特許第5939508号(P5939508)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5939508高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939508
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
   B23B27/14 A
【請求項の数】2
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-164443(P2012-164443)
(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公開番号】特開2014-24130(P2014-24130A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100119921
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 正之
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【弁理士】
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100076679
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和夫
(72)【発明者】
【氏名】龍岡 翔
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 誠
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 直之
(72)【発明者】
【氏名】山口 健志
(72)【発明者】
【氏名】長田 晃
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/058132(WO,A1)
【文献】 特表2011−513594(JP,A)
【文献】 特表2011−516722(JP,A)
【文献】 特開2008−264890(JP,A)
【文献】 特開2010−094763(JP,A)
【文献】 特開2010−094762(JP,A)
【文献】 特開2006−150583(JP,A)
【文献】 特開2003−117705(JP,A)
【文献】 特開2001−341008(JP,A)
【文献】 特開2007−203447(JP,A)
【文献】 特開昭59−229479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
51/00
B23C 5/16
B23P 15/28
C23C 15/36
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された基体の表面に、平均層厚1〜20μmの層厚で硬質被覆層が被覆された表面被覆切削工具であって、
(a)上記硬質被覆層は、立方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物層からなり、その平均組成を、
組成式:(Ti1−XAl)(C1−Y
で表した場合、Al含有割合XおよびC含有割合Y(但し、X、Yは何れも原子比)は、それぞれ、0.55≦X≦0.95、0.0005≦Y≦0.005を満足し、
(b)上記TiとAlの複合炭窒化物層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を、上記TiとAlの複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記2〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の45%以上の割合を示し、
(c)上記TiとAlの複合炭窒化物層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、縦断面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、Al、炭素および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係でNの上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、基体界面から被覆層内部に0.1〜0.5μmの範囲においてΣ3のΣN+1全体に占める分布割合が20%以下であり、また、被覆層表面から、被覆層の平均層厚の50%に相当する範囲において前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が50%以上であり、かつ、Σ3に最高ピークが存在する構成原子共有格子点分布グラフを示すことを特徴とする表面被覆切削工具。
【請求項2】
上記硬質被覆層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合金鋼等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する高速断続切削加工で、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットあるいは立方晶窒化ホウ素(以下、cBNで示す)基超高圧焼結体で構成された基体(以下、これらを総称して基体という)の表面に、硬質被覆層として、Ti−Al系の複合窒化物層を物理蒸着法により被覆形成した被覆工具が知られており、これらは、すぐれた耐摩耗性を発揮することが知られている。
