【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 〔発行者名〕 日本再生医療学会 〔刊行物名〕 日本再生医療学会雑誌 再生医療 増刊号 2011 Vol.10 Suppl 第10回日本再生医療学会総会プログラム・抄録 〔発行年月日〕 平成23年2月1日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記細胞外基質が、コラーゲン、人工プロテオグリカン、ゼラチン、ハイドロゲル、フィブリン、フォスフォホリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、PLA、PLGA、PEG、PGA、PDLLA、PCL、ハイドロキシアパタイト、β−TCP、炭酸カルシウム、チタン及び金のうち少なくともいずれか一つを含む生体親和性材料から構成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の根管充填材。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明を図面を参照して詳細に説明する。以下の説明は、本発明を限定するものではない。
【0028】
(第1実施形態)
本発明は、第1実施形態によれば、細胞外基質と、歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞とを含んでなる根管充填材である。
図1は、本実施形態に係る根管充填材200の説明図である。根管充填材200は、細胞外基質210に、歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞220を付着させて形成される。ここで、「付着させて形成される」とは、細胞外基質が液体、流体等の場合には、細胞外基質に、好ましくは均一に、歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞が混合されていることを意味する。いっぽう、細胞外基質が、後述するスポンジ状の三次元構造体等、一定の形状を有する形態の場合には、細胞外基質が構成する構造体の表面及び内部に、好ましくは均一に、歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞が取り込まれ、保持されていることをいう。歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞220は、根管充填材200の根管の根尖側に付着される。ここで、「根管充填材200の根管の根尖側に付着される」とは、歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞が、根管の根尖側に注入され、移植されるように根管充填材が形成されることをいう。
【0029】
歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞は、歯髄以外の任意の組織由来のものであってよい。例えば、骨髄幹細胞、脂肪幹細胞、羊膜幹細胞、もしくは臍帯血幹細胞を用いることができる。また、これらの間葉系幹細胞は、歯組織再生の処置を受ける対象の個体自身の組織から抽出した自家細胞でもよいし、また、歯組織再生の処置を受ける対象個体以外の個体の組織から抽出した同種細胞でもよい。歯組織再生の処置を受ける対象は、哺乳動物であってよく、特にはヒトである。
【0030】
歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞の一例である骨髄幹細胞は、骨髄由来の幹細胞であって、既知の方法により骨髄組織から抽出、分離することが出来る。また、脂肪幹細胞、羊膜幹細胞、臍帯血幹細胞もそれぞれ、脂肪組織、羊膜組織、臍帯血組織由来の幹細胞であって、これらも既知の方法により、各組織から抽出、分離することが出来る。
【0031】
歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞は、SP細胞、及び/または、特定の細胞マーカーを発現する細胞画分を分取して用いることができる。具体的には、CD29陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、CD90陽性細胞、CD105陽性細胞、CXCR4陽性細胞、CD31陰性細胞、CD45陰性細胞、MHC class II陰性細胞、CD150陽性細胞、CXCR4陽性細胞、CD271陽性細胞、CD133陽性細胞、FLK−1陽性細胞,CD166陽性細胞、またはVEGFR2陽性細胞のうち少なくともいずれか一つを含むことができる。なお、本明細書において、陽性を「+」、陰性を「−」と指称することもある。
【0032】
特には、CD31陰性side population(SP)細胞を含むことが好ましい。なお、本明細書において、CD31陰性side population細胞は、CD31
−SP細胞とも指称する。CD31
−SP細胞は、マウス下肢虚血部に移植すると血流回復・血管新生が促進され、ラット脳梗塞虚血部に移植すると神経細胞の分化促進、運動麻痺が回復する。また、イヌの生活歯髄切断面上に移植すると生活歯髄切断面上の窩洞内に血管新生・神経再生・歯髄再生が見られる。間葉系幹細胞としてCD31
−SP細胞を用いる場合、歯髄再生能力は高いと考えられる。
【0033】
SP細胞は、フローサイトメトリーを利用したセルソーティング法による、当業者には既知の通常の方法を用いて分離することができる。特定の細胞マーカーを発現する細胞画分は、抗体を用いたフローサイトメトリーや磁気ビーズ方法によって得ることが出来る。分取した画分をさらに培養し、培養の第3〜第5継代の間葉系幹細胞を、本実施形態にかかる根幹充填材に用いることが好ましい。
【0034】
根管充填材200における間葉系幹細胞の含有率は、1×10
3セル/μl以上1×10
6セル/μl以下とすることが好ましい。間葉系幹細胞の含有率が、1×10
3セル/μlよりも少ないと、根管内の歯組織の再生が不十分なものとなる可能性があるからである。一方、間葉系幹細胞の含有率が、1×10
6セル/μlよりも多いと、対象の歯に対して予期せぬ副作用が生じる可能性があるからである。
【0035】
細胞外基質(Scaffold)210は、コラーゲン、人工プロテオグリカン、ゼラチン、ハイドロゲル、フィブリン、フォスフォホリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、PLA(ポリ乳酸)、PLGA(乳酸グリコール酸共重合体)、PEG(ポリエチレングリコール)、PGA(ポリグリコール酸)、PDLLA(ポリ−DL−乳酸)、PCL(ポリカプロラクトン)、ハイドロキシアパタイト、β−TCP、炭酸カルシウム、チタン及び金のうち少なくともいずれか一つを含む生体親和性材料から構成されていることが好ましい。なお、プロテオグリカンは、タンパク質と糖鎖(グリコサミノグリカン)が共有結合した複合糖質の一種である。また、細胞外基質は、熱可塑性高分子等の高分子体で作製された数平均直径が1nm〜1000nmのナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体も使用できる。そのような三次元構造体の空隙率は80%〜99.99%とすることが好ましい。
【0036】
細胞外基質として使用されるコラーゲンは、I型コラーゲンとIII型コラーゲンとの混合であるI型・III型混合コラーゲンを用いることが好ましい。I型コラーゲンとは、基本的コラーゲンであり、線維性コラーゲンである。III型コラーゲンは、コラーゲン線維とは別の、細網線維と呼ばれる細い網目状の構造を形成し、細胞等の足場を作ることができる。
【0037】
