特許第5939249号(P5939249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5939249有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939249
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/10 20060101AFI20160609BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20160609BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   H05B33/10
   H05B33/14 A
   H05B33/12 C
   H05B33/22 A
   H05B33/22 C
【請求項の数】11
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2013-508837(P2013-508837)
(86)(22)【出願日】2012年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2012058513
(87)【国際公開番号】WO2012137675
(87)【国際公開日】20121011
【審査請求日】2014年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-84262(P2011-84262)
(32)【優先日】2011年4月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-84263(P2011-84263)
(32)【優先日】2011年4月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】硯里 善幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朱里
(72)【発明者】
【氏名】大久 哲
(72)【発明者】
【氏名】源田 和男
【審査官】 中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−508515(JP,A)
【文献】 特開2001−297876(JP,A)
【文献】 特開2010−278024(JP,A)
【文献】 特開2010−257668(JP,A)
【文献】 特開2011−066388(JP,A)
【文献】 特開2010−192121(JP,A)
【文献】 特開2005−105219(JP,A)
【文献】 特開2008−244424(JP,A)
【文献】 特開2008−226685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/10
H01L 51/50
H05B 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に陽極及び陰極を有し、該陽極及び該陰極の間に少なくとも3層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
該有機層の少なくとも1層は、該基材上に有機層形成材料と溶剤を含有する有機層用塗布液を塗布した後、該有機層を加熱し、2秒以内に、該有機層用塗布液が含有する該溶剤を少なくとも90質量%まで除去する第1の乾燥工程と、残りの該溶媒を除去する第2の乾燥工程を経て形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記基材上に、前記有機層用塗布液を、酸素濃度が1.0質量%以上の環境下で塗布することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記有機層の少なくとも1層が、金属錯体化合物を含む発光層であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記有機層を加熱する方法が、前記基材側から加熱をする方法であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記加熱が、近赤外光によって行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記有機層用塗布液を前記基材上に塗布するのと同時に、前記加熱が開始されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記有機層用塗布液は、該有機層用塗布液の調製開始から塗布直前まで、不活性ガス雰囲気下で、かつ酸素濃度及び水分濃度が、いずれも70ppm以下の環境下にあることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記有機層用塗布液は、塗布直前まで外部エネルギーの付与環境下で保持されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
前記外部エネルギーが、超音波エネルギーであることを特徴とする請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子を、基材上に、少なくとも、第一電極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び第二電極を、この順で形成して製造することを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
【請求項11】
前記発光層の形成に用いる発光層用形成材料の数平均分子量が、2000以下であることを特徴とする請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光型の電子ディスプレイデバイスとして、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(以下、ELDと略記する。)がある。ELDの構成要素としては、無機エレクトロルミネッセンス素子(以下、無機EL素子ともいう。)や有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう。)が挙げられる。無機EL素子は平面型光源として使用されてきたが、発光素子を駆動させるためには交流の高電圧が必要である。
【0003】
一方、有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光する化合物を含有する発光層を陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・リン光)を利用して発光する素子である。また、数V〜数十V程度の電圧で発光が可能であり、更に自己発光型であるために視野角に富み、視認性が高く、薄膜型の完全固体素子であるために省スペース、携帯性等の観点から注目されている。
【0004】
また、有機エレクトロルミネッセンス素子は、従来実用に供されてきた主要な光源、例えば、発光ダイオードや冷陰極管と異なり、面光源であることも大きな特徴である。この特性を有効に活用できる用途として、照明用光源や様々なディスプレイのバックライトがある。特に近年、需要の増加が著しい液晶フルカラーディスプレイのバックライトとして用いることも好適である。
【0005】
これら有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としては、蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、スプレー法、印刷法)等があるが、真空プロセスを必要とせず、連続生産が簡便であるという理由で近年はウェットプロセスにおける製造方法が注目されている。
【0006】
ウェットプロセスで有機EL素子を作製する場合では、不活性環境下で塗布されることが多いが、当該環境を維持することは、非常に労力を要するため、簡便かつコスト低下の観点から、大気圧下でのウェットプロセスによる有機EL素子の製造も行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
