特許第5939901号(P5939901)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5939901
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】回転流体機器のシール装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20160609BHJP
   F04D 29/12 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   F16J15/34 J
   F04D29/12 B
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-136016(P2012-136016)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-1758(P2014-1758A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2014年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 崇人
(72)【発明者】
【氏名】木久山 貴規
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−114273(JP,U)
【文献】 実開平04−106568(JP,U)
【文献】 特開2003−074712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
F04D 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転流体機器におけるケーシングと回転軸との間に形成されるとともに、フラッシング液が供給される収容室と、
前記収容室と前記回転流体機器の機外領域との間をシールする第1メカニカルシールと、
前記第1メカニカルシールよりも前記回転流体機器の機内側に設けられ、前記収容室と前記機内領域との間をシールする第2メカニカルシールと、を備えており、
前記第2メカニカルシールは、前記回転軸に一体回転可能に設けられた回転環と、前記ケーシングに設けられ、前記回転環に対して軸方向に当接する静止環と、を備えており、
前記回転環は、硬質材で形成され、
前記静止環は、軟質材で形成されかつ前記回転環のシール面に当接するシール環と、硬質材で形成されかつ前記シール環を保持する保持環とを備え、
前記保持環に、前記収容室と前記機内領域との間の流体の流通を、流量を絞った状態で許容する孔形状の絞り流路が貫通して形成されていることを特徴とする回転流体機器のシール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転流体機器のシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポンプ等の回転流体機器の内部の被密封流体をシールするものとして、ケーシング側に取り付けられた静止環と、回転軸側に取り付けられた回転環とを備え、静止環に形成された静止側シール端面と回転環に形成された回転側シール端面とを摺接させるメカニカルシールが多用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6は、従来(特許文献1)のメカニカルシールの一例を示す断面図である。
回転流体機器110は、回転軸112と、この回転軸112が貫通されたケーシング111とを備え、回転軸112とケーシング111との間には収容室115が形成されている。そして、この収容室115と回転流体機器110の機外領域(大気領域)とがメカニカルシール116によってシールされている。ケーシング111には、収容室115に連通するフラッシング孔131が形成され、このフラッシング孔131を介して収容室115内にフラッシング液が導入される。フラッシング液は、メカニカルシール116における回転環122及び静止環120のシール面の潤滑や冷却等を行う。
【0004】
回転流体機器110の機内領域が負圧である場合、収容室115内のフラッシング液が機内側へ引き込まれると、収容室115内の圧力が大気圧よりも低下する可能性がある。この場合、大気側から回転環122及び静止環120のシール面にエアが入り込み、シール性の低下を招くおそれがある。また、回転流体機器110によって扱われる流体の沸点が低い場合には、収容室115内の圧力が低下することによって、回転環122及び静止環120のシール面付近でフラッシング液が蒸発してガスが溜まり、その結果、シール性の低下を招くおそれがある。従来、このようなシール性の低下を防止するために、収容室115と機内領域との間にはフローティングリング200が設けられている。
