特許第5939425号(P5939425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939425
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】車両用操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20160609BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D5/04
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-59289(P2012-59289)
(22)【出願日】2012年3月15日
(65)【公開番号】特開2013-193476(P2013-193476A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100086391
【弁理士】
【氏名又は名称】香山 秀幸
(74)【代理人】
【識別番号】100110799
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 温道
(72)【発明者】
【氏名】石原 敦
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健
【審査官】 粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−162471(JP,A)
【文献】 特開2007−030571(JP,A)
【文献】 特開2006−123630(JP,A)
【文献】 特開2011−244678(JP,A)
【文献】 特開2006−182058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/00−6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材に印加される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、操舵部材に操舵反力を与えるための反力モータと、前記操舵トルク検出手段で検出された操舵トルク値に基づいて前記反力モータによる車両の操舵反力を制御する反力モータ電流制御手段とを備える車両用操舵制御装置において、
前記反力モータに流れるモータ駆動電流を検出する反力モータ駆動電流検出手段をさらに備え、
前記反力モータ電流制御手段は、前記操舵トルク検出手段によって検出された操舵トルクの絶対値を所定の閾値Tshと比較判定し、前記検出された操舵トルク値の絶対値が前記閾値Tsh以下であれば該操舵トルク値に基づいて操舵反力を制御するとともに、前記検出された操舵トルク値の絶対値が前記閾値Tshを超えていれば、前記反力モータ駆動電流検出手段によって検出されたモータ電流値を基準値I_keepとして、次の式に基づいて目標モータ電流値I_ref算出するものである、車両用操舵制御装置。
I_ref=I_keep+(T_ref−Tsh)Kt
(ここでT_refは目標トルク値、Ktはモータトルク定数)
【請求項2】
前記反力モータ電流制御手段は、前記操舵トルク値に基づく操舵反力の制御から、前記モータ電流値を基準値とした操舵反力の制御へ切り替える場合は、切り替わる時点でのモータ電流値を記憶し、該記憶されたモータ電流値を前記基準値として操舵反力を制御するものである、請求項1に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項3】
ステア・バイ・ワイヤ・システムを搭載した車両用操舵制御装置である、請求項1又は請求項2に記載の車両用操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵部材の操作に基づいて転舵輪を転舵させる車両用操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ステアリングホイール等の操舵部材と転舵輪との間の機械的な連結を解き、操舵伝達系の一部を電気的な経路で構成する、いわゆるステア・バイ・ワイヤ・システム(単にSBWとも称する)を搭載した車両用操舵制御装置が提供されている。
この種の車両用操舵制御装置では、操舵部材につながった操舵機構と、転舵輪を転舵させるための転舵用モータを用いて実際にタイヤを転舵する転舵機構とが備えられている。転舵機構は、操舵角センサにより検出される操舵部材の操舵角に基づいて転舵用モータを駆動制御する。
【0003】
操舵機構は、操舵軸に連結された反力モータを備え、該反力モータによって路面等から転舵輪に伝わる反力を模擬的に作り出し、操舵反力として操舵部材に与える(特許文献1参照)。
