特許第5939576号(P5939576)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本コンラックスの特許一覧

<>
  • 特許5939576-紙葉類識別装置 図000003
  • 特許5939576-紙葉類識別装置 図000004
  • 特許5939576-紙葉類識別装置 図000005
  • 特許5939576-紙葉類識別装置 図000006
  • 特許5939576-紙葉類識別装置 図000007
  • 特許5939576-紙葉類識別装置 図000008
  • 特許5939576-紙葉類識別装置 図000009
  • 特許5939576-紙葉類識別装置 図000010
  • 特許5939576-紙葉類識別装置 図000011
  • 特許5939576-紙葉類識別装置 図000012
  • 特許5939576-紙葉類識別装置 図000013
  • 特許5939576-紙葉類識別装置 図000014
  • 特許5939576-紙葉類識別装置 図000015
  • 特許5939576-紙葉類識別装置 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939576
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】紙葉類識別装置
(51)【国際特許分類】
   G07D 7/121 20160101AFI20160609BHJP
   G07D 7/1205 20160101ALI20160609BHJP
   G07D 7/202 20160101ALI20160609BHJP
   G07D 7/00 20160101ALI20160609BHJP
【FI】
   G07D7/121
   G07D7/1205
   G07D7/202
   G07D7/00 D
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-270974(P2012-270974)
(22)【出願日】2012年12月12日
(65)【公開番号】特開2014-115930(P2014-115930A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】307003777
【氏名又は名称】株式会社日本コンラックス
(74)【代理人】
【識別番号】100157118
【弁理士】
【氏名又は名称】南 義明
(72)【発明者】
【氏名】時庭 正明
(72)【発明者】
【氏名】木村 康行
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−052190(JP,A)
【文献】 特開2005−049109(JP,A)
【文献】 特開2012−127904(JP,A)
【文献】 特公昭44−007566(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G07D 7/12−7/128
G07D 7/00
G07D 7/202
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の微細線が並んで構成されたマイクロパターンを有する紙葉類を識別対象とする紙葉類識別装置において、
前記紙葉類を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段にて搬送される前記紙葉類の一面に光を照射する発光素子と、
前記搬送手段にて搬送される前記紙葉類の他面からの透過光を受光する受光素子と、
前記発光素子と前記受光素子を結ぶ線分上に開口を有し、前記搬送手段にて搬送される前記紙葉類と前記受光素子の間に位置する第1スリットと、
前記発光素子と前記受光素子を結ぶ線分上に開口を有し、前記第1スリットと前記受光素子の間に位置する第2スリットと、
前記受光素子が受光する前記紙葉類の他面からの透過光に基づいて、前記マイクロパターンの有無を判定する制御手段と、を備え
前記第1スリットと前記第2スリットの前記搬送手段の搬送方向における長さは、識別対象となる前記マイクロパターンの前記微細線の幅、もしくは、前記微細線間の間隔よりも小さいことを特徴とする
紙葉類識別装置。
【請求項2】
前記搬送手段の搬送方向における前記第1スリットと前記第2スリットの長さは、前記微細線の幅、もしくは、前記微細線間の間隔の80%未満であることを特徴とする
請求項に記載の紙葉類識別装置。
【請求項3】
複数の微細線が並んで構成されたマイクロパターンを有する紙葉類を識別対象とする紙葉類識別装置において、
前記紙葉類を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段にて搬送される前記紙葉類の一面に光を照射する発光素子と、
