(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サーボプレスでは、制御性を上げスライドの位置指令に対して追従性を良くすることが求められている。一方、プレス負荷の瞬間でも位置指令に対応させるために、負荷トルクに見合うトルクが必要であり、制御系の応答確保も必要である。このとき、モータ軸トルクに換算した負荷トルクと同等のトルクがモータに要求される。このために、サーボプレスではモータの所要トルクが大きくなり、モータが大型化する。このような状況を改善するために、特許文献3に開示された技術では、部分的に応答性を向上させ、モータトルクを加工の瞬間に合わせて増大させている。この場合も、瞬間的にではあるがモータの出力トルクが大きくなるため、モータや電力供給装置と電力平滑装置を含む制御装置の体格を低減するには不十分である。また、モータトルクの瞬間的増大に起因する制御装置の不具合発生や電力機器の寿命に関する配慮が不十分である。
【0005】
一方で、機械的効率とトルク伝達の堅牢性の観点から、サーボモータを直接或いは複数のギヤを介してクランク軸(或いはエキセントリック軸)に接続することが望ましい。このような構成では、サーボモータの配置の自由度が少なくなる。また、サーボプレスの高さや幅は、サーボプレスを設置する場所の天井高さや床面積により制限される。サーボモータとその制御装置は点検作業や保守作業が難しい場所に配置される傾向にある。従って、サーボプレス上でのサーボモータの配置の問題と、サーボプレスの設置場所からの制限を適切に満足させるためには、サーボモータと制御装置は小型でかつ不具合発生率が低く寿命が長くなければならない。
【0006】
以上のように、従来技術では、負荷トルクの観点からは、サーボモータと制御装置の大型化が望ましく、また、それらの不具合発生率の増大と寿命の短期化が懸念される。一方で、サーボプレスの設置の観点からはサーボモータと制御装置の小型化と不具合発生率の低減と寿命の長期化が望ましいという、相反する課題があった。
【0007】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、スライドの追従性を維持しつつサーボモータを小型化することが可能なサーボプレス機械及びサーボプレス機械の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るサーボプレス機械は、
回転運動を直線運動に変換する偏心機構によって、サーボモータの回転をスライドの往復直線運動に変換してプレス加工を行うサーボプレス機械であって、
前記スライドが加工領域の少なくとも一部を含む領域を下降している第1の動作区間であるか、前記第1の動作区間以外の第2の動作区間であるかを判定する判定部と、
前記サーボモータの速度制御を行う制御部と、を有し、
前記制御部は、
前記第1の動作区間であるときには、前記第2の動作区間であるときよりも速度制御系の応答を低下させることを特徴とする。
【0009】
また本発明に係るサーボプレス機械の制御方法は、
回転運動を直線運動に変換する偏心機構によって、サーボモータの回転をスライドの往復直線運動に変換してプレス加工を行うサーボプレス機械の制御方法であって、
前記スライドが加工領域の少なくとも一部を含む領域を下降している第1の動作区間であるか、前記第1の動作区間以外の第2の動作区間であるかを判定する判定手順と、
前記サーボモータの速度制御を行う制御手順と、を有し、
前記制御手順では、
前記第1の動作区間であるときには、前記第2の動作区間であるときよりも速度制御系の応答を低下させることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、プレス負荷の大きい第1の動作区間であるときには、第2の動作区間にあるときよりも速度制御系の応答を低下させて、サーボモータやスライド等の駆動系の慣性力を積極的に利用することで、サーボモータの最大トルクを低減してサーボモータを小型化・小容量化することができる。また、速度制御の応答を低下させるだけであるから、スライドの実動作が指令から大きく逸脱することはなく、更に、第1の動作区間以外の第2の動作区間では速度制御の応答性が維持されるため、スライド位置の追従性を維持することができる。
