特許第5939159号(P5939159)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5939159芳香族ポリアミド多孔質膜、電池用セパレータおよび電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939159
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】芳香族ポリアミド多孔質膜、電池用セパレータおよび電池
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20160609BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20160609BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   C08J9/26 102
   C08J9/26CFG
   C08J5/18
   H01M2/16 P
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-541244(P2012-541244)
(86)(22)【出願日】2012年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2012072419
(87)【国際公開番号】WO2013105300
(87)【国際公開日】20130718
【審査請求日】2015年8月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-4767(P2012-4767)
(32)【優先日】2012年1月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】沢本 敦司
(72)【発明者】
【氏名】西原 健太
(72)【発明者】
【氏名】佃 明光
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−68883(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/089785(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/087859(WO,A1)
【文献】 特開2002−201304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
C08J 5/18
H01M 2/14−2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元構造解析により得られる3μm立方の領域における孔の分岐点総数が2,000〜20,000である芳香族ポリアミド多孔質膜。
【請求項2】
3次元構造解析により得られる3μm立方の領域における孔の分岐点総数が5,000〜15,000である、請求項1に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜。
【請求項3】
3次元構造解析により得られる厚み方向の平均孔経路屈曲率が1.2〜2.1であり、同構造解析により得られる長手方向および幅方向の平均孔経路屈曲率のいずれもが1.0〜2.1である、請求項1または2に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜。
【請求項4】
磁場勾配NMR法により測定される厚み方向のリチウムイオン拡散係数が4.0〜12.0m/sである、請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリアミド多孔質膜。
【請求項5】
膜厚が9〜40μmであり、ガーレ透気度が5〜200秒/100mlである、請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリアミド多孔質膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリアミド多孔質膜を用いてなる電池用セパレータ。
【請求項7】
請求項6に記載の電池用セパレータを用いた電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミド多孔質膜に関するものであり、特に電池などの蓄電デバイスのセパレータとして好適に使用できる芳香族ポリアミド多孔質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池(LIB)などの非水系二次電池は、既に携帯機器用途を中心に広範に普及しているが、今後は電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)などの車載用途にも急速な拡大が予想される。車載用LIBの開発においては、高容量化、高出力化、大型化が進められる一方で、これまで以上に高い安全性が求められる。それに伴い、セパレータにもリチウムイオンが均一かつ低抵抗に透過する優れたイオン透過性と、耐熱性や耐短絡性などの安全性が同時に求められている。
【0003】
安全性の中でもとりわけ耐熱性の要求は高く、それに対応し、ポリオレフィン多孔質膜の片面または両面に耐熱保護層(HRL)を設けたセパレータが開示されている(例えば、特許文献1、2)。しかしながら、大型電池においては、このHRLの効果は限定的で、大面積にわたるポリオレフィン層のメルトダウンが起きた際にセパレータの収縮を有効に阻止できないことがあり、特に端部において短絡を起こす可能性がある。さらに、積層体であるため、一般的に薄膜化が困難である。
【0004】
このことから、電池の安全性を高めるためには、セパレータとして耐熱性に優れる材料を用いる必要がある。例えば特許文献3〜5には、耐熱性および耐酸化性に優れる芳香族ポリアミド(アラミド)を単体でセパレータとして用いることが開示されている。特許文献3は、アラミド不織布やアラミドペーパーのセパレータとしての用途を開示した例である。しかし、不織布や紙状シートでは50μm以下の厚みとしたとき、十分な機械的強度を持たず、繊維間の空隙が均一かつ緻密なものを工業的に製造することは困難であり、短絡などの懸念がある。一方、特許文献4は、アラミド溶液を流延後、凝固浴中へ浸漬して析出させる、いわゆる湿式法を用いて製膜したアラミド多孔質膜を開示した例である。しかし、湿式法では表面に被膜層が形成されたり、孔間の隔壁が多い構造や独立孔が形成されたり、膜の厚み方向で空孔の形状が異なったりすることがあり、孔構造を制御するのが困難である。このような課題がある湿式法に対し、特許文献5では、金属酸化物微粒子を分散したアラミド膜を製膜後、該微粒子を溶解除去することで均一孔を持つ多孔質膜を得る方法が開示されている。しかし、この方法で得られた多孔質膜は微粒子が抜けて形成された空孔間を連結する部分が微細な隙間であり、この連結部がボトルネックとなりうる。加えて、セパレータとして使用時に残留微粒子が脱落する懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−243805号公報
【特許文献2】特開2010−92881号公報
【特許文献3】特開平5−335005号公報
【特許文献4】特開2005−209989号公報
【特許文献5】特開2001−98106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電池用セパレータとして使用した際に高い出力が得られるとともに、サイクル特性および保存特性の低下や異常発熱を抑制することができ、かつ、優れた耐熱性を有する多孔質膜およびそれを用いた電池用セパレータおよび電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、以下の構成からなる。
(1)3次元構造解析により得られる3μm立方の領域における孔の分岐点総数が2,000〜20,000である芳香族ポリアミド多孔質膜。
(2)3次元構造解析により得られる3μm立方の領域における孔の分岐点総数が5,000〜15,000である、上記(1)に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜。
(3)3次元構造解析により得られる厚み方向の平均孔経路屈曲率が1.2〜2.1であり、同構造解析により得られる長手方向および幅方向の平均孔経路屈曲率のいずれもが1.0〜2.1である、上記(1)または(2)に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜。
