(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939429
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】ショートアーク型水銀ランプ
(51)【国際特許分類】
H01J 61/073 20060101AFI20160609BHJP
H01J 61/06 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
H01J61/073 B
H01J61/06 B
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-76988(P2012-76988)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-206827(P2013-206827A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000192
【氏名又は名称】岩崎電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135965
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 要泰
(72)【発明者】
【氏名】大谷 俊明
(72)【発明者】
【氏名】松尾 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小林 勇太
(72)【発明者】
【氏名】折戸 日出海
【審査官】
佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−219683(JP,A)
【文献】
特開2009−238664(JP,A)
【文献】
特開2008−235129(JP,A)
【文献】
特開2005−285676(JP,A)
【文献】
実開昭60−048663(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0062851(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/00−65/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラス発光管と該発光管内に収納された陽極と陰極を有するショートアーク型水銀ランプにおいて、
前記陽極は、円形の先端面と円周状の胴体面を有する円柱状に形成され、
前記陽極の胴体面には、円周方向に延びる複数の矩形断面の溝と複数の矩形断面の山が交互に形成され、
前記山の円周状の縁に沿ってテーパ面が形成され、該山の縁のテーパ面の前記陽極の半径方向の寸法aに対する前記陽極の溝の深さhの比h/aの値は次の式のように設定されることを特徴とするショートアーク型水銀ランプ。
1.5≦h/a≦20
【請求項2】
請求項1記載のショートアーク型水銀ランプにおいて、
前記陽極の前記先端面の円周状の縁に沿ってテーパ面が形成され、
前記陽極の全長をLとし、前記陽極の胴体面の軸線方向の寸法をL1とし、前記先端面の縁のテーパ面の軸線方向の寸法をL2とするとき、L2の値、及び、比L1/Lの値は次の式のように設定されることを特徴とするショートアーク型水銀ランプ。
5mm≦L2≦10mm
0.40≦L1/L≦0.85
【請求項3】
請求項1又は2記載のショートアーク型水銀ランプにおいて、
前記陽極の溝の深さをh、前記陽極の溝の幅をg、前記陽極の山の前記テーパ面が形成された部分を含む全体の軸線方向の幅をfとするとき、前記陽極の溝の深さと幅の比の値、及び、前記陽極の溝と山の幅の合計値(f+g)に対する前記陽極の山の幅fの比の値は次の式のように設定されることを特徴とするショートアーク型水銀ランプ。
1≦h/g≦5
f/(f+g)≧0.5
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のショートアーク型水銀ランプにおいて、
前記山の縁のテーパ面は湾曲面として形成されていることを特徴とするショートアーク型水銀ランプ。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載のショートアーク型水銀ランプにおいて、
