特許第5938899号(P5938899)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5938899ポリウレタンフォーム製造原料用エステル組成物及びポリウレタンフォームの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938899
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】ポリウレタンフォーム製造原料用エステル組成物及びポリウレタンフォームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/38 20060101AFI20160609BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20160609BHJP
   C08G 101/00 20060101ALN20160609BHJP
【FI】
   C08G18/38 F
   C08G18/00 L
   C08G101:00
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-285890(P2011-285890)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-133439(P2013-133439A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000199795
【氏名又は名称】川崎化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097928
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 数彦
(72)【発明者】
【氏名】池尻 雄治郎
【審査官】 久保田 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−504300(JP,A)
【文献】 特表2003−535941(JP,A)
【文献】 特開昭63−112613(JP,A)
【文献】 米国特許第04564697(US,A)
【文献】 特表平02−502026(JP,A)
【文献】 特表昭63−500947(JP,A)
【文献】 特開平06−057141(JP,A)
【文献】 特表2010−521557(JP,A)
【文献】 特開平11−228803(JP,A)
【文献】 特表昭59−500968(JP,A)
【文献】 特開2012−131764(JP,A)
【文献】 特公昭49−010559(JP,B1)
【文献】 米国特許第4307205(US,A)
【文献】 特開昭51−102098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00− 18/87
C08L 1/00−101/14
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンフォーム製造原料用エステル組成物であって、アルコールによるハロゲン化カルボン酸無水物の開環反応生成物のカルボキシル基にアルキレンオキサイドを付加させて得られるエステル組成物に、環状エステル化合物、環状炭酸エステル化合物、エステル結合の隣に不飽和結合を有する化合物、アリルエーテル化合物の群から選ばれる少なくとも1種のスコーチ抑制剤を含有させて成り、前記のハロゲン化カルボン酸無水物が、無水クロレンド酸及び/又はクロロ無水フタル酸であることを特徴とするポリウレタンフォーム製造原料用エステル組成物。
【請求項2】
アルコールが分子量100〜1000のオキシアルキレングリコール及び/又は数平均分子量100〜1000のポリオキシアルキレングリコールである請求項1に記載のエステル組成物。
【請求項3】
アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドである請求項1に記載のエステル組成物。
【請求項4】
開環反応生成物のカルボキシル基1モルに対してアルキレンオキサイドが1モル付加された成分を含有している請求項1に記載のエステル組成物。
【請求項5】
アルコールによるハロゲン化カルボン酸無水物の開環反応生成物のカルボキシル基にアルキレンオキサイドを付加させて得られるエステル組成物の塩素濃度が5〜50重量%である請求項1に記載のエステル組成物。
【請求項6】
ポリイソシアネート、ポリオール、スコーチ抑制剤、発泡剤、触媒、界面活性剤を原料として使用するポリウレタンフォームの製造方法において、ポリオールが、アルコールによるハロゲン化カルボン酸無水物の開環反応生成物のカルボキシル基にアルキレンオキサイドを付加させて得られるエステル組成物を含有し、スコーチ抑制剤が、環状エステル化合物、環状炭酸エステル化合物、エステル結合の隣に不飽和結合を有する化合物、アリルエーテル化合物の群から選ばれる少なくとも1種であり、前記のハロゲン化カルボン酸無水物が、無水クロレンド酸及び/又はクロロ無水フタル酸であることを特徴とするポリウレタンフォームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンフォーム製造原料用エステル組成物及びポリウレタンフォームの製造方法に関し、詳しくは、難燃性に優れたポリウレタンフォーム製造原料用エステル組成物及び当該エステル組成物を使用したポリウレタンフォームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ポリウレタン、ポリエステル等のプラスチックには難燃性を付与するために難燃剤が用いられる。難燃剤としては、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウムのような無機化合物、トリスモノクロロプロピルフォスフェート、トリスジクロロプロピルフォスフェートのようなリン系化合物、ハロゲン系化合物等が挙げられる。
【0003】
