特許第5939613号(P5939613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5939613-内燃機関用プーリ及び内燃機関 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939613
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】内燃機関用プーリ及び内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/36 20060101AFI20160609BHJP
   F02B 67/06 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   F16H55/36 Z
   F02B67/06 D
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-17945(P2012-17945)
(22)【出願日】2012年1月31日
(65)【公開番号】特開2013-155823(P2013-155823A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2015年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】河野 直久
(72)【発明者】
【氏名】山崎 貴巳
(72)【発明者】
【氏名】吉持 壮
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−032534(JP,U)
【文献】 実開昭60−018358(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/36
F02B 67/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関本体の外側面に近接した状態で配置されて、前記機関本体に設けた貫通穴から横向きに突出した回転軸の端部に固定されるプーリであって、
ベルトが巻き掛けられる外周部と、前記外周部に一体に設けた円板状部とを備えており、前記円板状部が前記回転軸に固定される構成において、
前記円板状部は、前記外周部が一体に設けられた外側部分と、前記回転軸の端面に固定される内側部分と、前記外側部分及び内側部分に連接されて前記回転軸に向けて突出する中間筒部とから成っており、このため前記円板状部は側面視で凸形に形成されており、
前記外側部分と中間筒部との連接部に、前記外側部分の外面に沿って垂れ落ちた水滴が入り込む環状溝を、その内径が前記中間筒部の外径より小径になるようにして形成している、
内燃機関用プーリ。
【請求項2】
外側面に設け貫通穴から回転軸を横向き突出させた機関本体と、前記回転軸の端面に固定されたプーリとを有しており、前記プーリは、ベルトが巻き掛けられる外周部と、前記外周部に一体に設けた円板状部とを備えており、前記円板状部が前記回転軸に固定されている構成であって、
前記プーリの円板状部は、前記外周部が一体に設けられた外側部分と、前記回転軸の端面に固定される内側部分と、前記外側部分及び内側部分に連接されて前記回転軸に向けて突出する中間筒部とから成っており、このため前記円板状部は側面視で凸形に形成されており、前記プーリの外側部分と中間筒部との連接部に、前記外側部分の外面に沿って垂れ落ちた水滴が入り込む環状溝を形成している一方、
前記機関本体には、前記環状溝に向かって延びるフランジを形成している、
内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えばクランク軸の動力を補機類に伝達する補機駆動プーリのように、機関本体の外側面に近接して配置されるプーリ、及び、このプーリを備えた内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関において、クランク軸のうちシリンダブロックの外側に突出した一端部にタイミングプーリ(又はスプロケット)と補機駆動プーリとを固定しており、タイミングプーリ(又はスプロケット)には動弁機構を駆動するタイミングベルト(又はチェーン)が巻き掛けられ、補機駆動プーリには補機駆動用ベルトが巻き掛けられている。
【0003】
この場合、補機駆動プーリと補機駆動用ベルトは外側に露出しているが、タイミングベルト(又はスプロケット)及びタイミングプーリ(又はチェーン)は機関本体の一部を構成するカバーで覆われていてタイミングベルト室に配置されており、カバーには、クランク軸が余裕を持って嵌まる貫通穴が空いている。
【0004】
