歯類の動物が免疫動物として好ましい。具体的には、マウス、ラット、ハムスター、あるいはウサギを免疫動物とすることができる。その他、サル等を免疫動物とすることもできる。
【0062】
公知の方法にしたがって上記の動物が感作抗原により免疫できる。例えば、一般的方法として、感作抗原を腹腔内または皮下に注射することにより哺乳動物を免疫することができる。具体的には、該感作抗原が哺乳動物に4から21日毎に数回投与される。感作抗原は、PBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当な希釈倍率で希釈して免疫に使用される。更に、感作抗原をアジュバントとともに投与することができる。例えばフロイント完全アジュバントと混合し、乳化して、感作抗原とすることができる。また、感作抗原の免疫時には適当な担体が使用できる。特に分子量の小さい部分ペプチドが感作抗原として用いられる場合には、該感作抗原ペプチドをアルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合させて免疫することが望ましい。
【0063】
このように哺乳動物が免疫され、血清中における所望の抗体量の上昇が確認された後に、哺乳動物から免疫細胞が採取され、細胞融合に付される。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が使用できる。
【0064】
前記免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーとは、特定の培養条件の下で生存できる(あるいはできない)形質を指す。選択マーカーには、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、あるいはチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)などが公知である。HGPRTやTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができず死滅するが、正常な細胞と融合すると正常細胞のサルベージ回路を利用してDNAの合成を継続することができるためHAT選択培地中でも増殖するようになる。
【0065】
HGPRT欠損やTK欠損の細胞は、それぞれ6チオグアニン、8アザグアニン(以下8AGと省略する)、あるいは5'ブロモデオキシウリジンを含む培地で選択することができる。正常な細胞はこれらのピリミジンアナログをDNA中に取り込んでしまうので死滅するが、これらの酵素を欠損した細胞は、これらのピリミジンアナログを取り込めないので選択培地の中で生存することができる。この他G418耐性と呼ばれる選択マーカーは、ネオマイシン耐性遺伝子によって2-デオキシストレプタミン系抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol.(1979)123, 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、NS-1 (Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976)6, 511-519)、MPC-11(Margulies. D.H. et al., Cell(1976)8, 405-415)、SP2/0 (Shulman, M. et al., Nature(1978)276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. etal., J. Immunol. Methods(1980)35, 1-21)、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med.(1978)148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature(1979)277, 131-133)等のようなミエローマ細胞を利用することができる。
【0066】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C.、Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて行なうことが可能である。
【0067】
より具体的には、例えば細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で、前記細胞融合が実施できる。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等を使用することができる。更に融合効率を高めるために所望によりジメチルスルホキシド等の補助剤を加えることもできる。
【0068】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定できる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1から10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液を利用することができる。さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を培養液に添加することができる。
【0069】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液を混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。細胞融合法においては、例えば平均分子量1000から6000程度のPEGを、通常30から60%(w/v)の濃度で添加することができる。続いて、上記に挙げた適当な培養液を添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことにより、ハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去される。
【0070】
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに応じた選択培養液を利用することによって選択することができる。例えばHGPRTやTKの欠損を有する細胞は、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択できる。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、HAT培養液中で、正常細胞との細胞融合に成功した細胞を選択的に増殖させることができる。目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、上記HAT培養液を用いた培養が継続される。具体的には、一般に、数日から数週間の培養によって、目的とするハイブリドーマを選択することができる。ついで、通常の限界希釈法を実施することによって、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施できる。あるいは、Muc17を認識する抗体を国際公開WO03/104453に記載された方法によって作成することもできる。
【0071】
