特許第5940066号(P5940066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940066
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】複合転がり軸受付き波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20160616BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20160616BHJP
   F16C 33/54 20060101ALI20160616BHJP
   F16C 33/46 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   F16H1/32 B
   F16C19/38
   F16C33/54 A
   F16C33/46
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-526602(P2013-526602)
(86)(22)【出願日】2011年7月29日
(86)【国際出願番号】JP2011004336
(87)【国際公開番号】WO2013018121
(87)【国際公開日】20130207
【審査請求日】2014年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】金井 覚
【審査官】 北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】 実開平01−098917(JP,U)
【文献】 国際公開第2005/103515(WO,A1)
【文献】 特開2008−039037(JP,A)
【文献】 実開昭61−177243(JP,U)
【文献】 特開2009−133414(JP,A)
【文献】 特開平08−004845(JP,A)
【文献】 特開昭49−097141(JP,A)
【文献】 特開平04−351313(JP,A)
【文献】 特開2008−230279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28−1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状の剛性内歯歯車と、
前記剛性内歯歯車の内側に同軸状態に配置された可撓性外歯歯車と、
前記可撓性外歯歯車を非円形に撓めて当該可撓性外歯歯車の外歯を前記剛性内歯歯車の内歯に対して円周方向において部分的に噛み合わせていると共に、これら両歯車の噛み合い位置を円周方向に移動させることにより両歯車の間に相対回転を発生させる波動発生器と、
前記剛性内歯歯車および前記可撓性外歯歯車を相対回転自在の状態で支持している複合転がり軸受とを有し、
前記剛性内歯歯車は、その回転中心軸線の方向から相互に対峙していると共に当該回転中心軸線に直交する方向に延びている第1端面および第2端面と、前記第1端面および前記第2端面の間に位置する円形外周面および円形内周面とを備え、前記円形内周面に前記内歯が形成されており、
前記複合転がり軸受は、前記剛性内歯歯車に一体形成されている内輪部分と、外輪と、前記内輪部分および前記外輪の間に転動自在の状態で挿入されている複数個の第1転動体、複数個の第2転動体および複数個の第3転動体とを備えており、
前記内輪部分は、前記剛性内歯歯車の前記第1端面に形成した第1内輪軌道面と、前記剛性内歯歯車の前記第2端面に形成した第2内輪軌道面と、前記剛性内歯歯車の前記円形外周面に形成した第3内輪軌道面とを備えており、
前記外輪は、前記第1内輪軌道面に対峙している第1外輪軌道面と、前記第2内輪軌道面に対峙している第2外輪軌道面と、前記第3内輪軌道面に対峙している第3外輪軌道面とを備えており、
前記第1内輪軌道面と前記第1外輪軌道面の間には、スラスト軸受用の前記第1転動体が挿入されており、
前記第2内輪軌道面と前記第2外輪軌道面の間には、スラスト軸受用の前記第2転動体が挿入されており、
