特許第5939257号(P5939257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939257
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】近赤外遮蔽フィルムおよび近赤外遮蔽体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20160609BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20160609BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   B32B27/18 Z
   B32B7/02 103
   G02B5/28
【請求項の数】11
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2013-538601(P2013-538601)
(86)(22)【出願日】2012年10月12日
(86)【国際出願番号】JP2012076511
(87)【国際公開番号】WO2013054912
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2015年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2011-225156(P2011-225156)
(32)【優先日】2011年10月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野島 隆彦
【審査官】 馳平 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−86659(JP,A)
【文献】 特開2004−169018(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/014654(WO,A1)
【文献】 特表2009−544491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00〜43/00
G02B 5/00〜5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、第1の水溶性高分子および第1の金属酸化物粒子を含む高屈折率層、ならびに第2の水溶性高分子および第2の金属酸化物粒子を含む低屈折率層を交互に積層して形成された光学干渉膜を有する赤外遮蔽フィルムにおいて、
前記第1の金属酸化物粒子は、酸化チタン粒子が含ケイ素の水和酸化物で被覆された粒子である、近赤外遮蔽フィルム。
【請求項2】
前記第1の金属酸化物粒子は、前記酸化チタン粒子に対して、前記含ケイ素の水和酸化物の被覆量が、SiOとして3〜30質量%である、請求項1に記載の近赤外遮蔽フィルム。
【請求項3】
前記第1の金属酸化物粒子は、一次平均粒径が2〜31nmである、請求項1または2に記載の近赤外遮蔽フィルム。
【請求項4】
前記第1および第2の水溶性高分子は、ポリビニルアルコールである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の近赤外遮蔽フィルム。
【請求項5】
前記高屈折率層または前記低屈折率層の少なくとも1層は、ホウ酸およびその塩並びにホウ砂の少なくとも一方を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の近赤外遮蔽フィルム。
【請求項6】
前記第1の金属酸化物粒子は、ルチル型の酸化チタンを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の近赤外遮蔽フィルム。
【請求項7】
前記高屈折率層と前記低屈折率層との屈折率差は0.3以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の近赤外遮蔽フィルム。
【請求項8】
前記基材の片面あたりの前記高屈折率層および前記低屈折率層の総層数の範囲は、100層以下12層以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の近赤外遮蔽フィルム。
【請求項9】
JIS R3106−1998で示される可視光領域の透過率が50%以上であり、波長900nm〜1400nmの領域に反射率50%を超える領域を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の近赤外遮蔽フィルム。
【請求項10】
前記第2の金属酸化物粒子は、シリカである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の近赤外遮蔽フィルム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の近赤外遮蔽フィルムを、基体の少なくとも一方の面に設けてなる近赤外遮蔽体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外遮蔽フィルム、および近赤外遮蔽体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー対策の一環として、冷房設備にかかる負荷を減らす観点から、建物や車両の窓ガラスに装着させて、太陽光の熱線の透過を遮蔽する近赤外遮蔽フィルムへの要望が高まってきている。
【0003】
近赤外遮蔽フィルムの形成方法としては、主には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層させた構成からなる積層体ユニットを、蒸着法、スパッタ法などのドライ製膜法を用いて形成する方法が提案されている。しかし、ドライ製膜法は、形成に用いる真空装置等が大型になり、製造コストが高くなり、大面積化も困難であり、かつ適用可能な基材としては耐熱性素材に限定される等の課題を抱えている。
【0004】
近年、上記のような課題を有しているドライ製膜法に代えて、湿式塗布法を用いて近赤外遮蔽フィルムを形成する方法の検討が盛んになされている。
【0005】
当該湿式塗布法の技術として、例えば、特開2003−266577号公報には、球状ルチル型酸化チタン粒子のメタノール分散スラリーと、メタノールシリカゾルを用いて交互積層する方法が開示されている。また、例えば特開2004−123766号公報には、ルチル型の酸化チタン、複素環系窒素化合物(例えば、ピリジン)、紫外線硬化型バインダー及び有機溶剤から構成される高屈折率塗膜形成用組成物を、バーコーターを用いた湿式塗布方式により基材上に塗布して透明積層体を形成する方法が開示されている。さらに、例えば特開平8−110401号公報には、金属酸化物、金属化合物微粒子を含む熱硬化型シリコーン樹脂、紫外線硬化型アクリル樹脂等を有機溶媒中に分散させた高屈折率層塗布液を、バーコーターを用いた湿式塗布方式により基材上に塗布して透明積層体を形成する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開2003−266577号公報及び特開2004−123766号公報に開示されている製造方法により得られる赤外遮蔽フィルムでは、ルチル型酸化チタン粒子を有機溶媒中に表面処理剤を用いて分散したスラリーを使用しているため、チタン粒子の粒度分布が広く、塗膜中の屈折率が面内で不均一になるという問題だけでなく、表面処理剤の影響により、長期保存した過程で塗膜が変色してしまうなど、耐久性が低いという問題があった。また、特開2003−266577号公報に記載されている製造方法により得られる赤外遮蔽フィルムは、粒子同士の結着による膜形成を行っているため、得られる膜が脆く、柔軟性に乏しいという問題があった。さらに特開2004−123766号公報または特開平8−110401号公報に開示されている製造方法では、バインダーとして紫外線硬化型バインダーや熱硬化型バインダーを用いて高屈折率層を形成した後、紫外線あるいは熱により硬化するため、得られる赤外遮蔽フィルムが柔軟性に乏しい塗膜物性となるという問題もあった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、耐久性および膜柔軟性に優れ、可視光透過率が高く、近赤外遮蔽性に優れた近赤外遮蔽フィルムとその製造方法、及びその近赤外遮蔽フィルムを設けた近赤外遮蔽体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0009】
(1)基材上に、第1の水溶性高分子および第1の金属酸化物粒子を含む高屈折率層、ならびに第2の水溶性高分子および第2の金属酸化物粒子を含む低屈折率層を交互に積層して形成された光学干渉膜を有する赤外遮蔽フィルムにおいて、前記第1の金属酸化物粒子は、酸化チタン粒子が含ケイ素の水和酸化物で被覆された粒子である、近赤外遮蔽フィルム。
【0010】
(2)前記第1の金属酸化物粒子は、前記酸化チタン粒子に対して、前記含ケイ素の水和酸化物の被覆量が、SiOとして3〜30質量%である、前記(1)に記載の近赤外遮蔽フィルム。
【0011】
(3)前記第1の金属酸化物粒子は、一次平均粒径が2〜31nmである、前記(1)または(2)に記載の近赤外遮蔽フィルム。
【0012】
(4)前記第1および第2の水溶性高分子は、ポリビニルアルコールである、前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の近赤外遮蔽フィルム。
【0013】
(5)前記高屈折率層または前記低屈折率層の少なくとも1層は、ホウ酸およびその塩並びにホウ砂の少なくとも一方を含む、前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の近赤外遮蔽フィルム。
【0014】
(6)前記第1の金属酸化物粒子は、ルチル型の酸化チタン粒子を含む、前記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の近赤外遮蔽フィルム。
【0015】
(7)前記高屈折率層と前記低屈折率層との屈折率差は0.3以上である、前記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の近赤外遮蔽フィルム。
【0016】
(8)前記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の近赤外遮蔽フィルムを、基体の少なくとも一方の面に設けてなる近赤外遮蔽体。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明の第一は、基材上に、第1の水溶性高分子および第1の金属酸化物粒子を含む高屈折率層、ならびに第2の水溶性高分子および第2の金属酸化物粒子を含む低屈折率層を交互に積層して形成された光学干渉膜を有する赤外遮蔽フィルムにおいて、前記第1の金属酸化物粒子は、酸化チタン粒子が含ケイ素の水和酸化物で被覆された粒子である、近赤外遮蔽フィルムである。
【0019】
本発明の近赤外遮蔽フィルムにおいて、高屈折率層に含まれている第1の金属酸化物粒子は、その表面に含ケイ素の水和酸化物が被覆されているため、第1の水溶性高分子との相互作用により、第1の金属酸化物粒子の流動性が抑制・防止され、高屈折率層と低屈折率層との層間混合が低減されたフィルムである。そのため、耐久性および膜柔軟性に優れ、可視光透過率が高く、近赤外遮蔽性に優れた近赤外遮蔽フィルムを実現できる。
【0020】
上述した本発明の構成による主な作用効果の発揮のメカニズムは、以下のように推測される。
【0021】
すなわち、本発明の近赤外遮蔽フィルムは、高屈折率層と低屈折率層とを形成し得るそれぞれの塗布液を用い、各塗布液からなるユニットを多層構成となるように塗布することにより、高い生産性で製造される。 そして、水系塗布液ユニットを用いる場合には、高屈折率層と低屈折率層との各層の塗布液成分が可能な限り混じり合わないようにすることで、各層について設計された屈折率を確保する必要がある。そのためには、高屈折率層と低屈折率層の層間で金属酸化物粒子が拡散することによる層間混合を抑えることが重要となる。
【0022】
本発明に係る近赤外遮蔽フィルムにおいては、高屈折率層は、第1の水溶性高分子と、第1の金属酸化物粒子として、酸化チタン粒子が含ケイ素の水和酸化物で被覆された粒子とを含んでいる。そのため、前記第1の金属酸化物粒子の表面の含ケイ素の水和酸化物と、第1の水溶性高分子との相互作用により、前記第1の金属酸化物粒子と前記第1の水溶性高分子とのネットワークが形成され、高屈折率層と低屈折率層との層間混合が抑制され、好ましい近赤外遮蔽特性が達成されると考えられる。特に、第1の水溶性高分子としてポリビニルアルコールを使用する場合、前記第1の金属酸化物粒子とポリビニルアルコールとが、それぞれのOH基同士の水素結合ネットワークを強く形成することにより、高屈折率層と低屈折率層との層間混合が抑制され、好ましい近赤外遮蔽特性が達成される。そして、当該相互作用の効果、および高屈折率層の材料として酸化チタン粒子が含ケイ素の水和酸化物で被覆された粒子を用いることによって、光触媒活性が抑制され、温湿度条件が変化した場合であっても、耐久性に優れた近赤外遮蔽フィルムが提供され得るものと考えられる。また、高屈折率層の屈折率制御においては、シリカ被覆量を制御することにより、高屈折率層と低屈折率層の屈折率差を有効にコントロールすることが可能であると考えられる。なお、上記メカニズムは推測によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら制限されるものではない。
【0023】
以下、本発明の近赤外遮蔽フィルムの構成要素、および本発明を実施するための形態等について詳細な説明をする。
【0024】
なお、本明細書において、「近赤外」とは、波長が約750nm〜2500nmの近赤外線のことであり、本発明の「近赤外遮蔽フィルム」とは、近赤外線を反射または吸収などをすることにより、近赤外線の全部または一部を遮ることができるフィルムである。
【0025】
{近赤外遮蔽フィルム}
