(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
近年、樹脂フィルム上にサーミスタ材料を形成したフィルム型サーミスタセンサの開発が検討されており、フィルムに直接成膜できるサーミスタ材料の開発が望まれている。すなわち、フィルムを用いることで、フレキシブルなサーミスタセンサが得られることが期待される。さらに、0.1mm程度の厚さを持つ非常に薄いサーミスタセンサの開発が望まれているが、従来はアルミナ等のセラミックス材料を用いた基板材料がしばしば用いられ、例えば、厚さ0.1mmへと薄くすると非常に脆く壊れやすい等の問題があったが、フィルムを用いることで非常に薄いサーミスタセンサが得られることが期待される。
従来、TiAlNからなる窒化物系サーミスタを形成した温度センサでは、フィルム上にTiAlNからなるサーミスタ材料層と電極とを積層して形成する場合、サーミスタ材料層上にAu等の電極層を成膜し、複数の櫛部を有した櫛型にパターニングしている。しかし、このサーミスタ材料層は、曲率半径が大きく緩やかに曲げられた場合には、クラックが生じ難く抵抗値等の電気特性に変化がないが、曲率半径が小さくきつく曲げた場合に、クラックが発生し易くなり、抵抗値等が大きく変化して電気特性の信頼性が低くなってしまう。特に、フィルムを櫛部の延在方向に直交する方向に小さい曲率半径できつく曲げた場合、櫛部の延在方向に曲げた場合に比べて櫛型電極とサーミスタ材料層との応力差により、電極エッジ付近にクラックが発生し易くなり、電気特性の信頼性が低下してしまう不都合があった。
また、様々な曲率や形状を有する被測定対象に対して高精度な温度測定を行なう場合、熱抵抗を低減させるために、温度センサを被測定対象に密着させる必要がある。そこで、様々な温度センサの構造に対応するための効率的でかつ製造上最適な方法として、可能な範囲でサイズの小さいサーミスタ素子を作製して、被測定対象に最適化されたフレキシブル基板に実装する方法が考えられる。また、サーミスタ素子をフレキシブル基板に実装するときの電気的接続方法は、はんだ材を使用することが高い信頼性が得られて好ましい。
さらに、実装方向を考えず、上記櫛部の延在方向において曲率半径を小さく曲げることを想定して、フレキシブル基板にサーミスタ素子を実装したとしても、意図しない方向(櫛部の延在方向に直交する方向)に曲がった場合、やはり電気特性の信頼性が下がってしまう問題がある。
また、樹脂材料で構成されるフィルムは、一般的に耐熱温度が150℃以下と低く、比較的耐熱温度の高い材料として知られるポリイミドでも200℃程度の耐熱性しかないため、サーミスタ材料の形成工程において熱処理が加わる場合は、適用が困難であった。上記従来の酸化物サーミスタ材料では、所望のサーミスタ特性を実現するために600℃以上の焼成が必要であり、フィルムに直接成膜したフィルム型サーミスタセンサを実現できないという問題点があった。そのため、非焼成で直接成膜できるサーミスタ材料の開発が望まれているが、上記特許文献3に記載のサーミスタ材料でも、所望のサーミスタ特性を得るために、必要に応じて、得られた薄膜を350〜600℃で熱処理する必要があった。また、このサーミスタ材料では、Ta−Al−N系材料の実施例において、B定数:500〜3000K程度の材料が得られているが、耐熱性に関する記述がなく、窒化物系材料の熱的信頼性が不明であった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、フレキシブル基板に実装された状態で曲げた場合でもTiAlNのサーミスタ材料層にクラックが生じ難く、さらにフィルム等に非焼成で直接成膜することができ、高い耐熱性を有して信頼性が高いサーミスタ材料層を有した温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る温度センサは、絶縁性フィルムと、該絶縁性フィルムの表面にTiAlNのサーミスタ材料でパターン形成された薄膜サーミスタ部と、前記薄膜サーミスタ部の上及び下の少なくとも一方に複数の櫛部を有して互いに対向してパターン形成された一対の櫛型電極と、前記一対の櫛型電極に接続され前記絶縁性フィルムの表面にパターン形成された一対のパターン電極とを備え、前記一対のパターン電極の端部に、実装時に導電性接着材で接着される端子部が設けられ、前記端子部が、前記櫛部の延在方向に対して直交する方向に延在していると共にこの延在方向における前記薄膜サーミスタ部の幅以上に長いことを特徴とする。
【0008】
