(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  前記マグネシウム合金は、前記添加元素としてAl,Ca,Siから選択される少なくとも1種の元素を含有し、Al,Ca,Siの含有量(質量%)を用いて表わされる式値Dが以下を満たす請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のコイル材の製造方法。
  式値D={2.71×(Siの含有量)+2.26×[(Alの含有量)−1.35×(Caの含有量)]+2.35×(Caの含有量)}≧14.5
  巻き取り直前の前記板状材における幅方向の温度のバラツキを50℃以内とし、かつ当該板状材における幅方向の中間部の温度を両縁部の温度よりも高温となるように当該板状材の温度を制御し、
  300kgf/cm2以上の一定の巻き取り張力をかけて当該板状材を巻き取る請求項1から請求項13のいずれか1項に記載のコイル材の製造方法。
  前記ノズルは、離間して配置される一対の本体板と、前記本体板の両縁を挟むように配置されて、前記本体板と組み合せて矩形状の開口部をつくる一対の角柱状のサイドダムとで構成され、
  前記サイドダムにおける前記溶湯に接触する内側面の少なくとも先端側領域は、前記ノズルの厚さ方向における中心部が突出し、当該中心部から前記本体板側に向かって凹んだ一つ山形状であり、
  前記突出部分と前記凹部分との最大距離が0.5mm以上である請求項17に記載のコイル材の製造方法。
  前記ノズルは、離間して配置される一対の本体板と、前記本体板の両縁を挟むように配置されて、前記本体板と組み合せて矩形状の開口部をつくる一対の角柱状のサイドダムとで構成され、
  前記サイドダムにおける前記溶湯に接触する内側面の少なくとも先端側領域は、前記ノズルの厚さ方向における中心部が凹んだ円弧状であり、
  前記凹部分と前記凹部分の弦との最大距離が0.5mm以上である請求項17に記載のコイル材の製造方法。
  前記ノズルは、離間して配置される一対の本体板と、前記本体板の両縁を挟むように配置されて、前記本体板と組み合せて矩形状の開口部をつくる一対の角柱状のサイドダムとで構成され、
  前記サイドダムは、ノズル先端側の端面と、前記溶湯に接触する内側面とがつくる角部が角落としされた傾斜面を有しており、
  前記傾斜面と、前記内側面の仮想延長面とがつくる角をθとするとき、前記θは5°以上45°以下であり、
  前記傾斜面と前記内側面との稜線が前記本体板の先端縁よりも内側に位置するように前記サイドダムを配置する請求項17から請求項19のいずれか1項に記載のコイル材の製造方法。
  前記マグネシウム合金は、前記添加元素としてAl,Ca,Siから選択される少なくとも1種の元素を含有し、Al,Ca,Siの含有量を用いて表わされる式値Dが以下を満たす請求項21から請求項24のいずれか1項に記載のコイル材。
  式値D={2.71×(Siの含有量)+2.26×[(Alの含有量)−1.35×(Caの含有量)]+2.35×(Caの含有量)}≧14.5
  前記マグネシウム合金は、Y,Ce,Ca,及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素を合計で0.01質量%以上10質量%以下含有し、残部がMg及び不純物からなる請求項21から請求項26のいずれか1項に記載のコイル材。
  前記鋳造板材の横断面において、この鋳造板材の側面が少なくとも一つの湾曲部を有する形状であり、かつ、前記鋳造板材の厚さ方向に直交する方向における前記湾曲部の最大突出距離が0.5mm以上である請求項21から請求項27のいずれか1項に記載のコイル材。
  鋳造板材を巻き取ったコイル材の両端面に外接する直線から、当該鋳造コイル材の外周面までの距離のうち、最も遠い距離をd(mm)、前記鋳造板材の幅をw(mm)としたとき、
  0.0001w<d<0.01wを満たし、
  かつ、コイル材の外周面は、前記直線よりも鋳造コイル材の芯部側に位置する請求項21から請求項28のいずれか1項に記載のコイル材。
【発明を実施するための形態】
【0032】
  以下、本発明をより詳細に説明する。図面を参照した説明において、同一要素には同一符号を付している。また、図面の寸法比率は、必ずしも以下の説明とは一致していない。
 
【0033】
  《実施形態1-1》
  [鋳造コイル材、マグネシウム合金板材]
    (組成)
  上記本発明コイル材や本発明マグネシウム合金板材を構成するマグネシウム合金は、Mgに添加元素を含有した種々の組成のもの(残部:Mg及び不純物)が挙げられる。特に、本発明では、連続鋳造された鋳造材において、室温での伸びが10%以下を満たす種々の組成のものが挙げられる。さらには、上記の伸びの規定に加え、室温での引張強さが250MPa以上を満たす組成が好ましい。代表的な組成は、添加元素の合計含有量が7.3質量%以上のものが挙げられる。添加元素が多いほど、強度や耐食性などに優れるが、多過ぎると偏析による欠陥や塑性加工性の低下による割れなどが生じ易くなることから、合計含有量は20質量%以下が好ましい。添加元素は、例えば、Al,Si,Ca,Zn,Mn,Sr,Y,Cu,Ag,Sn,Li,Zr,Ce,Be及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。
 
【0034】
  特に、Alを含有するMg-Al系合金は、耐食性に優れ、Al量が多いほど、耐食性に優れる傾向にあるが、多過ぎると塑性加工性の低下を招く。従って、Mg-Al系合金のAlの含有量は、2.5質量%以上20質量%以下が好適であるが、特に7.3質量%以上12質量%以下が好ましい。Mg-Al系合金のAl以外の添加元素の合計含有量は、0.01質量%以上10質量%以下、特に0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。Mg-Al系合金では、Mg
17Al
12といった金属間化合物が析出され、この析出物粒子が均一的に分散して存在することで、強度や剛性を高めることができる。具体的なMg-Al系合金は、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg-Al-Zn系合金、Zn:0.2質量%〜1.5質量%)、AM系合金(Mg-Al-Mn系合金、Mn:0.15質量%〜0.5質量%)、AS系合金(Mg-Al-Si系合金、Si:0.3質量%〜4質量%)、その他、Mg-Al-RE(希土類元素)系合金などが挙げられる。AZ系合金には、Alを8.3質量%〜9.5質量%、Znを0.5質量%〜1.5質量%含有する合金、代表的にはAZ91合金が挙げられる。
 
【0035】
  特に、Si,Ca,Zn,及びSnの少なくとも1種の元素を合計で0.01質量%〜10質量%程度含有する場合、マグネシウム合金の強度、剛性、靭性、耐熱性などの機械的特性を向上させることができて好ましい。上記の元素の中でも、Siを含有するMg-Si系合金やCaを含有するMg-Ca系合金では、Mg
17Al
12よりも析出物が生成され易く(Mg
2Si、Al
2Caなど)、析出物による強度の向上効果が大きいと期待される。また、上記のSi,Ca,Zn,Snといった元素は、埋蔵量が比較的多く、安価に入手可能であることから、工業上有益である。
 
【0036】
  Al,Si,Ca,Zn,Sn以外の上記列挙した元素は、1質量%以下といった微量の含有であっても、マグネシウム合金の特性、特に強度の向上に効果があることを確認しているが、鋳造材では、靭性が乏しい傾向にある。
 
【0037】
  上述した析出物粒子の分散による強化の向上効果は、添加元素の含有量に主として依存する。例えば、Mgと金属間化合物を形成するSiでは、その含有量の2.71倍(Mgの原子量:24,Siの原子量:28としたとき、Mg
2Siの原子量76をSiの原子比に応じた量(28×1)で除した値)の強度向上効果を見込むことができ、Mgと金属間化合物を形成するAlでは、その含有量の2.26倍(Mgの原子量:24,Alの原子量:27としたとき、Mg
17Al
12の原子量732をAlの原子比に応じた量(27×12)で除した値)の強度向上効果を見込むことができる。また、Alと金属間化合物を形成するCaでは、その含有量の2.35倍(Alの原子量:27,Caの原子量:40としたとき、Al
2Caの原子量94をCaの原子比に応じた量(40×1)で除した値)の強度向上効果を見込むことができる。但し、AlとCaとの双方を含有する場合、Caの含有量に対して1.35倍(Alの原子量:27,Caの原子量:40としたとき、Al
2CaのうちAlの原子比に応じた量:54をCaの原子比に応じた量:40で除した値)のAlがCaとの析出に消費されるため、強度向上に寄与するAl量が低減する。以上のことから、Al及びSiの双方を含有する場合、2.71×(Siの含有量)+2.26×(Alの含有量)で規定される強度向上効果が期待される。また、Al,Si,Caの三者の少なくとも一種を含有する場合、式値D=2.71×(Siの含有量)+2.26×[(Alの含有量)−1.35×(Caの含有量)]+2.35×(Caの含有量)で規定される強度向上効果が期待される。上記Al,Ca,Siの含有量(質量%)を用いて表わされる式値Dは、Al,Si,Caの強度向上の寄与度合いを示すと共に、マグネシウム合金の脆弱さを表すと言える。本発明者らが調べた結果、D≧14.5を満たす鋳造材は、150℃以下といった低温でも割れが生じ難いとの知見を得た。そこで、添加元素の好ましい含有量の指標として、マグネシウム合金がAl,Ca,Siから選択される少なくとも1種の元素を含有し、上記式値D≧14.5を満たすことを提案する。なお、マグネシウム合金のα相に固溶して強度を増す元素(固溶型元素)については、この式値Dに従わない。
 
【0038】
    (機械的特性)
  本発明コイル材は、室温(20℃程度)での伸びが10%以下を満たす(0%を除く)。引張強さが高いほど伸びが低い傾向にあり、マグネシウム合金の組成によっては、上記伸びが5%以下、更に4%以下のものが挙げられる。鋳造コイル材を安定して生産するためには、室温での伸びは、0.5%以上が好ましい。本発明鋳造コイル材は、室温での伸びが低めであるが、後述するように表面性状に優れていることから、高温での引張試験において割れなどが生じ難く、高温での伸びが高いことが特徴の一つと言える。例えば、200℃での伸びが10%以上、好ましくは40%以上を満たす。なお、上記本発明製造方法により製造されることで、巻取時には伸びが高められた状態であるため、巻き取られた後の本発明鋳造コイル材の室温における伸びが上述のように低めであっても問題無い。
 
【0039】
  また、本発明コイル材は、上記の伸びの規定に加え、室温(20℃程度)での引張強さが250MPa以上を満たす高強度材であることが好ましい。上記鋳造コイル材の引張強さは、主として組成によって変化し、添加元素の種類や含有量によっては、例えば、室温での引張強さが280MPa以上を満たすものとすることができる。
 
【0040】
  厚さtの本発明コイル材における最小曲げ半径(代表的には、円筒状に巻き取られた板状材の内径)をRminとするとき、後述するように当該鋳造コイル材には、t/Rminで表される表面歪みが付与された状態である。本発明鋳造コイル材は、上述のように特定の製造条件により製造されることで、大きな表面歪みが付与された形態、例えば、t/Rmin≧0.02を満たす形態、更にはt/Rmin≧0.025を満たす形態とすることができる。
 