上述の混合コラーゲンを用いる場合には、III型コラーゲンの割合は10重量%以上50重量%以下とすることが好ましい。III型コラーゲンの割合が50重量%よりも多くなると、混合コラーゲンが固化できないおそれがあるからである。一方、III型コラーゲンの割合が10重量%よりも少なくなると、I型コラーゲンの割合が多くなり、後述するような血管新生が起こるのではなく、象牙質が再生される可能性があるからである。
【0038】
次に、
図2を用いて、本実施形態に係る根管充填材200の製造方法を説明する。
【0039】
根管充填材200は、細胞外基質210の根尖側に歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞220を付着させて形成される。間葉系幹細胞220は根管充填材200の根尖部の1/4〜2/3に付着されているのが望ましく、より望ましくは根尖部の1/3である。根管充填材は、流体状の細胞外基質を用いる場合には、細胞外基質と間葉系幹細胞とを含む第1の組成物と、細胞外基質を含む第2の組成物とを調製し、これらがそれぞれ、根尖部、歯冠部に位置するように形成することができる。製造方法の一具体例としては、まず、トータルで20μリットルとし、ピペットマンのチップ等に10μリットル〜13μリットルのI型・III型混合コラーゲンを吸い込み、次に、歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞を混合させたI型・III型混合コラーゲン(例えばコラーゲンXYZ(新田ゼラチン))を7μリットル〜10μリットル吸い込むことができる。ピペットマンのチップ等に吸い込む際には気泡が発生しないように吸引速度は緩やかにすることが好ましい。根管充填材内部に気泡が発生すると、発生した気泡が細胞の遊走を妨げて歯組織再生の促進が損なわれるからである。ピペットマンのチップの内径は細いものが好ましく、例えばチップの下内径が0.5〜0.7mmのものが使用でき、例えばQSP社のH−010−96RSマイクロキャピラリーチップを使用できる。根管充填材の形状は、特に限定されるものではなく、例えば円錐、円錐台、円柱等である。あるいは、根管充填材は、スポンジ状の三次元構造体の細胞外基質を用いる場合には、歯根に適合するサイズに形成された、細胞外基質を含む構造体の根尖部に歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞を吸収させて調製することができる。なお、本実施形態の説明における上記細胞外基質の使用容量は、一例であって、充填材は特定の容量には限定されず、歯髄を再生させる歯の根管の容量に応じて、適宜決定することができる。
【0040】
次に、
図3A〜
図3Fを用いて、根管充填材200を使用する非抜歯法による歯組織再生方法を、歯組織再生方法の一例として説明する。
【0041】
本実施形態に係る歯髄組織再生方法は、
図3Aに示すように、例えば歯髄炎が発生している対象となる歯100について、非抜歯にて歯組織再生を行う。対象となる歯とは、う蝕、歯髄炎等により、細菌感染が冠部歯髄又は根部歯髄まで波及している歯をいう。
【0042】
対象となる歯100について、
図3Bに示すように、抜髄又は感染根管の根管拡大清掃が行われる。抜髄とは、歯牙の内部に存在する歯髄を除去することである。抜髄は当業者には既知の通常の方法、たとえば、手用あるいは電気エンジンのリーマー・ファイルあるいはロータリーエンジンで器械的に拡大形成後、次亜塩素酸ソーダとオキシドールで交互洗浄する方法によって行うことができる。また、感染根管とは、細菌が歯髄に到達後、根管壁の象牙質に及んでいる場合の根管をいい、根管拡大清掃後とは、感染根管における細菌を除去した後をいう。細菌の除去は、たとえば、交互洗浄後、根管内薬剤塗布によって行うことができる。
【0043】
抜髄後は、対象となる歯の根管を拡大し、根尖部の根管の大きさを所定の太さにすることが望ましい。抜髄あるいは感染根管治療した根管内に根管充填材200を充填する際に、根管を拡大しておくほうが根管充填材200を充填しやすいためである。また、根尖歯周組織から血管及び神経が進入しやすいためである。ここで、根尖とは、対象となる歯の歯槽骨に結合される端部(歯根の先端部分)をいう。歯の根管の拡大は、手用あるいは電気エンジンのリーマー・ファイルあるいはロータリーエンジンで器械的にという方法によって行うことができる。
【0044】
例えば、
図3Bにおいて、根尖部の根管の太さdは、根管の直径において0.6mm以上、1.5mm以下とすることが望ましい。根管の太さdが0.6mmよりも小さいと、血管及び神経が根尖歯周組織から進入しにくく、また根管充填材200の充填が難しいおそれがあるからである。一方、根管の太さが1.5mmよりも大きいと、対象となる歯に対して必要以上の負担を与えて割れやすくなるおそれがあるからである。
【0045】
次に、
図3Cに示されるように、根管の根尖側にピンセット等により根管充填材200を充填する。根管充填材200は、生物学的材質を含有するので、生物学的根管充填材とすることもできる。根管充填材200は、根管内の歯髄が存在した場所である歯髄相当部位に充填することが望ましい。なお、細胞外基質210がゲル状の場合はピンセット等でつまむことができないので、ピペットマン、注射等により注入することができる。
【0046】
根管の根尖側に根管充填材200を注入した後は、
図3Dに示されるように、根管充填材200の上部にゼラチン610を注入し、レジン620により蓋をすることができる。ゼラチン、及びレジンは、特に限定されることなく、歯科治療で通常使用されるものを用いることができる。
【0047】
これにより、根管内の歯組織が再生される。再生される歯組織は、
図3Eに示されるように、例えば根管内の歯髄固有組織、血管400、神経等である。また、BMPs等の形態形成因子を用いることにより、再生される歯組織としては象牙質がある。更に、感染根管に対して根管充填材200を充填する場合は、再生される歯組織として歯根膜(歯槽骨に歯を植立する歯周組織)やセメント質等の歯周組織がある。
【0048】
その後は、レジン620を一度除去して、
図3Fに示すように、BMPs等の形態形成因子630又は象牙質形成因子を歯冠部歯髄に塗布し、レジン620により蓋をする。形態形成因子630又は象牙質形成因子を歯冠部歯髄に塗布したことにより、
図3Gに示されるように象牙質500も再生することができる。
【0049】
更に、本実施形態に係る根管充填材200を用いる歯組織再生では、再生組織に内部吸収及び外部吸収が見られず、且つ、破歯細胞も見られずに、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並んでいる。また、出血による血餅が多量に存在すると歯髄組織再生の障害になると考えられるところ、非抜歯の方法では、血餅の発生を低く抑えられ、効率的に歯組織再生を促進させることができるという利点がある。また、根管拡大後の出血や症状が消失するまで根管貼薬して根管充填を待つことができ、実際の臨床治療に近接させることができるという利点もある。
【0050】
なお、上述したように、対象となる歯100は、う蝕、歯髄炎等により、細菌感染が冠部歯髄又は根部歯髄まで波及している歯であってよいが、これに限定されない。すなわち、対象となる歯100には神経機能が低下して咬合感覚が弱くなっている歯も含まれる。このような場合は、抜髄後に、根管に根管充填材200を充填することにより、歯髄を再生させることで咬合感覚を向上させることができる。また、
図3Hに示すように、対象となる歯100には、細菌感染が根尖歯周組織まで波及している歯(細菌が歯髄に到達後、根管壁の象牙質及び根尖歯周組織に及んでいる歯)も含まれる。このような歯は根尖性歯周炎110を伴うことが多い。感染根管の根管拡大清掃後に、根管充填材200を注入することが好ましい。
【0051】
