特許第5939835号(P5939835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939835
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】鉄道車両先頭部における走行音低減構造
(51)【国際特許分類】
   B61D 49/00 20060101AFI20160609BHJP
   B61D 17/06 20060101ALI20160609BHJP
   B61D 19/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   B61D49/00 A
   B61D17/06
   B61D19/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-41530(P2012-41530)
(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-177046(P2013-177046A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年1月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 社団法人 日本鉄道車両機械技術協会,R&m 10月号,平成23年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100109690
【弁理士】
【氏名又は名称】小野塚 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100135035
【弁理士】
【氏名又は名称】田上 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131266
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼ 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】杉山 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 晋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武久
【審査官】 畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−331928(JP,A)
【文献】 特開2002−205639(JP,A)
【文献】 特開2010−104099(JP,A)
【文献】 特開2007−219359(JP,A)
【文献】 特開2003−263171(JP,A)
【文献】 特開2000−038158(JP,A)
【文献】 特開2002−178914(JP,A)
【文献】 特開2000−280899(JP,A)
【文献】 実開昭64−010800(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 17/02
B61D 17/06
B61D 19/00
B61D 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
妻面に、貫通口と該貫通口を塞ぐ貫通扉とを備え、前記貫通扉の閉時に、前記貫通口の縁部と前記貫通扉の縁部との間に開放する、前記貫通扉の開閉動作に不可欠な空隙が形成され、
前記貫通口が形成された車体外板の、前記貫通口の車幅方向外側の縁部と、前記貫通口の内部に配置された、前記貫通扉の車幅方向外側の縁部に沿って固定されるシール部材が当接するための受け板との間に、前記貫通扉の開閉動作を阻害しない範囲で、かつ、前記貫通口の車幅方向外側の縁部に沿って、
前記空隙の水平方向断面積を減少させる塞ぎ部材が設けられていることを特徴とする鉄道車両先頭部における走行音低減構造。
【請求項2】
前記塞ぎ部材に、前記貫通口の車幅方向外側の縁部に沿って弾性多孔部材が積層されていることを特徴とする請求項記載の鉄道車両先頭部における走行音低減構造。
【請求項3】
前記塞ぎ部材は、前記車体外板の縁部が湾曲して前記車体外板と連続する態様で形成されていることを特徴とする請求項又は記載の鉄道車両先頭部における走行音低減構造。
【請求項4】
前記貫通扉の閉時に、前記貫通口が形成された外板の正面に対して、前記貫通扉の正面が所定量だけ突出していることを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の鉄道車両先頭部における走行音低減構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両先頭部における走行音低減構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄道車両(レール上を鉄輪で走行する一般的な鉄道車両)や、いわゆる新交通システム、モノレール等の車両において、乗降口から車内に侵入する騒音を低減する対策が、様々になされている(例えば、特許文献1参照)。
