【実施例】
【0042】
以下、実施例に則して本発明を更に詳しく説明する。尚、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。又、本明細書中に引用される文献に記載された内容は、本明細書の一部として本明細書の開示内容を構成するものである。
[実施例1]
(ボトリオティニア・フケリアナ由来グルコース脱水素酵素(BfGLD)活性の確認)
ポテトデキストロースブロス(Difco社製)2.4%の培地100mLを500mL容の坂口フラスコに入れ、シリコ栓をし、121℃、20分間オートクレーブした。冷却したこの液体培地に、ボトリオティニア・フケリアナ(Botryotinia fuckeliana)NBRC7185株を接種し、25℃で216時間、通気撹拌の条件で菌体を培養した結果、培養上清に、培養液1mL当たり0.21U/mLのグルコース脱水素酵素活性が確認された。尚、グルコース酸化酵素(GOD)活性は検出されなかった。
GOD活性は、以下の方法で測定した。100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)1.00mL、25mM 4−アミノアンチピリン0.10mL、420mMフェノール0.10mL、ペルオキシダーゼ(100units/mL)0.10mL、超純水0.65mL、D−グルコース1.00mLを混合し、37℃で5分間保温後、酵素サンプル0.05mLを添加し、反応を開始した。反応開始時から酵素反応の進行に伴う500nmにおける吸光度の1分間あたりの増加量(ΔA500)を測定し、式2に従いGOD活性を算出した。この際GOD活性は、37℃、pH7.0で、1分間に1μmolの過酸化水素を生成する酵素量を1Uと定義した。尚、式中の3.0は反応試薬+酵素溶液の液量(mL)、10.66は本測定条件におけるモル吸光係数(mM
-1cm
-1)、0.5は1モルの過酸化水素の生成量に対するキノン型色素の生成量、1.0はセルの光路長(cm)、0.05は酵素溶液の液量(mL)、ΔA500blankは酵素の希釈に用いた溶液を酵素溶液の代わりに添加して反応開始した場合の500nmにおける吸光度の1分間あたりの増加量、dfは希釈倍率を表す。
【0043】
【数2】
【0044】
[実施例2]
(真核細胞による組み換えボトリオティニア・フケリアナ由来グルコース脱水素酵素(BfGLD)の発現)
(1)菌体培養
グルコース(ナカライ社製)1%(W/V)、脱脂大豆(昭和産業社製)2%(W/V)、コーンスティープリカー(サンエイ糖化社製)0.5%(W/V)、硫酸マグネシウム七水和物(ナカライ社製)0.1%(W/V)及び水からなる液体培地をpH6.0に調整し、100mLを500mL容の坂口フラスコに入れ、121℃、20分間オートクレーブした。冷却したこの液体培地に、ボトリオティニア・フケリアナNBRC7185株を接種し、25℃で90時間振とう培養した後、吸引ろ過により湿菌体を回収した。
【0045】
(2)染色体DNAの抽出
(1)で得られた菌体のうち湿菌体0.25gを液体窒素により凍結した後、粉砕し、常法により染色体DNAを抽出した。
【0046】
(3)BfGLD遺伝子の取得
(2)で取得したDNAを鋳型とし、BfGLD遺伝子をPCR増幅した。プライマーは、本発明者らによって既に解明されていた複数のGLD遺伝子配列から共通配列を解析し、その共通配列を基に縮重プライマーを設計して遺伝子断片を取得し、最終的に下記のプライマー:primer1F(配列番号15)及びprimer2R(配列番号16)を用いて、目的のGLD遺伝子全長(イントロンを含む)を含む約1.8kbpのDNA断片を取得した。primer1F:(TGACCAATTCCGCAGCTCGTCAAA)ATGTATCGTTTACTCTCTACATTTG(配列番号15)
(括弧内:転写増強因子)
primer2R:((GCTATCCTGTTACGCTTCTAGA))
GCATGCCTAAATGTCCTCCTTGATCAAATCT(配列番号16)
(二重括弧内:pSENSベクター配列、下線部:制限酵素部位(SphI))
primer3F:((CCGTCCTCCAAGTTA))
GTCGAC(TGACCAATTCCGCAGCTCGTCAAA)(配列番号17)
(二重括弧内:pSENSベクター配列、下線部:制限酵素部位(SalI)、括弧内:転写増強因子)
【0047】
(4)BfGLD遺伝子を含むベクターの調製
公知文献1(Aspergillus属の異種遺伝子発現系、峰時俊貴、化学と生物、38、12、831−838、2000)に記載してあるアスペルギルス・オリゼ由来のアミラーゼ系の改良プロモーターを使用し、その下流に(3)で得られたDNA断片を鋳型として上記のプライマー:primer3F(配列番号17)及び上記のプライマー:primer2Rを用いて増幅したGLD遺伝子を結合させることで、該遺伝子が発現可能なプラスミドベクターを調製した。この発現用プラスミドベクターを大腸菌JM109株に導入して形質転換し、得られた形質転換体を培養して、集菌した菌体から、Illustra plasmid−prep MINI Flow Kit(GEヘルスケア社製)を用いてプラスミドを抽出した。該プラスミド中のインサートの配列解析を行ったところ、イントロンを含むBfGLD遺伝子(配列番号3)が確認できた。
【0048】
(5)形質転換体の取得