前記第3内輪軌道面と前記第3外輪軌道面の間には、ラジアル軸受用の前記第3転動体が挿入されており、
前記外輪は、前記第1外輪軌道面が形成されている端面を備えた第1端板と、前記第2外輪軌道面が形成されている端面を備えた第2端板と、前記第1端板と前記第2端板の間に挟まれていると共に前記第3外輪軌道面が形成されている円形内周面を備えた円筒部材とから構成されており、
前記第1転動体を、転動自在の状態で、前記第1内輪軌道面と前記第1外輪軌道面の間に保持しているスラスト軸受用の第1リテーナと、
前記第2転動体を、転動自在の状態で、前記第2内輪軌道面と前記第2外輪軌道面の間に保持しているスラスト軸受用の第2リテーナと、
前記第1リテーナおよび前記第2リテーナの端から前記第3内輪軌道面と前記第3外輪軌道面の間に延びて、前記第3転動体を転動自在の状態で前記第3内輪軌道面と前記第3外輪軌道面の間に保持しているラジアル軸受用の一対の第3リテーナ部分とを有しており、
前記第1、第2および第3転動体は円柱状のローラであり、
前記第3転動体は総コロ型のラジアル軸受けを構成しており、
前記剛性内歯歯車と前記外輪の前記第2端板との間に配置されている第2剛性内歯歯車を有しており、
前記可撓性外歯歯車は、半径方向に撓み可能な円筒部の円形外周面に沿って前記外歯が形成されている円筒形状のものであり、前記剛性内歯歯車および前記第2剛性内歯歯車の内側に同軸状態に配置されており、
前記可撓性外歯歯車の歯数は、前記剛性内歯歯車の歯数よりも少なく、且つ、前記第2剛性内歯歯車の歯数と同一であり、
前記可撓性外歯歯車は前記波動発生器によって非円形に撓められて前記剛性内歯歯車および前記第2剛性内歯歯車に対して部分的に噛み合っており、
前記第2端板における前記第2外輪軌道面が形成されている端面よりも半径方向の内側の部分は前記剛性内歯歯車から離れる方向に段差が付いている段差部となっており、
前記第2剛性内歯歯車は、前記第2外輪軌道面および前記第2リテーナの半径方向の内側であって、前記剛性内歯歯車と前記第2端板の前記段差部の内側端面部分との間に配置され、
前記第2剛性内歯歯車は、前記段差部の内側端面部分に締結固定され、あるいは、当該内側端面部分において前記第2端板の一部として一体形成されている複合転がり軸受付き波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジアル方向とスラスト方向の荷重を受けることのできる複合転がり軸受を備えた内歯歯車ユニット、および、この内歯歯車ユニットを用いて構成された波動歯車装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械、ロボットハンドなどの駆動機構には、小型でコンパクトな波動歯車装置が減速機として用いられている。波動歯車装置は、剛性内歯歯車、可撓性外歯歯車および波動発生器の3部品から構成されており、剛性内歯歯車と可撓性外歯歯車は軸受を介して相対回転自在の状態に支持されている。波動歯車装置としては、主に、その可撓性外歯歯車がカップ形状をしているカップ型と呼ばれるもの、シルクハット形状をしているシルクハット型と呼ばれるもの、および、円筒形状をしているフラット型と呼ばれるものが知られている。
【0003】
特許文献1(特開2001−336588号公報)にはカップ型の波動歯車装置が開示されており、特許文献2(特開平09−280325号公報)にはシルクハット型の波動歯車装置が開示されており、特許文献3(特開2009−156461号公報、図6)にはフラット型の波動歯車装置が開示されている。また、特許文献1、2においては、クロスローラベアリングを用いて剛性内歯歯車と可撓性外歯歯車を相対回転自在の状態に支持している機構が開示されている。
【0004】
一方、本願出願人は、特許文献4において、ラジアル方向およびスラスト方向の双方の荷重を受けることのできる複合転がり軸受を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−336588号公報
【特許文献2】特開平09−280325号公報
【特許文献3】特開2009−156461号公報