目的とする抗体のスクリーニングおよび単一クローニングは、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に実施できる。例えば、ポリスチレン等でできたビーズや市販の96ウェルのマイクロタイタープレート等の担体に抗原を結合させ、ハイブリドーマの培養上清と反応させる。次いで担体を洗浄した後に酵素で標識した二次抗体等を反応させる。もしも培養上清中に感作抗原と反応する目的とする抗体が含まれる場合、二次抗体はこの抗体を介して担体に結合する。最終的に担体に結合する二次抗体を検出することによって、目的とする抗体が培養上清中に存在しているかどうかが決定できる。抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等によりクローニングすることが可能となる。この際、抗原としては免疫に用いたものを始め、実施的に同質なMuc17タンパク質が好適に使用できる。たとえばMuc17の細胞外ドメイン、あるいは当該領域を構成する部分アミノ酸配列からなるオリゴペプチドを、抗原として利用することができる。
【0072】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫することによって上記ハイブリドーマを得る方法以外に、ヒトリンパ球を抗原感作して目的とする抗体を得ることもできる。具体的には、まずインビトロにおいてヒトリンパ球をMuc17タンパク質で感作する。次いで免疫感作されたリンパ球を適当な融合パートナーと融合させる。融合パートナーには、たとえばヒト由来であって永久分裂能を有するミエローマ細胞を利用することができる(特公平1-59878号公報参照)。この方法によって得られる抗Muc17抗体は、Muc17タンパク質への結合活性を有するヒト抗体である。
【0073】
さらに、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物に対して抗原となるMuc17タンパク質を投与することによって、抗Muc17ヒト抗体を得ることもできる。免疫動物の抗体産生細胞は、適当な融合パートナーとの細胞融合やエプスタインバーウイルスの感染などの処理によって不死化させることができる。このようにして得られた不死化細胞からMuc17タンパク質に対するヒト抗体を単離することができる(国際公開WO94/25585、WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602参照)。更に不死化された細胞をクローニングすることにより、目的の反応特異性を有する抗体を産生する細胞をクローニングすることもできる。トランスジェニック動物を免疫動物とするときには、当該動物の免疫システムは、ヒトMuc17を異物と認識する。したがって、ヒトMuc17に対するヒト抗体を容易に得ることができる。このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することができる。また、該ハイブリドーマを液体窒素中で長期にわたって保存することもできる。
【0074】
又、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体のV領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列を決定した後、当該V領域配列を所望のヒト抗体C領域の配列とインフレームで融合させた後に適当な発現ベクターに挿入することによって発現ベクターが作製できる。該発現ベクターを上記に挙げたような好適な発現細胞中に導入し、該ヒト抗体をコードする遺伝子を発現させることにより該ヒト抗体が取得できる。これらの方法は既に公知である(国際公開WO92/01047,WO92/20791,WO93/06213,WO93/11236,WO93/19172,WO95/01438,WO95/15388)。
【0075】
当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清から目的とするモノクローナル抗体を得ることができる。あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水からモノクローナル抗体を得ることもできる。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適している。
【0076】
組換え抗体
本発明の抗体は、抗体産生細胞からクローニングされた抗体遺伝子を利用して作成することができる組換え抗体であってもよい。クローニングした抗体遺伝子は、適当なベクターに組み込んで宿主に導入することによって、抗体を発現させることができる。抗体遺伝子の単離と、ベクターへの導入、そして宿主細胞の形質転換のための方法は既に確立されている(例えば、Vandamme, A. M. et al., Eur.J. Biochem.(1990)192, 767-775参照)。
【0077】
たとえば、抗Muc17抗体を産生するハイブリドーマ細胞から、抗Muc17抗体の可変領域(V領域)をコードするcDNAを得ることができる。そのためには、通常、まずハイブリドーマから全RNAが抽出される。細胞からmRNAを抽出するための方法として、たとえば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry(1979)18, 5294-5299)、AGPC法(Chomczynski, P.et al., Anal. Biochem.(1987)162, 156-159)などを用いることができる。
【0078】
抽出されたmRNAは、mRNA Purification Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス製)等を使用して精製することができる。あるいは、QuickPrep mRNA Purification Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス製)などのように、細胞から直接全mRNAを抽出するためのキットも市販されている。このようなキットを用いて、ハイブリドーマから全mRNAを得ることもできる。得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域をコードするcDNAを合成することができる。cDNAは、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等によって合成することができる。また、cDNAの合成および増幅のために、5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002、Belyavsky, A.et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)を利用することができる。更にこうしたcDNAの合成の過程においてcDNAの両末端に後述する適切な制限酵素サイトが導入できる。
【0079】
得られたPCR産物から目的とするcDNA断片が精製され、次いでベクターDNAと連結される。このように組換えベクターが作製され、大腸菌等に導入されコロニーが選択された後に、該コロニーを形成した大腸菌から所望の組換えベクターが調製できる。そして、該組換えベクターが目的とするcDNAの塩基配列を有しているか否かについて、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認できる。
【0080】
可変領域をコードする遺伝子を得るために、可変領域遺伝子増幅用のプライマーを使ったPCR法を利用することもできる。まず抽出されたmRNAを鋳型としてcDNAを合成し、cDNAライブラリーを得る。cDNAライブラリーの合成には市販のキットを用いるのが便利である。実際には、少数の細胞のみから得られるmRNAは極めて微量なので、それを直接精製すると収率が低い。したがって通常は、抗体遺伝子を含まないことが明らかなキャリアRNAを添加した後に精製される。あるいは一定量のRNAを抽出できる場合には、抗体産生細胞のRNAのみでも効率よく抽出することができる。たとえば10以上、あるいは30以上、好ましくは50以上の抗体産生細胞からのRNA抽出には、キャリアRNAの添加は必要でない場合がある。
