特許第5939710号(P5939710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939710
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】地盤補強構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/08 20060101AFI20160609BHJP
   E02D 5/28 20060101ALI20160609BHJP
   E02D 27/12 20060101ALI20160609BHJP
   E02D 27/28 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   E02D3/08
   E02D5/28
   E02D27/12 Z
   E02D27/28
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-215070(P2012-215070)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-70342(P2014-70342A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】藤野 一
【審査官】 竹村 真一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−196351(JP,A)
【文献】 特開2008−050764(JP,A)
【文献】 特開2000−199236(JP,A)
【文献】 特開2006−70513(JP,A)
【文献】 米国特許第04832533(US,A)
【文献】 特開2011−163073(JP,A)
【文献】 特開2007−2565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/00−27/52
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物を構成する基礎の下方のうち、地中障害物が存在しない平面範囲には第1の杭材をほぼ鉛直にかつ周面摩擦力が作用するように前記地盤内に配置するとともに、前記基礎の下方のうち、地中障害物が存在する平面範囲には第2の杭材をその頭部の水平位置が該平面範囲に位置決めされるようにかつ周面摩擦力が作用するように前記地盤内に斜めに配置し、前記第1の杭材の頭部及び前記第2の杭材の頭部を前記地盤内にほぼ水平に配置された荷重伝達材に連結したことを特徴とする地盤補強構造。
【請求項2】
前記第2の杭材を頭部側で前記第1の杭材から離間させ、先端側で前記第1の杭材に近接させるように配置した請求項1記載の地盤補強構造。
【請求項3】
前記第1の杭材を列状に複数本配置してそれらの頭部を前記荷重伝達材にそれぞれ連結するとともに、該第1の杭材のうち、最外位置の杭材から水平に延びる前記荷重伝達材の張出し部位に前記第2の杭材を連結した請求項2記載の地盤補強構造。
【請求項4】
前記第2の杭材の頭部近傍又は該第2の杭材と前記荷重伝達材との間に昇降機構を介在させた請求項1乃至請求項3のいずれか一記載の地盤補強構造。
【請求項5】
前記荷重伝達材の撓みを計測可能な計測手段を該荷重伝達材に配置した請求項4記載の地盤補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として小規模建物、特に2階建又は3階建の戸建住宅が建設される地盤を補強する地盤補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物が構築される地盤には、その建物の規模に見合った強度が要求され、比較的軟弱な地盤であったり、不同沈下や液状化のおそれがあるのであれば、杭基礎によって地盤支持力を高めたり、地盤改良したりといった対策が必要となる。
【0003】
ここで、オフィスビルやマンションといった大規模構造物の場合には、鋼管杭やコンクリート杭を支持層に到達するまで打ち込んで支持杭とし、あるいは支持層まで打ち込まずに摩擦杭とした上、該杭の頭部が基礎に貫入されるように構造物を構築するが、建物規模が小さい場合には、経済性に優れた簡易な地盤補強工法が望まれる。
