特許第5940190号(P5940190)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5940190
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】術領域確保装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/02 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
   A61B17/02
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-62789(P2015-62789)
(22)【出願日】2015年3月25日
【審査請求日】2016年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 辰男
(72)【発明者】
【氏名】松永 佳久
(72)【発明者】
【氏名】石井 琢郎
【審査官】 毛利 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0197952(US,A1)
【文献】 特開2014−61133(JP,A)
【文献】 特開2008−284255(JP,A)
【文献】 特開2014−61132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔内で展開することにより、術領域を確保するための術領域確保装置であって、
展開状態において放射状に伸びている少なくとも3つの長尺部分と、
前記長尺部分と同数の湾曲部分とを含み、
隣接する2つの前記長尺部分の各対は、それらの一端で、前記湾曲部分により接続されており、
前記湾曲部分は、前記長尺部分とは反対側に向かって凸となっており、
前記展開状態において、前記湾曲部分は周状に並び、
前記湾曲部分を変形させることにより、隣接する前記長尺部分の間の距離を近接させた縮小状態と、前記長尺部分の間の距離を拡大させた前記展開状態と、を取ることができる術領域確保装置。
【請求項2】
各長尺部分は、平行に配置されて互いに固定された2本の長尺要素から成り、
一方の前記長尺要素の一端が前記湾曲部分の一端に接続され、他方の前記長尺要素の一端が別の前記湾曲部分の他端に接続されており、
前記湾曲部分と、その両端に接続された2本の前記長尺要素とは1本のチューブから構成されている、請求項1に記載の術領域確保装置。
【請求項3】
前記湾曲部分は、弾性変形可能な部材から成り、
前記湾曲部分は、前記縮小状態において弾性変形され、前記縮小状態から前記展開状態に向かって弾性的に回復する、請求項1または2に記載の術領域確保装置。
【請求項4】
展開時に前記長尺部分の間を覆うシート部材をさらに含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の術領域確保装置。
【請求項5】
前記シート部材は、展開時において、前記長尺部分の外側に配置される第1のシート部材と、前記長尺部分の内側に配置される第2のシート部材とを含む、請求項4に記載の術領域確保装置。
【請求項6】
前記シート部材の第1の縁部が取着された環状部材をさらに含み、
前記シート部材の第2の縁部が、前記長尺部分の他端に取着されており、
前記長尺部分と前記湾曲部分とは、前記縮小状態において、前記環状部材の内部を通って前記環状部材の一方から他方に通過可能である請求項4または5に記載の術領域確保装置。
【請求項7】
前記環状部材が、第1の環状部材と、当該第1の環状部材の内側に嵌め込まれる第2の環状部材とを含み、
前記シート部材の前記第1の縁部は、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材との間に挟持されている、請求項6に記載の術領域確保装置。
【請求項8】
前記環状部材が環状の開創器である、請求項6または7に記載の術領域確保装置。
【請求項9】
連通口を有する貯水部材をさらに含み、
前記連通口は前記開創器と水密に接続されている、請求項8に記載の術領域確保装置。
【請求項10】
前記貯水部材が、軟質のシートから成る請求項9に記載の術領域確保装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡手術において、術領域に術阻害物が侵入するのを抑制する術領域確保装置に関し、特に水中手術に好適な術領域確保装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内視鏡や電気メス等の手術器具を患者の体腔内に挿入して行う術式(内視鏡手術)が広く知られている。かかる術式で手術を行う場合、手術対象となる臓器以外の臓器および大網(以下「術阻害物」という)は、術領域の外側に移動させておくのが望ましい。また、近年では、体腔内に生理食塩水等の液体を充填して、内視鏡下で行う手術(いわゆる水中手術、例えば非特許文献1〜2参照)が提案されている。かかる術式では、術阻害物は液体中で浮遊するため、手術中に術阻害物が術領域内に侵入しやすい。そのため、手術中に術阻害物が術領域に侵入するのを抑制する装置が求められている。
【0003】
術阻害物が術領域に侵入するのを抑制する装置として、特許文献1には、錐台形を構成するべく間隔を開けて配置された複数の線材を有する本体部であって、前記線材の姿勢および形状の少なくとも一方を変更することで最大径が変わる本体部を備えた術領域確保装置が開示されている。
また、特許文献2には、心臓手術の際に、弁等の心臓内構造物がよく見えるように、視野を展開するための自己拡張型の展開用補助器具(リトラクター)が開示されている。リトラクターは、柔軟な管状体を螺旋状に巻いた円筒部から構成されており、心臓手術の際に、心臓内にリトラクターを配置することにより、心臓内に空間を設け、良好な視野を確保することができる。
特許文献3には、流体導入により膨張可能な袋状に形成され、かつ膨張時に円環状体とされ、この円環状体の内側に体腔内の術領域を確保する術領域確保部材であって、上記円環状体の一部に内外を貫通する貫通部を設けた術領域確保部材が開示されている。
【0004】
また、特許文献4には、水中手術の際に使用される水槽が開示されている。この水槽は、体壁に接触させて設置され、体腔内に供給される液体が貯留される水槽本体と、前記水槽本体の底部に形成された貫通孔であって、前記体壁に形成された切開創を介して前記水槽本体内に貯留された液体を体腔内に流入させる貫通孔と、前記水槽本体を、前記体壁および前記切開創に取り付けられた開創器の少なくとも一方に、液密に連結する連結手段と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−61133号公報
【特許文献2】特開2013−121478号公報
【特許文献3】特開2008−284255号公報
【特許文献4】特開2014−61132号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Igarashi, Y. Shimomura, T. Yamaguchi, H. Kawahira, H. Makino, W. Yu, and Y. Naya, "Water-filled laparoendoscopic surgery (WAFLES): feasibility study in porcine model," Journal of Laparoendoscopic & Advanced Surgical Techniques A, vol. 22, pp. 70-5, 2012.