本発明の近赤外遮蔽フィルムは、基材と、高屈折率層および低屈折率層を交互に積層して形成された光学干渉膜と、を含む。
【0026】
本発明の近赤外遮蔽フィルムは、基材の片面上または両面上に、高屈折率層と低屈折率層が交互に積層して形成された多層の光学干渉膜を有するものであれば特に制限されない。生産性の観点から、基材の片面あたりの好ましい高屈折率層および低屈折率層の総層数の範囲は、100層以下12層以上、より好ましくは45層以下15層以上、さらに好ましくは45層以下21層以上である。なお、前記の好ましい高屈折率層および低屈折率層の総層数の範囲は、基材の片面にのみ積層される場合においても適応可能であり、基材の両面に同時に積層される場合においても適応可能である。基材の両面に積層される場合において、基材一の面と他の面との高屈折率層および低屈折率層の総層数は、同じであってもよく、異なっていてもよい。また、本発明の近赤外遮蔽フィルムにおいて、最下層(基材と接触する層)および最表層は、高屈折率層および低屈折率層のいずれであってもよい。しかしながら、低屈折率層が最下層および最表層に位置する層構成とすることにより、最下層の基材への密着性、最上層の吹かれ耐性、さらには最表層へのハードコート層等の塗布性や密着性に優れるという観点から、本発明の近赤外遮蔽フィルムとしては、最下層および最表層が低屈折率層である層構成が好ましい。
【0027】
一般に、近赤外遮蔽フィルムにおいては、高屈折率層と低屈折率層との屈折率の差を大きく設計することが、少ない層数で近赤外線反射率を高くすることができるという観点から好ましい。本発明では、隣接する高屈折率層と低屈折率層との屈折率差は0.1以上が好ましく、より好ましくは0.25以上であり、さらに好ましくは0.3以上であり、よりさらに好ましくは0.35以上であり、もっとも好ましくは0.4以上である。
【0028】
この屈折率差と、必要な層数とについては、市販の光学設計ソフトを用いて計算することができる。例えば、近赤外線反射率90%以上を得るためには、屈折率差が0.1より小さいと200層以上の積層が必要になり、生産性が低下するだけでなく、積層界面での散乱が大きくなり、透明性が低下し、故障なく製造することも非常に困難になる場合がある。
【0029】
近赤外遮蔽フィルムが高屈折率層および低屈折率層を交互に積層する場合には、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差が、上記好適な屈折率差の範囲内にあることが好ましい。ただし、例えば、最表層はフィルムを保護するための層として形成される場合または最下層が基板との接着性改良層として形成される場合などにおいて、最表層や最下層に関しては、上記好適な屈折率差の範囲外の構成であってもよい。
【0030】
さらには、本発明の近赤外遮蔽フィルムの光学特性として、JIS R3106−1998で示される可視光領域の透過率が50%以上であり、好ましくは75%以上であり、より好ましくは85%以上である。また、波長900nm〜1400nmの領域に反射率50%を超える領域を有することが好ましい。
【0031】
本発明の近赤外遮蔽フィルムの全体の厚みは、好ましくは12μm〜315μm、より好ましくは15μm〜200μm、さらに好ましくは20μm〜100μmである。
【0032】
次いで、本発明の近赤外遮蔽フィルムの構成要素である高屈折率層、低屈折率層および基材について、各要素に含まれる成分などを順に詳説する。
【0033】
<高屈折率層>
本発明に係る高屈折率層は、第1の水溶性高分子および第1の金属酸化物粒子を必須成分として含み、必要により、硬化剤、表面被覆成分、界面活性剤、および各種添加剤からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含んでもよい。
【0034】
本発明に係る高屈折率層の屈折率は、好ましくは1.80〜2.50であり、より好ましくは1.90〜2.20である。
【0035】
本発明に係る高屈折率層の1層あたりの厚みは、20〜800nmであることが好ましく、50〜350nmであることがより好ましい。
【0036】
ここで、1層あたりの厚みを測定する場合、高屈折率層と低屈折率層とは、これらの間に明確な界面をもっていても、徐々に変化していてもよい。界面が徐々に変化している場合には、それぞれの層が混合し屈折率が連続的に変化する領域中で、最大屈折率−最小屈折率=Δnとした場合、2層間の最小屈折率+Δn/2の地点を層界面とみなす。なお、後述する低屈折率層の層厚においても同様である。
【0037】
本発明の高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層して形成された光学干渉膜である積層膜の金属酸化物濃度プロファイルは、スパッタ法を用いて表面から深さ方向へエッチングを行い、XPS表面分析装置を用いて、最表面を0nmとして、0.5nm/minの速度でスパッタし、原子組成比を測定することで見ることが出来る。また、積層膜を切断して切断面をXPS表面分析装置で原子組成比を測定することで見ることも可能である。混合領域において金属酸化物の濃度が不連続に変化している場合には電子顕微鏡(TEM)による断層写真により境界はわかる。
【0038】
XPS表面分析装置としては、特に限定なく、いかなる機種も使用することができるが、VGサイエンティフィックス社製ESCALAB−200Rを用いた。X線アノードにはMgを用い、出力600W(加速電圧15kV、エミッション電流40mA)で測定する。
【0039】
「第1の金属酸化物粒子」
本発明に係る第1の金属酸化物粒子は、酸化チタン粒子が含ケイ素の水和酸化物で被覆された粒子である。本発明において、酸化チタン粒子とは、二酸化チタン(TiO)粒子を意味する。
【0040】
ここで、「被覆」とは、酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部に、含ケイ素の水和酸化物が付着されている状態を意味する。すなわち、本発明に係る第1の金属酸化物粒子として用いられる酸化チタン粒子の表面が、完全に含ケイ素の水和酸化物で被覆されていてもよく、酸化チタン粒子の表面の一部が含ケイ素の水和酸化物で被覆されていてもよい。被覆された酸化チタン粒子の屈折率が含ケイ素の水和酸化物の被覆量により制御される観点から、酸化チタン粒子の表面の一部が含ケイ素の水和酸化物で被覆されることが好ましい。
【0041】
本発明において、第1の金属酸化物粒子としては、含ケイ素の水和酸化物で被覆されたルチル型の酸化チタン粒子であってもよく、含ケイ素の水和酸化物で被覆されたアナターゼ型の酸化チタン粒子であってもよく、またはこれらの混合粒子であってもよい。これらの中では、含ケイ素の水和酸化物で被覆されたルチル型の酸化チタン粒子がより好ましい。
【0042】
これは、ルチル型の酸化チタン粒子が、アナターゼ型の酸化チタン粒子より光触媒活性が低いため、高屈折率層や隣接した低屈折率層の耐候性が高くなり、さらに屈折率が高くなるという理由からである。
【0043】
本発明に係る第1の金属酸化物粒子に用いられる酸化チタン粒子を含む水溶液は、pHが1.0〜3.0であり、かつチタン粒子のゼータ電位が正である水系の酸化チタンゾルの表面を、疎水化して有機溶剤に分散可能な状態にしたものを用いることができる。
【0044】
本発明に係る高屈折率層における第1の金属酸化物粒子の含有量としては、高屈折率層の固形分100質量%に対して、15〜95質量%であることが好ましく、20〜88質量%であることがより好ましく、30〜85質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
第1の金属酸化物粒子の含有量が高屈折率層の固形分100質量%に対して、15〜95質量%であると、低屈折率層との屈折率差を大きくできるという観点で好ましい。
【0046】
前記酸化チタン粒子および前記第1の金属酸化物粒子(含ケイ素の水和酸化物で被覆された酸化チタン粒子)の粒径は、体積平均粒径や一次平均粒径により求めることができる。
【0047】
本発明に係る第1の金属酸化物粒子および第1の金属酸化物粒子に用いられる酸化チタン粒子の粒径に関しては、体積平均粒径または一次平均粒径 により求めることができる。
【0048】
本発明においては、第1の金属酸化物粒子に用いられる酸化チタン粒子(含ケイ素の水和酸化物で被覆されていない) の体積平均粒径は、30nm以下であることが好ましく、1〜30nmであることがより好ましく、5〜15nmであることがさらに好ましく、6〜10nmであることがもっとも好ましい。体積平均粒径が1nm以上30nm以下であれば、ヘイズが少なく可視光透過性に優れる観点で好ましい。
【0049】
なお、本発明に係る第1の金属酸化物粒子に用いられる酸化チタン粒子の体積平均粒径とは、粒子そのものをレーザー回折散乱法、動的光散乱法、あるいは電子顕微鏡を用いて観察する方法や、屈折率層の断面や表面に現れた粒子像を電子顕微鏡で観察する方法により、1,000個の任意の粒子の粒径を測定し、それぞれd1、d2・・・di・・・dkの粒径を持つ粒子がそれぞれn1、n2・・・ni・・・nk個存在する粒子状の金属酸化物の集団において、粒子1個当りの体積をviとした場合に、体積平均粒径mv={Σ(vi・di)}/{Σ(vi)}で表される体積で重み付けされた平均粒径である。
【0050】
さらに、本発明に係る第1の金属酸化物粒子に用いられる酸化チタン粒子は、単分散であることが好ましい。ここでいう単分散とは、下記式で求められる単分散度が40%以下であることをいう。この単分散度は、さらに好ましくは30%以下であり、特に好ましくは0.1〜20%である。
【0051】
【数1】
【0052】
本発明は、含ケイ素の水和酸化物で被覆された酸化チタン粒子を高屈折率層に含有させることで、含ケイ素の水和酸化物と第1の水溶性高分子との相互作用により、高屈折率層と低屈折率層との層間混合が抑制される効果、およびルチル型酸化チタン粒子のみならずアナターゼ型酸化チタン粒子を用いる場合の酸化チタンの光触媒活性による水溶性高分子の劣化やチョーキングなどの問題を防ぐことができるという効果を奏する。
【0053】
本発明に係る第1の金属酸化物粒子の体積平均粒径は、好ましくは2〜31nmであり、より好ましくは6〜16nmであり、さらに好ましくは7〜11nmである。本発明に係る第1の金属酸化物粒子の体積平均粒径が2〜31nmであると、本発明の効果である近赤外線遮蔽性や、透明性、ヘイズといった光学特性の観点から好ましい。
【0054】
第1の金属酸化物粒子に用いられる酸化チタン粒子(含ケイ素の水和酸化物で被覆されていない) の一次平均粒径は、30nm以下であることが好ましく、1〜30nmであることがより好ましく、1〜20nmであることがさらに好ましく、1〜10nmであることがもっとも好ましい。一次平均粒径が1nm以上30nm以下であれば、ヘイズが少なく可視光透過性に優れる観点で好ましい。
【0055】
本発明に係る第1の金属酸化物粒子の一次平均粒径は、好ましくは2〜31nmであり、より好ましくは2〜21nmであり、さらに好ましくは2〜11nmである。本発明に係る第1の金属酸化物粒子の一次平均粒径が2〜31nmであると、本発明の効果である近赤外線遮蔽性や、透明性、ヘイズといった光学特性の観点から好ましい。
【0056】
なお、本明細書における一次平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)等による電子顕微鏡写真から計測することができる。動的光散乱法や静的光散乱法等を利用する粒度分布計等によって計測してもよい。
【0057】
透過型電子顕微鏡から求める場合、粒子の一次平均粒径は、粒子そのものあるいは屈折率層の断面や表面に現れた粒子を電子顕微鏡で観察し、1000個の任意の粒子の粒径を測定し、その単純平均値(個数平均)として求められる。ここで個々の粒子の粒径は、その投影面積に等しい円を仮定したときの直径で表したものである。
【0058】
本発明に係る第1の金属酸化物粒子の製造方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、以下の(i)〜(v)に示す方法を挙げることができる。
【0059】
(i)酸化チタン粒子を含有する水溶液を加熱加水分解し、または酸化チタン粒子を含有する水溶液にアルカリを添加し中和して、平均粒径が1〜30nmの酸化チタンを得た後、モル比で表して酸化チタン粒子/鉱酸が1/0.5〜1/2の範囲になるように、前記酸化チタン粒子と鉱酸とを混合したスラリーを、50℃以上該スラリーの沸点以下の温度で加熱処理し、その後得られた酸化チタン粒子を含むスラリーに、ケイ素の化合物(例えば、ケイ酸ナトリウム水溶液)を添加し、酸化チタン粒子の表面にケイ素の含水酸化物を析出させて表面処理し、次いで得られた表面処理された酸化チタン粒子のスラリーから不純物を除去する方法(特開平10−158015号公報に記載の方法)。
【0060】
(ii)含水酸化チタンなどの酸化チタンを一塩基酸またはその塩で解膠処理して得られる酸性域のpHで安定した酸化チタンゾルと、分散安定化剤としてのアルキルシリケートを常法により混合し、中性化する方法(特開2000−053421号公報に記載の方法)。
【0061】
(iii)過酸化水素および金属スズを、2〜3のH/Snモル比に保持しつつ同時にまたは交互にチタン塩(例えば、四塩化チタン)等の混合物水溶液に添加し、チタンを含む塩基性塩水溶液を生成し、該塩基性塩水溶液を0.1〜100時間かけて50〜100℃の温度で保持して酸化チタンを含む複合体コロイドの凝集体を生成させ、次いで、該凝集体スラリー中の電解質を除去し、酸化チタンを含む複合体コロイド粒子の安定な水性ゾルが製造される。一方、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸ナトリウム水溶液)等を含有する水溶液を調製し、水溶液中に存在する陽イオンを除去することで、二酸化ケイ素を含む複合体コロイド粒子の安定な水性ゾルが製造される。得られた酸化チタンを含む複合体水性ゾルを金属酸化物TiOに換算して100質量部と、得られた二酸化ケイ素を含む複合体水性ゾルを金属酸化物SiOに換算して2〜100質量部と混合し、陰イオンを除去後、80℃で1時間加熱熟成する方法(特開2000−063119号公報に記載の方法)。
