特許第5940204号(P5940204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5940204
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】塗膜剥離剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 9/04 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
   C09D9/04
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-182572(P2015-182572)
(22)【出願日】2015年9月16日
【審査請求日】2015年9月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515165867
【氏名又は名称】株式会社オフィス・エー・ティー
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】久保田 寿治
(72)【発明者】
【氏名】長 健太郎
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102675956(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102337053(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102850841(CN,A)
【文献】 特開平09−151341(JP,A)
【文献】 特開2001−098191(JP,A)
【文献】 特開2005−046770(JP,A)
【文献】 特開昭57−023063(JP,A)
【文献】 特開平05−171076(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102964902(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
C11D 1/00− 19/00
B05D 1/00− 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜を剥離するために用いられる塗膜剥離剤であって、
80〜95重量%のジクロロメタンと、
2〜10重量%の脂肪族アルコールまたは芳香族アルコールと、
0.01〜1重量%のポリオキシアルキレンアルキルエーテルと、
0.5〜3重量%のモノイソプロパノールアミンと、
0.01〜5重量%の増粘剤と、
を含有することを特徴とする塗膜剥離剤。
【請求項2】
前記脂肪族アルコールは、1〜9重量%のイソプロピルアルコールと、1〜9重量%のメタノールとを含む請求項1に記載の塗膜剥離剤。
【請求項3】
前記塗膜剥離剤の粘度は、10〜7000mPa・sである請求項1または2に記載の塗膜剥離剤。
【請求項4】
前記塗膜剥離剤の1%水溶液のpHは、7〜11である請求項1ないし3のいずれかに記載の塗膜剥離剤。
【請求項5】
所定量のワックスをさらに含有する請求項1ないし4のいずれかに記載の塗膜剥離剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜剥離剤に関し、特に、船体に塗装された塗膜を剥離するための剥離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、塗膜の剥離剤として、非塩素系溶剤を含む剥離剤が一般的に用いられている(例えば、特許文献1)。このような剥離剤は、塗膜を剥離する力(剥離力)が小さいため、例えば、船体の甲板などに塗装された厚く、硬い塗膜を剥離することができない。また、このような剥離剤では、可燃性の溶剤を主成分として用いているため、その取扱いに十分に注意を払わなければならない。
【0003】
一方で、ジクロロメタンなどの塩素系溶剤を主成分とする塗料剥離剤も知られている(例えば、特許文献2)。しかしながら、この塗料剥離剤も、剥離力が十分でないため、厚く、硬い塗膜を剥離することができない。また、この塗料剥離剤は、強アルカリ性であるため、塗装されている母材を腐食するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−203403号公報
【特許文献2】特開平5−171076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、取扱いが簡単で、厚く、硬い塗膜を簡単に剥離することができ、母材に影響を与えない塗膜剥離剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、以下の(1)〜(5)の本発明により達成される。
(1)本発明の塗膜剥離剤は、塗膜を剥離するために用いられる塗膜剥離剤であって、70〜95重量%のジクロロメタンと、2〜18重量%の剥離促進剤と、0.01〜1重量%の界面活性剤と、0.5〜5重量%のアミン類と、0.01〜5重量%の増粘剤と、を含有することを特徴とする。