一方、ウェットプロセスで有機EL素子を作製した場合、蒸着により作製された有機EL素子に比べ、発光効率及び発光寿命が低くなるという問題があった。
【0008】
このような問題に対して、例えば、塗布により発光層を形成した後、界面周辺を選択的に加熱する工程を有する有機EL素子の製造方法などがある(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−209320号公報
【特許文献2】特開2008−210615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、水分濃度及び酸素濃度を少なくとも100ppm以上の環境下においてウェットプロセスによる有機EL素子の製造を行う場合、塗布膜中に水分及び酸素が多く残ることから有機EL素子の駆動電圧及び駆動寿命に課題があることを本発明者らは見出した。
【0011】
また、ウェットプロセスで有機EL素子を作製した場合、ドライプロセス(蒸着)により作製された有機EL素子に比べ、駆動電圧、駆動寿命及び発光ムラに課題があった。
【0012】
また、特許文献2に記載されている方法で作製された有機EL素子は、発光効率については改善されるものの、発光寿命及び発光ムラにおいては未だ課題が残っており、発光効率及び発光寿命を共に改善できる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス素子の開発が求められていた。
【0013】
そこで本発明の課題は、上記問題に鑑み、低駆動電圧及び高発光効率で、かつ長寿命で発光ムラのない有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成された。
【0015】
1.基材上に陽極及び陰極を有し、該陽極及び該陰極の間に少なくとも3層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
該有機層の少なくとも1層は、該基材上に有機層形成材料と溶剤を含有する有機層用塗布液を塗布した後、該有機層を加熱し、2秒以内に、該有機層用塗布液が含有する該溶剤を少なくとも90質量%まで除去する第1の乾燥工程と、残りの該溶媒を除去する第2の乾燥工程を経て形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0016】
2.前記基材上に、前記有機層用塗布液を、酸素濃度が1.0質量%以上の環境下で塗布することを特徴とする第1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0017】
3.前記有機層の少なくとも1層が、金属錯体化合物を含む発光層であることを特徴とする第1項または第2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0018】
4.前記有機層を加熱する方法が、前記基材側から加熱をする方法であることを特徴とする第1項から第3項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0019】
5.前記加熱が、近赤外光によって行うことを特徴とする第1項から第4項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0020】
6.前記有機層用塗布液を前記基材上に塗布するのと同時に、前記加熱が開始されることを特徴とする第1項から第5項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0021】
7.前記有機層用塗布液は、該有機層用塗布液の調製開始から塗布直前まで、不活性ガス雰囲気下で、かつ酸素濃度及び水分濃度がいずれも70ppm以下の環境下にあることを特徴とする第1項から第6項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0022】
8.前記有機層用塗布液は、塗布直前まで外部エネルギーの付与環境下で保持されることを特徴とする第1項から第7項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0023】
9.前記外部エネルギーが、超音波エネルギーであることを特徴とする第8項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0024】
10.前記有機エレクトロルミネッセンス素子を、基材上に、少なくとも、第一電極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び第二電極を、この順で形成して製造することを特徴とする第1項から第9項のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
【0025】
11.前記発光層の形成に用いる発光層用形成材料の数平均分子量が、2000以下であることを特徴とする第10項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法
【発明の効果】
【0026】
本発明により、低駆動電圧及び高発光効率で、かつ長寿命で発光ムラのない有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び該製造方法により製造された有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を更に詳しく説明する。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、基材上に陽極及び陰極を有し、該陽極及び該陰極の間に少なくとも3層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、該有機層の少なくとも1層は、該基材上に有機層形成材料と溶剤を有する有機層用塗布液を塗布した後、該有機層を加熱し、2秒以内に、該有機層用塗布液が含有する該溶剤を少なくとも90質量%まで除去する第1の乾燥工程と、残りの該溶媒を除去する第2の乾燥工程を経て形成することを特徴とする。
【0028】
本発明者らは鋭意検討の結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、有機層の少なくとも1層は、前記基材上に有機層形成材料と溶剤を有する有機層用塗布液を塗布した後、該有機層を加熱し、2秒以内に、該有機層用塗布液が含有する該溶剤の90%以上を除去する工程を経て形成することにより、低駆動電圧及び高発光効率で、長寿命の有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができることを見出した。
【0029】
本発明により、低駆動電圧及び高発光効率で、長寿命の有機エレクトロルミネッセンス素子を製造できた理由を以下のように考えている。すなわち、有機層の少なくとも1層が、前記基材上に有機層形成材料と溶剤を有する有機層用塗布液を塗布した後、該有機層を加熱し、2秒以内に、該有機層用塗布液が含有する該溶剤の90%以上を除去することにより、これよりも長い時間、溶剤の90%以上が除去されない工程を経て製造された有機エレクトロルミネッセンス素子よりも、有機層における膜のモルフォロジーが有機エレクトロルミネッセンス素子における低駆動電圧で長寿命の効果に適していたこと、更には、該有機層を加熱し、2秒以内に、該有機層用塗布液が含有する該溶剤の90%以上を除去することにより、これよりも長い時間溶剤の90%以上が除去されない工程を経て製造された有機エレクトロルミネッセンス素子よりも、環境中の酸素などが有機層中に取り込まれないため、本効果を奏したと本発明者らは考えている。
【0030】
以下、本発明のプロセスで製造される有機エレクトロルミネッセンス素子の各構成要素の詳細について、順次説明する。
【0031】
《有機EL素子の層構成》
次に、本発明の有機EL素子の層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0032】
(i)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(ii)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
