特許第5939398号(P5939398)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5939398セメントクリンカーの製造方法とセメントクリンカー、およびセメント組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939398
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】セメントクリンカーの製造方法とセメントクリンカー、およびセメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/47 20060101AFI20160609BHJP
   C04B 7/52 20060101ALI20160609BHJP
   C04B 7/02 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   C04B7/47
   C04B7/52
   C04B7/02
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-217086(P2012-217086)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-69990(P2014-69990A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】山下牧生
(72)【発明者】
【氏名】田中久順
(72)【発明者】
【氏名】原田 匠
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−132045(JP,A)
【文献】 米国特許第05650005(US,A)
【文献】 特開2002−316843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00− 32/02
C04B 40/00− 40/06
C04B 103/00−111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キルン出口に接続されているクリンカークーラーに石灰石を投入してクリンカー中のフリーライム量を制御するセメントクリンカーの製造方法であって、該石灰石が二次粒子を含めて粒径5mm以上の粒子が15wt%以下であって粒径0.3mm以下の粒子が35wt%以下の石灰石であり、上記クーラー内部がキルン出口に接続されている第1室からクーラー出口に向かって分けられており、クリンカーがクーラー出口に向かって移動する間に、第2室以降の1200℃未満〜800℃の温度域に上記石灰石を投入することによってクリンカー中のフリーライム量を0.4〜0.8wt%に調整することを特徴とするセメントクリンカーの製造方法。
【請求項2】
クリンカー原料の粉末度がブレーン値で3500cm/g以上〜4500cm/g以下である請求項1に記載するセメントクリンカーの製造方法。
【請求項3】
石灰石を投入しないときのフリーライム量が0.2〜0.3wt%のクリンカー1tonに対して4kg〜7kgの石灰石を投入する請求項1または請求項2に記載するセメントクリンカーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポルトランドセメントのクリンカーに含まれるフリーライム量を一定範囲に制御するセメントクリンカーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポルトランドセメントに含まれるフリーライム(f.CaO)量は重要な品質管理パラメータである。一般に、セメント中のフリーライム量が多過ぎると硬化不良や硬化体の膨張を引き起こすなど、品質に重大な影響を及ぼす。このため通常はフリーライム量が低めになるようにロータリーキルンを運転している。一方、フリーライム量が少な過ぎると凝結性状やコンクリートのフレッシュ性状に悪影響を及ぼすといった問題がある。特にクリンカーの水硬率が小さい低熱ポルトランドセメントや中庸熱ポルトランドセメントでは、その製造上、ロータリーキルンでの焼成反応においてクリンカー中に液相の生成を促すように焼成しているので、フリーライム量は適正量(0.4〜0.8wt%)を下回ることが多い。
【0003】