【0041】
  (形態)
  本発明コイル材は、厚さtが7mm以下の薄い板状材が円筒状に巻回された形態である。この鋳造コイル材は、上述のように巻き取る直前の板状材の温度を制御する本発明製造方法により製造されることで、巻取機のチャック部に把持された巻き始め箇所を含めた全長に亘って、その表面に割れや酸化などによる変色が実質的に無く、表面性状に優れる。より具体的には、例えば、内部に存在する析出物の粒子が微細であり(平均粒径:50μm以下)、表面に、深さ100μm以上、かつ幅100μm以下で、当該コイル材の長手方向となす角が5°以上である疵が存在しない形態が挙げられる。或いは、酸化膜が非常に薄い、或いは実質的に存在しない形態、定量的には、酸化膜の最大厚さが0.1mm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは1μm以下である形態が挙げられる。鋳造コイル材の表面に存在する酸化膜は薄いほど、表面性状に優れることから、最大厚さが上記範囲を満たせば、全体の厚さが均一的でなくても構わない。なお、本発明コイル材及び本発明マグネシウム合金板材の厚さは、長手方向の任意の地点において、長手方向と直交する方向(鋳造コイル材では幅方向)に厚さをとったときの平均厚さとする。巻取機のチャック部に把持された巻き始め箇所は捨て寸として後加工に用いない場合、この巻き始め箇所以外における板状材の全長に亘って割れなどが生じていなければ、巻き始め箇所にごく微細な疵や把持癖などが生じることは許容される。
 
【0042】
  本発明コイル材を構成する板状材の長さは、30m以上であることが好ましい。より好ましい鋳造材の長さは50m以上、特に好ましい長さは100m以上である。鋳造材の長さが30m以上あると、1つのコイル材で多くのマグネシウム合金部材を製造できる。1つのコイル材で多くのマグネシウム合金部材を作製できるということは、マグネシウム合金部材を作製する現場に用意するコイル材が1つで十分となる可能性がある。その場合、現場におけるコイル材の載置スペースを節約できるし、マグネシウム合金部材の生産性を向上させ、マグネシウム合金部材の製造コストを大幅に低減させることもできる。
 
【0043】
  本発明マグネシウム合金板材は、上記本発明コイル材を素材として製造されることで、厚さ7mm以下の薄い板材である。具体的な形態として、当該鋳造コイル材が所定の形状、長さなどに切断された形態、当該鋳造コイル材に研磨、化成処理や陽極酸化処理といった防食処理、塗装などの表面処理が加えられた形態、当該鋳造コイル材に熱処理が加えられた形態、当該鋳造コイル材に圧延などの塑性加工が加えられた形態、当該鋳造コイル材に上記切断や表面処理、熱処理、塑性加工などが組み合せて施された形態(例えば、切断→熱処理→塑性加工→表面処理が施された形態)などが挙げられる。
 
【0044】
  本発明コイル材は、上述のように高強度で表面性状にも優れることから、上述のように単に切断した形態でも、マグネシウム合金板材として十分に利用することができると期待される。上記表面処理が施されることで、表面性状や耐食性に更に優れるマグネシウム合金板材とすることができたり、商品価値を高められる。上記研磨などの表面処理、圧延などの塑性加工が施されることで、素材に用いた本発明コイル材の厚さよりも薄いマグネシウム合金板材とすることができる。上記塑性加工が施されたマグネシウム合金板材は、加工硬化することで、上記鋳造コイル材よりも強度や剛性に更に優れる。なお、上記切断、防食処理や塗装、熱処理のみを施した場合、マグネシウム合金板材の厚さは、素材に用いた本発明コイル材と実質的に同じ厚さである。
 
【0045】
  上記本発明マグネシウム合金板材は、そのままマグネシウム合金部材として利用することもできるし、この板材に、曲げ加工や絞り加工といったプレス加工などの塑性加工を施したマグネシウム合金部材を製造するための素材に利用することもできる。
 
【0046】
  [製造方法]
  (コイル材の製造方法)
  本発明コイル材は、溶融状態のマグネシウム合金を連続鋳造機に供給して製造した板状材を巻取機により巻き取ることで製造する。その際、この板状材の巻き取り直前の温度を制御することで鋳造コイル材を得る。
 
【0047】
    <鋳造と鋳造直後の板状材の温度制御>
  連続鋳造法は、急冷凝固が可能であるため、添加元素の含有量が多い場合でも偏析や酸化物などを低減でき、圧延などの塑性加工性に優れる鋳造材が得られる。連続鋳造には、双ロール鋳造法、双ベルト鋳造法、ベルトアンドホイール鋳造法といった種々の方法があるが、板状材の製造には、双ロール鋳造法や双ベルト鋳造法が好適である。双ロール鋳造法は、剛性及び熱伝導性に優れ、熱容量が大きい鋳型を用いて急冷凝固が可能であることから特に好ましい。なお、双ベルト鋳造法や双ロール鋳造法に代表される鋳造材の両面を急冷凝固する方法では、中心線偏析が生成されることがあるが、中心線偏析の存在領域が、鋳造材の厚さ方向において中心から±20%の範囲内、特に±10%の範囲内であれば、上述したマグネシウム合金部材の素材に利用する場合に不具合が生じないことを確認している。
 
【0048】
  鋳造時の冷却速度は、100℃/秒以上とすると、柱状晶の界面に生成される析出物を20μm以下といった微細にすることができて好ましい。
 
【0049】
  鋳造する板状材の厚さは、厚過ぎると偏析が生じ易いため、7mm以下とする。特に5mm以下とすると、偏析を十分に低減することができて好ましい。この板状材の厚みの下限は1mm、より好ましくは2mm、さらに好ましくは4mm程度である。
 
【0050】
  この鋳造では、連続鋳造機から排出された直後の板状材の温度を350℃以下とすることが好ましい。これにより、表面に変色(主として酸化によるもの)が実質的に無いといった表面性状に優れ、かつ中心線偏析が微小であるといった欠陥が少ない鋳造材を得ることができる。この板状材をインラインで350℃以下、特に250℃以下とするには、溶湯が鋳型に接触する時間(以下、鋳型接触時間と呼ぶ)や鋳型の冷却温度を調整したり、更に、連続鋳造機の下流の近接位置に強制冷却手段を配置することが挙げられる。
 
【0051】
  とりわけ、双ロール鋳造機を利用する場合、連続鋳造機の排出口から、板状材の進行方向に500mm、特に150mmまでの範囲の板状材の温度が350℃以下、好ましくは250℃以下となるように鋳造を行うことが望ましい。連続鋳造機から排出されて実質的に直ぐに350℃以下、好ましくは250℃以下となるように鋳造することで、晶出物の過剰な生成や晶出物の成長を抑制することができ、割れなどの起点となる粗大な晶出物を低減できる。更に、この場合、鋳造材の表面に自然に生成される酸化膜の厚さを1μm以下にすることができ、後工程で酸化膜を除去することなく、表面性状に優れた鋳造材が得られる。
 
【0052】
  このように、連続鋳造機から排出された直後の板状材の温度は、偏析の生成や組織を構成する粒子の成長を抑制する点で、低いほど好ましい。特に、上記排出口から500mm、特に150mmまでの範囲の板状材の温度は、当該範囲で150℃以下を達成することがより好ましい。但し、後述するように、巻き取り直前の板状材の温度を加熱により制御する場合、鋳造直後の板状材の温度が低すぎると、板状材を所定の巻き取り直前温度に加熱するまでのエネルギーが増大するため、鋳造直後の板状材の温度の下限は、室温以上、好ましくは80℃以上、特に120℃以上程度とすることが好ましい。一方、連続鋳造機から排出された板状材に加熱を行うことなく、保温などにより巻き取り直前の板状材の温度を制御する場合、所定の巻き取り直前温度を下回らないように、鋳造直後の板状材の温度が過剰に低すぎないように調整する。例えば、150℃以上、特に200℃以上で、鋳造直後の板状材の温度以下とすることが挙げられる。
 
【0053】
  <鋳造から巻き取りにおける板状材の温度制御>
  上記の鋳造により得られた板状材は、鋳造機から巻取機までの間で温度を調整して、巻き取り直前の板状材の温度を制御する。この巻き取り直前の板状材の温度T(℃)は、その板状材の厚さtと曲げ半径R(mm)とで表される表面歪み((t/R)×100)が、温度T(℃)における当該板状材の伸びel
r(%)以下、好ましくは室温における当該板状材の伸びel
r(%)以下となる温度とする。板状材の巻き取りに伴う割れの発生は、主に板状材に生じる表面歪みが板状材の伸びを上回ることにより生じると考えられる。この板状材の伸びは、後述するように、温度が高いほど大きくなる。そのため、巻き取り直前の板状材の温度を上記のように制御すれば、割れの生じにくい、或いは全く割れのない鋳造コイル材を得ることができる。特に、表面歪みの比較的大きい場合、例えばt/R≧0.01の場合に巻き取り直前の板状材の温度を制御することが有効である。より具体的な最小曲げ半径Rminとしては、500mm以下、より好ましくは400mm以下、さらに好ましくは300mm以下、とりわけ250mm以下が挙げられる。
 
【0054】
  この温度制御は、具体的には、鋳造後の板状材の温度を一旦所定温度以下に冷却してから加熱することで、巻き取り直前温度を調整する場合と、鋳造後の板状材に加熱は行わず、保温や放冷時間の調整などにより鋳造機から巻取機までの板状材の温度低下を抑制する場合とが挙げられる。
 
【0055】
  巻き取り直前の板状材の温度を加熱により制御する場合、上記板状材を連続鋳造機と前記加熱を行う加熱装置との間で、一旦150℃以下に冷却することが好ましい。この冷却をインラインで行うには、例えば、連続鋳造機の排出口(双ロール鋳造機の場合、一対のロールに挟持されなくなる地点)から後述する加熱を行う地点までの距離、鋳型接触時間、鋳型の冷却温度を調整し、自然放冷を行うことが挙げられる。更に、上記排出口から上記加熱を行う地点までに強制冷却手段を配置させると、より効果的に冷却することができる。強制冷却は、ファンや冷風のジェット噴出といった衝風による空冷、水や還元性液体などの液体冷媒を噴霧するミスト噴霧といった湿式冷却などが挙げられる。
 
【0056】
  一旦板状材の温度を150℃以下に冷却した後、この板状材を加熱して巻き取り直前の板状材の温度を後述する所定の温度に制御する。この加熱には、適宜な加熱手段を利用することができる。加熱手段は、例えば、炉内に加熱気体を充填させたり循環させる雰囲気炉、誘導加熱炉、板状材に直接通電する直接通電式加熱炉、輻射加熱装置、市販の電熱ヒータ、その他、高温にした油などの液体に浸漬することで加熱する高温液体による浸漬装置などが挙げられる。
 
【0057】
  この加熱温度が高いほど、板状材の伸びが向上して巻き取るときの曲げ半径が小さくても、割れなどを実質的に生じない。しかし、加熱温度が高過ぎると、析出物が生成されたり、晶析出物が成長したり、酸化などにより表面が変色したり、巻き取られた後において鋳造コイル材が熱収縮して、割れや変形などが生じる恐れがあるため、加熱温度は350℃以下が好ましい。なお、加熱温度を350℃超とする場合は、酸素濃度が低い雰囲気中で加熱を行うと、酸化を防止できて好ましい。このときの雰囲気中の酸素濃度は、10体積%未満が好ましい。但し、低酸素濃度の雰囲気中であっても、加熱温度が高過ぎると、上述のように析出物が成長するなどの不具合が生じ得るため、加熱温度は400℃以下が好ましい。
 