(iii)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
(iv)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
本発明に係る有機層とは、特に限定されないが、例えば、上記の様な構成においては、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層が、本発明でいう有機層に該当する。
【0033】
本発明の有機EL素子の製造方法においては、有機層の少なくとも1層は、前記基材上に有機層形成材料と溶剤を有する有機層用塗布液を塗布した後、該有機層用塗布液を加熱し、2秒以内に、該有機層用塗布液が含有する該溶剤の90%以上を除去する工程を経て製造することを特徴とする。
【0034】
ここで、本発明に係る有機層用塗布液は、有機層形成材料及び溶剤を含むことを特徴とする。更には、基材上に、前記有機層用塗布液を、酸素濃度が1.0質量%以上の環境下で塗布する製造方法が好ましい態様である。また、有機層用塗布液は、塗布される直前まで外部エネルギー下にあることが好ましい。外部エネルギーとしては、例えば、化学的、熱的、電気的刺激または光、超音波等の外部エネルギーが挙げられる。この中でも特に、超音波エネルギーを用いることが好ましい。
【0035】
また、有機層用塗布液は、該有機層用塗布液の調製開始から塗布直前まで、不活性ガス雰囲気下で、かつ酸素濃度及び水分濃度が、いずれも70ppm以下の環境下にあることが好ましい。本発明に係る不活性ガスとしては、窒素(N)ガス、アルゴン(Ar)ガス、ネオン(Ne)ガス、ヘリウム(He)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどがある。この中でも、実用的な面から、窒素(N)ガスが好ましい。また、不活性ガス雰囲気下とは、不活性ガスが50体積%を占めることが好ましく、更に好ましくは、80体積%以上である。
【0036】
また、酸素濃度及び水分濃度が70ppm以下の環境下とは、例えば、密閉空間の中で上記不活性ガスの流量を計測し、例えば、不活性ガスと、大気あるいは酸素及び水分を含有する気体との流量比を制御することで調整可能である。
【0037】
本発明における酸素濃度の測定方法は、特に限定されないが、例えば、市販の酸素濃度測定器(例えば、東レ社製のLC800)等を用いて測定することができる。また、本発明における水分濃度の測定方法は、特に限定されないが、例えば市販の水分濃度測定器(例えば、Alpha Moisture Systems社製の水分濃度計Model DS1000)等を使用して測定することができる。
【0038】
本発明に係る溶剤は、本発明に係る有機層を形成する有機層用塗布液の調製に用いられる溶剤であり、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の有機溶媒を用いることができる。この中でも、脂肪酸エステル類を用いることが好ましく、更に好ましくは、酢酸イソプロピルである。脂肪酸エステル類を用いると、有機層、例えば、発光層用塗布液の凝集状態が良くなるためである。また、有機層用塗布液の調製に用いる分散方法としては、超音波分散機、高剪断力方式の分散機やメディア型分散機等の分散装置により分散することができる。
【0039】
本発明に係る有機層形成材料は、有機層の種類によってそれぞれ構成材料が異なるため、以下の有機ELの層構成に関する詳細な説明中に記載する。なお、有機層用塗布液及び有機層形成材料は、その有機層の名前にちなんで、名称を変更する。例えば、発光層における有機層用塗布液及び有機層形成材料は、発光層用塗布液及び発光層形成材料とする。
【0040】
以下、本発明の有機ELの層構成に関して、詳細に説明をする。
【0041】
《発光層》
本発明に係る発光層は、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
【0042】
発光層の膜厚は特に制限はないが、形成する膜の均質性や発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、且つ駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、2nmから200nmの範囲に調整することが好ましく、更に好ましくは5nm以上、100nm以下の範囲に調整される。
【0043】
また、本発明に係る発光層は、該発光層を形成する工程において、本発明で規定する基材上に発光層形成材料と溶剤を有する発光層用塗布液を塗布した後、該発光層を加熱し、2秒以内に、該発光層用塗布液が含有する溶剤の90%以上を除去する工程を経て形成することが好ましい。
【0044】
本発明に係る発光層形成材料として、金属錯体化合物を含有することが好ましい態様である。また、その他にもホスト化合物を金属錯体化合物と共に用いることも可能である。また、発光層の形成に用いる発光層形成材料の数平均分子量は、特に限定されないが、2000以下であることが好ましい。
【0045】
本発明に係る金属錯体化合物としては、蛍光ドーパント、リン光ドーパントを用いることができる。この中でも、より発光効率の高い有機EL素子を得る観点からは、本発明の有機EL素子の発光層に使用される金属錯体化合物としては、リン光ドーパントを含有することが好ましい。
【0046】
リン光ドーパントは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
【0047】
上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に係るリン光ドーパントは、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
【0048】
リン光ドーパントの発光は原理としては2種挙げられ、一つはキャリアが輸送される発光ホスト上でキャリアの再結合が起こって発光ホストの励起状態が生成し、このエネルギーをリン光ドーパントに移動させることでリン光ドーパントからの発光を得るというエネルギー移動型、もう一つはリン光ドーパントがキャリアトラップとなり、リン光ドーパント上でキャリアの再結合が起こり、リン光ドーパントからの発光が得られるというキャリアトラップ型であるが、いずれの場合においても、リン光ドーパントの励起状態のエネルギーは発光ホストの励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
【0049】
リン光ドーパントは、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。以下に、リン光ドーパントとして用いられる化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0050】
これらの化合物は、例えば、Inorg.Chem.,40巻、1704〜1711に記載の方法等により合成できる。
【0051】
【化1】
【0052】
【化2】
【0053】
【化3】
【0054】
【化4】
【0055】
【化5】
【0056】
【化6】
【0057】
【化7】
【0058】
【化8】
【0059】
【化9】
【0060】
【化10】
【0061】
【化11】
【0062】
【化12】
【0063】
【化13】
【0064】
【化14】
【0065】
【化15】
【0066】
【化16】
【0067】
【化17】
【0068】
【化18】
【0069】
この中でも、青色の発光波長を有する金属錯体としては、特に下記一般式(1)で表される有機金属錯体を用いることが好ましい。
【0070】
【化19】
【0071】
上記一般式(1)において、R81〜R86及びZは、各々水素原子または置換基を表す。P−L1−Pは2座の配位子を表し、P及びPは各々独立に炭素原子、窒素原子又は酸素原子を表す。L1はP及びPと共に2座の配位子を形成する原子群を表す。m1は1、2又は3の整数を表し、m2は0、1又は2の整数を表すが、m1+m2は2又は3である。Mは元素周期表における8族〜10族の遷移金属元素を表す。