【0004】
小規模建物に適した地盤補強工法としては細径鋼管を用いた工法が知られており、かかる地盤補強工法においては、細径鋼管であるパイプを、建物の布基礎あるいはベタ基礎の平面配置状況に合わせて水平2方向に沿った列状となるように鉛直姿勢で地盤に圧入し、しかる後、圧入されたパイプの上方に布基礎やベタ基礎を構築する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−63915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した地盤補強工法によれば、布基礎やベタ基礎を介して作用する建物荷重の一部が、パイプの周面に作用する周辺地盤からの摩擦力で支持されるため、布基礎やベタ基礎直下からの地盤反力だけで建物荷重を支持する場合に比べ、全体の地盤支持力が大幅に向上する。
【0007】
しかしながら、擁壁や埋設ケーブルなどの地中障害物と干渉するためにパイプを鉛直に圧入できない場合があるところ、これを回避すべく、地中障害物と干渉するおそれがある平面位置でパイプを短くしたり、圧入ピッチを変更したり、その箇所でのパイプの圧入自体を止めたりすると、必要な支持力を確保できなくなることはもちろん、各パイプごとに支持力が異なるため、建物に不同沈下が生じる懸念があるという問題を生じていた。
【0008】
特に、隣地境界に沿って擁壁が設置されている場合、該擁壁の背面に拡がる地盤に緩みが生じることがあり、かかる状況においては、建物下方に延びる擁壁の底版が地中障害物となってパイプを鉛直に圧入できないことによる支持力不足が加わり、建物の不同沈下がさらに生じやすくなるという問題を生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、基礎の下方に地中障害物が存在する場合であっても、建物に不同沈下を生じさせることなく、十分な地盤支持力を確保することが可能な地盤補強構造を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る地盤補強構造は請求項1に記載したように、建物を構成する基礎の下方のうち、地中障害物が存在しない平面範囲には第1の杭材をほぼ鉛直にかつ周面摩擦力が作用するように前記地盤内に配置するとともに、前記基礎の下方のうち、地中障害物が存在する平面範囲には第2の杭材をその頭部の水平位置が該平面範囲に位置決めされるようにかつ周面摩擦力が作用するように前記地盤内に斜めに配置し、前記第1の杭材の頭部及び前記第2の杭材の頭部を前記地盤内にほぼ水平に配置された荷重伝達材に連結したものである。
【0011】
また、本発明に係る地盤補強構造は、前記第2の杭材を頭部側で前記第1の杭材から離間させ、先端側で前記第1の杭材に近接させるように配置したものである。
【0012】
また、本発明に係る地盤補強構造は、前記第1の杭材を列状に複数本配置してそれらの頭部を前記荷重伝達材にそれぞれ連結するとともに、該第1の杭材のうち、最外位置の杭材から水平に延びる前記荷重伝達材の張出し部位に前記第2の杭材を連結したものである。
【0013】
また、本発明に係る地盤補強構造は、前記第2の杭材の頭部近傍又は該第2の杭材と前記荷重伝達材との間に昇降機構を介在させたものである。
【0014】
また、本発明に係る地盤補強構造は、前記荷重伝達材の撓みを計測可能な計測手段を該荷重伝達材に配置したものである。
【0015】
細径鋼管を用いた従来の地盤補強工法における杭材は、基礎を介して上方から作用する建物の鉛直荷重を、周面に作用する周辺地盤からの摩擦力で支持するものであるため、杭材の回転による不測の事態を回避するためにも、できる限り鉛直姿勢を保ったまま圧入される必要がある。
【0016】
しかしながら、地中障害物があるために杭材を鉛直に圧入することができず、その結果、その箇所の杭材が短くされたり省略されたりする場合には、全体の地盤支持力が不足し、あるいは建物に不同沈下を招く懸念があることは上述した通りである。
【0017】
本出願人は、地中障害物が存在する場合、いかにすれば地盤支持力の低下や建物の不同沈下を防止することができるかに着眼して研究を行った結果、上述した本発明をなすに至ったものである。
【0018】