(4)磁場勾配NMR法により測定される厚み方向のリチウムイオン拡散係数が4.0〜12.0m/sである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の芳香族ポリアミド多孔質膜。
(5)膜厚が9〜40μmであり、ガーレ透気度が5〜200秒/100mlである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の芳香族ポリアミド多孔質膜。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の芳香族ポリアミド多孔質膜を用いてなる電池用セパレータ。
(7)上記(6)に記載の電池用セパレータを用いた電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、優れた耐熱性を持ち、緻密ながら高空孔率で孔間の隔壁の少ない孔構造を有するため、リチウムイオン二次電池などの電池用セパレータに好適に用いることができる。本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜をセパレータとして用いた二次電池は、多孔質膜が緻密な孔構造を有することで、電池の使用時に析出したリチウム金属やその他製造工程で混入した異物などによる正負極の短絡を防止することができる。また、リチウムイオン透過の律速となる孔径路のボトルネック部や、透過経路長の増大および透過経路の局在化につながる孔間の隔壁が少なく、イオンが厚み方向および膜面方向に自由に拡散できる孔構造を有することで、高い出力が得られるとともに、長期使用時の性能劣化を防止することができる。さらに、上記構造においては、リチウムイオンが面内で均一に拡散するため、電流密度の局所化を抑制することにつながり、長期使用時やリチウム金属負極使用時などのリチウム金属析出による孔の閉塞および短絡を効果的に防止することができる。したがって、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜をセパレータとして用いた二次電池は、高い出力が得られるとともに、サイクル特性および保存特性の低下や異常発熱を抑制することができる。さらに、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、優れた耐熱性を有するため、得られた二次電池が熱暴走などによって高温に達した場合も高い安全性を保持することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において用いる芳香族ポリアミドとしては、次の化学式(1)および/または化学式(2)で表される繰り返し単位を有するものが好適である。
化学式(1):
【0010】
【化1】
【0011】
化学式(2):
【0012】
【化2】
【0013】
ここで、Ar、ArおよびArとしては、例えば、次の化学式(3)〜(7)で表される基から選ばれた基などが挙げられる。
化学式(3)〜(7):
【0014】
【化3】
【0015】
また、XおよびYとしては、
A群: −O−、−CO−、−CO−、−SO−、
B群: −CH−、−S−、−C(CH
などから選ばれた基を用いることができる。
【0016】
さらに、これらAr〜Arにおける芳香環上の水素原子の一部が、フッ素、臭素、塩素などのハロゲン基;ニトロ基;シアノ基;メチル、エチル、プロピルなどのアルキル基;メトキシ、エトキシ、プロポキシなどのアルコキシ基等の置換基で置換されているものが、溶媒への溶解性が向上すること、および吸湿率を低下させ湿度変化による寸法変化が小さくなることから好ましい。特に、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基などの電子吸引性の置換基を有すると、電気化学的な耐酸化性に優れ、セパレータとして用いたときに正極側における酸化などの変質を防げるため好ましい。なかでも置換基としてハロゲン基がより好ましく、塩素原子が最も好ましい。また、重合体を構成するアミド結合中の水素が置換基によって置換されていてもよい。
【0017】
本発明に用いられる芳香族ポリアミドは、Ar〜Arにおける芳香環がパラ配向性を有しているものが、全芳香環の50モル%以上を占めていることが好ましく、60モル%以上を占めていることがより好ましい。最も好ましくは100モル%である。ここでいうパラ配向性とは、芳香環において主鎖を構成する2価の結合手が互いに同軸または平行にある状態をいう。このパラ配向性が50モル%未満の場合、得られる芳香族ポリアミド多孔質膜(以下、単に多孔質膜ということがある。)の剛性および耐熱性が不十分となったり、孔構造が本発明の範囲内とならないことがある。
【0018】
さらに、芳香族ポリアミドが下記化学式(8)で表される繰り返し単位を30モル%以上含有する場合、多孔質膜の耐酸化性、耐熱性、湿度安定性などの特性と、製造時の溶媒への溶解性および製膜性とが両立できることから特に好ましく、40モル%以上が最も好ましい。
化学式(8):
【0019】
【化4】
【0020】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、3次元構造解析により得られる3μm立方の領域における孔の分岐点総数が2,000〜20,000であることが好ましい。より好ましくは5,000〜15,000、さらに好ましくは8,000〜15,000である。孔の分岐点総数を上記範囲内とすることで、良好なイオン透過性と耐短絡性とが両立できる。すなわち、孔の分岐点総数が多いことで、リチウムイオンの厚み方向および膜面方向への拡散における自由度が高く、低抵抗なイオン透過を実現するとともに、微小短絡の原因となるリチウム金属の成長を抑制することが可能となる。すなわち、短絡の原因の一つであるデンドライド状のリチウム金属は局所的に電流密度が高い部分で成長しやすいと考えられており、面内に均一にイオン拡散する上記のような孔構造は、デンドライド状のリチウム金属の成長を抑制する意味でも有効と考えられる。これらの効果により、電池用セパレータとして使用した際に高い出力が得られるとともに、サイクル特性および保存特性の低下や異常発熱を抑制することができる。孔の分岐点総数が2,000未満であると、リチウムイオンの透過経路が限定され、透過経路長の増大による抵抗の上昇や局所的な電流密度の増大によるリチウム金属の析出が起きることがある。また、繰り返し使用時や保存時に析出したリチウム金属による微小短絡が起きることがある。孔の分岐点総数を上記範囲内とするためには、製膜原液の処方および多孔質膜の製造条件を後述のとおりとすることが好ましい。より具体的には、芳香族ポリアミドの重合度を後述の範囲内で高くし、さらに、製膜原液への水の混合、および多孔質膜の製造の際の絶対湿度、支持体の熱容量を後述の範囲内で制御し、溶液粘度を低下させることなく、より速やかに多孔質膜を製造することで分岐点総数を多くすることができる。
【0021】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、3次元構造解析により得られる厚み方向の平均孔経路屈曲率が1.2〜2.1であることが好ましい。より好ましくは1.2〜2.0、さらに好ましくは1.3〜1.6である。ここで、厚み方向の平均孔経路屈曲率とは、後述の実施例に記載の方法によって測定した、厚み方向の全ての孔の経路長を平均した値を、始点面と終点面との垂直距離(厚み方向であれば解析範囲における膜の厚み)で除した値である。厚み方向の平均孔経路屈曲率が小さいほど、厚み方向にリチウムイオンが透過しやすく、電池用セパレータとして使用した際に高い出力が得られやすくなるが、厚み方向の平均孔経路屈曲率が1.2未満であると、使用時に析出したリチウム金属や製造工程などで混入した異物による正負極間の短絡が起きることがある。厚み方向の平均孔経路屈曲率が2.1を超えると、抵抗が大きく、電池用セパレータとして使用した際に出力が低下する。厚み方向の平均孔経路屈曲率を上記範囲内とするためには、製膜原液の処方、多孔質膜の製造条件を後述の範囲内とすることが好ましい。より具体的には、芳香族ポリアミドと親水性ポリマーの濃度、および溶液粘度を後述の範囲内とした製膜原液を用い、多孔質膜の製造の際の絶対湿度、支持体の熱容量を後述の範囲内で制御して多孔質膜を製造することが好ましい。さらに、製膜原液へ水を後述の範囲内で混合することが効果的である。
【0022】