【0072】
前記一般式(1)で表される有機金属錯体において、P−L1−Pで表される2座の配位子としては、例えば、置換または無置換のフェニルピリジン、フェニルピラゾール、フェニルイミダゾール、フェニルトリアゾール、フェニルテトラゾール、ピラザボール、アセチルアセトン、ピコリン酸等が挙げられる。
【0073】
前記一般式(1)で表される有機金属錯体において、Mで表される元素周期表における8族〜10族の遷移金属元素としては、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等が挙げられるが、Rh、Ir、Ptが好ましく、中でも、Irが好ましく用いられる。
【0074】
Zで表される炭化水素環基としては、非芳香族炭化水素環基、芳香族炭化水素環基が挙げられ、非芳香族炭化水素環基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ置換されていても無置換でもよい。
【0075】
また、芳香族炭化水素環基(芳香族炭化水素基、アリール基等とも言う)としては、例えば、フェニル基、p−クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等が挙げられる。これらの基は置換されていても無置換でもよい。
【0076】
前記一般式(1)で表される有機金属錯体において、R81からR86は水素原子または置換基を表し、置換基の例としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基等)、アルキニル基(例えば、エチニル基、プロパルギル基等)、芳香族炭化水素環基(芳香族炭素環基、アリール基等ともいい、例えば、フェニル基、p−クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等)、芳香族複素環基(例えば、ピリジル基、ピリミジニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、トリアゾリル基(例えば、1,2,4−トリアゾール−1−イル基、1,2,3−トリアゾール−1−イル基等)、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、チエニル基、キノリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す)、キノキサリニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等)、複素環基(例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等)、アリールスルホニル基またはヘテロアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、フッ化炭化水素基(例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、シリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等)が挙げられる。これらの置換基は上記の置換基によって更に置換されていてもよい。これらの置換基は複数が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0077】
中でも、芳香族炭化水素基(芳香族炭素環基、アリール基等ともいい、例えば、フェニル基、p−クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等)または、芳香族複素環基(例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、トリアジニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等)が特に好ましい。
【0078】
また、本発明において、発光層に金属錯体化合物を含む場合、発光層に含まれる金属錯体化合物は1種類でも良いし、異なる発光極大波長を持つ2種類以上の金属錯体化合物を含有させても良い。
【0079】
本発明の有機EL素子の発光層に含有されるホスト化合物としては、室温(25℃)における燐光発光の燐光量子収率が0.1未満の化合物が好ましい。さらに好ましくは燐光量子収率が0.01未満である。また、発光層に含有される化合物の中で、その層中での体積比が50体積%以上であることが好ましい。
【0080】
ホスト化合物としては、公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、または複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。また、後述する発光材料を複数種用いることで異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
【0081】
本発明に用いられるホスト化合物としては、従来公知の低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもよい。
【0082】
公知のホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。ここで、ガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS−K−7121に準拠した方法により求められる値である。
【0083】
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。例えば、特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等が挙げられる。
【0084】
本発明に用いられるホスト化合物は、カルバゾール誘導体であることが好ましく、カルバゾール誘導体であってジベンゾフラン化合物であることがより好ましい。
【0085】
本発明に係る溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の有機溶媒を用いることができる。この中でも、脂肪酸エステル類を用いることが好ましく、さらに好ましくは、酢酸イソプロピルである。脂肪酸エステル類を用いると、発光層用塗布液の凝集状態が良くなるためである。
【0086】
また、分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
【0087】
《注入層:電子注入層、正孔注入層》
本発明の有機EL素子においては、注入層は必要に応じて設けることができる。注入層としては電子注入層と正孔注入層があり、上記の如く陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
【0088】
本発明でいう注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層で、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層と電子注入層とがある。
【0089】
正孔注入層は、例えば、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されている。また、本発明に係る有機層の一つである正孔注入層は、該正孔注入層を形成する工程において、基材上に正孔注入層形成材料と溶剤を有する正孔注入層用塗布液を塗布した後、該正孔注入層を加熱し、2秒以内に溶剤の90%以上を除去する工程を経て形成することができる。更には、酸素濃度1%以上の環境下で、正孔注入層用塗布液を塗布することが好ましい。
【0090】
本発明に係る正孔注入層形成材料としては、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体等を含むポリマーやアニリン系共重合体、ポリアリールアルカン誘導体、または導電性ポリマーが挙げられ、好ましくはポリチオフェン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体であり、さらに好ましくはポリチオフェン誘導体である。
【0091】