【0081】
得られたcDNAライブラリーを鋳型として、PCR法によって抗体遺伝子が増幅される。抗体遺伝子をPCR法によって増幅するためのプライマーが公知である。たとえば、論文(J. Mol. Biol. (1991) 222, 581-597)などの開示に基づいて、ヒト抗体遺伝子増幅用のプライマーをデザインすることができる。これらのプライマーは、イムノグロブリンのサブクラスごとに異なる塩基配列となる。したがって、サブクラスが不明のcDNAライブラリーを鋳型とするときには、あらゆる可能性を考慮してPCR法を行う。
【0082】
具体的には、たとえばヒトIgGをコードする遺伝子の取得を目的とするときには、重鎖としてγ1〜γ5、軽鎖としてκ鎖とλ鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーを利用することができる。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に3'側のプライマーにはヒンジ領域に相当する部分にアニールするプライマーが利用される。一方5'側のプライマーには、各サブクラスに応じたプライマーを用いることができる。
【0083】
重鎖と軽鎖の各サブクラスの遺伝子増幅用プライマーによるPCR産物は、それぞれ独立したライブラリーとする。こうして合成されたライブラリーを利用して、重鎖と軽鎖の組み合せからなるイムノグロブリンを再構成することができる。再構成されたイムノグロブリンの、MUC17に対する結合活性を指標として、目的とする抗体をスクリーニングすることができる。
【0084】
本発明の抗体のMuc17への結合は、特異的であることがさらに好ましい。Muc17に結合する抗体は、たとえば次のようにしてスクリーニングすることができる。
【0085】
(1)ハイブリドーマから得られたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体をMuc17に接触させる工程、
(2)Muc17と抗体との結合を検出する工程、および
(3)Muc17に結合する抗体を選択する工程。
【0086】
抗体とMuc17との結合を検出する方法は公知である。具体的には、担体に固定したMuc17に対して被験抗体を反応させ、次に抗体を認識する標識抗体を反応させる。洗浄後に担体上の標識抗体が検出されれば、当該被験抗体のMuc17への結合を証明できる。標識には、ペルオキシダーゼやβ−ガラクトシダーゼ等の酵素活性タンパク質、あるいはFITC等の蛍光物質を利用することができる。抗体の結合活性を評価するためにMuc17を発現する細胞の固定標本を利用することもできる。
【0087】
結合活性を指標とする抗体のスクリーニング方法として、ファージベクターを利用したパニング法を用いることもできる。上記のように抗体遺伝子を重鎖と軽鎖のサブクラスのライブラリーとして取得した場合には、ファージベクターを利用したスクリーニング方法が有利である。重鎖と軽鎖の可変領域をコードする遺伝子は、適当なリンカー配列で連結することによってシングルチェインFv(scFv)とすることができる。scFvをコードする遺伝子をファージベクターに挿入すれば、scFvを表面に発現するファージを得ることができる。このファージを目的とする抗原と接触させて、抗原に結合したファージを回収すれば、目的の結合活性を有するscFvをコードするDNAを回収することができる。この操作を必要に応じて繰り返すことにより、目的とする結合活性を有するscFvを濃縮することができる。
【0088】
目的とする抗Muc17抗体のV領域をコードするcDNAが得られた後に、該cDNAの両末端に挿入した制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗体遺伝子を構成する塩基配列に出現する可能性が低い塩基配列を認識して消化する。更に1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素が好ましい。上記のように消化された抗Muc17抗体のV領域をコードするcDNAを適当な発現ベクターに挿入することによって、抗体発現ベクターを得ることができる。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記V領域をコードする遺伝子とをインフレームで融合させることによって、キメラ抗体を得ることができる。ここで、キメラ抗体とは、定常領域と可変領域の由来の生物が異なることを言う。したがって、マウス−ヒトなどの異種キメラ抗体に加え、ヒト−ヒト同種キメラ抗体も、本発明におけるキメラ抗体に含まれる。予め定常領域を有する発現ベクターに、前記V領域遺伝子を挿入して、キメラ抗体発現ベクターを構築することもできる。
【0089】
具体的には、たとえば、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを保持した発現ベクターの5’側に、前記V領域遺伝子を消化する制限酵素の制限酵素認識配列を配置しておくことができる。両者を同じ組み合わせの制限酵素で消化し、インフレームで融合させることによって、キメラ抗体発現ベクターが構築される。
【0090】
本発明の抗Muc17抗体を製造するために、抗体遺伝子を発現制御領域による制御の下で発現するように発現ベクターに組み込むことができる。抗体を発現するための発現制御領域とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。次いで、この発現ベクターで適当な宿主細胞を形質転換することによって、抗Muc17抗体をコードするDNAを発現する組換え細胞を得ることができる。
【0091】
抗体遺伝子の発現にあたり、抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)をコードするDNAは、それぞれ別の発現ベクターに組み込むことができる。H鎖とL鎖を組み込まれたベクターを、同じ宿主細胞に同時に形質転換(co-transfect)することによって、H鎖とL鎖を備えた抗体分子を発現させることができる。あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換させてもよい(国際公開WO94/11523参照)。
【0092】
抗体遺伝子を一旦単離し、適当な宿主に導入して抗体を作製するための宿主と発現ベクターの多くの組み合わせが公知である。これらの発現系は、いずれも本発明に応用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、あるいは真菌細胞が使用できる。具体的には、本発明に利用することができる動物細胞としては、例えば、哺乳類細胞(CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、Hela、Veroなど)、両生類細胞(アフリカツメガエル卵母細胞など)、昆虫細胞(sf9、sf21、Tn5など)などを用いることが可能である。
【0093】
あるいは植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞による抗体遺伝子の発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞を利用することができる。
【0094】