他方、プーリに水滴が付着することがあり、そこでプーリに付着した水を除去する技術として、特許文献1には、ベルト溝に連通した水抜き穴を設けることが開示されており、特許文献2には、板金製のプーリにおいて、円板部に水切り穴を設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−257701号公報
【特許文献2】実開昭58−118353号のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、例えば車両用内燃機関の場合、機関の停止によって空気中の水分が凝集し、その水滴が補機駆動プーリの側面に付着することがある。この場合、機関本体と反対側の面に付着した水滴は内燃機関の始動によって機関の外部に吹き飛ばされるため問題はないが、補機駆動プーリのうちカバーと対向した面に付着した水滴は、補機駆動プーリを伝って、カバーに設けた貫通穴からタイミングベルト室に入り込むことがあり、すると、水がタイミングベルトに付着することで異音が発生したりタイミングベルトの強度が低下したりするおそれや、クランク軸等の部材の錆の原因になったりするおそれがあった。
【0007】
しかるに、特許文献1,2はプーリに付着した水を除去するものではあるが、タイミングベルト室に水が入り込むこと防止できない。従って、従来は、タイミングベルト室への水の侵入の対策は講じられていなかった。
【0008】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、プーリと内燃機関を含んでいる。このうちプーリは、請求項1に記載したように、機関本体の外側面に近接した状態で配置されて、前記機関本体に設けた貫通穴から横向きに突出した回転軸の端部に固定されるものであって、このプーリは、ベルトが巻き掛けられる外周部と、前記外周部に一体に設けた円板状部とを備えており、前記円板状部が前記回転軸に固定される構成において、
前記円板状部は、前記外周部が一体に設けられた外側部分と、前記回転軸の端面に固定される内側部分と、前記外側部分及び内側部分に連接されて前記回転軸に向けて突出する中間筒部とから成っており、このため前記円板状部は側面視で凸形に形成されており、
前記外側部分と中間筒部との連接部に、前記外側部分の外面に沿って垂れ落ちた水滴が入り込む環状溝を、その内径が前記中間筒部の外径より小径になるようにして形成している。
内燃機関は、請求項2に記載したように、
外側面に設け貫通穴から回転軸を横向き突出させた機関本体と、前記回転軸の端面に固定されたプーリとを有しており、前記プーリは、ベルトが巻き掛けられる外周部と、前記外周部に一体に設けた円板状部とを備えており、前記円板状部が前記回転軸に固定されている構成であって、
前記プーリの円板状部は、前記外周部が一体に設けられた外側部分と、前記回転軸の端面に固定される内側部分と、前記外側部分及び内側部分に連接されて前記回転軸に向けて突出する中間筒部とから成っており、このため前記円板状部は側面視で凸形に形成されており、前記プーリの外側部分と中間筒部との連接部に、前記外側部分の外面に沿って垂れ落ちた水滴が入り込む環状溝を形成している一方、前記機関本体には、前記環状溝に向かって延びるフランジを形成している」
というものである。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によると、プーリのうち機関本体と対向する側面に水滴が付着しても、その水滴はプーリの端面を伝って環状溝に流れ落ち、この環状溝から貫通穴の下方に流れ落ちる。従って、タイミングベルト室への水の侵入というような現象を的確に阻止して、水の侵入に起因したトラブルを阻止することができる。
また、円板状部に中間筒部を形成すると、回転軸の長さを長くすることなくプーリをできるだけ機関本体に近付けることができると共に、円板状部の剛性もアップできる利点がある。
【0011】
関本体の外面に水滴が付着することもあり得るが、請求項2の発明では、機関本体の外面を伝って流れる水滴を、フランジより、プーリの環状溝に入り込むようにガイドすることができるため、機関本体の外面からタイミングベルト室に水滴が入り込むことも防止可能である。従って、機関本体に水滴が付着することに起因したトラブルを的確に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1施形態の縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1において符号1は、請求項に記載した回転軸の一例としてのクランク軸を示し、このクランク軸1の両端寄り部位は、シリンダブロック(図示せず)に設けた一対のメインジャーナルで回転自在に保持されている。クランク軸1の一端と他端とはシリンダブロックの外側に露出しており、このうちクランク軸1の一端部1aに、動弁機構を駆動するための主動タイミングプーリ2と、補機駆動プーリ3とが固定されている。