(4)で抽出したプラスミドを用いて、公知文献2(Biosci. Biotech. Biochem.,61(8),1367−1369,1997)及び3(清酒用麹菌の遺伝子操作技術、五味勝也、醸協、494−502、2000)に記載の方法に準じて、BfGLDを生産する組み換えカビ(アスペルギルス・オリゼ)を作製し、得られた組み換え株をCzapek−Dox固体培地で純化した。使用する宿主としては、アスペルギルス・オリゼNS4株を使用した。本菌株は、公知文献2にあるように、1997年(平成9年)に醸造試験所で育種され、転写因子の解析、各種酵素の高生産株の育種などに利用され、分譲されているものが入手可能である。
【0049】
(6)組み換えカビ由来BfGLDの確認
パインデックス2%(松谷化学工業社製)(w/v)、トリプトン1%(BD社製)(w/v)、リン酸二水素カリウム0.5%(ナカライテスク社製)(w/v)、硫酸マグネシウム七水和物0.05%(w/v)(ナカライテスク社製)及び水からなる液体培地10mLを太試験管(22mm×200mm)に入れ、121℃、20分間オートクレーブした。冷却したこの液体培地に、(5)で取得した形質転換体を植菌し、30℃で3〜4日間振とう培養した。培養終了後、遠心して上清を回収し、組み換えBfGLD糖鎖有りサンプル(Sc(+)BfGLD)とした。
【0050】
前述の酵素活性測定法に従い組み換えSc(+)BfGLDのグルコース脱水素酵素活性(U/mL)を測定したところ、培養液1mL当たり、3日目が133U/mL、4日目が98U/mLのグルコース脱水素酵素活性を確認できた。尚、グルコース酸化酵素活性は確認できなかった。また、本発明の組み換えBfGLDは、基質濃度333mMにおいて、D−グルコースに対する活性を100%とした場合に、マルトース対する反応性が1.3%であった。
【0051】
(6)酵素の精製
D−グルコース1%(w/v)、大豆粉2%(w/v)、コーンスティープリカー0.5%(w/v)、硫酸マグネシウム七水和物0.1%(w/v)及び水からなる液体培地(pH7.0)50mLを200mL容の三角フラスコに入れ、121℃、20分間オートクレーブした。冷却したこの液体培地に、(5)で取得した形質転換体を植菌し、25℃で3日間振とう培養して種培養液とした。前記と同様の培地組成で消泡剤を添加した培地3.5Lを5L容ジャーファーメンターに入れ、121℃、20分間オートクレーブした。冷却したこの液体培地に、種培養液を50mL植菌し、30℃、300rpm、1v/v/mで7日間培養した。培養終了後、培養液をろ布でろ過し、回収したろ液を遠心して上清を回収し、更にメンブレンフィルター(10μm、アドバンテック社製)でろ過して培養上清を回収し、分画分子量8,000の限外ろ過膜(ミリポア社製)で濃縮して粗酵素液とした。粗酵素液の比活性は1,170U/mgだった。
【0052】
前記粗酵素液を、50%飽和硫酸アンモニウム溶液(pH5.0)になるように調整し、4℃で一晩放置後、遠心分離して上清を回収した。
該上清を、50%飽和硫酸アンモニウムを含む50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)で予め平衡化したTOYOPEARL Butyl−650C(東ソー社製)カラム(φ7.5cm×17.7cm)に通液して酵素を吸着させた。該カラムを同緩衝液で洗浄した後、同緩衝液から50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)へのグラジエント溶出法で酵素を溶出させて、活性画分を回収した。回収した活性画分を、限外濾過膜で濃縮後、脱塩し、1mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)と平衡化させ、同緩衝液で予め平衡化したDEAEセルファインA−500m(チッソ社製)カラム(φ6.0cm×21.9cm)に通液して酵素を吸着させた。該カラムを同緩衝液で洗浄した後、同緩衝液から200mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)へのグラジエント溶出法で酵素を溶出させて、活性画分を回収した。回収した活性画分を、分画分子量8,000の限外ろ過膜で濃縮後、水置換して組み換えBfGLD糖鎖有りサンプル(Sc(+)BfGLD)の精製酵素とした。該精製酵素の比活性は2,100U/mgだった。
更に、糖鎖切断前後の組み換えBfGLDをSDS−ポリアクリルアミド電気泳動に供して確認を行った。詳細には、組み換えSc(+)BfGLD5μLと1%SDS及び2%β―メルカプトエタノールを含む0.4Mリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)5μLを混合し、100℃で3分間熱処理を行った。糖鎖切断処理として、熱処理後のサンプルにエンドグリコシダーゼH(ロシュ製)を10μL(50mU)添加し、37℃で18時間反応させた。糖鎖切断処理前後のサンプルをSDS−ポリアクリルアミド電気泳動に供し、分子量マーカーより分子量を求めたところ、糖鎖切断前の酵素が90〜100kDa、糖鎖切断後の酵素が60〜70kDaの組み換えBfGLDを確認できた。
【0053】
[参考例1]
(原核細胞による組み換えボトリオティニア・フケリアナ由来グルコース脱水素酵素(BfGLD)の発現)
(1)BfGLD遺伝子のクローニング
