(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光反射層が金属又は誘電体の一層または複層構成であり、層厚が30nm以上70nm以下、望ましくは50nmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の表示体。
前記レリーフ構造形成層が、前記第1樹脂領域及び第2樹脂領域とは屈折率が異なる透明又は半透明の光透過性樹脂によって構成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の表示体。
前記レリーフ構造形成層に、回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体、平坦面のいずれかから構成される第3レリーフ構造形成領域を更に有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の表示体。
【背景技術】
【0002】
一般に、商品券及び小切手などの有価証券類、クレジットカード、キャッシュカード及びIDカードなどのカード類、並びにパスポート及び免許証などの証明書類には、それらの偽造を防止するために、通常の印刷物とは異なる視覚効果を有する表示体が貼り付けられている。また、近年、これら以外の物品についても、偽造品の流通が社会問題化している。そのため、そのような物品に対しても、同様の偽造防止技術を適用する機会が増えてきている。
【0003】
通常の印刷物とは異なる視覚効果を有している表示体としては、複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。また、回折格子が表現する虹色に輝く分光色は、通常の印刷技術では表現することができない。そのため、回折格子を含んだ表示体は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、溝の長さ方向又は格子定数(即ち溝のピッチ)が異なる複数の回折格子を配置して絵柄を表示することが記載されている。回折格子に対する観察者又は光源の相対的な位置が変化すると、観察者の目に到達する回折光の波長が変化する。従って、上記の構成を採用すると、虹色に変化する画像を表現することができる。
【0005】
回折格子を利用した表示体では、複数の溝を形成してなるレリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。レリーフ型回折格子は、通常、フォトリソグラフィを利用して製造した原版から複製することにより得られる。
【0006】
例えば、特許文献1には、レリーフ型回折格子の原版の作製方法として、一方の主面に感光性レジストを塗布した平板状の基板をXYステージ上に載置し、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら感光性レジストに電子ビームを照射することにより、感光性レジストをパターン露光する方法が記載されている。また、回折格子の原版は、二光束干渉を利用して形成することもできる。
【0007】
レリーフ型回折格子の製造では、通常、まず、このような方法により原版を形成し、そこから電鋳等の方法により金属製のスタンパを作製する。次いで、この金属製スタンパを母型として用いて、レリーフ型の回折格子を複製する。即ち、まず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)からなるフィルム又はシート状の薄い透明基材上に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布する。次に、塗膜に金属製スタンパを密着させ、この状態で樹脂層に熱又は光を与える。樹脂が硬化した後、硬化した樹脂から金属製スタンパを剥離することにより、レリーフ型回折格子の複製物を得る。
【0008】
一般に、このレリーフ型回折格子は透明である。従って、通常、レリーフ構造を設けた樹脂層上には、蒸着法を用いてアルミニウムなどの金属又は酸化チタンなどの誘電体を単層又は多層に堆積させることにより光反射層を形成する。
【0009】
その後、このようにして得られた表示体を、例えば紙又はプラスチックフィルムからなる基材上に接着層又は粘着層を介して貼り付ける。以上のようにして、偽造防止対策を施した表示体を得る。
【0010】
レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造に使用する原版は、それ自体の製造が困難である。また、金属製スタンパから樹脂層へのレリーフ構造の転写は、高い精度で行わなければならない。即ち、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造には高い技術が要求される。
【0011】
しかしながら、偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、回折光によって虹色の光を呈することのみを特徴とした表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、高い偽造防止効果と特徴的な視覚効果を示す表示体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために第1の発明は、少なくともレリーフ構造形成層、光反射層、光透過性樹脂層が積層された多層構造から成る表示体であって、前記レリーフ構造形成層は、表示体の表示面に対して略平行且つ平滑な第1面と、前記第1面と略平行な第2面とから成る複数個の凸部又は凹部が整然配置または非整然配置によって形成されており、前記凸部又は凹部を構成する第1面及び第2面の高低差が略一定である第1レリーフ構造形成領域を構成し、前記光反射層は、前記レリーフ構造形成層及び前記光透過性樹脂層の間の少なくとも一部に設けられ、前記レリーフ構造形成層の複数の凸部又は凹部の形状に追従して形成された薄膜層であり、前記光透過性樹脂層は、可視光に対して互いに屈折率が異なる透明又は半透明の光透過性樹脂から成る第1樹脂領域及び第2樹脂領域を構成することを特徴とする表示体である。
【0015】
また第2の発明は、前記凸部又は凹部を構成する第1面及び第2面の高低差が略一定であり、且つ、前記第1レリーフ構造形成領域とはその高低差が異なる第2レリーフ構造形成領域を更に有することを特徴とする
第1
の発明の表示体である。
【0016】
また第3の発明は、前記第1樹脂領域及び第2樹脂領域と、前記第1レリーフ構造形成領域及び第2レリーフ構造形成領域とが部分的に重なり合う関係で構成されていることを特徴とする