更に真菌細胞としては、酵母(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces)属、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)などのPichia属)、糸状菌(アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus)属)などを用いることができる。
【0095】
あるいは原核細胞を利用した抗体遺伝子の発現系も公知である。たとえば、細菌細胞を用いる場合、大腸菌(E. coli)、枯草菌などの細菌細胞を本発明に利用することができる。
【0096】
哺乳類細胞を用いる場合、常用される有用なプロモーター、発現させる抗体遺伝子、その3’側下流にポリAシグナルを機能的に結合させた発現ベクターを構築することができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウイルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0097】
また、その他に本発明の抗体の発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、ウイルスプロモーター/エンハンサー、あるいはヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサー等が挙げられる。プロモーター/エンハンサーを利用することができるウイルスとして、具体的には、レトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、シミアンウイルス40(SV40)等を示すことができる。
【0098】
SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合はMulliganらの方法(Nature(1979)277, 108)を利用することができる。また、HEF1αプロモーター/エンハンサーはMizushimaらの方法(Nucleic Acids Res.(1990)18, 5322)により、容易に目的とする遺伝子発現に利用することができる。
【0099】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列および発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて当該遺伝子が発現できる。プロモーターとしては、例えばlacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合はWardらの方法(Nature(1989)341, 544-546 ; FASEBJ.(1992)6,2422-2427)を利用することができる。あるいはaraBプロモーターはBetterらの方法(Science(1988)240, 1041-1043)により、目的とする遺伝子の発現に利用することができる。
【0100】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al., J. Bacteriol.(1987)169, 4379)を使用すればよい。そして、ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、尿素のグアニジン塩酸塩の様なタンパク質変性剤を使用することによって所望の結合活性を有するように、抗体の構造が組み直される(refolded)。
【0101】
発現ベクターに挿入される複製起源としては、SV40、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス(BPV)等の由来のものを用いることができる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクター中に、選択マーカー挿入することができる。具体的には、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等の選択マーカーを利用することができる。
【0102】
これらの発現ベクターを宿主細胞に導入し、形質転換された宿主細胞をインビトロまたはインビボで培養して目的とする抗体を産生させる。宿主細胞の培養は公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0103】
前記のように発現、産生された抗体は、通常のタンパク質の精製で使用されている公知の方法を単独で使用することによって又は適宜組み合わせることによって精製できる。例えば、プロテインAカラムなどのアフィニティーカラム、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
【0104】
また、組換え型抗体の産生には、上記宿主細胞に加えて、トランスジェニック動物を利用することもできる。すなわち目的とする抗体をコードする遺伝子を導入された動物から、当該抗体を得ることができる。例えば、抗体遺伝子は、乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子の内部にインフレームで挿入することによって融合遺伝子として構築できる。乳汁中に分泌されるタンパク質として、たとえば、ヤギβカゼインなどを利用することができる。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片はヤギの胚へ注入され、該注入胚が雌のヤギへ導入される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ(またはその子孫)が産生する乳汁からは、所望の抗体を乳汁タンパク質との融合タンパク質として取得できる。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、ホルモンがトランスジェニックヤギに適宜使用できる(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology(1994)12, 699-702)。
【0105】
本発明の組み換え抗体のC領域として、動物抗体由来のC領域を使用できる。例えばマウス抗体のH鎖C領域としては、Cγ1、Cγ2a、Cγ2b、Cγ3、Cμ、Cδ、Cα1、Cα2、Cεが、L鎖C領域としてはCκ、Cλが使用できる。また、マウス抗体以外の動物抗体としてラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ラクダ、サル等の動物抗体が使用できる。これらの配列は公知である。また、抗体またはその産生の安定性を改善するために、C領域を修飾することができる。
【0106】
医薬組成物
本発明は上述の抗Muc17抗体を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。又、本発明は上述の抗Muc17抗体を有効成分として含有する抗癌剤に関する。本発明の抗癌剤は、癌を罹患している対象または再発する可能性がある対象に投与されることが好ましい。
【0107】
また、本発明において、抗Muc17抗体を有効成分として含有する抗癌剤は、抗Muc17抗体を対象に投与する工程を含む癌を予防または治療する方法、または、抗癌剤の製造における抗Muc17抗体の使用と表現することもできる。
【0108】
本発明の抗癌剤により治療される癌の種類は特に限定されないが、通常、Muc17タンパク質が発現する癌であり、好ましくは膵臓癌または大腸癌である。
【0109】
本発明において、「抗Muc17抗体を有効成分として含有する」とは、抗Muc17抗体を主要な活性成分として含むという意味であり、モノクローナル抗体の含有率を制限するものではない。
【0110】
