【実施例】
【0031】
本発明を下記実施例、および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限
定されるものではない。
【0032】
実施例・比較例において、有色基材の明度および彩度、可撓性複合シートの透視性および不燃性は以下の様に評価した。
<有色基材の明度>
JISZ8721.6(2)「標準色票との直接比較により定める方法」により評価。
(JISZ8723.6.3に定める人工昼光D65照明によるブースでの色比較)
<可撓性複合シートの透視性>
白色コピー用紙に、MSゴシック体フォントを使用し、たて150mm、よこ130mmの大きさで黒字印刷した識別サンプルとして、文字「囲」と文字「回」の2種類作成した。次に、実施例・比較例で作成した可撓性複合シートを間仕切りとして用いて、屋内で2m四方のペースを区切り、その内部中心に人(観察者)を配置した。観察者の対面する可撓性複合シートの反対側で、観察者の目線と同じ高さ(地上から1.6m)に識別サンプルを垂直に配置し、可撓性複合シートと識別サンプルの距離を変えながら「囲」と「回」の違いを識別可能な距離を測定し、以下の様に評価した。
1:3m以上で識別可能であり、透視性に優れる
2:1mを超えて識別できるが、3mでは識別できず、透視性が不充分
3:1mで識別できず、透視性に劣る
なお、可撓性複合シートで区切られた内部と外側の、地上から1.6mの高さにおける照度(LX)の条件を以下の様に変えながら、それぞれ評価した。
条件a:内側100LX、外側500LX(暗い側から明るい側への透視性)
条件b:内側500LX、外側500LX(同じ明るさの場合の透視性)
条件c:内側500LX、外側100LX(明るい側から暗い側への透視性)
<不燃性>
ASTM−E1354:コーンカロリーメーター試験法により評価。
輻射電気ヒーターによる50kW/m
2の輻射熱を産業資材構造物に20分間照射し、
この発熱性試験において、20分間の総発熱量と発熱速度を測定した。
(A)総発熱量:8MJ/m
2以下のものを適合とした。
(B)発熱速度:10秒以上継続して200kW/m
2を超えないものを適合とした。
<全光線透過率>
JISK7375に従い全光線透過率を測定した。
<高周波ウェルダー融着性>
実施例・比較例で作成した2枚の可撓性複合シート供試片の端末を8cm幅で直線上に重ね合わせ、8cm×30cmのウェルドバー(歯形:凸部は等間隔4cm幅直線状賦型9本/25.4mm、凸部高さ0.5mm:凹部は等間隔4cm幅直線状賦型9本/25.4mm、凹部深さ0.5mm)を装着した高周波ウェルダー融着機(山本ビニター((株)製YF−7000型:出力7KW)を用いて、下記条件で可撓性複合シートの高周波ウェルダー融着接合を行い、以下の様に評価した。
※ウェルダー融着条件:融着時間5秒、冷却時間5秒、陽極電流0.8A、
ウェルドバー温度40〜50℃
評価
1:融着可能
2:融着不可
【0033】
[実施例1]
<有色基材>
フィラメント直径9μm/750dtex、撚り回数60回/mのガラス(Eガラス)マルチフィラメント糸条を、織密度たて35本/インチ よこ28本/インチに製織した平織布を、開繊処理してからヒートクリーニングし、メタクリロキシプロピルトリメトキシシランでシランカップリング処理を行った後、固形分10質量%のアクリル樹脂溶液に、アクリル樹脂固形分100質量部に対して、カーボンブラック微粒子(平均粒子径15nm)が3質量部となるように分散させた着色樹脂溶液を含浸被覆し、乾燥することで、フィラメント表面にカーボンブラック微粒子を固着し、有色基材−1を得た。着色樹脂固形分として3g/m
2付着し、有色基材−1は充実率95%、質量165g/m
2、波長550nmにおける屈折率1.556、明度5.0であった。
<透明被覆樹脂層>
下記配合1の軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物を混合撹拌し、1時間静置脱泡して樹脂組成物液1を得た。次に樹脂組成物液1のバス中に有色基材−1を浸漬し、これを引き上げると同時にマングルロールで圧搾することで、マルチフィラメント糸条内部に樹脂組成物液1を含浸させ、これを150℃で1分間ゲル化した後、190℃で1分間熱処理した。ついで、樹脂組成物液1が含浸した有色基材−1の一方の面に、ドクターナイフコート法により樹脂組成物液1をコーティングし、150℃で1分間ゲル化した後、もう一方の面にもコーティングし、190℃で1分間熱処理を行い、さらにこれに鏡面エンボス処理を施した。これにより、マルチフィラメント糸条内部に含浸し、更に有色基材−1の両面を覆う状態に軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物からなる透明被覆樹脂層が形成された、請求項1の可撓性複合シートを得た。透明被覆樹脂層の付着量は280g/m
2(有色基材−1に対して169質量%)であり、波長550nmにおける屈折率1.548、有色基材−1との屈折率差は0.008であった。この可撓性複合シートを各種試験に供した結果を表1に示す。
