(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1期間と、前記放電デューティ(dc)が0となる期間の一部または全部において、前記昇圧チョッパにおける前記コンデンサ(34)への充電が行われる、請求項1記載の直接形交流電力変換装置。
前記昇圧チョッパ(3)に流れる電流(ib)と前記第1整流回路から前記インバータ(6)に流れる電流(idirect)との和である整流電流(irec)の指令値(irec*)と、前記仮想直流リンク電圧(Vdc)の指令値(Vdc*)と、前記コンデンサの両端電圧(Vc)と、前記整流電圧(Vrec)と、前記インバータ(6)に入力する電流(idc)とに基づいて、前記零電圧デューティ(dz)を最小とする前記放電デューティが設定される、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の直接形交流電力変換装置。
前記仮想直流リンク電圧(Vdc)が前記整流電圧(Vrec)よりも大きく、前記整流電流(irec)の前記指令値(irec*)が所定値(dr_max)と前記インバータ(6)に入力する電流(idc)の積以上であれば、前記整流デューティ(dr)は前記所定値を採り、前記放電デューティ(dc)は前記所定値を1から引いた値を採り、
前記所定値は、仮想直流リンク電圧(Vdc)の前記指令値(Vdc*)から前記コンデンサの前記両端電圧(Vc)を引いた値を、前記整流電圧(Vrec)から前記両端電圧(Vc)を引いた値で除した値((Vdc*−Vc)/(Vrec−Vc))である、請求項5記載の直接形交流電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1はこの実施の形態にかかる直接形交流電力変換装置の構成を例示する回路図である。
【0035】
当該直接形交流電力変換装置は、直流リンク7と、整流回路51,52と、昇圧チョッパ3と、スイッチ41と、インバータ6とを備える。
【0036】
直流リンク7は電源線L1,L2を有している。電源線L1の電位よりも低い電位が、電源線L2に印加される。
【0037】
整流回路51は交流電圧Vinを入力する入力端51a,51bと、それぞれ電源線L1,L2に接続される一対の出力端51c,51dとを有する。整流回路51は全波整流形であり、ここではダイオードブリッジで形成される場合が例示されている。
【0038】
なお、
図1では、整流回路51には単相交流電源からフィルタ回路2を介して交流電圧Vinが供給される状況が例示されている。但し、フィルタ回路2は高調波ノイズをカットする目的で設けられているので、そのカットオフ周波数は交流電圧Vinの周波数よりも高い。以降で説明する各部の動作にはフィルタ回路2の機能はほとんど影響しないので、以降ではフィルタ回路2の動作について無視して説明する。
【0039】
スイッチ41の動作や、昇圧チョッパ3及びインバータ6のスイッチング動作は制御部9によって制御される。制御部9も当該直接形交流電力変換装置に備えられると把握することもできる。
【0040】
インバータ6は、直流リンク7に印加された電圧を他の多相交流電圧に変換する。ここではインバータ6は、誘導性負荷としての永久磁石型同期電動機PMSMに対して三相交流電圧を出力する構成が示されている。インバータ6は瞬時空間ベクトル制御の下で動作する電圧形インバータであり、公知の構造を採用できる。インバータ6は三相の電流Iinvを永久磁石型同期電動機PMSMに出力する。
【0041】
昇圧チョッパ3はその出力段にコンデンサ34を有する。より具体的には、昇圧チョッパ3には、交流電圧Vinの整流電圧Vrecが印加される。当該整流電圧は全波整流形の整流回路52によって生成される。ここでは、整流回路52がダイオードブリッジで形成される場合が例示されている。
【0042】
昇圧チョッパ3は、コンデンサ34の他、インダクタ32と、スイッチ31と、ダイオード33とを有している。整流電圧Vrecはインダクタ32の一端と、スイッチ31の一端との間に印加される。インダクタ32の他端と、スイッチ31の他端とダイオード33のアノードとは相互に接続されている。ダイオード33のカソードと、スイッチ31の一端との間にコンデンサ34が接続される。スイッチ31には、例えば絶縁ゲート型バイポーラトランジスタが採用される。
【0043】
このような構成は昇圧チョッパとして周知であり、その詳細な動作説明は省略する。
【0044】
但しここでは、スイッチ31は制御信号Sbの活性/非活性に応じてそれぞれ導通/非導通することと、インダクタ32に流れる電流ibの指令値ib*(後に詳述)とコンデンサ34に印加されるコンデンサ電圧(コンデンサ34の両端電圧)Vcと整流電圧Vrecとによって、スイッチ31が導通する時比率であるブーストデューティdbが決定されることを記しておく。
【0045】
スイッチ41は、制御信号Scの活性/非活性に応じて、それぞれコンデンサ34から直流リンク7への放電/非放電を行う。より具体的には、スイッチ41は電源線L1,L2の間でコンデンサ34に対して直列に接続される。
【0046】
通常、昇圧チョッパ3の動作によって、コンデンサの両端電圧(以下「コンデンサ電圧」と称す)Vcは整流電圧Vrecよりも高い。よってスイッチ41は、昇圧チョッパ3から(より具体的にはコンデンサ34から)電源線L1へと向かって電流を流すか否かを制御するスイッチ素子を有する。当該スイッチ素子には、例えば絶縁ゲート型バイポーラトランジスタが採用される。
【0047】
また、望ましくは、インバータ6からの回生電流でコンデンサ34を充電すべく、直流リンク7から昇圧チョッパ3へ(より具体的には電源線L1からコンデンサ34へ)と向かう方向を順方向とするダイオードも有する。
【0048】
制御部9は交流電圧Vin(より正確にはその波形を示す信号:以下同様)、インバータ6が出力する電流Iinv、コンデンサ電圧Vcを入力し、制御信号Sb,Sc,Sgを出力する。制御信号Sgはインバータ6のスイッチングを制御する信号であり、ここではインバータ6が三相電圧を出力する場合が例示されていることから、6(=3×2)個の信号群から構成される。
【0049】
図2はこの実施の形態にかかる直接形交流電力変換装置の他の構成を例示する回路図である。
図1に示された構成と比較すると、整流回路51は整流回路52を兼務している。つまり整流回路5は、その一対の出力端51c,51dが昇圧チョッパ3の入力側に接続されている。この場合、
図1に示された構成とは異なり、必ずしも、昇圧チョッパ3に整流電圧Vrecが印加されるとは言えない。インダクタ32の他端が、電源線L1を介してスイッチ41に接続され、スイッチ41の動作状況によってはコンデンサ電圧Vcが昇圧チョッパ3に印加されるからである。
【0050】
しかし、
