(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940213
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】軸の損傷を監視するための方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20160616BHJP
【FI】
G01M99/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-509314(P2015-509314)
(86)(22)【出願日】2012年5月2日
(65)【公表番号】特表2015-517113(P2015-517113A)
(43)【公表日】2015年6月18日
(86)【国際出願番号】EP2012057999
(87)【国際公開番号】WO2013164019
(87)【国際公開日】20131107
【審査請求日】2014年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】アーノ ハシュケ
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−ヘニング クロース
(72)【発明者】
【氏名】ディアク シャイプナー
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン シマー
【審査官】
山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−260631(JP,A)
【文献】
特開平09−026414(JP,A)
【文献】
特開2010−271093(JP,A)
【文献】
特開平11−051913(JP,A)
【文献】
特開平02−260552(JP,A)
【文献】
特開平01−232230(JP,A)
【文献】
特開2009−243908(JP,A)
【文献】
特開平08−159151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/04
G01M 99/00
G01H 1/00 − 17/00
G01N 29/14
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の損傷を監視する方法において、
少なくとも一つのひずみゲージ(RS)を前記軸の外面に配置するステップと、
前記少なくとも一つのひずみゲージ(RS)の測定信号(Ub)に基づき、前記軸の変形を検出するステップと、
前記測定信号(Ub)の評価によって、超音波領域において前記軸の音波放出を検出するステップと、
を備え、
前記測定信号(Ub)に基づき、更に、前記軸に作用するトルクを検出し、前記検出された音波放出を、前記軸に作用する前記トルクに依存して評価する、
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記測定信号(Ub)を、前記評価のために、80kHzから150kHzの周波数範囲においてバンドパスフィルタを用いてフィルタリングする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定信号(Ub)の前記評価のために、前記測定信号(Ub)の包絡線(U”b)を求める、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記音波放出を時間(t)に依存して検出する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記測定信号(Ub)を、更に、前記軸の温度に依存して評価する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記測定信号(Ub)に基づき、更に、前記軸と機械的に結合されている軸受けの損傷を検出し、
但し、前記測定信号(Ub)を、前記軸受けの損傷を検出するために、30kHzから50kHzの周波数範囲においてバンドパスフィルタを用いてフィルタリングする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記測定信号(Ub)を、前記軸受けの損傷を検出するために、前記軸の回転数に依存して評価する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
軸の損傷を監視する装置(10)において、
前記装置(10)は、前記軸の外面に取り付け可能な少なくとも一つのひずみゲージ(RS)と、検出装置(22,24)とを有しており、