特にポリウレタンフォームにおいては上述のトリスモノクロロプロピルフォスフェートが多用される他、ハロゲン系の難燃剤として塩素化カルボン酸の1種であるクロレンド酸系のポリオールが用いられることがある(特許文献1)。
【0004】
クロレンド酸系のポリオールとしては、クロレンド酸とジエチレングリコールのような多価アルコールをエステル化反応させて得られるポリエステルポリオールが挙げられる(特許文献2)。また、クロレンド酸をプロピレングリコールのような多価アルコールに溶解させた後、アルキレンオキサイドを付加させることによって得られるポリオールが挙げられる(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、エステル化反応では反応に長時間を要し、反応条件によっては脱塩素、脱塩化水素の副反応が起こって装置の腐食や製品中の塩素濃度の低下を招くという問題がある。また、アルキレンオキサイドを付加する場合は、通常、触媒として用いられる水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の中和や除去の工程が必要であるといった問題がある。また、後者のアルキレンオキサイド付加物は、溶媒として用いたポリオールをそのまま含有する組成物として提供するものであるため、組成物中の塩素濃度を高めるには溶媒の留去等の操作が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−172480号公報
【特許文献2】特開平3−162412号公報
【特許文献3】特開平11−228803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、先に、従来のクロレンド酸系ポリオールの欠点を改善し、簡便に製造することができ、ハロゲン濃度が高く、難燃剤として、特にポリウレタンフォームに好適に用いられるエステル組成物を提供した(特願2011−015524号公報)。
【0008】
本発明は、上記のエステル組成物の改良に関するものであり、ポリオール原料の一部として上記のエステル組成物を使用したポリウレタンフォームの製造方法におけるスコーチの発生を抑制するように改良したものである。ここで、スコーチとは、当業者にとって周知の通り、ウレタンフォーム内部のヤケを意味し、フォーム内部が黄色あるいは茶色にまで着色し、酷い場合には黒く焼けたような状態にまで至る現象を言う。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明の第1の要旨は、ポリウレタンフォーム製造原料用エステル組成物であって、アルコールによるハロゲン化カルボン酸無水物の開環反応生成物のカルボキシル基にアルキレンオキサイドを付加させて得られるエステル組成物に、環状エステル化合物、環状炭酸エステル化合物、エステル結合の隣に不飽和結合を有する化合物、アリルエーテル化合物の群から選ばれる少なくとも1種のスコーチ抑制剤を含有させて成り、前記のハロゲン化カルボン酸無水物が、無水クロレンド酸及び/又はクロロ無水フタル酸であることを特徴とするポリウレタンフォーム製造原料用エステル組成物に存する。
【0010】
そして、本発明の第2の要旨は、ポリイソシアネート、ポリオール、スコーチ抑制剤、発泡剤、触媒、界面活性剤を原料として使用するポリウレタンフォームの製造方法において、ポリオールが、アルコールによるハロゲン化カルボン酸無水物の開環反応生成物のカルボキシル基にアルキレンオキサイドを付加させて得られるエステル組成物を含有し、スコーチ抑制剤が、環状エステル化合物、環状炭酸エステル化合物、エステル結合の隣に不飽和結合を有する化合物、アリルエーテル化合物の群から選ばれる少なくとも1種であり、前記のハロゲン化カルボン酸無水物が、無水クロレンド酸及び/又はクロロ無水フタル酸であることを特徴とするポリウレタンフォームの製造方法に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、難燃性に優れ且つスコーチの発生が抑制されたポリウレタンフォームを与えるポリウレタンフォーム製造原料用エステル組成物およびポリウレタンフォーム製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
<ポリウレタンフォーム製造原料用エステル組成物>
本発明のポリウレタンフォーム製造原料用エステル組成物は、特定の反応工程を得て得られたハロゲン原子含有エステル組成物(A)に所定のスコーチ抑制剤(B)とを含有させて成る。
【0014】
[ハロゲン原子含有エステル組成物(A)]
ハロゲン原子含有エステル組成物(A)は、アルコールによるハロゲン化カルボン酸無水物の開環反応生成物のカルボキシル基にアルキレンオキサイドを付加させて得られるエステル組成物である。このエステル組成物は、ハロゲン化カルボン酸無水物をアルコールで開環反応させる第1工程と、開環反応生成物のカルボキシル基にアルキレンオキサイドを付加させる第2工程とによって得られる。
【0015】
ハロゲン化カルボン酸無水物としては、ハロゲン化された2価のカルボン酸の分子内無水物が好ましく、無水クロレンド酸の他、モノ、ジ、トリ、テトラのクロロ無水フタル酸やブロモ無水フタル酸などの各ハロゲン化無水フタル酸等が挙げられる。中でも、無水クロレンド酸、テトラクロロ無水フタル酸が好ましく、無水クロレンド酸が最も好ましい。これらのハロゲン化カルボン酸無水物は2種類以上を併用しても構わない。尚、無水クロレンド酸とは、ヘキサクロロエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸を指す。
【0016】
開環反応に用いるアルコールとしては、1価又は多価のアルコールが挙げられる。1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、ラウリルアルコールのような脂肪族1価アルコール、ベンジルアルコール、フェノールのような芳香族1価アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、フェノキシエタノールのようにエーテル結合を含んだ1価アルコールが挙げられる。