【0058】
  一方、鋳造後の板状材に加熱は行わずに鋳造機から巻取機までの板状材の温度低下を抑制する場合は、連続鋳造機から巻取機までの間の少なくとも一部の板状材を保温材(断熱材)で取り囲むこと等が挙げられる。特に、連続鋳造機から排出された直後の板状材の温度を、350℃以下の範囲において、比較的高めの温度に調整し、巻き取り直前においても大きく板状材の温度が低下しないようにすることが好ましい。
 
【0059】
  ここで、厚さtの板状材に曲げ半径R
bの曲げを加える場合を考える。このとき、同じ厚さtの板状材には、曲げ半径R
bの大きさに応じた表面歪みt/R
bが加えられる。表1に板状材の厚さt(mm)と、曲げ半径R
b(mm)と、表面歪み((t/R
b)×100(%))との関係を示す。
 
【0061】
  マグネシウム合金は、温度を高めるほど伸び(破断伸び)が高くなる。
図5に、AZ91合金の双ロール鋳造材に引張試験を行ったときの試験温度(℃)と、破断伸び(%)との関係を示す。
 
【0062】
  図5に示すように、AZ91合金の双ロール鋳造材は、室温での伸びが小さくても、温度を高めることで伸びが高くなることが分かる。また、板状材の厚さtが厚く、かつ曲げ半径R
bが小さい場合、表1に示すように表面歪みt/R
bが
図5に示す室温での伸び(2.3%)を上回る。そのため、この場合、室温で巻き取ると、割れなどが生じたりして巻き取ることが困難であることが分かる。そこで、本発明製造方法では、上述のように巻き取る前の板状材の温度を適切に制御する。
 
【0063】
  表1に示すように、板状材には、その厚さtと、曲げ半径R
bとに応じた表面歪みt/R
bが加わることから、巻き取り直前の板状材の温度は、この表面歪みに応じて設定することが好ましいと言える。そこで、本発明の一形態として、上記巻取機により巻き取るときの最小曲げ半径をRmin(mm)、上記板状材の巻き取り直前の温度T(℃)とするとき、この温度T(℃)が以下の式(1)を満たすように上記板状材の温度を制御することを提案する。更に、以下の式(2)を満たすように上記板状材の温度を制御することが好ましい。なお、t/Rminは、Tが実数を取り得る範囲とする。
 
【0065】
  或いは、巻き取り直前の温度T(℃)は、表面歪みが大きい場合、具体的にはt/Rmin>0.01の場合、150℃以上とし、表面歪みが比較的小さい場合、具体的には0.008≦t/Rmin≦0.01の場合、120℃以上とし、表面歪みが小さい場合、具体的にはt/Rmin<0.008の場合、100℃以上とすることが好ましい。
 
【0066】
  上記板状材の巻き取り直前の温度T(℃)の制御は、上記板状材の巻き始め箇所(代表的には、巻取機に備えるチャック部により把持される箇所)から巻き終わり箇所に至る全長に対して、少なくとも当該板状材の室温での許容曲げ半径を満たさない曲げが加えられる箇所に対して行う。即ち、上記板状材の巻き始め箇所から巻き終わり箇所に至る全長に対して温度制御を行っても良いし、一部のみに温度制御を行ってもよい。巻取機で上記板状材を巻き取る場合、巻回層数が増すにつれて、巻取半径が大きくなる。従って、巻き取りの途中段階で、当該板状材の室温での許容曲げ半径を満たすような曲げになり得る。このような場合、巻き始め箇所から途中まで上記板状材の巻き取り直前温度を制御し、途中以降、制御しないで室温で巻き取ってもよい。例えば、チャック部により把持される箇所のみ温度制御してもよい。或いは、巻き始め箇所から巻き終わり箇所までの全長に亘って温度制御を行ってもよい。全長に亘って温度制御を行って巻き取る場合、曲げ半径の大きさに係わらず、板状材の伸びが十分に高い状態で巻き取れるため、割れなどの発生をより効果的に抑制することができる。全長に亘って温度制御を行う場合、巻き始め箇所から途中までの制御温度と、途中以降の制御温度とを異ならせてもよいし、全長に亘って同一の制御温度としてもよい。
 
【0067】
  (巻取機)
  特に、上記板状材の巻き始め箇所を加熱する場合、以下の本発明巻取機を好適に利用することができる。本発明の巻取機は、連続鋳造機により連続的に製造された板状材を円筒状に巻き取るためのコイル材用巻取機であり、上記板状材の端部を把持するチャック部と、上記板状材において上記チャック部により把持される領域を加熱する加熱手段とを備える。上記加熱手段を備える本発明巻取機を利用することで、上記チャック部によりマグネシウム合金からなる板状材に最小曲げ半径の曲げが加えられる場合であっても、上記板状材においてチャック部により把持される領域、即ち、巻き始め箇所を容易に加熱できる。この巻き始め箇所が十分に加熱されてからチャック部に把持されるように加熱手段を備えておく。この加熱手段は、電熱ヒータなどが利用し易いと考えられる。なお、巻胴の回転により加熱手段の配線が捩れる恐れがあるため、摺動接点などを利用することが好ましい。巻取機に備える加熱手段による加熱と、連続鋳造機と巻取機との間に配置した加熱手段による加熱とを併用して行ってもよい。
 
【0068】
  (マグネシウム合金板材の製造方法)
  上記本発明製造方法により得られた鋳造コイル材は、上述のように表面性状に優れることから、例えば、上記鋳造コイル材を用意し、上記鋳造コイル材の厚さtに対して、t×90%以上の部分を用いて本発明マグネシウム合金板材を製造することができる。より具体的には、このマグネシウム合金板材は、研磨などの処理を実質的に行わずに、或いは研磨による除去量が少なくてよい簡単な研磨処理を行ってから、適宜切断などすることで製造することができる。このように本発明鋳造コイル材を利用することで、表面性状に優れるマグネシウム合金板材を生産性よく製造することができる。このマグネシウム合金板材は、素材とした鋳造コイル材と同程度の厚さ、同程度の強度及び靭性を有する。
 
【0069】
  或いは、上記鋳造コイル材を用意し、上記鋳造コイル材に圧下率20%未満の圧延を施すことで、本発明マグネシウム合金板材を製造することができる。このような加工度が低い圧延の場合、上記鋳造コイル材に予め熱処理などを施さなくてもそのままの状態で圧延を施すことができる。製造されたマグネシウム合金板材は、塑性硬化しており、上述のように鋳造コイル材よりも更に高強度である。従って、本発明鋳造コイル材を利用することで、より強度なマグネシウム合金板材を生産性よく製造することができる。上記圧延及び後述する加工度が高い圧延はいずれも、素材を300℃以下、特に、150℃以上280℃以下に加熱して行うと、割れなどが生じ難い。なお、圧下率は、圧延前の素材の厚さをt
0、圧延後の圧延板の厚さをt
1とするとき、{(t
0-t
1)/t
0}×100で表される値であり、この明細書では総圧下率を言う。
 
【0070】
  或いは、上記鋳造コイル材を用意し、当該鋳造コイル材を構成するマグネシウム合金の固相線温度をTs(K)、熱処理温度をTan(K)とするとき、Tan≧Ts×0.75を満たす熱処理温度Tan(K)で、保持時間が30分以上の熱処理を施すことで、本発明マグネシウム合金板材を製造することができる。熱処理温度:Tanは、Ts×0.80K以上Ts×0.90K以下を満たすと、靭性に優れるマグネシウム合金材が得られて好ましい。保持時間は1時間〜20時間がより好ましく、添加元素の含有量が高いほど長くすることが好ましい。この熱処理は、代表的には溶体化処理に相当し、組成の均質化を図れると共に、析出物を再固溶させて、靭性を高められる。また、上記特定の加熱温度とすることで30分程度の短時間の熱処理であっても、鋳造組織を構成する結晶の界面に添加元素の濃化相をある程度拡散することができ、この拡散効果により、靭性の向上効果が得られる。従って、本発明鋳造コイル材を利用し、かつ上記特定の熱処理を行うことで、より靭性に優れるマグネシウム合金板材を生産性よく製造することができる。なお、上記保持時間から冷却する工程において、水冷や衝風といった強制冷却などを利用して冷却速度を速めると、粗大な析出物の析出を抑制することができて好ましい。
 
【0071】
  上記熱処理が施された板材は、靭性を高められることから、例えば、圧下率(総圧下率)がより大きな圧延を施すことができる。即ち、上記熱処理後に圧下率20%以上の圧延を施すことで、より高強度なマグネシウム合金板材を生産性よく製造することができる。圧下率は適宜選択することができる。複数回(多パス)の圧延を施すことで、より薄い板材とすることができると共に、板材の平均結晶粒径を小さくしたり、プレス加工といった塑性加工性を高められる。
 
【0072】
  多パスの圧延を行う場合、パス間に中間熱処理を行って、この中間熱処理までの塑性加工(主として圧延)により素材に導入された歪みや残留応力、集合組織などを除去、軽減すると、その後の圧延で不用意な割れや歪み、変形を防止して、より円滑に圧延を行える。中間熱処理は、例えば、加熱温度:150℃〜350℃、保持時間:0.5時間〜3時間が挙げられる。
 
【0073】
  上記圧延を施した板材(圧延板)に最終熱処理(最終焼鈍)を施したり、温間矯正を施したりすると、プレス加工などの塑性加工性を高められるため、当該板材を上記塑性加工を施す素材とする場合に好ましい。更に、上記塑性加工後に熱処理を施して、塑性加工により導入された歪みや残留応力の除去、機械的特性の向上を図ることができる。加えて、上記圧延後、或いは上記最終熱処理後、或いは温間矯正後、或いは上記塑性加工後、或いは上記塑性加工後の熱処理後に、研磨、防食処理、塗装などを行って、耐食性を更に向上させたり、機械的保護を図ったり、商品価値を高めたりすることができる。
 
【0074】
  [試験例1-1]
  種々の厚さのマグネシウム合金鋳造材を巻き取る途中で、種々の温度に加熱して、種々の大きさの曲げ半径で巻き取って鋳造コイル材を製造した。そして、得られた鋳造コイル材の表面状態を調べた。
 
【0075】
  この試験は、マグネシウム合金の溶湯を用意し、
図1(A)に示すように連続鋳造機110により連続鋳造を行い、鋳型である一対のロール間の間隔を調整することで、表2に示す厚さtの板状材1を製造して、連続鋳造機110の下流に設置した巻取機120により板状材1を円筒状に巻き取り、鋳造コイル材を形成する。ここでは、マグネシウム合金として、ASTM規格に基づき、AZ91D合金相当の組成(Mg-9.0%Al-1.0%Zn、式値D≧14.5を満たす)、AZ31B合金相当の組成(Mg-3.0%Al-1.0%Zn)、AS42合金相当の組成(Mg-4.0%Al-1.6%Si)、AX52合金相当の組成(Mg-5.0%Al-1.7%Ca)のものを用意した(添加元素は全て質量%)。また、各合金は、いずれの厚さtにおいても、全長50mの板状材を作製できるように用意した。更に、ここでは、連続鋳造機110として双ロール鋳造機を利用した。
 
【0076】
  連続鋳造機110は水冷式可動鋳型(ロール)を有し、溶湯を急冷凝固することが可能である。一対のロールは、図示しない回転機構により回転される。巻取機120は、巻胴121と、巻胴121を回転させる回転機構(図示せず)とを有しており、巻胴121が回転することで、連続して鋳造される板状材1を巻取機120側に走行させて、最終的に板状材1を巻き取る。
 