【非特許文献2】T. Igarashi, M. Teranuma, and T. Ishii, "Water-filled laparo-endoscopic surgery (WAFLES): A new surgical system performed under irrigation of isotonic water," Journal of Medical Imaging and Health Informatics, vol. 3, pp. 59-64, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
低侵襲手術の進歩により、身体に形成される切開創の寸法がますます小さくなっている。そのため、より小さい切開創から体腔内に挿入でき、体腔内での展開が容易で、そして切開創から体腔外への取り出しが容易な術領域確保装置が求められている。
そこで本発明は、体腔内への挿入、体腔内での展開および体腔外への取り出しが容易な術領域確保装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、体腔内で展開することにより、術領域を確保するための術領域確保装置であって、展開状態において放射状に伸びている少なくとも3つの長尺部分と、前記長尺部分と同数の湾曲部分とを含み、隣接する2つの前記長尺部分の各対は、それらの一端で、前記湾曲部分により接続されており、前記湾曲部分は、前記長尺部分とは反対側に向かって凸となっており、前記展開状態において、前記湾曲部分は周状に並び、前記湾曲部分を変形させることにより、隣接する前記長尺部分の間の距離を近接させた縮小状態と、前記長尺部分の間の距離を拡大させた前記展開状態と、を取ることができる。
【0009】
本発明の術領域確保装置は、3つ以上の長尺部分と、それらを接続する湾曲部分とを含むことにより、展開状態において、長尺部分によって囲まれた領域(術領域)に侵入する術阻害物を術領域の外側に保持するものである。術領域確保装置を体腔内に配置すると、湾曲部分は身体に形成した切開創の近傍に位置し、湾曲部分で囲まれた領域が、手術時に内視鏡等の手術器具を術領域に挿入する挿入口となる。
【0010】
本発明の術領域確保装置によれば、長尺部分を湾曲部分で接続した構成であるので、湾曲部分を圧縮変形させる(縮小状態)ことにより、術領域確保装置を細長い形状にすることができる。よって、小さい切開創であっても、体腔内に容易に挿入することができる。
また、術領域確保装置を体腔内に挿入した後、長尺部分で囲まれた空間内に、内視鏡手術で使用される一般的な臓器圧排用バルーンを挿入して膨張させることにより、湾曲部分を変形させて、術領域確保装置を容易に展開することができる。
そして、術領域確保装置を体腔から取り出す際には、切開創の近傍に位置する湾曲部分を圧縮変形させることにより、術領域確保装置は、簡単に、展開状態から縮小状態にすることができる。縮小状態となって術領域確保装置を体外に向けて引き抜くだけで、体腔から容易に取り出すことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の術領域確保装置によれば、体腔内への挿入、体腔内での展開および体腔外への取り出しを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施の形態1に係る術領域確保装置の概略斜視図である。
図2図2は、実施の形態1に係る術領域確保装置に使用される骨組構造体の概略斜視図であって、図2(a)は展開状態、図2(b)は縮小状態をそれぞれ示す。
図3図3は、展開状態の骨組構造体を示す概略上面図である
図4図4は、実施の形態1に係る術領域確保装置に使用される環状部材の概略斜視図である。
図5図5は、2つの環状部材を用いた術領域確保装置の概略部分拡大図である。
図6図6は、図5に示す2つの環状部材を組み合わせた状態を示す概略部分拡大図である。
図7図7は、実施の形態1に係る術領域確保装置の使用方法を説明するための概略斜視図である。
図8図8は、実施の形態1に係る術領域確保装置の使用方法を説明するための概略斜視図である。
図9図9は、実施の形態1に係る術領域確保装置の使用方法を説明するための概略斜視図である。
図10図10は、実施の形態1に係る術領域確保装置の使用方法を説明するための概略斜視図である。
図11図11は、実施の形態1に係る術領域確保装置の使用方法を説明するための概略斜視図である。
図12図12は、実施の形態1に係る術領域確保装置の使用方法を説明するための概略斜視図である。
図13図13は、実施の形態1に係る術領域確保装置の使用方法を説明するための概略斜視図である。
図14図14は、実施の形態1に係る術領域確保装置の使用方法を説明するための概略斜視図である。
図15図15は、環状部材および環状部材の開口部から露出した骨組構造体20の一部の概略上面図である。
図16図16は、変形例1に係る術領域確保装置の概略斜視図である。
図17図17は、変形例2に係る術領域確保装置の概略斜視図である。
図18図18(a)は、実施の形態1に係る術領域確保装置の灌流液の流れを説明するための概略部分正面図であり、図18(b)は、変形例2に係る術領域確保装置の灌流液の流れを説明するための概略部分正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」および、それらの用語を含む別の用語)を用いる。それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は、同一の部分または部材を示す。
【0014】
<実施の形態1>