すなわち、本発明に係る地盤補強構造においては、基礎の下方のうち、地中障害物が存在しない平面範囲には、従来の地盤補強工法と同様、第1の杭材をほぼ鉛直にかつ周面摩擦力が作用するように地盤内に配置するが、地中障害物が存在する平面範囲には、第2の杭材をその頭部の水平位置が該平面範囲に位置決めされるようにかつ周面摩擦力が作用するように地盤内に斜めに配置し、かかる状態で第1の杭材の頭部及び第2の杭材の頭部を荷重伝達材に連結する。
【0019】
このようにすると、基礎を介して第2の杭材の頭部に作用する建物の鉛直荷重は、第2の杭材の材軸方向に沿って生じる斜め上向きの周面摩擦力と荷重伝達材の材軸方向に沿って生じる水平方向の圧縮反力又は引張反力とバランスする、換言すれば、第2の杭材は、その材軸方向が鉛直でないために起こる回転変形を荷重伝達材からの反力によって防止されながら、周面に作用する周辺地盤からの摩擦力によって建物の鉛直荷重を支持することとなり、かくして基礎の下方に地中障害物が存在する場合であっても、建物に不同沈下を生じさせることなく、十分な地盤支持力を確保することが可能となる。
【0020】
建物は、主として小規模建物、特に2階建あるいは3階建の戸建住宅が対象となる。
【0021】
基礎は、布基礎であるかベタ基礎であるかを問わないが、布基礎の場合には、その立ち上がり部に沿って、布基礎の場合には、その水平領域全体にわたって第1の杭材や第2の杭材をそれぞれ列状に地盤内に配置する構成を採用することができる。
【0022】
第1の杭材や第2の杭材は、細径鋼管であるパイプで構成することができる。
【0023】
荷重伝達材は、第2の杭材からの圧縮力又は水平力を第1の杭材の頭部に伝達して該第1の杭材で圧縮反力又は引張反力を生じさせることができる限り、任意に構成することが可能であり、例えば第1の杭材や第2の杭材と同一の部材で構成することができる。
【0024】
第1の杭材や第2の杭材の地盤内への配置は、それら杭材の周面で周辺地盤から周面摩擦力が作用する限り、どのような配置の仕方でもかまわないが、例えば第1の杭材や第2の杭材を杭打機のリーダに装着して鉛直又は斜め姿勢を保持するとともに、かかる状態で回転力及び推進力を加えることにより、第1の杭材や第2の杭材を地盤内に回転圧入して地盤内に配置する方法が採用可能である。
【0025】
地中障害物とは、第1の杭材を地盤内に鉛直に配置するにあたり、貫入が不可能なもの、あるいは貫入させてはならないものであり、擁壁の底版、配管類、埋蔵文化財などが包摂される。
【0026】
第2の杭材は、このような地中障害物との干渉を避けて斜めに配置される限り、どのような角度で配置されるかは任意であって、頭部側を第1の杭材から離間させ、先端側を第1の杭材に近接させるのか、逆に頭部側を第1の杭材に近接させ、先端側を第1の杭材から離間させるのかも任意であるが、前者の構成、すなわち第2の杭材を頭部側で第1の杭材から離間させ、先端側で第1の杭材に近接させるように配置したならば、荷重伝達材に生じる荷重が引張力となるため、座屈等の検討が不要になって構造的に取り扱いやすくなる。
【0027】
なお、地中障害物が存在する平面範囲は、物理的な干渉のために杭材を鉛直に配置することができない平面範囲としてもよいが、杭材施工時に地盤の攪乱等によって杭材や地中障害物に悪影響が及ぶおそれがある平面範囲も含めるのが安全上望ましい。この場合、地中障害物が存在しない平面範囲は、杭材を鉛直に配置することが可能でかつ杭材の施工時にも杭材や地中障害物に悪影響が生じない範囲となる。
【0028】
荷重伝達材を介して第1の杭材から水平方向の圧縮反力又は引張反力を第2の杭材に伝達させねばならない関係上、第1の杭材、第2の杭材及び荷重伝達材は、同一の鉛直構面に沿って配置される必要があるが、これらの部材を同一の鉛直構面に沿って配置する限り、第1の杭材と第2の杭材との相対位置関係は任意であって、建物の中央直下に地中障害物が存在するのであれば、該建物中央に位置する基礎の下方に第2の杭材を配置し、その両側方に第1の杭材をそれぞれ配置するようにすればよいし、建物直下ではなく斜め下方に地中障害物が存在するのであれば、該地中障害物が存在する側の基礎の下方に第2の杭材を配置し、反対側に第1の杭材を配置するようにすればよい。
【0029】