また、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、上記した3次元構造解析により得られる長手方向および幅方向の平均孔経路屈曲率のいずれもが1.0〜2.1であることが好ましい。より好ましくはいずれもが1.0〜2.0、さらに好ましくはいずれもが1.0〜1.6である。長手方向および幅方向の平均孔経路屈曲率を上記範囲内とすることで、リチウムイオンの膜面方向への拡散における自由度が高く、低抵抗なイオン透過を実現することができ、電池用セパレータとして用いたときに高い出力が得られる。さらに、リチウムイオンが面内で均一に拡散するため、局所的な電流密度の増大を抑制することにつながり、リチウム金属析出による孔の閉塞および短絡を防止する効果が高くなる。長手方向および幅方向の平均孔経路屈曲率のいずれかが2.1を超えると、リチウムイオンの膜面方向への拡散における自由度が低下し、イオンの透過経路が限定されることで、抵抗の上昇や局所的な電流密度の増大によるリチウム金属の析出が起きることがある。長手方向および幅方向における平均孔経路屈曲率のいずれもを上記範囲内とするためには、孔間の隔壁の少ない孔構造とすることが好ましく、製膜原液の処方、多孔質膜の製造条件を後述の範囲内とすることが好ましい。より具体的には、芳香族ポリアミドの重合度を後述の範囲内で高くし、製膜原液における芳香族ポリアミドおよび親水性ポリマーの濃度を低く抑えながら製膜原液の溶液粘度を高くすることが好ましい。さらに、製膜原液への水の混合、および多孔質膜の製造の際の絶対湿度、支持体の熱容量を後述の範囲内で制御し、溶液粘度を低下させることなく、より速やかに多孔質膜を製造することで孔間の隔壁の少ない孔構造を得られやすい。
【0023】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、磁場勾配NMR法により測定される厚み方向のリチウムイオン拡散係数が4.0〜12.0m/sであることが好ましい。より好ましくは5.0〜12.0m/s、さらに好ましくは7.0〜12.0m/sである。リチウムイオン拡散係数が4.0m/s未満であると、抵抗が大きく、電池用セパレータとして使用した際に出力が低下する。リチウムイオン拡散係数が12.0m/sを超えると、多孔質膜の強度が低下する。緻密な孔構造でありながらリチウムイオン拡散係数を上記範囲内とするためには、リチウムイオン透過の律速となるボトルネックがなく、膜面方向の透過を妨げる孔間の隔壁の少ない孔構造を有することが好ましく、製膜原液の処方、多孔質膜の製造条件を後述の範囲内とすることが好ましい。
【0024】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜の厚みは、9〜40μmであることが好ましく、より好ましくは9〜30μmである。9μm未満であると強度が低く、加工時にフィルムの破断が起きたり、セパレータとして使用した際に電極間が短絡する可能性がある。40μmを超えるとセパレータとして使用した際に内部抵抗の上昇により出力が低下したり、電池内に組み込める活物質層の厚みが薄くなり体積あたりの容量が小さくなることがある。多孔質膜の厚みは、製膜原液濃度、製膜原液粘度、流延厚み、多孔化条件、湿式浴温度、熱処理時の温度および延伸条件などにより制御することができる。
【0025】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、ガーレ透気度が5〜200秒/100mlであることが好ましい。より好ましくは10〜150秒/100mlである。ガーレ透気度が5秒/100mlより小さいと強度が低下し、加工時にフィルムの破断が起きたり、セパレータとして使用した際に電極間が短絡する可能性がある。ガーレ透気度が200秒/100mlより大きいと、抵抗が大きく、電池用セパレータとして使用した際に出力が低下する。緻密な孔構造でありながらガーレ透気度を上記範囲内とするため、膜面方向の透気を妨げる孔間の隔壁の少ない孔構造を有することが好ましく、製膜原液の処方、多孔質膜の製造条件を後述の範囲内とすることが好ましい。
【0026】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、空孔率が60〜90%であることが好ましい。より好ましくは65〜80%である。空孔率が60%未満であると、電池用セパレータとして用いたときに、電解液の保液量が少なく、充放電を繰り返した際に液枯れによる性能低下が起きることがある。また、イオン透過の抵抗が大きく、電池用セパレータとして使用した際に、内部抵抗が上昇し、出力が低下する。空孔率が90%を超えると、機械強度が低下し、セパレータとして使用するために好ましくない。空孔率を上記範囲内とするため、製膜原液の処方、多孔質膜の製造条件を後述の範囲内とすることが好ましい。
【0027】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、200℃における長手方向(MD)および幅方向(TD)の熱収縮率のいずれもが−0.5〜2.0%であることが好ましく、−0.5〜1.0%であることがより好ましい。熱収縮率が2.0%を超える場合、電池の異常発熱時にセパレータの収縮により、電池端部において短絡が起こることがある。熱収縮率を上記範囲内とするため、本発明で用いる芳香族ポリアミドは芳香環がパラ配向性を有しているものが全芳香環の50モル%以上を占めており、かつ対数粘度が後述の範囲内で高いことが好ましい。また、製膜原液処方、多孔質膜の製造条件を後述のとおりとし、緻密かつ厚み方向に均一な孔構造を形成させることが好ましい。さらに、多孔質膜に熱処理を後述する条件で施し、その際にリラックスを施すことも効果的である。
【0028】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、JIS−K7127(1999)に従って測定した少なくとも一方向の破断点応力が10MPa以上であることが好ましい。破断点応力が10MPa未満の場合、加工時の高張力、張力変動などによりフィルムが破断し、生産性が低下することがある。生産性がより良くなることから、破断点応力は20MPa以上であることがより好ましく、30MPa以上であることがさらに好ましい。上限は特に定めることはないが、多孔質膜であれば一般的に1GPa程度が限界である。破断点応力を上記範囲内とするため、本発明で用いる芳香族ポリアミドは芳香環がパラ配向性を有しているものが全芳香環の50モル%以上を占めており、かつ対数粘度が後述の範囲内で高いことが好ましい。
【0029】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、JIS−K7127(1999)に従って測定した長手方向(MD)および幅方向(TD)の破断点伸度がいずれも10%以上であることが好ましい。伸度が高いことにより、加工工程でのフィルム破れを低減することができ、高速で加工することが可能となる。また、電池用セパレータとして使用する際、充放電時の電極の膨張収縮に破断することなく追随でき、電池の耐久性や安全性が確保できる。加工性、耐久性および安全性がより向上することから、破断伸度は20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。上限は特に定めることはないが、多孔質膜であれば一般的に200%程度が限界である。破断点伸度を上記範囲内とするため、本発明で用いる芳香族ポリアミドは、対数粘度が後述の範囲内で高いことが好ましい。また、製膜原液処方および多孔質膜の製造条件を後述のとおりとし、緻密かつ均一な孔構造を形成させることが好ましい。さらに、多孔質膜に熱処理を後述する条件で施し、その際にリラックスを施すことも効果的である。
【0030】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、表面および裏面の突き刺し強度がいずれも50N/mm以上であることが好ましい。ここでいう突き刺し強度とは、先端の曲率半径が1.5mmの針を用い、速度300mm/分で多孔質膜の測定面に対し垂直に針を突き刺した際の最大荷重を多孔質膜の厚みで除した値である。突き刺し強度が50N/mm未満であると、電池として使用した際に、析出したリチウム金属や製造工程などで混入した異物による破膜や正負極の短絡につながることがある。突き刺し強度は100N/mm以上であることがより好ましい。突き刺し強度を上記範囲内とするため、本発明で用いる芳香族ポリアミドは、対数粘度が後述の範囲内で高いことが好ましい。また、製膜原液の処方および多孔質膜の製造条件を後述の範囲内とし、緻密な孔構造を形成させることが好ましい。
【0031】
次に、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜の製造方法について、以下に説明する。まず、芳香族ポリアミドを、例えば、酸ジクロライドとジアミンを原料として重合する場合には、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性有機極性溶媒中で溶液重合により合成する方法や、水系媒体を使用する界面重合で合成する方法等をとることができる。ポリマーの分子量を制御しやすいことから、非プロトン性有機極性溶媒中での溶液重合が好ましい。