【0017】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールのような脂肪族2価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールのようなオキシアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールのようなポリオキシアルキレングリコールが挙げられる。その他、グリセリン、トリメチロールプロパンのような3価以上のアルコールを用いてもよい。中でも、オキシアルキレングリコール又はポリオキシアルキレングリコールが好ましく、分子量100〜1000のオキシアルキレングリコール又は数平均分子量100〜1000のポリオキシアルキレングリコールが最も好ましい。これらの1価アルコールと多価アルコールはそれぞれ2種類以上を併用しても構わない。
【0018】
開環反応における、ハロゲン化カルボン酸無水物に対するアルコールのモル比は、0.5〜15.0である。0.5未満の場合は、未反応のハロゲン化カルボン酸無水物が残存し、15.0を超える場合は、エステル組成物のハロゲン濃度が下がってしまい難燃性が低下してしまったり、未反応アルコールが多く残存する。ハロゲン化カルボン酸無水物に対するアルコールのモル比は、好ましくは0.55〜14.0、更に好ましくは0.6〜13.0である。
【0019】
ハロゲン原子含有エステル組成物(A)を製造する第1工程は、ハロゲン化カルボン酸無水物をアルコールで開環反応させるものであるが、この際、無触媒で反応を行うことが好ましい。通常のエステル化反応で用いられるエステル化触媒を用いた場合は、ハロゲン化カルボン酸無水物の開環反応だけで反応を止めることが難しくなるからである。開環反応に続いて更にエステル化反応を進めてもハロゲン原子含有エステル組成物(A)の難燃性を著しく損なうことはないが、粘度が上昇して取り扱いに不具合が生じる場合がある。
【0020】
第1工程の反応生成物は、ハロゲン化カルボン酸無水物のアルコールによる開環反応生成物である。ここでいう開環反応生成物は、仮に2価のハロゲン化カルボン酸無水物をA、2価アルコールをBとした場合に、A−B型またはA−B−A型で表されるものをいう。例えば、テトラクロロ無水フタル酸とジエチレングリコールを原料として用いた場合は、以下の構造式で表されるものを指し、A−B型はヒドロキシカルボン酸であり、A−B−A型はジカルボン酸となる。1価アルコールのみを用いた場合は、1価アルコールをBとすればA−B型のみが開環反応生成物となる。
【0021】
【化1】
【0022】
【化2】
【0023】
第1工程の反応生成物は、上記の開環反応生成物の他に、未反応のハロゲン化カルボン酸無水物、アルコール、ハロゲン化カルボン酸無水物の2つのカルボキシル基とアルコールが反応したジエステル化合物、更に反応の進んだオリゴマー状エステル化合物等の混合物となる。これらのおおよその組成比(分子量分布)はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)等で分析することも可能である。混合物中の開環反応生成物の含有量は、A−B型及び/又はA−B−A型の合計量として、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上、更に好ましくは30重量%以上である。20重量%より小さくても構わないが、未反応のアルコールが多くなる等でハロゲン濃度が低くなる場合は、難燃性が低下する可能性がある。また、更に反応の進んだオリゴマー状エステル化合物が多い場合には、粘度が高くなって取り扱いが困難になる場合もある。
【0024】
第1工程の反応温度は、通常80〜200℃、好ましくは100〜170℃の範囲である。ハロゲン化カルボン酸無水物の開環反応のみで反応を止めるため、あまり温度を上げ過ぎないことが重要である。例えば、テトラクロロ無水フタル酸を原料として用いた場合、120〜140℃程度でテトラクロロ無水フタル酸の開環エステル化による発熱により160℃程度まで温度が上昇することがあるため、場合によっては除熱も必要となる。
【0025】
一方、反応圧力は、通常、−10kPa程度の微減圧、好ましくは常圧、場合によっては+10kPa程度の微加圧でも可能である。原料のアルコールを留去してしまわないよう、あまり減圧度を上げ過ぎないことが重要である。例えばブタノールのような低沸点のアルコールを用いた場合は、開環反応のみで反応を止めるためには、温度、圧力に更に注意する必要がある。勿論、用いる原料の種類、目標とする酸価、分子量分布によっては、温度、圧力が上記の範囲を超えても構わない。
【0026】
反応時間は、通常10〜60分程度である。あまり長時間反応させるとエステル化反応やオリゴマー化反応が更に進行してしまうことがある。反応終点は、反応液が均一となり、サンプリングによって酸価が原料の仕込比から求まる所定の値になった時点である。尚、エステル化反応に伴う副生水の留出は、開環反応以外のエステル化、オリゴマー化反応の進行の目安になるが、あまりエステル化やオリゴマー化反応を進めると、得られる製品中の水分が高くなってしまうことあり、第2工程に悪影響を与える場合もある。そのためにも反応の最後には減圧して系内の水分を除去しておくとよい。また、未反応のアルコールを減圧下で一部留去することも可能である。
【0027】
反応開始時には、製品の着色を防ぐために反応容器の空間部を窒素置換し、更に反応液中の溶存酸素も除去することが好ましい。また、反応形式は、通常のバッチ設備あるいは連続設備が適用できるが、得られる製品の粘度が原料に用いられたアルコール成分に比べてかなり高くなる場合があること等から、バッチ反応の方が好ましい。
【0028】
