特許第5939456号(P5939456)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939456
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】衝突被害軽減装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20160609BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   B60T7/12 C
   B60R21/00 624C
   B60R21/00 626B
   B60R21/00 627
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-267212(P2011-267212)
(22)【出願日】2011年12月6日
(65)【公開番号】特開2013-119283(P2013-119283A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】藤村 武志
【審査官】 佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−024524(JP,A)
【文献】 特開2004−161097(JP,A)
【文献】 特開平07−083693(JP,A)
【文献】 特開2010−146470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12− 8/96
B60R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向前方の走行路を撮像してその画像情報を出力する撮像手段と、
前記走行路が、前記車両の遠方に存在する対象物を前記車両と衝突する可能性が高い障害物であると推定可能な特性を有するか否かを、前記撮像手段が出力する画像情報に基づいて判定する走行路判定手段と、
前記車両の進行方向前方に存在する物体と前記車両との相対距離及び相対速度を検出する物体検出手段と、
前記特性を有すると前記走行路判定手段が判定した場合、前記物体検出手段が検出した相対距離及び相対速度に基づいて、前記物体と前記車両との衝突の可能性が高い第1の衝突発生前状態であるか否かを判定し、前記特性を有さないと前記走行路判定手段が判定した場合、前記物体検出手段が検出した相対距離及び相対速度に基づいて、前記物体と前記車両との衝突の可能性が前記第1の衝突発生前状態よりもさらに高い第2の衝突発生前状態であるか否かを判定する衝突発生前状態判定手段と、
前記特性を有すると前記走行路判定手段が判定した場合であって、前記第2の衝突発生前状態よりも早期に発生する前記第1の衝突発生前状態であると前記衝突発生前状態判定手段が判定したとき、前記車両に対する制動力を発生させる制動手段に第1の制動力を発生させ、前記特性を有さないと前記走行路判定手段が判定した場合であって、前記第2の衝突発生前状態であると前記衝突発生前状態判定手段が判定したとき、前記制動手段に前記第1の制動力よりも大きな第2の制動力を発生させる制動制御手段と、を備える
ことを特徴とする車両の衝突被害軽減装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の衝突被害軽減装置であって、
前記走行路判定手段は、前記撮像手段が出力する画像情報に基づいて、前記走行路の所定の特徴点の数量と前記走行路の車線幅と前記走行路の曲率とを算出し、前記走行路の所定の特徴点の数量が所定の数量以下であり、前記走行路の車線幅と予め設定された前記車両の車幅との差が所定の長さ以上であり、且つ前記走行路の曲率が所定の曲率以下である場合に、前記走行路が、前記車両の遠方に存在する対象物を前記車両と衝突する可能性が高い障害物であると推定可能な特性を有すると判定し、
前記所定の特徴点は、前記走行路の路面上の表示を含む
