特許第5938824号(P5938824)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5938824金属化フィルムの製造方法および金属箔の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938824
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】金属化フィルムの製造方法および金属箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/00 20060101AFI20160609BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   C23C14/00 A
   H05K1/09 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-48783(P2012-48783)
(22)【出願日】2012年3月6日
(65)【公開番号】特開2013-185163(P2013-185163A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】391057421
【氏名又は名称】東レKPフィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182785
【弁理士】
【氏名又は名称】一條 力
(72)【発明者】
【氏名】宮本 亮
(72)【発明者】
【氏名】川口 浩之
(72)【発明者】
【氏名】畑山 章
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−161840(JP,A)
【文献】 特開2009−293103(JP,A)
【文献】 特開2011−068142(JP,A)
【文献】 特開平11−293451(JP,A)
【文献】 特開2003−059748(JP,A)
【文献】 特開平08−330728(JP,A)
【文献】 特開2005−113183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C25D 1/04
H05K 1/09
B32B 15/00−15/20
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面に剥離層を有する基材フィルムの該剥離層の上に厚さ0.1μm以上5μm以下の金属層を設けており、金属層の表面の結晶粒径の平均値が1μm以下である属化フィルムの製造方法であって、金属層が蒸着によって成膜されたものである金属化フィルムの製造方法
【請求項2】
請求項1に記載の金属化フィルムの製造方法によって得られる金属化フィルムから金属層を剥離してなる金属箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビルドアップ多層配線板やPDP電磁波シールド材等に用いられるファインパターン用極薄金属箔の製造に好適に使用される金属化フィルムと、その金属化フィルムから剥離される金属箔に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に金属箔の製造方法としては、圧延法と呼ばれる金属板を加熱して狭いロールギャップ間を通して成型し金属箔を得る方法と、電解法と呼ばれる、金属ドラムに金属メッキを施し、そのメッキを剥がして金属箔を得る方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、通常、極薄金属箔を作成する場合、厚み精度が厳しくなり、また機械強度が弱くなるため、圧延方式では18μm以下の厚みの金属箔は生産が困難であり、電解法で作られるのが一般的である。
【0004】
一方、ビルドアップ多層配線板やPDP電磁波シールド材等に用いられる金属箔は、通常ファインパターン加工と呼ばれる数十〜数μmの極めて細かい加工を行うため、例えば、10μmの穴あけ等では金属箔の厚みは10μm以下の厚みが要求される。
【0005】
しかしながら、例えば、多層配線板の配線に一般的に用いられる銅箔などでは、電解法で厚みが10μm以下の極薄箔は作成可能であるものの、銅箔自体の機械強度が低下するため銅箔単体として生産出来る厚みは9μmあたりが下限となっており、またキャリア付きでも3μmあたりが下限となっている状況である。
【0006】
また、3μm厚銅箔では、キャリアとして銅箔35μmを用いることが一般的であり、目的の3μm厚の箔を剥離後は、キャリア材としての35μmの銅箔は破棄されるため必要以上の銅材を使用することとなり、極めて高価なものにならざるを得ない。
【0007】
また、蒸着により蒸着金属膜を設け、その金属膜をメッキ法で成長させファインパターン加工可能な厚みの金属層を得る工法も一部で試みられているが(特許文献2)、蒸着、めっきの2工程を必要とするため、高価なものにならざるを得ない、また蒸着膜とめっき膜の膜質の違いにより加工性が低下する。
【0008】
そのため、生産性の高い均質な膜を得るために1工程で数μmの金属膜厚を得ることができる技術が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−81592号公報
【特許文献2】特開2003−33994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記の問題に鑑み、好適には、多層配線板やPDP電磁波シールド材等に用いられるファインパターン加工用の極薄銅箔を得るための金属化フィルムを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、上記金属化フィルムから金属層を剥離して得られる金属箔、特に好適にはファインパターン用極薄金属箔を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の問題を解決するための本発明の金属化フィルムは下記の構成からなる。すなわち、