ただ、上記従来のTi−Al系の複合窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、基体表面に、組成式(Ti1−XAl)N(ただし、原子比で、Xは0.40〜0.60)を満足する複合窒化物層であって、該層についてEBSDによる結晶方位解析を行った場合、表面研磨面の法線方向から0〜15度の範囲内に結晶方位<100>を有する結晶粒の面積割合が50%以上、また、表面研磨面の法線と直交する任意の方位に対して0〜45度の範囲内に存在する最高ピークを中心とした15度の範囲内に結晶方位<100>を有する結晶粒の面積割合が50%以上であるような、2軸結晶配向性を示すTiとAlの複合窒化物層からなる硬質被覆層を被覆した被覆工具が提案されており、この被覆工具は、重切削加工ですぐれた耐欠損性を発揮するとされている。
【0004】
また、特許文献2には、基体表面に、バイポーラパルスバイアスを印加し、750〜850℃の成膜温度で蒸着することにより、表面研磨面の法線に対して、{100}面の法線がなす傾斜角を測定して作成した傾斜角度数分布グラフにおいて、30〜40度の傾斜角区分に最高ピークが存在し、その度数合計が、全体の60%以上であり、また、表面研磨面の法線に対して、{112}面の法線がなす傾斜角を測定して作成した構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、その分布割合が全体の50%以上である(Ti1−XAl)N(X=0.4〜0.6)層からなる硬質被覆層を備えた被覆工具が提案されており、この被覆工具は、重切削加工ですぐれた耐欠損性を発揮するとされている。
ただ、上記特許文献1、2に示される被覆工具は、物理蒸着法により硬質被覆層を成膜するため、Alの含有割合Xを0.6以上にはできず、より一段と切削性能を向上させることが望まれている。
【0005】
このような観点から、化学蒸着法で硬質被覆層を形成することで、Alの含有割合Xを、0.9程度にまで高める技術も提案されている。
例えば、特許文献3には、TiCl、AlCl、NHの混合反応ガス中で、650〜900℃の温度範囲において化学蒸着を行うことにより、Alの含有割合Xの値が0.65〜0.95である(Ti1−XAl)N層を成膜できることが記載されているが、この文献では、この(Ti1−XAl)N層の上にさらにAl層を被覆し、これによって断熱効果を高めることを目的とするものであるから、Xの値を0.65〜0.95まで高めた(Ti1−XAl)N層の形成によって、切削性能へ如何なる影響があるかという点についてまでの開示はない。
【0006】
例えば、特許文献4には、TiCl、AlCl、NH、Nの混合反応ガス中、700〜900℃の温度でプラズマを用いない化学蒸着を行うことにより、Alの含有割合Xの値が0.75〜0.93である立方晶の(Ti1−XAl)N層からなる硬質被覆層を成膜できることが記載されているが、特許文献3と同様、被覆工具としての適用可能性については何らの開示もない。
【0007】
また、特許文献5には、膜の密着性、膜硬度の向上を目的として、被覆層の少なくとも一層を窒化チタンアルミニウム膜(例えば、膜中のアルミニウム含有量は0.3〜60.0質量%、膜中含有塩素量は0.01〜2質量%)で構成した窒化チタンアルミニウム膜被覆工具において、該窒化チタンアルミニウム膜を、チタンのハロゲン化ガス、アルミニウムのハロゲン化ガスおよびNHガスを少なくとも原料ガスとする熱CVD法で成膜し、該窒化チタンアルミニウム膜を立方晶構造とし、また、引張り残留応力を形成し、さらに、該窒化チタンアルミニウム膜のX線回折強度は(111)面または(311)面において最大となるようにした被覆工具が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−100320号公報
【特許文献2】特開2008−307615号公報
【特許文献3】特表2011−516722号公報
【特許文献4】米国特許第7767320号明細書
【特許文献5】特開2001−341008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年の切削加工における省力化および省エネ化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化、高効率化の傾向にあり、被覆工具には、より一層、耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性等の耐異常損傷性が求められるとともに、長期の使用に亘ってのすぐれた耐摩耗性が求められている。
しかし、上記特許文献1,2に記載される被覆工具は、(Ti1−XAl)N層からなる硬質被覆層が物理蒸着法で成膜され、膜中のAl含有量Xを高めることができないため、例えば、合金鋼の高速断続切削に供した場合には、耐チッピング性が十分であるとは言えない。
【0010】
一方、上記特許文献3,4に記載される化学蒸着法で被覆形成した(Ti1−XAl)N層については、Al含有量Xを高めることができ、また、立方晶構造を形成させることができることから、所定の硬さを有し耐摩耗性にはすぐれた硬質被覆層が得られるものの、基体との密着強度は十分でなく、また、靭性に劣ることから、合金鋼の高速断続切削に供する被覆工具として用いた場合には、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷が発生しやすく、満足できる切削性能を発揮するとは言えない。
【0011】
さらに、上記特許文献5に記載される被覆工具は、これを炭素鋼の連続切削加工に用いた場合には、ある程度の密着性、耐摩耗性を示すものの、例えば、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する合金鋼等の高速断続切削加工に用いた場合には、チッピング、欠損、剥離等の発生により、長期の使用に亘って満足できる切削性能を発揮することはできない。
【0012】