又、図7に示されるように、鉄道車両の先頭車両妻面10に貫通口12が設けられた鉄道車両が、多数存在する。この貫通口12は、通常は貫通扉14によって閉じられて、先頭車両妻面10の一部をなしている。しかしながら、緊急時にはこの貫通扉14を開放し、開口部12から内部に折り畳まれた階段やスロープを前方へと下ろすことで、貫通口12は非難口として機能するものとなる。又、貫通口12を基本編成と増結編成との間の連絡通路として用いる場合もある。この場合には、貫通口12は、先頭車両妻面10の車幅方向中央部に設置されており、各編成の対向する貫通口12を開放し、床板及び幌によって両編成の貫通口12をつなぐことで、編成間の乗員の移動が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−312472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、鉄道車両の走行中に、先頭部分から比較的高周波の騒音が車外へと発生することがある。発明者らは、その発生原因について鋭意研究したところ、次のような結果が得られた。図8には、図7(b)のB部を拡大して示しているが、先頭車両妻面10の貫通口12の縁部12aと、貫通口12を塞ぐ貫通扉14の縁部14aとの間には、貫通扉14の閉時において、貫通扉14の開閉動作に不可欠な空隙(キャビティ)CAが確保されている。図8の例では、空隙CAは、貫通口12の内部に配置された、貫通扉14の車幅方向外側の縁部に沿って固定されるシール部材16と、シール部材16が当接するための受け板18と、貫通口12が形成された車体外板20とで囲まれている。そして、この空隙に走行風が侵入し、空隙CA内部を循環することにより、いわゆる「キャビティ音」が発生することとなる。なお、貫通扉14の開閉動作に不可欠な空隙CAの設置形態は様々であるが、例えば、貫通扉14が左右一方の側辺をヒンジによって軸支され、前方に回転することで開閉する形式の場合には、貫通扉14の回転軌跡から貫通扉14と干渉する部材を排除することで、空隙CAが形成されるものである。すなわち、空隙CAの設置形態は、貫通扉14の開閉機能を確保することを主目的として、定められている。
【0005】
従って、先頭車両妻面10に貫通口12を備えない鉄道車両の場合には、キャビティ音に起因する走行音はあまり問題とはならないのに対して、先頭車両妻面10の貫通口12を備える鉄道車両の場合には、貫通扉14の開閉機能を確保する上で、キャビティ音に起因する走行音の発生が不可避となっている。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、先頭車両妻面に、貫通口と貫通口を塞ぐ貫通扉とを備える鉄道車両の、キャビティ音に起因する走行音を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。又、各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではない。よって、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)妻面に、貫通口と該貫通口を塞ぐ貫通扉とを備え、前記貫通扉の閉時に、前記貫通口の縁部と前記貫通扉の縁部との間に開放する、前記貫通扉の開閉動作に不可欠な空隙が形成され、前記貫通口が形成された車体外板の、前記貫通口の車幅方向外側の縁部と、前記貫通口の内部に配置された、前記貫通扉の車幅方向外側の縁部に沿って固定されるシール部材が当接するための受け板との間に、前記貫通扉の開閉動作を阻害しない範囲で、かつ、前記貫通口の車幅方向外側の縁部に沿って、前記空隙の水平方向断面積を減少させる塞ぎ部材が設けられている鉄道車両先頭部における走行音低減構造(請求項1)。
【0008】
本項に記載の鉄道車両先頭部における走行音低減構造は、妻面に、貫通口と貫通口を塞ぐ貫通扉とを備えており、貫通扉の閉時には、貫通口の縁部と貫通扉の縁部との間に開放する、貫通扉の開閉動作に不可欠な空隙が形成されるものである。従って、この空隙に対し走行風が侵入して、空隙内部を循環することで、キャビティ音が発生する原因となり得るものである。しかしながら、本構成においては、貫通口の車幅方向外側の縁部に沿って設けられた塞ぎ部材により、空隙の水平方向断面積が減少することで、空隙に対し走行風が侵入し空隙内部を循環することを阻害し、結果、キャビティ音を低減させるものである。鉄道車両先頭部の妻面における走行風の流れは、車幅方向中央部から外側へと向かうことから、貫通口の車幅方向外側の縁部に沿って形成される空隙の、水平方向断面積を塞ぎ部材により減少させることで、上記作用を奏するものとなる。しかも、空隙の設置形態は、貫通扉の開閉機能を確保することを主目的として定められているものであるが、塞ぎ部材は、この空隙に、貫通扉の開閉動作を阻害しない範囲で設けられていることから、貫通扉の開閉機能は維持されるものである。
