特許第5939730号(P5939730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939730
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】含アルコールウエットティシュ
(51)【国際特許分類】
   A47K 7/00 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
   A47K7/00 C
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2009-285443(P2009-285443)
(22)【出願日】2009年12月16日
(65)【公開番号】特開2010-162342(P2010-162342A)
(43)【公開日】2010年7月29日
【審査請求日】2012年10月30日
【審判番号】不服2015-13682(P2015-13682/J1)
【審判請求日】2015年7月21日
(31)【優先権主張番号】特願2008-319360(P2008-319360)
(32)【優先日】2008年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】石橋 範之
(72)【発明者】
【氏名】林 伸匡
【合議体】
【審判長】 赤木 啓二
【審判官】 小野 忠悦
【審判官】 谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−99088(JP,A)
【文献】 特開平11−113780(JP,A)
【文献】 特開2007−210931(JP,A)
【文献】 特開2003−20597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布と、該基布に含浸されアルコール成分を含む含浸液とを有するウェットティシュであって、
前記アルコール成分は、純エタノールからなり、
前記含浸液は、精製水、前記アルコール成分、安息香酸、安息香酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、及びクエン酸とクエン酸ナトリウムの混合物からなり、
前記ウェットティシュ中の前記アルコール成分の含有量が0.025g/g以上、0.2g/g未満であり、かつ迅速平衡法(セタ密閉式引火点測定試験法)による引火点が40℃以上であり、
前記基布は親水性繊維を含み、(前記含浸液の前記基布への含浸倍率(%))/(前記基布中の前記親水性繊維の混合率(%))で表されるウェット感指数が1.5以上8.0未満であり、
(前記含浸液の前記基布への含浸倍率(%)/100)×(前記基布の坪量(g/m2))×{100−(前記含浸液中の前記アルコール成分の濃度(%))}/100で表され、前記アルコール成分を除く低揮発性液量が20g/m2以上、150g/m2以下であり、
前記含浸液中の前記クエン酸とクエン酸ナトリウムの混合物は緩衝作用を有す含アルコールウェットティシュ。
【請求項2】
前記含浸液は、殺菌及び防黴成分を0.05〜1.0質量%含む請求項1記載の含アルコールウェットティシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルコールを含み安全性の高いウェットティシュに関する。
【背景技術】
【0002】
消費者の衛生意識の高まりから、除菌ウェットティシュの市場は拡大を続けている。特に、アルコールを含有する除菌ウェットティシュは広く消費者の支持を得ている。ウェットティシュにアルコールを配合すると清涼感と殺菌効果が付与されるとともに、手指等を清拭した後に液が乾き易く、サッパリとした使用感となる。
しかし、アルコール含有量が高いウェットティシュは、製品としての安全性(皮膚刺激性や引火性)に問題がある。また製造や流通においても安全上の観点から取り扱いが難しい。このようなことから、アルコール含有量を少なくしたウェットティシュが開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11-99088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アルコールを含むウェットティシュの安全性をさらに高めるためには、ウェットティシュの構成(基布と、基布に含浸される含浸液)についての検討が必要である。
