特許第5939495号(P5939495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5939495
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】水性ゲル内包樹脂粒子エマルション
(51)【国際特許分類】
   C08F 265/00 20060101AFI20160609BHJP
   C08F 2/22 20060101ALI20160609BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   C08F265/00
   C08F2/22
   C08F2/44 C
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-256103(P2015-256103)
(22)【出願日】2015年12月28日
(62)【分割の表示】特願2015-109133(P2015-109133)の分割
【原出願日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年1月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105877
【氏名又は名称】サイデン化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】金台 修一
(72)【発明者】
【氏名】木島 健二
(72)【発明者】
【氏名】小塚 淳平
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−248012(JP,A)
【文献】 特開平05−222108(JP,A)
【文献】 特開平06−025314(JP,A)
【文献】 特表2007−518550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 265/00−265/06
C08F 2/22− 2/30
C08F 2/44
B01J 13/00− 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒を内包した水性ゲルからなるコア部を、樹脂部が内包してなる粒子を含む水性ゲル内包樹脂粒子エマルションであって、前記粒子の平均粒子径が、1250nm以上、5000nm以下で、前記樹脂部の厚みが前記粒子の直径の10%以下であり、更に、該粒子表面に1個以上の穴を有し、且つ、この粒子の直径に対して、粒子表面に存在している穴の最大開口径の比率が10%以下であることを特徴とする水性ゲル内包樹脂粒子エマルション。
【請求項2】
前記コア部が、アルキル基の炭素数が3以下の脂肪族アルキル(メタ)アクリレート(a1)と、カルボキシル基含有の単量体(a2)と、全炭素数が8〜17である単量体(a3)とを含み、且つ、これらの(a1)〜(a3)の総量を100質量部とした場合に、前記(a3)を30質量部以下の範囲で含有する単量体混合物を共重合してなる請求項1に記載の水性ゲル内包樹脂粒子エマルション。
【請求項3】
前記樹脂部の厚みが、粒子の直径の5%以下である請求項1又は2に記載の水性ゲル内包樹脂粒子エマルション。
【請求項4】
前記コア部が、酸価が200〜400mgKOH/gである(メタ)アクリル系共重合体からなるアルカリ膨潤性を有するコア部である請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性ゲル内包樹脂粒子エマルション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ゲル内包樹脂粒子エマルション及び該水性ゲル内包樹脂粒子エマルションの製造方法に関する。更に詳しくは、従来技術では得ることができなかった、その平均粒子径が500nm以上、更には、1000nm以上と、極めて大きい粒子径を有するにもかかわらず、樹脂粒子の分離沈降が抑制された貯蔵安定性に優れる樹脂粒子エマルションとなる水性ゲル内包樹脂粒子エマルション、及び、該水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを従来の乳化重合を利用して簡便に得ることができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コア・シェル構造を有する種々の重合体を製造する方法は知られており、この技術を利用して内部に空部を有する中空粒子を製造する方法も種々知られている。近年、中空粒子は、様々な用途に使用されており、その需要は広がりを増している。例えば、特許文献1には、コーティング、含浸及び成形組成物において結合剤若しくは不透明化剤として有用な、内部に空隙を有する多層重合体粒子の製造方法についての提案がされている。具体的には、コアの中に共重合した酸を比較的多量に有する重合体の不安定性等の問題を解決し、3層コア・シェル構造の粒子をアルカリ中和することで、粒子内のコア部が水溶性化し、この粒子を乾燥することで、粒子内のコア部を中空化し、中空粒子としている。また、特許文献2には、中空重合体の製造の際に、アルカリ中和に必要な塩基を粒子内部に十分に浸透させるためには、重合体のガラス転移温度(Tg)を高くできないという課題があったのに対し、高いTgを持つ中空重合体粒子を含有するラテックスであっても安定的に製造することができる方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献3には、塗料、紙コーティング、情報記録紙等に用いられるコーティング剤の添加剤として有用な、粒子内部に貫通孔を有する多層構造エマルション粒子についての提案がされている。具体的には、多層構造エマルション粒子を、乾燥時の構造を、粒子の表層部から内部を結ぶ貫通孔を1個以上有し、且つ、粒子直径が0.15〜5.0μmであることで、より吸油性に優れたものとできるとしている。そして、実施例に、粒子径が0.5μm(500nm)程度のエマルションが記載されている。なお、本発明者らの検討によれば、中空や多孔でない、通常の中実粒子とした場合、平均粒子径が250nm程度のものであれば、分離沈降安定性に優れたエマルションとできるが、650nm程度とした場合は、重合安定性には優れるものの、分離沈降安定性に劣るものになる。更に、700nm以上の粒子とした場合には、そもそも重合安定性に劣り、多くの凝集物が生じてしまい、勿論、分離沈降安定性に劣り、良好なエマルションにはできず、粒子の平均粒子径が500nm以上の良好なエマルションとするためには、中空や多孔の粒子にする必要があることを確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2774145号公報
【特許文献2】特許第2679523号公報
【特許文献3】特許第3035423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特に、粒子径1μm(1000nm)以上の大きな樹脂製中空粒子は、製造方法が煩雑で制御が難しく、現状の技術では、近年、広がりを見せている樹脂製中空粒子の利用に対する潜在的需要に充分に応えることができないという課題があった。例えば、上記した従来技術でも、実際に製造されているものは、大きくても粒子径が500nm程度のものである。特に、従来の乳化重合により得られる樹脂粒子エマルションは、その平均粒子径が500nm以上と大きくなると、中空粒子であっても貯蔵安定性に劣り、分離沈降傾向が増してしまうといった問題がある。これに対し、下記に述べるように、現状では、工業上の広範な需要に対して適用可能な、大粒径でありながら、重合安定性に優れ、分離沈降安定性に優れる樹脂粒子エマルション製品は得られていない。エマルション粒子が分離沈降するといった課題を解決する有効な方法としては、エマルションの粘度を上げることが一般的である。しかし、用途によっては低粘度で使用される製品もあり、増粘できない場合も多い。増粘できない場合は、一般的に、界面活性剤の使用量を増やしたり、分子内にEO鎖を含有する界面活性剤やイオン性単量体等を乳化重合時に使用することが行われている。しかしながら、これらの手段によっても、平均粒子径が500nm以上と大きくなると、分離沈降傾向が増してしまい、貯蔵安定性に劣り、充分な効果は得られていない。