【0062】
(iv)含水チタン酸のゲルまたはゾルに過酸化水素を加えて含水チタン酸を溶解し、得られたペルオキソチタン酸水溶液に、ケイ素化合物等を添加し加熱し、ルチル型構造をとる複合固溶体酸化物からなるコア粒子の分散液が得られ、次いで、該コア粒子の分散液にケイ素化合物等を添加した後、加熱しコア粒子表面に被覆層を形成し、複合酸化物粒子が分散されたゾルが得られ、さらに、加熱する方法(特開2000−204301号公報に記載の方法)。
【0063】
(v)含水酸化チタンを解膠して得られた酸化チタンのヒドロゾルに、安定剤としてのオルガノアルコキシシラン(RnSiX4−n)または過酸化水素および脂肪族もしくは芳香族ヒドロキシカルボン酸から選ばれた化合物を添加し、溶液のpHを3以上9未満へ調節し熟成させた後に脱塩処理を行う方法(特許第4550753号公報に記載の方法)。
【0064】
上記(i)〜(v)の方法により、本発明に係る第1の金属酸化物粒子を製造することができる。本発明に係る第1の金属酸化物粒子としての酸化チタン粒子の含ケイ素の水和酸化物での被覆量を調整するには、例えば、(1)上記方法(i)および(iv)において、使用する酸化チタン粒子に対するケイ素の化合物の添加量を調整することによって、含ケイ素の水和酸化物の被覆量を調整する方法;(2)上記方法(iii)において、得られた酸化チタンを含む複合体水性ゾルおよび二酸化ケイ素を含む複合体水性ゾルをそれぞれ金属酸化物TiOおよびSiOに換算し、該当するTiOに対して該当するSiOの量を調整することによって、含ケイ素の水和酸化物の被覆量を調整する方法;(3)上記方法(v)において、使用するオルガノアルコキシシランの添加量を調整することによって、含ケイ素の水和酸化物の被覆量を調整する方法;(4)上記方法(ii)において、アルキルシリケートの添加量を調整する方法などが挙げられる。
【0065】
本発明に係る第1の金属酸化物粒子を調製する際に、含ケイ素の水和酸化物で被覆された酸化チタン粒子を含む懸濁液において、懸濁液全体の固形分100質量%に対して、当該第1の金属酸化物粒子の好ましい固形分は、1〜40質量%である。また、当該固形分は、15〜25質量%であることがより好ましい。これは、当該固形分を1質量%以上にすることで、固形分濃度が大きくして溶媒揮発負荷を低減し生産性が向上でき、また、当該固形分を40質量%以下にすることで、高粒子密度による凝集を防止でき、塗布時の欠陥を減らすことができるからである。本発明に係る第1の金属酸化物粒子を調製する際に、含ケイ素の水和酸化物で被覆された酸化チタン粒子を含む懸濁液のpH範囲は、3〜9であることが好ましく、4〜8であることがより好ましい。懸濁液のpHを9以下にすることでアルカリ溶解による体積平均粒径の変化を抑えることができ、懸濁液のpHを3以上にすることでハンドリング性を向上することができるからである。
【0066】
本発明に係る第1の金属酸化物粒子は、酸化チタン粒子に対して、含ケイ素の水和酸化物の被覆量は、SiOとして好ましくは3〜30質量%であり、より好ましくは3〜10質量%、さらに好ましくは3〜8質量%である。被覆量が3〜30質量%であれば、高屈折率層の高屈折率化が容易となりまた、被覆した粒子を安定に形成することができる。
【0067】
本明細書における「含ケイ素の水和酸化物」とは、無機ケイ素化合物の水和物、有機ケイ素化合物の加水分解物および/または縮合物のいずれでもよいが、本発明の効果を得るためにはシラノール基を有することがより好ましい。
【0068】
本発明に係る高屈折率層において、本発明に係る第1の金属酸化物粒子以外に、他の金属酸化物粒子が含まれていてもよい。他の金属酸化物粒子を併用する場合には、本発明に係る第1の金属酸化物粒子と電荷的に凝集しないよう、各種のイオン性分散剤や保護剤を用いることができる。本発明に係る第1の金属酸化物粒子以外に用いることのできる金属酸化物粒子は、例えば、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、チタン酸鉛、鉛丹、黄鉛、亜鉛黄、酸化クロム、酸化第二鉄、鉄黒、酸化銅、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ニオブ、酸化ユーロピウム、酸化ランタン、ジルコン、酸化スズなどが挙げられる。上記のような第1の金属酸化物粒子以外の他の金属酸化物粒子が、高屈折率層に含有される場合の含有量は、本発明の効果を奏することができる範囲であれば特に制限されるものではない。
【0069】
なお、本発明の近赤外遮蔽フィルムが高屈折率層を複数有する場合は、複数の高屈折率層のうち少なくとも1層に酸化チタン粒子が含ケイ素の水和酸化物で被覆された粒子である第1の金属酸化物粒子が含まれていればよく、複数の高屈折率層の全ての層に本発明に係る第1の金属酸化物粒子が含まれることが特に好ましい。本発明の近赤外遮蔽フィルムが高屈折率層を1層有する場合は、当該1層の高屈折率層に本発明に係る第1の金属酸化物粒子が含まれていればよい。
【0070】
「第1の水溶性高分子」
本発明において、各高屈折率層および各低屈折率層には、バインダーとして機能する水溶性高分子が含有されている。各高屈折率層に含有される水溶性高分子を第1の水溶性高分子と称し、各低屈折率層に含有される水溶性高分子を第2の水溶性高分子と称する。本発明において、第1の水溶性高分子と第2の水溶性高分子とは、同じ構成成分であってもよく、異なる構成成分であってもよいが、第1の水溶性高分子と第2の水溶性高分子の構成成分が異なることがより好ましい。
【0071】
本発明に係る第1の水溶性高分子または後述する第2の水溶性高分子は、該水溶性高分子が最も溶解する温度で、0.5質量%の濃度に水に溶解させた際、G2グラスフィルタ(最大細孔40〜50μm)で濾過した場合に濾別される不溶物の質量が、加えた該水溶性高分子の50質量%以内であるものを言う。
【0072】
本発明に係る第1の水溶性高分子としては、例えば、反応性官能基を有するポリマー、ゼラチン、または増粘多糖類などが挙げられる。これらの第1の水溶性高分子は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、第1の水溶性高分子は合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。以下、本発明に係る第1の水溶性高分子について、詳細に説明する。
【0073】
(反応性官能基を有するポリマー)
本発明で用いられる反応性官能基を有するポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、もしくはアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、もしくはスチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレンアクリル酸樹脂、スチレン−スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体、スチレン−2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体、スチレン−2−ヒドロキシエチルアクリレート−スチレンスルホン酸カリウム共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩が挙げられる。これらの中でも、本発明において、ポリビニルアルコールが特に好ましく用いられる。以下では、ポリビニルアルコールについて説明する。
【0074】
本発明で好ましく用いられるポリビニルアルコールには、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコールの他に、各種の変性ポリビニルアルコールも含まれる。
【0075】
酢酸ビニルを加水分解して得られるポリビニルアルコールは、平均重合度が1,000以上のものが好ましく用いられ、特に平均重合度が1,500〜5,000のものが好ましく用いられる。また、ケン化度は、70〜100%のものが好ましく、80〜99.5%のものが特に好ましい。
【0076】
アニオン変性ポリビニルアルコールは、例えば、特開平1−206088号公報に記載されているようなアニオン性基を有するポリビニルアルコール、特開昭61−237681号公報および同63−307979号公報に記載されているような、ビニルアルコールと水溶性基を有するビニル化合物との共重合体及び特開平7−285265号公報に記載されているような水溶性基を有する変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0077】
また、ノニオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開平7−9758号公報に記載されているようなポリアルキレンオキサイド基をビニルアルコールの一部に付加したポリビニルアルコール誘導体、特開平8−25795号公報に記載されている疎水性基を有するビニル化合物とビニルアルコールとのブロック共重合体等が挙げられる。ポリビニルアルコールは、重合度や変性の種類違いなど二種類以上を併用することもできる。
【0078】
カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、特開昭61−10483号公報に記載されているような、第一〜三級アミノ基や第四級アンモニウム基を上記ポリビニルアルコールの主鎖または側鎖中に有するポリビニルアルコールであり、カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体と酢酸ビニルとの共重合体をケン化することにより得られる。
【0079】
カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、トリメチル−(2−アクリルアミド−2,2−ジメチルエチル)アンモニウムクロライド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、N−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシルエチルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチル−(2−メタクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、N−(1,1−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド等が挙げられる。カチオン変性ポリビニルアルコールのカチオン変性基含有単量体の比率は、酢酸ビニルに対して0.1〜10モル%、好ましくは0.2〜5モル%である。
【0080】
(ゼラチン)
本発明に適用可能なゼラチンとしては、従来、ハロゲン化銀写真感光材料分野で広く用いられてきた各種ゼラチンを適用することができ、例えば、酸処理ゼラチン、アルカリ処理ゼラチンの他に、ゼラチンの製造過程で酵素処理をする酵素処理ゼラチンおよびゼラチン誘導体、すなわち分子中に官能基としてのアミノ基、イミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基を有し、それと反応して得る基を持った試薬で処理し改質したものでもよい。ゼラチンの一般的製造法に関してはよく知られており、例えば、T.H.James:The Theory of Photographic Process 4th. ed. 1977(Macmillan)55項、科学写真便覧(上)72〜75項(丸善)、写真工学の基礎−銀塩写真編119〜124頁(コロナ社)等の記載を参考にすることができる。また、リサーチ・ディスクロージャー誌第176巻、No.17643(1978年12月)のIX項に記載されているゼラチンを挙げることができる。
【0081】
ゼラチンの硬膜剤
ゼラチンを用いる場合、必要に応じてゼラチンの硬膜剤を添加することもできる。
【0082】
使用できる硬膜剤としては、通常の写真乳剤層の硬膜剤として使用されている公知の化合物を使用でき、例えば、ビニルスルホン化合物、尿素−ホルマリン縮合物、メラニン−ホルマリン縮合物、エポキシ系化合物、アジリジン系化合物、活性オレフィン類、イソシアネート系化合物などの有機硬膜剤、クロム、アルミニウム、ジルコニウムなどの無機多価金属塩類などを挙げることができる。
【0083】
(セルロース類)
本発明で用いることのできるセルロース類としては、水溶性のセルロース誘導体が好ましく用いることができ、例えば、カルボキシメチルセルロース(セルロースカルボキシメチルエーテル)、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース誘導体や、カルボン酸基含有セルロース類であるカルボキシメチルセルロース(セルロースカルボキシメチルエーテル)、カルボキシエチルセルロース等を挙げることができる。その他には、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、酢酸セルロース、セルロース硫酸エステル等のセルロース誘導体を挙げることができる。
【0084】
(増粘多糖類)
本発明で用いることのできる増粘多糖類としては、特に制限はなく、例えば、一般に知られている天然単純多糖類、天然複合多糖類、合成単純多糖類及び合成複合多糖類に挙げることができ、これら多糖類の詳細については、「生化学事典(第2版),東京化学同人出版」、「食品工業」第31巻(1988)21頁等を参照することができる。
【0085】
本発明でいう増粘多糖類とは、糖類の重合体であり分子内に水素結合基を多数有するもので、温度により分子間の水素結合力の違いにより、低温時の粘度と高温時の粘度差が大きな特性を備えた多糖類であり、さらに金属酸化物微粒子を添加すると、低温時にその金属酸化物微粒子との水素結合によると思われる粘度上昇を起こすものであり、その粘度上昇幅は、添加することにより15℃における粘度が1.0mPa・s以上の上昇を生じる多糖類であり、好ましくは5.0mPa・s以上であり、更に好ましくは10.0mPa・s以上の粘度上昇能を備えた多糖類である。
