(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複合体材料が、前記炭素材中に前記リチウムケイ酸塩結晶が島状に点在する海島構造を呈することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の正極材料は、リチウムケイ酸塩結晶と炭素材とを含む複合体材料を含む。ここで「複合体材料」とはリチウムケイ酸塩結晶と炭素材とが複合化した状態の材料を指し、特には後述する海島構造であることが好ましい。
【0019】
なお、本明細書において「正極材料」とは、活物質であるリチウムケイ酸塩結晶と、炭素材とを含む材料を指すものとする。本明細書において「正極層」とは、「正極材料」と、結合材とを用いて形成した層のことを指すものとする。正極層には、導電助材を含ませてもよい。また本明細書において「正極」とは、集電体と、該集電体上に設けられた「正極層」との積層構造を指すものとする。
【0020】
更に本発明の正極材料は、以下の条件(I)、(II)を同時に満たすものである。
(I)複合体材料に対して測定した赤外吸収スペクトルにおいて、波数域1400cm
−1乃至1550cm
−1の範囲内にピークが存在する。
(II)複合体材料に対して測定したラマンスペクトルにおいて、波数域1000cm
−1乃至1150cm
−1の範囲内にピークが存在しない。
【0021】
このような条件を満たす複合体材料は、少なくとも以下の製法によって得ることができる。
【0022】
少なくとも、リチウムケイ酸塩を構成する元素を含む化合物と、炭素材となる有機化合物を含む溶液を、液滴の状態で前記化合物の熱分解温度以上で加熱することにより、熱分解し、反応することにより、目的とする複合体材料に対する中間体としての粒子(以下、中間体粒子という)が得られる。この中間体粒子を捕集した後、不活性雰囲気中又は還元雰囲気中で400℃以上、前記リチウムケイ酸塩の融点未満の温度で熱処理すると、前記複合体材料を得ることができる。前記熱処理温度のより好ましくは、リチウムケイ酸塩のタンマン温度未満である。即ち、拡散開始温度Td未満であり、融点TmのTd=0.757Tm未満で熱処理するのがより好ましい。
【0023】
上記製法で得られる複合体材料を透過型電子顕微鏡で観察すると、リチウムケイ酸塩結晶からなる領域(以下、「島」という)が不連続体として複数に分散して存在し、島と島との間に炭素材が連続体(マトリクス)として存在する、所謂、海島構造(sea-island structure)が見られる。
【0024】
図19に、上記製法で得られた複合体粒子の断面を透過型電子顕微鏡(日立製H-000UHR III)を用いて観察した一例を示す。図中、濃く黒く見える領域がリチウムケイ酸塩結晶に相当し、黒い領域の周りに比較的白く見える領域が炭素材に相当している。図のように、黒い領域(リチウムケイ酸塩結晶)が不連続体として複数に分散して存在し、黒い領域と黒い領域との間に白い領域(炭素材)が連続体として存在していることが確認できる。
【0025】
上記製法においては、液滴を加熱する温度と、その後の熱処理温度及び熱処理時間を調整することにより、前記島(リチウムケイ酸塩結晶)の径を変え、前記複合体材料の構造を制御することできる。前記島の円換算径の平均値は15nm未満であることが望ましい。
【0026】
具体例として、噴霧熱分解法を利用した製造例を示す。
【0027】
噴霧熱分解法で用いる原料は、リチウムケイ酸塩を構成する元素を含む化合物と、炭素材となる有機化合物を含む溶液を、超音波、ノズル(二流体ノズル、四流体ノズル等)を用いて液滴にし、次いで当該液滴を加熱炉中に導入して加熱することによって中間体粒子を作製し、その後、当該中間体粒子を不活性雰囲気又は還元雰囲気下で400℃以上、且つ、リチウムケイ酸塩の融点未満の温度で熱処理する。なお、必要に応じて熱処理前に中間体粒子を粉砕しても良い。
【0028】
具体例として、ケイ酸鉄リチウムの場合は、例えば、硝酸リチウム、硝酸鉄(III)九水和物、テトラエトキシシランを含む溶液に更にグルコースを添加した後、超音波噴霧器等を用いて液滴とし、加熱炉中にキャリヤーガスである窒素ガスと共に導入することで500〜900℃程度に加熱し、中間体粒子を作製する。その後、必要に応じて中間体粒子を粉砕し、不活性雰囲気中で400℃以上、ケイ酸鉄リチウムの融点未満の温度で熱処理する。
【0029】
また、ケイ酸マンガンリチウムの場合は、例えば、硝酸リチウム、硝酸マンガン(II)六水和物、コロイダルシリカを含む溶液に更にグルコースを添加した後、超音波噴霧器等を用いて液滴とし、加熱炉中にキャリヤーガスである窒素と共に導入することで500〜900℃程度に加熱し、中間体粒子を作製する。その後、必要に応じて中間体粒子を粉砕し、不活性雰囲気中で400℃以上、ケイ酸マンガンリチウムの融点未満の温度で熱処理する。
【0031】
焙焼法で用いる原料は、リチウムケイ酸塩を構成する元素を含む化合物と、炭素材となる有機化合物を含む溶液を液滴にした後、ルスナー型、ルルギー型やケミライト型等の焙焼炉に導入して加熱することによって中間体粒子を作製する。ここで、鉄の元素を含む金属酸化物の原料としては、鉄鋼酸洗廃液又は鉄の酸溶解液を使用するのが好ましい。その後、当該中間体粒子を不活性雰囲気又は還元雰囲気下で400℃以上、且つ、リチウムケイ酸塩の融点未満の温度で熱処理する。なお、必要に応じて熱処理前に中間体粒子を粉砕しても良い。
【0032】