【0011】
(2)本発明に係るサーボプレス機械及びサーボプレス機械の制御方法では、
前記制御部は(前記制御手順では)、
前記速度制御系のゲインを変更することで、前記速度制御系の応答を低下させてもよい。
【0012】
(3)本発明に係るサーボプレス機械及びサーボプレス機械の制御方法では、
前記制御部は(前記制御手順では)、
前記サーボモータのトルク指令値の制限値又は前記速度制御系のフィルタ時定数を変更することで、前記速度制御系の応答を低下させてもよい。
【0013】
(4)本発明に係るサーボプレス機械及びサーボプレス機械の制御方法では、
前記判定部は(前記判定手順では)、
前記偏心機構が有する偏心軸の回転角度、前記サーボモータの回転角度、前記サーボモータのトルク指令値、前記サーボモータの電流値、又は前記サーボモータを駆動するインバータの直流電圧値に基づいて、前記第1の動作区間であるか前記第2の動作区間であるかを判定してもよい。
【0014】
(5)本発明に係るサーボプレス機械及びサーボプレス機械の制御方法では、
前記制御部は(前記制御手順では)、
前記速度制御系の応答を徐々に変化させてもよい。
【0015】
本発明によれば、速度制御系の応答を変化させたときの、スライドの動作の滑らかさに与える影響を少なくすることができる。
【0016】
(6)本発明に係るサーボプレス機械及びサーボプレス機械の制御方法では、
前記制御部は(前記制御手順では)、
前記第1の動作区間であるときに、速度偏差が所定値を超えた場合には、前記速度制御系の応答を回復させてもよい。
【0017】
本発明によれば、第1の動作区間においても過大な速度偏差が発生することを防止することができ、スライド位置の追従性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係るサーボプレス機械の構成を示す模式図である。
【0021】
サーボプレス機械1は、偏心機構18によってサーボモータ10の回転をスライド22の上下往復運動に変換し、スライド22の上下往復運動を利用してワーク(図示省略)に対してプレス加工を施すことができる。ここで、サーボプレス機械1は、スライド22が上死点側から下死点側へ向かう下降動作領域と、下死点側から上死点側へ向かう上昇動作領域とを有し、下降動作領域においてプレス加工を行う。
【0022】
サーボプレス機械1は、サーボモータ10、モータエンコーダ11、ドライブシャフト12、ドライブギヤ14、偏心機構18、クランクエンコーダ20、スライド22、ボルスタ24、制御装置100、モーション指令部101を有する。
【0023】
サーボモータ10には、交流サーボモータ、例えば、本実施形態で採用する永久磁石を用いた同期モータに限らず、誘導モータ、リラクタンスモータ、直流サーボモータなどを採用することができる。
【0024】
サーボモータ10の回転軸にはドライブシャフト12が接続され、ドライブシャフト1
2にはドライブギヤ14が接続される。ドライブギヤ14にはメインギヤ16が噛み合わされ、メインギヤ16にはクランクシャフト19(偏心軸の一例)が接続される。クランクシャフト19とコネクティングロッド21とで偏心機構18が形成される。偏心機構18は、回転運動を往復直線運動に変換する機構であり、偏心機構18によって、コネクティングロッド21に接続されたスライド22は、静止側のボルスタ24に対して昇降可能になる。スライド22には上金型23が装着され、ボルスタ24には下金型25が装着される。
【0025】
偏心機構18には、クランク軸を有するクランク機構に限らず、エキセントリック軸を有するクランク機構を採用することができる。また、偏心機構18として、プレス機械に用いられている公知のスライド駆動機構、例えば、ナックル機構、リンク機構等による倍力機構を用いることができる。また、メインギヤと一体となった偏心板を有する偏心機構を用いることもできる。
【0026】