【0086】
本発明に適用可能な増粘多糖類としては、例えば、ガラクタン(例えば、アガロース、アガロペクチン等)、ガラクトマンノグリカン(例えば、ローカストビーンガム、グアラン等)、キシログルカン(例えば、タマリンドガム等)、グルコマンノグリカン(例えば、蒟蒻マンナン、木材由来グルコマンナン、キサンタンガム等)、ガラクトグルコマンノグリカン(例えば、針葉樹材由来グリカン)、アラビノガラクトグリカン(例えば、大豆由来グリカン、微生物由来グリカン等)、グルコラムノグリカン(例えば、ジェランガム等)、グリコサミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸、ケラタン硫酸等)、アルギン酸及びアルギン酸塩、寒天、κ−カラギーナン、λ−カラギーナン、ι−カラギーナン、ファーセレランなどの紅藻類に由来する天然高分子多糖類などが挙げられる。塗布液中に共存する金属酸化物粒子の分散安定性を低下させない観点から、好ましくは、その構成単位がカルボン酸基やスルホン酸基を有しないものが好ましい。その様な増粘多糖類としては、例えば、L−アラビトース、D−リボース、2−デオキシリボース、D−キシロースなどのペントース、D−グルコース、D−フルクトース、D−マンノース、D−ガラクトースなどのヘキソースのみからなる多糖類であることが好ましい。具体的には、主鎖がグルコースであり、側鎖もグルコースであるキシログルカンとして知られるタマリンドシードガムや、主鎖がマンノースで側鎖がグルコースであるガラクトマンナンとして知られるグアーガム、カチオン化グアーガム、ヒドロキシプロピルグアーガム、ローカストビーンガム、タラガムや、主鎖がガラクトースで側鎖がアラビノースであるアラビノガラクタンを好ましく使用することができる。本発明においては、特には、タマリンド、グアーガム、カチオン化グアーガム、ヒドロキシプロピルグアーガムが好ましい。
【0087】
本発明においては、さらには、二種類以上の増粘多糖類を併用することもできる。
【0088】
上記の中でも、第1の水溶性高分子としては、ポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールを用いる場合、ポリビニルアルコールとともに、他の水溶性高分子を併用してもよく、この際、併用する他の水溶性高分子の含有量は、高屈折率層の固形分100質量%に対して、0.5〜10質量%で用いることができる。
【0089】
本発明に係る第1の水溶性高分子の重量平均分子量は、1,000以上200,000以下が好ましく、3,000以上40,000以下がより好ましい。本発明における重量平均分子量は、公知の方法によって測定することができ、例えば、静的光散乱法、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC)、TOFMASSなどによって測定することができ、本発明では一般的な公知の方法であるゲルパーミエーションクロマトグラ法(GPC法)によって測定している。
【0090】
本発明においては、上記の第1の水溶性高分子は、高屈折率層の固形分100質量%に対し、5.0質量%以上、かつ50質量%以下の範囲で含有させることが好ましく、10質量%以上、かつ40質量%以下の範囲で含有させることがより好ましい。但し、第1の水溶性高分子と共に、例えば、エマルジョン樹脂を併用する場合には、3.0質量%以上含有すればよい。水溶性高分子が少ないと、屈折率層を塗工した後の乾燥時に、膜面が乱れて透明性が劣化する傾向が大きくなる。一方、含有量が50質量%以下であれば、相対的な金属酸化物の含有量が適切となり、高屈折率層と低屈折率層の屈折率差を大きくすることが容易になる。
【0091】
「硬化剤」
本発明においては、バインダーである水溶性高分子を硬化させるため、硬化剤を使用することもできる。第1の水溶性高分子と共に用いることのできる硬化剤としては、当該水溶性高分子と硬化反応を起こすものであれば特に制限はない。例えば、第1の水溶性高分子として、ポリビニルアルコールを用いる場合では、硬化剤として、ホウ酸及びその塩が好ましい。ホウ酸及びその塩以外にも公知のものが使用でき、一般的には、ポリビニルアルコールと反応し得る基を有する化合物あるいはポリビニルアルコールが有する異なる基同士の反応を促進するような化合物であり、適宜選択して用いられる。硬化剤の具体例としては、例えば、エポキシ系硬化剤(ジグリシジルエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ジグリシジルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル等)、アルデヒド系硬化剤(ホルムアルデヒド、グリオキザール等)、活性ハロゲン系硬化剤(2,4−ジクロロ−4−ヒドロキシ−1,3,5,−s−トリアジン等)、活性ビニル系化合物(1,3,5−トリスアクリロイル−ヘキサヒドロ−s−トリアジン、ビスビニルスルホニルメチルエーテル等)、アルミニウム明礬、ホウ砂等が挙げられる。
【0092】
ホウ酸またはその塩とは、硼素原子を中心原子とする酸素酸およびその塩のことをいい、具体的には、オルトホウ酸、二ホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸および八ホウ酸およびそれらの塩が挙げられる。
【0093】
硬化剤としてのホウ素原子を有するホウ酸およびその塩は、単独の水溶液でも、また、2種以上を混合して使用しても良い。特に好ましいのはホウ酸とホウ砂の混合水溶液である。
【0094】
ホウ酸とホウ砂との水溶液は、それぞれ比較的希薄水溶液でしか添加することが出来ないが両者を混合することで濃厚な水溶液にすることが出来、塗布液を濃縮化する事が出来る。また、添加する水溶液のpHを比較的自由にコントロールすることが出来る利点がある。
【0095】
本発明では、ホウ酸およびその塩並びにホウ砂の少なくとも一方を用いることが本発明の効果を得るためには好ましい。ホウ酸およびその塩並びにホウ砂の少なくとも一方を用いた場合には、金属酸化物粒子と水溶性高分子であるポリビニルアルコールのOH基と水素結合ネットワークがより形成しやすく、その結果として高屈折率層と低屈折率層との層間混合が抑制され、好ましい近赤外遮蔽特性が達成されると考えられる。特に、高屈折率層と低屈折率層の多層重層をコーターで塗布後、一旦塗膜の膜面温度を15℃程度に冷やした後、膜面を乾燥させるセット系塗布プロセスを用いた場合には、より好ましく効果を発現することができる。
【0096】
高屈折率層における硬化剤の含有量は、高屈折率層の固形分100質量%に対して、1〜10質量%であることが好ましく、2〜6質量%であることがより好ましい。
【0097】
特に、第1の水溶性高分子としてポリビニルアルコールを使用する場合の上記硬化剤の総使用量は、ポリビニルアルコール1g当たり1〜600mgが好ましく、ポリビニルアルコール1g当たり100〜600mgがより好ましい。
【0098】
「界面活性剤」
本発明に係る高屈折率層および後述する低屈折率層には、塗布性の観点から界面活性剤を含有することが好ましい。
【0099】
塗布時の表面張力調整のため用いられる界面活性剤としてアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などを用いることができるが、アニオン系界面活性剤がより好ましい。好ましい化合物としては、1分子中に炭素数8〜30の疎水性基とスルホン酸基又はその塩を含有するものが挙げられる。
【0100】
アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンまたはオレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル又はアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩、アルキルリン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、エーテルカルボキシレート、アルキルスルホコハク酸エステル塩、α−スルホ脂肪酸エステル及び脂肪酸塩よりなる群から選ばれる界面活性剤や、高級脂肪酸とアミノ酸との縮合物、ナフテン酸塩等を用いることができる。好ましく用いられるアニオン性界面活性剤は、アルキルベンゼンスルホン酸塩(とりわけ直鎖アルキルのもの)、アルカン又はオレフィンスルホン酸塩(とりわけ第2級アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩)、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル又はアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩(とりわけポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩)、アルキル燐酸塩(とりわけモノアルキルタイプ)、エーテルカルボキシレート、アルキルスルホコハク酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル及び脂肪酸塩よりなる群から選ばれる界面活性剤であり、特に好ましくは、アルキルスルホコハク酸塩である。
【0101】
高屈折率層における界面活性剤の含有量は、高屈折率層の塗布液の全質量を100質量%として、0.001〜0.03質量%であることが好ましく、0.005〜0.015質量%であることがより好ましい。
【0102】
「添加剤」
本発明に係る高屈折率層および後述する低屈折率層には、必要に応じて各種の添加剤を用いることができる。また、高屈折率層における添加剤の含有量は、高屈折率層の固形分100質量%に対して、0〜20質量%であることが好ましい。当該添加剤の例を以下に記載する。
【0103】
(等電点が6.5以下のアミノ酸)
本発明に係る高屈折率層または低屈折率層は、等電点が6.5以下のアミノ酸を含有していてもよい。アミノ酸を含むことにより、高屈折率層または低屈折率層中の金属酸化物粒子の分散性が向上しうる。
【0104】
ここでアミノ酸とは、同一分子内にアミノ基とカルボキシル基とを有する化合物であり、α−、β−、γ−などいずれのタイプのアミノ酸でもよい。アミノ酸には光学異性体が存在するものもあるが、本発明においては光学異性体による効果の差はなく、いずれの異性体も単独であるいはラセミ体でも使用することができる。
【0105】
アミノ酸の詳しい解説は、化学大辞典1縮刷版(共立出版;昭和35年発行)268頁〜270頁の記載を参照することができる。
【0106】
具体的に好ましいアミノ酸として、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、セリン、等を挙げることができ、特にグリシン、セリンが好ましい。
【0107】
アミノ酸の等電点とは、アミノ酸は特定のpHにおいて分子内の正・負電荷が釣り合い、全体としての電荷が0となるので、このpH値をいう。各アミノ酸の等電点については、低イオン強度での等電点電気泳動で求めることが出来る。
【0108】
(エマルジョン樹脂)
本発明に係る高屈折率層または低屈折率層は、エマルジョン樹脂をさらに含有していてもよい。エマルジョン樹脂を含むことにより、膜の柔軟性が高くなりガラスへの貼りつけ等の加工性がよくなる。
【0109】
エマルジョン樹脂とは、水系媒体中に微細な、例えば、平均粒径が0.01〜2.0μm程度の樹脂粒子がエマルジョン状態で分散されている樹脂で、油溶性のモノマーを、水酸基を有する高分子分散剤を用いてエマルジョン重合して得られる。用いる分散剤の種類によって、得られるエマルジョン樹脂のポリマー成分に基本的な違いは見られない。エマルジョンの重合時に使用される分散剤としては、例えば、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジエチルアミン、エチレンジアミン、4級アンモニウム塩のような低分子の分散剤の他に、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエキシエチレンラウリル酸エーテル、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドンのような高分子分散剤が挙げられる。水酸基を有する高分子分散剤を用いてエマルジョン重合すると、微細な微粒子の少なくとも表面に水酸基の存在が推定され、他の分散剤を用いて重合したエマルジョン樹脂とはエマルジョンの化学的、物理的性質が異なる。
【0110】
水酸基を含む高分子分散剤とは、重量平均分子量が10000以上の高分子の分散剤で、側鎖または末端に水酸基が置換されたものであり、例えばポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミドのようなアクリル系の高分子で2−エチルヘキシルアクリレートが共重合されたもの、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールのようなポリエーテル、ポリビニルアルコールなどが挙げられ、特にポリビニルアルコールが好ましい。
【0111】
高分子分散剤として使用されるポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコールの他に、カチオン変性したポリビニルアルコールやカルボキシル基のようなアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール、シリル基を有するシリル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールも含まれる。ポリビニルアルコールは、平均重合度は高い方がインク吸収層を形成する際のクラックの発生を抑制する効果が大きいが、平均重合度が5000以内であると、エマルジョン樹脂の粘度が高くなく、製造時に取り扱いやすい。したがって、平均重合度は300〜5000のものが好ましく、1500〜5000のものがより好ましく、3000〜4500のものが特に好ましい。ポリビニルアルコールのケン化度は70〜100モル%のものが好ましく、80〜99.5モル%のものがより好ましい。