【0032】
溶液重合の場合、分子量の高いポリマーを得るために、重合に使用する溶媒の水分率を500ppm以下(質量基準、以下同様)とすることが好ましく、200ppm以下とすることがより好ましい。使用するジアミンおよび酸クロライドは、純度の高いものを用い、吸湿に注意することは言うまでもない。ジアミンおよび酸クロライドの両者を等量用いると超高分子量のポリマーが生成することがあるため、モル比を、一方が他方の95.0〜99.5モル%になるように調整することが好ましい。また、芳香族ポリアミドの重合反応は発熱を伴うが、重合系の温度が上がると、副反応が起きて重合度が十分に上がらないことがあるため、重合中の溶液の温度を40℃以下に冷却することが好ましい。重合中の溶液の温度は30℃以下にすることがより好ましい。さらに、重合反応に伴って塩化水素が副生するが、これを中和する場合には炭酸リチウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなどの無機の中和剤、あるいは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等の有機の中和剤を使用するとよい。
【0033】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜を得るために、芳香族ポリアミドポリマーの対数粘度(ηinh)は、2.0〜3.5dl/gであることが好ましく、2.2〜3.0dl/gであることがより好ましい。対数粘度が2.0dl/g未満であると、後述の範囲内の芳香族ポリアミド含有量で製膜原液を調製した際、製膜原液の溶液粘度が後述の好ましい範囲より低くなることがある。その結果、多孔質膜の製造の過程において孔間に隔壁ができたり、孔構造の粗大化や緻密な被膜層の形成が起きることがあり、最終的な孔構造が本発明の範囲内とならないことがある。一方で、溶液粘度を上げるため後述の範囲を超えた芳香族ポリアミド含有量で製膜原液を調製すると、多孔質膜の製造の際に芳香族ポリアミドポリマー同士の凝集が起こりやすくなり、孔構造が過度に緻密になったり、孔間の連結部が微細になり、最終的な孔構造が本発明の範囲内とならないことがある。また、対数粘度が2.0dl/g未満であると、ポリマー分子鎖の絡み合いによる鎖間の結合力が減少するため、靭性や強度などの機械特性が低下したり、熱収縮率が大きくなることがある。対数粘度が3.5dl/gを超えると、多孔質膜を製膜することが困難になることがある。
【0034】
次に、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜を製造する工程に用いる製膜原液(以下、単に製膜原液ということがある。)について、説明する。
【0035】
製膜原液には重合後のポリマー溶液をそのまま使用してもよく、あるいはポリマーを一度単離してから上述の非プロトン性有機極性溶媒や硫酸などの無機溶剤に再溶解して使用してもよい。芳香族ポリアミドを単離する方法としては、特に限定しないが、重合後の芳香族ポリアミド溶液を多量の水中に投入することで溶媒および中和塩を水中に抽出し、析出した芳香族ポリアミドのみを分離した後、乾燥させる方法などが挙げられる。また、再溶解時に溶解助剤として金属塩などを添加してもよい。金属塩としては、非プロトン性有機極性溶媒に溶解するアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物が好ましく、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウムなどが挙げられる。
【0036】
製膜原液100質量%中の芳香族ポリアミドの含有量は、5〜15質量%が好ましく、より好ましくは9〜13質量%である。製膜原液における芳香族ポリアミドの含有量が5質量%未満であると、溶液粘度が後述の好ましい範囲より低くなることがある。その結果、孔間に隔壁ができたり、孔構造の粗大化や緻密な被膜層の形成が起きることがあり、最終的な孔構造が本発明の範囲内とならないことがある。また、靭性や強度などの機械特性が低下したり、熱収縮率が大きくなることがある。製膜原液における芳香族ポリアミドの含有量が15質量%を超えると、多孔質膜の製造の際に芳香族ポリアミドポリマー同士の凝集が起こりやすくなり、孔構造が過度に緻密になったり、孔間の連結部が微細になり、最終的な孔構造が本発明の範囲内とならないことがある。製膜原液における芳香族ポリアミドの濃度は、溶液粘度が後述の範囲内である限りにおいて、低い方がより孔間の隔壁が形成されにくくなる傾向がある。
【0037】
製膜原液には孔形成能を向上させる目的で、親水性ポリマーを混合することが好ましい。親水性ポリマーを混合することで、製膜原液から多孔質膜を形成する過程において、芳香族ポリアミド分子の凝集を抑え、孔形成を誘起し、孔構造を本発明の範囲とすることができる。また、溶液粘度を後述の範囲内に調整することも容易になる。混合する親水性ポリマーは製膜原液100質量%に対して1〜10質量%であることが好ましく、2〜6質量%であることがより好ましい。製膜原液における親水性ポリマーの含有量が1質量%未満の場合、多孔質膜を形成する過程において、芳香族ポリアミド分子が凝集し、孔構造が本発明の範囲内とならないことがある。含有量が10質量%を超える場合、得られる多孔質膜において、孔構造の粗大化や強度の低下が起きることがある。また、最終的に多孔質膜中の親水性ポリマーの残存量が多くなり、耐熱性や剛性の低下、親水性ポリマーの電解液中への溶出などが起きることがある。
【0038】
親水性ポリマーとしては、非プロトン性有機極性溶媒に溶解するポリマーのうち、極性の置換基、特に、水酸基、アシル基およびアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を含有するポリマーであることが好ましい。このようなポリマーとして、例えば、ポリビニルピロリドン(以下、PVPと記すことがある。)、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン等が挙げられる。芳香族ポリアミドとの相溶性が良いPVPを用いることが最も好ましい。PVPの重量平均分子量は、50万〜200万であることが好ましい。重量平均分子量が50万未満であると、低分子量のPVPが多孔質膜に残った場合、多孔質膜の耐熱性が低下したり、セパレータとして使用した際にPVPが電解液中に溶出したりする恐れがある。重量平均分子量が200万を超えると、多孔質膜を製膜することが困難になることがある。親水性ポリマーは重合後の芳香族ポリアミド溶液あるいは再溶解した芳香族ポリアミド溶液中に投入しても、単離した芳香族ポリアミドとともに非プロトン性有機極性溶媒中に投入して混練してもよい。
【0039】
製膜原液には、その後の多孔質膜の製造工程におけるポリマーの析出を速やかに、かつ、均一に進行させ、孔構造を本発明の範囲とするため、あらかじめ水を混合することが好ましい。混合する水は、製膜原液100質量%に対して2〜20質量%であることが好ましく、4〜15質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは8〜15質量%である。製膜原液における水の含有量が2質量%未満であると、ポリマーの析出に時間を要し、孔間の隔壁が形成されやすくなったり、孔構造の粗大化や厚み方向の孔構造の不均一化が進行することがある。製膜原液における水の含有量が20質量%を超えると、流延前の製膜原液中で芳香族ポリアミドポリマーの凝集や析出が起き、得られる多孔質膜の孔構造が不均一になったり、ピンホールなどの欠点が生じることがある。水としては、特に限定しないが、逆浸透膜により処理した水、フィルター・活性炭・イオン交換膜などの組み合わせにより処理した水、あるいは蒸留水などを用いることが好ましい。
【0040】
製膜原液には、得られる多孔質膜の表面に突起を形成して静摩擦係数を低減し加工性を向上させる目的で、無機粒子または有機粒子を添加してもよい。
【0041】
製膜原液の溶液粘度は、B型粘度計を用いて30℃、10rpmにおいて測定される値が、200〜600Pa・sであることが好ましい。より好ましくは200〜500Pa・s、さらに好ましくは250〜450Pa・sである。溶液粘度が200Pa・s未満であると、キャスト膜を吸湿させる過程においてポリマーの移動度が高く、孔形成時に孔間に隔壁ができたり、孔構造の粗大化や緻密な被膜層の形成が起きることがあり、最終的な孔構造が本発明の範囲内とならないことがある。溶液粘度が600Pa・sを超えると、吸湿させる過程において水が膜中を拡散しにくく、厚み方向の孔径状の不均一化が起きることがある。
