【実施例】
【0049】
以下、実施例および比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
(比較例1)
特許文献1(特開平5−23592号公報)に開示される方法に従って、コージェライトハニカム(6.45平方センチあたりのセル数 210セル)に、Pt、Rh,Ceをそれぞれ3、0.3および45g(ハニカム触媒1リットルあたり)担持する触媒Aを調製した。
【0051】
すなわち、γ−アルミナを主成分とする活性アルミナ粉末(BET比表面積190m
2
/g)1000gに、硝酸セリウム水溶液1000ml(セリウムとして28gを含有)を加えてよく撹拌し150℃で乾燥した後、空気中で、600℃で2時間焼成した。このセリウム含有活性アルミナ1000gに対し、酸化セリウム700g、およびアルミナゾル(ベーマイト10重量%+硝酸10重量%)2400gを加えて、ボールミル中で混合粉砕し、この液にコージェライト製モノリス担体(見かけの体積1680ml)を浸漬し、目詰まりを飛ばす目的でエアブローした後乾燥させ、さらに浸漬・エアブロー・乾燥を2回繰り返した後、700℃で2時間焼成し、ハニカム担体上にウォシュコート層を形成した。このハニカム担体に、ジニトロジアンミン白金の硝酸水溶液と硝酸ロジウム水溶液の混合溶液に浸漬し、エアブロー、乾燥する工程を繰り返し、Ptをハニカム担体の見かけの体積に対して3g/L程度、Rhを0.3g/L程度含むように担持した後、焼成して、触媒を得た。
【0052】
上記の触媒Aを、直径12mm×長さ24mmに切り出し、石英反応管に充填し、触媒層温度を550,500,475,450,425,400℃に変えて、それぞれの温度で表1に示す組成のガスを毎分1.675リットル(0℃、1気圧の標準状態に換算した体積、以下同様)流通して、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)および炭化水素(CH
4)の浄化率と窒素収率を測定した(初期の性能)。なお、浄化率はいずれも、1
00×(1−(出口濃度)/(入口濃度))(%)で定義され、NOxについては一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO
2)の合計濃度を用いている。また、窒素収率は、20
0×(出口の窒素濃度)/(入口のNOx濃度)で求めた。
【0053】
【表1】
【0054】
引き続いて、触媒層温度を400℃に保ち、表2に示すガスを毎分1.29リットルの流量で18時間流通する模擬劣化処理を行った。これは触媒を被毒して活性を低下させる硫黄化合物を付着させるとともに、起動停止時などに発生する酸素濃度が高い状態における劣化を模擬したものである。
【0055】
【表2】
【0056】
模擬劣化処理に引き続いて、触媒層温度を400,425,450,475,500,550℃に変えて、それぞれの温度で表3に示す組成のガスを毎分1.675リットルの流量で流通して、浄化率と窒素収率を測定した(劣化処理後の性能)。
【0057】
【表3】
【0058】
模擬劣化処理の前(初期)および後(劣化処理後)の浄化率と、NOx浄化率から窒素収率を差し引いた値を表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
本触媒では、初期においてはλが0.99以下の条件で窒素収率が低下し、アンモニアや亜酸化窒素の生成(NOx浄化率−窒素収率により示される)が増加するが、劣化処理後には、λ=0.985〜1.005のリッチからリーン領域に及ぶ幅広い範囲で、アンモニアや亜酸化窒素は、ほとんど生成しないことが明らかである。
【0061】
ただし、本触媒では、λ=0.9995におけるNOx浄化率は、初期活性について見ると、500℃では100%であるが、450、425,400℃で、それぞれ88%、70%、22%となっている。これに対して、劣化処理後の活性について見ると、500℃では88%であるが、450、425,400℃で、それぞれ64%、18%、13%となり、いずれの場合でも、温度の低下に伴い顕著に低下する。
【0062】
また、λ=1.005における炭化水素の浄化率も、初期活性について見ると、550℃では93%であるが、450、425,400℃で、それぞれ36%、23%、12%となっている。これに対して、劣化処理後の活性について見ると、550℃では95%であるが、450、425,400℃で、それぞれ35%、26%、15%となり、温度の低下に伴い顕著に低下する。
【0063】
また、400℃における模擬劣化処理の際の炭化水素浄化率は、処理開始1,5,10,18時間後について、それぞれ24,19,15,12%と、低い値にとどまった。
【0064】
以上の結果から、触媒Aでは、アンモニアや亜酸化窒素の生成は少ないものの、低温活性は十分ではないことが明らかである。
【0065】
(比較例2)
特許文献5(特開2006−299912号公報)に開示される方法に従って、コージェライトハニカム(6.45平方センチあたりのセル数210セル)に、酸化ジルコニウムを担体として、Pt、Irをそれぞれ5.0および7.5g(ハニカム触媒1リットルあたり)担持する触媒Bを調製した。