【0077】
  この試験では、連続鋳造機110の排出口から、板状材1の進行方向に150mmまでの範囲Aの温度が140〜150℃となるように、溶湯がロールに接触する時間を調整すると共に、ロールの冷却温度を調整した。即ち、自然放冷により板状材1を冷却した。そして、150℃以下に冷却された地点(排出口から150mmの地点)から巻取機120により巻き取られるまでの間の板状材1を加熱できるように加熱手段130を配置して、表2に示す温度(ここでは、100℃、120℃、150℃、200℃)となるように板状材1を加熱した。ここでは、加熱手段130は、市販の電熱ヒータを用いた。上記加熱温度は、加熱中、及び加熱直後の板状材1の温度を温度計(図示せず)により測定し、板状材1が燃焼又は酸化しない範囲となるように、かつ、巻取機120により巻き取られる直前の板状材1の表面温度を温度計125で測定し、この測定温度が表2に示す温度となるように、加熱手段130を調整した。温度計125は、市販の非接触式温度計を用いた。
 
【0078】
  また、この試験では、巻取機120の巻胴121として、種々の半径のものを用意し、この巻胴の半径を最小曲げ半径Rminとして板状材1の巻き取りを行い、巻き取りの可否、及び巻き取られた鋳造コイル材の表面状態を調べた。その結果を表2及び
図2に示す。表2及び
図2において、×は、板状材が破断したり割れが多く巻き取ることができなかったこと、△は、巻き取ることができたが、表面の一部に割れが見られること、○は、全長に亘って実質的に割れが無く巻き取ることができたことを示す。割れの有無は、目視にて確認した。
 
【0079】
  なお、この試験では、板状材1の巻き始め箇所の端縁部にステンレス鋼製の薄板を接続し、この薄板をリード板として巻取機120に巻き付けることで、巻き始め箇所の曲げが表2に示す最小曲げ半径Rminよりも大きくなるようにした。
 
【0081】
  表2及び
図2に示すように、表面歪みt/Rminが小さい場合、加熱温度が低くても、十分に曲げられることが分かる。特に、加熱温度Tは、表面歪みがt/Rmin>0.01の場合:150℃以上、0.008≦t/Rmin≦0.01の場合:120℃以上、t/Rmin<0.008の場合:100℃以上が好ましいことが分かる。
 
【0082】
  表2において、○印が付されたマグネシウム合金鋳造コイル材について、JIS  Z  2241(1998)の規定に準じて引張試験を行い(標点距離GL:30mm)、室温での引張強さ及び伸びを調べた。その結果、引張試験を行ったいずれの試料も、引張強さが251MPa〜317MPaと250MPa以上であり、伸びが0.5%〜8.1%と10%以下であった。
 
【0083】
  表2及び
図2に示すように加熱温度Tを高めるほど、割れなどが生じず、表面性状に優れる鋳造コイル材を製造できることが分かる。そこで、加熱温度Tを更に高めたところ、350℃を超えると、表面の変色が顕著であった。従って、加熱温度Tは、350℃以下が好ましいと言える。
 
【0084】
  [試験例1-2]
  試験例1-1と同様にして鋳造コイル材を製造するにあたり、表面歪みが大きい場合について割れが生じることなく巻き取ることが可能な加熱温度を調べた。その結果を表3及び
図3に示す。
 
【0085】
  この試験では、試験例1-1と同様のマグネシウム合金(ASTM規格で定められたAZ91D,AZ31B,AS42,AX52合金相当の組成のもの)を用意し、表3に示すように表面歪みt/Rmin>0.01となる場合について、割れが生じることなく巻き取れた加熱温度Tを試験例1-1と同様にして測定した。また、マグネシウム合金鋳造コイル材について、試験例1-1と同様にして得られた室温での引張強さ及び伸びを調べた。その結果も表3に示す。
 
【0086】
  この試験において最小曲げ半径Rminが小さい場合は、巻取機の巻胴の半径ではなく、巻取機に備えるチャック部により付与される曲げを想定した。
図4にチャック部の一例を示す。チャック部122は、板状材1の巻き始め箇所を挟持する一対の把持片122a,122bを有しており、一方の把持片122aは凸部123a、他方の把持片122bは凸部123aに適合した凹部123bをそれぞれ有する。凸部123aと凹部123bとの間に板状材1を挿入して、凸部123aと凹部123bとを噛み合わせて所定の圧力を加えることで、板状材1は、凸部123aや凹部123bに沿うように曲げが加えられ、凸部123a及び凹部123bにより強固に挟持される。そして、板状材1は、これら凸部123aや凹部123bの形状に概ね沿った曲げが加えられる。
 
【0087】
  そこで、この試験では、
図1(B)に示すように、巻取機120の巻胴121において、板状材1がチャック部(図示せず)により把持される領域を加熱できるように、巻取機120として、上記領域を加熱する加熱手段131を巻胴121に備えるものを利用した。そして、試験例1-1と同様に、巻取機120により巻き取られる直前の板状材1の表面温度を温度計125で測定し、板状材1においてチャック部により把持される領域(巻き始め箇所)が破断することなく巻き取ることが可能な加熱温度を測定した。なお、この試験では、巻胴の半径を600mmとした。
 
【0089】
  得られたデータから、表面歪みt/Rminと加熱温度Tとの関係を検討した。
図3に示す実験データにおいて、突出した値をとる試料No.2-5,2-8,2-9,2-11,2-12,2-14を除く試料を用いて、表面歪みt/Rminと加熱温度Tとの関係を近似した数式を考える。t/Rminが0.1未満の範囲では、
図3に破線で示すように、t/RminはTを変数とする二次関数と捉えられる。そこで、a,bを係数とし、t/Rmin=a×T
2+bという二次式を満たすa及びbを求める。ここでは、t/RminとT
2との一次の近似式を市販の統計解析ソフト「エクセル統計」を用いてa,bを算出した。その結果、以下の式(1-1)が得られた。更に、この式(1-1)の分子を固定し、試料No.2-5に沿った数式を上記ソフトにより求めたところ、以下の式(2-1)が得られた。これら式(1-1),及び式(2-1)、及び試験例1-1の結果を考慮すれば、加熱温度Tは、上述の式(1)を満たすことが好ましく、更に、上述の式(2)を満たすことがより好ましいと言える。
 
【0091】
  また、試験例1-1で求めた実験データに対して、上記式(1-1)及び式(2-1)を
図2のグラフにも重ね合わせたところ、t/Rmin≦0.01の範囲についても、加熱温度Tは、上述の式(1-1)を満たすことが好ましく、更に、上述の式(2-1)を満たすことがより好ましいと言える。
 
【0092】
  [試験例1-3]
  試験例1-1で得られたマグネシウム合金鋳造コイル材を用いて、マグネシウム合金板材を作製した。
 
【0093】
  この試験では、試験例1-1で作製した、厚さt:4mm、最小曲げ半径Rmin:500mm、加熱温度:150℃の鋳造コイル材を素材として用意し、種々の圧下率(5〜30%)の圧延を施してマグネシウム合金板材を作製し、圧延の可否、及び得られたマグネシウム合金板材の表面性状を調べた。その結果を表4に示す。表面状態は目視、又は実体顕微鏡を用いて確認し、判断が難しいものはカラーチェック(染色浸透探傷剤を用いて着色して判別する方法)にて確認した。表4の表面状態の「割れ」について、×は、割れが多く生じていること、△は、微細な割れが若干見られること、○は、割れが実質的に生じていないことを示す。表4の表面状態の「変色」について、○は、外観に光沢がある場合、△は、外観に光沢がない場合、×は、外観に光沢がなく、断面を顕微鏡観察した結果、最大厚さが1μm超の酸化膜が生成されている場合を示す。なお、外観に光沢がある試料の断面を顕微鏡観察したところ、酸化膜の最大厚さが1μm以下であった。
 
【0094】
  この試験では、表4に示すように、一部の試料について圧延前に表4に示す熱処理を施してから圧延を行った。また、いずれの試料についても、圧延は、素材板の加熱温度:250〜280℃、ロール温度:100〜250℃にして行った。なお、試料No.3-15は、巻き取り前の鋳造材の表面に深さ0.1mm未満の凹みが生じていた。この鋳造材を上述のように昇温してから巻き取って巻き取り後の表面を調べたところ、巻き取り前後において凹みの大きさに変化は無かった。そこで、試料No.3-15は、圧延前にベルト研磨を施して表層部を除去することで上記凹みを除去した。ここでは、鋳造材の表裏についてそれぞれ厚さ0.15mm、合計0.3mmの表層部を除去した。得られたマグネシウム合金板材の厚さは、3.7mmであり、マグネシウム合金鋳造コイル材の厚さ:4mmの90%以上を満たす。
 
【0096】
  表4に示すように、上記鋳造コイル材に対して、圧下率が20%未満の圧延を施す場合、当該鋳造コイル材に熱処理などを施すことなくそのまま素材として利用することができることが分かる。一方、圧下率が20%以上の圧延を施す場合、圧延前に熱処理を施すことが好ましいことが分かる。特に、この熱処理は、上記鋳造コイル材を構成するマグネシウム合金の固相線温度をTs(K)(AZ91Dでは、約743K≒470℃)、熱処理温度をTan(K)とするとき、Tan≧Ts×0.8≒594K≒321℃を満たすこと、保持時間を30分以上(0.5時間以上)とすることが好ましく、Tan≦Ts×0.9≒669K≒396℃を満たすことがより好ましいと言える。
 
【0097】
  また、割れなどが生じていないマグネシウム合金板材について、引張強さを測定したところ、上記鋳造コイル材よりも更に高強度であった。また、上述のように表面を研磨した後圧延した試料No.3-15の圧延材は、試料No.3-8の圧延材とほぼ同等の特性を有していた。このことから、鋳造材を加熱して十分な伸びを有する状態で巻き取ることで、上記鋳造コイル材の厚さtに対してt×90%以上の厚さを有するマグネシウム合金板材(ここでは圧延材)を製造できることが確認できた。
 
【0098】
  [試験例1-4]
  次に、鋳造後の板状材を、連続鋳造機から巻取機までの間に加熱を行うことなく巻き取りを行った試験例を説明する。本例では、連続鋳造機から排出された直後の板状材の温度が200℃となるように鋳造を行い、その板状材が巻取機に導入されるまでの間の板状材の全長を断熱材で囲って巻き取りを行った。本例では、AZ91D相当の組成のマグネシウム合金からなる溶湯を双ロール鋳造で鋳造し、得られた厚さ4mm、幅250mmの板状材を試料とした。巻き取り直前における板状材の温度は150℃であった。その結果、最小曲げ半径Rminが300mmでも、板状材に割れが生じることなく巻き取れることが確認された。さらに、より薄く、比表面積が大きいために放熱性が高い板状材でも試験を行った。その結果、厚さ3mm、幅250mmの板状材を巻き取り直前の温度が150℃となるように保温し、巻き取った結果、最少曲げ半径Rminが200mmでも板状材に割れが生じることなく巻き取れることを確認した。
 