前記搬送手段にて搬送される前記紙葉類の他面からの透過光を受光する受光素子と、
前記発光素子と前記受光素子を結ぶ線分上に開口を有し、前記搬送手段にて搬送される前記紙葉類と前記受光素子の間に位置する第1スリットと、
前記発光素子と前記受光素子を結ぶ線分上に開口を有し、前記第1スリットと前記受光素子の間に位置する第2スリットと、
前記受光素子が受光する前記紙葉類の他面からの透過光に基づいて、前記マイクロパターンの有無を判定する制御手段と、を備え、
前記第1スリットと前記第2スリット間の長さは、前記微細線の幅、もしくは、前記微細線間の間隔の2倍以上であることを特徴とする
紙葉類識別装置。
【請求項4】
前記受光素子から出力される受光出力信号を周波数変換して周波数変換情報を生成し、前記周波数変換情報に基づいて前記マイクロパターンの有無を識別することを特徴とする
請求項1から請求項の何れか1項に記載の紙葉類識別装置。
【請求項5】
前記周波数変換情報の所定周波数領域の値に基づいて、前記マイクロパターンの有無を識別することを特徴とする
請求項に記載の紙葉類識別装置。
【請求項6】
前記周波数変換情報の第1の周波数領域の値に対する第2の周波数領域の値に基づいて、前記マイクロパターンの有無を識別することを特徴とする
請求項に記載の紙葉類識別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣や金券など紙葉類の真贋判定を行う紙葉類識別装置に関する。特に、紙葉類に設けられたマイクロパターン(万線パターン)に基づいて真贋判定を行う紙葉類識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動販売機など紙幣の取り扱いを可能とする各種機器では、紙幣の真贋判定に基づいて適正な紙幣のみ受け付けることが行われている。従来、紙幣の真贋判定は、紙幣に印刷された印刷模様や、印刷の色味などに基づいて行われている。ところで、現行の紙幣においては、多数の微細線を並記しておき、微細線の間隔を僅かにずらすことで文字や図形を潜像として目視させるマイクロパターン(「万線パターン」ともいう)が採用されている。
【0003】
従来、紙幣の真贋判定は、このマイクロパターン領域を見たとき潜像が視認できるか否か、すなわち、人の目視によって確認されるものであった。
【0004】
特許文献1には、このマイクロパターンを装置にて真贋判定を行う紙葉類の真偽判別装置が開示されている。この真偽判定装置では、紙葉類の透過光を、潜像模様の文字や図形の線画部分で凹凸の線状パターンのずらし量よりも小さい間隔の周期の解像度で電気信号に変換することで、凹凸形状に対応した明暗万線パターンを取得することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4909696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、マイクロパターン(明暗万線パターン)は、紙葉類の一方の面に照射光をあて、紙葉類を透過した透過光を観察することで確認することが可能である。しかしながら、紙葉類に光を透過させた場合、紙葉類の表面、内部において光の散乱が発生し、受光する際にはノイズ成分となってマイクロパターンの観察を困難にしてしまうことが分かった。また、紙葉類識別装置にて識別対象となる紙幣は、折れやシワを有するものが大半であり、このような折れやシワによって光の散乱はさらに顕著なものとなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのため本発明に係る紙葉類識別装置は、以下の事項を特徴とするものである。
複数の微細線が並んで構成されたマイクロパターンを有する紙葉類を識別対象とする紙葉類識別装置において、
前記紙葉類を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段にて搬送される前記紙葉類の一面に光を照射する発光素子と、
前記搬送手段にて搬送される前記紙葉類の他面からの透過光を受光する受光素子と、
前記発光素子と前記受光素子を結ぶ線分上に開口を有し、前記搬送手段にて搬送される前記紙葉類と前記受光素子の間に位置する第1スリットと、
前記発光素子と前記受光素子を結ぶ線分上に開口を有し、前記第1スリットと前記受光素子の間に位置する第2スリットと、
前記受光素子が受光する前記紙葉類の他面からの透過光に基づいて、前記マイクロパターンの有無を判定する制御手段と、を備え
前記第1スリットと前記第2スリットの前記搬送手段の搬送方向における長さは、識別対象となる前記マイクロパターンの前記微細線の幅、もしくは、前記微細線間の間隔よりも小さいことを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明に係る紙葉類識別装置において、
