(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
<実施形態の構成>
図1は本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置100の構成を示す図である。
【0019】
図1に示すようにインクジェット記録装置100は、本体1と、記録ヘッド2と、これらを接続する導管17とを備えて構成されている。
【0020】
本体1は、インク容器3と、供給ポンプ5と、回収ポンプ(第1及び第2回収ポンプ)10,11と、電磁弁12,13,16と、各々配管やパイプ及びチューブ等により形成される流路であるインク供給流路4、インク回収流路9、清掃用流路14、排気流路15、インク分離回収流路18、及びバイパス流路19と、溶剤容器23、溶剤流路24、補給ポンプ25とを備えて構成されている。
【0021】
記録ヘッド2は、ノズル6と、ガター8と、インクミスト混合器21と、気液分離器22と、上記のインク供給流路4、インク回収流路9、清掃用流路14、排気流路15、インク分離回収流路18、及びバイパス流路19とを備えて構成されている。
【0022】
導管17は、本体1と記録ヘッド2と接続する配管であり、内部には上記のインク供給流路4、インク回収流路9、清掃用流路14、排気流路15、インク分離回収流路18、及びバイパス流路19と、図示せぬ電気配線とが収容されている。但し、導管17は、
図1では短く表現されているが、インクジェット記録装置100の実機では、約4mと長い蛇腹状の配管である。
<実施形態の基本構成及び基本動作>
このような構成要素を有するインクジェット記録装置100の基本構成及び基本動作について
図2を参照して説明する。
図2は、
図1に示すインクジェット記録装置100の基本構成を示す斜視図である。
【0023】
インク容器3はインク3aを収容するものであり、インク供給流路4により供給ポンプ5を介してノズル6に接続されている。供給ポンプ5は、インク容器3内のインク3aをインク供給流路4内で圧送しながらノズル6へ供給する。但し、インク供給流路4は、図示せぬインク圧力を調節する調圧弁、供給インクの圧力を表示する圧力計、インク中の異物を捕らえるフィルタ等を備えて構成されている。
【0024】
ノズル6は圧電素子48を備え、圧電素子48に電源42から高周波数の正弦波を印加することにより、ノズル6の終端において凹状に窪んだオリフィス(図示せず)からインクを噴出させる。この噴出したインクは飛翔中に粒子7に分裂し、コ字状の帯電電極43へ出力される。帯電電極43には、記録信号源43aが接続されており、記録信号源43aから帯電電極43に記録信号電圧が印加されることにより、ノズル6からの噴出粒子7を帯電させ、この帯電したインク粒子7を、上部偏向電極44と下部偏向電極45との間へ出力する。
【0025】
上部偏向電極44は高電圧源44aと接続されており、下部偏向電極45は接地されているので、上部偏向電極44と下部偏向電極45との間に静電界が形成されている。従って、上部偏向電極44及び下部偏向電極45間の静電界中を、帯電したインク粒子7が通過する際に、インク粒子7自体が有する帯電量に応じて偏向され、この偏向されたインク粒子7が記録媒体46上に付着し、画像や文字を印刷する。なお、
図2ではインク粒子7の噴出方向が水平方向であるが、インク粒子7を鉛直方向に噴出して印刷することもできる。
【0026】
ところで、静電界中を通過する間に偏向されなかったインク粒子7は、回収口(図示せず)を有するガター8で空気と共に回収される。即ち、ガター8は、回収ポンプ(第1回収ポンプ)10が途中に接続されたインク回収流路9でインク容器3内に導かれており、回収ポンプ10の吸引力によりガター8からインク粒子7が空気と共に吸引され、インク容器3内へ回収される。この回収されたインク粒子7は再利用される。
【0027】