(配合1)軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 30質量部
リン酸クレジルフェニル(可塑剤) 40質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
*可塑剤量として合計70質量部
【0034】
[実施例2]
<有色基材>
織密度たて36本/インチ よこ29本/インチに製織した平織布を用いた以外は有色基材1と同様にして有色基材−2を得た。有色基材−2は充実率99%、質量175g/m
2、波長550nmにおける屈折率1.556、明度5.0であった。
<透明被覆樹脂層>
実施例1と同様にして透明被覆樹脂層を形成し、実施例2の可撓性複合シートを得た。透明被覆樹脂層の付着量290g/m
2(有色基材−2に対して166質量%)であり、波長550nmにおける屈折率1.548、有色基材−2との屈折率差は0.008であった。この可撓性複合シートを各種試験に供した結果を表1に示す。
【0035】
[実施例3]
<有色基材>
着色樹脂溶液のアクリル樹脂固形分100質量部に対して、カーボンブラック微粒子(平均粒子径15nm)を1質量部とした以外は有色基材−1と同様にして、有色基材−3を得た。有色基材−3は充実率95%、質量165g/m
2、 波長550nmにおける屈折率1.556、明度7.0であった。
<透明被覆樹脂層>
実施例1と同様にして透明被覆樹脂層を形成し、実施例3の可撓性複合シートを得た。透明被覆樹脂層の付着量280g/m
2(有色基材−3に対して170質量%)であり、波長550nmにおける屈折率1.548、有色基材−3との屈折率差は0.008であった。この可撓性複合シートを各種試験に供した結果を表1に示す。
【0036】
[実施例4]
<有色基材>
実施例1と同じ有色基材−1を用いた。
<透明被覆樹脂層>
配合1の代わりに、下記配合2の軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物を用いた以外は実施例1と同様にして透明被覆樹脂層を形成し、実施例4の可撓性複合シートを得た。透明被覆樹脂層の付着量280g/m
2(有色基材−1に対して170質量%)であり、波長550nmにおける屈折率1.533、有色基材−1との屈折率差は0.023であった。この可撓性複合シートを各種試験に供した結果を表1に示す。
(配合2)軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 90質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 60質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
*可塑剤量として合計150質量部
【0037】
[実施例5]
<有色基材>
平均粒子径15nmのカーボンブラック微粒子を0.1質量%含んで紡糸した、555dtex(500デニール)、撚り回数80回/mのポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)マルチフィラメント糸条を、織密度たて23本/インチ よこ22本/インチに製織した平織布を開繊処理し、有色基材−5を得た。有色基材−5の充実率96%、質量92g/m
2、波長550nmにおける屈折率1.546(ただし有色基材−5の平面に対して垂直方向の屈折率)、明度5.0であった。
<透明被覆樹脂層>
実施例1と同様にして透明被覆樹脂層を形成し、実施例5の可撓性複合シートを得た。透明被覆樹脂層の付着量260g/m
2(有色基材−5に対して283質量%)であり、波長550nmにおける屈折率1.548、有色基材−5との屈折率差は0.002であった。この可撓性複合シートを各種試験に供した結果を表1に示す。
【0038】
実施例1〜5の可撓性複合シートは、充実率が95〜99%で明度(JISZ8721)が4〜8の範囲の有色基材を有し、波長550nmにおける有色基材と透明被覆樹脂との屈折率差が0.03以下である。いずれのシートも、有色基材と透明被覆樹脂の界面での光散乱はほとんど確認されず、色分散(波長による屈折率の変化)による虹彩も生じなかった。これにより、観察者側と識別サンプル側の明るさの関係がいずれの条件(条件1〜3)であっても、それぞれ透視性に優れるシートであった。また、ポリ塩化ビニル樹脂組成物から透明被覆樹脂層を形成したことで、いずれも高周波ウェルダーによる縫製が可能であった。更に、実施例1〜4の可撓性複合シートは、有色基材をガラスマルチフィラメント糸条より構成したことにより、いずれも不燃性に適合していた。
【0039】
【表1】
【0040】
[比較例1]
<基材>
着色樹脂溶液を無色編織物に含浸被覆しなかった以外は、実施例1と同様にして、無着色の基材比−1を得た。この基材の充実率95%、質量162g/m
2、 波長550nmにおける屈折率1.556、明度9.5であった。
<透明被覆樹脂層>
実施例4と同様にして透明被覆樹脂層を形成し、比較例1の可撓性複合シートを得た。透明被覆樹脂層の付着量280g/m