そこで、本発明は、合金鋼の高速断続切削等に供した場合であっても、すぐれた耐チッピング性を発揮するとともに、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆工具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上述の観点から、TiとAlの複合炭窒化物(以下、「(Ti1−XAl)(C1−Y)」で示すことがある)からなる硬質被覆層を化学蒸着で被覆形成した被覆工具の耐チッピング性、耐摩耗性の改善をはかるべく、鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。
【0014】
炭化タングステン基超硬合金(以下、「WC基超硬合金」で示す)、炭窒化チタン基サーメット(以下、「TiCN基サーメット」で示す)、または立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体(以下、「cBN基超高圧焼結体」で示す)のいずれかで構成された基体の表面に、例えば、トリメチルアルミニウム(Al(CH)を反応ガス成分として含有する熱CVD法等の化学蒸着法により、硬質被覆層として、立方晶構造の(Ti1−XAl)(C1−Y)層(但し、X、Yは原子比であって、0.55≦X≦0.95、0.0005≦Y≦0.005)を成膜するとともに、蒸着時の成膜条件を調整することにより、硬質被覆層について電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を解析した場合、基体表面の法線方向に対する結晶粒の{111}面の法線がなす傾斜角を測定して、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角の度数を集計したとき、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記2〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の45%以上の割合を示し、硬質被覆層の基体との密着性が向上し、すぐれた耐チッピング性を示すようになることを見出したのである。
【0015】
さらに、本発明者等は、熱CVD法等の化学蒸着法により成膜した上記(Ti1−XAl)(C1−Y)層からなる硬質被覆層について、結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、構成原子共有格子点分布グラフを求めた場合、基体界面側のΣN+1全体に占めるΣ3の分布割合を小さくし(20%以下とする)、一方、被覆層表面側のΣN+1全体に占めるΣ3の分布割合を大きくする(50%以上とする)ことにより、基体界面側においてΣ3の分布割合が少なく、見掛け上、結晶粒径が微細な結晶組織となるため被覆層の密着性にすぐれ、また、被覆層表面側においてはΣ3の分布割合が高くなるため高温強度にすぐれることから、硬質被覆層の密着性が向上し、また、高温強度向上が図られるために、一段と耐チッピング性が向上することを見出したのである。
【0016】
したがって、上記のような硬質被覆層を備えた被覆工具を、例えば、合金鋼の高速断続切削等に用いた場合には、チッピング、欠損、剥離等の発生が抑えられるとともに、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することができるのである。
【0017】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された基体の表面に、平均層厚1〜20μmの層厚で硬質被覆層が被覆された表面被覆切削工具であって、
(a)上記硬質被覆層は、立方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物層からなり、その平均組成を、
組成式:(Ti1−XAl)(C1−Y
で表した場合、Al含有割合XおよびC含有割合Y(但し、X、Yは何れも原子比)は、それぞれ、0.55≦X≦0.95、0.0005≦Y≦0.005を満足し、
(b)上記TiとAlの複合炭窒化物層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を、上記TiとAlの複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記2〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の45%以上の割合を示し、
(c)上記TiとAlの複合炭窒化物層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、縦断面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、Al、炭素および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係でNの上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、基体界面から被覆層内部に0.1〜0.5μmの範囲においてΣ3のΣN+1全体に占める分布割合が20%以下であり、また、被覆層表面から、被覆層の平均層厚の50%に相当する範囲において前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が50%以上であり、かつ、Σ3に最高ピークが存在する構成原子共有格子点分布グラフを示すことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)上記硬質被覆層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜することを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具の製造方法。」
に特徴を有するものである。
【0018】
つぎに、この発明の被覆工具の硬質被覆層について、より具体的に説明する。
【0019】
TiとAlの立方晶複合炭窒化物層((Ti1−XAl)(C1−Y)層)の平均組成:
