(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940210
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】回転式機械用の絶縁材料
(51)【国際特許分類】
H01B 3/00 20060101AFI20160616BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20160616BHJP
【FI】
H01B3/00 A
B82Y30/00
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-503814(P2015-503814)
(86)(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公表番号】特表2015-518242(P2015-518242A)
(43)【公表日】2015年6月25日
(86)【国際出願番号】EP2013056017
(87)【国際公開番号】WO2013149850
(87)【国際公開日】20131010
【審査請求日】2014年12月8日
(31)【優先権主張番号】102012205650.5
(32)【優先日】2012年4月5日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ペーター グレッペル
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン マイヒスナー
【審査官】
山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−351409(JP,A)
【文献】
特開2007−217623(JP,A)
【文献】
特開2007−027101(JP,A)
【文献】
特開2008−075069(JP,A)
【文献】
特開2005−126700(JP,A)
【文献】
特開2006−014490(JP,A)
【文献】
特開2002−118991(JP,A)
【文献】
特開2005−206665(JP,A)
【文献】
特開2005−206664(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0306203(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0191513(US,A1)
【文献】
JIS工業用語大辞典,2001年,第5版,pp.1434、1654
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/00
H02K 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、当該樹脂中に埋め込まれた、1〜300nmのD50平均直径を有するナノ粒子状充填材との調製物を含有する絶縁材料において、前記充填材が、少なくとも双峰性の粒径分布で存在し、前記樹脂に分散されたナノ粒子状充填材が、透過型電子顕微鏡で同定して、1.5dmax超の分布曲線の半値幅で存在することを特徴とする、前記絶縁材料。
【請求項2】
前記調製物が、樹脂をベースとし、前記樹脂が、熱により、及び/又は紫外光により重合可能であることを特徴とする、請求項1に記載の絶縁材料。
【請求項3】
前記充填材が、金属酸化物及び/又は半金属酸化物をベースとすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の絶縁材料。
【請求項4】
前記充填材が、前記調製物の1〜80質量%の量で存在することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の絶縁材料。
【請求項5】
回転式電気機械において巻取りコイルを含浸するための、請求項1から4までのいずれか1項に記載の絶縁材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁材料、及び回転式機械(例えばモーターや発電機)のための、当該絶縁材料の使用に関する。
【0002】