具体例として、ケイ酸マンガンリチウムの場合には、例えば、酢酸リチウム、硝酸マンガン(II)六水和物、及びコロイダルシリカを含む溶液に更にグルコースを添加した後、超音波噴霧器等を用いて液滴とし、例えば、ケミライト型焙焼炉に導入して500〜900℃の温度で加熱することで中間体粒子を作製する。その後、必要に応じて中間体粒子を粉砕し、不活性雰囲気中で400℃以上、ケイ酸マンガンリチウムの融点未満の温度で熱処理する。
【0033】
また、ケイ酸鉄リチウムの場合には、例えば、炭酸リチウムとコロイダルシリカを含む鉄鋼酸洗廃液(例えば、0.6-3.5mol(Fe)/L濃度の塩酸廃液)に更にグルコースを添加した後、超音波噴霧器等を用いて液滴とし、例えば、ルスナー型焙焼炉に導入して500〜900℃の温度で加熱することで中間体粒子を作製する。その後、必要に応じて中間体粒子を粉砕し、不活性雰囲気中で400℃以上、ケイ酸鉄リチウムの融点未満の温度で熱処理する。
【0034】
本発明において、炭素材となる有機化合物(原料)としては、例えば、アスコルビン酸、単糖類(グルコース、フルクトース、ガラクトース等)、二糖類(スクロース、マルトース、ラクトース等)、多糖(アミロース、セルロース、デキストリン等)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、フェノール、ヒドロキノン、カテコール、マレイン酸、クエン酸、マロン酸、エチレングルコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、グルセリン等が挙げられる。
【0035】
但し、本発明は上記製法により製造されるものに限られるものではなく、前述の条件(I)(II)が満たされる限り、その作製方法としては、公知の乾式法や湿式法等のどのような方法で作製しても良い。例えば、火炎法、固相法(固相反応法)、水熱法(水熱合成法)、共沈法、ゾル・ゲル法、又は気相合成法(Physical Vapor Deposition:PVD法、Chemical Vapor Deposition:CVD法)等が挙げられる。
【0036】
本発明に係る複合体材料について、赤外吸収スペクトル図を用いて説明する。
図1は、本発明に係る複合体材料に対して照射した赤外線の波数(cm
−1)を横軸に、吸光度(任意単位)を縦軸にとることで得られる赤外吸収スペクトルを図示した一例であり、図中の曲線101が赤外吸収スペクトルを示している(以下、赤外吸収スペクトル101という)。
【0037】
図示されるように、本発明に係る複合体材料について赤外吸収スペクトルを測定すると、波数域1400cm
−1乃至1550cm
−1の範囲内にピークが現れる。本発明の正極材料に用いられる複合体材料は、この範囲内にピークが存在することを特徴の一つとする。なお、当該ピークは、当該範囲内に1つだけ現れるものであっても良いし、2つ以上であってもよい。
【0038】
なお、本発明において『波数域1400cm
−1乃至1550cm
−1の範囲にピークが存在する』とは、前記赤外吸収スペクトル図において、後述するピーク面積A
p1、A
p2が以下の条件式(1)を満たすことをいう。
【0039】
0.02<A
p1/A
p2 ・・・(1)
更に本発明においては、赤外吸収スペクトル図において、ピーク面積A
p1、A
p2が以下の条件式(2)を満たすことが好ましい。
【0040】
0.05<A
p1/A
p2・・・(2)
上述したピーク面積A
p1、A
p2は次のようにして求められるものである。
【0041】
先ず、
図1の赤外吸収スペクトル101において、波数1400cm
−1における吸光度に相当する点111と、波数1550cm
−1における吸光度に相当する点113とを第1の直線115で結ぶ。これにより得られる赤外吸収スペクトル101と第1の直線115とで囲まれた領域の面積を、ピーク面積A
p1とする。
【0042】
同様に、
図1の赤外吸収スペクトル101において、波数800cm
−1における吸光度に相当する点121と、波数1100cm
−1における吸光度に相当する点123と、を第2の直線125で結ぶ。これにより得られる赤外吸収スペクトル101と第2の直線125とで囲まれた領域の面積を、ピーク面積A
p2とする。
【0043】
赤外吸収スペクトルの波数域800cm
−1乃至1100cm
−1の範囲に現れるピークは、リチウムケイ酸塩に起因するものと考えられる一方、赤外吸収スペクトルの波数域1400cm
−1乃至1550cm
−1の範囲に現れるピークは、複合体材料中のどのような結合によって生じているかは明らかでない。しかしながら本発明者等は、リチウムケイ酸塩結晶と炭素材との界面において「炭素材―COO−M(Mは、Liを含む金属イオン)」のような結合が形成されているのではないかと推測している。また本発明者等は、前記複合体材料が上記結合を有する前記複合体材料をリチウムイオン二次電池用正極材料として用いることにより、結果として高容量化及び高エネルギー密度を達成できているのではないかと推測している。
【0044】
なお、赤外吸収スペクトルの波数域1400cm
−1乃至1550cm
−1の範囲には、炭酸イオンが含まれたとしても類似のピークが観測される。
【0045】
図2は、ラマン分光法を用いて前記複合体材料のラマンスペクトルを測定して得られたラマンスペクトル201である。なお、
図2においては、複合体材料に対してレーザ光を照射して発生したラマン散乱光の波数と入射光の波数との差(ラマンシフト(cm
−1))を横軸に、また、ラマン散乱強度(任意単位)を縦軸としている。また、
図2には、参照のため、同様に炭酸リチウムに対して測定して得られるラマンスペクトル211を併記した。