【特許文献4】WO2005/103515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、波動歯車装置の軸線方向の寸法を小さくして、その偏平化を図ると、これに伴って軸受のサイズも小さくなり、必然的に軸受の剛性が低下する。そのため、高剛性が要求される場合には、波動歯車装置の偏平化に限界がある。
【0007】
本発明の課題は、この点に鑑みて、高剛性を保持しつつ波動歯車装置などの歯車式減速機の偏平化を実現するために用いるのに適した複合転がり軸受付き内歯歯車ユニットを提案することにある。
【0008】
また、本発明の課題は、複合転がり軸受付き内歯歯車ユニットを用いて構成された偏平な高剛性の波動歯車装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の複合転がり軸受付き波動歯車装置は、
円環状の剛性内歯歯車と、
前記剛性内歯歯車の内側に同軸状態に配置された可撓性外歯歯車と、
前記可撓性外歯歯車を非円形に撓めて当該可撓性外歯歯車の外歯を前記剛性内歯歯車の内歯に対して円周方向において部分的に噛み合わせていると共に、これら両歯車の噛み合い位置を円周方向に移動させることにより両歯車の間に相対回転を発生させる波動発生器と、
前記剛性内歯歯車および前記可撓性外歯歯車を相対回転自在の状態で支持している複合転がり軸受とを有し、
前記剛性内歯歯車は、その回転中心軸線の方向から相互に対峙していると共に当該回転中心軸線に直交する方向に延びている第1端面および第2端面と、前記第1端面および前記第2端面の間に位置する円形外周面および円形内周面とを備え、前記円形内周面に前記内歯が形成されており、
前記複合転がり軸受は、前記剛性内歯歯車に一体形成されている内輪部分と、外輪と、前記内輪部分および前記外輪の間に転動自在の状態で挿入されている複数個の第1転動体、複数個の第2転動体および複数個の第3転動体とを備えており、
前記内輪部分は、前記剛性内歯歯車の前記第1端面に形成した第1内輪軌道面と、前記剛性内歯歯車の前記第2端面に形成した第2内輪軌道面と、前記剛性内歯歯車の前記円形外周面に形成した第3内輪軌道面とを備えており、
前記外輪は、前記第1内輪軌道面に対峙している第1外輪軌道面と、前記第2内輪軌道面に対峙している第2外輪軌道面と、前記第3内輪軌道面に対峙している第3外輪軌道面とを備えており、
前記第1内輪軌道面と前記第1外輪軌道面の間には、スラスト軸受用の前記第1転動体が挿入されており、
前記第2内輪軌道面と前記第2外輪軌道面の間には、スラスト軸受用の前記第2転動体が挿入されており、
前記第3内輪軌道面と前記第3外輪軌道面の間には、ラジアル軸受用の前記第3転動体が挿入されており、
前記外輪は、前記第1外輪軌道面が形成されている端面を備えた第1端板と、前記第2外輪軌道面が形成されている端面を備えた第2端板と、前記第1端板と前記第2端板の間に挟まれていると共に前記第3外輪軌道面が形成されている円形内周面を備えた円筒部材とから構成されており、
前記第1転動体を、転動自在の状態で、前記第1内輪軌道面と前記第1外輪軌道面の間に保持しているスラスト軸受用の第1リテーナと、
前記第2転動体を、転動自在の状態で、前記第2内輪軌道面と前記第2外輪軌道面の間に保持しているスラスト軸受用の第2リテーナと、
前記第1リテーナおよび前記第2リテーナの端から前記第3内輪軌道面と前記第3外輪軌道面の間に延びて、前記第3転動体を転動自在の状態で前記第3内輪軌道面と前記第3外輪軌道面の間に保持しているラジアル軸受用の一対の第3リテーナ部分とを有しており、
前記第1、第2および第3転動体は円柱状のローラであり、
前記第3転動体は総コロ型のラジアル軸受けを構成しており、
前記剛性内歯歯車と前記外輪の前記第2端板との間に配置されている第2剛性内歯歯車を有しており、
前記可撓性外歯歯車は、半径方向に撓み可能な円筒部の円形外周面に沿って前記外歯が形成されている円筒形状のものであり、前記剛性内歯歯車および前記第2剛性内歯歯車の内側に同軸状態に配置されており、
前記可撓性外歯歯車の歯数は、前記剛性内歯歯車の歯数よりも少なく、且つ、前記第2剛性内歯歯車の歯数と同一であり、
前記可撓性外歯歯車は前記波動発生器によって非円形に撓められて前記剛性内歯歯車および前記第2剛性内歯歯車に対して部分的に噛み合っており、