本実施形態による根管充填材は、非抜歯のみならず、抜歯の形態でも同様に用いることができる。抜歯の形態で用いる場合には、ます、歯組織再生が所望される対象を、抜歯する。抜歯後、感染根管の根管拡大清掃後、抜髄及び消毒する。抜髄及び消毒は、上記非抜歯の方法で説明したのと同様にして行うことが出来る。次に、根尖部を切断して開口して根管充填材を移植する。根尖部の切断箇所は、下端から1mm〜2mmが好ましい。根尖部の切断方法は、歯科的な通常の方法、例えば、エアタービンや電気エンジンによることができる。根管充填材の注入は、上記非抜歯の方法で説明したのと同様にして行うことが出来る。
図3Iは、抜歯の形態における、根管の根尖側への根管充填材200の充填を示す根管充填材を注入した後は、根管充填材の上部にゼラチンを注入し、レジンにより蓋をする。その後は抜歯をした歯を抜歯窩に再移植することができる。抜歯の形態は、特に直視で患歯を処置できることおよび根尖部歯周組織に傷害が少ないという利点がある。
【0052】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る根管充填材は、歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞と、遊走因子とを含む。遊走因子は、細胞遊走因子、細胞増殖因子及び神経栄養因子のうち少なくともいずれか一つを含む。
【0053】
図4(a)及び(b)は、本発明の第2実施形態に係る根管充填材200の説明図である。
図4(a)に示すように、根管充填材200は、歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞220を根管の根尖側に付着させるとともに、根管の歯冠側(例えば根管の上部1/2〜2/3)に細胞遊走因子、細胞増殖因子及び神経栄養因子のうち少なくともいずれか一つを含む遊走因子230を付着させている。
【0054】
間葉系幹細胞220を根管の根尖側に付着させ、根管の歯冠側に遊走因子230を付着させる理由は、間葉系幹細胞220を根管の歯冠側にまで付着させても組織からの栄養が供給されずに壊死する可能性があるからであり、また、根管の根尖側に付着している間葉系幹細胞220が根管の歯冠側に付着している遊走因子に引っぱられて歯組織再生が促進されやすいからである。なお、
図4(b)に示すように、根管充填材200の根管の歯冠側に細胞外基質210を残しておくことも可能である。
【0055】
遊走因子は、細胞遊走因子、細胞増殖因子及び神経栄養因子のうち一つを含むものであってもよく、二以上を組み合わせて含むものであってもよい。
【0056】
細胞遊走因子とは、それが受容体に結合することによって細胞の遊走に関わる信号伝達系が活性化する分子を意味する。また、細胞増殖因子とは、それが受容体に結合することによって細胞の増殖に関わる信号伝達系が活性化する分子を意味する。そして、神経栄養因子とは、それが受容体に結合することによって細胞の生存に関わる信号伝達系が活性化する分子を意味する。
【0057】
細胞遊走因子は、SDF1、VEGF、GCSF、SCF、MMP3、Slit、GM−CSF、及び血清のうち少なくともいずれか一つを用いることが好ましい。特に、MMP3は、細胞遊走能が高く好適に使用することができる。
【0058】
細胞増殖因子は、IGF,bFGF、PDGF及び血清の少なくともいずれか一つを用いることが好ましい。
【0059】
神経栄養因子は、GDNF、BDNF、NGF、Neuropeptide Y、Neurotrophin3及び血清のうち少なくともいずれか一つを用いることが好ましい。血清は、自己血清が好ましい。自己血清とは、歯組織再生を受ける個体の血清であって、新鮮な血液を30分静置させた後、遠心させて上清を集めることにより得ることができる。
【0060】
遊走因子を付着させた細胞外基質における、遊走因子の含有率は、0.1ng/μl以上500ng/μl以下とすることが好ましい。遊走因子の含有率が0.1ng/μlよりも少ないと、遊走の程度が少なくなる可能性がありうるからである。一方、遊走因子の含有率が500ng/μlよりも多いと、対象となる歯100に対して予期せぬ副作用が生じる可能性があり得るからである。
【0061】
次に、
図5を用いて、本実施形態に係る根管充填材200の製造方法を説明する。
図5は、根管の歯冠側に遊走因子230を付着させる根管充填材200の製造方法を説明する説明図である。
【0062】
実施形態2に係る根管充填材200は、流体状の細胞外基質を用いる場合には、細胞外基質と歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞とを含む第1の組成物と、細胞外基質と遊走因子とを含む第2の組成物とを調製し、これらがそれぞれ、根尖部、歯冠部に位置するように注入、移植することができる。製造方法の一具体例としては、まず、トータルで20μリットルとし、ピペットマンのチップ等に遊走因子を混合させたI型・III型混合コラーゲン(I型コラーゲンとIII型コラーゲンとの混合割合は1:1)を10μリットル〜13μリットル吸い込む。次に、間葉系幹細胞を混合させたI型・III型混合コラーゲンを7μリットル〜10μリットル吸い込む。実施形態2においても、ピペットマンのチップ等に吸い込む際には気泡が発生しないように吸引速度は緩やかにすることが好ましい。また、ピペットマンのチップの内径は細いものが好ましい。このようにして、
図4(a)に示す根管充填材200が製造される。
【0063】
実施形態2に係る根管充填材200の使用形態は、実施形態1と同様に、抜髄後又は感染根管の根管拡大清掃後の非抜歯の根管の根尖側、あるいは、抜歯後、根尖部を切断して開口した根管の根尖側に充填することができる。
【0064】
本実施形態に係る根管充填材200によれば、遊走因子を有しているため更に効率的に、歯組織再生を行うことができ、再生組織には、内部吸収は無く、破歯細胞も見られずに、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並んでいる。
【0065】
(第3実施形態)
上述の第1実施形態では、歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞220が根管充填材200の根管の根尖側に付着されて根管充填材200は構成されていた。しかし、そのような実施形態に限定されることはなく、間葉系幹細胞220は、根管充填材200の全体に均一に混合されていても良い。このような根管充填材200も、抜歯もしくは非抜歯の両方の形態で同様に使用することができ、これを使用することにより、歯根完成歯に対して、内部吸収を発生させず、破歯細胞が見られず、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並ぶ歯組織再生を図ることができる。このような根管充填材200は、例えば、間葉系幹細胞220と、細胞外基質の一例であるI型・III型混合コラーゲンとを気泡を発生させないように均一に混合させることにより製造される。
【0066】
また、上述の第2実施形態では、歯髄幹細胞を除く間葉系幹細胞220を根管の根尖側に付着させるとともに、根管の歯冠側に遊走因子230を付着させて、根管充填材200は構成されていた。しかし、そのような実施形態に限定されることはなく、間葉系幹細胞220及び遊走因子230は共に、根管充填材200の全体に均一に混合されていても良い。このような根管充填材200も、抜歯もしくは非抜歯の両方の形態で同様に使用することができ、これを使用することにより、歯根完成歯に対して、内部吸収を発生させず、破歯細胞が見られず、象牙質壁に象牙芽細胞が滑らかに並ぶ歯組織再生を図ることができる。この根管充填材200は、例えば、間葉系幹細胞と、遊走因子と、細胞外基質の一例であるI型・III型混合コラーゲンとを気泡を発生させないように均一に混合させることにより製造される。
【0067】
(第4実施形態)
本願発明は、第4実施形態によれば、上記第1〜第3の実施形態において説明した根管充填材を用いた歯組織の異所再生方法である。歯組織の異所再生方法は、第1の個体の歯の抜髄を行う工程と、前記歯の歯根部分を所定の長さに切り出す工程と、前記根管に、前述の根管充填材を注入する工程と、充填材を注入した歯根を第2の個体に移植する工程とを含む。