【0046】
図2に示されるように、炭酸リチウムのラマンスペクトル211は、波数域1000cm
−1乃至1150cm
−1の範囲に炭酸イオン(CO
32−)の対称伸縮振動ν1に対応するピーク213を有している。これに対し、本発明に係る複合体材料のラマンスペクトル201には、ラマンスペクトル211のピーク213に対応するピーク(炭酸イオン(CO
32−)の対称伸縮振動ν1)が存在しない。なお、ここで『ピークが存在しない』とは、前記波数範囲のシグナル/ノイズ(S/N)比が、S/N=N/Nとなる場合をいう。従って、本発明において、赤外吸収スペクトルの波数域1400cm
−1乃至1550cm
−1の範囲に現れるピークは、炭酸イオンに由来するものではないと考えられる。
【0047】
上述したように、本発明に係る複合体材料は、その赤外吸収スペクトルが波数域1400cm
−1乃至1550cm
−1の範囲内にピークを有し、且つ、そのラマンスペクトルは波数域1000cm
−1乃至1150cm
−1の範囲内にピークを有していないものである。すなわち、本発明の正極材料は上記条件(I)(II)を同時に満たすものであり、後述する通り、従来のリチウムケイ酸塩を用いたリチウムイオン二次電池に比べて、高容量化及び高エネルギー密度化を図ることが可能なものである。
【0048】
好ましくは、本発明に係る複合体材料は、赤外吸収スペクトル図においてピーク面積比A
p1/A
p2が上述した条件式(1)を満たし、更に好ましくは上記条件式(2)を満たすことにより、リチウムケイ酸塩の1電子反応以上の高容量を得ることができる。ピーク面積比A
p1/A
p2が0.02以下では十分な特性が得られない場合がある。好ましくはピーク面積比A
p1/A
p2は0.05より大である。上述したように、赤外吸収スペクトルの波数域1400cm
−1乃至1550cm
−1の範囲に現れるピークが、リチウムケイ酸塩結晶と炭素材との界面における結合によるものとすれば、ピーク面積比A
p1/A
p2は当該結合の比率に関係する。従って、当該面積比は大きいほど優れた特性の発現に寄与すると考えられる。従ってピーク面積比A
p1/A
p2に特に上限は無いが、0.18以上になると、それ以上は特性が向上し難くなる傾向が見られる。よって好ましくはピーク面積比A
p1/A
p2は0.18未満である。
【0049】
次に、本発明の正極材料の構成例について説明する。
【0050】
上述したように、本発明の正極材料は、リチウムケイ酸塩結晶と炭素材とが海島構造を呈している。当該リチウムケイ酸塩結晶は、リチウム、遷移金属、ケイ素及び酸素を含むリチウムケイ酸塩結晶、又は当該リチウムケイ酸塩を基本構造として元素置換や組成変化させた誘導体の結晶である。ここで、前記遷移金属としては、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、又はニッケル(Ni)等の価数変化する遷移金属が挙げられる。本発明に係るリチウムケイ酸塩は、組成式Li
2MSiO
4(Mは遷移金属元素の1以上)で表わすことができ、具体的には、Li
2FeSiO
4、Li
2MnSiO
4、Li
2CoSiO
4、Li
2NiSiO
4等が挙げられる。
【0051】
本発明に係る炭素材は、元素状炭素を含むものである。また当該炭素材は、多孔質炭素であることが好ましい。
【0052】
更に本発明に係る炭素材をX線光電子分光(XPS:X−ray photoelectron spectroscopy)法により測定して得られるXPSスペクトルのC
1sのピークには、グラファイト骨格に由来するSP
2ピーク(284.3eV)と、ダイヤモンド骨格に由来するSP
3ピーク(285.3eV)の他、これらよりも高エネルギー側に位置するショルダーピークを有することが好ましい。
【0053】
前記ショルダーピークは、炭素骨格に結合している官能基で、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、カルボニル基(−C=O)等の末端官能基に由来するものである。前記末端官能基は、親水性官能基(極性基ともいう)として機能する。本発明に係る炭素材として、前記ショルダーピークを有するものを用いることで、末端官能基の存在により、電解質の溶媒(極性溶媒)との濡れ性が高くなり、正極構造細部まで電解質溶液を容易に浸透させることができると考えられる。また、電解質溶液の浸透が容易になることで、高容量を容易に得ることができると考えられる。
【0054】
このようなショルダーピークを有する複合体材料を得るには、例えば水蒸気賦活した炭素材を用いて複合体材料を生成するようにしても良いが、前述した製法で製造することで得られる。
【0055】
図3に、本発明に係る正極材料を測定して得られるXPSスペクトル図の一例を示す。C
1sのピーク301は、SP
2ピークとSP
3ピークとにピーク分離されるピーク311に加え、ピーク311よりも高エネルギー側に位置するショルダーピーク313を有している。ショルダーピーク313は、例えばC−OHのCに帰属するダミーピーク1と、C−OやCOOHのCに帰属するダミーピーク2とにピーク分離することができる。
【0056】
XPSの測定に際しては、測定試料と同時に金を測定し、C
1sのピークの結合エネルギー(eV)は、Au 4f
7/2(84.0eV)のピークを基準として補正した値を用いる。具体的には、Au 4f
7/2のピークを84.0eVに位置補正し、C
1sのピークをAu 4f
7/2のピークを位置補正した分だけ位置補正する。
【0057】