また、インク回収流路9内では、インク粒子7と空気とが混在して搬送されるが、インク粒子7の溶剤(インク溶剤)は揮発性が高いので、一部のインク溶剤は搬送中に揮発して空気と一体に混合する。また、インク粒子7と空気とが混在して搬送されている場合、インク回収流路9内で霧状のインクミストが発生する。更には、インク容器3内におけるインク回収流路9の出口では、インク粒子7がインク容器3内に空気と共に吹き出すので、ここでもインクミストが発生する。また、回収ポンプ10で吸引された空気はインク容器3内に送り続けられるため、インク容器3内から排出する必要がある。
<実施形態の特徴構成>
本実施形態では、
図1において、インク容器3に溜まった空気が、矢印Y1で示すように排気流路15を通り、後述するインクミスト混合器21を介して、気体と液体とを分離する気液分離器22に送出され、ここで空気中に含まれる液体と気体とが分離され、矢印Y2で示すように気体のみの排気ガスが排出される。この排気ガスはガター8で吸気される。その気液分離器22の排気ガスの排出口は、ガター8が排気ガスを効率良く吸い込み可能なように、ガター8の回収口に向けて配置されている。また、気液分離器22の矢印Y3で示す液体の排出側は、インク分離回収流路18を介してインク容器3へ導入されている。インク分離回収流路18の途中には電磁弁13及び回収ポンプ(第2回収ポンプ)11がこの順で介挿されて配設されている。
【0028】
ノズル6の終端に設けられたオリフィスは、清掃用流路14を介してインク分離回収流路18の回収ポンプ11の入力側に接続され、この接続部分とオリフィスとの間には電磁弁12が介挿されて配設されている。更に、インク容器3から導出した排気流路15の途中には、枝分かれ状態に、電磁弁16を介してバイパス流路19が接続されている。バイパス流路19は、インクジェット記録装置100の外部へ排気ガスを排出する。
【0029】
このような構成では、インク粒子7が空気と混在し、ガター8を介して回収ポンプ10で吸引されている状態において、インク容器3内に送り続けられる混在空気が、排気流路15を介して気液分離器22で液体と気体の排気ガスに分離され、この排気ガスがガター8へ戻される。これにより、インクジェット記録装置100の外部へのインク溶剤の揮散量(又は漏れる量)を減少させることができ、この作用により、環境負荷を小さくすることが可能となっている。それでもインク溶剤の揮散量はゼロとはならないので、図示しないインク濃度計によるインク容器3内のインク濃度測定結果に基づき、不足分のインク溶剤が補給ポンプ25によって溶剤容器23から溶剤流路24を経由してインク容器3に補充される。
【0030】
ところで、インク容器3が配置された本体1内は、図示せぬ回路基板が発する熱により、記録ヘッド2内よりも10〜20℃程度高温になるので、本体1にて排気流路15を通る排気ガスが、記録ヘッド2内においてガター8へ搬送される前に冷却され、排気ガスと混合したインク溶剤が液化することがある。この液化が生じた場合、液化インク溶剤を気液分離器22で分離し、これをインク容器3に戻すようになっている。これにより、インクジェット記録装置100の外部へのインク溶剤の揮散量を減少させることが可能となっている。
【0031】
但し、排気ガスは、一般に排気ガスが通過する流路が長いほど冷却され、揮発したインク溶剤が液化し易くなって回収し易くなる。そこで、本実施形態では、排気ガスを排出する気液分離器22を、インク容器3から最も離れたガター8の近くに配置して、インク容器3から気液分離器22までの間の排気流路15を長くしている。
【0032】
また、ノズル6に目詰まりが発生した際に、電磁弁13を閉状態、電磁弁12を開状態とした後の回収ポンプ11の吸引動作により、清掃用流路14を介してノズル6のオリフィスから目詰まり物を吸引してインク容器3に回収するようになっている。この際、インクジェット記録装置100のオペレータが、オリフィスに溶剤を供給しながら回収動作を行うと、オリフィスの目詰まりがより解消し易い構造となっている。
【0033】