【0006】
従って、本発明の目的は、粒子径が500nm以上、更には1000nm以上であるにもかかわらず、分離沈降傾向が抑制された、貯蔵安定性に優れる、工業上、有効に利用できる優れた水性ゲル内包樹脂粒子エマルション、更には、上記優れた特性の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを、重合安定性に優れた簡便な方法で、安定して製造できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、酸価が200〜400mgKOH/gである(メタ)アクリル系共重合体からなるアルカリ膨潤性を有するコア部と、該コア部を内包するアルカリ膨潤性を有さない樹脂部とからなる粒子を含み、前記コア部が溶媒を内包した水性ゲルであり、前記樹脂部の厚みが、粒子の直径の10%以下で、且つ、粒子の平均粒子径が、500nm以上、5000nm以下であることを特徴とする水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを提供する。
【0008】
上記の水性ゲル内包樹脂粒子エマルション組成物の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。すなわち、前記平均粒子径が、1000nm以上、5000nm以下であること;前記樹脂部の厚みが、粒子径の5%以下であること;前記コア部が、アルキル基の炭素数が3以下の脂肪族アルキル(メタ)アクリレート(a1)と、カルボキシル基含有の単量体(a2)と、全炭素数が8〜17である単量体(a3)とを含み、且つ、これらの(a1)〜(a3)の総量を100質量部とした場合に、前記(a3)を30質量部以下の範囲で含有する単量体混合物を共重合してなること;が挙げられる。
【0009】
また、本発明は、溶媒を内包した水性ゲルからなるコア部を、樹脂部が内包してなる粒子を含む水性ゲル内包樹脂粒子エマルションであって、前記粒子の平均粒子径が、500nm以上、5000nm以下であり、該粒子表面に1個以上の穴を有し、且つ、この粒子の直径に対して、粒子表面に存在している穴の最大開口径の比率が10%以下であることを特徴とする水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを提供する。
【0010】
更に、本発明は、別の実施形態として、アルカリ膨潤性を有するコア部とアルカリ膨潤性を有さないシェル層とからなるコア・シェル構造を有するシード粒子を用い、更に、疎水性単量体を含む材料で、前記シェル層に、粒子の最外層となる樹脂層を積層させてアルカリ膨潤性を有さない樹脂部を形成して、前記コア部が溶媒を内包した水性ゲルである状態で、粒子の平均粒子径が500nm以上、5000nm以下であり、且つ、前記樹脂部の厚みが、該粒子の直径の10%以下である水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを製造する際に、前記シード粒子として、酸価が200〜400mgKOH/gである(メタ)アクリル系共重合体からなるアルカリ膨潤性を有するコア粒子が、アルカリ膨潤性を有さないシェル層でカバーされた粒子であって、且つ、該粒子のアルカリ膨潤前後の平均粒子径を測定し、これらの測定値から下記式によって求められるアルカリ膨潤率が200%以上である、高いアルカリ膨潤率を有したまま粒子形態を保持しているコア・シェル構造を有する粒子を使用することを特徴とする水性ゲル内包樹脂粒子エマルションの製造方法を提供する。
アルカリ膨潤率(%)
={(アルカリ膨潤後の平均粒子径)3/(アルカリ膨潤前の平均粒子径)3−1}×100
【0011】
上記の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションの製造方法の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。すなわち、前記アルカリ膨潤率が400%以上であること;前記シード粒子が、アルキル基の炭素数が3以下の脂肪族アルキル(メタ)アクリレート(a1)と、カルボキシル基含有の単量体(a2)と、全炭素数が8〜17である単量体(a3)とを含む単量体混合物を共重合して、酸価が200〜400mgKOH/gである(メタ)アクリル系共重合体からなるアルカリ膨潤性を有するコア粒子を得、該コア粒子と疎水性単量体とを含む材料を、乳化重合して得られた、前記コア粒子を、アルカリ膨潤性を有さないシェル層でカバーしてコア・シェル粒子化した後に、pH7.0以上のアルカリ条件下でアルカリ膨潤処理した粒子であること;前記全炭素数が8〜17である単量体(a3)が、スチレン、或いは、下記の一般式で表される共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体であることが挙げられる。
(ただし、上記式中のR1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数が4〜13であるアルキル基、或いは、炭素数が4〜13であるベンゼン環又は脂環を含んでなる基のいずれかを示す。)
【0012】
また、上記の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションの製造方法の好ましい形態としては、前記コア粒子の調製に用いる単量体混合物が、前記(a1)〜(a3)の総量を100質量部とした場合に、前記(a3)を30質量部以下の範囲で含有すること;前記コア粒子の調製に用いる単量体混合物が、更に架橋性単量体を含むこと;前記乳化重合の際に、前記単量体混合物100質量部に対して、純分で0.1〜5質量部となる範囲内の量で、下記一般式で示される乳化剤を使用すること;が挙げられる。
R−O−(CH2CH2O)n−SO3
(上記式中の、nは1以上5未満の数、Mは、金属イオン、又は、アンモニウムイオン、アミンイオンのいずれか、Rは、炭素数8以上20未満のアルキル基又は多環フェニル基を表す。)
【0013】
また、上記の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションの製造方法の好ましい形態としては、前記シード粒子に、アルカリ膨潤後の平均粒子径が500nm以上であるものを用いること;前記シード粒子を構成するシェル層が、前記コア部よりも親水性の低い中間層と、更に、該中間層よりも親水性の低い最外層の2層からなること;前記最外層となる樹脂層を形成するための疎水性単量体を含む材料が、架橋性単量体を含むこと;前記最外層となる樹脂層を形成するための疎水性単量体を含む材料が、前記シード粒子のシェル層の最外層を形成する成分組成と25%以上が共通すること;が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粒子径が500nm以上(更には、1000nm以上)であるにもかかわらず、分離沈降傾向が抑制された、貯蔵安定性に優れる、工業上、有効に利用できる優れた水性ゲル内包樹脂粒子エマルション、更には、該水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを簡便な方法で安定して製造できる製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを構成する粒子の7000倍のTEM画像である。
