特許第5938831号(P5938831)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938831
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】無線アクセスポイント
(51)【国際特許分類】
   H04W 52/02 20090101AFI20160609BHJP
   H04W 84/12 20090101ALI20160609BHJP
   H04W 72/04 20090101ALI20160609BHJP
   H04W 48/10 20090101ALI20160609BHJP
【FI】
   H04W52/02 111
   H04W84/12
   H04W72/04 136
   H04W48/10
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-189388(P2012-189388)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-49834(P2014-49834A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年8月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500112146
【氏名又は名称】サイレックス・テクノロジー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】稲井 友美
【審査官】 小林 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−288728(JP,A)
【文献】 特開2011−223162(JP,A)
【文献】 特開2005−278163(JP,A)
【文献】 特開2011−217026(JP,A)
【文献】 特開2010−045536(JP,A)
【文献】 特開2007−288639(JP,A)
【文献】 特開2008−131312(JP,A)
【文献】 特開2010−263549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B7/24−7/26
H04W4/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線ステーションに対するデータ通信が存在する旨のビーコンを,所定の時間間隔にて,無線ステーションに向けて送信するビーコン送信手段と,
前記所定の時間間隔を変更する変更手段と,
前記変更手段による所定の時間間隔の変更を指示する,指示手段と,を備え,
前記指示手段は,
自身に接続している無線ステーションから送信されたARPリクエストに対する応答(ARPレスポンス)を当該無線ステーションに応答後,データ通信の存在の有無にかかわらず,データ発生を擬制して報知し,かつ前記所定の時間間隔を,当該応答前の時間間隔(t4)よりも短い時間間隔(t5)に変更し,
その後,所定時間経過後,前記所定の時間間隔を,当該所定時間経過前の時間間隔(t5)よりも長い時間間隔(t6)に変更する,
旨の指示をする,無線アクセスポイント。
【請求項2】
前記無線アクセスポイントは,さらに,ARPリクエストによってMACアドレスが解決される無線ステーションを特定する無線ステーション特定手段を備え,
前記無線ステーション特定手段が,任意の通信端末から送信された前記ARPリクエストに基づきMACアドレスの解決が必要な無線ステーションを特定し,特定された当該無線ステーションにのみ,前記ARPリクエストを送信する,請求項1に記載の無線アクセスポイント。
【請求項3】
無線ステーションに対するデータ通信が存在する旨のビーコンを,所定の時間間隔にて,無線ステーションに向けて送信するビーコン送信手段と,
前記所定の時間間隔を変更する変更手段と,
前記変更手段による所定の時間間隔の変更を指示する,指示手段と,を備え,
前記指示手段は,
自身に接続している無線ステーションに対するTCPセッションが確立されると,データ通信の存在の有無にかかわらず,データ発生を擬制して報知し,かつ前記所定の時間間隔を,当該TCPセッション確立前の時間間隔(t10)よりも短い時間間隔(t11)に変更し,
その後,前記TCPセッションが解放されると,前記TCPセッションが解放される前の時間間隔(t11)よりも長い時間間隔(t12)に変更する,
旨の指示をする,無線アクセスポイント。
【請求項4】
TCPセッション確立前の時間間隔(t10)よりも短い前記時間間隔(t11)は,TCPセッション上のアプリケーションにて行われる通信のレスポンス重要度に応じて変更され得る,請求項3項記載の無線アクセスポイント。
【請求項5】
