【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の第1は、上部金属電極/アルミニウム酸化物層(抵抗変化層)/下部金属電極層からなる抵抗変化型メモリ素子であって、抵抗変化層は、酸素欠損を有し、かつ導電性物質が添加されたアルミニウム酸化物層からなる電荷蓄積層
(2)と、前記電荷蓄積層を上下に挟んで配置された酸素欠損型アルミニウム酸化物層
(7)の2種類のアルミニウム酸化物層により構成される構造を有する抵抗変化型メモリ素子を提供する。
ここで、前記導電性物質は、金(Au)、白金(Pt)、Ruルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)からなる群から選ばれた金属あるいはこれらの合金である。
また、前記導電性物質は、導電性を有する酸化物、半導体の酸化物、並びに電気伝導性を示す窒化物からなる群から選ばれたものでもよい。ここで、当該導電性を有する酸化物は、二酸化チタン(TiO2)、スズ添加インジウム酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)からなる群から選ばれるとよい。
【0015】
本発明の第2は、第1の発明の酸素欠損を有するアルミニウム酸化物層AlOxの組成範囲がx<1.5であることを特徴とする抵抗変化型メモリ素子を提供する。
【0016】
本発明の第3は、第1の発明の抵抗変化層中の電荷蓄積層の層数Nが1以上100以下の数値の範囲であることを特徴とする抵抗変化型メモリ素子を提供する。
【0017】
本発明の第4は、第1の発明の導電性物質の製造方法であって、前記導電性物質は、アルミナターゲットを用いた成膜時に窒素(N2)ガスを導入して、膜中に窒素を添加されて製造されることを特徴とする。
本発明の第5は、第1の発明の導電性物質の製造方法であって、前記導電性材料が添加されたアルミニウム酸化物層からなる電荷蓄積層は、アルミナターゲット(RFスパッタ)とアルミニウム金属(DCスパッタ)ターゲット、またはアルミナターゲット(RFスパッタ)とTiO2ないしはZnO導電性酸化物(RFスパッタ)ターゲットを用いた同時スパッタ法、アルミナとアルミニウムを抵抗加熱ないしは電子ビームを用いて蒸着した同時蒸着法、パルスレーザ蒸着法によって成膜されることを特徴とする。
【0018】
図を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
図2に抵抗変化型メモリ素子の例を示す。素子の基本構造は基板6と、下部金属電極層3及び上部金属電極1からなる1対の電極と、下部金属電極層及び上部金属電極により狭持された抵抗変化層8とを有する。抵抗変化層は酸素欠損かつ導電性元素が添加されたアルミニウム酸化物層からなる電荷蓄積層2とそれをはさむように上下界面配置された酸素欠損型アルミニウム酸化物層7の組成の変調された2種類のアルミニウム酸化物層より構成される。電荷蓄積層の層数Nは1以上100以下の数値の範囲である。下部金属電極層、抵抗変化層、上部金属電極は、多層構造体として、互いに接するように、上記順に基板上に配置される。
【0019】
図1に示されるように素子には、下部金属電極層と上部金属電極の間の電気抵抗値が異なる2つ以上の状態が存在する。駆動電圧または電流をメモリ素子に、具体的には下部金属電極層と上部金属電極との間に印加することにより、素子は上記の2つ以上の状態から選ばれる1つの状態から他の状態へと変化する。具体的には素子に電気抵抗値が異なる2つの状態(高抵抗状態と低抵抗状態)が存在する場合、駆動電圧または電流の印加により、メモリ素子は高抵抗状態Aから低抵抗状態Bへ、あるいは低抵抗状態Bから高抵抗状態Aへと変化する。
【0020】
基板は、例えばSi基板であればよく、この場合、基板における下部金属電極層に接している表面が酸化されていてもよい。基板がSiで有る場合、本発明の抵抗変化素子と半導体素子との組み合わせが容易となる。なお、基板にはトランジスタなどを形成した加工済みのウェハも、基板に含めることができる。したがって、基板はガラスやPETフィルムなどの樹脂、サファイア(Al
2O
3)や酸化マグネシウム(MgO)など単結晶金属酸化物基板を用いてもよい。
【0021】
下部金属電極層及び上部金属電極は基本的に導電性を有していればよく、例えば、金(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、アルミニウム(Al)、スズ添加インジウム酸化物(ITO)、Si等、あるいはこれらの合金、酸化物、窒化物等が例示できる。