また、バックグラウンドを除去したXPSスペクトルを用いて、ピーク分離を行う。SP
2ピーク、SP
3ピーク、ダミーピーク1及びダミーピーク2を用いて、4つのピークをGauss−Lorentz分布を有する形状としてピークフィッティングを行う。SP
2ピークはピーク位置(結合エネルギー)を284.3eVに固定し、SP
3ピークはピーク位置(結合エネルギー)を285.3eVに固定して、ピーク幅とピーク高さを可変にしてピークフィッティングを行う。ダミーピーク1とダミーピーク2は、ピーク位置、ピーク幅及びピーク高さを可変にしてピークフィッティングを行う。
【0058】
上述のようにして測定できるC
1sのピーク面積をS、SP
2ピーク面積をS
SP2、SP
3ピークをS
SP3とする。本発明においては、C
1sピーク面積SからSP
2ピーク面積S
SP2とSP
3ピーク面積S
SP3とを引いた値S
R(=S−S
SP2−S
SP3)のC
1Sピーク面積Sに対する割合S
R/Sが0.15以上である場合にショルダーピークを有するとする。
【0059】
本発明においては、0.25≦S
R/S≦0.40の範囲を満たすことが好ましい。S
R/Sが0.25未満では、電解質溶液の浸透に時間がかかる場合がある。また、S
R/Sが0.40を超えると、高い容量が得られない場合がある。これは、炭素骨格中の親水性官能基の割合が多いために、電気伝導性が低くなるためであると推測される。親水性官能基を含む炭素材は電気伝導性に乏しく、親水性官能基の割合が多くなると活物質と集電体や導電助材との電気的接続が悪くなり、高い容量が得られ難くなる場合があると推測される。
【0060】
また、本発明に係る複合体材料中の炭素材の含有量は、2質量%以上25質量%以下であることが好ましい。前記炭素材の含有量が2質量%未満であると、集電体までの電子伝導経路が十分確保できない場合があり、優れた電池特性が得られない場合がある。前記炭素材の含有量が25質量%を超えると、電極を作製した際の活物質の割合が少なくなるので、電池設計の仕方や目的によっては高い電池容量が得られなくなる場合がある。炭素材の含有量を上記範囲内とすることで、優れた電池性能を容易に確保でき、電池設計の選択幅を広くすることができる。
【0061】
次に、本発明の正極材料を用いた正極層の例について説明する。
【0062】
本発明の正極材料は、結合材と混合し、正極層を形成することができる。また、正極層は、導電助材を含む構成としてもよい。なお、正極層は、電解質溶液が侵入できる隙間を有する構造を有する。
【0063】
結合材(結着材やバインダーとも呼ばれる)は、活物質や導電助材を結合(結着)する役割を担うものである。本発明に係る結合材としては、通常、リチウムイオン二次電池の正極を作製する際に使用するものを用いることができる。また、結合材としては、リチウムイオン二次電池の電解質及び電解質の溶媒に対して、化学的および電気化学的に安定なものが好ましい。また、結合材は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。例えば、結合材としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体などのフッ素樹脂;スチレンブタジエンゴム(SBR);エチレン−アクリル酸共重合体又は該共重合体のNa
+イオン架橋体;エチレン−メタクリル酸共重合体又は該共重合体のNa
+イオン架橋体;エチレン−アクリル酸メチル共重合体又は該共重合体のNa
+イオン架橋体;エチレン−メタクリル酸メチル共重合体又は該共重合体のNa
+イオン架橋体;カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。また、前記結合材として挙げた材料は、併用することもできる。なお、結合材として挙げた材料のなかでも、PVDF、PTFEが特に好ましい。結合材は、正極材料全量中、1質量%乃至20質量%程度の割合で用いることが好ましい。
【0064】
導電助材は、実質上、化学的に安定な電子伝導性材料であれば特に限定されない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などのグラファイト類;アセチレンブラック;ケッチェンブラック;チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維;などの炭素材料の他、金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛;チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物類;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料;などが挙げられる。導電助材としては、前記に挙げた材料を単独で用いてもよく、2種以上を併用することもできる。なお、導電助材として挙げた材料のなかでも、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラックといった炭素材料が特に好ましい。導電助材は、正極材料全量中、25質量%以下の割合で用いることが好ましい。
【0065】
次に、本発明の正極の例について説明する。
【0066】
本発明の正極は、上記の正極層と、集電体とを組み合わせて形成することができる。具体的には、集電体上に正極層を形成して正極とする。
【0067】
集電体としては、金属箔を用いることができ、具体的には導電性金属箔を用いることができる。例えば、金属箔として、アルミニウム又はアルミニウム合金製の箔を用いることができる。また、集電体の厚みは、5μm乃至50μmとすることができる。