実施例2の(4)で抽出したプラスミドを鋳型とし、BfGLD遺伝子をPCR増幅した。予想シグナル配列をコードする遺伝子配列を含まないBfGLD(16AA(−)BfGLD)遺伝子を得るために、野生型BfGLDの予想N末端からC末端をコードする遺伝子を増幅できる下記のprimer4F_BfGLD_Sig(-)/Sac(配列番号18)及びprimer5R_BfGLD/Hind(配列番号19)のプライマーセットを用いてPCRを行った。予想シグナル配列をコードする遺伝子配列を含まないポリヌクレオチドの取得は、分泌シグナル配列をコードする遺伝子配列を含む外来遺伝子を用いて大腸菌で組み換えタンパクを発現させる場合は、組み換えタンパクがペリプラズムに移行されるため生産性が悪いことから、組み換えタンパクを効率よく回収したい場合は、一般的にシグナル配列をコードする遺伝子配列を削除した配列を用いることが知られているためである。尚、PCRは、DNAポリメラーゼ、ExTaq(タカラバイオ社製)を使用し、反応条件は[94℃/30秒→50℃/1分→72℃/2分]×30サイクルとした。野生型BfGLDの予想N末端は、BfGLDの全長アミノ酸配列(配列番号2)と国際公開2006/101239号パンフレットの配列番号2に記載のアスペルギルス・テレウス由来グルコース脱水素酵素(AtGLD)との配列同一性を調べ、野生型AtGLDのN末端である国際公開2006/101239号パンフレットの配列番号2の20番目以降のアミノ酸配列から、野生型BfGLDのN末端は、配列番号1記載の17番目以降のアミノ酸配列であると予測した。
primer4F_BfGLD_Sig(-)/Sac:AAA
GAGCTCGAGCACCGACTCTACCTTAAA(配列番号18)
(下線部:制限酵素部位(SacI))
primer5R_BfGLD/Hind:CCC
AAGCTTCTAAATGTCCTCCTTGATC(配列番号19)
(下線部:制限酵素部位(HindIII))
PCRにより、46bpのイントロンを含み、予想シグナル配列をコードする48bpの塩基配列を含まない配列にプライマー付加配列が付加したDNA断片を取得した。
【0054】
次いで、イントロンを削除するため、前記で得られたDNA断片を鋳型として、primer4F_BfGLD_Sig(-)/Sac(配列番号18)及び下記のprimer6R_Bf_up(int)(配列番号20)のプライマーセット又は下記のprimer7F_Bf_(int)down(配列番号21)及びprimer5R_BfGLD/Hind(配列番号19)のプライマーセットを用いて各々前記PCR条件でPCR増幅した。
primer6R_Bf_up(int):GGGTGTATGCCATTCCATTGATAGTACTAGTCCCT(配列番号20)
primer7F_Bf_(int)down:GAATGGCATACACCCGAGCCGAAGAT(配列番号21)
得られた2つの増幅配列を1つのPCR増幅チューブに入れ、primer4F_BfGLD_Sig(-)/Sac(配列番号18)及びprimer5R_BfGLD/Hind(配列番号19)のプライマーセットを用いて前記PCR条件でPCR増幅し、イントロンを含まず、予想シグナル配列をコードする48bpの塩基配列を含まない16AA(−)BfGLD遺伝子にプライマー付加配列が付加したDNA断片を取得した。
【0055】
(2)BfGLD遺伝子を含むベクターの調製及び形質転換体の取得
pUC18ベクター(タカラバイオ社製)を制限酵素SacIとHindIIIで開裂し、同制限酵素処理したPCR増幅DNA断片をベクターにライゲーションし、大腸菌JM109株に導入して形質転換した。得られた形質転換体のうち6クローンよりプラスミドDNAを調製し、SacIとHindIIIで処理したところ全てのクローンで目的のサイズの断片が確認できた。そのうち1クローンについてプラスミドを調製してそのインサートの配列決定を行ったところ、イントロンを含まず、予想シグナル配列をコードする48bpの塩基配列を含まない配列番号50に記載の16AA(−)BfGLD遺伝子が確認された。
【0056】
(3)組み換え大腸菌由来BfGLDの確認
LB液体培地10mLを太試験管に入れ、シリコ栓をし、121℃、20分間オートクレーブした。冷却したこの液体培地に、50μg/mLアンピシリンを加え、(4)で作成した形質転換体を接種し、37℃で振とう培養した。培養液のOD600が約0.4〜0.5となった時点で、IPTGを1mM添加し、更に18時間振とう培養を行った。培養終了後、菌体を遠心により集め、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁した。超音波破砕装置を用いて菌体を破砕後、遠心して無細胞抽出液を調製した。前述の酵素活性測定法に従い組み換えBfGLD糖鎖無しサンプル(Sc(−)BfGLD)のグルコース脱水素酵素活性(U/mL)を測定したところ、培養液1mL当たり、0.703U/mLのグルコース脱水素酵素活性を確認できた。尚、グルコース酸化酵素活性は確認できなかった。
【0057】
(4)組み換えSc(−)BfGLDの精製
(2)で作成した形質転換体を、50μg/mLアンピシリンを含むLB液体培地10mLに植菌し、37℃で7時間振とう培養した後、50μg/mLアンピシリンを含むLB液体培地50mL入りの250mL容のマイヤーフラスコに植菌し、37℃で17.5時間振とう培養し、前培養液とした。50μg/mLアンピシリンを含むLB液体培地1.5L入りの2L容のジャーファーメンターに前培養液50mLを植菌し、37℃で培養し、培養液のOD600が約0.4〜0.5となった時点で、IPTGを1mM添加し、25.5時間通気撹拌条件で培養を行った。培養終了後、遠心により集めた菌体を、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に懸濁し、超音波破砕装置を用いて菌体を破砕後、遠心して無細胞抽出液を調製した。該無細胞抽出液の比活性は0.0182U/mgだった。前記無細胞抽出液を20mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)中で透析し、同緩衝液で平衡化したDEAE−セルロファインA−500カラムに通液し、溶出液を集めた。前記溶出液を5mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)中で透析し、同緩衝液で平衡化したDEAE−セルロファインA−500カラムに通液して酵素を吸着させた。該カラムを同緩衝液で洗浄した後、同緩衝液から0.3M 塩化カリウムを含む同緩衝液へのグラジエント溶出法で酵素を溶出させて活性画分を集めた。活性画分を分画分子量10000の限外濾過膜で濃縮し、脱塩後20mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に置換し、Sc(−)BfGLDの精製酵素とした。