【0007】
(2)本発明の塗膜剥離剤において、前記剥離促進剤は、1〜9重量%のイソプロピルアルコールと、1〜9重量%のメタノールとを含むことが好ましい。
【0008】
(3)本発明の塗膜剥離剤において、前記塗膜剥離剤の粘度は、10〜7000mPa・sであることが好ましい。
【0009】
(4)本発明の塗膜剥離剤において、前記塗膜剥離剤の1%水溶液(分散液)のpHは、7〜11であることが好ましい。
【0010】
(5)本発明の塗膜剥離剤において、所定量のワックスをさらに含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、厚く、硬い塗膜であっても、塗りつけるだけで簡単に塗膜を剥離することができる。また、本発明の塗膜剥離剤は、取扱いが簡単で、母材に影響を与えない。そのため、塗装を剥離する作業に従事する者の負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1で得られた塗膜剥離剤と、市販の剥離剤とを多重塗装膜に塗布した後、10分経過したときの多重塗装膜の状態を示す写真である。
図2図2は、実施例1で得られた塗膜剥離剤と、市販の剥離剤とを多重塗装膜に塗布した後、5分経過したときの多重塗装膜の状態を示す写真である。
図3図3は、実施例1で得られた塗膜剥離剤と、市販の剥離剤とを多重塗装膜に塗布した後、15分経過したときの多重塗装膜の状態を示す写真である。
図4図4は、実施例1で得られた塗膜剥離剤と、市販の剥離剤とを多重塗装膜に塗布した後、24時間経過したときの多重塗装膜の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の塗膜剥離剤について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
<塗膜剥離剤>
まず、本発明の塗膜剥離剤について説明する。本発明の塗膜剥離剤は、70〜95重量%のジクロロメタンと、2〜18重量%の剥離促進剤と、0.01〜1重量%の界面活性剤と、0.5〜5重量%のアミン類と、0.01〜5重量%の増粘剤とを含む。このような塗膜剥離剤は、各成分が互いに干渉しない適切な量で含まれているため、船体等に使用されるような厚く、硬い塗膜であっても簡単に剥離することができ、母材(例えば、船体の甲板、壁、手すり等)に影響を与える(例えば、腐食等)ことがない。
【0014】
(ジクロロメタン)
ジクロロメタンは、本発明の塗膜剥離剤の主成分であり、塗膜を剥離するよう作用する。ジクロロメタンは引火点がないため、安全性や作業性に優れる。ジクロロメタンの含有率は、塗膜剥離剤全体に対して70〜95重量%であるが、80〜95重量%が好ましく、85〜95重量%がより好ましく、85〜90重量%が最も好ましい。ジクロロメタンの含有率が前記範囲内であることにより、塗膜剥離剤に十分な量のジクロロメタンが含まれるため、塗膜を確実に剥離することができる。
【0015】
(剥離促進剤)
剥離促進剤は、塗膜に浸透するよう作用する。すなわち、剥離促進剤は、塗膜に浸透することで、ジクロロメタンを塗膜の内部に浸透させるように作用する。これにより、塗膜の表面からだけでなく、塗膜の内部からも、塗膜の剥離を行うことができる。このような剥離促進剤は、脂肪族アルコールや芳香族アルコールを含む。
【0016】
具体的に、脂肪族アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールなどの直鎖アルコール;イソプロピルアルコール、ネオペンチルアルコール、t−ブタノールなどの分岐アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタメチレングリコール、グリセリン、濃グリセリン、ジグリセリン、ソルビット、マルチトール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、キシリトールなどの多価アルコール等を含む。これらは、1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0017】
芳香族アルコールは、ベンジルアルコール、2−エチルベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ヒドロキシベンジルアルコール、メトキシフェニルメタノール、ジヒドロキシフェニルメタノール等を含む。これらは、1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0018】
これらの剥離促進剤のうち、脂肪族アルコールが好ましく、メタノールやイソプロピルアルコールが特に好ましい。これらのアルコールは、分子量が小さく、構造が嵩高くないため、塗膜に簡単に浸透することができる。
【0019】