【0005】
このフローティングリング200は、メカニカルシール116よりも機内側に配置されるとともに、ケーシング111に対してOリング201を介して装着されている。そして、フローティングリング200の内周面と、回転軸112の外周面に取り付けられたスリーブ202との間には、オリフィスとして機能する環状の隙間(絞り流路)203が形成され、この隙間203が収容室115から機内側に流入するフラッシング液の流量を制限し、収容室115内の圧力を大気圧及び機内領域の圧力よりも高い適正な圧力に保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平3−12058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図6に示されるフローティングリング200は、回転するスリーブ202との間に僅かな隙間203しか形成されていないので、長期の使用によって次第に摩耗する可能性がある。すなわち、回転流体機器110によって扱われる流体がスラリーのような異物を含む流体である場合、フローティングリング200とスリーブ202との狭い隙間203に異物を噛み込み、フローティングリング200が摩耗してしまう可能性がある。フローティングリング200が摩耗すると、スリーブ202との隙間203が拡がって収容室115内の圧力を適正に保持することができなくなり、メカニカルシール116のシール性の低下を防止することが困難となる。
【0008】
特に、フローティングリング200は、その内周面がカーボン等の軟質材で形成されることが多いため、より摩耗しやすくなっている。また、フローティングリング200は、自重等の要因によって回転軸112と若干軸心がずれるため、フローティングリング200とスリーブ202との隙間203が部分的により小さくなり、フローティングリング200の摩耗が促進されるおそれがある。
【0009】
本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、ケーシングと回転軸との間に設けられた収容室内の圧力を適切に保持することができる回転流体機器のシール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、回転流体機器におけるケーシングと回転軸との間に形成されるとともに、フラッシング液が供給される収容室と、
前記収容室と前記回転流体機器の機外領域との間をシールする第1メカニカルシールと、
前記第1メカニカルシールよりも前記回転流体機器の機内側に設けられ、前記収容室と前記機内領域との間をシールする第2メカニカルシールと、を備えており、
前記第2メカニカルシールは、前記回転軸に一体回転可能に設けられた回転環と、前記ケーシングに設けられ、前記回転環に対して軸方向に当接する静止環と、を備え、
前記回転環は、硬質材で形成され、
前記静止環は、軟質材で形成され、前記回転環のシール面に当接するシール環と、硬質材で形成され、前記シール環を保持する保持環とを備え、
前記保持環に、前記収容室と前記機内領域との間の流体の流通を、流量を絞った状態で許容する孔形状の絞り流路が貫通して形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るシール装置の第1メカニカルシールは、収容室と機外領域との間をシールすることによって、機外領域から収容室内への外気の浸入、及び収容室から機外領域への流体の漏れ等を防止することができる。また、第1メカニカルシールは、収容室に供給されたフラッシング液によって潤滑、冷却される。一方、第2メカニカルシールは、収容室と機内領域との間をシールすると同時に、絞り流路を介して流量を絞った状態で両者間の流体の流通が許容される。この絞り流路によって、収容室内と機内領域との間を大流量の流体が流通することがなく、収容室内の圧力が適切に保持される。したがって、第1メカニカルシールのシール性の低下を好適に抑制することができる。
ここで、絞り流路は第2メカニカルシールを貫通する孔形状に形成されるので、回転軸の回転に伴って摩耗することはほとんどない。また、本発明の絞り流路は、従来の絞り流路である環状の隙間と同等の開口面積を確保する場合、当該隙間の径方向寸法よりも大きな径の孔とすることができるため、異物が詰まってしまうのを抑制することができ、収容室内を適切な圧力に保持することができる。
【0012】
前記第2メカニカルシールは、前記回転軸に一体回転可能に設けられた回転環と、前記ケーシングに設けられ、前記回転環に対して軸方向に当接する静止環と、を備えており、前記絞り流路は、前記静止環に設けられている
