【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度〜平成25年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構革新型蓄電池先端科学基礎研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電気素子を動作状態で観察するために集束イオンビーム法により薄膜部を形成した試料片に前記薄膜部の形成の際に形成され、前記試料片の前記電気素子としての動作に影響を与えるダメージ層を除去するためのダメージ層除去装置であって、
不活性ガスのイオンビームを射出するイオン射出部と、
前記薄膜部を含む薄膜領域に前記イオンビームが照射されるように、前記試料片を保持する試料片保持部と、
前記試料片が前記電気素子として機能するか否かを判断可能な前記試料片の所定の電気的特性を評価する電気的特性評価装置と
を備える、
ダメージ層除去装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、ダメージ層は、試料の表面において短絡パスを形成する。そのため、イオンミリングによりダメージ層を除去する際のイオンビームの照射量が少なすぎると、ダメージ層が十分に除去できず、残存したダメージ層により試料を正常に動作させることができない可能性がある。この問題は、全固体リチウム電池をその場観察するための試料に限らず、電気二重層キャパシタや半導体等の種々の電気素子をその場観察するための試料に共通する。
【0006】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、電気素子を動作状態で観察するその場観察に適した試料を作製する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的の少なくとも一部を達成するために、本発明は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
荷電粒子線顕微鏡により電気素子を動作状態で観察するその場観察のための試料の作製方法であって、前記電気素子から試料片を切り出す試料片切出工程と、集束イオンビーム法により、前記試料片に薄膜部を形成する薄膜部形成工程と、不活性ガスイオンビームを前記薄膜部を含む薄膜領域に照射することにより、前記薄膜部形成工程において形成され、前記試料片の電気素子としての動作に影響を与えるダメージ層を除去するダメージ層除去工程とを備え、前記ダメージ層除去工程は、前記試料片の所定の電気的特性を評価する電気的特性評価工程を含み、前記所定の電気的特性は、前記試料片が前記電気素子として機能するか否かを判断可能な電気的特性である、試料の作製方法。
【0009】
ダメージ層の除去の際に試料片が電気素子として機能するか否かを判断可能な電気的特性を評価することにより、電気素子としての動作に影響を与えるダメージ層が除去されたか否かを確認することができる。そのため、試料をより確実に電気素子として動作させることが可能となる。
【0010】
[適用例2]
適用例1記載の試料の作製方法であって、前記所定の電気的特性の評価を前記不活性ガスイオンビームの前記薄膜領域への照射中に行う、試料の作製方法。
【0011】
不活性ガスイオンビームの薄膜領域への照射中に試料片が電気素子として機能するか否かを判断可能な電気的特性を評価することにより、ダメージ層が除去された後に、更に不活性ガスイオンビームが薄膜部に照射されることを抑制することができる。そのため、不活性ガスイオンビームにより試料がダメージを受け、試料の電気特性に影響が現れることを抑制することができる。
【0012】
[適用例3]
適用例1または2記載の試料の作製方法であって、前記電気素子は、固体電解質を有する一次電池もしくは二次電池であり、前記所定の電気的特性は、インピーダンススペクトルである、試料の作製方法。
【0013】
一般に、インピーダンススペクトルは、電池として機能するか否かを判断可能な他の電気的特性よりも高速に評価することができるので、ダメージ層が除去されたか否かの確認に要する時間をより短縮することができる。
【0014】
[適用例4]
適用例1ないし3のいずれか記載の試料の作製方法であって、電子線ホログラフィによって前記その場観察を行う、試料の作製方法。
【0015】
電子線ホログラフィによってその場観察を行うことにより、試料内部における電気的な動的挙動を観察することが可能となる。
【0016】
[適用例5]
適用例1ないし4のいずれか記載の試料の作製方法であって、前記不活性ガスイオンビームは、ビーム径が所定の大きさ以下に絞り込まれている、試料の作製方法。