【0068】
根管充填材は、上記第1〜第3の実施形態において説明したものを用いることができる。しかし、上記第1〜第3の実施形態における根管充填材を構成する間葉系幹細胞に替えて、歯髄幹細胞を用いることもできる。この場合、歯髄CXCR4陽性細胞、SSEA−4陽性細胞、FLK−1陽性細胞、CD105陽性細胞、歯髄SP細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD150陽性細胞、CD73陽性細胞及びCD271陽性細胞、CD166陽性細胞のうち少なくともいずれか一つを含むことが好ましく、前記歯髄SP細胞が、CXCR4陽性、SSEA−4陽性、FLK−1陽性、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性、CD105陽性、CD150陽性、CD73陽性、又は、CD271陽性細胞、CD166陽性細胞のうち少なくともいずれか一つを含むことが好ましい。
【0069】
上記第1の個体は、歯を再生することを所望する個体であって、哺乳動物が好ましく、典型的にはヒトである。上記第2の個体は、第1の個体と異なり、ヒトを除く哺乳動物である。たとえば、マウスやブタであってよく、免疫不全化したマウスやブタを用いることができる。
【0070】
第4実施形態にかかる方法を、
図6を用いて説明する。
図6(a)は、第1の個体の歯100である。本実施形態に用いる第1の個体の歯は、第1の個体から抜歯することによって得ることができる。第1の個体の歯の抜髄を行う工程では、第1実施形態で説明したのと同様に、抜髄を行う。
図6(b)は、抜歯され、歯髄が除去された歯100である。前記歯の歯根部分を所定の長さに切り出す工程では、再生させる組織の大きさに応じて、歯の歯根部分を切り出す。例えば、1〜30mmとすることができるが、これらには限定されない。
図6(c)は、切り出される歯根部分120を模式的に示したものである。抜髄後の根管の一端を封鎖する工程では、切り出した歯根部分120の根管の一端を、セメント等を用いて封鎖する。前記根管に、前述の根管充填材を注入する工程では、第1〜第3実施形態で説明した方法に従って充填材を調製し、注入する。
図6(d)は、根管充填材200を歯根部分120の根管に注入した状態を示す。根管充填材200は、間葉系幹細胞220を根管の根尖側に付着させる。
図6(e)は、根管充填材が注入された歯根部分700を示す。根管充填材200を注入した歯根を第2の個体に移植する工程では、
図6(f)に示すように、根管充填材200を注入された歯根部分700を、第2の個体の、好ましくは皮下に移植する。
【0071】
その後、第2の個体を所定の期間にわたって飼育し、前記根管充填材が充填された歯根部分700を取り出すことで、再生された歯組織を得ることが出来る。再生された歯組織は、さらに、第1の個体の歯槽骨内に再移植して用いることができる。第4実施形態にかかる方法は、ある個体の歯組織を、別の個体で再生することができる点で非常に有利でありうる。
【0072】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0073】
[イヌ由来幹細胞による歯髄の再生]
[細胞分離]
イヌ上歯から抽出したイヌ歯髄組織より、Iohara et al., 2006(STEM CELLS, Volume 24, Issue 11, pages 2493-2503, November 2006)に記載の方法により、イヌ歯髄幹細胞を分取した。初代脂肪細胞及び初代骨髄細胞は、それぞれ、同一のイヌの腹部皮下脂肪及び肋骨の骨髄から分離した。これらの細胞は、Iohara et al., 2006に記載されているように、Hoechst33342(Sigma,St.Louis,MO,http://www.sigmaaldrich.com)でラベルした。そして、この細胞を、マウスBD Fc Block(BD Biosciences,San Jose,CA,http://www.bdbioscience.com)で30分間、4℃でプレインキュベートし、非特異的結合を除去した。これらの細胞を、さらに、マウスIgG1ネガティブコントロール(MCA928)(AbD Serotec Ltd,Oxford,UK,http://www.serotec.com)、マウスIgG1ネガティブコントロール(Phycoerythrin,PE)(MCA928PE)(AbD Serotec)、および、20%ウシ胎児血清を添加した、PBS中の、マウス抗ブタCD31(PE)(LCI−4)(AbD Serotec)(Invitrogen Corporation,Carlsbad,CA,http://www.invitrogen.com)で60分間、4℃でインキュベートした。そして、これらを、2μg/mlのヨウ化プロピジウム(PI)(Sigma)を含有するHEPESバッファー中で再懸濁させた。細胞の分析及びソーティングは、フローサイトメータ(FACS−ARIA II(BD bioscience)を用いて行った。
【0074】
イヌ歯髄、骨髄及び脂肪細胞由来のCD31
−SP細胞を、I型コラーゲンでコートした35mm皿(Asahi Technoglass corp.,Funabashi,Japan,http://www.atgc.co.jp)中の、10%のウシ胎児血清(Invitrogen Corporation,Carlsbad,CA,USA)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Sigma)にそれぞれ播種し、細胞を維持した。培地は、4〜5日に一度交換した。細胞が、50〜60%コンフルエントに達したら、0.02%のEDTAで37℃、10分間インキュベートすることにより分離し、1:4に希釈して、継代培養した。
【0075】
[細胞表面マーカーの発現]
イヌ歯髄、骨髄及び脂肪組織由来のCD31
−SP細胞の表現型を第3継代において評価した。細胞は、以下のもので免疫標識した。マウスIgG1ネガティブコントロール(AbD Serotec Ltd.)、マウスIgG1ネガティブコントロール(fluorescein isothiocyanate,FITC)(MCA928F)(AbD Serotec)、マウスIgG1ネガティブコントロール(Phycoerythrin−Cy5,PE−Cy5)(MCA928C)(AbD Serotec)、マウスIgG1ネガティブコントロール(Alexa 647)(MRC OX−34)(AbD Serotec)、CD24(Alexa Fluor 647)(ML5)(BioLegend)、CD29(PE−Cy5)(MEM−101A)(eBioscience)、CD31(FITC)(Qbend10)(Dako)、CD33(FITC)(HIM3−4)(BD Bioscience)、CD34(Allophycocyanin,APC)(1H6)(R&DSystems,Inc.,Minneapolis,MN,USA)、CD44(Phycoerythrin−Cy7、PE−Cy7)(IM7)(eBioscience)、CD73(APC)(AD2)(BioLegend)、CD90(FITC)(YKIX337.217)(AbD Serotec)、CD146(FITC)(sc−18837)(Santa Cruz,Biotech,Santa Cruz,CA,USA)、CD150(FITC)(A12)(AbD Serotec)、MHCクラスI(R−PE)(3F10)(Ancell Corporation,Bayport,MN,USA)、MHC classII(APC)(TDR31.1)(Ancell)、CXCR4(FITC)(12G5)(R&D)に対する抗体。
【0076】
[リアルタイムRT−PCR解析]
細胞集団のさらなる表現型を評価するために、第3継代において歯髄および脂肪CD105
+細胞、及びtotal歯髄細胞から、Trizol(Invitrogen)を用いて、totalRNAを抽出した。細胞数は、各実験とも、5×10