すなわち、この温度センサでは、端子部が、櫛部の延在方向に対して直交する方向に延在していると共にこの延在方向における薄膜サーミスタ部の幅以上に長いので、屈曲に弱い方向である櫛部の延在方向に直交する方向に、導電性接着材で接着される端子部が延在して薄膜サーミスタ部が補強されて剛性が確保される。これにより、曲げが抑制されて電気特性の信頼性が向上する。
【0009】
第2の発明に係る温度センサは、第1の発明において、前記一対の端子部を除いて少なくとも前記薄膜サーミスタ部の表面に保護膜が形成されていることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、一対の端子部を除いて少なくとも薄膜サーミスタ部の表面に保護膜が形成されているので、絶縁性フィルムの表面側を実装面としてフレキシブル基板等の基板に実装すると、フレキシブル基板等の基板と薄膜サーミスタ部との間に保護膜が介在して埋め込まれた状態となることで、保護膜を介して基板から温度センサへ熱が伝わり、熱伝導性が向上してさらに高精度な温度測定が可能になる。
【0010】
第3の発明に係る温度センサは、第1又は第2の発明において、前記一対の端子部が、前記薄膜サーミスタ部を挟んで前記絶縁性フィルムの両端に配されていることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、一対の端子部が、薄膜サーミスタ部を挟んで絶縁性フィルムの両端に配されているので、薄膜サーミスタ部の両側で補強されることで、バランス良く安定した剛性が得られる。
【0011】
第4の発明に係る温度センサは、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記薄膜サーミスタ部が、一般式:Ti
xAl
yN
z(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であることを特徴とする。
【0012】
本発明者らは、窒化物材料の中でもAlN系に着目し、鋭意、研究を進めたところ、絶縁体であるAlNは、最適なサーミスタ特性(B定数:1000〜6000K程度)を得ることが難しいため、Alサイトを電気伝導を向上させる特定の金属元素で置換すると共に、特定の結晶構造とすることで、非焼成で良好なB定数と耐熱性とが得られることを見出した。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、薄膜サーミスタ部が、一般式:Ti
xAl
yN
z(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であるので、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性を有している。
【0013】
なお、上記「y/(x+y)」(すなわち、Al/(Ti+Al))が0.70未満であると、ウルツ鉱型の単相が得られず、NaCl型相との共存相又はNaCl型相のみの相となってしまい、十分な高抵抗と高B定数とが得られない。
また、上記「y/(x+y)」(すなわち、Al/(Ti+Al))が0.95を超えると、抵抗率が非常に高く、きわめて高い絶縁性を示すため、サーミスタ材料として適用できない。
また、上記「z」(すなわち、N/(Ti+Al+N))が0.4未満であると、金属の窒化量が少ないため、ウルツ鉱型の単相が得られず、十分な高抵抗と高B定数とが得られない。
さらに、上記「z」(すなわち、N/(Ti+Al+N))が0.5を超えると、ウルツ鉱型の単相を得ることができない。このことは、ウルツ鉱型の単相において、窒素サイトにおける欠陥がない場合の正しい化学量論比は、N/(Ti+Al+N)=0.5であることに起因する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る温度センサによれば、端子部が、櫛部の延在方向に対して直交する方向に延在していると共にこの延在方向における薄膜サーミスタ部の幅以上に長いので、屈曲に弱い方向である櫛部の延在方向に直交する方向に、導電性接着材で接着される端子部が延在して薄膜サーミスタ部が補強されて剛性が確保されることで、曲げが抑制されて電気特性の信頼性が向上する。
さらに、薄膜サーミスタ部を、一般式:Ti
xAl
yN
z(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相である材料とすることで、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性が得られる。