【0099】
  《実施形態2-1》
  次に、上記の実施形態1-1や後述する他の実施形態において板状材を鋳造して巻き取る際に好適に利用できることは勿論、これらの実施形態における規定条件の有無に関わらず、広くマグネシウム合金鋳造コイル材の製造に適用できるマグネシウム合金鋳造コイル材の製造方法と、その方法により得られるマグネシウム合金鋳造コイル材を説明する。この技術によれば、コイル材の各ターン間に隙間ができ難いように巻き締められたマグネシウム合金鋳造コイル材を得ることができる。
 
【0100】
  本発明者らが、マグネシウム合金の鋳造材を巻き取ったマグネシウム合金鋳造コイル材を実際に作製してみた結果、鋳造材を巻き取ったマグネシウム合金鋳造コイル材を圧延や研磨などの二次加工に供するにあたり、鋳造材そのものの品質だけでなく、コイル材として形状や形態も重要であることがわかってきた。
 
【0101】
  常温から比較的低温での成形性に乏しいマグネシウム合金の鋳造材を巻き取る場合、巻き取り時の曲げに対する鋳造材の反力によりコイル材のターン間に隙間が形成され易い。ターン間に隙間が形成されていると、例えばコイル材を巻き戻して圧延などの二次加工に供する際、巻戻された鋳造材が左右にぶれたりして、二次加工品の品質を低下させるなどの不具合が生じる恐れがある。
 
【0102】
  また、コイル材のターン間に隙間が形成されていると、例えば、コイル材をさらに溶体化処理して水冷したときに、当該隙間に冷却水が浸入して、コイル材に部分的な腐食や変色が生じる恐れがある。
 
【0103】
  以上のような問題点に鑑み、本発明者らが種々検討した結果、マグネシウム合金鋳造コイル材を作製するにあたり、巻き取り直前の鋳造材の幅方向における温度分布と、巻き取り張力を適正な範囲に制御することで、作製されるマグネシウム合金鋳造コイル材のターン間に隙間ができ難いとの知見を得た。この知見に基づいて以下のマグネシウム合金鋳造コイル材、およびその製造方法を規定する。
 
【0104】
[マグネシウム合金鋳造コイル材]
  このマグネシウム合金鋳造コイル材は、マグネシウム合金からなる長尺な鋳造材を巻き取ることで形成され、そのコイル状の鋳造材の両端面に外接する直線から、当該コイル状の鋳造材の外周面までの距離のうち、最も遠い距離をd、前記鋳造材の幅をwとしたとき、0.0001w<d<0.01wを満たす。そして、コイル状の鋳造材の外周面は、前記直線よりもコイル状の鋳造材の芯部側に位置する。
 
【0105】
  このマグネシウム合金鋳造コイル材は、その幅方向の中間部が凹んだ鼓状の形状であるが、その凹みが上記範囲に限定されたマグネシウム合金鋳造コイル材である。本発明者らの研究の結果、マグネシウム合金鋳造コイル材における幅方向中間部の凹みが上記範囲にあると、強く巻き締められたコイル材であって、当該コイル材のターン間に形成される隙間が非常に小さくなっていることが明らかになった。そのため、マグネシウム合金鋳造コイル材を巻き戻した板状の鋳造材を二次加工に供する際、その二次加工工程に安定して鋳造材を供給することができるので、品質に優れた二次加工品を作製することができる。また、このマグネシウム合金鋳造コイル材を溶体化処理した後、水冷する際、冷却水がコイル材のターン間の隙間に浸入し難いので、冷却水に起因するマグネシウム合金鋳造コイル材の部分的な腐食を抑制できる。
 
【0106】
  さらに、幅方向の中間部が凹んだ鼓状のマグネシウム合金鋳造コイル材によれば、コイルの巻き解れ防止用の鋼帯が当該コイル材から外れ難いため、当該コイル材を二次加工に供する際や、客先に出荷する際に非常に扱い易い。
 
【0107】
  以下、このマグネシウム合金鋳造コイル材の構成を詳細に説明する。
 
【0108】
  マグネシウム合金鋳造コイル材におけるターン間の隙間は1mm以下であることが好ましい。当該ターン間の隙間が小さいということは、当該コイル材を構成する鋳造材の平坦度が高い(即ち、鋳造材の厚みにバラツキが少ない)ということである。そのため、このコイル材を巻き戻した鋳造材を二次加工に供した際、優れた品質の二次加工品を製造することができる。当該隙間のより好ましい値は0.5mm以下である。
 
【0109】
  また、このマグネシウム合金鋳造コイル材を構成する鋳造材の板厚のバラツキは±0.2mm以下であることが好ましい。板厚のバラツキは、例えば、鋳造材の長手方向に所定の間隔(例えば、10mごと)を空けて少なくとも10点以上測定した結果により求めれば良い。また、長手方向の各測定点は、少なくとも鋳造材の幅方向両縁部と中間部の3箇所で板厚を測定した結果を平均して求めることが好ましい。例えば、鋳造材の幅方向中間部の厚さを測定するセンターセンサと、鋳造材の幅方向両縁部の厚さをそれぞれ測定する一対のサイドセンサとを、当該幅方向の一直線上に配置し、10mごとの鋳造材の幅方向における3箇所の厚さを測定して、その平均を求める。そして、その10mごとの鋳造材の平均厚さを比較したとき、板厚のバラツキが±0.2mmであれば良い。ここで、鋳造材の幅方向における板厚のバラツキは、±0.05mm以下であることが好ましい。但し、鋳造材の側縁部近傍の厚さは安定しないので、サイドセンサで測定する位置は、鋳造材の側縁から20mm以上内側とする。
 
【0110】
  このコイル材における鋳造材の板厚の変動が小さいということは鋳造材に凹凸が少ないことと同義であるので、コイル材における鋳造材の平坦度が高いと言える。つまり、板厚の変動が小さい鋳造材が巻き締められてなるマグネシウム合金鋳造コイル材において、各ターン間に形成される隙間が非常に小さいといえる。
 
【0111】
  このマグネシウム合金鋳造コイル材を構成する鋳造材としては、実施形態1-1における板状材と同様の組成、機械的特性、形態が利用できる。
 
【0112】
[マグネシウム合金鋳造コイル材の製造方法]
  上述したマグネシウム合金鋳造コイル材は、以下に示すマグネシウム合金鋳造コイル材の製造方法により製造することができる。
 
【0113】
  このマグネシウム合金鋳造コイル材の製造方法は、連続鋳造機によりマグネシウム合金からなる板状の鋳造材を連続的に製造し、その作製した板状の鋳造材を円筒状に巻き取ってマグネシウム合金鋳造コイル材を製造する過程で、以下の条件を充足する。
  巻き取り直前の鋳造材における幅方向の温度のバラツキを50℃以内とし、かつ当該鋳造材における幅方向の中間部の温度を両縁部の温度よりも高温となるように当該鋳造材の温度を制御する。
  300kgf/cm
2以上の巻き取り張力をかけて当該鋳造材を巻き取る。
 
【0114】
  なお、鋳造材の幅方向両縁部の温度は、鋳造材の側縁から20mm以上幅方向中間寄りの位置での測定結果とすることが好ましい。鋳造材の側縁は、温度のブレが大きいからである。
 
【0115】
  巻き取られる鋳造材における幅方向の中間部の温度を、同幅方向の両縁部の温度よりも高温にすることで、上記両縁部が中間部よりも先に冷え易く、出来上がるマグネシウム合金鋳造コイル材はその幅方向中間部が凹んだ鼓状になり易い。また、鋳造材の幅方向に温度差を設けることに加えて、その温度差を50℃以内にすると共に、鋳造材を巻き取るときの巻き取り張力を300kgf/cm
2以上で一定とすることで、巻き取られる鋳造材の両縁部がコイル材の外周方向に反り過ぎることがなく、かつ出来上がるマグネシウム合金鋳造コイル材のターン間に、コイル材の幅方向に不均一な隙間ができ難いように強く巻き締めることができる。より好ましい温度差は、15℃以内である。
 
【0116】
  また、このマグネシウム合金鋳造コイル材の製造方法によれば、30m以上の鋳造材を巻き取って形成したマグネシウム合金鋳造コイル材であっても当該コイル材のターン間に隙間が形成され難い。当該製造方法によれば100m以上の鋳造材をコイル状に巻き取ることも可能である。
 
【0117】
  このマグネシウム合金鋳造コイル材の製造方法における巻き取る直前の鋳造材の温度を調節するには、大略以下の3つの少なくとも1つを行うと良い。
 
【0118】
  まず1つ目は、連続鋳造機により溶湯から板状の鋳造材を作製する際の冷却温度を制御することである。例えば、連続鋳造機が双ロール式連続鋳造装置であれば、鋳造ロールの温度を調節したり、鋳造速度や溶湯の温度を調節したりすることが挙げられる。
 
【0119】
  2つ目は、連続鋳造機から巻取機に至るまでの鋳造材の自然冷却を制御することである。例えば、連続鋳造機から巻取機までの区間を短くしたり、当該区間の密閉性や保温性を高めたりすることが挙げられる。通常、鋳造材の幅方向両縁部側が冷却され易いので、両側縁部の冷却を緩和するようにすると良い。
 
【0120】
  3つ目は、巻取機に巻き取られる前に、再度鋳造材を加熱することである。再加熱であれば、鋳造材の幅方向の温度を容易に制御することができる。この再加熱は、例えば剛性が高いASTM系のAZ91合金を巻き取り易くすることにも寄与する。
 
【0121】
  また、このマグネシウム合金鋳造コイル材の製造方法における巻き取り張力は、巻き取る鋳造材の断面積により適宜選択すると良いが、概ね高めに設定することが好ましい。例えば、巻き取り張力は450kgf/cm
2以上で一定とすることが好ましい。但し、巻き取り張力が高すぎると、鋳造材の予期しない変形を招く恐れがあるので、巻き取り張力は125[kgf/(cm
2・cm
2)]×S(cm
2:鋳造材の断面積)以下とすると良い。
 
【0122】
  このマグネシウム合金鋳造コイル材の製造方法の一形態として、巻き取り直前の鋳造材における幅方向の中間部の温度と両縁部の温度を共に150℃〜350℃に保持することが好ましい。巻き取り直前の鋳造材の温度を150℃〜350℃の範囲にすると、鋳造材の組成によらず鋳造材を巻き取り易くなる。例えば、高い剛性を備えるAZ91合金からなる鋳造材であっても割れなどを生じることなく巻き取ることができる。また、鋳造材の長手方向における温度のバラツキを小さくすることで、巻き取られた鋳造材の長手方向の品質を安定化させることができる。
 
【0123】
  このマグネシウム合金鋳造コイル材の製造方法の一形態として、鋳造材における長手方向の温度のバラツキを50℃以内にすることも好ましい。巻き始めから巻き終わりに至る鋳造材の温度のバラツキが小さいと、鋳造材に作用する巻き取り張力を巻き取り作業の間中、安定させることができる。
 
【0124】
  また、このマグネシウム合金鋳造コイル材の製造方法の一形態として、巻き取り直前における鋳造材の温度の測定は、鋳造材の巻き取り端(巻き始め端)から10m作製した位置から開始することが好ましい。これは、巻き取り端から10mまでの鋳造材は温度の安定性に欠けるため、鋳造材の温度のバラツキを小さくすることが難しいからである。
 