【0017】
不活性ガスイオンビームのビーム径を所定の大きさ以下に絞り込むことにより、試料保持機構等の試料片以外の構造物への不活性ガスイオンビームの照射が抑制される。そのため、当該構造物からスパッタされた原子が試料片に付着して電気素子としての動作に影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0018】
[適用例6]
適用例5記載の試料の作製方法であって、前記不活性ガスイオンビームの照射方向は、前記薄膜部形成工程において前記試料片に照射される集束イオンビームの照射方向と同一である、試料の作製方法。
【0019】
不活性ガスイオンビームと集束イオンビームとの照射方向を同一とすることにより、不活性ガスイオンビームの照射方向は、集束イオンビーム法により形成された試料の薄膜部以外の非薄膜部の薄膜部側の面と平行となる。一般に、不活性ガスイオンビームの略平行な面に不活性ガスイオンビームが照射された場合、当該面よりスパッタされた原子の大部分は、不活性ガスイオンビームの照射方向に進行する。そのため、非薄膜部からスパッタされた原子が薄膜部に付着して電気素子としての動作に影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0020】
[適用例7]
適用例5または6記載の試料の作製方法であって、前記不活性ガスイオンビームは、前記不活性ガスイオンビームよりもビーム径の大きい大径イオンビームを射出するイオンガンと前記試料片との間に配置され、前記大径イオンビームの一部を通過させるための穴が設けられた遮蔽板により絞り込まれる、試料の作製方法。
【0021】
イオンガンと試料片との間に遮蔽板を配置することにより、試料片保持機構等の試料片以外の構造物に不活性ガスイオンビームが照射されることにより生じる当該構造物のチャージアップを抑制することができる。
【0022】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、試料の作製方法およびその作製方法を利用した試料の観察方法、試料の作製の際に用いる装置、試料の作製に適した観察装置およびその部品等の態様で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1実施例:
A1.二次電池観察装置:
A2.試料の作製:
A3.ダメージ層の除去:
A4.電気的特性の評価:
B.第2実施例:
C.変形例:
【0025】
A1.二次電池のその場観察:
図1は、二次電池観察装置10により試料SPCとしての二次電池のその場観察を行う様子を示す説明図である。二次電池観察装置10は、電子線ホログラフィ顕微鏡100と、二次電池試験装置200とを備えている。電子線ホログラフィ顕微鏡100の内部に配置された試料SPCと、二次電池試験装置200とは、2本のリード線12,14により接続されている。
【0026】
二次電池試験装置200は、電源装置あるいは負荷装置として機能することにより、試料SPCである二次電池の充電および放電を行うように構成されている。また、二次電池試験装置200は、二次電池の充放電電流、電極間電圧および交流インピーダンスを測定する機能を有している。
【0027】
電子線ホログラフィ顕微鏡100は、電子線照射装置110と、対物レンズ120と、電子線プリズム130とを備えている。電子線ホログラフィ顕微鏡100は、像面に形成された像を観察面に拡大投影するための中間レンズおよび投影レンズと、観察面に拡大投影された像を取得する撮像装置とを有しているが、
図1では、それらの図示を省略している。なお、電子線ホログラフィ顕微鏡100は、電子線プリズム130を備えている点で、一般的な透過型電子顕微鏡と異なっており、他の構成はほぼ同じである。そのため、電子線ホログラフィ顕微鏡100は、透過型電子顕微鏡の一種であると謂うことができる。
【0028】
電子線照射装置110は、電子源112と、集束レンズ114とを有している。所定の加速電圧で加速され電子源112から射出された電子線は、集束レンズ114によってほぼ平行な電子線となる。ほぼ平行な電子線は、試料SPCが配置された試料面を通過して、対物レンズ120に入射する。対物レンズ120に入射した電子線は、一旦収束された後、電子線プリズム130に入射する。
【0029】
図1に示すように、試料SPCは、試料面のうちのほぼ半分の観察領域AOに配置される。試料SPCが配置された観察領域AOでは、入射した電子線が試料SPCと相互作用することにより、波としての電子線(電子波)の位相や振幅が変化する。一方、試料面のうち試料SPCが配置されていない領域(真空領域)AVを通過した電子線は、試料SPCとの相互作用がないため、電子波の位相や振幅は変化しない。以下では、観察領域AOを通過した電子波を物体波Ψoとも呼び、真空領域AVを通過した電子波を参照波Ψrとも呼ぶ。