【0022】
また下部金属電極層と基板との間にはその密着性の向上を目的として、密着層を挿入してもよい。特に基板表面が酸化されている場合はチタン(Ti)やクロム(Cr)などの3d遷移金属を用いることが望ましい。また基板と下部金属電極層との格子定数や結晶構造が近い合金、酸化物、窒化物、フッ化物、炭化物、ホウ化物等も使用できる。
密着層を生成させるのは、下部金属電極層をリソグラフィ法により形成する際、Alなどの電極材料によっては現像に用いるアルカリ溶液を用いたプロセスにより、あるいは抵抗変化層や上部金属電極を形成する際のプラズマ利用プロセスにより剥がれることを防止するためである。
【0023】
またこのとき、抵抗変化層は酸素欠損や添加アルミニウムなどの金属がその効果を付与するため、酸素欠損部への異種元素の混入、添加金属の酸化などが素子特性に大きな影響を与える。そのため成膜においては真空度が高い環境(1×10
―4Pa以上)で形成することが望ましい。
【0024】
更に電極層を形成する際にリフトオフ工程を用いる場合には、レジストの残渣物や基板表面に残った有機物質のコンタミネーションを蒸着前に流量100 cm
3/分 の酸素雰囲気中で100 Wの酸素プラズマを用いて10秒から10分間、好ましくは30秒から1分間発生させてクリーニングすることが望ましい。この工程をアッシング処理といい、この工程を用いないと上部金属電極と抵抗変化層の間ないしは下部金属電極層と抵抗変化層の間に残渣物やコンタミネーションが残り、良好な接合が形成されず素子特性の劣化を招く。
【0025】
抵抗変化層は、酸素欠損を有し、導電性材料が添加されたアルミニウム酸化物層(AlOx:M、x<1.5、Mは導電性材料)からなる電荷蓄積層とこれを上下に挟んで配置された酸素欠損を有するアルミニウム酸化物層(AlOx、x<1.5)のアルミニウム酸化物層の2種類のアルミニウム酸化物層より構成される。またこのアルミニウム酸化物層はアモルファス又は多結晶体である。
【0026】
この添加材料Mは基本的に導電性を有していればよく、例えば、金(Au)、白金(Pt)、Ruルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等金属あるいはこれらの合金、あるいは電気伝導性を示す物質であれば、窒化物等でも構わない。また、二酸化チタン(TiO
2)、スズ添加インジウム酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)など導電性を有する酸化物、半導体の酸化物でもよい。更に同様のアルミナターゲットを用いた成膜時に窒素(N
2)ガスを導入し、膜中に窒素を添加することでも同様の効果を得ることができる。
【0027】
導電性材料が添加されたアルミニウム酸化物層からなる電荷蓄積層は、アルミナターゲット(RFスパッタ)とアルミニウムなど金属(DCスパッタ)ターゲット、またはアルミナターゲット(RFスパッタ)とTiO
2ないしはZnOなど導電性酸化物(RFスパッタ)ターゲットを用いた同時スパッタ法、アルミナとアルミニウムを抵抗加熱ないしは電子ビームを用いて蒸着した同時蒸着法、パルスレーザ蒸着法によっても成膜することが可能である。
【0028】
同時蒸着法においてメモリ効果を示す抵抗変化層およびそれを形成する電荷蓄積層を形成するには、添加される材料は導電性を有し、膜中に取り込まれる必要がある。この構造を形成するには形成チャンバ内のガスを制御する必要がある。残留ガス特に酸素ガスが存在すると蒸着原子がこのガスによるプラズマにより酸化され、導電性を有しない状態で添加される可能性がある。さらに水素ガスによっては膜中に水素が混入することで膜の構造、組成が変化し、電流電圧特性が変わる。そこで抵抗変化層の形成には高真空雰囲気下での作製が必要となる。特に残留ガスの影響を考えると10
−4Pa台より高い真空度で形成する必要があり、10
−5Pa台より高真空下であると望ましい。このような作製方法で作製された膜においては、膜中に添加された導電性材料が電圧を印加した際の導電性パスの基点となることから、高電圧のフォーミングを行うことなくフィラメント(導電性パス)を形成することができるようになる。
【0029】
また本発明の素子においては、抵抗変化は上部金属電極に近い電荷蓄積層と電極間のアルミニウム酸化物層において動作することから、見かけ上の抵抗変化層の膜厚は減少することにより、動作電圧、電流を減少させることができる。これにより従来の同様の素子よりその消費電力を削減する効果がある。
【0030】