前記陽極の山の円周面に対する前記山の縁のテーパ面の傾斜角をθ1とするとき、該傾斜角θ1は次の式のように設定されることを特徴とするショートアーク型水銀ランプ。
30°≦θ1≦60°
【請求項6】
請求項1又は2記載のショートアーク型水銀ランプにおいて、
前記陽極の溝の底面の縁に円周状に延びるテーパ面が形成されており、前記陽極の溝の底面に対する該溝の底面の縁のテーパ面の傾斜角をθ2とするとき、該傾斜角θ2は次の式のように設定されることを特徴とするショートアーク型水銀ランプ。
30°≦θ2≦60°
【請求項7】
請求項2に記載のショートアーク型水銀ランプにおいて、
前記陽極の中心軸線に対して直交する面に対する前記陽極の先端面のテーパ面のなす角を傾斜角α(アルファ)とすると、該傾斜角は、α=20〜40度であることを特徴とするショートアーク型水銀ランプ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載のショートアーク型水銀ランプにおいて、
前記陽極の材料として、タングステン、又は、カリウムをドープしたタングステンが用いられていることを特徴とするショートアーク型水銀ランプ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載のショートアーク型水銀ランプにおいて、
前記陰極の材料として、酸化トリウム、酸化ジルコニウム及び酸化ランタンの少なくとも1つを含有するタングステンが用いられていることを特徴とするショートアーク型水銀ランプ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載のショートアーク型水銀ランプにおいて、
前記陽極の外径は20〜40mm、前記陽極の軸線方向の寸法は20〜100mmであることを特徴とするショートアーク型水銀ランプ。
【請求項11】
円形の先端面と円周状の胴体面を有する円柱状に形成されたショートアーク型水銀ランプ用陽極において、
前記陽極の胴体面には、円周方向に延びる複数の矩形断面の溝と複数の矩形断面の山が交互に形成され、
前記山の円周状の縁に沿ってテーパ面が形成され、該山の縁のテーパ面の寸法aに対する前記溝の深さhの比h/aの値は次の式のように設定され、
1.5≦h/a≦20
前記先端面の円周状の縁に沿ってテーパ面が形成され、
該陽極の全長をLとし、前記胴体面の軸線方向の寸法をL1とし、前記先端面のテーパ面の軸線方向の寸法をL2とするとき、L2の値、及び、比L1/Lの値は次の式のように設定されることを特徴とするショートアーク型水銀ランプ用陽極。
5mm≦L2≦10mm
0.40≦L1/L≦0.85
【請求項12】
請求項11記載のショートアーク型水銀ランプ用陽極において、
前記溝の深さをh、前記溝の幅をg、前記山の前記テーパ面が形成された部分を含む全体の軸線方向の幅をfとするとき、前記陽極の溝の深さと幅の比の値、及び、前記陽極の溝と山の幅の合計値(f+g)に対する前記陽極の山の幅fの比の値は次の式のように設定されることを特徴とするショートアーク型水銀ランプ用陽極。
1≦h/g≦5
f/(f+g)≧0.5
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置に使用して好適なショートアーク型水銀ランプに関し、特に、その陽極の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ、液晶装置等の製造工程では、加工面に感光材(フォトレジスト)を塗布し、フォトマスク、レチクル等のパターンを形成し、露光させることにより、微細なパターンの形成や、光配向膜を露光するフォトリソグラフィ技術が用いられる。
【0003】
露光用の紫外線光源として、電極間距離(アーク長)が短い直流水銀ランプが用いられる。近年、半導体の微細化の進行とともに紫外線光源の短波長化が進んでおり、g線(436nm)、又は、i線(365nm)が用いられ、用途によりh線(405nm)、j線(313nm)なども利用されている。更に、高照度化の要請から、水銀ランプの大電流化が進んでいる。
【0004】
ショートアーク型水銀ランプの大電流化に伴い、黒化現象が課題となる。黒化現象とは、ランプ点灯中に、電極先端が高温となり、それにより、電極素材のタングステンが蒸発してランプ内壁面に付着する現象である。黒化現象が起きると、照度が低下し、又は、不安定化し、ランプ寿命が短くなる。黒化現象を防止し、ランプを長寿命化するために、陽極の放熱面、即ち、表面積を増加させる技術が提案されている。