本実施の形態の術領域確保装置は、内視鏡手術において、術領域を確保するために用いられる。図1に示す術領域確保装置10は、4本のチューブ21〜24から構成された骨組構造体20を含んでいる。術領域確保装置10は、さらに、骨組構造体20を覆うシート部材30と、シート部材30が取着された環状部材40と、環状部材40と接続された貯水部材50とを含むことができる。術領域確保装置10の使用時には、環状部材40が身体に形成された切開創に配置され、骨組構造体20およびシート部材30は体腔内に、貯水部材50は体外に、それぞれ配置される。
以下に、術領域確保装置10の各構成部材について詳述する。
【0015】
図2〜3に示すように、本実施の形態の骨組構造体20は、4本のチューブ21〜24の各々をアーチ状に湾曲させて、互いに接続して構成されている。チューブ21〜24には、弾性チューブを使用するのが好ましい。本明細書で「弾性チューブ」とは、チューブに負荷をかけて長軸から反らすように湾曲変形させた後、負荷を取り除くと、元の形状に向かって弾性的に回復する性質を有するチューブのことを意味する。
なお、チューブ21〜24は、弾性チューブの他に、塑性変形可能なチューブを使用することもできる。さらに、チューブ21〜24の代わりに、弾性変形可能なまたは塑性変形可能な中実の長尺部材を用いることもできる。
本実施の形態では、チューブ21〜24に弾性チューブを使用した骨組構造体20を例にとって説明する。
【0016】
図2(a)に示すように、弾性チューブ21〜24は、その長手方向中央の湾曲要素212、222、232、242と、その一方の端部に位置する第1の長尺要素211、221、231、241と、他方の端部に位置する第2の長尺要素213、223、233、243とを有する。弾性チューブ21〜24は、湾曲部分202(湾曲要素212、222、232、242)が上に凸となるよう周状に配置される。各弾性チューブは、第1の長尺要素が、隣接する弾性チューブの第2の長尺要素と平行に配置された状態で結合され、第2の長尺要素が、反対側に隣接する弾性チューブの第1の長尺要素と平行に配置された状態で結合される。例えば、弾性チューブ21は、第1の長尺要素211が、隣接する弾性チューブ22の第2の長尺要素223と結合され、第2の長尺要素213が、反対側に隣接する弾性チューブ24の第1の長尺要素241と結合される。結合された一組の長尺要素(例えば、第1の長尺要素211と第2の長尺要素223)が、単一の長尺部分201を構成する。一組の長尺要素は、結束バンド等の固定部材26を用いて互いに固定することができる。固定部材26を使用する代わりに、一組の長尺要素を互いに接着または溶着により、互いに固定してもよい。
【0017】
このように構成した骨組構造体20は、隣接する2つの長尺部分201(第1の長尺要素211、221、231、241および第2の長尺要素213、223、233、243)の各対を、それらの一端(上端)201aで、湾曲部分202により接続している、と見なすことができる(図2(a)、図3参照)。湾曲部分202は、長尺部分201が接続されている方向(下方向)とは反対側に向かって凸、すなわち上に向かって凸となっている。
【0018】
各長尺要素と湾曲部分との接続関係では、1つの長尺部分201を構成する一組の長尺要素のうち、一方の長尺要素の一端(上端)は湾曲部分202の一端に接続され、他方の長尺要素の一端(上端)は別の湾曲部分202の他端に接続されている。図2(a)を参照しながら具体的に説明すると、一組の長尺要素211、223で構成される長尺部分201では、右側の長尺要素211の上端は、湾曲要素212の左端に接続され、左側の長尺要素223の上端は、別の湾曲要素222の右端に接続されている。
そして、湾曲要素(例えば湾曲要素212)と、その両端に接続された2本の長尺要素(例えば長尺要素211、213)とは、1本の弾性チューブ(弾性チューブ21)から構成するのが好ましい。
なお、本実施の形態では、1つの長尺部分201が2本の長尺要素から構成した例を図示しているが、1つの長尺部分201は、1つの長尺要素から構成することができる。
【0019】
図2(a)、図3は、展開状態の骨組構造体20を示している。本明細書において「展開状態」とは、骨組構造体20が下に広がるドーム状を規定している状態であり、雨傘の傘骨を広げた状態に類似している。図3から分かるように、展開状態において、骨組構造体20の湾曲部分202は周状に並び、長尺部分201は放射状に伸びている。
また、本明細書において「放射状」とは、1点から外向きに拡がる状態を指しており、図2(a)に示す長尺部分201のように、わずかに湾曲しながら斜め下方向に拡がっている。なお、長尺部分201は、ほぼ水平方向に拡がってもよい。
【0020】
図2(b)は、縮小状態の骨組構造体20を示している。本明細書において「縮小状態」とは、湾曲部分202を圧縮変形(即ち、より湾曲するように変形)させて、隣接する長尺部分201の間の距離を近接させた状態をいう。このような縮小状態にするためには、湾曲部分202をより湾曲させるように力をかける必要がある。例えば、4つの湾曲部分202全体に、または4つの長尺部分201全体に、外側から内向きに圧縮する力をかける。
【0021】
本実施の形態では、弾性チューブ21〜24を使用しているので、湾曲部分202の湾曲の程度を大きくする(つまり、弾性チューブ21〜24の長軸から大きく反れた状態にする)と、元の形状に戻ろうとする反発力が大きくなる。よって、縮小状態にするために負荷された力を除去すると、湾曲部分202の形状は弾性的に元の形状に向かって回復しようとする。つまり、骨組構造体20は、縮小状態から展開状態に向かって変化し得る。展開状態では、長尺部分201の間の距離は拡大することになる。
