特許第5938829号(P5938829)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938829
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】可撓性複合シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20160609BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20160609BHJP
   D06N 7/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   B32B27/12
   B32B27/20 Z
   D06N7/00
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-125581(P2012-125581)
(22)【出願日】2012年6月1日
(65)【公開番号】特開2013-248817(P2013-248817A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000239862
【氏名又は名称】平岡織染株式会社
(72)【発明者】
【氏名】狩野 俊也
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−298875(JP,A)
【文献】 特開2006−011276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00〜43/00
D06N1/00〜 7/06
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維織物を基布として、その1面以上に無機粒子を33質量%以上含んでなる無機粒子充填層を有し、さらにこの無機粒子充填層上を被覆する熱可塑性樹脂保護層とが設けられた積層体であって、前記無機粒子充填層と前記熱可塑性樹脂保護層との層間に起毛不織布による接着性不織布層を介在することを特徴とする可撓性複合シート。
【請求項2】
前記無機粒子が、タングステン、三酸化タングステン、モリブデン、三酸化モリブデン、三酸化アンチモン、二酸化ジルコニウム、二酸化亜鉛、二酸化鉄、二酸化チタン、及び硫酸バリウムから選ばれた1種以上である請求項1に記載の可撓性複合シート。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂保護層が、前記無機粒子充填層の厚みに対して10〜45%の厚みで形成されている請求項1または2に記載の可撓性複合シート。
【請求項4】
前記接着性不織布層の目付が、20〜100g/mである請求項1〜3の何れか1項に記載の可撓性複合シート。
【請求項5】
前記繊維織物が、タングステン線、ステンレス線、または炭素繊維を芯材としてホウ素で表面被覆してなるボロン繊維を含む織物、またはホウ素で表面被覆処理された織物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の可撓性複合シート。
【請求項6】
前記無機粒子充填層が、ポリエチレンゲル、シリコーンゲル、及びデンドリマー水和ゲルから選ばれたいずれか1種の高分子ゲル物質を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の可撓性複合シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防音性(音響減衰性)、遮熱性(放熱性)、電磁波シールド性の遮蔽特性を併合するフレキシブルな産業資材シートに関するものである。更に詳しく述べるならば本発明は、建築現場や、解体工事の張囲いやテント構造物に用いられる防音シート、及び工場内の間仕切り防音シートで遮熱機能を兼備するもの、さらに電磁波シールド効果を附帯するもの、また、機械や車両の騒音防止カバーで放熱機能を兼備するもの、さらに電磁波シールド効果を附帯するものなど、特定の金属化合物を多量に含有して含むフレキシブルで耐屈曲性に優れた多機能な産業資材シートに関する。
【背景技術】
【0002】
エラストマー、熱可塑性樹脂などに多量のフィラー類を含有させたシートとして、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂100重量部、可塑剤10重量部以上、及び粒径5mm以下の無機質充填剤50〜1500重量部から成る防音材(特許文献1)また、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、粉末充填剤80〜500重量部を混合した遮音シート。(特許文献2)また樹脂成分又はゴム成分を主成分とするバインダー成分、高比重充填剤及び吸音性充填剤からなる制振遮音シート。(特許文献3)熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーに対して、硫酸バリウムを75質量%以上で含む放射線遮蔽用シート(特許文献4)などが開示されている。
【0003】
特許文献1〜4に開示されるシートは、樹脂成分又はゴム成分などの柔軟成分をバインダー成分として含有することで、フィラー類を多量充填した場合にもシートの曲げに対する柔軟性付与や取り扱い性の向上に有効に作用するものである。しかしながら、これらのシートでも、過度の折り曲げによってフィラー粒子とバインダー成分との密着界面が乖離し、その隙間が光学散乱となって見た目の悪い白化を引き起こしたり、また、フィラー類を多量充填することでシートの表面強度が脆く、そのためチョーク痕が付き易く、さらには摩耗劣化を引き起こすなど実用面での耐久性改善の課題を潜在していた。
【0004】
一方、床材では、非ハロゲン系熱可塑性ポリマー100重量部に対して、無機質充填材を60〜400重量部含む層と、その表面に樹脂フィルムを設けた非ハロゲン系床材。(特許文献5)ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、特定形状の軽質炭酸カルシウム50〜300重量部を添加してなる層にショアーA硬度80以上のポリ塩化ビニル系樹脂表層を積層した耐動荷重性床材。(特許文献6)樹脂100重量部に対して100〜400重量部の充填剤を含有する中間層上に、オレフィン系樹脂やポリプロピレン樹脂による最表層が設けられたノンハロゲン系床材(特許文献7)が開示されている。