【0112】
上記の高分子分散剤で乳化重合される樹脂としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニル系化合物、スチレン系化合物といったエチレン系単量体、ブタジエン、イソプレンといったジエン系化合物の単独重合体または共重合体が挙げられ、例えばアクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂等が挙げられる。
【0113】
その他にも、本発明に係る高屈折率層または後述する低屈折率層には、例えば、特開昭57−74193号公報、同57−87988号公報及び同62−261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号公報、同57−87989号公報、同60−72785号公報、同61−146591号公報、特開平1−95091号公報および同3−13376号公報等に記載されている退色防止剤、アニオン、カチオンまたはノニオンの各種界面活性剤、特開昭59−42993号公報、同59−52689号公報、同62−280069号公報、同61−242871号公報および特開平4−219266号公報等に記載されている蛍光増白剤、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、帯電防止剤、マット剤等の公知の各種添加剤を含有していてもよい。
【0114】
以上のように、本発明は、含ケイ素の水和酸化物で被覆された酸化チタン粒子を高屈折率層に含有させることにより、含ケイ素の水和酸化物と第1の水溶性高分子との相互作用が働き高屈折率層と低屈折率層との層間混合が抑制され、また、酸化チタン粒子の光触媒活性によるバインダーの劣化やチョーキングなどの問題を防ぐことができる。したがって、本発明の近赤外遮蔽フィルムは、耐久性や膜柔軟性に優れ、可視光透過率が高く、近赤外遮蔽性に優れたものとなる
<低屈折率層>
本発明に係る低屈折率層は、第2の水溶性高分子および第2の金属酸化物粒子を必須成分として含み、必要により硬化剤、界面活性剤、および各種添加剤からなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0115】
本発明に係る低屈折率層の屈折率は、好ましくは1.10〜1.60であり、より好ましくは1.30〜1.50である。
【0116】
本発明に係る低屈折率層の1層あたりの厚みは、20〜800nmであることが好ましく、50〜350nmであることがより好ましい。
【0117】
「第2の金属酸化物粒子」
本発明に係る第2の金属酸化物粒子としては、シリカ(二酸化ケイ素)を用いることが好ましく、具体的な例として合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。これらのうち、酸性のコロイダルシリカゾルを用いることがより好ましく、有機溶媒に分散させたコロイダルシリカゾルを用いることがさらに好ましい。また、屈折率をより低減させるためには、第2の金属酸化物微粒子として、粒子の内部に空孔を有する中空微粒子を用いることができ、特にシリカ(二酸化ケイ素)の中空微粒子が好ましい。また、シリカ以外の公知の金属酸化物粒子も使用することができる。
【0118】
本発明において、第2の金属酸化物粒子(好ましくは二酸化ケイ素)は、その一次平均粒径が3〜100nmであることが好ましい。一次粒子の状態で分散された二酸化ケイ素の一次粒子の平均粒径(塗布前の分散液状態での一次平均粒径)は、3〜50nmであるのがより好ましく、3〜40nmであるのがさらに好ましく、3〜20nmであるのが特に好ましく、4〜10nmであるのがもっとも好ましい。また、二次粒子の平均粒径としては、30nm以下であることが、ヘイズが少なく可視光透過性に優れる観点で好ましい。
【0119】
本発明において、第2の金属酸化物粒子の一次平均粒径は、粒子そのものあるいは屈折率層の断面や表面に現れた粒子を電子顕微鏡で観察し、1,000個の任意の粒子の粒径を測定し、その単純平均値(個数平均)として求められる。ここで個々の粒子の粒径は、その投影面積に等しい円を仮定したときの直径で表したものである。
【0120】
また、本発明において、第2の金属酸化物粒子の粒径は、一次平均粒径の他に、体積平均粒径により求めることもできる。なお、体積平均粒径の測定方法は前述の第1の金属酸化物粒子の場合と同様である。
【0121】
本発明で用いられるコロイダルシリカは、珪酸ナトリウムの酸等による複分解やイオン交換樹脂層を通過させて得られるシリカゾルを加熱熟成して得られるものであり、たとえば、特開昭57−14091号公報、特開昭60−219083号公報、特開昭60−219084号公報、特開昭61−20792号公報、特開昭61−188183号公報、特開昭63−17807号公報、特開平4−93284号公報、特開平5−278324号公報、特開平6−92011号公報、特開平6−183134号公報、特開平6−297830号公報、特開平7−81214号公報、特開平7−101142号公報、特開平7−179029号公報、特開平7−137431号公報、および国際公開第94/26530号などに記載されているものである。
【0122】
かようなコロイダルシリカは合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。コロイダルシリカは、その表面をカチオン変性されたものであってもよく、また、Al、Ca、MgまたはBa等で処理された物であってもよい。
【0123】
本発明では第2の金属酸化物粒子として、中空粒子を用いることもできる。中空微粒子を用いる場合には、平均粒子空孔径が、3〜70nmであるのが好ましく、5〜50nmがより好ましく、5〜45nmがさらに好ましい。なお、中空微粒子の平均粒子空孔径とは、中空微粒子の内径の平均値である。本発明において、中空微粒子の平均粒子空孔径は、上記範囲であれば、十分に低屈折率層の屈折率が低屈折率化される。平均粒子空孔径は、電子顕微鏡観察で、円形、楕円形または実質的に円形は楕円形として観察できる空孔径を、ランダムに50個以上観察し、各粒子の空孔径を求め、その数平均値を求めることにより得られる。なお、本明細書中、平均粒子空孔径としては、円形、楕円形または実質的に円形もしくは楕円形として観察できる空孔径の外縁を、2本の平行線で挟んだ距離のうち、最小の距離を意味する。
【0124】
低屈折率層における第2の金属酸化物粒子の含有量は、低屈折率層の固形分100質量%に対して、0.1〜70質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましく、45〜65質量%であることがさらに好ましい。
【0125】
「第2の水溶性高分子」
本発明に係る第2の水溶性高分子の具体例、好ましい重量平均分子量等は、上記の第1の水溶性高分子の欄で説明した内容と同様であるので、ここでは説明を省略する。本発明に係る第2の水溶性高分子として、ポリビニルアルコールが好ましく用いられ、さらに、第1の水溶性高分子として好ましく用いられるポリビニルアルコールと異なる種類のポリビニルアルコールがより好ましく用いられる。ここで、第1の水溶性高分子とは異なる種類のポリビニルアルコールとは、変性の種類、ケン化度、重合度、および重量平均分子量からなる群より選択される少なくとも1つが、第1の水溶性高分子として用いられるポリビニルアルコールとは異なるものをいう。
【0126】
本発明に係る低屈折率層において、第2の水溶性高分子として好ましく用いられるポリビニルアルコールとともに、他の水溶性高分子を併用してもよく、この際、併用する他の高分子の含有量は、低屈折率層の固形分100質量%に対して、0.5〜10質量%で用いることができる。
【0127】
本発明に係る低屈折率層における第2の水溶性高分子の含有量は、低屈折率層の固形分100質量%に対して、30〜99.9質量%であることが好ましく、35〜55質量%であることがより好ましい。
【0128】
低屈折率層において、第2の水溶性高分子として好ましく用いられるポリビニルアルコールとともに、併用する他の水溶性高分子の含有量は、低屈折率層の固形分100質量%に対して、0.5〜10質量%で用いることができる。
【0129】
「硬化剤」
本発明に係る低屈折率層において、前記高屈折率層と同様に、硬化剤をさらに含むことができる。低屈折率層に係る第2の水溶性高分子と硬化反応を起こすものであれば、特に制限されない。特に、第2の水溶性高分子としてポリビニルアルコールを用いた場合の硬化剤としては、ホウ酸およびその塩ならびにホウ砂の少なくとも一方が好ましい。また、これら以外にも公知のものが使用できる。
【0130】
低屈折率層における硬化剤の含有量は、低屈折率層の固形分100質量%に対して、1〜10質量%であることが好ましく、2〜6質量%であることがより好ましい。
【0131】
特に、第2の水溶性高分子としてポリビニルアルコールを使用する場合の上記硬化剤の総使用量は、ポリビニルアルコール1g当たり1〜600mgが好ましく、ポリビニルアルコール1g当たり100〜600mgがより好ましい。
【0132】
硬化剤の具体例などは、上述した高屈折率層と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0133】
「界面活性剤」
本発明に係る低屈折率層にも、塗布性の観点から界面活性剤を含有することが好ましい。特に、アニオン性界面活性剤を含有することが好ましい。本発明に係る界面活性剤としては、上記の高屈折率層に含有するものと同一のものを使用することができるので、ここでは説明を省略する。
【0134】
低屈折率層における界面活性剤の含有量は、低屈折率層の塗布液の全量を100質量%として、0.001〜0.03質量%であることが好ましく、0.005〜0.02質量%であることがより好ましい。
【0135】
「添加剤」
本発明に係る低屈折率層には、必要に応じて各種添加剤を用いることができ、当該低屈折率層における各種添加物は、上記の高屈折率層に使用した添加物と同一のものを使用することができるので、ここでは説明を省略する。
【0136】
<基材>
本発明に係る赤外遮蔽フィルムの支持体である基材の厚みは、5〜200μmであることが好ましく、より好ましくは15〜150μmである。また、本発明に係る基材は、2枚を重ねたものであっても良く、この場合、その種類が同じでも異なってもよい。
【0137】
本発明の赤外遮蔽フィルムに適用する基材としては、透明であれば特に制限されることはなく、種々の樹脂フィルムを用いることができ、ポリオレフィンフィルム(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステルフィルム(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリ塩化ビニル、3酢酸セルロース等を用いることができ、好ましくはポリエステルフィルムである。ポリエステルフィルム(以降ポリエステルと称す)としては、特に限定されるものではないが、ジカルボン酸成分とジオール成分を主要な構成成分とするフィルム形成性を有するポリエステルであることが好ましい。主要な構成成分のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを挙げることができる。また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールフルオレンジヒドロキシエチルエーテル、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。これらを主要な構成成分とするポリエステルの中でも透明性、機械的強度、寸法安定性などの点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸や2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジオール成分として、エチレングリコールや1,4−シクロヘキサンジメタノールを主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートを主要な構成成分とするポリエステルや、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールからなる共重合ポリエステル、およびこれらのポリエステルの二種以上の混合物を主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。
【0138】
また、基材は、JIS R3106−1998で示される可視光領域の透過率としては85%以上であることが好ましく、特に90%以上であることが好ましい。基材が上記透過率以上であることにより、近赤外遮蔽フィルムとしたときのJIS R3106−1998で示される可視光領域の透過率を50%以上にするという点で有利であり、好ましい。
【0139】
また、上記樹脂等を用いた基材は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。強度向上、熱膨張抑制の点から延伸フィルムが好ましい。
【0140】
基材は、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を押し出し機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の基材を製造することができる。また、未延伸の基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、基材の流れ(縦軸)方向、または基材の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸基材を製造することができる。この場合の延伸倍率は、基材の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向及び横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
