(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939367
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】密封構造及び密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/18 20060101AFI20160609BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
F16J15/18 D
F16J15/10 T
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-563006(P2015-563006)
(86)(22)【出願日】2015年5月15日
(86)【国際出願番号】JP2015064015
(87)【国際公開番号】WO2015182408
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2016年2月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-111621(P2014-111621)
(32)【優先日】2014年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100096873
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 廣泰
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】波多野 誠
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−234747(JP,A)
【文献】
特開2013−119884(JP,A)
【文献】
特開2011−169725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00 − 15/30
F16J 15/46 − 15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に環状溝を有する軸と、
該軸が挿通される軸孔を有するハウジングと、
前記環状溝に装着され、前記軸と軸孔との間の環状隙間を密封する密封装置と、
を備える密封構造において、
前記環状溝の溝底における密封対象流体側とは反対側には、密封対象流体側から該反対側に向かうにつれて拡径するテーパ面が設けられており、
前記密封装置は、
前記環状溝のうち密封対象流体側に装着されるゴム状弾性体製のOリングと、
前記環状溝のうち前記Oリングに対して前記反対側に装着され、該Oリングの前記環状溝の外側へのはみ出しを抑制する樹脂製のバックアップリングと、を備えると共に、
前記バックアップリングは、環状かつ板状の胴体部と、該胴体部の外周面側で密封対象流体側に向かって突出する環状突出部と、を有しており、
前記胴体部の内周面は、前記環状溝の溝底に設けられたテーパ面に対して、このテーパ面の範囲内で摺動自在なテーパ面で構成されており、
前記環状突出部の内周面は密封対象流体側に向かって徐々に拡径する傾斜面で構成されていることを特徴とする密封構造。
【請求項2】
軸の外周面に形成された環状溝に装着され、前記軸と該軸が挿通される軸孔を有するハウジングとの間の環状隙間を密封する密封装置において、
前記環状溝の溝底における密封対象流体側とは反対側には、密封対象流体側から該反対側に向かうにつれて拡径するテーパ面が設けられており、
前記環状溝のうち密封対象流体側に装着されるゴム状弾性体製のOリングと、
前記環状溝のうち前記Oリングに対して前記反対側に装着され、該Oリングの前記環状溝の外側へのはみ出しを抑制する樹脂製のバックアップリングと、を備えると共に、
前記バックアップリングは、環状かつ板状の胴体部と、該胴体部の外周面側で密封対象流体側に向かって突出する環状突出部と、を有しており、
前記胴体部の内周面は、前記環状溝の溝底に設けられたテーパ面に対して、このテーパ面の範囲内で摺動自在なテーパ面で構成されており、
前記環状突出部の内周面は密封対象流体側に向かって徐々に拡径する傾斜面で構成されていることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸とハウジングとの間の環状隙間を密封する密封構造及び密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧環境下で用いられる密封装置として、ゴム状弾性体製のOリングと、樹脂製のバックアップリングとを備える密封装置が広く知られている。