【0042】
上記のようにして調製された製膜原液を用いて、いわゆる溶液製膜法により、多孔質膜の製造が行われる。溶液製膜による多孔質膜の製造の方法として、代表的には湿式法、析出法などが挙げられるが、凝固浴を用いる湿式法では、厚み方向の孔形状の不均一化や、膜表面における緻密な被膜層の形成が生じたり、孔間に隔壁が生じやすい場合がある。そのため、孔構造を本発明の範囲内とするには、多孔質膜の孔構造を均一に制御しやすい析出法で製膜することが好ましい。
【0043】
析出法による多孔質膜の製造を行う場合、まず、製膜原液を口金やダイコーターを用いて、支持体上にキャスト(流延)し、製膜原液のキャスト膜を得た後、ポリマーを析出させて多孔質膜を得る。キャスト膜からポリマーを析出させる方法として、調温調湿雰囲気下でキャスト膜に吸湿させてポリマーを析出させる方法、キャスト膜を冷却することによりポリマーの溶解性を低下させて相分離または析出させる方法、キャスト膜に霧状の水を吹き付けてポリマーを析出させる方法などが挙げられる。冷却する方法ではポリマーの析出までに時間を要し、孔形状の不均一化が起きやすかったり、生産性が低下することがある。また、霧状の水を吹き付ける方法では、表面に緻密な層が形成されることがある。これらのことから、調温調湿雰囲気下でキャスト膜に吸湿させる方法が、水の供給速度および量を任意に制御可能で、均質な多孔質構造を短時間で形成させることができることから好ましい。
【0044】
ここで、調温調湿雰囲気下でキャスト膜に吸湿させる方法により、多孔質膜の孔構造を本発明の範囲を満たす、緻密かつ孔間の隔壁の少ないものとする方法について説明する。吸湿によりポリマーを析出させる方法は、良溶媒中にポリマーが溶解したポリマー溶液へ、ポリマーにとって貧溶媒である水を供給することで、ポリマーと良溶媒/水の混液との間に相分離を誘起させ、ポリマーが溶解できなくなり析出するものである。すなわち、このとき形成される孔構造の形状および大きさは、ポリマーの析出が完了し、構造が固定化されるまでの相分離の進行度によって決まる。また、水は、キャスト膜の支持体に接していない表面側から吸収させるため、水濃度はキャスト膜の表面側から上昇していく。溶液中でのポリマーの移動度が高いと、ポリマーはより安定な裏面側(支持体側)に移動し凝集する。その結果、キャスト膜の厚み方向にポリマーの濃度勾配が生じ、得られた多孔質膜において、支持体に接していない側(表面側)の孔構造が粗大となり、支持体に接している側の孔構造が極めて緻密あるいは閉塞した構造となることがある。以上のことから、孔径の粗大化、ポリマー凝集による孔間隔壁の形成、および、厚み方向の孔構造の不均一化を抑制するためには、キャスト膜中のポリマーを速やかに析出させる必要があり、そのためにはポリマーの移動度を低く抑えた状態で速やかに吸湿させて構造を固定化することが有効である。ポリマーの移動度を低く抑えるために、芳香族ポリアミドの対数粘度および製膜原液の溶液粘度を前述の範囲とすることが好ましい。また、吸湿による析出までの時間を短くするには、前述した範囲内で水をあらかじめ添加した製膜原液を用いること、および、雰囲気の温度および相対湿度を上げて絶対湿度を上げることが有効である。ただし、その一方で、雰囲気の温度を上げるとキャスト膜の溶液温度も上昇し、溶液粘度の低下やポリマーの溶解性の向上につながることがあるため、雰囲気の温度は後述の範囲内とし、さらに後述する支持体を使用することで吸湿時の溶液温度の上昇を抑制することが効果的である。
【0045】
多孔質膜の製造工程において、調温調湿雰囲気の容積絶対湿度は10〜180g/mとすることが好ましい。より好ましくは30〜100g/m、さらに好ましくは40〜90g/mである。また、この絶対湿度を満たす範囲内で、雰囲気の温度は20〜70℃、相対湿度は60〜95%RHとすることが好ましい。より好ましくは、雰囲気の温度は30〜60℃、相対湿度は70〜90%RHである。温度が20℃未満では、絶対湿度が低く、吸湿によるポリマーの析出が穏やかに進行する結果、多孔質化に時間を要し、孔間の隔壁の形成や孔構造の粗大化、および厚み方向の孔構造の不均一化が進行することがある。また、製膜速度を低下させるか、吸湿工程長を長くする必要があるため、生産性が低下することがある。温度が70℃を超えると、キャスト膜の溶液温度の上昇に伴いポリマーの移動度が上昇する。また、ポリマー自体の溶解性が向上するため、析出により構造が固定されるまでにより多くの水分を要し、結果として吸湿所要時間が長くなる。これらの結果、孔間の隔壁の形成や孔構造の粗大化、および厚み方向の孔構造の不均一化が進行することがある。相対湿度が60%RH未満では、吸湿よりも溶媒の乾燥が進行することで多孔質構造が形成されないことがある。相対湿度が95%RHを超えると、キャスト膜の表面における吸湿が急激に起こることで表面に緻密な層ができて、孔構造およびガーレ透気度が本発明の範囲外となることや、貫通孔が形成されないことがある。また、雰囲気の制御が不安定となり、生産性が低下することがある。調温調湿雰囲気下での処理時間は0.5〜2分とすることが好ましく、0.5〜1.5分とすることがより好ましい。
【0046】
ここで、吸湿の際、水と良溶媒との溶解熱により、キャスト膜における製膜原液の温度は大きく上昇するため、この温度上昇を抑制することが重要な要素となる。この工程において製膜原液温度の上昇を抑制する方法としては、支持体を熱容量の大きいものとする方法、連続的に支持体を冷却する方法などが挙げられる。
【0047】
支持体を熱容量の大きいものとする方法を用いる場合、支持体の表面積1mあたりの熱容量が0.2kJ/K以上のものを用いることが好ましい。より好ましくは1.0kJ/K以上、さらに好ましくは2.0kJ/K以上、最も好ましくは3.0kJ/K以上である。支持体の熱容量は、支持体の素材(これにより比熱と密度が決まる。)および厚みで制御できる。支持体の素材は、特に限定しないが、ステンレス、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂などが挙げられる。例えば、ステンレス(SUS304、SUS316)を用いる場合は厚み0.05mm(この時、表面積1mあたりの熱容量0.23kJ/K)以上の板状物またはエンドレスベルトなどを用いることが好ましい。また、支持体全体としての熱容量が上記範囲内であれば、複数の素材を積層したものを用いてもよい。生産性の点からは、支持体としてステンレスベルトを用いることが特に好ましい。
【0048】
一方、連続的に支持体を冷却する方法を用いる場合、支持体に熱伝導性が10W/m・K以上のものを用いることが好ましい。このような支持体として、例えば、アルミニウム(熱伝導性204W/m・K)、ステンレス(熱伝導率17W/m・K)などが挙げられる。この時、吸湿工程における支持体の温度T(℃)は調温調湿雰囲気の温度T(℃)に対し、T−70≦T≦T−10を満たす範囲で制御することが好ましい。T−70>Tであると、吸湿工程でキャスト膜表面において急激に結露が生じ、緻密な被膜層が形成されることがある。T>T−10であると、溶解熱による製膜原液温度の上昇を十分に抑制できず、本発明の緻密かつ孔間の隔壁の少ない孔構造を有する多孔質膜が得られないことがある。
【0049】
これらの方法のうち、生産性の点から、支持体を熱容量の大きいものとする方法がより好ましい。
【0050】
上記の工程により得られた芳香族ポリアミド多孔質膜は、支持体ごとあるいは支持体から剥離して湿式浴に導入され、溶媒、取り込まれなかった親水性ポリマー、および無機塩等の添加剤の除去が行われる。浴組成は特に限定されないが、水、あるいは有機溶媒/水の混合系を用いることが、経済性および取扱いの容易さから好ましい。また、湿式浴中には無機塩が含まれていてもよい。この時、同時に多孔質膜の延伸あるいはリラックスを行ってもよいし、多孔質膜の幅方向を把持せずに湿式浴に導入し、自由収縮させてもよい。湿式浴温度は、溶媒等を効率的に除去できることから、20℃以上であることが好ましい。浴温度が20℃未満であると、溶媒が残存し、熱処理時に突沸して靱性を低下させたり、取り込まれなかった親水性ポリマーが残存し、セパレータとして使用した際に電解液中へ溶出することがある。浴温度の上限は特に定めることはないが、水の蒸発や沸騰による気泡の発生の影響を考えると、90℃までに抑えることが効率的である。導入時間は、1〜20分にすることが好ましい。
【0051】