なお、弾性チューブの代わりに、塑性変形可能な部材(例えば、金属チューブ、金属ワイヤ、樹脂被覆金属ワイヤ等)を使用して、骨組構造体20を構成することもできる。その場合には、湾曲部分202を圧縮変形させても、湾曲部分202に反発力は生じない。そのため、湾曲部分202を拡張する(または伸ばす)ように変形させることにより、骨組構造体20を縮小状態から展開状態に向かって変化させることができる。
【0022】
骨組構造体20は、長尺部分201と湾曲部分202とを一体にして構成したものであり、構造が簡単で、比較的低コストで製造することができる。また、骨組構造体20の縮小状態と展開状態との間の変形は、湾曲部分202を変形させるだけで行うことができるので、骨組構造体20の操作が容易である。
【0023】
なお、長尺部分201は、術領域を規定し、かつ術領域から術阻害物を排除するものである。よって、長尺部分201は、少なくとも3本、例えば3〜10本、好ましくは4〜6本にすることができる。また、図3から分かるように、湾曲部分202は、長尺部分201を輪になるように接続するために、長尺部分201と同数が必要となる。
【0024】
再び図1を参照すると、骨組構造体20の少なくとも長尺部分201、好ましくは湾曲部分202を含む骨組構造体20の全体が、シート部材30で覆われているのが好ましい。シート部材30は、骨組構造体20の長尺部分201の間を覆っているので、隣接する長尺部分201の間隙から、術阻害物95が術領域内に入り込むのを抑制できる。
シート部材30は、骨組構造体20が縮小状態のときは、骨組構造体20の周囲に隣接するように、そして骨組構造体20が縮小状態から展開状態に向かって変形するときは、その変形に追従できるように、変形自在なシート状の材料から形成するのが好ましい。例えば、シート部材30は柔軟性を有する軟質シート材料から形成することができる。軟質シート材料としては、例えば、ポリ塩化ビニルやシリコーン等の樹脂から成るシート材料が挙げられる。特に、透明なシート材料であると、手術中に、圧排した術阻害物95の様子を確認することができるので好ましい。
【0025】
シート部材30は、骨組構造体20と環状部材40に固定することができる。特に、シート部材30の上縁部(第1の縁部)は環状部材40に取着され、シート部材30の下縁部(第2の縁部)32が、骨組構造体20の長尺部分201の下端(他端)201bに取着されるのが好ましい。すなわち、骨組構造体20は、シート部材30を介して、環状部材40に間接的に固定されており、骨組構造体20は、環状部材40に対して比較的自由に移動することができる。例えば、骨組構造体20を縮小状態にすることにより、環状部材40の内側(開口部43)を、一方から他方に(環状部材40の下側から上側に、または上側から下側に)通過させることができる。
なお、シート部材30は、長尺部分201の下端201bに固定されているので、骨組構造体20の動きに合わせてシート部材30も移動する。例えば、骨組構造体20が環状部材40の下側に配置されると、シート部材30も、環状部材40の下側に配置され、骨組構造体20が環状部材40の上側に配置されると、シート部材30も、環状部材40の上側に配置される。
【0026】
シート部材30を長尺部分201に固定する手段は、骨組構造体20を縮小状態から展開状態に動作させたときに固定が外れず、かつ生体内で使用しても安全であればよい。例えば、生体にとって安全な接着剤を用いた接着、縫合糸等による縫合、固定具を用いた物理的固定、加熱溶着による固定等を挙げることができる。図1では、骨組構造体20の一組の長尺要素を互いに固定して長尺部分201を構成するのに使用した固定部材26により、シート部材30の下縁部32も長尺部分201に固定している。
【0027】
環状部材40は、切開創91に嵌め込んで、体腔92内へのアクセスを確保するデバイス(いわゆるリング状の開創器)として使用することができる。環状部材40を切開創91に固定することにより、術領域確保装置10を患者の身体に固定することができる。
環状部材40としては、例えば図4に示すような開創器(シリコーン製開創器)が好適である。環状部材40(開創器)は、円筒状のシリコーンゴムシート401の端部を、弾性リング402a、402bで保持して構成されている。シリコーンゴムシート401は、薄くて弾性に富んだ医療用シートが使用される。弾性リング402a、402bは略真円形状を有しており、手で力をかけることにより容易に変形させることができる。また、力を除去すると、略真円形状に弾性的に回復する。この開創器は、下側の弾性リング402bを体内に、上側の弾性リング402aを体外にそれぞれ配置し、シリコーンゴムシート401の外面によって切開創91を円形に押し広げるものである。開創器の開口部43を通して、手術が行われる。
【0028】
術領域確保装置10は、水中手術に使用することができる。水中手術では、体腔内に生理食塩水等の液体を満たして手術が行われるが、出血等により液体が濁ると術領域の確認が困難になるため、液体を常に灌流するのが望ましい。灌流する液体(以下「灌流液」と称する)は、吐出配管から供給され、吸引配管から排出される。吐出配管を体腔内に設置すると、体腔内で乱流を生じやすく、出血による灌流液の濁りが促進されるおそれがある。そこで、術領域確保装置10は、体腔内における灌流液の乱流を抑制するために、吐出配管からの灌流液を一時的に貯留する貯水部材50を備えているのが望ましい(図1)。
【0029】