この動作機構により、本素子においてはフィラメントが抵抗変化層全体において完全に切れることはなく、最上層の電荷蓄積層までにはフィラメントの多くが存在している(電荷が注入蓄積された状態)。これによりOFF状態への遷移において電荷が必要以上に抽出された場合においても他の素子のようにフォーミングが必要ではなく、最上層部のフィラメントの一部で抵抗値が最も低いものが導通状態に復帰するだけで効果が再現するため、その安定性が大幅に増加する。
【0031】
本発明による素子では、その電気抵抗値を、駆動電圧または電流を印加するまで保持できるため、素子における上記各状態に対してビットを割り当てる(例えば、高抵抗状態(OFF状態)を「0」、低抵抗状態(ON状態)を「1」とする)ことにより、不揮発性の抵抗変化型メモリ(メモリ素子、あるいは2つ以上のメモリ素子が配列したメモリアレイ)を構築できる。また、素子ではこのような状態の変化を少なくても2回以上繰り返し行うことができ、不揮発性のランダムアクセスメモリを構築できる。その他、上記各状態に対してONまたはOFFを割り当てることにより素子をスイッチング素子として応用することも可能である。
【0032】
素子の電気抵抗値の検出は、例えば素子に当該素子における上記状態が変化しない程度の電圧(読み出し電圧)を印加、その際の素子に流れる電流値を検出することにより行えばよい。読み出し電圧としては、素子の消費電力をより低減化するため、パルス状の電圧を印加することが好ましい。
【0033】
本発明の抵抗変化素子を用いて抵抗変化型メモリを構築するためには、本発明の素子を半導体素子、例えば、ダイオード、あるいは金属/酸化物/シリコン(Metal/Oxide/Semiconductor : MOS)型トランジスタ等のトランジスタ等と組み合わせればよい。これによりメモリ素子の最小構成要素である1D1R(1ダイオード、1ReRAM)及び1T1R(1トランジスタ、1ReRAM)を構築することが可能となる。
【0034】
本発明の抵抗変化素子は、半導体製造プロセスを応用し、一般的な薄膜形成プロセス及び微細加工プロセスにより形成できる。抵抗変化層の形成には例えばRF及びDC、ECR(電子サイクロトロン共鳴)、ヘリコン、誘導結合プラズマ(ICP)、対向ターゲット等の各種スパッタリング法、PLD(パルスレーザデポジション)、IBD(イオンビームデポジション)、MBE(分子線エピタキシャル法)等の蒸着法、イオンプレーティング法等を用いればよい。これらPVD法のほかに、CVD(ケミカルヴェイパーデポジション)法、MOCVD(有機金属CVD)法、メッキ法、ゾルゲル法等を用いてもよい。しかしながらDC/RF同時スパッタ法を用いた抵抗変化層の形成が、膜中への導電性材料の導電性を保ったままの添加量、組成の制御の容易なため望ましい。
【0035】
各層の微細加工には、半導体プロセスに用いられるイオンミリング、RIE(反応性イオンエッチング)、FIB(集束イオンビーム)等の物理的、あるいは化学的エッチング法を用いることは可能である。特にアルミニウム酸化物とアルミニウムは半導体の配線、層間絶縁膜として使用されていることから塩素(Cl)系ガス(例えば塩素(Cl
2)、三塩化ホウ素(BCl
3)など)を用いることによるRIE法による半導体製造技術がすでに確立している。
【0036】
また微細パターンの形成のためのフォトリソグラフィ法、ステッパー、コンタクトマスクアライナーなど紫外光を用いた方法、あるいは電子線(EB)リソグラフィ法など電子線を用いた方法、更にはレーザ加工技術を組み合わせて加工することは可能である。各層の表面の平坦化には、例えば、CMP(ケミカルメカニカルポリッシング)やクラスターイオンビームエッチング等を用いてもよい。
【0037】
一方、本発明の抵抗変化層中の電荷蓄積層においては成膜時に金属酸化物膜中に、金属及び合金、酸化物、窒化物等導電性材料が導入される。特に金属ターゲットを用いてDCスパッタ法によりアルゴンプラズマによって、また窒化物は窒素プラズマによって、酸化物はアルミナ中の酸素又は酸素プラズマにより導入することが可能となる。絶縁膜のアルミニウム酸化物膜に導電性材料が添加されることにより、全体の見かけの抵抗を下げることができる。また金属、金属窒化物が層中にあることにより電荷が注入、蓄積、保持されることから、元来絶縁体である金属酸化物中を電気伝導させることができる。このような金属及び導電性材料が添加された電荷蓄積層を変化層内に入れ込むことにより、フォーミング過程を有することなく、ON電圧と同様の低電圧においてフィラメント(導電性パス)を形成することが可能となる。これにより大幅な消費電力の低下に効果も期待できる。