また、2種以上の剥離促進剤を組み合わせて使用する場合(第1のアルコールと第2のアルコール)、直鎖アルコールと直鎖アルコール、直鎖アルコールと分岐アルコール、直鎖アルコールと多価アルコール、分岐アルコールと多価アルコール、多価アルコールと芳香族アルコール等、その組合せは限定されない。本発明においては、直鎖アルコールと分岐アルコールの組合せが好ましく、特にメタノールとイソプロピルアルコールの組合せが好ましい。これらのアルコールは、分子量が小さく、適度な数のメチル基を有しているため、塗膜に確実に浸透することができる。
【0020】
また、剥離促進剤の含有率は、塗膜剥離剤全体に対して2〜18重量%であるが、2〜15重量%が好ましく、3〜10重量%が最も好ましい。剥離促進剤の含有率が前記範囲内であることにより、塗膜剥離剤に適切な量の剥離促進剤が含まれるため、塗膜に対する浸透性を向上させることができる。
【0021】
また、2種以上の剥離促進剤を組み合わせて使用する場合、例えば、第1のアルコールの含有率は、塗膜剥離剤全体に対して1〜9重量%であることが好ましく、2〜8重量%であることがより好ましく、3〜7重量%であることが最も好ましい。一方、第2のアルコールの含有率は、塗膜剥離剤全体に対して1〜9重量%であることが好ましく、2〜8重量%であることがより好ましく、3〜7重量%であることが最も好ましい。
【0022】
(界面活性剤)
界面活性剤は、剥離促進剤とともに塗膜に浸透するよう作用する。すなわち、界面活性剤の親水基と疎水基の作用により、ジクロロメタンやアミン類などを剥離促進剤とともに塗膜に浸透させるように作用する。これにより、ジクロロメタンやアミン類が塗膜内部に浸透するので、塗膜の内部からも、塗膜の剥離を行うことができる。その結果、塗膜を簡単かつ確実に剥離することができる。
【0023】
界面活性剤は、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤を含む。これらの中でも、ノニオン界面活性剤が特に好ましい。ノニオン界面活性剤は、ハンドリング性も良く、浸透力に優れるため、ジクロロメタンを塗膜の内部に確実に浸透させることができる。
【0024】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコシド、アルキルグリセリルグリコシド、メチルグルコシド脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは浸透力に特に優れるため、ジクロロメタンを塗膜の内部に確実に浸透させることができる。
【0025】
アニオン界面活性剤としては、デオキシコール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム塩、コール酸ナトリウム水和物、N−ラウロイルサルコシンナトリウム塩、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸リチウム、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級脂肪酸エステルスルホン酸塩等が挙げられる。
【0026】
カチオン界面活性剤としては、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ミリスチルトリメチルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0027】
両性界面活性剤としては、N−ドデシル−N,N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホン酸、3−(N,N−ジメチルパルミチルアンモニオ)プロパンスルホン酸、3−(N,N−ジメチルオクチルアンモニオ)プロパンスルホン酸分子内塩、アルキルベタイン系活性剤、アミドベタイン系活性剤、スルホベタイン系活性剤、アミノプロピオン酸系活性剤、アミノ酸系活性剤等が挙げられる。
【0028】
なお、これらの界面活性剤は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。具体的に、ノニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤の組合せ、アニオン界面活性剤と両性界面活性剤の組合せ、ノニオン界面活性剤とカチオン界面活性剤の組合せ、ノニオン界面活性剤と両性界面活性剤との組合せ等、自由に組み合わせることができる。
【0029】
また、界面活性剤の含有率は、塗膜剥離剤全体に対して0.01〜1重量%であるが、0.05〜0.8重量%が好ましく、0.1〜0.6重量%が最も好ましい。界面活性剤の含有率が前記範囲内であることにより、塗膜剥離剤に適切な量の界面活性剤が含まれるため、塗膜に対する浸透性を向上させることができる。
【0030】
(アミン類)
アミン類は、塗膜剥離剤が強アルカリ性にならないよう作用する。また、アミン類は、剥離力向上にも作用する。これにより、塗膜剥離剤が強アルカリ性にならないため、塗装されている母材への影響を最小限に抑えるとともに、ジクロロメタンとの相乗効果で塗膜を簡単に剥離することができる。
【0031】