更に、組み換えSc(−)BfGLDをSDS−ポリアクリルアミド電気泳動に供し、分子量マーカーより分子量を求めたところ約60kDaの組み換えSc(−)BfGLDを確認できた。
【0058】
[実施例3]
(組み換えBfGLDの公知配列との比較)
シグナル配列部分を含むBfGLDのアミノ酸配列は配列番号2に記載の通りだったが、該配列を用いてBLAST検索したところ、驚いたことにボトリオティニア・フケリアナ由来グルコース酸化酵素のアミノ酸配列と一致していた。しかし、本発明で得られたBfGLDは、実施例2の(6)に記載の通りグルコース脱水素酵素活性を有しており、グルコース酸化酵素活性は全くみられなかった。ボトリオティニア・フケリアナ由来グルコース酸化酵素のアミノ酸配列は公知文献4(Molecular Plant Pathology(2004)5(1),17−27)に記載されており、Botrytis cinerea(=Botryotinia fuckeliana)のセルフクローニングを行っていることが記載されている。更に該文献中に記載の公知文献5(Physiological and Molecular Plant Pathology(1998)53,123−132)に、野生型のBotrytis cinerea(=Botryotinia fuckeliana)由来グルコース酸化酵素の特性が記載されているが、該酵素はサブユニット分子量が35kDaで、ゲルろ過分子量が約160kDaの4量体酵素であることが記載されている。これに対して本発明の組み換えBfGLDは、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動における分子量が、真核細胞で組み換えた場合、糖鎖切断前の酵素が90〜100kDa、糖鎖切断後の酵素が60〜70kDaのグルコース脱水素酵素である。例えば、公知文献6(蛋白質核酸酵素(2004)49(5),625-633,Review)には、キサンチン脱水素酵素が、プロテアーゼによる部分分解でキサンチン酸化酵素へ変換されることが記載されている。つまり、立体構造が取られた後に、プロテアーゼにより分解されており、キサンチン脱水素酵素とキサンチン酸化酵素は同じ遺伝子に由来している。これらのことから、本発明のボトリオティニア・フケリアナ由来グルコース脱水素酵素とボトリオティニア・フケリアナ由来グルコース酸化酵素は、遺伝子配列から推測されるアミノ酸配列は同じ配列であっても、ボトリオティニア・フケリアナ由来グルコース脱水素酵素はサブユニット分子量が糖鎖切断前の酵素で90〜100kDa、糖鎖切断後の酵素で60〜70kDaであり、かつグルコース脱水素酵素活性を有しており、一方、論文記載のボトリオティニア・フケリアナ由来グルコース酸化酵素はサブユニット分子量が35kDaで、かつグルコース酸化酵素活性を有しており、構造、機能とも全く異なる酵素であり、両者の違いは、立体構造を取った後にプロテアーゼによる分解等何らかの修飾を受けるか否かによると推察される。特に、アスペルギルス属で組み換えた酵素においては、プロテアーゼ修飾による活性の変換は見られなかったため、アスペルギルス属で組み換え製造することは、組み換えBfGLDを効率的に製造できる有意義な方法と思われる。
【0059】
[実施例4]
(電極によるグルコースの測定)
組み換えBfGLD糖鎖有りサンプル(Sc(+)BfGLD)を使用し、電極によるD−グルコースの測定を行った。酵素0.16Uを搭載したグラッシーカーボン(GC)電極を用いて、グルコース濃度に対する応答電流値を測定した。電解セル中に、50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0又はpH7.0)1.8mL及び1M ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム(フェリシアン化カリウム)水溶液0.2mLを添加した。GC電極をポテンショスタットBAS100B/W(BAS製)に接続し、37℃で溶液を撹拌し、銀塩化銀参照電極に対して+500mVを印加した。これらの系に終濃度が10mMになるように1M D−グルコース溶液を5μl添加し、定常状態の電流値を測定した。更に各終濃度になるように1M D−グルコース溶液を添加し電流値を測定するという作業を、繰り返し、最終的に各グルコース濃度(5、10、20、30、40mM)の電流値を測定した。これをプロットしたところ、検量線が作成できた(
図1)。尚、50mM リン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)を用いて組み換えBfGLD糖鎖無しサンプル(Sc(−)BfGLD)についても同様に電流値を測定した結果、Sc(+)BfGLDの方が、Sc(−)BfGLDより約2倍のセンサ感度を示した。
【0060】
[実施例5]
(N末端解析)