【0005】
特許文献5〜7に開示される床材は何れも充填剤含有層の表面に、表皮樹脂層を積層したもので、この方法によって充填剤含有層の摩耗劣化を改善しようとするものである。このような表皮樹脂層の積層法として、特許文献には接着剤による方法や熱溶融による方法などが開示されているが、この方法で得られる床材は充填剤含有量が多い程、接着に寄与する樹脂成分露出量が少なくなるため、見掛け上は積層が良好に実行されていても積層界面の接着力が始めから低レベルとなり、それにより充填剤含有層と表皮樹脂層とが容易に剥れたり、屈曲疲労によるシート本体の亀裂、断裂破壊を生じるなど耐久性面での不安要素を内在するものである。
【0006】
従って防音性(音響減衰性)、遮熱性(放熱性)、電磁波シールド性などの遮蔽特性を有する、フィラー高充填シートにおいて、シート表面におけるチョーク痕、摩耗劣化の対策として表皮樹脂層を積層してなるシートであって、充填剤含有層と表皮樹脂層との積層界面の接着力が飛躍的に向上すれば、充填剤含有層と表皮樹脂層とが剥れ難くなり、さらには屈曲疲労に対する耐性を増すことで、シート本体の亀裂や断裂破壊を生じ難くなるなど耐久性面での不安要素が解消されるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−286080号公報
【特許文献2】特開2002−46233号公報
【特許文献3】特開平11−6234号公報
【特許文献4】特開2007−212304号公報
【特許文献5】特開2004−137757号公報
【特許文献6】特開2008−285874号公報
【特許文献7】特開2002−52654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、建築現場や、解体工事の張囲いやテント構造物に用いられる防音シート、及び工場内の間仕切り防音シート、機械や車両の騒音防止カバーなどに用いる産業用積層体であって、使用時の屈曲や折り曲げストレスによる層間剥離を起し難く、さらには産業用積層体本体の亀裂や断裂破壊を生じ難い、繰り返しの実用耐久性に優れたフレキシブルシートであって、防音性(音響減衰性)に加え、遮熱性(放熱性)と電磁波シールド性を兼備する多機能産業資材シートの提供をしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、フィラー高充填積層体について研究、検討を重ねた結果、繊維織物を基布として、その1面以上に無機粒子充填層を有し、さらにこの無機粒子充填層上を被覆する熱可塑性樹脂保護層とが設けられた積層体として、無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層との層間に接着性不織布層を介在して得られたシートが、屈曲や折り曲げストレスによる層間剥離を起し難く、さらにはシート本体の亀裂や断裂破壊を生じ難いなど、繰り返しの実用耐久性に優れていることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明の可撓性複合シートは、繊維織物を基布として、その1面以上に無機粒子を33質量%以上含んでなる無機粒子充填層を有し、さらにこの無機粒子充填層上を被覆する熱可塑性樹脂保護層とが設けられた積層体であって、前記無機粒子充填層と前記熱可塑性樹脂保護層との層間に起毛不織布による接着性不織布層を介在することが好ましい。このような構成とすることで、屈曲や折り曲げストレスによる層間剥離を起し難く、さらにはシート本体の亀裂や断裂破壊を生じ難いなど、実用耐久性に優れた多機能産業資材シートとなる。
【0011】
本発明の可撓性複合シートは、前記無機粒子充填層が、無機粒子を33質量%以上含んでいることが好ましい。このような構成とすることで防音性(音響減衰性)に加え、遮熱性(放熱性)と電磁波シールド性を兼備する多機能産業資材シートを得ることを可能とする。
【0012】
本発明の可撓性複合シートは、前記無機粒子が、タングステン、三酸化タングステン、モリブデン、三酸化モリブデン、三酸化アンチモン、二酸化ジルコニウム、二酸化亜鉛、二酸化鉄、二酸化チタン、及び硫酸バリウムから選ばれた1種以上であることが好ましい。このような材料を用いることで防音性(音響減衰性)に加え、遮熱性(放熱性)と電磁波シールド性を兼備する多機能産業資材シートを得ることを可能とする。
【0013】
本発明の可撓性複合シートは、前記熱可塑性樹脂保護層が、前記無機粒子充填層の厚みに対して10〜45%の厚みで形成されていることが好ましい。このような構成とすることで、屈曲や折り曲げストレスによる層間剥離を起し難く、さらにはシート本体の亀裂や断裂破壊を生じ難いなど、実用耐久性に優れた多機能産業資材シートとなる。
【0014】
本発明の可撓性複合シートは、前記接着性不織布層が、目付20〜100g/mの、起毛不織布、または芯鞘不織布であることが好ましい。このような構成とすることで、屈曲や折り曲げストレスによる層間剥離を起し難く、さらにはシート本体の亀裂や断裂破壊を生じ難いなど、実用耐久性に優れた多機能産業資材シートとなる。
【0015】
本発明の可撓性複合シートは、前記繊維織物が、タングステン線、ステンレス線、または炭素繊維を芯材としてホウ素で表面被覆してなるボロン繊維を含む織物、またはホウ素で表面被覆処理された織物であることが好ましい。このような材料を用いることで防音性(音響減衰性)に加え、遮熱性と電磁波シールド性を兼備する多機能産業資材シートを得ることを可能とする。
【0016】