【0005】
特許文献1、2には、陽極の胴体面に円周方向に延びる矩形断面の溝を形成することが記載されている。詳細には、特許文献1には、溝の深さを溝の幅より大きくすることによって、陽極の放熱面を増加させることが記載されている。特許文献2には、溝の深さを、陽極の先端からリード棒に向かって増加させると、陽極の冷却効果が増加することが記載されている。
【0006】
特許文献3、4には、陽極の胴体面に円周方向に延びるV溝を形成することにより冷却効果を増加させることが記載されている。特許文献5には、電極の表面にレーザ光を照射して、電極の胴体面に凹凸を形成する電極の製造方法が記載されている。
【0007】
特許文献6には、陽極の内部に凹部とそれに通ずる孔を設け、ガス流を促進する構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭60−048663号公報
【特許文献2】実開昭60−110973号公報
【特許文献3】特開2002−117806号公報
【特許文献4】特開2003−223865号公報
【特許文献5】特開2008−235128号公報
【特許文献6】特開2008−305782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明者は、従来技術の陽極の冷却機構を詳細に検討した。その結果、本願発明者は、陽極の冷却機能を増加させるためには、放熱面を増加させるばかりでなく、陽極の表面のガス流を整流化し、促進することが必要であることを見出した。特許文献1、2には陽極の放熱面を増加させることによって、冷却効果を増加させることが記載されているが、陽極の表面のガス流については考察されていない。
【0010】
特許文献6には、陽極の周囲においてガス流を促進するための構造が記載されているが、陽極の内部に凹部及び貫通孔を設けるため、陽極の構造が複雑化する。
【0011】
更に、本願発明者は、陽極の胴体面の表面に鋭い突起を形成することは好ましくないことを見出した。例えば、特許文献3、4、5に記載された例のように、鋭い突起が形成されると、電極素材の蒸発によって、容易に変形し摩耗するばかりでなく、異常放電が起きたり、製造工程においても、歩留まりが低下する可能性がある。
【0012】
本発明の目的は、陽極の構造を複雑化することなく、陽極の温度が過度に高くなることを防止し、黒化現象を回避させ、長寿命化を実現できるショートアーク型水銀ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願の発明者は、従来技術を鋭意検討した結果、以下のような見解を得た。即ち、陽極の冷却機能を増加させるには、陽極の表面積を増加させるだけでは不十分であり、陽極の周囲のガス流を整流化させ、ガス流を促進することが重要である。陽極の表面積が増加しても、ガス流が停滞すると、冷却効果が低下するからである。従って、陽極の周囲のガス流を整流化し、ガス流を促進する必要がある。
【0014】
陽極の冷却効果とガス流を直接測定し解析することは困難である。そこで、本願の発明者は、水銀ランプの照度維持率と照度変動率を測定することによって、陽極の冷却効果とガス流の整流化を間接的に把握し、解析した。解析結果から、陽極の最適な構造を見出した。
【0015】
本発明によると、石英ガラス発光管と該石英ガラス発光管内に収納された陽極と陰極を有するショートアーク型水銀ランプにおいて、前記陽極は、円形の先端面と円周状の胴体面を有する円柱状に形成され、前記陽極の胴体面には、円周方向に延びる複数の矩形断面の溝が形成され、隣接する該溝の間に複数の矩形断面の山が形成されている。
【0016】
前記山の円周状の縁に沿ってテーパ面が形成され、該山の縁のテーパ面の前記陽極の半径方向の寸法aに対する前記陽極の溝の深さhの比h/aの値は次の式のように設定される。
1.5≦h/a≦20
【0017】
本実施形態によると、前記陽極の前記先端面の円周状の縁に沿ってテーパ面が形成され、前記陽極の全長をLとし、前記陽極の胴体面の軸線方向の寸法をL1とし、前記先端面の縁のテーパ面の軸線方向の寸法をL2とするとき、L2の値、及び、比L1/Lの値は次の式のように設定されてよい。
5mm≦L2≦10mm
0.40≦L1/L≦0.85