第2メカニカルシールが回転環と静止環とを備えている場合、仮に絞り流路を回転環に形成すると、回転環の回転に伴って絞り流路を流通する流体に乱れが生じ、収容室内の圧力制御が困難となる。本発明は、静止環に対して絞り流路を形成することによって、このような不都合が生じるのを防止することができる。
【0013】
前記絞り流路は、前記第2メカニカルシールを構成する硬質材に形成されている
一般に、メカニカルシールの回転環や静止環は、ステンレス、チタン、SiC(炭化珪素)、超硬合金等の硬質材や、カーボン等の軟質材によって形成されるが、このうち軟質材に対して絞り流路の流路を形成すると、強度の低下や摩耗の発生が問題となる。そのため、本発明では、硬質材に絞り流路を形成することによって強度低下を抑制し、摩耗の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ケーシングと回転軸との間に設けられた収容室内の圧力を適切に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施形態に係るシール装置を適用した回転流体機器の断面図である。
図2】シール装置の要部(第2メカニカルシール)を拡大して示す断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係るシール装置の要部(第2メカニカルシール)を拡大して示す断面図である。
図4】本発明の第3の実施形態に係るシール装置の要部(第2メカニカルシール)を拡大して示す断面図である。
図5】本発明の第4の実施形態に係るシール装置の要部(第2メカニカルシール)を拡大して示す断面図である。
図6】従来のシール構造を適用した回転流体機器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るシール装置を適用した回転流体機器の断面図である。回転流体機器10は、例えば、ポンプ、ブロワ、圧縮機、タービン、撹拌機であり、ケーシング11と回転軸12とを備えている。回転軸12は、ケーシング11に形成された開口11Aを貫通し、図示しない軸受によってケーシング11に回転自在に支持されている。
【0017】
シール装置14は、ケーシング11と回転軸12との間に形成された収容室(保圧室)15と、この収容室15に配置された第1,第2メカニカルシール16,17とを備えている。第1メカニカルシール16は、収容室15と回転流体機器10の機外領域(大気領域)との間をシールし、第2メカニカルシール17は、収容室15と回転流体機器10の機内領域との間をシールしている。回転流体機器10の機内領域は収容室15の圧力や大気圧よりも圧力が低い状態とされている。
【0018】
図1に示されるように、第1メカニカルシール16は、ケーシング11の一部を構成する環状のシールケース19に固定された静止環20と、回転軸12に一体回転可能に設けられた弾性機構21及び回転環22と、を備えている。この第1メカニカルシール16は、回転環22が軸方向に移動可能に構成された回転型メカニカルシールとされている。
【0019】
静止環20の外周側かつ機外側には凹溝24が形成され、この凹溝24には、シールケース19との間をシールするOリング25が嵌合されている。このOリング25は、フッ素ゴム等の弾性材料を用いて形成される。静止環20の機内側の端部には、静止側シール面20aが形成されている。また、静止環20の機外側の端部には係止凹部20bが形成され、この係止凹部20bには、シールケース19に設けられた回り止めピン26が係止されている。
【0020】
弾性機構21は、回転環22を機外側へ向けて軸方向に付勢するものであり、回転軸12の外周面に図示しない固定ネジ等で固定された固定環28と、この固定環28よりも機外側に配置され、軸方向に移動可能に回転軸12に嵌合された作用環29と、固定環28と作用環29との間に介装されたコイルバネ等の弾性部材30と、作用環29を固定環28に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能に連結する連結ピン36とを有する。弾性部材30は、周方向に間隔をあけて複数設けられている。
【0021】
回転環22は、シール環32と、保持環33とを備えている。シール環32は、機外側の端部に回転側シール面22aを備えており、この回転側シール面22aが静止環20の静止側シール面20aに摺動可能に当接している。また、シール環32は、保持環33に嵌合されることによって保持されている。保持環33は、弾性機構21の作用環29に固定ネジ等によって固定されている。保持環33の内周面には凹溝34が形成され、この凹溝34には回転軸12との間をシールするOリング35が嵌合されている。回転環22は、弾性機構21によって機外側へ付勢され、その回転側シール面22aが静止環20の静止側シール面20aに圧接されるようになっている。