図1及び
図2も次に示す等価回路では同等に扱えるため、以下に説明する制御方法は共通する。まず、等価回路について説明する。
【0051】
図3は
図1及び
図2に示される直接形交流電力変換装置の等価回路の回路図である。整流電圧Vrecを電圧源として表現することにより、整流回路51が導通するか否かをスイッチGrecで示している。また、スイッチ31,41はそれぞれスイッチGb,Gcで示されている。但しここではインバータ6からの回生電流を考慮せず、スイッチ41が有するダイオードは考慮されていない。
【0052】
インバータ6及びその負荷は、インバータ6に流入する直流電流idcを流す電流源として表現されている。ここでスイッチGzが導通する状態ではインバータ6がいわゆる零電圧ベクトルで動作する。インバータ6が零電圧ベクトルで動作する場合は、インバータ6は誘導性負荷を電源線L1,L2のいずれか一方へ短絡させるので、直流リンク7からの電流を受けない。
【0053】
他方、インバータ6が零電圧ベクトル以外で動作するのは、インバータ6が直流リンク7から電流を受けるときに許される。よって零電圧ベクトル以外でのインバータ6の動作はスイッチGzが非導通のときに行われる。
【0054】
整流電圧Vrecよりも高いコンデンサ電圧Vcが直流リンク7に印加されるときには、整流回路51からは直流リンク7には電流が流れない。即ちスイッチGcが導通するときには、スイッチGrecは導通しない。
【0055】
上記特許文献1,2で示されるように、スイッチGrec,Gc,Gzが導通する時比率をそれぞれ整流デューティdr、放電デューティdc,零電圧デューティdzとすると、それら三者の和は1となる。即ち下式(1)が成立する。但し、これらの時比率は交流電圧Vinの周期と比較して短い周期における時比率であり、交流電圧Vinが一定であると近似して制御されるキャリア周期についての時比率である。
【0057】
零電圧デューティdzは、インバータ6がその出力する電圧の大きさに拘わらず零電圧ベクトルを採用する期間に対応する時比率である。また放電デューティdcは、スイッチ41が導通する時比率である。
【0058】
整流デューティdrは整流回路51が導通する時比率であり、式(1)から、放電デューティdcと零電圧デューティdzとの和を1から差し引いた値を採ることが判る。
【0059】
直流リンク7に印加される直流電圧は、スイッチ41が導通するときにコンデンサ電圧Vcを採り、スイッチ41が導通しないときに整流電圧Vrecを採る。そこで仮想的な電圧(本願で「仮想直流リンク電圧」と称す)Vdcを下式(2)で定める。
【0060】
Vdc=dr・Vrec+dc・Vc…(2)
【0061】
つまり、仮想直流リンク電圧Vdcは、放電デューティdcとコンデンサ電圧Vcとの積(dc・Vc)と、整流デューティdrと整流電圧Vrecとの積(dr・Vrec)との和で表される。これはインバータ6が出力できる電圧の最大値の、スイッチ41やインバータ6のスイッチングを制御する周期についての平均として、把握することもできる。
図3では仮想直流リンク電圧Vdcは、インバータ6及びその負荷を表す電流源idc(これは直流電流idcを流す)の両端に生じる電圧として示している。
【0062】
仮想直流リンク電圧Vdcは、上述のように、インバータ6が出力できる電圧の最大値の平均値であるので、インバータ6が出力する電圧が仮想直流リンク電圧Vdcを下回る場合もあり得る。そしてかかる場合においては、スイッチ41が導通していても、インバータ6が零電圧ベクトルを採用する。これは上述のように、零電圧デューティdzは、インバータ6がその出力する電圧の大きさに拘わらず零電圧ベクトルを採用する期間に対応する時比率であるが、インバータ6が零電圧ベクトルを採用する全期間に対応する時比率ではないことと、対応している。
【0063】
このような等価回路において、整流電圧Vrecを示す電圧源から流れる電流(本願では「整流電流」と称す)irecは、実際の構成においては(昇圧チョッパ3が有する)インダクタ32に流れる電流ibと、整流回路51からインバータ6に流れる電流idirectとの和として把握される。
【0064】
但し、
図1に示された構成においては、整流電流irecは直接には示されない。
図1において電流idirectは整流回路51から直流リンク7に流れる電流であり、電流ibは整流回路52から昇圧チョッパ3に流れる電流である。
【0065】
他方、
図2に示された構成においては、出力端51cから整流電流irecが出力され、その中からインダクタ32に流れる部分が電流ibとなる。
【0066】
スイッチGrecは整流回路51の導通/非導通を示すのであるから、その導通する時比率たる整流デューティdrは、電流idirectを直流電流idcで除した値として表される。よって下式(3)が成立する。
【0067】
irec=dr・idc+ib…(3)
【0068】
さて、上記特許文献1,2及び非特許文献1では、電流ibを流す期間が、コンデンサ34から直流リンク7へと電力を授与する期間(授与期間)から排除されていた。しかも当該授与期間と、直流リンク7からコンデンサ34が電力を受納する期間(受納期間)とが、交流電圧Vinの周期の1/4毎に交互に設定されていた。このため、仮想直流リンク電圧Vdcは当該交流電圧の波高値の1/√2倍を越えることがなかった。
【0069】
しかし、授与期間であっても、コンデンサ34は常時放電するわけではなく、放電デューティdcで導通する。よって授与期間であっても、コンデンサ34を充電可能な期間が存在する。他方、授与期間が必要となるのは、仮想直流リンク電圧Vdcが、整流電圧Vrecよりも大きい期間である。仮想直流リンク電圧Vdcが、整流電圧Vrecよりも小さければ式(2)から明白なようにdc=0としても、dz>0として仮想直流リンク電圧Vdcを整流電圧Vrec並びに整流デューティdr及び零電圧デューティdzのみで決定できるからである。
【0070】
換言すれば少なくとも、仮想直流リンク電圧Vdcが整流電圧Vrecよりも大きい期間(当該期間ではdc>0となる:理由は後述する)の一部において、昇圧チョッパ3においてコンデンサ34への充電が行われることにより、コンデンサ34の電力が補充される。これにより、仮想直流リンク電圧Vdcは交流電圧Vinの波高値の1/√2倍を越えることができる。もちろん、dc=0となる期間の一部または全部においてコンデンサ34の充電を行うこともできる。
【0071】
あるいは仮想直流リンク電圧Vdcは交流電圧Vinの波高値の1/√2倍を越えない場合であっても、コンデンサ34を充電する期間を従来の技術よりも長く選定できるので、インダクタ32に流れる電流ibの平均値あるいは実効値を、従来の技術よりも低減することができる。
【0072】