図7及び
図8を参照して、このような従来例1に係る密封装置について説明する。
図7及び
図8は従来例1に係る密封構造の模式的断面図である。なお、
図7は密封装置を介して両側の流体圧力の差圧が生じていない状態を示し、
図8は密封装置を介して両側の流体圧力の差圧が生じている状態を示している。
【0003】
密封装置500は、軸200とハウジング300との間の環状隙間を密封する役割を担っている。この密封装置500は、軸200の外周面に形成された環状溝210に装着される。そして、密封装置500は、ゴム状弾性体製のOリング510と、樹脂製のバックアップリング520とから構成される。Oリング510は、環状溝210のうち密封対象流体側(A)に装着され、バックアップリング520は、環状溝210のうちOリング510に対して密封対象流体側(A)とは反対側に装着される。(以下、説明の便宜上、密封対象流体側(A)とは反対側を、「反対側(B)」と称する。)このバックアップリング520は、Oリング510の環状溝210の外側へのはみ出しを抑制する役割を担っている。
【0004】
この従来例に係る密封構造においては、環状溝210の溝底における反対側(B)には、密封対象流体側(A)から反対側(B)に向かうにつれて拡径するテーパ面211が設けられている。そして、バックアップリング520の内周面は、環状溝210の溝底に設けられたテーパ面211に対して摺動自在なテーパ面521で構成されている。これにより、軸200の偏心に伴い、環状溝210の溝底とハウジング300の軸孔内周面との間の距離が変化しても、バックアップリング520が軸線方向に移動することで、バックアップリング520とテーパ面211との間、及びバックアップリング520とハウジング300の軸孔内周面との間に隙間が形成されてしまうことを抑制することができる。このように、この従来例に係る密封装置500及び密封構造においては、軸200が偏心してしまう条件下でも、安定的に密封性を維持できていた。
【0005】
しかしながら、例えば、インジェクターの配管内のように、流体圧力が周期的に変動する環境下で密封装置500が用いられる場合、Oリング510に摩耗が発生し、密封性能が低下してしまう現象が生じていた。以下、この現象について説明する。
【0006】
密封対象流体側(A)と反対側(B)で流体圧力の差圧が生じていない場合には、Oリング510における反対側(B)の内周部分や外周部分はバックアップリング520から離れた状態となる(
図7参照)。これに対して、密封対象流体側(A)の流体圧力が、反対側(B)の流体圧力よりも高くなると、Oリング510における反対側(B)の部分が変形し、Oリング510とバックアップリング520との間には隙間がなくなる(
図8参照)。流体圧力が周期的に変動する環境下では、このようなOリング510の変形が繰り返し行われる。これにより、
図8に示すX部分において、Oリング510の摩耗が進行する現象が発生することが分かっている。特に、密封対象流体側(A)の流体圧力が高圧になる環境下で、このような現象が顕著に発生している。
【0007】
これは、Oリング510の一部が部分的に伸ばされ、歪が大きくなった状態となり、当該一部がバックアップリング520及びハウジング300の軸孔内周面に突き当たる動作が繰り返されることが原因と推定される。なお、バックアップリング520及びハウジング300は、Oリング510よりも硬度が高く、かつ表面粗さが大きいため、Oリング510に摩耗が生じ易いと考えられる。
【0008】
また、流体圧力を受けた際において、Oリングの変形量を抑制する技術も知られている。このような従来例2に係る密封装置について、
図9を参照して説明する。
図9は従来例2に係る密封構造の模式的断面図である。
【0009】
この従来例に係る密封装置600も、軸200の外周面に形成された環状溝210に装着される。そして、この密封装置600も、ゴム状弾性体製のOリング610と、樹脂製のバックアップリング620とから構成される。Oリング610は、環状溝210のうち密封対象流体側(A)に装着され、バックアップリング620は、環状溝210のうちOリング610に対して密封対象流体側(A)とは反対側(B)に装着される。
【0010】