組み換えBfGLD糖鎖有りサンプル(Sc(+)BfGLD)のN末端を解析したところ、STLNYであることが明らかになった。つまり、MYRLLSTFAVASLAAASTDの19アミノ酸がシグナル配列であり、該酵素は、翻訳後のペプチドからシグナルペプチダーゼによる修飾で、該19アミノ酸が削除された形で存在していることが分かった。
【0061】
[実施例6]
(シグナル配列変異)
組み換えカビによる組み換えBfGLD製造において、分泌シグナルの変異を行った。
下記に記載したプライマーを合成し、実施例2の(4)で取得したプラスミドベクターを鋳型として、シグナル配列を置換したBfGLD遺伝子をPCR法により増幅した。
primer8_Bf-Atsignal1-7AA-F:((CCCTGTCCCTGGCAGTGGCGGCACCTTTG))TTTGCTGTAGCCTCTTTGGCTGCAG(配列番号22)
primer9_Bf-Atsignal2-F:((ATGTTGGGAAAGCTCTCCTTCCTCAGTGCCCTGTCCCTGGCAGTGGCGGCACCTTTG))(配列番号23)
primer10_Bf-eno-Atsignal-F:(TGACCAATTCCGCAGCTCGTCAAA)((ATGTTGGGAAAGCTCTCCTTCCTCA))(配列番号24)
primer11_Bf-infusion-F:CTCCAAGTTA
GTCGAC(TGACCAATTCCGCAGCTCGTCAAA)(配列番号25)
primer12_Bf-infusion-R:CGCTTCTAGA
GCATGCCTAAATGTCCTCCTTGATCAAATC(配列番号26)
primer13_Bf-Aosig-short1-7AA-F:((AGTGCCCTGTCGCTGGCCACGGCA))TTTGCTGTAGCCTCTTTGGCTGCA(配列番号27)
primer14_Bf-Aosig-short2-F:((ATGCTCTTCTCACTGGCATTCCTGAGTGCCCTGTCGCTGGCCACGGCA))(配列番号28)
primer15_Bf-Aosignal1-7AA-F:((TCGCTGGCCACGGCATCACCGGCTGGACGGGCC))TTTGCTGTAGCCTCTTTGGCTGCAGCTAGCACC(配列番号29)
primer16_Bf-Aosignal2-F:((ATGCTCTTCTCACTGGCATTCCTGAGTGCCCTGTCGCTGGCCACGGCATCACCGGCTGGACGGGCC))(配列番号30)
primer17_Bf-eno-Aosignal-F:(TGACCAATTCCGCAGCTCGTCAAA)((ATGCTCTTCTCACTGGCATTCCTGA))(配列番号31)
primer18_Bf-Atsignal1-16AA-F:((CCCTGTCCCTGGCAGTGGCGGCACCTTTG))AGCACCGACTCTACCTTAAACTATG(配列番号32)
primer19_Bf-Aosig1-short1-16AA-F:((AGTGCCCTGTCGCTGGCCACGGCA))AGCACCGACTCTACCTTAAACTATG(配列番号33)
primer20_Bf-Atsignal1-19AA-F:((CCCTGTCCCTGGCAGTGGCGGCACCTTTG))TCTACCTTAAACTATGATTATATCATCG(配列番号34)
primer21_Bf-Aosig1-short1-19AA-F:((AGTGCCCTGTCGCTGGCCACGGCA))TCTACCTTAAACTATGATTATATCATCG(配列番号35)
(FはForward、RはReverse、下線部:制限酵素切断部位、二重括弧内:各シグナル配列、括弧内:enoA 5'-UTR、その他:ORF)
尚、上記プライマーは、国際公開2006/101239号パンフレットの配列番号2に記載のアスペルギルス・テレウス由来グルコース脱水素酵素(AtGLD)のシグナル配列情報(該公報記載の配列番号2の1から19番目のアミノ酸配列:配列番号10)及びシグナル配列予測サイト(Signal p:http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)を用いて推定したアスペルギルス・オリゼ由来グルコース脱水素酵素(AoGLD)のシグナル配列を元にデザインした。尚、AoGLDのシグナル配列は、2種類(短め:配列番号12及び長め:配列番号14)の配列を予想した。
【0062】
1.BfGLDのシグナル配列のうち7アミノ酸を削除して別シグナルを付加するためのクローニング
1−(1)AtGLDのシグナル配列19アミノ酸を付加するためのクローニング
BfGLDのシグナル配列のうちメチオニンから7番目までのアミノ酸(MYRLLST)を削除してAtGLDのシグナル配列19アミノ酸を付加するために、イントロンを含む全長BfGLD遺伝子のシグナル配列部分をコードする塩基配列のうち21番目までの塩基を、配列番号9に記載の、アスペルギルス・テレウス由来グルコース脱水素酵素のシグナル配列をコードする塩基配列57bpに置換するために、PCRを行った。PCRは4段階で行った。まず、1段階目として、実施例2の(4)で抽出したプラスミドを鋳型として、primer8_Bf-Atsignal1-7AA-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。次に、2段階目として、1段階目のPCR産物を鋳型として、primer9_Bf-Atsignal2-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。