前記搬送手段の搬送方向における前記第1スリットと前記第2スリットの長さは、前記微細線の幅、もしくは、前記微細線間の間隔の80%未満であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る紙葉類識別装置は、
複数の微細線が並んで構成されたマイクロパターンを有する紙葉類を識別対象とする紙葉類識別装置において、
前記紙葉類を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段にて搬送される前記紙葉類の一面に光を照射する発光素子と、
前記搬送手段にて搬送される前記紙葉類の他面からの透過光を受光する受光素子と、
前記発光素子と前記受光素子を結ぶ線分上に開口を有し、前記搬送手段にて搬送される前記紙葉類と前記受光素子の間に位置する第1スリットと、
前記発光素子と前記受光素子を結ぶ線分上に開口を有し、前記第1スリットと前記受光素子の間に位置する第2スリットと、
前記受光素子が受光する前記紙葉類の他面からの透過光に基づいて、前記マイクロパターンの有無を判定する制御手段と、を備え、
前記第1スリットと前記第2スリット間の長さは、前記微細線の幅、もしくは、前記微細線間の間隔の2倍以上であることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明に係る紙葉類識別装置は、
前記受光素子から出力される受光出力信号を周波数変換して周波数変換情報を生成し、前記周波数変換情報に基づいて前記マイクロパターンの有無を識別することを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明に係る紙葉類識別装置は、
前記周波数変換情報の所定周波数領域の値に基づいて、前記マイクロパターンの有無を識別することを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明に係る紙葉類識別装置は、
前記周波数変換情報の第1の周波数領域の値に対する第2の周波数領域の値に基づいて、前記マイクロパターンの有無を識別することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る紙葉類識別装置によれば、紙幣の透過光を受光する受光素子の前段に、発光素子と受光素子を結ぶ線分上に開口を有する第1スリットと第2スリットを設けたことで、紙幣の表面や内部、紙幣の折れやシワなどで発生する散乱光の影響を抑え、識別対象とするマイクロパターンの識別精度の向上を図ることが可能となる。また、紙幣に入射させる光についても高い精度を必要とすることがないため、製造コストや手間の削減、メンテナンス性の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態で使用する紙幣(紙葉類)の表面を示す図
図2】本発明の実施形態に係る紙葉類識別装置における紙幣搬送の様子を示す上面図
図3】紙葉類の透過光における散乱の様子を説明する図
図4】紙葉類の透過光における散乱抑制のための一例を説明する図
図5】本発明の実施形態に係る紙葉類識別装置の構成を示す側断面図
図6】本発明の実施形態に係るセンサ部の構成を示す側断面図
図7】本発明の実施形態に係る紙葉類識別装置の制御構成を示すブロック図
図8】本発明の実施形態に係るマイクロパターン識別処理を示すフロー図
図9】本発明の実施形態に係るセンサ部における第1スリットと第2スリットの間隔について数値的検証を説明するための図
図10】本発明の実施形態に係る受光出力信号を示す図(微細線は発光素子側)
図11】本発明の実施形態に係る受光出力信号を示す図(微細線は発光素子側)
図12】スリットを1つとした場合の受光出力信号を示す図(微細線は発光素子側)
図13】スリットを1つとした場合の受光出力信号を示す図(微細線は受光素子側)
図14】本発明の実施形態に係る周波数変換情報を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
では、本発明に係る紙葉類識別装置についてその実施形態を説明する。図1は、本発明の実施形態で識別対象となる紙幣(紙葉類)の表面を示す図である。本発明に係る紙葉類識別装置において、識別対象とする紙葉類は、このような紙幣以外に、金券、証券、クーポン券のような各種有価証券などマイクロパターンを有する各種紙葉類を対象とすることが可能である。
【0017】
図1に示す紙幣は、紙葉類の一例として、現行の千円札の表面を示した図であり、中央には透かし領域B2が設けられている。この千円札の左下には、マイクロパターン領域が形成されている。このマイクロパターン(「万線パターン」ともいう)は、線幅約0.08mm〜0.10mmで縦方向に長い微細線を、横方向に略等間隔(約0.08〜0.10mm)で並べたパターンであり、各微細線間の間隔を僅かにずらすことで、潜像模様(現行の千円札では「1000」の文字)が形成されている。本発明の紙葉類識別装置は、このマイクロパターンの有無を識別することで、紙葉類の真贋判定を行うものである。