従って、本発明は安全性に優れた含アルコールウエットティシュの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の含アルコールウェットティシュは、基布と、該基布に含浸されアルコール成分を含む含浸液とを有するウェットティシュであって、前記アルコール成分は、純エタノールからなり、前記含浸液は、精製水、前記アルコール成分、安息香酸、安息香酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、及びクエン酸とクエン酸ナトリウムの混合物からなり、前記ウェットティシュ中の前記アルコール成分の含有量が0.025g/g以上、0.2g/g未満であり、かつ迅速平衡法(消防庁危険物規制課監修 「危険物確認試験実施マニュアル」(新日本法規出版)に記載されたセタ密閉式引火点測定試験による)引火点が40℃以上であり、前記基布は親水性繊維を含み、(前記含浸液の前記基布への含浸倍率(%))/(前記基布中の前記親水性繊維の混合率(%))で表されるウェット感指数が1.5以上8.0未満であり、(前記含浸液の前記基布への含浸倍率(%)/100)×(前記基布の坪量(g/m2))×{100−(前記含浸液中の前記アルコール成分の濃度(%))}/100で表され、前記アルコール成分を除く低揮発性液量が20g/m2以上、150g/m2以下であり、前記含浸液中の前記クエン酸とクエン酸ナトリウムの混合物は緩衝作用を有す


【0007】
記含浸液は、殺菌及び防黴成分を0.05〜1.0質量%含むことが好ましい。


【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、皮膚刺激性が低く、かつ、引火性も低く安全性に優れ、さらに、使用感にも優れた含アルコールウエットティシュが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る含アルコールウエットティシュは、基布と、該基布に含浸されアルコールを含む含浸液とを有する。なお、特に断らない限り、%は質量%を表す。
(基布)
基布としては、パルプ又はコットン、ビスコースレーヨン、銅アンモニウムレーヨン等の天然繊維;ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成繊維等の各種繊維の繊維間を結合させてシート状としたものが挙げられる。繊維間を結合される方法としては、抄紙の他、不織布の製造方法(水流交絡、融着、接着等)によって結合させるものが挙げられる。
又、基布が親水性繊維と疎水性繊維とを所定の割合で混合したものであると好ましい。ここで、親水性繊維とはセルロース系の繊維をいい。疎水性繊維とは合成繊維からなるものをいう。
又、上記したシートを2枚以上積層して基布を構成してもよい。
【0010】
(含浸液)
基布には含浸液が含浸され、ウエット状態に保たれている。含浸液はアルコール水溶液を主成分としている。アルコール水溶液はアルコール成分を35重量%以下含み、アルコール成分としては、純エタノール(エタノール100%)を用いる。又、アルコール成分として、炭素数1の飽和1価アルコール及び炭素数3の飽和1価アルコールの少なくとも1つと、エタノールとの混合アルコールを用いてもよい。又、得られたウェットティシュのウェット感を向上させ、ウェットティシュの乾燥を防ぐため、上記アルコール成分に併用して、多価アルコール類を10重量%まで配合しても良い。但し、多価アルコール類は、後述する低揮発性液として扱うものとする。
【0011】
又、上記したように、基布に含浸される含浸液(アルコール水溶液)のアルコール成分の濃度が35重量%以下であるため、アルコール水溶液単独では抗菌力(殺菌及び防黴性)が不十分となる場合がある。そこで、必要に応じ、殺菌性能及び防黴性能を向上させるための各種成分(殺菌及び防黴成分)を含浸液に配合してもよい。