特許第5939112号(P5939112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939112
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】カテコール基含有重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/18 20060101AFI20160609BHJP
   C08F 220/28 20060101ALI20160609BHJP
   C08F 220/30 20060101ALI20160609BHJP
   C08F 220/36 20060101ALI20160609BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20160609BHJP
   B01F 17/52 20060101ALI20160609BHJP
   C07D 317/64 20060101ALI20160609BHJP
   H01B 1/22 20060101ALN20160609BHJP
【FI】
   C08F220/18
   C08F220/28
   C08F220/30
   C08F220/36
   C08F8/12
   B01F17/52
   C07D317/64
   !H01B1/22 Z
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-213502(P2012-213502)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-65857(P2014-65857A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162628
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 博
(74)【代理人】
【識別番号】100119286
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 操
(72)【発明者】
【氏名】長澤 敦
(72)【発明者】
【氏名】高岡利明
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−019070(JP,A)
【文献】 特開2006−151953(JP,A)
【文献】 特開昭62−039603(JP,A)
【文献】 特開2008−107809(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/149955(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/149957(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101046631(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00 − 220/70
C07D 317/64
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される構成単位が1〜50モル%、式(2)又は式(3)で表される構成単位が50〜99モル%からなる共重合体。
【化1】

(式中、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基、Rは炭素数1〜20のアルキル基、lは1〜20の整数、mは0又は1、nは1〜20の整数を示す。)
【請求項2】
式(4)で表される化合物。
【化2】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、lは1〜20の整数、mは0又は1、X及びYはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を示す。)
【請求項3】
請求項1に記載の共重合体からなる、金属粒子用高分子分散剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性インクや導電性ペースト用の金属粒子用高分子分散剤として有用な、カテコール基を含有する新規な共重合体、及びその製造中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性ペーストや導電性インクに代表される種々の導電性粒子分散組成物が、電気・電子回路形成技術の分野において知られており、例えば、プリント配線基板の配線形成用材料、多層基板の層間導通用材料、実装部品の接合用材料などとして用いられている。このような導電性粒子分散組成物には、導電性を高く且つ安定に保持するために、該組成物中に含有される導電性粒子の分散安定性が求められる。
一般的に無機粒子の分散剤としては、ポリカルボン酸系の高分子型分散剤が用いられている。金属粒子の組成物の場合には、分散安定性を高めるために、分散剤の吸着基による粒子表面への吸着力と、反発基による保護層の形成能力が重要だが、ポリカルボン酸系の高分子分散剤は吸着基であるカルボキシ基の金属粒子に対する吸着力や吸着基の可動性が不足している。したがって、金属粒子に対する分散性が十分に高いとはいえない。