図2】実施例1の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを構成する粒子の樹脂部の29000倍のTEM画像である。
図3】実施例1の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションの30000倍のFE−SEM画像である。
図4】実施例1の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションの50000倍のFE−SEM画像である。
図5】比較例1の水性ゲル内包樹脂粒子エマルション構成する粒子の樹脂部の29000倍のTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明の明細書等における「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル」および「メタクリル」の双方を意味し、また、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を意味する。
【0017】
本発明でいう「アルカリ膨潤率」は、粒子をアルカリ膨潤処理した場合に、アルカリ膨潤処理前後の平均粒子径をそれぞれ測定し、これらの測定値から下記式によって求められる値を意味する。アルカリ膨潤処理とは、測定対象の粒子を入れた容器内に塩基性中和剤を添加して、pH7.0以上とし、内温を90℃で約2時間の熟成を行うことを意味する。
塩基性中和剤としては、揮発性塩基及び又は、不揮発性塩基を用いることができる。揮発性塩基としては、例えば、アンモニア水、トリエチルアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。不揮発性塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸アンモニウム等が挙げられる。中でも揮発性塩基が好ましく、アンモニア水がより好ましい。
アルカリ膨潤率(%)
={(アルカリ膨潤後の平均粒子径)3/(アルカリ膨潤前の平均粒子径)3−1}×100
【0018】
本発明者らは、先に述べた従来技術の課題を解決するために、鋭意検討した結果、粒子内に存在するコア部を、溶媒として例えば水を内包することで高度に膨潤する水性ゲルとし、該コア部をカバーする疎水性の樹脂部の厚みを、粒子の直径の10%以下と薄くすることで、従来では困難であった平均粒子径が500nm以上、更には、1000nm(1μm)以上や、2000nm(2μm)以上の粒子であっても、貯蔵安定性に優れた樹脂粒子エマルションが得られることを見出した。より具体的には、エマルション粒子内に内包させるコア部となる、水等の溶媒によって高度に膨潤する高いアルカリ膨潤率を示す水性ゲルであるコア粒子のエマルションを簡便に製造する方法を見出し、更には、該コア粒子を膜厚の薄い樹脂部でカバーして、高いアルカリ膨潤率を有したまま粒子形態を保持した状態に簡便にできることを見出して本発明に至った。
【0019】
本発明を特徴づけるエマルション粒子を構成するコア部について説明する。より具体的には、本発明の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションは、アルカリ性下、水で膨潤する、アルカリ膨潤率の極めて高い水性ゲルをコア部とし、これを厚みの薄い樹脂部でカバーした点を、大きな技術的特徴としている。このような構成としたことで、平均粒子径が500nm以上、更には、1000nm以上であるにもかかわらず、分離沈降安定性に優れる、従来にない水性ゲル内包樹脂粒子エマルションとなる。更に、本発明は、このような良好なエマルションを、重合安定性に優れる簡便な方法で容易に、且つ、確実に得る技術を提供する。本発明によって得られる上記の優れた効果は、アルカリ膨潤性を有するコア部と、アルカリ膨潤性を有さないシェル層とからなる、粒径が大きく、且つ、膨潤率が高いコア・シェル構造を有するシード粒子によって達成された。以下、本発明で使用するコア・シェル構造を有するシード粒子について説明する。
【0020】
[シード粒子]
(コア粒子)
本発明で用いるシード粒子は、アルカリ性下、水等の溶媒で膨潤し、且つ、膨潤率が200%以上、より好ましくは400%以上である、膨潤率が極めて高い、溶媒を内包した水性ゲルをコア部とし、該コア部を厚みの薄いアルカリ膨潤性を有さないシェル層でカバーした、水性ゲルを内包してなるものである。上記シード粒子を構成するコア部は、下記のようにして得られる、酸価が200〜400mgKOH/gである(メタ)アクリル系共重合体からなるコア粒子エマルションを用いることで容易に製造することができる。
【0021】
例えば、酸価が200〜400mgKOH/gである(メタ)アクリル系共重合体からなる、高いアルカリ膨潤性を有するコア粒子は、アルキル基の炭素数が3以下の脂肪族アルキル(メタ)アクリレート(a1)と、カルボキシル基含有の単量体(a2)と、全炭素数が8〜17である単量体(a3)とを含む単量体混合物を共重合することで、コア粒子エマルションとして容易に得られる。本発明においては、上記で用いる全炭素数が8〜17である単量体(a3)が、スチレン、或いは、下記の一般式で表されるものであることが好ましい。更に、コア粒子の調製に用いる単量体混合物が、前記(a1)〜(a3)の総量を100質量部とした場合に、(a3)を30質量部以下の範囲で含有する構成とすることが好ましい。また、コア粒子の調製に用いる単量体混合物が、上記に加えて、更に架橋性単量体を含むものであることも好ましい形態である。
(ただし、上記式中のR1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数が4〜13であるアルキル基、或いは、炭素数が4〜13であるベンゼン環又は脂環を含んでなる基のいずれかを示す。)
【0022】
より具体的には、本発明に好適な、粒径の大きなシード粒子を構成する、高いアルカリ膨潤性を有するコア部は、下記のようにして得られるコア粒子エマルションを用いることで容易に製造できる。該コア粒子エマルションは、例えば、アルキル基の炭素数が3以下である脂肪族アルキル(メタ)アクリレート(a1)と、カルボキシル基含有の単量体(a2)とを合計で70〜98質量%となるように配合し、これらの共重合可能な単量体に併用して、全炭素数が8〜17である単量体(a3)を2〜30質量%となるように配合してなる共重合可能な単量体混合物を、乳化重合することで得ることができる。この際、主成分である脂肪族アルキル(メタ)アクリレート(a1)として、比較的親水性の高い、アルキル基の炭素数2以下の脂肪族アルキル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。更に、併用する(a3)として、このような単量体と共重合性の高い、全炭素数が8〜17である単量体を用いること、より好適には、スチレン、或いは、前記した一般式で表される共重合可能な単量体を用いるとよい。上記のように単量体混合物を構成することで、得られるコア粒子の水性ゲル特性の効果をより向上させることができ、更に、共重合した際に生じる重合カスを減らす効果も大きく、量産化に有効である。
【0023】