この従来例に係る密封装置600の場合には、バックアップリング620における密封対象流体側(A)の端面が、その断面形状が円弧となる湾曲面となるように構成されている。また、当該円弧の曲率半径は、Oリング610の断面形状における円の半径と同程度となるように設計されている。従って、Oリング610が、バックアップリング620から離れた状態からバックアップリング620に密着した状態となっても、Oリング610はあまり変形しない。従って、上記従来例1の場合のように、流体圧力が周期的に変動することに伴うOリングの摩耗の問題は生じ難い。
【0011】
しかしながら、この密封装置600の場合には、軸200の偏心に伴い、環状溝210の溝底とハウジング300の軸孔内周面との間の距離が変化すると、バックアップリング620と溝底との間、及びバックアップリング620とハウジング300の軸孔内周面との間に隙間が形成されてしまう。従って、Oリング610の一部が、バックアップリング620と溝底との間、又はバックアップリング620とハウジング300の軸孔内周面との間に挟み込まれて破損してしまうおそれがある。
【0012】
また、この従来例に係るバックアップリング620の場合、内周面側と外周面側のいずれも、密封対象流体側(A)の先端が尖った形状で構成される。そのため、このバックアップリング620は金型成形により得られるが、寸法精度を高くするのが困難という問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−315925号公報
【特許文献2】特開平11−72162号公報
【特許文献3】特開2006−336835号公報
【特許文献4】実開昭64−24766号公報
【特許文献5】実開昭59−165984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、軸の偏心に対しても密封性を維持し、かつ流体圧力が周期的に変動する環境下でも長期に亘って密封性を維持することのできる密封構造及び密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0016】
すなわち、本発明の密封構造は、
外周面に環状溝を有する軸と、
該軸が挿通される軸孔を有するハウジングと、
前記環状溝に装着され、前記軸と軸孔との間の環状隙間を密封する密封装置と、
を備える密封構造において、
前記環状溝の溝底における密封対象流体側とは反対側には、密封対象流体側から該反対側に向かうにつれて拡径するテーパ面が設けられており、
前記密封装置は、
前記環状溝のうち密封対象流体側に装着されるゴム状弾性体製のOリングと、
前記環状溝のうち前記Oリングに対して前記反対側に装着され、該Oリングの前記環状溝の外側へのはみ出しを抑制する樹脂製のバックアップリングと、を備えると共に、
前記バックアップリングは、環状かつ板状の胴体部と、該胴体部の外周面側で密封対象流体側に向かって突出する環状突出部と、を有しており、
前記胴体部の内周面は、前記環状溝の溝底に設けられたテーパ面に対して、このテーパ面の範囲内で摺動自在なテーパ面で構成されており、
前記環状突出部の内周面は密封対象流体側に向かって徐々に拡径する傾斜面で構成されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の密封装置は、
軸の外周面に形成された環状溝に装着され、前記軸と該軸が挿通される軸孔を有するハウジングとの間の環状隙間を密封する密封装置において、
前記環状溝の溝底における密封対象流体側とは反対側には、密封対象流体側から該反対側に向かうにつれて拡径するテーパ面が設けられており、
前記環状溝のうち密封対象流体側に装着されるゴム状弾性体製のOリングと、
前記環状溝のうち前記Oリングに対して前記反対側に装着され、該Oリングの前記環状溝の外側へのはみ出しを抑制する樹脂製のバックアップリングと、を備えると共に、
前記バックアップリングは、環状かつ板状の胴体部と、該胴体部の外周面側で密封対象流体側に向かって突出する環状突出部と、を有しており、
前記胴体部の内周面は、前記環状溝の溝底に設けられたテーパ面に対して、このテーパ面の範囲内で摺動自在なテーパ面で構成されており、
前記環状突出部の内周面は密封対象流体側に向かって徐々に拡径する傾斜面で構成されていることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、バックアップリングが装着される環状溝の溝底における密封対象流体側とは反対側には、密封対象流体側から該反対側に向かうにつれて拡径するテーパ面が設けられている。そして、バックアップリングにおける胴体部の内周面は、このテーパ面に対して摺動自在なテーパ面で構成されている。これにより、軸の偏心に伴い、環状溝の溝底とハウジングの軸孔内周面との間の距離が変化しても、バックアップリングが軸線方向に移動することで、バックアップリングと環状溝の溝底におけるテーパ面との間、及びバックアップリングとハウジングの軸孔内周面との間に隙間が形成されてしまうことを抑制することができる。
