(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記固溶率推定工程は所定のBET値におけるXRDで得られる積分幅または半値幅により固溶率を推定することを特徴とする請求項1記載のセリウム系複合酸化物の製造方法。
【発明の概要】
【0004】
今回この件について鋭意研究した結果次のことが分かった。すなわち、反応防止層中の個々のセリア結晶粒子に対する金属元素の固溶率の違いにより、還元酸化時の膨張収縮に伴う体積変化の割合がばらつく。これにより、結晶粒子間にひずみを生じ、微細な亀裂が誘発される。その結果、セリウム系複合酸化物層の強度が低下し、複合的に発生する応力に耐えかねて、破壊につながり、最悪反応防止層の剥がれを生じることが初めて分かった。
【0005】
これまでのセリウム系複合酸化物の製造方法では、所定の組成を得るためにセリアに対して所定割合の金属元素(La、Pr、Nd)の化合物が混合されるようになっていただけであった。つまり、原料として投入する金属元素の投入量のみを考慮していたにすぎなかった。したがってセリウム系複合酸化物層の破壊や剥がれがなぜ生じているのか不明であった。今回研究の結果、金属元素の投入量が同一であっても、焼成物であるセリウム系複合酸化物を構成する個々のセリア結晶粒子に対する固溶率が異なっていることが明らかとなり、そのことが原因でセリウム系複合酸化物層の破壊につながっていることが明らかとなった。詳しくは、焼成物であるセリウム系複合酸化物層の個々のセリア結晶粒子に対する金属元素の固溶率の違いにより、還元酸化時の膨張収縮に伴う体積変化の割合がばらつく。これにより、結晶粒子間にひずみを生じ、微細な亀裂が誘発される。その結果、セリウム系複合酸化物層の強度が低下し、複合的に発生する応力に耐えかねて、破壊につながり、最悪反応防止層の剥がれを生じることが解明できた。併せて、今回、焼成物であるセリウム系複合酸化物層を構成する個々のセリア結晶粒子に対する金属元素の固溶率を間接的に測定することをなし得た。このことにより、今まで投入量が同一であってもばらついていた個々のセリア結晶粒子に対する金属元素の固溶率のばらつきを低減させることができた。よって、そのばらつきによって生じていたセリウム系複合酸化物層の破壊についても解決することができた。このように、本発明は上記問題を解決するためになされたもので、例えば運転停止時などに起こるであろう酸化時などの収縮割合のばらつきなどにより電解質の亀裂やセルの破損が生じる不具合を防止するために、焼成物であるセリウム系複合酸化物層を構成する個々のセリア結晶粒子に対する金属元素の固溶率を、焼成物全体で所定範囲に収めるセリウム系複合酸化物の製造方法を提供する。
【0006】
上記目的を達成するために本発明は、固体酸化物型燃料電池セルの反応防止層に用いられることにより、燃料極層と電解質層との間の反応を防止する、セリウム系複合酸化物の製造方法であって、La、Pr、Ndのいずれかより選択される少なくとも1種の金属元素の化合物と、セリウムの化合物とを混合し、混合物を得る工程と、前記混合物を焼成し、焼成物を得る工程と、を備え、さらに前記焼成物を構成する個々のセリア結晶粒子に対する前記金属元素の固溶率を、前記焼成物全体で所定範囲に収めるための、固溶率調整工程を有することを特徴とするセリウム系複合酸化物の製造方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、セリウムの化合物に対して混合される金属元素の固溶率の調整について工夫した。すなわち、焼成後の焼成物全体で、焼成物を構成する個々のセリア結晶粒子に固溶した金属元素(La、Pr、Nd)の固溶率を所定範囲に収める固溶率調整工程を含むとしたため、運転停止時の電解質の亀裂やセルの破損が生じる不具合を防止し、出力性能が低下することを抑制するセリウム系複合酸化物の製造方法を提供することができる。
【0008】
詳しく説明すると、これまでのセリウム系複合酸化物の製造方法では、所定の組成を得るためにセリアに対して所定割合の金属元素(La、Pr、Nd)の化合物が混合されるようになっていただけであった。つまり、個々のセリア結晶粒子に対する固溶率を所定範囲に収めようという考えはなく、原料として投入する金属元素の投入量のみを考慮していたにすぎなかった。今回金属元素の投入量が同一であっても個々のセリア結晶粒子に対する金属元素の固溶率のばらつきにより、還元酸化時の膨張収縮に伴う体積変化の割合がばらつく。これにより、セリウム系複合酸化物層の破壊につながり、最悪反応防止層の剥がれが生じることが初めて分かった。今回その対応として、焼成後の焼成物全体で、焼成物を構成する個々のセリア結晶粒子に対する金属元素の固溶率を所定範囲に収めることとしたので、これまでの原料投入量だけを考慮していた時に比べ、そのばらつきによる還元時の膨脹割合のばらつきが低減され、セリウム系複合酸化物層が壊れるような起点をなくすことができた。したがって、本発明は、燃料極層と電解質層との間の反応を防止するセリウム系複合酸化物が反応防止層として、燃料極と電解質の間に配置された固体酸化物型燃料電池セルであって、前記セリウム系複合酸化物は、La、Pr、Ndのいずれかより選択される少なくとも1種の金属元素のセリア結晶粒子に対する固溶率が前記セリア結晶粒子全体で所定範囲内にあることを特徴とする固体酸化物型燃料電池セルをも提供する。
【0009】
本発明の好ましい態様においては、前記セリウムの化合物に対して混合される前記金属元素の化合物の金属元素がLaであって、前記固溶率調整工程にて、前記所定範囲を0.35から0.45としたことを特徴とする。また、前記固体酸化物型燃料電池セルは、前記金属元素がLaであって、前記所定範囲を0.35から0.45としたことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、個々のセリア結晶粒子に固溶するLaの固溶率を0.35から0.45に収めるようにしたので、個々のセリア結晶粒子ごとに酸化還元時の膨張率のばらつきを抑えることができ、膨脹差に起因するセリウム系複合酸化物層内の破壊の起点をなくすことができる。