【0066】
すなわち、酸化ジルコニウム(東ソー(株)製、TZ−0、比表面積15m
2/g)1
5g、ジルコニアゾル(日産化学工業(株)製、NZS−30A:酸化ジルコニウムとして31重量%含有)30g、水45mlをボールミルで混合してスラリーを調製した。このスラリーに、1平方インチ当たり210の貫通口を有するコージェライトハニカムを浸漬して引き上げ、乾燥する工程を繰り返して酸化ジルコニウムでコーティングした。次いで、空気中800℃で4時間焼成し、コージェライトハニカム1リットル当たり280gの酸化ジルコニウムを担持した焼成酸化ジルコニウムコートハニカムを得た。この焼成酸化ジルコニウムコートハニカムを、塩化イリジウム酸(H
2IrCl
6)と塩化白金酸(H
2PtCl
6)とを混合した混合水溶液に含浸し、さらにドライヤで乾燥した後、空気中550℃で4時間焼成して、コージェライトハニカム1リットル当たり5gの白金及び7.5gのイリジウムを担持した排ガス浄化用触媒を得た。
【0067】
上記の触媒Bについて、触媒Aと同様に直径12mm×長さ24mmに切り出し、比較例1と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
本触媒では、初期においてはλが0.995以下の条件で窒素収率が低下し、アンモニアや亜酸化窒素の生成(NOx浄化率−窒素収率により示される)が増加する。さらに、劣化処理後でも、アンモニアや亜酸化窒素は、λ=0.99以下のリッチ領域においては生成することが明らかとなった。
【0068】
【表5】
【0069】
一方で、本触媒では、λ=0.9995におけるNOx浄化率は、初期活性について見ると、500℃では100%であるが、450、425,400℃でも、それぞれ100%、98%、76%となり、また劣化処理後の活性について見ても、500℃では100%であり、450、425,400℃でも、それぞれ93%、84%、76%と、温度低下による活性低下は小さい。
【0070】
また、λ=1.005における炭化水素の浄化率も、初期活性について見ると、550℃では100%であるが、450、425,400℃でも、それぞれ93%、82%、61%となり、また劣化処理後の活性について見ても、550℃では100%であり、450、425,400℃でも、それぞれ94%、87%、71%となり、450℃以下の比較的低い温度でも高活性を維持する。
【0071】
また、400℃における模擬劣化処理の際の炭化水素浄化率は、処理開始1,5,10,18時間後について、それぞれ65,70,71,72%と、高い値を維持した。
以上の結果から、触媒Bでは、低温活性は極めて高いものの、比較的多量のアンモニアや亜酸化窒素を生成することが明らかである。
【0072】
(実施例1)
比較例1で用いた触媒Aと比較例2で用いた触媒Bをそれぞれ、直径12mm×長さ12mmに切り出し、触媒Aがガス流れに対して上流側となるように石英反応管に充填し、比較例1と同様の評価を行った。結果を表6に示す。
【0073】
【表6】
【0074】
本実施例では、NOx浄化率−窒素収率により示されるように、アンモニアや亜酸化窒素の生成は、比較例1と同程度に抑制されている。
【0075】
その一方で、低温活性は高く、λ=0.9995におけるNOx浄化率は、初期活性について見ると、500℃では100%であり、450、425,400℃でも、それぞれ98%、91%、65%となり、また劣化処理後の活性について見ても、500℃では99%、450、425,400℃でも、それぞれ80%、68%、20%と、比較例2には劣るものの、比較例1と比べると格段に高い。
【0076】
また、λ=1.005における炭化水素の浄化率も、初期活性について見ると、550℃では99%であるが、450、425,400℃でも、それぞれ77%、58%、38%となり、また劣化処理後の活性について見ても、550℃では99%であり、450、425,400℃でも、それぞれ81%、67%、43%となり、450℃以下の比較的低い温度でも高活性を維持する。
【0077】
また、400℃における模擬劣化処理の際の炭化水素浄化率は、処理開始1,5,10,18時間後について、それぞれ44,45,45,46%と、高い値を維持した。
【0078】
以上の結果から、実施例の方法に従うと、アンモニアや亜酸化窒素を生成することなく、比較的高い低温活性を得ることができる。
【0079】
(比較例3)
直径12mm×長さ12mmに切り出した触媒Aと触媒Bを用いて、触媒Bがガス流れに対して上流側となるように石英反応管に充填した他は、実施例と同様の評価を行った。結果を表7に示す。
【0080】
【表7】
【0081】
比較例3では、アンモニアや亜酸化窒素の生成は、比較例1よりはむしろ比較例2に近く、特にλ=0.985では顕著な生成が見られる。
【0082】
一方、低温活性については、実施例と顕著な差異はない。また、400℃における模擬劣化処理の際の炭化水素浄化率は、処理開始1,5,10,18時間後について、それぞれ43,43,44,45%と、この点でも実施例との差異はほとんど見られなかった。