したがって、本発明の温度センサによれば、導電性接着材による実装後でも、曲げに対してクラックが生じ難く、フレキシブルで凹凸が少なく、電子機器の基板等の隙間、非接触給電装置やバッテリー等の狭い隙間に挿入して設置することや、曲面に設置することも可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る温度センサにおける一実施形態を、
図1から
図7を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面の一部では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0017】
本実施形態の温度センサ1は、フィルム型サーミスタセンサであって、
図1及び
図2に示すように、表面に引き出し線2が銅箔等の金属箔でパターン形成されたフレキシブル基板3上の引き出し線2にはんだ材(導電性接着材)Hで接着されるサーミスタ素子である。
上記温度センサ1は、絶縁性フィルム5と、該絶縁性フィルム5の表面にTiAlNのサーミスタ材料でパターン形成された薄膜サーミスタ部6と、薄膜サーミスタ部6の上に複数の櫛部7aを有して互いに対向してパターン形成された一対の櫛型電極7と、一対の櫛型電極7に接続され絶縁性フィルム5の表面にパターン形成された一対のパターン電極8とを備えている。
【0018】
本実施形態では、薄膜サーミスタ部6の上に櫛型電極7を形成しているが、
図2では、裏返してパターン電極8側を下に向けて温度センサ1を実装しているため、櫛型電極7が薄膜サーミスタ部6の下側に図示されている。なお、薄膜サーミスタ部6の下に櫛型電極7を形成しても構わない。
【0019】
上記一対のパターン電極8の端部には、実装時にはんだ材Hで接着される端子部8aが設けられている。これら端子部8aは、櫛部7aの延在方向に対して直交する方向に帯状に延在していると共にこの延在方向における薄膜サーミスタ部6の幅以上に長く設定されている。
上記一対の端子部8aを除いて少なくとも薄膜サーミスタ部6の表面には、保護膜9が形成されている。また、一対の端子部8aは、薄膜サーミスタ部6を挟んで絶縁性フィルム5の両端に配されている。したがって、保護膜9は、両端の一対の端子部8a間において薄膜サーミスタ部6、櫛型電極7及びパターン電極8を覆って絶縁性フィルム5の表面に形成されている。
【0020】
上記絶縁性フィルム5は、例えば厚さ7.5〜125μmのポリイミド樹脂シートで帯状に形成されている。なお、絶縁性フィルム5としては、他にPET:ポリエチレンテレフタレート,PEN:ポリエチレンナフタレート等でも構わない。
上記薄膜サーミスタ部6は、TiAlNのサーミスタ材料で形成されている。特に、薄膜サーミスタ部6は、一般式:Ti
xAl
yN
z(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相である。
【0021】
上記パターン電極8及び櫛型電極7は、薄膜サーミスタ部6上に形成された膜厚5〜100nmのCr又はNiCrの接合層と、該接合層上にAu等の貴金属で膜厚50〜1000nmで形成された電極層とを有している。
一対の櫛型電極7は、互いに対向状態に配されて交互に櫛部7aが並んだ櫛型パターンとされている。
【0022】
一対のパターン電極8は、櫛型電極7に先端部が接続され基端部が絶縁性フィルム5の端部に配された端子部8aとされている。
上記保護膜9は、絶縁性樹脂膜等であり、例えば厚さ20μmのポリイミド膜が採用される。
【0023】
上記薄膜サーミスタ部6は、上述したように、金属窒化物材料であって、一般式:Ti
xAl
yN
z(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系の結晶系であってウルツ鉱型(空間群P6
3mc(No.186))の単相である。すなわち、この金属窒化物材料は、
図3に示すように、Ti−Al−N系3元系相図における点A,B,C,Dで囲まれる領域内の組成を有し、結晶相がウルツ鉱型である金属窒化物である。
なお、上記点A,B,C,Dの各組成比(x、y、z)(原子%)は、A(15、35、50),B(2.5、47.5、50),C(3、57、40),D(18、42、40)である。
【0024】
また、この薄膜サーミスタ部6は、例えば膜厚100〜1000nmの膜状に形成され、前記膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶である。さらに、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸が強く配向していることが好ましい。