なお、本説明において、貫通口の車幅方向外側の縁部とは、貫通口が妻面の車幅方向側方寄りにオフセットして配置されている場合には、車幅方向側方寄りの縁部を意味する。一方、貫通口が妻面の車幅方向中央部に位置する場合には、貫通口の車幅方向両側の縁部が、何れも対象となる。
【0009】
しかも、塞ぎ部材が、貫通口が形成された車体外板の、貫通口の車幅方向外側の縁部と、貫通口の内部に配置された、貫通扉の車幅方向外側の縁部に沿って固定されるシール部材が当接するための受け板との間に、かつ、貫通口の車幅方向外側の縁部に沿って設置されることで、貫通扉の閉時に、貫通口の縁部と貫通扉の縁部との間に形成されている、貫通扉の開閉動作に不可欠な空隙の、水平方向断面積を減少させるものである。又、空隙の開口幅も狭めることとなり、空隙に対し走行風が侵入し空隙内部を循環することを妨げるものとなる。又、受け板を塞ぎ部材の固定にそのまま利用することで、貫通扉の閉時にはシール部材が受け板に当接し、貫通口の密閉性は確保される。
【0010】
)上記()項において、前記塞ぎ部材に、前記貫通口の車幅方向外側の縁部に沿って弾性多孔部材が積層されている鉄道車両先頭部における走行音低減構造(請求項)。
本項に記載の鉄道車両先頭部における走行音低減構造は、塞ぎ部材に、貫通口の車幅方向外側の縁部に沿って積層された弾性多孔部材が、吸音材として機能することで、キャビティ音を更に低減させるものである。より具体的には、キャビティ音の特性は、鉄道車両先頭部の妻面における走行風の流れのダイナミクス、すなわち、上流側のエッジである貫通扉の縁部で剥離したせん断層の不安定性と、流れのフィードバック機構である、貫通口の車幅方向外側の縁部の態様によっても決まるものである。そして、貫通口の車幅方向外側の縁部における、上流へ伝搬する圧力波の低減を行うために、剥離せん断層が衝突する領域の壁面材を、弾性多孔部材とすることで、キャビティ音を減音するものである。
又、塞ぎ部材に弾性多孔部材が積層されることで、空隙の開口幅も更に狭まり、空隙に対し走行風が侵入し空隙内部を循環することを妨げるものとなる。
【0011】
)上記()()項において、前記塞ぎ部材は、前記車体外板の縁部が湾曲して前記車体外板と連続する態様で形成されている鉄道車両先頭部における走行音低減構造(請求項)。
本項に記載の鉄道車両先頭部における走行音低減構造は、塞ぎ部材が、車体外板の縁部が湾曲して車体外板と連続する態様で形成されていることで、下流側のエッジである貫通口の車幅方向外側の縁部を連続した湾曲面として構成するものである。そして、上流側のエッジである貫通扉の縁部で剥離したせん断層の、下流側のエッジである貫通口の車幅方向外側の縁部に対する衝突の衝撃を和らげ、キャビティ音を減音するものである。
【0012】
)上記(1)から()項において、前記貫通扉の閉時に、前記貫通口が形成された外板の正面に対して、前記貫通扉の正面が所定量だけ突出している鉄道車両先頭部における走行音低減構造(請求項)。
本項に記載の鉄道車両先頭部における走行音低減構造は、貫通扉の閉時に、貫通口が形成された外板の正面に対して、貫通扉の正面が所定量だけ突出することで、上流側のエッジである貫通扉の縁部により走行風の流れを整流する。そして、剥離せん断層が、下流側エッジである貫通口の車幅方向外側の縁部に衝突することを防ぎ、キャビティ音を減音するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明はこのように構成したので、先頭車両妻面に、貫通口と貫通口を塞ぐ貫通扉とを備える鉄道車両の、キャビティ音に起因する走行音を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る鉄道車両先頭部における走行音低減構造を示すものであり、(a)は先頭車両妻面の車幅方向半分のみ示した水平方向断面図であり、(b)は(a)のB部拡大図である。
図2】本発明の実施の形態に係る鉄道車両先頭部における走行音低減構造の応用例を示すものであり、(a)は先頭車両妻面の車幅方向半分のみ示した水平方向断面図であり、(b)は(a)のB部拡大図である。
図3】(a)は、図1に示される鉄道車両先頭部における走行音低減構造の、貫通口の車幅方向外側の縁部と、貫通扉の縁部との間に形成された空隙と、その近傍における、空気の流れのシミュレーション図であり、(b)は、発生するキャビティ音の測定結果を示すグラフである。
図4】(a)は、図2に示される鉄道車両先頭部における走行音低減構造の、貫通口の車幅方向外側の縁部と、貫通扉の縁部との間に形成された空隙と、その近傍における、空気の流れのシミュレーション図であり、(b)は、発生するキャビティ音の測定結果を示すグラフである。
図5】(a)は、参考例として、図8に示される、従来の鉄道車両先頭部における構造の、貫通口の車幅方向外側の縁部と、貫通扉の縁部との間に形成された空隙と、その近傍における、空気の流れのシミュレーション図であり、(b)は、発生するキャビティ音の測定結果を示すグラフである。