以下、更に詳細に説明する。なお、昇圧チョッパ3における損失や、インダクタ32に要求される定格電流を低減するためには、放電デューティdcを小さくすることが望ましい。
【0073】
まず、整流電流irecが電流idirectよりも大きい場合を考察する。これは式(3)に鑑みれば、昇圧チョッパ3に電流ibを流す余裕がある場合であり、整流デューティdrの大きさは整流電流irecからの制限を受けない。この場合において、更に、仮想直流リンク電圧Vdcを整流電圧Vrec以下にする場合を第1の場合として考察する。第1の場合では、上述のように、dc=0とし、dz>0として実現される。具体的には、式(1)、(2)においてdc=0とすることで、第1の場合における整流デューティdr、零電圧デューティdzが下式(4)で決定される。このとき、コンデンサ34がスイッチ41を介して放電することはない。
【0074】
dr=Vdc/Vrec、dz=1−Vdc/Vrec…(4)
【0075】
換言すれば、仮想直流リンク電圧Vdcの指令値Vdc*を設定したとき、第1の場合において放電デューティdcを零として、仮想直流リンク電圧Vdcを指令値Vdc*に従わせるためには、整流デューティdrを整流電圧Vrecに対する指令値Vdc*の比(Vdc*/Vrec)に設定し、零電圧デューティdzとして当該比を1から差し引いた値に設定すればよいことがわかる。
【0076】
また、このとき、零電圧デューティdzも最小となることが判る。放電デューティdcが増大しても仮想直流リンク電圧Vdcを指令値Vdc*に一致させるためには、式(2)から、零電圧デューティdzを増大させなければならないからである。
【0077】
換言すれば、第1の場合において、整流デューティdrを比(Vdc*/Vrec)に設定することは、零電圧デューティdzを最小とするための放電デューティdcを設定し、その値を0にすることと把握することもできる。
【0078】
そして第1の場合において上記制御を行うとき、コンデンサ34は放電しない。
【0079】
次に、整流電流irecが電流idirectよりも大きく、かつ仮想直流リンク電圧Vdcを整流電圧Vrecよりも大きくする場合を第2の場合として考察する。この場合、コンデンサ34から直流リンク7へと放電させなければならないことは式(2)から自明である。つまり放電デューティdcは正となる。もちろん、式(2)からは、仮想直流リンク電圧Vdcがコンデンサ電圧Vc以下でなければならないこともまた自明である。
【0080】
ここで、損失や定格電流を低減すべく放電デューティdcを小さくするためには、仮想直流リンク電圧Vdcの上昇に寄与しない零電圧デューティdzを小さくする必要がある。第2の場合では、第1の場合と同様に、整流デューティdrの大きさは整流電流irecからの制限を受けないので、直流電流idcは整流電流irecで賄うことができる。よって零電圧デューティdzは零まで小さくすることができる。
【0081】
このことと、式(1)とから、式(2)は下式(5)に変形できる。
【0082】
Vdc=dr・Vrec+(1−dr)・Vc
∴dr=(Vdc−Vc)/(Vrec−Vc)…(5)
【0083】
換言すれば、第2の場合において仮想直流リンク電圧Vdcを指令値Vdc*に従わせるためには、整流デューティdrを比(Vdc*−Vc)/(Vrec−Vc)に設定し、放電デューティdcとして当該比を1から差し引いた値に設定すればよいことがわかる。
【0084】
そして第2の場合において、整流デューティdrを上記のように設定することは、零電圧デューティdzを最小とするための放電デューティdcを設定し、その値を(1−dr)に設定することと把握することもできる。この場合も、零電圧デューティdzは零まで小さくなるからである。
【0085】
このように、上記の各デューティの制御は、二つの観点に基づいて、零電圧デューティdzを最小とするための放電デューティdcを設定することである、と把握することができる。第1の観点は、整流電流irecが電流idirectよりも大きいか否か、換言すれば、整流電流irecの指令値irec*を電流idirectよりも大きく設定するか否かという観点である。第2の観点は、仮想直流リンク電圧Vdcが整流電圧Vrecよりも大きいか否か、換言すれば、指令値Vdc*が整流電圧Vrecよりも大きいか否かという観点である。
【0086】
図1に示された回路では整流回路52から、
図2に示された回路では整流回路51から、それぞれ電流ibを流す余裕がある。よって直流電流idcが推定されれば、その推定値idc^を用いることにより、電流ibの指令値ib*は式(3)を考慮して、下式(6)で設定されることになる。
【0087】
ib*=irec*−dr_max・idc^…(6)
【0088】
ここでdr_maxは第1の場合において式(4)で、第2の場合において式(5)で、それぞれ表される整流デューティdrである。
【0089】
特に第2の場合のように、仮想直流リンク電圧Vdcが整流電圧Vrecよりも大きいとき、コンデンサ34から直流リンク7へと放電デューティdcで放電する授与期間となる。そしてこの授与期間においては放電のみならず、式(6)で示される指令値ib*に従って電流ibが流れ、コンデンサ34の充電も行われる。
【0090】
従って本願では、第2の場合に相当する期間を「充放電区間」と称する。これに対して第1の場合に相当する期間は、コンデンサ34の放電を行わず、充電のみが行われるので、本願において「充電区間」と称する。
【0091】
なお、昇圧チョッパ3に流れる電流ibを用いて、スイッチGb(スイッチ31)がどのようなスイッチング動作を行ってコンデンサ34をコンデンサ電圧Vcまで充電するかについては、周知の手法を採用することができる。当該手法はいわゆる電流不連続モードであってもよいし、臨界モードであってもよいし、電流連続モードであってもよい。
【0092】
次に、第3の場合として、整流電流irecが電流idirect以下の場合を考察する。これは式(3)に鑑みれば、電流ibを流す余裕がない可能性がある場合である。あるいは式(6)に鑑みればib*<0の場合であり、即ち下式(7)が成立する場合である。
【0093】
irec*<dr_max・idc^…(7)
【0094】
しかし実際には電流ibが負の値を採ることはないので、式(7)の条件のもと、dr_maxよりも小さな値を採る整流デューティdrを採用することにより、irec≧0,dr≧0,idc>0,ib≧0の条件下で式(3)を成立させることになる。
【0095】
常にib≧0を満足させるため、電流ibの指令値ib*は0に設定される。つまり式(7)が成立する期間ではコンデンサ34は充電されず、下記で定められる放電デューティdcでコンデンサ34が放電される。よって本願では、式(7)が成立する期間を「放電区間」と称する。
【0096】