さらにMoreDataビットをTrueとしたフレームを送信する手段を備える請求項1乃至4のいずれかに記載の無線アクセスポイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は無線通信装置に関し,特に,無線LAN通信における無線アクセスポイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インフラストラクチャ型の無線LANネットワークでは,親機として動作する無線アクセスポイント(以下,アクセスポイント)が,無線子機(以下,ステーション)を管理している。
【0003】
アクセスポイントはステーションに対して定期的にビーコンと呼ばれる無線通信に必要な情報を報知している。このビーコンを通じて,アクセスポイントは,所定のステーションに対する通信データが存在する旨を通知することができる。ユニキャストデータが存在する場合には,TIM(Traffic Indication Message)ビーコンを使用し,ブロードキャストおよびマルチキャストデータ(以下,総称してブロードキャストデータ等)が存在する場合にはDTIM(Delivery Traffic Indication Message)ビーコンを使用する。
【0004】
DTIMビーコンは,通常ビーコンにおいて所定数に1回の頻度で含まれており,この頻度(間隔)をDTIM間隔と呼ぶ。たとえば,DTIM間隔が3の場合は,通常のビーコン3個間隔で1つのDTIMビーコンが発信されている。アクセスポイントは,ステーション宛のブロードキャストデータ等を受信すると,すぐには送信せずに,次のDTIMビーコンを送信するタイミングまで自身に当該ブロードキャストデータ等をバッファしておく。その後,DTIMビーコンを送信し,それに後続して当該ブロードキャストデータ等の送信を行う。なお,DTIMビーコンは,主にステーションの省電力状態を管理する目的でアクセスポイントから発信されているものである。
【0005】
一方,ステーションは,自身の消費電力を低減するため,定期的に自身の動作モードとして,省電力状態と非省電力状態(稼働状態)を切り替えて動作している。省電力状態の場合,ステーションは無線通信を行うことができず,非省電力状態のときにのみ無線通信が可能である。このように間欠的に非省電力状態となることで,ステーションは自身の消費電力を低減させている。動作モードの切り替えタイミングは,ステーションに設定されているパラメータであるListen IntervalおよびReceive DTIMによって決まる。
【0006】
Listen Intervalは,アクセスポイントからのビーコンを受信するタイミングを意味し,たとえばListen Intervalが2であった場合は,アクセスポイントからのビーコンを2個間隔で受信するよう,自身を非省電力状態とする。
【0007】
Receive DTIMは,設定値としてTrueまたはFalseが存在し,Trueの場合は,アクセスポイントからのDTIMビーコンをすべて受信するよう,自身を非省電力状態とする。一方,Falseの場合には,DTIMビーコンとは連動せず,上述のListen Intervalにのみ従って自身を非省電力状態とする。
【0008】
なお,ステーションは,自身が非省電力状態のときに,アクセスポイントからDTIMビーコンを受信すると,それに後続するブロードキャストデータ等も受信する。こうすることで,消費電力を低減しつつも,データの送受信を行うことができる。
【0009】
以下,ステーションがアクセスポイントから通信データを受信する動作について説明する。なお,省電力状態と非省電力状態を切り替えて動作するステーションを省電力ステーションと呼ぶことにする。
【0010】
図1は無線通信システムの全体図である。ステーション102はアクセスポイント101と接続しており,相互に無線通信が可能である。また,アクセスポイント101は,通信端末103と有線にて接続している。したがって,本図において,ステーション102はアクセスポイント101を経由して通信端末103と通信が可能である。
【0011】
図2はアクセスポイント101からステーション102へのデータ通信の様子である。アクセスポイント101からステーション102に向けて発信されているビーコンは,本図において数字1〜11までの数字が付された矢印である。ビーコンの中でも,太い矢印(ビーコン3,6,9)は,DTIMビーコンである。なお,本図の場合,DTIM間隔は3である。したがって,ビーコン3個につき1つのDTIMビーコンが含まれる。
【0012】
一方,ステーション102は,Listen Intervalが2なので,ビーコン2個間隔で自身を非省電力状態としている。なお,Receive DTIMがFalseなので,すべてのDTIMビーコンを受信するわけではなく,Listen Intervalに基づいてのみ非省電力状態となっている。
【0013】
また,本図では,ビーコン4のタイミングにてブロードキャスト等の通信データが発生している(実際にはデータ発生とビーコンタイミングとは独立したものである)。たとえば,通信端末103からステーション102に向けて送信された通信データである。
【0014】
この時点で,アクセスポイント101は,ステーション102に対して当該データの存在を通知することはない。その理由は,DTIMビーコンを発信するタイミングではないためである。
【0015】