【0125】
  《実施形態2-2》
  次に、
図6、
図7を参照して、鼓状のマグネシウム合金鋳造コイル材とその製造方法をより具体的に説明する。この実施形態も他の実施形態と組み合せて利用することができる。ここでは、マグネシウム合金からなる鋳造材を作製し、この鋳造材を上記マグネシウム合金鋳造コイル材の製造方法、または従来の製造方法に基づいてコイル状に巻き取ったマグネシウム合金鋳造コイル材を作製する。
 
【0126】
  まず、ASTM規格でAZ91D相当のマグネシウム合金(Mg-9.0質量%Al-1.0質量%Zn)の溶湯1A´を用意し、
図6に示すように双ロール式連続鋳造機210により連続鋳造を行って板状の鋳造材1Aを作製した。作製された鋳造材1Aは、鋳造機210の下流に設置した巻取機220により円筒状に巻き取られてマグネシウム合金鋳造コイル材2となる。
 
【0127】
  本実施形態で使用する双ロール式連続鋳造機210は、水冷式の一対の鋳造ロール211,211と、両ロール211,211間に溶湯1A´を供給する鋳造ノズル212とを備える。この鋳造機210によれば、鋳造ノズル212から供給される溶湯1A´を水冷式鋳造ロール211,211で急冷凝固させ、偏析の少ない板状の鋳造材1Aを作製できる。また、この鋳造機210によれば、両ロール211,11間の間隔を調節することで種々の厚さの鋳造材1Aを作製することができる。
 
【0128】
  作製する鋳造材1Aの幅は、主として鋳造ロール211,211に挿入する鋳造ノズル212のサイド堰の幅で規定される。また、鋳造材1Aの板厚は、主として対向する鋳造ロール211,211の間隔や鋳造ロール211,211の回転速度を調節すること、および巻取機220の巻胴221の回転速度を変動させ、鋳造材1Aに作用する張力を調節することで規定される。鋳造材1Aの板厚のバラツキは、鋳造ロール211,211の回転速度や、形状、温度、その他鋳造材1Aに作用する張力などの影響を受ける。本実施形態では、鋳造材1Aの板厚のバラツキを、鋳造ロール211,211の回転速度や鋳造材1Aに作用する張力を調節することで低減する。特に、板厚とそのバラツキは、鋳造ロール211,211が鋳造材1Aに加える応力を測定し、その応力に応じて鋳造ロール211,211の回転速度や鋳造材1Aに作用する張力を、鋳造材1Aの巻き取りの間、ほぼ一定になるように調節すると良い。
 
【0129】
  また、本実施形態のコイル材の製造設備では、巻取機220により巻き取られるまでの間に鋳造材1Aを再加熱できる加熱手段230が配置されると共に、巻取機220により巻き取られる直前の鋳造材1Aにおける幅方向中間部と両縁部の3箇所の表面温度を測定できる非接触式の温度計240,240,240が配置されている。中央の温度計240は、鋳造材1Aの幅方向中央に、両サイドの温度計240,240はそれぞれ、鋳造材1Aの側縁から20mm内側に配置されている。上記加熱手段230は、鋳造材1Aの幅方向に加熱温度を変動させることができ、鋳造材1Aの幅方向の温度に変化をもたせることができるものである。
 
【0130】
  [試験例2-1]
  以上説明したコイル材の製造設備により、鋳造材1Aを連続的に作製しつつ、その鋳造材1Aをコイル状に巻き取った複数のコイル材2(表5の試料4-1〜4-9)を作製した。各試料における鋳造材1Aの寸法は全て同じ(長さ200m、平均幅300mm、平均板厚5mm、板厚のバラツキ±0.3mm以下)、コイル材2のターン数(45巻)も全て同じとした。また、鋳造材1Aの巻き取り張力も、巻取機210の巻胴221の回転速度を調節することで、ほぼ400kgf/cm
2前後で一定となるようにした。なお、鋳造材1Aの板厚は、鋳造ロール211,211の出口近傍に配置された非接触式の測定器で測定した複数の測定結果を平均して求めた。数値の測定は、鋳造材1Aにおける幅方向中間部と両縁部の3箇所について、鋳造材1Aにおける巻き取り端から10mの位置から巻き終わり端に至るまでの間、10mごとに行った。鋳造材1Aの板厚の測定位置は、鋳造材1Aの温度の測定位置と同様に、鋳造材1Aの幅方向中央と、鋳造材1Aの側縁から20mm内側である。
 
【0131】
  一方、各試料の作製にあたっては、加熱手段230のオン/オフを切り替えることで、巻き取り直前の鋳造材1Aにおける幅方向の温度を変化させた。加熱手段230のオン/オフの調節は、温度計240,240,240により鋳造材1Aの巻き取り端から10m作製した時点から経時的(即ち、鋳造材1Aの長手方向に連続的(または断続的))に測定した鋳造材1Aの表面温度に基づいて行った。
 
【0132】
  以上のようにして作製した各試料について、コイル材2の幅方向中間部の凹凸の指標であるd(mm)を測定した。試料の作製条件と凹凸の指標dの測定結果を表5に示す。
 
【0134】
  表5における鋳造材1Aの幅方向の温度は、鋳造材1Aの巻き取り端から10m作製した時点から巻き終わり端に至るまでに測定した鋳造材1Aの表面温度の平均値である。また、表5における両縁部の温度は、左右の端部温度の平均値である。鋳造材1Aの幅方向の温度差がマイナスとなっているものは、中間部の温度の方が両縁部の温度よりも低いことを示す。また、マグネシウム合金鋳造コイル材2における幅方向中間部の凹みの指標d(mm)は、
図7に示すように、作製したマグネシウム合金鋳造コイル材2の両端面に外接する直線(巻胴221の軸線に平行な直線)から、当該コイル材2の外周面までの距離のうち、最も遠い距離を市販の隙間ゲージで測定することで求めた。
 
【0135】
  上記表5の結果から明らかなように、巻き取り直前の鋳造材の幅方向における中間部の温度が両縁部の温度よりも高く、かつ中間部と両縁部との温度差が50℃以下となるように作製されたコイル材は、その幅方向中間部が凹んだ鼓状であった。また、その凹みd(mm)は、0.0001×w〜0.01w=0.03mm〜3mmの範囲(wは鋳造材1Aの幅であり、本実施形態では300mm)にあった。これらコイル材の両端面を観察したところ、コイル材2のターン間に隙間が殆ど形成されておらず、形成されている隙間はいずれも1mm以下であった。隙間が殆ど形成されていないということは、コイル材を構成する鋳造材の平坦度が高いと言えるので、このコイル材を用いて作製された二次加工品の品質を向上させることができる。
 
【0136】
  一方、巻き取り直前の鋳造材の幅方向における両縁部の温度が中間部の温度よりも高くなるように作製されたコイル材や、中間部と両縁部との温度差が50℃を超えるように作製されたコイル材の凹みdは、0.03mm〜3mmの範囲外であった。これらコイル材の両端面を観察したところ、コイル材のターン間に隙間が散見され、しかもその隙間の多くが1mmを超えていた。そのため、これらコイル材を構成する鋳造材1Aの平坦度は、凹みdの値が上記に規定する範囲を満たすコイル材よりも低いと考えられる。
 
【0137】
  ≪実施形態3-1≫
  次に、上記の実施形態1-1〜2-2や後述する他の実施形態において板状材を鋳造して巻き取る際は勿論、これらの実施形態における規定条件の有無に関わらず、広くマグネシウム合金鋳造コイル材の製造に好適に適用できるマグネシウム合金鋳造コイル材の製造方法と、その方法により得られるマグネシウム合金鋳造コイル材を説明する。この技術によれば、鋳造に用いるノズルを特定の形状とすることで、異形の断面形状の板状材を得ることができる。このマグネシウム合金鋳造コイル材の製造方法は、マグネシウム合金の溶湯を連続鋳造機に供給して長尺な鋳造板を製造して巻き取る工程を備える。そして、上記連続鋳造機の鋳型に上記溶湯を供給するノズルが、上記鋳造板の側面が少なくとも一つの湾曲部を有する形状となるように構成されている。
 
【0138】
  この製造方法により、例えば、以下のような特定の横断面形状を有する鋳造板から構成されるマグネシウム合金鋳造コイル材を製造することができる。このマグネシウム合金鋳造コイル材は、マグネシウム合金からなる長尺な鋳造板が巻き取られてなり、上記鋳造板の横断面において、この鋳造板の側面が少なくとも一つの湾曲部を有する形状であり、かつ、上記鋳造板の厚さ方向に直交する方向における上記湾曲部の最大突出距離が0.5mm以上である。
 
【0139】
  横断面が長方形状の鋳造板が得られるように、ノズルの内側面を全面に亘って一様な平面とするのではなく、上記製造方法では、上述のように鋳造板の側面が凸部や凹部を有する形状となるようにノズルを構成する。このようなノズルを利用することで、縁部の欠けや割れの発生やノズル内での凝固といった不具合を効果的に低減することができる。この理由は、当該ノズルにおける上記凸部や凹部の形成箇所に溶湯が充填され難くなり、溶湯とノズルの内面との接触面積が小さくなることで、溶湯がノズル内で冷却されることを低減し、溶湯の流速の低下や凝固物の発生・拡大を低減できるためであると考えられる。
 
【0140】
  従って、上記製造方法によれば、マグネシウム合金からなる鋳造板を連続して安定に製造することができ、例えば、長さが30m以上、更に100m以上、特に400m以上といった長尺な鋳造板を製造でき、この鋳造板を巻き取ることで、鋳造板の長さが30m以上である鋳造コイル材が得られる。また、この鋳造板は、縁部の欠けや割れなどが少なく、所定の幅を十分に確保することができる。従って、この製造方法によれば、得られた鋳造板のトリミング量を低減して、歩留まりを向上することができ、このような長尺な鋳造板を巻き取ったコイル材(代表的には、鋳造コイル材)を生産性よく製造できる。
 
【0141】
  上記製造方法により得られたコイル材(代表的には、鋳造コイル材)は、マグネシウム合金部材の素材に好適に利用することができる。より具体的には、上記コイル材を巻き戻して圧延といった1次塑性加工を施したり、この圧延板に研磨加工やレベラー加工、塑性加工(例えば、プレス加工)といった種々の2次加工を適宜施してマグネシウム合金部材を製造するにあたり、加工装置に連続して素材を供給することができる。従って、上記製造方法により得られたコイル材や鋳造コイル材は、プレス加工部材といったマグネシウム合金部材の量産に寄与することができる。
 
【0142】
  このマグネシウム合金鋳造コイル材となる鋳造材の構成としては、実施形態1-1における板状材と同様の組成、機械的特性、形態が利用できる。
 
【0143】
  上記製造方法において、上記ノズルの代表的な形態として、離間して配置される一対の本体板と、上記本体板の両縁を挟むように配置されて、上記本体板と組み合せて矩形状の開口部をつくる一対の角柱状のサイドダムとで構成された形態が挙げられる。
 
【0144】
  このコイル材の製造方法では、例えば、一様な材質で一体に成形したノズルを利用することができる。これに対して、上記構成によれば、主として鋳造板の表裏面を形成する溶湯をガイドする本体板と、主として鋳造板の側面を形成する溶湯をガイドするサイドダムとが別部材であることで、それぞれの材質が異なるものとしたり、組み合せたときに種々の立体的な形状を容易に構成することができる。
 
【0145】
  上記製造方法の一形態として、上記サイドダムにおける上記溶湯に接触する内側面の少なくとも先端側領域は、上記ノズルの厚さ方向における中心部が突出し、当該中心部から上記本体板側に向かって凹んだ一つ山形状であり、上記突出部分と前記凹部分との最大距離が0.5mm以上である形態が挙げられる。
 