第2
の発明の表示体である。
【0017】
また第4の発明は、前記光反射層が金属又は誘電体の一層または複層構成であり、層厚が30nm以上70nm以下、望ましくは50nmであることを特徴とする
第1乃至3のいずれか1
の発明の表示体である。
【0018】
また第5の発明は、前記第1樹脂領域と第2樹脂領域の屈折率差が0.15以上であることを特徴とする
第1乃至3のいずれか1
の発明の表示体である。
【0019】
また第6の発明は、前記レリーフ構造形成層が、前記第1樹脂領域及び第2樹脂領域とは屈折率が異なる透明又は半透明の光透過性樹脂によって構成されていることを特徴とする
第1乃至5の何れか1
の発明の表示体である。
【0020】
また第7の発明は、前記レリーフ構造形成層に、回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体、平坦面のいずれかから構成される第3レリーフ構造形成領域を更に有することを特徴とする
第1乃至6のいずれか1
の発明の表示体である。
【0021】
また第8の発明は、
第1乃至7のいずれか
の発明の表示体とこれを支持した物品とを具備したことを特徴とするラベル付き物品である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の構成とすることによって、第1の発明によると、表示体は複数の凸部又は凹部を有するレリーフ構造形成層を含んでいる。複数の凸部又は凹部は、表示体の表示面に対して略平行且つ平滑な第1面と、前記第1面と略平行な第2面とから構成された断面形状が略矩形状の構造である。このような構造に対して、白色照明光が入射すると、第1面で反射する光と第2面で反射する光との間で光路長(幾何学的な距離に屈折率を乗じたもの)に差が生じ、光路長に対応して光の干渉によって特定の波長の光が弱めあう。そのため、射出される光は白色ではなく、第1面及び第2面の高低差によって決定される特定の波長による任意の色調を表示可能な光となる。レリーフ構造形成層から射出される干渉によって弱められなかった複数の波長の光は、複数個の突部又は凹部が整然配置または非整然配置されていることによって、それぞれ射出する角度が様々に変化する。その結果、各波長の光は混ざりあって複数の波長の光の混色による所謂パステル調の表示色を表示可能である。これらの光は混ざりあっているため、従来の回折格子パターンによる回折光とは異なる観察角度の変化に伴う虹色状の色変化を呈しにくい。しかしながら、干渉によって射出される光は複数個の凸部又は凹部の大きさや配置間隔、密度などの要因によって決定される方向でのみ観察が可能であり、それ以外の方向には射出光が到達せず、表示色は観察されない。よって、観察角度に応じた表示色の見える、見えないの変化が得られ、通常の印刷物とも異なる視覚効果が実現される。
【0023】
レリーフ構造形成層の凸部又は凹部の形状に追従して形成される光反射層は、入射する光をより強く反射するのに寄与し、前記特定の波長による任意の色調をより明確に表示可能にする。
【0024】
また、前記光透過性樹脂層は、可視光に対して互いに屈折率が異なる透明又は半透明の光透過性樹脂から成る第1樹脂領域及び第2樹脂領域を有している。互いに屈折率が異なる第1樹脂領域及び第2樹脂領域に入射した光はそれぞれ光路長が異なるため、凸部又は凹部の高低差が同一であった場合、射出される光はそれぞれ異なる波長の光となる。それによって、第1樹脂領域及び第2樹脂領域は互いに異なる色調の色を表示可能となる。
【0025】
この光学作用によって呈される表示色は、従来の回折格子パターンのように照明の位置や観察者の位置の変化に伴う虹色の色変化が起きにくく、従来の回折格子パターンによる偽造防止媒体とは異なる視覚効果を実現できる。その結果、特徴的な視覚効果と高い偽造防止効果を発揮する表示体を得ることができる。
【0026】
また、第2の発明によると、表示体は、第1レリーフ構造形成領域の凸部又は凹部を構成する第1面及び第2面による高低差とは異なる高低差を有する凸部又は凹部から成る第2レリーフ領域を更に有している。第1レリーフ構造形成領域の凹凸構造の高低差と第2レリーフ構造形成領域の凹凸構造の高低差は互いに異なるため、入射する光が反射する際に幾何学的な距離が変わることによって光路長が異なり、それぞれ別々の波長の光が干渉し、異なる波長の光が射出される。第1レリーフ構造形成領域と第2レリーフ構造形成領域を有し、更に屈折率が異なる第1樹脂領域及び第2樹脂領域を備えることによって多色の表示が可能となる。
【0027】
また、第3の発明によると、前記第1樹脂領域及び第2樹脂領域と、前記第1レリーフ構造形成領域及び第2レリーフ構造形成領域とは表示体を観察した際に空間的に互いに部分的に重なり合う関係で配置、構成されている。それによって、重なり合う組み合わせに応じて構造の高低差及び屈折率差によって異なる光路長となり、それぞれ別々の色が表示可能となる。
【0028】
また、第4の発明によると、前記光反射層はアルミニウム、金、銀などの金属、又は、硫化亜鉛、酸化チタンなどの誘電体が一層または複層構成で設けられた構成である。また、光反射層の層厚は30nm以上且つ70nm以下であり、望ましくは50nmである。このような構成の光反射層を前記レリーフ構造形成層の複数の凸部又は凹部の形状に追従するように設けることによって凸部又は凹部の矩形状の形状を極力鈍らせずに十分な反射光量を得ることが可能になる。
【0029】
また、第5の発明によると、前記第1樹脂領域と第2樹脂領域の屈折率差は0.15以上である。屈折率差が0.15以上あることによって、レリーフ構造形成層から射出される光の光路長の差が大きくなり、第1樹脂領域及び第2樹脂領域を観察した際の表示色を互いに明確に異なる色にすることができる。
【0030】
また、第6の発明によると、前記レリーフ構造形成層は透明又は半透明の光透過性樹脂によって構成され、その屈折率は前記第1樹脂領域及び第2樹脂領域とは異なっている。このようなレリーフ構造形成層を採用することによって、光透過性樹脂層側から観察した際には第1樹脂領域と第2樹脂領域とでそれぞれ異なる表示色が見え、且つ、レリーフ構造形成層側から観察した際には、更に第1樹脂領域及び第2樹脂領域とは異なる表示色が観察可能な表示体が得られる。
【0031】
また、第7の発明によると、前記レリーフ構造形成層に、回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体、平坦面のいずれかから成る第3レリーフ構造形成領域を設けることで表示体の意匠性を更に高めることができるとともに、更に高い偽造防止効果を実現できる。