【0011】
本発明者は、セリウム系複合酸化物を構成する個々のセリア結晶粒子が一般式(CeO
2)
1-x(LnO
1.5)
x(但し、LnはLa)において、xの値が異なると還元膨張量、酸化収縮量が異なることを発見した。Xの値が0.1、0.2、0.3、0.4の還元膨張量を比較すると、0.4がもっとも小さく、0.1がもっともよく膨張した。酸化収縮量についても同様で、0.4がもっとも小さく、0.1がもっともよく収縮した。酸化還元で体積変化しないほど安定であるので、xは0.35〜0.45が望ましい。しかしこれまでのセリウム系複合酸化物の製造方法では、運転停止時に電解質の亀裂やセルの破損が生じることがあった。
【0012】
これまでのセリウム系複合酸化物の製造方法では、所定の組成を得るためにセリアに対して所定割合のLa量が混合されるようになっていただけであった。つまり、個々のセリア結晶粒子に対する固溶率がばらつくという問題点の認識も、それを所定範囲に収めようという考えもなく、原料として投入するLaの投入量のみを考慮していたにすぎなかった。Laのイオン半径はセリアのイオン半径と比較すると大きい。そのため、Ceに対してLaは固溶し難く、添加したLaの全てがCeに固溶していないと発明者は推測した。しかしこれまでセリアの結晶粒子に対するLaの固溶量は測定する手段が提案されておらず、知る術がなかった。今回、本発明者は、Ceに対するLaの固溶率のばらつきの測定を可能にした。
【0013】
その結果、個々のセリア結晶粒子毎の固溶率の値がばらつくと、運転停止時の電解質の亀裂やセルの破損の生じやすさに関係性があることを見出した。つまりこれまでのセリウム系複合酸化物の製造方法では、Laの投入量が同一であっても、個々のセリア結晶粒子に対するLaの固溶率がばらつくために、酸化還元時の個々の結晶粒子の膨脹割合がばらつき、結晶粒子間にひずみを生じ、微細な亀裂が誘発される。その結果、セリウム系複合酸化物層の強度が低下し、複合的に発生する応力に耐えかねて、破壊につながり、最悪反応防止層の剥がれを生じることが初めて分かった。
【0014】
今回その対応として、個々のセリア結晶粒子に対するLaの固溶率を所定範囲に収めることとしたので、これまでの原料投入量だけを考慮していた時に比べ、そのばらつきによる還元時の膨脹割合のばらつきが低減され、セリウム系複合酸化物層が壊れるような起点をなくすことができた。したがって、本発明の固体酸化物型燃料電池セルは、好ましい態様においては、前記金属元素がLaであって、前記所定範囲を0.35から0.45としたことを特徴とする。
【0015】
本発明の好ましい態様においては、前記固溶率調整工程は、固溶率を推定する固溶率推定工程を経ることにより固溶率が0.35から0.45であるセリウム系複合酸化物を推定し、その固溶率が0.35から0.45を外れたセリウム系複合酸化物を除外する工程を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、固溶率推定工程により固溶率が0.35から0.45を外れたセリウム系複合酸化物を除外するので、膨張率が大幅に異なった部分を除外することができる。これにより、個々のセリア結晶粒子ごとに還元時の膨張率のばらつきを抑えることができ、膨脹差に起因するセリウム系複合酸化物層内の破壊の起点をなくすことができる。
【0017】
本発明の好ましい態様においては、前記固溶率推定工程はラマンシフトのピークの分布によって固溶率を推定することを特徴とする。ラマンシフトは分子内の原子の振動に起因するものであるが、本発明者が検討した結果、ラマンシフトのピークの分布がセリウム原子/イオン、酸素原子/イオン、ランタン原子/イオンのそれぞれの存在関係を示し、セリアに対する複合酸化物の固溶状態を反映しているために、固溶率を推定できることがわかった。
【0018】
本発明によれば、ラマンシフトのピークの分布によって固溶率を推定するので、非常に簡便に個々のセリア結晶粒子ごとの固溶率を求めることができ、膨張率が異なった部分を除外することができる。これにより、個々のセリア結晶粒子ごとに還元時の膨張率のばらつきを抑えることができ、膨脹差に起因するセリウム系複合酸化物層の破壊の起点をなくすことができる。したがって、本発明の固体酸化物型燃料電池セルは、好ましい態様においては、前記固溶率がラマンシフトのピークの分布によって推定されることを特徴とする。
【0019】
本発明の好ましい態様においては、ラマンシフトの(610cm
-1の測定値)/(565 cm
-1の測定値)による算出値が、0.7を超えるセリウム系複合酸化物を除外することを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、ラマンシフトの(610cm
-1の測定値)/(565cm
-1の測定値)によって算出される値で固溶率を推定することができるので、非常に簡便に個々のセリア結晶粒子ごとの固溶率を求めることができる。求めた各固溶率により、固溶率0.35から0.45を外れたセリウム系複合酸化物を除外するので、膨張率が大幅に異なった部分を除外することができる。これにより、個々のセリア結晶粒子ごとに還元時の膨張率のばらつきを抑えることができ、膨脹差に起因するセリウム系複合酸化物層の破壊の起点をなくすことができる。したがって、本発明の固体酸化物型燃料電池セルは、好ましい態様においては、ラマンシフトの610cm
-1のピーク値の、565cm
-1のピーク値に対する比率が前記セリウム系複合酸化物全体で0.7以下であることを特徴とする。
【0021】