【0030】
電子線プリズム130は、導電性のフィラメント132と、フィラメント132を挟み込む一対の接地電極134とから構成されている。フィラメント132には、接地電極134に対して正の電圧が印加される。なお、
図1では、接地電極134を平行平板として描いているが、接地電極134の形状はこの限りでない。一般に、接地電極134は、フィラメント132に面する側が平面となっていれば、種々の形状とすることが可能である。
【0031】
フィラメント132に正の電圧を印加することにより、負の電荷を持つ電子の波がフィラメント132に引き寄せられる。これにより、試料面を通過して電子線プリズム130に入射した電子線は、物体波Ψoと参照波Ψrとに分割され、分割された物体波Ψoと参照波Ψrとは互いに重畳されるように屈折し、物体波Ψoと参照波Ψrとが重畳される。なお、第1実施例では、物体波Ψoと参照波Ψrとを重畳させるため、フィラメント132に接地電極134に対して正の電圧を印加しているが、電子線光学系の構成によっては、物体波Ψoと参照波Ψrとを重畳させるため、フィラメント132に接地電極134に対して負の電圧が印加される。
【0032】
このとき、電子源112から射出される電子線が可干渉であれば、像面において重畳された物体波Ψoと参照波Ψrとが干渉して、電子の干渉縞IFFが形成される。可干渉な電子源としては、例えば、電界放出型の電子銃を用いることが可能である。このように形成される干渉縞IFFは、物体波Ψoと参照波Ψrとの位相差が変化することによりその形態が変化する。そのため、試料面において電子線が電場や磁場などと相互作用して物体波Ψoの位相が変化すると、干渉縞IFFに歪みが生じる。そこで、干渉縞の歪みを解析することにより、物体波Ψoの位相を再生し、位相差を生じさせる電場や磁場等の状態を可視化することが可能となる。試料SPCにより電子線が遮られ、物体波Ψoの振幅が小さくなった場合には、試料SPCの像ISPが像面に形成される。
【0033】
干渉縞の歪みを解析して物体波Ψoの位相を再生する処理は、像面に形成された干渉縞IFFを観察面に拡大投影した干渉縞に対して行われる。具体的には、像面に形成された干渉縞IFFは、中間レンズと投影レンズ(いずれも図示しない)とによって観察面に拡大投影される。観察面に拡大投影された干渉縞は、観察面に設けられた電荷結合素子(CCD)等の撮像装置(図示しない)により取得される。そして、撮像装置により取得された干渉縞をコンピュータや光学装置等を用いて処理することにより、物体波Ψoの位相を再生することができる。このように、物体波Ψoと参照波Ψrを干渉させて得られた干渉縞IFFから物体波Ψoの位相を再生する技術は、電子線ホログラフィと呼ばれる。
【0034】
第1実施例の二次電池観察装置10では、二次電池試験装置200により試料SPCとしての二次電池の充放電を行うとともに、干渉縞IFFを取得する。そして、得られた干渉縞IFFから物体波Ψoの位相を再生することにより、試料SPC内の電位分布等を可視化し、二次電池内部でのイオンの動き等を観察することができる。このように二次電池観察装置10によれば、電子線ホログラフィにより、充放電等の二次電池の動作状態で、二次電池内部でのイオンの動き等を観察すること(その場観察)が可能となる。
【0035】
A2.試料の作製:
図2は、その場観察を行うための二次電池の試料を作製する工程を示す説明図である。試料の作製では、まず、評価対象となる板状の二次電池(バルク電池)900を準備する(
図2(a))。バルク電池900は、板状の固体電解質902の一方の面に正極904を形成し、他方の面に負極906を形成することにより構成されている。なお、本明細書等においては、このように、固体電解質902を用いた二次電池を「固体電解質二次電池」とも呼ぶ。
【0036】
次いで、準備されたバルク電池900を劈開することにより、直方体状の二次電池の試料片910(以下、単に「試料片」とも呼ぶ)を得る(
図2(b))。なお、第1実施例では、バルク電池900を劈開することにより試料片910を得ているが、試料片910は、他の方法で得ることもできる。例えば、ダイシングなどの種々の加工方法によりバルク電池900から試料片910を切り出すものとしても良い。また、第1実施例では、試料片910の形状を直方体状としているが、試料片910の形状は、二次電池の構成や観察対象の位置などに応じて適宜変更される。
【0037】