上記(Ti1−XAl)(C1−Y)層において、Alの含有割合X(原子比)の値が0.55未満になると、高温硬さが不足し耐摩耗性が低下するようになり、一方、X(原子比)の値が0.95を超えると、相対的なTi含有割合の減少により、(Ti1−XAl)(C1−Y)層自体の高温強度が低下し、チッピング、欠損を発生しやすくなることから、X(原子比)の値は、0.55以上0.95以下とすることが必要である。
また、上記(Ti1−XAl)(C1−Y)層において、C成分には硬さを向上させ、一方、N成分には高温強度を向上させる作用があるが、C成分の含有割合Y(原子比)が0.0005未満となると高硬度が得られなくなり、一方、Y(原子比)が0.005を超えると、高温強度が低下してくることから、Y(原子比)の値は、0.0005以上0.005以下と定めた。
なお、PVD法によって上記組成の(Ti1−XAl)(C1−Y)層を成膜した場合には、結晶構造は六方晶であるが、本発明では、後記する化学蒸着法によって成膜していることから、立方晶構造を維持したままで上記組成の(Ti1−XAl)(C1−Y)層を得ることができるので、皮膜硬さの低下はない。
【0020】
TiとAlの立方晶複合炭窒化物層((Ti1−XAl)(C1−Y)層)の{111}面についての傾斜角度数分布:
この発明の上記(Ti1−XAl)(C1−Y)層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を、その縦断面方向から解析した場合、基体表面の法線(断面研磨面における基体表面と垂直な方向)に対する前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角(図1(a)、(b)参照)を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記2〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の45%以上の割合となる傾斜角度数分布形態を示す場合に、上記TiとAlの複合炭窒化物層からなる硬質被覆層は、立方晶構造を維持したままで高硬度を有し、しかも、上記傾斜角度数分布形態によって硬質被覆層の基体との密着性を向上させる。
したがって、このような被覆工具は、例えば、合金鋼の高速断続切削等に用いた場合であっても、チッピング、欠損、剥離等の発生が抑えられ、しかも、すぐれた耐摩耗性を発揮する。
【0021】
ただ、上記硬質被覆層は、その平均層厚が1μm未満では、長期の使用に亘っての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、その平均層厚が20μmを越えると、高熱発生を伴う高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚は1〜20μm、望ましくは1〜10μmと定めた。
【0022】
さらに、この発明では、上記(Ti1−XAl)(C1−Y)層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、硬質被覆層の縦断面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角(図2(a)、(b)参照)を測定し、この場合、前記結晶粒は、格子点にTi、Al、炭素、窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係でNの上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフを求めた場合、基体界面から被覆層内部に0.1〜0.5μmの範囲におけるΣ3のΣN+1全体に占める分布割合が20%以下であり、一方、被覆層表面から被覆層の平均層厚の50%に相当する範囲においては、Σ3に最高ピークが存在し、かつ、Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が50%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示す。
図4の(a)、(b)は、本発明被覆工具について作成した構成原子共有格子点分布グラフの一例を示し、(a)は、硬質被覆層の基体界面側について作成した構成原子共有格子点分布グラフ、また、(b)は、硬質被覆層の被覆層表面側について作成した構成原子共有格子点分布グラフを示す。
したがって、この発明の被覆工具は、基体界面側においてΣ3の分布割合が少なく、見掛け上、結晶粒径が微細な結晶組織となるため被覆層の密着性にすぐれ、また、被覆層表面側においてはΣ3の分布割合が高くなるため高温強度にすぐれることから、高熱発生を伴い、しかも、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する合金鋼等の高速断続切削加工において、一段とすぐれた耐チッピング性を発揮し、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷の発生もなく、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する。
【0023】
この発明の(Ti1−XAl)(C1−Y)層、即ち、基体表面の法線方向に対する結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定した際に、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記2〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、度数全体の45%以上の割合となる傾斜角度数分布を示す立方晶の(Ti1−XAl)(C1−Y)層であって、しかも、基体界面側においてはΣ3の分布割合が20%以下であり、一方、被覆層表面側においては、Σ3の分布割合が50%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示す立方晶の(Ti1−XAl)(C1−Y)層、の成膜は、例えば、以下の二段階の蒸着法によって行うことができる。
