特許第5939443号(P5939443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939443
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】勾配屋根の補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 7/04 20060101AFI20160609BHJP
   E04B 7/02 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   E04B7/04 B
   E04B7/02 501F
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-262068(P2012-262068)
(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2014-105567(P2014-105567A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2014年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142572
【弁理士】
【氏名又は名称】水内 龍介
(74)【代理人】
【識別番号】100084629
【弁理士】
【氏名又は名称】西森 正博
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 伸治
(72)【発明者】
【氏名】土方 和己
(72)【発明者】
【氏名】岡村 和輝
(72)【発明者】
【氏名】松本 武真
【審査官】 湊 和也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−207580(JP,A)
【文献】 特開2001−248258(JP,A)
【文献】 特開2001−348945(JP,A)
【文献】 特開平10−008625(JP,A)
【文献】 特開2000−110376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 7/02 − 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建物の勾配屋根(1)における建物本体(H)周りの付帯空間(S)上方を覆う屋根部(2)において、登り梁(10)及び母屋(11)を廃止して、勾配方向に間隔をあけて配された木製横架材(12)間に、桁行方向に間隔をあけて複数の木製垂木(13)を架け渡すとともに、これら木製垂木(13)に添わせるようにして複数の鋼製補強材(14)を架け渡して、木製垂木(13)と鋼製補強材(14)とを連結し、且つ、鋼製補強材(14)を木製横架材(12)に接合金具(20)を介して緊結した勾配屋根の補強構造であって、
前記の屋根部(2)のけらば部分(3)において、最側端の木製垂木(13A)の妻面側の面である一方の面に沿って第1の鋼製補強材(14A)を配置し、前記第1の鋼製補強材(14A)から桁行方向に複数の鋼製けらば腕木(31)を張り出させたことを特徴とする勾配屋根の補強構造。
【請求項2】
前記の屋根部(2)のけらば部分(3)において、最側端の木製垂木(13A)の前記一方の面の反対側の面である他方の面に沿って第2の鋼製補強材(14B)を配置するとともに、最側端の木製垂木(13A)に隣接する木製垂木(13B)の一側面に沿って第3の鋼製補強材(14C)を配置して、互いに対向する第2の鋼製補強材(14B)と第3の鋼製補強材(14C)との間に、複数の鋼製控え材(30)を勾配方向に間隔をあけて差し渡して、これら鋼製控え材(30)の延長線上に沿って、第1の鋼製補強材(14A)から複数の鋼製けらば腕木(31)を張り出させた請求項1記載の勾配屋根の補強構造。
【請求項3】
前記の木製垂木(13)の高さ寸法内に収まるようにして、鋼製補強材(14)、鋼製控え材(30)及び鋼製けらば腕木(31)を配置した請求項2記載の勾配屋根の補強構造。
【請求項4】