図1に示す電子線ホログラフィ顕微鏡100を用いて試料SPCの観察を行うためには、試料SPCを電子線が透過可能な厚さ(例えば、100nm)まで薄膜化する必要がある。また、試料SPCを透過する際の電子波の位相変化量は、試料SPCの厚さに依存する。そこで、第1実施例では、得られた試料片910の一部分を集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)を用いて加工すること(集束イオンビーム法)により、略一定の厚みを有する薄膜部920を形成している(
図2(c))。具体的には、正極904側から試料片910に細く絞られたガリウム(Ga)等のイオンビーム(すなわち、FIB)を照射して薄膜部920を形成する。これにより、薄膜部920と、FIBによる加工を施していない非薄膜部930とを有する試料片910aが得られる。
【0038】
FIBを用いて薄膜部920を形成すると、
図2(d)に示すように、薄膜部920の表面にダメージ層922が形成される。このダメージ層922は、正極904と負極906との間の短絡パスを形成するため、試料が二次電池として正常に動作しない虞がある。そこで、第1実施例では、薄膜部920にアルゴン(Ar)のイオンビームを照射してダメージ層922を削ること(イオンミリング)によりダメージ層922を除去している。なお、イオンミリングに用いるイオンビームは、一般的に不活性ガスのイオンビームであればよく、Arのイオンビームに換えて、例えば、窒素(N)やネオン(Ne)やクリプトン(Kr)のイオンビームを用いることも可能である。
【0039】
A3.ダメージ層の除去:
図3は、ダメージ層除去装置30により、ダメージ層922(
図2(d))を効率的に除去する様子を示す説明図である。ダメージ層除去装置30は、イオンガン312および試料保持機構(図示しない)を有するイオンミリング装置310と、イオンミリング装置310内に設けられた遮蔽板320と、二次電池試験装置200を備えている。イオンミリング装置310内に配置された試料片910aの正極904および負極906((
図2(a)))は、非薄膜部930において2本のリード線32,34と接続されている。これらのリード線32,34は、イオンミリング装置310の外部に引き出され、二次電池試験装置200に接続されている。
【0040】
イオンガン312は、アルゴン(Ar)のイオンビームを射出する。Arイオンビームの加速電圧は、薄膜部920の損傷を避けるため、より低くするのが好ましい。一方、加速電圧が低すぎると、ダメージ層922の除去が困難となる。このような特性を考慮して、Arイオンビームの加速電圧は、数Vから数kVの範囲内に設定される。
【0041】
イオンガン312から射出されたArイオンビームは、イオンガン312と試料片910aとの間に配置された遮蔽板320に照射される。遮蔽板320には、穴322が設けられており、この穴322を通過した小径のArイオンビームは、試料片910aの薄膜部920を含む薄膜領域に照射され、薄膜部920表面の原子を除去する。これにより、薄膜部920の表面に形成されたダメージ層922が除去される。なお、遮蔽板320に設けられた穴322の位置および径は、調整可能に構成されており、薄膜部920の位置や大きさに合わせて適宜調整される。
【0042】
このように、第1実施例では、遮蔽板320を設けて試料片910aに照射されるArイオンビームのビーム径を所定の大きさ(例えば、試料片910aや薄膜部920の大きさと同程度の大きさ)以下に絞り込んでいる。これにより、試料保持機構(図示しない)等の試料片910a以外の構造物にArイオンビームが照射されることを抑制し、当該構造物からスパッタされた原子が試料片910aに付着すること(リデポジション)を抑制することができる。一般的に、試料保持機構などの構造物は金属部分を有している。そのため、その構造物からのリデポジションにより、試料片910aに短絡パスが形成され、試料片910aが正常に機能しない虞がある。これに対し、第1実施例では、Arイオンビームのビーム径を小さくしてリデポジションを抑制することで、リデポジションが試料片910aの二次電池としての機能に影響を与えることを抑制できる。
【0043】
二次電池試験装置200は、Arイオンビームの照射中、すなわちダメージ層922の除去処理中に、試料片910aの電気的特性の評価(後述する)を行う。ダメージ層922の除去処理中に試料片910aの電気的特性の評価を行うことにより、ダメージ層922の除去が十分に行われたか否かを判断し、ダメージ層922の除去処理を停止することができる。これにより、ダメージ層922が残留することを抑制することができる。また、ダメージ層922が除去された後に、更に薄膜部920にArイオンビームが照射され、薄膜部920にダメージを与える可能性を抑えることができる。