≪第1段階≫
即ち、通常の化学蒸着法によって
反応ガス組成(容量%):
TiCl 0.5〜1.5%、 Al(CH0〜2%、
AlCl 6〜10%、 NH 13〜15%、
6〜7%、 C 0〜1%、
Ar 0〜10% 残りH
反応雰囲気温度: 700〜900 ℃、
反応雰囲気圧力: 4〜5 kPa、
という条件下で蒸着した後、
≪第2段階≫
反応ガス組成(容量%):
TiCl 0.5〜1.5%、 Al(CH3〜5%、
AlCl 6〜10%、 NH 10〜12%、
6〜7%、 C 0〜1%、
Ar 0〜10% 残りH
反応雰囲気温度: 700〜900 ℃、
反応雰囲気圧力: 2〜3 kPa、
という条件下で蒸着することによって、0.55≦X≦0.95、0.0005≦Y≦0.005(但し、X、Yは何れも原子比)を満足し、また、基体表面の法線方向に対して{111}面の法線がなす傾斜角を測定した傾斜角度数分布において、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記2〜12度の範囲内に存在する傾斜角度数分布の割合が45%以上であり、さらに、基体界面側におけるΣ3の分布割合が20%以下、被覆層表面側におけるΣ3の分布割合が50%以上である本発明の立方晶構造の(Ti1−XAl)(C1−Y)層からなる硬質被覆層を形成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の被覆工具は、例えば、トリメチルアルミニウム(Al(CH)を反応ガス成分として含有する熱CVD法等の化学蒸着法により、立方晶構造の(Ti1−XAl)(C1−Y)層が硬質被覆層として成膜され、該硬質被覆層は、基体表面の法線方向に対する結晶粒の{111}面の法線がなす傾斜角を測定した傾斜角度数分布において、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記2〜12度の範囲内の度数割合の合計が度数全体の45%以上であり、さらに、硬質被覆層の基体界面側におけるΣ3の分布割合が20%以下、被覆層表面側におけるΣ3の分布割合が50%以上であることから、高熱発生を伴うとともに、切れ刃に断続的・衝撃的負荷が作用する合金鋼の高速断続切削に用いた場合でも、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷を発生することなく、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮するのである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(a)、(b)は、硬質被覆層を構成する(Ti1−XAl)(C1−Y)層における結晶粒の結晶面である{111}面の法線が、基体表面の法線に対してなす傾斜角の測定範囲を示す概略説明図である。
図2】(a)、(b)は、硬質被覆層を構成する(Ti,Al)(C1−Y)層が有するNaCl型面心立方晶の結晶構造、(001)面、(011)面を示す概略模式図である。
図3】本発明被覆工具のTiとAlの複合炭窒化物について作成した{111}面の傾斜角度数分布グラフの一例である。
図4】(a)、(b)は、本発明被覆工具のTiとAlの複合炭窒化物層について作成した構成原子共有格子点分布グラフの一例であり、(a)は、基体界面側における構成原子共有格子点分布グラフ、また、(b)は、被覆層表面側における構成原子共有格子点分布グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
【実施例1】
【0027】
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったWC基超硬合金製の基体A〜Dをそれぞれ製造した。
【0028】
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったTiCN基サーメット製の基体a〜dを作製した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
つぎに、これらの工具基体A〜Dおよび工具基体a〜dの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表3に示される条件で、本発明の(Ti1−XAl)(C1−Y)層を目標層厚で蒸着形成することにより、表5に示される本発明被覆工具1〜10を製造した。
【0032】
また、比較の目的で、同じく工具基体A〜Dおよび工具基体a〜dの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表4に示される条件で、比較例の(Ti1−XAl)(C1−Y)層を目標層厚で蒸着形成することにより、表6に示される比較例被覆工具1〜8を製造した。
【0033】
参考のため、工具基体Aおよび工具基体aの表面に、従来の物理蒸着装置を用いて、アークイオンプレーティングにより、参考例の(Ti1−XAl)(C1−Y)層を目標層厚で蒸着形成することにより、表6に示される参考例被覆工具9、10を製造した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、次のとおりである。
(a)上記工具基体Aおよびaを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、アークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、また、カソード電極(蒸発源)として、所定組成のAl−Ti合金を配置し、