【0018】
図2は、本発明の実施形態に係る紙葉類識別装置1における紙幣搬送の様子を示す上面図である。図2は、紙葉類識別装置1に対して、識別対象となる紙幣B(図1と同じ紙幣B)が搬送される様子が示されている。図は、紙葉類識別装置1の下部構成について、その上面図を示している。
【0019】
紙葉類識別装置1では、紙幣Bを搬送手段としての駆動ローラ42A〜42Dが設けられている。他の搬送手段などにて紙幣識別装置1に到着した紙幣Bは、この駆動ローラ42A〜42Dと、それぞれに対向する対向ローラ43A〜43Dとの間で、紙幣Bの上下部分が挟持され、図中、左方向に搬送される。紙葉類識別装置1において、紙幣Bの搬送路を形成する一方の搬送路には、紙幣Bのマイクロパターンを識別するためのセンサ部20A、20Bが2箇所設けられている。本実施形態の下部構成では、このセンサ部20A、20Bには、受光側の構成が配置される。
【0020】
紙幣Bが図のような向きで紙葉類識別装置1を通過する場合、2つのセンサ部20A、20Bの内、センサ部20Aの何れか一方にてマイクロパターンの有無を識別することになる。図のような紙幣Bの挿入方向の場合、マイクロパターンが印刷された側に光が照射され、下方に位置するセンサ部20Aにて透過光を受光することとなる。紙幣Bの挿入方向によって、紙幣Bの上下が反転する場合、紙幣Bの表裏が反転する場合があり、各場合において、マイクロパターン領域B1の通過位置、並びに、マイクロパターン領域B1の印刷側が異なることとなる。紙葉類識別装置1では、紙幣Bの挿入方向を検出することで、センサ部20A、20Bのどちらをマイクロパターンの識別に使用するか、そして、使用するセンサ部20A、20Bの識別処理を切り替えることとしている。
【0021】
では、マイクロパターンの識別について図3図4を用いて、その手法、並びに、課題について説明を行う。図3は、透過光を利用したマイクロパターンの識別構成について示した図であって、紙幣の断面方向から見た断面図となっている。この図では、マイクロパターンを形成する微細線印刷部B1a(微細線を構成するインクが乗った部分)は、発光素子21側に位置している。発光素子21から照射された光は紙幣Bの一面に入射する。このとき、紙幣Bに到達した光は微細線印刷部B1aによって遮光される。一方、微細線
印刷部B1aの間に到達した光は、紙幣Bを透過して受光素子23側に入射する。このとき紙幣Bの内部、表面では光の散乱が発生し、発光素子23に対しては正規光以外に散乱光が入射することとなる。実際の紙葉類識別装置では、紙幣Bの折れやシワ、そして、搬送時の波打ちなどにより、受光素子23に入射する散乱光はさらに顕著となる。
【0022】
このような散乱光は、微細線印刷部B1aが形成する形成される暗部領域に回り込むこととなり、受光素子23が出力するマイクロパターン識別のための信号における不要なノイズ成分となって現れる。実際の紙葉類識別装置1にて実験したところ、受光素子23から出力される信号は、所定間隔の波形のきれいな波形とならず、マイクロパターンの識別には適したものとはならなかった。発光素子21の発光強度を強くすることで信号のSN比を改善することも行ってみたものの、暗部領域に対して散乱光量が増大してしまうため、上述する問題の解決とすることはできなかった。
【0023】
このような散乱光を抑制するための解決手段として光学系を介して発光素子21から光を照射することが考えられる。図4には、紙葉類の透過光における散乱抑制を図るため、発光素子21側に光学系Fを設けた形態が示されている。このような形態では、発光素子21から出射した光は、光学系Fにて集光され受光素子23に入射する。このように光学系Fを用いることで、紙幣Bにて発生する散乱光を抑制することが可能である。しかしながら、このような形態においては、光学系Fを用いなければならないこと、さらに、光学系Fの位置合わせを適正に行わなければ散乱光を効果的に抑制することは困難である。
【0024】
図4のような光学系Fを採用した形態では、散乱光の抑制を行うことは可能であると共に、光学系Fを設けることでコスト高となってしまう。また、紙葉類識別装置1では、詰まった紙葉類を取り除くため、紙葉類の搬送路は開閉機構を採用することが多い。このような開閉機構では、開閉した際、発光素子側の構成と受光素子側の構成で位置ずれが生じる可能性がある。厳密な位置合わせを必要とする光学系Fを採用する形態では、このような位置ずれが生じた場合、発光素子21が照射する光が受光素子23に到達しなくなるという問題もある。
【0025】
本発明はこのような課題を鑑み、簡易な構成にて散乱光を抑制し、マイクロパターンの識別を行う紙葉類識別装置を提供することを目的としている。
【0026】