【0032】
また、第8の発明によると、本発明の表示体を、印刷物やカード、その他の物品に貼りあわせる、または組み合わせることによって、従来の物品に高い偽造防止効果を付与することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0035】
(表示体の構成について)
図1は、本発明の一実施形態に係る表示体を概略的に示す平面図である。
図2は、
図1に示す表示体のII−II線に沿った断面図である。なお、
図1及び
図2において、x方向及びy方向は表示体の表示面に対して平行であり、且つ、互いに対して垂直な方向である。また、z方向は、x方向及びy方向に対して垂直な方向である。
【0036】
この表示体1は、
図1に示すように、観察者から見て上面側に配置された第1樹脂領域41及び第2樹脂領域42によって双方の表示色の違いにより文字「TP」が表示されている。第1樹脂領域41及び第2樹脂領域42の背面側には表示体1全面に渡って第1レリーフ構造形成領域11が構成されている。
図2に示すように、レリーフ構造形成層10は観察者が表示体1を観察する方向とは反対側(背面側)に配置され、レリーフ構造形成層10の一方の面には表示体1の表示面と略平行で且つ平滑な第1面21と、この第1面21に略平行な第2面22とから成る凸部20が複数形成されている。第1レリーフ構造形成領域11はレリーフ構造形成層10の複数の凸部20が形成されている領域である。また、レリーフ構造形成層10の凹凸構造の形状に追従するように光反射層30が形成されている。また、光反射層30の上面(観察者側)には更に光透過性樹脂層40が形成されている。光透過性樹脂層40は屈折率が互いに異なる透明又は半透明の光透過性樹脂から成る第1樹脂領域41及び第2樹脂領域42から構成されている。
【0037】
レリーフ構造形成層10の材料としては、例えば、電離放射性硬化樹脂又は熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などの合成樹脂を使用することができる。
【0038】
光反射層30としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、光透過性樹脂層40とは屈折率が異なる硫化亜鉛ZnSや酸化チタンTiO
2等による誘電体層を使用してもよい。或いは、光反射層30として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。光反射層30は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0039】
光反射層30は、表示体1に入射する光を効率よく反射、射出させることで、反射光の光量の増加に寄与する。光反射層30はレリーフ構造形成層10の全面を覆うように形成されていてもよく、その一部のみを覆っていてもよい。レリーフ構造形成層10の一部のみを覆った光反射層30、即ち、絵柄や文字、記号などがパターニングされた光反射層30は、例えば、気相堆積法により連続膜としての光反射層を形成し、その後、薬品などによりその一部を溶解させることによって得られる。或いは、パターニングされた光反射層30は、連続膜として形成され、その後、レリーフ構造形成層10に対する光反射層30の密着力と比較して光反射層30に対する接着力がより高い接着材料を用いて光反射層30の一部をレリーフ構造形成層10から剥離することによっても得ることができる。或いは、パターニングされた光反射層30は、マスクを用いて気相堆積を行う方法、又は、リフトオフプロセスを利用する方法により得ることができる。
【0040】
光透過性樹脂層40は、光透過性を有する透明、または半透明、特には無色透明の層である。光透過性樹脂層40の材料としては、例えば、電離放射性硬化樹脂又は熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などの合成樹脂を使用することができる。
【0041】
表示体1は、接着剤層、コート層及び印刷層などの他の機能を実現する層を更に含むことができる。
【0042】
接着剤層は、例えば、レリーフ構造形成層10に密着して設ける。接着剤層は表示体1を印刷物やその他の物品に貼り付けるのに用いる。接着剤層として、凹凸構造を形成可能な合成樹脂材料を使用した場合、接着剤層とレリーフ構造形成層を兼ねることも可能である。表示体1を光透過性を有する透明の印刷物(プラスチックのカード状の物品など)や透明の物品に貼着する場合、透明の印刷物、物品越しに表示体1を裏面から観察することも可能である。その場合、接着剤層には透明、半透明、特には無色透明の材料を用いる。
【0043】
コート層は、例えば、使用時に表示体の表面にキズが付いてしまうのを防ぐことを目的としたハードコート層、汚れの付着を抑制する防汚層又は帯電防止層である。コート層は、表示体1の積層体の前面側(観察者側)に設ける。コート層についても、表示体1の表示の視認性を損なわないよう透明、半透明、特には無色透明の材料を用いることが好ましい。
【0044】
印刷層は、例えば、表示体の積層体の観察者側に、又はレリーフ構造形成層と接着層との間に設ける。印刷層を設けることで、表示体の意匠性を向上させることができ、また、表示体に表示させる情報を容易に追加できる。印刷層は表示体の表示を全て覆わないよう部分的に設けるか可視光に対して透過性を示すインキ、顔料、染料を用いることが好ましい。また、紫外線や赤外線の発光によって隠蔽情報が表示されるインキや蓄光インキ等の機能性インキを用いても良い。
【0045】
(回折格子の光学的性質について)
表示体1のレリーフ構造形成層に形成されている複数の凸部又は凹部から成る凹凸構造によって実現される視覚効果について説明するにあたり、まず、回折格子の格子定数(溝のピッチ)と、照明光の波長と、照明光の入射角と、回折光の射出角との関係について説明する。
【0046】
照明光源を用いて回折格子に照明光を照射すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向及び波長に応じて特定の方向に強い回折光を射出する。
【0047】
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)の射出角βは、回折格子の溝の長さ方向に対して垂直な面内で光が進行する場合、下記の式(1)から算出することができる。
【0048】
【数1】