スライド22の位置や速度は、図示しない入力装置によって、モーション指令部101に入力される。モーション指令部101では、スライド位置や速度の指令からモータの回転位置指令値が演算され、サーボモータ10の時々刻々の回転位置指令が制御装置100に出力される。制御装置100は、モーション指令部101からの回転位置指令に基づいて、サーボモータ10の回転位置、回転速度及び電流の制御を行う。サーボモータ10の回転位置は、サーボモータ10に取り付けられたモータエンコーダ11で検出され、また、クランクシャフト19の回転位置は、クランクシャフト19に取り付けられたクランクエンコーダ20で検出され、それぞれの検出値は制御装置100に出力される。
【0027】
このように、サーボプレス機械1では、サーボモータ10の回転位置を制御して、指令したスライド位置に対応するように動作が制御される。
【0028】
図2は、制御装置100の構成を示すブロック図である。制御装置100は、位置制御部110、速度制御部120、電流制御部130、PWM制御部140、速度検出部150、インバータ160、交流電源162、電源コンバータ164、エネルギー蓄積装置166、判定部170を含む。
【0029】
位置制御部110は、モーション指令部101からの時々刻々の回転位置指令と、モータエンコーダ11からの位置信号との偏差に応じて働き、サーボモータ10の回転速度指令を出力する。速度制御部120(本発明の制御部に相当)は、位置制御部110からの回転速度指令と、速度検出部150からの速度信号(速度検出値)との偏差に応じて働き、サーボモータ10のトルク指令(電流指令)を出力する。速度検出部150は、モータエンコーダ11からの位置信号の微分(或いは、単位時間内での位置の変化)から速度を演算して出力する。また、速度制御部120は、後述するように判定部170からの信号に応じて速度制御系の応答を低下させる制御を行う。第1の実施の形態に係るサーボプレス機械では、速度制御ゲインを可変させることで、速度制御系の応答を低下させる。
【0030】
電流制御部130は、速度制御部120からの電流指令(トルク指令)と、図示しないモータ電流検出部からの信号との偏差に応じて働き、サーボモータ10の入力電圧を指令する電圧指令を演算して出力する。PWM制御部140は、電流制御部130からの電圧指令に応じて、インバータ160のパワー素子をオンオフするPWM信号を出力する。インバータ160は、PWM制御部140からのPWM信号に応じて動作し、サーボモータ10に可変電圧、可変周波数の交流電圧を供給する。サーボモータ10が交流モータの場合、電流制御部130を2成分に分けて制御する手法(ベクトル制御によるモータのトルク制御)を採用してもよい。
【0031】
交流電源162からの交流電圧は、電源コンバータ164により直流電圧に変換される。電源コンバータ164の直流出力は、直流母線を介してインバータ160に供給されるとともに、エネルギー蓄積装置166にも供給される。サーボモータ10がプレス時など大きな瞬時電力を必要とするとき、エネルギー蓄積装置166から所要エネルギーの大部分が供給される。また、エネルギー蓄積装置166は、サーボモータ10からの回生電力を蓄積する。エネルギー蓄積装置166を備えることにより、交流電源162から受ける電力を平滑化することができる。電源コンバータ164は、単に整流器で構成してもよいし、インバータと同じ構成の可逆PWMコンバータで構成してもよい。また、整流器とDC/DCコンバータの構成として定電圧直流電源の構成としてもよい。エネルギー蓄積装置166は、二次電池、電解コンデンサ、電気二重奏キャパシタなどで構成することができる。このとき、上述のエネルギー蓄積要素を、直流母線に直接接続してもよいし、DC/DCコンバータを介して接続してもよい。
【0032】
次に、判定部170からの信号に基づく速度制御ゲインの可変制御について詳述する。
【0033】
判定部170は、クランクエンコーダ20からの位置信号(クランクシャフト19の回転角度)に基づいて、スライド22が加工領域を下降している第1の動作区間であるか、第1の動作区間以外の第2の動作区間であるかを判定する。ここで、加工領域とは、プレス負荷がかかる領域をいう。すなわち、スライド22が加工領域を下降している第1の動作区間とは、例えば、スライド22に装着された上金型23がワークに接触してからスライド22が下死点に到達するまでの動作区間をいう。
【0034】
例えば、
