特許第5940222号(P5940222)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5940222固体電解コンデンサ素子の陽極体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940222
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ素子の陽極体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/052 20060101AFI20160616BHJP
   H01G 9/04 20060101ALI20160616BHJP
   H01G 9/07 20060101ALI20160616BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   H01G9/05 K
   H01G9/04 301
   H01G9/00 501
   H01G9/24 B
   H01G9/24 C
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-529508(P2015-529508)
(86)(22)【出願日】2014年7月16日
(86)【国際出願番号】JP2014068907
(87)【国際公開番号】WO2015016066
(87)【国際公開日】20150205
【審査請求日】2015年10月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-160481(P2013-160481)
(32)【優先日】2013年8月1日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081086
【弁理士】
【氏名又は名称】大家 邦久
(74)【代理人】
【識別番号】100121050
【弁理士】
【氏名又は名称】林 篤史
(72)【発明者】
【氏名】内藤 一美
【審査官】 小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−335187(JP,A)
【文献】 特開2006−274375(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/114759(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/052
H01G 9/04
H01G 9/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属の焼結体に化成処理を行った後、酸化剤水溶液に浸漬し、その後水溶性アルコールに浸漬し、乾燥させた後、水洗して酸化剤を除去することを含む、前記焼結体を構成する少なくとも一部の弁作用金属の粒子表面が誘電体層で覆われ、前記誘電体層の最も厚い部分の厚さが、最も薄い部分の厚さの1.5〜3倍である固体電解コンデンサ素子の陽極体の製造方法。
【請求項2】
前記弁作用金属が、タンタル、ニオブ、チタン、タングステン及びこれら金属の合金の少なくとも1種である請求項1に記載の固体電解コンデンサ素子の陽極体の製造方法。
【請求項3】
前記酸化剤が、水溶性で、かつアルコールに非溶解性の酸化剤である請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ素子の陽極体の製造方法。
【請求項4】
前記酸化剤が、過硫酸化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の固体電解コンデンサ素子の陽極体の製造方法。
【請求項5】
前記酸化剤が、ハロゲン酸化合物、及び有機過酸化物の少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の固体電解コンデンサ素子の陽極体の製造方法。
【請求項6】
前記酸化剤の濃度が、0.1質量%以上飽和溶解度以下である請求項のいずれかに記載の固体電解コンデンサ素子の陽極体の製造方法。
【請求項7】
前記誘電体層を化学酸化及び/または電解酸化により形成する請求項に記載の固体電解コンデンサ素子の陽極体の製造方法。
【請求項8】
請求項のいずれかに記載の方法により陽極体を得た後、その陽極体の上に、半導体層及び導電体層を順次積層することを含む、固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ素子の陽極体に関する。より詳細には、誘電体層の過剰な形成による容量減少が少なく、かつ漏れ電流が少ない固体電解コンデンサ素子の陽極体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