【0044】
なお、第1実施例においては、Arイオンビームの照射中に試料片910aの電気的特性の評価を行っているが。一般的には、試料片910aの電気的特性の評価によってダメージ層922の除去が確認されるまで、ダメージ層922の除去処理を行うことができればよい。例えば、Arイオンビームの照射を停止した状態で試料片910aの電気的特性の評価を行うものとしても良い。この場合、電気的特性の評価結果に基づいてダメージ層922の除去が不十分であると判断された時には、再度Arイオンビームを照射することで残留するダメージ層922が除去される。
【0045】
図4は、遮蔽板320の配置態様の一例を示す説明図である。
図4は、試料片910aと、遮蔽板320とを、試料ホルダ700に取り付けた状態を示している。ここで、試料ホルダ700とは、電子線ホログラフィ顕微鏡100(
図1)の試料面において試料SPC(すなわち、薄膜部920を含む試料片910a)を保持するための機構である。なお、図示の便宜上、
図4では、試料ホルダ700のうち、試料SPCを取り付ける試料取付部を拡大して図示している。
【0046】
図4に示す試料ホルダ700は、外枠710と、外枠710に固定された絶縁板722,724と、電極板732,734と、遮蔽板保持部材742,744と、止めネジ752,754とを有している。なお、試料ホルダ700を電子線ホログラフィ顕微鏡100に取り付けた状態では、電子線は、紙面の表側から裏側に向かって進行する。
【0047】
図4に示すように、試料片910aの正極904および負極906(
図2)には、非薄膜部930においてそれぞれリード線736,738が接続されている。これらのリード線736,738は、それぞれ、絶縁板722および電極板732と、絶縁板724および電極板734とに挟み込まれる。2つの電極板732,734は、図示しないリード線を介して二次電池試験装置200(
図1および
図3)に接続される。
【0048】
電極板732,734の上面側(電子線の入射側)には、遮蔽板320が取り付けられた遮蔽板保持部材742,744を配置し、止めネジ752,754により、遮蔽板保持部材742,744および電極板732,734を絶縁板722,724に固定する。これにより、試料片910aと、遮蔽板320とが固定される。なお、
図4から明らかなように、試料片910aは、薄膜部920が遮蔽板320と対向するように配置され、遮蔽板320は、試料ホルダ700の外縁部に配置されている。遮蔽板保持部材742,744には、止めネジ752,754の軸径よりも大きな穴746,748が設けられており、これにより遮蔽板320の位置を調整可能としている。
【0049】
ダメージ層922の除去は、試料片910aと遮蔽板320とを取り付けた試料ホルダ700をイオンミリング装置310(
図3)内に挿入して行われる。イオンミリング装置310内において、Arイオンビームを遮蔽板320に照射することにより、遮蔽板320に設けられた穴322から、ビーム径が絞られたArイオンビームが試料片910aの薄膜部920に照射され、ダメージ層922(
図2(d))が除去される。
【0050】
図4の例では、試料片910aが試料ホルダ700に取り付けられた状態となっている。そのため、イオンミリングによりダメージ層922が除去された薄膜部920をそのまま電子線ホログラフィ顕微鏡100を用いて観察することができる。この場合、試料ホルダ700に遮蔽板320が取り付けられた状態でその場観察を行うことも可能である。
【0051】
A3.試料の電気的特性:
図5(a)は、ダメージ層922の除去前の電気的特性を示し、
図5(b)は、ダメージ層922の除去後の電気的特性を示している。第1実施例では、試料片910aの電気的特性としてインピーダンススペクトルの評価を行った。ここで、インピーダンススペクトルとは、電極間の複素インピーダンスの周波数特性を謂い、電池の評価に利用される周知の電気的特性である。
図5の各グラフ(「Cole−Coleプロット」と呼ばれる)において、横軸は複素インピーダンス(Z)の実部(Re(Z))を表し、縦軸は複素インピーダンス(Z)の虚部(−Im(Z))を表している。
【0052】
一般的に、正常な電池のCole−Coleプロット上の点は、複数の上半円を重ね合わせた形状となり、
図5のような複素インピーダンスの絶対値|Z|が0に近い低インピーダンス領域では、複素インピーダンスの実部(Re(Z))と虚部(−Im(Z))は、周波数が上昇するに従って0に近づいていく。そのため、低インピーダンス領域における正常な電池のCole−Coleプロット上の点は、右上がりの形状となる。
【0053】