特許文献1には、(メタ)アクリル酸とトリヒドロキシベンゼンのモノエステルを構成単位として有するポリマーが、放射線感能性材料のバインダとして提案されているが、金属粒子用分散剤としての利用については、なんら示唆されていない。実際、本発明者らが分散剤として試験してみたが、分散性は十分ではなかった。
また、特許文献2には、光重合性を有するウレタン結合含有ジオール(メタ)アクリレート化合物が提案されているが、グリセリン等の脂肪族多価アルコールに由来する末端の1,2−ジオールは、金属に対する吸着能力が低く、金属粒子に対する分散性は十分とはいえない。
すなわち、高い分散安定性を有する導電性粒子分散組成物を簡易に得ることが求められているが、このような、導電性粒子分散組成物の製造に有用な分散剤は、未だ提供されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−39603号公報
【特許文献2】特開2006−151953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、金属粒子の高い分散性を有する重合体、及び当該共重合体からなる金属粒子用分散剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を進めた結果、カルバメート結合又はエーテル結合を介してエチレンオキシド鎖に結合したカテコール基をグラフトさせた(メタ)アクリレート化合物及びその重合体が、カテコール基に由来する金属中心のキレート化を介した強い配位結合を形成し、多点吸着による金属粒子の高い分散性をもたらすことによって、上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明によれば、式(1)で表される構成単位と、式(2)又は式(3)で表される構成単位とからなる共重合体、及びその製造中間体に相当する式(4)のモノマー、並びに当該共重合体からなる金属粒子用高分子分散剤が提供される。
【0006】
【化1】
【0007】
(式中、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基、Rは炭素数1〜20のアルキル基、lは1〜20の整数、mは0又は1、nは1〜20の整数を示す。)
【0008】
【化2】
【0009】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、lは1〜20の整数、mは0又は1、X及びYはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を示す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る共重合体は、カテコール基が、カルバメート結合又はエーテル結合を介してエチレンオキシド鎖に結合し、グラフトされた(メタ)アクリレート構造を、構成単位として有するため、金属粒子と接触すると、カテコール基の2水酸基と金属中心間にキレート化による、強い配位結合が形成される。また、重合鎖とカテコール基の間にエチレンオキシド鎖が介在しているため、グラフト鎖がリンカーとしても作用して、金属粒子の凝集を抑制し、多点吸着による優れた吸着性と高い分散性安定性を同時に得ることができる。したがって、本発明の共重合体は、金属粒子用高分子分散剤として有用である。
また、式(4)の環状カテコール含有モノマーは、共重合体を合成する前駆体であり、当該モノマーを使用して得られる式(4)の構成単位を含む共重合体は、アセタール部位の加水分解により、目的とする共重合体を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る共重合体中、式(1)で表される構成単位は、カテコール基とカルバメート結合又はエーテル結合を有するものであり、そのカテコール基が、金属粒子表面に多点吸着することによって、共重合体が金属表面から脱離することを抑制する働きを有すると考えられる。
式(1)において、Rは水素原子又はメチル基であり、メチル基が好ましい。lは1〜20の整数であり、好ましくは1〜7、より好ましくは1〜4である。mは0又は1で、金属粒子に対する吸着性の観点から、好ましくは1である。特に、lが1〜4で、mが1であるものがより好ましい。
【0012】
式(1)で表される構成単位としては、2−(2,3−ジヒドロキシ−フェノキシ)エチルメタクリレート、ω−(2,3−ジヒドロキシ−フェノキシ)ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(2,3−ジヒドロキシ−フェノキシカルボニルアミノ)エチルメタクリレート、ω−(2,3−ジヒドロキシ−フェノキシカルボニルアミノ)ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(2,3−ジヒドロキシ−フェノキシカルボニルアミノ)エチルアクリレート、2−(3,4−ジヒドロキシ−フェノキシ)エチルメタクリレート、ω−(3,4−ジヒドロキシ−フェノキシ)ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(3,4−ジヒドロキシ−フェノキシカルボニルアミノ)エチルメタクリレート、ω−(3,4−ジヒドロキシ−フェノキシカルボニルアミノ)ポリエチレングリコールメタクリレートなどが例示される。