上記に記載したように、本発明で使用するコア粒子エマルションは、基本的には、乳化重合に用いる単量体混合物を以下のように設計することで、容易に得ることができる。比較的親水性の高い短鎖脂肪族アルキル(メタ)アクリレート(a1)と、共重合可能な親水性のカルボキシル基含有の単量体(a2)と、比較的疎水性の高い、全炭素数が8〜17である単量体(a3)とを含み、且つ、これらの(a1)〜(a3)の総量を100質量部とした場合に、前記(a3)を30質量部以下の範囲で含有する単量体混合物を用い、共重合することで容易に得られる。以下に、各成分等について説明する。
【0024】
脂肪族アルキル(メタ)アクリレート(a1)として好適なものとしては、例えば、アルキル基が、炭素数が3以下、更には2以下の短いものが挙げられる。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。本発明者らの検討によれば、アルキル基の炭素数が2以下のものを用いることが好ましい。
【0025】
カルボキシル基含有の単量体(a2)としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸二量体、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸を反応させたモノマーなどが挙げられる。中でも、汎用のアクリル酸やメタクリル酸を用いることが好ましい。使用するカルボキシル基含有の単量体(a2)の配合量としては、得られる共重合体の酸価が200〜400mgKOH/g、より好ましくは、200〜300mgKOH/g程度となるようにすることが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法では、上記した単量体(a1)及び(a2)に、これらの単量体との共重合性が高く、比較的疎水性の高い、単量体(a3)を併用して共重合体を得、コア粒子エマルションを作製することを一つの特徴とする。(a3)としては、全炭素数が8〜17である共重合可能な単量体を用いる。より好適には、(a3)として、スチレン、或いは、下記の一般式で表される共重合可能な単量体を用いることが好ましい。また、下記の一般式で表される共重合可能な単量体の中でも、その構造中にベンゼン環又は脂環を有する環式単量体は、少ない使用量で効果を発するのでより好ましい。更に、環式単量体の中でも、脂環を有する共重合可能な単量体を用いることが好ましい。本発明者らは、上記した単量体(a1)及び(a2)に、単量体(a3)を併用した単量体混合物を用いることで、得られるコア粒子の水性ゲル特性の効果をより向上させることができ、更に、共重合した際に生じる重合カスを減らす効果も大きいことを見出して、かかる知見に基づき本発明を達成した。
【0027】
上記したように、本発明で使用する全炭素数が8〜17である単量体(a3)としては、下記の一般式で表される共重合可能な単量体が好適である。
(ただし、上記式中のR1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数が4〜13であるアルキル基、或いは、炭素数が4〜13であるベンゼン環又は脂環を含んでなる基のいずれかを示す。)
【0028】
上記の一般式で表される単量体としては、例えば、下記のものが挙げられる。具体的には、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート、シクロデシルメチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これら単量体の中でも、環式単量体であることが好ましい。更には、特に、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)であることが、より好ましい。
【0029】
本発明者らの検討によれば、上記した(a1)〜(a3)の単量体の総量を100質量部とした場合に、前記(a3)を30質量部以下の範囲で含有する単量体混合物を共重合させることで、200%以上、更には400%以上の、高いアルカリ膨潤率を示すシード粒子を得ることができることを見出した。このようなシード粒子を用いることで、粒子の平均粒子径が、500nm以上、5000nm以下である、従来にない大きさでありながら、分離沈降安定性に優れる本発明の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションの提供が可能になる。具体的には、この溶媒を内包することで粒径の大きな水性ゲルになるコア部を、アルカリ膨潤性を有さないシェル層でカバーした、高いアルカリ膨潤率を有したまま粒子形態を保持しているコア・シェル構造を有するシード粒子は、上記した単量体混合物を乳化重合して共重合させることで得られる、粒径の揃った良好なコア粒子エマルションに疎水性単量体を添加して更に乳化重合することで容易に得られる。また、これらの共重合の際に、良好な重合安定性を示すので、工業的に効率良く安定に製造することができる。
【0030】
本発明者らは、粒子の平均粒子径が、500nm以上、5000nm以下である本発明の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを得るために必須となる、上記のコア粒子エマルションを得ることができた理由について、下記のように考えている。後述する比較例用のコア粒子7〜9は、いずれも、脂肪族アルキル(メタ)アクリレート(a1)と、カルボキシル基含有の単量体(a2)とを、本発明で規定するように、酸価が250mgKOH/g程度になるような配合で共重合させているが、後述する表4に示したように、得られる粒子は、アルカリ膨潤率が200%未満、更には100%以下の低いものとなる。また、これをシード粒子のコア部に用いて、本発明の製造方法と同様にしてエマルションを得た場合、後述する表6に示したように、平均粒子径が500nm以上のものとできるものの、樹脂部が厚い、分離沈降安定性に劣るものとなり、良好なエマルションとすることはできない。これに対し、本発明の実施例では、全炭素数が8〜17である単量体(a3)として、脂環族又は芳香族アルキル(メタ)アクリレートを配合したことで、後述する表3に示したように、アルカリ膨潤率が200%以上、更には400%以上のシード粒子を得られることがわかった。上記のことから、本発明者らは、本発明の場合は、(メタ)アクリル系共重合体の酸価を高めて、適度な親水性としたことに加えて、構造中に、脂環或いは芳香環が適度に入ることで、上記した高いアルカリ膨潤率が実現できたものと考えている。
【0031】
本発明で使用する上記した特有のコア粒子を製造する際に、単量体混合物中に、更に架橋性単量体を用いることも有効である。具体的には、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらを用いることで、アルカリ膨潤性を改善する効果が得られる。更に、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン等の連鎖移動剤を用いることも、アルカリ膨潤性の調整といった点から有効である。
【0032】
上記コア部となる水性ゲル(以下、コア粒子と呼ぶ)を得る方法としては、従来公知の乳化重合により得ることができる。乳化重合の具体的な方法としては、例えば、下記のような方法が挙げられるが、本発明ではいずれのものも利用できる。例えば、水性ゲルを構成する単量体混合物を、少なくとも、水、乳化剤および重合開始剤を反応容器に一括で仕込み、乳化重合を行う方法や、上記単量体混合物を、少なくとも水、乳化剤および重合開始剤を仕込んだ反応容器にそれぞれ滴下しながら乳化重合を行う方法や、単量体混合物を、予め水および界面活性剤と共に乳化したものを、水と必要に応じて、乳化剤や重合開始剤を仕込んだ反応容器に滴下して乳化重合を行う方法や、これらの組み合わせによる方法がある。