アミン類は、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン等の1級アミン、ジエタノールアミン、N−メチルモノエタノールアミン、N−エチルモノエタノールアミン、N−ブチルモノエタノ−ルアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン等の2級アミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノ−ルアミン等の3級アミン等を含む。
【0032】
これらのアミン類のうち、モノエタノールアミンやモノイソプロパノールアミン等の1級アミンと、ジエタノールアミン等の2級アミンが好ましく、1級アミンのモノイソプロパノールアミンが特に好ましい。モノイソプロパノールアミンは塗膜に対して高い剥離力を有するため、ジクロロメタンとの相乗効果により、塗膜を確実に剥離することができる。
【0033】
また、アミン類の含有率は、塗膜剥離剤全体に対して0.5〜5重量%であるが、0.5〜4重量%が好ましく、0.8〜3重量%がより好ましく、1〜2重量%が最も好ましい。アミン類の含有率が前記範囲内であることにより、塗膜剥離剤に適切な量のアミン類が含まれるため、塗膜に対する剥離力を向上させることができる。
【0034】
(増粘剤)
増粘剤は、塗膜剥離剤の粘度を調整するよう作用する。これにより、粘度が異なる塗膜剥離剤を調製することができるので、床のように水平部材に対する塗膜だけでなく、壁や天井等のような鉛直部材に対する塗膜であっても、確実に塗膜を剥離できる塗膜剥離剤を調製することができる。
【0035】
このような増粘剤としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ブチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系増粘剤;カラギーナン、アラビアガム、キサンタンガムなどのガム;ポリサッカライド;寒天などのアルギン酸塩;ヒドロキシアルキルセルロースエーテルなどのセルロースエーテル;アクリル酸コポリマー;ポリエチレングリコールなどのポリエチレンオキサイド;ポリビニルアルコール;デンプンなどが挙げられる。
【0036】
これらの増粘剤のうち、セルロース系増粘剤が好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロースがより好ましい。セルロース系増粘剤、特に、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、生理的に無害で、化学的に不活性であるため、安全かつ簡単に取扱うことができる。また、両親媒性であることから、主成分であるジクロロメタンや剥離促進剤と適切に混和し、凝集物を抑えることができる。その結果、塗膜剥離剤の粘度を自由に調節することができる。
【0037】
増粘剤の含有率は、塗膜剥離剤全体に対して0.01〜5重量%であるが、0.05〜3重量%が好ましく、0.1〜3重量%がより好ましく、0.1〜2重量%が最も好ましい。増粘剤類の含有率が前記範囲内であることにより、塗膜剥離剤に適切な量の増粘剤が含まれるため、塗膜剥離剤の粘度を適切に設定することができる。
【0038】
したがって、高粘度タイプの塗膜剥離剤を調製する場合、増粘剤の含有率は、塗膜剥離剤全体に対して0.05〜5重量%であることが好ましく、0.08〜3重量%であることがより好ましく、1.0〜2重量%であることが最も好ましい。一方、低粘度タイプの塗膜剥離剤を調製する場合、増粘剤の含有率は、塗膜剥離剤全体に対して0.01〜3重量%であることが好ましく、0.05〜2重量%であることがより好ましく、0.1〜1重量%であることが最も好ましい。
【0039】
(その他の成分)
本発明の塗膜剥離剤は、上記成分以外にもその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分として、パラフィンワックスなどのワックス、pH調整剤、防腐剤、防錆剤等の添加物、水(蒸留水、イオン交換水)などを含んでいてもよい。特に、ワックスの含有率は、塗膜剥離剤全体に対して0.01〜5重量%であるが、0.05〜3重量%が好ましく、0.1〜2重量%がより好ましく、0.1〜1重量%が最も好ましい。ワックスの含有率が前記範囲内であることにより、ワックスが塗膜剥離剤の表面を覆うため、塗膜剥離剤中に含まれる各成分の揮発を防止することができる。
【0040】
以上のような成分を含む塗膜剥離剤の20℃での粘度は、10〜7000mPa・sであるが、50〜7000mPa・sであることが好ましく、100〜6000mPa・sであることがより好ましい。これにより、高粘度タイプの塗膜剥離剤や低粘度タイプの塗膜剥離剤を自由に調製することができる。
【0041】
高粘度タイプの塗膜剥離剤の粘度は、2000〜7000mPa・sであることが好ましく、3000〜7000mPa・sであることがより好ましく、3000〜6500mPa・sであることが最も好ましい。塗膜剥離剤の粘度がこのような粘度範囲であると、塗膜剥離剤は、塗膜上に長時間留まることができるため、上記成分と塗膜との接触時間が長くなり、結果として、確実に塗膜を剥離することができる。