【0018】
本実施形態によると、前記陽極の溝の深さをh、前記陽極の溝の幅をg、前記陽極の山の幅をfとするとき、前記陽極の溝の深さと幅の比の値、及び、前記陽極の溝と山の幅の合計値(f+g)に対する前記陽極の山の幅fの比の値は次の式のように設定されてよい。
1≦h/g≦5
f/(f+g)≧0.5
【0019】
本実施形態によると、前記山の縁のテーパ面は湾曲面として形成されてよい。
【0020】
本実施形態によると、前記陽極の山の円周面に対する前記山の縁のテーパ面の傾斜角をθ1とするとき、該傾斜角θ1は次の式のように設定されてよい。
30°≦θ1≦60°
【0021】
本実施形態によると、前記陽極の溝の底面の縁に円周状に延びるテーパ面が形成されており、前記陽極の溝の底面に対する該溝の底面の縁のテーパ面の傾斜角をθ2とするとき、該傾斜角θ2は次の式のように設定されてよい。
30°≦θ2≦60°
【0022】
本実施形態によると、前記陽極の中心軸線に対して直交する面に対する前記陽極の先端面のテーパ面のなす角を傾斜角α(アルファ)とすると、該傾斜角は、α=20〜40度であってよい。
【0023】
本実施形態によると、前記陽極の材料として、タングステン、又は、カリウムをドープしたタングステンが用いられてよい。
【0024】
本実施形態によると、前記陰極の材料として、酸化トリウム、酸化ジルコニウム及び酸化ランタンの少なくとも1つを含有するタングステンが用いられてよい。
【0025】
本実施形態によると、前記陽極の外径は20〜40mm、前記陽極の軸線方向の寸法は20〜100mmであってよい。
【0026】
本発明によると、円形の先端面と円周状の胴体面を有する円柱状に形成されたショートアーク型水銀ランプ用陽極において、
前記陽極の胴体面には、円周方向に延びる複数の矩形断面の溝と複数の矩形断面の山が交互に形成され、前記山の円周状の縁に沿ってテーパ面が形成され、該山の縁のテーパ面の寸法aに対する前記溝の深さhの比h/aの値は次の式のように設定され、
1.5≦h/a≦20
前記先端面の円周状の縁に沿ってテーパ面が形成され、該陽極の全長をLとし、前記胴体面の軸線方向の寸法をL1とし、前記先端面のテーパ面の軸線方向の寸法をL2とするとき、L2の値、及び、比L1/Lの値は次の式のように設定される。
5mm≦L2≦10mm
0.40≦L1/L≦0.85
【0027】
本実施形態によると、前記溝の深さをh、前記溝の幅をg、前記山の幅をfとするとき、前記陽極の溝の深さと幅の比の値、及び、前記陽極の溝と山の幅の合計値(f+g)に対する前記陽極の山の幅fの比の値は次の式のように設定されてよい。
1≦h/g≦5
f/(f+g)≧0.5
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、陽極の構造を複雑化することなく、陽極の温度が過度に高くなることを防止し、黒化現象を回避させ、長寿命化を実現できるショートアーク型水銀ランプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本実施形態によるショートアーク型水銀ランプの主要部を説明する説明図である。
【
図2】
図2は、本実施形態によるショートアーク型水銀ランプの陽極の構造を示す図である。
【
図3A】
図3Aは、陽極の先端面に形成されたテーパ面の機能を説明する図である。
【
図3B】
図3Bは、陽極の先端面に形成されたテーパ面の機能を説明する図である。
【
図4】
図4は、本実施形態によるショートアーク型水銀ランプの陽極の断面構造を説明する図である。
【
図5A】
図5Aは、本実施形態のショートアーク型水銀ランプの陽極の胴体面の山の構造を説明する図である。
【
図5B】
図5Bは、本実施形態のショートアーク型水銀ランプの陽極の胴体面の溝の構造を説明する図である。
【
図5C】
図5Cは、本実施形態のショートアーク型水銀ランプの陽極の胴体面の山の構造を説明する図である。
【
図5D】
図5Dは、本実施形態のショートアーク型水銀ランプの陽極の胴体面の山の構造を説明する図である。
【
図6】
図6は、本実施形態のショートアーク型水銀ランプの陽極について、全長に対する胴体面の寸法の比を変化させて、照度維持率と照度変動率を測定した結果を示す図である。
【
図7】
図7は、本実施形態のショートアーク型水銀ランプの陽極について、テーパ面の陽極半径方向の寸法に対する陽極の溝の深さの比を変化させて、照度変動率を測定した結果を示す図である。