前記第2端板における前記第2外輪軌道面が形成されている端面よりも半径方向の内側の部分は前記剛性内歯歯車から離れる方向に段差が付いている段差部となっており、
前記第2剛性内歯歯車は、前記第2外輪軌道面および前記第2リテーナの半径方向の内側であって、前記剛性内歯歯車と前記第2端板の前記段差部の内側端面部分との間に配置され、
前記第2剛性内歯歯車は、前記段差部の内側端面部分に締結固定され、あるいは、当該内側端面部分において前記第2端板の一部として一体形成されていることを特徴としている。
【0014】
本発明では、剛性内歯歯車と可撓性外歯歯車を相対回転自在の状態で支持している軸受として、スラスト力を支持する第1、第2転動体と、ラジアル力を支持する第3転動体を備えた複合転がり軸受を使用している。複合転がり軸受は、従来のクロスローラベアリングやアンギュラベアリングに比べて、少ない設置スペースで高剛性を実現できる。また、複合転がり軸受の内輪と剛性内歯歯車が一体化されて単一部品となっているので、これらの部材を連結するための取付け部が不要であり、波動歯車装置の小型化、コンパクト化に有利である。よって、本発明によれば、高剛性で偏平な波動歯車装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明を適用した複合転がり軸受付き内歯歯車ユニットを示す断面図である。
図2】本発明を適用したフラット型の波動歯車装置を示す正面図および断面図である。
図3図2の波動歯車装置を示す拡大断面図である。
図4】本発明を適用したシルクハット型の波動歯車装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明を適用した複合転がり軸受付き内歯歯車ユニットおよび波動歯車装置の実施の形態を説明する。
【0021】
(複合転がり軸受付き内歯歯車ユニット)
図1は、複合転がり軸受付き内歯歯車ユニットを示す断面図である。複合転がり軸受付き内歯歯車ユニット1は内歯歯車2と複合転がり軸受3を有している。内歯歯車2は矩形断面の円環状部材からなり、その両側の第1端面4および第2端面5は、装置中心軸線1aに直交する方向に延びている平坦面であり、これら第1端面4および第2端面5の外周縁の間には円形外周面6が形成されており、これらの内周縁の間には円形内周面7が形成されている。円形内周面7には、その円周方向に沿って内歯8が形成されている。
【0022】
複合転がり軸受3は、内歯歯車2に一体形成されている内輪部分11と、外輪12と、内輪部分11および外輪12の間に転動自在の状態で挿入されているスラスト軸受用の複数個の第1ローラ13(第1転動体)、スラスト軸受用の複数個の第2ローラ14(第2転動体)およびラジアル軸受用の複数個の第3ローラ15(第3転動体)とを備えている。内輪部分11は、内歯歯車2の第1端面4における外周縁側の部分に形成した第1内輪軌道面16と、内歯歯車2の第2端面5における外周縁側の部分に形成した第2内輪軌道面17と、内歯歯車2の円形外周面6に形成した第3内輪軌道面18からなる部分である。外輪12は、第1内輪軌道面16に対して装置中心軸線1aの方向から一定の間隔で対峙している第1外輪軌道面19と、第2内輪軌道面17に対して装置中心軸線1aの方向から一定の間隔で対峙している第2外輪軌道面20と、第3内輪軌道面18に対して装置半径方向の外側から一定の間隔で対峙している第3外輪軌道面21とを備えている。
【0023】
スラスト軸受用の複数個の第1ローラ13は、第1内輪軌道面16と第1外輪軌道面19の間に、転動自在の状態で挿入されている。スラスト軸受用の複数個の第2ローラ14は、第2内輪軌道面17と第2外輪軌道面20の間に、転動自在の状態で挿入されている。また、ラジアル軸受用の複数個の第3ローラ15は、第3内輪軌道面18と第3外輪軌道面21の間に、転動自在の状態で挿入されている。なお、負荷容量の向上およびスキュー対策のためには、総コロ型のラジアル軸受とすることが望ましい。
【0024】