なお、膜の表面に対して垂直方向(膜厚方向)にa軸配向(100)が強いかc軸配向(002)が強いかの判断は、X線回折(XRD)を用いて結晶軸の配向性を調べることで、(100)(a軸配向を示すミラー指数)と(002)(c軸配向を示すミラー指数)とのピーク強度比から、「(100)のピーク強度」/「(002)のピーク強度」が1未満であることで決定する。
【0025】
この温度センサ1の製造方法について、
図4を参照して以下に説明する。
本実施形態の温度センサ1の製造方法は、絶縁性フィルム5上に薄膜サーミスタ部6をパターン形成する薄膜サーミスタ部形成工程と、互いに対向した一対の櫛型電極7を薄膜サーミスタ部6上に配して絶縁性フィルム5上に一対のパターン電極8をパターン形成する電極形成工程とを有している。
【0026】
より具体的な製造方法の例としては、厚さ50μmのポリイミドフィルムの絶縁性フィルム5上に、Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用い、窒素含有雰囲気中で反応性スパッタ法にて、Ti
xAl
yN
z(x=9、y=43、z=48)のサーミスタ膜を膜厚200nmで形成する。その時のスパッタ条件は、到達真空度5×10
−6Pa、スパッタガス圧0.4Pa、ターゲット投入電力(出力)200Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、窒素ガス分率を20%で作製した。
【0027】
成膜したサーミスタ膜の上にレジスト液をバーコーターで塗布した後、110℃で1分30秒プリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、さらに150℃で5分のポストベークにてパターニングを行う。その後、不要なTi
xAl
yN
zのサーミスタ膜を市販のTiエッチャントでウェットエッチングを行い、
図4に示すように、レジスト剥離にて300×400μmの薄膜サーミスタ部6にした。
【0028】
次に、薄膜サーミスタ部6及び絶縁性フィルム5上に、スパッタ法にて、Cr膜の接合層を膜厚20nm形成する。さらに、この接合層上に、スパッタ法にてAu膜の電極層を膜厚200nm形成する。
【0029】
次に、成膜した電極層の上にレジスト液をバーコーターで塗布した後、110℃で1分30秒プリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、150℃で5分のポストベークにてパターニングを行う。その後、不要な電極部分を市販のAuエッチャント及びCrエッチャントの順番でウェットエッチングを行い、
図5に示すように、レジスト剥離にて所望の櫛型電極7及びパターン電極8を形成する。
この際、一対の櫛型電極7は、幅30μm、間隔30μmの6対の櫛部7aにて形成した。
【0030】
さらに、その上にポリイミドワニスを印刷法により塗布して、250℃で30分でキュアを行い、
図6に示すように、20μm厚のポリイミド保護膜9を形成する。
なお、複数の温度センサ1を同時に作製する場合、絶縁性フィルム5の大判シートに複数の薄膜サーミスタ部6、櫛型電極7、パターン電極8及び保護膜9を上述のように形成した後に、大判シートから各温度センサ1に切断する。
このようにして、例えばサイズを1.0×0.5mmとし、厚さを0.06mmとした薄いフィルム型サーミスタセンサの温度センサ1が得られる。
【0031】
この温度センサ1をフレキシブル基板3に実装する際、
図7の(a)(b)に示すように、温度センサ1の保護膜9側の面を実装面としてフレキシブル基板3の実装面に載置する。このフレキシブル基板3は、長方形状とされ、その上面には一対の引き出し線2が銅箔等によりパターン形成されている。これら引き出し線2の一端部は、フレキシブル基板3の一端部に配されていると共に、他端部はフレキシブル基板3の他端側に配されている。
【0032】
一対の引き出し線2の一端部上には、リード線の引き出し部としてAuめっき等のめっき部が形成されている。このめっき部には、リード線の一端が半田材等で接合される。
また、一対の引き出し線2の他端部は、温度センサ実装用のランド部とされ、クリームはんだのはんだ材Hが端子部8aに対応した帯状に形成される。
【0033】