ところで、上述したように、インク容器3が配置された本体1内は記録ヘッド2内よりも10〜20℃程度高温になるので、本体1内の排気ガスの温度はインク容器3内の温度とほぼ等しくなる。また、本体1内の排気流路15内の排気ガスは、空気、揮発したインク溶剤及びインクミストの三者が混合した状態(混合排気ガス又は気液混合物とも言う)となっている。この混合排気ガスをそのままの状態で記録ヘッド2内に戻せば、インクジェット記録装置100の外部へ揮発したインク溶剤が排出され難くなるので、外部へのインク溶剤の揮散量を低減させることができる。
【0034】
しかし、排気流路15は、導管17内においては温度が低下するので、
図3に符号72で示すように、インク溶剤の一部が液化(液化インク溶剤72)する。
図3は排気流路15の長手方向の一部断面図である。液化インク溶剤72をこのままの状態で記録ヘッド2内に戻すと、記録ヘッド2の内部を汚染したり、液化インク溶剤72が、飛翔中のインク粒子7に接触して印刷品質を低下させたりする。また、排気流路15内にはインクミスト71も混在するので、インクミスト71を除去せずに記録ヘッド2内に戻しても、記録ヘッド2内を汚染してしまう。
【0035】
但し、排気流路15内では、インクミスト71は排気ガスとともに移動し、その速度は1.5〜2.0m/s程度である。液化インク溶剤72は、排気流路15内壁に沿って進み、その移動速度は排気流路15の設置方向に応じて変わるが、インクミスト71の移動速度と比較して約1/10〜1/30である。液化インク溶剤72の溶剤量は、インク容器3の温度に依存して、約1〜10g/hの範囲となる(インク容器3の温度:0〜50℃)。
【0036】
そこで、本実施形態では、インクミスト混合器21によりインクミスト71を取り除き、気液分離器22により液化インク溶剤72を排気ガスから分離するようにした。
<インクミスト混合器21の構成>
まず、インクミスト71を取り除く方法として、一般的に、排気流路15の途中にインク溶剤に侵されることのないステンレスフィルタを設けることが考えられる。しかし、板状のステンレスフィルタの場合、高速で飛ぶインクミスト71は、フィルタの目に引っかかっても、後から来る空気流で吹き飛ばされるので、目の細かさに依らず、除去することは困難である。
【0037】
そこで、排気流路15には、少量ではあるが液化インク溶剤72が流れているので、この液化インク溶剤72にインクミスト71を混合できれば、排気ガス中のインクミスト71を取り除くことができることに着目し、インクミスト混合器21を構成した。
【0038】
図4はインクミスト混合器21の構成を示す図である。インクミスト混合器21は、液体を含浸する円盤型の保液部31と、保液部31に円面同士で接合され、保液部31から発生する微細物を捕獲する円盤型のフィルタ32とを備える。更に、その接合された保液部31及びフィルタ32を、頂部が開口した円錐型容器35a,35bで両側から挟み込んで収容するケース35を備えて構成されている。更には、ケース35の一方の円錐型容器35aの開口を、円筒状接続部33でインク容器3側の排気流路15に接続し、他方の円錐型容器35bの開口を、円筒状接続部34で気液分離器22側の排気流路15に接続して構成されている。
【0039】
保液部31は、インク溶剤には溶けないPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やステンレスなどを糸状に編んだシートで構成されており、通気性が良く、且つシート内に液を保持する性質を有する。
【0040】
また、インクミスト混合器21は、排気ガス中のインク溶剤が液化し易い位置、つまり、気液分離器22における排気ガス流入口(
図1の矢印Y1側)の直前に設置すると好適である。気液混合物中のインクミスト71は、排気流路15内での液化インク溶剤72で濡れた保液部31を通過する際に、液化インク溶剤72と混合される。また、保液部31には、排気流路15を介して連続的に液化インク溶剤72が補給されるので、インクミスト71が固着することはない。
<気液分離器22の構成>
次に、排気ガスから液化インク溶剤72を分離する気液分離器22について説明する。
【0041】