その後のDTIMビーコンの発信タイミング(ビーコン6)にて,データの存在をステーション102に通知しようとするが,このタイミングでは,ステーション102は省電力状態のため,当該DTIMビーコンを受信できない。つまり,自身に対するデータの存在を認識することができない。その間,アクセスポイント101は,ステーション102に対するデータを自身にバッファしておく。
【0016】
ステーション102がデータの存在を認識することができるのは,ビーコン9のDTIMビーコン受信時となる。この時に初めてステーション102は,データの存在を認識し,アクセスポイント101からデータを受信することができる。
【0017】
このように,省電力機能を有するステーション102は,常に稼働しているわけではない(非省電力状態ではない)ことから,必要なタイミングですぐに通信を開始できない場合がある。このため,ある程度の遅延発生が避けられない。たとえば,常に非省電力状態(稼働状態)にあるステーションならば,DTIMビーコン6を受信した時点でデータ受信を開始することが可能である。つまり,ビーコン間隔が100ミリ秒ならば,300ミリ秒の遅延が発生するわけである。
【0018】
このような遅延を低減する手段として,DTIM間隔を動的に変更する技術が知られている(非特許文献1)。たとえば,ステーション102に対するブロードキャスト等の通信データが存在する場合には,DTIM間隔を短くして,迅速にステーション102にその旨を通知しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【非特許文献1】日経BP社ホームページ<http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20060929/249406/>
【0020】
非特許文献1に開示の技術は,ある程度の遅延低減に貢献すると期待されるが,当該非特許文献1ではDTIM間隔の変更契機(トリガ)が明確に記載されていない。例えば,もっとも容易なパターンである,ステーション102に向けたデータが実際に存在する場合をDTIM間隔の変更トリガと想定すると,その効果は限定的となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本願発明はかかる課題を解決するものである。すなわち,省電力ステーションを自身に接続している無線子機として擁するアクセスポイントであって,省電力ステーションの消費電力を低減しつつも遅延の少ない無線通信を行うことのできるアクセスポイントを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本願発明にかかる第1の形態は,無線ステーションに対するデータ通信が存在する旨のビーコンを,所定の時間間隔にて,無線ステーションに向けて送信するビーコン送信手段と,所定の時間間隔を変更する変更手段と,変更手段による所定の時間間隔の変更を指示する,指示手段と,を備え,指示手段は,無線ステーションが自身に接続した時点において,所定の時間間隔を,無線ステーションが自身に接続する前の時間間隔(t1)よりも短い時間間隔(t2)に変更し,その後,所定時間経過後,所定の時間間隔を,当該所定時間経過前の時間間隔(t2)よりも長い時間間隔(t3)に変更する,旨の指示をする,無線アクセスポイントである。
【0023】
本願発明にかかる第2の形態は,無線ステーションに対するデータ通信が存在する旨のビーコンを,所定の時間間隔にて,無線ステーションに向けて送信するビーコン送信手段と,所定の時間間隔を変更する変更手段と,変更手段による所定の時間間隔の変更を指示する,指示手段と,を備え,指示手段は,自身に接続している無線ステーションから送信されたARPリクエストに対する応答(ARPレスポンス)を当該無線ステーションに応答後,所定の時間間隔を,当該応答前の時間間隔(t4)よりも短い時間間隔(t5)に変更し,その後,所定時間経過後,所定の時間間隔を,当該所定時間経過前の時間間隔(t5)よりも長い時間間隔(t6)に変更する,旨の指示をする,無線アクセスポイントである。
【0024】
さらに好ましくは,無線アクセスポイントは,さらに,ARPリクエストによってMACアドレスが解決される無線ステーションを特定する無線ステーション特定手段を備え,無線ステーション特定手段が,任意の通信端末から送信されたARPリクエストに基づきMACアドレスの解決が必要な無線ステーションを特定し,特定された当該無線ステーションにのみ,ARPリクエストを送信する。
【0025】
本願発明にかかる第3の形態は,無線ステーションに対するデータ通信が存在する旨のビーコンを,所定の時間間隔にて,無線ステーションに向けて送信するビーコン送信手段と,所定の時間間隔を変更する変更手段と,変更手段による所定の時間間隔の変更を指示する,指示手段と,を備え,指示手段は,自身に接続している無線ステーションへの無線フレームを所定の場所にバッファ後,所定の時間間隔を,当該バッファ前の時間間隔(t7)よりも短い時間間隔(t8)に変更し,その後,所定時間経過後,所定の時間間隔を,当該所定時間経過前の時間間隔(t8)よりも長い時間間隔(t9)に変更する,旨の指示をする,無線アクセスポイントである。
