特許第5939682号(P5939682)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5939682合成石英ガラススート体の製造方法及び透明合成石英ガラスインゴットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939682
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】合成石英ガラススート体の製造方法及び透明合成石英ガラスインゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/04 20060101AFI20160609BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20160609BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   C03B8/04 A
   C03B8/04 H
   H01L21/30 515D
   G02B3/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-242066(P2012-242066)
(22)【出願日】2012年11月1日
(65)【公開番号】特開2014-91645(P2014-91645A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】角 児太郎
(72)【発明者】
【氏名】水上 博公
(72)【発明者】
【氏名】江崎 正信
(72)【発明者】
【氏名】横田 透
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−132680(JP,A)
【文献】 特開2011−256069(JP,A)
【文献】 特開2005−075682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04
C03B 37/00 − 37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心円多重管バーナーの中心管に合成石英ガラススート体のケイ素原料を導入して成長火炎を形成し、回転している種ロッドに前記成長火炎を照射せしめてガラス粒子を堆積させてなる合成石英ガラススート体の製造方法であり、前記種ロッドへのガラス粒子の堆積により前記合成石英ガラススート体が径大となる初期段階と、前記種ロッドへのガラス粒子の堆積によっても前記合成石英ガラススート体の径の太さが変化しなくなる定常段階と、を有し、前記定常段階における前記同心円多重管バーナーから照射された成長火炎が接している合成石英ガラススート体の火炎照射面のうち、前記合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の前記合成石英ガラススート体の火炎照射面領域の温度差が50℃以内であることを特徴とする合成石英ガラススート体の製造方法。
【請求項2】
前記定常段階における前記合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の前記合成石英ガラススート体の火炎照射面領域の温度差が30℃以内であることを特徴とする請求項1記載の合成石英ガラススート体の製造方法。
【請求項3】
前記定常段階における前記合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の前記合成石英ガラススート体の火炎照射面領域の温度差が10℃以内であることを特徴とする請求項1又は2記載の合成石英ガラススート体の製造方法。
【請求項4】
前記定常段階における前記合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の火炎照射面領域での前記合成石英ガラススート体の火炎照射面温度が850℃以上1150℃以下であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の合成石英ガラススート体の製造方法。
【請求項5】
i) 同心円多重管バーナーの中心管に導入する合成石英ガラススート体のケイ素原料とその外周管に導入する不燃性ガス、燃性ガス及び支燃性ガスの導入比率を調整する工程、
ii) 同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線と合成石英ガラススート体の火炎照射面とが交わる点の合成石英ガラススート体の回転軸までの水平方向距離を調整する工程、
iii) 同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線におけるバーナー先端から合成石英ガラススート体の火炎照射面までの距離を調整する工程、