本発明の好ましい態様においては、前記固溶率推定工程は所定のBET値におけるXRDで得られる積分幅または半値幅により固溶率を推定することを特徴とする。積分幅または半値幅は通常、結晶子径や応力不均一性に起因するものであるが、本発明者が検討した結果、セリアよりイオン半径が大きい元素を複合する場合で、所定のBET値に限定すれば、積分幅または半値幅がセリアに対する複合酸化物の固溶状態を反映し、固溶率を推定できることがわかった。
【0022】
本発明によれば、所定のBET値におけるXRDの積分幅または半値幅により固溶率を推定するので、非常に簡便に個々のセリア結晶粒子ごとの固溶率を求めることができ、膨張率が異なった部分を除外することができる。これにより、個々のセリア結晶粒子ごとに還元時の膨張率のばらつきを抑えることができ、膨脹差に起因するセリウム系複合酸化物層の破壊の起点をなくすことができる。したがって、本発明の固体酸化物型燃料電池セルは、好ましい態様においては、前記固溶率は所定のBET値におけるXRDで得られる積分幅または半値幅により推定することを特徴とする。
【0023】
本発明の好ましい態様においては、前記所定のBET値が5〜10m
2/gであり、XRDで得られる2Θが27.6°付近に現れる(111)面から算出される前記積分幅が0.3を超えるセリウム系複合酸化物を除外することを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、所定のBET値におけるXRDで得られる積分幅により固溶率を推定するので、非常に簡便に個々のセリア結晶粒子ごとの固溶率を求めることができる。また求めた各固溶率により、固溶率0.35から0.45を外れたセリウム系複合酸化物を除外するので、膨張率が大幅に異なった部分を除外することができる。これにより、個々のセリア結晶粒子ごとに還元時の膨張率のばらつきを抑えることができ、膨脹差に起因するセリウム系複合酸化物層の破壊の起点をなくすことができる。したがって、本発明の固体酸化物型燃料電池セルは、好ましい態様においては、前記所定のBET値が5〜10m
2/gであり、XRDで得られる2Θが27.6°付近に現れる(111)面から算出される前記積分幅が前記セリウム系複合酸化物全体で0.3以下であることを特徴とする。
【0025】
本発明の好ましい態様においては、前記所定のBET値が5〜10m
2/gであり、XRDで得られる2Θが27.6°付近に現れる(111)面から算出される前記半値幅が0.3を超えるセリウム系複合酸化物を除外することを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、所定のBET値におけるXRDの半値幅により固溶率を推定するので、非常に簡便に個々のセリア結晶粒子ごとの固溶率を求めることができる。また求めた各固溶率により、固溶率0.35から0.45を外れたセリウム系複合酸化物を除外するので、膨張率が大幅に異なった部分を除外することができる。これにより、個々のセリア結晶粒子ごとに還元時の膨張率のばらつきを抑えることができ、膨脹差に起因するセリウム系複合酸化物層の破壊の起点をなくすことができる。したがって、本発明の固体酸化物型燃料電池セルは、好ましい態様においては、前記所定のBET値が5〜10m
2/gであり、XRDで得られる2Θが27.6°付近に現れる(111)面から算出される前記半値幅が前記セリウム系複合酸化物全体で0.3以下であることを特徴とする。
【0027】
本発明の別の態様においては、前記製造方法によるセリウム系複合酸化物が反応防止層として、燃料極と電解質の間に配置される固体酸化物型燃料電池セルであることを特徴とする。
【0028】
本発明によれば、個々のセリア結晶粒子に対するLaの固溶率を所定範囲に収めたセリウム系複合酸化物層を反応防止層として備えているので、これまでの原料投入量だけを考慮していた時に比べ、酸化還元時の個々のセリア結晶粒子の膨脹収縮割合のばらつきが低減される。これにより、セリウム系複合酸化物層が壊れるような起点をなくした固体酸化物型燃料電池セルを提供することができる。
【0029】
本発明の別の態様においては、前記固体酸化物型燃料電池セルを備える燃料電池システムであることを特徴とする。
【0030】
本発明によれば、個々のセリア結晶粒子に対するLaの固溶率を所定範囲に収めたセリウム系複合酸化物層を反応防止層として備えているセルを持っているため、これまでの原料投入量だけを考慮していた時に比べ、酸化還元時の個々のセリア結晶粒子の膨脹収縮割合のばらつきが低減される。これにより、セリウム系複合酸化物層が壊れるような起点をなくした燃料電池システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の固体酸化物型燃料電池用セリウム系複合酸化物の製造方法は、焼成後の焼成物全体で、個々のセリア結晶粒子に固溶した金属元素の固溶率を所定範囲に収める工程を含む。なお、結晶粒界に存在する金属元素はセリア結晶粒子に固溶した金属元素ではない。
【0033】
本発明でセリアに対して投入される金属元素は、La、Pr、Ndがある。特に反応防止層と酸素イオン導電性の観点からLaが好ましい。
【0034】
本発明の固体酸化物型燃料電池用セリウム系複合酸化物の製造方法は、個々のセリア結晶粒子に固溶したLaの固溶率を所定範囲に収める前記工程にて、前記所定範囲を0.35〜0.45とすることが好ましい。
【0035】
本発明の固体酸化物型燃料電池用セリウム系複合酸化物の製造方法は、個々のセリア結晶粒子に固溶したLaの固溶率を所定範囲に収める前記工程が、固溶率推定工程を経ることにより固溶率が0.35から0.45を外れた粒子を除外する工程を含むことが望ましい。
【0036】
本発明の固体酸化物型燃料電池用セリウム系複合酸化物の製造方法は、前記固溶率推定工程がラマンシフトのピークの分布によって固溶率を推定することが望ましい。
【0037】