更に本発明における医薬組成物、あるいは抗癌剤には、必要に応じて複数種類の抗体を配合することができる。たとえば、複数の抗Muc17抗体のカクテルとすることによって、Muc17発現細胞に対する細胞傷害作用を強化できる可能性がある。あるいは、抗Muc17抗体に加えて、他の腫瘍関連抗原を認識する抗体を配合することにより、治療効果を高めることもできる。又、抗Muc17抗体と抗ヒトIgG抗体などの抗Muc17抗体を認識する抗体を含む医薬組成物でもよい。抗ヒトIgG抗体などの抗Muc17抗体を認識する抗体にはトキシン、放射性物質、化学療法剤などの細胞障害性物質が結合していることが好ましい。
【0111】
本発明の医薬組成物、あるいは抗癌剤は、経口、非経口投与のいずれかによって患者に投与することができる。好ましくは非経口投与である。係る投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによって本発明の医薬組成物が全身または局部的に投与できる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回の投与につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000mg/bodyの範囲で投与量が選択できる。しかしながら、本発明の医薬組成物はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0112】
本発明の医薬組成物は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられる。更にこれらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用できる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として挙げることができる。
【0113】
また、本発明は、Muc17発現細胞と抗Muc17抗体とを接触させることによりMuc17発現細胞に傷害を引き起こす方法又は細胞の増殖を抑制する方法を提供する。抗Muc17抗体は上述したとおりである。抗Muc17抗体が結合する細胞はMuc17が発現している細胞であれば特に限定されない。本発明における好ましいMuc17発現細胞は癌細胞である。好ましい癌細胞としては膵臓癌細胞や大腸癌細胞などを挙げることができる。
【0114】
本発明において「接触」は、in vitroで行われてもよいし、in vivoで行われてもよい。例えば、試験管内で培養しているMuc17発現細胞の培養液に抗体を添加することにより行われる。この場合において、添加される抗体の形状としては、溶液又は凍結乾燥等により得られる固体等の形状が適宜使用できる。水溶液として添加される場合にあっては純粋に抗体のみを含有する水溶液であってもよいし、例えば上記記載の界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含む溶液であってもよい。添加する濃度は特に限定されないが、培養液中の最終濃度として、好ましくは1pg/mlから1g/mlの範囲であり、より好ましくは1ng/mlから1mg/mlであり、更に好ましくは1μg/mlから1mg/mlが好適に使用されうる。
【0115】
また本発明において「接触」は更に、別の態様では、Muc17発現細胞を体内に移植した非ヒト動物や内在的にMuc17を発現する癌細胞を有する動物に投与することによっても行われる。投与方法は経口、非経口投与のいずれかによって実施できる。特に好ましくは非経口投与による投与方法であり、係る投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによって本発明の医薬組成物細胞増殖阻害剤および抗癌剤が全身または局部的に投与できる。また、被験動物の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。水溶液として投与される場合にあっては純粋に抗体のみを含有する水溶液であってもよいし、例えば上記記載の界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含む溶液であってもよい。投与量としては、例えば、一回の投与につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000mg/bodyの範囲で投与量が選択できる。しかしながら、本発明の抗体投与量はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0116】
診断方法
本発明はさらに抗Muc17抗体を用いた癌の診断方法を提供する。本発明の方法により診断される癌はMuc17を発現している限り特に限定されないが、膵臓癌または大腸癌が好ましい。
【0117】
本発明の診断方法はin vitroで行われてもよいしin vivoで行われてもよいが、in vitroで行われることが好ましい。
【0118】
本発明の抗Muc17抗体を用いた癌の診断方法は、例えば、以下の工程を含む方法である。
(a) 被験者から採取された試料を提供する工程、
(b) (a)の試料に含まれるMuc17タンパク質を検出する工程。
【0119】
本発明において検出とは、定量的または定性的な検出を含む。定性的な検出には例えば、Muc17タンパク質が存在するか否かの測定、Muc17タンパク質が一定の量以上存在するか否かの測定、Muc17タンパク質の量を他の試料(例えば、コントロール試料など)と比較する測定などが含まれる。定量的な検出には例えば、Muc17タンパク質の濃度の測定、Muc17タンパク質の量の測定などが含まれる。
【0120】
本発明における被検試料は、Muc17タンパク質が含まれる可能性のある試料であれば特に制限されない。具体的には、哺乳類などの生物の体から採取された試料が好ましい。さらに好ましい試料は、ヒトから採取された試料である。被検試料の具体的な例としては、例えば、血液、間質液、血漿、血管外液、脳脊髄液、滑液、胸膜液、血清、リンパ液、唾液、尿、組織などが例示できる。好ましい試料は、生物の体から採取された組織若しくは細胞が固定化された標本又は細胞の培養液などの被検試料から得られる試料である。
【0121】
Muc17タンパク質の検出は当業者に公知の方法により行うことが可能であり、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)、エンザイムイムノアッセイ(EIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、発光イムノアッセイ(LIA)、免疫沈降法(IP)、免疫比濁法(TIA)、ウエスタンブロット(WB)、免疫組織化学(IHC)法、免疫拡散法(SRID)などにより行うことが可能である。
【0122】
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書に参照として取り込まれる。
【実施例】
【0123】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0124】
実施例1.リアルタイムPCRを用いたmucin 17(Muc17)のmRNA発現解析
膵臓癌細胞株AsPc1、Panc1、Capan1、BxPC3細胞はATCCより購入した。添付資料に記載の条件にて培養し1×10