ことを特徴とする車両の衝突被害軽減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突被害軽減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2009−101756号公報に記載の衝突被害軽減装置では、車間距離レーダによって車両と車両進行方向に位置する障害物までの距離L及び車両と障害物との相対速度Vを測定し、車両が障害物に衝突するまでの衝突時間t(t=L/V)を演算する。衝突時間tが所定値以下になった場合に、車両のブレーキを強制的に作動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−101756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の装置では、例えば前方でカーブする道路から外れた場所に存在する構造物や駐車中の車両等のように、車両との衝突の可能性が低い物体を障害物として検出した場合であっても、車両と障害物との衝突時間が判定閾値(所定値)に達したときに車両に対して強制的な制動を付与する。このため、車両の走行にとって無駄な減速が発生し、運転者に違和感を与えてしまう可能性がある。
【0005】
このような不都合は、衝突時間の判定閾値を短く設定することによって回避可能であるが、衝突時間の判定閾値を短く設定すると、衝突時までに車両が十分に減速せず、所望の衝突被害軽減効果を得ることができない可能性が生じる。
【0006】
そこで本発明は、無駄な制動や運転者に対する違和感を抑制し、且つ所望の衝突被害軽減効果を得ることが可能な衝突被害軽減装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明の車両の衝突被害軽減装置は、撮像手段と、走行路判定手段と、物体検出手段と、衝突発生前状態判定手段と、制動制御手段と、を備える。撮像手段は、車両の進行方向前方の走行路を撮像してその画像情報を出力する。走行路判定手段は、走行路が、車両の遠方に存在する対象物を車両と衝突する可能性が高い障害物であると推定可能な特性を有するか否かを、撮像手段が出力する画像情報に基づいて判定する。物体検出手段は、車両の進行方向前方に存在する物体と車両との相対距離及び相対速度を検出する。衝突発生前状態判定手段は、前記特性を有すると走行路判定手段が判定した場合、物体検出手段が検出した相対距離及び相対速度に基づいて、物体と車両との衝突の可能性が高い第1の衝突発生前状態であるか否かを判定し、前記特性を有さないと走行路判定手段が判定した場合、物体検出手段が検出した相対距離及び相対速度に基づいて、物体と車両との衝突の可能性が第1の衝突発生前状態よりもさらに高い第2の衝突発生前状態であるか否かを判定する。制動制御手段は、上記特性を有すると走行路判定手段が判定した場合であって、第2の衝突発生前状態よりも早期に発生する第1の衝突発生前状態であると衝突発生前状態判定手段が判定したとき、車両に対する制動力を発生させる制動手段に第1の制動力を発生させ、上記特性を有さないと走行路判定手段が判定した場合であって、第2の衝突発生前状態であると衝突発生前状態判定手段が判定したとき、制動手段に第1の制動力よりも大きな第2の制動力を発生させる。
【0008】
上記構成では、車両の遠方に存在する対象物を車両と衝突する可能性が高い障害物であると推定可能な特性を有する走行路を車両が走行中であり、走行路が上記特性を有すると走行路判定手段が判定した場合、衝突発生前状態判定手段は、物体と車両との衝突の可能性が高い第1の衝突発生前状態か否かを判定し、第1の衝突発生前状態であると判定したとき、制動制御手段が車両に対して制動力を発生させる。また、上記特性を有さない走行路を車両が走行中であり、走行路が上記特性を有さないと走行路判定手段が判定した場合、衝突発生前状態判定手段は、第2の衝突発生前状態であるか否かを判定し、第2の衝突発生前状態であると判定したとき、制動制御手段が車両に対して制動力を発生させる。
【0009】
第2の衝突発生前状態は、物体と車両との衝突の可能性が第1の衝突発生前状態よりもさらに高い状態に設定されているので、第1の衝突発生前状態は、第2の衝突発生前状態よりも早期に発生する。このため、走行路が上記特性を有すると判定された場合には、上記特性を有さないと判定された場合よりも早期に制動力が発生し、衝突時までに車両を十分に減速させて所望の衝突被害軽減効果を得ることが可能となる。また、走行路が上記特性を有すると判定された場合、物体検出手段が検出した遠方の物体は、車両と衝突する可能性が高い障害物であると推定されるので、発生させた制動力が、車両の走行にとって無駄となる可能性は低い。また、運転者は、上記物体を車両との衝突の可能性が高い障害物と認識するので、制動力を早期に発生させても運転者に与える違和感は抑制される。従って、無駄な制動や運転者に対する違和感を抑制し、且つ所望の衝突被害軽減効果を得ることが可能となる。