図3において、スライド22の位置が図中Pの位置となったときに、上金型23がワークに接触する場合を考えると、スライド22が位置Pから下死点まで下降する動作区間が第1の動作区間S
1となり、それ以外の動作区間、すなわちスライド22が上死点から位置Pまで下降する動作区間と、下死点から上死点まで上昇する動作区間とが第2の動作区間S
2となる。ここでは、位置Pと下死点間の領域が加工領域となるが、第1の動作区間S
1は、加工領域に厳密に対応する動作区間でなくてもよく、スライド22が加工領域の少なくとも一部を含む領域を下降する動作区間であればよい。
【0035】
クランクエンコーダ20からの位置信号からスライド位置が分かるから、プレス負荷がかかる角度の範囲(第1の動作区間)であるか、そうでない(第2の動作区間)かを判定することができる。例えば、サーボプレス機械1にスライドモーションを入力する際にプレス負荷がかかる動作区間(第1の動作区間)は分かるから、この情報を判定部170で記憶しておく。そして、判定部170は、クランクエンコーダ20からの位置信号(角度信号)と記憶した情報とを照合して、第1の動作区間であると判定した場合には、第1の動作区間である旨の信号を速度制御部120に出力し、第2の動作区間である(第1の動作区間でない)と判定した場合には、第2の動作区間である旨の信号を速度制御部120に出力する。なお、当該信号を出力してから速度制御の応答が変更されるまでに要する応答時間を考慮して、第1の動作区間になる直前に第1の動作区間である旨の信号を出力し、第2の動作区間になる直前に第2の動作区間である旨の信号を出力してもよい。このようにすると、プレス負荷がかかる位置のばらつきに備えることも可能になる。
【0036】
速度制御部120は、判定部170からの信号に基づいて、速度制御ゲインを可変させる。すなわち、速度制御部120は、第1の動作区間では速度制御ゲインを通常値よりも小さくし、第2の動作区間では速度制御ゲインを通常値とする。
【0037】
図4は、速度制御部120の構成を示すブロック図である。速度制御部120は、減算部200、掛算部202、比例部204、積分部205、加算部206、リミッタ部210、ゲイン設定部220、フィルタ部230を含む。ここでは、速度制御系を比例積分制
御(PI制御)とした構成を例にとって説明する。
【0038】
減算部200は、位置制御部110からの速度指令値と速度検出部150からの速度検出値との偏差を演算し速度偏差を求める。ゲイン設定部220は、速度制御系のゲインを設定する。ゲイン設定部220は、判定部170からの信号に基づいて、第1の動作区間と第2の動作区間それぞれに適する値を出力する。ゲイン設定部220からの速度制御ゲインを決める出力信号は、フィルタ部230を介して、掛算部202に与えられる。掛算部202では、ゲイン設定部220からの出力値が減算部200からの出力値(速度偏差)と掛け算され、速度制御系のループゲインが決定される。すなわち、ゲイン設定部220からの出力値により速度制御系の応答が決定される。掛算部202からの出力値は比例部204と積分部205で演算され、加算部206で加算されて、比例積分制御が実施される。加算部206からの出力値は、リミッタ部210により所定範囲に制限され、リミッタ部210からトルク指令値として電流制御部130に出力される。
【0039】
判定部170から第1の動作区間(プレス負荷区間)である旨の信号が出力されると、ゲイン設定部220からは、第1の動作区間に対応する速度制御応答になるようなゲインが出力される。すなわち、第1の動作区間では、それ以外の動作区間(第2の動作区間)より速度制御応答を下げるような値が出力される。また、判定部170から第2の動作区間である旨の信号が出力されると、ゲイン設定部220からのゲイン値は通常値に戻される(ゲイン設定部220から通常値が出力される)。ゲイン値を急変させると動作の滑らかさに影響が出るため、ゲイン値が滑らかに変わるように(速度制御応答が徐々に変化するように)、ゲイン設定部220からのゲイン値はフィルタ部230を通して掛算部202に与えられる。なお、速度制御の応答性の変化量は、回転数の変動が30%以内に収まるようにすることがプレス加工の性能上望ましく、設定されたスピードで連続運転できる程度に収まればよい。少なくとも回転が維持できる程度を限界とし、停止させない値を設計的に選択してもよい。