次に、脱溶媒を終えた多孔質膜に、テンターなどを用いて熱処理を施す。この時、まず100〜210℃で予備乾燥を行った後、220〜300℃で高温熱処理を施すことが、多孔質膜の靱性と耐熱性を両立させるために好ましい。ここで、予備乾燥はポリマー内部に取り込まれている水分を、高温での熱処理前に取り除く目的で行う。予備乾燥温度が100℃未満であると、ポリマー内部の水分まで取り除くことができず、次工程の高温での熱処理時に水分が突沸し、多孔質膜が発泡することで破断伸度などの機械特性が低下することがある。一方で、予備乾燥温度が210℃を超えると、予備乾燥時に多孔質膜内部の水分が突沸し、機械特性が低下することがある。乾燥温度は上記範囲内において高い方が好ましく、より好ましくは150〜210℃である。
【0052】
予備乾燥後の高温熱処理は220〜300℃で施すのが好ましい。高温熱処理温度が220℃未満であると、多孔質膜の耐熱性が不十分となり、熱収縮率が大きくなることがある。高温熱処理の温度が高いほど多孔質膜の耐熱性は向上するが、温度が300℃を超えると、ポリマーの分解などにより、破断伸度などの機械特性が低下することがある。また、この時、幅方向への延伸およびリラックスが施されてもよい。
【0053】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、優れた耐熱性を持ち、緻密ながら高空孔率で孔間の隔壁の少ない孔構造を有するため、リチウムイオン二次電池などの電池用セパレータとして好適に使用できる。本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜をセパレータとして用いた二次電池は、多孔質膜の緻密な構造ゆえ、充放電時に析出したデンドライド状金属やその他製造工程で混入した異物などによる正負極間の短絡を防止することができる。また、低抵抗な孔構造を有するため、高い出力が得られるとともに、長期使用時の性能劣化を防止することができる。さらに、優れた耐熱性を有するため、熱暴走などによって高温に達した場合も高い安全性を保持することが可能である。従って、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜をセパレータとして用いた二次電池は、小型の電子機器を始め、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)などの交通機関、産業用クレーンなどの大型の産業機器の動力源として好適に用いることができる。また、太陽電池、風力発電装置などにおける電力の平準化やスマートグリッドのための蓄電装置としても好適に用いることができる。
【0054】
本発明の電池の例として、リチウムイオン二次電池が挙げられる。リチウムイオン二次電池は、負極と正極がセパレータを介して対向して配置された電池要素に非水系電解液が含浸され、これが外装材に封入された構造を有している。
【0055】
負極の例としては、負極活物質、導電助剤およびバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形されたものが挙げられる。負極活物質としては、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が用いられる。具体的には、黒鉛やカーボンなどの炭素材料、シリコン酸化物、シリコン合金、スズ合金、リチウム金属、リチウム合金などなどが挙げられる。導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの炭素材料が用いられる。バインダーとしてはスチレン・ブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデンなどが用いられる。集電体としては銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔などが用いられる。
【0056】
正極の例としては、正極活物質、導電助剤およびバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形されたものが挙げられる。正極活物質としては、Mn、Fe、Co、Niなどの遷移金属を少なくとも1種含むリチウム複合酸化物が用いられる。具体的には、例えば、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが挙げられる。導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの炭素材料が用いられる。バインダーとしてはポリフッ化ビニリデンなどが用いられる。集電体としてはアルミ箔、ステンレス箔などが用いられる。
【0057】
非水系電解液としては、例えば、リチウム塩を非水系溶媒に溶解させたものを用いることができる。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCFなどが挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトンなどが挙げられ、通常はこれらのうちの2種以上が混合して用いられる。
【0058】
外装材としては、金属缶またはアルミラミネートパックなどが挙げられる。電池の形状は特に限定されるものではなく、コイン型、円筒型、角型などのいずれであってもよい。
【実施例】
【0059】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
実施例における物性の測定方法は次の方法に従って行った。
【0060】
(1)対数粘度(ηinh
臭化リチウム(LiBr)を2.5質量%添加したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に、ポリマーを0.5g/dlの濃度で溶解させ、ウベローデ粘度計を使用して、30℃にて流下時間を測定した。ポリマーを溶解させないブランクのNMPの流下時間も同様に測定し、下式を用いて対数粘度(ηinh)を算出した。
【0061】
ηinh(dl/g)=〔ln(t/t)〕/0.5
:ブランクの流下時間(秒)
t:サンプルの流下時間(秒)。
【0062】
(2)溶液粘度
RB80U型粘度計(東機産業社製)を用い、STローター(ローターコードNo.29)により30℃、10rpmにおいて溶液粘度を測定した。
【0063】
(3)分岐点総数、平均孔経路屈曲率
初めに、試料の幅方向(TD)−厚み方向(ZD)断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。集束イオンビーム(FIB)を用いて試料を削りTD−ZD断面を得る工程、および、得られたTD−ZD断面をSEMを用いて観察する工程を、試料の長手方向(MD)に20nm間隔で151回繰り返し実施することで、MD方向に3μmの長さにわたり、20nm間隔で連続的なTD−ZD断面像を得た。観察条件は以下のとおりである。
【0064】
装置:デュアルビーム装置 Strata 400S(FEI社製)
加速電圧:2kV
加工倍率:50,000倍
加工エリア:3μm(TD)×3μm(ZD)
スライス条件:20nmステップ×151回(MD)
試料前処理:空孔部を樹脂包埋
次に、画像解析ソフトウェア VG studio Max 1.2(日本ビジュアルサイエンス社製)を用い、前記方法で得られた連続断面像を樹脂部と空孔部に二階調化し、観察された3μm立方の領域における三次元像を再構築した。得られた三次元再構築像を細線化処理した。細線化処理は、三次元像の空孔部の孔の中心部を線分化する処理である。この処理によって、孔経路の構造を解析することができる。解析領域における孔の分岐点の数を数え、3μm立方の領域における分岐点総数を得た。
【0065】
また、解析方向における全ての孔の経路長を求め、それら全ての経路長を平均して、孔の平均経路長を得た。得られた孔の平均経路長を解析方向の領域の距離(厚み、長手、幅方向とも3μm)で除することで、平均孔経路屈曲率を得た。なお、解析の画像解像度は10nm/pixelで実施した。
【0066】
以上の観察および解析を、試料の一方の表面から膜の厚み方向3μmまでの層、もう一方の表面から厚み方向3μmまでの層、および厚み方向中心部の厚み3μmの層の合計3領域(MD、TDの位置については任意)について実施し、それぞれの領域について、分岐点総数および厚み方向、長手方向および幅方向の平均孔経路屈曲率を算出した。本発明における各解析値は、それら3領域から得られた、各3つの解析値の平均値とした。ここで、平均値とは相加平均により求めた値のことをいう。以下、特に断りのない限りにおいて、同様である。
【0067】
(4)リチウムイオン拡散係数