続いて、3段階目として、2段階目のPCR産物を鋳型として、primer10_Bf-eno-Atsignal-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。最後に、4段階目として、3段階目のPCR産物を鋳型として、primer11_Bf-infusion-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。得られたPCR産物は、BfGLDの全長アミノ酸配列(配列番号2)のシグナル配列部分の7アミノ酸(MYRLLST)をAtGLDのシグナル配列(配列番号10)に置換した配列をコードしている、イントロンを含むポリヌクレオチドである。該配列のイントロンを含まない配列をAtsig-7AA(−)BfGLD遺伝子として配列番号36に示し、該配列にコードされるアミノ酸配列を配列番号37に示した。
【0063】
1−(2)S.AoGLDの予想短めシグナル配列16アミノ酸を付加するためのクローニング
BfGLDのシグナル配列のうちメチオニンから7番目までのアミノ酸(MYRLLST)を削除してAoGLDの予想短めシグナル配列16アミノ酸を付加するために、イントロンを含む全長BfGLD遺伝子のシグナル配列部分をコードする塩基配列のうち21番目までの塩基を、配列番号11に記載の、アスペルギルス・オリゼ由来グルコース脱水素酵素の予想短めシグナル配列をコードする塩基配列48bpに置換するために、PCRを行った。PCRは4段階で行った。まず、1段階目として、実施例2の(4)で抽出したプラスミドを鋳型として、primer13_Bf-Aosig-short1-7AA-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。次に、2段階目として、1段階目のPCR産物を鋳型として、primer14_Bf-Aosig-short2-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。続いて、3段階目として、2段階目のPCR産物を鋳型として、primer17_Bf-eno-Aosignal-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。最後に、4段階目として、3段階目のPCR産物を鋳型として、primer11_Bf-infusion-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。得られたPCR産物は、BfGLDの全長アミノ酸配列(配列番号2)のシグナル配列部分の7アミノ酸(MYRLLST)をAoGLDの予想短めシグナル配列(配列番号12)に置換した配列をコードしている、イントロンを含むポリヌクレオチドである。該配列のイントロンを含まない配列をAosigS-7AA(−)BfGLD遺伝子として配列番号38に示し、該配列にコードされるアミノ酸配列を配列番号39に示した。
【0064】
1−(2)L.AoGLDの予想長めシグナル配列22アミノ酸を付加するためのクローニング
BfGLDのシグナル配列のうちメチオニンから7番目までのアミノ酸(MYRLLST)を削除してAoGLDの予想長めシグナル配列22アミノ酸を付加するために、イントロンを含む全長BfGLD遺伝子のシグナル配列部分をコードする塩基配列のうち21番目までの塩基を、配列番号13に記載の、アスペルギルス・オリゼ由来グルコース脱水素酵素の予想長めシグナル配列をコードする塩基配列66bpに置換するために、PCRを行った。PCRは4段階で行った。まず、1段階目として、実施例2の(4)で抽出したプラスミドを鋳型として、primer15_Bf-Aosignal1-7AA-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。次に、2段階目として、1段階目のPCR産物を鋳型として、primer16_Bf-Aosignal2-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。続いて、3段階目として、2段階目のPCR産物を鋳型として、primer17_Bf-eno-Aosignal-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。最後に、4段階目として、3段階目のPCR産物を鋳型として、primer11_Bf-infusion-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。得られたPCR産物は、BfGLDの全長アミノ酸配列(配列番号2)のシグナル配列部分の7アミノ酸(MYRLLST)をAoGLDの予想長めシグナル配列(配列番号14)に置換した配列をコードしている、イントロンを含むポリヌクレオチドである。該配列のイントロンを含まない配列をAosigL-7AA(−)BfGLD遺伝子として配列番号40に示し、該配列にコードされるアミノ酸配列を配列番号41に示した。
【0065】
2.BfGLDのシグナル配列のうち16アミノ酸を削除して別シグナルを付加するためのクローニング
2−(1)AtGLDのシグナル配列19アミノ酸を付加するためのクローニング