【0040】
速度制御部120は、速度偏差判定部240を更に含んでもよい。速度偏差判定部240は、減算部200からの出力値である速度偏差が過大か(所定値を超えたか)否かを判定し、速度偏差が過大である場合には、速度偏差が過大である旨の信号をゲイン設定部220に出力する。なお、速度偏差が過大か否かの判定においては所定の遅延を施し、これにより、プレス負荷がかかった(第1の動作区間に移行した)直後に速度偏差が過大であると判定されないようにしている。速度制御部120が速度偏差判定部240を含む場合、ゲイン設定部220は、判定部170からの信号と速度偏差判定部240からの信号とに応じて速度制御系のゲインを設定する。すなわち、判定部170から第1の動作区間である旨の信号が出力され、且つ、速度偏差判定部240から速度偏差が過大である旨の信号が出力された場合には、ゲイン設定部220からのゲイン値は通常値に戻され、速度制御系の応答を第2の動作区間であるときの応答に回復させる。このようにすると、第1の動作区間においても過大な速度偏差が発生することを防止することができる。
【0041】
ここでは、掛算部202を用いて速度偏差にゲイン値を掛け合わせることで、速度制御ゲインを可変制御する場合を例にとって説明したが、比例部204の比例ゲインや積分部205の積分ゲインの両方或いは一方を直接変更することで、速度制御ゲインを可変制御してもよい。また、速度制御系を比例積分制御として構成した場合を例にとって説明したが、他の制御構成、例えばIP制御などにも適用することができる。また、判定部170がクランクエンコーダ20からの信号に基づき動作区間の判定を行う場合を例にとって説明したが、ドライブギヤ14とメインギヤ16のギヤ比を考慮すれば、ドライブシャフト12の回転角度からもクランクシャフト19の回転角度が分かるため、モータエンコーダ11からの信号に基づき動作区間の判定を行ってもよい。
【0042】
図5は、第1の動作区間(プレス負荷区間)における動作を示す図である。
図5(A)は、従来の制御(スライド位置が常時指令に追従するように速度制御ゲインを選定し、そのゲインを常に一定にする制御)を行った場合のプレス負荷時の動作波形を示し、
図5(B)は、本実施形態の制御(第1の動作区間で速度制御ゲインを下げる制御)を行った場合のプレス負荷時の動作波形を示す。偏心機構を有するプレス機械では、トルクが一定の場合、スライド位置が下死点に近づくほど大きな加圧力(荷重)を発生できる。そのため、プレス負荷時の負荷トルクは、スライド位置が下死点に近づくほど小さくなり、
図5に示す例では、ほぼ三角波上となっている。
【0043】
本実施形態の制御では、速度制御ゲインを下げるため、モータ速度は指令への追従性が低下し、負荷トルクの影響を受けて、モータ速度が低下する。このとき、
図5(B)に示すように、トルク指令の発生は負荷トルクに対応するのが遅くなり、モータトルク(サーボモータ10のトルク)の最大値が低下する。プレス負荷の発生時(プレス負荷区間の冒頭)では、モータトルクが十分に立ち上がってきていない(負荷トルクに対応するモータトルクが発生していない)ため、サーボモータ10やスライド22等の駆動系の慣性力でスライド22が駆動される。すなわち、速度制御ゲインを下げることで、駆動系の慣性力が活かされる(慣性力を利用した)駆動となる。その後、モータトルクが立ち上がってくるものの、駆動系の慣性力によってスライド位置が下死点に近づくにつれて、負荷トルクが下がっていくため、モータトルクの最大値は低く抑えられることになる。従来の制御を行った場合のモータトルクの最大値は
図5(A)に示すTmaとなり、本実施形態の制御を行った場合のモータトルクの最大値は
図5(B)に示すTmbとなる。これらの比較から、速度制御ゲインを低下させると、サーボモータの最大トルクを低減できることが分かる。
【0044】
なお、プレス負荷区間においても速度制御系は動作しているため、モータ速度が所望範囲を大きく外れることは無い。位置制御を干渉しない程度ならば速度制御の応答だけ低下させればよく、位置制御との干渉が問題となる場合には、位置制御の応答も低下させる。
【0045】