2(基材比−1に対して173質量%)であり、波長550nmにおける屈折率1.533、有色基材との屈折率差は0.023であった。この可撓性複合シートを各種試験に供した結果を表1に示す。
【0041】
比較例1の可撓性複合シートは、波長550nmにおける基材と透明被覆樹脂との屈折率差は0.03以下であるが、基材の明度が8を超えているため基材と透明被覆樹脂との界面で光散乱を生じ、また、有色基材と透明被覆樹脂層の色分散(波長による屈折率の変化)の違いによる虹彩状の散乱も確認され、基材の明度が5.0であることを除けば同じ条件である実施例4の可撓性複合シートと比較して透視性に劣るシートであった。
【0042】
[比較例2]
<基材>
比較例1と同じ無着色の基材比−1を用いた。
<透明被覆樹脂層>
実施例1と同様にして透明被覆樹脂層を形成し、比較例2の可撓性複合シートを得た。透明被覆樹脂層の付着量280g/m
2(基材比−1に対して173質量%)であり、波長550nmにおける屈折率1.548、無着色の基材比−1との屈折率差は0.008であった。この可撓性複合シートを各種試験に供した結果を表2に示す。
【0043】
比較例2の可撓性複合シートは、波長550nmにおける基材と透明被覆樹脂との屈折率差が0.008であり、比較例1より屈折率差が小さかった為、比較例1に比べれば透視性に改善が見られるものの、基布の明度が5.0であることを除けば同じ条件である実施例1の可撓性複合シートより劣っており、透視性が不充分なシートであった。また、屈折率差が比較例2より大きい実施例4の可撓性複合シートとの比較でも、基布比−1の明度が高いことで、比較例2の透視性は劣っていた。
【0044】
[比較例3]
<有色基材>
着色樹脂溶液のアクリル樹脂固形分100質量部に対して、カーボンブラック微粒子(平均粒子径15nm)を5質量部とした以外は有色基材−1と同様にして有色基材比−3を得た。有色基材比−3の充実率95%、質量165g/m
2、 波長550nmにおける屈折率1.556、明度2.5であった。
<透明被覆樹脂層>
実施例1と同様にして透明被覆樹脂層を形成し、比較例3の可撓性複合シートを得た。透明被覆樹脂層の付着量280g/m
2(基材比−3に対して170質量%)であり、波長550nmにおける屈折率1.548、有色基材との屈折率差は0.008であった。この可撓性複合シートを各種試験に供した結果を表1に示す。
【0045】
比較例3の可撓性複合シートは有色基材比−3の明度が2.5と低く、有色基材と透明被覆樹脂との界面における光散乱や虹彩はほとんど確認されなかった。そのため、観察者のいる場所よりシートの向こう側の方が明るい状況(条件a)では文字を識別する事ができ、透視性を有していた。しかし、観察者のいる場所よりシートの向こう側の方が暗い状況(条件c)では内部が見え難く、透視性に劣っていた。
【0046】
[比較例4]
<有色基材>
織密度たて33本/インチ よこ26本/インチに製織した平織布を用いた以外は有色基材−3と同様にして有色基材比−4を得た。有色基材比−4の充実率83%、質量144g/m
2、波長550nmにおける屈折率1.556、明度7.0であった。
<透明被覆樹脂層>
実施例1と同様にして透明被覆樹脂層を形成し、比較例3の可撓性複合シートを得た。透明被覆樹脂層の付着量275g/m
2(基材比−4に対して191質量%)であり、波長550nmにおける屈折率1.548、有色基材との屈折率差は0.008であった。この可撓性複合シートを各種試験に供した結果を表2に示す。
【0047】
比較例4の可撓性複合シートは、有色基材比−4の充実率が83%で、マルチフィラメント糸条間の隙間が大きいため、透明被覆樹脂層を形成した後に凹凸を生じ、透視像が歪んでしまい、透視性が不充分なシートであった。
【0048】
[比較例5]
<有色基材>
実施例1と同じ有色基材−1を用いた。
<透明被覆樹脂層>
下記配合3のシリコーンゴム加工液のバス中に有色基材−1を浸漬し、これを引き上げると同時にマングルロールで圧搾することで、マルチフィラメント糸条内部にシリコーンゴム加工液を含浸させ、ついで、シリコーンゴム加工液が含浸した有色基材−1の一方の面に、ドクターナイフコート法によりシリコーンゴム加工液をコーティングし、110℃で5分間熱処理後、もう一方の面にも同様にコーティングを行い、110℃で15分間熱処理を行った。これにより、シリコーンゴム加工液がマルチフィラメント糸条内部に含浸し、更に有色基材−1の両面を覆う状態に透明被覆樹脂層形成された、比較例4の可撓性複合シートを得た。透明被覆樹脂層の付着量240g/m
2であり、波長550nmにおける屈折率1.500、有色基材との屈折率差は0.056であった。この可撓性複合シートを各種試験に供した結果を表2に示す。
(配合3)シリコーンゴム加工液
CY52−1162(東レダウコーニングシリコーン(株)社製) 100質量部
【0049】
比較例4の可撓性複合シートは、有色基材の明度が5.0であり、充実率も95%と本発明の要件を満たしているが、屈折率差が0.03を超えているため、有色基材と透明被覆樹脂層の界面で光散乱を生じ、透視性の劣るシートであった。
【0050】
【表2】