【0068】
また、集電体としては、金属メッシュを用いることもできる。金属メッシュに、少なくとも本発明の正極材料と結合材とを含む正極層を形成し、正極とすることができる。
【0069】
更に、本発明の正極は、負極と、セパレータと、非水電解液と、を組み合わせて、リチウムイオン二次電池を形成することができる。
【0070】
負極としては、負極用の活物質を含む負極層を、集電体上に設けたものを用いることができる。
【0071】
負極層としては、負極用の活物質(以下、負極活物質という)に、必要に応じて結合材を含むものを用いることができる。
【0072】
負極活物質としては、金属リチウム又はリチウムイオンを挿入脱離できる材料を用いることができる。具体的には、負極活物質として、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などの炭素材料を用いることができる。また、負極活物質として、Si、Sn、若しくはInなどの合金、リチウムに近い低電位で充放電できるSi、Sn若しくはTiなどの酸化物、Li
2.6Co
0.4N等のLiとCoの窒化物などの化合物を用いることもできる。更に、黒鉛の一部は、リチウムと合金化できる金属又は酸化物などと置き換えて、負極活物質とすることができる。なお、負極活物質として黒鉛を用いた場合は、正極の充電電位が制御しやすく好ましい。これは、負極活物質として黒鉛を用いた場合は、満充電時の電圧をリチウム基準で約0.1Vとみなすことができるため、便宜上、電池電圧に0.1Vを加えた電圧で正極の電位を計算することができるためである。
【0073】
集電体としては、例えば、銅、ニッケル、チタン単体又はこれらの合金、ステンレスなどの金属箔を用いることができる。なお、集電体として挙げた金属箔のなかでも、銅又は銅の合金が特に好ましい。また、銅と合金化させる金属としては亜鉛、ニッケル、スズ又はアルミニウムなどが好ましい。更に、銅と合金化させる金属に加え、鉄、リン、鉛、マンガン、チタン、クロム、シリコン又はヒ素などを少量添加してもよい。
【0074】
セパレータとしては、イオン透過度が大きく、所定の機械的強度を持ち、絶縁性の薄膜のものを用いることができる。セパレータの材質としては、オレフィン系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリイミド、ナイロン、ガラス繊維、又はアルミナ繊維などが挙げられる。セパレータの形態としては、不織布、織布、又は微多孔性フィルムなどが挙げられる。特に、セパレータの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンとポリエチレンの混合体、ポリプロピレンとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合体、ポリエチレンとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合体が好ましい。また、セパレータの形態としては、微孔性フィルムが好ましく、孔径が0.01μm乃至1μm、厚みが5μm乃至50μmの微孔性フィルムがより好ましい。なお、微孔性フィルムは、単独の膜としてもよく、微孔の形状や密度等や材質等の性質の異なる2層以上からなる複合フィルムとしてもよい。例えば、複合フィルムとして、ポリエチレンフィルムとポリプロピレンフィルムを張り合わせた複合フィルムを用いることができる。
【0075】
非水電解液としては、電解質(支持塩)と非水溶媒から構成される電解液を用いることができる。
【0076】
電解質(支持塩)としては、リチウム塩が主として用いられる。本形態で使用できるリチウム塩としては、例えば、LiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiB
10Cl
10、LiOSO
2C
nF
2n+1で表されるフルオロスルホン酸(nは6以下の正の整数)、LiN(SO
2C
nF
2n+1)(SO
2C
mF
2m+1)で表されるイミド塩(m、nはそれぞれ6以下の正の整数)、LiC(SO
2C
pF
2p+1)(SO
2C
qF
2q+1)(SO
2C
rF
2r+1)で表されるメチド塩(p、q、rはそれぞれ6以下の正の整数)、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウムなどが挙げられ、これらの一種又は二種以上を混合したものを使用することできる。なお、前記に挙げたリチウム塩のなかでも、LiBF
4及び/又はLiPF
6を溶解したものが好ましい。電解質(支持塩)の濃度は、特に限定されないが、電解液1リットル当たり0.2モル乃至3モルが好ましい。
【0077】