すなわち、櫛型電極7の櫛部7aの長手方向をフレキシブル基板3の長手方向に平行に配置して、温度センサ1のはんだ実装を行う。このとき、はんだ材Hをフレキシブル基板3の長手方向に対して垂直方向に延在するように配置すると共に、端子部8aの長さに対応して薄膜サーミスタ部6よりも長く延在させる。このはんだ実装時において、クリームはんだの厚みは20μm以上とし、端子部8aをクリームはんだのはんだ材Hに接続後、ピーク温度が230℃でリフローを通すことで、温度センサ1が接着される。
このようにすると、はんだ材Hが収縮して接合することで、保護膜9がフレキシブル基板3に密着し、熱抵抗を減らして感度を上げることができる。
【0034】
このように本実施形態の温度センサ1では、端子部8aが、櫛部7aの延在方向に対して直交する方向に延在していると共にこの延在方向における薄膜サーミスタ部6の幅以上に長いので、屈曲に弱い方向である櫛部7aの延在方向に直交する方向に、はんだ材Hで接着される端子部8aが延在して薄膜サーミスタ部6が補強されて剛性が確保される。これにより、曲げが抑制されて電気特性の信頼性が向上する。
【0035】
また、一対の端子部8aを除いて少なくとも薄膜サーミスタ部6の表面に保護膜9が形成されているので、絶縁性フィルム5の表面側を実装面としてフレキシブル基板3に実装すると、フレキシブル基板3と薄膜サーミスタ部6との間に保護膜9が介在して埋め込まれた状態となることで、保護膜9を介してフレキシブル基板3から温度センサ1へ熱が伝わり、熱伝導性が向上してさらに高精度な温度測定が可能になる。
【0036】
さらに、一対の端子部8aが、薄膜サーミスタ部6を挟んで絶縁性フィルム5の両端に配されているので、薄膜サーミスタ部6の両側で補強されることで、バランス良く安定した剛性が得られる。
【0037】
また、薄膜サーミスタ部6が、一般式:Ti
xAl
yN
z(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系の結晶系であってウルツ鉱型の単相であるので、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性を有している。
また、この金属窒化物材料では、膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶であるので、膜の結晶性が高く、高い耐熱性が得られる。
さらに、この金属窒化物材料では、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸を強く配向させることで、a軸配向が強い場合に比べて高いB定数が得られる。
【0038】
なお、本実施形態のサーミスタ材料層(薄膜サーミスタ部6)の製造方法では、Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜するので、上記TiAlNからなる上記金属窒化物材料を非焼成で成膜することができる。
また、反応性スパッタにおけるスパッタガス圧を、0.67Pa未満に設定することで、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸が強く配向している金属窒化物材料の膜を形成することができる。
【0039】
したがって、本実施形態の温度センサ1では、絶縁性フィルム5上に上記サーミスタ材料層で薄膜サーミスタ部6が形成されているので、非焼成で形成され高B定数で耐熱性の高い薄膜サーミスタ部6により、樹脂フィルム等の耐熱性の低い絶縁性フィルム5を用いることができると共に、良好なサーミスタ特性を有した薄型でフレキシブルなサーミスタセンサが得られる。
また、従来アルミナ等のセラミックスを用いた基板材料がしばしば用いられ、例えば、厚さ0.1mmへと薄くすると非常に脆く壊れやすい等の問題があったが、本発明においてはフィルムを用いることができるので、上記のように、例えば厚さ0.1mmの非常に薄いフィルム型サーミスタセンサを得ることができる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明に係る温度センサについて、上記実施形態に基づいて作製した実施例により評価した結果を、
図8から
図16を参照して具体的に説明する。
【0041】
<屈曲試験>
上記実施形態に基づいて作製した温度センサに対して、薄膜サーミスタ部を半径6mm(R3mm)の曲率で凹と凸とに交互に100回ずつ屈曲試験を行い、試験の前後で電気抵抗の測定を行なった。その結果、屈曲に弱い方向として、櫛部の長手方向に対して垂直方向に曲率半径が小さくなるように上記屈曲試験を行なったところ、電気抵抗が10%以上上昇したが、櫛部の長手方向(延在方向)に対して平行方向に曲率半径が小さくなるように上記屈曲試験を行なったところ、電気抵抗の上昇が見られなかった。このため、櫛型電極の櫛部の長手方向に対して垂直方向に上記屈曲試験を行なったときに電極の剥がれ又は薄膜サーミスタ部のクラックが発生したと予想される。