4にノーマライズした。First−strand cDNA合成は、totalRNAから、ReverTra Ace−α(Toyobo,Tokyo,Japan)を用いて逆転写することによって行った。リアルタイムRT−PCR増殖は、ライトサイクラーFast Start DNA master SYBR GreenI(Roche Diagnostics, Pleasanton,CA)で標識した幹細胞マーカーである、canine CXCR4、Sox2、Stat3、Bmi1、Tert、Oct4を用いて、95℃で10秒,62℃で15秒、72℃で8秒、ライトサイクラー(Roche Diagnostics)を用いて行った。用いたプライマーを以下に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
血管新生因子及び神経栄養因子のmRNAの発現を調べるために、イヌマトリックスメタロプロテアーゼ−3(MMP−3)、VEGF−A、顆粒球単球コロニー刺激因子(GM−CSF)、SDF−1、NGF、BDNF、Neuropeptide Y、Neurotrophin3のリアルタイムRT−PCR増殖もまた行った(Iohara et al.,submitted)。骨髄及び脂肪CD31
−SP細胞の発現は、ベータアクチンで正規化した後、歯髄CD31
−SP細胞の発現と比較した。
【0080】
[分化誘導]
第3継代から第5継代のイヌ骨髄及び脂肪CD31
−SP細胞の血管新生細胞及び神経栄養細胞への分化は、Iohara et al., 2006に記載した歯髄CD31
−SP細胞の分化と比較した。神経分化については、ニューロフィラメント、ニューロモジュリン、及びsodium channel,voltage−gated,typeIα(Scn1α)の発現を調べた。
【0081】
[増殖及び遊走アッセイ]
間質細胞由来因子1(SDF1)(Acris,Herford,Germany)に応答した細胞増殖を決定するために、第4継代のイヌ骨髄及び脂肪CD31
−SP細胞と歯髄CD31
−SP細胞を、0.2%のウシ胎児アルブミン(Sigma)及びSDF−1(50ng/ml)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、96ウェルあたり、10
3cellsの条件で比較した。10μlのTetra−color one(登録商標)(Seikagaku Kogyo,Co.,Tokyo,JAPAN)を96ウェルプレートに添加し、培養開始後、2、12、24、36時間において、分光光度計を用いて波長450nmの吸光度を測定し、細胞数を得た。細胞を入れないウェルをネガティブコントロールとして用いた。
【0082】
歯髄CD31
−SP細胞と比較した骨髄及び脂肪CD31
−SP細胞の遊走活性を調べるために、SDF−1、horizontal chemotaxisアッセイを行った。TAXIScan−FL(Effector Cell Institute,Tokyo,JAPAN)を用いて、細胞のリアルタイムhorizontal chemotaxisを検出した。TAXIScan−FLは、エッチングしたシリコン基板と、平坦なガラスプレートから構成され、両者は、6μmの深さのマイクロチャネルを有する二つのコンパートメントを形成する。各細胞フラクション(10
5cells/mlを、1μl)は、ステンレススチールホルダを備えたデバイスが結合した単一の孔に注入した。10ng/μlのSDF−1、1μlは、反対側の孔に注入した。細胞遊走のビデオ画像を6時間にわたって撮影した。
【0083】
[インビボ移植]
歯髄の除去及び細胞集団の移植の実験モデルは、歯根が完全に完成しており根管が閉鎖しているイヌ永久歯(Narc,Chiba,Japan)において確立した。両側の上顎第二門歯及び下顎第三門歯において、静脈内にペントバルビタールナトリウム(Schering−Plough,Germany)を注入して全歯髄を除去した後、#70K−file(MANI.INC,Tochigi,Japan)を用いて、根尖部の根管の太さを0.7mm以上にした。第3継代から第4継代におけるイヌ歯髄、骨髄及び脂肪CD31
−SP細胞の、それぞれ5x10
5cellsをコラーゲンTE(新田ゼラチン)10μlでDiIラベルした第1の組成物と、コラーゲンTE10μlと最終濃度が15ng/μlのSDF−1を含む第2の組成物とから構成される、根管充填材を調製した。この充填材を、第1の組成物が下部根管に自家移植され、かつ第2の組成物が上部根管にあるように、根管に充填した。充填後、上部の孔はリン酸亜鉛セメント(Elite Cement,GC,Tokyo,Japan)及び複合レジン(Clearfil Mega Bond,Kuraray)で封鎖し、接着剤(Clearfil Mega Bond,Kuraray)で処理した。15匹のイヌからの60の歯を使用した。各10の歯に、歯髄、骨髄及び脂肪CD31
−SP細胞とSDF−1を移植し、14日後及び28日後に採取した。
【0084】
形態学的分析のために、これらを4%のパラホルムアルデヒドPFA)(Nakarai Tesque,Kyoto,Japan)で、4℃において一晩固定し、10%のギ酸で脱塩した後、パラフィンワックス(Sigma)に埋め込んだ。パラフィンのセクション(5μm厚さ)は、ヘマトキシリン・エオジン(HE)で染色した後、形態学的分析を行った。血管の染色のため、5μm厚さのパラフィンのセクションは、脱パラフィンし、Fluorescein Griffonia(Bandeiraea)Simplicifolia Lectin1/fluorescein−galanthus nivalis(snowdrop)lectin(20μg/ml,Vector laboratories,Inc.,Youngstown,Ohio)で15分間染色し、移植した細胞の存在及び局在化を新しく形成された血管との関連でモニターした。モニターには、蛍光顕微鏡BIOREVO,BZ−9000(KEYENCE,Osaka,Japan)を用いた。
【0085】
次に、神経染色のために、5μm厚さのパラフィンのセクションは、脱パラフィンし、0.3% TritonX−100(Sigma Chemical;St Louis,MO)とともに、15分間インキュベートした。2.0%のnormal goat serumとともにインキュベーションして、非特異的結合をブロックした後、ヤギ抗ヒトPGP9.5(Ultra Clone Ltd.)(1:10000)とともに、4℃で一晩インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、結合した抗体は、ビオチン化ヤギ抗ウザギIgG二次抗体(Vector)(1:200)と、室温にて1時間反応させた。このセクションはまた、DAB chromogenを用いて、ABC reagent(Vector Laboratories,Burlingame,CA)とともに、10分間展開した。
【0086】
移植14日後の各サンプルにおける再生歯髄の相対量は、実体顕微鏡(Leica,M205FA)での歯の全体画像を得ることにより測定した。イヌ歯髄、骨髄及び脂肪CD31
−SP細胞及びSDF−1を移植したそれぞれ5本ずつの各歯について、150μmの間隔をおいた3つのセクションを調べた。新たに再生された歯髄組織及び象牙質のスクリーンの映像の輪郭を追跡し、根管におけるこの輪郭の表面積を、Leica Application Suite softwareを用いて決定した。根管面積に対する再生面積の比率は、各歯の3つのセクションにおいて計算し、平均値を決定した。統計的分析は、unpaired Student’s t−testを用いて行った。データは、5回の測定の平均±標準偏差であらわした。
【0087】