反力モータを制御する方法として、反力モータに流すモータ電流を直接制御する方法と、操舵トルクセンサを用いて操舵部材に印加される操舵トルクを検出し、この操舵トルクが目標トルクに近づくようにフィードバック制御する方法とがある。後者の方法のほうが精度が良く、一般に用いられる。操舵トルクセンサには、電動パワーステアリング用の操舵トルクセンサが流用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-182058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステア・バイ・ワイヤ・システムでは、操舵部材の端当て感も反力モータを用いて作り出すので、操舵部材に大きな操舵トルクが印加される。しかし、操舵トルクセンサの検出範囲には限界がある。
そこで操舵トルクセンサの検出範囲を広げるため、操舵トルクセンサの構成部品であるトーションバーとしてばね定数の大きなものを用いることも考えられるが、こうすると操舵トルクの小さな範囲においてセンサの検出分解能が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる実情に鑑み、操舵トルクセンサの検出範囲を超える、大きな操舵トルクに対応することができる車両用操舵制御装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、操舵部材に印加される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、操舵部材に操舵反力を与えるための反力モータと、操舵トルク検出手段で検出された操舵トルク値に基づいて反力モータによる車両の操舵反力を制御する反力モータ電流制御手段とを備える車両用操舵制御装置において、前記反力モータに流れるモータ駆動電流を検出する反力モータ駆動電流検出手段をさらに備え、前記反力モータ電流制御手段は、前記操舵トルク検出手段によって検出された操舵トルクの絶対値を所定の閾値Tshと比較判定し、前記検出された操舵トルク値の絶対値が前記閾値Tsh以下であれば該操舵トルク値に基づいて操舵反力を制御するとともに、前記検出された操舵トルク値の絶対値が前記閾値Tshを超えていれば、前記反力モータ駆動電流検出手段によって検出されたモータ電流値を基準値I_keepとして、次の式に基づいて目標モータ電流値I_ref算出して操舵反力を制御するものである。
I_ref=I_keep+(T_ref−Tsh)Kt
(ここでT_refは目標トルク値、Ktはモータトルク定数)
【0008】
この構成によれば、検出された操舵トルク値の絶対値が閾値以下であれば該操舵トルク値に基づいて操舵反力を制御することにより、操舵トルク検出手段の検出限界内の正確な操舵反力の制御が行える。また検出された操舵トルク値の絶対値が閾値を超える場合にはモータ電流値を基準値として操舵反力を制御することにより、操舵トルク検出手段の検出限界を超えた大きな操舵トルクに対応することができる。
【0009】
反力モータ電流制御手段は、操舵トルク値に基づく操舵反力の制御から、モータ電流値を基準値とした操舵反力の制御へ切り替える場合は、切り替わる時点でのモータ電流値を記憶し、該記憶されたモータ電流値を基準値として操舵反力を制御するものであってもよい。これによれば、検出された操舵トルク値の絶対値が閾値を超えた時点での反力モータ駆動電流検出手段によって検出されたモータ電流値を基準値とすることで、操舵トルク値の絶対値が閾値を超える時点での反力モータ電流値の急な変化がなくなり、トルク変動の少ない切り換え制御が可能になる。その結果、滑らかな操舵フィーリングが得られる。
【0010】
本発明の車両用操舵制御装置は、操舵部材に大きな操舵トルクが印加されるステア・バイ・ワイヤ・システムを搭載した車両用操舵制御装置に、有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態の車両用操舵制御装置1の概略構成を示す模式図である。
図2】制御装置19の中の、反力モータ10を駆動制御するための部位を取り出して描いた機能ブロック図である。
図3】制御装置19により実行される反力モータ電流制御処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態の車両用操舵制御装置の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、本車両用操舵制御装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2と転舵輪3との機械的な連結が解除された、いわゆるステア・バイ・ワイヤ・システムを構成している。