電子注入層は、例えば、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されている。本発明に係る有機層の一つである電子注入層は、該電子注入層を、溶剤を用いた塗布液を塗布して形成する場合において、基材上に電子注入層形成材料と溶剤を有する電子注入層用塗布液を塗布した後、該電子注入層を加熱し、2秒以内に溶剤の90%以上を除去する工程を経て形成することができる。更には、酸素濃度1%以上の環境下で、電子注入層用塗布液を塗布することが好ましい。
【0092】
本発明に係る電子注入層形成材料として好ましいものは、金属化合物が挙げられる。そのため、電子注入層の具体例としては、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。本発明においては、上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、フッ化カリウム、フッ化ナトリウムが好ましい。その膜厚は0.1nmから5μm程度、好ましくは0.1〜100nmの範囲内であり、さらに好ましくは0.5〜10nmの範囲内であり、最も好ましくは0.5〜4nmの範囲内である。
【0093】
《正孔輸送層》
本発明に係る有機層の一つである正孔輸送層は、該正孔輸送層を形成する工程において、基材上に正孔輸送層形成材料と溶剤を有する正孔輸送層用塗布液を塗布した後、該正孔輸送層を加熱し、2秒以内に溶剤の90%以上を除去する工程を経て形成することができる。更には、酸素濃度1%以上の環境下で、正孔輸送層用塗布液を塗布することが好ましい。
【0094】
本発明に係る正孔輸送層形成材料としては、上記正孔注入層で適用するのと同様の化合物を使用することができるが、さらには、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0095】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(以下、TPDと略記する。);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、更には、米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(以下、NPDと略記する。)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(以下、MTDATAと略記する。)等が挙げられる。
【0096】
更に、これらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入層材料、正孔輸送層材料として使用することができる。
【0097】
また、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、特開2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)、特表2003−519432号公報に記載されているような、いわゆるp型半導体的性質を有するとされる正孔輸送層材料を用いることもできる。
【0098】
正孔輸送層の膜厚については、特に制限はないが、通常は5nmから5μm程度、好ましくは5.0〜200nmの範囲内である。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0099】
《電子輸送層》
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料を含有し、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。また、本発明に係る有機層の一つである電子輸送層は、該電子輸送層を形成する工程において、基材上に電子輸送層形成材料と溶剤を有する電子輸送層塗布液を塗布した後、該電子輸送層を加熱し、2秒以内に溶剤の90%以上を除去する工程を経て形成することができる。更には、酸素濃度1%以上の環境下で、電子輸送層用塗布液を塗布することが好ましい。
【0100】
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送層材料(正孔阻止層材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、フルオレン誘導体、カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリゾール誘導体、シロール誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、8−キノリノール誘導体等の金属錯体等が挙げられる。
【0101】
その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送層材料として好ましく用いることができる。
【0102】
これらの中でもカルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、ピリジン誘導体等が本発明では好ましく、カルバゾール誘導体であって本発明に係るジベンゾフラン化合物であることがより好ましい。
【0103】
電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nmから5μm程度、好ましくは5.0〜200nmの範囲内である。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0104】
また、不純物をゲスト材料としてドープしたn性の高い電子輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、同10−270172号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0105】
また、本発明における電子輸送層には、有機物のアルカリ金属塩を含有することが好ましい。有機物の種類としては特に制限はないが、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸、酪酸塩、吉草酸塩、カプロン酸塩、エナント酸塩、カプリル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩、フタル酸塩、イソフタル酸塩、テレフタル酸塩、サリチル酸塩、ピルビン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、アジピン酸塩、メシル酸塩、トシル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩が挙げられ、好ましくはギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、カプロン酸塩、エナント酸塩、カプリル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩、より好ましくはギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩等の脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩が好ましく、脂肪族カルボン酸の炭素数が4以下であることが好ましい。最も好ましくは酢酸塩である。
【0106】
有機物のアルカリ金属塩のアルカリ金属の種類としては特に制限はないが、Na、K、Csが挙げられ、好ましくはK、Cs、さらに好ましくはCsである。有機物のアルカリ金属塩としては、前記有機物とアルカリ金属の組み合わせが挙げられ、好ましくは、ギ酸Li、ギ酸K、ギ酸Na、ギ酸Cs、酢酸Li、酢酸K、酢酸Na、酢酸Cs、プロピオン酸Li、プロピオン酸Na、プロピオン酸K、プロピオン酸Cs、シュウ酸Li、シュウ酸Na、シュウ酸K、シュウ酸Cs、マロン酸Li、マロン酸Na、マロン酸K、マロン酸Cs、コハク酸Li、コハク酸Na、コハク酸K、コハク酸Cs、安息香酸Li、安息香酸Na、安息香酸K、安息香酸Cs、より好ましくは酢酸Li、酢酸K、酢酸Na、酢酸Cs、最も好ましくは酢酸Csである。
【0107】