【0013】
式(2)及び式(3)は、式(1)と共重合可能なアルキル(メタ)アクリレート、あるいはメトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート由来の構成単位である。共重合体は、非水系溶媒中、あるいは水系溶媒中で用いられ、アルキル鎖やメトキシエチレングリコール鎖が広がることで、金属粒子間に強い立体的斥力をもたらし、金属粒子同士の凝集を抑制し、分散安定性の向上に寄与すると考えられる。
式(2)において、Rは水素原子又はメチル基を示す。Rは炭素数1〜20のアルキル基で、分散性の観点から炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、アルキル鎖が13以上であると、カテコール基が金属粒子へ接近しにくくなり、分散性が低下しやすくなる。
式(2)で表される構成単位としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが例示されるが、共重合体の疎水性及び分散安定性の観点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ラウリルが好ましい。
【0014】
式(3)において、Rは水素原子又はメチル基を表す。nは1〜20の整数で、水系溶媒中での分散安定性の観点から8〜20が好ましく、8より小さいと親水性が低下し、水系溶媒中での分散安定性が低下する傾向がある。20を超えると、分散性が低下し、凝集社しやすくなる。
本発明の共重合体からなる金属粒子用高分子分散剤を、非水系溶媒中で用いる場合は、式(2)の構成単位を有するモノマーとの共重合体が好ましく、水系溶媒中で用いる場合には、式(3)の構成単位を有するモノマーとの共重合体が好ましい。
【0015】
式(4)において、Rは水素原子又はメチル基を示す。lは1〜20の整数、mは0又は1を示す。X及びYはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、ベンゼン核に置換した2水酸基とともに、環状アセタール(アセタール又はケタール)を形成している。X及びYは、反応後の環状アセタール残留分除去の容易さの観点から、ともにメチル基であるものが好ましい。環状アセタールの置換位置は、フェノキシ基に対し、2,3−、又は3,4−位である。
式(4)で表される化合物を調製するためには、例えば、1組の隣接水酸基を有するトリヒドロキシベンゼンを、アセタール化又はケタール化して保護し、環状カテコールとした後、エーテル化反応、ウレタン化反応によって、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、又は(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネートと反応させ、環状カテコール含有モノマーを得ることができる。
式(4)で表される化合物としては、2−(2,3−イソプロピリデンジオキシ−フェノキシ)エチルメタクリレート、ω−(2,3−イソプロピリデンジオキシ−フェノキシ)ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(2,3−イソプロピリデンジオキシ−フェノキシカルボニルアミノ)エチルメタクリレート、ω−(2,3−イソプロピリデンジオキシ−フェノキシカルボニルアミノ)ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(2,3−イソプロピリデンジオキシ−フェノキシカルボニルアミノ)エチルアクリレート、2−(3,4−イソプロピリデンジオキシ−フェノキシ)エチルメタクリレート、ω−(3,4−イソプロピリデンジオキシ−フェノキシ)ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(3,4−イソプロピリデンジオキシ−フェノキシカルボニルアミノ)エチルメタクリレート、ω−(3,4−イソプロピリデンジオキシ−フェノキシカルボニルアミノ)ポリエチレングリコールメタクリレートなどが例示される。
【0016】
共重合体を構成する全構成単位中の式(1)の割合は、金属粒子の分散性及び分散安定性向上の観点から1〜50モル%であり、式(2)又は式(3)は、50〜99モル%であって、好ましくは式(1)の割合が5〜40モル%、式(2)又は式(3)の割合が60〜95モル%である。
式(2)及び式(3)は、どちらか一方、又は両者を使用してもよい。この場合、両者を合わせたモル%を、50〜99モル%とする。
共重合体の重量平均分子量は1,000〜1,000,000で、高分子分散剤として用いる場合、重量平均分子量で2,000〜100,000が好ましい。
【0017】
本発明の共重合体は、例えば、式(4)で表される環状カテコールモノマーと、式(2)又は式(3)で表される構成単位に対応するモノマーであるアルキル(メタ)アクリレート又はメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを共重合したのち、環状カテコールのアセタール部位を加水分解することにより製造することができる。