リアルタイムRT−PCR増殖は、3つの異なる細胞移植における再生組織の比較のために、歯根膜については、前述のマーカー、すなわちイヌaxin2、ペリオスチン、アスポリン/periodontal ligament−associated protein 1 (PLAP−1)、シンデカン3、テネイシンC、TRH−DE、ビメンチン、アルカリホスファターゼもまた用いて行った。
【0088】
[統計的分析]
平均値±標準偏差であらわされたデータは、unpaired Student’s t testを用いて計算した。各実験は3回行い、典型的結果を図表に記した。
【0089】
[結果]
[イヌ歯髄、骨髄及び脂肪組織由来のCD31
−SP細胞の単離及び評価]
フローサイトメトリーによる分析の結果、同一個体からのイヌ歯髄、骨髄及び脂肪組織由来のSP細胞は、それぞれ全細胞の、1.5%、0.3%、0.1%で存在することがわかった(
図7(a)、(e)、(i))。また、イヌ歯髄、骨髄及び脂肪組織由来のCD31
−SP細胞は、それぞれ全細胞の、0.9%、0.3%、0.1%で存在することがわかった(
図7(b)、(f)、(j))。これら3種類のCD31
−SP細胞集団は、同様の細胞表現型、すなわち複数の長い突起を有する星状細胞および紡錘状細胞を含むものであった。星状細胞は顆粒に囲まれた大きな核を含有するものであった。紡錘状細胞は、細長い突起とわずかな細胞質を有するニューロン様の細胞であった。
図7(c)、(d)、(g)、(h)、(k)、(l)に示す。35mm皿に播種した、単一のイヌ歯髄および脂肪CD31
−SP細胞は、10日間でコロニーを形成し、単一のイヌ骨髄CD31
−SP細胞は、14日間でコロニーを形成した。この結果は、これらの細胞に、コロニー形成活性があることを示す。イヌ歯髄、骨髄及び脂肪CD31
−SP細胞の付着および増殖の効率はそれぞれ、8%、6%、7%であると推定された。第3継代における限界希釈法アッセイの結果、歯髄CFUの頻度は、イヌ歯髄CD31
−SP細胞においては80%と推定され、イヌ骨髄CD31
−SP細胞においては75%と推定され、イヌ脂肪CD31
−SP細胞においては80%と推定された。
【0090】
細胞表面抗体マーカーのフローサイトメトリー分析により、イヌ歯髄CD31
−SP細胞の「幹細胞としての形質」を、イヌ骨髄および脂肪CD31
−SP細胞と比較した。これら三種のCD31
−SP細胞集団は、CD29、CD44、およびCD90について陽性であった。CD34
+細胞の割合は、イヌ歯髄CD31
−SP細胞では、4.4%であり、これはイヌ骨髄CD31
−SP細胞の9.8%、イヌ脂肪CD31
−SP細胞の7.1%と比較して低いものであった。CD105
+細胞の割合は、イヌ歯髄CD31
−SP細胞では、60.2%であり、イヌ骨髄CD31
−SP細胞では64.9%であり、イヌ脂肪CD31
−SP細胞の85.5%と比較して低いものであった。これらは第4継代において、CD146についてはおおむね陰性であった。CXCR4は、イヌ歯髄および脂肪CD31
−SP細胞において、イヌ骨髄CD31
−SP細胞よりも多く発現していた。結果を表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
幹細胞マーカーであるStat3、Bmi1、Sox2、Tert、CXCR4は、イヌ歯髄CD31
−SP細胞において、イヌ骨髄および脂肪CD31
−SP細胞と同程度に発現していた。この結果は、これら3種の細胞集団が、同程度の幹細胞としての性質を有していることを示唆する。血管新生因子および/または神経栄養因子である、NGF、VEGF−A、MMP−3の発現量は、イヌ歯髄CD31
−SP細胞においては、イヌ骨髄および脂肪CD31
−SP細胞におけるよりも、多かった。BDNFは、イヌ骨髄CD31
−SP細胞において、イヌ歯髄および脂肪CD31
−SP細胞におけるよりも多く発現した。GDNFは三種の細胞集団でいずれも同様に発現した。結果を表4に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
CD31
−SP細胞の血管内皮細胞への分化能(
図8(a)、(b)、(c))、ニューロスフェアへの分化能(
図8(d)、(e)、(f))、神経細胞への分化能(
図8(g)、(h)、(i))を、イヌ歯髄、骨髄、及び脂肪CD31
−SP細胞の三種の細胞集団において比較した。索状および管状の広範囲のネットワークが、すべての細胞集団において、培養12時間までにはマトリゲル上で観察された(
図8(a)、(b)、(c))。クラスターおよび増殖性のニューロスフェアが培養開始後14日において検出された。三種の細胞集団においては、ニューロスフェアの頻度および量においては、大きな相違は見られなかった。そして、これらのニューロスフェアからのさらなる神経誘導にも成功した。これら三種の細胞集団におけるほとんどの細胞は、免疫染色によりニューロモジュリン陽性であった。神経マーカー、ニューロフィラメント、ニューロモジュリン、Scn1α mRNAは三種の細胞集団のすべてにおいて発現していた(
図8(j))。
【0095】
[遊走と増殖]
TAXIScan−FLにより示されるSDF−1を加えた場合の遊走活性は、イヌ歯髄CD31
−SP細胞および脂肪CD31
−SP細胞において比較的高く、イヌ骨髄CD31
−SP細胞においては、これら二つよりも低いものであった(
図9(a))。また、SDF−1を加えた場合の増殖活性も、イヌ歯髄CD31
−SP細胞と、イヌ骨髄および脂肪CD31
−SP細胞において、いずれも同様であった(
図9(b))。
【0096】
[根管への移植後の歯髄再生]
次に、イヌ歯髄、骨髄、および脂肪CD31
−SP細胞とSDF−1との、歯根が完全に完成しており根管が閉鎖しているイヌ永久歯の抜髄後の根管への、in vivoでの自家移植を評価した(
図10)。歯髄及び脂肪CD31
−SP細胞の移植の結果、SDF−1とともに移植した場合には、移植後14日目には、歯髄様組織の形成が生じた(
図10(a)、(c))。しかし、骨髄CD31
−SP細胞とSDF−1とを移植した場合には、再生した歯髄の量は、歯髄及び脂肪CD31
−SP細胞とSDF−1を移植した場合よりも少なかった(
図10(b))。統計解析の結果、再生された領域は、歯髄CD31
−SP細胞及び脂肪CD31
−SP細胞をSDF−1とともに移植した場合に、骨髄CD31
−SP細胞をSDF−1とともに移植した場合と比較して、それぞれ、2.0倍、及び1.5倍であり、有意に大きいことがわかった(
図10(j))。三種類のすべての移植において、再生された組織中の細胞は星状、あるいは紡錘状であった(
図10(d)、(e)、(f))。しかし、線維性の基質形成が、骨髄及び脂肪CD31
−SP細胞移植の一部においてみられた(
図10(e)、(f))。さらに、脂肪CD31
−SP細胞とSDF−1移植の90日目には、歯髄内に強い石灰化が見られた(
図10(i))が、歯髄CD31
−SP細胞とSDF−1移植ではほとんど石灰化がみられず、骨髄CD31
−SP細胞とSDF−1移植ではやや石灰化がみられた。凍結切片をBS−1 lectinで染色した後に共焦点レーザー顕微鏡分析を行ったところ、再生組織において血管新生が生じていることがわかった(
図10(k)(l)(m))。抗体で染色された神経突起は、根尖孔から新たに再生された歯髄内に延びていた(
図10(n)(o)(p)。マッソン染色の結果、脂肪CD31
−SP細胞とSDF−1移植の90日目では強い基質形成がみられた。
【0097】
ペリオスチンmRNAの発現は、イヌ歯髄、骨髄、及び脂肪CD31
−SP細胞移植の再生組織において、正常な歯根膜組織における発現量よりも、ずっと少なかった。歯髄で多く発現することが知られている、シンデカン3、テナスチンC、ビメンチンは、すべての再生組織においても、正常な歯髄組織と比較して、同様に発現していることがわかった。脂肪、骨、象牙質、aP2、Osterix、Dsppの分化マーカーは、それぞれ、いずれの再生組織においても発現していなかった。結果を表5に示す。
【0098】
【表5】
【実施例2】
【0099】