【0042】
次に、上記実施例の温度センサを、厚み20μm以上のクリームはんだで上記フレキシブル基板に接続後、ピーク温度が230℃でリフローを通して接着して屈曲用のサンプルを作製した。この実装状態のサンプルについても、上記屈曲試験と同様に屈曲試験を行ったところ、櫛部の長手方向に対して直交する方向に屈曲させても電気抵抗の上昇は見られなかった。なお、櫛部の長手方向に対して平行な方向は、曲げに対して元から電気特性の信頼性が高いため、上記屈曲試験と同様に電気抵抗の上昇は見られなかった。
【0043】
<膜評価用素子の作製>
本発明のサーミスタ材料層(薄膜サーミスタ部6)の評価を行う実施例及び比較例として、
図8に示す膜評価用素子121を次のように作製した。
まず、反応性スパッタ法にて、様々な組成比のTi−Al合金ターゲットを用いて、Si基板Sとなる熱酸化膜付きSiウエハ上に、厚さ500nmの表1に示す様々な組成比で形成された金属窒化物材料の薄膜サーミスタ部6を形成した。その時のスパッタ条件は、到達真空度:5×10
−6Pa、スパッタガス圧:0.1〜1Pa、ターゲット投入電力(出力):100〜500Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、窒素ガス分率を10〜100%と変えて作製した。
【0044】
次に、上記薄膜サーミスタ部6の上に、スパッタ法でCr膜を20nm形成し、さらにAu膜を100nm形成した。さらに、その上にレジスト液をスピンコーターで塗布した後、110℃で1分30秒プリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、150℃で5分のポストベークにてパターニングを行った。その後、不要な電極部分を市販のAuエッチャント及びCrエッチャントによりウェットエッチングを行い、レジスト剥離にて所望の櫛形電極部124aを有するパターン電極124を形成した。そして、これをチップ状にダイシングして、B定数評価及び耐熱性試験用の膜評価用素子121とした。
なお、比較としてTi
xAl
yN
zの組成比が本発明の範囲外であって結晶系が異なる比較例についても同様に作製して評価を行った。
【0045】
<膜の評価>
(1)組成分析
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部6について、X線光電子分光法(XPS)にて元素分析を行った。このXPSでは、Arスパッタにより、最表面から深さ20nmのスパッタ面において、定量分析を実施した。その結果を表1に示す。なお、以下の表中の組成比は「原子%」で示している。
【0046】
なお、上記X線光電子分光法(XPS)は、X線源をMgKα(350W)とし、パスエネルギー:58.5eV、測定間隔:0.125eV、試料面に対する光電子取り出し角:45deg、分析エリアを約800μmφの条件下で定量分析を実施した。なお、定量精度について、N/(Ti+Al+N)の定量精度は±2%、Al/(Ti+Al)の定量精度は±1%ある。
【0047】
(2)比抵抗測定
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部6について、4端子法にて25℃での比抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
(3)B定数測定
膜評価用素子121の25℃及び50℃の抵抗値を恒温槽内で測定し、25℃と50℃との抵抗値よりB定数を算出した。その結果を表1に示す。
【0048】
なお、本発明におけるB定数算出方法は、上述したように25℃と50℃とのそれぞれの抵抗値から以下の式によって求めている。
B定数(K)=ln(R25/R50)/(1/T25−1/T50)
R25(Ω):25℃における抵抗値
R50(Ω):50℃における抵抗値
T25(K):298.15K 25℃を絶対温度表示
T50(K):323.15K 50℃を絶対温度表示
【0049】
これらの結果からわかるように、Ti
xAl
yN
zの組成比が
図2に示す3元系の三角図において、点A,B,C,Dで囲まれる領域内、すなわち、「0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1」となる領域内の実施例全てで、抵抗率:100Ωcm以上、B定数:1500K以上のサーミスタ特性が達成されている。