電気機械(例えばモーターや発電機)は、導電性部、電気絶縁部、及び固定子鉄心を有する。ここで絶縁系の信頼性は、その稼働安定性にとって非常に重要である。絶縁系には、導電性部(鋼線、コイル、シャフト)を持続的に、相互に、及び固定子鉄心に対して、又は周辺環境に対して絶縁するという役割がある。高電圧絶縁では、導電性部材間の絶縁性(導電性部材絶縁)、導体又は巻取り体の間の絶縁性(導体絶縁、又は巻取り体絶縁)、及び溝領域と巻き取りヘッド領域における導体と物質ポテンシャルの間の絶縁(メインの絶縁)が区別される。メインの絶縁の幅は、機械の定格電圧に、そして稼動条件と作成条件に適合されている。エネルギー生産のための将来的なプラントの競争力、その配分、及び利用は、絶縁のために使用する材料と適用技術に大きく依存している。
【0003】
このように電気的な負荷を受ける絶縁体における基本的な問題は、いわゆる部分放電による腐食である。機械の稼働時における機械的又は熱的な負荷は、絶縁部と電導性部との境界面に、又は絶縁部と固定子鉄心との境界面に中空を形成することがあり、この中空空間では、電気的な部分放電により火花が起こることがある。火花によっていわゆる「トリーイング」流路が絶縁部内に形成されることがある。形成されるトリーイング流路は、最終的には、絶縁体の電気的な破損につながりかねない。こうした背景から従来技術では、回転式機械(モーター、発電機、タービン発電機、水力発電機、風力発電機)におけるステーターの電圧を運ぶ導体を持続的に絶縁するため、雲母をベースとする絶縁部が使用されている。
【0004】
高圧及び中圧のモーターと発電機の場合、近年では層状にした雲母絶縁部が使用される。この場合、絶縁した伝導部材から製造される成形コイルに、雲母のバンドを巻き付け、事前に真空圧法(VPI=vacuum pressure impregnation)で合成樹脂により含浸させる。この場合、雲母は雲母紙の形で使用され、ここで含浸領域では、雲母紙中で各粒子の間に存在する中空空間が樹脂で充填される。含浸樹脂と雲母担体材料の結合によって、絶縁部の機械的な強度が得られる。電気的な強度は、使用する雲母の多数の固体−固体境界面から得られる。このようにして生成する有機材料と無機材料とから形成される層構造は、微視的な境界面を形成し、その部分放電及び熱応力に対する耐性は、雲母フレークの特性によって決まる。コストの高いVPI法によってまた、絶縁部における非常に小さい中空空間を樹脂で充填し無ければならず、内部の気体−固体境界面の数が最小化される。
【0005】
耐久性をさらに改善させるためには、ナノ粒子状充填材の使用が記載されている。文献から(また雲母を使用する際の経験から)、無機粒子は、ポリマー製絶縁材料とは異なり、部分放電作用の下では全く、又は非常に限定された範囲でしか、損傷又は破壊されない。この際、生成する腐食防止作用は特に、粒径と、粒径から生じる粒子表面に依存している。ここでは、粒子の比表面積が大きければ大きいほど、その分だけ粒子上での腐食防止作用が大きくなることが分かる。無機ナノ粒子は、非常に比表面積が大きく、50m
2/g又はそれ以上である。
【0006】
このためには基本的に、以下の技術が用いられる:
・真空圧含浸技術(VPI法)
・レジンリッチ技術。
【0007】
これら2つの技術の間の主な相違点は、コイルの本来の絶縁系の構成と、製造方法である。含浸と、空気循環式炉における巻取り体の硬化の後に初めて、VPI系が完成するのに対し、温度及び圧力とは別に、硬化されたレジンリッチコイルの脚部は、固定子への組み込み前に既に、機能を有する試験可能な絶縁系である。
【0008】
VPI法は、多孔質のベルトを用いて行われ、この方法では、真空下で引き続き、含浸容器を過圧にし、空気循環式炉で硬化させた後に、固体で連続的な絶縁系が形成される。
【0009】
これとは逆に、レジンリッチなコイルは、コストが高い。と言うのも、それぞれのコイル脚部又はコイルロッドはそれぞれ、特別な背圧で製造しなければならず、このことが、各コイルのコスト増加につながるのである。この際に、ポリマー製の絶縁材料で含浸された雲母ベルトが使用され、これはいわゆるB状態で存在する。これはつまり、ポリマー(たいていは芳香族エポキシド樹脂:BADGE、BFDGE、エポキシ化されたフェノールノボラック、エポキシ化されたクレゾールノボラック、及び無水物、又はアミンを硬化剤として)が、部分的に架橋しているため、粘着性を有さない状態となるが、もう一度加熱すると再度溶融し、最後に硬化させることができ、最終的な形にできるということである。樹脂は過剰で導入されるため、最終的なプレスに際して、樹脂は全ての中空空間と空洞に流れ込み、相応する絶縁品質が得られる。過剰な樹脂は、プレス工程によって装入物からプレスされる。文献からは、ナノ粒子状の充填材料をポリマーの絶縁材料中で使用することにより、電気的な寿命に関して、絶縁性の著しい改善につながることが公知である。
