(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
プラントにおける異常の診断には、プラントで検出される複数の検出値を利用することがある。しかしながら、このような検出値には、周期的な変動(例えば、季節変動等)を受けるものもある。したがって、異常診断の際には検出値から周期的な変動を予め除くことが好ましい。
【0003】
例えば、所定期間に得られた検出値の平均値を周期的な変動を表す変動値として求め、新たに入力する検出値からこの変動値を除いた値を利用して異常を診断することがある。プラントでは、多数の変数について検出値が得られるため、多数の検出値を利用して容易に異常を診断する方法としてMT法(マハラノビス・タグチメソッド)を用いることもあるが、MT法で異常を診断する場合にも、変動値として求めた平均値を除く方法が利用されることもある。
【0004】
また、検出値を標準化し、標準化データに基づいて移動平均処理を行って異常を診断する方法もある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このように異常診断の際に検出値から除去する変動値として利用される検出値の平均値は、急激な異常の影響を大きく受ける。したがって、平均値が異常の影響を受けている場合に平均値を変動値として検出値から除くと、異常値も検出値から除かれることがあり、異常診断の精度が低下するおそれがある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態に係る異常診断装置は、プラントの運転の異常を診断する異常診断装置である。例えば、異常診断装置が診断するプラントは、発電プラントである。発電プラントは、複数の機器(ポンプ、バルブ等)を備えておりこれらの機器を制御する値が目標値として設定されている。この目標値は、例えば、ポンプの圧力、バルブの開閉等である。また、発電プラントでは、複数のセンサを備えており、各センサで吸気量、排気量、発電量等が計測されている。以下の説明では、目標値や計測値等のプラントの状態を表す各変数の値を検出値とし、これらの複数の検出値を含むデータを検出データとして説明する。
【0013】
このようなプラントでは、正常に運転されている場合であっても、各検出値が時間や季節によって周期的に変動することがある。例えば、発電プラントの場合、昼間は夜間と比較して発電量が多く、夏は春と比較して発電量が多く、また、夏は冬と比較してプラント周囲の気温が高い等、プラントの運転状況やプラント周囲の環境が時間や季節によって変化するためである。実施形態に係る異常診断装置では、このような周期的な変動がある場合にこの周期的な変動を調整し、この変動の影響を受けずに異常を診断することができる。
【0014】
図1に示すように、実施形態に係る異常診断装置1は、プラントから入力する検出値を蓄積データ21に追加する追加部11と、各変数について、所定期間の値の最大値と最小値の中間の値である中央値を求める決定部12と、各変数について、新たに入力した検出値と中央値との差分を求める第1算出部13と、求められた各変数の差分と単位空間データ23を利用してマハラノビス距離を求める第2算出部14と、求められたマハラノビス距離が予め定められる閾値の範囲内であるかを判定し、異常を診断する判定部15とを備えている。
【0015】
異常診断装置1は、例えば、中央処理装置(CPU)10や記憶装置20を備える情報処理装置であって、記憶装置20に記憶される異常診断プログラムPが読み出されて実行されることで、
図1に示すように、CPU10に追加部11、決定部12、第1算出部13、第2算出部14及び判定部15が実装される。
【0016】
また、
図1に示す異常診断装置1の例では、記憶装置20に異常診断プログラムPの他、蓄積データ21、変動値データ22及び単位空間データ23を記憶している。さらに、異常診断装置1は、操作信号の入力に利用するキーボード、マウス、操作ボタン、タッチパネル等の入力装置2と接続されており、異常診断の処理過程や結果を出力するディスプレイ、スピーカ等の出力装置3と接続されている。
【0017】
蓄積データ21は、過去の検出データを蓄積したデータである。
図2に示す例では、蓄積データ21は、プラントの運転の条件値であるプラントの各機器に設定する目標値(変数1、2)やこの目標値の場合に計測された計測値(変数3、4)等の検出値を関連づけたレコードを有している。また、