前記少なくとも一つのひずみゲージ(RS)の測定信号(Ub)に基づき、前記軸の変形を検出可能であり、
前記検出装置(22,24)は、前記測定信号(Ub)の評価によって、超音波領域において前記軸の音波放出を検出するように構成されており、
前記測定信号(Ub)に基づき、更に、前記軸に作用するトルクを検出し、前記検出された音波放出を、前記軸に作用する前記トルクに依存して評価する、
ことを特徴とする、装置(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸の損傷を監視するための方法に関する。更に本発明は、軸の損傷を監視するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軸は力又はトルクを伝達するために用いられ、また通常の場合は、電気機械、伝動装置及び軸受け装置に使用される。それらの機器の故障を回避するために、例えば軸の機械的応力に起因して生じる可能性のある軸の損傷を監視することが望ましい。それによって軸の過負荷を回避し、ひいては軸の潜在的な破壊を回避することが可能となる。
【0003】
軸の過負荷を検出できるようにするために、今日では一般的に、軸に作用するトルクが測定されている。トルクを測定するために、軸の外面にひずみゲージが被着又は接着される。エネルギの供給及び回転する軸からの測定データの伝送は、スリップリングを用いて、又は遠隔測定法を介して行われている。しかしながら通常の場合、軸に現に存在する損傷を直接的に検出することは行われていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、軸の損傷を簡単でより正確に監視できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、請求項1に記載の方法によって、また請求項9に記載の装置によって解決される。本発明の有利な実施の形態は従属請求項に記載されている。
【0006】
軸の損傷を監視するための本発明による方法は、少なくとも一つのひずみゲージを軸の外面に配置するステップと、少なくとも一つのひずみゲージの測定信号に基づき、軸の変形を検出するステップと、測定信号の評価によって超音波領域において軸の音波放出を検出するステップとを備えている。
【0007】
先ず、少なくとも一つのひずみゲージが軸に配置又は被着される。この配置又は被着は、例えば、機械的な負荷下での変形が可能な限り少ない相応の特殊接着剤を用いて行われる。これに関して、軸の周方向に沿って、軸の軸線方向に沿って、又は、軸に対して斜めにひずみゲージを配置することができる。軸の機械的な変形に起因してひずみゲージも変形し、それによって、電気抵抗が変化する。電気抵抗の変化を、例えば相応の測定ブリッジを用いて検出することができる。
【0008】
更に、ひずみゲージを用いて、軸において生じる音波放出が検出される。その種の音波放出又は応力波の原因は、軸材料における損傷イベントである。この現象はアコースティックエミッション(Acoustic Emission)の名称でも知られている。軸において生じ、また、軸の材料において形成されるこの音波放出は、材料の進行性の損傷、例えばマイクロクラックに関する指標である。従って、通常は軸に作用するトルクの監視に使用されるひずみゲージを用いて、付加的に音波放出も検出することができる。これによって、軸の進行性の損傷を簡単に求めることができる。従って、軸の損傷を検出するための付加的なセンサを使用する必要はない。またこれによって、トルク負荷の他に、材料構造の破壊も検出することができる。従って、少なくとも一つのひずみゲージを用いて、軸におけるクラック形成を直接的に識別することができ、それによって早期の警告を実現することができる。従って、予定外の障害を回避することができる。
【0009】
有利には、測定信号が評価のために、80kHzから150kHzの周波数範囲において、バンドパスフィルタを用いてフィルタリングされる。通常の場合、音波放出又はアコースティックエミッション信号の周波数は80kHzから150kHzの範囲にある。この周波数は材料に依存する。例えば鋼に関しては110kHzの周波数が一般的である。この音波放出の信号成分をひずみゲージの測定信号から抽出するために、バンドパスフィルタリングが軸の材料の固有周波数の範囲において行われる。測定信号のバンドパスフィルタリングのために、電子フィルタ又はディジタルフィルタを使用することができる。従って、軸において生じる音波放出を簡単に検出することができる。
【0010】
一つの別の実施の形態においては、測定信号を評価するために、測定信号の包絡線が求められる。その種の包絡線信号を例えば、測定信号の整流及びローパスフィルタリングによって求めることができる。測定信号の包絡線を用いて、測定信号の簡単な評価を実現することができる。