【0010】
EP 1366112 B1は、ナノ粒子状ポリマーの製造及び特性を記載するシステムを記載している。ここには、二酸化ケイ素をベースとするナノ粒子状充填材料を有するポリマーであって、分布曲線の最大半値幅が1.5d
maxであるものが、記載されている。
【0011】
ここで提案された解決法の欠点は、ここで提案された絶縁がなお、不活性層の形成という観点においてまだ最適ではないことである。不活性層が絶縁材料の適用により形成されるのは、ナノ粒子で充填したポリマーが、部分放電にさらされる場合である。部分放電の負荷の下では、ポリマーマトリックスが分解し、充填材料(例えばナノ粒子)を放出し、表面上に強固な接着層が形成され、これにより絶縁体で被覆された物体が不活性化される。前述のEP 1366112 B1の場合、不活性層の形成には長い時間がかかり、アグロメレート化は不完全である。
【0012】
よって本発明の課題は、部分放電作用、及びポリマーマトリックスの分解に際して、腐食に対して不活性な保護層の形成を有利にする、絶縁材料のための充填材を提供することである。
【0013】
前記課題の解決方法、及び本発明の対象は、樹脂と、当該樹脂中に埋め込まれたナノ粒子状充填材とを含有する調製物を有する絶縁材料であって、その特徴は、前記充填物質が、少なくとも双峰性のサイズ分布で存在することである。本発明の対象はさらに、回転式電気機械(好適には発電機)における巻取りコイルを含浸するための、本発明による絶縁材料の使用である。
【0014】
これは好ましくは、熱により、及び/又は紫外光により重合可能な調製物を含有する絶縁材料であって、当該調製物は、前記調製物中に分散されたナノ粒子状の充填材を有し、ここで分布曲線の半値幅は、透過型電子顕微鏡により同定して、1.5d
max超である。
【0015】
本発明に共通する知見は、非充填性の、又は雲母系の絶縁材料であって、ポリマー樹脂をベースとするものは、部分放電作用のもとで、ポリマーマトリックスの迅速な分解を示すということである。耐腐食性のナノ粒子(例えば酸化アルミニウム及び酸化ケイ素)を用いることにより、ポリマーの分解によってこれらがむき出しになる。腐蝕性が増加することによって次第に、被覆される物体表面に強固に接着する平らな層が形成され、この層は、むき出しになったナノ粒子から成る。表面がその場で不活性化されることにより、ポリマーは不活性層のもと、さらなる部分放電による腐食から保護される。ここで不活性層の形成は、分散させるナノ粒子の大きさとパーセンテージ割合に大きく依存する。と言うのも、粒子間の距離は、ナノ粒子間のポリマーマトリックスの分解にとって、ひいては不活性層の時間的な形成にとって重要だからである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】絶縁材料で被覆された物体表面における、ポリマーマトリックスの分解による不活性層の形成を、模式的に示す。
【
図2】腐食深度と、充填材含分との相関関係を示す。
【
図3】本発明の例示的な実施態様による粒径分布を示す。
【
図4】本発明の例示的な実施態様による別の粒径分布を示す。
【0017】
図1から、不活性層のモデルは、保護層生成までに複数の段階を経ることが分かる。第一のプロセスでは、純粋なポリマーが、ナノ粒子の間で腐食し、これがナノ粒子の濃縮につながる。部分放電の形でエネルギーがさらに吸収されることにより、ナノ粒子の局所的な焼結工程が生じる。このメカニズムによって、その下にある腐食されていないナノ粒子状ポリマーをさらなる腐食から保護する、セラミック層が生成する。
【0018】
少なくとも2種の異なる種類及び/又は大きさのナノ粒子(粒径が大きく異なるもの)を用いることにより、特に優れた耐腐食性を有するナノ複合材につながることが判明した。ここで双峰性の分布が既に利点であり、別の態様においては多峰性の粒径画分が好ましい。
【0019】
