【0032】
前記合成石英ガラススート体10の火炎照射面領域の温度分布を調整するにあたっては、
i) 同心円多重管バーナーの中心管に導入する合成石英ガラススート体のケイ素原料とその外周管に導入する不燃性ガス、燃性ガス及び支燃性ガスの導入比率を調整する工程、
ii) 同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線と合成石英ガラススート体の火炎照射面とが交わる点の合成石英ガラススート体の回転軸までの水平方向距離を調整する工程、
iii) 同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線におけるバーナー先端から合成石英ガラススート体の火炎照射面までの距離を調整する工程、
iv) 合成石英ガラススート体の回転軸に直交する線に対する前記同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線の角度が45°〜70°となるように調整する工程、
の少なくともいずれか一つ以上の工程を実施し、且つ前記定常段階においてサーモグラフィで合成石英ガラススート体の火炎照射面温度を観察することにより、前記合成石英ガラススート体の火炎照射面温度分布が、前記火炎照射面温度差以内に調整される。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきものでないことはいうまでもない。
【0041】
(実施例1)
VAD(vapor-phase axial deposition)法(気相軸付法)により、表1に示すように、原料に四塩化珪素,燃性ガスに水素,支燃性ガスに酸素,不燃性ガスに窒素を同心円多重管バーナーに導入し燃焼火炎中で加水分解反応させながら合成石英ガラススート体を製造した。合成石英ガラススート体の表面温度分布を調整するにあたって、工程i) による表面温度調整、すなわち、i) 同心円多重管バーナー12の中心管に導入する合成石英ガラススート体のケイ素原料とその外周管に導入する不燃性ガス、燃性ガス及び支燃性ガスの導入比率を調整することにより行った。具体的には、表1に示すように、最高温度部の温度を低下させるために燃性ガス,支燃性ガスを比較例1よりも減じ、最低温度部の温度を上昇させるために原料の投入量を比較例1よりも減じた。原料に四塩化珪素を用いているため、加水分解反応は吸熱反応であるので、原料の投入量を減ずる事は温度低下を抑制する効果を有する。また、合成石英ガラススート体の回転軸に直交する線に対する前記同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線の角度は62°とした。
【0042】
赤外線サーモグラフィ(商品名:FLIR SC600、フリアーシステムズジャパン株式会社)を用いて、定常段階における製造中の合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の火炎照射面領域Z内での最高温度部と最低温度部の温度の差を測定したところ、30℃であった。表2に測定された各点の温度を示す。
【0043】
得られた合成石英ガラススート体を真空下において約1200℃で一定時間保持し脱水した脱水処理したのちガラス化温度以上(約1400℃)に加熱し、透明合成石英ガラスインゴットとした。得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度を赤外分光光度計にて、2.7μmの赤外線の吸収スペクトルから測定を行った。得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度の径方向分布は、その合成石英ガラススート体の製造時において測定された温度分布と相関関係を示した。
図3において、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内で4次多項式における近似線を点線で示し、実線が実測値を滑らかに結んだ線である。
図3に示すように、透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度の径方向分布は多少中心付近に凹凸が残るものの大きな変曲点は解消され滑らかな分布であった。
【0044】
また、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内での4次多項式における近似線と実測値との当てはまり度を示す下記式(1)の決定係数R
2は0.992であった。
R
2=(近似値の偏差平方和/実測値の偏差平方和) ・・・・ (1)
【0045】
(実施例2)
実施例1と同様に、VAD(vapor-phase axial deposition)法(気相軸付法)により、表1に示すように、原料に四塩化珪素,燃性ガスに水素,支燃性ガスに酸素,不燃性ガスに窒素を同心円多重管バーナーに導入し燃焼火炎中で加水分解反応させながら合成石英ガラススート体を製造した。合成石英ガラススート体の火炎照射面領域の温度分布を調整するにあたって、工程i) と工程ii)による表面温度調整、すなわち、i) 同心円多重管バーナー12の中心管に導入する合成石英ガラススート体のケイ素原料とその外周管に導入する不燃性ガス、燃性ガス及び支燃性ガスの導入比率を調整すること、ii) 同心円多重管バーナー12の芯中心軸の延長線20と合成石英ガラススート体の火炎照射面とが交わる点Pと合成石英ガラススート体10の回転軸16までの水平方向距離d1を調整すること、を行った。
【0046】
実施例1と同様の条件において同心円多重管バーナー12の芯中心軸の延長線20と合成石英ガラススート体の火炎照射面とが交わる点Pの合成石英ガラススート体10の回転軸16までの水平方向距離d1のみを表1に示すように変更した。距離d1の変更は、同心円多重管バーナーを水平方向に移動することで行った。水平方向に移動することで火炎の高温部位及び低温部位が照射される径方向におけるスート表面の位置が変化する。また、合成石英ガラススート体の回転軸に直交する線に対する前記同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線の角度は62°とした。赤外線サーモグラフィを用いて、定常段階における製造中の合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の火炎照射面領域Z内での最高温度部と最低温度部の温度の差を測定したところ、20℃であった。表2に測定された各点の温度を示す。
【0047】
得られた合成石英ガラススート体を真空下において約1200℃で一定時間保持し脱水した脱水処理したのちガラス化温度以上(約1400℃)に加熱し、透明合成石英ガラスインゴットとした。得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度を赤外分光光度計にて、2.7μmの赤外線の吸収スペクトルから測定を行った。得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度の径方向分布は、その合成石英ガラススート体の製造時において測定された温度分布と相関関係を示した。