式(7)を考慮して、指令値irec*と推定値idc^とを用いて整流デューティdrは下式(8)で定められる。
【0098】
即ち、仮想直流リンク電圧Vdcを指令値Vdc*に従わせるためには、整流デューティdrを推定値idc^に対する指令値irec*の比(irec*/idc^)に設定することになる。
【0099】
さて、仮想直流リンク電圧Vdcを指令値Vdc*に従わせるためには、式(2)を考慮して、下式(9)が成立しなければならない。
【0100】
Vdc*=dr・Vrec+dc・Vc…(9)
【0101】
但し整流デューティdrは式(8)で設定された値に設定され、コンデンサ電圧Vcは実質的には固定される。よって、与えられた指令値Vdc*に式(9)の右辺を等しくするために選定可能なパラメータは零電圧デューティdzと放電デューティdcである。
【0102】
式(9)から直ちに下式(10)によって放電デューティdcが定まる。
【0103】
dc=(Vdc*−dr・Vrec)/Vc…(10)
【0104】
なお、式(7)が成立する期間(「放電区間」)では、コンデンサ電圧Vcは厳密には低減することになる。上述のように指令値ib*は0に設定されるからである。しかし指令値irec*を適宜に設定することにより、コンデンサ電圧Vcの低減が無視できる程度にまで放電区間を短くすることができる。
【0105】
上述の特許文献1,2及び非特許文献1では、整流電流irecを全波整流の波形としていたため、このような指令値irec*の選定には想到していなかった。しかしながらこの実施の形態では、整流電流irecを全波整流の波形に限定しないので、放電区間を短くし、式(10)でコンデンサ電圧Vcを一定として放電デューティdcを設定することができる。
【0106】
さて、式(1)の束縛条件があるため、零電圧デューティdzは下式(11)で求められることになる。
【0108】
このように放電区間では指令値irec*と推定値idc^が得られれば式(8)によって整流デューティdrが決定され、更に式(10)、(11)でそれぞれ放電デューティdc、零電圧デューティdzが一意に決定される。
【0109】
つまり零電圧デューティdzは式(11)で決定される値以上を取り得ないため、その最小値に設定されていると把握することができる。即ち、放電区間においても、充電区間、充放電区間と同様に、零電圧デューティdzを最小とするための放電デューティdcを設定する、と把握することができる。
【0110】
以上のようにして決定される整流デューティdr、零電圧デューティdz、放電デューティdc及び指令値ib*が定まれば、周知の技術を用いて制御信号Sb,Sc,Sgを生成することができる。
【0111】
図4は、制御部9の構成を例示するブロック図である。制御部9は大別して、電流指令生成部91、直流電流推定器92、デューティ分配器93、パルス幅変調信号生成器94、チョッパ信号生成器95に区分される。
【0112】
電流指令生成部91は、整流電流irecの指令値irec*を生成する。
図4では後述するように、指令値irec*が正弦波形の絶対値をとる構成を例示しているが、指令値irec*は必ずしもそのような波形を呈しなければならないという制限はない。
【0113】
直流電流推定器92は、直流電流idcの推定値idc^を求める。
図3の等価回路から理解されるように、実際の回路では直流電流idcを実測できる箇所がない。よって式(6)(8)で示される演算では推定値idc^が採用される。
【0114】
直流電流idcと仮想直流リンク電圧Vdcとで、インバータ6が出力する電力を等価回路において求めることができる。他方、実際の回路においてインバータ6が出力する電力は、インバータ6が出力する三相の電流Iinvと、三相の電圧Vinvとから求められる。よって理論的には推定値idc^は、仮想直流リンク電圧Vdc、電流Iinv、電圧Vinvから求めることができる。
【0115】
但し、インバータ6が出力する電圧Vinvは、パルス幅変調信号生成器94によって、その指令値Vinv*に追従して制御される。また仮想直流リンク電圧Vdc自体は測定できないが、デューティ分配器93によって、その指令値Vdc*に追従して制御される。他方、電流Iinvはインバータ6と永久磁石型同期電動機PMSMとの間の結線から測定することができる。よって本実施の形態では、推定値idc^を、指令値Vdc*,Vinv*及び電流Iinvから求める。もちろん、他の手法によって推定値idc^を求めてもよい。
【0116】
デューティ分配器93は、指令値Vdc*,irec*、コンデンサ電圧Vc、整流電圧Vrec、推定値idc^に基づいて、上記第1乃至第3の場合について説明した手法により、整流デューティdr、零電圧デューティdz、放電デューティdc及び指令値ib*を決定する。ここで『デューティ「分配」器』と表現するのは、式(2)に示されたように、値1を整流デューティdr、零電圧デューティdz、放電デューティdcで分配するからである。
【0117】
パルス幅変調信号生成器94は、整流デューティdr、零電圧デューティdz、放電デューティdcと、指令値Vinv*,Vdc*とに基づいて、制御信号Sc,Sgを生成する。例えばこれらのデューティと指令値Vinv*の各相分とを演算して信号波を生成し、信号波と三角波キャリアとの比較によって制御信号Sc,Sgを生成することができる。かかる手法は公知であり、例えば特許文献1,2で説明されているので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0118】
チョッパ信号生成器95は、昇圧チョッパデューティ演算器951と、パルス幅変調信号生成器952とを有している。昇圧チョッパデューティ演算器951は指令値ib*、コンデンサ電圧Vc、整流電圧Vrecに基づいてブーストデューティdbが決定される。
【0119】
ブーストデューティdbは、昇圧チョッパ3をどのようなモードで動作させるかに依存して決定方法が異なる。但し、その手法は通常の昇圧チョッパの放電デューティの決定方法を採用できるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0120】
パルス幅変調信号生成器952もまた、公知の変調方法により、ブーストデューティdbから制御信号Sbを生成することができる。
【0121】
次に、電流指令生成部91の構成を説明する。電流指令生成部91は、出力電力推定器911、三角関数値生成器912、コンデンサ電圧制御器913、加算器914、乗算器915、除算器916を有している。
【0122】
出力電力推定器911は、出力電力Poutの推定値Pout^を指令値Vinv*及び電流Iinvから求める。直流電流推定器92は、上述のようにして推定値idc^を求めるので、出力電力推定器911から得た推定値Pout^と指令値Vdc*を入力して推定値idc^を得ても良い。