前記の鋼製けらば腕木(31)に、野地板(16)及び軒裏板(17)を固定するための木製けらば垂木(32)を取り付けた請求項1乃至のいずれかに記載の勾配屋根の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木造建物の勾配屋根の補強構造に関し、特に建物本体周りのピロティやアルコーブ等の付帯空間上方を覆う屋根部を補強するための構造に係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、木造軸組住宅の勾配屋根として、登り梁や束によって母屋を支持するとともに、それら母屋によって垂木を支持した構造のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図8及び図9に示すように、このような勾配屋根50の桁行方向の端部付近に位置する屋根部51によって、住宅本体H周りに設けたピロティやアルコーブ等の付帯空間Sの上方を覆う場合、屋根部51を妻面(破風面)側から見たときに(矢印で図示する方向から見たときに)、その軒裏面において勾配方向に沿った段差52が生じてしまうことから、見栄えが悪いといった不具合があった。すなわち、図10に示すように、屋根部51のけらば部分53は、薄肉ですっきりとしているのに対して、けらば部分53よりも奥側の部分は、登り梁54や母屋55が存在するために、けらば部分53よりも分厚くなっていて、これらの境界部分において勾配方向に沿った段差52が生じている。なお、図8乃至図10において、56は付帯空間Sに設けた柱体、57は軒桁、58は瓦、59は野地板、60は軒裏板、61は垂木、62はけらば垂木を示している。
【0004】
勾配屋根50の屋根部51において、登り梁54及び母屋55を廃止することができれば、屋根部51を妻面(破風面)側から見たときに、その軒裏面において勾配方向に沿った段差52をなくすことができ、軒裏面が破風面から奥側へ向かって面一に連続することになって、軽やかですっきりとした外観とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−90242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、下方が付帯空間となっている屋根部において、登り梁及び母屋を廃止すると、屋根部の剛性が著しく低下して、鉛直荷重や水平荷重に対する抵抗力が弱くなるといった不具合があった。屋根部の剛性を良好に維持するためには、垂木の配置間隔を非常に密にする(例えば、勾配方向に3m母屋なしの垂木架構を計画した場合、積雪を考慮すると垂木を50mm間隔で配置する)必要があるが、この場合、特にけらば部分の構成ができなくなって(けらば垂木の安定した張り出しが難しくなって)、施工が困難になるといった不具合があった。
【0007】
この発明は、上記の不具合を解消して、建物本体周りのピロティやアルコーブ等の付帯空間上方を覆う屋根部において、登り梁及び母屋を廃止しても剛性を良好に維持できるようにして、屋根部の意匠性を向上することができる勾配屋根の補強構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この発明の勾配屋根の補強構造は、木造建物の勾配屋根1における建物本体H周りの付帯空間S上方を覆う屋根部2において、登り梁10及び母屋11を廃止して、勾配方向に間隔をあけて配された木製横架材12間に、桁行方向に間隔をあけて複数の木製垂木13を架け渡すとともに、これら木製垂木13に添わせるようにして複数の鋼製補強材14を架け渡して、木製垂木13と鋼製補強材14とを連結し、且つ、鋼製補強材14を木製横架材12に接合金具20を介して緊結したことを特徴とする。
【0009】
また、前記の屋根部2のけらば部分3においては、最側端の木製垂木13Aの両側面に沿って第1及び第2の鋼製補強材14A、14Bを配置するとともに、最側端の木製垂木13Aに隣接する木製垂木13Bの一側面に沿って第3の鋼製補強材14Cを配置して、互いに対向する第2の鋼製補強材14Bと第3の鋼製補強材14Cとの間に、複数の鋼製控え材30を勾配方向に間隔をあけて差し渡して、これら鋼製控え材30の延長線上に沿って、第1の鋼製補強材14Aから複数の鋼製けらば腕木31を張り出させている。
【0010】
また、前記の木製垂木13の高さ寸法内に収まるようにして、鋼製補強材14、鋼製控え材30及び鋼製けらば腕木31を配置している。さらに、前記の鋼製けらば腕木31に、野地板16及び軒裏板17を固定するための木製けらば垂木32を取り付けている。さらにまた、前記の屋根部2は、勾配方向及び桁行方向の長さ寸法が1.5m以上となっている。