ここで、外輪12は、第1外輪軌道面19が形成されている内側端面を備えた第1端板22と、第2外輪軌道面20が形成されている内側端面を備えた第2端板23と、第1端板22と第2端板23の間に同軸状態に挟まれていると共に第3外輪軌道面21が形成されている円形内周面を備えた円筒部材24の3部材から構成されている。これらの3部材は複数本の締結ボルト25(図においては一点鎖線で示してある。)によって相互に固定されている。なお、第1端板22、第2端板23および円筒部材24の外径寸法は同一とされ、第1、第2端板22、23に形成されている中心貫通孔22b、23bの直径は内歯歯車2の内径よりも大きい。
【0025】
次に、第1内輪軌道面16と第1外輪軌道面19の間にはスラスト軸受用の第1リテーナ26が挿入されている。第1リテーナ26には円周方向に沿って一定の角度間隔でローラ保持穴26aが形成されており、第1ローラ13が各ローラ保持穴内に転動自在の状態で保持されている。同様に、他方の第2内輪軌道面17と第2外輪軌道面20の間にもスラスト軸受用の第2リテーナ27が挿入されており、ここにも、円周方向に沿って一定の角度間隔でローラ保持穴27aが形成されている。各ローラ保持穴27aには、第2ローラ14が転動自在の状態で保持されている。なお、本例では転動体として円柱状のローラを用いているが、他の形状の転動体を用いることも可能である。
【0026】
スラスト軸受用の第1リテーナ26および第2リテーナ27の外周縁端には、直角に折れ曲がって相互に接近する方向に延びているラジアル軸受用の第3リテーナ部分26b、27bが形成されている。これらのリテーナ部分26b、27bによって、第3ローラ15のスラスト方向(装置中心軸線1aの方向)の位置が規定されている。
【0027】
この構成の複合転がり軸受付き内歯歯車ユニット1は、歯車式減速機の内歯歯車として用いることができ、その複合転がり軸受3は、内歯歯車に対して相対回転する歯車あるいは回転軸を支持するための軸受として用いることができる。複合転がり軸受付き内歯歯車ユニット1を用いることにより、偏平で高剛性の歯車式減速機を実現できる。
【0028】
(フラット型の波動歯車装置)
図2(a)、(b)は本発明を適用したフラット型の波動歯車装置の正面図および断面図であり、図3はその拡大部分断面図である。波動歯車装置30は、円環状の第1、第2剛性内歯歯車31、32と、これら第1、第2剛性内歯歯車31、32の内側に同軸状態に配置された可撓性外歯歯車33と、可撓性外歯歯車33を非円形に撓めて当該可撓性外歯歯車33の外歯34を第1、第2剛性内歯歯車31、32の内歯35、36に対して円周方向において部分的に噛み合わせていると共に、これらの噛み合い位置を円周方向に移動させる波動発生器37とを有している。また、波動歯車装置30は、第1剛性内歯歯車31と可撓性外歯歯車33とを相対回転自在の状態で支持している複合転がり軸受38を有している。
【0029】
可撓性外歯歯車33は、半径方向に撓み可能な円筒部の円形外周面に沿って外歯34が形成されている円筒形状をしたフラット型のものである。この可撓性外歯歯車33の歯数は、第1剛性内歯歯車31の歯数よりも少なく、第2剛性内歯歯車32の歯数と同一である。本例では波動発生器37は楕円状輪郭のものであり、可撓性外歯歯車33を楕円状に撓めて、その外歯34を楕円形状曲線の長軸の両端の2箇所で、第1剛性内歯歯車31の内歯35および第2剛性内歯歯車32の内歯36に噛み合わせている。この場合には、第1剛性内歯歯車31の歯数に対して、第2剛性内歯歯車32の歯数および可撓性外歯歯車33の歯数は2n枚(nは正の整数)だけ少なく、通常は2枚少ない。
【0030】
波動発生器37は不図示のモータ出力軸などの回転部材に連結固定される。波動発生器37が回転すると、第1剛性内歯歯車31、第2剛性内歯歯車32と、可撓性外歯歯車33との噛み合い位置が円周方向に移動する。第2剛性内歯歯車32と可撓性外歯歯車33の歯数は同一であるので、これらの間には相対回転は発生せず、一体となって回転する。これに対して、第1剛性内歯歯車31と可撓性外歯歯車33は、それらの歯数差に応じて相対回転が発生する。例えば、第1剛性内歯歯車31を回転しないように固定しておくと、可撓性外歯歯車33から第2剛性内歯歯車32を介して、波動発生器37の回転に比べて大幅に減速された回転が出力される。これにより、第2剛性内歯歯車32に連結固定されている負荷側の部材が回転駆動される。