フリーライム量はクリンカー原料のモジュラス、粉末度、微量成分および焼成工程における温度や酸素濃度の影響を受けるので、これを適正量にコントロールするのは容易ではない。従来、投入原料の粗粒分を調整することによってフリーライム量を制御する方法が用いられているが、この製造方法では液相とフリーライムの生成バランスを保つことが難しく、フリーライム量が適正範囲になるようにロータリーキルンを安定に運転することが困難であった。また、液相の生成も阻害されることからエネルギー原単位も高くなっていた。
【0004】
また、クリンカー中のフリーライム量を調整する方法として、事前にフリーライム量の少ないまたは多いクリンカーを製造しておき、この予め製造したクリンカーを新たに製造したクリンカーに混合してフリーライム量を調整する方法が知られている(特開2008−285370号公報)。しかし、この方法では、事前に製造したクリンカーを貯蔵する設備が必要であり、設置スペースに余裕のない製造現場には適さない。
また、一般にフリーライム量の多いクリンカーはフリーライム量の変動も大きく、予め調整用に製造したフリーライム量の大きいクリンカーを貯蔵するときにフリーライム量の変動が大きいクリンカーが偏在することになり、このようなクリンカーを使用すると最終的に混合調製したクリンカー中のフリーライムが目標から外れる場合やフリーライム量の変動が大きくなる場合がある。
【0005】
上記製造方法の他に、キルンの冷却域または冷却帯に石灰石や生石灰を添加することによってフリーライム量を調節することが知られている。具体的には、セメントキルンのメインバーナーの焼点部から窯前部に至る範囲またはクリンカークーラーの、クリンカー温度が1200℃以上〜1300℃以下の範囲に石灰石に投入する製造方法が知られている(特開2002−316843号公報)。この方法は、クリンカー中の水溶性六価クロム量を低減するには有効であるが、フリーライム量を調整するには不十分である。クリンカー温度が1200℃以上の温度域はキルン出口付近であるため、投入した石灰石が2次空気とともにキルンに戻される量が多く、クリンカー中のフラーライム量を十分に制御するのは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−285370号公報
【特許文献2】特開2002−316843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、予め製造したフリーライム量の異なるクリンカーを新たに製造したクリンカーに混合してフリーライム量を調整する従来の事後的な方法ではなく、クリンカーの製造工程において石灰石の投入位置や粒度などの投入条件を工夫することによって、ポルトランドセメントクリンカー中のフリーライム量を適正範囲に安定的に保つことができる合理的な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示す構成によって上記課題を解決したセメントクリンカーの製造方法に関する。
〔1〕キルン出口に接続されているクリンカークーラーに石灰石を投入してクリンカー中のフリーライム量を制御するセメントクリンカーの製造方法であって、該石灰石が二次粒子を含めて粒径5mm以上の粒子が15wt%以下であって粒径0.3mm以下の粒子が35wt%以下の石灰石であり、上記クーラー内部がキルン出口に接続されている第1室からクーラー出口に向かって分けられており、クリンカーがクーラー出口に向かって移動する間に、第2室以降の1200℃未満〜800℃の温度域に上記石灰石を投入することによってクリンカー中のフリーライム量を0.4〜0.8wt%に調整することを特徴とするセメントクリンカーの製造方法。
〔2〕クリンカー原料の粉末度がブレーン値で3500cm/g以上〜4500cm/g以下である上記[1]に記載するセメントクリンカーの製造方法。
〔3〕石灰石を投入しないときのフリーライム量が0.2〜0.3wt%のクリンカー1tonに対して4kg〜7kgの石灰石を投入する上記[1]または上記[2]に記載するセメントクリンカーの製造方法。
【0009】
〔具体的な説明〕
本発明の製造方法は、キルン出口に接続されているクリンカークーラーに石灰石を投入してクリンカー中のフリーライム量を制御するセメントクリンカーの製造方法であって、該石灰石が二次粒子を含めて粒径5mm以上の粒子が15wt%以下であって粒径0.3mm以下の粒子が35wt%以下の石灰石であり、上記クーラー内部がキルン出口に接続されている第1室からクーラー出口に向かって分けられており、クリンカーがクーラー出口に向かって移動する間に、第2室以降の1200℃未満〜800℃の温度域に上記石灰石を投入することによってクリンカー中のフリーライム量を0.4〜0.8wt%に調整することを特徴とするセメントクリンカーの製造方法である。