【0022】
静止環20及び回転環22の構成材料は、シール条件等に応じて適宜設定される。例えば、静止環20は、自己潤滑性を有するカーボン等の軟質材によって形成することができる。回転環22における保持環33は、例えば、ステンレスやチタン等の硬質材(金属材)によって形成することができ、シール環32は、例えば、耐摩耗性に優れたSiC等のセラミックスや超硬合金等の硬質材によって形成することができる。そして、シール環32を保持環33に焼き嵌めすることによって両者を一体化することができる。又は、金属材のシール側面にセラミックス層を溶射等により形成したものを回転環22として用いてもよい。
【0023】
また、シールケース19には、フラッシング液を収容室15内に供給するためのフラッシング孔31が形成されている。このフラッシング孔31を介して収容室15に供給されたフラッシング液によって、回転側シール面22a及び静止側シール面20aの潤滑や冷却等が行われる。
【0024】
図2は、第2メカニカルシール17を拡大して示す断面図である。
図1及び図2に示されるように、第2メカニカルシール17は、ケーシング11に固定された静止環41と、回転軸12に一体回転可能に設けられた弾性機構42及び回転環43とを備えている。この第2メカニカルシール17は、回転環43が軸方向に移動可能に構成された、回転型メカニカルシールとされている。
【0025】
静止環41は、シール環45と保持環46とから構成されている。保持環46は、ケーシング11の開口11Aの内面に対して回り止めされた状態で嵌合されている。保持環46の外周側かつ機内側には略L字状に凹む凹溝47が形成され、この凹溝47には、ケーシング11と保持環46との間をシールするOリング48が嵌合されている。このOリング48は、フッ素ゴム等の弾性材料を用いて形成される。シール環45は、保持環46の機外側の端部に嵌合されることによって保持環46に保持されている。シール環45の機外側の端面には、静止側シール面41aが形成されている。
【0026】
図1に示されるように、弾性機構42は、回転軸12の外周面に図示しない固定ネジ等で固定された固定環51と、この固定環51よりも機内側に配置され、軸方向に移動可能に回転軸12に嵌合された作用環52と、固定環51と作用環52との間に介装されたコイルバネ等の弾性部材53と、作用環52を固定環51に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能に連結する連結ピン54と、を有する。弾性部材53は、周方向に間隔をあけて複数設けられている。
【0027】
回転環43は、シール環55と保持環56とを備えている。シール環55は、機内側の端部に回転側シール面43aを備えており、この回転側シール面43aが静止環41の静止側シール面41aに摺動可能に当接している。また、シール環55は、保持環56に嵌合されることによって保持されている。保持環56は、弾性機構42の作用環52に固定ネジ等によって固定されている。保持環56の内周側には凹溝57が形成され、この凹溝57には回転軸12との間をシールするOリング58が嵌合されている。回転環43は、弾性機構42によって機内側へ付勢され、その回転側シール面43aが静止環41の静止側シール面41aに圧接されるようになっている。
【0028】
静止環41及び回転環43の構成材料は、シール条件等に応じて適宜設定される。例えば、静止環41におけるシール環45は、自己潤滑性を有するカーボン等の軟質材によって形成することができる。静止環41及び回転環43における保持環46,56は、例えば、ステンレスやチタン等の硬質材(金属材)によって形成することができる。また、回転環43におけるシール環55は、例えば、耐摩耗性に優れたSiC等のセラミックスや超硬合金等の硬質材によって形成することができる。そして、シール環45,55をそれぞれ保持環46,56に焼き嵌めすることによって両者を一体化することができる。又は、金属材のシール側面にセラミックス層を溶射等により形成したものを回転環43として用いてもよい。
【0029】
静止環41における保持環46には、径方向に貫通する孔形状の絞り流路60が形成されている。この絞り流路60は、収容室15とケーシング11の機内領域とを連通するものであり、収容室15内のフラッシング液を負圧側である機内領域に流入させることができる。また、絞り流路60は、機内領域へ流入するフラッシング液の流量を制限することによって、収容室15内の圧力(液圧)を所定の圧力、具体的には、機内領域及び機外領域(大気領域)よりも高い圧力に保持するようになっている。
【0030】