図5(a)に示すように、ダメージ層922の除去前の試料片910aでは、周波数が高くなるに従って実部(Re(Z))が小さくなるとともに、虚部(−Im(Z))が0から離れていった。そのため、Cole−Coleプロット上の点は、正常な電池とは異なり、右下がりの形状となった。このことから、ダメージ層922の除去前の試料片910aは、電池として正常に機能していないものと判断できる。
【0054】
これに対し、
図5(b)に示すように、ダメージ層922の除去後の試料片910aでは、周波数が高くなるに従って実部(Re(Z))と虚部(−Im(Z))とが0に近づいていき、Cole−Coleプロット上の点は、右上がりの形状となった。このことから、ダメージ層922を除去した試料片910aは、電池として正常に機能しているものと判断できる。
【0055】
図6は、ダメージ層922を除去した試料片910aの充放電特性の評価結果を示すグラフである。
図6のグラフにおいて、横軸は時間を表し、縦軸は電極間の電圧(電池電圧)を表している。充放電特性は、電池電圧が所定の電圧(
図6の例では、3.5V)に達するまで一定の電流値で充電し、次に、電池電圧が0Vに達するまで一定の電流値で放電することを繰り返し、その際の電池電圧を測定することにより行った。
【0056】
図6に示すように、試料片910aの電池電圧は、充電を開始すると約2.7Vまで急激に上昇し、その後、充電が終了するまで徐々に上昇した。電池電圧が3.5Vに達して放電を開始すると、電池電圧は、約2.6Vまで急激に低下し、その後、約1.4Vまで徐々に低下した。そして、約1.4Vからは再び電池電圧が急激に低下した。このように、充電開始直後に電池電圧が急上昇し、その後充電が終了するまで電池電圧が徐々に上昇する特性と、放電開始直後に電池電圧が急低下した後に電池電圧が徐々に低下し、その後電池電圧が再度急低下する特性は、いずれも二次電池として典型的な充放電特性である。このことから、インピーダンススペクトルにより電池として機能すると判断された試料片910aは、二次電池として正常に機能することがわかった。
【0057】
このように、インピーダンススペクトルを用いることにより、試料片910aが二次電池として機能するか否かを判断することができる。なお、第1実施例では、インピーダンススペクトルにより試料片910aが二次電池として機能するか否かを判断しているが、充放電特性等の他の電気的特性を評価するものとしても良い。但し、インピーダンススペクトルは、二次電池として機能するか否かを判断可能な他の電気的特性よりも高速に評価することができるので、ダメージ層が除去されたか否かの確認に要する時間をより短縮することができる。また、インピーダンススペクトルは、試料片910aを二次電池として動作させることなく評価することができるので、二次電池における最初の充放電サイクル(ファーストサイクル)における電池反応の観察ができるとともに、二次電池として動作させることによる劣化等の問題の発生を抑制することができる。
【0058】
第1実施例では、その場観察の対象を固体電解質二次電池としているが、本発明を電解質として固体電解質を用いた一次電池に対して適用することも可能である。この場合においても、電気的特性としてインピーダンススペクトルを評価することにより、放電していない一次電池の初期状態を維持できるので、一次電池における放電時の電池反応を観察することができる。
【0059】
B.第2実施例:
図7は、第2実施例における試料片910aの配置を示す説明図である。
図7(a)は、第1実施例における試料片910aの配置を示し、
図7(b)は、第2実施例における試料片910aの配置を示している。
図7は、遮蔽板320と試料片910aとをイオンガン312(
図3)から見た様子を示している。なお、第2実施例は、試料片910aの配置が異なっている点で、第1実施例と異なっており、他の点は第1実施例と同様である。
【0060】
上述のように、第1実施例では、試料片910aの薄膜部920が遮蔽板320と対向するように配置されている。そのため、
図7(a)に示すように、遮蔽板320に設けられた穴922から見て、試料片910aの非薄膜部930が薄膜部920の奥に位置している。Arイオンビームを遮蔽板320に照射すると、穴922を通ったArイオンビームは、薄膜部920から非薄膜部930の方向に照射される。第1実施例では、FIBの照射方向とArイオンビームの照射方向とが垂直となっているので、Arイオンビームの照射方向は、非薄膜部930の薄膜部920側の面と垂直となる。このように、非薄膜部930の薄膜部920側の面と垂直にArイオンビームが照射されると、当該面からスパッタされた原子が薄膜部920に付着し、試料片910aの電気特性に影響を与える虞がある。