式(1)において、dは回折格子の格子定数を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、即ち、正反射光RLの射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線NLに関して対称である。
【0049】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり、90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。
【0050】
図3は、小さな格子定数を有している回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図である。
図4は、大きな格子定数を有している回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図である。
【0051】
点光源LSは、波長が赤色域内にある光成分Rと、波長が緑色域内にある光成分Gと、波長が青色域内にある光成分Bとを含んだ白色光を放射する。点光源LSが放射した光成分G、B及びRは、回折格子GRに入射角αで入射する。回折格子GRは、光成分Gの一部として回折光DL_gを射出角β_gで射出し、光成分Bの一部として回折光DL_bを射出角β_bで射出し、光成分Rの一部として回折光DL_rを射出角β_rで射出する。なお、図示していないが、回折格子GRは、他の次数の回折光も式(1)によって導出される角度で射出する。
【0052】
このように、一定の照明条件のもとでは、回折格子は、回折光を、その波長に応じて異なる射出角で射出する。それ故、太陽及び蛍光灯などの白色光源下では、回折格子は、波長が異なる光が別々の角度で射出する。従って、このような照明条件下では、回折格子の表示色は、観察角度の変化に伴って虹色に変化する。また、格子定数が大きいほど、回折光は正反射光RLに近い方向に射出され、射出角β_g、β_b及びβ_rの相違は小さくなる。
【0053】
次に、回折格子の格子定数と、照明光の波長と、回折光の射出角方向における回折光の強度(回折効率)との関係について説明する。
【0054】
式(1)によると、格子定数dの回折格子に対して、入射角αで照明光を入射させると、この回折格子は、射出角βで回折光を射出する。この際、波長λの光についての回折効率は、回折格子の格子定数及び溝の深さ等に応じて変化し、下記式(2)から算出することができる。
【0055】
【数2】
ここで、ηは回折効率(0乃至1の値)を表し、rは回折格子の溝の深さを表し、Lは回折格子の溝の幅を表し、dは格子定数を表し、θは照明光の入射角を表し、λは照明光及び回折光の波長を表している。なお、この式(2)は、溝の長さ方向に垂直な断面が矩形波状であり、溝が比較的浅い回折格子について成り立つものである。
【0056】
式(2)から明らかなように、回折効率ηは、溝の深さr、格子定数d、入射角θ及び波長λに応じて変化する。また、回折効率ηは、回折次数mが高次になるのに伴って徐々に減少していく傾向にある。
【0057】
(レリーフ構造形成層によって実現される光学的性質について)
次に、第1レリーフ構造形成領域によって実現される光学的性質について説明する。
【0058】
図5は、第1レリーフ構造形成領域11に採用可能な構造の一例を概略的に示す斜視図である。第1レリーフ構造形成領域11は、平滑な第1面21と、上面及び側面を各々が有している複数の凸部20(又は底面及び側壁を各々が有している複数の凹部)とを含んでいる。凸部20の上面(又は凹部の底面)は、第1面21に対して平行であり且つ平滑な第2面22である。なお、
図5においては、第1レリーフ構造形成領域11は複数の凸部20から成り、第2面22は凸部20の上面を構成している例を示しているが、第1レリーフ構造形成領域11に複数の凹部が形成されており、第2面が複数の凹部の底面によって構成されている場合においても以下に示す光学的性質は同様に発揮される。以後は、複数の凸部を図示し光学的説明を説明し、複数の凹部についての図示及び説明を省略する。
【0059】
図5において、円形の凸部20は第1レリーフ構造形成領域11の一方の面において所定の方向に対して整然配置されている。整然配置とは、凸部20が均等な間隔、または規則性を持った配列を成していることを示し、例えば、正方格子、矩形格子又は三角格子を成している。
【0060】
図6は、第1レリーフ構造形成領域11に採用可能な別の構造の一例を示す斜視図である。円形の凸部20は第1レリーフ構造形成領域11において非整然配置(ランダム配置)で形成されている。凸部20が非整然配置される場合、凸部20が互いに重畳する状態で形成されていてもよい。
【0061】
凸部の形状の他の例としては、楕円形や八角形、星型、十字等の多角形を任意に採用することができる。また、第1レリーフ構造形成領域には形状の異なる凸部が混在していてもよい。
【0062】
図7は、通常の回折格子に白色照明光を照射した際に射出される回折光の様子を示す概略図である。
図7に示したようなy軸に平行な方向に規則的に形成された複数の格子線から成る回折格子GRでは、照明光ILが入射した際に、y軸(格子線の長手方向)と直交する方向(x軸方向)に回折光DL_r、DL_g、DL_bが射出される。
【0063】
一方、
図8は、第1レリーフ構造形成領域11から射出される回折光の様子を示す概略図である。
図9は、
図5及び
図8に示した第1レリーフ構造形成領域11の平面図である。
【0064】
図8で示されるような構造に白色照明光が入射すると、第1レリーフ構造形成領域11に形成された複数の凸部20による第2面22とその周囲の第1面21により構成される凹凸構造によって、回折光を射出する。
図8のように凸部20が互いに離間して整然配置されている構造においては、x軸方向にとどまらずxy平面上の多くの方位角方向に対して回折光が射出される。ここで
図9に示した一点鎖線A,B,Cのように、複数の凸部20が整然配置された構成であっても、その見かけ上の配置間隔は方位に応じて異なっている。そのため、
図8及び
図9に示した第1レリーフ構造形成領域11は、様々な配置間隔(すなわち格子定数d)を有する凹凸構造体であると言える。このような構造体に光が入射する場合、異なる格子定数dの凹凸構造が多数重畳されていることになり、射出される回折光は、各波長毎に異なる射出角に対して射出されず、各波長の光が様々な角度に重畳されて射出されることになる。
【0065】
更に、