図5は、本発明の実施形態に係る紙葉類識別装置の構成を示す側断面図である。ちょうど、図2の紙葉類識別装置1を横方向から見て、センサ部20A付近で切断したときの断面図となっている。紙葉類識別装置1は、搬送手段とセンサ部20を有して構成されている。この他、搬送手段、センサ部20の制御、並びに、マイクロパターンの有無を識別する制御手段を有している。
【0027】
図5には、2つの駆動ローラ42A、42Bが図示されている。この駆動ローラ42A、42Bと対向して、対向ローラ43A、43Bが配置されている。駆動ローラ42A、42Bは、モータなどの駆動手段にて図示する矢印の方向に回転する。また、対向ローラ43A、43Bは、この駆動ローラ42A、43Bに当接する位置に配置され、紙葉類識別装置1に挿入された紙幣Bを図中、左方向に搬送する。
【0028】
紙葉類識別装置1には、対向する2つの搬送路壁11A、11Bによって紙幣Bが通過する搬送路が形成されている。この搬送路の一方(搬送路壁11A側)には、基板24上に配置された受光素子23が配置されている。この受光素子23には、受光した透過光の明暗強度を検出可能なフォトディテクタ(PD)を使用している。また、この搬送路の他方(搬送路壁11B側)には、基板22に配置された発光素子21(本実施形態ではLEDを使用)が配置されている。発光素子21から照射された光は、搬送路中を搬送される
紙幣Bを透過して、受光素子23にて受光され、受光出力信号として変換出力される。受光素子23から出力される受光出力信号は、図示しない制御手段にてマイクロパターンの検出に使用される。
【0029】
図6は、紙葉類識別装置1のセンサ部20の詳細を示す側断面図であって、図5のセンサ部20を拡大した図である。搬送路壁11Bには、開口111が設けられており、発光素子21が照射する光を、搬送路内にて搬送される紙幣B側に導光する。受光側の構成として、前述した受光素子23の他、第1スリット形成板26、第2スリット形成板27が設けられている。各第1スリット形成板26、第2スリット形成板27には、発光素子21から照射された光(紙幣Bの透過光)を受光するため、それぞれ第1スリット261、第2スリット271が設けられている。本実施形態では、この第1スリット形成板26と第2スリット形成板27の周囲を接続部29で接続してユニット化している。第1スリット261と第2スリット271は、発光素子21と受光素子23を結ぶ線分上に開口を有するよう各第1スリット形成板26と第2スリット形成板27に形成されている。このような2つのスリット261、271を通過させることで、受光素子23に到着する透過光は、その散乱成分が抑制された状態となり、識別対象とするマイクロパターン近傍の透過光を効果的に受光素子23側に導光することが可能となる。
【0030】
本実施形態では、マイクロパターン識別領域近傍での紙幣Bのばたつき(位置変動)を抑制するため、第1スリット261の周囲に受光側リブ25A、25Bが設けられている。この受光側リブ25A、25Bを設けたことで、マイクロパターン識別領域近傍における搬送路の幅を狭め、紙幣Bを安定させることが可能となっている。本実施形態では、搬送路の幅L2を1.2mm、受光側リブ25A、25Bの高を0.4[mm]としている。したがって、紙幣Bが通過できる搬送路の幅L1は0.8[mm]となる。
【0031】
また、本実施形態における受光素子23の幅W1は、1.5[mm]、第1スリット形成板26、第2スリット形成板27の紙幣進行方向に対する開口幅W2は、ともに0.05[mm]、第1スリット形成板26と第2スリット形成板27の間隔L3は、約1[mm]としている。
【0032】
このように本実施形態の紙葉類識別装置1では、2つのスリット261、271を採用したことで、受光素子23に入射する散乱光の影響を抑え、識別対象とするマイクロパターンの識別精度の向上を図ることが可能となる。さらに、紙幣Bに入射させる光についても、図4で説明したような光学系を必要としない、あるいは、簡易な光学系を採用する程度でよく、製造費用の削減を図ることが可能となる。そして、発光素子21についても図6に示すような比較的コストの安い砲弾型LED(発光面が砲弾の形状を有したLED)を採用することが可能であり、同様に製造費用の削減を図ることが可能となる。さらに、発光素子21、受光素子23、第1スリット261、第2スリット271の位置決めについても簡易に行うことが可能であり、製造時並びにメンテナンス時の手間を削減することが可能である。
【0033】
図7には、本発明の実施形態に係る紙葉類識別装置の制御構成を示すブロック図が示されている。本実施形態の紙葉類識別装置1は、発光素子21、受光素子23などを含むセンサ部20、紙幣搬送手段としての紙幣搬送部40、制御手段としての制御部30を含んで構成されている。センサ部20の受光素子23から出力された受光出力信号は、アンプ28にて増幅され、制御部30に出力される。紙幣Bを搬送する紙幣搬送部40は、駆動ローラ42A〜42Dを回転駆動する駆動部としてのモータ42、駆動ローラ42A〜42Dの何れかに設けられ、その回転量を検出するエンコーダ41を含んで構成されている。エンコーダ41から出力される回転量は、制御部30側にて駆動ローラの径など各種条件を使用して、紙幣Bの搬送速度に変換される。