【0026】
本願発明にかかる第4の形態は,無線ステーションに対するデータ通信が存在する旨のビーコンを,所定の時間間隔にて,無線ステーションに向けて送信するビーコン送信手段と,所定の時間間隔を変更する変更手段と,変更手段による所定の時間間隔の変更を指示する,指示手段と,を備え,指示手段は,自身に接続している無線ステーションに対するTCPセッションが確立されると,所定の時間間隔を,当該TCPセッション確立前の時間間隔(t10)よりも短い時間間隔(t11)に変更し,その後,TCPセッションが解放されると,TCPセッションが解放される前の時間間隔(t11)よりも長い時間間隔(t12)に変更する,旨の指示をする,無線アクセスポイントである。
【0027】
本願発明にかかる第5の形態は,通信端末に対するデータ通信が存在する旨の報知を,所定の時間間隔にて,通信端末に向けて送信する報知手段と,所定の時間間隔を変更する変更手段と,変更手段による所定の時間間隔の変更を指示する,指示手段と,を備え,指示手段は,所定の条件が充足されると,所定の時間間隔を,所定の条件が充足される前の時間間隔(t13)よりも短い時間間隔(t14)に変更し,その後,所定時間経過後,所定の時間間隔を,当該所定時間経過前の時間間隔(t14)よりも長い時間間隔(t15)に変更する,旨の指示をする,通信装置である。
【0028】
さらに好ましくは,所定の条件は,通信端末に対するデータ通信が発生する前であって,データ通信が発生すると予測されることである。
【0029】
上述の指示手段が指示する所定の時間間隔の変更は,100ミリ秒などの絶対的な時間間隔の変更を意味することはもちろんのこと,DTIMビーコン頻度(段落番号0004参照のこと)について説明した様な,所定の絶対的な時間間隔を1単位とした,当該単位の数の変更も含むものである。
【発明の効果】
【0030】
本願発明にかかるアクセスポイントは,ステーションに対する通信データが実際に発生している場合だけでなく,通信データの発生が予測できる場合にもDTIM間隔を変更する。さらに,ステーションからのARPリクエストに対しては,対応するステーションにのみこのリクエストを転送する。これにより,ステーションの消費電力を低減しつつも,迅速に通信を開始することができる。結果として,消費電力の低減および通信パフォーマンスを両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下では図面を参照し本願発明に係る実施例を説明する。なお,以下ではDTIMビーコンの間隔変更の仕組みについて説明しているが,TIMビーコンでも同様である。
[実施例1]
[システム全体図]
【0032】
本実施例にかかるシステム全体図は,すでに説明した図1と同様であるため,説明を省略する。なお,本図において本願発明にかかる装置はアクセスポイント101である。
[DTIM間隔]
【0033】
本実施例にかかるアクセスポイント101は,所定の条件が満たされると,DTIM間隔を動的に変更する。たとえば図3のように変更する。通常はDTIM間隔を3で運用しているアクセスポイント101であるが,所定条件が充足されることで,DTIM間隔を1に変更し,この状態を所定時間継続させたのちに,元のDTIM間隔に戻す。
【0034】
このようにDTIM間隔を短くすることで,省電力状態のステーション102に対し,ブロードキャストデータ等の存在を迅速に通知することができ,結果としてユニキャスト通信の迅速な開始にも寄与する。本願発明は,このDTIM間隔を変更する契機となる条件がポイントとなるものである。
[DTIMパターン]
【0035】
図4は本実施例にかかるDTIMビーコンのパターンである。なお,本実施例における平常時のDTIM間隔は2としている。
【0036】
本実施例のポイントは,DTIMビーコン1の直前にある,ステーション102からアクセスポイント101への接続401を行った後で,DTIM間隔を2から1に変更するところにある。この接続401とは,TCP等の接続ではなく,物理層およびデータリンク層での接続を意味し,具体的には,アクセスポイント101とステーション102との間のアソシエーション処理のことである。
【0037】
アソシエーション直後においてDTIM間隔を短くしている(DTIMビーコン1〜6)理由は,ステーション102が通信を行うための具体的事由があるために接続が行われたと推測されるためである。このDTIMビーコン1〜6は,実際のブロードキャストデータ等が存在していないにもかかわらず,データが発生しているように擬制して通知されるものである。
【0038】
したがって,アソシエーション直後において所定時間のあいだ,DTIM間隔を短くすることで,ステーション102を迅速に非省電力状態とさせることができる。なお,実際には,DTIM間隔を短くすると同時に,上述の擬制したデータ発生を引き続き通知することで,ステーション102を所定時間継続して非省電力状態とさせている。
【0039】