第2工程では、第1工程においてハロゲン化カルボン酸無水物をアルコールで開環反応させることで新たに生成したカルボキシル基に対して、アルキレンオキサイドを付加させる。付加させるアルキレンオキサイドは、カルボキシル基1モル当り、通常1モルであるが、2モル以上のアルキレンオキサイドが付加しても構わない。この場合、ハロゲン原子含有エステル組成物(A)の難燃性を著しく損なうことはないが、ハロゲン濃度が低くなってしまうことは難燃性の低下に繋がるので好ましくない。また、反応は、無触媒でも、KOHやNaOHのような触媒を用いてもよいが、添加した触媒がエステル組成物中に残存する場合は、例えばウレタン化反応に用いた際に悪影響を与える可能性があるため、中和や濾過、吸着といった後処理を施してもよい。
【0029】
上記のアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられ、中でも、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドを用いることが好ましい。これらは2種類以上を併用しても構わない。
【0030】
第2工程の反応生成物は、第1工程においてハロゲン化カルボン酸無水物をアルコールで開環反応させることで新たに生成したカルボキシル基に対して、カルボキシル基1モル当り、通常1モルのアルキレンオキサイドを付加させたエステル組成物である。前述のA−B型またはA−B−A型で表される開環反応生成物に対し、アルキレンオキサイドをCとした場合にC−A−B型、C−A−B−A−C型で表されるものをいう。例えば、テトラクロロ無水フタル酸とジエチレングリコール、エチレンオキサイドを原料として用いた場合、以下の構造式で表されるものを指し、C−A−B型、C−A−B−A−C型ともにジオール型となる。1価アルコールのみを用いた場合は、1価アルコールをBとすればC−A−B型のみがエステル組成物となる。
【0031】
【化3】
【0032】
【化4】
【0033】
第2工程の反応生成物は、上記のエステル組成物の他に、アルキレンオキサイドが更に付加した生成物、第1工程からの未反応のハロゲン化カルボン酸無水物、アルコール、ハロゲン化カルボン酸無水物の2つのカルボキシル基とアルコールが反応したジエステル化合物、更に反応の進んだオリゴマー状エステル化合物、それらにアルキレンオキサイドが付加した生成物、アルキレンオキサイドが水と反応して生成するアルキレングリコール等の混合物となる。これらのおおよその組成比(分子量分布)はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)等で分析することも可能である。ハロゲン原子含有エステル組成物(A)における、C−A−B型及び/又はC−A−B−A−C型の含有量は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上、更に好ましくは30重量%以上である。20重量%より小さくても構わないが、未反応のアルコールが多くなる等でハロゲン濃度が低くなる場合は、難燃性が低下する可能性がある。また、更に反応の進んだオリゴマー状エステル化合物が多い場合には、粘度が高くなって取り扱いが困難になる場合もある。
【0034】
アルコールとしてポリエチレングリコールのような分子量分布を持ったものを用いた場合、また、アルキレンオキサイドがカルボキシル基に2モル以上付加した場合、未反応のアルコールや第1工程で生成した水酸基、第2工程でアルキレンオキサイドの付加後に生成する水酸基等に更にアルキレンオキサイドが付加した場合、これらの反応生成物のおおよその組成比(分子量分布)をゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)等で分析することが難しくなる。その場合、仕込原料から算出される製品の水酸基価と、実際に製品を分析した水酸基価を比較することにより、反応が想定どおり進行したかどうかの目安とすることができる。例えば、仕込原料から算出される製品の水酸基価に対し、製品の水酸基価の実測値が低い場合、何らかの形でアルキレンオキサイドが多く付加しているものと考えられる。
【0035】
第2工程におけるアルキレンオキサイドの必要量は、カルボキシル基1モル当り1モルであるが、付加反応を効率良く進めるためには、過剰に用いるのが好ましい。アルキレンオキサイドの過剰量は、カルボキシル基1モル当り、通常0.3〜10モル、好ましくは
0.5〜7モル、更に好ましくは1〜5モルである。アルキレンオキサイドを過剰に用いた場合は残存するアルキレンオキサイドを反応後に減圧下で留去する。
【0036】
第2工程における反応温度は、通常50〜170℃、好ましくは70〜150℃の範囲である。反応温度が50℃未満の場合は反応時間が長くなり、170℃を超える場合は反応生成物が著しく着色したり、変質が起こりやすくなる。50℃程度で反応開始し、アルキレンオキサイドの還流や反応の進行状況を確認しつつ徐々に150℃程度まで昇温するような条件であれば反応を制御しやすい。
【0037】
一方、反応圧力は、特に限定されず、常圧もしくは任意の加圧条件を採用し得る。アルキレンオキサイドは沸点の低いものが多いので、反応温度や仕込量(仕込モル比)に応じた圧力にて反応を行うこととなる。また、反応後には減圧し、過剰のアルキレンオキサイドや水分を留去する。
【0038】
反応開始時には、製品の着色を防ぐために反応容器の空間部を窒素置換し、更に反応液中の溶存酸素も除去することが好ましい。また、反応形式は、通常のバッチ設備あるいは連続設備で適用できるが、アルキレンオキサイドを用いることから加圧反応に適用しやすいバッチ反応の方が好ましい。
【0039】
第2工程における反応時間は、通常1〜5時間程度である。反応終点は、反応液をサンプリングして酸価を測定することによって判断する。未反応のカルボキシル基は、通常5mgKOH/g以下、好ましくは4mgKOH/g以下、更に好ましくは3mgKOH/g以下とされる。
【0040】
第2工程のアルキレンオキサイドの付加反応によって新たな水酸基が生成するが、第1工程で原料として用いたアルコール由来の水酸基と合わせ、その含有量を水酸基価として定量することができる。水酸基価は、原料の組み合わせによって高い範囲から低い範囲まで調節することができるが、通常30〜500mgKOH/g、好ましくは40〜450mgKOH/g、更に好ましくは50〜400mgKOH/gである。30mgKOH/g未満の場合は粘度が高くなって取り扱いが困難になる可能性があり、500mgKOH/gを超える場合は未反応のアルコールが多くなることでハロゲン濃度が下がり、難燃性が低下する。