【
図8】
図8は、本実施形態のショートアーク型水銀ランプの陽極について、溝断面のアスペクト比を変化させて、照度変動率を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係るショートアーク型水銀ランプの実施形態に関して、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中、同じ要素に対しては同じ参照符号を付して、重複した説明を省略する。
【0031】
図1は、本実施形態によるショートアーク型水銀ランプの主要部を示す。ショートアーク型水銀ランプは、陽極10と陰極12を有し、両者は、密閉した卵形の石英ガラス発光管14内に収納されている。
【0032】
陽極10と陰極12はそれぞれ電極棒(リード棒)11に接続されている。尚、発光管14内には、発光物質である水銀18が封入されている。また、発光管14内には、キセノン、アルゴン、クリプトン等の希ガスが封入されている。発光管14の外周面の一部に金属薄膜16が形成されている。
【0033】
陽極10は、タングステン、好ましくは、カリウムをドープしたタングステンによって形成される。例えば、電極表面にタングステン粉末を焼結して形成される。
【0034】
陰極12は、酸化トリウム、酸化ジルコニウム及び酸化ランタンの少なくとも1つを含有するタングステンによって形成される。
【0035】
露光で用いられるショートアーク型水銀ランプの場合、陽極10の外径は20〜40mm、陽極10の軸線方向の寸法は20〜100である。発光管の最大外径は、50mm〜250mm、動作圧力は0.1〜0.4MPaである。陽極10の先端と陰極12の先端の間の距離は、アーク長と称される。ショートアーク型水銀ランプでは、アーク長は3〜15mmである。電力は1.5〜20kW、点灯時の平均ガス温度は1000℃を超えるものもある。陰極12の外径は8〜20mm程度である。
【0036】
図2は、本実施形態による陽極10の構造を示す。陽極10は、円柱形状を有し、円形の先端面101と円形の後端面103を有する。先端面101の周囲には円周状の縁に沿ってテーパ面102が形成されている。後端面103の周囲にも同様に円周状の縁に沿ってテーパ面104が形成されている。陽極10の円周状の胴体面105には、溝106が形成されている。溝106は矩形断面を有する。隣接する溝106の間に山108が形成されている。山108は矩形断面を有する。
【0037】
こうして本実施形態では、陽極の胴体面105に複数の溝を形成することにより、陽極の表面積、即ち、放熱面を増加させることができる。そのため、陽極10の表面からの放熱量が増加し、陽極の温度が過度に高くなることが防止される。
【0038】
図3A及び
図3Bを参照して、陽極10の先端面101に設けられたテーパ面102の機能を説明する。陰極12からの電子は、陽極10の先端面101に向かって放出される。電子は、テーパ面102に沿って進路を変更し、その一部は陽極10の胴体面105に捕捉される。
【0039】
陰極12と陽極10の間に形成されたアークによる光は、放射状に放出される。一点鎖線で示す領域Aは、上側の光の配光範囲を示す。下側にも同様に光の配光範囲があるが、ここでは図示を省略している。アークからの光の配光範囲は、陰極12と陽極10の先端のテーパ面102の形状に依存する。図示のように、陽極の胴体面105は陰になる。アークからの光は、陽極の背後の方向を照らすことができない。
【0040】
ここで、陽極の中心軸線に対して直交する面に対するテーパ面102のなす角を傾斜角α(アルファ)と称し、テーパ面102の直径方向両側がなす角を広がり角β(ベータ)と称することとする。2α+β=180度である。
【0041】
図3Aに示す例では、テーパ面102の傾斜角αは、例えば、α=約30度であり、その広がり角βは、例えば、β=約120度である。一方、
図3Bに示す例では、テーパ面102の傾斜角αは、例えば、α=約15度であり、その広がり角βは、例えば、β=約150度である。尚、陰極12のテーパ面の広がり角は、例えば、40度である。
【0042】
陽極10の先端のテーパ面102の傾斜角αが大きいほど、即ち、広がり角βが小さいほど、光の配光範囲が広がり、陽極の背後まで延びる。
図3Aと