データ発生を擬制する手段としては,フレーム制御フィールド中に含まれ,後続する送信待ちデータの存在の有無を示すMoreData(モアデータ)ビットをTrue(データあり)にするといった手段がある。
【0040】
所定時間経過した後,平常時のDTIM間隔に戻す(データ発生を擬制した通知も取り消す)ことにより,ステーション102は省電力状態と非省電力状態をListen Interval間隔にて繰り返す動作に戻る。
【0041】
以上説明したように,本実施例では,ステーション102とアクセスポイント101とのアソシエーションの存在を通信開始の前触れと判断することでDTIMビーコン間隔を短くする。
[実施例2]
【0042】
図5は本実施例にかかるDTIMビーコンのパターンである。なお,本実施例における平常時のDTIM間隔は3としている。
【0043】
ビーコン1,4〜13は,DTIMビーコンである。ARPリクエスト(ブロードキャスト通信)は,通信端末103からステーション102に向けて送信されるものである。通信端末103は,ARPリクエスト501にて,ステーション102のIPアドレスを解決しようとするが,このタイミングでは,ステーション102が非省電力状態であるため,当該ARPリクエスト501はステーション102に到達しない。このため,アクセスポイント102は,当該ARPリクエスト501をいったん自身にバッファする。
【0044】
アクセスポイント102は,ARPリクエスト501を自身にバッファしたことをトリガとして,DTIMビーコン間隔を変更し発信する(DTIMビーコン4以降)。これを受信したステーション102は,省電力状態から非省電力状態に移行する。
【0045】
次いでアクセスポイント101は,バッファしておいたARPリクエストをステーション102に向けて送信する(ARPリクエスト502)。このタイミングにおいて,ステーション102は非省電力状態であるため,当該ARPリクエスト502を受信することができる。
【0046】
一方,ステーション102は,受信したARPリクエスト502に対する応答としてARPレスポンス503を通信端末103に向けて送信する。これにより,通信端末103とステーション102との間において,IP層より上位の通信が可能になる。
【0047】
なお,上位層の通信が可能になったとはいえ,実際にデータの送受信が始まるのがどのタイミングかを特定することは,この時点ではできない。しかし,実際のデータの送受信に対する遅延を少なくするため,継続してステーション102を非省電力状態にする必要がある。このため,本実施例においても実施例1と同じくDTIMビーコン等を用いてステーション102を継続して非省電力状態とさせる。具体的にはDTIMビーコン7〜13がデータの発生が擬制されたビーコンとなる。
【0048】
図示したように本実施例では,2つの所定時間が存在し,その時間のあいだアクセスポイント101はDTIM間隔を短くしている。
【0049】
1つは,通信端末103からのARPリクエスト501をバッファした段階である。ARPリクエストが存在するということは,その後,IP層以上での通信が行われる可能性が極めて高いため,ステーション102を常に非省電力状態とさせている。
【0050】
もう1つは,ステーション102からのARPレスポンス503がARPリクエスト発信元である通信端末103に応答された後の所定時間である。これも前者と同様,この後においてIP層以上での通信が開始される可能性が極めて高いと推測されるためである。上述したように,この場合も,上位層における実際のデータ通信がいつ行われるかわからないため,DTIMビーコンなどを用いてステーション102を継続して非省電力状態にしておく必要がある。
【0051】
以上説明したように,本実施例では,ARPリクエストおよびARPレスポンスの存在を通信開始の前触れとして判断することでDTIMビーコン間隔を短くする。
【0052】
なお,アクセスポイント101からのARPリクエスト502は,通常はブロードキャスト通信にて行われるものである。したがって,これをそのまま無線通信として送信すると,ARPリクエスト502の対象となるステーション102以外のステーションを非省電力状態にしてしまうという問題が発生する。
【0053】
このような問題を回避するための一つの手段として,アクセスポイント101は,事前にRARP(Reverse Address Resolution Protocol)などの手段によりステーションのIPアドレスを取得し,すべてのステーションのIPアドレスとMACアドレスの対応を予め把握しておく。これにより,ARPリクエスト502の対象となるステーション102を特定することができ,このステーションにのみ当該リクエストを送信することができるため,他のステーションの省電力状態を阻害することなく,ARPリクエスト501に対する応答が可能になる。結果として,無線システム全体としての省電力に貢献することができる。
【0054】
なお,ステーションのIPアドレスを取得し,ARPリクエスト502の対象となるステーションを特定する手段(無線ステーション特定手段)としては,同様のことが可能であれば,上述のRARPに限らず,様々な手段が利用可能である。つまり,ARPリクエスト502に対して,これをブロードキャストにて転送することなく,アクセスポイント101が一意にステーションを特定できればよい。