図6】本発明の実施の形態に係る鉄道車両先頭部における走行音低減構造の、更に別の応用例を示す、要部拡大断面図である。
図7】従来の鉄道車両を示すものであり、(a)は先頭車両妻面の斜視図、(b)は(a)のA−A線における水平断面図である。
図8図7(b)のB部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
なお、図1(a)、図2(a)は、何れも、図7(b)に示された従来の鉄道車両に係る先頭車両妻面の水平断面図と同様に、図7(a)に示される先頭車両妻面10の、A−A線に相当する部分における水平断面図を示している。
【0016】
本発明の実施の形態に係る鉄道車両先頭部における走行音低減構造は、図1(a)(b)に示されるように、先頭車両妻面10に、貫通口12と貫通口12を塞ぐ貫通扉14とを備え、貫通扉14の閉時に、貫通口12の縁部12aと貫通扉14の縁部14aとの間に開放する、貫通扉14の開閉動作に不可欠な空隙CAが形成されている。そして、貫通口12が形成された車体外板20の、貫通口12の車幅方向外側の縁部12aと、貫通口12の内部に配置された、貫通扉12の車幅方向外側の縁部12aに沿って固定されるシール部材16が当接するための受け板18との間に、貫通扉14の開閉動作を阻害しない範囲で、かつ、貫通扉12の車幅方向外側の縁部12aに沿って、空隙CAの水平方向断面積を減少させる塞ぎ部材22が設けられている。
図示の例では、塞ぎ部材22には、断面L字状のアングル材が用いられている。そして、塞ぎ部材22は、貫通口12が形成された車体外板20と、貫通口12の内部に配置された、貫通扉14の車幅方向外側の縁部14aに沿って固定されるシール部材16が当接するための受け板18との間に、溶接、接着、ねじ止め等の適切な固定方法により、設置されている。
【0017】
又、図2(a)(b)には、図1の走行音低減構造の応用例を示しているが、図1(a)(b)の例との違いは、塞ぎ部材22に、貫通口12の車幅方向外側の縁部12aに沿って、弾性多孔部材24が積層され固定されている点にある。塞ぎ部材22に対する弾性多孔部材24の固定には、接着剤が用いられる。ここで、弾性多孔部材24には、例えば、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン)ゴム発泡体が適している。
なお、塞ぎ部材22及び弾性多孔部材24は、必ずしも貫通口12の車幅方向外側の縁部12aの全長(全高)に渡って設けられる必要は無く、風洞実験等を通じて、後述するキャビティ音の減音効果が必要十分に得られる範囲に、設けることが望ましい。
【0018】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能となる。本発明の実施の形態に係る鉄道車両先頭部における走行音低減構造は、鉄道車両妻面10に、貫通口12と貫通口12を塞ぐ貫通扉14とを備えており、貫通扉14の閉時には、貫通口12の縁部12aと貫通扉14の縁部14aとの間に開放する、貫通扉14の開閉動作に不可欠な空隙CAが形成されるものである。従って、この空隙CAに対し走行風が侵入して、空隙CAの内部を循環することで、キャビティ音が発生する原因となり得るものである。
【0019】
しかしながら、貫通口12の車幅方向外側の縁部12aに沿って設けられた塞ぎ部材22により、空隙CAの水平方向断面積が減少することで(図1及び図8参照)、空隙CAに対し走行風が侵入し空隙CAの内部を循環することを阻害し、キャビティ音を低減させることが可能となる。鉄道車両先頭部妻面10における走行風の流れは、車幅方向中央部から外側へと向かうことから、貫通口12の車幅方向外側の縁部12aに沿って形成される空隙CAの、水平方向断面積を塞ぎ部材22により減少させることで、上記作用を奏するものとなる。しかも、空隙CAの設置形態は、貫通扉14の開閉機能を確保することを主目的として定められているものであるが、塞ぎ部材22は、この空隙CAに、貫通扉14の開閉動作を阻害しない範囲で設けられていることから、貫通扉14の開閉機能は維持されるものである。
【0020】
図1図2の例では、塞ぎ部材22が、貫通口12が形成された車体外板20の、貫通口12の車幅方向外側の縁部12aと、貫通口12の内部に配置された、貫通扉14の車幅方向外側の縁部14aに沿って固定されるシール部材16が当接するための受け板18との間に、かつ、貫通口12の車幅方向外側の縁部12aに沿って設置されることで、貫通扉14の開閉動作に不可欠な空隙CAの、水平方向断面積を減少させている。又、空隙CAの開口幅も狭めることとなり、空隙CAに対し走行風が侵入し空隙CAの内部を循環することを、妨げるものとなる。しかも、受け板18を塞ぎ板22の固定にそのまま利用することで、貫通扉14の閉時にはシール部材16が受け板18に当接し、貫通口12の密閉性は確保される。
【0021】