【0141】
また、基材は、寸法安定性の点で弛緩処理、オフライン熱処理を行ってもよい。弛緩処理は前記ポリエステルフィルムの延伸製膜工程中の熱固定した後、横延伸のテンター内、またはテンターを出た後の巻き取りまでの工程で行われるのが好ましい。弛緩処理は処理温度が80〜200℃で行われることが好ましく、より好ましくは処理温度が100〜180℃である。また長手方向、幅手方向ともに、弛緩率が0.1〜10%の範囲で行われることが好ましく、より好ましくは弛緩率が2〜6%で処理されることである。弛緩処理された基材は、下記のオフライン熱処理を施すことにより耐熱性が向上し、さらに、寸法安定性が良好になる。
【0142】
基材は、製膜過程で片面または両面にインラインで下引層塗布液を塗布することが好ましい。本発明においては、製膜工程中での下引塗布をインライン下引という。本発明に有用な下引層塗布液に使用する樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンイミンビニリデン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、変性ポリビニルアルコール樹脂及びゼラチン等が挙げられ、いずれも好ましく用いることができる。これらの下引層には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記の下引層は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法によりコーティングすることができる。上記の下引層の塗布量としては、0.01〜2g/m(乾燥状態)程度が好ましい。
【0143】
{近赤外遮蔽フィルムの製造方法}
本発明の近赤外遮蔽フィルムの製造方法について特に制限はなく、基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを少なくとも1つ形成することができるのであれば、いかなる方法でも用いられうる。
【0144】
本発明の近赤外遮蔽フィルムの製造方法では、基材上に、高屈折率層と低屈折率層とから構成されるユニットを積層して形成されるが、具体的には高屈折率層と低屈折率層とを同時重層塗布を行い、乾燥して積層体を形成することが好ましい。より詳細には、
基材上に、高屈折率層塗布液と、低屈折率層塗布液とを同時重層塗布し、乾燥して、高屈折率層、および低屈折率層を含む近赤外遮蔽フィルムを形成する方法が好ましい。
【0145】
塗布方式としては、例えば、カーテン塗布方法、米国特許第2,761,419号、同第2,761,791号公報に記載のホッパーを使用するスライドビード塗布方法、エクストルージョンコート法等が好ましく用いられる。
【0146】
高屈折率層塗布液および低屈折率層塗布液を調製するための溶媒は、特に制限されないが、水、有機溶媒、またはその混合溶媒が好ましい。また、有機溶媒の飛散による環境面を考慮すると、水、または水と少量の有機溶媒との混合溶媒がより好ましく、水が特に好ましい。
【0147】
前記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどのアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル類、ジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類などが挙げられる。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。環境面、操作の簡便性などから、塗布液の溶媒としては、特に水、または水とメタノール、エタノール、もしくは酢酸エチルとの混合溶媒が好ましく、水がより好ましい。
【0148】
水と少量の有機溶媒との混合溶媒を用いる際、当該混合溶媒中の水の含有量は、混合溶媒全体を100質量%として、80〜99.9質量%であることが好ましく、90〜99.5質量%であることがより好ましい。ここで、80質量%以上にすることで、溶媒の揮発による体積変動が低減でき、ハンドリングが向上し、また、99.9質量%以下にすることで、液添加時の均質性が増し、安定した液物性を得ることができるからである。
【0149】
高屈折率層塗布液中の第1の水溶性高分子の濃度は、1〜10質量%であることが好ましい。また、高屈折率層塗布液中の第1の金属酸化物粒子の濃度は、1〜50質量%であることが好ましい。
【0150】
低屈折率層塗布液中の第2の水溶性高分子の濃度は、1〜10質量%であることが好ましい。また、低屈折率層塗布液中の第2の金属酸化物粒子の濃度は、1〜50質量%であることが好ましい。
【0151】
高屈折率層塗布液および低屈折率層塗布液の調製方法は、特に制限されず、例えば、金属酸化物粒子、水溶性高分子、および必要に応じて添加されるその他の添加剤を添加し、攪拌混合する方法が挙げられる。この際、各成分の添加順も特に制限されず、攪拌しながら各成分を順次添加し混合してもよいし、攪拌しながら一度に添加し混合してもよい。必要に応じて、さらに溶媒を用いて、適当な粘度に調製される。
【0152】
本発明においては、第1の金属酸化物粒子を添加、分散して調製した水系の高屈折率層塗布液を用いて、高屈折率層を形成することが好ましい。このとき、本発明の第1の金属酸化物粒子としては、pHが5.0以上、7.5以下で、かつ粒子のゼータ電位が負であるゾルとして、高屈折率層塗布液に添加して調製することが好ましい。
【0153】
同時重層塗布を行う際の高屈折率層塗布液および低屈折率層塗布液の温度は、スライドビード塗布方式を用いる場合は、25〜60℃の温度範囲が好ましく、30〜45℃の温度範囲がより好ましい。また、カーテン塗布方式を用いる場合は、25〜60℃の温度範囲が好ましく、30〜45℃の温度範囲がより好ましい。
【0154】
同時重層塗布を行う際の高屈折率層塗布液および低屈折率層塗布液の粘度は、特に制限されない。しかしながら、スライドビード塗布方式を用いる場合には、上記の塗布液の好ましい温度の範囲において、5〜100mPa・sの範囲であることが好ましく、10〜50mPa・sの範囲であることがより好ましい。また、カーテン塗布方式を用いる場合には、上記の塗布液の好ましい温度の範囲において、5〜1200mPa・sの範囲であることが好ましく、25〜500mPa・sの範囲であることがより好ましい。このような粘度の範囲であれば、効率よく同時重層塗布を行うことができる。
【0155】
また、塗布液の15℃における粘度としては、100mPa・s以上が好ましく、100〜30,000mPa・sがより好ましく、さらに好ましくは3,000〜30,000mPa・sであり、最も好ましいのは10,000〜30,000mPa・sである。
【0156】
塗布および乾燥方法としては、高屈折率層塗布液および低屈折率層塗布液を30℃以上に加温して、塗布を行った後、形成した塗膜の温度を1〜15℃に一旦冷却し、10℃以上で乾燥することが好ましく、より好ましくは、乾燥条件として、湿球温度5〜50℃、膜面温度10〜50℃の範囲の条件で行うことである。また、塗布直後の冷却方式としては、形成された塗膜均一性の観点から、水平セット方式で行うことが好ましい。
【0157】
本発明の近赤外遮蔽フィルムは、基材の下または基材と反対側の最表面層の上に、さらなる機能の付加を目的として、導電性層、帯電防止層、ガスバリア層、易接着層(接着層)、防汚層、消臭層、流滴層、易滑層、ハードコート層、耐摩耗性層、反射防止層、電磁波シールド層、紫外線吸収層、赤外線吸収層、印刷層、蛍光発光層、ホログラム層、剥離層、粘着層、接着層、本発明の高屈折率層および低屈折率層以外の赤外線カット層(金属層、液晶層)、着色層(可視光線吸収層)、合わせガラスに利用される中間膜層などの機能層の1つ以上を有していてもよい。
【0158】
本発明において、赤外遮蔽体に用いられる近赤外遮蔽フィルムは、上述の各種の機能層を有する際の積層順としては、特に制限されない。
【0159】
例えば、窓ガラスの室内側に本発明の近赤外遮蔽フィルムを貼る(内貼り)仕様では、基材表面に、光学干渉膜、粘着層の順に積層し、さらにこれらの層が積層されている側とは逆の側の基材表面にハードコート層を塗設する形態が好ましい一例として挙げられる。また、粘着層、基材、光学干渉膜、ハードコート層の順であってもよく、さらに他の機能層、基材、または赤外吸収剤などを有していてもよい。また、窓ガラスの室外側に本発明の近赤外遮蔽フィルムを貼る(外貼り)仕様でも好ましい一例を挙げると、基材表面に光学干渉膜、粘着層の順に積層し、さらにこれらの層が積層されている側とは逆の側の基材表面にハードコート層が塗設する構成である。内貼りの場合と同様に、粘着層、基材、光学干渉膜、ハードコート層の順であってもよく、さらに他の機能層基材、または赤外吸収剤などを有していてもよい。
【0160】
{近赤外遮蔽体}
本発明の赤外遮蔽により提供される近赤外遮蔽フィルムは、幅広い分野に応用することができる。例えば、建物の屋外の窓や自動車窓等長期間太陽光に晒らされる設備(基体)に貼り合せ、近赤外遮蔽効果を付与する近赤外遮蔽フィルム等の窓貼用フィルム、農業用ビニールハウス用フィルム等として、主として耐候性を高める目的で用いられる。特に、本発明に係る近赤外遮蔽フィルムが直接または接着剤を介してガラスまたはガラス代替の樹脂などの基体に貼合されている部材に好適である。
【0161】
すなわち、本発明の第二は、本発明に係る近赤外遮蔽フィルムを、基体の少なくとも一方の面に設けてなる近赤外遮蔽体である。
【0162】
前記基体の具体的な例としては、例えば、ガラス、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスルフィド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、金属板、セラミック等が挙げられる。樹脂の種類は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂のいずれでも良く、これらを2種以上組み合わせて用いても良い。本発明で使用されうる基体は、押出成形、カレンダー成形、射出成形、中空成形、圧縮成形等、公知の方法で製造することができる。基体の厚みは特に制限されないが、通常0.1mm〜5cmである。
【0163】
近赤外遮蔽フィルムと基体とを貼り合わせる接着層または粘着層は、近赤外遮蔽フィルムを日光(熱線)入射面側に設置することが好ましい。また、本発明に係る近赤外遮蔽フィルムを、窓ガラスと基体との間に挟持すると、水分等の周囲のガスから封止でき耐久性に優れるため好ましい。本発明に係る近赤外遮蔽フィルムを屋外や車の外側(外貼り用)に設置しても環境耐久性があって好ましい。
【0164】
近赤外遮蔽フィルムと基体とを貼り合わせる接着剤としては、光硬化性もしくは熱硬化性の樹脂を主成分とする接着剤を用いることができる。
【0165】
接着剤は紫外線に対して耐久性を有するものが好ましく、アクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤が好ましい。更に粘着特性やコストの観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。特に剥離強さの制御が容易なことから、アクリル系粘着剤において、溶剤系が好ましい。アクリル溶剤系粘着剤として溶液重合ポリマーを使用する場合、そのモノマーとしては公知のものを使用できる。
【0166】
また、合わせガラスの中間層として用いられるポリビニルブチラール系樹脂、あるいはエチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂を用いてもよい。具体的には可塑性ポリビニルブチラール(積水化学工業社製、三菱モンサント社製等)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(デュポン社製、武田薬品工業社製、デュラミン)、変性エチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー社製、メルセンG)等である。なお、接着層には紫外線吸収剤、抗酸化剤、帯電防止剤、熱安定剤、滑剤、充填剤、着色、接着調整剤等を適宜添加配合してもよい。
【0167】
近赤外遮蔽フィルムまたは近赤外遮蔽体の断熱性能、日射熱遮へい性能は、一般的にJIS R3209−1998(複層ガラス)、JIS R 3106−1998(板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法)、JIS R3107−1998(板ガラス類の熱抵抗および建築における熱貫流率の算定方法)に準拠した方法により求めることができる。
【0168】
日射透過率、日射反射率、放射率、可視光透過率の測定は、(1)波長(300〜2500nm)の分光測光器を用い、各種単板ガラスの分光透過率、分光反射率を測定する。また、波長5.5〜50μmの分光測定器を用いて放射率を測定する。なお、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、熱線吸収板ガラスの放射率は既定値を用いる。(2)日射透過率、日射反射率、日射吸収率、修正放射率の算出は、JIS R3106−1998に従い、日射透過率、日射反射率、日射吸収率、垂直放射率を算出する。修正放射率に関しては、JIS R3107−1998に示されている係数を、垂直放射率に乗ずることにより求める。断熱性、日射熱遮へい性の算出は、(1)厚さの測定値、修正放射率を用いJIS R3209−1998に従って複層ガラスの熱抵抗を算出する。ただし中空層が2mmを超える場合はJIS R3107−1998に従って中空層の気体熱コンダクタンスを求める。(2)断熱性は、複層ガラスの熱抵抗に熱伝達抵抗を加えて熱貫流抵抗で求める。(3)日射熱遮蔽性はJIS R3106−1998により日射熱取得率を求め、1から差し引いて算出する。
【実施例】