図5は気液分離器22の構成を示し、(a)は気液分離器22の外観斜視図、(b)は(a)の気液分離器22を長手方向に沿って切断した場合のA1−A1断面図である。
図6(a)は
図5(b)のA2−A2断面図、(b)は
図5(b)のA3−A3断面図である。
【0042】
図5に示すように、気液分離器22は、断面円形の筒型の気液相流入管51及び気液相流出管52が、円柱状のケース部材55の2つの挿通穴に嵌入され、このケース部材55の他端側の凹部に凸部が嵌合された円柱状のケース部材54の中央部には、断面円形の排気口53が存在する。
【0043】
気液相流入管51は、
図1に示す排気流路15に接合され、当該排気流路15内の排気ガスにインクミスト71及び液化インク溶剤72が混合された気液混合物が、矢印Y1で示す方向に流入される。気液相流出管52は、
図1に示すインク分離回収流路18に接合され、気液分離器22で分離された液化インク溶剤72が矢印Y3で示す方向に流出される。排気口53においては、気液分離器22で分離された気体のみの排気ガスが、矢印Y2で示すように記録ヘッド2内に排出される。
【0044】
ケース部材54,55は、双方が矢印Y1〜Y3で示す気液流動方向に結合されることにより、空洞のチャンバー部(空洞部)56が形成されている。このチャンバー部56を含む破線枠F1で囲む部分の拡大図を
図7に示す。
図7は気液分離器22の気液分離構造を説明するための一部断面図である。
【0045】
図7に示すように気液相流出管52の外周面とケース部材55の内壁との間には、間隔L1の隙間57が形成されている。ケース部材54における気液相流出管52の流入口が当接する端面には、円形状に窪んだ段差部58が形成されている。段差部58は、
図6(b)に示すように、ケース部材54におけるケース部材55の凹部と嵌合された凸部の円形状端面に、円形状に窪んで形成されている。更に詳細には、ケース部材54の中心に存在する排気口53に対して同心円状に円形に窪ませて形成されている。この段差部58は、排気ガス通路の側面から見ると、
図7にL2で示す間隔を有する。段差部58により、矢印Y3aで示すように、気液相流出管52内の流路52Aへ気液混合物中の液化インク溶剤72が排出し易くなっている。
【0046】
チャンバー部56は、
図7に示すように気液流動方向に間隔L3の長さを有し、気液相流入管51から矢印Y1(
図5(b)参照)で示すように気液混合物が流入する。この気液混合物内の液体成分は、毛細管現象により段差部58を通って隙間57に保持される。このように液体成分が保持されるため排気口53には液体が近づかない。隙間57は、
図7及び
図6(a)に示すように気液相流出管52の外周面とケース部材55の内周面(内壁)との間隔L1で形成されている。その間隔L1が狭いほど、隙間57内への液体の保持力が大きくなるので、間隔L1を狭くすれば気液分離器22の設置姿勢に拘らず、気液分離が可能となる。
【0047】
つまり、気液相流出管52から矢印Y3で示すように気液分離器22に流入した気液混合物内の液化インク溶剤72は、矢印Y3aで示すように段差部58を通って間隔L1の隙間57に保持されながら気液相流出管52へ送出され、インク容器3へ回収される。
【0048】
その隙間57の間隔L1と保持力との関係について、
図8を参照して説明する。
図8は、気液分離器22における気液相流出管52の外周面とケース部材55の内壁との間の隙間57の間隔L1と、液体の保持力との関係を説明するための図である。
【0049】
液体91の内部に間隔dを隔てて立てられた2枚の平板92の間には、毛細管現象によって高さhまで液体91が上昇している。このとき、液体91の表面張力をΓ、液体91の平板92への接触角をβ、液体91の密度をρ、重力加速度をgとすると、高さhは次式(1)で表わされる。
【0050】
h=2Γcosβ/dρg …(1)
例えば、液体91がメチルエチルケトンの場合、d=0.5mmのとき、h=5mm程度となる。このことから、
図7の間隔L1が0.5mmのとき、間隔L3は5mm以下に設定すれば良い。これは実験から導き出された数値である。
【0051】