共重合体の合成は、ラジカル重合により行うことができる。
ラジカル重合は、ラジカル重合開始剤を用いて行うことができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物や、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が挙げられるが、重合温度における開始剤の半減期の観点から、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が好ましい。
ラジカル重合開始剤の使用量は、全モノマー100重量部に対して、通常0.1〜5.0質量部が好ましい。重合温度及び重合時間は、ラジカル重合開始剤の種類、モノマーの種類等によって適宜選択して決定できる。例えば、ラジカル重合開始剤として、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を用いて重合させる場合、重合温度は好ましくは60〜80℃、重合時間は4時間〜24時間程度が適当である。
溶液中で重合する場合、例えば、アセトン、イソプロパノール、メチルエチルケトン、トルエン等の溶媒を用いても良く、反応温度の観点から、トルエンが好ましい。
【0018】
本発明に係る金属粒子用高分子分散剤は、金属粒子を含有する各種材料、例えば、銀ペーストや銅ペースト等、に添加することにより、金属粒子の優れた分散性を達成することができる。とくに、均質で安定な導電性が求められる導電性ペーストや導電性インクなどに代表される種々の導電性粒子分散組成物における、金属粒子の分散剤として好適である。
各種材料に対する金属粒子用高分子分散剤の添加量は、通常の分散剤の添加量と同程度であり、例えば、組成物全量に対し1〜5wt%程度である。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
環状カテコール含有モノマーの合成
(合成例1)1,2,3−トリヒドロキシベンゼンアセトナイドの合成
攪拌装置、温度計、ジムロート冷却管を取り付けた四つ口フラスコに、ピロガロール300g、2,2−ジメトキシプロパン250g、トルエン1Lを仕込み、100℃まで加熱した。100℃で9時間攪拌後、2,2−ジメトキシプロパン250gを加え、6時間加熱還流させた。室温まで冷却後、トルエンをエバポレーターにて減圧留去し、得られた固体を再結晶(シクロヘキサン)により精製し、1,2,3−トリヒドロキシベンゼンアセトナイドの無色透明結晶を308g(収率78%)得た。構造はH NMR(日本電子(株)製、AL−400)より確認した(C(ケタール)(6H) 1.85ppm、C(ベンゼン環)(1H) 6.18ppm、C(ベンゼン環)(1H) 6.22ppm、C(ベンゼン環)(1H) 6.54ppm、O(1H)5.52ppm)。
【0020】
(合成例2)1,3,4−トリヒドロキシベンゼンアセトナイドの合成
攪拌装置、温度計、ジムロート冷却管を取り付けた四つ口フラスコに、1,3,4−トリヒドロキシベンゼン300g、2,2−ジメトキシプロパン250g、トルエン1Lを仕込み、100℃まで加熱した。100℃で9時間攪拌後、2,2−ジメトキシプロパン250gを加え、6時間加熱還流させた。室温まで冷却後、トルエンをエバポレーターにて減圧留去し、得られた固体を再結晶(シクロヘキサン)により精製し、1,3,4−トリヒドロキシベンゼンアセトナイドの無色透明結晶を316g(収率80%)得た。構造はH NMR(日本電子(株)製、AL−400)より確認した(C(ケタール)(6H)1.86ppm、C(ベンゼン環)(1H) 6.13ppm、C(ベンゼン環)(1H)6.18ppm、C(ベンゼン環)(1H)6.49ppm、O(1H)5.58ppm)。
【0021】
(合成例3)環状カテコール含有モノマーAの合成
攪拌装置、温度計、空気導入管を取り付けた四つ口フラスコに、ヒドロキシエチルメタクリレート26.0g、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンアセトナイド39.2g、p−トルエンスルホン酸0.02g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.008g、トルエン500gを仕込み、空気を導入しながら90℃に昇温した。90℃で10時間攪拌後、室温まで冷却した。得られた環状カテコール含有モノマーのトルエン溶液をエバポレーターにて減圧留去し、再結晶(エタノール)により精製し、環状カテコール含有モノマーAを52.0g(収率80%)得た。反応の進行は、H NMR(日本電子(株)製、AL−400)より、ヒドロキシエチルメタクリレートの−C−OH部位のケミカルシフトの変化(3.85→3.98ppm)と、ケタール基のケミカルシフト(C(6H) 1.85ppm)から確認した。
【0022】
(合成例4)環状カテコール含有モノマーBの合成