弁作用金属を成形後焼結すると、適度な細孔を有する焼結体となる。この焼結体を所定電圧で化成した場合、印加電圧に応じた均一な厚みを有する誘電体層が形成される。
誘電体層上に積層される半導体層は、誘電体層が形成された焼結体を陽極体として、半導体層となる薬剤に浸漬する等して、化学的及び/または電気化学的に重合することにより形成される。
【0003】
以上の工程において、半導体層形成時に誘電体層が化学的または物理的に劣化することを見込んで、誘電体層をあらかじめ厚めに形成する方法が知られている。
特開2008−166851号公報(US7349198;特許文献1)では、陽極体上に、ニオブ及び酸素を主成分とする第1誘電体層と、リンまたはイオウを含む第2誘電体層と、陰極とを順次形成してなる固体電解コンデンサについて開示している。
特開2010−232699号公報(US7206192;特許文献2)では、陽極体上に、陽極体の一部が酸化されて形成される第1誘電体層と、第1の誘電体層上に形成された第2誘電体層と、陰極とを順次形成してなる固体電解コンデンサであって、第2誘電体層中の酸素濃度が第1誘電体層側から陰極側に向かって減少している固体電解コンデンサについて開示している。
【0004】
しかし、いずれの方法も誘電体層全体が厚くなるので、それに伴う容量の減少は避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−166851号公報(US7349198)
【特許文献2】特開2010−232699号公報(US7206192)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、誘電体層の過剰な形成による容量減少の問題を解決し、高容量を維持したまま、漏れ電流が少ない固体電解コンデンサ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、以下の発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記の[1]〜[12]に関する。
【0008】
[1] 焼結体の表層上に誘電体層を有する固体電解コンデンサ素子の陽極体であって、前記焼結体を構成する少なくとも一部の弁作用金属の粒子表面が前記誘電体層で覆われ、前記粒子の表面上の誘電体層の厚さの一部が他部より厚くなっていることを特徴とする固体電解コンデンサ素子の陽極体。
[2] 焼結体の表層上に誘電体層を有する固体電解コンデンサ素子の陽極体であって、前記焼結体を構成する少なくとも一部の弁作用金属の粒子表面が前記誘電体層で覆われ、前記誘電体層の最も厚い部分の厚さが、最も薄い部分の厚さの1.2倍以上である前項1に記載の固体電解コンデンサ素子の陽極体。
[3] 前記弁作用金属が、タンタル、ニオブ、チタン、タングステン及びこれら金属の合金の少なくとも1種である前項1または2に記載の固体電解コンデンサ素子の陽極体。
[4] 前項1〜3のいずれかに記載の陽極体の上に、半導体層及び導電体層が順次形成されてなる固体電解コンデンサ素子。
【0009】
[5] 弁作用金属の焼結体に化成処理を行った後、酸化剤水溶液に浸漬し、その後水溶性アルコールに浸漬し乾燥させた後、水洗して酸化剤を除去することを含む、前記焼結体を構成する少なくとも一部の弁作用金属の粒子表面が誘電体層で覆われ、前記粒子の表面上の誘電体層の厚さの一部が他部よりも厚くなっている固体電解コンデンサ素子の陽極体の製造方法。
[6] 前記誘電体層の最も厚い部分の厚さが、最も薄い部分の厚さの1.2倍以上である前項5に記載の固体電解コンデンサ素子の陽極体の製造方法。
[7] 前記酸化剤が、水溶性で、かつアルコールに非溶解性の酸化剤である前項5または6に記載の固体電解コンデンサ素子の陽極体の製造方法。
[8] 前記酸化剤が、過硫酸化合物である前項5〜7のいずれかに記載の固体電解コンデンサ素子の陽極体の製造方法。
[9] 前記酸化剤が、ハロゲン酸化合物、及び有機過酸化物の少なくとも1種である前項5〜7のいずれかに記載の固体電解コンデンサ素子の陽極体の製造方法。
[10] 前記酸化剤の濃度が、0.1質量%以上飽和溶解度以下である前項5〜9のいずれかに記載の固体電解コンデンサ素子の陽極体の製造方法。
[11] 前記誘電体層を化学酸化及び/または電解酸化により形成する前項5に記載の固体電解コンデンサ素子の陽極体の製造方法。