図1に示すように、貯水部材50は、液体を貯留するための本体51と、本体の下部に設けられた連通口53とを備えている。連通口53は、環状部材40として使用される開創器と水密に接続されている。開創器(例えばシリコーン製開創器)は、体壁に設けた切開創に密着固定できるので、切開創と開創器との間から灌流液が漏れるのを抑制できる。そして、貯水部材50の連通口53が開創器に水密に固定されているので、開創器と貯水部材50との間から灌流液が漏れるのを抑制できる。よって、水中手術中に、手術用ベッドおよび手術室の床を、血液を含む灌流液で汚染するおそれが少ない。
【0030】
貯水部材50は、軟質シートから形成されるのが好ましい。貯水部材50に灌流液を貯留したときに、貯水部材50が灌流液の重さで変形して環状部材40の周囲の体表面に沿って接触する。水中手術中に、切開創と環状部材40との界面の密着性が向上し、その界面から灌流液が漏れるのを抑える効果が期待できる。なお、軟質シートから成る貯水部材50が自立可能な剛性を有していない場合、患者の上側に支柱等の支持部材を配置して、その支持部材に貯水部材50を固定することにより、貯水部材50を保持する必要がある。
【0031】
シート部材30および貯水部材50を環状部材40に固定する場合、図5および図6に示すように、2つの環状部材(第1の環状部材41、第2の環状部材42)を用いることができる。第2の環状部材42は、第1の環状部材41の内部に、着脱可能に嵌め込まれる。2つの環状部材41、42を用いたシート部材30および貯水部材50の取着方法について、個々に説明する。
【0032】
シート部材30については、図5に示すように、その上縁部(第1の縁部)31を第2の環状部材42の外面に取着する。そして、図6に示すように、第2の環状部材42を第1の環状部材41の内側に嵌め込むことにより、シート部材30の上縁部31は、第1の環状部材41と第2の環状部材42との間に挟持される。
貯水部材50については、図5に示すように、連通口53を第1の環状部材41の内面に取着する。そして、図6に示すように、第2の環状部材42を第1の環状部材41の内側に嵌め込むことにより、連通口53は、第1の環状部材41と第2の環状部材42との間に挟持される。
【0033】
2つの環状部材41、42を用いることにより、それらの間に、シート部材30の上縁部31および貯水部材50の連通口53を挟持することができる。水中手術を行う際に、環状部材40とシート部材30との界面からの漏水および環状部材40と貯水部材50との界面からの漏水を、効果的に抑制することができる。
【0034】
また、術領域確保装置10を用いて手術を行うときに、貯水部材50はそのままで、骨組構造体20を別の寸法のものに交換するのが好ましい場合がある。例えば、患者の体格および手術部位によっては、現在使用している骨組構造体20より小さいまたは大きい骨組構造体20が好ましい場合等である。図5に示すような環状部材41、42を有する術領域確保装置10であれば、第1の環状部材41に固定された貯水部材50が、第2の環状部材42に固定されたシート部材30(およびシート部材30に固定された骨組構造体20)と分離可能である。そのため、外科医の要望に沿うために、まず第1の環状部材41から第2の環状部材42を外し、そして、別の寸法の骨組構造体20を備えた「別の第2の環状部材42」を、第1の環状部材41の内側に取り付ける。これにより、貯水部材50はそのままに、骨組構造体20を交換することができる。
【0035】
次に、図7図14を参照しながら、本実施の形態に係る術領域確保装置10の使用方法について説明する。なお、図7〜14では、術領域確保装置10の操作状態を理解しやすくするために、環状部材40は、手前側半分を除去した状態で図示している。環状部材40の除去された部分は、破線で示している。
【0036】
<1.切開創への取り付け>
図7に示すように、摘出する臓器(手術対象部位94)にアクセス可能な位置において、体壁90にメス等で切開創91を形成する。図7に示す例では、手術対象部位94の上側には、別の臓器(術阻害物95)が存在している。
次に、切開創91に、術領域確保装置10を固定する。なお、固定前に、術領域確保装置10の骨組構造体20とシート部材30を、貯水部材50の本体51の内部に収容しておく。骨組構造体20は、縮小状態にしておくのが好ましい。例えば、環状部材40の開口部43の内径よりも小さい外径を有する円筒部材70を準備し、円筒部材70の一端71からその内腔に骨組構造体20の湾曲部分202を挿入することにより、湾曲部分202を圧縮変形させる。円筒部材70を用いると、骨組構造体20を縮小状態にしたまま保持するのが容易である。なお、骨組構造体20の湾曲部分202のみならず、長尺部分201の一部または全部も円筒部材70に挿入してもよい。
【0037】
術領域確保装置10の固定のために、切開創91に環状部材40を固定する。環状部材40がシリコーン製開創器(図4参照)の場合、まず、下側の弾性リング402bを手で細長く変形させる。下側の弾性リング402bを、体壁90に形成した切開創91から体腔92に挿入して手を離すと、下側の弾性リング402bは体腔92内で元の形状に戻る。その結果、図7に示すように、下側の弾性リング402bは、体壁90の内側において切開創91の周囲に配置され、上側の弾性リング402aは、体壁90の外側において切開創91の周囲に配置される。そして、上側の弾性リング402aと下側の弾性リング402bの間のシリコーンゴムシート401によって、切開創91は円形に押し広げられる。なお、切開創91の寸法、体壁90の厚さ等に合わせて、使用する環状部材40を選択するのが好ましい。
【0038】