iv) 合成石英ガラススート体の回転軸に直交する線に対する前記同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線の角度が45°〜70°となるように調整する工程、
の少なくともいずれか一つ以上の工程を実施し、且つ前記定常段階においてサーモグラフィで合成石英ガラススート体の火炎照射面温度を観察することにより、前記合成石英ガラススート体の火炎照射面温度分布が、前記火炎照射面温度差以内に調整されてなることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の合成石英ガラススート体の製造方法。
【請求項6】
前記請求項1〜5いずれか1項記載の方法により得られた合成石英ガラススート体に対し、脱水処理及びガラス化処理を行い、透明合成石英ガラスインゴットを製造してなることを特徴とする透明合成石英ガラスインゴットの製造方法。
【請求項7】
明合成石英ガラスインゴットであって、前記透明合成石英ガラスインゴットがOH基濃度分布に変曲点のない滑らかな分布を有し、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内での4次多項式における近似線と実測値との当てはまり度を示す下記式(1)の決定係数Rが0.95以上であることを特徴とする高均質性透明合成石英ガラスインゴット。
=(近似値の偏差平方和/実測値の偏差平方和) ・・・・ (1)
【請求項8】
前記透明合成石英ガラスインゴットが光リソグラフィー用光学部材に用いられることを特徴とする請求項7記載の高均質性透明合成石英ガラスインゴット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、光リソグラフィー用光学部材に好適な合成石英ガラスの前駆体となる合成石英ガラススート体(合成石英ガラス多孔質母材とも呼ばれる)の製造方法、前記合成石英ガラススート体を用いた透明合成石英ガラスインゴットの製造方法及びそれにより得られた高均質性透明合成石英ガラスインゴットに関する。
【背景技術】
【0002】
ウエハ上に微細なパターンを形成して製造される半導体集積回路の製造には光リソグラフィー技術を用いて転写する露光装置が広く利用される。近年、半導体集積回路の微細化、高集積化に伴い、その露光装置に用いられる露光用光源は短波長化が進んでいる。
【0003】
この光源の短波長化に伴い、レンズ等の光学部材についても高精度な物が求められ、特に屈折率均質性については高精度な制御が求められる。
【0004】
従来から屈折率に変動を及ぼす要因としては、仮想温度,OH基濃度,Cl濃度,F濃度があると報告されており、更にOH基による屈折率変化ΔnについてはΔn= 1 × 10−7 /ΔOH [ppm] と明確なOH基濃度変動量に対する依存性が報告されている(非特許文献1)。
【0005】
また、これらOH基濃度、Cl濃度、仮想温度の組み合わせで屈折率分布を低減させる技術(特許文献1)やOH基濃度の径方向分布等を制御することでエキシマレーザー用として好適で、屈折率均質性に優れ、復屈折が小さく、光透過率変化の小さい合成石英ガラス部材を提供する技術(特許文献2)も開示されている。その光学部材用合成石英ガラスは気相軸付法により酸水素火炎中で加水分解することで得られた合成石英ガラス多孔質母材を脱水、ガラス化などの加熱処理をすることで製造される。しかし、同心円多重管バーナーを用いたスート製造中の合成石英ガラススート体の火炎照射面における熱分布を均一にすることについては開示されていない。
【0006】
さらに、製造方法における脱水及びガラス化によりOH濃度分布を制御する方法として、火炎中での加水分解で得られた合成石英ガラス多孔質母材を仮焼結し、真空下において1100℃以上ガラス化温度以下で一定時間保持し脱水したのちガラス化温度以上に加熱することでガラス化し合成石英ガラスを得る技術が特許文献3に開示されている。しかし、この方法でのOH分布の制御には限界があり、合成石英ガラススート体の素性次第では光学部材として求められる均質性をみたすことができないという問題があった。そして、この技術では、合成石英ガラススート体(多孔質石英ガラス母材)を作製後、仮焼結し、その後の加熱工程でOH基濃度の均一性を図っており、合成石英ガラススート体の製造方法を工夫したものではない。このため、長時間の脱水時間が必要であり高い生産効率が望めないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−239127
【特許文献2】特開2003−176143
【特許文献3】特開2006−213570