[12] 前項5〜11のいずれかに記載の製造方法により得られた陽極体の上に、半導体層及び導電体層を順次積層することを含む、固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の陽極体をもとに製造される固体電解コンデンサ素子及びコンデンサは、高容量を維持し、かつ漏れ電流が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例4において得られた、表面に誘電体層を有する陽極体の破断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】比較例3において得られた、表面に誘電体層を有する陽極体の破断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
弁作用金属を成形後焼結すると、各粒子が互いに結合して、3次元数珠状に連結して一体化した、複雑な内部空間を有する焼結体となる。この焼結体を化成液に浸漬し、所定電圧で化成した場合、印加電圧に応じた均一な厚みを有する誘電体層が数珠状に連結した粒子表層に形成される。
通常、誘電体層上に半導体層を形成するに際し、表層から70〜90%の深さまでは内部空間を介して半導体層形成のために用いる薬剤が到達し、その一部は化学的及び/または物理的な劣化により消失する。この時、焼結体の内部空間のうち、薬剤が到達しやすい部分では、誘電体層が薬剤によって劣化しやすくなると推測される。結果的に、該薬剤が到達しやすい部分においては、誘電体層の厚さが薄くなり、漏れ電流増大の原因になる。
【0013】
そこで、本発明に係るコンデンサ素子の陽極体では、半導体形成の際に用いる薬剤が到達しやすい部分の誘電体層の厚さをあらかじめ選択的に厚くすることにより、高容量を維持したまま、漏れ電流増大を抑制する。
【0014】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の一実施形態に係る固体電解コンデンサ素子は、弁作用金属を焼結した焼結体と誘電体層とを少なくとも有するものである。
【0015】
焼結体に用いる金属としては、タンタル、ニオブ、チタン、タングステン等の弁作用金属や、これら金属を主成分とする合金、組成物、これら金属の導電性酸化物が挙げられる。これらの金属は2種類以上を混合して使用してもよい。また、前記合金は、一部が合金化したものも含む。
【0016】
焼結体は主成分以外の金属をコンデンサ特性に悪影響を与えない範囲で含んでいてもよい。主成分以外の金属として、例えば、タンタル、ニオブ、アルミニウム、チタン、バナジウム、亜鉛、モリブデン、ハフニウム、ジルコニウムなどの弁作用金属が挙げられる。
【0017】
焼結体の製造方法は特に限定されないが、例えば、弁作用金属としてタングステンを使用する場合は、タングステン粉及び必要に応じて他の金属の粒子からなる原料粉を加圧成形して成形体とし、それを焼成することによって得ることができる。加圧成形を容易にするためにバインダーを原料粉に混ぜてもよい。所望の成形密度等になるように粉量や成形装置などの諸条件を適宜設定することができる。原料粉を加圧成形する際に、陽極体の端子とするために陽極リード線を成形体に埋設し植立させる方法がある。陽極リード線としては各弁作用金属の金属線などを用いることができる。また、焼結体に後から陽極リード線を溶接して接続する方法もある。金属線の代わりに金属板や金属箔を焼結体に植立または接続してもよい。
【0018】
焼成時の温度、焼成時間は特に限定されないが、焼成が高温度または長時間すぎると、原料粉相互間の空間(細孔)が減り、焼結体の細孔容積が小さくなりすぎる。焼成が低温度または短時間すぎると強度が不足し、場合によっては焼結体が崩壊することもある。焼成時の雰囲気は特に制限されないが、減圧にすることが好ましい。なお、焼成時にケイ化、ホウ化または炭化、及び/または、窒素またはリンを含有させる処理を行うこともできる。
【0019】
本発明では、化成処理を行った後、酸化剤水溶液による処理を施すことによって、粒子表層の一部に他部よりも厚い誘電体層を形成する。以下に化成処理及び酸化剤水溶液による処理について説明する。
1.化成処理
化成処理は、化学酸化及び/または電解酸化により行うことができる。
化学酸化による化成処理は、前記酸化剤を含有する溶液に焼結体を浸漬して行う。この化成処理は複数回繰り返してもよい。
電解酸化による化成処理は、前記酸化剤を含有する溶液に焼結体を浸漬した状態で、電圧を印加する。電圧は、焼結体(陽極)と対電極(陰極)との間に印加する。焼結体への通電は陽極リード線を通じて行うことができる。電圧印加における電圧や電圧印加時間は特に限定されず、定法によって決定すればよい。
また、使用する酸化剤の種類、濃度等も特に限定されず、定法に従って決定すればよい。
【0020】
化成処理の後、焼結体を純水で洗浄する。この洗浄によって化成液をできるだけ除去する。水洗浄の後、除去時の圧力における水の沸点未満の温度で表面に付着する水または焼結体の細孔内に浸み込んだ水を除去することが好ましい。後述する高温乾燥処理の前にこの操作を行うことにより誘電体層の劣化が抑えられ、高周波域での容量を保ちやすい。水の除去は、例えば、水との混和性を有する溶剤に接触させることによって行われる。水との混和性を有する溶剤としては、定法で用いられているアルコール等を使用することができる。