【0031】
次に、各部分の構造について説明する。まず、第1剛性内歯歯車31は矩形断面形状をした剛体である円環状部材からなり、その両側の第1端面44および第2端面45は、装置中心軸線30aに直交する方向に延びている平坦面であり、これら第1端面44および第2端面45の外周縁の間には円形外周面46が形成されており、これらの内周縁の間には円形内周面47が形成されている。円形内周面47には、その円周方向に沿って内歯35が形成されている。
【0032】
複合転がり軸受38は、第1剛性内歯歯車31に一体形成されている内輪部分51と、外輪52と、内輪部分51および外輪52の間に転動自在の状態で挿入されているスラスト軸受用の複数個の第1ローラ53(第1転動体)、スラスト軸受用の複数個の第2ローラ54(第2転動体)およびラジアル軸受用の複数個の第3ローラ55(第3転動体)とを備えている。内輪部分51は、第1剛性内歯歯車31の第1端面44における外周縁側の部分に形成した第1内輪軌道面56と、第1剛性内歯歯車31の第2端面45における外周縁側の部分に形成した第2内輪軌道面57と、第1剛性内歯歯車31の円形外周面46に形成した第3内輪軌道面58からなる部分である。外輪52は、第1内輪軌道面56に対して装置中心軸線30aの方向から一定の間隔で対峙している第1外輪軌道面59と、第2内輪軌道面57に対して装置中心軸線30aの方向から一定の間隔で対峙している第2外輪軌道面60と、第3内輪軌道面58に対して装置半径方向の外側から一定の間隔で対峙している第3外輪軌道面61とを備えている。
【0033】
スラスト軸受用の複数個の第1ローラ53は、第1内輪軌道面56と第1外輪軌道面59の間に、転動自在の状態で挿入されている。スラスト軸受用の複数個の第2ローラ54は、第2内輪軌道面57と第2外輪軌道面60の間に、転動自在の状態で挿入されている。また、ラジアル軸受用の複数個の第3ローラ55は、第3内輪軌道面58と第3外輪軌道面61の間に、転動自在の状態で挿入されている。なお、負荷容量の向上およびスキュー対策のためには、総コロ型のラジアル軸受とすることが望ましい。
【0034】
ここで、外輪52は、第1外輪軌道面59が形成されている内側端面を備えた第1端板62と、第2外輪軌道面60が形成されている内側端面を備えた第2端板63と、第1端板62と第2端板63の間に同軸状態に挟まれていると共に第3外輪軌道面61が形成されている円形内周面を備えた円筒部材64の3部材から構成されている。これらの3部材は複数本の締結ボルト65(図においては一点鎖線で示してある。)によって相互に固定されている。なお、第1端板62、第2端板63および円筒部材64の外径寸法は同一とされ、第1端板62に形成されている中心貫通孔62bの直径は第1剛性内歯歯車31の内径よりも大きく、第2端板63に形成されている中心貫通孔63bの直径は第1剛性内歯歯車31の内径とほぼ同一である。
【0035】
次に、第1内輪軌道面56と第1外輪軌道面59の間にはスラスト軸受用の第1リテーナ66が挿入されている。第1リテーナ66には円周方向に沿って一定の角度間隔でローラ保持穴66aが形成されており、第1ローラ53が各ローラ保持穴内に転動自在の状態で保持されている。同様に、他方の第2内輪軌道面57と第2外輪軌道面60の間にもスラスト軸受用の第2リテーナ67が挿入されており、ここにも、円周方向に沿って一定の角度間隔でローラ保持穴67aが形成されている。各ローラ保持穴67aには、第2ローラ54が転動自在の状態で保持されている。なお、本例では転動体として円柱状のローラを用いているが、他の形状の転動体を用いることも可能である。
【0036】
スラスト軸受用の第1リテーナ66および第2リテーナ67の外周縁端には、直角に折れ曲がって相互に接近する方向に延びているラジアル軸受用の第3リテーナ部分66b、67bが形成されている。これらのリテーナ部分66b、67bによって、第3ローラ55のスラスト方向(装置中心軸線30aの方向)の位置が規定されている。
【0037】