本発明の可撓性複合シートは、前記無機粒子充填層が、ポリエチレンゲル、シリコーンゲル、及びデンドリマー水和ゲルから選ばれたいずれか1種の高分子ゲル物質を含有することが好ましい。このような材料を用いることで、屈曲や折り曲げストレスによる層間剥離を起し難く、さらにはシート本体の亀裂や断裂破壊を生じ難いなど、実用耐久性に優れた多機能産業資材シートとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の可撓性複合シートによると、屈曲や折り曲げストレスによる層間剥離を起し難く、さらにはシート本体の亀裂や断裂破壊を生じ難いなど、実用耐久性に優れているので、防音性(音響減衰性)、遮熱性、電磁波シールド性になどの効果発揮に対する部分的欠損を生じたり、またシート本体の屈曲疲労破壊を生じる心配がないため、建築現場や、解体工事の張囲いやテント構造物に用いられる防音シート、及び工場内の間仕切り防音シート、機械や車両の騒音防止カバーなどに用いることにより、防音性(音響減衰性)、遮熱性(放熱性)、電磁波シールド性の機能を長期間安定して発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の可撓性複合シートの一例を示す断面図
図2】本発明の可撓性複合シートの一例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の可撓性複合シートは、繊維織物を基布として、その1面以上に無機粒子充填層を有し、さらにこの無機粒子充填層上を被覆する熱可塑性樹脂保護層とが設けられた積層体であって、無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層との層間に、目付20〜100g/mの起毛不織布、または芯鞘不織布からなる接着性不織布層を介在し、無機粒子充填層が、タングステン、三酸化タングステン、モリブデン、三酸化モリブデン、三酸化アンチモン、二酸化ジルコニウム、二酸化亜鉛、二酸化鉄、二酸化チタン、及び硫酸バリウムから選ばれた1種以上の無機粒子を33質量%以上含み、熱可塑性樹脂保護層の厚みが、無機粒子充填層の厚みに対して10〜45%で形成されている。本発明の可撓性複合シートが繊維織物からなる基布を有することで、シートの引張強度、引裂強度、屈曲強さ、寸法安定性を増すことで産業資材用途への利用展開を広げることを可能とする。
【0020】
本発明の可撓性複合シートに用いる基布を構成する繊維糸条は、モノフィラメント、マルチフィラメント、短繊維紡績糸条の態様が挙げられ、これらはケナフ繊維、コットン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、芳香族ポリマー繊維、芳香族ヘテロ環ポリマー繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、バサルト繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、炭素繊維、ステンレス繊維など、及びこれらの混紡繊維が挙げられる。本発明に用いる繊維織物は、フィラメント数30〜300本、繊度138〜2223dtex(デシテックス)、好ましくは277〜1112dtexのマルチフィラメント糸条繊維(特にPET繊維、ガラス繊維)により、1インチ当たり特定の打ち込み本数で製織された織物が汎用的に使用できるが、特に電磁波シールド用シートに用いる場合には、ボロン繊維、ステンレス繊維を使用することが遮蔽効果向上の観点で好ましい。ボロン繊維はタングステン線、ステンレス線、炭素繊維などを芯材としてホウ素で表面被覆した複合繊維が好ましい。またホウ素で表面被覆された織物であってもよい。これらホウ素による表面被覆は電磁波のシールド・減衰効果に優れ、これらは例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学的蒸着法など公知の蒸着法によって実施することができる。
【0021】
本発明の可撓性複合シートに用いる基布としての繊維織物は、織布、編布、不織布の何れであってもよい。織布は、平織、綾織、繻子織、模紗織など公知の織布が挙げられるが、中でも平織織布が、得られる可撓性複合シートの経緯強度及び伸張バランスが同等となり好ましい。織布は経糸及び緯糸で織製され、糸条間隙を均等において平行に配置した経糸、及び緯糸を含んで構成された空隙率5〜50%の目空き織布(糸条打込本数5〜30本/inch)、または空隙率5%未満の非目空き織布(糸条打込本数30〜100本/inch)であり、厚さには特に制限はない。目空き織布は無機粒子充填層の熱ラミネート用、または接着用基布に適し、非目空き布は液状の、無機粒子充填層高分子物質による含浸加工、またはホットメルト塗布加工用基布に適している。またこれら繊維織物には屋外使用の際、シート断面からの雨水の浸入を防止するための公知の撥水処理、また、着炎時に自己消火性を付与するための公知の防炎処理、無機粒子充填層と繊維織物との密着性を付与するための接着処理を施すこともできる。特に、ボロン繊維(特にタングステン線をホウ素で被覆したもの)、ステンレス繊維を使用した空隙率0%の非目空き織布(糸条打込本数30〜100本/inch)を用いることが電磁波シールド・減衰性を補助する効果に優れ好ましい。
【0022】
本発明の可撓性複合シートの無機粒子充填層は上記繊維織物を基布として、その1面以上に積層して、繊維織物全面を被覆するようにして設けられた層であり、無機粒子充填層は、熱可塑性樹脂と無機粒子との質量比1:5〜1:40、好ましくは質量比1:10〜1:35のバランスで含むように調製されたものである。例えば熱可塑性樹脂と無機粒子との質量比が1:10の場合、無機粒子充填層に含有する無機粒子含有率は91質量%、熱可塑性樹脂と無機粒子との質量比が1:40の場合、無機粒子充填層に含有する無機粒子含有率は97質量%となるが、無機粒子充填層に含有する無機粒子は比重4.0以上に限定するため、無機粒子充填層に占める体積占有率としては熱可塑性樹脂と無機粒子との質量比1:10の場合、無機粒子充填層に占める無機粒子占有率は71.4体積%以下、同様に熱可塑性樹脂と無機粒子との質量比1:40の場合、無機粒子充填層に占める無機粒子占有率は90.9体積%以下である。無機粒子の質量比が1(熱可塑性樹脂):40(無機粒子)を越えると、得られるシートの無機粒子充填層の耐屈曲性や耐摩耗性などの耐久性を極めて悪くする。また、無機粒子の質量比が1(熱可塑性樹脂):5(無機粒子)未満だと得られるシートにおいて、防音性(音響減衰性)、遮熱性(放熱性)、電磁波シールド性・減衰性など各種遮蔽効果が不十分となることがある。