攪拌装置、温度計、空気導入管を取り付けた四つ口フラスコに、ポリエチレングリコール(n=4)メタクリレート(日油(株)製、ブレンマーPME−200)40.0g、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンアセトナイド39.2g、p−トルエンスルホン酸0.02g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.008g、トルエン500gを仕込み、空気を導入しながら90℃に昇温した。90℃で10時間攪拌後、室温まで冷却した。得られた環状カテコール含有モノマーのトルエン溶液をエバポレーターにて減圧留去し、再結晶(エタノール)により精製し、環状カテコール含有モノマーBを47.4g(収率60%)得た。反応の進行は、H NMR(日本電子(株)製、AL−400)より、ポリエチレングリコールメタクリレートの−C−OH部位のケミカルシフト(3.88→4.00ppm)とケタール基のケミカルシフト(C(6H)1.84ppm)から確認した。
【0023】
(合成例5)環状カテコール含有モノマーCの合成
攪拌装置、温度計、空気導入管を取り付けた四つ口フラスコに、ヒドロキシエチルメタクリレート26.0g、1,3,4−トリヒドロキシベンゼンアセトナイド39.2g、p−トルエンスルホン酸0.02g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.008g、トルエン500gを仕込み、空気を導入しながら90℃に昇温した。90℃で10時間攪拌後、室温まで冷却した。得られた環状カテコール含有モノマーのトルエン溶液をエバポレーターにて減圧留去し、再結晶(エタノール)により精製し、環状カテコール含有モノマーCを50.0g(収率79%)得た。反応の進行は、H NMR(日本電子(株)製、AL−400)より、ヒドロキシエチルメタクリレートの−C−OH部位のケミカルシフト(3.85→3.95ppm)とケタール基のケミカルシフト(C(6H)1.85ppm)から確認した。
【0024】
(合成例6)環状カテコール含有モノマーDの合成
攪拌装置、温度計、空気導入管を取り付けた四つ口フラスコに、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工(株)製 カレンズMOI)31.0g、1,2,3−トリヒドロキシベンゼンアセトナイド39.2g、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)0.02g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.008g、トルエン500gを仕込み、空気を導入しながら90℃に昇温した。90℃で5時間攪拌後、室温まで冷却した。得られた環状カテコール含有モノマーのトルエン溶液をエバポレーターにて減圧留去し、再結晶(イソプロパノール)により精製し、環状カテコール含有モノマーDを54.7g(収率78%)得た。反応の進行は、H NMR(日本電子(株)製、AL−400)より、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートの−C−O部位のケミカルシフト(3.36→3.49ppm)とケタール基のケミカルシフト(C (6H)1.86ppm)から確認した。
【0025】
(合成例7)環状カテコール含有モノマーEの合成
攪拌装置、温度計、空気導入管を取り付けた四つ口フラスコに、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工(株)製 カレンズMOI)31.0g、1,3,4−トリヒドロキシベンゼンアセトナイド39.2g、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)0.02g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.008g、トルエン500gを仕込み、空気を導入しながら90℃に昇温した。90℃で5時間攪拌後、室温まで冷却した。得られた環状カテコール含有モノマーのトルエン溶液をエバポレーターにて減圧留去し、再結晶(イソプロパノール)により精製し、環状カテコール含有モノマーEを49.1g(収率70%)得た。反応の進行は、H NMR(日本電子(株)製、AL−400)より、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートの-C-O部位のケミカルシフト(3.36→3.51ppm)とケタール基のケミカルシフト(C (6H) 1.85ppm)から確認した。
環状カテコールAないしEの化学構造式を、表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
共重合体の合成
(実施例1)共重合体Aの合成
50mLのねじ口試験管に、環状カテコール含有モノマーA4.62g、メタクリル酸メチル(MMA)3.50g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65)0.066g、トルエン8.31gを仕込み、窒素置換し、75℃に加熱した。75℃で6時間攪拌後、室温まで冷却し、環状カテコール含有重合体のトルエン溶液を得た。得られたトルエン溶液をヘキサン100mLに滴下し、生成した沈殿をヘキサンで3回洗浄したのち、60℃で真空乾燥させ、環状カテコール含有ポリマーを得た(収率92%)。