これら殺菌及び防黴成分としては、安息香酸、安息香酸塩、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、感光素、クロルクレゾール、クロロブタノール、サリチル酸、サリチル酸塩類、ソルビン酸、ソルビン酸塩類、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸塩類、トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル、パラオキシ安息香酸エステル及びそのナトリウム塩、フェノキシエタノール、フェノール、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム、レゾルシン、亜鉛・アンモニア・銀複合置換ゼオライト、安息香酸パントテニルエチルエーテル、イソプロピルメチルエーテル、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、オルトフェニルフェノール、オルトフェニルフェノールナトリウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クレゾール、クロラミンT、クロルキシレノール、クロルフェネシン、クロルヘキシジン、1,3-ジメチロール-5,5-ジメチルヒダントイン、臭化アルキルイソキノリウム、チアントール、チモール、トリクロロカルバニリド、パラクロルフェノール、ハロカルバン、ヒノキチオール、ピリチオン亜鉛、メチルクロロイソチアゾリノン、メチルイソチアゾリノン、N,N"-メチレンビス[N'-(3-ヒドロキシメチル-2,5-ジオキソ-4-イミダゾリジニル)ウレア]、ヨウ化パラジメチルアミノスチリルヘプチルメチルチアゾリウムの群から選ばれる1種以上を、含浸液中に0.05〜1.0質量%含むことができる。
【0012】
又、ウェットティシュを使用した際の手荒れを抑制する目的で各種植物抽出系保湿成分やアミノ酸類を、含浸液に配合しても良い。
さらに、含浸液の安定性及び皮膚への刺激性を考慮して、緩衝作用を有する有機酸とその塩を含浸液に添加して人の皮膚のpHに近いpH6.0±1.0の領域にコントロールするとよい。有機酸及びその塩の例としてはクエン酸及びクエン酸ナトリウム、アスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウム等がある。また含浸液への金属イオンの混入を原因とする濁り、変色といった阻害を防ぐためEDTA等の金属封鎖剤を用いても良い。ウエットティシュの汚れ落ちを向上する目的で各種界面活性剤を含浸液に配合しても良い。
【0013】
このようにして得られた含アルコールウエットティシュは、アルコール成分の含有量が0.025g/g以上、0.2g/g未満であり、かつ迅速平衡法による引火点が40℃以上である。
迅速平衡法は、消防庁危険物規制課監修 「危険物確認試験実施マニュアル」(新日本法規出版)に記載されたセタ密閉式引火点測定試験による。又、含アルコールウエットティシュ中のアルコール成分の含有量(g/g)は、(含浸液の基布への含浸倍率(%))/(含浸倍率+100)×(含浸液中のアルコール成分の濃度(%))/100で表される。ここで、含浸倍率は、含アルコールウェットティシュ中において、{(含浸液の質量)/(基布の質量)}×100(%)で表される。
本発明者らの検討の結果、含アルコールウェットティシュ中のアルコール成分の含有量が迅速平衡法(セタ密閉式引火点測定試験)による引火点にほぼ比例し、このアルコール成分の含有量が0.2g/g未満であれば、迅速平衡法(セタ密閉式引火点測定試験)による引火点が40℃以上になり、従来よりウェットティシュが引火し難く、安全性がより向上することが判明した。又、清拭後の含浸液の乾きをある程度促進し、サッパリ感を付与するため、含アルコールウェットティシュ中のアルコール成分の含有量を0.025g/g以上とする。
【0014】
上記した基布は親水性繊維を含み、(含浸倍率(%))/(基布中の親水性繊維の混合率(%))で表されるウェット感指数が1.5以上8.0未満であることが好ましい。ここで、基布中の親水性繊維が多くなると、基布に含浸液が保持され易く、ウェット感が低くなる。
ウェット感指数が1.5未満であると清拭時のウエット感が不足し、8.0以上になると清拭時に含浸液が溢れ、使用し難くなる。より好ましくは、ウェット感指数を2.5以上6.0未満とする。
【0015】
(含浸倍率(%)/100)×(基布の坪量(g/m2))×{100−(含浸液中のアルコール成分の濃度(%))}/100で表され、アルコール成分を除く常温で液体の低揮発性液量が20g/m2以上、150g/m2以下であることが好ましい。
ここで、含浸液中のアルコール濃度が高いとウェットティシュが乾き易くなり、特に、ウェットティシュの単位面積あたりの含浸液量が少ない場合、清拭し難く傾向にある。又、ウェットティシュの乾燥し易さは、含浸液量に対するウェットティシュの表面積の比にも比例する。