【0023】
本発明において無機粒子充填層に含有する無機粒子としては、タングステン(比重19.25)、三酸化タングステン(比重7.16)、モリブデン(比重10.28)、三酸化モリブデン(比重4.69)、三酸化アンチモン(比重5.2)、二酸化ジルコニウム(比重5.69)、二酸化亜鉛(比重5.6)、二酸化鉄(比重5.2)、二酸化チタン(比重4.29)及び硫酸バリウム(比重4.45)から選ばれた1種以上で、これらの平均粒子径が0.01〜10μm、特に0.1〜3μmの範囲内にある無機粒子を高充填することが好ましい。特にタングステン、三酸化タングステン、モリブデン、三酸化モリブデンは強い暗色着色を伴うため、必要に応じてカーボンブラックなどの黒色顔料を配合して黒着色したもので使用することが好ましい。本発明の可撓性複合シートを白色で使用する場合には、三酸化アンチモン、二酸化ジルコニウム、二酸化亜鉛、二酸化チタン、硫酸バリウムなどの組み合わせにより、そのままの使用、また任意の着色を所望の場合は、公知の無機顔料、及び有機顔料からの選択によりパステルカラー着色を施すことができる。
【0024】
本発明において無機粒子充填層に含有する熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂およびエラストマーにより形成される組成物であり、これらは例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合体樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂(PE,PP)、オレフィン系共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合体樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合体樹脂、ポリエステル樹脂(PET,PEN,PBTなど)、ポリエステル系共重合体樹脂、フッ素含有共重合体樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート、ポリアミドなどであり、これらにはウレタンゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、クロルスルホン化ポリエチレン、SBR、EPDM、EPMなどの熱可塑性ゴムをブレンドして補助成分として含んでいてもよい。特に塩化ビニル樹脂の場合、可塑剤を配合した軟質塩化ビニル樹脂組成物が好ましい。本発明の可撓性複合シートの無機粒子充填層には、安定剤、フィラー、着色剤、顔料、光輝性顔料、難燃剤、防炎剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防黴剤、抗菌剤、帯電防止剤、架橋剤などの公知の添加剤を任意に用いることができる。
【0025】
一方で本発明において無機粒子充填層は高分子ゲル物質により構成されていてもよい。この場合の無機粒子充填層は、高分子ゲル物質と無機粒子との質量比1:5〜1:40、好ましくは質量比1:10〜1:35のバランスで含むように調製されたものである。高分子ゲル物質としては、ポリエチレンゲル、シリコーンゲル、及びデンドリマー水和ゲルから選ばれたいずれか1種の粘弾性体である。高分子ゲル物質は、日本ゴム協会標準規格(SRIS/0101)によるアスカーC硬度が4〜30、好ましくは、4〜22の粘弾性体である。また高分子ゲル物質は日本工業規格(JIS K2207)による針侵入度での硬度(1/10mm)が50〜300、好ましくは100〜200の粘弾性体である。これらの高分子ゲル物質の粘着力は、JIS Z0237において20〜50N/10mmを有する粘弾性体が好ましい。このような粘弾性体の高分子ゲル物質を無機粒子充填層に含有することで無機粒子の担持性が高くなり、屈曲や折り曲げストレスによる層間剥離を起し難く、さらには積層体本体の亀裂や断裂破壊を生じ難いなど、繰り返しの実用耐久性に優れたフレキシブルシートとすることができる。
【0026】
ポリエチレンゲル粘弾性体は、エチレン系共重合体樹脂として、エチレンモノマーと炭素数3〜18のα−オレフィンモノマーとを共重合して得られるエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂であり、好ましいα−オレフィンとして、プロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1,ヘキセン−1、ヘプテン−1,オクテン−1、ノネン−1,デセン−1、テトラデセン−1、ヘキサデセン−1、ヘプタデセン−1,オクタデセン−1などが挙げられ、これらを複数種用いた共重合、あるいはアクリル酸、メタアクリル酸などの不飽和カルボン酸、及びそれらのエステル化物や酸無水物などの反応性モノマーとの共重合体である。ポリエチレンゲル粘弾性体は、これらのエチレン系共重合体樹脂に対して5〜30質量%の可塑剤を含有して保持してなる日本ゴム協会標準規格(SRIS/0101)によるアスカーC硬度が4〜30を有するものである。このときエチレン系共重合体樹脂は分子の絡み合いによる立体網目構造を形成し、この立体網目の間に可塑剤が担持されている。またエチレン系共重合体樹脂として、エチレンモノマーとスチレンモノマーとのランダム共重合体を主体とするものであってもよい。エチレン系共重合体樹脂に併用する可塑剤としては、流動パラフィン、鉱物油、プロセスオイル、エキステンダオイル、ブチルベンジルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソノニルフタレートなどのフタル酸系可塑剤、大豆油などの公知のゴム用可塑剤が挙げられるが、プロセスオイルが特に好ましい。プロセスオイルはパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、芳香族系鉱油のいずれか1種またはこれらのブレンド組成物である。ポリエチレンゲルは上記のエチレン系共重合体樹脂と可塑剤とを125〜200℃の加熱状態で剪断を掛けて混練することで可塑剤を担持する立体網目構造を調製することができる。
【0027】