【0169】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」または「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」または「質量%」を表す。
【0170】
{近赤外遮蔽フィルムの作製}
実施例1
「高屈折率層用塗布液H1の調製」
(第1の金属酸化物粒子に用いられるルチル型酸化チタンの調製)
水中に、二酸化チタン水和物を懸濁させ、TiOに換算した時の濃度が100g/Lになるように、二酸化チタンの水性懸濁液を調製した。10L(リットル)の該懸濁液に、30Lの水酸化ナトリウム水溶液(濃度10モル/L)を撹拌しながら加えた後、90℃に加熱し、5時間熟成させた。次いで、塩酸を用いて中和し、濾過後水を用いて洗浄した。
【0171】
なお、上記反応(処理)において、原料である二酸化チタン水和物は、公知の手法に従い、硫酸チタン水溶液を熱加水分解処理によって得られたものである。
【0172】
純水中に、上記塩基処理した二酸化チタン水和物をTiOに換算した時の濃度が20g/Lになるように、懸濁させた。その中に、TiO量に対し0.4モル%のクエン酸を撹拌しながら加えた。その後、加熱し、混合ゾル液の温度が95℃になるところで、塩酸濃度が30g/Lになるように濃塩酸を加えた、液温を95℃に維持しながら、3時間撹拌させ、酸化チタンゾル液を調製した。
【0173】
上記のように、得られた酸化チタンゾル液のpHおよびゼータ電位を測定したところ、pHは1.4であり、ゼータ電位は+40mVであった。また、マルバーン社製ゼータサイザーナノにより粒径測定を行ったところ、単分散度は16%であった。
【0174】
さらに、酸化チタンゾル液を105℃で3時間乾燥させ、酸化チタンの粉体微粒子を得た。そして、純水4kgに、得られたルチル型の酸化チタン微粒子を含む20.0質量%の酸化チタンゾル水系分散液4kgを添加して、10.0質量%の酸化チタンゾル水系分散液を得た。
【0175】
(含ケイ素水和酸化物被覆による第1の金属酸化物粒子の調製)
2kgの純水に、10.0質量%の酸化チタンゾル水系分散液0.5kgを加え、90℃に加熱した。次いで、SiOに換算した時の濃度が2.0質量%であるように調製したケイ酸水溶液1.3kgを徐々に添加し、オートクレーブ中、175℃で18時間加熱処理を行い、さらに濃縮して、SiOで被覆されたルチル型構造を有する酸化チタン粒子第1の金属酸化物粒子を含むゾル液(固形分濃度20質量%)を得た。その一次平均粒径は、透過電子顕微鏡による観察法によって測定し、6.2nmであった。なお、以下の全ての実施例および比較例におけるそれぞれの一次平均粒径も同様な方法にて測定を行った。
【0176】
上記で得られた第1の金属酸化物粒子のゾル液の一部を105℃で3時間乾燥させ、含ケイ素水和酸化物被覆された第1の金属酸化物の粉体微粒子が得られ、日本電子データム社製JDX−3530型を用いて、該粉体微粒子をX線回折測定し、体積平均粒径は10nmであった。なお、以下の実施例および比較例において、必要に応じて、上記で使用されるケイ酸水溶液の量とオートクレープ中の加熱時間を調節することにより、体積平均粒径が異なる第1の金属酸化物粒子を得ることができる。また、下記で説明する含ケイ素水和酸化物の被覆量を一定にさせたい場合において、体積平均粒径が異なる粒子を得るためには、オートクレープの加熱時間のみを調節してもよい。なお、該当する体積平均粒径は、上記の方法と同様にして測定した。
【0177】
また、以下全ての実施例および比較例において、一次平均粒径は、透過電子顕微鏡による観察法によって測定した。ここで得られた第1の金属酸化物粒子の一次平均粒径は、6.2nmであった。
【0178】
また、ここで得られた第1の金属酸化物粒子において、酸化チタン粒子に対する含ケイ素の水和酸化物の被覆量は、SiOとしての被覆量は5質量%であった。また、以下の各実施例において、使用されるケイ酸水溶液の量を変化させ、含ケイ素水和酸化物による被覆量の調節を行った。
【0179】
前記含ケイ素水和酸化物による被覆量の測定方法は、以下の通りである。塗布後に得られた塗膜の断面切片を作製し、塗膜の厚さ方向におけるTiおよびSiの元素分布(プロファイル)を、公知のエネルギー分散型X線分光法(EDX;Energy−dispersive X−ray analysis)を用いた(半)定量分析により求め、このSi,Ti元素比をSiO、TiOの重量比に変換して、当該被覆量を求めた。
【0180】
上記で得られた固形分濃度20.0質量%の第1の金属酸化物粒子を含むゾル液28.9部と、1.92質量%のクエン酸水溶液10.5部と、10質量%のポリビニルアルコール(PVA103、クラレ社製、平均重合度300)水溶液2.0部と、3質量%のホウ酸水溶液9.0部を混合して、第1の金属酸化物粒子の分散液H1を調製した。
【0181】
次いで、上記で得られた第1の金属酸化物粒子の分散液H1を撹拌しながら、純水16.3部、および第1の水溶性高分子として5.0質量%のポリビニルアルコール(PVA217、クラレ社製、平均重合度1700)水溶液33.5部を加えた。更に、1質量%のアニオン性界面活性剤(日油製ラピゾールA30)水溶液0.5部を添加し、純水を用いて全体として1000部の高屈折率層用塗布液H1を調製した。
【0182】
「低屈折率層用塗布液L1の調製」
まず、10質量%のコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテックスOXS)水溶液680部と、4.0質量%のポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA103:平均重合度300)水溶液30部と、3.0質量%のホウ酸水溶液150部とを混合し、分散した。純水を加え、全体として1000部のコロイダルシリカ分散液L1を調製した。
【0183】
次いで、上記で得られた分散液L1を45℃に加熱し、その中に第2の水溶性高分子として、4.0質量%のポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA235:平均重合度3500)水溶液605部および4.0質量%のポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、JP45:平均重合度4500)水溶液155部を順次に、撹拌しながら添加した。その後、1質量%のアニオン性界面活性剤(日油製ラピゾールA30)水溶液40部を添加し、低屈折率層用塗布液L1を調製した。
【0184】
「試料1の作製」
9層重層塗布可能なスライドホッパー塗布装置を用い、前記の低屈折率層用塗布液L1及び高屈折率層用塗布液H1を45℃に保温しながら、45℃に加温した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡製A4300、両面易接着層)上に、高屈折率層と低屈折率層とのそれぞれの乾燥時の膜厚が130nmになるように、かつ低屈折率層5層、高屈折率層4層をそれぞれ交互に積層されるように、計9層の同時重層塗布を行った。
【0185】
塗布直後、5℃の冷風を吹き付けてセットさせた。このとき、表面を指でふれても指に何もつかなくなるまでの時間(セット時間)は5分であった。
【0186】
セット完了後、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、9層からなる重層塗布品を作製した。
【0187】
なお、以下の実施例において、必要に応じて、9層同時塗布可能なスライドホッパー塗布装置の他、21層、23層、または25層の同時塗布可能なスライドホッパー塗布装置を用いて、層構成の異なる重層塗布品を作製し得る。
【0188】
上記9層重層塗布品の上に、さらに9層重層塗布を2回行い、計27層からなる試料1を作製した。
【0189】
実施例2
「高屈折率層用塗布液H2の調製」
酸化チタン粒子に対する含ケイ素の水和酸化物の被覆量を、SiOとしての被覆量が8質量%となるように第1の金属酸化物粒子(一次平均粒径:6.7nm)を調製して用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H2を調製した。
【0190】
「試料2の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H2を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料2を作製した。
【0191】
実施例3
「高屈折率層用塗布液H3の調製」
酸化チタン粒子に対する含ケイ素の水和酸化物の被覆量を、SiOとしての被覆量が10質量%となるように第1の金属酸化物粒子(一次平均粒径:6.9nm)を調製して用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H3を調製した。
【0192】
「試料3の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H3を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料3を作製した。
【0193】
実施例4
「高屈折率層用塗布液H4の調製」
酸化チタン粒子に対する含ケイ素の水和酸化物の被覆量を、SiOとしての被覆量が18質量%となるように第1の金属酸化物粒子(一次平均粒径:7.1nm)を調製して用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H4を調製した。
【0194】
「試料4の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H4を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料4を作製した。
【0195】
実施例5
「高屈折率層用塗布液H5の調製」
酸化チタン粒子に対する含ケイ素の水和酸化物の被覆量を、SiOとしての被覆量が25質量%となるように第1の金属酸化物粒子(一次平均粒径:7.8nm)を調製して用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H5を調製した。
【0196】
「試料5の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H5を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料5を作製した。
【0197】
実施例6
「高屈折率層用塗布液H6の調製」
体積平均粒径が25nmとなるように第1の金属酸化物粒子(一次平均粒径:6.3nm)を調製して用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H6を調製した。
【0198】
「試料6の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H6を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料6を作製した。
【0199】
実施例7
「高屈折率層用塗布液H7の調製」
酸化チタン粒子の体積平均粒径が30nmとなるように第1の金属酸化物粒子(一次平均粒径:6.2nm)を調製して用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H7を調製した。
【0200】
「試料7の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H7を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料7を作製した。
【0201】
実施例8
「高屈折率層用塗布液H8の調製」
第1の水溶性高分子として、ポリビニルアルコールPVA217の代わりにポリビニルアルコールPVA224(クラレ社製)を用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H8を調製した。なお、調製された第1の金属酸化物粒子の一次平均粒径が6.3nmであった。
【0202】
「試料8の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H8を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料8を作製した。
【0203】
実施例9
「高屈折率層用塗布液H9の調製」
第1の水溶性高分子として、ポリビニルアルコールPVA217の代わりにポリビニルアルコールPVA235(クラレ社製)を用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H9を調製した。
【0204】
「試料9の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H9を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料9を作製した。
【0205】
実施例10
「高屈折率層用塗布液H10の調製」
まず、特開平11−335121号公報に記載の塩酸を加えた水熱処理によりアナターゼ型の酸化チタン粒子を調製し、第1の金属酸化物粒子を調製する際にルチル型の酸化チタン粒子の代わりにアナターゼ型の酸化チタン粒子を用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H10を調製した。
【0206】
「試料10の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H10を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料10を作製した。
【0207】
実施例11
「高屈折率層用塗布液H11の調製」
第1の水溶性高分子として、ポリビニルアルコール(PVA217)の代わりにゼラチン(A−U、ゼライス株式会社製)を用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H11を調製した。
【0208】