本実施形態では、気液相流出管52は円筒形であって平板ではないので、液体が保持される部分の間隔L1が広い部分が生じる。この部分では液体の保持力が弱まるが、間隔L3を3mm程度に設定すると、気液分離器22の設置姿勢に拘らず気液分離が可能となることが実験で確かめられている。なお、間隔L2は、間隔L1と同等以下に設定することで気液分離の性能は安定するようになっている。
<気液分離器22の設置方法>
図9は記録ヘッド2の外観を示す斜視図である。
図9に示すように、記録ヘッド2は、本体1(
図1参照)に接続された導管17に接続されており、台座61の上にヘッドカバー62aとスリット63を有するヘッドカバー62bが取り付けられている。
【0052】
図10は記録ヘッド2内への気液分離器に設置方法を示しており、
図10(a)は
図9で説明した記録ヘッド2からヘッドカバー62aと62bを外した状態を示している。
図10(a)に示すように台座61の平面上には、排気流路15及びインク分離回収流路18が接続された気液分離器22が気液流動方向に沿って配設されている。この気液分離器22と併設してインク供給流路4が接続されたノズル6が配設され、このノズル6の先端側に、帯電電極43、上部偏向電極44及び下部偏向電極45の対、ガター8が、この順で配設されている。
【0053】
したがって、ノズル6から噴射され、帯電電極43、上部偏向電極44及び下部偏向電極45を通過したインク粒子7は、スリット63から放出されて、
図2に示したように記録媒体46上に印刷が行われるようになっている。
【0054】
図1と
図5を用いて説明したように、インク容器からの排気が排気流路15を通ってくる間にインク溶剤の一部が液化し、その液化溶剤が気液分離器22で分離してインク分離回収流路18を経てインク容器に戻る。液化溶剤が分離された排気は排気口53から排出される。しかし、高温環境(例えば45℃)でインクジェット記録装置を使用すると、排気中のインク溶剤量が多くなり、排気流路を通ってくる間に液化するインク溶剤量も多くなるので、排気口53から排気とともにインク溶剤が滴下する場合がある。記録ヘッド2を下向きに設置する場合(カバー62bのスリット63が下向きになる場合)には、記録ヘッド2の台座61上に存在する偏向電極44にインク溶剤があたる可能性がある。偏向電極44には高電圧が印加されているので、インク溶剤があたると所定の電圧が印加されなくなり、インク液滴の偏向量が小さくなり印字状態が劣化する。そのため、排気口53からインク溶剤の滴下を防止する必要がある。
図10(b)に示すように、ヘッドカバー62aに開口穴91を開け、さらに
図12に示すように開口穴の後段に液滴滴下防止手段92を設置する。液滴滴下防止手段92は、ヘッドカバー62aにネジ止め、溶接、接着などによって接合する。液滴滴下防止手段92の設置によって、排気の流れに乱れが発生するが、排気は記録ヘッド2内のガター8から回収されてインク容器に導かれる。インク溶剤は液滴滴下防止手段92に滴下するが、単位時間あたりの滴下量が微量であるのでやがて揮発してガターから回収される。
【0055】
以上のように、気液分離器22に液滴滴下防止手段92を設置することにより、記録ヘッド2内の偏向電極44にインク溶剤があたることがないので、安定して印字を行うことができる。
【0056】
次に、気液分離器の排気口53から記録ヘッド内への溶剤滴下を防止する別の方法について説明する。
【0057】
図16は気液分離器の後段に液滴滴下防止手段を接続する方法を示す図である。液滴滴下防止手段110は気液分離器22の排気口53側にネジ111a、111bで固定されている。液滴滴下防止手段110には通気口112a、112bが設けられており、記録ヘッド2を下向きに設置する場合に液滴が滴下しない位置になっている。以上の構成にすることにより、インクジェット記録装置の運転中は、気液分離器22の排気口53からの排気が通気口112a、112bより排出される。排出された排気は記録ヘッド2内のガター8から回収されてインク容器に導かれる。
【0058】