【0011】
有利には、音波放出が時間に依存して検出される。換言すれば、測定信号、又は測定信号において検出された音波放出が、いわゆる損傷事象又はイベントに従い評価される。損傷作用に関する特性値は、いわゆる事象率(event rate)、即ち単位時間当たりのアコースティックエミッションイベントの数である。これによって、軸において進行しているクラック形成を簡単且つ確実に検出することができる。
【0012】
更に有利には、測定信号に基づき、軸に作用するトルクが検出され、検出された音波放出が軸に作用するトルクに依存して評価される。軸におけるクラック形成が進行している場合、軸の曲げ剛性は位置に依存する。このことは軸のトルクの経過において一層明らかになる。その場合、単位時間当たりの音波放出は特に最大トルクにおいて発生する。そのようにして、音波放出又はアコースティックエミッションイベントの原因を分類することができる。音波放出と軸に作用するトルクとの間に関係性が生じた場合、軸において大きくなったクラックが原因である可能性が高い。そのようにして、軸における損傷、特にクラック形成を非常に高い信頼性で検出することができる。
【0013】
一つの別の構成においては、測定信号が更に軸の温度に依存して評価される。音波放出又はアコースティックエミッションは、内部摩擦による材料の熱膨張時にも生じる可能性がある。従って、熱的に安定している状態のときにのみ、アコースティックエミッション信号を軸の過負荷の指標として解することができるようにするために、軸の温度も付加的に検出されることが望ましい。これによって軸の損傷を非常に高い信頼性で検出することができる。
【0014】
一つの別の有利な実施の形態においては、測定信号に基づき、軸と機械的に結合されている軸受けの損傷が更に検出され、その際、測定信号は軸受けの損傷を検出するために、30kHzから50kHzの周波数範囲においてバンドパスフィルタを用いてフィルタリングされる。軸におけるクラックを検出する以外にも、ひずみゲージの測定信号を評価することによって、固く結合されている軸受け、特に軸受けの内部リングも監視することができる。音波放出の周波数を下回る周波数範囲において測定信号が評価される場合には、測定信号に基づき、発生している損傷も同様に検出することができる。例えばこのために、ひずみゲージの測定信号を30kHzから50kHzの範囲において、特に40kHzを中心にした周波数範囲においてフィルタリングすることができる。この周波数は材料及び軸受けの寸法に依存する。これによって、軸に配置されているひずみゲージを用いて、軸と機械的に結合されている軸受けの損傷も簡単に検出することができる。従って、軸と機械的に接続又は結合されている別の構成部材の損傷も監視することができる。
【0015】
ここでは、軸受けの損傷を検出するために、測定信号が有利には軸の回転数に依存して評価される。軸受けの損傷を示唆する測定信号の信号成分と、軸の回転数との間に関係性が生じた場合、それが軸受けの損傷を示唆していると考えられる。これによって軸受けの損傷を非常に高い信頼性で検出することができる。
【0016】
軸の損傷を監視するための本発明による装置は、軸の外面に取り付け可能な少なくとも一つのひずみゲージと、検出装置とを有しており、少なくとも一つのひずみゲージの測定信号に基づき、軸の変形を検出することができ、また検出装置は、測定信号の評価によって超音波領域において軸の音波放出を検出するように構成されている。
【0017】
上記において本発明による方法と関連させて説明した利点及び構成は、本発明による装置についても同様に当てはまる。
【0018】
以下では、添付の図面に基づき、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】軸の損傷を監視するための装置の概略図を示す。
【
図2】ひずみゲージの測定信号と時間との関係を示す。
【
図3】
図2に示した測定信号をバンドパスフィルタリングした信号を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下において詳細に説明する実施例は、本発明の有利な実施の形態である。
【0021】
図1には、軸の損傷を監視するための装置10が示されている。装置10はひずみゲージR
Sを含む。ここでは、ひずみゲージR
Sが電気抵抗として表されている。ひずみゲージR
Sは別の三つの電気抵抗R
1,R
2及びR
3と共に、ホイートストンブリッジ状に結線されている。ブリッジ回路には給電部12の給電電圧U
Sが供給される。ひずみゲージR
Sの測定信号U
bを測定ブリッジのブリッジ電圧として引き出すことができる。