本発明において無機粒子充填層に含有する高分子ゲル物質としてのシリコーンゲル粘弾性体は具体的に、式RSi(OR´)で示される化合物と式RSi(OR´)で示される化合物とにより、式RSi(OR´)で示される化合物に対する式RSi(OR´)で示される化合物のモル比が0.01〜0.5の反応によって得られる日本ゴム協会標準規格(SRIS/0101)によるアスカーC硬度4〜30を有するポリシロキサンゲルで、シロキサンゲルゲルが立体網目構造を形成し、この立体網目構造の間にシリコーンオイルが担持されたもので、特にポリジメチルシロキサンゲル、ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサンゲル、ポリフェニルメチルシロキサンゲルなどから選ばれた1種以上のシロキサンゲルとシリコーンオイルで構成された粘弾性体が特に好ましい。Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜5個のアルキル基で、特にRはメチル基、エチル基、プロピル基、又はフェニル基(アルキル基で置換されていてもよい)であり、これらのアルキル基及びフェニル基はその水素原子がフッ素原子により置換されたものでもよい。またR´はそれぞれ独立して、炭素数1〜20個のアルキル基で、特にメチル基、エチル基、プロピル基、又は水素原子であることが好ましい。式R Si(OR´)で示される化合物としては、好ましくはジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等であり、式RSi(OR´)で示される化合物としては、好ましくはモノメチルトリエトキシシラン、モノメチルトリメトキシシランなどである。シリコーンオイルは、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル及びエポキシ変性シリコーンオイルより成る群から選ばれた1種以上であり、シロキサンゲルに対して5〜30質量%のシリコーンオイルを含有して保持するものである。シリコーンゲルはシロキサンゲルとシリコーンオイルとを125〜200℃の加熱状態で剪断を掛けて混練することでシリコーンオイルを担持する立体網目構造を調製することができる。
【0028】
本発明において無機粒子充填層に含有する高分子ゲル物質としてのデンドリマー水和ゲル粘弾性体は、カチオン性デンドリマー、層状粘土化合物、親水性ポリマーとの反応物からなる、日本ゴム協会標準規格(SRIS/0101)によるアスカーC硬度が4〜30を有する立体網目架橋体であり、この網目の間に水が担持されているものである。デンドリマー水和ゲルは具体的に、カチオン性デンドリマーとしてグアニジン基を両末端に多数有してなるデンドロン化高分子(0.1〜1質量%)、層状粘土化合物としてナノサイズの層状ケイ酸塩化合物(1〜5質量%)、親水性ポリマーとしてポリアクリル酸ナトリウム(1〜5質量%)、水(90質量%以上)の構成によるゲル状生成物であり、水中でポリアクリル酸ナトリウムの作用により単層に剥離して表面積を増したケイ酸塩化合物ナノ粒子を介在してグアニジン基両末端に多数有してなるデンドロン化高分子による水を担持する立体網目架橋体を形成するものである。
【0029】
本発明において無機粒子充填層の厚さは、0.1mm〜3.0mm、特に0.2mm〜1.0mmであることが好ましく、例えば0.5mmのカレンダー法(またはTダイス法)によるフィルム(またはシート)を4枚積層してなる厚さ2.0mmの複数層からなる無機粒子充填層などであってもよい。また無機粒子充填層は、コーティング法(例えばナイフコート法またはクリアランスコート法)により所望の厚さに形成されたものであってもよい。また本発明において無機粒子充填層は基布の両面に設けられていることが得られるシートの耐久性の観点で好ましい。従って本発明の可撓性複合シートに占める無機粒子充填層の好ましい厚さ範囲は表裏合計として0.2mm〜6.0mm、特に0.4mm〜2.0mmである。無機粒子充填層表裏合計の厚さが0.2mm未満だと得られるシートにおいて、防音(音響減衰)性、遮熱性(放熱性)、電磁波シールド性・減衰性などの効果が十分に得られないことがある。また、無機粒子充填層表裏合計の厚さが6.0mmを越えれば防音(音響減衰)性、遮熱性(放熱性)、電磁波シールド性・減衰性などの効果はより良好となるが、それだとシートが重過ぎて取り扱い性が悪くコスト増にもなる。
【0030】
本発明において無機粒子充填層の上には熱可塑性樹脂保護層が設けられ、この熱可塑性樹脂保護層は、無機粒子充填層を摩耗劣化から守り、本発明の可撓性複合シートの亀裂や断裂破壊を生じ難くするために不可欠であり、熱可塑性樹脂保護層には無機粒子を全く含有しないか、無機粒子を含有してもその含有量は熱可塑性樹脂保護層の質量全体に対して30質量%以下であり、さらに熱可塑性樹脂保護層の厚さは、下地の無機粒子充填層の厚みに対して10〜45%の厚み範囲内で形成されたカレンダーフィルム(シート)、Tダイスフィルム(シート)、またはコーティング層のいずれかであることが好ましい。このとき、無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層との層間には接着性不織布層を介在して無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層を積層することが不可欠である。熱可塑性樹脂保護層を形成する熱可塑性樹脂は、無機粒子充填層に用いた熱可塑性樹脂と同一または同種であることが好ましいが、特に異種の熱可塑性樹脂で構成されていてもよい。特に無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層との層間に接着性不織布層を介在する本発明の態様においては、非相溶の熱可塑性樹脂同士の組み合わせ、例えば軟質塩化ビニル樹脂組成物と低密度ポリエチレン樹脂との組み合わせでも容易に可能である。このような組み合わせでは通常はこれらのフィルムやシート同士を熱溶融法や高周波法で積層しても接着阻害で界面剥離してしまうが、本発明の態様においては例えば軟質塩化ビニル樹脂組成物フィルム(シート)が接着性不織布層の裏面に接着し、低密度ポリエチレン樹脂フィルム(シート)が接着性不織布層の表面に接着することで互いのフィルムが直接接触することはないので接着阻害の問題が生じない。従って無機粒子充填層を構成する熱可塑性樹脂には無機粒子を高充填しても柔軟性を維持するために伸び率が400〜1000%の樹脂を選択し、熱可塑性樹脂保護層を構成する熱可塑性樹脂には耐摩耗を付与するためにショアD硬度80〜95程度の樹脂を選択するような態様が本発明の可撓性複合シートにおいて好ましい。