図8においては、光が第1レリーフ構造形成領域11の一点に入射した状態を図示しているが、実際には、照明光源はある程度の面積をもっており、光は一点への入射ではなく、面状に入射する。よって、定点において観察者が観察する光はある程度の範囲の波長の光が合わさったものとなり、その結果複数の波長の光による色が観察されることになる。
【0066】
ここで、式(2)で示すとおり、回折構造から射出される回折光は波長に応じて光量、すなわち回折効率が変化する。特に、回折格子の格子線幅L及び、格子線のピッチdを一定と仮定すると、回折効率ηは回折格子の高さr(第1面21と第2面22の高低差に相当する)と照明光の波長λによって一意に決定される。
【0067】
そのため、第1レリーフ構造形成領域11を定点から観察した場合において、可視光の波長成分が均等には目に届かず、第1レリーフ構造形成領域に設けられた凸部20の高さ(第1面21と第2面22の高低差)に応じて光の干渉によって特定の波長の光の回折効率が低くなり、結果として観察者に届く光は、入射した白色照明光のうちの、特定の波長成分が弱くなった光となる。よって、観察者は第1レリーフ構造形成領域11を白色の照明光源のもとで観察した際に、波長毎に光量に差が生じた光を知覚することになる。
【0068】
例えば、ある高さの凸部が設けられた第1レリーフ構造形成領域を観察した際に、青(波長460nm)の光の回折効率が弱くなり、観察者の目に到達する回折光の波長成分が赤(波長630nm)及び緑(波長540nm)であったとすると、観察される色は黄色であり、別の高さの凸部が設けられた別の第1レリーフ構造形成領域を観察した際には、赤の波長成分の光の回折効率が弱くなり、観察者の目に到達する回折光の波長成分が緑及び青であったとすると、観察される色はシアン(うすい水色)となる。
【0069】
図8は一例として、白色照明光源からの光ILが第1レリーフ構造形成領域11に入射し、赤の回折光DL_rが弱められ、緑の回折光DL_gと青の回折光DL_bが射出される様子を示している。
【0070】
このような原理によって表示される表示色は回折光が到達しないような位置に観察者がいる場合には観察されない。それにより通常の印刷物とは異なり、照明光源や観察者の位置によって表示色が認識できる状態とできない状態の2つの状態を実現することができる。これが、多くの範囲でほぼ同じ色が知覚できる通常の印刷物とは異なる点である。
【0071】
図6に示したような、複数の凸部20が非整然配置されているような構造においても、回折光は射出される。
図6のような場合においても、式(1)に示した格子定数dの値が様々な値となるため、場所によって回折光の射出角度が様々に変化する。そのため、定点に到達する回折光は
図5に示した構造と同様に、ある特定の波長の光を除いた多くの波長の光であり、それらの光の混色が観察されることになる。非整然配置された複数の凸部20を第1レリーフ構造形成領域11に形成することによって、整然配置された
図5のような構造と比較して各波長の光はより様々な角度に射出されるため、回折による虹色の色変化がより抑えられた表示が可能となる。
【0072】
このように照明光源からの光が表示体の表面に入射し、表示体のレリーフ構造によって入射光が反射、射出され、観察者が目視によってその光を知覚できるような条件を「通常の照明条件」と定義する。例えば、一般的な室内で蛍光灯等の照明光のもとで表示体に照明光からの光が略垂直に表示体の表面に入射し、観察者が目視によって表示体を観察する条件や、室外で太陽光等の照明光のもとで表示体に照明光からの光が略垂直に表示体の表面に入射し、観察者が表示体を観察するような条件が「通常の照明条件」に相当する。ここで「通常照明光」は、室内における蛍光灯や屋外における太陽光等の白色照明光を指す。
【0073】
また「通常の照明条件以外の条件」は観察者が表示体から射出される光を知覚できないような条件を示す。例えば、照明光からの光が表示体の表面に略水平に、すなわち急な角度で入射し、表示体のレリーフ構造から光がほとんど射出されない条件や、表示体のレリーフ構造から回折によって光が射出しても、その回折光が到達しないような角度から観察者が表示体を目視したような条件が「通常の照明条件下以外の条件」に相当する。
【0074】
複数の波長の光から成る色を通常の照明条件下において観察できる構造とするためには、整然配置された凸部の場合は5μm乃至10μm程度のやや大きめの構造とするほうがよく、隣接する凸部同士の配置間隔は、例えば、5μm乃至10μmの範囲内にある。大きな構造の場合は、式(1)から明らかなように各波長に対する回折光の射出角の差が小さいため、照明光源や観察者の位置が変化しても、表示色がいわゆる虹色に変化せず複数波長の光による色が安定して観察できる。
【0075】
一方で、非整然配置する場合は、凸部を0.3μm乃至5μm程度のやや小さめの構造にするとよく、その場合隣接する凸部同士の配置間隔は、例えば、0.3μm乃至5μmの範囲内にある。小さな構造が小さな配置間隔で形成されている場合、式(1)から明らかなように回折光の射出角が大きくなる。そのため、整然配置された構造では虹色に色変化しやすくなるが、非整然配置することで観察者のいる定点に複数の波長の光が到達しやすくできる。また、小さな構造が非整然配置されていると、回折光の射出角が大きくなるので、複数の光による表示色が広い範囲で観察できるという利点がある。
【0076】
第1レリーフ構造形成領域に採用される構造は、凹凸構造を形成する第1面と第2面の高低差が略同一であるので、光の干渉によって特定の波長の光の回折効率を低下させ、且つ、他の波長の光の回折効率の低下を抑える効果があるため、回折効率が低下しない複数の波長の光によって固有の色を表示させることが可能になる。凹凸構造を形成する第1面と第2面の高低差が略同一でない場合、回折効率が低下する光の波長域が広くなってしまい、結果として得られる表示色の彩度が低下し、入射した光の波長分布とあまり変わらない白色に近い表示色になってしまう。一般的な光散乱構造体は、微細な構造がランダムに配置されているが、構造の深さもランダムであるため、特定の波長の光の回折効率を低下させる作用は有しておらず、結果として入射した白色光がそのまま散乱、射出されるため白色の表示色となる。そのため、特定の固有色を表示可能にするためには、第1面と第2面の高低差はより同一であることが望ましい。
【0077】
このような光学効果を発揮するための第1面と第2面の高低差は、例えば、0.1μm乃至0.5μmの範囲内にあり、典型的には0.15μm乃至0.4μmの範囲内にある。
【0078】