試料内部に電解液を浸透させて保持させた状態で、パルス磁場勾配核磁気共鳴(PFG−NMR)法でリチウムイオンの拡散係数を求めた。厚み方向の拡散係数を測定するため、直径4mmの円形に切断した試料を内径5mmのミクロ試料管へ導入し、総厚み5mm以上に積層した。この時、積層する試料間や、試料と試料管側面との間に隙間が存在すると、試料孔外(バルク電解液中)のリチウムイオン由来の測定値が観測されるため、試料を十分に密に試料管へ導入し、下記の電解液を浸透させた。以下の測定条件において、リチウムイオンを測定し、拡散係数を求めた。
【0068】
電解液:1M LiN(SOCF (LiTFSI)
エチレンカーボネート/メチルエチルカーボネート(1:2 vol%)
装置:ECA−500(日本電子社製)
測定周波数:194.4MHz
ロック溶媒:なし
積算回数:16回
測定温度:30℃
パルスシーケンス:BPPLED
磁場勾配強度:0.1〜3.0T/m
拡散時間:150ms
勾配磁場印加時間:2ms
ステップ数:16点
解析法:CONTIN
CONTINによる解析で得られた二次元スペクトル(DOSYスペクトル)の拡散係数分布のピークトップを試料孔内に存在するリチウムイオンの拡散係数とした。
【0069】
(5)厚み
定圧厚み測定器FFA−1(尾崎製作所製)を用いて多孔質膜の厚みを測定した。測定子径は5mm、測定荷重は1.25Nである。幅方向に、20mm間隔で10箇所測定し、平均値を求めた。
【0070】
(6)ガーレ透気度
B型ガーレーデンソメーター(安田精機製作所製)を使用し、JIS−P8117(1998)に規定された方法に従って、多孔質膜のガーレ透気度の測定を行った。試料の多孔質膜を直径28.6mm、面積645mmの円孔に締め付け、内筒により(内筒質量567g)、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させ、空気100mlが通過する時間を測定することでガーレ透気度とした。
【0071】
(7)空孔率
200mm角の試料の厚みと質量を測定し、多孔質膜の見かけの密度(かさ密度)dを求めた。これとポリマーの真密度dより、下式を用いて空孔率を算出した。
空孔率(%)=(1−d/d)×100。
【0072】
(8)熱収縮率
試料の多孔質膜を、幅10mm、長さ220mmの短冊状に切り取り、長辺を測定方向とした。長辺の両端から約10mmの部分に印をつけ、印の間隔をLとした。200℃の熱風オーブン中で10分間、実質的に張力を掛けない状態で熱処理を行った後の印の間隔をLとし、下式で熱収縮率を計算した。フィルムの長手方向および幅方向にそれぞれ5回測定し、それぞれ平均値を求めた。
熱収縮率(%)=((L−L)/L)×100。
【0073】
(9)電池評価
以下の通り、コイン型のリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
・正極
コバルト酸リチウム(LiCoO、日本化学工業社製)89.5質量部と、アセチレンブラック(電気化学工業社製)4.5質量部およびポリフッ化ビニリデン(PVdF、クレハ社製)の乾燥質量が6質量部となるように、濃度6質量%のPVdFのNMP溶液を用い、正極剤ペーストを作製した。得られたペーストを集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔(日本製箔社製)上に塗布し、乾燥した後、直径13mmの円形に打ち抜き加工を行うことで正極を得た。
【0074】
・負極
メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB、大阪ガスケミカル社製)87質量部と、アセチレンブラック3質量部およびPVdFの乾燥質量が10質量部となるように、濃度6質量%のPVdFのNMP溶液を用い、負極剤ペーストを作製した。得られたペーストを集電体である厚さ18μmの銅箔(日本製箔社製)上に塗布し、乾燥した後、直径14.5mmの円形に打ち抜き加工を行うことで負極を得た。
【0075】
・電解液
エチレンカーボネート30質量部、ジメチルカーボネート70質量部の混合液にLiPFが1mol/Lとなるように溶解させたものを用いた。
【0076】
・組み立て
ガスケットを装着した溶着済み封口板のスペーサー上に上記負極を負極剤が上になるように静置し、上から上記電解液を注液した。その上にセパレータとして試料の多孔質膜(直径17mmの円形)を静置し、さらにセパレータ上から電解液を注液した。次に上記正極を正極剤が下になるように静置し、ケースを静置した。これをカシメ機で封口し、直径20mm、厚み3.2mmのコイン型電池を作製した。
【0077】
・仕上げ充放電
作製したコイン型電池を、定電流0.2C(1mA)で電池電圧が3.7Vになるまで充電を行い、充電後、20℃で96時間エージングした。その後、定電流0.2Cで電池電圧が3.0Vになるまで放電を行った。このエージング処理の後、定電流0.2Cで電池電圧が4.2Vになるまで充電を行い、その後、定電流0.2Cで電池電圧が3.0Vになるまで放電を行った。この充放電を1サイクルとし、合計4サイクルの充放電を行うことで仕上げ充放電を完了した。仕上げ充放電はすべて20℃の雰囲気下で行った。以下のa〜cの電池評価は仕上げ充放電を行ったコイン型電池を用いて実施した。
【0078】
a〜cのすべての評価がA、BあるいはCのいずれかであれば実用的に優れた電池であると言える。より好ましくはa〜cのすべての評価がAあるいはBであり、さらに好ましくはa〜cのすべての評価がAである。
【0079】
a.出力特性
本評価はすべて20℃の雰囲気下で行った。作製したコイン型電池について、定電流0.2C(1mA)で電池電圧が4.2Vになるまで充電を行い、その後、定電流0.2Cで電池電圧が3.0Vになるまで放電を行った。このときの放電容量を0.2Cでの放電容量とした。次に、定電流0.2Cで電池電圧が4.2Vになるまで充電を行い、その後、定電流3C(15mA)で電池電圧が3.0Vになるまで放電を行った。このときの放電容量を3Cでの放電容量とした。これらの結果から、下式を用いて容量維持率を算出し、以下の基準でA〜Dの評価を行った。
容量維持率(%)=(3Cでの放電容量)/(0.2Cでの放電容量)×100
A:60%以上
B:50%以上60%未満
C:40%以上50%未満
D:40%未満。
【0080】
b.サイクル特性
本評価はすべて20℃の雰囲気下で行った。作製したコイン型電池について、定電流0.2Cで電池電圧が4.2Vになるまで充電を行い、その後、定電流0.2Cで電池電圧が3.0Vになるまで放電を行った。この充放電を1サイクルとし、合計500サイクルの充放電を行った。1サイクル目の放電容量と500サイクル目の放電容量から、下式を用いて容量維持率を算出し、以下の基準でA〜Dの評価を行った。
容量維持率(%)=(500サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)×100
A:60%以上
B:50%以上60%未満
C:40%以上50%未満
D:40%未満。
【0081】
c.保存特性
作製したコイン型電池について、20℃の雰囲気下、定電流0.2Cで電池電圧が4.2Vになるまで充電を行い、その後、20℃の雰囲気下、定電流0.2Cで電池電圧が3.0Vになるまで放電を行った。このときの放電容量を初期の放電容量とした。次に、20℃の雰囲気下、定電流0.2Cで電池電圧が4.2Vになるまで充電した。この充電状態の電池を80℃の雰囲気下に20日間保存した。保存後、20℃の雰囲気下において、定電流0.2Cで電池電圧が3.0Vになるまで放電を行った。その後、20℃の雰囲気下、定電流0.2Cで再度1サイクルの充放電を行い、放電容量を測定した。このときの放電容量を保存後の放電容量とした。これらの結果から、下式を用いて容量回復率を算出し、以下の基準でA〜Dの評価を行った。
容量回復率(%)=(保存後の放電容量)/(初期の放電容量)×100
A:80%以上
B:70%以上80%未満
C:60%以上70%未満
D:60%未満。
【0082】
以下に実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【0083】
(実施例1)
脱水したN−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)に、ジアミン全量に対して50モル%に相当する2−クロロ−1,4−フェニレンジアミン(日本化薬社製)と50モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(東京化成社製)を窒素気流下で溶解させ、30℃以下に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、30℃以下に保った状態で、ジアミン全量に対して98モル%に相当する2−クロロテレフタロイルクロライド(日本軽金属社製)を添加して、全量添加後、約2時間の撹拌を行い、芳香族ポリアミドを重合した。得られた重合溶液を、酸クロライド全量に対して97モル%の炭酸リチウム(本荘ケミカル社製)および6モル%のジエタノールアミン(東京化成社製)により中和することで芳香族ポリアミドの溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度ηinhは2.5dl/gであった。