このように、基布の坪量、含浸倍率、含浸液中のアルコールの濃度によって、ウェットティシュ中のアルコール以外の常温で液体のもの(低揮発性液)の有効量が決まると考え、上記した低揮発性液量を定式化した。低揮発性液量が20g/m未満であるとウェットティシュが乾き易くて拭き取り難くなり、拭き取り感が低下する傾向にある。又、低揮発性液量が150g/mを超えると、手指等を清拭後に含浸液が残存し、べたついた感じになる傾向にある。
【実施例】
【0016】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は勿論これらの例に限定されるものではない。
【0017】
基布として、親水性繊維としてビスコースレーヨンと、疎水性繊維としてポリエステルと、ポリプロピレン/ポリエチレンからなる複合繊維とを表1に示す割合で配合してシート状に形成したものを用いた。
又、含浸液として、精製水に対し、エタノール、安息香酸、安息香酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、及びクエン酸/クエン酸ナトリウム(クエン酸とクエン酸ナトリウムの混合物、両者の所定の配合比によりpHを調整した)を表1に示す割合で配合したものを用いた。
基布に含浸液を所定の含浸率で含浸させ、含アルコールウェットティシュを作製した。又、含浸液のpHを測定した。
【0018】
得られた含アルコールウェットティシュの引火点を、迅速平衡法(セタ密閉式引火点測定試験)で測定した。
又、ウェット感指数を、(含浸倍率(%))/(基布中の親水性繊維の混合率(%))から求めた。低揮発性液量を、(含浸倍率(%)/100)×(基布の坪量(g/m2))×{100−(含浸液中のアルコール成分の濃度(%))}/100から求めた。
【0019】
さらに、成人男女20名により、得られた含アルコールウェットティシュを用いて手指及び身の回りの清拭を行い、使用感をパネル評価した。使用感は、ウェットティシュのウェット感と、拭き取り後のサッパリ感とし、以下の基準で評価した。
◎:非常に使い易い
○:良好な使用感
×:非常に使い難い(拭き取り感がしない、又はべたついた感じがする)
【0020】
得られた含アルコールウェットティシュの殺菌効果について、該ウェットティシュに菌を接種して所定時間経過後の残存菌をストマッカー処理し、菌数を確認した。又、含アルコールウェットティシュの防黴効果については、日本清浄紙綿類工業会の自主基準の試験法「ウェットワイパー類及び化粧品ぬれティッシュの防カビ試験方法」により求めた。
【0021】
得られた結果を表1〜表3に示す。なお、各表の%は質量%を表す。又、表2の値はウェットティシュ中のアルコール成分の含有量(g/g)を表し、表3の値はウェット感指数を表す。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
【0025】
表1から明らかなように、各実施例の場合、迅速平衡法(セタ密閉式引火点測定試験)による引火点が40℃以上であり、安全性が高いウェットティシュが得られた。一方、ウェットティシュ中のアルコール成分(エタノール)の含有量が0.2g/gを超えた比較例2の場合、迅速平衡法(セタ密閉式引火点測定試験)による引火点が40℃未満となり、引火性固体「消防法の危険物第2類」に該当し、ウェットティシュの安全性に劣った。
又、各実施例の場合、ウェット感指数が1.5以上8.0未満であり、使用感に優れた。一方、ウェット感指数が8.0以上である比較例4,5の場合、含浸液が手に残存し、べたつきがあったため、二度拭きが必要になり使用感に劣った。低揮発性液量が20g/m2未満である比較例3の場合も、使用感に劣った。
含浸液として、精製水とエタノールのみからなる組成を用いた比較例1の場合、ウェットティシュ中のアルコール成分の含有量が0.025g/g以上であるため、使用感は良好であったが、殺菌/防黴効果に劣った。
又、含浸液にクエン酸/クエン酸ナトリウムを添加しなかった比較例1〜5の場合、含浸液のpHが低下し、皮膚への刺激が懸念される。
【0026】
表2から、ウェットティシュ中のアルコール成分の含有量が0.025g/g以上、かつ0.2g/g未満となる場合の含浸倍率は100〜400%、アルコール成分(エタノール)の濃度は5〜35質量%であった。なお、この範囲は表2の太字の枠で囲った部分である。
表3から、基布中の親水性繊維の混合率が10%以下であると、ウェット感指数が8.0以上になった。なお、ウェット感指数が1.5以上で8.0未満の範囲は表3の太字の枠で囲った部分である。