【0010】
図1に示す一般なセメント製造設備では、キルン10の出口11の付近にバーナー12が設けられており、該出口11にクリンカークーラー20が接続している。該クーラー20には内部に冷却空気40の吹出口が長手方向に沿って多数設けられており、また、クーラー底部は入口21から出口22に向かって移動するように形成されている。キルン出口11から排出されたクリンカー30はクーラーの入口21に落とし込まれ、出口22に向かって進む間に徐々に冷却される。
【0011】
一般にキルンから排出される焼成直後のクリンカー温度は約1300℃〜約1200℃程度であり、クーラー入口には焼成直後のクリンカーが送り込まれるので、クーラー入口付近の温度は約1300℃〜約1200℃である。クリンカーはクーラー内部を出口に向かって進む間に徐々に冷却され、例えば、クーラー出口で約100℃〜約200℃まで冷却される。
【0012】
例えば、クーラーの全長約20mであって内部が5室に分けられている場合、入口付近の第1室のクリンカー温度は約1300℃〜約1200℃であるが、第2室を経て第3室から第4室を進む間にクリンカーは1200℃未満〜800℃に冷却され、第5室を通過した出口付近では約100℃〜約200℃まで冷却される。
【0013】
本発明の製造方法は、クリンカークーラーの800℃以上〜1200℃未満の温度域に粒度を調整した石灰石を投入する。全長約20mの上記クーラーの場合、第2室から第4室の間に石灰石を投入するとよい。クリンカークーラーの1200℃以上の温度域はキルン出口に近く、通常、キルン出口に接続している第1室であるので、投入した石灰石の粒径が小さいとクーラーの内部気流によってキルン内部に運ばれ、焼成反応によって鉱物成分として取り込まれる割合が多くなり、フリーライム源として利用され難くなる。一方、クリンカークーラーの800℃以下の温度域ではクリンカー温度が低いので投入した石灰石の脱炭酸が進行しないため、クリンカー中にフリーライムが取り込まれない。
【0014】
投入する石灰石は、二次粒子も含めて、粒径5mm以上の粒子が15wt%以下であって粒径0.3mm以下の粒子が35wt%以下のものが使用される。石灰石の粒径が大きく、例えば、5mm以上の粒子が15wt%よりも多く含まれる石灰石を使用すると、石灰石の脱炭酸が十分に進行しないためフリーライムが増加しない。一方、使用する石灰石の粒子径が小さく、0.3mm以下の粒子が35wt%よりも多く含まれるものを使用すると、2次空気によってキルン内に戻され、エーライトやビーライトなどのクリンカー鉱物に取り込まれ、フリーライムとしては取り込まれない場合があり、またクリンカーと十分に接触・脱炭酸反応が進行しないうちに空気流によりバグフィルターへ運ばれて捕集されるためにクリンカー中にフリーライムを供給できない場合がある。そこで投入する石灰石は二次粒子も含めて、粒径5mm以上の粒子が15wt%以下であって粒径0.3mm以下の粒子が35wt%以下のものが良い。
【0015】
石灰石はクーラー内において脱炭酸が生じ、フリーライムとなってクリンカーに取り込まれる。石灰石の粒径を上記範囲に調整することによって脱炭酸反応が十分に進行するだけではなく、クーラーのグレーチング内に石灰石粒子が入り込まず、クーラーの運転に影響を及ぼさない。また、石灰石の投入位置をクーラーの上記温度域にすることによって、石灰石が二次空気と共にキルン内部に逆流することがなく、従ってクリンカーの焼成反応に影響を及ぼさず、原料の配合割合を変える必要がない。
【0016】
石灰石の投入量は、石灰石を投入しない場合のクリンカーに含まれるフリーライム量が0.2〜0.3wt%の場合に、このクリンカー1tonに対して4kg〜7kgが適当であり、4.8kg〜6.8kgが好ましい。
【0017】
クリンカー原料の粉末度は、ブレーン値で3500cm2/g以上〜4500cm2/g以下が好ましい。一般に、同一組成のクリンカー原料を使用しても、粉末度が低いと焼成反応において反応性が低下するので原料に含まれるCa分がフリーライムになる割合が増化する。一方で、原料の粉末度が高いと反応性が良好となるが、原料ミルの電力原単位が増加するために経済的ではない。
【0018】