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】非晶質シリカ材料応用ハンドブック、株式会社リアライズ社、1999年、112頁〜113頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
こうした現状に鑑み、本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、合成石英ガラススート体の製造中の火炎照射面の表面温度分布を制御することで、光学部材として特にエキシマレーザー用として好適であるOH基濃度変動の小さい合成石英ガラススート体を製造する方法を見出した。
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みなされたもので、仮焼結などを行うことなしに、OH基濃度分布に変曲点がなく且つ屈折率の均一な合成石英ガラススート体の製造方法、前記合成石英ガラススート体を用いた透明合成石英ガラスインゴットの製造方法及びそれにより得られた高均質性透明合成石英ガラスインゴットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る合成石英ガラススート体の製造方法は、同心円多重管バーナーの中心管に合成石英ガラススート体のケイ素原料を導入して成長火炎を形成し、回転している種ロッドに前記成長火炎を照射せしめてガラス粒子を堆積させてなる合成石英ガラススート体の製造方法であり、前記種ロッドへのガラス粒子の堆積により前記合成石英ガラススート体が径大となる初期段階と、前記種ロッドへのガラス粒子の堆積によっても前記合成石英ガラススート体の径の太さが変化しなくなる定常段階と、を有し、前記定常段階における前記同心円多重管バーナーから照射された成長火炎が接している合成石英ガラススート体の火炎照射面のうち、前記合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の前記合成石英ガラススート体の火炎照射面領域の温度差が50℃以内であることを特徴とする。
【0012】
同心円多重管バーナーの中心管に合成石英ガラススート体のケイ素原料を導入して成長火炎を形成し、回転している種ロッドに前記成長火炎を照射せしめてガラス粒子を堆積させていくと初期段階では、前記種ロッドへのガラス粒子の堆積により前記合成石英ガラススート体が径大となる。そして、定常段階では、前記種ロッドへのガラス粒子の堆積によっても前記合成石英ガラススート体の径の太さが変化しなくなる。
【0013】
前記定常段階における前記合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の前記合成石英ガラススート体の火炎照射面領域の温度差が30℃以内であるのが好ましく、前記火炎照射面領域の温度差が10℃以内であるのがさらに好ましい。前記温度は、例えば赤外線サーモグラフィで測定することが可能である。
【0014】
前記定常段階における前記合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の火炎照射面領域での前記合成石英ガラススート体の火炎照射面温度が850℃以上1150℃以下であるのが好適である。
【0015】
また、
i) 同心円多重管バーナーの中心管に導入する合成石英ガラススート体のケイ素原料とその外周管に導入する不燃性ガス、燃性ガス及び支燃性ガスの導入比率を調整する工程、
ii) 同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線と合成石英ガラススート体の火炎照射面とが交わる点の合成石英ガラススート体の回転軸までの水平方向距離を調整する工程、
iii) 同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線におけるバーナー先端から合成石英ガラススート体の火炎照射面までの距離を調整する工程、
iv) 合成石英ガラススート体の回転軸に直交する線に対する前記同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線の角度が45°〜70°となるように調整する工程、
の少なくともいずれか一つ以上の工程を実施し、且つ前記定常段階においてサーモグラフィで合成石英ガラススート体の火炎照射面温度を観察することにより、前記合成石英ガラススート体の火炎照射面温度分布が、前記火炎照射面温度差以内に調整されてなるのがさらに好適である。前記調整にあたっては、前記合成石英ガラススート体の製造時に調整してもよいし、予め調整しておいた条件を使って前記合成石英ガラススート体を製造するようにしてもよい。
【0016】
前記合成石英ガラススート体のケイ素原料としては、例えば四塩化珪素が挙げられる。また、同心円多重管バーナーの外周管には、不燃性ガス、燃性ガス及び支燃性ガスなどを導入する。そして、前記不燃性ガスとしては窒素ガス、前記燃性ガスとしては水素ガス、前記支燃性ガスとしては酸素ガス、などが挙げられる。