第1面と第2面の高低差を小さくすると、第1レリーフ構造形成領域が射出する着色光の色が薄くなる。また、この高低差を小さくすると、製造時の外的要因、例えば、製造装置の状態及び環境の変動並びに材料組成の僅かな変化が、第1レリーフ構造形成領域の光学的性質に及ぼす影響が大きくなる。他方、この高低差が大きい場合、第1レリーフ構造形成領域を高い形状精度及び寸法精度で形成することが難しくなる。
【0079】
各凸部の側面は、典型的には第1面及び第2面に対してほぼ垂直である。この側面は、第1面及び第2面に対して傾いていてもよい。ここでも各凸部の側面は、より垂直であることが望ましく、側面が傾斜になるに従って表示色の彩度が低下する。
【0080】
また、第1レリーフ構造形成領域に採用される構造は、
図5や
図6で示したようにxy平面上の多くの方位角方向に対して回折光を射出するので、光源の位置や観察する向きが多少変化しても、複数の波長から構成される色を観察可能である。このため、従来の回折格子のように通常の照明条件下において表示色が虹色に変化してしまう現象を回避または低減することができる。
【0081】
第1レリーフ構造形成領域に採用可能な更に別の構造として、指向性を有する構造が挙げられる。
図10は、y軸の延伸方向に対して延びた形状を有した複数の線状構造の凸部20から成る第1レリーフ構造形成領域11の一例を示す斜視図である。凸部20の幅は、例えば、0.2μm乃至10μmの範囲内にあり、典型的には、0.3μm乃至5μmの範囲内にある。凸部20の幅方向における寸法に対する長さ方向における寸法の比は、例えば2以上であり、典型的には10以上である。この比を小さくすると、後述する光学的異方性を観察者に知覚させることが難しくなる。
【0082】
凸部の配列は、肉眼で知覚可能な回折光を射出する回折格子又はホログラムを構成しないように定められている。ここでは、幅方向に隣り合った凸部20の中心線間距離は不規則である。凸部の中心間距離、或いは、凸部の幅のどちらか一方は等しくてもよい。
【0083】
幅方向に隣り合った凸部同士の配置間隔は、例えば0.2μm乃至10μmの範囲内にあり、典型的には0.3μm乃至5μmの範囲内にある。凸部は、様々な長さを有している。また、凸部の長さ方向に関するそれらの位置は不規則である。凸部は、等しい長さを有していてもよく、長さ方向に関して規則的に配置されていてもよい。
【0084】
このような構造に対して、
図11のように表示体の垂直上方から白色照明光が入射すると、入射した光ILは、凸部20の長さ方向に直交する方向(x軸の延伸方向)に沿って回折光DL_g,DL_bを射出し、凸部20の長さ方向(y軸の延伸方向)に対しては回折光を射出しない。ここで、凸部20の高さ、すなわち第1面21と第2面22による高低差は、
図8に示した構造と同一であり、赤の回折光DL_rを弱め、シアンの表示色が得られる。
【0085】
このように、方向性(指向性)をもった構造を設けることによって、回折光が射出される方位角方向を制御することが可能となる。この場合においても、第1面21と第2面22の高低差を同一にしていることで、その高低差に応じて特定の波長の光が弱められているため、凸部の長さ方向に直交する方向において観察される回折光は、固有の色を表示し、且つ、複数の凸部はランダムに配置されているため虹色に変化せず、凸部の長さ方向に直交する方向において広い範囲で同一の固有色を表示する。
【0086】
第1面21及び第2面22に平行な平面への第1レリーフ構造形成領域11の正射影の面積をSとした場合、面積Sに対する第1面21の面積S1の比S1/Sは、例えば20%乃至80%の範囲内にあり、典型的には40%乃至60%の範囲内にある。また、面積Sに対する第2面22の面積S2の比S2/Sは、例えば80%乃至20%の範囲内にあり、典型的には60%乃至40%の範囲内にある。そして、面積S1と面積S2との和S1+S2の面積Sに対する比(S1+S2)/Sは、例えば10%乃至100%であり、典型的には50%乃至100%である。比S1/S及びS2/Sの各々が50%である場合に、最も明るい表示が可能である。一例によると、比S1/S及びS2/Sの一方が20%であり、他方が80%である場合に達成可能な明るさは、比S1/S及びS2/Sの各々が50%である場合に達成可能な明るさの約3割である。
【0087】
図12は、レリーフ構造形成層10において第1レリーフ構造形成領域11の凹凸構造が形成された面側に光反射層30及び、光透過性樹脂層40が順次積層された本特許に採用可能な表示体1の構成例を概略的に示す斜視図である。光透過性樹脂層40は互いに屈折率が異なる第1樹脂領域41及び第2樹脂領域42に分かれている。
【0088】
第1樹脂領域41及び第2樹脂領域42は互いに屈折率が異なることによって、各領域に入射し、凹凸構造から反射、射出される光が進行する際の光路長が変化する。
【0089】
図13は、
図12に示した表示体1に白色照明光が入射した際に、第1樹脂領域41及び第2樹脂領域42内を進行し、凹凸構造によって反射し外部へ射出される光の進行の様子を示す断面図である。ここでは、第1樹脂領域41の屈折率が第2樹脂領域42の屈折率よりも大きい値であると仮定する。
図13に示されているドットは一定時間に進行する光の距離をプロットしたものである。
図13において表示体1の上方左側から入射する光は、空気中を同じ速度で伝搬するが、第1樹脂領域41及び第2樹脂領域42内を進行する光はそれぞれ樹脂材料の屈折率に応じて異なる速度で伝搬する。ここでは、第1樹脂領域41の屈折率が第2樹脂領域42の屈折率よりも大きいため、第1樹脂領域41のほうが光の伝搬する速度が遅く、図中に示したドットの配置間隔が狭くなっている。その結果、第1樹脂領域41及び第2樹脂領域42それぞれの第1面21及び第2面22から反射し、外部へ到達される光は異なる光路長を経て射出されるため、干渉によって弱め合う光の波長が互いに異なる。そのため、光透過性樹脂層の屈折率の違いによって同じ凹凸構造であっても表示される色が変化する。
【0090】
光透過性樹脂層を伝搬し、凹凸構造の第1面及び第2面で反射し外部に射出される光の光路長は、光透過性樹脂層の屈折率だけでなく、凹凸構造の高さ、すなわち第1面と第2面との高低差によっても制御することができる。第1面と第2面の高低差が少なければ光路長の差も小さくなり、第1面と第2面の高低差が多ければ光路長の差も大きくなる。
【0091】
図14は、第2レリーフ構造形成領域12が第1レリーフ構造形成領域11に隣接されて構成された例を示す断面図であり、第2レリーフ構造形成領域12に形成されている凹凸構造は第1レリーフ構造形成領域11の凹凸構造よりもその高低差が大きい。第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12に白色光が入射するとそれぞれ光の光路長が変わることで、異なる固有色を観察することができる。