次に、気液分離器22から記録ヘッド内への溶剤滴下を防止するさらに別の構成を説明する。
<実施例2>
図17は
図5とは異なる構成の気液分離器22の構成を示し、(a)は気液分離器22の外観斜視図、(b)は(a)の気液分離器22を長手方向に沿って切断した場合のA1−A1断面図である。
図17に示した例では、円筒状の排気管59が円柱状のケース部材55の挿通穴に嵌入されている。インクジェット記録装置の運転時には、気液分離器22からの排気は排気管59から排出される。
【0059】
図11(a)は
図17に示した気液分離器22を記録ヘッドの台座61上に配置する構成図であり、
図9で説明した記録ヘッド2からヘッドカバー62aと62bを外した状態を示している。
図11(b)は
図11(a)の状態にヘッドカバー62aを設置した場合である。
図11(b)に示すように、気液分離器22はヘッドカバー62aの外側に設置される。
【0060】
図18は
図17に示した気液分離器22を用いる際に使用するヘッドカバー62bの構成を示し、(a)はヘッドカバー62bの外観斜視図、(b)は(a)のB1−B1断面図、(c)はB2−B2断面図である。
【0061】
気液分離器22の排気管59の先端部は、
図18(c)に示すようにヘッドカバー62bの内部に設置した液滴滴下防止手段72の開口部71aに挿入される。気液分離器22の排気管59から排出される排気は、開口部71b、71c、71dから記録ヘッド内に入り、ガターから回収されてインク容器に導かれる。排気管59から滴下するインク溶剤は液滴滴下防止手段72の内部で乾燥してやがて揮発する。以上の構成によって、溶剤液滴は記録ヘッド内に滴下することがない。
【0062】
次に、気液分離器22から記録ヘッド内への溶剤滴下を防止するさらに別の構成を説明する。
<実施例3>
図19は
図5の構造とは異なる気液分離器22を示している。外観は同一であるが、円柱状のケース部材54の中央部に突起部60を有している。高温環境(例えば45℃)でインクジェット記録装置を使用すると、排気中のインク溶剤量が多くなり、排気流路を通ってくる間に液化するインク溶剤も多くなる。液化溶剤は段差部58で濡れ広がって気液相流出管52から吸引・回収されるが、インク溶剤が多い場合には排気とともに排気口53に進行するインク溶剤が発生するようになる。突起部60を設けることにより、排気口へのインク溶剤の進行を防止することができる。そのため、排気口53からのインク溶剤の滴下を防止することができる。
【0063】
なお、
図19に示す気液分離器22の排気口53の先に、
図16に示す液滴滴下防止手段110を接続してもよい。また、
図17に示す気液分離器22のケース部材54の中央部に突起部60を設けてもよい。
【0064】
次に、インクジェット記録装置の制御方法について説明する。
【0065】
インクジェット記録装置100は、
図13に示す制御部101を備えている。
図13は制御部の制御要素との接続構成を示すブロック図である。制御部101は、バス102により、ノズル6、帯電電極43、上部偏向電極44及び下部偏向電極45、電磁弁12,13,16、記録ヘッド2の温度センサ2b、インク容器3の温度センサ3b、供給ポンプ5、回収ポンプ10,11の各要素に接続されており、これら要素を制御する。
【0066】
図14は制御部の構成を示すブロック図である。即ち、制御部101は、
図14に示すように、CPU(Central Processing Unit)101a、ROM(Read Only Memory)101b、RAM(Random Access Memory)101c、記憶装置(HDD:Hard Disk Drive等)101dを備え、これら101a〜101dがバス102に接続された一般的な構成となっており、例えばROM101bに書き込まれたプログラム101fをCPU101aが実行して、上述又は後述の各種制御を実現するように構成されている。
<実施形態の動作>
以上のようなインクジェット記録装置100の印刷運転の制御は、制御部101で次の通りに実行される。
【0067】