図3Bにおいて、陽極の中心軸線に直交する面Y−Yを描く。
図3Aの例では、配光範囲は面Y−Yを超えているが、
図3Bの例では、配光範囲は面Y−Yを超えない。従って、
図3Aの例では、配光範囲はより広い領域まで広がっている。
【0043】
しかしながら、テーパ面102の傾斜角α(アルファ)を大きくし、その広がり角β(ベータ)を小さくすると、陽極10の胴体面105の軸線方向の寸法が短くなり、溝106の数が少なくなる。そこで、本実施形態によると、陽極10の先端のテーパ面102の傾斜角α(アルファ)をα=20〜40度とし、広がり角はβ=100〜140度が望ましく、今回は120度で実施した。それによって、陽極10の胴体面105の溝106の数を所定の値に維持し、同時に、水銀ランプの周囲の広い範囲を照らすことができる。
【0044】
図4を参照して本実施形態の陽極の断面構造を説明する。陽極10の軸線方向の寸法をL、陽極10の胴体面105の軸線方向の寸法をL1、先端のテーパ面102の軸線方向の寸法をL2、後端のテーパ面104の軸線方向の寸法をL3とする。
【0045】
陽極の外径をD、陽極の溝106の底面107の外径をD1、溝106の深さをhとする。溝106の軸線方向の幅寸法をg、山108の軸線方向の寸法をfとする。ここで、溝106のピッチをpとする。溝106の深さhと幅寸法gの比を、溝106の断面形状のアスペクト比k1と称することとする。以上の関係は、次の式によって表される。
L=L1+L2+L3
D=D1+2h
p=g+f
k1=h/g (式1)
【0046】
本実施形態によると、陽極の外径は、D=20〜40mmであり、例えば、25、30mmである。陽極の軸線方向の寸法は、L=30〜70mmであり、例えば、40、50、60mmである。
【0047】
図5Aを参照して、本実施形態の陽極の胴体面の山108の構造を説明する。本実施形態では山108の縁に、円周状に延びるテーパ面110が形成されている。テーパ面110の陽極半径方向の寸法をaとし、テーパ面110の陽極軸線方向の寸法をbとする。山108の軸線方向の寸法をf、山108の円周面109の軸線方向の寸法をf1とする。山108の円周面109に対するテーパ面110の傾斜角をθ1(シータ1)とする。
【0048】
図5Bを参照して、本実施形態の陽極の胴体面の溝106の構造を説明する。本実施形態では溝106の底面107の両側に円周状に延びるテーパ面111が形成されている。テーパ面111の陽極半径方向の寸法をcとし、テーパ面111の陽極軸線方向の寸法をdとする。溝106の底面107に対するテーパ面111の傾斜角をθ2(シータ2)とする。以上の関係は、次の式によって表される。
f=f1+2b
tanθ1=a/b
tanθ2=c/d (式2)
【0049】
本実施形態では、テーパ面110、111の傾斜角θ1、θ2の値は次の式によって表される。
30°≦θ1≦60°
30°≦θ2≦60° (式3)
【0050】
尚、ここでは、テーパ面110、111の断面は直線であるが、湾曲した曲線であってもよい。
【0051】
図5Cを参照して、本実施形態の陽極の胴体面の山108の構造を説明する。本実施形態では、山108の円周面109にV字断面のV溝115が形成されている。V溝115を形成することによって、円周面109の放熱面の面積を増加させることができる。尚、V溝115によって形成される山の頂点が、加工中に欠落しないように、頂点の角度は鋭角とならないように設定される。
【0052】
図5Dを参照して、本実施形態の陽極の胴体面の山108の構造を説明する。本実施形態では、山108の円周面109に矩形断面溝116が形成されている。矩形断面溝116を形成することによって、円周面109の放熱面の面積を増加させることができる。尚、矩形断面溝116によって形成される山の角部が、加工中に欠落しないように、矩形断面溝116の深さは大きくならないように設定される。
【0053】
図6を参照して、陽極の全長Lに対する胴体面105の寸法L1の比の最適値を考察する。
図6は、陽極の全長Lに対する胴体面105の寸法L1の比L1/Lを変化させて、照度維持率と照度変動率を測定した結果を示す。
図6の右側に記載されているように、ここでは、陽極の外径がD=25mm、30mm、陽極の全長がL=40mm、50mm、60mmのものを用いた。
【0054】