【0092】
ここで、
図15に示したように、第1レリーフ構造形成領域11上に第1樹脂領域41が光反射層30を介して形成され、同様に第2レリーフ構造形成領域12上に第2樹脂領域42が光反射層30を介して形成されると、各領域に入射した白色光は各領域の屈折率及び層厚、及び凹凸構造の高低差によって光路長が一意に決定され、それぞれ異なる表示色を得ることができる。
図15は、第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12及び第1樹脂領域41及び第2樹脂領域42の構成例を示す断面図である。各樹脂領域の屈折率と層厚、各レリーフ構造形成領域に設けられた凹凸構造の高低差の双方を正確に模倣することは非常に困難であり、このような構成にすることによって非常に高い偽造防止効果を備えた表示体を実現することが可能となる。
【0093】
また、第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12と、第1樹脂領域41及び第2樹脂領域42は互いに部分的に重なり合うように配置することも可能である。
図16は、第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12と、第1樹脂領域41及び第2樹脂領域42は互いに部分的に重なり合うように配置された例を示す断面図である。第1レリーフ構造形成領域11と第1樹脂領域41が重なり合って形成された部分領域A50と、同様に、部分領域B51(第2レリーフ構造形成領域12と第1樹脂領域41の組み合わせ)、部分領域C52(第2レリーフ構造形成領域12と第2樹脂領域42の組み合わせ)、部分領域D53(第1レリーフ構造形成領域11と第2樹脂領域42の組み合わせ)が構成されており、それらは、互いに樹脂領域の屈折率と凹凸構造の高低差の組み合わせが異なることで射出される光の光路長が互いに異なっており、それぞれ異なる固有色を表示することができる。このような構成の表示体によって、より多くの固有色の表示が可能となり、表示体の意匠性を高められるとともに、更に高い偽造防止効果を実現することが可能となる。
【0094】
レリーフ構造形成層と光透過性樹脂層の間に設ける光反射層は入射した光をより強く反射させるのに寄与する。光反射層はアルミニウム、金、銀などの金属、又は、硫化亜鉛、酸化チタンなどの誘電体が一層または複層構成で設けられた構成であり、例えば、真空蒸着やスパッタリングなどの気相堆積法によって形成される薄膜層である。
図17に示すように光反射層30は、レリーフ構造形成層10に設けられた凹凸構造の形状に追従するように構成され、第1面21及び第2面22の平滑性を保ち、且つ、第1面21及び第2面22が互いに平行であることを損ねないように構成することが望ましい。
図17は好ましい光反射層の例を示す断面図である。
【0095】
図18のように、光反射層30の表面が荒れており、第1面21及び第2面22の平滑性が保たれていない場合や、
図19のように、光反射層30が偏りを持って第1面21及び第2面22上に積層されているような場合は、干渉によって光が弱め合い、回折効率が低下する光の波長域が広くなってしまい、結果として得られる表示色の彩度が低下し、入射した光の波長分布とあまり変わらない白色に近い表示色になってしまう。
図18及び
図19は、好ましくない光反射層の例を示す断面図である。
【0096】
ここで、光反射層の膜厚は、30nm以上且つ70nm以下であることが望ましく、更に好ましくは50nmである。光反射層は気相堆積法によって薄膜状に成膜することが可能であるが、アルミニウムや金、銀などの金属は膜の表面に1μm程度の粒状の凹凸が生じやすい。この粒状の凹凸は、成膜された層が厚くなるほど肥大化しやすいが、一方で、成膜された層が薄すぎると十分な光反射性能が得られなくなる。実験によって得られた光反射層の理想的な膜厚は、30nm以上且つ70nm以下であって、より好ましくは50nmであった。このような範囲で光反射層の膜厚を設定することによって十分な光反射性能が得られ、且つ、第1面及び第2面の平滑性が保たれた光反射層を得ることができる。
【0097】
第1樹脂領域及び第2樹脂領域の屈折率の差は0.15以上あると良い。屈折率の差が0.15以上あることで、白色光源からの光の入射に対して十分な光路差の違いを得ることができ、それぞれの領域で明確に異なる色を表示することが可能となる。0.15以上の屈折率の差が得られる樹脂材料の組み合わせとしては、例えばエポキシ系の樹脂(屈折率1.6前後)及びフッ素系の樹脂(屈折率1.4前後)の組み合わせが挙げられる。
【0098】
レリーフ構造形成層の材料として、透明または半透明の材料を使用することで、この表示体は、光透過性樹脂層側(表面側)からだけでなく、レリーフ構造形成層側(裏面側)からも観察することが可能になる。レリーフ構造形成層に設けられる複数の凸部を構成する第1面及び第2面の高低差は表面側から観察した場合でも、裏面側から観察した場合でも変わらないため、レリーフ構造形成層の材料の屈折率によって表示される色が決定される。
【0099】
ここで、レリーフ構造形成層の屈折率が光透過性樹脂層の第1樹脂領域もしくは第2樹脂領域と略同一であれば、それらは同様の色を表示する。逆に、レリーフ構造形成層の屈折率が光透過性樹脂層の第1樹脂領域もしくは第2樹脂領域と異なる値、望ましくは屈折率の差が0.15以上であれば、表示体を表面側から観察した際と裏面側から観察した際とでまったく異なる色を表示することも可能になる。このような、表裏で異なる色を表示する表現手法は従来の回折格子パターンや通常の印刷物では不可能であり、特徴的な視覚効果に加えて、より偽造防止効果が高い表示体となる。
【0100】
表示体を紙やプラスチックフィルムなどの基材、又はその他の物品に備え付けて、表示体を表裏面の双方から観察する場合には、基材やその他の物品には開口部を設けるか、透明又は半透明である表示体が視認可能な窓部を設けるなどして表示体が観察可能な構成にすると良い。
【0101】
(第3レリーフ構造形成領域の光学的性質について)
次に、第3レリーフ構造形成領域の光学的性質について説明する。
【0102】
第3レリーフ構造形成領域は、前記第1レリーフ構造形成領域及び前記第2レリーフ構造形成領域とはその構造や光学的な性質が異なる領域である。第3レリーフ構造形成領域は表示体に1つも存在していなくてもよいし、複数存在していてもよい。