【発明の効果】
【0011】
この発明の勾配屋根の補強構造では、付帯空間上方を覆う屋根部において、登り梁及び母屋を廃止しているので、屋根部を妻面(破風面)側から見たときに、その軒裏面において勾配方向に沿った段差をなくすことができ、軒裏面が破風面から奥側へ向かって面一に連続することになって、屋根部全体に亘って軽やかですっきりとした外観とすることができ、屋根部の意匠性を向上することができる。
【0012】
しかも、木製垂木に添わせるようにして鋼製補強材を設けて、木製垂木と鋼製補強材とを連結し、且つ、鋼製補強材を木製横架材に接合金具を介して緊結することによって、屋根部全体を補強しているので、登り梁及び母屋を廃止しても、屋根部の剛性を良好に維持して、鉛直荷重及び水平荷重に対して効果的に抵抗することができ、けらば部分の施工も支障なく行うことができる。
【0013】
また、屋根部の中でも強度的に弱くなりがちなけらば部分において、鋼製控え材及び鋼製けらば腕木を追加してより強固に補強することで、屋根部の剛性をより一層高めることができる。
【0014】
さらに、鋼製補強材、鋼製控え材及び鋼製けらば腕木を、木製垂木の高さ寸法内に収まるように配置することで、屋根部の厚みを増大させることがなく、屋根部の軽やか感を損なわずに見栄えを良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の一実施形態に係る勾配屋根の屋根部の斜視図である。
図2】屋根部の縦断面図である。
図3】屋根部の骨組部分の施工手順を示す斜視図である。
図4】屋根部の骨組部分の平面図である。
図5】鋼製補強材の軒桁への固定構造を示す図である。
図6】屋根部のけらば部分の縦断面図である。
図7】鋼製控え材及び鋼製けらば腕木の固定構造を示す図である。
図8】従来の勾配屋根の屋根部の斜視図である。
図9】従来の屋根部の縦断面図である。
図10】従来の屋根部のけらば部分の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。この発明の一実施形態に係る木造軸組住宅の勾配屋根1は、図1に示すように、住宅本体H周りに設けたピロティやアルコーブ等の付帯空間Sの上方を覆う屋根部2を備えている。屋根部2は、勾配屋根1の桁行方向の端部付近に位置していて、けらば部分3及び軒先部分4を有しており、付帯空間Sに設けた柱体5によって支持されている。この屋根部2の勾配方向及び桁行方向の長さ寸法は、ともに1.5m以上となっている。
【0017】
そして、屋根部2は、図2乃至図4に示すように、登り梁10及び母屋11が廃止されていて、勾配方向に間隔をあけて配された木製横架材である軒桁12間に、桁行方向に間隔をあけて複数の角材からなる木製垂木13が架け渡されるとともに、これら木製垂木13に添わせるようにして複数のリップ付き溝形鋼からなる鋼製補強材14が架け渡されている。一方、屋根部2を除いた勾配屋根1の大部分は、登り梁10及び母屋11を備えた一般的な構造となっている。なお、図2乃至図4において、15は瓦、16は野地板、17は軒裏板、18は軒先母屋、19は破風下地板を示している。
【0018】
木製垂木13と鋼製補強材14とは、ビス又はボルト止めによって連結されて、一体化した状態となっている。具体的には、木製垂木13の側面と鋼製補強材14のウエブとが重ね合わされた状態で連結されている。
【0019】
また、鋼製補強材14は、図4に示すように、両端部(棟側端部及び軒側端部)が軒桁12に接合金具20を介して緊結されている。接合金具20は、図5に示すように、L字状の第1固定プレート21と、この第1固定プレート21から立ち上がった傾斜板状の第2固定プレート22とを備え、第1固定プレート21を軒桁12にボルト23によって固定して、第2固定プレート22を鋼製補強材14の取付プレート24にボルト25によって固定することで、鋼製補強材14が軒桁12に強固に固定されている。
【0020】
そして、屋根部2のけらば部分3においては、図3図4及び図6に示すように、最側端の木製垂木13Aの両側面に沿って第1及び第2の鋼製補強材14A、14Bが配置される(木製垂木13Aを両側から挟み込むように第1及び第2の鋼製補強材14A、14Bが配置される)とともに、最側端の木製垂木13Aに隣接する木製垂木13Bの妻面(破風面)側の一側面(最側端の木製垂木13Aに対向する側面)に沿って第3の鋼製補強材14Cが配置されている。