【0042】
一方、低粘度タイプの塗膜剥離剤の粘度は、10〜3000mPa・sであることが好ましく、30〜1000mPa・sであることがより好ましく、50〜500mPa・sであることが最も好ましい。塗膜剥離剤の粘度がこのような粘度範囲であると、塗膜剥離剤の流動性が上がるため、塗膜剥離剤が塗膜中に浸透し易くなり、結果として、塗膜の内部から確実に塗膜を剥離することができる。
【0043】
塗膜剥離剤の1%水溶液(分散液)におけるpHは、7.0〜11.0であるが、7.0〜10.0であることが好ましく、7.0〜9.0であることがより好ましい。これにより、塗膜剥離剤が略中性となるため、塗膜が形成される母材への影響を最小限に抑えることができる。
【0044】
本発明の塗膜剥離剤を水平面に塗布した場合における塗膜剥離剤の付着量は、10〜700g/mであることが好ましい。これにより、塗膜に十分な量の塗膜剥離剤が付着するので、厚くて硬い塗膜を確実に剥離することができる。
【0045】
高粘度タイプの塗膜剥離剤の付着量は、100〜700g/mであることが好ましく、200〜600g/mであることがより好ましく、300〜500g/mであることが最も好ましい。付着量がこのような範囲内であると、水平面でない部分にも十分な量の塗膜剥離剤が付着するため、塗膜剥離剤と塗膜との接触時間が長くなり、結果として、確実に塗膜を剥離することができる。
【0046】
一方、低粘度タイプの塗膜剥離剤の付着量は、10〜70g/mであることが好ましく、20〜60g/mであることがより好ましく、25〜50g/mであることが最も好ましい。付着量がこのような範囲内であると、塗膜剥離剤が塗膜内に容易に浸透することができるので、塗膜内部からも確実に塗膜を剥離することができる。
なお、本発明の塗膜剥離剤は、透明から白濁粘性液体であり、引火点はない。
【0047】
以上のような塗膜剥離剤は、例えば、船体で用いられる塗膜のように、剥離したい塗膜がエナメルやケイ砂等を含む塗料で5層から10層に塗装されたような厚くて硬い塗膜(滑り止め塗膜)であっても、塗膜に塗布しただけで、塗膜の内部に浸透して、塗膜の内部からも剥離が行われるので、簡単かつ確実に塗膜を剥離することができる。その際、本発明の塗膜剥離剤は略中性であるため、塗膜の母材に悪影響を与えることがない。
【0048】
なお、本発明の塗膜剥離剤は、ジクロロメタンと、剥離促進剤と、界面活性剤と、アミン類と、増粘剤とからなっていてもよいし、これらとワックスとからなっていてもよい。
【0049】
<塗膜剥離剤の製造方法>
次に、本発明の塗膜剥離剤の製造方法について説明する。本発明の塗膜剥離剤の製造方法は、ジクロロメタンと、界面活性剤とを混合して第1の混合液を得る工程(第1の工程)と、第1の混合液に増粘剤を加え、分散液を得る工程(第2の工程)と、分散液に剥離促進剤とアミン類とを混合し、第2の混合液を得る工程(第3の工程)と、第2の混合液を所定の時間撹拌し、塗膜剥離剤を得る工程(第4の工程)とを含む。以下、各工程を詳細に説明する。
【0050】
(第1の工程)
第1の工程は、ジクロロメタンと、界面活性剤とを容器内で混合し、第1の混合液を得る工程である。ジクロロメタンと界面活性剤とを容器に入れる順番は特に限定されず、どちらが先であってもよく、同時であってもよい。ジクロロメタンと界面活性剤との混合は、撹拌しながら行われる。
【0051】
混合する温度は、特に限定されないが、10〜30℃程度が好ましい。また、混合する時間は、ジクロロメタンと界面活性剤とが完全に混合される限り特に限定されないが、1〜10分程度が好ましい。
【0052】
本工程においては、ワックスが混合液に加えられてもよい。すなわち、本工程は、ワックスを混合する工程を含んでいてもよい。この場合、ワックスは、上記混合が完了した後、混合中、または混合を開始する前のいずれの段階で容器に加えられてもよい。なお、ワックスが固形である場合、混合前に予め融かしておくことが好ましい。混合する温度が前記範囲内であれば、ジクロロメタンがワックスと十分に混和するので、均一に混合された混合液を得ることができる。
【0053】
(第2の工程)
第2の工程は、第1の工程で得られた第1の混合液に、増粘剤を混合し、分散液を得る工程である。増粘剤の混合は、第1の混合液を撹拌しながら行われる。
【0054】
混合する温度は、特に限定されないが、10〜30℃程度が好ましい。また、混合する時間は、混合液と増粘剤とが完全に混合される限り特に限定されないが、1〜10分程度が好ましい。
【0055】
(第3の工程)
第3の工程は、第2の工程で得られた分散液に、剥離促進剤と、アミン類とを混合し、第2の混合液を得る工程である。剥離促進剤とアミン類とを分散液に混合する順番は特に限定されず、どちらが先であってもよく、同時であってもよい。また、剥離促進剤が2種以上組合せて用いられる場合も各剥離促進剤を分散液に混合する順番は特に限定されず、どちらが先であってもよく、同時であってもよい。すなわち、第3の工程は、一方の剥離促進剤を分散液に加える工程と、他方の剥離促進剤を分散液に加える工程とを含んでいてもよい。なお、剥離促進剤およびアミン類と、分散液との混合は、撹拌しながら行われる。