以上のように、絞り流路60によって収容室15内の圧力が所定に保持されるので、第1メカニカルシール16における回転側シール面22aと静止側シール面20aとの間に大気側からエアが入り込むのを防止することができる。また、フラッシング液が低沸点の流体である場合には、フラッシング液の蒸発によって回転側シール面22a及び静止側シール面20aの近傍にエアがたまるのを防止することができる。したがって、第1メカニカルシール16のシール性を好適に維持することができる。
【0031】
絞り流路60は、静止環41に対して1本だけ形成されていてもよいし、周方向に間隔をあけて2本以上形成されていてもよい。いずれにおいても、絞り流路60の開口面積の総和は、従来(図6参照)における環状の隙間203の開口面積と同等とされ、従来と同様の絞り効果を奏するようになっている。従来の隙間203は周方向全周に形成されるのに対して、本実施形態の絞り流路60は周方向に関して部分的に形成されるものであるため、同一の開口面積(総和)であれば、従来の隙間203の径方向寸法sよりも絞り流路60の孔径dを大きく形成することができる。そのため、回転流体機器10が、スラリーのような異物を含む流体を扱う場合であっても、絞り流路60に異物が詰まってしまうのを防止することができる。逆に言うと、本実施形態の絞り流路60は、異物が詰まらない程度に孔径dを設定したうえで、所定の絞り効果を得ることができる開口面積となるように、本数を設定することができる。
【0032】
また、絞り流路60は、静止環41を貫通する孔によって構成され、回転軸12や回転環等の運動体が直接的に作用することもないので、絞り流路60を流れる流体の影響以外の要因で摩耗が生じることはほとんどない。
絞り流路60は、静止環41のうち、カーボン(軟質材)等からなるシール環45よりも強度の高い、金属材(硬質材)からなる保持環46に形成されている。そのため、絞り流路60を形成することに伴う静止環41の強度低下を抑制することができ、絞り流路60を流れる流体による静止環41の摩耗も抑制することができる。
【0033】
また、絞り流路60は、フラッシング液の流れ方向上流側が機外側に配置され、下流側が機内側に配置されるように軸方向断面視で傾斜して形成されている。そのため、収容室15から機内側へスムーズに流体を流動させることができる。
絞り流路60の本数は、孔径dと開口面積の総和を考慮して設定することができるが、開口面積の総和が同じであれば、本数が多いほど絞り効果(収容室15内の昇圧効果)を高めることができる。これは、絞り流路60の本数が多いほど、孔の内周面積の総和が大きくなり、流動抵抗によるフラッシング液の圧力損失が大きくなるからである。
【0034】
図3は、本発明の第2の実施形態に係るシール装置の要部(第2メカニカルシール)を拡大して示す断面図である。
この第2の実施形態における第2メカニカルシール17は、静止環41、弾性機構42、及び回転環43を備えている点で第1の実施形態の第2メカニカルシール17と同様であるが、静止環41の構造、及び絞り流路60の形成箇所が異なっている。弾性機構42は、第1の実施形態と同一の構成である。
【0035】
具体的に、静止環41は、その全体が単一のカーボン等の軟質材からなり、ケーシング11の開口11Aの内面に嵌合されている。静止環41の外周面には、軸方向に2個の凹溝47が形成され、各凹溝47にOリング48が嵌合されている。
また、絞り流路60は、回転環43における保持環56を径方向に貫通するように形成されている。そして、収容室15内のフラッシング液は、回転環43の絞り流路60を介して流量が絞られた状態で機内領域に導入される。したがって、本実施形態においても第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0036】
ただし、本実施形態では、絞り流路60が回転軸12とともに回転する回転環43に形成されているので、回転環43の回転に伴う遠心力で収容室15から機内側へフラッシング液が流入し難くなったり、絞り流路60を流れるフラッシング液に乱れが生じ易くなることがあり、収容室15内の圧力を所定に制御するのが困難になる。また、絞り流路60がOリング58に近い位置に設けられることになるので、スラリーのような異物がOリング58の周辺に堆積し、回転環43の追従移動に悪影響を及ぼすおそれもある。そのため、この点に関しては、第1の実施形態の方が有利であるといえる。
【0037】
図4は、本発明の第3の実施形態に係るシール装置の要部(第2メカニカルシール)を拡大して示す断面図である。
本実施形態の第2メカニカルシール17は、静止環41と、弾性機構62と、回転環43とを備えている。また、第2メカニカルシール17は、静止環41が軸方向に移動可能に構成された静止型メカニカルシールとされている。