【0123】
コンデンサ電圧制御器913は、コンデンサ電圧Vcとその指令値Vc*との偏差Vc*−Vcを求め、これに対して少なくとも比例制御を施して加算器914に出力する。
【0124】
加算器914は推定値Pout^に対し、コンデンサ電圧制御器913からの出力を加算する。これはコンデンサ電圧Vcがその指令値Vc*よりも減少/増大したときには推定値Pout^をそれぞれ大きく/小さく補正することにより、入力電力の指令値Pin*を適切に設定し、以て上記の偏差を小さくするための処理である。かかる偏差の安定性のため、コンデンサ電圧制御器913としては単なる比例制御そのものではなく、比例積分制御、あるいは比例積分微分制御が採用されることが望ましい。
【0125】
ここでは整流電流irecの指令値irec*が正弦波形の絶対値をとる場合を想定しており、整流電圧Vrecが正弦波形の絶対値を採ることから、加算器914の出力に三角関数値2・sin
2θを乗算して、指令値Pin*が求められる。
【0126】
三角関数値生成器912は電源電圧の位相角θに基づいて、三角関数値2・sin
2θを生成する。そして加算器914の加算結果と、三角関数値2・sin
2θとが、乗算器915において乗算され、指令値Pin*が求められる。
【0127】
入力電力Pinは整流電圧Vrecと整流電流irecの積であるので、整流電流irecの指令値irec*は指令値Pin*を整流電圧Vrecで除して求められる。
【0128】
位相角θは例えば、測定された交流電圧Vinから、電源位相推定器96によって推定される。電源位相推定器96は例えば位相同期回路で構成することができる。整流電圧Vrecは例えば、測定された交流電圧Vinの絶対値を絶対値回路97で求めることで得られる。電源位相推定器96、絶対値回路97の具体的な構成は周知技術であるので、ここでは詳細は述べない。
【0129】
指令値Vdc*は、指令値Vinv*から後述する式によって仮想直流リンク電圧指令値生成器98によって設定される。但し、上述のように指令値Vdc*は、インバータ6の(スイッチングを制御する周期についての平均ではあるが)電圧Vinvの最大値であるので、指令値Vinv*を下回る値に設定することは適切ではない。換言すれば、指令値Vinv*の最大値を高めるためには、指令値Vdc*を高める必要がある。従来の直接形電力変換装置では、指令値Vdc*は交流電圧Vinの1/√2倍以下となっていた。
【0130】
図5は整流デューティdr、零電圧デューティdz、放電デューティdc及び指令値ib*を求める工程を纏めたフローチャートである。かかるフローチャートはデューティ分配器93の動作を示していると把握できる。
【0131】
ステップS101は、直接形交流電力変換装置の動作が、第3の場合に相当しないと仮定すれば、第1の場合に相当するか、第2の場合に相当するかの判断に相当する。ステップS101では仮想直流リンク電圧Vdcの指令値Vdc*が整流電圧Vrec以下であるか否かを判断する。当該判断が肯定的であればステップS102,S104へ、否定的で有ればステップS103,S105へ、それぞれ処理が進む。
【0132】
ステップS102,S104は直接形交流電力変換装置の動作が第1の場合、第3の場合のいずれに相当するかを判断する処理である。ステップS102では式(4)を考慮して、dr_max=Vdc*/Vrecが求められる。ステップS104では式(7)を考慮して、指令値irec*が値dr_max・idc^以上であるか否かが判断される。ステップS104の判断が肯定的であれば直接形交流電力変換装置の動作は第1の場合に相当し、処理はステップS106,S109へ進む。ステップS104の判断が否定的であれば直接形交流電力変換装置の動作は第3の場合に相当し、処理はステップS108,S110へ進む。
【0133】
ステップS103,S105は直接形交流電力変換装置の動作が第2の場合、第3の場合のいずれに相当するかを判断する処理である。ステップS103では式(5)を考慮して、dr_max=(Vdc*−Vc)/(Vrec−Vc)が求められる。ステップS105ではステップS104と同様に式(7)を考慮して、指令値irec*が値dr_max・idc^以上であるか否かが判断される。ステップS105の判断が肯定的であれば直接形交流電力変換装置の動作は第2の場合に相当し、処理はステップS107,S109へ進む。ステップS105の判断が否定的であれば直接形交流電力変換装置の動作は第3の場合に相当し、処理はステップS108,S110へ進む。
【0134】
ステップS106,S107,S108は、それぞれ第1の場合、第2の場合、第3の場合に応じた各デューティの設定である。ステップS109は第1の場合、第2の場合に応じた指令値ib*の設定であり、ステップS110は第3の場合に応じた指令値ib*の設定である。これらの設定内容は既に述べたとおりである。
【0135】
なお、Vdc>Vrecであれば、ステップS101の判断結果から、ステップS107,S108のいずれかが実行される。ステップS107が実行される場合、放電デューティdcは値(1−dr)を採る。この場合、整流デューティdrは式(5)で示され、1よりも小さい。よってこの場合には放電デューティdcは0よりも大きい。
【0136】
またステップS108が実行される場合、放電デューティdcは式(10)で示される値を採る。Vdc>Vrecであれば整流デューティdrの値によらずに式(10)の右辺の分子は0より大きい。よってこの場合にも放電デューティdcは0よりも大きい。
【0137】
つまり、Vdc>Vrecであれば、必ずdc>0に設定されていることになる。
【0138】
なお、制御部9は、例えばマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成して実現できる。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御部9はこれに限らず、制御部9によって実行される各種手順(各測定値の取得、ステップS101〜S110の実行等)、あるいはこれを構成する各要素、又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0139】
≪実施例≫
以下、上記手法を用いたことの効果を示す実施例を示す。
【0140】
まず、指令値Vdc*が一定値を採る場合を二例説明し、その後に指令値Vdc*の望ましい値についての一例を説明する。
【0141】
<実施例1>
図6及び
図7はシミュレーションによって得られる諸元の波形を示すグラフである。但し、仮想直流リンク電圧Vdcは整流電圧Vrecの波高値(300V)の1/√2(212V)に設定した。またコンデンサ電圧Vcは整流電圧Vrecよりも高くかつ一定(400V)としている(以下同様)。