【0061】
これに対し、
図7(b)に示すように、第2実施例では、FIBの照射方向とArイオンビームの照射方向とを同一とすることにより、Arイオンビームの照射方向は、FIBにより形成された面と平行になる。一般に、特定の面と略並行にArイオンビームが照射された場合、当該面からスパッタされた原子の大部分は、Arイオンビームの照射方向に進行する。そのため、FIBの照射方向とArイオンビームの照射方向とを同一とすることにより、FIBにより形成された面からスパッタされた原子が薄膜部920に付着することが抑制され、試料片910aの電気特性に影響を与える虞を低減することができる。
【0062】
C.変形例:
本発明は上記実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0063】
C1.変形例1:
上記各実施例では、イオンガン312から射出されたArイオンビームを穴322が設けられた遮蔽板320に照射することにより、Arイオンビームのビーム径を絞り込んでいるが、一般には、試料片910aに照射されるArイオンビームのビーム径を所定の大きさ以下に絞り込むことができれば良い。但し、試料保持機構等の試料片910a以外の構造物にArイオンビームが照射され、当該構造物がチャージアップすることを抑制することがより容易となる点で、遮蔽板320を用いてArイオンビームのビーム径を絞り込むのが好ましい。
【0064】
図8は、ビーム径が小さいArイオンビームを射出するイオンガン800の一態様を示す説明図である。
図8に示すイオンガン800は、イオン源810と、ビーム集束器820とを有している。イオン源810は、2枚の金属板812,814を有しており、これらの金属板812,814の間にArのプラズマを発生させる。一方の金属板814には、イオンを射出するための穴816が設けられている。この穴816が設けられた金属板814に、穴が設けられていない金属板812に対して負の電圧を印加することにより、金属板814に設けられた穴816からArイオンビームが射出される。
【0065】
イオン源810から射出されたArイオンビームは、円筒状の金属部材であるビーム集束器820の中を通過する。ビーム集束器820に金属板814に対して正の電圧を印加することにより、イオン源810から射出された大径のArイオンビームは絞り込まれる。これにより、イオンガン800からは、ビーム径が小さいArイオンビームが射出される。なお、
図8に示すイオンガン800では、Arイオンビームを静電的に絞り込んでいるが、電磁的に絞り込むことも可能である。この場合、円筒状の金属部材からなるビーム集束器820に換えて、周知の電磁レンズが使用される。
【0066】
C2.変形例2:
上記各実施例および変形例では、試料片910aに照射されるArイオンビームのビーム径を所定の大きさ以下に絞り込んでいるが、ビーム径は必ずしも絞り込む必要はない。但し、試料保持機構等の試料片910a以外の構造物からのリデポジションを抑制することができる点で、Arイオンビームのビーム径を所定の大きさ以下に絞り込むのが好ましい。
【0067】
C3.変形例3:
上記各実施例では、その場観察の対象を固体電解質を有する一次電池もしくは二次電池としているが、本発明は、例えば、電気二重層キャパシタや、p−n接合やヘテロ接合を有する半導体素子や、圧電素子等の種々の電気素子をその場観察する際の試料の作製に適用することができる。半導体素子の試料を作製する際において、試料片が半導体素子として正常に機能するか否かの判断は、例えば、試料片の電流−電圧特性(I−V特性)を評価することにより行うことができる。また、圧電素子の試料を作製する際において、試料片が圧電素子として正常に機能するか否かの判断は、例えば、試料片の抵抗値を評価することにより行うことができる。なお、圧電素子を試料としてのその外形の変化をその場観察する場合においては、電子線ホログラフィを用いずに、試料SPC(
図1)の像ISPを観察するものとしても良い。この場合、一般的な透過型電子顕微鏡によりその場観察を行うことができる。
【0068】
C4.変形例4:
上記各実施例および変形例では、本発明を透過型電子顕微鏡によりその場観察を行うための試料の作製に適用しているが、本発明は、透過型電子顕微鏡の他、透過走査型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡等の種々の電子顕微鏡によりその場観察を行うための試料の作製に適用することができる。また、本発明は、電子線の他、陽子線やイオン線等の荷電粒子線を用いた種々の顕微鏡(荷電粒子線顕微鏡)によりその場観察を行うための試料の作製に適用することができる。