(b)まず、装置内を排気して10−2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつAl−Ti合金からなるカソード電極とアノード電極との間に200Aの電流を流してアーク放電を発生させ、装置内にAlおよびTiイオンを発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して4Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、上記Al−Ti合金からなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表6に示される目標平均組成、目標平均層厚の(Ti1−XAl)(C1−Y)層を蒸着形成し、
参考例被覆工具9、10を製造した。
【0034】
また、本発明被覆工具1〜10、比較例被覆工具1〜8および参考例被覆工具9、10の各構成層の断面を、走査電子顕微鏡を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも表5および表6に示される目標平均層厚と実質的に同じ平均層厚を示した。
ついで、上記の本発明被覆工具1〜10の硬質被覆層について、硬質被覆層の平均Al含有割合X、平均C含有割合Y、基体表面の法線方向に対する{111}面の法線がなす傾斜角についての傾斜角度数分布における2〜12度の範囲内に存在する度数の割合(α)を測定した。
また、基体界面側(即ち、基体界面から被覆層内部に0.1〜0.5μmの範囲)におけるΣN+1全体に占めるΣ3の分布割合(β)、被覆層表面側(即ち、被覆層表面から被覆層の平均層厚の50%に相当する範囲)におけるΣN+1全体に占めるΣ3の分布割合(γ)を測定した。
なお、図3に本発明被覆工具について測定した{111}面の傾斜角度数分布グラフの一例を示す。
また、図4(a)、(b)に、本発明被覆工具について測定した構成原子共有格子点分布グラフの一例を示す。
【0035】
なお、上記それぞれの具体的な測定法は次のとおりである。
硬質被覆層の平均Al含有割合X、平均C含有割合Yについては、二次イオン質量分析(SIMS, Secondary‐Ion‐Mass‐Spectroscopy)により求めた。イオンビームを試料表面側から70μm×70μmの範囲に照射し、スパッタリング作用によって放出された成分について深さ方向の濃度測定を行った。平均Al含有割合X、平均C含有割合Yは深さ方向の平均値を示す。
【0036】
また、硬質被覆層の傾斜角度数分布については、立方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物層からなる硬質被覆層の断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、工具基体と水平方向に長さ100μmに亘り硬質被覆層について0.1μm/stepの間隔で、基体表面の法線(断面研磨面における基体表面と垂直な方向)に対して、前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより、2〜12度の範囲内に存在する度数の割合(α)を求めた。
【0037】
また、硬質被覆層の基体界面側、被覆層表面側における構成原子共有格子点分布については、それぞれ、次のように測定した。まず、基体界面側については、硬質被覆層の基体界面から被覆層内部に0.1〜0.5μmの範囲の基体表面の法線(断面研磨面における基体表面と垂直な方向)に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28 とする) に占める分布割合を求めることにより構成原子共有格子点分布グラフ作成し、ΣN+1全体に占めるΣ3の分布割合(β)を求めた。
被覆層表面側についても、同様に、被覆層表面から被覆層の平均層厚の50%に相当する範囲の断面研磨面におけるΣ3の分布割合(γ)を求めた。
【0038】
なお、硬質被覆層の結晶構造については、X線回折装置を用い、Cu−Kα線を線源としてX線回折を行った場合、JCPDS00−038−1420立方晶TiNとJCPDS00−046−1200立方晶AlN、各々に示される同一結晶面の回折角度の間(例えば、36.66〜38.53°、43.59〜44.77°、61.81〜65.18°)に回折ピークが現れることを確認することによって調査した。
表5に、その結果を示す。
【0039】
ついで、比較例被覆工具1〜8および参考例被覆工具9、10のそれぞれについても、本発明被覆工具1〜10と同様にして、硬質被覆層の平均Al含有割合X、平均C含有割合Y、基体表面の法線方向に対する{111}面の法線がなす傾斜角についての傾斜角度数分布における2〜12度の範囲内に存在する度数の割合(α)、基体界面側、被覆層表面側におけるΣN+1全体に占めるΣ3の分布割合(β)、(γ)を測定した。
また、硬質被覆層の結晶構造についても、本発明被覆工具1〜10と同様にして、調査した。
表6に、その結果を示す。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

【0044】
つぎに、上記の各種の被覆工具をいずれもカッタ径125mmの工具鋼製カッタ先端部に固定治具にてクランプした状態で、本発明被覆工具1〜10、比較例被覆工具1〜8および参考例被覆工具9,10について、以下に示す、合金鋼の高速断続切削の一種である乾式高速正面フライス、センターカット切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
被削材: JIS・SCM440幅100mm、長さ400mmのブロック材
回転速度: 930 min−1
切削速度: 365 m/min、
切り込み: 1.2 mm、
一刃送り量: 0.12 mm/刃、
切削時間: 8分、
表7に、上記切削試験の結果を示す。
【0045】
【表7】

【実施例2】
【0046】