【0142】
図6の第1段目は、コンデンサ電圧Vc、整流電圧Vrec、仮想直流リンク電圧Vdc(これはその指令値Vdc*へ正確に追従していることと仮定している。以下同様)の波形を示す。
【0143】
図6の第2段目は整流電流irec(これはその指令値irec*へ正確に追従していることと仮定している。以下同様)、直流電流idc(これは、その推定値idc^によって正確に推定されていると仮定している。以下同様)の波形を示す。直流電流idcを一定値とすることにより、一定値を採る仮想直流リンク電圧Vdcと相まって、出力電力Poutが一定となる。
【0144】
図6の第3段目は整流電流irec、電流idirect(これは整流デューティdrと推定値idc^との積で求められる。以下同様)と、電流ib(これはその指令値ib*へ正確に追従していることと仮定している。以下同様)の波形を示す。
【0145】
図6の第4段目は整流デューティdr、放電デューティdc、零電圧デューティdzの波形を示す。
【0146】
図6の第5段目は直流電流idc、電流idirect、コンデンサ34から直流リンク7へと流れる電流ic(これは放電デューティdcと推定値idc^との積で求められる。以下同様)、零相電流iz(これは零電圧デューティdzと推定値idc^との積で求められる。以下同様)の波形を示す。
【0147】
図7の第1段目は、インバータ6が出力する出力電力Pout(これは、その推定値Pout^によって正確に推定されていると仮定している。以下同様)、整流電圧Vrecと電流idirectとで決定する電力Pdirect、コンデンサ34が放電する電力(放電電力)Pco、コンデンサ34に入出力する電力Pcの波形を示す。電力Pcは充電時には出力電力Poutを減少させるので負値となる。
【0148】
図7の第2段目は、入力電力Pin(これはその指令値Pin*へ正確に追従していることと仮定している。以下同様)、電力Pdirect、コンデンサ34に充電される電力(充電電力)Pci、電力Pcの波形を示す。
【0149】
図7の第3段目は、
図7の第1段目と第2段目から、コンデンサ34に関連する電力Pc,Pci,Pcoを抜き出して纏めたグラフである。
【0150】
図6及び
図7における「充電」期間では、コンデンサ34の充電が行われるが、放電は行われない(Pci>0,Pco=0)。具体的には「充電」期間は、仮想直流リンク電圧Vdcが整流電圧Vrec以下であり、かつ、ic=0(即ちdc=0)の場合であり、
図5のステップS106,S109が実行されている期間である。
【0151】
また、「放電」期間ではコンデンサ34の放電が行われるが、充電は行われない(Pco>0,Pci=0)。具体的には「放電」期間は、仮想直流リンク電圧Vdcが整流電圧Vrecよりも大きく、かつ、iz>0(即ちdz>0)の場合であり、
図5のステップS108,S110が実行されている期間である。
【0152】
そして「充放電」期間は、仮想直流リンク電圧Vdcが整流電圧Vrecよりも大きく、かつ、iz=0(即ちdz=0)の場合であり、
図5のステップS107,S109が実行されている期間である。「充放電」期間は、コンデンサ34を充電する電力Pciがコンデンサ34が放電する電力Pcoよりも大きい期間(即ちPc<0となる期間:これは「充電」期間と隣接し、「放電」期間と離隔する)とコンデンサ34が放電する電力Pcoがコンデンサ34を充電する電力Pciよりも大きい期間(即ちPc>0となる期間:これは「放電」期間と隣接し、「充電」期間と離隔する)とを有する。
【0153】
このように、「充放電」期間を設け、当該期間においてもコンデンサ34の充電を行うことにより、「充電」期間のみにおいてコンデンサを充電していた従来技術と比較して、電流ibの平均値あるいは実効値を低減することができる。これはインダクタ32に要求される定格電流を低減すること、引いては昇圧チョッパ3に要求される電力容量の低減に資する。
【0154】
但し、
図6及び
図7で示された場合では、仮想直流リンク電圧Vdcが整流電圧Vrecの波高値の1/√2倍に設定されていた。そこで、次に、整流電流irecを正弦波形にしつつ仮想直流リンク電圧Vdcを整流電圧Vrecの波高値の1/√2よりも高く設定できることが説明される。
【0155】
<実施例2>
図8及び
図9は、シミュレーションによって、本実施の形態の手法に従って制御した場合の、諸元の波形を示すグラフである。
図8は
図6に対応した諸元の波形を示す。
図9は、
図7のうち最下段に示されたグラフを除いた諸元の波形を示す。但し、整流電圧Vrecの波高値を
図6、
図7と同様に300Vとし、仮想直流リンク電圧Vdcを整流電圧Vrecの波高値と等しくし、かつ整流電流irecの波形を正弦波の絶対値とした場合を示す。
【0156】
このように仮想直流リンク電圧Vdcを整流電圧Vrecの波高値と等しくなると、dc=0となるのは位相が90度もしくは270度となる時点のみである。よって
図8及び
図9では「充電」期間は図示されていない。
【0157】
更に、仮想直流リンク電圧Vdcがコンデンサ電圧Vcよりも小さければ、常に整流電圧Vrecよりも大きくする制御も可能である。この場合、常にdc>0であり、
図5のフローチャートに即して言えば、ステップS106が実行される場合はない。もちろん、式(1)が成立するので、dr<1となる。
【0158】
実施例1,2から、仮想直流リンク電圧Vdcを整流電圧Vrecの波高値の1/√2倍以上に設定できることが判る。
【0159】
特に実施例2から判るように、整流電流irecの波形を正弦波の絶対値とすることができる。これは電源高調波の抑制に資する。
【0160】
<実施例3>
さて、実施例1で説明したように、仮想直流リンク電圧Vdcが整流電圧Vrecよりも大きい場合、dz=0となる「充放電」期間が存在する。他方、この期間においてインバータ6が出力する電圧Vinvは直流電圧ではなく、交流電圧である。よって仮想直流リンク電圧Vdcが一定値を採る場合には、dz=0であっても電圧Vinvが交流を実現するために、インバータ6は零電圧ベクトルで動作することになる。
【0161】
これはつまり、電圧Vinvに対して仮想直流リンク電圧Vdcが過大であることを意味しており、コンデンサ34が不要な充放電を行っていることになる。
【0162】
そこで次に、コンデンサ34の不要な充放電を低減し、昇圧チョッパ3の電力容量を低減するための仮想直流リンク電圧Vdcについて説明する。
【0163】
図10及び