【0031】
本発明において熱可塑性樹脂保護層には、タングステン、三酸化タングステン、モリブデン、三酸化モリブデン、三酸化アンチモン、二酸化ジルコニウム、二酸化亜鉛、二酸化鉄、二酸化チタン、及び硫酸バリウムから選ばれた1種以上の無機粒子を熱可塑性樹脂保護層の質量に対して0〜30質量%の範囲で含むことができる。無機粒子の含有量が30質量%を越えると熱可塑性樹脂保護層の耐摩耗性を悪くすることがある。熱可塑性樹脂保護層を構成する熱可塑性樹脂のうち、特に高周波溶着性を有する塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合体樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合体樹脂、及びフッ素含有共重合体樹脂から選ばれた1種以上を高周波溶着性付与成分として、熱可塑性樹脂保護層を構成する熱可塑性樹脂の50質量%以上占有することが好ましい。本発明において無機粒子充填層は基布の両面に設ける態様が好ましいので、熱可塑性樹脂保護層も表裏に最外層として設けることが好ましい。このような本発明のシート同士の継ぎ合わせには、シート端部の重ね合わせ部を高周波溶着することで実施可能とする。
【0032】
熱可塑性樹脂保護層には、滑剤、ワックス、及び界面活性剤から選ばれた1種以上を熱可塑性樹脂保護層の質量に対して0.01〜1質量%濃度で含有することができる。この処方により、熱可塑性樹脂保護層の表面に滑剤、ワックス、界面活性剤などが経時的に析出することで、熱可塑性樹脂保護層の表面の滑り性が向上することでスリ傷やチョークマークが付き難くなる。滑剤として、ステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイドなどの公知の脂肪酸アマイド系化合物、及びモンタン酸エステル、またステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、モンタン酸リチウムなどの金属石鹸化合物、ワックスとして、流動パラフィン、パラフィンワックス、酸化ポリエチレンワックスなどの公知の炭化水素系化合物及びシリコーンワックス、シリコーンレジンパウダー、界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩などの公知の陰イオン性化合物、及びアルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩などの公知の陽イオン性化合物、及びアルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタインなどの公知の両イオン性化合物、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルモノグリセリルエーテルなどの公知の非イオン性化合物などが挙げられる。
【0033】
本発明の可撓性複合シートにおいて、無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層との間に介在する接着性不織布層として用いる不織布としては、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ビニロン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、アクリロニトリル樹脂などの熱可塑性樹脂を原料として、スパンボンド法紡糸あるいはメルトブローン法紡糸によってウエブ化したものをケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、サーマルボンド法などのいずれかの方法により成形された、目付20〜100g/mの、起毛不織布、または芯鞘不織布であることが好ましい。不織布の目付が20g/m未満だと、無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層との接着効果が不十分となることがあり、また目付が100g/mを越えても無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層との接着効果が相応して得られないことがある。すなわち本発明の可撓性複合シートにおいて、無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層との接着力は不織布本体の凝集破壊強度に依存するものである。従って、無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層は個々に不織布と良好に接着している必要があり、そのためには不織布表面が毛羽立った起毛不織布であることが必須であり、この毛羽が錨となり、熱プレスによって、無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層それぞれの層内に毛羽が取り込まれることで投錨効果が完成する。このような起毛不織布は、短繊維による不織布構成、不織布の低圧成形、不織布表面ブラッシングなどによって得られた手触り感が和紙やティッシュペーパー調のものである。また、起毛とは、産毛状のもの、または繊維と繊維との絡み合いが微細なすき間を形成するもの、ほつれたものなどを包含する。従って本発明において不織布表面の手触り感がツルツルしたものは適しておらず、このような手触り感の無い不織布の場合は芯鞘繊維からなる不織布であればよい。芯鞘不織布は例えば、芯がポリエステル、鞘が低密度ポリエチレンの2層構造からなる繊維からなる不織布、芯がポリエステル、鞘がナイロンの2層構造からなる繊維からなる不織布などである。前者は無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層とを構成する熱可塑性樹脂が低密度ポリエチレンやエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂などの場合に効果的であり、後者はポリウレタンの場合に効果的である。芯鞘不織布は表面が毛羽立った起毛不織布であってもよい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)〈無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層との接着性〉