7相当の細胞を回収しTrizol(Invitrogen社)を用いてtotal RNAを調製した。1μgのtotal RNAについて、DNase I(Invitrogen社)処理後、SuperScript III First Strand Synthesis System for RT-PCR(Invitrogen社)を用いoligo(dT)をプライマーとしてcDNAを合成した。表1に示す各種正常組織total RNAに関しても同様の方法でcDNAを合成した。これらを用いSYBR Green Iを用いたインターカレーター法によるリアルタイムPCRを実施した。すなわち3.3ngのtotal RNA相当を由来とするcDNAを鋳型とし、SYBR(登録商標)Premix Ex Taq(Takara社)、センスプライマー(配列番号30)、アンチセンスプライマー(配列番号31)を含む20μlの反応液に対し、95℃で5秒、60℃で30秒からなるサイクルを33回行った。事前に精製したPCR産物を鋳型としたサンプルをもとに標準曲線を作成し、その定量値からサンプルのcDNA量を換算した。
図1に示すように、Muc17のmRNAは膵臓癌株であるAsPc1で高値を示し、正常組織では小腸に限局していた。
【0125】
【表1】
【0126】
実施例2.抗Muc17抗体の作製
2-1.ヒトMuc17部分配列をコードするcDNAのクローニング
Muc17(Accession No. NM_001040105)は4,493アミノ酸からなる一型膜蛋白質である(配列番号1および2)。Muc17は膜型のムチンファミリーに属し、細胞外領域の大部分はセリン、スレオニン、プロリンに富んだ59merのタンデムリピート配列の繰り返しからなり、糖鎖による修飾を受ける。また、SEAドメイン(4182Glu-4287Asn)を有する事から切断されることが予測され、一部分泌蛋白として存在する可能性が考えられる。また、分泌型のスプライシングバリアント(1Met-4241Argは同一配列)の存在が報告されている(Maniauxら、J. Biol. Chem. (2006)281, 23676-23685)。Muc17に特異的で且つ分泌型Muc17に結合しない抗体は、膵臓癌の新しい治療薬となる可能性が考えられ、抗Muc17抗体の作製に着手した。
【0127】
Muc17の細胞外領域(1Met-4389Ser)のうち、Muc17に特異性の高いC末端部分配列(Muc17ct, 4115Thr-4390Leu)に対する抗体を作製するため、同配列をクローニングした。すなわちAsPc1のcDNAを鋳型として、5’端にEcoRI認識配列、マウス抗体のシグナル配列を付加したセンスプライマー(配列番号32)、CpoI認識配列を付加したアンチセンスプライマー(配列番号33)、10xKOD-Plus buffer、2mM dNTPs、25mM MgSO4、KOD-Plus(Takara社製)を含む反応液を、98℃で10秒、72℃で5秒、68℃で4分からなるサイクルを5回、98℃で10秒、70℃で5秒、68℃で4分からなるサイクルを5回、98℃で10秒、68℃で4分からなるサイクルを25回行った。PCR反応による増幅産物はpGEM-T Easy Vector System I(Promega社)を用いてpGEM-T easyに挿入した。配列はABI3730 DNA Analyzerにより確認した。
【0128】
2-2. 可溶型ヒトMuc17ct/マウスIgG2a Fc融合蛋白の作製
pGEM-T easyベクターにクローニングされたMuc17ct遺伝子をEcoRI、CpoIにより消化し、pMCDN_mIgG2aFcにクローニングした。pMCDN_mIgG2aFcは哺乳細胞用発現ベクターであるpMCDNを由来とし、mouse CMVプロモータ(Accession No. U68299)下で発現誘導可能で、ネオマイシン耐性遺伝子、DHFR遺伝子が組み込まれている。pMCDN_mIgG2aFcはpMCDNベクターのEcoRI, NotI認識部位にマウスH鎖IgG2aのヒンジ以下のFc配列を挿入し、CpoI認識配列でMuc17ctとmIgG2aFc配列が連結される。配列番号34で表される配列はMuc17ct_mIgG2aFcの塩基配列を、配列番号35で表される配列はMuc17ct_mIgG2aFcのアミノ酸配列を示す。
【0129】
pMCDN/ Muc17ct_mIgG2aFcをDG44細胞(Invitrogen社)へエレクトロポレーション法により導入し、500μg/mL Geneticinでの選抜により、Muc17ct_mIgG2aFc定常発現CHO細胞を樹立した。定常発現細胞の大量培養を実施し、培養上清からMuc17ct_mIgG2aFc蛋白を精製した。培養上清をHi Trap rProtein A(GE社製)カラムにチャージし、結合バッファー(20mMリン酸ナトリウム(pH7.0))にて洗浄後、溶出バッファー(0.1Mグリシン-HCl(pH2.7))で溶出した。溶出は中和バッファー(1M Tris-HCl(pH9.0))を加えたチューブへ行い直ちに中和した。次にSuperdex 200 HR 26/60(GE社)によるゲルろ過を行い、PBSに置換した。精製蛋白の定量はDC protein assay(BIO-RAD社)を用い、添付のウシIgGをスタンダードとして換算した。
【0130】
2-3. 抗Muc17抗体の作製
Balb/cマウス、もしくはMRL/MpJUmmCrj-lpr/lprマウス(以下、MRL/lprマウス、日本チャールズ・リバーより購入)を免疫動物として用いた。6週齢より免疫を開始し、初回免疫にはMuc17ct_mIgG2aFcを100μg/headとなるように調製し、フロイント完全アジュバント(FCA、ベクトンディッキンソン社)を用いてエマルジョン化したものを皮下に投与した。2週間後に50μg/headとなるように調製したものをフロイント不完全アジュバント(FIA、ベクトンディッキンソン社)でエマルジョン化したものを皮下に投与した。以降1週間間隔で追加免疫を2から5回行った。最終免疫の4日後、脾臓細胞を摘出し、マウスミエローマ細胞P3-X63Ag8U1(P3U1、ATCCより購入)と2:1になるように混合し、PEG1500(ロシュ・ダイアグノスティック社)を徐々に加える事により細胞融合を行った。慎重にRPMI1640培地(GIBCO BRL社)を加えPEG1500を希釈し、遠心操作によりPEG1500を除去した後、10%FBS入りRPMI1640にて懸濁したものを100μL/wellとなるように96穴培養プレートに播種した。翌日、100μL/wellとなるように10%FBS、1xHAT media supplement(SIGMA社)、0.5xBM-Condimed H1 Hybridoma cloning supplement(ロシュ・ダイアグノスティック社)を含むRPMI1640(以降、HAT培地)を添加した。2,3日後に培養液の半分をHAT培地に置き換え、7日後の培養上清を用いてスクリーニングを行った。スクリーニングはMuc17ct_mIgG2aFcを固相化したELISAにより行った。陽性クローンについては限界気釈法によりモノクローン化した。Muc17ct配列を含まないコントロールFc融合蛋白質を固相化したELISAによる評価により、Muc17特異的に結合する抗体として(MQ016、MQ128、MQ155、MQ169)を樹立した。抗体のアイソタイプはIsostrip(Roche社製)を用いて決定し、いずれもIgG1,kappaであった。
【0131】
抗体の精製は、FBS(Ultra low IgG)(GIBCO BRL社)を血清として用いたHAT培地にて培養したハイブリドーマの培養上清を、上記と同様にHi Trap ProteinG HPを用い行った。溶出画分については、PD-10カラム(Amersham社)を用いてPBSに置換した後、4℃で保管した。精製抗体の定量はDC protein assay(BIO-RAD社)を用い、添付のウシIgGをスタンダードとして換算した。
【0132】
実施例3.抗Muc17抗体可変領域遺伝子配列の決定
MQ128およびMQ155について抗体可変領域遺伝子の配列を決定した。Total RNAは、RNeasy Plant Mini Kits(QIAGEN社)を用いて1×10