【0041】
ハロゲン原子含有エステル組成物(A)のハロゲン濃度は原料の仕込比より計算することができる。また、燃焼法と組み合せた滴定法、重量法やイオンクロマトグラフ法といった元素分析によりハロゲンを定量することが出来る。一般にハロゲン濃度が高い方が難燃性も高くなるので、難燃剤として用いる際に好適である。ハロゲン濃度は、塩素の場合、通常5〜50重量%、好ましくは6〜45重量%、更に好ましくは7〜40重量%である。また、臭素の場合は、通常5〜80重量%、好ましくは6〜75重量%、更に好ましくは7〜70重量%である。ハロゲン濃度が5重量%未満の場合は、難燃剤として用いる場合に添加量を多くする必要があり、塩素濃度で50重量%を超える場合や臭素濃度で80重量%を超える場合は粘度が著しく高くなって取り扱いが困難になる場合がある。
【0042】
ハロゲン原子含有エステル組成物(A)は、前述の第1及び第2の工程を経て得られるエステル組成物を有効成分として含有するものであり、特に、多価アルコール由来の水酸基及びアルキレンオキサイドの付加反応で新たに生成する水酸基を有するため、高い難燃性を求められるポリウレタンフォームに好適に用いることができる。
【0043】
[スコーチ抑制剤(B)]
本発明で使用するスコーチを抑制剤(B)は、環状エステル化合物、環状炭酸エステル化合物、エステル結合の隣に不飽和結合を有する化合物、アリルエーテル化合物の群から選ばれる少なくとも1種である。
【0044】
環状エステル化合物としては、炭素数4〜8のラクトン化合物が挙げられ、具体的には、ブチロラクトン、カプロラクトン、バレロラクトン等が挙げられる。環状炭酸エステル化合物としては、炭素数4〜8のアルキレンカーボネートが挙げられ、具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。これらの中では、ブチロラクトン又はプロピレンカーボネートが好ましい。アリルエーテル化合物としては、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールジアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリエチレングルコールモノアリルエーテル、トリエチレングルコールジアリルエーテル等が挙げられる。
【0045】
エステル結合の隣に不飽和結合を有する化合物としては、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、フタル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル等が挙げられる。これらの中では、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジオクチル、マレイン酸ジ2−エチルヘキシル等のマレイン酸エステル、あるいは同様のフマル酸エステルが好ましい。
【0046】
[ポリウレタンフォーム製造原料用エステル組成物]
本発明のポリウレタンフォーム製造原料用エステル組成物は、前述のハロゲン原子含有エステル組成物(A)にスコーチ抑制剤(B)を含有させて成るが、スコーチ抑制剤(B)の含有量は、ポリウレタンフォーム製造条件をも考慮して適宜選択することが出来る。
【0047】
一般的に、スコーチ抑制剤(B)の含有量は、ポリウレタンフォームの製造に使用するポリオール全量の100重量部に対する割合として、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜7重量部、更に好ましくは0.5〜5重量部である。使用量が0.1重量部未満ではスコーチを抑制する効果が小さく、10重量部を超えると難燃性を悪化させる場合がある。因に、前述のハロゲン原子含有エステル組成物(A)の使用量は、全ポリオール中の割合として、通常1〜40重量%、好ましくは2〜35重量%、更に好ましくは3〜30重量%である。1重量%より少ない場合はポリウレタンフォームの難燃性を向上させる効果が小さく、40重量%を超えると機械強度等の物性に悪影響を与える可能性がある。
【0048】
<ポリウレタンフォームの製造方法>
本発明に係るポリウレタンフォームの製造方法は、ポリイソシアネート、ポリオール、スコーチ抑制剤、発泡剤、触媒、界面活性剤を原料として使用するポリウレタンフォームの製造方法である。そして、ポリオールの一部として前述のハロゲン原子含有エステル組成物を使用し、前述のスコーチ抑制剤を使用することを特徴とする。
【0049】
本発明に係るポリウレタンフォームの製造方法においては、ポリウレタンフォーム製造原料用エステル組成物(スコーチ抑制剤を含有するハロゲン原子含有エステル組成物)を使用するのが簡便であるが、必ずしも、スコーチ抑制剤がハロゲン原子含有エステル組成物に含有されている必要はない。
【0050】
[ポリイソシアネート]
本発明における好ましいポリイソシアネートは、芳香族ポリイソシアネート又はその変性物であり、特に好ましくは、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート及びこれらの変性物である。これらは、2種以上を併用してもよい。ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートとしては、イソシアネート基含有率が通常25〜35重量%、粘度が通常500mPa・s(25℃)以下のものが好適に使用される。また、これらの変性物のうち、カルボジイミド変性物は、公知のリン系触媒などを使用してカルボジイミド結合を導入したものである。プレポリマーは、上記のポリイソシアネートとポリオールとを反応させ、末端にイソシアネート基を残したものである。その際、使用するポリオール成分は、ポリウレタンを製造する際に使用するポリオール成分が使用できる。