「試料11の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H11を用い、および25層の同時重層塗布を行ったこと以外は、試料1と同様にして、試料11を作製した。
【0209】
実施例12
「高屈折率層用塗布液H12の調製」
第1の水溶性高分子として、ポリビニルアルコール(PVA217)の代わりにヒドロキシエチルセルロース(SP200、ダイセルファインケム株式会社製)を用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H12を調製した。なお、調製された第1の金属酸化物粒子の一次平均粒径が6.1nmであった。
【0210】
「試料12の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H12を用い、および23層の同時重層塗布を行ったこと以外は、試料1と同様にして、試料12を作製した。
【0211】
実施例13
「高屈折率層用塗布液H13の調製」
第1の水溶性高分子として、ポリビニルアルコール(PVA217)の代わりにローカストビーンガム(RL−700−J、三晶株式会社製)を用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H13を調製した。
【0212】
「試料13の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H13を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料13を作製した。
【0213】
実施例14
「高屈折率層用塗布液H14の調製」
ホウ酸水溶液を添加していないこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H14を調製した。なお、調製された第1の金属酸化物粒子の一次平均粒径が6.1nmであった。
【0214】
「低屈折率層用塗布液L2の調製」
ホウ酸水溶液を添加していないこと以外は、低屈折率層用塗布液L1と同様にして、低屈折率層用塗布液L2を調製した。
【0215】
「試料14の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H14を用い、および低屈折率層用塗布液L1の代わりに低屈折率層用塗布液L2を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料14を作製した。
【0216】
実施例15
「高屈折率層用塗布液H15の調製」
固形分濃度20.0質量%の第1の金属酸化物粒子を含むゾル液28.9部を12.9部に変更したこと以外は、第1の金属酸化物粒子の分散液H1と同様にして、第1の金属酸化物粒子の分散液H15を調製した。
【0217】
ついで、上記で得られた第1の金属酸化物粒子の分散液H15を用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H15を調製した。
【0218】
「試料15の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H15を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料15を作製した。
【0219】
実施例16
「高屈折率層用塗布液H16の調製」
固形分濃度20.0質量%の第1の金属酸化物粒子を含むゾル液28.9部を20.2部に変更したこと以外は、第1の金属酸化物粒子の分散液H1と同様にして、第1の金属酸化物粒子の分散液H16を調製した。
【0220】
ついで、上記で得られた第1の金属酸化物粒子の分散液H16を用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H16を調製した。
【0221】
「試料16の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H16を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料16を作製した。
【0222】
実施例17
「試料17の作製」
「高屈折率層用塗布液H17の調製」
酸化チタン粒子に対する含ケイ素の水和酸化物の被覆量を、SiOとしての被覆量が8質量%となるように第1の金属酸化物粒子(一次平均粒径:6.7nm)を調製して用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H17を調製した。
【0223】
「試料17の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H17を用い、および21層同時重層塗布を2回繰り返して計42層の重層塗布を行ったこと以外は、試料1と同様にして、試料17を作製した。
【0224】
実施例18
「試料18の作製」
ポリエチレンテレフタレートフィルムの両面にそれぞれ計21層の同時重層塗布を行ったこと以外は、試料1と同様にして、試料18を作製した。
【0225】
実施例19
「高屈折率層用塗布液H19の調製」
酸化チタン粒子に対する含ケイ素の水和酸化物の被覆量を、SiOとしての被覆量が4質量%となるように第1の金属酸化物粒子を調製して用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H1と同様にして、高屈折率層用塗布液H19を調製した。
【0226】
「試料19の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H19を用い、およびポリエチレンテレフタレートフィルムの両面にそれぞれ21層の同時重層塗布を行い、乾燥後さらに両面にそれぞれ25層の同時重層を行ったこと以外は、試料1と同様にして、試料19を作製した。
【0227】
比較例1
「高屈折率層用塗布液H20の調製」
まず、20.0質量%のルチル型酸化チタン微粒子(体積平均粒径:10nm)を含む酸化チタンゾル水系分散液28.9部と、14.8質量%のピコリン酸水溶液5.41部と、2.1質量%の水酸化リチウム水溶液3.92部とを混合し、酸化チタン分散液H20を調製した。
【0228】
次いで、純水10.3部に、1.0質量%の増粘多糖類であるタマリンドシードガム水溶液130部、5.0質量%のポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA217)10.3部、14.8質量%のピコリン酸水溶液17.3部、および5.5質量%のホウ酸水溶液2.58部を順次に、撹拌しながら加えた。その中に、上記得られた酸化チタン分散液H20 38.2部を添加した。その後、界面活性剤として、5質量%の4級アンモニウム塩系カチオン性界面活性剤(日油製ニッサンカチオン−2−DB−500E)0.050部を添加した。純水を加え、全体として223部の高屈折率層用塗布液H20を調製した。
【0229】
「低屈折率層用塗布液L3の調製」
まず、23.5質量%のポリ塩化アルミニウム(多木化学製、タキバイン#1500)水溶液21部と、10質量%のコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテックスOXS)水溶液550部と、3.0質量%のホウ酸水溶液61部と、2.1質量%の水酸化リチウム水溶液4.75部と、を混合し、高圧ホモジナイザー分散機を用いて分散した。その後、純水を加えて、全体として1000部のコロイダルシリカの分散液L3を調製した。
【0230】
次いで、得られた分散液L3を45℃に加熱し、その中に、純水100部および4.0質量%のポリビニルアルコール(PVA235、クラレ社製)水溶液575部を撹拌しながら、加えた。その後、界面活性剤として、5質量%の4級アンモニウム塩系カチオン性界面活性剤(日油製ニッサンカチオン−2−DB−500E)0.50部を添加し、低屈折率層用塗布液L3を調製した。
【0231】
「試料20の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H20を用い、および低屈折率層用塗布液L1の代わりに低屈折率層用塗布液L3を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料20を作製した。
【0232】
比較例2
「高屈折率層用塗布液H21の調製」
第1の金属酸化物粒子を調製する際にルチル型の酸化チタン粒子の代わりにアナターゼ型の酸化チタン粒子を用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H20と同様にして、高屈折率層用塗布液H21を調製した。
【0233】
「試料21の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H21を用い、および低屈折率層用塗布液L1の代わりに低屈折率層用塗布液L3を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料21を作製した。
【0234】
比較例3
「高屈折率層用塗布液H22の調製」
第1の水溶性高分子として、ポリビニルアルコール(PVA217)の代わりに紫外線硬化バインダー(X−12−2400、信越化学工業社製)1.5質量部に対して、触媒(DX2400、信越化学工業社製)0.15質量部を用いたこと以外は、高屈折率層用塗布液H20と同様にして、高屈折率層用塗布液H22を調製した。
【0235】
「低屈折率層用塗布液L4の調製」
第2の水溶性高分子として、ポリビニルアルコール(PVA235)の代わりに紫外線硬化バインダー(X−12−2400、信越化学工業社製)1.5質量部に対して、触媒(DX2400、信越化学工業社製)0.15質量部を用いたこと以外は、低屈折率層用塗布液L3と同様にして、低屈折率層用塗布液L4を調製した。
【0236】
「試料22の作製」
高屈折率層用塗布液H1の代わりに高屈折率層用塗布液H22を用い、低屈折率層用塗布液L1の代わりに低屈折率層用塗布液L4を用い、および重層塗布後、大気下で、アイグラフィックス社製の紫外線硬化装置(高圧水銀ランプ使用)を用いて、硬化条件:400mJ/cmで硬化を行ったこと以外は、試料1と同様にして、試料22を作製した。
【0237】
実施例および比較例の試料の構成を表1に示す。
【0238】
【表1-1】
【0239】
【表1-2】
【0240】
{近赤外遮蔽フィルムの評価}
上記で作製した各近赤外遮蔽フィルムについて、下記の性能評価を行った。
【0241】
<各層の単膜屈折率の測定>
基材上に屈折率を測定する対象層(高屈折率層、低屈折率層)をそれぞれ単層で塗設したサンプルを作製し、下記の方法に従って、各高屈折率層および低屈折率層の屈折率を求めた。
【0242】
分光光度計として、U−4000型(日立製作所社製)を用いた。各サンプルの測定側の裏面を粗面化処理した後、黒色のスプレーで光吸収処理を行って裏面での光の反射を防止して、5度正反射の条件にて可視光領域(400nm〜700nm)の反射率の測定結果より、屈折率を求めた。
【0243】
上記方法に従って、各層の屈折率を測定した結果、高屈折率層と低屈折率層の屈折率差は、いずれも0.1以上であることを確認した。
【0244】
<可視光透過率及び近赤外線透過率の測定>
上記分光光度計(積分球使用、日立製作所社製、U−4000型)を用い、近赤外遮蔽フィルム試料22の300nm〜2000nmの領域における透過率を測定した。可視光透過率として、550nmにおける透過率の値を、近赤外線透過率として、1200nmにおける透過率の値を、それぞれ用いた。
【0245】
<温湿度変化耐久性試験>
近赤外遮蔽フィルム試料22を温度40℃かつ湿度80%の高温高湿環境下に4時間おいて、その後2時間かけて、温度20℃かつ湿度50%の環境に変化させ、その状態で4時間放置し、さらに2時間かけて温度40℃かつ80%の状態に戻すことを1サイクルとして、合計6サイクルの温湿度変化耐久性試験を行った。その後、再び上記と同様に耐久性試験後の結果として、可視光透過率および近赤外線透過率をそれぞれ求めた。それぞれの結果を表2に示す。
【0246】
<温湿度変化耐久性試験前後の変化率>
可視光透過率および近赤外線透過率の、耐久性評価前後の変化率について、以下の式で算出した。結果を表2に示す。
【0247】
【数2】
【0248】
<膜柔軟性の測定>
近赤外遮蔽フィルム試料1〜22を150mm×200mmの大きさに切り、80℃および120℃のオーブンに10分間投入し、膜面の状態を目視評価した。結果を表2に示す。
【0249】
○:120℃でひび割れが見られない。
【0250】
△:80℃でひび割れが見られないが、120℃で一部にひび割れが見られる。
【0251】
×:80℃でひび割れが見られる。
【0252】
【表2】
【0253】
近赤外遮蔽フィルムとして、可視光透過率が高く、かつ近赤外線透過率が低いことが望ましい、さらに、耐久性、すなわち耐久性試験前後の変化率が小さいことがより望ましい。表2に示す結果から、本発明に係る近赤外遮蔽フィルム試料の1〜19のいずれは、比較試料20〜22と比較すると、より高い可視光透過率およびより効果的な近赤外遮蔽性を有することがわかる。さらに、温湿度変化を繰り返した後でも、可視光透過率が高く、近赤外透過率が低く、すなわち、耐久性に優れることがわかる。また、本発明に係る近赤外遮蔽フィルムの試料1〜19のいずれも、膜柔軟性に優れることが分かる。
【0254】
{近赤外遮蔽体の作製}
<近赤外遮蔽体1〜19の作製>
実施例で作製した試料1〜19の近赤外遮蔽フィルムを、厚さ5mm、20cm×20cmの透明アクリル樹脂板上に、それぞれをアクリル接着剤で接着され、近赤外遮蔽体1〜19を作製した。
【0255】
<近赤外遮蔽体の評価>
上記で作製した本発明の近赤外遮蔽体1〜19は、本発明の近赤外遮蔽フィルムを利用することで、優れた近赤外遮蔽性を確認することができた。
【0256】
なお、本出願は、2011年10月12日に出願された日本特許出願第2011−225156号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。