図2に示す蓄積データ21では、各レコードに時刻順のサンプル番号を付している。
【0018】
追加部11は、プラントから新たに複数の変数の検出値を含む検出データを入力すると、入力した検出データとサンプル番号を含むレコードを生成し、記憶装置20に記憶される蓄積データ21に生成したレコードを追加する。
【0019】
決定部12は、中央値を求める所定のタイミングで記憶装置20から蓄積データ21を読み出し、抽出条件を満たすレコードを抽出する。また、決定部12は、抽出したレコードに含まれる検出値から、各変数について最大値と最小値を抽出し、その中間の値((最大値+最小値)/2)を中央値として求める。決定部12は、各変数についての求めた中央値を、周期的な変動を表す変動値とし、求めた各変数の変動値を含むデータを変動値データ22として記憶装置20に記憶させる。
【0020】
ここで、決定部12が中央値を求める所定のタイミングとは、例えば、入力装置2を介して中央値を求めることを要求する操作信号を入力したタイミングや、数分毎、数時間毎又は数日毎等のあらかじめ定められる定期的なタイミングである。
【0021】
また、決定部12が蓄積データ21からのレコードの抽出に利用する抽出条件とは、数時間、数日等の期間である。例えば、抽出条件として「1ヶ月」が定められているとき、決定部12は、蓄積データ21から1ヶ月分の最新のレコードを抽出し、変数毎に、過去1ヶ月の中で最高値と最小値を求め、各変数の中央値をそれぞれ変動値として決定する。この抽出条件は、定期的な変動の特性によって最適な期間に定められる。例えば、長期的な変動であれば抽出条件の期間は長くなり、短期的な変動であれば抽出条件の期間は短くなる。また、必ずしも連続した検出値を抽出する抽出条件とする必要はなく、一定期間の昼間の検出値のみ又は夜間の検出値のみを抽出する抽出条件としてもよい。
【0022】
変動値データ22は、このようにして決定部12で決定された各変数の変動値を含むデータである。変動値データ22は、少なくとも各変数の最新の変動値を含んでいればよい。
【0023】
第1算出部13は、異常を診断する所定のタイミングで、記憶装置20から変動値データ22を読み出す。また、第1算出部13は、各変数について、プラントから新たに入力した検出値と、読み出した変動値データ22に含まれる変動値の差分を求め、求めた差分値(検出値−変動値)を検出値から変動値を除いた診断用の値とし、第2算出部14に出力する。ここで、異常を診断する所定のタイミングとは、例えば、数分毎等の定期的なタイミングである。
【0024】
第2算出部14は、第1算出部13が求めた各変数の診断用の値を入力すると、記憶装置20から単位空間データ23を読み出す。また、第2算出部14は、入力した各変数についての診断用の値と、読み出した単位空間データ23とを利用して、単位空間データ23で規定される単位空間についてマハラノビス距離を求め、求めた値を判定部15に出力する。
【0025】
単位空間データ23は、異常診断で使用する単位空間を表わすデータである。具体的には、単位空間データ23は、単位空間であるマハラノビス空間の生成に使用した複数の変数の値と、各変数の平均値と、各変数の標準偏差と、各変数についての相関行列の逆行列とに、マハラノビス空間に設定された閾値を関連付けたデータである。この単位空間データ23に含まれる変数の値は、蓄積データ21に含まれる変数の値から単位空間の生成の対象として選択された値である。
【0026】
具体的には、(1)第2算出部14は、まず、各変数に対して平均値と標準偏差を求める。(2)その後、第2算出部14は、各変数の値と、各変数に対して求めた平均値及び標準偏差を利用してデータを基準化し、各変数に対する基準化値を求める。(3)続いて、第2算出部14は、各変数に対して求めた基準化値を利用して、各変数についての相関行列を求めるとともに、相関行列の逆行列を求める。(4)最後に、第2算出部14は、求めた逆行列を利用してマハラノビス距離を求める。
【0027】
判定部15は、第2算出部14からマハラノビス距離を入力すると、記憶装置20から単位空間データ23を読み出す。また、判定部15は、第2算出部14から入力したマハラノビス距離を、単位空間データ23で定められる単位空間について定められる閾値と比較してプラントにおける異常の可能性を判定する。すなわち、求められたマハラノビス距離が閾値内の場合、異常の可能性がないと判定し、閾値外の場合、異常の可能性があると判定する。その後、判定部15は、判定結果を出力装置3に出力する。