ゲイン設定部220で設定するゲイン値(第1の動作区間での値と、第2の動作区間での値)は、負荷トルクの大きさやモータ速度によってそれぞれ適切に設定してもよい。また、第1の動作区間内において適宜変更するように設定してもよい。
【0046】
本実施形態のサーボプレス機械によれば、プレス負荷の大きい第1の動作区間であるときに、速度制御ゲイン(速度制御系の応答)を低下させて、サーボモータ10やスライド22等の駆動系の慣性力を積極的に利用して駆動することで、サーボモータ10の最大トルクを低減してサーボモータ10を小型化・小容量化することができる。更に、サーボモータ10の最大トルクを低減できることは、所要エネルギーも低減できることになり、インバータ160や交流電源162、電源コンバータ164、エネルギー蓄積装置166の小容量化、小型化も可能となる。特に、入出力エネルギーの変化の大きさが装置の大きさと不具合の発生率に大きく影響するエネルギー蓄積装置166では、その小型化と不具合の低減が図れる。急峻なエネルギーの出し入れが少なくなることでエネルギー蓄積装置166の長寿命化が図れる。また、第1の動作区間においても速度制御系は動作しているため、モータ速度が指令から大きく逸脱することはなく、また、第2の動作区間では、速度制御ゲインは適切に設定されるため、精度の良いスライド位置の制御を行うことができる。すなわち、本実施形態のサーボプレス機械によれば、スライド22の追従性を維持しつつサーボモータ10を小型化することができる。
【0047】
上記実施例では、判定部170が、クランクエンコーダ20(或いは、モータエンコーダ11)からの信号に基づいて第1の動作区間であるか第2の動作区間であるかを判定する場合について説明したが、動作区間の判定手法はこれに限られない。例えば、モーショ
ン指令部101内で演算するクランク軸の角度や、クランク軸の角度と等価な角度信号に基づき動作区間の判定を行ってもよい。また、速度制御部120が出力するトルク指令値や、サーボモータ10の電流値、モータ速度、インバータ160に供給される直流電圧値に基づいて、動作区間の判定を行ってもよい。この場合、トルク指令値或いは電流値が変化或いは所定値を超えた場合、モータ速度が急激に低下した場合、或いは直流電圧が急変或いは所定値以下となった場合に、第1の動作区間になったと判定することができる。
【0048】
(第2の実施の形態)
図6は、第2の実施の形態に係るサーボプレス機械の速度制御部の構成を示すブロック図である。
図6において、
図4の構成と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。第2の実施の形態に係る速度制御部は、トルク指令値の制限値を可変させることで、速度制御系の応答を低下させる。
【0049】
図6に示す速度制御部120は、リミッタ値設定部250を含む。判定部170からの信号はリミッタ値設定部250に入力される。リミッタ値設定部250は、判定部170からの信号に基づいて、リミッタ部210での制限値(トルク指令値の制限値)を変更する。
【0050】
判定部170から第1の動作区間(プレス負荷区間)である旨の信号が出力されると、リミッタ値設定部250からは、第1の動作区間に対応するトルク制限値になるような制限値が出力される。すなわち、第1の動作区間では、それ以外の動作区間(第2の動作区間)よりトルク指令の最大値の絶対値を下げるような値が出力される。また、判定部170から第2の動作区間である旨の信号が出力されると、リミッタ値設定部250からの制限値は通常値に戻される(リミッタ値設定部250から通常値が出力される)。
【0051】
リミッタ値設定部250の動作により、第1の動作区間ではサーボモータ10の最大トルクが制限され、負荷トルクに対応するモータトルクが出なくなる。このことは、速度制御系の応答が低下することと等価である。なお、制限値を急変させると動作の滑らかさに影響が出るため、制限値が滑らかに変わるように(速度制御応答が徐々に変化するように)動作させる。
【0052】