【0033】
上記した乳化重合の際に用いる重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が用いられる。例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸などのアゾ系化合物等の水性重合開始剤、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の油性重合開始剤を挙げることができる。これらの重合開始剤の使用量は、アクリル系樹脂を構成する不飽和単量体100質量部あたり0.01〜1.0質量部が好ましい。上記重合開始剤は、重合の各段階で用いることができ、各段階で所定量を添加して、重合反応を行わせることができる。また、必要に応じて還元剤を組み合わせて用いることもできる。
【0034】
また、上記した乳化重合の際には、乳化剤を使用することにより、重合時に生じるカスを少なくすることができるため好ましい。使用する乳化剤としては、コア粒子を構成する単量体混合物100質量部に対して、純分で0.1〜5質量部となる範囲内の量で乳化剤を使用することが好ましい。乳化剤の使用量が純分で0.1質量部未満であると、添加による効果が十分に得られず、一方、その使用量が純分で5質量部を超えると、最終的に得られる水性ゲル内包樹脂粒子エマルションの塗膜の特性が、充分なものにならない傾向があるので好ましくない。
【0035】
上記乳化剤としては、例えば、下記一般式で示される乳化剤を使用することが好ましい。本発明者らの検討によれば、これらの乳化剤を使用することで、目的とする粒子の粒子径を安定に調整するといった効果が得られる。
R−O−(CH2CH2O)n−SO3
(上記式中の、nは1以上5未満の数、Mは、金属イオン、又は、アンモニウムイオン、アミンイオンのいずれか、Rは、炭素数8以上20未満のアルキル基又は多環フェニル基を表す。)
【0036】
上記のようにして得られたコア粒子(水性ゲル)は、その重量平均分子量が300000以上であることが好ましい。なお、上限値は、製造可能であれば、特に限定されないが、その重量平均分子量が400000〜600000程度であることが、より好ましい。
【0037】
(シェル層)
以上のようにして得られるシード粒子の中心層を形成するコア粒子(水性ゲル)は、アルカリ条件下で水を吸収し、膨潤する特性を有する高いアルカリ膨潤性を有する樹脂である。そして、その表面にアルカリ膨潤性を有さない疎水性の樹脂からなるシェル層を形成することで、本発明の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションの製造を可能にする、コア・シェル構造を有する水性ゲル内包樹脂粒子であるシード粒子が得られる。シェル層は、単層からなるものであってもよいが、中間層及び最外層の2層を有するものであってもよい。なお、本発明で規定する樹脂部の厚みとは、これらの単層或いは2層からなるシェル層の表面に更に、本発明の水性ゲル内包樹脂粒子エマルション粒子の最外層となる樹脂層を積層させた際における、シェル層とエマルション粒子の最外層となる樹脂層とを合わせてなる樹脂部の厚みのことである。この点については後述する。
【0038】
上記シェル層である樹脂層を構成する単量体としては、特に限定されず、共重合可能な単量体であれば使用することができ、シード粒子のコア部を形成する際に使用した成分も使用することができるが、シード粒子はアルカリ膨潤後に粒子の形態を保持している必要があるため、シェル層である樹脂層は、アルカリ膨潤を有さない組成であることが必要である。具体的に、シェル層を構成する単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の脂肪族アルキル(メタ)アクリレートや、スチレン等の芳香族系モノマーが挙げられる。中でもスチレンを用いることが好ましい。
【0039】
シード粒子に、上記した2層のシェル層を有するコア・シェル構造のものを用いる場合には、前記中間層を、前記コア部よりも親水性の低い単量体を用いて重合して得た後、前記最外層を、該中間層よりも親水性の低い単量体を用いて重合することが好ましい。シェル層を上記のようにすることにより、シェル層は、より耐水性に優れた高強度のものとなり、中心のコア部の水性ゲルを水で膨潤させた際に壊れたり、膨潤させた水性ゲルを乾燥した際に、シード粒子が潰れたりせずに中空を維持することができるため好ましい。
【0040】
上記したような単量体を重合して得られるシード粒子のシェル層は、Tg(ガラス転移温度)が50℃以上であることが好ましい。また、2層のシェル層を有する構造のコア・シェル構造のものとする場合には、その最外層を構成するための組成成分として、Tgが50℃以上の材料を用いることが好ましい。より好ましくは、Tgが70℃以上である。シェル層の組成のTgを上記のように構成することで、中心のコア部を形成する水性ゲルを乾燥させた後も、水性ゲル内包樹脂粒子が潰れたりせずに、中空を維持し、かつ、十分な粒子径を保つことができる。
【0041】
上記シェル層は、従来公知のコア・シェル構造のエマルションの重合方法により、重合することができる。例えば、予め中心のコア部を構成する水性ゲルを乳化重合した後、重合物を用いて、シェル層を形成する単量体混合物を乳化重合させてもよいし、一連の重合反応により、コア・シェル構造のエマルションとして製造してもよい。なお、シェル層を形成する際に、コア部を構成する水性ゲルは、水で膨潤させた状態のものを使用してもよいし、コア・シェル構造のエマルションを形成した後に、アルカリ性下、水で膨潤させてもよい。
【0042】
上記シェル層を得る際の乳化重合においては、上述した水性ゲルを得る際の乳化重合の場合と同様に、乳化剤を使用することが好ましく、乳化剤としては、水性ゲルを得る際に用いたものと同様のものを使用することができる。
【0043】
(シード粒子の特性)
本発明の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを製造する際に使用する、上記のようにして得られるコア・シェル構造を有するアルカリ膨潤性の水性ゲル内包樹脂粒子であるシード粒子としては、その平均粒子径が500nm以上、最終的に所望するエマルションの粒径にもよるが、平均粒子径が1000nm以上であることが好ましい。
【0044】
また、粒子の平均粒子径が、500nm以上、5000nm以下である、本発明の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを得るためには、上記シード粒子は、下記式より算出されるアルカリ膨潤率が200%以上であることを要する。より好ましくは、アルカリ膨潤率が400%以上である。このように高いアルカリ膨潤率を有する水性ゲル内包樹脂粒子をシード粒子として用いることで、本発明の製造方法によって得られる水性ゲル内包樹脂粒子エマルションの平均粒子径は、500nm以上、更には、平均粒子径が1000nm以上や、2000nm以上となり、且つ、このように粒径の大きなものでありながら、分離沈降安定性に優れたものとなる。
【0045】
[水性ゲル内包樹脂粒子エマルション]