【0014】
主動タイミングプーリ2は、クランク軸1の一端部1aに嵌まったカラー4に溶接又はキー係合等で固定されており、カラー4はキー係合によって主動タイミングプーリ2に固定されている。主動タイミングプーリ2には、動弁機構を駆動するためのタイミングベルト5が巻き掛けられている。敢えて述べるまでないが、タイミングベルト5は、主動タイミングプーリ2と反対側において、従動タイミングプーリに巻き掛けられている。
【0015】
主動タイミングプーリ2とタイミングベルト5とは、機関本体の一部を構成するカバー6で覆われており、これにより、シリンダブロックとカバー6との間にタイミングベルト室Sが形成されている。補機駆動プーリ3はカバー6に近接した状態で配置されている。カバー6には、クランク軸1が余裕を持って嵌まる貫通穴7が空いている。従って、貫通穴7の内周面とクランク軸1との間にはある程度の空間が空いている。
【0016】
補機駆動プーリ3は板金製であり、補機駆動用ベルト8が嵌まるベルト溝9aを外周面に形成した筒状の外周部(筒部)9と、外周部9の端面のうちうちカバー6に近い端部に一体に繋がった円板状部(リム部)10とを有しており、円板状部10の内側部分10aが、クランク軸1にねじ込まれたボルト11により、カラー4の端面に押さえ固定されている。
【0017】
カバー6のうち貫通穴7の内周部には外向きに突出した環状の第1フランジ12を形成しており、その外側には、同じく環状の第2フランジ13と第3フランジ14とを形成している。第1フランジ12の突出寸法は、第2フランジ13及び第3フランジ14の突出寸法よりも大きくなっている(なお、フランジは、リブと言い換えることも可能である。)。
【0018】
補機駆動プーリ3のうちカバー6の貫通穴7より半径内側の部位には、カバー6の内部に入り込む(機関本体の側に突出した)中間筒部15を形成しており、この中間筒部15の先端に、クランク軸1に固定される内側部分10aを一体に形成している。小径筒部15を形成したことで、補機駆動プーリ3の円板状部10は側面視凸形になっている。円板状部10のうち外周部9と中間筒部15とに連続した部分を外側部分10bと称する。
【0019】
そして、外側部分10bと中間筒部15との連接部をカバー6と反対側に膨出させる(凹ませる)ことにより、外側部分10bと中間筒部15との連接部に、カバー6の方向に開口した環状溝16を形成している。環状溝16は板金加工で形成しているため、全体に丸みを帯びている。また、環状溝16の奥部は、補機駆動プーリ3の回転中心の側に入り込んでおり、従って、環状溝16の内径D1は、中間筒部15の最大外径D2より小径になっている。また、カバー6における第1フランジ12の先端は環状溝16の開口部に位置している。
【0020】
以上の構成において、機関の停止後にエンジンルーム内の水分が凝集して、補機駆動プーリ3における外側部分10bの側面に水滴Wが付着しても、水滴Wは外側部分10bの側面を伝って環状溝16に流れ落ち、環状溝16から下方に流下する。また、第1フランジ12の先端が環状溝16の開口部に位置しているため、カバー6の外面のうち貫通穴7の上側の部位に水滴が付着しても、その水滴は第1フランジ12を伝って環状溝16に流下し、環状溝16から貫通穴7の下方に流下する。
【0021】
従って、補機駆動プーリ3又はカバー6に水滴が付着しても、水滴がタイミングベルト室Sに入り込むことはない。本実施形態のように円板状部10に小径筒部15を形成すると、クランク軸1の長さを長くすることなく、補機駆動プーリ3をできるだけカバー6に近付けることができると共に、円板状部10の剛性もアップできる利点がある。
【0022】
【0023】
【0024】
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば適用対象は補機駆動プーリには限らないのであり、補機駆動用ベルトが巻き掛けられているアイドルプーリなどにも適用できる。敢えて述べるまでもないが、プーリは板金製品である必要はなく、鋳造品などであってもよい
【産業上の利用可能性】
【0025】
本願発明は、内燃機関及びそのプーリに具体化できる。従って、産業上、利用できる。
【符号の説明】
【0026】
回転軸の一例としてのクランク軸
2 主動タイミングプーリ
プーリの一例としての補機駆動プーリ
5 タイミングベルト
6 機関本体の一部を構成するカバー
7 貫通穴
8 補機駆動ベルト
9 外周部
10 円板状部
10a 内側部分
10b 外側部分
12〜14 環状のフランジ
15 中間筒部
16 環状溝
S タイミングベルト室
W 水滴
図1