図6に示す速度制御部120は、速度偏差判定部240を更に含んでもよい。この場合、リミッタ値設定部250は、判定部170からの信号と速度偏差判定部240からの信号とに応じて制限値を設定する。すなわち、判定部170から第1の動作区間である旨の信号が出力され、且つ、速度偏差判定部240から速度偏差が過大である旨の信号が出力された場合には、リミッタ値設定部250からの制限値は通常値に戻され、速度制御系の応答を第2の動作区間であるときの応答に回復させる。このようにすると、第1の動作区間においても過大な速度偏差が発生することを防止することができる。なお第1の実施の形態と同様に、速度偏差が過大か否かの判定においては所定の遅延を施し、これにより、プレス負荷がかかった(第1の動作区間に移行した)直後に速度偏差が過大であると判定されないようにしている。
【0053】
第2の実施形態の手法では、速度制御ゲインを直接変更しないため、速度制御系の安定性に影響を与えない。第2の実施の形態のように構成しても、第1の実施の形態と同様の技術的効果を奏する。
【0054】
(第3の実施の形態)
図7は、第3の実施の形態に係るサーボプレス機械の速度制御部の構成を示すブロック図である。
図7において、
図4の構成と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。第3の実施の形態に係る速度制御部は、速度制御系のフィルタ時定数
を可変させることで、速度制御系の応答を低下させる。
【0055】
図7に示す速度制御部120は、フィルタ260(1次フィルタ)と、時定数設定部270を含む。判定部170からの信号は時定数設定部270に入力される。時定数設定部270は、判定部170からの信号に基づいて、トルク指令(電流指令)を出力する際のフィルタ260の時定数を変更する。プレス負荷がかかる前はサーボモータ10のトルク(モータトルク)は小さく、プレス負荷が加わるとそれに応じてモータトルクが増加するので、第1の動作区間ではフィルタ260によりトルク指令が急激に増加することを抑制する。
【0056】
判定部170から第1の動作区間(プレス負荷区間)である旨の信号が出力されると、時定数設定部270からは、第1の動作区間に対応するトルク指令を出すときのフィルタ260の時定数Tが出力される。すなわち、第1の動作区間では、それ以外の動作区間(第2の動作区間)より長い時定数Tが出力される。また、判定部170から第2の動作区間である旨の信号が出力されると、時定数設定部270からの時定数Tは通常値に戻される(時定数設定部270から通常値が出力される)。第2の動作区間では、フィルタ260をノイズを防止する程度のフィルタとして動作させるための短い時定数Tが出力され、第1の動作区間では、フィルタ260をトルク指令の急変を抑制するフィルタとして動作させるために必要な長さの時定数Tが出力される。
【0057】
フィルタ260と時定数設定部270の動作により、第1の動作区間ではサーボモータ10のトルクの急激な増加が抑制され、負荷トルクに対応するモータトルクが出なくなる。このことは、速度制御系の応答が低下することと等価である。なお、ここでは、フィルタ260を1次遅れとして構成したが、他の構成としてもよい。
【0058】
図7に示す速度制御部120は、速度偏差判定部240を更に含んでもよい。この場合、時定数設定部270は、判定部170からの信号と速度偏差判定部240からの信号とに応じて時定数Tを設定する。すなわち、判定部170から第1の動作区間である旨の信号が出力され、且つ、速度偏差判定部240から速度偏差が過大である旨の信号が出力された場合には、時定数設定部270からの時定数Tは通常値に戻され、速度制御系の応答を第2の動作区間であるときの応答に回復させる。このようにすると、第1の動作区間においても過大な速度偏差が発生することを防止することができる。なお第1の実施の形態と同様に、速度偏差が過大か否かの判定においては所定の遅延を施し、これにより、プレス負荷がかかった(第1の動作区間に移行した)直後に速度偏差が過大であると判定されないようにしている。
【0059】
第3の実施形態の手法では、速度制御部120の出力側にフィルタを設けているため、スライド22の滑らかな動作を実現できる。第3の実施の形態のように構成しても、第1の実施の形態と同様の技術的効果を奏する。
【0060】
なお、上記のように本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。