BfGLDのシグナル配列のうちメチオニンから16番目までのアミノ酸(MYRLLSTFAVASLAAA)を削除してAtGLDのシグナル配列19アミノ酸を付加するために、イントロンを含む全長BfGLD遺伝子のシグナル配列部分をコードする塩基配列のうち48番目までの塩基を、配列番号9に記載の、アスペルギルス・テレウス由来グルコース脱水素酵素のシグナル配列をコードする塩基配列57bpに置換するために、PCRを行った。PCRは4段階で行った。まず、1段階目として、実施例2の(4)で抽出したプラスミドを鋳型として、primer18_Bf-Atsignal1-16AA-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。次に、2段階目として、1段階目のPCR産物を鋳型として、primer9_Bf-Atsignal2-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。続いて、3段階目として、2段階目のPCR産物を鋳型として、primer10_Bf-eno-Atsignal-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。最後に、4段階目として、3段階目のPCR産物を鋳型として、primer11_Bf-infusion-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。得られたPCR産物は、BfGLDの全長アミノ酸配列(配列番号2)のシグナル配列部分の16アミノ酸(MYRLLSTFAVASLAAA)をAtGLDのシグナル配列(配列番号10)に置換した配列をコードしている、イントロンを含むポリヌクレオチドである。該配列のイントロンを含まない配列をAtsig-16AA(−)BfGLD遺伝子として配列番号42に示し、該配列にコードされるアミノ酸配列を配列番号43に示した。
【0066】
2−(2)S.AoGLDの予想短めシグナル配列16アミノ酸を付加するためのクローニング
BfGLDのシグナル配列のうちメチオニンから16番目までのアミノ酸(MYRLLSTFAVASLAAA)を削除してAoGLDの予想短めシグナル配列16アミノ酸を付加するために、イントロンを含む全長BfGLD遺伝子のシグナル配列部分をコードする塩基配列のうち48番目までの塩基を、配列番号11に記載の、アスペルギルス・オリゼ由来グルコース脱水素酵素の予想短めシグナル配列をコードする塩基配列48bpに置換するために、PCRを行った。PCRは4段階で行った。まず、1段階目として、実施例2の(4)で抽出したプラスミドを鋳型として、primer19_Bf-Aosig-short1-16AA-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。次に、2段階目として、1段階目のPCR産物を鋳型として、primer14_Bf-Aosig-short2-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。続いて、3段階目として、2段階目のPCR産物を鋳型として、primer17_Bf-eno-Aosignal-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。最後に、4段階目として、3段階目のPCR産物を鋳型として、primer11_Bf-infusion-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。得られたPCR産物は、BfGLDの全長アミノ酸配列(配列番号2)のシグナル配列部分の16アミノ酸(MYRLLSTFAVASLAAA)をAoGLDの予想短めシグナル配列(配列番号12)に置換した配列をコードしている、イントロンを含むポリヌクレオチドである。該配列のイントロンを含まない配列をAosigS-16AA(−)BfGLD遺伝子として配列番号44に示し、該配列にコードされるアミノ酸配列を配列番号45に示した。
【0067】
3.BfGLDの全シグナル配列19アミノ酸を削除して別シグナルを付加するためのクローニング
3−(1)AtGLDのシグナル配列19アミノ酸を付加するためのクローニング
BfGLDの全シグナル配列、つまりメチオニンから19番目までのアミノ酸(MYRLLSTFAVASLAAASTD)を削除してAtGLDのシグナル配列19アミノ酸を付加するために、イントロンを含む全長BfGLD遺伝子のシグナル配列部分をコードする塩基配列のうち57番目までの塩基を、配列番号9に記載の、アスペルギルス・テレウス由来グルコース脱水素酵素のシグナル配列をコードする塩基配列57bpに置換するために、PCRを行った。PCRは4段階で行った。まず、1段階目として、実施例2の(4)で抽出したプラスミドを鋳型として、primer20_Bf-Atsignal1-19AA-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。次に、2段階目として、1段階目のPCR産物を鋳型として、primer9_Bf-Atsignal2-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。続いて、3段階目として、2段階目のPCR産物を鋳型として、primer10_Bf-eno-Atsignal-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。最後に、4段階目として、3段階目のPCR産物を鋳型として、primer11_Bf-infusion-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。得られたPCR産物は、BfGLDの全長アミノ酸配列(配列番号2)の全シグナル配列19アミノ酸(MYRLLSTFAVASLAAASTD)をAtGLDのシグナル配列(配列番号10)に置換した配列をコードしている、イントロンを含むポリヌクレオチドである。該配列のイントロンを含まない配列をAtsig-19AA(−)BfGLD遺伝子として配列番号46に示し、該配列にコードされるアミノ酸配列を配列番号47に示した。