更に、図2に示されるように、塞ぎ部材22に、貫通口12の車幅方向外側の縁部12aに沿って積層された弾性多孔部材24が、吸音材として機能することで、キャビティ音を更に低減させることが可能となる。より具体的には、キャビティ音の特性は、鉄道車両妻面10における走行風の流れのダイナミクス、すなわち、上流側のエッジである貫通扉14の縁部14aで剥離したせん断層の不安定性と、流れのフィードバック機構である、貫通口12の車幅方向外側の縁部12aの態様によっても決まるものである。そして、貫通口12の車幅方向外側の縁部12aにおける、剥離せん断層が衝突する領域の壁面材を、弾性多孔部材24とすることで、上流へ伝搬する圧力波の低減を行い、キャビティ音を減音することが可能となる。
又、塞ぎ部材22に弾性多孔部材24が積層されることで、空隙CAの開口幅も更に狭まり、空隙CAに対し走行風が侵入し空隙内部を循環することを、より効果的に妨げるものとなる。
【0022】
さて、図3(a)には、図1に示される鉄道車両先頭部における走行音低減構造の、貫通口12の車幅方向外側の縁部12aと、貫通扉14の縁部14aとの間に形成された空隙CAとその近傍における、空気の流れのシミュレーション図が示され、(b)にはそれにより発生するキャビティ音の測定結果がグラフで示されている。
また、図4(a)には、図2に示される鉄道車両先頭部における走行音低減構造の、貫通口12の車幅方向外側の縁部12aと、貫通扉14の縁部14aとの間に形成された空隙CAとその近傍における、空気の流れのシミュレーション図が示され、(b)にはそれにより発生するキャビティ音の測定結果がグラフで示されている。
【0023】
更に、参考例として、5(a)は、図8に示される、従来の鉄道車両先頭部における構造の、貫通口12の車幅方向外側の縁部12aと、貫通扉14の縁部14aとの間に形成された空隙CAと、その近傍における、空気の流れのシミュレーション図が示され、(b)にはそれにより発生するキャビティ音の測定結果がグラフで示されている。
なお、上記図3図5において、(a)の縦方向に並んだ数値は、空気の流れを示す線の濃淡と風速(m/s)との関係を示している。又、図3図5の(b)は、横軸に測定されたキャビティ音を比較のために処理した状態での周波数(Hz)を、縦軸に音圧レベル(dB)を示している。そして、キャビティ音は、鉄道車両先頭部妻面10の外側から測定したものである。
【0024】
これら図3図5の比較から明らかなように、本発明の実施の形態に係る図3図4からは、従来例に係る図5に対して、走行風の剥離せん断層の渦が小さくなっており、更に、その効果は図3よりも図4の方が大きいことが読み取れる。又、発生するキャビティ音のピーク値についても図5(82(dB))に対して図3の方が小さく(79(dB))、更に、図4は顕著に小さく(72(dB))なっていることが読み取れる。
従って、本発明の実施の形態によれば、先頭車両妻面10に、貫通口12と貫通口12を塞ぐ貫通扉14とを備える鉄道車両の、走行音を低減させるものとなる。
【0025】
さて、図6には、本発明の実施の形態に係る鉄道車両先頭部における走行音低減構造の、更に別の応用例が示されている。具体的には、空隙CAの水平方向断面積を減少させ、開口幅を狭める塞ぎ部材22として、車体外板20の縁部20aが湾曲して車体外板20と連続する態様を採用したものである。
このように、塞ぎ部材22が、車体外板20の縁部20aが湾曲して車体外板と連続する態様で形成されていることで、下流側のエッジである貫通口12の車幅方向外側の縁部12aを連続した湾曲面として構成することとなる。その結果、上流側のエッジである貫通扉14の縁部で剥離したせん断層の、下流側のエッジである貫通口12の車幅方向外側の縁部12aに対する衝突の衝撃を和らげ、キャビティ音を減音することが可能となる。
【0026】
又、図6には、更に別の応用例として、貫通扉14の閉時に、貫通口12が形成された外板20の正面に対して、貫通扉14の正面が所定量Xだけ突出した態様が示されている。この応用例のように、貫通口12が形成された外板20の正面に対して、貫通扉14の正面が所定量Xだけ突出することで、上流側のエッジである貫通扉14の縁部14aにより走行風の流れを整流し、剥離せん断層が、下流側エッジである貫通口12の車幅方向外側の縁部12aに衝突することを防ぎ、キャビティ音を減音することが可能となる。なお、貫通扉14の突出量Xについては、走行風との兼ね合いで、上記整流効果が発揮される適切な量とする。
これら、図6に示された各応用例についても、適宜、図1図2の例に置き換え若しくは併用することで、キャビティ音に起因する走行音を効果的に低減させることが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
10:先頭車両妻面、12:貫通口、12a:縁部、14:貫通扉、14a:縁部、16:シール部材、18:受け板、20:外板、20a:縁部、22:塞ぎ部材、24:弾性多孔部材
図1
図2
図6
図7
図8
図3
図4
図5