【0022】
ここでは図示していない軸に、複数のひずみゲージR
Sを配置することも可能である。ひずみゲージR
Sを例えばフィルム上の抵抗線として形成することができる。ひずみゲージR
Sを金属又は半導体から製造することもできる。ひずみゲージR
Sは有利には、特殊接着剤を用いて軸の外面に被着されている。軸の機械的な変形に起因して、ひずみゲージR
Sも機械的に変形する。この機械的な変形によって、ひずみゲージR
Sの電気抵抗が変化する。ひずみゲージR
Sの電気抵抗の変化は、測定信号U
bの変化をもたらす。
【0023】
ここでは測定信号U
bが分割される。このことは矢印14及び16によって示唆されている。ローパスフィルタ18によって、測定信号U
bの高周波信号成分が減衰される。ローパスフィルタリングされた測定信号U
bは検出装置22に供給される。検出装置22は、ローパスフィルタリングされた測定信号U
bに依存して、軸に作用するトルクを検出するように構成されている。更に、測定信号U
bはバンドパスフィルタ20を用いてバンドパスフィルタリングされる。その際に、有利には80kHzから150kHzの周波数範囲にある測定信号U
bがバンドパスフィルタ20によってフィルタリングされる。この周波数範囲にある測定信号U
bをバンドパスフィルタリングすることによって、軸における音波放出(アコースティックエミッションの名称でも知られている)を検出することができる。バンドパスフィルタリングされた測定信号U
bは第2の検出装置24に供給され、この第2の検出装置24によってアコースティックエミッション信号を評価することができる。検出装置22及び24を、一つの共通の検出装置として構成することもできる。
【0024】
図2には、測定信号U
bの振幅と時間tとの関係を表す第1のグラフが示されている。測定信号U
bの時間経過において、例えば領域26における低周波数信号成分と、例えば領域28における高周波信号成分とが見て取れる。領域28の高周波信号成分は、軸の音波放出又は軸におけるアコースティックエミッション信号に起因して発生する。
【0025】
高周波信号成分を検出できるようにするために、測定信号U
bがバンドパスフィルタ20を用いてフィルタリングされる。例えば、測定信号U
bは90kHzから150kHzの間の周波数範囲においてバンドパスフィルタリングされる。バンドパスフィルタリングされた測定信号U’
bが
図3に示されている。バンドパスフィルタリングされた測定信号U’
bにおいては、領域28における高周波信号成分のみが見て取れる。バンドパスフィルタリングされた測定信号U’
bを用いて、軸において生じる音波放出を簡単に検出することができる。この音波放出又はアコースティックエミッション信号は、軸における進行性のクラック形成の徴候であると考えられる。
【0026】
図4には、
図3に示したバンドパスフィルタリングされた測定信号U’
bの包絡線U”
bが示されている。測定信号U
b又はバンドパスフィルタリングされた測定信号U’
bの包絡線U”
bに基づき、音波放出に起因する損傷イベントを簡単に検出することができる。更に、いわゆる事象率、即ち単位時間当たりのアコースティックエミッションイベントの数を簡単に検出することができる。それらの損傷イベントを包絡線信号U”
bにおいて簡単に検出することができる。このことは
図4において矢印30によって示唆されている。
【0027】
測定信号U
b、バンドパスフィルタリングされた測定信号U’
b及び包絡線U”
bを、ローパスフィルタリングされた測定信号U
bから得られるトルクに依存して評価することもできる。これによって、軸におけるクラックを非常に高い信頼性で検出することができる。更には、測定信号U
bを評価する際に、軸の温度も考慮することができる。このために、例えば、相応の温度センサを軸に配置することができる。
【0028】
また、測定信号U
bを第3の周波数範囲において、例えば30kHzから50kHzの間の周波数範囲において評価することができる。この周波数範囲においてバンドパスフィルタリングされた測定信号U
bに基づき、例えば、軸と機械的に結合されている軸受けの損傷を検出することができる。従って、ひずみゲージR
Sを用いて、軸に作用するトルク、軸の音波放出、並びに、軸と機械的に結合されている要素の損傷を検出することができる。
【符号の説明】
【0029】
10 装置、 12 給電部、 14,16 矢印、 18 ローパスフィルタ、 20 バンドパスフィルタ、 22,24 検出装置、 26,28 領域、 30 矢印、 R
1,R
2,R
3 抵抗、 R
S ひずみゲージ、 U
b 測定信号、 U’
b バンドパスフィルタリングされた測定信号、 U”
b 包絡線、 t 時間