【0017】
本発明に係る透明合成石英ガラスインゴットの製造方法は、前記方法により得られた合成石英ガラススート体に対し、脱水処理及びガラス化処理を行い、透明合成石英ガラスインゴットを製造してなることを特徴とする。本発明に係る透明合成石英ガラスインゴットの製造方法では、仮焼結を行うことなく、変曲点のない滑らかなOH基濃度分布を有する透明合成石英ガラスインゴットを得ることができる。
【0018】
本発明に係る透明合成石英ガラスインゴットは、前記透明合成石英ガラスインゴットの製造方法により得られた透明合成石英ガラスインゴットであり、前記透明合成石英ガラスインゴットがOH基濃度分布に変曲点のない滑らかな分布を有し、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内で4次多項式における近似線と実測値との当てはまり度を示す下記式(1)の決定係数Rが0.95以上、好ましくは0.99以上である。
=(近似値の偏差平方和/実測値の偏差平方和) ・・・・ (1)
【0019】
前記OH基濃度分布は、例えば赤外分光光度法により測定することができる。
【0020】
また、前記透明合成石英ガラスインゴットは、光リソグラフィー用光学部材に用いられるのが好適である。
【0021】
さらに、本発明に係る透明合成石英ガラスインゴットは、つぶすだけでレンズブランクスが出来上がるため、均質化工程が不要である。本発明に係る透明合成石英ガラスインゴットは、仮焼結などを行うことなしに、OH基濃度分布に変曲点がなく且つ屈折率が均一だからである。故に、本発明に係る透明合成石英ガラスインゴットは、均質化処理を行う必要がない。このように、本発明に係る透明合成石英ガラスインゴットは、径方向、軸方向のいずれもOH分布が滑らかで平滑である。また、OH基濃度の最大濃度が30ppmであるのが好ましい。
【0022】
本発明に係る合成石英ガラススート体の製造方法により得られた合成石英ガラススート体は光学部材に適しており、半導体製造用露光装置に特に適している。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、仮焼結などを行うことなしに、OH基濃度分布に変曲点がなく且つ屈折率の均一な合成石英ガラススート体の製造方法、前記合成石英ガラススート体を用いた透明合成石英ガラスインゴットの製造方法及びそれにより得られた高均質性透明合成石英ガラスインゴットを提供することができるという著大な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】同心円多重管バーナーを用いて合成石英ガラススート体を製造している状態を示す図であって、(a)が側面概略説明図、(b)が合成石英ガラススート体の下方から火炎照射面を見た概略説明図である。
図2】同心円多重管バーナーと合成石英ガラススート体との距離を示す概略説明図である。
図3】実施例1で得られた合成石英ガラススート体の径方向のOH基濃度分布を示すグラフである。
図4】実施例2で得られた合成石英ガラススート体の径方向のOH基濃度分布を示すグラフである。
図5】実施例3で得られた合成石英ガラススート体の径方向のOH基濃度分布を示すグラフである。
図6】比較例1で得られた合成石英ガラススート体の径方向のOH基濃度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これらは例示的に示されるもので、本発明の技術的思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0026】
図1に、同心円多重管バーナーを用いて合成石英ガラススート体を製造している状態の例を示す。図1において、符号10は種ロッドである石英棒にガラス粒子を堆積させてなる合成石英ガラススート体である。合成石英ガラススート体10は、回転軸16を中心に回転せしめられる。前記種ロッドである石英棒としては、合成又は天然の石英のいずれも使用できるが、合成石英の石英棒が好ましい。
【0027】
符号12は、同心円多重管バーナーであり、同心円多重管バーナー12からは、合成石英ガラススート体10を成長させる成長火炎14が出ている。
【0028】
同心円多重管バーナー12の中心管に合成石英ガラススート体のケイ素原料を導入し、同心円多重管バーナーの外周管に不燃性ガス、燃性ガス及び支燃性ガスを導入して成長火炎14が形成される。そして、種ロッドに前記成長火炎14を照射せしめてガラス粒子を堆積させていくことで合成石英ガラススート体10が製造される。そして、前記種ロッドへの堆積が、ガラス粒子の堆積により径大となる初期段階と、前記種ロッドへのガラス粒子の堆積によっても径の太さが変化しなくなる定常段階と、を有し、前記定常段階における前記同心円多重管バーナー12から照射された成長火炎14が接している合成石英ガラススート体10の火炎照射面24のうち、前記合成石英ガラススート体10の回転軸16から半径80%以内の前記合成石英ガラススート体10の火炎照射面領域Zの温度差が50℃以内であるように調整する。なお、堆積したガラス粒子の集合体がスート体を形成する。合成石英ガラススート体10は合成石英ガラスの前駆体となり、合成石英ガラス多孔質母材とも呼ばれる。