【0056】
混合する温度は、特に限定されないが、10〜30℃程度が好ましい。また、混合する時間は、剥離促進剤とアミン類とが分散液に完全に混合される限り特に限定されないが、1〜10分程度が好ましい。
【0057】
(第4の工程)
第4の工程は、第3の工程で得られた第2の混合液を所定の時間撹拌し、塗膜剥離剤を得る工程である。所定の時間は、第2の混合液の増粘が完了する限り特に限定されないが、1〜10分程度であることが好ましく、3〜8分程度であることがより好ましい。また、撹拌時の温度は、特に限定されないが、10〜30℃程度が好ましい。
【0058】
また、撹拌の圧力も特に限定されないが、1atmの標準状態圧力程度であることが好ましい。第2の混合液の撹拌は、回転数が200〜8000rpmとなるように実行されることが好ましく、回転数が300〜5000rpmとなるように実行されることがより好ましい。これにより、短時間で十分に撹拌することができる。
【0059】
なお、撹拌の圧力および撹拌の回転数は、第1の工程〜第3の工程での撹拌にも同様に適用される。
以上のような工程を経て、本発明の塗膜剥離剤が得られる。
【0060】
以上、本発明の塗膜剥離剤および塗膜剥離剤の製造方法について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、塗膜剥離剤を構成する各成分は、同様の機能を発揮し得る任意の成分と置換することができる。また、任意の成分が塗膜剥離剤に付加されていてもよい。また、本発明では、前記第1〜第4の工程の前、間または後に、任意の工程を追加するようにしてもよい。
【0061】
また、本発明の塗膜剥離剤は、船舶、航空、車両、建物、壁、手すり等、あらゆる種類の母材に塗布される塗膜を剥離するために用いられる。特に、後述するように、船舶には多重塗装膜が使用されているため、高い剥離力を有する本発明の塗膜剥離剤は船舶に使用される塗膜に適している。
【実施例】
【0062】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.塗膜剥離剤の製造
(実施例1)
まず、容器に18.1kgのジクロロメタンを入れた。これを撹拌しながら、ノニオン界面活性剤であるノイゲンXL80(第一工業製薬株式会社製)の0.1kgを加えた。これに、予め融かしておいたパラフィンワックス150(日本精蝋株式会社製)の0.2kgをさらに加え、混合液(第1の混合液)を得た。次に、混合液を撹拌しながら、増粘剤であるマーポローズM−4000(松本油脂製薬株式会社製)の0.1kgを混合液に加え、分散液を得た。次に、分散液を撹拌しながら、0.8kgのイソプロピルアルコール(昭栄ケミカル株式会社製)と、1.0kgのメタノール(協和化工株式会社製)と、0.3kgのモノイソプロパノールアミン(安藤パラケミー株式会社製)とを分散液に続けて加え、約5分間撹拌した。これにより、塗膜剥離剤(低粘度タイプの塗膜剥離剤)を得た。
【0063】
なお、塗膜剥離剤中、ジクロロメタンは87.86重量%、ノイゲンXL80は0.49重量%、パラフィンワックス150は0.97重量%、マーポローズM−4000は0.49重量%、イソプロピルアルコールは3.88重量%、メタノールは4.85重量%、モノイソプロパノールアミンは1.45重量%であった。
【0064】
また、塗膜剥離剤の1%水溶液のpHは8.5(23℃)であり、塗膜剥離剤の20℃での粘度は141mPa・sであった。なお、pHの測定はJIS Z 8802−1964に従って行い、粘度の測定はB型粘度計(東京計器株式会社製)を用いて、JOCS 2.3.9.5−71またはJIS Z8803の規定に従って行った。
【0065】
(実施例2)
まず、容器に17.9kgのジクロロメタンを入れた。これを撹拌しながら、ノニオン界面活性剤であるノイゲンXL80(第一工業製薬株式会社製)の0.1kgを加えた。これに、予め融かしておいたパラフィンワックス150(日本精蝋株式会社製)の0.2kgをさらに加え、混合液(第1の混合液)を得た。次に、混合液を撹拌しながら、増粘剤であるマーポローズM−4000(松本油脂製薬株式会社製)の0.3kgを混合液に加え、分散液を得た。次に、分散液を撹拌しながら、0.8kgのイソプロピルアルコール(昭栄ケミカル株式会社製)と、1.0kgのメタノール(協和化工株式会社製)と、0.3kgのモノイソプロパノールアミン(安藤パラケミー株式会社製)とを分散液に続けて加え、約5分間撹拌した。これにより、塗膜剥離剤(高粘度タイプの塗膜剥離剤)を得た。
【0066】
なお、塗膜剥離剤中、ジクロロメタンは86.89重量%、ノイゲンXL80は0.49重量%、パラフィンワックス150は0.97重量%、マーポローズM−4000は1.45重量%、イソプロピルアルコールは3.88重量%、メタノールは4.85重量%、モノイソプロパノールアミンは1.45重量%であった。
【0067】