<2.骨組構造体20とシート部材30の挿入>
図8に示すように、縮小状態にした骨組構造体20を、環状部材40の開口部43を通して体腔92内に挿入する。円筒部材70を使用する場合には、円筒部材70の他端72側を把持して、矢印で示すように、一端71を環状部材40の開口部43を経て体腔92内に押し込むことにより、骨組構造体20を体腔92内に挿入することができる。骨組構造体20は、湾曲部分202を大きく湾曲させることにより、長尺部分201を極めて近接させることができる。そのため、小さい切開創91であっても骨組構造体20を体腔92内に挿入することができる。
また、図8から分かるように、縮小状態の骨組構造体20では長尺部分201の下端201bが集まっているので、体腔92内において、複数の術阻害物95の隙間に骨組構造体20を挿入しやすい。なお、シート部材30の下縁部32は、骨組構造体20の長尺部分201の下端201bに取着されているので、骨組構造体20を体腔92内に挿入すると、骨組構造体20に引っ張られて、シート部材30も体腔92内に挿入される。
【0039】
<3.骨組構造体20の展開>
骨組構造体20とシート部材30を完全に体腔92内に挿入したら、図9に矢印で示すように、骨組構造体20から円筒部材70を取り外す。本実施の形態では、湾曲部分202が弾性チューブ等から構成されているので、骨組構造体20から円筒部材70を取り外すと、湾曲部分202が弾性的に回復して、骨組構造体20は自動的に展開し得る。
湾曲部分202の弾性だけでは骨組構造体20を十分に展開できない場合には、内視鏡手術で使用される臓器圧排用バルーン等を使用して、骨組構造体20の展開を補助することができる。
湾曲部分202を、塑性変形可能な長尺材料から形成したときは、骨組構造体20は自動的に展開しないので、臓器圧排用バルーンを使用して、骨組構造体20を展開させることができる。
【0040】
バルーン81を使用する場合、図10に示すように、骨組構造体20の挿入口25から、縮小状態のバルーン81を挿入する。ここで、「挿入口25」とは、図3において、湾曲部分202で囲まれた領域(ハッチングされた部分)を指す。バルーン81を膨張させると、骨組構造体20が拡張し、骨組構造体20の周囲の術阻害物95が圧排される(図11)。
【0041】
骨組構造体20の展開が完了したら、バルーン81を縮小状態に戻し、骨組構造体20の挿入口25と環状部材40の開口部43とを通って、体外に取り出す(図12)。バルーンを除去しても、骨組構造体20の湾曲部分202によって骨組構造体20は拡張状態を維持できるように、湾曲部分202の材料を選択するのが好ましい。これにより、術阻害物95は、バルーン81を取り出した後でも、骨組構造体20によって圧排された状態を維持できる。展開状態にある骨組構造体20の内部および下側は、術領域12となる。
なお、骨組構造体20のみでも術阻害物95を圧排することができるが、骨組構造体20をシート部材30で覆うことにより、術阻害物95が、隣接する長尺部分201の間隙から術領域12に侵入するのを効果的に抑制できる。
【0042】
<4.灌流液Lの供給と、水中手術>
図13に示すように、貯水部材50の上縁部を支持部材75にクリップ76等で固定した後に、吐出配管61を通して貯水部材50の内部に灌流液L(例えば生理食塩水)を注入する。灌流液Lは、貯水部材50の本体51内に貯留された後、連通口53を通って体腔92内に流入する。体腔92内に流入した灌流液Lは、体腔92内に挿入された吸引配管62を通って外部に吸引される。
なお、弾性チューブ21〜24から成る骨組構造体20では、弾性チューブ21〜24の一部または全部に接続ポイントを設けて吸引配管62を接続することにより、骨組構造体20を灌流液Lの吸引配管62の一部として利用することもできる。
【0043】
貯水部材50を軟質のシートから形成すると、貯水部材50は灌流液Lの重さで変形する。変形した貯水部材50は、環状部材40の周囲で体表面と密着するので、環状部材40と切開創91との界面からの漏水を抑制する効果が期待できる。
また、内視鏡手術においては、内視鏡82での観察と平行して、超音波画像診断(エコー)による観察も行うことがある。エコーは、プローブと観察対象との間に空気層が存在しないことが必要である。ここで、灌流液Lで満たされた貯水部材50は体表面と密着し、かつ体腔92内は灌流液Lで満たされているので、貯水部材50に貯留した灌流液L中にプローブ84を浸漬し、貯水部材50と体表面との接触面にプローブ84の先端を接触させることにより、体腔92内の臓器をエコーで観察することができる。
【0044】
灌流液Lを十分に灌流させた状態で、手術対象部位94の手術(例えば手術対象部位94の摘出等)を行う。
内視鏡82および電気メス83等の手術器具は、環状部材40の開口部43を通って体腔92内に挿入され、さらに骨組構造体20の挿入口25を通って手術対象部位94に接近する。内視鏡82により手術対象部位94を観察し、電気メス83により手術対象部位94の手術(例えば手術対象部位94の摘出等)を行う。
【0045】
水中手術では、臓器が灌流液Lによって浮き上がり、浮遊する現象が起こる。そのため、一般的な手術に比べて、手術対象部位94以外の臓器(術阻害物95)が術領域12に侵入する可能性も高まる。術阻害物95によって、術領域12の確認が困難になり、または手術器具82、83の操作が妨げられる場合には、術領域12から術阻害物95の排除が必要となる。しかし、内視鏡手術では、術阻害物95を手で排除できないので、術阻害物95を移動させる操作に時間がかかり、手術時間の増加につながり得る。そのため、術阻害物95が術領域12内に侵入しないように維持することは重要である。