【0029】
図1(a)において、符号Oはスート体の中心と火炎照射面領域の交わる点、符号Pは同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線と合成石英ガラススート体の火炎照射面とが交わる点、符号Qはスート体の半径rに対して80%の径の部分の火炎照射面領域の点、符号22は合成石英ガラススート体の回転軸に直交する線、をそれぞれ示す。そして、前記合成石英ガラススート体10の火炎照射面領域Zは、図1(b)によく示されるように、前記合成石英ガラススート体10は回転しているため、合成石英ガラススート体10の回転軸16から半径80%以内の領域全てとなる。
【0030】
また、前記定常段階における前記合成石英ガラススート体10の回転軸16から半径rの80%径18以内にある火炎照射面領域Z、すなわち前記合成石英ガラススート体10の回転軸16から半径80%以内の火炎照射面領域Zでの前記合成石英ガラススート体10の火炎照射面領域の温度差が30℃以内であるのが好ましく、前記合成石英ガラススート体の火炎照射面領域の温度差が10℃以内であるのがさらに好ましい。
【0031】
さらにまた、前記定常段階における前記合成石英ガラススート体10の回転軸16から半径80%以内の火炎照射面領域Zでの前記合成石英ガラススート体の火炎照射面温度が850℃以上1150℃以下であるのが好適である。なお、前記温度は、例えば赤外線サーモグラフィで測定することが可能である。
【0032】
前記合成石英ガラススート体10の火炎照射面領域の温度分布を調整するにあたっては、
i) 同心円多重管バーナーの中心管に導入する合成石英ガラススート体のケイ素原料とその外周管に導入する不燃性ガス、燃性ガス及び支燃性ガスの導入比率を調整する工程、
ii) 同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線と合成石英ガラススート体の火炎照射面とが交わる点の合成石英ガラススート体の回転軸までの水平方向距離を調整する工程、
iii) 同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線におけるバーナー先端から合成石英ガラススート体の火炎照射面までの距離を調整する工程、
iv) 合成石英ガラススート体の回転軸に直交する線に対する前記同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線の角度が45°〜70°となるように調整する工程、
の少なくともいずれか一つ以上の工程を実施し、且つ前記定常段階においてサーモグラフィで合成石英ガラススート体の火炎照射面温度を観察することにより、前記合成石英ガラススート体の火炎照射面温度分布が、前記火炎照射面温度差以内に調整される。
【0033】
本発明に係る透明合成石英ガラスインゴットの製造方法は、前記方法により得られた合成石英ガラススート体に対し、脱水処理及びガラス化処理を行い、透明合成石英ガラスインゴットを製造してなる。本発明に係る透明合成石英ガラスインゴットの製造方法では、仮焼結を行うことなく、変曲点のない滑らかなOH基濃度分布を有する透明合成石英ガラスインゴットを得ることができる。
【0034】
本発明に係る透明合成石英ガラスインゴットは、前記透明合成石英ガラスインゴットの製造方法により得られた透明合成石英ガラスインゴットであり、前記透明合成石英ガラスインゴットがOH基濃度分布に変曲点のない滑らかな分布を有し、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内での4次多項式における近似線と実測値との当てはまり度を示す下記式(1)の決定係数Rが0.95以上、好ましくは0.99以上である。
=(近似値の偏差平方和/実測値の偏差平方和) ・・・・ (1)
【0035】
上記式(1)をより具体的に示すと下記式(2)となる。
【数1】
【0036】
前記OH基濃度分布は、例えば赤外分光光度法により測定することができる。
【0037】
また、前記透明合成石英ガラスインゴットは、光リソグラフィー用光学部材に用いられるのが好適である。
【0038】