【0103】
第3レリーフ構造形成領域に採用可能な構造としては、回折格子が挙げられる。回折格子は典型的なピッチが0.5μm以上の10μm以下の規則的に形成された線状のパターンであり、回折によって虹色に輝く分光色を射出し、光源の位置や観察者の観察角度など観察条件に応じて、色や絵柄が変化する像を表示させたり、立体像を表示させたりする機能を実現できる。
【0104】
また、第3レリーフ構造形成領域に採用可能な別の構造として、非常に微細な凹凸構造から成る反射防止構造体が挙げられる。反射防止構造体61は、
図20の斜視図に示したような円錐状の構造や、角錐状の構造が整然配置されたものが典型的であり、前記構造は、可視光の波長以下(例えば400nm以下)のピッチで配置され、構造の高さは300μm以上で高いほうがより反射防止効果が高い。前記のような仕様で形成されている反射防止構造体61は入射する可視光の反射を防止もしくは低減する機能を有し、観察した際に黒色もしくは暗灰色等の無彩色に見える。
【0105】
また、第3レリーフ構造形成領域に採用可能な構造として、例えば
図21の斜視図に示す光散乱構造体62が挙げられる。光散乱構造体62は、大きさや形、構造の高さが異なる凹凸形状が不規則に複数配置されたものが典型的である。光散乱構造体62に入射した光は、四方八方に乱反射し、観察した際には白色または白濁色に見える。光散乱構造体は典型的には、幅3μm以上、高さが10μm以上のものが多く、回折格子や反射防止構造体と比較して大きい構造である。また、その大きさや配置間隔、形状は不揃いである。そのため、白色光を散乱、反射する効果が得られる。
【0106】
また、第3レリーフ構造形成領域は、平坦面であってもよい。第3レリーフ構造形成領域は平坦面とすることで、光反射層によって鏡面のように作用する。また、第3レリーフ構造形成領域に光反射層を設けないことによって透明または半透明の領域とすることもできる。
【0107】
図22は第3レリーフ構造形成領域13を含む表示体の一例を示す断面図である。第3レリーフ構造形成領域13には一例として光散乱構造体62が形成されており、それは第1レリーフ構造形成領域11と同様にレリーフ構造形成層10の一方の面に構成される。第3レリーフ構造形成領域を光反射層を介して被覆する光透過性樹脂層40は第1樹脂領域41であっても第2樹脂領域42であっても構わない。回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体、平坦面は被覆する光透過性樹脂層40の屈折率に関わらず各々の光学作用を発揮する。
【0108】
(表示体の使用方法)
上述した表示体は、例えば、偽造防止用ラベルとして粘着材等を介して印刷物やその他の物品に貼り付けて使用することができる。表示体は微細な凹凸構造を構成する凸部又は凹部の第1面及び第2面の平坦性及びそれらの高低差を厳密に制御することにより固有の色を表示することができ、高低差もしくは光透過性樹脂層(及びレリーフ構造形成層)の屈折率を適宜変化させることでその色を制御可能であり、それらを高精度に再現することは困難であることから偽造は非常に難しい。このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこのラベル付き物品の偽造又は模造も困難である。
【0109】
図23は、表示体を偽造防止用ラベルとし、物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。
図24は、
図23に示すラベル付き物品のXXIIII−XXIIII線に沿った断面図である。
【0110】
図23及び
図24には、ラベル付き物品の一例として、印刷物73を描いている。この印刷物73は、IC(integrated circuit)カードであって、基材72を含んでいる。基材72は、例えば、プラスチックからなる。基材72の一方の主面には凹部が設けられており、この凹部にICチップ71が嵌め込まれている。ICチップ71の表面には電極が設けられており、これら電極を介してICへの情報の書き込みやICに記録された情報の読出しが可能である。基材72上には、印刷層70が形成されている。基材72の印刷層70が形成された面には、上述した表示体1が例えば粘着層を介して固定されている。表示体1は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層70に貼りつけることにより、基材72に固定する。
【0111】
この印刷物73は、表示体1を含んでいる。それゆえ、この印刷物73の同一品を偽造又は模造することは困難である。しかも、この印刷物73は、表示体1に加えて、ICチップ71及び印刷層70を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0112】
なお、
図23及び
図24には、表示体1を含んだ印刷物73としてICカードを例示しているが、表示体1を含んだ印刷物73は、これに限られない。例えば、表示体1を含んだ印刷物73は、磁気カード、無線カード及びID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体1を含んだ印刷物73は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体1を含んだ印刷物73は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体1を含んだ印刷物73は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0113】
また、
図23及び
図24に示す印刷物73では、表示体1を基材72に貼り付けているが、表示体1は、他の方法で基材72に支持させることができる。例えば、基材72として紙を使用した場合、表示体1を紙に漉き込み、表示体1に対応した位置で紙を開口させてもよい。
【0114】
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。すなわち、印刷層を含んでいない物品に表示体1を支持させてもよい。例えば、表示体1は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
【0115】
表示体1は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体1は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。