このことは、不活性層を形成するための、上記
図1及び2の簡単な説明から、模式的に読み取れる。部分放電の影響下では、化学的又は物理的なプロセスにより、ナノ粒子のアグロメレート化につながり、これが不活性な保護層となる。寸法が異なる少なくとも2種のナノ粒子を組み合わせることによって、このプロセスは支えられている。と言うのも、直径が小さいナノ粒子、及び相応して増大された活性表面は、TE影響下で、アグロメレート化、又は局所的な焼結工程を支え、これにより耐腐食性の層が迅速に形成される。これには、以下のような利点がある:
・直径が小さいナノ粒子の濃度を、低く保つことができる。このことは経済的に、また化学的な見地からも都合がよい。と言うのも、粘度、反応性、及び貯蔵安定性といった特性を、より制御できるからである。
・同時に、比較的小さいナノ粒子の好ましい特性、例えば比表面積の大きさを利用できる。
【0020】
本発明によれば、ナノ粒子は樹脂中、例えばエポキシ樹脂中に分散され、前記ナノ粒子は、分布曲線の最少半値幅が1.5d
maxである。よって本発明の実施態様によれば、分布曲線の最少半値幅は1.55d
max、特に1.6d
max、又はさらに高い値である。
【0021】
これは、ナノ粒子のサイズのみを含有する粒径分布を記載しているのではなく、複数の粒径画分を記載するものである。
【0022】
本発明の有利な実施態様によれば、ナノ粒子は充填材中に、単分散で分散している。
【0023】
本発明のさらなる有利な実施態様によれば、充填材中のナノ粒子は、金属酸化物、半金属酸化物を、特に好ましくは二酸化ケイ素及び/又は酸化アルミニウムをベースとする。
【0024】
本発明のさらなる有利な実施態様によれば、充填材がその中に分散されているポリマーマトリックスは、エポキシ樹脂(例えばビスフェノールベースのジグリシジルエーテル、例えばビスフェノールA及び/又はビスフェノールF)である。
【0025】
本発明の1つの実施態様によれば、樹脂はさらに硬化剤(例えば酸無水物硬化剤、例えばメチルテトラヒドロフタル酸無水物及び/又はメチルヘキサヒドロフタル酸無水物)を含有する。
【0026】
本発明のさらなる有利な実施態様によれば、樹脂はさらに促進剤、例えばアミン誘導体、及び/又はナフテン酸塩を含有する。
【0027】
本発明のさらなる有利な実施態様において充填材は、粒径が1〜200nm、特に1〜150nm、極めて好ましくは1〜80nmのナノ粒子画分を含有する。
【0028】
本発明の有利な実施態様によれば、充填材はD
50平均直径が、1〜500nm、好ましくは1〜300nm、特に1〜100nmである。
【0029】
本発明のさらなる有利な実施態様によれば、充填材は絶縁材料中で、全調製物の1〜80質量%、特に1〜60質量%、特に好ましくは1〜50質量%の量で存在する。
【0030】
分布曲線の半値幅が1.5d
maxを超える粒子画分を使用することによって、ナノ複合材の選択及び製造に際して、また複合材の品質確保に際しても、基本的な利点が得られる。粒子分散体は好適には、ゾル−ゲル法によって製造する。所望の粒径分布を調整するためには、異なる粒子分散体を組み合わせてもよい。粒径の同定は従来技術に従い、好適には手動又は自動で粒径を、透過型電子顕微鏡(略称TEM)による撮像で評価することによって行う。
【0031】
図3は本発明の実施例の粒径分布を、例示的に示す。ここに記載された充填材用の粒子系は、各粉末画分のパーセンテージ割合を粒径について1nmの間隔で示すことによって、グラフで示されている。この粒子混合物は、相応する粒径の割合がもっとも多いd
max(つまり、分布曲線のピーク)が、9nmである。分布曲線の半値幅は、d
maxに対して半分の高さにある分布曲線の幅から、nmで得られる。この粒子組成物では、分布曲線の半値幅が、1.6d
maxである。
【0032】
最後に
図4は、
図3と同等の記載だが、ただし、本発明の別の実施例を示し、ここには酸化アルミニウム粒子と、二酸化ケイ素粒子を有する系が示されている。
図4に示された粒径分布は、局所的なd
maxが9nmである。分布曲線の半値幅は同様に、1.7d
maxである。
【0033】
本発明は、単峰性のナノ粒子粒径分布のみを主成分としない充填材を有する絶縁材料を、初めて開示する。これによって、絶縁したい物体に、保護層がその場で形成されることが、非常に有利である。