図15はインクジェット記録装置100の制御部101によるインクジェット記録動作の制御を説明するためのフローチャートである。
【0068】
まず、
図1に示すインクジェット記録装置100において、印刷運転が開始されると、ステップS1において、ノズル6に目詰まりが生じているか否かが判断される。この結果、目詰まりが生じていると判断された場合、ステップS2において、電磁弁13が閉、電磁弁12が開とされ、ステップS3において、回収ポンプ11の吸引力でノズル6の目詰まり物が清掃用流路14に吸引され、インク容器3へ回収される。この回収後、ステップS1の判断に戻る。
【0069】
一方、目詰まりが生じていないと判断された場合、ステップS4において、電磁弁12が閉、電磁弁13が開とされ、ステップS5において、印刷動作が実行される。即ち、インク容器3内のインク3aがインク供給流路4を介して供給ポンプ5で圧送されながらノズル6へ供給される。この供給によりノズル6のオリフィスからインクが噴出され、飛翔中に
図2に示す粒子7に分裂して帯電電極43で帯電され、インク粒子7となる。このインク粒子7は、上部偏向電極44及び下部偏向電極45間の静電界中を通過する際に偏向され、記録媒体46上に付着し、文字や画像が印刷される。
【0070】
このような印刷動作中には、ステップS6において、
図1に示すインク回収流路9を介した回収ポンプ10の吸引力によりガター8からインク粒子7が空気と共に吸引され、インク容器3へ回収される。
【0071】
ここで、ステップS7において、インク容器3の温度から記録ヘッド2の温度を減算した温度差が予め定められた値(所定値)T1よりも小さいか否かが判断される。これはインク容器3に配備された温度センサ3bの検出温度から、記録ヘッド2に配備された温度センサ2bの検出温度が減算され、この減算結果である温度差が所定値T1よりも小さいか否かが比較されて判断される。この結果、小さいと判断された場合、ステップS8において、電磁弁16が開とされて、インク容器3から排気流路15を介して排出される排気ガスがバイパス流路19を介して外部へ排出される。
【0072】
同時に、ステップS9において、電磁弁13も閉鎖されて排気流路15内に残留した液化インク溶剤72が気液分離器22に侵入することが防止される。この電磁弁13の閉鎖後は、ステップS7に戻って上記判断が行われる。
【0073】
ところで、上記のように温度差が所定値T1よりも小さいと判断されるケースは、インクジェット記録装置100が運転開始してから、十分時間が経過していない場合である。この場合、本体1内の温度がまだ上昇していないので、インク容器3と記録ヘッド2との温度差が小さく、排気流路15内においてインク容器3から記録ヘッド2へ移動する混合排気ガスから液化するインク溶剤量は少ない。
【0074】
このように液化するインク溶剤量が少ない場合、インクミスト混合器21の保液部31が十分に濡れないので、インクミスト71が保液部31に固着する恐れがある。そこで、上記のように温度差が所定値T1よりも小さいと判断された場合は、ステップS8のように電磁弁16を開放して排気ガスをバイパス流路19に送り、排気ガスがインクミスト混合器21へ流れないように制御する。同時に、ステップS9のように、電磁弁13も閉鎖して排気流路15内に残留した液化インク溶剤72が気液分離器22に侵入することを防止している。
【0075】
一方、ステップS7において、温度差が所定値T1以上と判断されたとする。これはインクジェット記録装置100が運転開始から数時間経過する等して本体1内の温度が上昇した際に、温度差が所定値T1以上と判断される。
【0076】
この場合、ステップS10において、電磁弁13が開、電磁弁16が閉とされる。これによって、ステップS11において、インク容器3から排気流路15を介して排出される混合排気ガス(気液混合物)がインクミスト混合器21及び気液分離器22へ送出される。この送出により、まず、インクミスト混合器21により気液混合物からインクミスト71(
図3参照)が除去される。次に、そのインクミスト71の除去後の気液混合物が、気液分離器22で液化インク溶剤72(