非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、炭酸トリフルオロメチルエチレン、炭酸ジフルオロメチルエチレン、炭酸モノフルオロメチルエチレン、六フッ化メチルアセテート、三フッ化メチルアセテート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル、酢酸メチル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、ジオキサン、アセトニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、ホウ酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、3−アルキルシドノン(アルキル基はプロピル、イソプロピル、ブチル基等)、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンサルトンなどの非プロトン性有機溶媒、イオン性液体を挙げることができ、これらの一種又は二種以上を混合したものを使用することができる。前記非水溶媒として挙げたもののなかでもカーボネート系の溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートを混合して用いるのが特に好ましい。環状カーボネートとしてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートが好ましい。また、非環状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。また、高電位窓や耐熱性の観点からは、イオン性液体が好ましい。
【0078】
なお、リチウムイオン二次電池を構成する非水電解液の量は特に限定されず、正極材料や負極材料の量、電池のサイズ等に応じた量とすることができる。
【0079】
また、非水電解液の他に、固体電解質も併用することができる。固体電解質としては、無機固体電解質と有機固体電解質とが挙げられる。無機固体電解質としては、リチウムの窒化物、ハロゲン化物又は酸素酸塩などが挙げられる。無機固体電解質として挙げた材料のなかでも、Li
3N、LiI、Li
5NI
2、Li
3N−LiI−LiOH、Li
4SiO
4、Li
4SiO
4−LiI−LiOH、xLi
3PO
4−(1−x)Li
4SiO
4、Li
2SiS
3、硫化リン化合物などが好ましい。有機固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体若しくは該誘導体を含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体若しくは該誘導体を含むポリマー、イオン解離基を含むポリマー、イオン解離基を含むポリマーと非プロトン性電解液との混合物、リン酸エステルポリマー、非プロトン性極性溶媒を含有させた高分子マトリックス材料などが挙げられる。また、有機固体電解質としてポリアクリロニトリルを電解液に添加する方法もある。更に、無機固体電解質と有機固体電解質を併用して用いることもできる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
ケイ酸鉄リチウム(Li
2FeSiO
4)結晶と炭素材との複合体材料を以下のように作製した。
【0081】
ケイ酸鉄リチウム原料として、硝酸リチウム(LiNO
3)、硝酸鉄(III)9水和物(Fe(NO
3)
3・9H
2O)及びテトラエトキシシラン(以下、TEOSと記す)(Si(OC
2H
4)
4)を用いた。Li
2FeSiO
4の化学量論組成となるように秤量した前記ケイ酸鉄リチウム原料を含む水溶液に、炭素源としてグルコースを添加した。グルコースの添加量は、硝酸リチウムと等モルとした。
【0082】
得られた溶液を超音波噴霧器を用いて液滴とし、窒素をキャリヤーガスとして設定温度800℃に加熱した電気炉に導入して熱分解し、反応させて複合体材料の中間体を得た(噴霧熱分解工程)。
【0083】
遊星ボールミルを用いて、得られた中間体を湿式粉砕した。粉砕条件は、回転数200rpm、処理時間270分とした。なお、粉砕には直径0.5mmのジルコニア製ボールを用い、溶媒としてエタノールを用いた(粉砕工程)。
【0084】
粉砕した中間体をバッチ炉を用いて熱処理した。熱処理条件は、1体積%の水素を含むアルゴン雰囲気下で500℃、10時間とした(熱処理工程)。
(実施例2)
熱処理工程以外は実施例1と同様にして、ケイ酸鉄リチウム(Li
2FeSiO
4)結晶と炭素材との複合体材料を作製した。熱処理条件は、1体積%の水素を含むアルゴン雰囲気下で700℃、2時間とした。
(実施例3)
鉄の一部をマグネシウムで置換したケイ酸鉄リチウム(Li
2(Fe
0.9Mg
0.1)SiO
4)結晶と炭素材との複合体材料を作製した。ケイ酸鉄リチウム原料として硝酸リチウム、硝酸鉄(III)9水和物、TEOS及び硝酸マグネシウム6水和物(Mg(NO
3)
2・6H
2O)を用いた。Li
2(Fe
0.9Mg
0.1)SiO
4の化学量論組成となるように秤量した前記ケイ酸鉄リチウム原料を含む水溶液に、硝酸リチウムと等モルのデキストリン(炭素源)を添加した。それ以降は、実施例1と同様に噴霧熱分解工程、粉砕工程、熱処理工程を行った。
(実施例4)
鉄の一部を亜鉛で置換したケイ酸鉄リチウム(Li
2(Fe
0.9Zn
0.1)SiO
4)結晶と炭素材との複合体材料を作製した。硝酸マグネシウム6水和物に換えて硝酸亜鉛6水和物(Zn(NO
3)
2・6H
2O)を原料に用い、また炭素源として硝酸リチウムと等モルのアスコルビン酸を用いた。それ以外は実施例3と同様に噴霧熱分解工程、粉砕工程、熱処理工程を行った。
(実施例5)
ケイ酸マンガンリチウム(Li
2MnSiO
4)結晶と炭素材との複合体材料を以下のように作製した。
【0085】
ケイ酸マンガンリチウム原料として、硝酸リチウム、硝酸マンガン6水和物(Mn(NO
3)・6H
2O)及びコロイダルシリカ(二酸化ケイ素:SiO
2)を用いた。Li
2MnSiO
4の化学量論組成となるように秤量した前記ケイ酸マンガンリチウム原料を含む水溶液に、炭素源としてグルコースを添加した。グルコースの添加量は、硝酸リチウムと等モルとした。