本発明においてラマンシフトとは、レーザラマン分光分析装置を用いるラマン分光分析法で得られるラマン・スペクトルを意味する。また本発明のラマンシフトにおいてピークの分布とは、レーザラマン分光分析装置として標準的なグリーン(532nm)のレーザー種による565cm
-1、610cm
-1の強度から推定することを意味する。
【0038】
本発明の固体酸化物型燃料電池用セリウム系複合酸化物の製造方法は、ラマンシフトの610cm
-1のピーク値の、565cm
-1のピーク値に対する比率を0.7を超えるセリウム系複合酸化物を除外することが望ましい。本発明のラマンシフトの610cm
-1のピーク値の、565cm
-1のピーク値に対する比率は、650cm
-1の測定値と495cm
-1の測定値を通る直線を引いてバックグラウンドとし、610cm
-1のバックグラウンド補正ピーク高さ、565cm
-1のバックグラウンド補正ピーク高さを読み取り、(610cm
-1の測定値)/(565cm
-1の測定値)を算出して得られる値を意味する。
【0039】
本発明の固体酸化物型燃料電池用セリウム系複合酸化物の製造方法は、前記固溶率推定工程が所定のBET値におけるXRDの積分幅または半値幅により固溶率を推定することが望ましい。本発明においてBET値とは、粉体の比表面積測定法として最も標準的な窒素ガス吸着によるBET法に基づいて測定された値を意味する。本発明においてXRDで得られる積分幅は、X線回折装置で観測されるX線回折ピークの積分面積の1/2における幅として一般的に得られるピーク幅を意味する。本発明においてXRDで得られる半値幅は、X線回折装置で観測されるX線回折ピークの高さの1/2における幅を意味する。
【0040】
本発明の固体酸化物型燃料電池用セリウム系複合酸化物の製造方法は、前記所定のBET値が5〜10m
2/gであり、XRDの2Θが27.6°付近に現れる(111)面から算出される前記積分幅が0.3を超えるセリウム系複合酸化物を除外することが望ましい。なお、前記積分幅は、2Θが67°付近に現れる(400)面と、32°付近に現れる(200)面の算出される値の平均値としてもよい。
【0041】
本発明の固体酸化物型燃料電池用セリウム系複合酸化物の製造方法は、前記所定のBET値が5〜10m
2/gであり、XRDの2Θが27.6°付近に現れる(111)面から算出される前記半値幅が0.3を超えるセリウム系複合酸化物を除外することが望ましい。なお、前記半値幅は、2Θが67°付近に現れる(400)面と、32°付近に現れる(200)面の算出される値の平均値としてもよい。
【0042】
本発明の製造方法によって製造される固体酸化物型燃料電池用セリウム系複合酸化物は、例えば共沈法、酸化物混合法、クエン酸塩法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法で製造することができる。
【0043】
本発明における固体酸化物形燃料電池セルは、本発明の製造方法によるセリウム系複合酸化物を備えたものであれば特に限定されず、その製造や他の材料等は、例えば、公知のものが使用できる。
【0044】
図5は本発明の固体酸化物形燃料電池セルの断面の一態様であり、燃料極を支持体としたタイプについて示した。本発明における固体酸化物形燃料電池セルは、例えば燃料極支持体201と、該燃料極支持体表面に形成された本発明の製造方法によるセリウム系複合酸化物からなる固体電解質層2における第一の層202aと、固体電解質層202における第二の層202bと、該固体電解質の表面に形成された空気極203とから構成される。
【0045】
例えば、燃料極支持体201はNi、NiO/ジルコニウム含有酸化物、NiO/セリウム含有酸化物、NiO/ランタンガレート酸化物等が挙げられる。
【0046】
例えば、固体電解質層の第二の層202bは、酸素イオン伝導率が高い組成のランタンガレート酸化物、例えば、一般式La
1-aSr
aGa
1-b-cMg
bCo
cO
3(但し、0.05≦a≦0.3、0≦b≦0.3、0≦c≦0.15)(以下LSGMCと略称する)、一般式La
1-aSr
aGa
1-bMg
bO
3(但し、0.05≦a≦0.3、0≦b≦0.3)(以下LSGMと略称する)、ならびにLSGMからなる層とLSGMCからなる層の両方を含む構成とすることができる。
【0047】
例えば、空気極203はランタンコバルト系酸化物、サマリウムコバルト系酸化物、ランタンマンガン系酸化物、ランタンフェライト系酸化物、ランタンニッケル系酸化物などを用いることが出来る。
【0048】
発電性能を向上させるという観点から、燃料極と固体電解質層との間に、燃料極反応触媒層を設けることができる。燃料極反応触媒層としては、電子伝導性と酸素イオン伝導性に優れるという観点から、NiO/セリウム含有酸化物、NiO/ランタンガレート酸化物等が挙げられる。
【0049】
燃料極および燃料極反応触媒層は、Niの他にFe、Co、Cu、Ru、Rh、Pd、Pt等を含むものであっても良い。
【0050】
本発明における固体電解質形燃料電池セルを焼結法で作製する場合の焼成方法については、高い出力が得られれば良く、特に限定はない。すなわち逐次焼成法でも良いし、少なくとも2種以上、望ましくはすべての部材を一度に焼結させる共焼成法でもよい。ただし、量産性を考慮すると、共焼成法の方が、工数が減るため好ましい。
【0051】
本発明における固体電解質形燃料電池セルの各層の作製方法については、特に制限はなく、スラリーコート法、テープキャスティング法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、EVD法、CVD法、RFスパッタリング法などを用いて作製することができる。
【0052】
本発明における固体電解質形燃料電池の形状については特に限定はなく、平板型、円筒型いずれであっても良く、例えばマイクロチューブのタイプ(外径10mm以下、より好ましくは5mm以下)にも適用可能である。
【0053】