図11は、いずれもインバータ6の指令値Vinv*としての三相の指令値Vu*,Vv*,Vw*及び仮想直流リンク電圧Vdcを上段に、インバータ6が指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいて電圧Vinvを出力した場合の線間電圧Vuv,Vvw,Vwuを下段に、それぞれ示している。但し、指令値Vu*,Vv*,Vw*はそれらのうちの最小相の電圧(最小値)を零としている。また両者に共通する横軸は交流電圧Vinの位相であり、ここでは交流電圧Vinの周期が線間電圧Vuv,Vvw,Vwuの周期の二倍である場合を例示している。
【0164】
図10は仮想直流リンク電圧Vdcが一定値を採る場合を示す。当該一定値は三相の指令値のうちの最小相の電圧を基準として指令値Vu*,Vv*,Vw*が取り得る最大の値(以下、この値を値V2とする)である。
【0165】
位相が(15+30・n)度(nは整数)である近傍において、仮想直流リンク電圧Vdcは指令値Vu*,Vv*,Vw*よりも大きく、従って線間電圧Vuv,Vvw,Vwuに必要な電圧以上の値となっていることが判る。このような場合には、dz=0であったとしても、仮想直流リンク電圧Vdcよりも低い電圧を出力するために、インバータ6は零電圧ベクトルを採用することになる。
【0166】
つまり位相が(15+30・n)度(nは整数)である近傍において、仮想直流リンク電圧Vdcはインバータ6の動作に鑑みて不要に高く設定されている。従ってこのように不必要に高い仮想直流リンク電圧Vdcを得るために不必要な放電が行われていることになる。
【0167】
よって仮想直流リンク電圧Vdcの指令値Vdc*を指令値Vu*,Vv*,Vw*に対して不必要に高めることなく設定すれば、コンデンサ34の不必要な放電を低減し、引いてはコンデンサ34の不必要な充電を低減することになる。
【0168】
これを
図5のフローチャートに即して説明する。今、dz=0となる場合における改善を考察しているのであるから、dz=0に設定するステップS107へと到達するステップS103を考察する。通常はVc>Vrec,Vc>Vdc*であるので、指令値Vdc*が小さいほどdr_maxは大きい。よって指令値Vdc*が小さいほど、ステップS107で設定される整流デューティdrは大きく、放電デューティdcは小さい。コンデンサ電圧Vcは一定と見なせるので、放電デューティが小さいことは、電流icも小さいこととなる。
【0169】
更に、ステップS107の後に処理されるステップS109についても考察する。上述のように指令値Vdc*が小さいほど整流デューティdrが大きい。また出力電力Poutを一定にすることから指令値Vdc*の脈動によって直流電流idcも脈動する。具体的には指令値Vdc*が小さいほど直流電流idcは大きい。よって指令値Vdc*が小さいほど整流デューティdrと直流電流idcの両方が大きく、整流電流irecは正弦波として指令値Vdc*に依存させないので、電流ibは小さい。
【0170】
このような電流ib,icの低減は、インダクタ32およびコンデンサ34に要求される電力容量の低減、引いてはそれらの小型化、コストダウン、発熱量低下による効率向上、更には昇圧チョッパ3に要求される電力容量の低減に資する。
【0171】
具体的には指令値Vdc*には、指令値Vu*,Vv*,Vw*の中で、最小相を基準として最も値の大きいものを採用すればよい。インバータ6は仮想直流リンク電圧Vdcを越えて大きな電圧を出力できない一方、仮想直流リンク電圧Vdcは指令値Vu*,Vv*,Vw*の中で最小相を基準として最も値の大きいものを採用すれば足りるからである。
【0172】
即ち、指令値Vdc*は、V1=max(Vu*,Vv*,Vw*)−min(Vu*,Vv*,Vw*)を採ればよい。ここで記号「max()」はかっこ内の要素の中で最大のものを指し、記号「min()」はかっこ内の要素の中で最小のものを指す。
【0173】
通常の制御の下では、インバータ6が出力する相電圧Vu,Vv,Vwは、それぞれ指令値Vu*,Vv*,Vw*と一致する。よってV1=max(Vu,Vv,Vw)−min(Vu,Vv,Vw)として求めることができる。これは線間電圧Vuv,Vvw,Vwuを用いて、V1=max(|Vuv|,|Vvw|,|Vwu|)として求めることもできる。
【0174】
同様にして、値V2はインバータ6が出力する相電圧Vu,Vv,Vwが、それらのうちの最小相を基準としてとり得る最大値として求めることができる。これはつまり、線間電圧Vuv,Vvw,Vwuのそれぞれの絶対値|Vuv|,|Vvw|,|Vwu|がとり得る最大値として求めることもできる。
【0175】
図11は指令値Vdc*が値V1を採る場合を示す。この場合においても、指令値Vu*,Vv*,Vw*は
図10と同じ値を採り得るので、線間電圧Vuv,Vvw,Vwuも
図10と
図11とでは異ならない。
【0176】
もちろん、指令値Vdc*が値V1より大きい値を採ってもよい。
図10に示された場合は、指令値Vdc*が値V1より大きな値V2を採っているのであるから、V1≦Vdc*≦V2であればよい。
【0177】
より正確には、指令値Vu*,Vv*,Vw*が最小相を基準として最大となる位相(
図10及び
図11に即して言えば(30・n)度)においてはVdc*=V2であり、それ以外の位相ではV1≦Vdc*<V2であることが望ましい。
【0178】
このような指令値Vdc*の設定は
図4に示された仮想直流リンク電圧指令値生成器98において行うことができる。
【0179】
図12は
図8に対応した諸元の、実施例3における波形を示す。
図13は、
図9に対応した諸元と、線間電圧の波形とを示す。なお、ここでは図の繁雑を避けるため、線間電圧Vuv,Vvw,Vwuの周期を交流電圧Vinの周期の半分とし、線間電圧Vuv,Vvw,Vwuの振幅を交流電圧Vinの振幅と等しくしている。
【0180】
指令値Vdc*の変動に対応して直流電流idcが変動するものの、整流電流irecの波形を正弦波の絶対値にできていることが判る。また、
図5を用いて説明したように、指令値Vdc*が低下する位相で電流ib,icも低下する。
【0181】
図14は電流ibについて実施例2、3を比較するグラフである。実施例2における電流ibを電流ib1として、実施例3における電流ibを電流ib2として、それぞれ示した。電流ib2は常に電流ib1以下であり、電流ib2の実効値や平均値は電流ib1の実効値や平均値よりも小さいことが理解される。
【0182】
図15は電流icについて実施例2、3を比較するグラフである。実施例2における電流icを電流ic1として、実施例3における電流icを電流ic2として、それぞれ示した。電流ic2は常に電流ic1以下であり、電流ic2の実効値や平均値は電流ic1の実効値や平均値よりも小さいことが理解される。
【0183】
電流ib2,ic2のいずれも、指令値Vdc*が低下する位相(15+30・n)度近傍で低下することが判る。
【0184】
次に、このようにdz=0となる期間におけるインバータ6の動作が説明される。