(1)少なくとも片面に剥離層を有する基材フィルムの該剥離層の上に厚さ0.1μm以上5μm以下の金属層を設けており、金属層の表面の結晶粒径の平均値が1μm以下である属化フィルムの製造方法であって、金属層が蒸着によって成膜されたものである金属化フィルムの製造方法
(2)(1)に記載の金属化フィルムの製造方法によって得られる金属化フィルムから金属層を剥離してなる金属箔の製造方法
ある。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明の金属化フィルムは、剥離層をもつフィルムを基材フィルムとしてその剥離層の上に、従来は圧延あるいはメッキあるいは蒸着後にメッキの工法で設けていた金属層を蒸着工程のみで金属層を設けるため、極めて生産性が高く、かつ膜厚全体に渡り均質な金属層を基材フィルム上に形成することができる。
【0014】
また、金属層の結晶粒径は蒸着方式や蒸着条件によって調整可能であり、本発明の結晶粒径に制御することで、金属膜に欠陥が少なく、機械的特性に優れた、金属層あるいは極薄金属箔を得ることが可能となり金属箔の微細加工精度を大幅に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の金属化フィルムの構成を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の金属化フィルムは、少なくとも片面に剥離層を有する基材フィルムの該剥離層の上に厚さ0.1μm以上5μm以下の金属層を設けており、金属層の表面の結晶粒径の平均値が1μm以下であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明において金属層の結晶粒径を制御する方法は特に限定されないが、成膜速度早く、ライン速度を高くすることが好ましい。ここで言う成膜速度とは単位時間当たりに形成できる金属層厚みのことであり、ライン速度とはフィルムの搬送速度である。例えばEB(Electon Beam)加熱方式の蒸着機でEBガン出力を上げて成膜することにより実現できる。
【0018】
本発明で用いられる基材フィルムを構成するプラスチックフィルムは、特に限定されないが、耐酸性、耐アルカリ性の良好な点から、特に、ポリエステルフィルム、または、ポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルム、または、ポリイミドフィルムが好適である。このプラスチックフィルムの厚さは、素材によっても異なるが、工程で容易にハンドリングするために5〜200μmが好ましい。特にポリエステルフィルムなどでは12〜150μmが好適である。
【0019】
本発明において、基材フィルムの少なくとも片面に剥離層が形成される。剥離層としては、通常シリコン系の離型層やフッ素系の剥離層が用いられるが、特に材質を限定するものではなく剥離層の上に金属が蒸着可能なものであればよい。本発明においては、剥離層としては、尿素樹脂、シリコン樹脂、セルロース樹脂、アクリル樹脂、または、ワックスのいずれかを含むコーティング剤を適用することができ、金属層の厚みや材質によって使い分けることも可能である。剥離層は、プラスチックフィルム上に好適にはコーティングで形成することができる。この剥離層の厚さは、好ましくは0.01〜3μm程度である。用途に応じては両面に剥離層を形成してもよいし、反対面に他の目的で他種のコート層を形成することもできる。
【0020】
本発明において、剥離層上に金属層が形成される。金属層は、蒸着により形成することが好ましいが、限定するものではない。金属層の厚さは、ファインパターン化が可能とするために0.1μm以上、5μm以下の範囲にすることが好ましい。特に近年のパターン精度向上の観点から0.3μm以上、3μm以下とすることが好ましい。
【0021】
本発明の金属化フィルムにおいて、剥離層の上に、形成された金属層の表面の結晶粒径の平均値が1μm以下である。結晶粒径の平均値が1μm超では金属層内部に粗大化した結晶粒に欠陥が発生し、金属層の機械的強度が低下するだけでなく、後工程で使用する薬液などが該欠陥を透過するため剥がれ不良などの問題が発生しやすい。また、薬品の透過性の観点から0.5μm以下がより好ましく、0.1μm以下がさらに好ましい。
【0022】
本発明における金属層は、高周波加熱方式、抵抗加熱方式、EB加熱方式などの一般的な真空蒸着法やスパッタ方式、イオンプレーティング方式による蒸着で金属層をフィルム上に作成することができる。
【0023】
本発明において、金属層に用いられる金属は、金、銅、アルミニウム、が電気伝導性を高くするために好ましく例示され、銅がより好ましい。
【0024】
本発明において、金属層は単層に限らず、防食、その他の目的で複数の金属を重ねても良く、また、防食層として、Au、Cr等の金属膜やSiOX等の無機膜、ポリシロキサン、シラザン、フッ素化合物等の有機膜を設けることも可能である。
本発明において、用途に応じては両面に剥離層を形成しさらに両面に金属層を形成することもできる。
【0025】
本発明の金属化フィルムから、上記金属層を剥離し、金属箔を得ることができる。金属箔は、ビルドアップ多層配線板やPDP電磁波シールド材、あるいは小型電子部品の電極等に用いられるファインパターン用極薄金属箔の製造に好適に使用することができる。
〔特性の測定方法および評価方法〕
平均結晶粒径
平均結晶粒径は、EBSD(Electron Backscattered Diffraction)法により、結晶粒径分布を測定し、算出した。日本電子社製 熱電界放射型走査電子顕微鏡(TFE-SEM)JSM-6500Fに、解析装置としてTSL社製 方位解析装置 DegiViewIVを用い、加速電圧15kV、照射電流1.0nA、試料傾斜70°とし測定倍率10000倍、測定領域1×9μm、25nm/stepにて測定した。
サンプルを5×10mmに切り出し、金属層の表面(基材フィルムの剥離層と接している界面の反対側、あるいは金属化フィルムから得られた金属箔においては剥離前に接していた面の反対側)を上記条件で測定した。得られた結晶粒マップの個々の結晶粒について、その円相当径(同一面積の円の直径)を算出し、数平均(円相当径の合算を粒子総数で割り返した平均値)を算出した。
【0026】
屈曲性試験方法