さらに、本発明に係る透明合成石英ガラスインゴットは、つぶすだけでレンズブランクスが出来上がるため、均質化工程が不要である。本発明に係る透明合成石英ガラスインゴットは、仮焼結などを行うことなしに、OH基濃度分布に変曲点がなく且つ屈折率の均一だからである。故に、本発明に係る透明合成石英ガラスインゴットは、均質化処理を行う必要がない。このように、本発明に係る透明合成石英ガラスインゴットは、径方向、軸方向のいずれもOH分布が滑らかで平滑である。また、OH基濃度の最大濃度が30ppmであるのが好ましい。
【0039】
本発明に係る合成石英ガラススート体の製造方法により得られた合成石英ガラススート体は光学部材に適しており、半導体製造用露光装置に特に適している。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきものでないことはいうまでもない。
【0041】
(実施例1)
VAD(vapor-phase axial deposition)法(気相軸付法)により、表1に示すように、原料に四塩化珪素,燃性ガスに水素,支燃性ガスに酸素,不燃性ガスに窒素を同心円多重管バーナーに導入し燃焼火炎中で加水分解反応させながら合成石英ガラススート体を製造した。合成石英ガラススート体の表面温度分布を調整するにあたって、工程i) による表面温度調整、すなわち、i) 同心円多重管バーナー12の中心管に導入する合成石英ガラススート体のケイ素原料とその外周管に導入する不燃性ガス、燃性ガス及び支燃性ガスの導入比率を調整することにより行った。具体的には、表1に示すように、最高温度部の温度を低下させるために燃性ガス,支燃性ガスを比較例1よりも減じ、最低温度部の温度を上昇させるために原料の投入量を比較例1よりも減じた。原料に四塩化珪素を用いているため、加水分解反応は吸熱反応であるので、原料の投入量を減ずる事は温度低下を抑制する効果を有する。また、合成石英ガラススート体の回転軸に直交する線に対する前記同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線の角度は62°とした。
【0042】
赤外線サーモグラフィ(商品名:FLIR SC600、フリアーシステムズジャパン株式会社)を用いて、定常段階における製造中の合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の火炎照射面領域Z内での最高温度部と最低温度部の温度の差を測定したところ、30℃であった。表2に測定された各点の温度を示す。
【0043】
得られた合成石英ガラススート体を真空下において約1200℃で一定時間保持し脱水した脱水処理したのちガラス化温度以上(約1400℃)に加熱し、透明合成石英ガラスインゴットとした。得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度を赤外分光光度計にて、2.7μmの赤外線の吸収スペクトルから測定を行った。得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度の径方向分布は、その合成石英ガラススート体の製造時において測定された温度分布と相関関係を示した。図3において、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内で4次多項式における近似線を点線で示し、実線が実測値を滑らかに結んだ線である。図3に示すように、透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度の径方向分布は多少中心付近に凹凸が残るものの大きな変曲点は解消され滑らかな分布であった。
【0044】
また、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内での4次多項式における近似線と実測値との当てはまり度を示す下記式(1)の決定係数Rは0.992であった。
=(近似値の偏差平方和/実測値の偏差平方和) ・・・・ (1)
【0045】
(実施例2)
実施例1と同様に、VAD(vapor-phase axial deposition)法(気相軸付法)により、表1に示すように、原料に四塩化珪素,燃性ガスに水素,支燃性ガスに酸素,不燃性ガスに窒素を同心円多重管バーナーに導入し燃焼火炎中で加水分解反応させながら合成石英ガラススート体を製造した。合成石英ガラススート体の火炎照射面領域の温度分布を調整するにあたって、工程i) と工程ii)による表面温度調整、すなわち、i) 同心円多重管バーナー12の中心管に導入する合成石英ガラススート体のケイ素原料とその外周管に導入する不燃性ガス、燃性ガス及び支燃性ガスの導入比率を調整すること、ii) 同心円多重管バーナー12の芯中心軸の延長線20と合成石英ガラススート体の火炎照射面とが交わる点Pと合成石英ガラススート体10の回転軸16までの水平方向距離d1を調整すること、を行った。
【0046】