【0051】
実用的には、ポリイソシアネート液として、これらのポリイソシアネートの他に、用途に応じて、添加剤や助剤をポリイソシアネートに混合して使用してもよい。例えば、前述のポリウレタンフォーム用組成物との混合性を向上させる目的で、ポリウレタンフォーム用組成物でも使用される界面活性剤を相溶化剤として併用する場合がある。この場合は、ノニオン系界面活性剤が好ましく、特にシリコーン系界面活性剤が好ましい。また、難燃性の向上や粘度の調整を目的として、難燃剤を併用する場合がある。通常、クロロアルキルホスフェート類、例えば、トリス(ベータクロロエチル)ホスフェートやトリス(ベータクロロプロピル)ホスフェート等が使用される。上記以外の添加剤や助剤については、特に限定されるものではなく、通常の樹脂において物性向上や操作性向上などの目的で使用され、著しい悪影響を及ぼすものでなければ何を使用しても構わない。
【0052】
[ポリオール]
本発明においては、ポリオールの一部として前述のハロゲン原子含有エステル組成物を使用するが、他のポリオールとしては、水酸基価が30〜800mgKOH/g、官能基数が1.1〜8の公知のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げることが出来、これらは2種類以上を併用して使用することができる。
【0053】
ポリエステルポリオールとしては、安息香酸、オルトフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族又は脂肪族のカルボン酸の1種類以上と、オクタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の1〜4価のアルコールの1種類以上とのエステル化反応により得られるポリエステルポリオールや、ブチロラクトン、カプロラクトン等の開環重合で得られるポリエステルポリオールが挙げられ、水酸基価が通常30〜500mgKOH/g、好ましくは35〜450mgKOH/g、さらに好ましくは40〜400mgKOH/g、官能基数が通常1.1〜3.0、好ましくは1.2〜2.8、さらに好ましくは1.5〜2.5のポリエステルポリオールが挙げられる。
【0054】
これらのポリエステルポリオールのうち、ポリウレタンフォームの難燃性向上の観点から、カルボン酸として、オルトフタル酸、テレフタル酸又はイソフタル酸のうち少なくとも1種を原料とするポリエステルポリオール(b)を用いることが好ましい。全ポリオール中のポリエステルポリオール(b)の含有量は通常、10〜90重量%、好ましくは15〜85重量%、さらに好ましくは20〜80重量%である。
【0055】
ポリエステルポリオール(b)の原料となるカルボン酸中のオルトフタル酸、テレフタル酸及びイソフタル酸の割合(2種以上用いる場合は、その合計の割合)は、いずれも通常5〜100モル%、好ましくは10〜95モル%、さらに好ましくは15〜90モル%である。これらのカルボン酸のうち、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸を用いることが好ましい。
【0056】
また、ポリエステルポリオール(b)の原料となるカルボン酸として、オルトフタル酸、テレフタル酸及びイソフタル酸の他のカルボン酸を用いることも出来る。例えば、ポリウレタンフォームの脆性、接着性を向上させるためには、脂肪族多価カルボン酸を用いることができ、特にコハク酸及び/又はアジピン酸を用いることが好ましい。ポリエステルポリオール(b)の原料となるカルボン酸中の脂肪族多価カルボン酸の割合(併用する場合はその合計の割合)は、通常1〜95モル%であり、好ましくは5〜75モル%、さらに好ましくは10〜70モル%である。
【0057】
ポリエーテルポリオールとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン等の1種類以上から得られる重合物、エチレングリコール、プロパンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ソルビトール、ショ糖等のアルコール類と上記アルキレンオキシドとの付加物、エチレンジアミン、トルエンジアミン等のアミン類と上記アルキレンオキシドとの付加物、マンニッヒ変性ポリオール、ポリマーポリオール等、公知のポリエーテルポリオールを使用することができ、水酸基価が通常30〜800mgKOH/g、好ましくは35〜750mgKOH/g、さらに好ましくは40〜700mgKOH/g、官能基数が通常2.0〜8.0、好ましくは2.0〜7.5、さらに好ましくは2.0〜7.0のポリエーテルポリオールが挙げられる。これらのポリエーテルポリオールは2種類以上を併用して用いることもできる。
【0058】
また、上記のポリオール以外にも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、グリセリン等のアルコール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等もポリオールとして併用することができる。
【0059】
[発泡剤]
発泡剤としては、オゾン破壊係数が0.1以下の発泡剤、例えば、水、HFC−245fa、HFC−365mfc等のHFC系発泡剤、ペンタン、シクロペンタン等のHC系発泡剤、HFO−1234ze、HFO−1234yf、等のHFO系発泡剤が挙げられる。水はポリイソシアネートとの反応で炭酸ガスを発生させることで発泡剤として作用する。環境への配慮から、これら発泡剤のうち水のみを使用することが好ましい。発泡剤の配合量は目的とするポリウレタンフォームの密度により適宜選択されるが、水のみを用いる場合であれば、ポリオール100重量部に対して通常1〜30重量部、好ましくは1.5〜27重量部、さらに好ましくは2〜25重量部である。1重量部未満の場合、得られるポリウレタンフォームの密度が高くなりすぎて実用的でなく、30重量部を超える場合は寸法安定性等の物性が悪化する。
【0060】
[触媒]