[ブタ由来幹細胞による歯髄の再生]
[細胞分離]
初代歯髄細胞は、ブタ歯胚から分離した。ブタ初代脂肪細胞及び初代骨髄細胞は、それぞれ、同一のブタの下顎から分離した。これらの細胞は、Iohara et al., 2006に記載されている方法にしたがい、Hoechst33342(Sigma,St.Louis,MO,http://www.sigmaaldrich.com)でラベルした。そして、この細胞を、マウスBD Fc Block(BD Biosciences,San Jose,CA,http://www.bdbioscience.com)で30分間、4℃でプレインキュベートし、非特異的結合を除去した。これらの細胞を、さらに、マウスIgG1ネガティブコントロール(MCA928)(AbD Serotec Ltd,Oxford,UK,http://www.serotec.com)、マウスIgG1ネガティブコントロール(Phycoerythrin,PE)(MCA928PE)(AbD Serotec)、および、20%ウシ胎児血清を添加した、PBS中の、マウス抗ブタCD31(PE)(LCI−4)(AbD Serotec)(Invitrogen Corporation,Carlsbad,CA,http://www.invitrogen.com)で60分間、4℃でインキュベートした。そして、これらを、2μg/mlのヨウ化プロピジウム(PI)(Sigma)を含有するHEPESバッファー中で再懸濁させた。細胞の分析及びソーティングは、フローサイトメータ(FACS−ARIAII(BD bioscience))を用いて行った。
【0100】
ブタ歯髄、骨髄及び脂肪細胞由来のCD31
−SP細胞を、I型コラーゲンでコートした35mm皿(Asahi Technoglass corp.,Funabashi,Japan,http://www.atgc.co.jp)中の、10%のウシ胎児血清(Invitrogen Corporation,Carlsbad,CA,USA)及び5ng/ml EGF(Cambrex Bio Science)を添加したEBM2にそれぞれ播種し、細胞を維持した。培地は、4〜5日に一度交換した。細胞が、50〜60%コンフルエントに達したら、0.02%のEDTAで、37℃、10分間インキュベートすることにより分離し、1:4に希釈して、継代培養した。
【0101】
[細胞表面マーカーの発現]
ブタ歯髄、骨髄及び脂肪組織由来のCD31
−SP細胞の表現型を第3継代において評価した。細胞は、下記の抗体で免疫標識し、フローサイトメトリーで分析した。マウスIgG1ネガティブコントロール(AbD Serotec Ltd.)、マウスIgG1ネガティブコントロール(fluorescein isothiocyanate,FITC)(MCA928F)(AbD Serotec)、マウスIgG1ネガティブコントロール(Phycoerythrin−Cy5,PE−Cy5)(MCA928C)(AbD Serotec)、マウスIgG1ネガティブコントロール(Alexa 647)(MRC OX−34)(AbD Serotec)、及び、CD14(Alexa Flour 647)(TuK4)(AbD Serotec)、CD29(PE−Cy5)(MEM−101A)(eBioscience)、CD31(PE)(LCI−4)(AbD Serotec)、CD34(PE)(581)(Beckman coulter)、CD44(PE−Cy5)(IM7)(eBioscience)、CD73(Alexa Flour 647)(AD2)(eBioscience)、CD90(Alexa Flour 647)(F15−42−1)(AbD Serotec)、CD105(FITC)(MEM−229)(abcam)、CD117/c−kit(Allophycocyanin,APC)(A3C6E2)(Miltenyi Biotec,Bergisch Gladbach,Germany,http://www.miltenyibiotec.com)、CD133(Alexa Flour 647)(293C3)(Miltenyi Biotec)、CD146(FITC)(OJ79c)(AbD Serotec),CD150(FITC)(A12)(AbD Serotec),CD271(APC)(ME20.4−1H4)(Miltenyi Biotec.)、CXCR4(FITC)(12G5)(R&D)に対する抗体。
【0102】
[幹細胞マーカー、血管新生因子及び神経栄養因子のリアルタイムRT−PCR解析]
ブタ歯髄、骨髄及び脂肪組織由来のCD31
−SP細胞集団の幹細胞特性、血管新生能、神経原生能を調べるために、各CD31
−SP細胞から、Trizol(Invitrogen)を用いて、totalRNAを抽出した。細胞数は、各実験とも、5×10
4にノーマライズした。First−strand cDNA合成は、total RNAから、ReverTra Ace−α(Toyobo,Tokyo,Japan)を用いて逆転写することによって行った。リアルタイムRT−PCR増殖は、ライトサイクラーFast Start DNA master SYBR Green I(Roche Diagnostics,Pleasanton,CA)で標識した幹細胞マーカー、ブタC Sox2、Tert,Bmi1,CXCR4、Stat3、及び血管新生因子及び神経栄養因子、顆粒球単球コロニー刺激因子(GM−CSF)、マトリックスメタロプロテアーゼ−3(MMP−3)、血管内皮細胞増殖因子A(VEGF−A)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、神経成長因子(NGF)、neuropeptide Y(Iohara et al., 2008(STEM CELLS, Volume 26, Issue 9, pages 2408-2418, September 2008); Sugiyama et al., 2011(Tissue Engineering Part A. Jan 2011))を用いて、95℃で10秒、62℃で15秒、72℃で8秒、ライトサイクラー(Roche Diagnostics)を用いて行った.骨髄及び脂肪CD31
−SP細胞の発現は、ベータアクチンで正規化した後、歯髄CD31
−SP細胞の発現と比較した。用いたプライマーを以下に示す。
【0103】
【表6】
【0104】
[歯根モデルへの移植]
異所性の歯髄再生のために、ブタ歯根モデルの皮下移植を行った。ブタ第三切歯を抜歯し、その歯根を6mmの長さにスライスした。根管を1mm幅にまで拡大した後、MTAセメントで一端を封鎖した。ブタ歯髄、骨髄及び脂肪CD31
−SP細胞集団の第3から第4継代、それぞれ、1x10
6cellsと、コラーゲンTE(新田ゼラチン、Osaka,Japan)10μlから構成される根管充填材を調製した。この充填材を一端を封鎖した歯根に注入した。この歯根を、5週齢のSCIDマウス(CB17,CLEA,Tokyo,JAPAN,http://www.clea-japan.com)に皮下移植した。異なる4個体のブタ由来の歯髄、骨髄及び脂肪CD31
−SP細胞が、各2つの歯根に移植された。14日後、組織学的研究のために、計24本の歯根を採取した。
【0105】
形態学的分析のために、これらを4%のパラホルムアルデヒドPFA(Nakarai Tesque,Kyoto,Japan)で、4℃において一晩固定し、10%のギ酸で脱塩した後、パラフィンワックス(Sigma)に埋め込んだ。パラフィンのセクション(5μm厚さ)は、ヘマトキシリン・エオジン(HE)で染色した後、形態学的分析を行った。血管の染色のため、5μm厚さのパラフィンのセクションは、脱パラフィンし、Fluorescein Griffonia(Bandeiraea)Simplicifolia Lectin 1/fluorescein−galanthus nivalis(snowdrop)lectin(20μg/ml,Vector laboratories,Inc.,Youngstown,Ohio)で15分間染色し、移植した細胞の存在及び局在化を新しく形成された血管との関連でモニターした。モニターには、蛍光顕微鏡BIOREVO,BZ−9000(KEYENCE,Osaka,Japan)を用いた。