本発明の製造方法では、ブレーン値が上記範囲のクリンカー原料を用いることによって、原料に含まれるCa分が鉱物組成に取り込まれる割合を高めると共に、粒度を調整した石灰石をクーラーの特定の温度域に投入することによってフリーライム量を適正範囲に安定に維持する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、原料の粉末度。鉱化剤となる微量成分濃度や焼成温度および酸素濃度が変化してもフリーライム量を適正範囲に安定に保つことができる。また、石灰石がクーラーで脱炭酸するのでクリンカーの冷却速度が高まり、クリンカー温度が減少することによって、クリンカー温度の上昇によるリスク、例えば仕上げミルの運転停止につながるリスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】キルン出口に接続したクリンカークーラーの模式断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。実施例および比較例におけるクリンカー原料の配合を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
〔実施例1〕
表1に示す原料を表2に示す粉末度に粉砕し、表2に示すキルン温度で焼成してクリンカーを製造した。No.1〜No.3の試料には本発明の方法に従って石灰石を投入した(JIS A 5005に規定される砕砂の粒度を満足する石灰石をクーラー温度1200℃〜800℃の温度域に表2に示す量を投入)。製造したクリンカーに含まれるフリーライム量を表2に示す。
【0024】
表2に示すように、原料の粉末度が低いとクリンカー中のフリーライム量が多くなる傾向があり、粉末度が高いとフリーライム量の変動幅が大きくなる傾向がある。本発明の実施例(No.1〜3)は原料の粉末度が高くてもフリーライム量の変動幅が小さく、フリーライム量が適正範囲(0.4〜0.8wt%)に保たれている。
【0025】
【表2】
【0026】
〔実施例2〕
石灰石の投入位置を表3のように変えた以外は実施例1のNo.1と同様の条件でクリンカーを製造した。この結果を表3に示す。表3において、投入温度は石灰石を投入したクーラーの温度域、f.CaOはクリンカー中のフリーライム量。
表3に示すように、石灰石を投入した部分のクーラー温度が1300℃の場合(No.4)および700℃の場合(No.8)には、クリンカー中のフリーライム量は適正範囲より少ない。一方、石灰石を投入した部分のクーラー温度が1200℃〜800℃の場合(No.5〜No.7)には、クリンカー中のフリーライム量が適正範囲に保たれている。
【0027】
【表3】
【0028】
〔実施例3〕
石灰石の粒径を表4のように変えた以外は実施例1のNo.1と同様の条件で、クーラー温度1000℃の温度域に石灰石を投入してクリンカーを製造した。この結果を表4に示す。粒径5mm以上の粒子の割合が20wt%の石灰石を使用すると、脱炭酸反応が十分に進行しないためクリンカー中のフリーライムが増加しない(No.9)。石灰石の粒子径が小さいものを使用した場合には、高温のクリンカー層と十分に反応が進行せずに,クーラー排ガス中の石灰石量が増加して、クリンカー中のフリーライムが増加しなかった(No.13)。投入する石灰石の粒子径について、粒径5mm以上の粒子が15wt%以下であって粒径0.3mm以下の粒子が35wt%以下の場合にはクリンカー中のフリーライム量が適正範囲に保たれている。
【0029】
【表4】
【0030】
〔実施例4〕
石灰石を投入せずに製造したクリンカー(基準5、基準6)と、本発明の方法に従って石灰石を投入してクリンカー中のフリーライム量を適正範囲にしたクリンカー(No.14、No.15)を用いてセメントを製造し、その物性を調べた。この結果を表5に示す。
セメントは、石膏(SO3)が2.5wt%含まれるように各クリンカーに二水石膏を添加し、ブレーン値が3700±50cm2/gになるようにテストミルで粉砕して製造した。
表5に示すように、フリーライム量が適正範囲(0.4〜0.8wt%)を外れるクリンカーを用いたセメントは凝結時間の始発および終結が遅く、また硬化体の強度も低い。一方、フリーライム量が適正範囲のクリンカー(No.14、No.15)を用いた本発明のセメントは凝結時間の始発および終結が早く、また硬化体の強度も大きい。
【0031】
【表5】
【符号の説明】
【0032】
10−キルン、11−キルン出口、12−バーナー、20−クリンカークーラー、21−クーラー入口、22−クーラー出口、30−クリンカー、40−冷却空気。
図1