【0019】
また、本発明におけるバックアップリングは、胴体部の外周面側で密封対象流体側に向かって突出する環状突出部を有しており、この環状突出部の内周面は密封対象流体側に向かって徐々に拡径する傾斜面で構成されている。従って、流体圧力により、Oリングがバックアップリングに密着する場合、Oリングにおける密封対象流体側とは反対側の外周部分は、環状突出部における傾斜面に密着する。そして、本発明におけるバックアップリングにおける胴体部の内周面は、環状溝の溝底に設けられたテーパ面に対して、このテーパ面の範囲内で摺動自在なテーパ面で構成されている。従って、流体圧力により、Oリングがバックアップリングに密着する場合、Oリングにおける密封対象流体側とは反対側の内周部分は、環状溝の溝底に設けられたテーパ面に密着する。
【0020】
以上より、Oリングがバックアップリングから離れた状態からバックアップリングに密着した状態となっても、Oリングをあまり変形しないようにすることが可能となる。従って、流体圧力が周期的に変動する環境下で密封装置が用いられた場合でも、Oリングが摩耗してしまうことを抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、軸の偏心に対しても密封性を維持し、かつ流体圧力が周期的に変動する環境下でも長期に亘って密封性を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は本発明の実施例1に係る密封装置の模式的断面図である。
【
図2】
図2は本発明の実施例1に係る密封構造の模式的断面図である。
【
図3】
図3は本発明の実施例1に係る密封構造の模式的断面図である。
【
図4】
図4は本発明の実施例2に係る密封装置の模式的断面図である。
【
図5】
図5は本発明の実施例3に係る密封装置の模式的断面図である。
【
図6】
図6は参考例に係る密封構造の模式的断面図である。
【
図7】
図7は従来例1に係る密封構造の模式的断面図である。
【
図8】
図8は従来例1に係る密封構造の模式的断面図である。
【
図9】
図9は従来例2に係る密封構造の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0024】
(実施例1)
図1〜
図3を参照して、本発明の実施例1に係る密封装置及び密封構造について説明する。
図1は本発明の実施例1に係る密封装置の模式的断面図である。なお、
図1においては、密封装置100を構成するOリング10とバックアップリング20について、それぞれ一部を破断した断面図を示している。
図2及び
図3は本発明の実施例1に係る密封構造の模式的断面図である。なお、
図2は密封装置を介して両側の流体圧力の差圧が生じていない状態を示し、
図3は密封装置を介して両側の流体圧力の差圧が生じている状態を示している。
【0025】
<密封装置>
密封装置100の構成について説明する。本実施例に係る密封装置100は、ゴム状弾性体製のOリング10と樹脂製のバックアップリング20とから構成される。バックアップリング20の材料としては、ナイロン,ポリフェニレンサルファイド(PPS),ポリアセタール(POM),ポリアミド(PA),ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの硬質の樹脂材の他、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などの軟質の樹脂材を採用し得る。
【0026】
本実施例に係る密封装置100は、軸200の外周面に形成された環状溝210に装着される。そして、Oリング10は、環状溝210のうち密封対象流体側(A)に装着され、バックアップリング20は、環状溝210のうちOリング10に対して密封対象流体側(A)とは反対側に装着される。このバックアップリング20は、Oリング10の環状溝210の外側へのはみ出しを抑制する役割を担っている。なお、以下、説明の便宜上、密封対象流体側(A)とは反対側を、「反対側(B)」と称する。
【0027】