基材フィルムに剥離層および金属層が積層されている金属化フィルムの状態で、サンプルを、曲率(R)0.38、荷重500gにて繰り返し曲げを行い抵抗値が初期値の10倍以上になるまでの回数を測定した。300回以上を優良、100回以上300回未満を良好、100回未満を不良で表示した。
下記に示す条件にて耐屈曲性試験を行い屈曲回数の評価を行った。
信越化学エンジニアリング株式会社製FPC高速屈曲試験機SEK−31B2Sを用いてMIT耐折性試験を実施した。試験条件はJIS C 5016に準じた。
【実施例1】
【0027】
以下、本発明について実施例にて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)厚さ38μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、タイプ名T−60)に、グラビヤコート法でセルロース樹脂を1.0μmの厚さにコーティングし、剥離層をもつ基材フィルムを作成した。この基材フィルムのセルロース樹脂コート面に、成膜速度20μm/min、ライン速度40m/minで銅を0.5μmの厚さに (EB)加熱方式で真空蒸着した。得られた金属化フィルムの結晶粒径の平均値を確認したところ0.02μmであった。金属化フィルムの屈曲性を評価した結果は457回で優良であった。
【0029】
(実施例2)
厚さ38μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、タイプ名T−60)に、グラビヤコート法でセルロース樹脂を1.0μmの厚さにコーティングし、剥離層をもつ基材フィルムを作成した。この基材フィルムのセルロース樹脂コート面に、成膜速度10μm・m/min銅を0.5μmの厚さにEB加熱方式で真空蒸着した。得られた金属化フィルムの結晶粒径の平均値を確認したところ0.1μmであった。金属化フィルムの屈曲性を評価した結果は251回で良好であった。
【0030】
(実施例3)
厚さ38μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、タイプ名T−60)に、グラビヤコート法でセルロース樹脂を1.0μmの厚さにコーティングし、剥離層をもつ基材フィルムを作成した。この基材フィルムのセルロース樹脂コート面に、成膜速度20μm・m/min銅を1.0μmの厚さにEB加熱方式で真空蒸着した。得られた金属化フィルムの結晶粒径の平均値を確認したところ0.05μmであった。金属化フィルムの屈曲性を評価した結果は431回で優良であった。
【0031】
(実施例4)
厚さ38μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、タイプ名T−60)に、グラビヤコート法でセルロース樹脂を1.0μmの厚さにコーティングし、剥離層をもつ基材フィルムを作成した。この基材フィルムのセルロース樹脂コート面に、成膜速度10μm・m/min銅を1.0μmの厚さにEB加熱方式で真空蒸着した。得られた金属化フィルムの結晶粒径の平均値を確認したところ0.1μmであった。金属化フィルムの屈曲性を評価した結果は189回で良好であった。
【0032】
(実施例5)
厚さ38μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、タイプ名T−60)に、グラビヤコート法でセルロース樹脂を1.0μmの厚さにコーティングし、剥離層をもつ基材フィルムを作成した。この基材フィルムのセルロース樹脂コート面に、成膜速度30μm・m/min銅を4.0μmの厚さにEB加熱方式で真空蒸着した。得られた金属化フィルムの結晶粒径の平均値を確認したところ0.12μmであった。金属化フィルムの屈曲性を評価した結果は213回で優良であった。
【0033】
(実施例6)
厚さ38μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、タイプ名T−60)に、グラビヤコート法でセルロース樹脂を1.0μmの厚さにコーティングし、剥離層をもつ基材フィルムを作成した。この基材フィルムのセルロース樹脂コート面に、成膜速度20μm・m/min銅を4.0μmの厚さに抵抗加熱方式で真空蒸着した。得られた金属化フィルムの結晶粒径の平均値を確認したところ0.4μmであった。金属化フィルムの屈曲性を評価した結果は136回で良好であった。
【0034】
(比較例1)
厚さ38μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、タイプ名T−60)に、グラビヤコート法でセルロース樹脂を1.0μmの厚さにコーティングし、剥離層をもつ基材フィルムを作成した。この基材フィルムのセルロース樹脂コート面に、成膜速度5μm・m/minで銅を0.5μmの厚さにEB加熱方式で真空蒸着した。得られた金属化フィルムの結晶粒径の平均値を確認したところ2.0μmであった。金属化フィルムの屈曲性を評価した結果は57回で不良であった。
【0035】
(比較例2)
厚さ38μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、タイプ名T−60)に、グラビヤコート法でセルロース樹脂を1.0μmの厚さにコーティングし、剥離層をもつ基材フィルムを作成した。この基材フィルムのセルロース樹脂コート面に、成膜速度5μm・m/minで銅を1.0μmの厚さにEB加熱方式で真空蒸着した。得られた金属化フィルムの結晶粒径の平均値を確認したところ3.5μmであった。金属化フィルムの屈曲性を評価した結果は45回で不良であった。
【0036】
(比較例3)
厚さ38μmの2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、タイプ名T−60)に、グラビヤコート法でセルロース樹脂を1.0μmの厚さにコーティングし、剥離層をもつ基材フィルムを作成した。この基材フィルムのセルロース樹脂コート面に、膜速度5μm・m/minで銅を4.0μmの厚さに抵抗加熱方式で真空蒸着した。得られた金属化フィルムの結晶粒径の平均値を確認したところ1.5μmであった。金属化フィルムの屈曲性を評価した結果は55回で不良であった。
【0037】
【表1】
【符号の説明】
【0038】
(1) 金属層
(2) 剥離層
(3) 基材フィルム
図1