[実施例3]
【0055】
図6は本実施例にかかるDTIMビーコンのパターンである。なお,本実施例における平常時のDTIM間隔は3としている。
【0056】
ビーコン1,4〜8,11は,DTIMビーコンである。図からわかるとおり,本実施例の特徴は,TCPセッション継続期間においてDTIMビーコンの間隔を短くすることである。TCPセッションが継続している間は,常にTCPデータの送受信が行われる可能性のある状態であり,その期間においてステーション102を非省電力状態にしておくことが望ましいためである。
【0057】
もちろん,上述した実施例と同じく,TCPセッションが存在するとはいえ,実際のデータ通信が伴わない場合もあるため,DTIMビーコンなどを用いてステーション102を継続して非省電力状態にしておく必要がある。具体的にはDTIMビーコン4〜8である。
[その他の実施例]
【0058】
これまでの実施例では,DTIM間隔を常に1にするようにしてきたが,必ずしも1ではなく,平常時のDTIM間隔よりも短いものであれば,どのような間隔でも効果がある。また,DTIM間隔を変更する契機となるトリガの種類に応じて,DTIM間隔を変更することも可能である。たとえば,実施例1で示したような,ステーション102とアクセスポイント101とのアソシエーションは,TCPセッションの継続期間よりも,データ通信の発生確率が低いと推測される場合には,DTIM間隔を1ではなく2にすることも可能である。
【0059】
さらに,短くしたDTIM間隔を戻す際,必ずしも平常時のDTIM間隔に戻す必要はなく,当該短くしたDTIM間隔よりも長い間隔でさえあればよい。たとえば,平常時のDTIM間隔が3で,これを1に変更した後,元の3ではなく2に戻すといった具合である。もちろん,平常時のDTIM間隔よりも長いもの(たとえば4など)に戻すことも可能である。
【0060】
また,DTIM間隔を短くする代わりに,ビーコンの報知間隔そのものを短くすることも可能である。即ち,通常は100ミリ秒間隔で報知しているビーコン間隔を50ミリ秒にすることで,DTIM間隔を半分にするのと同じ効果が得られる。
【0061】
さらに,TCPセッション上で行われるアプリケーションの通信に踏み込んで,DTIM間隔を変更することも可能である。たとえば,図7に示すように,所定の記憶領域に,各アプリケーションのセッション情報(アプリケーションおよびポート番号)とレスポンスの重要度,およびDTIM間隔を対応付けた情報をセットとして保持しておき,所定のセッションによる通信が発生している場合には,該当するDTIM間隔に変更する。もちろん,レスポンス重要度が高い場合にはDTIM間隔は短く設定され,反対に重要度が低い場合にはDTIM間隔は長く設定される。これにより,アプリケーションにて実際に行われる通信のレスポンス重要度に応じてDTIM間隔を変更することができる。
【0062】
なお,以上で説明した各実施例に共通するアクセスポイント101の機能ブロック図を図8に示す。DTIMビーコン発信手段801は,DTIMビーコンを発信する手段である。
【0063】
DTIM間隔変更手段802は,DTIMビーコンが発信される間隔(周期)を動的に変更する手段であり,その値は後述するDTIM間隔変更指示手段803により指定される。
【0064】
DTIM間隔変更指示手段803は,これまでの実施例で説明した状況に応じた値にDTIM間隔に変更するようDTIM間隔変更手段802に指示を出す。
【0065】
擬制データ報知指示手段804は,フレーム制御フィールド中に含まれ,後続する送信待ちデータの存在の有無を示すMoreData(モアデータ)ビットをTrue(データあり)にするといったことをDTIMビーコン発信手段801に指示する手段である。
[まとめ]
【0066】
本願発明にかかるアクセスポイントは,ステーションに対する通信データが実際に発生している場合だけでなく,通信データの発生が予測できる場合にもDTIM間隔を変更する。さらに,ステーションからのARPリクエストに対しては,対応するステーションにのみこのリクエストを転送する。これにより,ステーションの消費電力を低減しつつも,迅速に通信を開始することができる。結果として,消費電力の低減および通信パフォーマンスを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】システム全体図
図2】アクセスポイントから無線ステーションへのデータ通信
図3】DTIM間隔の動的変更
図4】実施例1におけるDTIMパターン
図5】実施例2におけるDTIMパターン
図6】実施例3におけるDTIMパターン
図7】セッションに応じたDTIM間隔
図8】アクセスポイントの機能ブロック図
【符号の説明】
【0068】
801 DTIMビーコン発信手段
802 DTIM間隔変更手段
803 DTIM間隔変更指示手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8