本発明の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションは、上述した高いアルカリ膨潤率を示す水性ゲル内包樹脂粒子をシード粒子として用い、疎水性単量体を含む材料で、シード粒子のシェル層に、粒子の最外層となる樹脂層を積層させてアルカリ膨潤性を有さない樹脂部を形成することで容易に得られる。例えば、上記のようにして得たコア・シェル構造を有するシード粒子と、疎水性単量体とを含む材料を含む単量体混合物を、pH7.0以上のアルカリ条件下で乳化重合して、シード粒子の表面にカバー重合して樹脂部を形成することで容易に得ることができる。この結果、得られるエマルションを構成する粒子は、その平均粒子径が500nm以上と大きく、その構成は、上記で形成した樹脂部によって、前記したシード粒子のコア部を構成する高いアルカリ膨潤率を有する水性ゲルが、水で大きく膨潤した状態で内包されたものとなる。より詳しくは、大きなシード粒子の存在下、単量体混合物をpH7.0以上のアルカリ条件下で乳化重合することにより、該シード粒子は膨潤した状態となり、且つ、該シード粒子を構成する疎水性樹脂からなるシェル層表面で単量体混合物が重合することにより、水で膨潤したシード粒子がカバー重合されることとなり、本発明の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションが容易に得られる。上記乳化重合は、pH7.0以上のアルカリ条件下であれば、シード粒子を製造する際に使用した乳化重合と変わらず、従来公知の乳化重合の方法で行うことができる。
【0046】
上記シード粒子をカバーする樹脂部を形成するために使用する材料としては、特に限定されず、共重合可能な単量体であれば使用することができ、シード粒子のシェル層を形成する際に使用した単量体等を使用することができる。上記樹脂部は、シード粒子を構成するシェル層と一体となって、本発明の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションの最外層を形成するので、樹脂部を形成するための材料の成分組成は、シード粒子のシェル層の最外層を構成する成分組成と25%以上が共通するものであることが好ましい。より好ましくは、シェル層の最外層を構成する成分組成と50%以上が共通するもの、或いは同一の組成であることが好ましい。
【0047】
本発明の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションは、粒子表面に1個以上の穴を有する場合がある。すなわち、本発明は、溶媒を内包した水性ゲルからなるコア部を、樹脂部が内包してなる粒子を含み、前記粒子の平均粒子径が、500nm以上、5000nm以下であり、該粒子表面に1個以上の穴を有し、且つ、この粒子の直径に対して、粒子表面に存在している穴の最大開口径の比率が10%以下である水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを提供する技術に関するものでもある。該穴は、コア部が溶媒を内包して水性ゲルになる際に生じたものと考えられ、その膨潤率や粒子の大きさによって、穴の数や大きさは異なるものとなる。用途によっては、穴をより大きく、或いは、穴の数をより多くすることが好ましい場合があることが予想される。しかし、これらの穴は、粒子の直径に対する、該粒子表面に存在している穴の最大開口径の比率が10%以下であることが好ましい。上記比率が10%超になると、水性ゲル内包樹脂粒子の安定性が悪くなる傾向にあるので好ましくない。
【実施例】
【0048】
次に、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、文中「部」とあるのは質量基準である。
また、以下の実施例及び比較例において、乳化剤として下記の界面活性剤を用いた。
乳化剤A:ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸ナトリウム(EO鎖付加モル数4、多環フェニル基炭素数15)
乳化剤B:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(EO鎖付加モル数18、アルキル基炭素数12)
乳化剤C:アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム(EO鎖付加モル数0、アルキル基炭素数12)
【0049】
[製造例1:実施例用のシード粒子のコア部(コア粒子−1)の作製]
まず、水150部、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤A)0.5部に、メチルメタクリレート(MMA)45部、シクロヘキシルアクリレート(CHA)10部、及びメタクリル酸(m−AAc)45部を撹拌混合して、単量体混合乳化物を調製した。得られた単量体混合乳化物を用い、下記のようにしてコア粒子エマルションを作製した。
【0050】
撹拌機、温度計、還流コンデンサー付の1Lの4つ口丸底フラスコに、水247部を仕込み、撹拌下に窒素置換しながら80℃迄昇温した。そして、内温を80℃に保ちながら、重合開始剤として過硫酸カリウム0.1部を添加し、溶解後、予め調製した単量体混合乳化物の全量の2%を1Lの4つ口丸底フラスコ内に仕込み、30分間重合した後、残りの単量体混合乳化物を約2時間かけて滴下、反応させた。単量体混合乳化物の滴下終了後、約2時間の熟成を行い、その後、凝集物を除去する目的でろ過をして、平均粒子径φ:約640nm、蒸発残分約20%のコア粒子エマルションを得た。この粒子の単量体組成から算出した酸価は、292mgKOH/gであった。また、後述する基準で、重合の際に生じる凝集物の有無で重合安定性を評価したが、反応容器内には勿論、ろ過した際の濾布上にも凝集物が殆んどなかった。この実施例用のコア粒子エマルションを「コア粒子−1」と呼ぶ。
【0051】
<評価>
(重合安定性)
単量体混合乳化物を反応させてエマルションを合成する際における重合安定性を、反応容器、撹拌羽根への凝集物付着状態、及び、ろ過時に濾布に詰まった凝集物の状態により、下記の基準で評価した。
○:凝集物が殆んどなし
△:凝集物がやや多い
×:凝集物が非常に多い
【0052】
(平均粒子径φの測定)
上記の平均粒子径φは、粒径アナライザー(FPAR−1000(商品名)、大塚電子製)で測定した値である。この装置は、動的光散乱を用い、上記で得たコア粒子エマルションの粒子からの散乱光を直接観測することで、粒子径測定を行うものである。
【0053】
(酸価)
酸価は、単量体組成から算出して、コア部を構成する共重合体についての酸価を求めた。
【0054】
[製造例2〜6:実施例用のシード粒子のコア部(コア粒子−2〜6)の作製]
製造例1で使用した単量体混合乳化物等の組成を、表1に示したように変更した以外は、コア粒子−1の調製と同じ操作で、コア粒子エマルションをそれぞれ調製した。製造例3〜5で使用したEAは、エチルアクリレートの略記であり、製造例2〜6で使用したTMPは、トリメチロールプロパントリメタクリレートの略記である。また、製造例5で使用した乳化剤Bは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムである。製造例3等で使用したn−ドデシルメルカプタンは、連鎖移動剤である。上記のようにして得られた実施例用のコア粒子エマルションをそれぞれ、コア粒子−2〜コア粒子−6とした。そして、調製したコア粒子−2〜コア粒子−6についても、コア粒子−1と同様に、重合安定性の評価と、平均粒子径φの測定、酸価の算出を行った。表1に、得られた結果をまとめて示したが、コア粒子−1についての結果も併せて表1中に示した。
【0055】
【0056】
[製造例7〜12:比較用のシード粒子のコア部(コア粒子−7〜12)の作製]
製造例1で使用した単量体混合乳化物等の組成を、表2に示したように変更した以外は、コア粒子−1の調製と同じ操作で、比較用のコア粒子エマルションをそれぞれ調製した。得られたコア粒子エマルションをそれぞれ、コア粒子−7〜コア粒子−12とした。なお、表2中、MAは、メチルアクリレートの略記であり、BAは、ブチルアクリレートの略記である。そして、調製したコア粒子−7〜コア粒子−12についても、コア粒子−1と同様に、重合安定性の評価と、平均粒子径φの測定、酸価の算出を行った。表2に、得られた結果をまとめて示した。