横軸は、陽極の全長Lに対する胴体面105の寸法L1の割合(%)であり、比L1/Lに対応する。左側縦軸は照度維持率(%)、右側縦軸は照度変動率(%)を表す。
【0055】
照度維持率は、ショートアーク型水銀ランプを点灯してから1500時間経過後の照度を測定し、当初の照度に対する割合を計算することにより得られる。
【0056】
照度変動率は、ショートアーク型水銀ランプの照度が安定した後、アークの中心から水平方向に100cmの位置における照度の変動量を測定することにより得られる。ここでは、5分間の変動量を測定した。当該ショートアーク型水銀ランプの照度が安定するのは、通常、点灯後20〜30分後である。
【0057】
上述のように、陽極の長寿命化には、陽極の放熱面、即ち、表面積を増加させると同時に、陽極の表面におけるガス流を整流化させる必要がある。ここで、陽極の全長Lと後端のテーパ面104の軸線方向の寸法L3は一定であるとする。先端のテーパ面102の軸線方向の寸法L2を小さくすると、比L1/Lは大きくなる。
【0058】
図示のように、比L1/Lを大きくすると、照度維持率は上昇する。胴体面105の寸法L1の割合が40〜85%の場合に、照度維持率は70%を超える。胴体面105の寸法L1の割合が85〜90%の場合に、照度維持率は90%を超える。これは、胴体面105の寸法L1の割合を大きくすると、放熱性が改善されるためであると考えられる。しかしながら、胴体面105の寸法L1の割合が90%を超えると、照度維持率は寧ろ減少する。これは、先端のテーパ面102の軸線方向の寸法L2を小さくし過ぎると、陽極の表面におけるガス流の整流化が妨げられ、陽極の表面の放熱性が低下するためであると考えられる。
【0059】
一方、比L1/Lを大きくすると、照度変動率は減少する。胴体面105の寸法L1の割合が40〜85%の場合に、照度変動率は1.5%以下となる。これは、胴体面105の寸法L1の割合を大きくすると、放熱性が安定化するためであると考えられる。胴体面105の寸法L1の割合が85%を超えると、照度変動率は増加する。これは、先端のテーパ面102の軸線方向の寸法L2を小さくし過ぎると、陽極の表面におけるガス流の整流化が妨げられ、陽極の表面からの放熱性が不安定化すると考えられる。
【0060】
以上より、放熱面が増加し、比L1/Lを大きくすることが好ましいが、先端のテーパ面102の軸線方向の寸法L2が小さすぎるのは好ましくない。そこで、本実施形態では、先端のテーパ面102の軸線方向の寸法L2を、5mm以上且つ10mm以下とする。
【0061】
陽極の全長Lに対する胴体面105の寸法L1の割合(%)を40〜85%とすると、照度維持率が70%以上となり、照度変動率が1.5%以下となる。従って、本実施形態では、先端のテーパ面102の軸線方向の寸法L2、及び、比L1/Lの値を次のように設定する。
5mm≦L2≦10mm (式4)
0.40≦L1/L≦0.85 (式5)
【0062】
図7を参照して、陽極の溝106の深さと山108のテーパ面110の陽極半径方向の寸法aの比の最適値を考察する。
図7は、山108のテーパ面110の陽極半径方向の寸法aに対する溝106の深さhの比を変化させて、照度変動率を測定した結果を示す。
図7の右側に記載されているように、ここでは、陽極の外径がD=25mm、陽極の全長がL=40mm、50mmのものを用いた。
【0063】
横軸は、比h/aであり、縦軸は照度変動率(%)を表す。照度変動率は、ショートアーク型水銀ランプの照度が安定してから、アークの中心から水平方向に100cmの位置における照度の変動量を5分間測定して求めた。当該ショートアーク型水銀ランプの照度が安定するのは、通常、点灯後20〜30分後である。
【0064】
ここで、溝106の深さhは一定であるとする。テーパ面110の陽極半径方向の寸法aを小さくすると、比h/aの値は増加する。
【0065】
図示のように、比h/aの値が1の場合には、照度変動率は比較的高い。比h/a=1は、溝106の深さhとテーパ面110の寸法aが同一の場合である。これは、溝106の全体がテーパ面によって形成されている場合である。この場合、陽極の表面におけるガス流の整流化が妨げられていると考えられる。比h/aの値が1〜10の場合には、比h/aの値を大きくすると、即ち、テーパ面110の寸法aを小さくすると、照度変動率は低下し、比h/a=10付近で最小となる。比h/aの値を10より大きくすると、即ち、テーパ面110の寸法aを更に小さくすると、照度変動率は増加する。