バックアップリング20は、環状かつ板状の胴体部21と、胴体部21の外周面側で密封対象流体側(A)に向かって突出する環状突出部23と、を有している。なお、胴体部21の両面(密封対象流体側(A)の面と反対側(B)の面)はいずれも平面である。そして、胴体部21の内周面はテーパ面22で構成されている。ここで、軸200の環状溝210の溝底における反対側(B)には、密封対象流体側(A)から反対側(B)に向かうにつれて拡径するテーパ面211が設けられている。バックアップリング20の胴体部21の内周面であるテーパ面22は、この環状溝210の溝底に設けられたテーパ面211に対して、このテーパ面211の範囲内で摺動自在となるように構成されている。言い換えれば、胴体部21の内周面であるテーパ面22が、環状溝210におけるテーパ面211が設けられている範囲よりも、密封対象流体側(A)に移動してしまうことはない。これにより、Oリング10が流体圧力を受けてバックアップリング20に密着した状態となる場合には、Oリング10における反対側(B)の内周部分は、環状溝210の溝底に設けられたテーパ面211に密着するようになっている。
【0028】
また、本実施例に係るバックアップリング20における環状突出部23の内周面は、密封対象流体側(A)に向かって徐々に拡径する傾斜面としてのテーパ面24で構成されている。
【0029】
<密封構造>
本実施例に係る密封構造について説明する。本実施例に係る密封構造は、外周面に環状溝210を有する軸200と、この軸200が挿通される軸孔を有するハウジング300と、これら軸200とハウジング300との間の環状隙間を密封する密封装置100とから構成される。より具体的には、密封装置100は、軸200に設けられた環状溝210に装着され、軸200とハウジング300に設けられた軸孔との間の環状隙間を密封する。
【0030】
また、上記の通り、密封装置100におけるOリング10は、環状溝210のうち密封対象流体側(A)に装着される。そして、バックアップリング20は、環状溝210のうちOリング10に対して密封対象流体側(A)とは反対側(B)に装着される。このとき、バックアップリング20における胴体部21の内周面(テーパ面22)が、環状溝210の溝底に設けられたテーパ面211に対して、このテーパ面211の範囲内で摺動自在となるように構成される。
【0031】
以上のように構成される密封構造においては、密封対象流体側(A)と反対側(B)で流体圧力の差圧が生じていない場合には、Oリング10における反対側(B)の内周部分や外周部分はバックアップリング20から離れた状態となる(
図2参照)。これに対して、密封対象流体側(A)の流体圧力が、反対側(B)の流体圧力よりも高くなると、Oリング10における反対側(B)の部分が変形し、Oリング10とバックアップリング20との間には隙間がなくなる(
図3参照)。つまり、Oリング10の反対側(B)の端部付近は、バックアップリング20における胴体部21の密封対象流体側(A)の面に密着する。また、Oリング10における反対側(B)の内周部分は、環状溝210の溝底に設けられたテーパ面211に密着する。更に、Oリング10における反対側(B)の外周部分は、バックアップリング20における環状突出部23の内周面(テーパ面24)に密着する。
【0032】
<本実施例に係る密封構造及び密封装置の優れた点>
以上のように、本実施例に係る密封構造及び密封装置100によれば、バックアップリング20における胴体部21の内周面(テーパ面22)が、環状溝210の溝底に設けられたテーパ面211に対して摺動自在となるように構成される。これにより、軸200の偏心に伴い、環状溝210の溝底とハウジング300の軸孔内周面との間の距離が変化しても、バックアップリング20が軸線方向に移動することで、バックアップリング20とテーパ面211との間、及びバックアップリング20とハウジング300の軸孔内周面との間に隙間が形成されてしまうことを抑制することができる。従って、Oリング10の一部が、バックアップリング20と溝底との間、又はバックアップリング20とハウジング300の軸孔内周面との間に挟み込まれて破損してしまうことを抑制できる。このように、本実施例に係る密封構造及び密封装置100によれば、軸200が偏心してしまう条件下でも、安定的に密封性を維持することができる。
【0033】