【0057】
表2に示したように、製造例の8、9から、実施例と同様に、脂肪族アルキル(メタ)アクリレートであるMMAやEAやMAと、カルボキシル基含有の単量体であるm−AAcを用いてコア粒子を形成しても、環式単量体のアルキル(メタ)アクリレートであるCHMAを配合しない場合は、重合性安定性に劣ることがわかった。また、製造例11から、脂環族のアルキル(メタ)アクリレートであるCHMAを配合したとしても、脂肪族アルキル(メタ)アクリレート(a1)と、カルボキシ含有の単量体(a2)と、脂環族アルキル(メタ)アクリレート(a3)との総量を100質量部とした場合に、前記(a3)の配合量が多すぎると、重合安定性が悪くなって良好なコア粒子を形成できないことが確認された。また、製造例12から、コア粒子を構成する共重合体の酸価が高くなり過ぎると、同様に重合安定性が悪くなってしまい、良好なコア粒子を形成できないことが確認された。また、製造例10は、コア粒子を構成する共重合体の酸価が低い例であるが、後述するように、この場合は、形成したコア粒子の平均粒子径は大きいものの、膨潤率が低く、得られたコア粒子を内包するシード粒子を用いてエマルションを製造した場合に、分離沈降安定性に劣るものとなることがわかった。
【0058】
【0059】
[製造例13:実施例で使用するコア・シェル構造を有するシード粒子エマルション(シード粒子−1)の調製]
先に製造例1で調製したアルカリ膨潤性を有するコア粒子−1を用い、下記のようにして、該コア粒子を、アルカリ膨潤性を有さないシェル層でカバーしてなる、高いアルカリ膨潤率を有したまま粒子形態を保持している、コア・シェル構造を有するアルカリ膨潤性シード粒子エマルションを調製した。
【0060】
(シェル層の形成)
まず、水50部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤B)0.5部に、メチルメタクリレート(MMA)35部、ブチルメタクリレート(BMA)5部、ブチルアクリレート(BA)8部、メタクリル酸2部を撹拌混合して、シェル層1を合成するための単量体混合乳化物を調製した。以下、これをシェル1単量体混合乳化物と呼ぶ。また、水50部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤B)0.5部に、スチレン(ST)50部を撹拌混合して、シェル層2を合成するための単量体混合乳化物を調製した。以下、これをシェル2単量体混合乳化物と呼ぶ。
【0061】
先に製造例1で調製したアルカリ膨潤性を有するコア粒子−1と、上記で準備した2種類の単量体混合乳化物とを用い、下記の方法で、実施例で使用するコア・シェル構造を有するシード粒子エマルションを調製した。まず、撹拌機、温度計及び還流コンデンサー付の2Lの4つ口丸底フラスコに、水900部、前記コア粒子−1のエマルションを固形分で20部を仕込み、撹拌下、窒素置換しながら85℃迄昇温した。そして、内温を85℃に保ちながら、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を添加し、溶解後、先に予め調製したシェル1単量体混合乳化物を約1時間かけて滴下、反応させた。次に、このシェル1単量体混合乳化物の添加終了後、先に予め調製したシェル2単量体混合乳化物を約1時間かけて滴下、反応させた。
【0062】
(アルカリ膨潤処理)
更に、上記添加終了後、アルカリ膨潤処理を行った。アルカリ膨潤処理とは、丸底フラスコ内に25%アンモニア水8部を添加して、pH7.0以上とし、内温を90℃で約2時間の熟成を行った。その後、凝集物を除去する目的でろ過をし、重合の際に生じる凝集物の有無で重合安定性を評価したが、反応容器内には勿論、ろ過した際の濾布上にも凝集物が殆んどなかった。また、熟成の途中途中で、サンプリングして、アルカリ膨潤処理前後の平均粒子径を測定した。これらの平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(JSM−6510(商品名)、日本電子製)を使用し、この粒子画像(SEM画像)から粒子径をそれぞれ測定し、10個の平均値で示した。その結果、アルカリ膨潤処理前の平均粒子径(処理前粒子径と呼ぶ)が970nmで、アルカリ膨潤処理後の平均粒子径(処理後粒子径と呼ぶ)が1720nmである、アルカリ膨潤率が458(%)の、蒸発残分が約10%のアルカリ膨潤性のシード粒子エマルションを調製した。このアルカリ膨潤後の粒子を「シード粒子−1」と呼ぶ。アルカリ膨潤率は、下記の式から算出した値である。
アルカリ膨潤率(%)
={(アルカリ膨潤後の平均粒子径)3/(アルカリ膨潤前の平均粒子径)3−1}×100
【0063】
[製造例14〜18:実施例で使用するコア・シェル構造を有するシード粒子エマルション(シード粒子−2〜6)の調製]
コア粒子と、シェル層の形成に用いた単量体混合乳化物の組成を表3に示されるように変更した以外は、シード粒子−1の調製と同じ操作を行って、実施例で使用するコア・シェル構造を有するシード粒子エマルションであるシード粒子−2〜6を調製した。シード粒子−6の調製の際に用いたシェル層2を合成するための単量体混合乳化物中の乳化剤Cには、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウムを使用した。シード粒子−1の場合と同様にして、調製の際における重合安定性と、得られたシード粒子についてのアルカリ膨潤率を算出した。表3に、シード粒子−2〜6の調製に用いた組成と、評価結果を示した。表3中にシード粒子−1についての組成と評価結果を併せて示した。
【0064】
【0065】
[製造例19〜21:比較例で使用するコア・シェル構造を有するシード粒子エマルション(シード粒子−7〜9)の調製]
コア粒子と、シェル層の形成に用いた単量体混合乳化物の組成を表4に示されるように変更した以外は、シード粒子−1の調製と同じ操作を行って、比較例で使用するコア・シェル構造を有するシード粒子エマルションであるシード粒子−7〜9を調製した。シード粒子−1の場合と同様に、調製の際における重合安定性と、得られたシード粒子についてのアルカリ膨潤率を算出した。表4に、シード粒子−7〜9の調製に用いた組成と、評価結果を示したが、これらのシード粒子エマルションは、アルカリ膨潤率が200%に満たない、膨潤性に劣るものであることを確認した。
【0066】
【0067】
[実施例1:水性ゲル内包樹脂粒子エマルション(Em−1)の調製]
予め、水100部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤B)0.5部にスチレン(ST)100部を撹拌混合して、粒子の最外層となる樹脂層の形成用の単量体混合乳化物を調製した。そして、下記の手順で、シード粒子を構成するシェル層の表面に、最外層となる樹脂層を形成して、高いアルカリ膨潤性を有するコア部と、該コア部を内包するアルカリ膨潤性を有さない樹脂部とからなる水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを得た。
【0068】