本明細書中におけるセリウム含有酸化物、およびランタンガレート酸化物は、添加原子の量や種類に関係して酸素欠損を生じているため、正確には、一般式Ce
1-xLn
xO
2-δ、およびLa
1-aAaGa
1-bX
bO
3-δのように記載される。ここでδは酸素欠損量である。しかしδを正確に測定するのは困難であるため、本明細書のセリウム含有酸化物、およびランタンガレート酸化物は便宜上、一般式(CeO
2)
1-x(LnO
1.5)
x、およびLa
1-aA
aGa
1-bX
bO
3の様に記載した。
【0054】
本発明における固体電解質形燃料電池システムは、本発明の固体酸化物形燃料電池セルを備えたものであれば特に限定されず、その製造や他の材料等は、例えば、公知のものが使用できる。
【0055】
図1は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池システムを示す全体構成図である。この
図1に示すように、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池システム1は、燃料電池モジュール2と、補機ユニット4を備えている。
【0056】
燃料電池モジュール2は、ハウジング6を備え、このハウジング6内部には、断熱を介して密封空間8が形成されている。なお、断熱材は設けないようにしても良い。この密閉空間8の下方部分である発電室10には、燃料ガスと酸化剤(空気)とにより発電反応を行う燃料電池セル集合体12が配置されている。この燃料電池セル集合体12は、10個の燃料電池セルスタック14(
図5参照)を備え、この燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16(
図4参照)から構成されている。このように、燃料電池セル集合体12は、160本の燃料電池セルユニット16を有し、これらの燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されている。
【0057】
燃料電池モジュール2の密封空間8の上述した発電室10の上方には、燃焼室18が形成され、この燃焼室18で、発電反応に使用されなかった残余の燃料ガスと残余の酸化剤(空気)とが燃焼し、排気ガスを生成するようになっている。また、この燃焼室18の上方には、燃料ガスを改質する改質器20が配置され、前記残余ガスの燃焼熱によって改質器20を改質反応が可能な温度となるように加熱している。さらに、この改質器20の上方には、改質器20の熱を受けて空気を加熱し、改質器20の温度低下を抑制するための空気用熱交換器22が配置されている。
【0058】
次に、補機ユニット4は、水道等の水供給源24からの水を貯水してフィルターにより純水とする純水タンク26と、この貯水タンクから供給される水の流量を調整する水流量調整ユニット28を備えている。また、補機ユニット4は、都市ガス等の燃料供給源30から供給された燃料ガスを遮断するガス遮断弁32と、燃料ガスから硫黄を除去するための脱硫器36と、燃料ガスの流量を調整する燃料流量調整ユニット38を備えている。さらに、補機ユニット4は、空気供給源40から供給される酸化剤である空気を遮断する電磁弁42と、空気の流量を調整する改質用空気流量調整ユニット44及び発電用空気流量調整ユニット45と、改質器20に供給される改質用空気を加熱する第1ヒータ46と、発電室に供給される発電用空気を加熱する第2ヒータ48とを備えている。これらの第1ヒータ46と第2ヒータ48は、起動時の昇温を効率よく行うために設けられているが、省略しても良い。
【0059】
次に、燃料電池モジュール2には、排気ガスが供給される温水製造装置50が接続されている。この温水製造装置50には、水供給源24から水道水が供給され、この水道水が排気ガスの熱により温水となり、図示しない外部の給湯器の貯湯タンクへ供給されるようになっている。また、燃料電池モジュール2には、燃料ガスの供給量等を制御するための制御ボックス52が取り付けられている。さらに、燃料電池モジュール2には、燃料電池モジュールにより発電された電力を外部に供給するための電力取出部(電力変換部)であるインバータ54が接続されている。
【0060】
次に、
図2及び
図3により、本発明の実施形態による固体電解質型燃料電池システムの燃料電池モジュールの内部構造を説明する。
図2は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池システムの燃料電池モジュールを示す側面断面図であり、
図3は、
図2のIII−III線に沿って断面図である。
図2及び
図3に示すように、燃料電池モジュール2のハウジング6内の密閉空間8には、上述したように、下方から順に、燃料電池セル集合体12、改質器20、空気用熱交換器22が配置されている。
【0061】
改質器20は、その上流端側に純水を導入するための純水導入管60と改質される燃料ガスと改質用空気を導入するための被改質ガス導入管62が取り付けられ、また、改質器20の内部には、上流側から順に、蒸発部20aと改質部20bを形成され、改質部20bには改質触媒が充填されている。この改質器20に導入された水蒸気が混合された燃料ガス及び空気は、改質器20内に充填された改質触媒により改質される。
【0062】
この改質器20の下流端側には、燃料ガス供給管64が接続され、この燃料ガス供給管64は、下方に延び、さらに、燃料電池セル集合体12の下方に形成されたマニホールド66内で水平に延びている。燃料ガス供給管64の水平部64aの下方面には、複数の燃料供給孔64bが形成されており、この燃料供給孔64bから、改質された燃料ガスがマニホールド66内に供給される。
【0063】
このマニホールド66の上方には、上述した燃料電池セルスタック14を支持するための貫通孔を備えた下支持板68が取り付けられており、マニホールド66内の燃料ガスが、燃料電池セルユニット16内に供給される。