また、本実施例においては、密封対象流体側(A)の流体圧力が、反対側(B)の流体圧力よりも高くなると、Oリング10における反対側(B)の内周部分は、環状溝210の溝底に設けられたテーパ面211に密着し、Oリング10における反対側(B)の外周部分は、バックアップリング20における環状突出部23の内周面(テーパ面24)に密着する。これにより、Oリング10がバックアップリング20から離れた状態からバックアップリング20に密着した状態となっても、Oリング10はあまり変形しない。そのため、例えば、インジェクターの配管など、流体圧力が周期的に変動する環境下で密封装置100が用いられた場合でも、Oリング10が摩耗してしまうことを抑制できる。従って、本実施例に係る密封構造及び密封装置100によれば、流体圧力が周期的に変動する環境下でも長期に亘って密封性を維持することができる。
【0034】
なお、バックアップリング20における胴体部21は、薄いほど偏心追随性に優れる。また、バックアップリング20における環状突出部23は、突出量が大きいほどOリング10の変形量を少なくすることができる。胴体部21の厚み(軸線方向の厚み)については、例えば、0.7mm以上1.5mm以下の範囲で設定するとよい。また、バックアップリング20における環状突出部23が設けられている部分の最大厚み(外周面の部分の軸線方向の厚み)については、例えば、1.5mm以上3.0mm以下の範囲で設定するとよい。なお、この環状突出部23は肉厚が厚くなるほど、変形し難くなり、バックアップリング20の外周面側の一部が環状溝210の外側にはみ出してしまうことが抑制される。従って、バックアップリング20の材料として、硬質の樹脂材料に比べて変形し易い軟質の樹脂材料を適用した場合には、この環状突出部23の肉厚を厚くすると効果的である。
【0035】
(実施例2)
図4には、本発明の実施例2が示されている。本実施例においては、バックアップリングの構成が、上記実施例1とは異なる場合について説明する。基本的な構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
図4は本発明の実施例2に係る密封装置の模式的断面図である。
【0036】
本実施例に係る密封装置100も、上記実施例1の場合と同様に、ゴム状弾性体製のOリング10と樹脂製のバックアップリング20とから構成される。Oリング10については、実施例1に係るOリング10と同一の構成であるので、その説明は省略する。また、本実施例に係るバックアップリング20に適用可能な材料についても、上記実施例1で説明した通りである。
【0037】
本実施例に係るバックアップリング20も、上記実施例1の場合と同様に、環状かつ板状の胴体部21と、胴体部21の外周面側で密封対象流体側に向かって突出する環状突出部23と、を有している。そして、胴体部21の内周面はテーパ面22で構成されている。また、本実施例に係るバックアップリング20における環状突出部23の内周面は密封対象流体側に向かって徐々に拡径する傾斜面としてのテーパ面24で構成されている。
【0038】
そして、本実施例に係るバックアップリング20においては、胴体部21における密封対象流体側の平面部分と、環状突出部23の内周面(テーパ面24)とが、湾曲面25により繋がるように構成されている。このように、湾曲面25が設けられている点のみが、上記実施例1に係るバックアップリング20と異なっている。上記実施例1に係るバックアップリング20の場合、バックアップリング20の材料として硬質の樹脂材料を採用すると、胴体部21における密封対象流体側の平面部分と、環状突出部23の内周面(テーパ面24)との交わり部分に亀裂が生じ易くなってしまうことが懸念される。これに対して、本実施例に係るバックアップリング20のように、胴体部21における密封対象流体側の平面部分と、環状突出部23の内周面(テーパ面24)とを湾曲面25により繋げることで、亀裂の発生を抑制させることができる。
【0039】
密封構造については、上記実施例1における密封構造と同様であるので、その説明は省略する。
【0040】
以上のように、本実施例に係る密封構造及び密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。また、本実施例の場合には、バックアップリング20の材料として、硬質の樹脂材料を採用した場合でも、胴体部21における密封対象流体側の平面部分と、環状突出部23の内周面(テーパ面24)との間に亀裂が生じてしまうことを抑制することができる。従って、バックアップリング20の材料として、一般的に安価なナイロンを採用することもできる。
【0041】
(実施例3)
図5には、本発明の実施例3が示されている。本実施例においては、バックアップリングの構成が、上記実施例1とは異なる場合について説明する。基本的な構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