実施例1と同様の条件において同心円多重管バーナー12の芯中心軸の延長線20と合成石英ガラススート体の火炎照射面とが交わる点Pの合成石英ガラススート体10の回転軸16までの水平方向距離d1のみを表1に示すように変更した。距離d1の変更は、同心円多重管バーナーを水平方向に移動することで行った。水平方向に移動することで火炎の高温部位及び低温部位が照射される径方向におけるスート表面の位置が変化する。また、合成石英ガラススート体の回転軸に直交する線に対する前記同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線の角度は62°とした。赤外線サーモグラフィを用いて、定常段階における製造中の合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の火炎照射面領域Z内での最高温度部と最低温度部の温度の差を測定したところ、20℃であった。表2に測定された各点の温度を示す。
【0047】
得られた合成石英ガラススート体を真空下において約1200℃で一定時間保持し脱水した脱水処理したのちガラス化温度以上(約1400℃)に加熱し、透明合成石英ガラスインゴットとした。得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度を赤外分光光度計にて、2.7μmの赤外線の吸収スペクトルから測定を行った。得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度の径方向分布は、その合成石英ガラススート体の製造時において測定された温度分布と相関関係を示した。図4において、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内で4次多項式における近似線を点線で示し、実線が実測値を滑らかに結んだ線である。図4に示すように、OH基濃度の径方向分布は実施例1の場合と比較しさらに滑らかになった。
【0048】
また、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内での4次多項式における近似線と実測値との当てはまり度を示す下記式(1)の決定係数Rは0.996であった。
=(近似値の偏差平方和/実測値の偏差平方和) ・・・・ (1)
【0049】
(実施例3)
実施例1と同様に、VAD(vapor-phase axial deposition)法(気相軸付法)により、表1に示すように、原料に四塩化珪素,燃性ガスに水素,支燃性ガスに酸素,不燃性ガスに窒素を同心円多重管バーナーに導入し燃焼火炎中で加水分解反応させながら合成石英ガラススート体を製造した。合成石英ガラススート体の表面温度分布を調整するにあたって、工程i),工程ii) 及び工程iii) による表面温度調整、すなわち、i) 同心円多重管バーナーの中心管に導入する合成石英ガラススート体のケイ素原料とその外周管に導入する不燃性ガス、燃性ガス及び支燃性ガスの導入比率を調整すること、ii) 同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線と合成石英ガラススート体の火炎照射面とが交わる点の合成石英ガラススート体の回転軸までの水平方向距離を調整すること、iii) 同心円多重管バーナー12の芯中心軸の延長線20におけるバーナー先端から合成石英ガラススート体10の火炎照射面までの距離d2を調整すること、を行った。
【0050】
実施例2と同様の条件において同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線20におけるバーナー先端から合成石英ガラススート体10の火炎照射面までの距離d2のみを変更した。距離d2の変更は同心円多重管バーナーを水平方向及び垂直方向に移動することで行った。距離d2を長くすることで同心円多重管バーナーの中心管に導入される原料とその外周管に導入される燃性ガス及び支燃性ガスが同芯円多重管バーナーから噴射され成長面に到達するまでの距離を長くすることで火炎中での加水分解の進行に十分な時間を確保することができる。また、合成石英ガラススート体の回転軸に直交する線に対する前記同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線の角度は62°とした。赤外線サーモグラフィを用いて、定常段階における製造中の合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の火炎照射面領域Z内での最高温度部と最低温度部の温度の差を測定したところ、10℃であった。表2に測定された各点の温度を示す。
【0051】