7細胞のハイブリドーマより抽出した。
1μgのTotal RNAを使用して、SMART RACE cDNA Amplification Kit(CLONTECH社)、マウスIgG1定常領域配列に相補的な合成オリゴヌクレオチドMHC-IgG1(配列番号36)またはマウスκ鎖定常領域塩基配列に相補的な合成オリゴヌクレオチドkappa(配列番号37)を用い、5’末端側遺伝子断片を増幅した。逆転写反応は42℃で1時間30分間反応した。PCR溶液50μLは、5μLの10×Advantage 2 PCR Buffer、5μLの10×Universal Primer A Mix、0.2mM dNTPs(dATP,dGTP,dCTP,dTTP)、1μLのAdvantage 2 Polymerase Mix(以上、CLONTECH社製)、2.5μLの逆転写反応産物、10pmoleの合成オリゴヌクレオチドMHC-IgG1またはkappaを含有し、94℃の初期温度にて30秒間そして94℃にて5秒間、72℃にて3分間のサイクルを5回反復し、94℃にて5秒間、70℃にて10秒間、72℃にて3分間のサイクルを5回反復し、さらに94℃にて5秒間、68℃にて10秒間、72℃にて3分間のサイクルを25回反復した。最後に反応産物を72℃で7分間加熱した。各PCR産物はQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて、アガロースゲルから精製した後、pGEM-T Easyベクターへクローニングし、塩基配列を決定した。MQ128のH鎖可変領域の塩基配列を配列番号18、アミノ酸配列を配列番号19、L鎖可変領域の塩基配列を配列番号20、アミノ酸配列を配列番号21に示す。MQ155のH鎖可変領域の塩基配列を配列番号22、アミノ酸配列を配列番号23、L鎖可変領域の塩基配列を配列番号24、アミノ酸配列を配列番号25に示す。
【0133】
実施例4.抗Muc17マウス−ヒトキメラ化抗体の作製
各抗体のH鎖およびL鎖可変領域配列をヒトH鎖およびヒトL鎖定常領域配列に連結した。H鎖については可変領域の5’末端側塩基配列に相補的でコザック配列、HindIII部位を有する合成オリゴヌクレオチド、およびNheI部位を有する3’末端側塩基配列に相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いてPCRを行った。L鎖については可変領域の5’末端側塩基配列に相補的でコザック配列、BamHI部位を有する合成オリゴヌクレオチド、およびBsiWI部位を有する3’末端側塩基配列に相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いてPCRを行った。得られたPCR産物を抗体発現プラスミドpMCDN_G1kにクローニングした。pMCDN_G1kは、pMCDNベクターにヒトIgG1定常領域がクローニングされており、NheI部位によりマウスH鎖可変領域とヒトH鎖(γ1鎖)定常領域が連結する構造を持つ。また、もう一つマウスCMVプロモータを含む発現ユニット、およびヒトκ鎖定常領域が挿入されており、BsiWI部位によりマウスL鎖可変領域とヒトL鎖(κ鎖)定常領域が連結する構造を持つ。本プラスミドは動物細胞内でネオマイシン耐性遺伝子、DHFR遺伝子、抗Muc17マウス―ヒトキメラ化抗体遺伝子を発現する。キメラ化MQ155のH鎖の塩基配列を配列番号26に、アミノ酸配列を配列番号27に、キメラ化MQ155のL鎖の塩基配列を配列番号28に、アミノ酸配列を配列番号29に示す。
【0134】
pMCDN_G1k_MQ128、pMCDN_G1k_MQ155をDG44細胞へエレクトロポレーションにより導入した。500μg/mLジェネティシンでの選抜により、抗Muc17キメラ化抗体定常発現CHO細胞を樹立した。次に培養上清よりHi Trap rProtein Aカラムを用いて精製を行った。精製抗体(chi.MQ128(DG)、chi.MQ155(DG))はPD-10カラムにてPBSにバッファー交換し、DC Protein Assayにより定量し、4℃で保管した。
【0135】
実施例5.低フコース抗Muc17マウス−ヒトキメラ化抗体の作製
抗体のADCC活性を増強する方法としては、抗体の糖鎖を改変する方法が知られている。例えば、WO99/54342には、抗体のグリコシル化を修飾することによりADCC活性を改良することが記載されている。また、WO00/61739には、抗体の糖鎖におけるフコースの存否によりADCC活性を調節することが記載されている。WO02/31140には、YB2/0細胞において抗体を産生せしめることにより、α-1,6コアーフコースを含まない糖鎖を有する抗体を調製することが記載されている。WO2005/017155においては、フコーストランスポーター遺伝子をノックアウトしたCHO細胞(CHO_FTKO)に関する実施例が記載されており、同様にα-1,6コアーフコースを含まない糖鎖を有する抗体を生産することが可能である。
【0136】
上記構築した抗Muc17マウスーヒトキメラ化抗体発現プラスミドをCHO_FTKO細胞(WO2005/017155)へエレクトロポレーション法により導入し、500μg/mL Geneticinでの選抜により、抗Muc17キメラ化抗体定常発現CHO_FTKO細胞を樹立した。次に培養上清よりHi Trap rProtein Aカラムを用いて精製を行った。精製抗体(chi.MQ128(FTKO)、chi.MQ155(FTKO))はPD-10カラムにてPBSにバッファー交換し、DC Protein Assayにより定量し、4℃で保管した。
【0137】
実施例6.抗Muc17抗体のELISAによる結合活性評価
Muc17ct_mIgG2aFc蛋白質を1μg/mLとなるようにコーティングバッファ(0.1mol/L NaHCO3(pH9.6),0.02%(w/v)NaN3)で希釈したものをイムノプレートに加え、4℃にて一晩放置しコーティングした。希釈バッファ(50mM Tris-HCl(pH8.1),1mM MgCl2,150mM NaCl,0.05%(v/v) Tween20,0.02%(w/v)NaN3,1%(w/v)BSA)にてブロッキング処理を行った後、抗Muc17抗体を加え、室温で1時間放置した。リンスバッファ(0.05%(v/v)Tween20,PBS)にて洗浄後、アルカリホスファターゼ標識した抗ヒトκ鎖抗体(Sigma社、CAT#A3813)を加え、室温で1時間放置した。リンスバッファにて洗浄後、SIGMA104(Sigma社)を1mg/mLとなるように基質バッファ(50mM NaHCO3(pH9.8),10mM MgCl2)に希釈したものを添加し、室温で1時間発色させた後、Benchmark Plus(BIO-RAD社)を用いて吸光度(405nm,参照655nm)を測定した。
図2に示すようにchi.MQ128、chi.MQ155はMuc17ct_mIgG2aFcに対して濃度依存的に強い結合活性を示した。コントロールのFc融合蛋白には結合活性を示さなかった事から、これはMuc17に特異的な結合であると考えられる。
【0138】
実施例7.抗Muc17抗体のフローサイトメトリによる結合活性評価
膵臓癌細胞株であるAsPc1に対する結合をフローサイトメトリにより評価した。5x10
5細胞/mLになるようにFACSバッファ(1% FBS/PBS)に懸濁した細胞をMultiscreen-HV Filter Plates(ミリポア社)に分注し、遠心操作にて上清を除去した。適当な濃度に希釈した抗Muc17抗体を加え、氷上にて30分間反応させた。細胞をFACSバッファにて1回洗浄し、FITC標識抗ヒトIgG抗体を添加し、氷上にて30分間反応させた。反応後、遠心により上清を除き、FACS Buffer 100μLに懸濁し、フローサイトメトリーに供した。フローサイトメーターはFACS Calibur(ベクトンディッキンソン社)を用いた。前方散乱光(forward scatter)および側方散乱光(side scatter)のヒストグラムにて生細胞集団にゲートを設定した。