【0064】
次に、改質器20の上方には、空気用熱交換器22が設けられている。この空気用熱交換器22は、上流側に空気集約室70、下流側に2つの空気分配室72を備え、これらの空気集約室70と空気分配室72は、6個の空気流路管74により接続されている。ここで、
図3に示すように、3個の空気流路管74が一組(74a,74b,74c,74d,74e,74f)となっており、空気集約室70内の空気が各組の空気流路管74からそれぞれの空気分配室72へ流入する。
【0065】
空気用熱交換器22の6個の空気流路管74内を流れる空気は、燃焼室18で燃焼して上昇する排気ガスにより予熱される。空気分配室72のそれぞれには、空気導入管76が接続され、この空気導入管76は、下方に延び、その下端側が、発電室10の下方空間に連通し、発電室10に余熱された空気を導入する。
【0066】
次に、マニホールド66の下方には、排気ガス室78が形成されている。また、
図3に示すように、ハウジング6の長手方向に沿った面である前面6aと後面6bの内側には、上下方向に延びる排気ガス通路80が形成され、この排気ガス室通路80の上端側は、空気用熱交換器22が配置された空間と連通し、下端側は、排気ガス室78と連通している。また、排気ガス室78の下面のほぼ中央には、排気ガス排出管82が接続され、この排気ガス排出管82の下流端は、
図1に示す上述した温水製造装置50に接続されている。
図2に示すように、燃料ガスと空気との燃焼を開始するための点火装置83が、燃焼室18に設けられている。
【0067】
次に
図4により燃料電池セルユニット16について説明する。
図4は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池システムの燃料電池セルユニットを示す部分断面図である。
図4に示すように、燃料電池セルユニット16は、燃料電池セル84と、この燃料電池セル84の上下方向端部にそれぞれ接続された内側電極端子86とを備えている。燃料電池セル84は、上下方向に延びる管状構造体であり、内部に燃料ガス流路88を形成する円筒形の内側電極層90と、円筒形の外側電極層92と、内側電極層90と外側電極層92との間にある電解質層94とを備えている。
【0068】
燃料電池セル16の上端側と下端側に取り付けられた内側電極端子86は、同一構造であるため、ここでは、上端側に取り付けられた内側電極端子86について具体的に説明する。内側電極層90の上部90aは、電解質層94と外側電極層92に対して露出された外周面90bと上端面90cとを備えている。内側電極端子86は、導電性のシール材96を介して内側電極層90の外周面90bと接続され、さらに、内側電極層90の上端面90cとは直接接触することにより、内側電極層90と電気的に接続されている。内側電極端子86の中心部には、内側電極層90の燃料ガス流路88と連通する燃料ガス流路98が形成されている。
【0069】
燃料電池セル16は本発明の燃料電池セルを用いる。
【0070】
次に、本実施形態による固体電解質型燃料電池システムの運転停止時の動作を説明する。燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、先ず、燃料流量調整ユニット38及び水流量調整ユニット28を操作して、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させる。
【0071】
また、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させると同時に、改質用空気流量調整ユニット44による発電用空気の燃料電池モジュール2内への供給量を増大させて、燃料電池セル集合体12及び改質器20を空気により冷却し、これらの温度を低下させる。その後、発電室温度が所定温度、例えば、500℃まで低下したとき、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給を停止し、改質器20の水蒸気改質反応SRを終了する。この発電用空気の供給は、改質器20の温度が所定温度、例えば、200℃まで低下するまで、継続し、この所定温度となったとき、発電用空気流量調整ユニット45からの発電用空気の供給を停止する。
【0072】
このように、本実施形態においては、燃料電池モジュール2の運転停止を行うとき、改質器20による水蒸気改質反応SRと発電用空気による冷却とを併用しているので、比較的短時間に、燃料電池モジュールの運転を停止させることができる。
【実施例】
【0073】
〔セリウム系複合酸化物の作製〕
硝酸セリウム水溶液と、硝酸ランタン水溶液とを、Ce:La=60:40(mol比)となるように混合させて原料溶液を調製した。さらに、(CeO
2)
1-x(LaO
1.5)
xに換算して100gに相当する原料溶液を純水で希釈して固形分重量換算で10%濃度にした。
【0074】
次に、原料溶液に、100g/Lの炭酸水素アンモニウム水溶液を攪拌しながら25℃で混合させ、Ce−La系金属塩を得た。そして、このCe−La系金属塩に100g/Lの炭酸水素アンモニウム水溶液を攪拌しながら加えて、大気圧下、80℃の熱処理を行い、(CeO
2)
1-x(LaO
1.5)
xに換算して100gに相当するCe−La系金属塩が分散されたスラリーを得た。なお熱処理時間は、表1に示す原料毎に適宜時間を変えて行った。
【0075】
続いて、ブフナーロートを用いて、100gのCe−La系金属塩につき純水1Lを用いて洗浄した。そして室温にて放置後、焼成炉を用いてCe−La系金属塩を20時間かけて300℃にまで昇温させて、300℃で10時間保ち、その後、15時間かけて700℃にまで昇温させ、700℃で10時間保った。このようにして、Ce−La系酸化物を得た。なお室温での放置時間は、表1に示す原料毎に適宜時間を変えて行った。