【0034】
制御部30は、中央演算手段としてのCPU、プログラム、各種データを記憶する記憶手段としてのROM、RAMなどを有して構成されている。この制御部30は、駆動部42を駆動制御する駆動制御部35、エンコーダ41から出力される回転量に基づいて、紙幣Bの搬送速度を検出する紙幣速度検出部33、紙幣Bの搬送時間をカウントするタイマーカウンタ34が設けられている。A/Dコンバータ31は、アンプ28が出力する受光出力信号、搬送速度検出部33が出力する紙幣Bの搬送速度、タイマーカウンタ34が出力する紙幣Bの搬送時間をデジタル化してマイクロパターン判定部32(演算部)に出力する。マイクロパターン判定部32は、紙幣Bの搬送速度とその搬送時間などに基づいて、紙幣Bのマイクロパターン領域B1を判定し、当該マイクロパターン領域B1について取得した受光出力信号に基づいてマイクロパターンの有無を判定する。
【0035】
なお、搬送路に対するマイクロパターンの相対的位置は、前述したように紙幣Bの挿入方向によって異なることとなる。したがって、紙葉類識別装置1では、各種センサで紙幣の挿入方向を判定し、挿入方向に対応した位置の判定を行うこととしている。なお、図7などでは、マイクロパターンの識別に特化した構成について説明しているが、紙葉類識別装置1では、図示しないセンサなどによる紙幣Bの他の特徴に基づいて紙幣B(紙葉類)の真贋判定を行うこととしている。
【0036】
図8には、本発明の実施形態に係るマイクロパターン識別処理を示すフロー図が示されている。紙葉類識別装置1に対して紙幣Bが挿入されたことを検出すると、このマイクロパターン識別処理が実行開始される。まず、紙幣Bの挿入方向を判定するセンサ(図示せず)にて、紙幣Bの挿入方向が判定される(S101)。次に、S101で判定された紙幣Bの挿入方向に基づいて紙幣B上でマイクロパターンの位置が判定される(S102)。図2で説明したように、紙幣Bの挿入方向によって、紙葉類識別装置1に対するマイクロパターン領域B1の位置関係(上下位置、微細線印刷部B1aの表裏位置)は異なったものとなる。S102で検出されたマイクロパターンの位置は、紙葉類識別装置1に設けられたどちらのセンサ部20A、20Bを使用してマイクロパターンを検出するか、また、微細線印刷部B1aがどちらの面に位置するかによって判別のための閾値を変化せるために使用される。
【0037】
制御部30は、S102で判定されたマイクロパターンの位置に基づき、センサ部20A、20Bの何れか一方から出力される受光出力信号を取得して制御部30内のRAMなどに記憶する。マイクロパターンの有無検出は、この受光出力信号に基づいて行われることになる。本実施形態では、この受光出力信号に対してFFTなどの周波数変換を施して周波数変換情報に変換(S104)し、周波数変換情報の特性値に基づいて判定することとしている。また、本実施形態では、紙幣Bの挿入方向にて、微細線印刷部B1aが発光素子21側、あるいは、受光素子23側に位置することを鑑み、判定のための閾値を変化させている。
【0038】
周波数変換情報の特性値は、例えば、次のように設定することができる。図14には、マイクロパターン領域B1における受光出力信号に対して周波数変換を行った周波数変換情報の実測値が示されている。図14(A)は、微細線印刷部B1aが発光素子21側に位置する場合であり、図14(B)は、微細線印刷部B1aが受光素子21側に位置する場合の周波数変換情報である。この実施形態では、紙幣Bのマイクロパターンは、搬送速度との関係から1000[Hz]付近のピークとして観察される。
【0039】
マイクロパターンの検出は、この周波数変換情報中、1000[Hz]付近の周波数領域(領域A)を積分した値に基づいて、当該値が閾値以上であることを条件としてマイクロパターン有りと判定する手法が考えられる。このような判定形態以外に、他の周波数領
域(領域B)を参照することで、SN比の変動による誤判定を抑制することも可能である。例えば、領域Bを積分した値と領域Aを積分した値の比が閾値以上であることを、マイクロパターン検出の条件とすることが考えられる。ホワイトノイズのようなノイズ成分は全周波数領域に重畳されることが多く、このように他の領域Bとの比に基づいて判定を行うことで、SN比の変動による誤判定を抑制することが可能となる。
【0040】