【0084】
次に、得られた芳香族ポリアミド溶液中にポリビニルピロリドン(PVP、ISP社製K90)、RO水、および希釈用のNMPを、以下の組成になるように添加し、60℃で2時間撹拌を行うことで製膜原液を得た。製膜原液100質量%に対するそれぞれの成分の最終的な含有量は、芳香族ポリアミド10質量%、PVP5質量%、水10質量%であり、残りの75質量%はNMPおよび重合原液に含まれる中和塩(塩化リチウム、ジエタノールアミン塩酸塩)である。
【0085】
この製膜原液を、口金から支持体である厚み1mmのステンレス(SUS316)ベルト(表面積1mあたりの熱容量4.7kJ/K・m)上に膜状に塗布し、温度50℃、相対湿度85%RHの調温調湿空気中で1分間、塗布膜が失透するまで処理した。次に、失透した塗布膜をベルトから剥離し、60℃の水浴に2分間導入することで溶媒の抽出を行った。続いて、得られた膜を、クリップにより両端を定幅に把持した状態でテンター中において200℃で1分、230℃で2分、熱処理を行い、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0086】
(実施例2)
2−クロロ−1,4−フェニレンジアミンをジアミン全量に対して80モル%、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをジアミン全量に対して20モル%とする以外は実施例1と同様にして重合および中和を行い、対数粘度ηinhが2.5dl/gの芳香族ポリアミド溶液を得た。
【0087】
次に、重合原液中の中和塩を除去するため、この溶液を水とともにミキサーに投入し、攪拌しながらポリマーを沈殿させて取り出した。取り出したポリマーを水洗し、減圧120℃下で24時間乾燥させ、芳香族ポリアミドを単離した。
【0088】
単離した芳香族ポリアミドを用い、製膜原液の組成を芳香族ポリアミド11質量%、PVP5質量%、水5質量%、NMP79質量%とし、調温調湿空気中での処理時間を90秒とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0089】
(実施例3)
芳香族ポリアミドの対数粘度ηinhを2.0dl/gとすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0090】
(実施例4)
製膜原液の組成を芳香族ポリアミド10質量%、PVP5質量%、水3質量%とし、調温調湿空気中での処理時間を2分とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0091】
(実施例5)
調温調湿空気を温度35℃、相対湿度85%RHとし、調温調湿空気中での処理時間を90秒とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0092】
(実施例6)
支持体を厚み0.5mmのステンレス(SUS316)ベルト(表面積1mあたりの熱容量2.4kJ/K・m)とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0093】
(実施例7)
実施例1と同様の製膜原液を用いて、支持体である厚み5mmのガラス板(表面積1mあたりの熱容量11.3kJ/K・m)上にアプリケーターを用いて膜状に塗布した。その後、温度50℃、相対湿度85%RHの調温調湿空気中で1分間、塗布膜が失透するまで処理した。次に、失透した塗布膜を支持体から剥離し、ステンレス製の枠に固定した後、60℃の水浴に10分間浸漬することで溶媒の抽出を行った。続いて、得られた膜を、枠に固定したまま、熱風オーブンを用いて、200℃において1分、230℃において2分、熱処理を行い、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0094】
(実施例8)
製膜原液の組成を芳香族ポリアミド14質量%、PVP5質量%、水10質量%とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0095】
(実施例9)
調温調湿空気を温度20℃、相対湿度85%RHとし、調温調湿空気中での処理時間を2分とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0096】
(実施例10)
調温調湿空気を温度70℃、相対湿度85%RHとし、調温調湿空気中での処理時間を2分とすること以外実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0097】
(実施例11)
支持体を厚み50μmのステンレス(SUS304)箔(表面積1mあたりの熱容量0.2kJ/K・m)とすること以外は実施例7と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0098】
(比較例1)
芳香族ポリアミドを得るためのモノマーを、ジアミン全量に対して70モル%に相当する1,3−フェニレンジアミン(東京化成社製)と30モル%に相当する1,4−フェニレンジアミン(東京化成社製)、および98モル%に相当するイソフタロイルクロライド(東京化成社製)とし、芳香族ポリアミドの対数粘度ηinhを2.1dl/g、製膜原液の組成を芳香族ポリアミド14質量%、PVP5質量%、水10質量%とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0099】
(比較例2)
芳香族ポリアミドの対数粘度ηinhを1.8dl/gとすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0100】
(比較例3)
芳香族ポリアミドの対数粘度ηinhを1.8dl/gとし、製膜原液の組成を芳香族ポリアミド16質量%、PVP5質量%、水10質量%とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0101】
(比較例4)
芳香族ポリアミドの対数粘度ηinhを1.8dl/gとし、製膜原液の組成を芳香族ポリアミド12質量%、PVP20質量%、水10質量%とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0102】
(比較例5)
芳香族ポリアミドの対数粘度ηinhを2.8dl/gとし、製膜原液の組成を芳香族ポリアミド4質量%、PVP10質量%、水10質量%とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0103】
(比較例6)
製膜原液の組成を芳香族ポリアミド10質量%、PVP5質量%とし、水を添加せず、調温調湿空気中での処理時間を3分とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0104】
(比較例7)
実施例1と同様の製膜原液を用いて、支持体である厚み5mmのガラス板上にアプリケーターを用いて膜状に塗布した。その後、得られた塗布膜を支持体ごと、水50質量%およびNMP50質量%からなり、温度25℃の凝固液中に浸漬し、失透した塗布膜を支持体から剥離した。以降は実施例7と同様にステンレス製の枠に固定し、水洗および熱処理を行い、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0105】
(比較例8)
支持体を厚み75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製U34、表面積1mあたりの熱容量0.1kJ/K・m)とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、緻密ながら高空孔率で孔間の隔壁の少ない孔構造を有するため、リチウムイオン二次電池などの電池用セパレータに好適に用いることができる。本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜を電池用セパレータとして用いた場合、電池の使用時に析出したリチウム金属やその他製造工程で混入した異物などによる正負極の短絡を防止することができる。また、リチウムイオンが厚み方向および膜面方向に自由に拡散できるため、優れた出力特性が得られるとともに、長期使用時やリチウム金属負極使用時などのリチウム金属析出による孔の閉塞、短絡、電解液の枯渇を効果的に防止することができる。