また、塗膜剥離剤の1%水溶液のpHは8.5(23℃)であり、塗膜剥離剤の20℃での粘度は5400mPa・sであった。なお、pHの測定はJIS Z 8802−1964に従って行い、粘度の測定はB型粘度計(東京計器株式会社製)を用いて、JOCS 2.3.9.5−71またはJIS Z8803の規定に従って行った。
【0068】
(比較例1)
ジクロロメタンを18.2kg、マーポローズM−4000を0.2g使用した以外は、実施例1と同様にして塗膜剥離剤(低粘度タイプの塗膜剥離剤)を得た。なお、塗膜剥離剤中、ジクロロメタンは88.35重量%、マーポローズM−4000は9.7×10−4重量%だった。また、塗膜剥離剤の20℃での粘度は4mPa・sであった。
【0069】
(比較例2)
ジクロロメタンを16.1kg、マーポローズM−4000を2.1kg使用した以外は、実施例2と同様にして塗膜剥離剤(高粘度タイプの塗膜剥離剤)を得た。この塗膜剥離剤は、増粘し過ぎ、ゼリー状の固体になった。そのため、B型粘度計のメーターが振り切れた。したがって、塗膜剥離剤の粘度は、100,000mPa・s以上であると推察される。なお、塗膜剥離剤中、ジクロロメタンは78.16重量%、マーポローズM−4000は10.19重量%だった。
【0070】
(比較例3)
ジクロロメタンをクロロホルム(関東化学株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして塗膜剥離剤(低粘度タイプの塗膜剥離剤)を得た。
【0071】
2.評価
2.1 付着量試験評価
実施例で得られた塗膜剥離剤および比較例で得られた塗膜剥離剤を水平面に塗布した場合に、十分な付着量があるか否か、試験片で評価した。
【0072】
まず、孔を有する金属試験片(表面積5696mm)を用意し、その重量を測定した。なお、金属試験片のサイズは、横40mm、縦70mm、厚さ0.8mm、孔の直径8mmである。次に、実施例および比較例で得られた塗膜剥離剤の300mlをそれぞれ300mlビーカーに入れ、よくかき混ぜた。その後、塗膜剥離剤の表面にたまった泡を取り除き、塗膜剥離剤の温度を20℃に設定した。次に、金属試験片を塗膜剥離剤に1分間浸漬させた。その後、100mm/分の速度で金属試験片を塗膜剥離剤から引き揚げた。この状態で、金属試験片の重量を測定した。塗膜剥離剤に金属試験片を浸漬する前と浸漬した後における金属試験片の重量から、金属試験片に対する塗膜剥離剤の付着量を計算し、金属試験片の表面積から1mあたりの付着量に換算した。その結果を表1に示す。
【0073】
表1から明らかなように、実施例1の低粘度タイプの塗膜剥離剤の付着量は10〜70g/mの範囲内にあり、実施例2の高粘度タイプの塗膜剥離剤の付着量は100〜700g/mの範囲内にあり、十分な付着量であることが分かった。これに対し、比較例1で得られた塗膜剥離剤の付着量は3.50g/mと不十分であった。また、比較例2で得られた塗膜剥離剤は、増粘しすぎて液状を保てず、ゼリー状の固体になったため、付着量試験を実施することができなかった。一方、比較例3で得られた塗膜剥離剤は、十分な付着量であることが分かった。
【0074】
2.2 塗膜剥離評価1
実施例で得られた塗膜剥離剤および比較例で得られた塗膜剥離剤が剥離性能を有しているか否か、試験片で評価した。
【0075】
まず、銅板に油性船舶用塗料を刷毛塗りして24時間以上乾燥させた。これを10回繰り返し、10層の塗膜を有する塗膜試験片を作成した。次に、実施例および比較例で得られた塗膜剥離剤を500g/mの塗布量でこの塗膜試験片に塗布した。その5分後、塗膜試験片の鉛筆高度をJIS K5600−5−4の塗料一般試験方法に従って測定した。なお、鉛筆はUni 6B(三菱鉛筆株式会社製)を用い、試験速度は30mm/分、荷重は750gで行った。結果を表1に示す。
【0076】
表1から明らかなように、実施例1、2で得られた本発明の塗膜剥離剤は、10層の塗膜を有する塗膜試験片であっても、確実に塗膜を剥離することができた。これに対し、比較例1、2、3で得られた塗膜剥離剤は、塗膜を剥離することができなかった。
【0077】
【表1】
【0078】
このように、実施例1、2で得られた塗膜剥離剤では、付着量および剥離性能ともに優れた結果が得られたが、比較例1、2で得られた塗膜剥離剤では、付着量および剥離性能ともに満足な結果が得られなかった。一方、比較例3で得られた塗膜剥離剤は、付着量は十分であったが、剥離性能がなかった。以上の結果から、実施例1、2の塗膜剥離剤のように、上述した本発明の所定の成分およびその含有量を満たすことで、付着量および剥離性能を両立できることが分かった。
【0079】
2.3 塗膜剥離評価2
次に、実施例で得られた塗膜剥離剤が剥離性能を有しているか否か、実際の船舶の甲板に塗装されている滑り止め用の多重塗装膜(以下、単に「多重塗装膜」という)で評価した。この時、比較対象として、市販の剥離剤も当該多重塗装膜で同様に評価した。
【0080】
まず、2つの異なる市販の剥離剤(株式会社中外ケミテック製、商品名「サプロテックP−2MS」、商品名「サプロテックSV−500」)を用意した。次に、甲板の滑り止め用多重塗装膜の一部に、実施例1で得られた低粘度タイプの塗膜剥離剤と、当該市販の剥離剤とを塗布した。その後、10分間放置し、金属ヘラで多重塗装膜を剥離した。その結果を図1に示す。