図3に示すようにchi.MQ128、chi.MQ155はAsPc1細胞に強く結合した。Muc17を発現していないHepG2細胞に対しては結合しなかったことからMuc17に特異的な結合であると考えられる。
【0139】
実施例8.抗Muc17抗体の抗体依存性細胞障害(ADCC)活性の測定
8-1) 全長ヒトCD16定常発現細胞の樹立
全長ヒトCD16(RefSeq ID、NM_000569)を哺乳細胞発現用ベクター(pMCDN)にクローニングした(pMCDN/CD16)。pMCDN/CD16をNK-92細胞(ATCCより購入、CRL-2407)へエレクトロポレーションにより導入し、500μg/mlジェネティシンでの選抜により、全長ヒトCD16を定常的に発現するNK-92細胞株(CD16-NK92)を樹立した。CD16-NK92細胞の培養には500μg/mlジェネティシン、ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen社)、0.2 mミノシトール(Sigma社)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(Invitrogen社)、0.02mM葉酸(Sigma社)、100U/ml組換えヒトインターロイキン-2(Peprotech社)、10%ウマ血清(Invitrogen社)、10%ウシ胎児血清(Invitrogen社)を含むアルファ最少必須培地(リボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチドなし、L-グルタミン含有)(Invitrogen社)を用いた。
【0140】
8−2)抗Muc17抗体のADCC活性の測定
8×10
4細胞/mlのAsPC-1細胞が96ウェル平底プレートの各ウェルに50μlずつ添加し、5%炭酸ガスインキュベーター中で37℃にて2日間培養した。10%ウシ胎児血清、ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地(以下、培地と称する。)にCr51(Code No. CJS4、GEヘルスケアバイオサイエンス社)を240μCi/ml添加した溶液を各ウェルに10μlずつ添加し、引き続き1時間培養した。各ウェルを300μlの培地で洗浄しあと100μlの培地を添加した。次に、抗Muc17抗体またはコントロールヒトIgG1抗体(Cat. No. PHP010、Serotec社)を50μlずつ添加した。抗体の終濃度は10μg/mlから公比10にて3段階の連続希釈とした。続いて培地にて1×10
6細胞/mlに懸濁されたCD16-NK92細胞を50μlずつ添加した。該プレートは5%炭酸ガスインキュベーター中で37℃にて4時間培養後、上清100μlの放射活性をガンマカウンター(1480 WIZARD 3”、Wallac社)にて測定した。下式に基づいて特異的クロム遊離率を決定した。
特異的クロム遊離率(%)=(A-C)×100/(B-C)
Aは各ウェルの放射活性(cpm)、Bは100μlの2% Nonidet P-40溶液(Code No.252-23、Nacalai Tesque社)を添加したウェルの放射活性(cpm)の平均値、Cは100μlの培地を添加したウェルの放射活性(cpm)の平均値を示す。試験は二重に行い、特異的クロム遊離率の平均値および標準偏差を算出した。
【0141】
chi.MQ128(DG)、chi.MQ155(DG)、chi.MQ128(FTKO)、chi.MQ155(FTKO)のADCC活性を測定したところ、chi.MQ155(FTKO)のみADCC活性を示した(
図4)。
【0142】
実施例9.Hum-ZAPを用いた抗Muc17抗体による抗腫瘍効果
次に、Muc17を標的としたイムノトキシンが抗腫瘍効果を示す事ができるか、Hum-ZAPを用いて評価した。Hum-ZAPは、抗ヒトIgG抗体に蛋白合成阻害のトキシンであるサポリンを結合させたもので、Advanced Targeting Systems社製のものを用いた。前日にMuc17を発現する癌細胞株であるAsPc1細胞を2000細胞/100μL/ウエルで96ウエルプレートに播き込み、100ngのHum-ZAPと0, 1, 10, 100ngの抗Muc17キメラ化抗体(chi.MQ155)を混合したものを添加した。72時間培養後にCell Count Reagent SF(Nacalai Tesque社)を10μL添加し、2時間後に450nmの吸光度を測定した。
図5に示すように、Hum-Zap単独では増殖抑制が認められず、抗Muc17抗体の濃度依存的に、抗腫瘍効果が認められた。
【0143】
[実施例10] 抗Muc17抗体のエピトープ解析
作製した抗Muc17抗体のエピトープを解析する目的で、Muc17部分配列とGSTの融合蛋白質を作製した。Muc17遺伝子の4115Thr-4390Leuの領域の上流にEcoRI認識配列、下流にSalI認識配列を付加するようにPCR増幅を行い、pGEX4T-3(TAKARA社)へクローニングした。これをBL21へ導入し、形質転換体を作製した。LB培地にて培養し対数増殖期でIPTGを1mMとなるように添加し、室温にて4時間培養した。その後菌体を回収しB-PER(PIERCE社)にて可溶化し、封入体画分を調製した。変性バッファ(8M尿素,300mM NaCl,50mM Tris-HCl(pH8.0),5mM DTT)にて可溶化した後、再フォールディングバッファ(50mM Tris-HCl(pH8.0),300mM NaCl,1mM EDTA,5mM DTT)に置換する事により再フォールディングを行った。可溶化したGST融合蛋白質は、Glutathione Sepharose FFカラム(GE社)を用いたアフィニティー精製を行った。PD-10カラム(GE社)を用いてPBSに交換した後、DC Protein Assayにより定量した。同様の方法に従い、GST_Muc17ct_del1(4176Ile-4390Leu)、GST_Muc17ct_del2(4244Ser-4390Leu)、GST_Muc17ct_del3(4115Thr-4243Gly)を作製した(
図6)。精製したGST融合蛋白質をイムノプレート上に1μg/mLとなるように固相化した。ブロッキング処理後に3μg/mL濃度の抗Muc17抗体を添加し、上記方法に従いELISAを実施し、エピトープ解析を行った。抗腫瘍効果を示したMQ155は、GST_Muc17ct、GST_Muc17ct_del1に強く結合するものの、GST_Muc17ct_del2、GST_Muc17ct_del3には結合活性を示さなかった(
図6)。この事からMQ155のエピトープは、SEAドメイン内の切断予測部位をまたいだ領域にあると考えられる。Muc17はSEAドメインの切断、もしくはスプライスバリアントとして、分泌型の存在が予想される。MQ155は分泌型Muc17に結合しない事が予想されるため、治療用抗体として投与した場合、分泌型にトラップされることなく癌細胞へ到達する事が予想される。このようなエピトープをもつ抗体は治療用抗体として有望であると考えられる。
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同様な解析により、MQ016のエピトープは4115-4243の領域に、MQ169のエピトープは4244-4390の領域に存在する事が判明した。