環状カテコール含有ポリマー5.0gをイソプロパノール(IPA)10gに溶かしたのち、0.1M塩酸10gを仕込み、60℃に加熱した。60℃で3時間攪拌後、室温まで冷却した。得られた共重合体のIPA溶液をイオン交換水100gに滴下し、生成した沈殿をイオン交換水で3回洗浄した後、40℃、24時間減圧下で乾燥させ、共重合体Aを6.1g(収率80%)得た。GPC(カラム:shodex GPC KF−805L、溶媒:テトラヒドロフラン、基準物質:ポリスチレン)により求めた重量平均分子量は21200であった。得られた共重合体を、5質量%の濃度で重水素化メタノールに溶解させ、H NMR(日本電子(株)製、AL−400)より共重合比を算出した結果、32:68(カテコール含有モノマーA:MMA)であった。比率は4.35ppm(カテコール含有モノマーAのN−C−部位)と3.75ppm(MMAのCOOC部位)の積分比より算出した。
【0028】
(実施例2)共重合体Bの合成
環状カテコール含有モノマーAの代わりに環状カテコール含有モノマーB 5.05g、メタクリル酸メチルの代わりにメトキシポリエチレングリコール(n=9)メタクリレート(日油(株)製、ブレンマーPME−400)14.0gを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、収量10.4g(収率55%)の共重合体Bを得た。GPC(カラム:shodex GPC KF−805L、溶媒:テトラヒドロフラン、基準物質:ポリスチレン)により求めた重量平均分子量は17600であった。得られた共重合体を、5質量%の濃度で重水素化メタノールに溶解させ、H NMR(日本電子(株)製、AL−400)より共重合比を算出した結果、38:62(カテコール含有モノマーB:PME−400)であった。比率は4.32ppm(カテコール含有モノマーBのN−C−部位)と3.65ppm(PME−400のC−O−部位)の積分比より算出した。
【0029】
(実施例3)共重合体Cの合成
環状カテコール含有モノマーAの代わりに環状カテコール含有モノマーC 4.62gを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、収量5.9g(収率78%)で共重合体Cを得た。GPC(カラム:shodex GPC KF−805L、溶媒:テトラヒドロフラン、基準物質:ポリスチレン)により求めた重量平均分子量は23700であった。得られた共重合体を、5質量%の濃度で重水素化メタノールに溶解させ、H NMR(日本電子(株)製、AL−400)より共重合比を算出した結果、28:72(カテコール含有モノマーC:MMA)であった。比率は4.35ppm(カテコール含有モノマーCのN−C−部位)と3.75ppm(MMAのCOOC部位)の積分比より算出した。
【0030】
(実施例4)共重合体Dの合成
環状カテコール含有モノマーAの代わりに環状カテコール含有モノマーD 4.81gを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、収量6.7g(収率88%)の共重合体Dを得た。GPC(カラム:shodex GPC KF−805L、溶媒:テトラヒドロフラン、基準物質:ポリスチレン)により求めた重量平均分子量は21200であった。得られた共重合体を、5質量%の濃度で重水素化メタノールに溶解させ、H NMR(日本電子(株)製、AL−400)より共重合比を算出した結果、32:68(カテコール含有モノマー:MMA)であった。比率は4.35ppm(カテコール含有モノマーDのN−C−部位)と3.75ppm(MMAのCOOC部位)の積分比より算出した。
【0031】
(実施例5)共重合体Eの合成
メタクリル酸メチルの代わりにラウリルメタクリレート(日油(株)製、ブレンマーLMA)8.89gを用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、収量10.7g(収率82%)の共重合体Eを得た。GPC(カラム:shodex GPC KF−805L、溶媒:テトラヒドロフラン、基準物質:ポリスチレン)により求めた重量平均分子量は18900であった。得られた共重合体を、5質量%の濃度で重水素化メタノールに溶解し、H NMR(日本電子(株)製、AL−400)より共重合比を算出した結果、35:65(カテコール含有モノマー:ラウリルメタクリレート)であった。比率は4.30ppm(カテコール含有モノマーDのN−C−部位)と4.10ppm(ラウリルメタクリレートの末端)の積分比より算出した。
【0032】
(実施例6)共重合体Fの合成
メタクリル酸メチルの代わりにメトキシポリエチレングリコール(n=9)メタクリレート(日油(株)製、ブレンマーPME−400)14.0gを用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、収量8.2g(収率45%)の共重合体Fを得た。GPC(カラム:shodex GPC KF−805L、溶媒:テトラヒドロフラン、基準物質:ポリスチレン)により求めた重量平均分子量は18500あった。得られた共重合体を、5質量%の濃度で重水素化メタノールに溶解させ、H NMR(日本電子(株)製、AL−400)より共重合比を算出した結果、31:69(カテコール含有モノマー:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)であった。比率は4.30ppm(カテコール含有モノマーDのN−C−部位)と3.40ppm(メトキシポリエチレングリコールメタクリレートのC−O−部位)の積分比より算出した。