【0021】
互いに対向する第2の鋼製補強材14Bと第3の鋼製補強材14Cとに間には、複数のリップ付き溝形鋼からなる鋼製控え材30が勾配方向に間隔をあけて差し渡され、これら鋼製控え材30の延長線上に沿って、第1の鋼製補強材14Aから複数のリップ付き溝形鋼からなる鋼製けらば腕木31が桁行方向に張り出されている。
【0022】
第2、第3の鋼製補強材14B、14Cと鋼製控え材30との連結は、図7に示すように、第2、第3の鋼製補強材14B、14Cの取付プレート24に、鋼製控え材30の両端部に固着した取付プレート40をボルト41によって固定することでなされている。また、第1の鋼製補強材14Aと鋼製けらば腕木31との連結は、第1の鋼製補強材14Aの取付プレート24に、鋼製けらば腕木31の一端部に固着した取付プレート42をボルト43によって固定することでなされている。さらに、鋼製けらば腕木31の取付プレート42、第1の鋼製補強材14Aの取付プレート24、第1の鋼製補強材14A、木製垂木13A、第2の鋼製補強材14B、第2の鋼製補強材14Bの取付プレート24を貫通する長尺ボルト44の先端にナット45を螺合して締め付けることで、鋼製けらば腕木31、第1の鋼製補強材14A、木製垂木13A、第2の鋼製補強材14B、鋼製控え材30が一体化した状態となっている。
【0023】
また、鋼製けらば腕木31には、野地板16及び軒裏板17を固定するための木製けらば垂木32がビス又はボルト止めによって取り付けられて、一体化した状態となっている。具体的には、木製けらば垂木32の側面と鋼製けらば腕木31のウエブとが重ね合わされた状態で連結されている。
【0024】
上記の鋼製補強材14、鋼製控え材30、鋼製けらば腕木31は、断面の大きさ及び形状が同一であって、木製垂木13の高さ寸法内に収まるようにして配置されていることから、これら鋼製補強材14、鋼製控え材30、鋼製けらば腕木31を設けて屋根部2を補強しても、屋根部2の厚みを増大させることはない。
【0025】
上記構成の屋根部2においては、登り梁10及び母屋11を廃止しているので、図1及び図6に示すように、屋根部2を妻面(破風面)側から見たときに(矢印で図示する方向から見たときに)、その軒裏面において勾配方向に沿った段差をなくすことができ、軒裏面が破風面から奥側へ向かって面一に連続することになって、屋根部2全体に亘って軽やかですっきりとした外観とすることができる。
【0026】
しかも、木製垂木13に添わせるようにして鋼製補強材14を設けて、木製垂木13と鋼製補強材14とを連結し、且つ、鋼製補強材14の両端部を軒桁12に接合金具20を介して緊結することによって、屋根部2全体を補強するとともに、強度的に弱いけらば部分3においては、鋼製控え材30及び鋼製けらば腕木31を追加してより強固に補強しているので、登り梁10及び母屋11を廃止しても、勾配方向及び桁行方向の長さ寸法が1.5m以上ある屋根部2の剛性を良好に維持して、鉛直荷重及び水平荷重に対して効果的に抵抗することができる。
【0027】
以上に、この発明の実施形態について説明したが、この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施形態においては、最側端の木製垂木に対してのみ鋼製補強材を両側配置していたが、残りの木製垂木に対しても鋼製補強材を両側配置しても良い。また、付帯空間の上方を覆う屋根部としては、けらば部分及び軒先部分を有しているもの(軒先側及び破風側に開放した付帯空間の上方を覆うもの)に限らず、けらば部分を有さずに軒先部分を有しているもの(軒先側のみに開放した付帯空間の上方を覆うもの)、或いは、けらば部分を有していて軒先部分を有さないもの(破風側のみに開放した付帯空間の上方を覆うもの)であっても良い。
【符号の説明】
【0028】
H・・住宅本体(建物本体)、S・・付帯空間、1・・勾配屋根、2・・屋根部、3・・けらば部分、10・・登り梁、11・・母屋、12・・軒桁(木製横架材)、13、13A、13B・・木製垂木、14、14A、14B、14C・・鋼製補強材、16・・野地板、17・・軒裏板、20・・接合金具、30・・鋼製控え材、31・・鋼製けらば腕木、32・・木製けらば垂木
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10