【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、基礎の下方に地中障害物が存在する場合であっても、建物に不同沈下を生じさせることなく、十分な地盤支持力を確保することが可能な地盤補強構造を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る地盤補強構造は請求項1に記載したように、建物を構成する基礎の下方のうち、地中障害物が存在しない平面範囲には第1の杭材をほぼ鉛直にかつ周面摩擦力が作用するように前記地盤内に配置するとともに、前記基礎の下方のうち、地中障害物が存在する平面範囲には第2の杭材をその頭部の水平位置が該平面範囲に位置決めされるようにかつ周面摩擦力が作用するように前記地盤内に斜めに配置し、前記第1の杭材の頭部及び前記第2の杭材の頭部を前記地盤内にほぼ水平に配置された荷重伝達材に連結したものである。
【0011】
また、本発明に係る地盤補強構造は、前記第2の杭材を頭部側で前記第1の杭材から離間させ、先端側で前記第1の杭材に近接させるように配置したものである。
【0012】
また、本発明に係る地盤補強構造は、前記第1の杭材を列状に複数本配置してそれらの頭部を前記荷重伝達材にそれぞれ連結するとともに、該第1の杭材のうち、最外位置の杭材から水平に延びる前記荷重伝達材の張出し部位に前記第2の杭材を連結したものである。
【0013】
また、本発明に係る地盤補強構造は、前記第2の杭材の頭部近傍又は該第2の杭材と前記荷重伝達材との間に昇降機構を介在させたものである。
【0014】
また、本発明に係る地盤補強構造は、前記荷重伝達材の撓みを計測可能な計測手段を該荷重伝達材に配置したものである。
【0015】
細径鋼管を用いた従来の地盤補強工法における杭材は、基礎を介して上方から作用する建物の鉛直荷重を、周面に作用する周辺地盤からの摩擦力で支持するものであるため、杭材の回転による不測の事態を回避するためにも、できる限り鉛直姿勢を保ったまま圧入される必要がある。
【0016】
しかしながら、地中障害物があるために杭材を鉛直に圧入することができず、その結果、その箇所の杭材が短くされたり省略されたりする場合には、全体の地盤支持力が不足し、あるいは建物に不同沈下を招く懸念があることは上述した通りである。
【0017】
本出願人は、地中障害物が存在する場合、いかにすれば地盤支持力の低下や建物の不同沈下を防止することができるかに着眼して研究を行った結果、上述した本発明をなすに至ったものである。
【0018】
すなわち、本発明に係る地盤補強構造においては、基礎の下方のうち、地中障害物が存在しない平面範囲には、従来の地盤補強工法と同様、第1の杭材をほぼ鉛直にかつ周面摩擦力が作用するように地盤内に配置するが、地中障害物が存在する平面範囲には、第2の杭材をその頭部の水平位置が該平面範囲に位置決めされるようにかつ周面摩擦力が作用するように地盤内に斜めに配置し、かかる状態で第1の杭材の頭部及び第2の杭材の頭部を荷重伝達材に連結する。
【0019】
このようにすると、基礎を介して第2の杭材の頭部に作用する建物の鉛直荷重は、第2の杭材の材軸方向に沿って生じる斜め上向きの周面摩擦力と荷重伝達材の材軸方向に沿って生じる水平方向の圧縮反力又は引張反力とバランスする、換言すれば、第2の杭材は、その材軸方向が鉛直でないために起こる回転変形を荷重伝達材からの反力によって防止されながら、周面に作用する周辺地盤からの摩擦力によって建物の鉛直荷重を支持することとなり、かくして基礎の下方に地中障害物が存在する場合であっても、建物に不同沈下を生じさせることなく、十分な地盤支持力を確保することが可能となる。
【0020】
建物は、主として小規模建物、特に2階建あるいは3階建の戸建住宅が対象となる。
【0021】
基礎は、布基礎であるかベタ基礎であるかを問わないが、布基礎の場合には、その立ち上がり部に沿って、布基礎の場合には、その水平領域全体にわたって第1の杭材や第2の杭材をそれぞれ列状に地盤内に配置する構成を採用することができる。
【0022】
第1の杭材や第2の杭材は、細径鋼管であるパイプで構成することができる。
【0023】
荷重伝達材は、第2の杭材からの圧縮力又は水平力を第1の杭材の頭部に伝達して該第1の杭材で圧縮反力又は引張反力を生じさせることができる限り、任意に構成することが可能であり、例えば第1の杭材や第2の杭材と同一の部材で構成することができる。
【0024】
第1の杭材や第2の杭材の地盤内への配置は、それら杭材の周面で周辺地盤から周面摩擦力が作用する限り、どのような配置の仕方でもかまわないが、例えば第1の杭材や第2の杭材を杭打機のリーダに装着して鉛直又は斜め姿勢を保持するとともに、かかる状態で回転力及び推進力を加えることにより、第1の杭材や第2の杭材を地盤内に回転圧入して地盤内に配置する方法が採用可能である。