【0046】
ここで、術領域確保装置10を使用することにより、骨組構造体20およびシート部材30が、術阻害物95を骨組構造体20の外側に保持するので、術阻害物95は術領域12に侵入しにくくなり、適正な手術時間で手術を完了することができる。
【0047】
手術中に灌流液Lを連続的に灌流することで、いくつかの利点がある。
体腔92内に供給された灌流液Lは、体腔内で出血が生じると、血液で濁って術領域12の視認性が一時的に低下し得る。灌流液Lを連続的に灌流することにより、血液が混入した灌流液Lは吸引配管62から排出されるので、すぐに良好な視認性を確立できる。特に、吸引配管62の先端が手術対象部位94より下側に配置されるのが好ましく、手術対象部位94の周囲から生じる血液等が、内視鏡82と手術対象部位94の間から排除されやすくなるので、良好な視野を維持することができる。
また、灌流液Lを連続的に灌流することにより、血液が出血点から流れる様子を容易に視認でき、出血点の特定が容易である。なお、水中手術は、灌流液Lの水圧により、出血点からの出血量が抑制され得る。
【0048】
水中手術が終了したら、吐出配管61からの灌流液Lの供給を停止し、体腔92内と貯水部材50内の灌流液Lを、吸引配管62を通して排出する。
【0049】
<5.骨組構造体20の取り出し>
図14に示すように、骨組構造体20を縮小状態にして、環状部材40の開口部43を通して体外に引き出す。
骨組構造体20を、図13のような展開状態から、図14のような縮小状態にするのは容易である。図13における展開状態の骨組構造体20を、環状部材40の開口部43から観察すると、図15のように、開口部43から骨組構造体20の湾曲部分202が視認できる。また、図13から分かるように、湾曲部分202は、開口部43のすぐ直下に位置する。これは、湾曲部分202が、長尺部分201とは反対側に向かって凸(すなわち上向きに凸)にされているためであり、長尺部分201を体腔92の深部に向けて挿入すると、湾曲部分202は体表面の近くに位置する。そのため、湾曲部分202を手で、または器具を用いて圧縮変形させるのは比較的容易であり、それにより、骨組構造体20を縮小状態にできる。また、切開創91の周囲の体壁90の強度が十分に高い場合には、単に開口部43から湾曲部分202を引っ張るだけでもよく、骨組構造体20が開口部43によって内向きに圧縮され、骨組構造体20は縮小状態になる。
シート部材30の下縁部32は、骨組構造体20の長尺部分の下端201bに取着されているので、骨組構造体20を体外に引き出すと、骨組構造体20に引っ張られてシート部材30も体外に引き出すことができる。
【0050】
(変形例1)
図16は、術領域確保装置10の第1の変形例を示す。本変形例に係る術領域確保装置101は、シート部材30に切断部36を設け、その切断部36を、骨組構造体20の隣接する長尺部分201の間に配置している点が異なる。その他の構成については、実施の形態1に係る術領域確保装置10と同様である。
【0051】
手術の内容によっては、術領域確保装置101により確保される術領域12内(図12参照)に位置する臓器だけでなく、術領域12の側方に位置する他の臓器に処置を施したい場合がある。本変形例に係る術領域確保装置101では、骨組構造体20の長尺部分201の間に、シート部材30に設けた切断部36が位置しているので、その切断部36を介して、術領域12の外側の臓器にアクセスすることができる。
【0052】
また、手術対象部位94である臓器が、術阻害物95である他の臓器と、管で連結されている場合がある。本変形例に係る術領域確保装置101であれば、手術対象部位94と術阻害物95との間にシート部材30の切断部36を配置することにより、手術対象部位94を術領域12の内側に配置し、術阻害物95を術領域12の外側に配置することができる。
【0053】
(変形例2)
図17は、術領域確保装置の第2の変形例を示す。本変形例に係る術領域確保装置102は、シート部材30が2つのシート部材を含む点が異なる。その他の構成については、術領域確保装置10と同様である。
【0054】
図17に示すように、術領域確保装置102のシート部材30は、展開状態において、長尺部分201の外側に配置される第1のシート部材(外側シート部材)301と、長尺部分201の内側に配置される第2のシート部材(内側シート部材)302とを含んでいる。第1のシート部材301については、上縁部は環状部材40に取着され、下縁部3012は骨組構造体20の長尺部分の下端201bに取着されている。一方、第2のシート部材302については、上縁部は環状部材40に取着されているが、下縁部3022は骨組構造体20に固定されていない。これにより、骨組構造体20は、環状部材40の開口部43を通して貯水部材50の内部に収納することが可能になっている。
【0055】
術領域確保装置102の使用時には、吸引配管62の吸引口621を、外側シート部材301と内側シート部材302との隙間303に配置する。これにより、術領域12(主に、骨組構造体20の内部)における灌流液Lの整流効果を高めることができる。よって、手術中に灌流液Lの濁りを抑制することが期待できる。整流効果について、図18を参照しながら詳細に説明する。
【0056】
図18(a)、(b)とも、貯水部材50に貯留された灌流液Lは、環状部材40の開口部43を通って、体腔92に流入する。
術領域確保装置10の場合、図18(b)に示すように、吸引配管62はシート部材30の内部に配置され、吸引口621の一点に向かって灌流経路FL1が生じる。そのため、吸引口621の近傍では、乱流が生じる恐れがある。