【0106】
[ブタ歯髄、骨髄及び脂肪組織由来のCD31
−SP細胞の単離及び評価]
フローサイトメトリーによる分析の結果、同一個体からの歯髄、骨髄及び脂肪組織由来のSP細胞は、それぞれ全細胞の、1.6%、0.3%、0.1%で存在することがわかった(
図11A(a)、11B(e)、11C(i))。また、歯髄、骨髄及び脂肪組織由来のCD31
−SP細胞は、それぞれ全細胞の、0.9%、0.3%、0.1%で存在することがわかった(
図11A(b)、11B(f)、11C(j))。これら3種類のCD31
−SP細胞集団は、同様の細胞表現型、すなわち複数の長い突起を有する星状細胞および紡錘状細胞を含むものであった。星状細胞は顆粒に囲まれた大きな核を含有するものであった。紡錘状細胞は、細長い突起とわずかな細胞質を有するニューロン様の細胞であった。
図11A(c)、A(d)、B(g)、B(h)、C(k)、C(l)に示す。IGF1、EGF、及び10%のウシ胎児血清を添加したEBM2は、CD31
−SP細胞の表現型を保持していた。これは、第12継代において、CD31
−及びABCG2/BCRP1
+が99.8%より多いことを示す。コラーゲンタイプIでコートされた35mm皿に播種した、単一の歯髄および脂肪CD31
−SP細胞は、10日でコロニーを形成し、単一の骨髄CD31
−SP細胞は、14日でコロニーを形成した。この結果は、これらの細胞にコロニー形成活性があることを示す。ブタ歯髄、骨髄及び脂肪CD31
−SP細胞の付着および増殖の効率はそれぞれ、8%,6%,7%であると推定された。第3継代における限界希釈法圧制の結果、歯髄CFUの頻度は、ブタ歯髄CD31
−SP細胞においては80%と推定され、ブタ骨髄CD31
−SP細胞においては75%と推定され、ブタ脂肪CD31
−SP細胞においては80%と推定された。
【0107】
細胞表面抗体マーカーのフローサイトメトリー分析により、ブタ歯髄CD31
−SP細胞の「幹細胞としての形質」を、ブタ骨髄および脂肪CD31
−SP細胞と比較した。これら三種のCD31
−SP細胞集団は、第3継代において、CD29、CD44、およびCD90、CD105について陽性であり、CD31、CD146については陰性であった。ブタ歯髄CD31
−SP細胞は、ブタ骨髄CD31
−SP細胞、ブタ脂肪CD31
−SP細胞と比較して、はるかに多くのCD34を発現していた。CXCR4は、ブタ歯髄および脂肪CD31
−SP細胞において、ブタ骨髄CD31
−SP細胞よりも多く発現していた。結果を表7に示す。
【0108】
【表7】
【0109】
幹細胞マーカーであるSox2、Tert、Bmi1、CXCR4、Stat3 mRNAは、歯髄CD31
−SP細胞において、骨髄および脂肪CD31
−SP細胞と同程度に発現していた。この結果は、これら3種の細胞集団が、同程度に幹細胞としての性質を有していることを示唆する。血管新生因子および/または神経栄養因子である、GM−CSF、MMP−3、VEGF−A、BDNF、GDNF、NGF、neuropeptide Yは、三種の細胞集団でいずれも同様に発現した。結果を表8に示す。
【0110】
【表8】
【0111】
CD31
−SP細胞の内皮細胞への分化能(
図12(a)、(b)、(c))、ニューロスフェアへの分化能(
図12(d)、(e)、(f))を、三種のCD31
−SP細胞集団において比較した。索状および管状の広範囲のネットワークが、すべての細胞集団において、培養12時間目にはマトリゲル上で観察された(
図12(a)、(b)、(c))。クラスターおよび増殖性のニューロスフェアが培養開始後14日において検出された。ニューロスフェアの頻度および量においては、三種の細胞集団間で、大きな相違は見られなかった。そして、これらのニューロスフェアからのさらなる神経誘導にも成功した。これらの結果は、三種の細胞集団のすべてが、同様の血管誘導及び神経誘導能を有することを示す。
【0112】
SDF−1を加えた場合の増殖活性は、ブタ歯髄CD31
−SP細胞と、ブタ骨髄および脂肪CD31
−SP細胞において、いずれも同様であった(
図13(a))。TAXIScan−FLにより示されるSDF−1を加えた場合の遊走活性もまた、歯髄CD31
−SP細胞と、骨髄および脂肪CD31
−SP細胞において、いずれも同様であった(
図13(b))。
【0113】
[歯根に充填したCD31
−SP細胞の皮下移植後の歯髄再生]
次に、歯根に充填したCD31
−SP細胞の、重症複合型免疫不全(SCID)マウスへのin vivo皮下移植を評価した。ブタ歯髄CD31
−SP細胞移植後14日には、十分に組織化された血管系を有する歯髄様組織が、根管に充填されていた(
図14(a)、(b)、(c))。ブタ骨髄CD31
−SP細胞移植によってもまた、毛細血管を有する歯髄様組織が誘導されていた(
図14(d)、(e)、(f))。ブタ脂肪CD31
−SP細胞移植の結果、石灰化が見られた(
図14(g)、(h)、(i))。
【実施例3】
【0114】
[歯髄・骨髄・脂肪CD31
−SP細胞の免疫原性]
イヌ血液は、採血後直ちにベノジェクト真空採血管(TERUMO)に移し同量の生理食塩水(大塚製薬)を加え転倒混和後、Lymphoprep Tube(Axis−Shield)を用いて比重遠心法(比重1.007)にて末梢血単核球(PBMC)を分離した。一方のPBMCを、抗原性を保持したまま増殖を抑制するため、マイトマイシンC (nacalai tesque)10mg/mlにて3時間37℃にて処理しstimulatorとして使用した。
【0115】
イヌ歯髄・骨髄・脂肪CD31−SP細胞の免疫調節能を比較するため、各細胞を10%FBSを加えたDMEMにて3日間培養後、それぞれの培養上清を採取し、Centrifugal Filter Units(MILLI PORE)を用いて10倍に濃縮し、使用した。それぞれのPBMCを1×10
5cellsに調整後、PBMCとstimulator PBMCを10%FBSを加えたRPMI1640で96well plate上で48時間共培養した。さらに、歯髄・骨髄・脂肪CD31
−SP細胞の培養上清をそれぞれ加えて、TetraColorONE(SEIKAGAKU BIOBUSINESS CORPORATION)(MTT法)を用い、増殖活性を経時的に測定し、培養上清添加によるPBMC増殖抑制効果を比較した。
【0116】
ブタ歯髄・骨髄・脂肪CD31
−SP細胞の免疫原性に関与するmRNAをReal−time RT−PCRにて検討した結果、MHC(major histocompapitibility complex)class IIDRB、CD80、CD40の発現は3種すべてで見られなかった。また、ブタ未分取のtotal歯髄細胞と比べて、MHC class IA発現は歯髄0.07、骨髄0.25、脂肪0.08で非常に低い発現だった。また、フローサイトメトリーの結果では、CD40、CD80、CD86、MHC class IIが3種とも陰性であり、MHC classIは歯髄36.0%、骨髄73.8%.脂肪は80.0%であった。よって、3種ともに免疫原性が低いことが示唆された。
【0117】
[歯髄・骨髄・脂肪CD31
−SP細胞の免疫調整能]
イヌ歯髄・骨髄・脂肪CD31
−SP細胞の免疫調節能をmixed lymphocyte reactions(MLR)法にて、自己のイヌの末梢血単球の、他家の末梢血単球添加(これ自身増殖能なし)による増加を、3種の培養上清がそれぞれ抑制することにより検討した。その結果、歯髄・骨髄・脂肪ともにCD31
−SP細胞は、自己の末梢血単球の増加を有意に抑制し、3種の間に有意差は認められなかった(
図15)。よって、3種とも同様の免疫調整能を有することが示唆された。