【0025】
地中障害物とは、第1の杭材を地盤内に鉛直に配置するにあたり、貫入が不可能なもの、あるいは貫入させてはならないものであり、擁壁の底版、配管類、埋蔵文化財などが包摂される。
【0026】
第2の杭材は、このような地中障害物との干渉を避けて斜めに配置される限り、どのような角度で配置されるかは任意であって、頭部側を第1の杭材から離間させ、先端側を第1の杭材に近接させるのか、逆に頭部側を第1の杭材に近接させ、先端側を第1の杭材から離間させるのかも任意であるが、前者の構成、すなわち第2の杭材を頭部側で第1の杭材から離間させ、先端側で第1の杭材に近接させるように配置したならば、荷重伝達材に生じる荷重が引張力となるため、座屈等の検討が不要になって構造的に取り扱いやすくなる。
【0027】
なお、地中障害物が存在する平面範囲は、物理的な干渉のために杭材を鉛直に配置することができない平面範囲としてもよいが、杭材施工時に地盤の攪乱等によって杭材や地中障害物に悪影響が及ぶおそれがある平面範囲も含めるのが安全上望ましい。この場合、地中障害物が存在しない平面範囲は、杭材を鉛直に配置することが可能でかつ杭材の施工時にも杭材や地中障害物に悪影響が生じない範囲となる。
【0028】
荷重伝達材を介して第1の杭材から水平方向の圧縮反力又は引張反力を第2の杭材に伝達させねばならない関係上、第1の杭材、第2の杭材及び荷重伝達材は、同一の鉛直構面に沿って配置される必要があるが、これらの部材を同一の鉛直構面に沿って配置する限り、第1の杭材と第2の杭材との相対位置関係は任意であって、建物の中央直下に地中障害物が存在するのであれば、該建物中央に位置する基礎の下方に第2の杭材を配置し、その両側方に第1の杭材をそれぞれ配置するようにすればよいし、建物直下ではなく斜め下方に地中障害物が存在するのであれば、該地中障害物が存在する側の基礎の下方に第2の杭材を配置し、反対側に第1の杭材を配置するようにすればよい。
【0029】
また、例えば布基礎である場合には、同一列の布基礎の下方に第1の杭材、第2の杭材及び荷重伝達材を配置するとともに、それらが形成する鉛直構面に沿って第2の杭材を斜めに配置するのが構造上あるいは施工上望ましいものの、第1の杭材、第2の杭材及び荷重伝達材が形成する鉛直構面は、本来、建物や基礎の材軸とは無関係であって、布基礎である場合は、第1の杭材と第2の杭材とがそれぞれ異なる列の布基礎に配置されるようにしてもかまわない。
【0030】
また、第1の杭材を単一構成とするか複数本構成とするかも任意である。
【0031】
第1の杭材と第2の杭材との相対位置関係に関する具体的な構成例として、第1の杭材を例えば布基礎の材軸方向に沿って列状に複数本配置し、それらの頭部を荷重伝達材にそれぞれ連結するとともに、該第1の杭材のうち、最外位置の杭材から水平に延びる荷重伝達材の張出し部位に第2の杭材を連結した構成が考えられるが、かかる構成は、傾斜地を切土あるいは盛土してなるひな壇状の敷地によく見られるように、隣地境界に沿って設置された擁壁の底版が建物下方に延びており、建物の基礎のうち、擁壁側の基礎については、該擁壁の底版が地中障害物となって第1の杭材を鉛直に圧入することができない場合に最適な構成となる。
【0032】
このように本願発明によれば、基礎の下方に地中障害物が存在する場合であっても、建物に不同沈下を生じさせることなく、十分な地盤支持力で建物の鉛直荷重を支持することができるが、第2の杭材の頭部近傍又は該第2の杭材と荷重伝達材との間に昇降機構を介在させるようにすれば、該昇降機構は、第2の杭材を介して地盤から反力をとることで、荷重伝達材、さらにはその直上に位置する基礎を上方に向けて載荷することができるため、擁壁の背面に拡がる地盤が緩んで建物に不同変位が生じるのを未然に防止することも可能となる。
【0033】
昇降機構は、例えば単管足場の脚部に用いるジャッキベース又はそれに類似したものを利用して適宜構成することができるほか、油圧ジャッキや電動モータで構成することも可能である。
【0034】
擁壁背面の地盤の緩みによって建物に生じる不同変位は、建物自体の変位を計測するほか、擁壁の回転や移動あるいは地盤応力を計測することで把握することができるが、不同変位の発生によって荷重伝達材に撓みが生じることを利用し、該撓みを計測可能な計測手段を該荷重伝達材に配置するようにすれば、荷重伝達材に生じた撓みの大きさに応じて昇降機構を動作させることが可能となり、かくして建物の不同変位をより確実に管理することが可能となる。
【0035】
計測手段は、例えばパイプで構成された荷重伝達材の内周面のうち、下面と上面にひずみゲージを貼り付けて構成することができる。