図3参照)と気体のみの排気ガスとに分離される。ステップS12において、分離された排気ガスはガター8へ戻され、液化インク溶剤72は、インク分離回収流路18を介して回収ポンプ11で吸引され、インク容器3へ回収される。
<実施形態の効果>
このように本実施形態のインクジェット記録装置100によれば、インク容器3からの供給インクがノズル6より噴出され、被印刷物に印刷が行われる際に、印刷に使用されなかったインク粒子7を空気と共にガター8で吸引し、これらをインク容器3に回収する。この際、インク溶剤と共に回収された空気をインク容器3から排気ガスとして排気流路15を介して排気する。この時、排気流路15内で液化した液化インク溶剤を、気液分離器22で毛細管現象により保持して気体のみの排気ガスと分離し、分離された液化インク溶剤をインク容器3に回収するようにした。
【0077】
気液分離器22は、排気流路15に接続される筒型の気液相流入管51と、インク分離回収流路18に接続される筒型の気液相流出管52と、気体のみの排気ガスを排出する円型の排気口53と、内部のチャンバー部56を有し、当該チャンバー部56内に、外部の一方向から気液相流入管51及び気液相流出管52が並列に挿通され、当該一方向と対向する他方向から排気口53が存在するケース部材54,55とを備えて構成されている。ケース部材54は、排気口53が存在する部位の気液相流出管52の開口端と対向する端面に、当該開口端との間で予め定められた間隔L2の段差部58が形成され、ケース部材55の内壁と気液相流出管52の外周との間に予め定められた間隔L1の隙間57が形成されている。
【0078】
従って、気液分離器22により、排気流路15内で液化したインク溶剤を気体のみの排気ガスと適正に分離することができる。従来では、気体と液体との分離の際に、重力で落下した液体成分を回収していたので、気液分離器の設置方向が変わると気体と液体が分離できなくなっていた。しかし、本実施形態の気液分離器22では毛細管現象により液体成分を保持して気体と分離するので、気液分離器22の設置方向が変わっても適正に分離することができる。
【0079】
ところが、インクジェット記録装置を使用する環境温度が高くなった場合、排気中のインク溶剤量が多くなり、排気流路を通ってくる間に液化するインク溶剤量も多くなるので、排気口53から排気とともにインク溶剤が滴下する場合があり、記録ヘッド内の電極にあたる恐れがあった。そこで、気液分離器22の排気口の後段に液滴滴下防止手段92を設置することにより、記録ヘッド2内の偏向電極44にインク溶剤があたることがないので、安定して印字を行うことができる。
【0080】
また、気液分離器22の排気部が穴状ではなく筒状(配管)の場合であっても、配管の先に液滴滴下防止手段が接続する構成のヘッドカバーを設けることによっても、上記と同様に記録ヘッド2内の偏向電極44にインク溶剤があたることがないので、安定して印字を行うことができる。
【0081】
また、気液分離器22の内部に突起部60を設けることにより、排気口へのインク溶剤の進行を防止することができる。そのため、排気口53からのインク溶剤の滴下を防止でき、偏向電極44にインク溶剤があたることがないので、安定して印字を行うことができる。
【0082】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0083】
また、上記の各構成、機能、処理部(制御部)、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウエアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カード、SD(Secure Digital memory)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に置くことができる。
【0084】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。