触媒としては、通常のポリウレタンフォームの製造に使用される公知の触媒が使用できる。例えば、トリエチレンジアミン、N,N−テトラメチルヘキサンジアミン等のアミン系触媒の他に、四級アンモニウム塩系、オクチル酸カリウム等のカリウム系、ジブチル錫ジラウレート、オクチル酸錫などの錫系、オクチル酸鉛などの鉛系などの金属系触媒などが挙げられる。触媒の配合量は、目的とするポリウレタンフォームの反応性や物性により適宜選択されるが、泡化触媒、樹脂化触媒、バランス型触媒、三量化触媒等を組み合わせるのが一般的である。
【0061】
[界面活性剤]
本発明で使用する界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の何れであってもよいが、ノニオン系界面活性剤が好ましく、特にシリコーン系界面活性剤が好ましい。これらの界面活性剤の使用量は、ポリオール100重量部に対して0.5〜10重量部であり、また、2種以上の界面活性剤を使用してもよい。
【0062】
[その他の助剤]
その他の助剤としては、用途に応じて様々な化合物を、添加剤、助剤として使用することが出来る。例えば、代表的な添加剤として難燃剤が挙げられる。例えば、難燃剤としては、通常、クロロアルキルホスフェート類、例えば、トリス(ベータクロロエチル)ホスフェート、トリス(ベータクロロプロピル)ホスフェート等が使用される。上記以外の添加剤や助剤については、特に限定されるものではなく、通常の樹脂において物性向上や操作性向上などの目的で使用されるものであれば、著しい悪影響を及ぼすものでない限りにおいて使用することができる。
【0063】
[ポリウレタンフォームの製造条件]
本発明において、ポリイソシアネートとポリオールを混合する際のイソシアネートインデックスは、〔(全イソシアネート基のモル数)/(水を除く全活性水素基のモル数)×100〕であり、通常50〜400、好ましくは60〜390、さらに好ましくは70〜380である。イソシアネートインデックスが50未満の場合は、得られたポリウレタンフォームが十分な強度を有しないことがあり、400を超える場合は、得られるポリウレタンフォームの脆性が高くなり、接着強度が低下する傾向にある。尚、発泡剤に水を用いた場合は水により消費されるポリイソシアネートも別途加えておく必要があるが、その場合のイソシアネートインデックス〔(水に消費されるイソシアネート基のモル数)/(水の全活性水素基のモル数)×100〕は常に100として算する。
【0064】
本発明のポリウレタンフォームの密度は、フリーフォームのコア密度で表し、10〜70kg/m、好ましくは15〜65kg/m、更に好ましくは20〜60kg/mである。密度が10kg/m未満の場合、得られるポリウレタンフォームが十分な難燃性や機械強度を持たず、70kg/mを超える場合はコスト高となる。
【0065】
本発明のポリウレタンフォームは連続気泡、半連続気泡、独立気泡の何れにも適用可能である。一般的に断熱材としての用途では高い断熱性能が要求されるため、独立気泡率は高いほうが好ましい。一方、断熱性能が最優先とならない用途では、ポリウレタンフォームの気泡の一部または全部を連続化させることで、更なる低密度化や寸法安定性の改善を行うことができる。気泡を連続化させる方法としては、例えばグリセリンにプロピレンオキシドを付加させた長鎖ポリエーテルポリオールを配合する方法、例えばステアリン酸カルシウムやミスチリン酸カルシウムのようなモノカルボン酸の金属塩や、例えばポリエチレンや酢酸ビニルのような熱可塑性樹脂粉末を配合する方法、気泡の連続化を促す整泡剤を配合する方法等が挙げられる。
【0066】
本発明のポリウレタンフォームの製造方法は、ポリイソシアネート、ポリオール、発泡剤、触媒、界面活性剤、その他助剤及びポリイソシアネートを混合して発泡硬化させるというものであるが、実用的には、ポリイソシアネートをA液、ポリオールをB液として、水、触媒、界面活性剤およびその他助剤などは、予め、A液及び/又はB液に適宜混合させ、後述する装置を使用して2液を混合し、発泡、硬化させるという方法である。尚、発泡剤、触媒、界面活性剤は、B液に混合するのが好ましいが、場合によってはA液に混合させたり、それぞれの成分をウレタン化反応の直前まで混合せずに3種類以上の原料液として取り扱ったりする場合もある。
【0067】
本発明のポリウレタンフォームを製造するにあたっては、A液とB液を均一に混合可能であれば如何なる装置でも使用することができる。例えば、小型ミキサーの他、一般のウレタンフォームを製造する際に使用する注入発泡用の低圧または高圧発泡機、スラブ発泡用の低圧または高圧発泡機、連続ライン用の低圧または高圧発泡機、吹き付け工事用のスプレー発泡機等を使用することができる。尚、ポリウレタンフォームを製造するに際し、A液およびB液のそれぞれの液温は、通常20〜60℃に調節される。
【0068】
本発明のポリウレタンフォームには、必要に応じてその片面もしくは両面に適当な面材を設けることができる。面材としては、例えば、紙、木材、石膏ボード、樹脂、アルミニウム箔、鋼板等が使用される。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0070】
<ハロゲン原子含有エステル組成物の合成>
合成例1〜5及び参考合成例1、2:
以下の方法に従って、ハロゲン原子含有エステル組成物の合成と分析を行った。
【0071】
攪拌機、冷却管、温度計、圧力計、加熱装置などを装備した容積が300ミリリットルのガラス製反応器に表1に示す原料比で第1工程の原料を仕込み、反応器の空間部を窒素ガス置換した後、常圧にて反応器の加熱を開始した。反応器内温が100℃に達した時点から30分間保持した後、−100kPaまで減圧して更に15分間保持することで系内の水分等を留去した。その後、30℃程度まで冷却して窒素にて常圧に戻した。続いて、表1に示す原料比で第2工程の原料(プロピレンオキサイド)をシリンジにて添加して、常圧にて再度反応器の加熱を開始した。50〜60℃程度でプロピレンオキサイドの還流が始まり、プロピレンオキサイドの還流を維持しつつ1〜2時間程度をかけて120℃まで昇温、そのまま2時間保持した後、−100kPaまで減圧して更に15分間保持することで未反応のプロピレンオキサイド等を留去した。その後、30℃程度まで冷却して窒素にて常圧に戻し、反応生成物を抜き出して酸価、水酸基価、粘度、水分の分析を行った。それぞれの分析結果を表1に示し、塩素濃度についても原料比から求めて表1に示した。尚、表1に記載の原料比はモル比であり、第2工程終了後の製品取得量が100g程度なるように、それぞれのモル比から仕込量を決めた。