まず、撹拌機、温度計、還流コンデンサー付の2Lの丸底フラスコに水130部を仕込み、これに先に調製した、蒸発残分が約10%のアルカリ膨潤性のシード粒子エマルションであるシード粒子−1を、固形分で100部を仕込み、撹拌下、窒素置換しながら90℃迄昇温した。そして、内温を90℃に保ちながら、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を添加し、溶解後、予め撹拌混合して調製した、粒子の最外層となる樹脂層の形成用の単量体混合乳化物を丸底フラスコ内に約2時間かけて滴下、反応させ、滴下終了後、約2時間の熟成を行った。その後、室温まで冷却して、平均粒子径が2050nmである、蒸発残分約15%の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを調製した。これを「Em−1」と呼ぶ。
【0069】
反応終了後、凝集物を除去する目的でろ過をし、重合の際に生じる凝集物の有無で重合安定性を評価したが、反応容器内には勿論、ろ過した際の濾布上にも凝集物が殆んどなかった。また、得られたEm−1について、下記のようにして分離沈降安定性の評価を行ったところ、Em−1は、粒径アナライザーで測定した平均粒子径φが2μm(2000nm)以上であったにも係らず、粒子が分離することも沈降することもなく、良好な分離沈降安定性を有することが確認された。更に、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた後述の方法で、Em−1を構成するコア部を内包するアルカリ膨潤性を有さない樹脂部の厚みを測定したところ、厚みは70nmであった。また、同様のTEM画像を用いて測定した粒子の直径に占める樹脂部の割合を求めたところ約3.4%であり、樹脂部が極めて薄い粒子であることを確認した。なお、この樹脂部は、コア・シェル構造を有するシード粒子を構成するシェル層と、該シェル層に積層する粒子の最外層となる樹脂層との積層体で構成されている。
【0070】
図1は、実施例1の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを構成する粒子の7000倍のTEM画像であり、図2は、実施例1の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを構成する粒子の樹脂部の29000倍のTEM画像である。また、図3は、実施例1の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションの30000倍のFE−SEM画像であり、図4は、実施例1の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションの50000倍のFE−SEM画像である。図1、2から、実施例1の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを構成する粒子は、粒径が2μm(2000nm)以上の大きな粒子であり、且つ、その樹脂部は、70nmと極めて薄いことがわかる。また、図3、4に示されているように、実施例1の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションに含まれる粒子は、粒子表面に穴を有するものであるが、粒径が2μm以上の大きな粒子でありながら、良好な球状を保ったものとなっている。
【0071】
(分離沈降安定性の評価)
上記で得たEm−1を室温で一ヶ月静置後の分離沈降状態を目視で観察し、分離沈降安定性を、下記の基準で評価した。
○:分離沈降がいずれもなし
△:分離はないが、やや沈降が認められる
×:分離、沈降多い
【0072】
(樹脂部の厚みの測定)
Em−1を構成するコア部を内包するアルカリ膨潤性を有さない樹脂部の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)であるTecnaiG2(LaB6熱電子放出型、EFI社製)を用いて樹脂部の厚みを下記のようにして測定した。まず、測定用試料として、Em−1の粉末化した樹脂粒子を、樹脂包埋し、約200nmの超薄切片を作製した。そして、図2に示したように、この超薄切片についてのTEM画像から樹脂部の厚みを測定した。また、図1に示したように、TEM画像から、その粒子の直径を求め、測定した粒子の直径に対して占める樹脂部の厚みの比率(%)を求めた。測定値と算出値を表5中に示した。
【0073】
[実施例2〜6:水性ゲル内包樹脂粒子エマルション(Em−2〜Em−6)の調製]
使用するシード粒子を、表5に記載したシード粒子−2〜シード粒子−6とした以外は、実施例1のEm−1の調製と同じ操作を行って、水性ゲル内包樹脂粒子エマルションであるEm−2〜Em−6を調製した。Em−5については、スチレン(ST)と架橋性単量体トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMP)を併用した。得られたEm−2〜Em−6の製造についても、それぞれEm−1と同様に、重合安定性と分離沈降安定性の評価を行い、樹脂部の厚さdの測定を行って、その結果を表5に示した。
【0074】
【0075】
[比較例1〜3:水性ゲル内包樹脂粒子エマルション(Em−7〜Em−9)の調製]
使用するシード粒子を、表4に記載したアルカリ膨潤率が200%に満たない、膨潤性に劣るシード粒子−7〜シード粒子−9とした以外は、実施例1のEm−1の調製と同じ操作を行って、比較例の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションであるEm−7〜Em−9を調製した。得られたEm−7〜Em−9の製造についても、それぞれEm−1と同様に、重合安定性と分離沈降安定性の評価を行い、樹脂部の厚みの測定を行って、その結果を表6に示した。その結果、表6に示されているように、エマルションを構成する粒子は、アルカリ膨潤性を有さない樹脂部で水性ゲルを内包するものではあるが、樹脂部の厚みが粒子の直径の10%を大きく超えるものであることを確認した。このため、比較例1〜3のエマルションは、分離沈降安定性に劣るものであった。図5は、比較例1の水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを構成する粒子の樹脂部の29000倍のTEM画像であるが、樹脂部の厚みが、本発明の実施例の粒子と比べて厚くなっていることがわかる。
【0076】
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によって提供されるエマルションの粒子は、内包された水性ゲルのアルカリ膨潤率が極めて大きく、しかも、コアとなる水性ゲルを内包する樹脂部の厚みが薄いため、分離沈降安定性に優れた500nm以上、5000nm以下である大粒子径のエマルションの提供が可能になる。このような分離沈降安定性に優れた大粒子径のエマルションは従来に得られておらず、様々な用途への利用が期待される。また、本発明によって提供される水性ゲル内包樹脂粒子エマルションは、コア部として内包された水性ゲルを乾燥することにより、粒子内部に大きな空部を有する強固な粒子となるので、この点を積極的に利用する用途への展開も考えられる。
【要約】
【課題】粒子径が500nm以上、更には1000nm以上であるにもかかわらず、分離沈降傾向が抑制された、貯蔵安定性に優れる、工業上、有効に利用できる水性ゲル内包樹脂粒子エマルションを提供すること。
【解決手段】溶媒を内包した水性ゲルからなるコア部を、樹脂部が内包してなる粒子を含む水性ゲル内包樹脂粒子エマルションであって、前記粒子の平均粒子径が、1250nm以上、5000nm以下で、前記樹脂部の厚みが前記粒子の直径の10%以下であり、更に、該粒子表面に1個以上の穴を有し、且つ、この粒子の直径に対して、粒子表面に存在している穴の最大開口径の比率が10%以下であることを特徴とする水性ゲル内包樹脂粒子エマルション。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5