図4において、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内で4次多項式における近似線を点線で示し、実線が実測値を滑らかに結んだ線である。
図4に示すように、OH基濃度の径方向分布は実施例1の場合と比較しさらに滑らかになった。
【0048】
また、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内での4次多項式における近似線と実測値との当てはまり度を示す下記式(1)の決定係数R
2は0.996であった。
R
2=(近似値の偏差平方和/実測値の偏差平方和) ・・・・ (1)
【0049】
(実施例3)
実施例1と同様に、VAD(vapor-phase axial deposition)法(気相軸付法)により、表1に示すように、原料に四塩化珪素,燃性ガスに水素,支燃性ガスに酸素,不燃性ガスに窒素を同心円多重管バーナーに導入し燃焼火炎中で加水分解反応させながら合成石英ガラススート体を製造した。合成石英ガラススート体の表面温度分布を調整するにあたって、工程i),工程ii) 及び工程iii) による表面温度調整、すなわち、i) 同心円多重管バーナーの中心管に導入する合成石英ガラススート体のケイ素原料とその外周管に導入する不燃性ガス、燃性ガス及び支燃性ガスの導入比率を調整すること、ii) 同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線と合成石英ガラススート体の火炎照射面とが交わる点の合成石英ガラススート体の回転軸までの水平方向距離を調整すること、iii) 同心円多重管バーナー12の芯中心軸の延長線20におけるバーナー先端から合成石英ガラススート体10の火炎照射面までの距離d2を調整すること、を行った。
【0050】
実施例2と同様の条件において同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線20におけるバーナー先端から合成石英ガラススート体10の火炎照射面までの距離d2のみを変更した。距離d2の変更は同心円多重管バーナーを水平方向及び垂直方向に移動することで行った。距離d2を長くすることで同心円多重管バーナーの中心管に導入される原料とその外周管に導入される燃性ガス及び支燃性ガスが同芯円多重管バーナーから噴射され成長面に到達するまでの距離を長くすることで火炎中での加水分解の進行に十分な時間を確保することができる。また、合成石英ガラススート体の回転軸に直交する線に対する前記同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線の角度は62°とした。赤外線サーモグラフィを用いて、定常段階における製造中の合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の火炎照射面領域Z内での最高温度部と最低温度部の温度の差を測定したところ、10℃であった。表2に測定された各点の温度を示す。
【0051】
得られた合成石英ガラススート体を真空下において約1200℃で一定時間保持し脱水した脱水処理したのちガラス化温度以上(約1400℃)に加熱し、透明合成石英ガラスインゴットとした。得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度を赤外分光光度計にて、2.7μmの赤外線の吸収スペクトルから測定を行った。得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度の径方向分布は、その合成石英ガラススート体の製造時において測定された温度分布と相関関係を示した。
図5において、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内で4次多項式における近似線を点線で示し、実線が実測値を滑らかに結んだ線である。
図5に示すように、OH基濃度の径方向分布は実施例2の場合と比較しさらに滑らかになった。
【0052】
また、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内での4次多項式における近似線と実測値との当てはまり度を示す下記式(1)の決定係数R
2は0.997であった。
R
2=(近似値の偏差平方和/実測値の偏差平方和) ・・・・ (1)
【0053】
(比較例1)
VAD(vapor-phase axial deposition)法(気相軸付法)により、表1に示すように、原料に四塩化珪素,燃性ガスに水素,支燃性ガスに酸素,不燃性ガスに窒素を同心円多重管バーナーに導入し燃焼火炎中で加水分解反応させながら合成石英ガラススート体を製造した。赤外線サーモグラフィを用いて、定常段階における製造中の合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の火炎照射面領域Z内での最高温度部と最低温度部の温度の差を測定したところ、80℃であった。表2に測定された各点の温度を示す。
【0054】
得られた合成石英ガラススート体を真空下において約1200℃で一定時間保持し脱水した脱水処理したのちガラス化温度以上(約1400℃)に加熱し、透明合成石英ガラスインゴットとした。得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度を赤外分光光度計にて、2.7μmの赤外線の吸収スペクトルから測定を行った。
図6に示すように、得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度の径方向分布は、その合成石英ガラススート体の製造時において測定された温度分布と相関関係を示した。その合成石英ガラススート体の製造時において径方向で最高温度部であった透明合成石英ガラスインゴットのインゴット中心はOH基濃度が局所的に低下しており、逆にその合成石英ガラススート体の製造時において最低温度部であった透明合成石英ガラスインゴットのインゴット径方向20〜30%付近では、最高OH基濃度を示した。
【0055】
また、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内での4次多項式における近似線と実測値との当てはまり度を示す下記式(1)の決定係数R
2は0.906であった。
R
2=(近似値の偏差平方和/実測値の偏差平方和) ・・・・ (1)
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
以上のように、実施例1〜3で得られた合成石英ガラススート体を用いて製造された透明合成石英ガラスインゴットは、OH基濃度分布に変曲点がなく滑らかな分布を有するものであるから、屈折率の均一な合成石英ガラススート体が得られ、それにより透明合成石英ガラスインゴットが得られたことがわかる。また、比較例1では、透明合成石英ガラスインゴットのインゴット中心においてOH基濃度が局所的に低下していることから、屈折率の均一な合成石英ガラススート体が得られず、それを用いて製造された透明合成石英ガラスインゴットでもOH基濃度分布に変曲点がなく滑らかな分布を有さず、屈折率が均一とならなかったことがわかる。