【0010】
また、上記走行路判定手段は、撮像手段が出力する画像情報に基づいて、走行路の所定
の特徴点の数量と走行路の車線幅と走行路の曲率とを算出し、走行路の所定の特徴点の数
量が所定の数量以下であり、且つ走行路の車線幅と予め設定された車両の車幅との差が所
定の長さ以上であり、且つ走行路の曲率が所定の曲率以下である場合に、走行路が、車両
の遠方に存在する対象物を車両と衝突する可能性が高い障害物であると推定可能な特性を
有すると判定してもよく、上記所定の特徴点は、走行路の路面上の表示を含んでもよい


【0011】
上記構成では、走行路の所定の特徴点とは、例えば、道路脇の駐車車両や道路面に描かれた横断歩道の表示等を示す。高速道路等の自動車専用道路や自動車専用道路と同等の道路であって略直線状の走行路は、多くの場合、上記特徴点の数量が所定の数量以下であり、走行路の車線幅と車両の車幅との差が所定の長さ以上であり、且つ走行路の曲率が所定の曲率以下であるので、上記特性を有する走行路であると判定される。このような走行路においては、車両は高速走行している可能性が高いが、強制的な制動力が早期に発生するので、所望の衝突被害軽減効果を得ることができる。
【0012】
一方、上記特徴点が多く存在する一般道等や、車線幅が狭い道路や、曲折する道路の場合、上記特性を有さないと判定される。従って、強制的な制動力の発生は第2の衝突発生前状態と判定されたときとなるが、このような走行路においては、通常、運転者は車両の前方への注意力が高く、車速も低速である可能性が高いので、強制的な制動力を早期に発生させなくても所望の衝突被害軽減効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、無駄な制動や運転者に対する違和感を抑制し、且つ所望の衝突被害軽減効果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係わる衝突被害軽減装置備えた車両の要部を示すブロック図である。
図2】衝突被害軽減処理を示すフローチャートである。
図3】走行路特性判定処理を示すフローチャートである。
図4】画像情報からの特徴点の抽出を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。図1に示すように、本実施形態に係わる車両1は、カメラ(撮像手段)2と、車間距離センサ(物体検出手段)3と、ECU4と、警報装置5と、ブレーキアクチュエータ(制動手段)6とを備えている。
【0016】
カメラ2は、CCDカメラ等であって車両1の前方の走行路及び走行路の周辺部を継続して撮像し画像情報をECU4へ出力する。
【0017】
車間距離センサ3は、車両1の前端部から進行方向前方の所定角度の範囲内に向けてレーザやミリ波等の電磁波を所定時間毎に発信し、その反射波を受信することによって、上記範囲内の物体を検知する。更に、検知した物体と車両1との相対距離L(m)及び相対速度Vr(m/s)を検出し、ECU4に出力する。
【0018】
ECU4は、CPU(Central Processing Unit)と画像処理プロセッサとROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)とを備える。CPUはROMに格納された衝突被害軽減処理プログラムを読み出して、衝突被害軽減処理を実行することによって、走行路特性判定部10、衝突時間算出部11、制動タイミング調整部12及び制動制御部13として機能する。RAMは、車間距離センサ3が検出した相対距離L及び相対速度Vrの記憶領域、CPU演算結果の一時記憶領域、後述の衝突時間の判定閾値、走行路特性判定の各種判定基準値及び特性フラグの設定領域として機能する。画像処理プロセッサは、カメラ2から出力された画像情報を処理し、走行路の白線を抽出する。
【0019】
警報装置5は、車室内の例えば図示しないインストルメントパネルに設けられ、ECU4からの報知指示信号を受信したとき、ブザー音などを発生させて運転者に注意を喚起する。
【0020】
ブレーキアクチュエータ6は、ECU4からの制御信号を受信したとき、図示しない前輪及び後輪のディスクブレーキを強制的に作動させて、各車輪に所定の制動力を発生させる。