【0146】
  上述のように鋳造板の側面が凹部や凸部を有する形状となるように、上記サイドダムの内側面の形状は、種々の形状とすることができる。特に、上記最大距離が特定の大きさであり、ノズルの内側に向かって突出した一つ山形状とすると、上記本体板と上記サイドダムとの接続箇所につくられる凹部は、開口部が長方形状であるノズルの角部と比較して狭い領域であることから、当該凹部は溶湯が十分に充填され難い。そのため、上記形態によれば、上記凹部で溶湯が凝固されたり、この凝固物に起因する欠けや割れを効果的に低減することができる。従って、上記形態によれば、縁部の欠けや割れを低減して、所定の板幅を十分に確保可能な大きさを有する鋳造板を精度良く、安定して製造できる。
 
【0147】
  上記突出部分と前記凹部分との最大距離は、特に、1mm以上4mm以下であると、上述したノズル内での凝固を抑制し易いと期待される。
 
【0148】
  上記一つ山形状の内側面を有するサイドダムを用いることで、得られた鋳造板の側面の横断面形状は、厚さ方向の中央部が凹み、この中央部から鋳造板の各表面に向かって膨らんで、また凹むといった凹凸形状、端的に言うと、二つの円弧が並んだ形状、或いは二つの山が連なった二つ山形状となる。複数の山が連なった形状の内側面を有するサイドダムを用いることで、鋳造板の横断面形状は、三つ以上の複数の山が連なった凹凸形状となる。
 
【0149】
  このコイル材の製造方法の一形態として、上記サイドダムにおける上記溶湯に接触する内側面の少なくとも先端側領域は、上記ノズルの厚さ方向における中心部が凹んだ円弧状であり、上記凹部分と上記凹部分の弦との最大距離が0.5mm以上である形態が挙げられる。
 
【0150】
  上記構成によれば、ノズルの開口部の形状が、一対の本体板が滑らかな曲線により連結された形状(代表的には、レーストラック形状)となる。そのため、上記形態によれば、開口部が長方形状であるノズルの角部近傍で生じていた局所的な凝固を低減できる。従って、上記形態によれば、縁部の欠けや割れを低減して、所定の板幅を十分に確保可能な大きさを有する鋳造板を精度良く、安定して製造できる。
 
【0151】
  上記上記凹部分と上記凹部分の弦との最大距離は、特に、1mm以上4mm以下であると、上述したノズル内での凝固を抑制し易いと期待される。
 
【0152】
  上記円弧状の内側面を有するサイドダムを用いることで、得られた鋳造板の側面の横断面形状は、厚さ方向の中央部が突出した凸形状、代表的には、半円弧状となる。
 
【0153】
  このコイル材の製造方法の一形態として、上記サイドダムが、ノズル先端側の端面と、上記溶湯に接触する内側面とがつくる角部が角落としされた傾斜面を有しており、上記傾斜面と、上記内側面の仮想延長面とがつくる角をθとするとき、上記θが5°以上45°以下である形態が挙げられる。特に、上記傾斜面と上記内側面との稜線が上記本体板の先端縁よりも内側に位置するように、上記サイドダムを配置する。
 
【0154】
  上記構成を備えるノズルをその厚さ方向に平面視すると、ノズルの開口部の近傍は、溶湯の流れる進行方向前方に向かって広がったテーパ状になっている。このように溶湯の出口(ノズルの開口部)付近がテーパ状であることで、溶湯の流速を調整することにより、上記内側面に沿って流れてきた溶湯を、上記出口付近でサイドダムの内側面に実質的に接触させずに連続鋳造機の鋳型に移送させることができる。即ち、上記形態によれば、上記出口近傍でサイドダムにより溶湯が冷却されることを効果的に防止でき、溶湯を高温状態で鋳型に移送できる。従って、上記形態によれば、縁部の欠けや割れを低減して、所定の板幅を十分に確保可能な大きさを有する鋳造板を精度良く、安定して製造できる。また、溶湯が上記出口近傍でサイドダムに支持されないことで、形成された鋳造板の側面は、少なくとも一つの湾曲部を有する形状になる傾向にある。
 
【0155】
  上記θが5°未満及び45°超であると、上述した開口部が長方形状のノズルのように、凝固物が生成されたり、縁部の欠けや割れが生じ易くなる。θは、20°以上40°以下がより好ましい。
 
【0156】
  上記傾斜面を設けても、上記傾斜面と上記内側面との稜線が上記本体板の先端縁よりも外側に位置する場合、即ち、本体板から露出される箇所に上記傾斜面が存在する場合、上述した開口部が長方形状のノズルを用いた場合に等しくなる。従って、この場合、上述したノズル内の角部の凝固や縁部の欠けや割れの発生を抑制することが難しい。そこで、上記稜線が上記本体板の先端縁よりも内側に位置するようにサイドダムを配置することを提案する。また、上記θが小さく、上記稜線と本体板の先端縁との間の距離が長過ぎると、開口部が長方形状であるノズルと同様に、溶湯がサイドダムに接した状態でノズルの出口まで案内され易くなることから、稜線と本体板の先端縁との間の距離は5mm以下が好ましい。
 
【0157】
  上記傾斜面は、上述した鋳造板の側面が少なくとも一つの湾曲部を有する形状となるようにサイドダムに設けると、上述のようにノズルの出口付近で溶湯を高温状態に保持して鋳型に移送できるため、縁部の欠けや割れの発生をより効果的に防止できる。
 
【0158】
  次に、
図8〜
図10を参照して、横断面形状に特徴を有するマグネシウム合金鋳造コイル材とその製造方法についてより具体的に説明する。
図8(B),
図9(B)では、鋳造ノズルの横断面において左半分のみを示すが、実際には右半分が存在する。また、
図8〜
図10では、鋳造板の側面形状やノズルの内側面がわかり易いように、厚さ方向の形状を強調して示す。以下の各実施形態で用いる鋳造ノズルは、他の実施形態において適用できることは勿論、他の実施形態の規定する条件の有無に関わらずマグネシウム合金鋳造コイル材の製造に適用することができる。
 
【0159】
  ≪実施形態3-2≫
  
図8を参照して実施形態3-2に係るマグネシウム合金鋳造コイル材、及びその製造方法を説明する。このマグネシウム合金鋳造コイル材(図示せず)は、マグネシウム合金からなる長尺な鋳造板1Bが巻き取られてなるものである。この鋳造コイル材の特徴とするところは、鋳造板1Bの横断面形状にある。
 
【0160】
  鋳造板1Bは、その横断面(
図8(A)では端面を示す)において側面310が凹凸形状となっている。具体的には、側面310は、鋳造板1Bの厚さ方向の中央部が凹み、この中央部から鋳造板1Bの各表面311に向かって一度膨らんでまた凹んだ形状、端的には、二つの半円弧が並んだ二つ山形状である。側面310の凸部において、鋳造板1Bの厚さ方向に直交する方向の最大突出距離Wbは、0.5mm以上である。ここでは、最大突出距離Wbは、鋳造板1Bの表面311と直交する厚さ方向の直線であって、側面310の凹部において、最も凹んだ点を通る直線l
1と、側面310の凸部において最も突出した点を通る直線l
2とをとったとき、直線l
1,l
2間の距離とする。
 
【0161】
  鋳造板1Bの厚さ、幅、及び長さは、適宜選択することができる。上記鋳造コイル材を、プレス加工部材といった塑性加工部材の素材となる圧延板の素材に利用する場合、鋳造板の厚さは、10mm以下、更に7mm以下、特に5mm以下であると、偏析などが存在し難く、強度に優れる。鋳造板1Bの幅は、例えば、上記塑性加工部材や圧延板の大きさなどに応じて選択することができ、100mm〜900mmが挙げられる。鋳造板1Bの長さは、30m以上、更には100m以上といった非常に長尺にすることもできるし、用途などによっては短くすることもできる。
 
【0162】
  上記特定の形状の側面310を備える長尺な鋳造板1Bは、
図8(B)に示す鋳造ノズル4Aを用いた連続鋳造法により製造することができる。ノズル4Aは、一対の本体板420と、本体板420と組み合せて矩形状の開口部をつくる一対の角柱状のサイドダム421Aとで構成された筒状体である。本体板420は、所定の間隔(鋳造板1Bの厚さに対応して設計される間隔)だけ離間して配置され、これら本体板420の両縁を挟むようにサイドダム421Aが組み合わされる。
 
【0163】
  サイドダム421Aは、特にその内側面410の形状に特徴があり、横断面において、ノズル4Aの厚さ方向における中心部がノズル4Aの内側に向かって突出し、この中心部から本体板420側に向かって凹んだ一つ山形状になっている。ここでは、サイドダム421Aの長手方向の全域に亘って、内側面410が上記一つ山形状になっている。内側面410は、上述のように全長に亘って一様な形状でなくてもよい。例えば、内側面410において、ノズル4Aの先端側領域(例えば、本体板420の先端縁からノズル4Aの内側に向かって本体板420の長さの10%以内の領域)のみが上記一つ山形状であってもよいし、本体板420の先端縁からノズル4Aの内側に向かって本体板420の長さの10%超の領域が上記一つ山形状であってもよい。内側面410の全長に亘って一様な形状とすると、サイドダムを形成し易い。また、ここでは、上記一つ山形状は、平面により構成された形態を示すが、曲面により構成された形態、例えば、円弧状や波形状とすることができる。
 
【0164】
  上記一つ山形状の内側面410において、突出部分と凹み部分との最大距離Wsは0.5mm以上である。ここでは、最大距離Wsは、最も突出した地点から、ノズル4Aの厚さ方向の平面であって、本体板420の内面とサイドダム421Aの内側面410との稜線を含む平面までの距離に相当する。マグネシウム合金の溶湯がこの一つ山形状の内側面410に案内されて鋳型に移送されることで、鋳造板1Bの側面310は、上記ノズル4Aの内側面410の形状が転写されたような凹凸形状となる。
 
【0165】
  ノズル4Aの構成材料には、耐熱性に優れ、高強度な材料、例えば、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、ケイ酸カルシウム、アルミナ焼結体、窒化ほう素焼結体、カーボン系材料、ガラス繊維含有材料などを利用することができる。酸化物材料は、溶融したマグネシウムと反応し易いため、酸化物材料をノズル4Aの構成材料に利用する場合は、溶湯との接触箇所に酸素含有量が低い材料からなる低酸素層を設けることが好ましい。低酸素層の構成材料は、例えば、窒化ほう素、黒鉛、及び炭素から選択される少なくとも一種が挙げられる。本体板420及びサイドダム421Aの構成材料は同種でもよいし、異なっていてもよい。
 
【0166】
  上記連続鋳造法は、双ロール鋳造法や双ベルト鋳造法を利用することができる。連続鋳造法は、溶湯を急冷凝固することで、酸化物や偏析などを低減できる上に、10μm超といった粗大な晶析出物が生成されることを抑制できて好ましい。特に、双ロール鋳造法は、剛性及び熱伝導性に優れて熱容量が大きい鋳型を用いて急冷凝固が可能であることから、偏析が少ない鋳造板を形成できて好ましい。鋳造時の冷却速度は、速いほど好ましく、例えば、100℃/秒以上とすると、柱状晶の界面に生成される析出物を20μm以下といった微細にすることができる。
 