また、例えば布基礎である場合には、同一列の布基礎の下方に第1の杭材、第2の杭材及び荷重伝達材を配置するとともに、それらが形成する鉛直構面に沿って第2の杭材を斜めに配置するのが構造上あるいは施工上望ましいものの、第1の杭材、第2の杭材及び荷重伝達材が形成する鉛直構面は、本来、建物や基礎の材軸とは無関係であって、布基礎である場合は、第1の杭材と第2の杭材とがそれぞれ異なる列の布基礎に配置されるようにしてもかまわない。
【0030】
また、第1の杭材を単一構成とするか複数本構成とするかも任意である。
【0031】
第1の杭材と第2の杭材との相対位置関係に関する具体的な構成例として、第1の杭材を例えば布基礎の材軸方向に沿って列状に複数本配置し、それらの頭部を荷重伝達材にそれぞれ連結するとともに、該第1の杭材のうち、最外位置の杭材から水平に延びる荷重伝達材の張出し部位に第2の杭材を連結した構成が考えられるが、かかる構成は、傾斜地を切土あるいは盛土してなるひな壇状の敷地によく見られるように、隣地境界に沿って設置された擁壁の底版が建物下方に延びており、建物の基礎のうち、擁壁側の基礎については、該擁壁の底版が地中障害物となって第1の杭材を鉛直に圧入することができない場合に最適な構成となる。
【0032】
このように本願発明によれば、基礎の下方に地中障害物が存在する場合であっても、建物に不同沈下を生じさせることなく、十分な地盤支持力で建物の鉛直荷重を支持することができるが、第2の杭材の頭部近傍又は該第2の杭材と荷重伝達材との間に昇降機構を介在させるようにすれば、該昇降機構は、第2の杭材を介して地盤から反力をとることで、荷重伝達材、さらにはその直上に位置する基礎を上方に向けて載荷することができるため、擁壁の背面に拡がる地盤が緩んで建物に不同変位が生じるのを未然に防止することも可能となる。
【0033】
昇降機構は、例えば単管足場の脚部に用いるジャッキベース又はそれに類似したものを利用して適宜構成することができるほか、油圧ジャッキや電動モータで構成することも可能である。
【0034】
擁壁背面の地盤の緩みによって建物に生じる不同変位は、建物自体の変位を計測するほか、擁壁の回転や移動あるいは地盤応力を計測することで把握することができるが、不同変位の発生によって荷重伝達材に撓みが生じることを利用し、該撓みを計測可能な計測手段を該荷重伝達材に配置するようにすれば、荷重伝達材に生じた撓みの大きさに応じて昇降機構を動作させることが可能となり、かくして建物の不同変位をより確実に管理することが可能となる。
【0035】
計測手段は、例えばパイプで構成された荷重伝達材の内周面のうち、下面と上面にひずみゲージを貼り付けて構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本実施形態に係る地盤補強構造1の鉛直断面図。
図2】地盤補強構造1の全体平面図。
図3】地盤補強構造1の全体斜視図。
図4】地盤補強構造1の作用を示した説明図。
図5】変形例に係る地盤補強構造を示した鉛直断面図。
図6】別の変形例に係る地盤補強構造を示した図であり、(a)は平面図、(b)はA−A線に沿う鉛直断面図。
図7】別の変形例に係る地盤補強構造を示した鉛直断面図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る地盤補強構造の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0038】
図1は、本実施形態に係る地盤補強構造を示した鉛直断面図である。同図でわかるように、本実施形態に係る地盤補強構造1は、建物2が立地する敷地の隣地境界に擁壁3が設置され、該擁壁の底版4が建物2の下方に延びている状況に適用したものであり、建物2の一部を構成する布基礎5の下方には、第1の杭材としてのパイプ6をほぼ鉛直にかつ周面摩擦力が作用するように地盤7内に配置してあるとともに、第2の杭材としてのパイプ8を斜めにかつ周面摩擦力が作用するように地盤7内に配置してあり、パイプ6及びパイプ8は、それらの頭部を、地盤7内にほぼ水平に配置された荷重伝達材9にそれぞれ連結してある。
【0039】
パイプ6は、図2に示した地中障害物が存在しない平面範囲、すなわち地中障害物である擁壁3の底版4から十分な水平距離だけ離隔しているために杭材を鉛直に配置することが可能でかつ杭材の施工時にも杭材や擁壁3に悪影響が生じない範囲に配置してあり、布基礎5を構成する外周基礎のうち、擁壁3と直交する外周基礎に10本、内部基礎に5本、擁壁3と平行な外周基礎であって内部基礎が接続されていない箇所に2本、計17本からなる。