【0021】
走行路特性判定部10は、カメラ2が出力した画像情報から、走行路の白線を抽出し、走行路の車線幅と、走行路の曲率と、車両前方の所定エリア内の特徴点の数量とを算出する。算出した車線幅、曲率、特徴点の数量をそれぞれ所定の判定基準値と比較することによって、走行路が、車両1の遠方に存在する対象物を車両1と衝突する可能性が高い障害物であると推定可能な特性(以下、障害物推定可能特性と称す)を有するか否かを判定し、判定結果を制動タイミング調整部12に出力する。すなわち、走行路特性判定部10は、カメラ2からの画像情報に基づいて走行路が障害物推定可能特性を有するか否かを判定する走行路判定手段を構成する。
【0022】
衝突時間算出部11は、車間距離センサ3が検出した、相対距離L及び相対速度Vrから、物体と車両1とが衝突すると予測されるまでの衝突時間(TTC:Time to collision)(s)を算出し、算出値を制動タイミング調整部12に出力する。
【0023】
制動タイミング調整部12は、走行路特性判定部10から判定結果を取得し、衝突時間算出部11からTTCを取得する。走行路が障害物推定可能特性を有する場合は、TTCと予め設定された判定閾値T1とを比較して、第1の衝突発生前状態か否かを判定し、判定結果を制動制御部13に出力する。走行路が障害物推定可能特性を有しない場合は、TTCと予め設定された判定閾値T2とを比較して、第2の衝突発生前状態であるか否かを判定し、判定結果を制動制御部13に出力する。すなわち、制動タイミング調整部12は、衝突時間算出部11とともに衝突発生前状態判定手段を構成する。判定閾値T1及びT2はそれぞれ予め設定されるが、判定閾値T2は、例えば、衝突被害軽減に必要最小限の短い時間(例えば、0.8秒)に設定されるのに対し、判定閾値T1は、判定閾値T2よりも長い時間(例えば、3秒)に設定される。
【0024】
制動制御部13は、制動タイミング調整部12の判定結果が、第1の衝突発生前状態であったとき、ブレーキアクチュエータ6を作動させて車両1に第1の制動力を付与する。また、制動タイミング調整部12の判定結果が、第2の衝突発生前状態であったとき、ブレーキアクチュエータ6を作動させて車両1に第2の制動力を付与する。すなわち、制動制御部13は、制動タイミング調整部12の判定結果に応じて車両1に対する制動力を発生させる制動制御手段を構成する。第2の制動力は第1の制動力よりも大きな制動力(例えば、ブレーキアクチュエータ6が発生可能な最大制動力)が付与されるように設定される。
【0025】
次に、ECU4が実行する衝突被害軽減処理について、図2のフローチャートに基づいて説明する。本処理は、所定時間毎に実行される。ECU4は先ず、相対距離L及び相対速度Vrを取得する(ステップS1)。次に、相対距離L及び相対速度Vrを式(1)に代入して、TTCを算出する(ステップS2)。
【0026】
TTC=L/Vr ・・・(1)
【0027】
次に、ECU4は、走行路特性判定処理を実行する(ステップS3)。走行路特性判定処理では、図3のフローチャートに示すように、ECU4は、カメラ2からの画像情報を取得する(ステップS21)。ECU4に取得された画像情報は、ECU4の画像処理プロセッサによって処理される。画像処理プロセッサは、画像情報からノイズ除去、エッジ抽出及び2値化を行い、ハフ変換等により直線及び曲線成分を抽出し、抽出された直線及び曲線成分から、図4に示すように車線に相当する白線(図4に示す太線)を抽出する(ステップS22)。ECU4は、例えば車線に相当する左右の白線と直交する水平方向の距離を演算し走行路の車線幅を算出する(ステップS23)。次に、ECU4は、車線に相当する白線の曲率を、例えば、曲線を表す多項式の最小2乗法によるあてはめによって演算し、走行路の曲率を算出する(ステップS24)。次に、ECU4は、特徴点の数量を算出する(ステップS25)。具体的には、図4に示すように、画像情報の中の車線に相当する白線を基準にして、車両1の走行レーン及び隣接部分に探索エリア(図4に示す点線で囲まれた領域)を設定し、探索エリア内の特徴点を探索する。特徴点としては、横断歩道、速度、行き先のような走行路面上に表示されている文字や記号、駐車車両、前方車両及び隣接車線の車両等が含まれる。特徴点の数量の算出は、例えば、探索エリア内から濃度勾配のある特徴点(図4に示す丸点)を抽出し、濃度勾配の時間的変化であるオプティカルフローによって特徴点の移動量を算出し(図4に示す矢印)、車両1の車速に応じた特徴点の時間的変化を記憶することによって移動する特徴点を識別し定量化することによって、特徴点の数量(図4に示す探索エリア内の丸点の数量)を算出する。