【0076】
得られた原料毎にラマン分光法による測定と、XRD(X線回折法)で得られる積分幅、半値幅を測定した。
〔ラマン分光法の測定方法〕
ラマン・スペクトルによる分光分析は、日本分光株式会社製レーザラマン分光分析装置「型番:NRS−2100」で、レーザー種はグリーン(532 nm)、分析法は顕微(後方散乱:対物×100)により測定した。ピーク比I/I0は、650cm
-1の測定値と495cm
-1の測定値を通る直線を引いてバックグラウンドとし、610cm
-1のバックグラウンド補正ピーク高さ、565cm
-1のバックグラウンド補正ピーク高さを読み取り、(610cm
-1の測定値)/(565cm
-1の測定値)を算出してピーク比I/I0(ラマン比率)とした。表1に原料1から原料6までそれぞれのラマン比率を示した。
【0077】
[積分幅、半値幅の測定条件]
積分幅および半値幅の測定は、原料粉末をプレス成形し、パナリティカル社製「機種名:X”Pert PRO」X線回折装置でCuKα線、管電圧40kV、管電流40mAにより測定した。2Θが27.6°付近に現れる(111)面から算出される値とした。表1に原料1から原料6までそれぞれの積分幅、半値幅を示した。
【0078】
これら表1の結果より、個々のセリア結晶粒子に対するLaの固溶率を0.35から0.45に収めるため(0.35から0.45の固溶率に相当するラマン比率は0.10〜0.70である)、6番の原料を除外し、1番から5番の原料により第1実施例のセリウム系複合酸化物を得た。
【0079】
なお6番の原料を用い、別途説明する発電試験をしたところ、結果は不良であった。また第1実施例のセリウム系複合酸化物は良好であり、個別の1番から5番の原料によるセリウム系複合酸化物も良好であった。
【0080】
なお
図6に本発明の1例(表1の原料3)としてラマンシフトの(610cm
-1の測定値)/(565cm
-1の測定値)による算出される値(ラマン比率)が0.48の場合を、
図7に比較例(表1の原料6)としてラマン比率が0.73の場合を示した。
図8に本発明の1例(表1の原料4)として積分幅が0.27、半値幅0.30の場合を示した。
【0081】
[燃料電池セルの作製]
本実施例においては、燃料極を支持体としたタイプの両端が開放された円筒型固体酸化物形燃料電池セルを作製した。その際には表1に示す番号1から5の原料を用いた。また各番号ごとにも発電試験を行った。以下に円筒型固体酸化物形燃料電池セルの作製方法について詳細を示す。
【0082】
1.燃料極を支持体としたセルの作製
図5に作製した燃料極を支持体とした固体酸化物形燃料電池の構成を示した。すなわち燃料極支持体201の外側に形成された固体電解質層202と、該固体電解質層202の外側に形成された空気極203とから構成されたもので、燃料極支持体201と固体電解質層202との間には燃料極反応触媒層204が設けられている。また該固体電解質層202と燃料極反応触媒層204との間には、反応防止層205が設けられている。以下に作製手順について示した。
【0083】
NiO粉末と、(ZrO
2)
0.90(Y
2O
3)
0.10(以下YSZと略称する)粉末の混合物を湿式混合法で作製後、熱処理、粉砕を行い燃料極支持体原料粉末を得た。NiO粉末とYSZ粉末の混合比は重量比で65/35とした。該粉末を押出し成形法によって円筒状成形体を作製した。成形体を900℃で熱処理して仮焼体とした。仮焼体の表面に、スラリーコート法により燃料極反応触媒層、反応防止層、固体電解質層の順番で成形した。これら積層成形体を支持体と1300℃で共焼成した。なお、このとき反応防止層の厚さは2から10μmの間になるように調整した。また固体電解質層の厚さは30〜60μmの間になるように調整した。次に、空気極の面積が17.3cm
2になるようにセルへマスキングをし、固体電解質層の表面に成形し、1100℃で焼成した。なお、燃料極支持体は、共焼成後の寸法で、外径10mm、肉厚1mm、有効セル長110mmとした。以下にスラリーコート法に用いた各層のスラリー作製方法について(1−a)から(1−d)に詳しく示した。
【0084】
(1−a)燃料極反応触媒層スラリーの作製
NiO粉末とGDC10粉末の混合物を共沈法で作製後、熱処理を行い燃料極反応触媒層粉末を得た。NiO粉末とGDC10粉末の混合比は重量比で50/50とした。平均粒子径は0.5μmとなるよう調節した。該粉末40重量部を溶媒(エタノール)100重量部、バインダー(エチルセルロース)2重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)1重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部とを混合した後、十分攪拌してスラリーを調整した。
【0085】
(1−b)反応防止層のスラリー作製
反応防止層の材料は、前記したセリウム系複合酸化物の粉末を用いた。焼結助剤としてGa
2O
3粉末を0.2重量部混合し、溶媒(エタノール)100重量部、バインダー(エチルセルロース)2重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)1重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部と混合した後、十分攪拌してスラリーを調整した。
【0086】
(1−c)固体電解質層のスラリー作製
第2の層の材料は、La
0.8Sr
0.2Ga
0.8Mg
0.2O
3の組成のLSGM粉末を用いた。LSGM粉末40 重量部を溶媒(エタノール)100重量部、バインダー(エチルセルロース)2重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)1重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部とを混合した後、十分攪拌してスラリーを調整した。