これらドープ材の含有量は、添加する電子輸送層に対し、好ましくは1.5〜35質量%の範囲内であり、より好ましくは3.0〜25質量%の範囲内であり、最も好ましくは5.0〜15質量%の範囲内である。
【0108】
《陽極》
有機EL素子を構成する陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状パターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合(100μm以上程度)は、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。更に膜厚は材料にもよるが、通常は、10nmから1000nmの範囲であり、好ましくは10nmから200nmの範囲で選ばれる。
【0109】
《陰極》
陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nmから5μm、好ましくは50nmから200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0110】
また、陰極に上記金属を1nmから20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に形成することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する有機EL素子を作製することができる。
【0111】
《基材》
本発明の有機EL素子に用いることのできる基材としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。基材側から光を取り出す場合には、基材は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な基材としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。リジットな基材よりもフレキシブルな基材において、高温保存安定性や色度変動を抑制する効果が大きく現れるため、特に好ましい基材は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な可撓性を備えた樹脂フィルムである。
【0112】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、アートン(商品名、JSR社製)あるいはアペル(商品名、三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
【0113】
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/(m・24h)以下のバリア性フィルムであることが好ましく、さらには、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定した酸素透過度が、1×10−3cm/(m・24h・atm)以下、水蒸気透過度が1×10−3g/(m・24h)以下の高バリア性フィルムであることが好ましく、前記の水蒸気透過度が1×10−5g/(m・24h)以下であることが更に好ましい。
【0114】
バリア膜を形成する材料としては、水分や酸素等の有機EL素子の劣化を招く因子の浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。さらに該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0115】
バリア膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0116】
不透明な基材としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基材、セラミック製の基材等が挙げられる。
【0117】
本発明の有機EL素子において、発光の室温における外部取り出し効率は、1%以上であることが好ましく、より好ましくは5%以上である。ここに、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
【0118】
《有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法》
本発明の有機EL素子の製造方法の一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子の製造方法を説明する。
【0119】
はじめに、適当な基材上に所望の電極物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10nmから200nmの膜厚になるように、蒸着やスパッタリング等の薄膜形成方法により形成させて、陽極を作製する。
【0120】
次に、この上に有機EL素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の各有機層を形成させる。有機層の形成方法としては、特に限定されないが、ウェットプロセス(例えば、スピンコート法、キャスト法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット法、印刷法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア・ブロジェット(Langmuir Blodgett)法)等を挙げることができる)が好ましく、生産性の観点からスリットダイコーターを用いるダイコート法による形成がより好ましい。
【0121】
本発明の有機EL素子の製造方法の一例としては、例えば、正孔注入層、正孔輸送層を設けた後に、正孔輸送層上に、予め調製しておいた発光層用塗布液を塗布し、基板側から加熱を行うことにより、2秒以内に溶剤の90%以上を除去する。その後、乾燥工程として、そのまま加熱を続けて溶剤を完全に除去することで発光層が形成される。乾燥工程においては、時間を掛けてゆっくりと乾燥を行うことが好ましい。
【0122】
ここで、上記時間の測定方法は、発光層が形成される1つ下の層(上記の例でいう正孔輸送層)上に、発光層用塗布液が接触した時を測定時間の開始時とし、本発明では、発光層用塗布液が正孔輸送層表面に接触してから2秒以内で、溶剤の90質量%以上が除去される。なお、本発明における2秒以内とは、2.0秒以下のことを指し、好ましくは、1.5秒以下であり、更に好ましくは1.0秒以下である。
【0123】
また、本発明に係る有機層塗膜、例えば、発光層用塗布液により形成された発光層塗膜を加熱する方法は、特に限定されないが、ヒートブロック等の発熱体に基材を接触させ熱伝導により有機層塗膜を加熱する方法、抵抗線等による外部ヒーターにより雰囲気を加熱する方法、IRヒーターの様な赤外領域の光を用いた方法等が挙げられる。塗膜の平滑性を維持でき、2秒以内に溶媒の90質量%以上を除去することができる方法を適宜選択してよい。中でも、特に、IRヒーターの様な赤外領域の光を用いた方法が好ましく、特に赤外光、近赤外光、紫外光及びマイクロ波を用いた方法により加熱することが好ましく、更には近赤外光により加熱する方法が好ましい。
【0124】
また、基材を加熱する際には、基材側から加熱することが好ましい。更には、加熱の開始タイミングは特に限定されないが、有機層用塗布液を基材上に塗布すると同時に、加熱が開始されることが好ましい。
【0125】
加熱する温度としては、50〜200℃の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは80〜150℃の範囲内であり、加熱時間としては、1秒から10時間の範囲が好ましく、更に好ましくは10秒から1時間の範囲で加熱することである。
【0126】
また、溶剤の90質量%以上を除去できたことの確認方法としては、特に限定されないが、例えば、溶剤を塗布した時の厚さをレーザー型膜厚計でリアルタイムに測定して、塗布液の厚さの減少度合いで溶剤の減った量として測定することができる。あるいは、塗布液の溶剤含有率が変化すると塗膜表面の分光反射スペクトルが変化するので、分光測定機でリアルタイムに分光反射特性を測定して、溶剤の減った量を測定することもできる。また、本発明において除去とは、溶剤が層中に存在しないようにすることを意味する。