原料粉末として、いずれも0.5〜4μmの範囲内の平均粒径を有するcBN粉末、TiN粉末、TiCN粉末、TiC粉末、Al粉末、Al粉末を用意し、これら原料粉末を表8に示される配合組成に配合し、ボールミルで80時間湿式混合し、乾燥した後、120MPaの圧力で直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法をもった圧粉体にプレス成形し、ついでこの圧粉体を、圧力:1Paの真空雰囲気中、900〜1300℃の範囲内の所定温度に60分間保持の条件で焼結して切刃片用予備焼結体とし、この予備焼結体を、別途用意した、Co:8質量%、WC:残りの組成、並びに直径:50mm×厚さ:2mmの寸法をもったWC基超硬合金製支持片と重ね合わせた状態で、通常の超高圧焼結装置に装入し、通常の条件である圧力:4GPa、温度:1200〜1400℃の範囲内の所定温度に保持時間:0.8時間の条件で超高圧焼結し、焼結後上下面をダイヤモンド砥石を用いて研磨し、ワイヤー放電加工装置にて所定の寸法に分割し、さらにCo:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびJIS規格CNGA120412の形状(厚さ:4.76mm×内接円直径:12.7mmの80°菱形)をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Zr:37.5%、Cu:25%、Ti:残りからなる組成を有するTi−Zr−Cu合金のろう材を用いてろう付けし、所定寸法に外周加工した後、切刃部に幅:0.13mm、角度:25°のホーニング加工を施し、さらに仕上げ研摩を施すことによりISO規格CNGA120412のインサート形状をもった工具基体イ〜ニをそれぞれ製造した。
【0047】
【表8】

【0048】
つぎに、これらの工具基体イ〜ニの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表3に示される条件で、本発明の(Ti1−XAl)(C1−Y)層を目標層厚で蒸着形成することにより、表9に示される本発明被覆工具11〜15を製造した。
【0049】
また、比較の目的で、同じく工具基体イ〜ニの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表4に示される条件で、比較例の(Ti1−XAl)(C1−Y)層を目標層厚で蒸着形成することにより、表10に示される比較例被覆工具11〜14を製造した。
【0050】
参考のため、工具基体イの表面に、従来の物理蒸着装置を用いて、アークイオンプレーティングにより、参考例の(Ti1−XAl)(C1−Y)層を目標層厚で蒸着形成することにより、表10に示される参考例被覆工具15を製造した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、実施例1に示される条件と同様の条件を用い、前記工具基体の表面に、表10に示される目標平均組成、目標平均層厚の(Ti1−XAl)(C1−Y)層を蒸着形成し、参考例被覆工具15を製造した。
【0051】
また、本発明被覆工具11〜15、比較例被覆工具11〜14および参考例被覆工具15の各構成層の断面を、走査電子顕微鏡を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも表9および表10に示される目標平均層厚と実質的に同じ平均層厚を示した。
ついで、上記の本発明被覆工具11〜15の硬質被覆層について、硬質被覆層の平均Al含有割合X、平均C含有割合Y、基体表面の法線方向に対する{111}面の法線がなす傾斜角2〜12度の範囲内に存在する度数の割合(α)、基体界面側および被覆層表面側の構成原子共有格子点分布グラフにおいて、ΣN+1全体に占めるΣ3の分布割合(β)、(γ)、結晶構造について、実施例1に示される方法と同様の方法を用い測定した。
表9に、その結果を示す。
【0052】
ついで、比較例被覆工具11〜14および参考例被覆工具15のそれぞれについても、本発明被覆工具11〜15と同様にして、硬質被覆層の平均Al含有割合X、平均C含有割合Y、基体表面の法線方向に対する{111}面の法線がなす傾斜角2〜12度の範囲内に存在する度数の割合(α)、基体界面側および被覆層表面側の構成原子共有格子点分布グラフにおいて、ΣN+1全体に占めるΣ3の分布割合(β)、(γ)、結晶構造について、実施例1に示される方法と同様の方法を用いて測定した。
表10に、その結果を示す。
【0053】
【表9】

【0054】
【表10】

【0055】
つぎに、上記の各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具11〜15、比較例被覆工具11〜14および参考例被覆工具15について、以下に示す、浸炭焼入れ合金鋼の乾式高速断続切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
被削材: JIS・SCM415(硬さ:HRC62)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 230 m/min、
切り込み: 0.15mm、
送り: 0.15mm/rev、
切削時間: 4分、
表11に、上記切削試験の結果を示す。
【0056】
【表11】

【0057】
表5〜7および表9〜11に示される結果から、本発明被覆工具1〜15は、立方晶構造の(Ti1−XAl)(C1−Y)層が成膜され、傾斜角度数分布全体に占めるαの値が45%以上、基体界面側におけるΣ3の分布割合βが20%以下、基体界面側におけるΣ3の分布割合γが50%以上であることから、合金鋼の高速断続切削加工ですぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する。
これに対して、比較例被覆工具1〜8,11〜14、参考例被覆工具9,10,15については、いずれも、硬質被覆層にチッピング、欠損、剥離等の異常損傷が発生するばかりか、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
上述のように、この発明の被覆工具は、合金鋼の高速断続切削加工ばかりでなく、各種の被削材の被覆工具として用いることができ、しかも、長期の使用に亘ってすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。










図1
図2
図3
図4