【0013】
車両用操舵制御装置1では、操舵部材2の回転操作に応じて駆動される転舵アクチュエータ4の動作を、ハウジング5に支持された転舵軸6の車幅方向の直線運動に変換するようになっている。この転舵軸6の直線運動は、転舵用の左右の転舵輪3の転舵運動に変換され、これにより車両の転舵が達成される。車両が直進しているときの転舵輪3の位置に対応する操舵部材2の位置が、操舵中立位置として設定される。
【0014】
転舵アクチュエータ4は、例えば、転舵モータMを含んでいる。この転舵モータMの駆動力(出力軸の回転力)は、転舵軸6に関連して設けられた運動変換機構(ボールねじ装置)により、転舵軸6の軸方向の直線運動に変換される。この転舵軸6の直線運動は、転舵軸6の両端に連結されたタイロッド7に伝達され、ナックルアーム8の回動を引き起こす。これにより、ナックルアーム8に支持された転舵輪3の操向が達成される。
【0015】
転舵軸6、タイロッド7およびナックルアーム8により、転舵輪3を転舵するための転舵機構Aが構成されている。転舵軸6を支持するハウジング5は、車体Bに固定されている。
操舵部材2は、車体Bに回転可能に支持された操舵軸9に連結されている。操舵軸9には、路面等から転舵輪3に伝わる反力を操舵反力として操舵部材2に与えるための反力モータ10が取り付けられている。反力モータ10は、ブラシレスモータ等のモータである。反力モータ10は、車体Bに固定されたハウジング内に収容されている。
【0016】
車両用操舵制御装置1には、操舵軸9に関連して、操舵部材2の操舵角θを検出するための操舵角センサ12が設けられている。また、操舵軸9には、操舵部材2に加えられた操舵トルクTを検出するためのトルクセンサ13が設けられている。操舵角θは、操舵部材2を中立位置から右に回すに従って正の方向に増加し、操舵部材2を中立位置から左に回すに従って負の方向に増加するものとする。操舵トルクTの符号は、操舵部材2を右回転させる方向を正にとり、左回転させる方向を負にとるものとする。操舵部材2、操舵軸9、操舵角センサ12により、操舵機構Cが構成されている。
【0017】
一方、車両用操舵制御装置1には、転舵軸6に関連して、転舵輪3の転舵角を検出するための転舵角センサ14が設けられている。
これらのセンサの他にも、車速Vを検出する車速センサ15が設けられている。車速センサ15を特に設けず、車内LAN(CAN)から取得される車速信号を用いて車速Vを検出しても良い。
【0018】
これらのセンサ類12〜15の各検出信号は、マイクロコンピュータを含む構成の電子制御ユニットである制御装置としての制御装置19に入力されるようになっている。
制御装置19は、駆動回路20Aを通して転舵モータMを駆動制御するとともに、駆動回路20Bを通して反力モータ10を駆動制御する。
図2は、制御装置19の中の、反力モータ10を駆動制御するための部位を取り出して描いた機能ブロック図である。制御装置19は、目標トルク値演算部31、反力モータ電流制御部32、偏差演算部33、PI制御部34、PWM信号を作り出すPWM信号生成部35を有している。制御装置19はさらに、トルクセンサ13によって検出された操舵トルク値Tと比較される閾値Tshを記憶する第1メモリ36と、反力モータ駆動電流検出手段としての駆動回路20Bから得られる反力モータ電流値Iを記憶する第2メモリ37とを備えている。
【0019】
目標トルク値演算部31は、操舵角センサ12によって検出された操舵角θと、車速センサ15によって検出された車速Vとを入力として、操舵角θ、車速Vの関数としての目標トルク値T_refを演算する。目標トルク値T_refは、操舵角θが正の方向に大きくなるほど負の方向に増大し、操舵角θが負の方向に大きくなるほど正の方向に増大する。また車速Vとの関係では、車速Vが小さいほどその絶対値は増大し、車速Vが大きくなるほどその絶対値は減少していくものとする。
【0020】
反力モータ電流制御部32は、目標トルク値T_refと、トルクセンサ13によって検出された操舵トルク値Tを入力とし、目標モータ電流値I_refを出力する部位である。反力モータ電流制御部32は、後に詳しく説明するように、操舵トルク値Tの絶対値に応じて、反力モータ電流の制御内容を変える。
反力モータ電流制御部32から出力される目標モータ電流値I_refは、偏差演算部33で反力モータ電流値Iとの偏差がとられ、この偏差がPI制御部34に入力される。PI制御部34は反力モータ電流値Iを目標モータ電流値I_refに近づけるため(すなわち偏差を0にするため)の比例・積分制御を行う。
【0021】
PI制御部34の出力はPWM制御部に入力され、ここで、駆動回路20B内の駆動素子をオンオフ制御するためのゲート信号のパルス幅が調整される。駆動回路20Bは駆動素子のオンオフ動作を利用して反力モータを駆動するための反力モータ電流値Iを生成する。この反力モータ電流値Iが差分演算部にフィードバックされる。