以上の結果から、触媒Aと触媒Bの順序は、低温活性への影響は小さいものの、アンモニアや亜酸化窒素の副生を抑える点では極めて重要であることが示された。
【0083】
(比較例4)
比較例1の触媒Aを、直径8mm×長さ50mmに切り出し、石英反応管に充填し、触媒層温度を525,500,475,450,425,400℃に変えて、それぞれの温度で表1に示す組成のガスを毎分1.675リットル流通して、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)および炭化水素(CH
4)の浄化率と窒素収率を測定した(初期の性能)。
引き続いて、触媒層温度を400℃に保ち、表2に示すガスを毎分1.29リットルの流量で18時間流通する模擬劣化処理を行ったのち、触媒層温度を400,425,450,475,500,525℃に変えて、それぞれの温度で表3に示す組成のガスを毎分1.675リットルの流量で流通して、浄化率と窒素収率を測定した(劣化処理後の性能)。結果を表8に示す。
【0084】
【表8】
【0085】
比較例4の結果は、比較例1の結果と類似しているが、触媒体積がやや比較例4の方が小さいことと、触媒形状(断面積と長さ)の違いにより反応ガスの線速度が異なることから、若干の差異を生じたものとも考えられる。
【0086】
(比較例5)
比較例2の触媒Bを、直径8mm×長さ50mmに切り出し、石英反応管に充填して、比較例4と同様の評価を行った。結果を表9に示す。
【0087】
【表9】
【0088】
比較例5の結果も、比較例2の結果と類似しているが、触媒体積がやや比較例5の方が小さいことと、触媒形状(断面積と長さ)の違いにより反応ガスの線速度が異なることから、若干の差異を生じたものとも考えられる。
【0089】
(実施例2)
比較例1で用いた触媒Aを直径8mm×長さ12mmに切り出し、比較例2で用いた触媒Bを直径8mm×長さ37mmに切り出し、両触媒を触媒Aがガス流れに対して上流側となるように石英反応管に充填して、比較例4と同様の評価を行った。結果を表10に示す。
【0090】
【表10】
【0091】
本実施例では、NOx浄化率−窒素収率により示されるように、アンモニアや亜酸化窒素の生成は、比較例4と同程度に抑制されている。
【0092】
その一方で、低温活性は高く、λ=0.9995におけるNOx浄化率は、初期活性について見ると、500℃では100%であり、450、425,400℃でも、それぞれ100%、100%、94%となり、また劣化処理後の活性について見ても、500℃では100%、450、425℃でも、それぞれ100%、89%と、比較例5には劣るものの、比較例4と比べると格段に高い。
【0093】
また、λ=1.005における炭化水素の浄化率も、初期活性について見ると、500℃では99%であるが、450、425,400℃でも、それぞれ83%、61%、39%となり、また劣化処理後の活性について見ても、500℃では99%であり、450、425,400℃でも、それぞれ86%、72%、47%となり、450℃以下の比較的低い温度でも高活性を維持する。
【0094】
(実施例3)
比較例1で用いた触媒Aを直径8mm×長さ24mmに切り出し、比較例2で用いた触媒Bを直径8mm×長さ24mmに切り出し、両触媒を触媒Aがガス流れに対して上流側となるように石英反応管に充填して、比較例4と同様の評価を行った。結果を表11に示す。
【0095】
【表11】
【0096】
本実施例でも、NOx浄化率−窒素収率の値により示されるように、アンモニアや亜酸化窒素の生成は、比較例4と同程度に抑制されている。また、ストイキ点付近における低温活性(例えば、λ=0.9995におけるNOx浄化率)およびリーン側での炭化水素浄化率では、比較例4よりも優れている。
【0097】
(実施例4)
比較例1で用いた触媒Aを直径8mm×長さ37mmに切り出し、比較例2で用いた触媒Bを直径8mm×長さ12mmに切り出し、両触媒を触媒Aがガス流れに対して上流側となるように石英反応管に充填して、比較例4と同様の評価を行った。結果を表12に示す。
【0098】
【表12】
【0099】
本実施例でも、NOx浄化率−窒素収率の値により示されるように、アンモニアや亜酸化窒素の生成は、比較例4と同程度に抑制されている。また、ストイキ点付近における低温活性(例えば、λ=0.9995におけるNOx浄化率)およびリーン側での炭化水素浄化率では、比較例4よりも優れている。
【0100】
以上、実施例1〜4の結果を比較検討すると、いずれもNOx浄化率−窒素収率では大きな差が無いことが解る。
しかし、ストイキ点付近における低温活性(例えば、λ=0.9995におけるNOx浄化率)およびリーン側での炭化水素浄化率に着目すると、実施例1〜3の方が実施例4よりも優れている。
つまり、触媒Aと触媒Bの体積比(触媒Aの体積:触媒Bの体積)を比較検討すると、実施例1と実施例3は1:1、実施例2は約1:3、実施例4は約3:1であり、これらの結果を考慮し、さらに、触媒Aの比率が大きくなり過ぎると、リーン側での炭化水素浄化率が低下し、触媒Aの比率が小さくなり過ぎると、アンモニアの生成が抑制できなくなることを勘案すると、触媒Aと触媒Bの体積比は、1:3〜1:1(触媒A≦触媒B)程度が好ましいと考えられる。