【0050】
上記結果から25℃での抵抗率とB定数との関係を示したグラフを、
図9に示す。また、Al/(Ti+Al)比とB定数との関係を示したグラフを、
図10に示す。これらのグラフから、Al/(Ti+Al)=0.7〜0.95、かつ、N/(Ti+Al+N)=0.4〜0.5の領域で、結晶系が六方晶のウルツ鉱型の単一相であるものは、25℃における比抵抗値が100Ωcm以上、B定数が1500K以上の高抵抗かつ高B定数の領域が実現できている。なお、
図10のデータにおいて、同じAl/(Ti+Al)比に対して、B定数がばらついているのは、結晶中の窒素量が異なるためである。
【0051】
表1に示す比較例3〜12は、Al/(Ti+Al)<0.7の領域であり、結晶系は立方晶のNaCl型となっている。また、比較例12(Al/(Ti+Al)=0.67)では、NaCl型とウルツ鉱型とが共存している。このように、Al/(Ti+Al)<0.7の領域では、25℃における比抵抗値が100Ωcm未満、B定数が1500K未満であり、低抵抗かつ低B定数の領域であった。
【0052】
表1に示す比較例1,2は、N/(Ti+Al+N)が40%に満たない領域であり、金属が窒化不足の結晶状態になっている。この比較例1,2は、NaCl型でも、ウルツ鉱型でもない、非常に結晶性の劣る状態であった。また、これら比較例では、B定数及び抵抗値が共に非常に小さく、金属的振舞いに近いことがわかった。
【0053】
(4)薄膜X線回折(結晶相の同定)
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部6を、視斜角入射X線回折(Grazing Incidence X-ray Diffraction)により、結晶相を同定した。この薄膜X線回折は、微小角X線回折実験であり、管球をCuとし、入射角を1度とすると共に2θ=20〜130度の範囲で測定した。一部のサンプルについては、入射角を0度とし、2θ=20〜100度の範囲で測定した。
【0054】
その結果、Al/(Ti+Al)≧0.7の領域においては、ウルツ鉱型相(六方晶、AlNと同じ相)であり、Al/(Ti+Al)<0.65の領域においては、NaCl型相(立方晶、TiNと同じ相)であった。また、0.65< Al/(Ti+Al)<0.7においては、ウルツ鉱型相とNaCl型相との共存する結晶相であった。
【0055】
このようにTiAlN系においては、高抵抗かつ高B定数の領域は、Al/(Ti+Al)≧0.7のウルツ鉱型相に存在している。なお、本発明の実施例では、不純物相は確認されておらず、ウルツ鉱型の単一相である。
なお、表1に示す比較例1,2は、上述したように結晶相がウルツ鉱型相でもNaCl型相でもなく、本試験においては同定できなかった。また、これらの比較例は、XRDのピーク幅が非常に広いことから、非常に結晶性の劣る材料であった。これは、電気特性により金属的振舞いに近いことから、窒化不足の金属相になっていると考えられる。
【0056】
【表1】
【0057】
次に、本発明の実施例は全てウルツ鉱型相の膜であり、配向性が強いことから、Si基板S上に垂直な方向(膜厚方向)の結晶軸においてa軸配向性が強いか、c軸配向性が強いかであるかについて、XRDを用いて調査した。この際、結晶軸の配向性を調べるために、(100)(a軸配向を示すミラー指数)と(002)(c軸配向を示すミラー指数)とのピーク強度比を測定した。
【0058】
その結果、スパッタガス圧が0.67Pa未満で成膜された実施例は、(100)よりも(002)の強度が非常に強く、a軸配向性よりc軸配向性が強い膜であった。一方、スパッタガス圧が0.67Pa以上で成膜された実施例は、(002)よりも(100)の強度が非常に強く、c軸配向よりa軸配向が強い材料であった。
なお、同じ成膜条件でポリイミドフィルムに成膜しても、同様にウルツ鉱型相の単一相が形成されていることを確認している。また、同じ成膜条件でポリイミドフィルムに成膜しても、配向性は変わらないことを確認している。
【0059】
c軸配向が強い実施例のXRDプロファイルの一例を、
図11に示す。この実施例は、Al/(Ti+Al)=0.84(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。この結果からわかるように、この実施例では、(100)よりも(002)の強度が非常に強くなっている。
また、a軸配向が強い実施例のXRDプロファイルの一例を、