ここで、第2剛性内歯歯車32は、第1剛性内歯歯車31と外輪52の第2端板63との間に位置し、第2端板63に締結ボルト(図示せず)によって締結固定されている。すなわち、第2端板63における内周縁側の部分は外方に僅かに段差が付いている段差部63cとなっており、この段差部63cの内側端面部分に第2剛性内歯歯車32が締結固定されている。この代わりに、第2端板63の内周縁側の部分に第2剛性内歯歯車32を一体形成してもよい。換言すると、第2端板63と第2剛性内歯歯車32を単一部品から形成してもよい。
【0038】
このように構成したフラット型の波動歯車装置30では、第1剛性内歯歯車31と可撓性外歯歯車33を相対回転自在の状態で支持している軸受として、一対のスラスト軸受用の第1、第2ローラ53、54と、ラジアル軸受用の第3ローラ55とを備えた3ローラベアリングである複合転がり軸受38を使用している。複合転がり軸受38は、従来のクロスローラベアリングやアンギュラベアリングに比べて、少ない設置スペースで高剛性を実現できる。また、複合転がり軸受38の内輪部分51は第1剛性内歯歯車31に一体化されて単一部品となっているので、これらの部材を連結するための取付け部が不要であり、波動歯車装置の小型・コンパクト化に有利である。よって、高剛性で偏平なフラット型の波動歯車装置30が得られる。
【0039】
(シルクハット型の波動歯車装置)
図4は本発明を適用したシルクハット型の波動歯車装置を示す断面図である。波動歯車装置70は、円環状の剛性内歯歯車71と、この内側に同軸状態に配置された可撓性外歯歯車72と、可撓性外歯歯車72を非円形に撓めて当該可撓性外歯歯車72の外歯73を剛性内歯歯車71の内歯74に対して円周方向において部分的に噛み合わせていると共に、これら両歯車71、72の噛み合い位置を円周方向に移動させることにより両歯車71、72の間に相対回転を発生させる波動発生器75と、剛性内歯歯車71および可撓性外歯歯車72を相対回転自在の状態で支持している複合転がり軸受76とを有している。
【0040】
ここで、剛性内歯歯車71と複合転がり軸受76は、図1に示す複合転がり軸受付き内歯歯車ユニット1の内歯歯車2および複合転がり軸受3と同様な構造となっているので詳細な説明は省略する。また、図4において図1の各部に対応する部位には同一の符号を付してある。
【0041】
可撓性外歯歯車72は、半径方向に撓み可能な円筒部72aと、この円筒部72aの一端から半径方向の外方に広がっている円盤状のダイヤフラム72bと、このダイヤフラム72bの外周縁に連続している円環状のボス72cと、円筒部72aの他端側の外周面部分に形成されている外歯73とを備えたシルクハット形状のものである。ボス72cは、複合転がり軸受76の第1端板22に固定されている。この代わりに第1端板22の一部として一体形成してもよい。また、第2端板23の側にボス72cを固定あるいは一体形成することも勿論可能である。
【0042】
なお、本例はシルクハット型の波動歯車装置の例であるが、本発明はカップ型の波動歯車装置に対しても同様に適用可能である。カップ型の波動歯車装置の可撓性外歯歯車は、半径方向に撓み可能な円筒部と、この円筒部の一端から半径方向の内側に延びている円盤状のダイヤフラムと、このダイヤフラムの内周縁に連続している円盤状あるいは円環状のボスと、円筒部の他端側の外周面部分に形成されている外歯とを備えたカップ形状のものである。この場合にも、ボスを、複合転がり軸受の第1端板および第2端板のうちの一方の端板に固定するか、あるいは、当該端板の一部として一体形成することができる。
【0043】
(その他の実施の形態)
上記の各例は波動歯車装置に本発明の複合転がり軸受付き内歯歯車ユニットを適用した場合のものであるが、本発明は波動歯車装置以外の歯車式減速機の内歯歯車に対しても同様に適用可能である。例えば、遊星歯車減速機における内歯歯車として本発明の複合転がり軸受付き内歯歯車ユニットを用いて、複合転がり軸受によって太陽歯車あるいは遊星キャリアなどを内歯歯車に対して相対回転自在の状態に支持することができる。これにより、高剛性で偏平な遊星歯車減速機を実現できる。
図1
図2
図3
図4