【0038】
具体的に、静止環41は、ケーシング11の開口11Aの内面に対して軸方向摺動可能に嵌合されている。静止環41は、カーボン等の軟質材からなり、その外周面には凹溝47が形成され、この凹溝47にOリング48が嵌合されている。また、静止環41の外周面には、径方向外方に突出するフランジ部49が形成されている。
【0039】
弾性機構62は、コイルバネ等の弾性部材63と、この弾性部材63の軸方向一端側(機内側)を収容するためにケーシング11に形成された保持凹部64とを備えている。弾性部材63及び保持凹部64は、周方向に複数設けられている。そして、弾性部材63の軸方向他端側(機外側)は、静止環41のフランジ部49に当接している。したがって、静止環41は、機外側へ向けて軸方向に付勢されている。
【0040】
回転環43は、シール環55と保持環56とからなっている。保持環56は、ステンレスやチタン等の硬質材(金属材)からなり、固定ネジ66によって回転軸12に固定されている。シール環55は、セラミックスや超硬合金等の硬質材からなり、保持環56に嵌合されることによって保持されている。そして、弾性機構62によって静止環41の静止側シール面41aが回転環43の回転側シール面43aに圧接されることによって、収容室15と機内領域との間がシールされている。
【0041】
回転環43における保持環56には、径方向に貫通する絞り流路60が形成されている。したがって、収容室15内のフラッシング液は、絞り流路60を介して流量が絞られた状態で機内側に導入される。したがって、本実施形態においても、第1,第2実施形態と同様の作用効果を奏する。ただし、本実施形態では、第2実施形態と同様に、回転環43に対して絞り流路60が形成されているので、回転環43の回転に伴う遠心力でフラッシング液が絞り流路60を流動し難くなったり絞り流路60を流れる流体に乱れが生じやすくなるため、収容室15内の圧力を所定に制御するのが困難になる可能性がある。また、スラリーのような異物がOリング58の周辺に堆積し、Oリング58のシール性に悪影響を及ぼすおそれもある。そのため、この点に関しては、第1の実施形態の方がより有利であるといえる。
【0042】
図5は、本発明の第4の実施形態に係るシール装置の要部(第2メカニカルシール)を拡大して示す断面図である。
本実施形態の第2メカニカルシール17は、第3の実施形態と同様に、静止環41と、弾性機構62と、回転環43とを備えており、静止環41が軸方向に移動可能に構成された静止型メカニカルシールとされている。
【0043】
本実施形態の静止環41は、保持環46と、シール環45とを備えている。保持環46は、ステンレスやチタン等の硬質材(金属材)からなり、ケーシング11の開口11A内面に摺動可能に嵌合されている。保持環46の外周面には、Oリング48が嵌合する凹溝47と、フランジ部49とが形成されている。シール環45は、カーボン等の軟質材からなり、保持環46に嵌合されることによって保持され、機外側の端部に静止側シール面41aを備えている。
【0044】
回転環43は、絞り流路60が形成されていない点を除き、上記第3実施形態の回転環43と同一の構成である。そして、本実施形態では、絞り流路60が静止環41における保持環46に形成されている。したがって、本実施形態においても、収容室15内のフラッシング液が、絞り流路60を介して流量が絞られた状態で機内領域に導入される。そのため、上記各実施形態と同様の作用効果を奏する。また、絞り流路60が回転軸12とともに回転しない静止環41に形成されているので、回転軸12の回転によって絞り流路60を流れるフラッシング液に乱れが生じることはほとんどなく、収容室15内の圧力の制御を容易に行うことができる。
【0045】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で適宜変更できるものである。
例えば、本発明に係るシール装置14は、回転流体機器10の機内領域の圧力が収容室15内の圧力よりも高い場合にも適用することができる。この場合、第2メカニカルシール17は、収容室15内の圧力を機内領域の圧力よりも低くした状態に保つことができる。
また、上記各実施形態では、回転環43及び静止環41のいずれか一方に絞り流路60が形成されているが、双方に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 :回転流体機器
11 :ケーシング
12 :回転軸
14 :シール装置
15 :収容室
16 :第1メカニカルシール
17 :第2メカニカルシール
31 :フラッシング孔
41 :静止環
43 :回転環
60 :絞り流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6