【0068】
3−(2)S.AoGLDの予想短めシグナル配列16アミノ酸を付加するためのクローニング
BfGLDの全シグナル配列、つまりメチオニンから19番目までのアミノ酸(MYRLLSTFAVASLAAASTD)を削除してAoGLDの予想短めシグナル配列16アミノ酸を付加するために、イントロンを含む全長BfGLD遺伝子のシグナル配列部分をコードする塩基配列のうち57番目までの塩基を、配列番号11に記載の、アスペルギルス・オリゼ由来グルコース脱水素酵素の予想短めシグナル配列をコードする塩基配列48bpに置換するために、PCRを行った。PCRは4段階で行った。まず、1段階目として、実施例2の(4)で抽出したプラスミドを鋳型として、primer21_Bf-Aosig-short1-19AA-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。次に、2段階目として、1段階目のPCR産物を鋳型として、primer14_Bf-Aosig-short2-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。続いて、3段階目として、2段階目のPCR産物を鋳型として、primer17_Bf-eno-Aosignal-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。最後に、4段階目として、3段階目のPCR産物を鋳型として、primer11_Bf-infusion-Fとprimer12_Bf-infusion-Rとを用いたPCRを行った。得られたPCR産物は、BfGLDの全長アミノ酸配列(配列番号2)の全シグナル配列19アミノ酸(MYRLLSTFAVASLAAASTD)をAoGLDの予想短めシグナル配列(配列番号12)に置換した配列をコードしている、イントロンを含むポリヌクレオチドである。該配列のイントロンを含まない配列をAosigS-19AA(−)BfGLD遺伝子として配列番号
48に示し、該配列にコードされるアミノ酸配列を配列番号49に示した。
【0069】
2.ベクターの調整
得られた各PCR産物を、In-Fusion Advantage PCRクローニングキット(タカラバイオ社製)を用いて、公知文献1に記載してあるアスペルギルス・オリゼ由来のアミラーゼ系の改良プロモーターの下流に結合させる事で、各々イントロンを含むAtsig-7AA(−)BfGLD遺伝子、AosigS-7AA(−)BfGLD遺伝子、AosigL-7AA(−)BfGLD遺伝子、Atsig-16AA(−)BfGLD遺伝子、AosigS-16AA(−)BfGLD遺伝子、Atsig-19AA(−)BfGLD遺伝子及びAosigS-19AA(−)BfGLD遺伝子が発現可能なベクターを各々調製した。
【0070】
これらの発現用ベクターを各々大腸菌JM109株に導入して形質転換し、得られた形質転換体を各々培養して、集菌した菌体から、Illustra plasmid-prep MINI Flow Kit(GEヘルスケア社製)を用いて、各プラスミドを抽出し、インサートの配列解析を各々行ったところ、各プラスミドで各々イントロンを含むAtsig-7AA(−)BfGLD遺伝子、AosigS-7AA(−)BfGLD遺伝子、AosigL-7AA(−)BfGLD遺伝子、Atsig-16AA(−)BfGLD遺伝子、AosigS-16AA(−)BfGLD遺伝子、Atsig-19AA(−)BfGLD遺伝子及びAosigS-19AA(−)BfGLD遺伝子が確認できた。
【0071】
3.形質転換体の取得
実施例2の(5)と同様の方法で、各々イントロンを含むAtsig-7AA(−)BfGLD遺伝子、AosigS-7AA(−)BfGLD遺伝子、AosigL-7AA(−)BfGLD遺伝子、Atsig-16AA(−)BfGLD遺伝子、AosigS-16AA(−)BfGLD遺伝子、Atsig-19AA(−)BfGLD遺伝子及びAosigS-19AA(−)BfGLD遺伝子を導入した組み換えカビを各々作製し、Czapek-Dox固体培地で各形質転換体を純化した。パインデックス2%(松谷化学工業社製)(W/V)、トリプトン1%(BD社製)(W/V)、リン酸二水素カリウム0.5%(ナカライテスク社製)(W/V)、硫酸マグネシウム七水和物0.05%(W/V)(ナカライテスク社製)及び水からなる液体培地10mLを太試験管(22mm×200mm)に入れ、121℃、20分間オートクレーブした。冷却したこの液体培地に、取得した各形質転換体を1遺伝子につき数本ずつ植菌し、30℃で4日間振とう培養した。3日目及び4日目にサンプリングした培養上清を遠心(3,000×g、20分)し、沈殿を取り除いたものを各酵素サンプルとした。
【0072】
前述の酵素活性測定法に従い各酵素サンプルのグルコース脱水素酵素活性(U/mL)を測定した結果、同一遺伝子につき活性の高かった2サンプルの平均値が下記の表1のとおりとなった。
【0073】
【表1】
【0074】
本酵素サンプルのうち、Atsig-7AA(−)BfGLD遺伝子に由来する酵素サ
ンプルについて、N末端を解析したところ、STLNYであることが明らかになった。つまり、野生型のオリジナルシグナル配列の一部を削除して、他シグナル配列を付加しても、酵素のN末端は野生型と同じSTLNYとなっていることが分かった。
【0075】
以上の結果より、BfGLDを組み換え製造する場合、BfGLDのシグナル配列をコードする遺伝子の一部又は全部を、他のシグナル配列をコードする遺伝子と置換しても野生型と同じBfGLDを製造できることが明らかになった。