【0086】
得られた溶液を、超音波噴霧器を用いて液滴とし、窒素をキャリヤーガスとして設定温度600℃に加熱した電気炉中に導入し、熱分解し、反応させて、複合体材料の中間体を得た(噴霧熱分解工程)。
【0087】
遊星ボールミルを用いて、得られた中間体を湿式粉砕した。粉砕条件は、回転数200rpm、処理時間270分とした。なお、粉砕には直径0.5mmのジルコニア製ボールを用い、溶媒としてエタノールを用いた(粉砕工程)。
【0088】
粉砕した中間体をバッチ炉を用いて熱処理した。熱処理条件は、1体積%の水素を含むアルゴン雰囲気下で700℃、2時間とした(熱処理工程)。
(実施例6)
マンガンの一部をマグネシウムで置換したケイ酸マンガンマグネシウムリチウム(Li
2(Mn
0.9Mg
0.1)SiO
4)結晶と炭素材との複合体材料を作製した。ケイ酸マンガンリチウム原料として硝酸リチウム、硝酸マンガン6水和物、コロイダルシリカ及び硝酸マグネシウム6水和物を用いた。Li
2(Mn
0.9Mg
0.1)SiO
4の化学量論組成となるように秤量した前記ケイ酸マンガンマグネシウムリチウム原料を含む溶液に、炭素源として硝酸リチウムと等モルのデキストリンを添加した。それ以外は実施例5と同様に噴霧熱分解工程、粉砕工程、熱処理工程を行った。
(実施例7)
マンガンの一部を亜鉛で置換したケイ酸マンガン亜鉛リチウム(Li
2(Mn
0.9Zn
0.1)SiO
4)結晶と炭素材との複合体材料を作製した。硝酸マグネシウム6水和物に換えて硝酸亜鉛6水和物を原料に用い、また炭素源として硝酸リチウムと等モルのアスコルビン酸を添加した以外は実施例6と同様に噴霧熱分解工程、粉砕工程、熱処理工程を行った。
(実施例8)
マンガンの一部をニッケルで置換したケイ酸マンガンニッケルリチウム(Li
2(Mn
0.9Ni
0.1)SiO
4)結晶と炭素材との複合体材料を作製した。硝酸マグネシウム6水和物に換えて硝酸ニッケル(II)6水和物(Ni(NO
3)
2・6H
2O)を原料に用いた以外は、実施例6と同様に噴霧熱分解工程、粉砕工程、熱処理工程を行った。
(実施例9)
マンガンの一部を銅で置換したケイ酸マンガン銅リチウム(Li
2(Mn
0.9Cu
0.1)SiO
4)結晶と炭素材との複合体材料を作製した。硝酸マグネシウム6水和物に換えて硝酸銅(II)3水和物(Cu(NO
3)
2・3H
2O)を原料に用いた以外は、実施例6と同様に噴霧熱分解工程、粉砕工程、熱処理工程を行った。
(実施例10)
鉄の一部をマンガンで置換したケイ酸鉄マンガンリチウム(Li
2(Mn
0.5Fe
0.5)SiO
4)結晶と炭素材との複合体材料を作製した。硝酸マグネシウム6水和物に換えて硝酸マンガン(II)6水和物を原料に用い、Li
2(Mn
0.5Fe
0.5)SiO
4の化学量論組成となるようにした以外は実施例3と同様に噴霧熱分解工程、粉砕工程、熱処理工程を行った。
(比較例1)
従来公知の製法により、ケイ酸鉄リチウム(Li
2FeSiO
4)結晶と炭素材との複合体材料を作製した。ケイ酸鉄リチウム原料として、硝酸リチウム、硝酸鉄(III)9水和物及びTEOSを用い、Li
2FeSiO
4の化学量論組成となるように秤量したケイ酸鉄リチウム原料を水に溶解させた。この溶液には炭素源を添加しなかった。
【0089】
得られた溶液を超音波噴霧器を用いて液滴とし、窒素をキャリヤーガスとして設定温度800℃に加熱した電気炉に導入し、熱分解し、反応させてケイ酸鉄リチウムの中間体を得た(噴霧熱分解工程)。
【0090】
遊星ボールミルを用いて、得られた中間体を湿式粉砕した。粉砕条件は、回転数200rpm、処理時間270分とした。なお、直径0.5mmのジルコニア製ボールを用い、溶媒としてエタノールを用いて、湿式粉砕を行った(粉砕工程)。
【0091】
粉砕した中間体をバッチ炉を用いて熱処理した。熱処理条件は、1体積%の水素を含むアルゴン雰囲気下で700℃、2時間とした(第1の熱処理工程)。
【0092】
次に、得られたケイ酸鉄リチウム結晶粉末とグルコースとを、モル比2:1となるように秤量し、水(溶媒)を加えて混合した。得られた混合物をバッチ炉を用いて第2の熱処理を行った。第2の熱処理条件は、窒素雰囲気下で100℃、1時間の熱処理を行った後、500℃、4時間の熱処理を行った(第2の熱処理工程)。
(比較例2)
従来公知の製法により、ケイ酸鉄リチウム(Li
2FeSiO
4)結晶と炭素材との複合体材料を作製した。
【0093】
ケイ酸鉄リチウム原料として、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、シュウ酸鉄(II)2水和物(Fe(C
2O
4)・2H
2O)及びコロイダルシリカを用い、Li
2FeSiO
4の化学量論組成比となるように秤量した。遊星ボールミルを用いて、原料粉末を混合し、湿式粉砕を行った。粉砕条件は、回転数200rpm、処理時間72時間とした。なお、粉砕には直径1mmのジルコニア製ボールを用い、溶媒としてエタノールを用いた。
【0094】
粉砕した粉末をバッチ炉を用いて熱処理した。熱処理条件は、1体積%の水素を含むアルゴン雰囲気下で800℃、6時間とした。得られたケイ酸鉄リチウム結晶粉末に、比較例1と同様にグルコースを混合し、第2の熱処理工程を行った。
【0095】
(参考例1)
比較例1の第1の熱処理工程を終えたケイ酸鉄リチウム結晶粉末(すなわちグルコースと混合される前の粉末)に対し、炭酸リチウム粉末(純正化学(株)製;99.0%)を混合した混合物を準備した。
(参考例2)