【0040】
一方、パイプ8は、それらの頭部の水平位置が、同図に示した地中障害物が存在する平面範囲、すなわち擁壁3の底版4が存在するために杭材を鉛直配置できないか、又は十分な水平距離だけ離隔していないために杭材施工時に地盤の攪乱等によって杭材や擁壁3に悪影響が及ぶおそれがある平面範囲に位置決めされるように配置してあり、布基礎5を構成する外周基礎のうち、擁壁3と直交する外周基礎に4本、内部基礎に2本、擁壁3と平行な外周基礎であって内部基礎が接続されていない箇所に2本、計8本からなる。
【0041】
パイプ6,パイプ8及び荷重伝達材9は図3でよくわかるように、相異なる5つの鉛直構面に沿ってかつ該各構面ごとに相互連結された5組の構造体11a〜11eに分類され、最も左に位置する構造体11aは、図2では最も上に位置する外周基礎の材軸を含んだ鉛直構面に沿ったものであって、列状に配置された5本のパイプ6の頭部を荷重伝達材9にそれぞれ連結するとともに、最外位置のパイプ6から水平に延びる荷重伝達材9の張出し部位に2本のパイプ8を連結してなり、パイプ8は、それらの頭部側でパイプ6から離間し、先端側でパイプ6に近接するように斜めに配置してある。
【0042】
同様に、構造体11bは、図2では上から2番めに位置する鉛直構面に沿ったものであって、1本のパイプ6と1本のパイプ8を荷重伝達材9に連結してなり、構造体11cは、図2では内部基礎の材軸を含んだ上から3番目の鉛直構面に沿ったものであって、列状に配置された5本のパイプ6の頭部を荷重伝達材9にそれぞれ連結するとともに、最外位置のパイプ6から水平に延びる荷重伝達材9の張出し部位に2本のパイプ8を連結してなり、構造体11dは、図2では上から4番目の鉛直構面に沿ったものであって、1本のパイプ6と1本のパイプ8を荷重伝達材9に連結してなり、構造体11eは、図2では最も下に位置する外周基礎の材軸を含んだ鉛直構面に沿ったものであって、列状に配置された5本のパイプ6の頭部を荷重伝達材9にそれぞれ連結するとともに、最外位置のパイプ6から水平に延びる荷重伝達材9の張出し部位に2本のパイプ8を連結してなり、各構造体11b〜11eにおけるパイプ8は、それらの頭部側でパイプ6から離間し、先端側でパイプ6に近接するように斜めに配置してある。
【0043】
パイプ6,パイプ8及び荷重伝達材9は、例えば直径50mm程度、肉厚数mm程度の鋼管で構成することが可能であり、パイプ6,8の各頭部と荷重伝達材9とは、例えば単管足場の組立に用いる直交クランプや自在クランプ(いずれも図示せず)を用いて適宜連結することができる。
【0044】
なお、構造体11a〜11eは、必要に応じて互いに連結するようにしてもかまわない。
【0045】
本実施形態に係る地盤補強構造1を構築するには、図2に示した杭基礎5の平面形状に一致するように、地盤7の地表面に予め作業溝(図示せず)を形成し、次いで、該作業溝の底面からパイプ6を鉛直に回転圧入するとともに、パイプ8を斜めに回転圧入することで、それぞれのパイプ6,8を地盤7内に配置する。
【0046】
次に、構造体11a,11c,11eについては、作業溝の凹部空間を利用して荷重伝達材9を水平に仮保持し、かかる状態でパイプ6の頭部とは直交クランプを用いて、パイプ8の頭部とは自在クランプを用いてそれぞれ連結するとともに、構造体11b,11dについては、地表面を適宜掘削して荷重伝達材9を同様に仮保持した後、パイプ6の頭部及びパイプ8の頭部を同様に連結する。
【0047】
構造体11a〜11eの構築が完了したならば、作業溝を埋め戻して砂利を敷き込み、捨てコンクリートを打った後、布基礎5を構築する。
【0048】
本実施形態に係る地盤補強構造1においては、布基礎5の下方のうち、地中障害物が存在しない平面範囲には、パイプ6をほぼ鉛直にかつ周面摩擦力が作用するように地盤7内に配置するが、地中障害物が存在する平面範囲には、パイプ8をそれらの頭部の水平位置が該平面範囲に位置決めされるようにかつ周面摩擦力が作用するように地盤7内に斜めに配置し、かかる状態でパイプ6の頭部及びパイプ8の頭部を荷重伝達材9にそれぞれ連結する。