JIS L1096 8.14項 引張強さに準拠し、シート1インチ幅×20cm長の短冊試験片の無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層とを2cm剥がし、剥がし部分を掴み部分として、剥離速度50mm/minで剥離強度を求め、これを無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層との接着力とした。
(2)〈シートの耐屈曲性〉
JIS L1096 8.19項 摩耗強さB法(スコット法)により、1kgf荷重100回、300回、500回での、無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層の剥離の有無を評価した。
1:剥離なし
2:剥離を認める
(3)遮熱性の評価
JIS K5602「塗膜の日射反射率の求め方」に準拠し、日射反射率(%)=[塗膜からの反射光の総量]×100/[塗膜表面に入射した太陽光の総量]を求め、数値が高いほど遮熱性に優れるものと判定した。
(4)防音性(音響減衰性)の評価
JIS A1416「実験室における音響透過損失測定法」による、中心周波数500Hz,1000Hz,2000Hzの音響透過損失により評価した。
(5)電磁波遮蔽の評価
100MHzの電磁波に対するシールド効果、及び1018Hzの電磁波に対するシールド効果をKEC法(関西電子工業振興センター法)によって測定した。シールド効果(SE)は、SE(dB)=20logE1−20logE2で表され、式中、E1は試料が存在しないときの電界強度、E2は試料が存在するときの電界強度である。
【0035】
[実施例1]
1).ポリエステル(PET)製555dtexのマルチフィラメントを用いた平織物(比重:タテ(経糸)23本/インチ×ヨコ(緯糸)25本/インチ:質量105g/m:目抜度24%)を基布として、この平織物の表面と裏面それぞれに、下記の軟質塩化ビニル配合組成物〈配合1〉からなる厚さ0.25mmの無機粒子充填層用シート(170℃の熱条件でカレンダー成形)を170℃設定のラミネート加工機で熱圧着してブリッジ積層し、厚さ0.6mm、質量1773g/mの白色の繊維基布複合シートを得た。無機粒子充填層には無機粒子として硫酸バリウムを65質量%含有するものである。
〈配合1:軟質塩化ビニル樹脂配合組成物〉
塩化ビニル樹脂(重合度1050) 100質量部
硫酸バリウム(比重4.45、平均粒子径0.8μm) 350質量部
DOP(可塑剤) 70質量部
三酸化アンチモン(防炎剤) 15質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 4質量部
Ba−Zn(安定剤) 2質量部
ステアリン酸カルシウム(滑剤) 0.2質量部
2).次に、熱可塑性樹脂保護層として下記の軟質塩化ビニル樹脂配合組成物〈配合2〉からなる厚さ0.1mmで白色の熱可塑性樹脂保護層用シートを170℃の熱条件でカレンダー成形した。
〈配合2:軟質塩化ビニル樹脂配合組成物〉
塩化ビニル樹脂(重合度1050) 100質量部
二酸化チタン(比重4.29、平均粒子径1μm) 20質量部
DOP(可塑剤) 50質量部
三酸化アンチモン(防炎剤) 15質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 4質量部
Ba−Zn(安定剤) 2質量部
ステアリン酸カルシウム(滑剤) 0.2質量部
3).次に、目付量55g/mのナイロン製起毛不織布を、1)で得た繊維基布複合シートの表面と裏面に配置し、さらに表裏に配置した起毛不織布上に、2)で得た熱可塑性樹脂保護層用シートが覆うように配置し、この配置状態で170℃設定のラミネート機を通過させ、熱圧着積層して、厚さ0.92mm、質量2550g/mの白色の可撓性複合シートを得た。
【0036】
[実施例2]
実施例1の1)において、無機粒子充填層用シートを下記のポリエチレンゲル配合組成物〈配合3〉に変更した以外は実施例1の1)〜3)の手順と同様にして厚さ0.92mm、質量2727g/mの白色の可撓性複合シートを得た。
〈配合3:ポリエチレンゲル配合組成物〉
ポリエチレンゲルとして、商品名:コスモスーパーゲル(品番:HC04N:エチレン−スチレン共重合体樹脂100質量部と流動パラフィン10〜20質量部の混合物:日本ゴム協会標準規格(SRIS/0101)アスカーC硬度4〜5:反発弾性率21%:伸び率1300%〜:コスモ計器株式会社製)100質量部に対し、硫酸バリウム(比重4.45、平均粒子径0.8μm)500質量部を155℃でカレンダー成形し、厚さ0.25mmのポリエチレンゲルシートを得た。無機粒子充填層となるポリエチレンゲルシートには無機粒子として硫酸バリウムを83質量%含有するもので、その質量は923g/mである。
【0037】
[参考例1]
1).ポリエステル(PET)製555dtexのマルチフィラメントを用いた平織物(比重:タテ(経糸)23本/インチ×ヨコ(緯糸)25本/インチ:質量105g/m:目抜度24%)を基布として、この平織物の表面と裏面それぞれに、下記の低密度ポリエチレン樹脂配合組成物〈配合4〉からなる厚さ0.25mmの無機粒子充填層用シート(130℃の熱条件でカレンダー成形)を140℃設定のラミネート加工機で熱圧着してブリッジ積層し、厚さ0.6mm、質量1840g/m2の白色の繊維基布複合シートを得た。無機粒子充填層には無機粒子として硫酸バリウムを78質量%含有するものである。
〈配合4:低密度ポリエチレン樹脂配合組成物〉
低密度ポリエチレン樹脂(密度0.9) 100質量部