【0087】
(1−d)空気極スラリーの作製
空気極の材料は、La
0.6Sr
0.4Co
0.8Fe
0.2O
3の組成の粉末を用いた。該粉末40重量部を溶媒(エタノール)100重量部、バインダー(エチルセルロース)2重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル)1重量部、消泡剤(ソルビタンセスキオレート)1重量部とを混合した後、十分攪拌してスラリーを調整した。
【0088】
〔発電停止試験〕
得られた燃料極支持体セル(電極有効面積:17.3cm
2)を燃料電池セル集合体12、燃料電池モジュール2として固体電解質型燃料電池システム1に組み込み、発電試験を行った。発電条件としては、燃料は(H
2+3%H
2O)とN
2の混合ガスとした。燃料利用率は10%とした。酸化剤は空気とした。発電定常温度は700℃とし、電流密度0.125A/cm
2で運転した後、燃料電池モジュール2の運転停止を行った。燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させると同時に、改質用空気流量調整ユニット44による発電用空気の燃料電池モジュール2内への供給量を増大させて、燃料電池セル集合体12及び改質器20を空気により冷却し、これらの温度を低下させる。その後、発電室温度が500℃まで低下したとき、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給を停止し、発電用空気の供給は発電室温度が150℃に達したとき発電用空気の供給を停止した。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に各原料番号ごとの各値と発電停止試験の結果を示した。なお表1中の「◎」印は100回以上の起動停止において発電に支障なく反応防止層に剥離ない場合、「○」印は5回以上の起動停止において発電に支障なく反応防止層に剥離を生じない場合、「×」印は5回未満の起動停止で反応防止層が剥離し性能が低下した場合を示す。ここで番号6の原料を除外し、固溶率推定工程を経た番号1から5の原料により本発明で提案する製造方法によって得られた実施例を得ることができた。表1には記載していないが、優れた発電性能が得られることが確認できた。また固溶率推定工程を経た番号1から5の原料それぞれ単独で用い作製したセルも表1に示す優れた発電性能を示した。積分幅の単位は「°」である。
【0091】
図9は、従来から使用されていた一般式(CeO
2)
1-x(LaO
1.5)
xで表されるセリウム系複合酸化物において、xを0.1、0.2、0.3、0.4とした場合のラマンシフトの(610cm
-1の測定値)/(565cm
-1の測定値)のピーク比I/I0(ラマン比率)を示した。横軸はxの値、縦軸は算出結果のピーク比I/I0である。ラマン・スペクトルによる分光分析は、日本分光株式会社製レーザラマン分光分析装置「型番:NRS−2100」で、レーザー種はグリーン(532nm)、分析法は顕微(後方散乱:対物×100)により測定した。ピーク比I/I0は、650cm
-1の測定値と495cm
-1の測定値を通る直線を引いてバックグラウンドとし、565cm
-1のバックグラウンド補正ピーク高さ、610cm
-1のバックグラウンド補正ピーク高さを読み取り、(565cm
-1の測定値)/(610cm
-1の測定値)を算出してピーク比I/I0とした。なおラマンシフトの565cm
-1の測定値は565cm
-1近傍のピークにおける測定値を意味し、610cm
-1の測定値は610cm
-1近傍のピークにおける測定値を意味する。
図9から明らかなように、xの値が少ないほど算出結果は大きくなる。
【0092】
すなわち、(610cm
-1の測定値)/(565cm
-1の測定値)の算出結果はxの値を反映していることがわかる。つまりこれまで使ってきた一般的な固溶率が大きくなると、ラマン比率が低下することが分かる。一方、固溶率xが0.4の場合、従来考えられていた一般的な固溶率は0.4で固定しているにもかかわらず、ラマン比率がばらついていることが明らかとなった。これは次のようなことではないかと推察する。つまり、従来考えられていた一般的な固溶率が0.4であっても実際の固溶率がばらついていて、その実際の固溶率に対応したラマン比率が現れていると考えた。ここで実際の固溶率とは個々のセリア結晶粒子に対する金属元素の固溶率である考えることが妥当と思われた。以上から今回初めてこれまでの一般的な固溶率ではなく、個々のセリア結晶粒子に対する金属元素の固溶率を0.35から0.45という所定範囲に収めることが表1に示すように良い発電結果につながることが明らかとなった。なお、
図9において、0.1〜0.3の固溶率xとラマン比率の比例関係から導かれる、0.35から0.45の固溶率に対応するラマン比率は0.10〜0.70である。
【0093】
一方XRDで得られる積分幅、半値幅を用いても、個々のセリ結晶粒子に対する金属元素の固溶率を推定することができると次のように考えた。セリアに対するLaの固溶量が異なるとXRDのピークがシフトし、Laが増えると低角側にずれる。また固溶量の異なるセリア結晶粒子を混合した原料のXRDでは、それぞれの固溶量に対応したピークが近くに混在することになり、その結果、ピーク幅が広がる。したがってXRDで得られる積分幅、半値幅が大きいと個々のセリア結晶粒子に対する金属元素の固溶率がばらついていると推察されると考えた。以上よりXRDで得られる積分幅、半値幅は固溶率のばらつきを示していることが初めて明らかになった。なお、0.35から0.45の固溶率xと積分幅の比例関係から導かれる、0.35から0.45の固溶率に対応するXRDで得られる積分幅は0.10〜0.30であり、同様に半値幅は0.10〜0.30である。