【0049】
このようにすると、パイプ6の上方から布基礎5を介して載荷される建物2の荷重は、パイプ6の周面に作用する周辺地盤からの摩擦力によって支持されるとともに、パイプ8の頭部の上方から布基礎5を介して載荷される建物2の荷重は、パイプ8の材軸方向に沿って生じる斜め上向きの周面摩擦力と荷重伝達材9の材軸方向に沿って生じる水平方向の引張反力とバランスする、換言すれば、パイプ8は、その材軸方向が鉛直でないために起こる回転変形を荷重伝達材9からの引張反力によって防止されながら、周面摩擦力によって建物2の鉛直荷重を支持する。
【0050】
図4は、このような建物2の鉛直荷重の支持状況を、構造体11a,11c,11eと構造体11b,11dのそれぞれについて示したものである。
【0051】
以上説明したように、本実施形態に係る地盤補強構造1によれば、パイプ8の頭部の上方から布基礎5を介して載荷される建物2の鉛直荷重が、パイプ8の材軸方向に沿って生じる斜め上向きの周面摩擦力と荷重伝達材9の材軸方向に沿って生じる水平方向の引張反力によってバランスするため、パイプ8の回転変形が防止されつつ、建物2からの鉛直荷重が支持される。
【0052】
したがって、布基礎5の下方に地中障害物である擁壁3の底版4が存在する場合であっても、建物2に不同沈下を生じさせることなく、地盤支持力についても十分に確保することが可能となる。
【0053】
本実施形態では、建物の基礎が布基礎5である場合について説明したが、ベタ基礎についても同様に適用できることは言うまでもない。
【0054】
また、本実施形態では、パイプ8を、それらの頭部側でパイプ6から離間し、先端側でパイプ6に近接するように斜めに配置したが、図5に示すように建物2の直下に地中障害物として配管類51が埋設されている場合においては、パイプ8を、それらの頭部側でパイプ6に近接し、先端側でパイプ6から離間するように斜めに配置してもかまわない。
【0055】
かかる構成においても、荷重伝達材9に生じる力が圧縮力となる以外は上述の実施形態と概ね同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0056】
また、本実施形態では、構造体11a,11c,11eが、布基礎5の外周基礎や内部基礎の材軸を含む鉛直構面に沿って構成された場合について説明したが、構造体11b,11dがそうであるように、本発明における第1の杭材、第2の杭材及び荷重伝達材からなる構造体は、基礎の下方に配置されかつ同一の鉛直構面に沿って連結されていれば足りるのであって、基礎が布基礎である場合において、該布基礎の材軸を含む鉛直構面に沿って構成される必要はない。
【0057】
図6は、擁壁3に対して建物2が45度だけ平面的に傾いている場合であって、荷重伝達材9を介してパイプ8に連結されるパイプ6としては、対角位置のパイプ6となるが、かかる構成でも何ら問題はない。
【0058】
また、本実施形態では特に言及しなかったが、図7に示すように、パイプ8の頭部を、単管足場の脚部に用いるジャッキベースを用いて構成された昇降機構としてのジャッキ機構71を介して荷重伝達材9に連結した構成とすれば、ジャッキ機構71を作動させることにより、パイプ8を介して地盤7から反力をとりつつ、荷重伝達材9、さらにはその直上に位置する布基礎5を上方に向けて載荷することができるため、擁壁3の背面に拡がる地盤が緩んで建物2に不同変位が生じるといった事態を未然に防止することが可能となる。
【0059】
また、かかる構成において、荷重伝達材9の内周面のうち、下面と上面に計測手段としてのひずみゲージ(図示せず)を貼り付けることで、荷重伝達材9の撓み量を計測可能に構成したならば、その計測結果を踏まえてジャッキ機構71の操作を行うことができるため、建物2の不同変位をより確実に管理することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 地盤補強構造
2 建物
3 擁壁
4 底版(地中障害物)
5 布基礎(基礎)
6 パイプ(第1の杭材)
7 地盤
8 パイプ(第2の杭材)
9 荷重伝達材
51 配管類(地中障害物)
71 ジャッキ機構(昇降機構)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7