一方、本変形例の術領域確保装置102の場合、図18(a)に示すように、吸引配管62の吸引口621は、外側シート部材301と内側シート部材302との隙間303に配置される。灌流液Lの灌流経路FL2は、外側シート部材301の下縁部3012と内側シート部材302の下縁部3022との間の細長い領域に向かって広い範囲で吸引された後に、吸引口621から吸引される。つまり、術領域12においては、乱流が生じにくくなっている。
【0057】
このように、本変形例では、骨組構造体20の内部での灌流液Lの整流効果が期待でき、手術中の出血による灌流液Lの濁りを低減することができる。
【0058】
以下に、実施の形態1および変形例1〜2の各構成部材に適した材料を説明する。なお、体内に挿入して使用されるものであるので、各構成部材に使用できる材料は、滅菌可能で、生体安全性の高い材料であることが必要である。
【0059】
(長尺部分201、湾曲部分202)
長尺部分201および湾曲部分202は、中空の長尺部材(チューブ)または中実の長尺部材を使用することができる。
チューブとしては、例えば、塩化ビニル、ポリエチレン、フッ素樹脂、シリコーンゴム、合成ゴム、天然ゴム、ポリウレタン等の樹脂から成る弾性チューブ、ステンレス、形状記憶合金等の金属から成る塑性変形可能なチューブを使用できる。
中実の長尺部材としては、例えば塩化ビニル、ポリエチレン、フッ素樹脂、シリコーンゴム、合成ゴム、天然ゴム、ポリウレタン等の樹脂から成るワイヤ、ステンレス等の金属から成るワイヤを使用できる。
特に、シリコーンゴム、ポリエチレン、ポリウレタンから成るチューブは、高い安定性と生体適合性を有するため好適である。
【0060】
なお、3本以上の長尺部分201は、全て同じ材料から形成しても、一部または全部を別の材料から形成してもよい。
3本以上の湾曲部分202は、一部または全部を別の材料から形成してもよいが、全てを同じ材料から形成すると、骨組構造体20の展開および縮小を等方的に行いやすいので好ましい。
長尺部分201と湾曲部分202は、別の材料から形成することもできるが、同じ材料から形成するのが好ましい。
【0061】
(シート部材30、第1のシート部材301、第2のシート部材302)
シート部材30、第1のシート部材301、第2のシート部材302は、軟質なシート材料から形成することができる。好適なシート材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、シリコーンゴム、合成ゴム、天然ゴム、ポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂から成るシート材料が挙げられる。特に、透明なシート材料が好ましい。第1のシート部材301と第2のシート部材302は同じシート材料から形成してもよく、または別のシート材料から形成してもよい。
【0062】
(固定部材26)
固定部材26としては、滅菌可能で、かつ2本のチューブを固定できるものであればよく、例えば樹脂製結束バンド、手術用縫合糸、金属ワイヤ、金属製コネクタ、医療用接着剤等を利用できる。
【0063】
(環状部材40)
環状部材40としては、例えば、金属製開創器、合成樹脂製開創器(例えばシリコーンゴム製開創器等)等を利用できる。特に、シリコーンゴム製開創器は、切開創に密着させることができるので、術領域確保装置を水中手術に使用する際に、水漏れを抑制することができる。
【0064】
(貯水部材50)
貯水部材50は、シート材料から形成することができる。好適なシート材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、シリコーンゴム、合成ゴム、天然ゴムポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂等から成るシート材料が挙げられる。また、貯水部材50を自立可能にするために、枠体を設けてもよい。
【0065】
以上、本発明に係るいくつかの実施形態について例示したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意のものとすることができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0066】
10 術領域確保装置
12 術領域
20 骨組構造体
21、22、23、24 チューブ
201 長尺部分
202 湾曲部分
26 固定部材
30 シート部材
40 環状部材
50 貯水部材
70 円筒部材
90 体壁
91 切開創
92 体腔
【要約】
【課題】体腔92内への挿入、体腔92内での展開、および体腔92外への取り出しが容易な術領域確保装置10を提供する。
【解決手段】本発明は、体腔92内で展開することにより、術領域12を確保するための術領域確保装置10であって、展開状態において放射状に伸びている少なくとも3つの長尺部分201と、前記長尺部分201と同数の湾曲部分202とを含み、隣接する2つの前記長尺部分201の各対は、それらの一端で、前記湾曲部分202により接続されており、前記湾曲部分202は、前記長尺部分201とは反対側に向かって凸となっており、前記展開状態において、前記湾曲部分202は周状に並び、前記湾曲部分202を変形させることにより、隣接する前記長尺部分201の間の距離を近接させた縮小状態と、前記長尺部分201の間の距離を拡大させた前記展開状態と、を取ることができる。
【選択図】図12
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18