【0066】
照度変動率を1.5%以下にするには、比h/aの値は、1.5〜20程度であることが好ましい。比h/aの値が1.5〜20程度の場合、山108の縁にテーパ面110を設けることによって、陽極の表面におけるガス流が整流化され、ガスの流れが促進されるものと考えられる。従って、本実施形態では、テーパ面110の陽極半径方向の寸法aに対する陽極の溝106の深さhの比h/aの値を次のように設定する。
1.5≦h/a≦20 (式6)
【0067】
図8を参照して、陽極の溝106の深さhと幅gの比、即ち、アスペクト比k1の最適値を考察する。
図8は、アスペクト比k1を変化させて、照度変動率を測定した結果を示す。
図8の右側に記載されているように、ここでは、陽極の外径がD=25mm、陽極の全長がL=40mm、50mmのものを用いた。
【0068】
横軸は、アスペクト比k1=h/gであり、縦軸は照度変動率(%)を表す。照度変動率は、ショートアーク型水銀ランプの照度が安定してから、アークの中心から水平方向に100cmの位置における照度の変動量を5分間測定して求めた。当該ショートアーク型水銀ランプの照度が安定するのは、通常、点灯後20〜30分後である。
【0069】
図示のように、アスペクト比k1=h/gの値が1以下の場合、アスペクト比k1=h/gを増加させると、照度変動率は減少する。アスペクト比k1=h/gの値が6以上の場合、アスペクト比k1=h/gを増加させると、照度変動率は増加する。アスペクト比k1=h/gが1〜5程度であれば、照度変動率は1.5%以下となる。これは、陽極の表面におけるガス流が整流化されるものと考えられる。従って、アスペクト比k1=h/gは次の式によって表される。
1≦h/g≦5 (式7)
【0070】
更に、ピッチp=f+gに対する山の寸法fの比は0.5以上であることが好ましい。従って、山の寸法fは次の式によって表される。
f/(f+g)≧0.5 (式8)
【0071】
ここで再度、
図4を参照して、陽極の胴体面105の放熱面、即ち、表面積を計算する。先ず、溝106の放熱面の面積S1を計算する。溝106の底面107の面積は、π(D−2h)×gである。溝106のリング状の側壁の面積は、π(D−h)×h×2である。従って、1つの溝106の放熱面の面積S1は、次の式によって表される。
S1=π(D−2h)×g+π(D−h)×h×2
=πD×g+π(D−g−h)×2h (式9)
【0072】
この式の第1項、πD×gは、溝を形成しなかったときの放熱面の面積である。従って、この式の第2項、π(D−g−h)×2hが、溝を形成したことによる放熱面の増加分を表す。これをΔSとすると、次の式によって表される。
ΔS=π(D−g−h)×2h (式10)
【0073】
ここで、陽極の円周面にn個の溝を設けたものとする。また、溝106の軸線方向の寸法gと山108の軸線方向の寸法fが等しいとする。この条件は次の式によって表される。
p×n=L1
f=g=p/2=L1/2n (式11)
【0074】
この関係を用いると、放熱面の増加分ΔSは次の式によって表される。
ΔS=π(D−L1/2n−h)×2h (式12)
【0075】
陽極の外径D及び胴体面105の寸法L1を一定とする。溝の深さhが一定であると仮定すると、ΔSを大きくするには、溝の数nは大きくするか、又は、ピッチpを小さくするとよい。例えば、陽極の外径をD=25mm、胴体面105の寸法をL1=40mm、溝の深さをh=2mm、ピッチをp=4mm、溝の数をn=10とする。放熱面の増加分は、ΔS=264mm
2となる。こうして、表面積が増えると、放熱面が増加し、放熱性が上がる。
【0076】
以上、本実施形態に係る陽極の構造について説明したが、これらは例示であって、本発明の範囲を制限するものではない。当業者が、本実施形態に対して容易になしえる追加・削除・変更・改良等は、本発明の範囲内である。本発明の技術的範囲は、添付の特許請求の記載によって定められる。
【符号の説明】
【0077】
10…陽極、 12…陰極、 14…石英ガラス発光管、 16…金属薄膜、 18…水銀、 101…先端面、 102…テーパ面、 103…後端面、 104…テーパ面、 105…胴体面、 106…溝、 107…底面、 108…山、 109…円周面、 110…テーパ面、 111…テーパ面、 115…V溝、 116…矩形断面溝