【0167】
  連続鋳造機にノズル4Aを配置して、マグネシウム合金の溶湯をノズル4Aから排出すると共に鋳型により溶湯を急冷凝固させて、鋳造板1Bを連続して製造する。そして、製造された長尺な鋳造板1Bは、適宜巻取機により巻き取ることで、鋳造コイル材を製造することができる。鋳造コイル材の内径及び外径は、例えば、鋳造板の厚さや長さに応じて適宜選択することができる。但し、内径が小さ過ぎたり、厚さが厚過ぎると、鋳造板を巻き取るときに鋳造板に割れなどが生じる恐れがある。内径が小さい場合は、実施形態1-1と同様に、鋳造板を巻き取る直前の温度を制御することで、割れなどが生じることなく巻き取ることができて好ましい。
 
【0168】
  上記凹凸形状の内側面410を有する鋳造ノズル4Aを利用することで、後述する試験例に示すように、縁部の欠けや割れを抑制して、マグネシウム合金からなる長尺な鋳造板を連続して安定に製造することができる。また、鋳造板1Bの横断面形状を特定の凹凸形状とすることで、長尺な鋳造板1Bを連続して安定に製造することができる。
 
【0169】
  上述のように特定の形状のノズルを利用することに加えて、製造条件(例えば、湯温や冷却速度、タンディッシュ内の温度、溶湯の移送圧力など)を調整することで、縁部の欠けや割れを更に抑制することができる。
 
【0170】
  ≪実施形態3-3≫
  
図9を参照して実施形態3-3に係るマグネシウム合金鋳造コイル材、及びその製造方法を説明する。実施形態3-3の基本的構成は、上述した実施形態3-2の鋳造コイル材1B、及び製造方法(鋳造ノズル4A)と同様であり、主たる相違点は、鋳造コイル材1Cの側面形状、この鋳造コイル材1Cの製造に利用する鋳造ノズル4Bの内側面の形状にある。以下、この相違点を詳細に説明し、実施形態3-2と重複する構成及び効果については、詳細な説明を省略する。
 
【0171】
  鋳造板1Cは、その横断面(
図9(A)では端面を示す)において側面312が湾曲面で構成されている。具体的には、側面312は、鋳造板1Cの厚さ方向の中央部が膨らみ、この中央部から鋳造板1Cの各表面311に向かって収束する形状、端的には半円弧状である。側面312の凸部において、鋳造板1Cの厚さ方向に直交する方向の最大突出距離Wbは、0.5mm以上である。ここでは、最大突出距離Wbは、鋳造板1Cの表面311と直交する厚さ方向の直線であって、側面312の凸部において最も突出した点を通る直線l
2と、側面312と表面311との稜線313を通る直線l
3とをとったとき、直線l
2,l
3間の距離とする。稜線313は、代表的には、表面311において変曲点を通る直線である。
 
【0172】
  上記特定の形状の側面312を備える長尺な鋳造板1Cは、
図9(B)に示す鋳造ノズル4Bを用いた連続鋳造法により製造することができる。ノズル4Bは、実施形態3-1のノズル4Aと同様に、一対の本体板420と、一対の角柱状のサイドダム421Bとで構成された筒状体である。
 
【0173】
  サイドダム421Bは、特にその内側面411の形状に特徴があり、横断面において、ノズル4Bの厚さ方向における中心部が凹み、この中心部から本体板420側に向かってサイドダム421Bの幅が大きくなる凹状になっている。サイドダム421Bの幅とは、ノズル4Bの厚さ方向(
図9では上下方向)に直交する方向(
図9では左右方向)の大きさを言う。また、ここでは、サイドダム421Bの長手方向の全域に亘って、内側面411が上記凹状になっている。ここでは、上記凹状は、曲面により構成された形態を示すが、平面により構成された形態、具体的には実施形態3-2で示した一つ山形状(但し、凹みの向きが逆)とすることができる。
 
【0174】
  上記凹状の内側面411において、上記凹部分と凹部分の弦との最大距離Wsは0.5mm以上である。ここでは、最大距離Wsは、最も凹んだ地点から、ノズル4Bの厚さ方向に沿った平面であって、本体板420の内面とサイドダム421Bの内側面411との稜線を含む平面までの距離に相当する。上記凹部分の弦は、両稜線を厚さ方向に結ぶ直線に相当する。マグネシウム合金の溶湯がこの凹状の内側面411に案内されて鋳型に移送されることで、鋳造板1Cの側面312は、上記ノズル4Bの内側面411の形状が転写されたような凸形状となる。
 
【0175】
  上記凹形状の内側面411を有する鋳造ノズル4Bを用いた双ロール鋳造法といった連続鋳造法を行うことで、後述する試験例に示すように、縁部の欠けや割れを抑制して、マグネシウム合金からなる長尺な鋳造板を連続して安定に製造できる。また、鋳造板1Cの横断面形状を特定の凸形状とすることで、長尺な鋳造板1Cを連続して安定に製造することができる。
 
【0176】
  ≪実施形態3-4≫
  
図10を参照して実施形態3-4に係るマグネシウム合金鋳造コイル材の製造方法を説明する。実施形態3-4の基本的構成は、上述した実施形態3-2の鋳造コイル材の製造方法(鋳造ノズル4A)と同様であり、主たる相違点は、鋳造コイル材の製造に利用する鋳造ノズルの形状にある。以下、この相違点を詳細に説明し、実施形態3-2と重複する構成及び効果については、詳細な説明を省略する。
 
【0177】
  鋳造ノズル4Cは、実施形態3-2のノズル4Aと同様に、一対の本体板420と、一対の角柱状のサイドダム421Cとで構成された筒状体である。サイドダム421Cは、その先端部分(ノズル開口側の部分)の形状に特徴がある。具体的には、サイドダム421Cにおけるノズル4Cの先端側の端面413と、サイドダム421Cの内側面412とがつくる角部が角落としされ、サイドダム421Cは、先端側に傾斜面414を備える。傾斜面414は、内側面412の仮想延長面とつくる角θが5°〜45°である。なお、実施形態3-4のノズル4Cでは、内側面412は平面で構成されて、実施形態3-1,3-2のサイドダム421A,421Bと異なり、湾曲部を有していない。
 
【0178】
  また、鋳造ノズル4Cは、本体板420の先端縁420Eとサイドダム421Cの端面413とがノズル4Cの長手方向(
図10(B)では上下方向。溶湯の移送方向に等しい)にずれて配置される。具体的には、サイドダム421Cの端面413が、本体板420の先端縁420Eよりも溶湯の移送方向前方に突出するようにサイドダム421Cを配置している。即ち、傾斜面414と内側面412との稜線415が本体板420の先端縁420Eよりも内側に位置するように、サイドダム421Cを配置している。
 
【0179】
  上記傾斜面414を備えた鋳造ノズル4Cを用いて双ロール鋳造法といった連続鋳造法により鋳造を行う場合、ノズル4C内を流通するマグネシウム合金の溶湯の流速を調整すると共に、上記稜線415と本体板420の先端縁420Eとの間の距離dを調整することで、当該溶湯を、ノズル4Cの先端部においてサイドダム421Cにガイドされずにそのまま、鋳型に向かって排出させることができる。即ち、ノズル4Cは、溶湯に接触しない箇所(ここでは、先端部分)を有する構成とすることができる。上記構成より、特にノズル4Cの先端部分において、サイドダム421Cにより溶湯が冷却されることを効果的に防止することができ、ノズル4Cの先端まで高温状態の溶湯を移送できる。上記稜線415と本体板420の先端縁420Eとの間の距離dは5mm以下とする。
 
【0180】
  上記鋳造ノズル4C内を流通する溶湯は、上述のようにノズル4Cの先端部において、サイドダム421Cにガイドされないことから、ある程度自由に変形できる状態である。そのため、ノズル4Cを利用して連続鋳造を行うことで、例えば、実施形態3-2の凹凸形状の側面310を有する鋳造板1Bや、実施形態3-3の凸形状の側面312を有する鋳造板1Cなどの、側面に少なくとも一つの湾曲部を有する形状の鋳造板を製造することができる。
 
【0181】
  上記角落としされたサイドダム421Cを備える鋳造ノズル4Cを利用することで、上記特定の形状の側面を有する鋳造板を双ロール鋳造法といった連続鋳造法により製造するにあたり、縁部の欠けや割れを抑制して、マグネシウム合金からなる長尺な鋳造板を連続して安定に製造することができる。
 
【0182】
  ≪変形例3-1≫
  実施形態3-2,3-3で説明した、内側面が特定の形状であるノズルにおいて、その先端側の形状を実施形態3-4で説明した角落とし形状とすることができる。
 
【0183】
  [試験例3-1]
  実施形態3-2,3-3の鋳造ノズル4A,4Bと、比較として開口部が長方形状である鋳造ノズルとを用意し、双ロール鋳造機により連続鋳造を行い、鋳造板を連続して作製し、製造性を評価した。
 
【0184】
  この試験では、AZ91合金相当の組成(Mg-9.0%Al-1.0%Zn(全て質量%))のマグネシウム合金の溶湯を用意して、厚さ5mm、幅400mmの鋳造板を連続して作製し、鋳造板の縁部に欠けが生じることなく製造可能な長さ(m)を調べた。実施形態3-2の鋳造ノズル4A及び実施形態3-3の鋳造ノズル4Bのいずれも、最大距離Wsを1.0mmとした。
 
【0185】
  その結果、鋳造ノズル4A,4Bを用いた場合のいずれも、長さ400mの長尺な鋳造板を連続して製造することができた。また、得られた鋳造板は、全長に亘って縁部の欠けや割れが少なく、トリミングによる除去量を低減できると期待される。なお、製造した長尺な鋳造板は、巻き取ってコイル材とした。一方、比較として用意した鋳造ノズルを用いた場合、鋳造板を15m製造した時点で縁部の欠けや割れが多くなり、鋳造を中止した。
 
【0186】
  上記鋳造ノズル4A,4Bに対して、サイドダム421A,421Bの先端を実施形態3-4で説明したように角落としして(θ=30°、d=3mm)、上記試験例と同様に鋳造板を製造したところ、上記試験結果と同様に、長さ400mの長尺な鋳造板を製造することができた。また、得られた鋳造板は、縁部の欠けや割れが少なく、鋳造ノズル4A,4Bに対して角落とし構成を組合せることで、縁部の欠けや割れをより低減することができた。
 
【0187】
  上記試験結果から、特定の形状の鋳造ノズルを用いることで、マグネシウム合金からなる長尺な鋳造板を連続して安定に製造できることが確認された。
 
【0188】
  なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、マグネシウム合金の組成(添加元素の種類、含有量)、マグシウム合金鋳造コイル材の厚さ、幅、長さ、サイドダムの内側面の形状、最大突出距離などを適宜変更することができる。また、上記実施形態1-1の技術と実施形態2-1〜2-2の技術を組み合せることで、小さな径に巻き取られた鼓状のコイル材を得ることができる。さらに上記実施形態1-1の技術と実施形態3-1〜3-4の技術を組み合せることで、断面が非矩形の板状材を小さな径に巻き取ったコイル材を得ることができる。そして、実施形態1-1の技術、実施形態2-1〜2-2、実施形態3-1〜3-4の技術を組み合せることで、断面が非矩形の板状材を小さな径に巻き取って、鼓状のコイル材を得ることができる。