図5は本発明の実施例3に係る密封装置の模式的断面図である。
【0042】
本実施例に係る密封装置100も、上記実施例1の場合と同様に、ゴム状弾性体製のOリング10と樹脂製のバックアップリング20とから構成される。Oリング10については、実施例1に係るOリング10と同一の構成であるので、その説明は省略する。また、本実施例に係るバックアップリング20に適用可能な材料についても、上記実施例1で説明した通りである。
【0043】
本実施例に係るバックアップリング20も、上記実施例1の場合と同様に、環状かつ板状の胴体部21と、胴体部21の外周面側で密封対象流体側に向かって突出する環状突出部23と、を有している。そして、胴体部21の内周面はテーパ面22で構成されている。
【0044】
そして、本実施例に係るバックアップリング20においては、環状突出部23の内周面が、テーパ面ではなく、断面が円弧状となる傾斜面(湾曲面26)により構成されている。このように、環状突出部23の内周面が、テーパ面ではなく、湾曲面26により構成されている点のみが、上記実施例1に係るバックアップリング20と異なっている。この湾曲面26は、胴体部21における密封対象流体側の平面部分に滑らかに繋がっている。
【0045】
密封構造については、上記実施例1における密封構造と同様であるので、その説明は省略する。
【0046】
以上のように、本実施例に係る密封構造及び密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。また、本実施例の場合には、環状突出部23の内周面である湾曲面26が、胴体部21における密封対象流体側の平面部分に滑らかに繋がっているので、上記実施例2の場合と同様の効果を得ることができる。
【0047】
(参考例)
図6を参照して、参考例に係る密封装置及び密封構造について説明する。
図6は参考例に係る密封構造の模式的断面図である。なお、
図6は密封装置を介して両側の流体圧力の差圧が生じていない状態を示している。
【0048】
この参考例に係る密封装置400も、上記実施例1の場合と同様に、ゴム状弾性体製のOリング410と樹脂製のバックアップリング420とから構成される。Oリング410については、実施例1に係るOリング10と同一の構成である。また、本参考例に係るバックアップリング420に適用可能な材料についても、上記実施例1で説明した通りである。
【0049】
本参考例に係るバックアップリング420は、環状の胴体部421を備えている。この胴体部421の内周面がテーパ面422で構成されている点については、上記実施例1に係るバックアップリング20の場合と同様である。そして、本参考例においては、胴体部421における密封対象流体側(A)の面全体が、平面ではなく、断面が円弧状の湾曲面425により構成されている。これにより、胴体部421の外周面側と内周面側に、それぞれ密封対象流体側(A)に向かって突出する環状突出部423,424が設けられている。
【0050】
以上のように構成される本参考例に係る密封構造及び密封装置400においても、上記各実施例の場合と同様の効果を得ることができる。ただし、本参考例の場合には、バックアップリング420の内周面側にも環状突出部424が設けられている。これにより、この環状突出部424がOリング410により径方向内側に向かって押圧されることなどの理由により、上記各実施例の場合に比べると、バックアップリング420は軸線方向に摺動し難い。従って、偏心追随性の点で、上記各実施例に係る密封装置100に比べて劣っている。また、この参考例に係るバックアップリング420の場合、内周面側と外周面側のいずれも、密封対象流体側(A)の先端が尖った形状で構成される。そのため、このバックアップリング420は金型成形により得られるが、寸法精度を高くするのが困難という問題もある。更に、胴体部421の内周面がテーパ面422で構成されることから、アンダーカット部分がないようにバックアップリング420を成形するためには、金型は、軸線方向に型開きする構成であって、型割り面が環状突出部424の先端を通るようにしなければならない。このように構成される金型の場合、型開きをすると、一方の金型の内部にバックアップリング420が埋没する状態となってしまうため、離型性に劣るという問題もある。
【符号の説明】
【0051】
10 Oリング
20 バックアップリング
21 胴体部
22 テーパ面
23 環状突出部
24 テーパ面
25 湾曲面
26 湾曲面
100 密封装置
200 軸
210 環状溝
211 テーパ面
300 ハウジング