【0028】
次に、ECU4は、抽出された特徴点の数量が予め設定された所定の数量以下か否か(ステップS26)、走行路の車線幅が車両1の車幅との差が所定の長さ以上か否か(ステップS27)、及び走行路の曲率が所定の曲率以下か否か(ステップS28)の3つの条件を判定する。上記の3つの判定条件が全て成立する場合(各ステップがYESの場合)は、特性フラグをオンにして(ステップS29)処理を終了する。3つの判定条件の内、1つでも成立しない場合(各ステップの内、1つでもNOの場合)は、特性フラグをオフにして(ステップS30)処理を終了する。
【0029】
次に、ECU4は、特性フラグがオンか否かを判断し(ステップS4)、特性フラグがオフの場合(ステップS4:NO)、ステップS8に進む。特性フラグがオンの場合(ステップS4:YES)は、走行路が障害物推定可能特性を有しているのでステップS2で算出したTTCと、判定閾値T1とを比較する(ステップS5)。TTCがT1以下のとき(ステップS5:YES)、第1の衝突発生前状態であると判定し、警報装置5に報知指示信号を出力して運転者に注意を喚起し(ステップS6)、ブレーキアクチュエータ6に制御信号を出力して第1の制動力を発生させる(ステップS7)。TTCがT1を超えているときは(ステップS5:NO)、第1の制動力を発生させずに処理を終了する。ステップS8に進んだ場合は、走行路が障害物推定可能特性を有していないので、TTCと判定閾値T2とを比較する。TTCがT2以下のとき(ステップS8:YES)、第2の衝突発生前状態であると判定し、ブレーキアクチュエータ6に制御信号を出力して第2の制動力を発生させる(ステップS9)。TTCがT2を超えているときは(ステップS8:NO)、第2の制動力を発生させずに処理を終了する。
【0030】
本実施形態では、走行路が障害物推定可能特性を有すると走行路特性判定部10が判定した場合、制動タイミング調整部12は、TTCと判定閾値T1とを比較して第1の衝突発生前状態か否かを判定し、第1の衝突発生前状態であると判定したとき、制動制御部13は、車両1に対して第1の制動力を発生させる。また、走行路が障害物推定可能特性を有さないと走行路特性判定部10が判定した場合、制動タイミング調整部12は、TTCと判定閾値T2とを比較して第2の衝突発生前状態であるか否かを判定し、第2の衝突発生前状態であると判定したとき、制動制御部13は、車両1に対して第2の制動力を発生させる。判定閾値T1は判定閾値T2よりも長い時間に設定されているので、第1の衝突発生前状態は、第2の衝突発生前状態よりも早期に発生する。このため、走行路が障害物推定可能特性を有すると判定された場合には、障害物推定可能特性を有さないと判定された場合よりも早期に制動力が発生し、衝突時までに車両1を十分に減速させて所望の衝突被害軽減効果を得ることが可能となる。また、走行路が障害物推定可能特性を有すると判定された場合、車間距離センサ3が検出した遠方の物体は、車両1と衝突する可能性が高い障害物であると推定されるので、発生させた第1の制動力が、車両1の走行にとって無駄となる可能性は低い。また、運転者は、上記物体を車両1との衝突の可能性が高い障害物と認識するので、制動力を早期に発生させても運転者に与える違和感は抑制される。従って、無駄な制動や運転者に対する違和感を抑制し、且つ所望の衝突被害軽減効果を得ることが可能となる。
【0031】
また、走行路特性判定部10は、走行路の特徴点の数量が所定の数量以下であり、走行路の車線幅と車両1の車幅との差が所定の長さ以上であり且つ走行路の曲率が所定の曲率以下の場合に、走行路が障害物推定可能特性を有すると判定する。高速道路等の自動車専用道路や自動車専用道路と同等の道路であって略直線状の走行路は、多くの場合、特徴点の数量が所定の数量以下であり、走行路の車線幅と車両1の車幅との差が所定の長さ以上であり、且つ走行路の曲率が所定の曲率以下であるので、障害物推定可能特性を有する走行路であると判定される。このような走行路においては、車両1は高速走行している可能性が高いうえ、特徴点の数量が少ないので運転者の車両前方への注意力が低下するおそれがあるが、第1の制動力が早期に発生するので、衝突時までに車両1を十分に減速させて所望の衝突被害軽減効果を得ることができる。