【0185】
図16及び
図17はいずれも、キャリアCYおよびキャリアCYとの比較対象となる信号波と、スイッチGcの動作と、直流電流idcと直流リンク電圧間の瞬時値Vlinkと、出力電力Poutと、後述する各相のスイッチング状態とを示すグラフである。ここではキャリアCYの最小値が0とされ、最大値が1とされている。信号波の生成には値du*,dv*,dw*が採用され、これらは周知の技術によってインバータ6の指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいて設定される。具体的にはdu*=Vu*/Vdc*,dv*=Vv*/Vdc*,dw*=Vw*/Vdc*である。
【0186】
これらの図のいずれにおいても、インバータ6が出力するU相電圧が最小相であり、W相電圧が最大相であり、Vu*<Vv*<Vw*が成立し、かつ指令値Vv*,Vw*のいずれもがピークを採っていない領域(位相に換算して135度以上150度未満、150度より大きく165度以下、315度以上330度未満、330度より大きく345度以下の区間:
図10参照)での動作が例示されている。かかる場合にはVu*=0であり、またdz=0である(
図12も参照)。
【0187】
期間tcはスイッチGcがオンする期間であり、従って期間tcではコンデンサ34が放電し、瞬時値Vlinkはコンデンサ電圧Vcを呈し、電力Pcoが出力電力Poutとなる。期間trはスイッチGcがオフする期間であり、従って期間trでは瞬時値Vlinkは整流電圧Vrecを呈し、電力Pdirectが出力電力Poutとなる。
【0188】
キャリアCYと、信号波との比較によって、制御信号Sgが決定され、ひいてはインバータ6のスイッチング動作が決定される。具体的には、例えばインバータ6は三相電圧形インバータであって、相毎に電流経路(レグ)を有する。それぞれのレグはアッパーアームとローワーアームとの直列接続を有しており、アッパーアームとローワーアームには、互いに排他的に導通するスイッチが採用される(
図1参照)。
【0189】
より具体的には、U相のレグにおいては、キャリアCYが信号波dr・du*以下であるか、もしくは信号波dr+dc・(1−du*)以上であるときにアッパーアームが導通し、ローワーアームが非導通となる。それ以外の場合にはローワーアームが導通し、アッパーアームが非導通となる。V相のレグ、W相のレグについても同様である。
【0190】
このような導通/非導通を決定する制御信号Sgはパルス幅変調信号生成器94において生成される。キャリアCYは例えばパルス幅変調信号生成器94において生成される。
【0191】
図16及び
図17のそれぞれの最も下方に配置される三行には、インバータ6のU相、V相、W相におけるスイッチング状態が示される。この三行において記号“H”はアッパーアームが導通し、ローワーアームが非導通となる状態を示し、記号“L”はローワーアームが導通し、アッパーアームが非導通となる状態を示す。
【0192】
上述の位相の領域ではVu*=0であり、信号波dr・du*=0,dr+dc・(1−du*)=1(∵dz=0)であるので、U相についてはローワーアームが導通し続けている場合が例示されている。つまり当該領域においてはU相のレグでのスイッチングは生じない。
【0193】
かかる場合において、
図10で示されるようにVdc*>Vw*であれば、
図16に示されるように、信号波においてdr+dc・(1−dw*)<dr<dr・dw*の関係がある。但しdz=0を考慮した。よって指令値dr+dc・(1−dw*),dr・dw*の差(1−dw*)に相当する幅を有する区間t0が存在する。この区間t0では、dz=0であるものの、インバータ6が零電圧ベクトルを採用する期間である。
【0194】
区間t0ではインバータ6が零電圧ベクトルを採用するので、直流電流idcは0となり、よって出力電力Poutの瞬時値も0となる。これにも拘わらず、区間t0ではスイッチGcが導通して瞬時値Vlinkが増大する期間があり、当該期間におけるコンデンサ34の放電はインバータ6の動作に鑑みて不要な放電となる。
【0195】
図16に示された場合と
図17に示された場合とで、指令値が等しければ、
図11で示されるようにVdc*=Vw*とすることにより、瞬時値Vlinkがコンデンサ電圧Vcを採る期間が短くなる。つまり期間tcが短くなる。これは上述の放電デューティdcの減少に由来する。
【0196】
Vdc*=Vw*とすると、上述の位相の領域においてW相のレグでは常にアッパーアームを導通させることになる。つまりW相のレグではスイッチング動作が不要となる。つまり指令値のうち最小のもの(ここでは指令値Vu*)に基づいたスイッチングが不要であるのみならず、最大のもの(ここでは指令値Vw*)に基づいたスイッチングも不要となる。よって
図16とは異なり、
図17に示されるように、区間t0は存在しない。
【0197】
dz=0であるので、期間tcが短くなると期間trが長くなり、期間trにおける出力電力Pout(つまり電力Pdirect)は大きくなり、期間tcにおける出力電力Pout(つまり電力Pco)は小さくなる。しかし、指令値Vdc*を低減しても出力電力Poutの平均は維持できる。
【0198】
このように期間tcを短くして期間trを短くする効果は、区間t0が存在していてもその長さが短くなれば得られる。よって必ずしも常にVdc*=V1(上述の例ではVw*)ではなくても得られる。
【0199】
このようにして指令値Vdc*を値V1以上値V2以下に設定することにより、直接形交流電力変換装置からの出力電圧を従来よりも高めつつ、放電デューティdcを小さくし、電流ic,ibを低減し、昇圧チョッパ及びその構成要素たるコンデンサ34及びインダクタ32に要求される電力容量を低減することができる。通常の制御では仮想直流リンク電圧Vdcが指令値Vdc*を採るので、仮想直流リンク電圧Vdcが値V1以上値V2以下にあれば上述の効果が得られる。
【0200】
特に指令値Vdc*を値V1に設定することにより、インバータ6の三相のレグのうち、二相についてのスイッチング動作が不要となる。これは制御信号Sgの生成において実質的にその二相分が省略される点で望ましいのみならず、インバータ6のスイッチング損失を低減する観点でも望ましい。
【0201】
もちろん、指令値Vdc*が常に値V1に設定されなくても、その設定された期間においてインバータ6のスイッチング損失が低減する。換言すれば、指令値Vdc*が値V1に設定される期間が存在することは、インバータ6のスイッチング損失の低減に資する。
【0202】
通常の制御では仮想直流リンク電圧Vdcが指令値Vdc*を採る。よって仮想直流リンク電圧Vdcが値V1を採る期間が存在すれば、インバータ6のスイッチング損失が低減する。