得られた合成石英ガラススート体を真空下において約1200℃で一定時間保持し脱水した脱水処理したのちガラス化温度以上(約1400℃)に加熱し、透明合成石英ガラスインゴットとした。得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度を赤外分光光度計にて、2.7μmの赤外線の吸収スペクトルから測定を行った。得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度の径方向分布は、その合成石英ガラススート体の製造時において測定された温度分布と相関関係を示した。図5において、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内で4次多項式における近似線を点線で示し、実線が実測値を滑らかに結んだ線である。図5に示すように、OH基濃度の径方向分布は実施例2の場合と比較しさらに滑らかになった。
【0052】
また、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内での4次多項式における近似線と実測値との当てはまり度を示す下記式(1)の決定係数Rは0.997であった。
=(近似値の偏差平方和/実測値の偏差平方和) ・・・・ (1)
【0053】
(比較例1)
VAD(vapor-phase axial deposition)法(気相軸付法)により、表1に示すように、原料に四塩化珪素,燃性ガスに水素,支燃性ガスに酸素,不燃性ガスに窒素を同心円多重管バーナーに導入し燃焼火炎中で加水分解反応させながら合成石英ガラススート体を製造した。赤外線サーモグラフィを用いて、定常段階における製造中の合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の火炎照射面領域Z内での最高温度部と最低温度部の温度の差を測定したところ、80℃であった。表2に測定された各点の温度を示す。
【0054】
得られた合成石英ガラススート体を真空下において約1200℃で一定時間保持し脱水した脱水処理したのちガラス化温度以上(約1400℃)に加熱し、透明合成石英ガラスインゴットとした。得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度を赤外分光光度計にて、2.7μmの赤外線の吸収スペクトルから測定を行った。図6に示すように、得られた透明合成石英ガラスインゴットのOH基濃度の径方向分布は、その合成石英ガラススート体の製造時において測定された温度分布と相関関係を示した。その合成石英ガラススート体の製造時において径方向で最高温度部であった透明合成石英ガラスインゴットのインゴット中心はOH基濃度が局所的に低下しており、逆にその合成石英ガラススート体の製造時において最低温度部であった透明合成石英ガラスインゴットのインゴット径方向20〜30%付近では、最高OH基濃度を示した。
【0055】
また、ガラス化後のインゴットの径の中心から80%の範囲内での4次多項式における近似線と実測値との当てはまり度を示す下記式(1)の決定係数Rは0.906であった。
=(近似値の偏差平方和/実測値の偏差平方和) ・・・・ (1)
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
以上のように、実施例1〜3で得られた合成石英ガラススート体を用いて製造された透明合成石英ガラスインゴットは、OH基濃度分布に変曲点がなく滑らかな分布を有するものであるから、屈折率の均一な合成石英ガラススート体が得られ、それにより透明合成石英ガラスインゴットが得られたことがわかる。また、比較例1では、透明合成石英ガラスインゴットのインゴット中心においてOH基濃度が局所的に低下していることから、屈折率の均一な合成石英ガラススート体が得られず、それを用いて製造された透明合成石英ガラスインゴットでもOH基濃度分布に変曲点がなく滑らかな分布を有さず、屈折率が均一とならなかったことがわかる。
【符号の説明】
【0059】
10:合成石英ガラススート体、12:同心円多重管バーナー、14:成長火炎、16:合成石英ガラススート体の回転軸、18:半径rに対して80%の径、20:同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線、22:合成石英ガラススート体の回転軸に直交する線、24:火炎照射面、d1:点Pと合成石英ガラススート体の回転軸までの水平方向距離、d2:バーナー先端から合成石英ガラススート体の火炎照射面までの距離、O:スート体の中心と火炎照射面領域の交わる点、P:同心円多重管バーナーの芯中心軸の延長線と合成石英ガラススート体の火炎照射面とが交わる点、Q:スート体の半径rに対して80%の径の部分の火炎照射面領域の点、r:合成石英ガラススート体の回転軸からの半径、Z:合成石英ガラススート体の回転軸から半径80%以内の火炎照射面領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6