硫酸バリウム(比重4.45、平均粒子径0.8μm) 350質量部
エルカ酸アマイド(滑剤) 0.2質量部
2).次に、熱可塑性樹脂保護層として下記の配合組成物〈配合5〉からなる厚さ0.1mmで白色の熱可塑性樹脂保護層用シートを140℃の熱条件でカレンダー成形した。
〈配合5:エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂配合組成物〉
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(VA=25) 100質量部
二酸化チタン(比重4.29、平均粒子径1μm) 20質量部
エルカ酸アマイド(滑剤) 0.2質量部
3).次に、目付量50g/mの芯鞘不織布(芯:ポリエステル,鞘:低密度ポリエチレン)を、1)で得た繊維基布複合シートの表面と裏面に配置し、さらに表裏に配置した芯鞘不織布上に、2)で得た熱可塑性樹脂保護層用シートが覆うように配置し、この配置状態で140℃設定のラミネート機を通過させ、熱圧着積層して、厚さ0.92mm、質量2473g/mの白色の可撓性複合シートを得た。
【0038】
[実施例4]
実施例1の1)において、無機粒子充填層用シートを下記のシリコーンゲル配合組成物〈配合6〉に変更した以外は実施例1の1)〜3)の手順と同様にして厚さ0.92mm、質量5693g/mの黒色の可撓性複合シートを得た。
〈配合6:シリコーンゲル組成物〉
シリコーンゲルとして、商品名:アルファゲル:(ポリシロキサン樹脂100質量部とシリコーンオイル10〜20質量部の混合物:日本ゴム協会標準規格(SRIS/0101)アスカーC硬度10〜12:JIS K2207 針侵入硬度150/10mm:伸び率340%:株式会社タイカ製)100質量部に対し、タングステン(比重19.25、平均粒子径0.8μm)100質量部を155℃でカレンダー成形し、厚さ0.25mmのシリコーンゲルシートを得た。無機粒子充填層となるシリコーンゲルシートには無機粒子としてタングステンを50質量%含有するもので、その質量は2406g/mである。
【0039】
[実施例5]
実施例1において、ポリエステル(PET)製基布(実施例1に記載)をボロン繊維(タングステン線を芯材にホウ素による化学蒸着したモノフィラメント)を含む基布(タテ糸:ポリエステル繊維137dtex90本/1インチ、ヨコ糸:ボロン繊維200本/1インチ:質量340g/m:SPECIALTY MATERIALS,INC.製)に変更した以外は実施例1と同様にして厚さ0.92mm、質量2785g/mの白色の可撓性複合シートを得た。
【0040】
実施例1〜5のシート構成は、「熱可塑性樹脂保護層/接着性不織布層/無機粒子充填層/繊維織物(基布)/無機粒子充填層/接着性不織布層/熱可塑性樹脂保護層」とする7層構造とするように、特に無機粒子充填層と熱可塑性樹脂保護層との間に不織布を接着介在層として設けることによって、屈曲や折り曲げストレスによる層間剥離を起し難く、さらにはシート本体の亀裂や断裂破壊を生じ難い、繰り返しの実用耐久性に優れたフレキシブルシートを得ることを可能とした。特にJIS L1096 8.14項の引張強さに準拠した熱可塑性樹脂保護層と無機粒子充填層との剥離試験は、すべてが不織布層の凝集破壊であり、従って十分な破壊強度を伴い、JIS L1096 8.19項の摩耗強さB法(スコット法)での屈曲試験においても十分な実用耐久性を示した。また、実施例1〜5のシートはシート同士の高周波溶着が可能であり、良好な遮熱性と防音性(音響減衰性)を兼備し、さらに電磁波シールド性も具備することが各種試験により明らかとなった。
【0041】
【表1】
【0042】
[比較例1]
実施例1において、2)と3)の手順を省略し、「無機粒子充填層/繊維織物(基布)/無機粒子充填層」の構成とし、厚さ0.6mm、質量1773g/mのシートを得た。
【0043】
[比較例2]
実施例1において、接着性不織布層を省略して「熱可塑性樹脂保護層/無機粒子充填層/繊維織物(基布)/無機粒子充填層/熱可塑性樹脂保護層」とし、厚さ0.90mm、質量2440g/mのシートを得た。
【0044】
比較例1のシートは熱可塑性樹脂保護層を有さないため、JIS L1096 8.19項の摩耗強さB法(スコット法)での屈曲試験300回で、無機粒子充填層(硫酸バリウム65質量%含有)表面に細かな亀裂が全体に入り、さらにシート表面同士の摩擦で無機粒子充填層から摩耗した白粉が試験機にこぼれ落ちるなど、外見で判別できる程のダメージを露呈した。また、比較例2のシートは熱可塑性樹脂保護層を有するが、熱可塑性樹脂保護層と無機粒子充填層の間に接着性不織布層を有さないため、JIS L1096 8.19項の摩耗強さB法(スコット法)での屈曲試験100回に満たない段階で、熱可塑性樹脂保護層と無機粒子充填層とが剥離し、剥がれた0.1mm厚の熱可塑性樹脂保護層フィルムは屈曲試験300回に満たない段階で千切れ、また無機粒子充填層(硫酸バリウム65質量%含有)表面に細かな亀裂が全体に入り、さらにシート表面同士の摩擦で無機粒子充填層から摩耗した白粉が試験機にこぼれ落ちるなど、外見で判別できる程のダメージを露呈した。
【0045】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の可撓性複合シートは、屈曲や折り曲げストレスによる層間剥離を起し難く、さらにはシート本体の亀裂や断裂破壊を生じ難いなど、実用耐久性に優れているので、防音性(音響減衰性)、遮熱性、電磁波シールド性になどの効果発揮に対する部分的欠損を生じたり、またシート本体の屈曲疲労破壊を生じる心配がないため、建築現場や、解体工事の張囲いやテント構造物に用いられる防音シート、及び工場内の間仕切り防音シート、機械や車両の騒音防止カバーなどに用いることにより、防音性(音響減衰性)、遮熱性(放熱性)、電磁波シールド性の機能を長期間安定して発現することができる。
【符号の説明】
【0047】
1:可撓性複合シート
2−1:繊維織物(基布)
2−2:ボロン繊維含有織物
3:無機粒子充填層
3−1:熱可塑性樹脂(または高分子ゲル物質)
3−2:無機粒子
4:接着性不織布層
5:熱可塑性樹脂保護層
図1
図2