【0032】
一方、上記特徴点が多く存在する一般道等や、車線幅が狭い道路や、曲折する道路の場合、障害物推定可能特性を有さないと判定される。従って、第2の衝突発生前状態と判定されたときに第2の制動力が発生するが、このような走行路においては、通常、運転者は車両前方への注意力が高く、車速も低速である可能性が高いので、強制的な制動力を早期に発生させなくても所望の衝突被害軽減効果を得ることができる。
【0033】
なお、本実施形態では、第1及び第2の衝突発生前状態を、TTCに基づいて判定したが、第1及び第2の衝突発生前状態の判定は、TTCに基づく判定に限定されず、他の判定であってもよい。例えば、車両1に減速度α(m/s)を付与して相対速度Vrをゼロにするのに必要な距離D(m)に基づいて判定してもよい。距離Dは、相対速度Vr及び減速度αを式(2)に代入して求めることができる。
【0034】
D=Vr/2α ・・・(2)
【0035】
この場合は、例えば第1の衝突発生前状態の判定閾値には、車両1に減速度α1を付与したときに相対速度Vrをゼロにするのに必要な距離D1を予め設定し、第2の衝突発生前状態の判定閾値には、車両1に減速度α2を付与したときに相対速度Vrをゼロにするのに必要な距離D2を予め設定する。制動制御部13は、第1の衝突発生前状態と判定されたとき、減速度α1に相当する制動力を発生させ、第2の衝突発生前状態と判定されたとき、減速度α2に相当する制動力を発生させる。減速度α1を減速度α2(例えば、車両1の最大減速度)よりも小さな値に設定することによって、判定閾値D1は判定閾値D2よりも長い距離となる。従って、第1の衝突発生前状態は、第2の衝突発生前状態よりも早期に発生し、第1の制動力も早期に発生するので、衝突時までに車両1を十分に減速させて所望の衝突被害軽減効果を得ることが可能となる。
【0036】
また、衝突発生前状態と判定されたときの車両1に対する制動力の付与は本実施形態に限定されず、例えば、第1の制動力を付与した後に、第2の衝突発生前状態か否かを判定し、第2の衝突発生前状態と判定されたとき、車両1に対して、さらに第2の制動力を付与してもよい。また、設定する第1の制動力及び第2の制動力の大きさは任意であり、本実施形態に限定されない。
【0037】
また、走行路特性判定部10は、特徴点の数量、走行路の車線幅及び走行路の曲率の3つの判定要素を算出し、それぞれが所定の判定条件を満たした場合に、走行路が障害物推定可能特性を有すると判定したが、他の判定であってもよい。例えば、上記3つの判定要素のうち、走行路の曲率等の1つの要素が判定条件を満たした場合に走行路が障害物推定可能特性を有すると判定してもよい。また、算出した上記3つの判定要素にそれぞれ所定の重み係数を乗じて演算し、演算結果のレベルによって走行路が障害物推定可能特性を有するか否かを判定してもよい。また、走行路特性判定部10の判定は、上記3つの判定要素による判定に限定されず、例えば、画像情報に基づいて走行路面上の表示や走行路脇の標識等を認識することによって走行路が障害物推定可能特性を有するか否かを判定してもよい。
【0038】
また、衝突被害軽減ブレーキ装置や車線逸脱警報装置等の安全装置を備えた既存の車両に対しては、本処理を実行する装置(ユニット)を追加して設置すればよい。また、上記安全装置がカメラ、車間距離センサ等を備えている場合は、本実施形態で使用するカメラ2及び車間距離センサ3との共有が可能となる。このように、本発明は、上記安全装置を備えた既存の車両に対して少ないコスト負担で容易に適用が可能である。
【0039】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、障害物と車両との衝突被害軽減装置として各種車両に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 車両
2 カメラ(撮像手段)
3 車間距離センサ(物体検出手段)
4 ECU
6 ブレーキアクチュエータ(制動手段)
10 走行路特性判定部(走行路判定手段)
11 衝突時間算出部(衝突発生前状態判定手段)
12 制動タイミング調整部(衝突発生前状態判定手段)
13 制動制御部(制動制御手段)
図1
図2
図3
図4