反力モータ電流制御部32における制御の流れを、フローチャート(図3)を用いて詳細に説明する。この制御は車両走行中、一定処理周期ごとに行っている。
【0022】
反力モータ電流制御部32は、トルクセンサ13によって検出された操舵トルク値Tを取得し(ステップS1)、操舵トルク値Tの絶対値が、閾値Tshより小さいかどうか調べる(ステップS2)。閾値Tshとしては、トルクセンサ13の検出精度が確保できる上限値、又はこの近傍の値を設定するものとする。
操舵トルク値Tの絶対値が閾値Tshより小さいならば、目標トルク値演算部31から入力される目標トルク値T_refとトルクセンサ13によって検出された操舵トルク値Tとに基づいて、例えばPID制御の式(1):
I_ref=KP(T_ref−T)+KI∫(T_ref−T)dt+KD d(T_ref−T)/dt
を用いて、目標モータ電流値I_refを算出する(ステップS3)。ここでKP,KI,KDはモータ電流とモータトルクとの関係を表す定数である。この式(1)は、操舵トルク値Tを目標トルク値T_refに近づけるために行うPID制御の内容を表している。
【0023】
操舵トルク値Tの絶対値が閾値Tshより大きいならば(ステップS2のNO)、目標トルク値T_refとともに、反力モータ駆動電流検出手段としての駆動回路20Bから検出される反力モータ電流値Iを利用して、操舵反力を制御する。
その制御内容を説明する。前回の処理周期で検出された操舵トルク値Tの絶対値を閾値Tshと比較する(ステップS4)。もし閾値Tshよりも小さければ、操舵トルク値Tの絶対値が閾値Tshを超えた後、初めての処理であることが分かるので、駆動回路20Bから得られる反力モータ電流値Iを、第2メモリ37に記憶する(ステップS5)。この記憶した反力モータ電流値IをI_keepと表記する。そして、目標モータ電流値I_refを、式(2):
I_ref=I_keep+(T_ref−Tsh)Kt
を用いて算出する(ステップS6)。
【0024】
もし前回の処理周期で検出された操舵トルク値Tの絶対値が閾値Tshよりも大きければ(ステップS4のNO)、操舵トルク値Tの絶対値が閾値Tshを超えた後、初めてでなく2回目以後の処理であることが分かるが、このときは式(2)をそのまま用いて目標モータ電流値I_refを算出する(ステップS6)。
この式(2)は、目標トルク値T_refと閾値Tshとの差を電流値に換算するためモータトルク定数を乗じた項に、トルク値Tの絶対値が閾値Tshを超えた直後のモータ保持電流値I_keepを加算したものである。
【0025】
この式の構造により、モータトルク定数Ktを含む項のみに基づいて目標モータ電流値I_refを決定する場合に比べて、モータ保持電流値I_keepを加算することで、操舵トルク値Tの絶対値が閾値Tshを超える時点での目標モータ電流値I_refのステップ状の変化がなくなり、トルク変動の少ない切り換え制御が可能になる。その結果、滑らかな操舵フィーリングが得られる。また、車両の中立付近特性をより再現するためにメカ摩擦要素を加えたシステムでは、中立付近ではメカ摩擦要素が良好な反力特性に寄与する一方、反力の大きな領域では、所定の目標反力とずれが生じるが、メカ摩擦によるそのずれを補償できる。
【0026】
また、式(1)と比較すれば分かるように、トルクセンサ13によって検出される操舵トルク値Tの変わりに閾値Tshを用いている。前述したように「閾値Tshとしては、トルクセンサの検出精度が確保できる上限値、又はこの近傍の値を設定」しているので、この閾値Tshを超える操舵トルク値Tの精度は保障されない。よって、操舵トルク値Tの絶対値が閾値Tshよりも大きなときに、トルクセンサ13によって検出される非保障の操舵トルク値Tを用いないで、固定された閾値Tshを用いるようにしたのである。これによって、検出限界の広いトルクセンサ13を用いなくても、高い検出分解能を維持しながら大きな操舵トルクに対応することができる。
【0027】
以上で本発明の実施の形態を説明してきたが、本発明は以上の実施の形態に限定されるものではない。例えば、本発明の車両用操舵制御装置の反力モータ電流制御は、ステア・バイ・ワイヤ方式の車両のみならず、ドライビング・シミュレータの操舵制御にも利用することができる。その他、本発明の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0028】
1…車両用操舵制御装置、2…操舵部材、10…反力モータ、12…操舵角センサ、13…操舵トルクセンサ、19…制御装置、20B…駆動回路、A…転舵機構、C…操舵機構、M…転舵モータ
図1
図2
図3