【0033】
(実施例7)共重合体Gの合成
環状カテコール含有モノマーDの代わりに環状カテコール含有モノマーE 4.81gを用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、収量7.07g(収率90%)の共重合体Gを得た。GPC(カラム:shodex GPC KF−805L、溶媒:テトラヒドロフラン、基準物質:ポリスチレン)により求めた重量平均分子量は22800あった。得られた共重合体を、5質量%の濃度で重水素化メタノールに溶解させ、H NMR(日本電子(株)製、AL−400)より共重合比を算出した結果、30:70(カテコール含有モノマーE:MMA)であった。比率は4.35ppm(カテコール含有モノマーEのN−C−部位)と3.75ppm(MMAのCOOC部位)の積分比より算出した。
【0034】
(比較例1)共重合体Hの合成
攪拌装置、温度計、空気導入管を取り付けた四つ口フラスコに、1,2,3−トリヒドロキシベンゼンアセトナイド7.84g、トリエチルアミン4.77g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.008g、ジクロロメタン100gを仕込み、空気を導入しながら0℃に冷却した。メタクリル酸クロライド4.81gを30分かけて滴下し、0℃で2時間攪拌後、ジクロロメタンをエバポレーターにて減圧留去し、環状カテコール含有モノマーを54.7g(収率78%)得た。
50mLのねじ口試験管に、環状カテコール含有モノマー2.91g、メタクリル酸メチル3.50g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65)0.066g、トルエン8.31gを仕込み、窒素置換し、75℃に加熱した。75℃で6時間攪拌後、室温まで冷却し、環状カテコール含有重合体のトルエン溶液を得た。得られたトルエン溶液をヘキサン100mLに滴下し、生成した沈殿をヘキサンで3回洗浄したのち、60℃で真空乾燥させ、環状カテコール含有ポリマーを得た(収率98%)。
環状カテコール含有ポリマー5.0gをIPA10gに溶かしたのち、0.1M塩酸10gを仕込み、60℃に加熱した。60℃で3時間攪拌後、室温まで冷却した。得られた共重合体のIPA溶液をイオン交換水100gに滴下し、生成した沈殿をイオン交換水で3回洗浄した後、40℃、24時間減圧下で乾燥させ、共重合体Hを6.1g(収率80%)得た。GPC(カラム:shodex GPC KF−805L、溶媒:テトラヒドロフラン、基準物質:ポリスチレン)により求めた重量平均分子量は21200であった。
【0035】
(比較例2)共重合体Iの合成
50mLのねじ口試験管に、フェノキシポリエチレン(n=2)グリコールメタクリレート(日油(株)製、ブレンマーPAE−100)3.75g、メタクリル酸メチル3.50g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65)0.066g、トルエン8.31gを仕込み、窒素置換し、75℃に加熱した。75℃で6時間攪拌後、室温まで冷却し、ヘキサン100mLに滴下し、生成した沈殿をヘキサンで3回洗浄したのち、60℃で真空乾燥させ、共重合体Iを6.52g(収率90%)得た。GPC(カラム:shodex GPC KF−805L、溶媒:テトラヒドロフラン、基準物質:ポリスチレン)により求めた重量平均分子量は25200であった。
表2に、実施例及び比較例の共重合体の構成を示す。
【0036】
【表2】
【0037】
分散性の評価
(1)評価用サンプル調製
(評価1〜9)
銀粉体(Ferro Corporation製、D50:2.0μm)5gと、分散剤としての共重合体A〜I 0.05gを、50mLのスクリュー管に量りとり、粉体濃度が10質量%になるように分散媒を加え混合した。
(評価10)
分散剤として、高分子型ポリカルボン酸ナトリウム塩(日油(株)製、ポリスターOMP(無水マレイン酸/ジイソブチレン=50/50モル%共重合体を水酸化ナトリウムにより開環、重量平均分子量:30000))を用いた以外は、評価1〜9と同様の操作を行った。
(2)分散性評価結果
(1)で調製したサンプルを静置し、1時間、6時間、24時間後の沈降状態を目視で観察し、スクリュー管の底面から液面までの高さLと、底面から上澄み界面までの高さ(分散層の高さ)Lの比(L/L×100%)から、分散安定性を評価した。
各分散剤の分散安定性の評価結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
表3の結果から、本発明に係る共重合体AないしGは、いずれも、当初から優れた分散性を呈し、その優れた分散性が、長時間にわたって安定に維持されることがわかる。これに対し、カテコール基を有していても、エチレンオキシ鎖がない共重合体H(特許文献1のポリマーに相当。)、カテコール基を有していない共重合体I、及び既存の分散剤(ポリスターOMP)は、初期分散性、及び分散安定性ともに、満足のいくものではなかった。