【0127】
続いて、上記の有機EL素子の作製手順に従って、例えば、発光層上に電子輸送層、電子注入層を形成した後、その上に陰極用物質からなる薄膜を、1μm以下、好ましくは、50〜200nmの範囲内の膜厚になるように、例えば、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陰極を設けることにより、所望の有機EL素子が得られる。
【0128】
本発明においては、陰極を設けた後に、40〜200℃の範囲内で有機EL素子を加熱処理することが、高温保存安定性および色度変動を抑制する効果が顕著なために好ましい。樹脂フィルムを用いる場合には40〜150℃の温度範囲内、特に40〜120℃の温度範囲内が好ましい。加熱処理時間は10秒から30分の範囲が好ましい。該加熱処理後に密着封止あるいは封止部材と電極、支持基板とを接着剤で接着することで有機EL素子を作製する。
【0129】
《用途》
本発明の有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。発光光源として、例えば、家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源、さらには表示装置を必要とする一般の家庭用電気器具等広い範囲の用途が挙げられるが、特にカラーフィルターと組み合わせた液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
【0130】
本発明の有機EL素子においては、必要に応じ成膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよいし、素子全層をパターニングしてもよく、素子の作製においては、従来公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0131】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0132】
実施例1
《有機EL素子の作製》
〔試料No.101の作製〕
(1:ガスバリア性の可撓性フィルムの作製)
可撓性フィルムとして、ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン社製フィルム、以下、PENと略記する)を用いた。その可撓性フィルムの陽極を形成する側の全面に、特開2004−68143号に記載の構成からなる大気圧プラズマ放電処理装置を用いて、連続して、SiOからなる無機物のガスバリア膜を厚さ500nmとなるように形成し、酸素透過度0.001ml/m/day以下、水蒸気透過度0.001g/m/dam/day以下のガスバリア性の可撓性フィルムを作製した。
【0133】
(2:陽極層の形成)
準備したガスバリア性の可撓性フィルム上に厚さ120nmのITO(インジウムチンオキシド)をスパッタ法により成膜し、フォトリソグラフィー法によりパターニングを行い、陽極を形成した。
【0134】
なお、パターンは発光面積が100mm平方になるようなパターンとした。
【0135】
(3:正孔注入層の形成)
パターニング後のITO基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、窒素ガス(酸素濃度10ppm以下、水分濃度10ppm以下)で乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。この基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSSと略記、Bayer製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を、スリットダイコーター(伊藤忠マシンテクノス(株))にて製膜した。製膜は、窒素ガス雰囲気下において行った。その後、200℃にて1時間乾燥し、膜厚30nmの正孔注入層を設けた。
【0136】
(4:正孔輸送層の形成)
次に、正孔輸送材料化合物(H−1)(Mw=80,000)をクロロベンゼンに0.5%溶解した溶液を、同様のスリットダイコーターより製膜し、膜厚30nmの正孔輸送層を設けた。製膜は、窒素ガス雰囲気下において行った。なお、溶液の調液も窒素ガス雰囲気下で行った。
【0137】
(5:発光層の形成)
次いで、下記組成の発光層用塗布液を、20℃窒素ガス雰囲気下(酸素濃度0%、水分濃度10ppm以下)で調製し、同様にして20℃窒素ガス雰囲気下でスリットダイコーターにより製膜し、自然乾燥にて膜厚40nmの発光層を形成した。塗布後、溶剤であるトルエンが塗膜中から90%以上除去されるのに、4.4秒かかった。なお、溶剤が塗膜中から90%以上除去されたことの確認方法は、以下のように行った。
【0138】
あらかじめ、発光層のウェット膜厚と乾燥膜厚の検量線を作成しておき、非接触型リアルタイム膜厚計(C10178型オプチカルゲージ;浜松ホトニクス社製)にて、塗布直後の発光層の膜厚の変化をトレースし、塗布開始直後から、溶剤が塗膜中から90%以上除去された時点までの時間を計測して求めた。また、溶液の調液は窒素ガス雰囲気下で行い、塗布直前まではシリンジに液充填し、超音波エネルギーを付与し続けた。
【0139】
〈発光層形成材料及び溶剤〉
化合物a−1 14.15質量部
化合物D−66 2.45質量部
化合物D−67 0.025質量部
化合物D−80 0.025質量部
トルエン 2.00質量部
【化20】
【0140】
〈乾燥工程〉
発光層用塗布液を塗布し、トルエンが塗膜中から90%以上除去された後、温度80℃の窒素ガス雰囲気下で90分乾燥したのち、室温に戻した。
【0141】
(6:電子輸送層の形成)
続いて、20mgの化合物Aを、4mlのテトラフルオロプロパノール(TFPO)に溶解した溶液を、スリットダイコーターにより製膜し、膜厚30nmの電子輸送層を形成した。製膜は、窒素ガス雰囲気下において行った。
【0142】
【化21】
【0143】
(7:乾燥工程)
前記電子輸送層塗布後に、窒素ガス雰囲気下において、80℃で90分間保持し、乾燥を行った。
【0144】
(8:電子注入層および陰極の形成)
続いて、基板を大気に曝露することなく真空蒸着装置へ取り付けた。また、モリブデン製抵抗加熱ボートにフッ化ナトリウムおよびフッ化カリウムを入れたものを真空蒸着装置に取り付け、真空槽を4×10−5Paまで減圧した後、前記ボートに通電して加熱してフッ化ナトリウムを0.02nm/秒で前記電子輸送層上に膜厚1nmの薄膜を形成し、続けて同様にフッ化カリウムを0.02nm/秒でフッ化ナトリウム上に膜厚1.5nmの電子注入層を形成した。引き続き、アルミニウム100nmを蒸着して陰極を形成した。
【0145】
(9:封止及び有機EL素子の作製)
引き続き、市販のロールラミネート装置を用いて封止部材を接着した。なお、封止部材として、可撓性の厚み30μmのアルミニウム箔(東洋アルミニウム株式会社製)に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(12μm厚)をドライラミネーション用の接着剤(2液反応型のウレタン系接着剤)を用いラミネートした(接着剤層の厚み1.5μm)ものを用いた。
【0146】
アルミニウム面に封止用接着剤として、熱硬化性接着剤を、ディスペンサを使用してアルミ箔の接着面(つや面)に沿って厚み20μmで均一に塗布した。これを100Pa以下の真空下で12時間乾燥させた。さらに露点温度が−80℃以下、酸素濃度0.8ppmの窒素雰囲気下へ移動し、12時間以上乾燥させ、封止用接着剤の含水率を100ppm以下となるように調整した。
【0147】
熱硬化接着剤としては下記の(A)から(C)を混合したエポキシ系接着剤を用いた。
【0148】
(A)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)
(B)ジシアンジアミド(DICY)
(C)エポキシアダクト系硬化促進剤
以上のようにして、封止基板を、取り出し電極および電極リードの接合部を覆うようにして密着・配置して、圧着ロールを用いて厚着条件、圧着ロール温度120℃、圧力0.5MPa、装置速度0.3m/minで密着封止して、有機EL素子試料No.101を作製した。