上述した実施形態では、(1)マイクロパターンによる周波数(1000[Hz])付近の周波数領域(領域A)積分値、あるいは、(2)領域Aの積分値と、他の周波数領域(領域B)の積分値との比に基づいて、マイクロパターンの検出を行うこととしているが、マイクロパターンの検出は、各領域A、B中の最大値(ピーク)を使用して行うことも可能である。すなわち、(1’)マイクロパターンによる周波数(1000[Hz])付近の周波数領域(領域A)最大値、あるいは、(2)領域Aの最大値と、他の周波数領域(領域B)の最大値との比によって行うこととしてもよい。
【0041】
また、図14(A)と図14(B)を対比した場合、マイクロパターンによるピーク値の大きさは、微細線印刷部B1aが発光素子21側に位置する場合(図14(A))と、受光素子23側に位置する場合(図14(B))とで異なることが分かる。このような違いに対応するため、微細線印刷部B1aの位置(紙幣Bの挿入方向に依存)によって、判定のための閾値を切り換えることで、より正確にマイクロパターンの判定を行うことが可能となる。
【0042】
図8のマイクロパターン識別処理に戻り、マイクロパターンの判定について説明を行う。図14で説明したように、本実施形態では、微細線印刷部B1aが発光素子21側にある場合と受光素子23側にある場合で、マイクロパターン判定のための閾値を異ならせている。この微細線印刷部B1aの位置は、S102の判定結果に基づいている。微細線印刷部B1aが発光素子21側にあると判定された場合(S105:Yes)には、第1閾値を使用してマイクロパターンを判定する。S104で変換された周波数変換情報の特性値(マイクロパターンに対応する周波数領域の値など)が第1閾値以上である場合(S106:Yes)、マイクロパターン有りと判定する(S108)。一方、特性値が第1閾値よりも小さい場合(S106:No)には、マイクロパターン無しと判定する(S109)。
【0043】
また、微細線印刷部B1aが受光素子23側にあると判定された場合(S105:No)には、第2閾値を使用してマイクロパターンを判定する。S104で変換された周波数変換情報の特性値が第2閾値以上である場合(S107:Yes)、マイクロパターン有りと判定する(S108)。一方、特性値が第2閾値よりも小さい場合(S107:No)には、マイクロパターン無しと判定する(S109)。このように本実施形態のマイクロパターン識別処理は、マイクロパターンの表裏位置を考慮したものとなっており、表裏位置に応じて閾値を異ならせることで、より正確なマイクロパターン検出を行うことが可能となっている。
【0044】
では、本実施形態の紙葉類識別装置1において、散乱光を抑制する第1スリット261、第2スリット271について、構成の数値的検証を行う。図1で説明した千円札など現行の紙幣Bにおけるマイクロパターンでは、その微細線幅W0が約0.08[mm]〜0.10[mm]、また、微細線の間隔も同様に約0.08[mm]〜0.10[mm]となっている。各第1スリット261、第2スリット271の紙幣搬送方向に対する長さ(図6のW2)は少なくとも、この微細線幅、微細線の間隔よりも小さくすることが好ましい。したがって、現行の紙幣Bをマイクロパターンの識別対象とした場合、長さW2の上限は0.08[mm]に留められる。さらに好適には、微細線幅、もしくは、微細線間の間隔の80%未満とすることが好ましい。長さW2の下限については、光量不足との関係
上、微細線幅、微細線の間隔の20%以上とすることが好ましい。本実施形態では、この長さW2を0.05[mm]に設定している。
【0045】
次に、第1スリット261と第2スリット271の間隔(図6のL3)について数値的検証を行う。図9には、紙幣B、第1スリット26、第2スリット27の配置の様子を示した模式図である。ここでは、最も散乱光が受光素子23に入射しやすい条件を用いて、第1スリット形成板26と第2スリット形成板27の間の距離L3について数値的に検証を行う。
【0046】
前述したように、本実施形態では第1スリット261、第2スリット271の幅W2は、0.05[mm]に設定されている。また、図6において搬送路の幅L2は1.2[mm]に設定されているため、紙幣が最も受光素子23から離れて搬送される距離L4も1.2[mm]となることが分かる。図9において暗部で示される直角三角形は、微細線印刷部B1aの中心がちょうど第1スリット261と第2スリット271の中心軸上に位置した場合であって、受光素子23が微細線印刷部B1aにて遮光可能な位置となっている。紙幣Bがさらに発光素子21側(図面上方)に位置した場合には、この微細線印刷部B1a周囲からの透過光が受光素子23に入射することとなる。
【0047】
微細線印刷部B1aの幅W0は、現行の紙幣Bでは0.08〜0.01[mm]である。ここでは最も厳しい条件であるW0が0.08[mm]の場合について検証を行う。暗線で示す直角三角形は、角度αを共通に持つ直角三角形であることから以下の条件式が成り立つ。
tanα=W2/L3=W3/(L3+L4)
ここで、W3=W0/2+W2/2であって、