炭酸リチウム粉末(純正化学(株)製;純度99.0%)を準備した。
【0096】
<相の同定>
実施例1〜実施例10、比較例1〜比較例2で作製した試料、及び参考例1で使用したケイ酸鉄リチウムの同定は、粉末X線回折装置((株)リガク製の粉末X線回折装置UltimaII)を用いて行った。X線回折の結果から、実施例1〜実施例10、比較例1〜比較例2で作製した試料、及び参考例1で使用した試料が、それぞれ表1に示した相であることを確認した。
【0097】
<赤外吸収スペクトル>
実施例1〜実施例10、比較例1〜比較例2、参考例1〜参考例2について、赤外分光法を用いて、赤外吸収スペクトルの測定を行った。赤外吸収スペクトルの測定は、赤外分光光度計:(株)日本分光製のフーリエ変換赤外分光光度計FT/IR−6200を用い、測定法:KBr錠剤法の透過スペクトル測定、積算回数:100回、分解能:4cm
−1にて行った。
図5A〜
図18Aに赤外吸収スペクトル図を示す。
【0098】
表1に上記実施例、比較例及び参考例の赤外吸収スペクトルにおける波数域1400cm
−1乃至1550cm
−1の範囲内のピークの有無を示す。また、表1に、各赤外吸収スペクトル図から既述のようにして求めたピーク面積比A
p1/A
p2の値を併記する。
【0099】
【表1】
<ラマンスペクトル>
上記実施例、比較例及び参考例について、ラマン分光法を用いて、ラマンスペクトルの測定を行った。ラマンスペクトルの測定は、ラマン分光光度計:(株)日本分光製のレーザラマン分光光度計NRS−5100を用い、励起波長:532nm、露光時間:15秒〜60秒、積算回数:2回〜20回、対物レンズ:5倍〜100倍、減光器:オープン〜OD1.3にて行った。
図5B〜
図18Bにラマンスペクトル図を示す。また、表1にラマンスペクトルの波数域1000cm
−1乃至1150cm
−1の範囲におけるピークの有無を併記する。
<XPSスペクトル>
上記実施例及び比較例について、XPS法を用いて、XPSスペクトルの測定を行った。XPSスペクトルの測定は、X線光電子分光計:(株)島津製作所製のX線光電子分光分析装置ESCA−3400を用いて行った。表1に、XPSスペクトル図から既述のようにして判定したC
1sピークにおけるショルダーピークの有無を併記する。
<含有炭素量の測定>
上記実施例及び比較例の含有炭素量を測定した。含有炭素量の測定は、炭素・硫黄分析装置((株)堀場製作所製の炭素・硫黄分析装置EMIA−320V)を用いて行った。表1に含有炭素量(質量%)を併記する。
<放電特性の評価>
上記実施例及び比較例で作製したリチウムケイ酸塩結晶と炭素材との複合体材料である粉末を正極材料として正極を形成し、金属リチウムを負極に用い、非水電解液を電解液に用いて、CR2032型コイン電池を作製した。
【0100】
正極は、上記実施例及び比較例で合成した各粉末と、アセチレンブラック粉末及びポリテトラフルオロエチレン粉末の混合物(宝泉(株)製:TAB−2)とを質量比2:1で混合し、乳鉢中で混練した後、混練した粉末を、正極用の集電体としてのステンレスメッシュに圧着して作製した。
【0101】
負極は、金属リチウム箔を負極用の集電体としてのステンレスメッシュに圧着して作製した。
【0102】
電解液としては、エチルカーボネートと、ジメチルカーボネートとを、体積比1:2で混合した混合溶媒に、1.0mol/LのLiPF
6を溶解させた非水電解液を用いた。
【0103】
セパレータとしては、厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用いた。
【0104】
上述した正極、負極、電解液及びセパレータを用いて、CR2032型コイン電池を組み立てた。なお、電池の組み立ては、アルゴン雰囲気に制御されたグローブボックス内で行った。
【0105】
上記作製したそれぞれの電池について、設定温度25℃の恒温槽で充放電試験を行い、放電容量を測定した。充放電試験は、電圧範囲1.5V乃至5.0Vで行った。充電方法は、上限電圧5.0V、定電流定電圧(CCCV)、充電速度0.1Cとした。また、定電圧充電時の終了条件は容量250mAh/g又は時間600分のどちらかが満たされた場合とした。放電方法は、下限電圧1.5V、定電流(CC)、放電速度0.1Cとした。
【0106】
表2に、各電池を用いて放電容量を測定した結果と、放電容量から求めた質量エネルギー密度の値を示す。
【0107】
【表2】
図4に、実施例1の粉末を用いた電池の充放電試験を行い、得られた充放電曲線(充電曲線401、放電曲線403)を示す。また、比較例1の粉末を用いた電池の充放電試験を行い、得られた充放電曲線(充電曲線431、放電曲線433)を
図4に併記する。
【0108】
表1に示されるように、実施例1〜実施例10のピーク面積比A
p1/A
p2は、0.02<A
p1/A
p2を満たしている。更に、表1、表2に示されるように、ピーク面積比が0.02<A
p1/A
p2の範囲にある実施例1〜実施例10により、165mAh/g以上の高容量が得られる。また、実施例1〜実施例10により、463Wh/kg〜699Wh/kgという高い質量エネルギー密度が得られる。これに対し、比較例1、2のピーク面積比A
p1/A
p2は0.01と低く、放電容量及び質量エネルギー密度が低い。
【0109】
また、表1に示されるように、赤外吸収スペクトルが波数域1400cm
−1乃至1550cm
−1の範囲内にピークが存在する例の内、ラマンスペクトルの波数域1000cm
−1乃至1150cm
−1の範囲にピークが存在するのは、参考例1と参考例2だけであった。