【0149】
〔試料No.102〜112の作製〕
上記試料No.101の作製方法において、発光層塗布時の雰囲気(20℃の大気圧下)、酸素濃度及び相対湿度(10%の窒素ガス下)を表1のように変更し、塗布直後の加熱処理条件のコントロールを表1のように行った以外は同様にして、試料No.102〜112を作製した。
【0150】
塗布直後の加熱処理条件のコントロールは、スリットダイコーターの下部に設置した近赤外線ヒーター((株)ハイベック製QIR−C200V型)により、発光層の塗布開始と同時に、試料の下面側(基材側)から加熱して、溶剤であるトルエンが塗膜中から90質量%以上除去されるまでの時間を、表1に示すように調整したものである。なお、加熱時間の調整は、近赤外線ヒーターの強度調整と、基材との距離の調整によって行った。また、次の乾燥工程は、80℃、相対湿度10%の大気に変えて90分行った。
【0151】
《有機EL素子の評価》
上記作製した試料No.101〜112について、下記の各評価を行った。
【0152】
〔塗布面状態の評価〕
直流電源(株式会社テクシオ製直流安定化電源PA13−B)を用いて、素子を発光させて、マイクロスコープ(株式会社モリテックス製MS−804、レンズA−1468)を用いて全発光面の発光ムラを目視観察し、下記の基準に従って、塗布面状態の評価を行った。
【0153】
5:発光状態に全くムラがなく、問題がないレベル
4:発光ムラがなく、問題がないレベル
3:僅かに発効ムラは認められるが、実用上は問題がないレベル
2:発光ムラの発生があり、実用上問題となるレベル
1:発光ムラが強く、実用上問題となるレベル。
【0154】
〔発光効率の評価〕
作製した各有機EL素子に対し、2.5mA/cmの定電流を流したときの外部取り出し量子効率(%)を測定した。なお、測定には分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)を用いた。得られた外部取り出し量子効率を、有機EL素子試料No.101の測定値を100としたときの相対値として表し、これを発光効率の尺度とした。
【0155】
〔駆動電圧の評価〕
各有機EL素子について、室温(約23℃から25℃)で、2.5mA/cmの定電流条件下により駆動したときの電圧を測定し、有機EL素子である試料No.101(参考例)の駆動電圧を100として各々の相対値を求めた。駆動電圧の評価値は、小さいほど優れていることを示す。
【0156】
〔素子寿命の評価〕
作製した各有機EL素子試料に対し、直流電源(株式会社テクシオ製直流安定化電源PA13−B)にて正面輝度1000cd/mとなるような電流を与え、連続駆動した。正面輝度が初期の半減値(500cd/m)になるまでに要する時間を半減寿命として求め、有機EL素子である試料No.101(参考例)の測定値を100とした相対値で表した。
【0157】
以上により得られた結果を、表1に示す。
【0158】
【表1】
【0159】

表1に記載の結果より明らかなように、発光層の塗布直後の乾燥条件を本発明の範囲内にコントロールすることによって、塗布時、および乾燥工程での雰囲気中に、たとえ酸素や水分が存在しても、従来の窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気で作製した場合(試料No.101)に匹敵する性能が得られることがわかった。
【0160】
これは、塗布型有機エレクトロルミネッセンス素子の生産において、簡便化と低コスト化をもたらす画期的な技術であると、本発明者らは考えている。
【0161】
実施例2
《有機EL素子の作製》
〔試料No.201〜211の作製〕
実施例1に記載の試料No.106の作製において、発光層溶液の調液雰囲気時の酸素濃度と水分濃度、シリンジに液充填した後の超音波エネルギーの付与の有無について、表2に記載の条件に変更した以外は同様にして、試料No.201〜211を作製した。
【0162】
《有機EL素子の評価》
上記作製した試料No.201〜211と、実施例1で作製した試料No.106について、実施例1に記載の方法と同様にして、塗布面状態、発光効率、駆動電圧及び素子寿命の評価を行い、得られた結果を表2に示す。
【0163】
【表2】
【0164】
表2に記載の結果より明らかなように、発光層溶液の調液雰囲気の酸素濃度と水分濃度を70ppm以下に管理し、発光層溶液の調液から塗布までの間に、超音波エネルギーなどの外部エネルギーを与えておき、かつ、塗布直後の乾燥条件を本発明のようにコントロールすることによって、塗布時および乾燥工程での雰囲気が、たとえ酸素や水分が存在しても、従来の窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気で作製した場合に匹敵する性能が得られることが分かった。
【0165】
実施例3
《有機EL素子の作製》
〔試料No.301の作製〕
実施例1に記載の試料No.101の作製において、発光層の形成時、発光層用塗布液を塗布した後、溶剤であるトルエンを塗膜中から90%以上除去されるのに要する時間を、4.5秒に変更した以外は同様にして、試料No.301を作製した。
【0166】
〔試料No.302〜307の作製〕
上記試料No.301の作製方法において、発光層用塗布液の塗布直後の乾燥条件(加熱処理の有無、加熱時間)を、表3に記載の条件に変更した以外は同様にして、試料No.302〜307を作製した。すなわち、スリットダイコーターの下部に設置した近赤外線ヒーター((株)ハイベック製 QIR−C200V型)により、発光層の塗布開始と同時に、試料の下面側(基材側)から加熱して、溶剤であるトルエンが塗膜中から90%以上除去されるまでの時間を、表3に示す条件に調整した。なお、加熱時間の調整は、近赤外線ヒーターの強度調整と、基材との距離の調整によって行った。
【0167】
《有機EL素子の評価》
上記作製した試料No.301〜307について、実施例1に記載の方法と同様にして、塗布面状態、発光効率及び素子寿命の評価を行い、得られた結果を表3に示す。なお、発光効率及び発光寿命は、試料No.301の測定値を100とする相対値で表示した。
【0168】
【表3】
【0169】
表3に記載の結果より明らかなように、金属錯体を含有する発光層用塗布液の、塗布直後の乾燥条件をコントロールして作製された塗布型の有機エレクトロルミネッセンス素子は、優れた性能を得ることが分かる。塗布直後のわずかな時間の乾燥条件をコントロールすることによって、金属錯体を含む塗膜中の分子配列が有利に作用していると考えられ、本発明者らにとっても驚くべき結果が生じた。
【0170】
実施例4
《有機EL素子の作製》
〔試料No.401及び402の作製〕
実施例3の記載の試料No.305、307の作製において、発光層溶液の調液で、シリンジに液充填した後、超音波エネルギーを全く付与しない以外は同様にして、試料No.401及び402を作製した。金属錯体を含有する発光層溶液の調液から塗布までの間に、超音波エネルギーなどの外部エネルギーを与えることの効果を確認した。
【0171】
《有機EL素子の評価》
上記作製した試料No.401及び402について、実施例1に記載の方法と同様にして、塗布面状態、発光効率及び素子寿命の評価を行い、得られた結果を表4に示す。なお、発光効率及び発光寿命は、実施例3で作製した試料No.301の測定値を100とする相対値で表示した。
【0172】
【表4】
【0173】
実施例3に記載の試料No.305、307の結果(表3)と、表4に記載の結果から明らかなように、金属錯体を含有する発光層溶液の調液から塗布までの間に、超音波エネルギーなどの外部エネルギーを与えることは、塗布直後の乾燥条件のコントロールに加えて、有効であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、低駆動電圧及び高発光効率で、かつ長寿命で発光ムラのない有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができ、この有機エレクトロルミネッセンス素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源に好適に利用できる。