【0028】
例えば、
図4に示すように、MT法を利用して異常を判定する場合、第2算出部14で求めたマハラノビス距離D1が設定された閾値より小さいとき、すなわちマハラノビス空間内にあるとき、判定部15は、現在のプラントの状態はいつもの状態と同じであるとし、プラントは正常に運転していると判定する。一方、第2算出部14で求めたマハラノビス距離D2が設定された閾値より大きいとき、すなわち、マハラノビス空間から外れているとき、判定部15は、現在のプラントの状態がいつもの状態とは異なる状態であるとし、プラントで異常の可能性があると判定する。
【0029】
なお、異常診断装置1は、複数の情報処理装置から構成されていてもよく、例えば、追加部11のみ他の処理部12〜15とは異なる情報処理装置に含まれていてもよい。また、記憶装置20に記憶されるデータの一部のみ外部の記憶装置に記憶されていてもよい。
【0030】
続いて、
図3に示すフローチャートを用いて、異常診断装置1において異常を診断する処理について説明する。
【0031】
まず、決定部12が、所定のタイミングで、記憶装置20から蓄積データ21を読み出して抽出条件を満たすレコードの値を抽出するとともに、各変数について中央値を求め、求めた中央値を各変数の変動値として変動値データ22を生成し、記憶装置20に記憶させる(S1)。
【0032】
第1算出部13は、プラントから新たな検出データを入力すると(S2)、所定のタイミングで、記憶装置20から変動値データ22を読み出し、各変数について、新たに入力した検出データに含まれる検出値と、変動値データ22に含まれる変動値との差分を求める(S3)。
【0033】
続いて、第2算出部14は、記憶装置20から単位空間データ23を読み出し、第1算出部13の演算結果である各変数の変動値と、読み出した単位空間データ23に含まれる値とを利用して、マハラノビス距離を求める(S4)。その後、判定部15は、第2算出部14が算出したマハラノビス距離と、単位空間データ23に含まれる閾値とを比較して異常の可能性について判定する(S5)。
【0034】
異常の可能性がない場合(S6でNO)、判定部15は、プラントは正常に運転していると判定し、ステップS2の処理に戻る。また、判定部15は、判定結果を出力装置3に出力してもよい。
【0035】
一方、異常の可能性があると判定された場合(S6でYES)、判定部15は、判定結果を出力装置3に出力する(S7)。これにより、異常の可能性が把握できるため、その後、オペレータによって異常原因の特定の処理がされる。
【0036】
なお、
図3に示すフローチャートでは、追加部11が新たに入力した検出値を蓄積データ21に追加する処理については省略している。
【0037】
例えば、ある変数について、
図5(a)に示すように、プラントから定期的に検出値を入力しているとする。また、検出値では、一部に異常である異常値を含んでいるとする。この場合、
図5(a)に示す検出値を利用して求めた平均値は、
図5(b)に示すようになる。ここで、平均値の算出に利用する抽出条件によってもその影響の程度は異なるが、平均値には、
図5(b)に示すように、異常値の影響を大きく受けることになる。すなわち、平均値の算出に利用する期間が長くなる程(平均値の算出に利用する検出値のサンプル数が多い程)、平均値に異常値の影響を受ける期間が長くなり、平均値の算出に利用する期間が短くなる程(平均値の算出に利用する検出値のサンプル数が少ない程)、各平均値に対して異常値に受ける影響が大きくなる。そのため、仮に平均値を変動値として利用した場合、変動値によって検出値から異常値も除かれることになる。
【0038】
一方、
図5(a)に示す検出値を利用して求めた中央値は、
図5(c)に示すようになる。すなわち、中央値は、規定期間における最大値と最小値の中間の値であるため、平均値よりも異常値の影響が少なくなる。したがって、このような中間値を検出値から除いたとしても、異常値は残るため、異常を検出することができる。
【0039】
上述したように、本発明に係る異常診断装置では、季節変動などの周期的な変動を表す変動値に異常の影響を受けにくい中央値を利用している。したがって、本発明に係る異常診断装置では、求められるマハラノビス距離に異常の影響が現れやすく、迅速に異常の検出を可能とし、高精度にプラントの異常を診断することができる。
【0040】
以上、実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。