W0=0.08[mm]、W2=0.05[mm]、L4=1.2[mm]を上記条件式に代入すると、L3=4[mm]と算出される。したがって、現行の紙幣Bのマイクロパターンを識別対象とした場合、第1スリット261と第2スリット271間の長さL3の理論上の下限値は4[mm]となる。
【0048】
この長さL3の下限値は、微細線印刷部B1aの幅W0と、第1スリット26と紙幣B間の距離L4に依存することとなる。下記表1にW0とL4を変化させた場合の長さL3の下限値についてまとめておく。長さL3の理論上の下限値は0.8〜4[mm]となる。
【0049】
【表1】
【0050】
実際に計測対象となるマイクロパターンは明暗の変化であって、特に、本実施形態では、マイクロパターンの周波数特性を取得できるものであれば足りる。したがって、この理論値に対し1/4の長さまで許容されたものとなる。故に、W0が0.08〜0.10[mm]である現行の紙幣Bについては、長さL3の実際の下限値は上述したL3の理論上の下限値の1/4、すなわち、0.2〜1[mm]とすることが好ましい。また、長さL3の上限値は、受光素子23に届く透過光のSN比を考慮すると、実際の下限値の倍、す
なわち、0.4〜2[mm]程度とすることが好ましい。以上のことは、識別対象となるマイクロパターンの微細線の幅微細線間の間隔を基準として規格化すると、長さL3の下限値は、微細線の幅もしくは微細線間の間隔の2倍、上限値は微細線の幅もしくは微細線間の間隔の25倍となる。
【0051】
図10図11には、2つのスリット261、271を採用した本実施形態の紙葉類識別装置1における実際の計測結果が示されている。図10は、微細線印刷部B1aが発光素子21側に位置した場合の計測結果であり、図11は、微細線印刷部B1aが受光素子23側に位置した場合の計測結果である。また、各図において(A)は、マイクロパターンを含む領域の波形であり、(B)は、マイクロパターンにおいて(A)を時間(横軸)、電圧値(縦軸)共に拡大した図となっている。
【0052】
各図(A)をみるに、両波形とも、紙幣Bの散乱光の影響を受けずにフラットな波形が得られている。また、各図(B)をみるに、マイクロパターンによる波形が取得できていることが分かる。
【0053】
2つのスリット261、271を採用したことの効果を確認するため、スリットを1つのみとした場合について、計測結果を図12図13に示しておく。図12は、微細線印刷部B1aが発光素子21側に位置した場合の計測結果であり、図13は、微細線印刷部B1aが受光素子23側に位置した場合の計測結果である。縦軸は図10図11と同じスケールである。どちらも紙幣Bのばたつき等による散乱光の影響を受け、大きくうねった波形となっていることが分かる。
【0054】
図14には、2つのスリット261、271を採用した本実施形態の紙葉類識別装置1について、受光素子23にて取得した波形(図10図11)に対して、周波数変換(FFT)を行った結果(周波数変換情報)を示したものである。図14(A)は、微細線印刷部B1aが発光素子21側に位置した場合の計測結果であり、図14(B)は、微細線印刷部B1aが受光素子23側に位置した場合の計測結果である。
【0055】
どちらも、1000[Hz]付近にマイクロパターンによるピークが発生していることが分かる。前述したように、この1000[Hz]付近の周波数領域の値に基づいて、紙幣Bについてマイクロパターンの有無を識別することが可能となる。
【0056】
以上、本実施形態の紙葉類識別装置1によれば、2つの第1スリット261、第2スリット271を設けたことで、受光素子23に紙幣Bで発生した散乱光が入射することを効果的に抑制し、紙幣B上のマイクロパターンの有無を精度良く判別することが可能となる。また、発光素子21側についても、高い精度の光学系を設けることを必要とすることなく、また、発光素子21に砲弾型LEDを採用するなど、コスト面においても削減を図ることが可能となる。
【0057】
なお、本発明はこれらの実施形態のみに限られるものではなく、それぞれの実施形態の構成を適宜組み合わせて構成した実施形態も本発明の範疇となるものである。
【符号の説明】
【0058】
1…紙葉類識別装置
11…搬送路壁
111…開口
20…センサ部
21…発光素子(LED)
22、24…基板
23…受光素子
25A、B…受光側リブ
26…第1スリット形成板
261…第1スリット
27…第2スリット形成板
271…第2スリット
28…アンプ
30…制御部
31…A/Dコンバータ
32…マイクロパターン判定部(演算部)
33…搬送速度検出部
34…タイマーカウンタ
35…駆動制御部
40…紙幣搬送部
41…エンコーダ
41…駆動部(モータ)
42…駆動ローラ
43…対向ローラ
B…紙幣
B1…マイクロパターン領域
B2…透かし領域
F…光学系
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14