【0081】
図1(a)は、左から、市販の剥離剤(サプロテックP−2MS)、市販の剥離剤(サプロテックSV−500)、実施例1で得られた塗膜剥離剤を多重塗装膜に塗布した直後の多重塗装膜の状態を示す写真、図1(b)は、左から、市販の剥離剤(サプロテックP−2MS)、市販の剥離剤(サプロテックSV−500)、実施例1で得られた塗膜剥離剤を多重塗装膜に塗布した後、10分経過したときの多重塗装膜の状態を示す写真である。
【0082】
図1(b)から明らかなように、実施例1の塗膜剥離剤を塗布した多重塗装膜は、金属ヘラで簡単に剥離できることが分かった(図1(b)右側)。これに対し、サプロテックP−2MS、サプロテックSV−500を塗布した塗膜は、塗膜表面がゲル状になるのみで、金属ヘラを使用しても簡単に多重塗装膜を剥離することができなかった(図1(b)左側、真中)。なお、サプロテックSV−500を塗布した塗膜は、図1(b)の真中に示すように変色しているが、これは剥離剤「サプロテックSV−500」そのものの色を示している。
【0083】
2.4 塗膜剥離評価3
市販の剥離剤が株式会社中外ケミテックの製品名「サプロテックSV−500」であることと、塗布後の放置時間が24時間であることを除いて、塗膜剥離評価2と同様の方法で、実施例1で得られた塗膜剥離剤と、当該市販の剥離剤とを評価した。その結果を図2〜4に示す。
【0084】
図2(a)は、実施例1で得られた塗膜剥離剤を多重塗装膜に塗布した後、5分経過したときの多重塗装膜の状態を示す写真である。図2(b)は、市販の剥離剤を多重塗装膜に塗布した後、5分経過したときの多重塗装膜の状態を示す写真である。図3(a)は、実施例1で得られた塗膜剥離剤を多重塗装膜に塗布した後、15分経過したときの多重塗装膜の状態を示す写真である。図3(b)は、市販の剥離剤を多重塗装膜に塗布した後、15分経過したときの多重塗装膜の状態を示す写真である。図4(a)、(b)は、実施例1で得られた塗膜剥離剤を多重塗装膜に塗布した後、24時間経過したときの多重塗装膜の状態を示す写真である。図4(c)は、市販の剥離剤を多重塗装膜に塗布した後、24時間経過したときの多重塗装膜の状態を示す写真である。
【0085】
まず、図2(a)を参照すると、実施例1で得られた塗膜剥離剤を塗布した多重塗装膜は、塗布後5分で溶解が始まり、塗膜表面が浮き上がり、ゲル状になっていることが確認できた。一方、図2(b)を参照すると、市販の剥離剤を塗布した多重塗装膜は、塗布後5分経過しても全く変化がなかった。
【0086】
次に、図3(a)を参照すると、実施例1で得られた塗膜剥離剤を塗布した多重塗装膜は、塗布後15分で表面が完全に溶解し、スクレイパーで簡単に塗膜を剥離することができた。また、多重塗装膜の一部では、塗膜が母材から完全に浮き上がっていた。これに対し、図3(b)を参照すると、市販の剥離剤を塗布した多重塗装膜は、塗布後15分経過しても全く変化がなく、スクレイパーでは塗膜を剥離することができなかった。
【0087】
さらに、図4(a)、(b)を参照すると、実施例1で得られた塗膜剥離剤を塗布した多重塗装膜は、塗布後24時間で表面が完全に溶解し、多重塗装膜の80%が母材から浮き上がり、指で簡単に剥離することができた。また、残りの20%は、スクレイパーで簡単に剥離することができた。これに対し、図4(c)を参照すると、市販の剥離剤を塗布した多重塗装膜は、塗布後24時間で塗膜表面がわずかに溶解したが、スクレイパーでは塗膜を剥離することができなかった。
【0088】
以上のことから、実施例1、2で得られた本発明の塗膜剥離剤は、船体に使用される滑り止め用多重塗装膜のような厚く、硬い塗膜であっても、短時間に簡単に剥離することができることが分かった。したがって、剥離作業時間を大幅に短縮でき(市販品の約1/5)、作業者の負担を軽減することができる。特に、本発明の高粘度タイプの塗膜剥離剤は、船体の壁面や天井部などの垂直面で液だれがなく、効率的に使用することができる。
【0089】
また、本発明の塗膜剥離剤を用いれば、従来行われてきたエアースクレイパーによる塗膜剥離を行う必要がないため、エアースクレイパー振動による身体的負担が解消されるとともに、エアースクレイパー使用時に発生する粉じんの発生を抑制することができる。
【要約】
【課題】取扱いが簡単で、厚く、硬い塗膜を簡単に剥離することができ、母材に影響を与えない塗膜剥離剤を提供すること。
【解決手段】本発明の塗膜剥離剤は、塗膜を剥離するために用いられる塗膜剥離剤であって、70〜95重量%のジクロロメタンと、2〜18重量%の剥離促進剤と、0.01〜1重量%の界面活性剤と、0.5〜5重量%のアミン類と、0.01〜5重量%の増粘剤と、を含有することを特徴とする。これにより、厚く、硬い塗膜であっても、塗りつけるだけで簡単に塗膜を剥離することができる。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4