図12に示す。この実施例は、Al/(Ti+Al)=0.83(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。この結果からわかるように、この実施例では、(002)よりも(100)の強度が非常に強くなっている。
【0060】
さらに、この実施例について、入射角を0度として、対称反射測定を実施した。なお、グラフ中(*)は装置由来のピークであり、サンプル本体のピーク、もしくは、不純物相のピークではないことを確認している(なお、対称反射測定において、そのピークが消失していることからも装置由来のピークであることがわかる。)。
【0061】
なお、比較例のXRDプロファイルの一例を、
図13に示す。この比較例は、Al/(Ti+Al)=0.6(NaCl型、立方晶)であり、入射角を1度として測定した。ウルツ鉱型(空間群P6
3mc(No.186))として指数付けできるピークは検出されておらず、NaCl型単独相であることを確認した。
【0062】
次に、ウルツ鉱型材料である本発明の実施例に関して、さらに結晶構造と電気特性との相関を詳細に比較した。
表2及び
図14に示すように、Al/(Ti+Al)比がほぼ同じ比率のものに対し、基板面に垂直方向の配向度の強い結晶軸がc軸である材料(実施例5,7,8,9)とa軸である材料(実施例19,20,21)とがある。
【0063】
これら両者を比較すると、Al/(Ti+Al)比が同じであると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、B定数が100K程度大きいことがわかる。また、N量(N/(Ti+Al+N))に着目すると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、窒素量がわずかに大きいことがわかる。理想的な化学量論比:N/(Ti+Al+N)=0.5であることから、c軸配向が強い材料のほうが、窒素欠陥量が少なく理想的な材料であることがわかる。
【0064】
【表2】
【0065】
<結晶形態の評価>
次に、薄膜サーミスタ部6の断面における結晶形態を示す一例として、熱酸化膜付きSi基板S上に成膜された実施例(Al/(Ti+Al)=0.84,ウルツ鉱型、六方晶、c軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部6における断面SEM写真を、
図15に示す。また、別の実施例(Al/(Ti+Al)=0.83,ウルツ鉱型六方晶、a軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部6における断面SEM写真を、
図16に示す。
これら実施例のサンプルは、Si基板Sをへき開破断したものを用いている。また、45°の角度で傾斜観察した写真である。
【0066】
これらの写真からわかるように、いずれの実施例も高密度な柱状結晶で形成されている。すなわち、c軸配向が強い実施例及びa軸配向が強い実施例の共に基板面に垂直な方向に柱状の結晶が成長している様子が観測されている。なお、柱状結晶の破断は、Si基板Sをへき開破断した際に生じたものである。
【0067】
<膜の耐熱試験評価>
表1に示す実施例及び比較例において、大気中,125℃,1000hの耐熱試験前後における抵抗値及びB定数を評価した。その結果を表3に示す。なお、比較として従来のTa−Al−N系材料による比較例も同様に評価した。
これらの結果からわかるように、Al濃度及び窒素濃度は異なるものの、Ta−Al−N系である比較例と同じB定数で比較したとき、耐熱試験前後における電気特性変化でみたときの耐熱性は、Ti−Al−N系のほうが優れている。なお、実施例5,8はc軸配向が強い材料であり、実施例21,24はa軸配向が強い材料である。両者を比較すると、c軸配向が強い実施例の方がa軸配向が強い実施例に比べて僅かに耐熱性が向上している。
【0068】
なお、Ta−Al−N系材料では、Taのイオン半径がTiやAlに比べて非常に大きいため、高濃度Al領域でウルツ鉱型相を作製することができない。TaAlN系がウルツ鉱型相でないがゆえ、ウルツ鉱型相のTi−Al−N系の方が、耐熱性が良好であると考えられる。
【0069】
【表3】
【0070】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、導電性接着材としてはんだ材を採用したが、他の合金製の接合材や導電性の樹脂材料などを採用しても構わない。この導電性接着材としては、接着時に絶縁性フィルムよりも硬質な材料であることが好ましい。