【0072】
<分析方法>
(1)酸価:
JIS K1557 1970に準拠して測定した。
(2)水酸基価:
JIS K1557 1970に準拠して測定した。
(3)粘度:
JIS K1557 1970に準拠して回転粘度計(B型粘度計)を用い、25℃で測定した。
(4)水分:
JIS K1557 1970に準拠して測定した。
【0073】
【表1】
【0074】
参考例1〜3、比較参考例1〜3:
前記のハロゲン原子含有エステル組成物の難燃剤としての効果を確認するため、以下の方法に従って、ポリウレタンフォームを作成し、その難燃性を評価した。
【0075】
<プレミックス液の調製>
表2に示す原料と配合でプレミックス液を調製した。尚、本発明のエステル組成物はポリオール成分の一部として扱い、表中の配合比率は全ポリオール成分を100重量%とした場合の重量%で示した。
【0076】
<ポリウレタンフォームの作成>
表2に記載のプレミックス液と、ポリイソシアネート液を所定量ポリカップに採り、電
動ミキサーで高速混合した後に上面と下面に鋼板面材を準備した金型に流し込んで型締めし、ポリウレタンフォームの鋼板面材サンドイッチパネルを作成した。その際の条件を表4に示す。尚、ポリイソシアネート液はポリメリックMDI(日本ポリウレタン工業株式会社製「ミリオネートMR−200」)を用い、イソシアネートインデックスは300とした。
【0077】
【表2】
【0078】
表2の配合において、原料は以下の表3に記載のものを用いた。
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
得られたポリウレタンフォームの鋼板面材サンドイッチパネルは、中央部を99×99mmに切断して試験片を作成し、コーンカロリー試験にて難燃性を評価した。コーンカロリー試験はISO5660−1(2002)に準拠し、試験時間は20分(不燃)で行った。判定の基準は以下のとおりであり、結果は表2に示した。
【0082】
<コーンカロリー試験(不燃)判定基準>
(1)加熱開始後20分間の総発熱量が、8MJ/m以下であること。
(2)加熱開始後20分間、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がないこと。
(3)加熱開始後20分間、最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/mを超えないこと。
【0083】
以上の結果より、主に次のことが明らかである。
【0084】
(1)合成例1、2、5のエステル組成物を用いた参考例1、2、3と参考合成例1のエステル組成物を用いた比較参考例1との比較結果:
2価の塩素化カルボン合成例1、2、5のエステル組成物を用いた参考例1、2、3の場合、コーンカロリー試験に合格する高い難燃性が得られるが、適切なモル比から外れた参考合成例1のエステル組成物を用いた比較参考例1の場合、難燃性が低下してコーンカロリー試験に不合格となる。
【0085】
(2)合成例1、2、5のエステル組成物を用いた参考例1、2、3と参考合成例2のエステル組成物を用いた比較参考例2との比較結果:
2価の塩素化カルボン酸無水物を用いた合成例1、2、5のエステル組成物を用いた参考例1、2、3の場合、コーンカロリー試験に合格する高い難燃性が得られるが、塩素を持たない2価のカルボン酸無水物を用いた参考合成例2のエステル組成物を用いた比較参考例2の場合、コーンカロリー試験に不合格となる。
【0086】
(3)合成例1、2、5のエステル組成物を用いた参考例1、2、3と比較参考例2との比較結果:
本発明で使用するハロゲン原子含有エステル組成物を用いた参考例1、2、3の場合、コーンカロリー試験に合格する高い難燃性が得られるが、上記のハロゲン原子含有エステル組成物を用いなかった比較参考例3の場合、コーンカロリー試験に不合格となる。
【0087】
実施例1〜4及び比較例1:
<プレミックス液の調製>
表5に示す原料と配合でプレミックス液を調製した。尚、ハロゲン原子含有エステル組成物はポリオールの一部として扱い、表中の配合比率は全ポリオールを100重量%とした場合の重量%で示した。
【0088】
【表5】
【0089】
表5の配合における、発泡剤、触媒1〜3、整泡剤、添加剤の内容は、前述の表3と同じである。
【0090】
<ポリウレタンフォームの作成>
表5に記載のプレミックス液と、ポリイソシアネート液を所定量ポリカップに採り、電動ミキサーで高速混合した後に木箱に流し込んで発泡させた。その際の条件を表6に示す。尚、ポリイソシアネート液はポリメリックMDI(日本ポリウレタン工業株式会社製「ミリオネートMR−200」)を用い、イソシアネートインデックスは300とした。
【0091】
【表6】
【0092】
得られたポリウレタンフォームは中央部を切断して内部を観察し、スコーチの発生状況を以下の基準で評価した。結果は表5に示した。
【0093】
<スコーチ判定基準>
○:フォームにやや黄変があるが、脆さ等の悪影響が殆ど認められない。
×:スコーチが発生し、フォームが茶色〜黒色に変化している。
【0094】
以上の結果より、主に次のことが明らかである。
【0095】
ハロゲン化カルボン酸無水物をアルコールで開環反応させた後、開環反応生成物のカルボキシル基にアルキレンオキサイドを付加させたエステル組成物を用いた比較例1の場合、スコーチが発生する。一方、環状エステル化合物、環状炭酸エステル化合物、エステル結合の隣に不飽和結合を有する化合物、アリルエーテル化合物から選ばれる少なくとも1種を用いた実施例の場合、いずれもスコーチの改善が認められた。