【0021】
水を除去した後、高温乾燥処理を行う。乾燥温度は特に制限されないが、温度が低すぎると高周波域における容量を上昇させる効果が生じない場合があり、素子間で容量のばらつきを生じることがある。乾燥時の温度が高すぎると漏れ電流が増えたり、誘電正接が高くなることがある。
乾燥の時間は、誘電体層の安定性が維持できる範囲であれば特に制限されない。
【0022】
2.酸化剤水溶液による処理
上記に従って化成処理した焼結体を、酸化剤水溶液に浸漬させ、その後アルコールに浸漬する。なお、酸化剤水溶液に浸漬した後は、なるべく速やかにアルコール浸漬に移行することが好ましい。
【0023】
ここで用いる酸化剤は、水溶性で、かつアルコールに非溶解性の酸化剤が好ましい。具体的には、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸及びそれらの塩などのハロゲン酸化合物;過酢酸、過安息香酸及びそれらの塩や誘導体などの有機酸過酸化物;過硫酸及びその塩などの過硫酸化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つが挙げられる。これらのうち、扱い易さと酸化剤としての安定性、水易溶性、アルコール非溶解性の観点から、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸水素カリウム等の過硫酸化合物が好ましい。これらの酸化剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、酸化剤を溶解する溶媒としては、水を用いることが好ましい。
【0024】
上記酸化剤は、水溶性かつアルコールに非溶解性であることから、酸化剤水溶液による処理の後、該焼結体をアルコールに浸漬すると、酸化剤水溶液のうち水のみが除去される。その結果、アルコール、アルコールにより除去されなかった微量の水、析出した酸化剤が焼結体の内部空間中に残される。続いて、該焼結体を加熱乾燥すると、酸化剤が残った部分の金属が酸化され、その部分のみ誘電体層が厚くなる。
【0025】
上記操作により誘電体層が厚くなるのは、酸化剤水溶液が浸透しやすい部分であり、これは後段の工程である半導体層形成時に用いる薬剤が浸透しやすい部分、つまり薬剤の浸透により誘電体層が劣化しやすい部分でもある。上記操作によれば、そのような部分のみ選択的に誘電体層を厚くすることが可能であり、結果的に薬剤の浸透による劣化が懸念される部分に厚い誘電体層を形成することができる。
【0026】
酸化剤水溶液の濃度は、好ましくは0.1質量%以上飽和溶解度以下である。より好ましくは0.15質量%以上飽和溶解度以下、さらに好ましくは0.2質量%以上飽和溶解度以下である。酸化剤の濃度が0.1質量%未満であると、酸化剤水溶液へ1回浸漬するだけでは十分な厚みの誘電体層を形成することができず、LC劣化を防止することができない。複数回の浸漬を行うことにより焼結体の内部空間への酸化剤浸透量を増やすことも可能であるが、この場合は予期せぬ酸化が起こることが懸念される。よって、化成液濃度を上記範囲に設定し、浸漬回数は1回とすることが好ましい。
【0027】
アルコール浸漬後に焼結体の内部空間に存在するアルコール、微量の水、酸化剤の乾燥温度は、100℃以上が好ましいが、減圧条件下で行えば100℃以下の温度で乾燥することができる。100℃以下で乾燥する場合には、使用する酸化剤の酸化反応温度を吟味して温度を決定すればよい。
【0028】
乾燥時間は数分〜数10分で所望の厚みの誘電体層を形成することができるが、最終的には陽極体の大きさ、弁作用金属粒子の粉粒径、使用する酸化剤種類と濃度を鑑みて予備実験から決定される。
乾燥後は焼結体を水洗して酸化剤を除去することが好ましい。
【0029】
以上の操作により、粒子表層の一部が他部よりも厚い誘電体層を形成することができる。誘電体層の厚さは、誘電体層の最も厚い部分が、最も薄い部分の1.2倍以上であることが好ましい。より好ましくは、1.2〜3倍、さらに好ましくは1.5〜3倍であることが好ましい。
ここで、「誘電体層の最も厚い部分」及び「最も薄い部分」とは、例えば、誘電体層を形成した焼結体の破断面を、走査型電子顕微鏡等を用いて観察することによって測定される誘電体層の最も厚い部分、及び最も薄い部分である。
【0030】
上記のような方法で形成した誘電体層の上に、半導体層を形成する。半導体層は従来の固体電解コンデンサ素子に用いられているものが制限なく使用できる。さらに、半導体層上にカーボンペースト層、銀ペースト層、若しくは金属メッキ層などの導電体層を形成してもよい。
【0031】
上記導電体層に陰極リードが電気的に接続され、該陰極リードの一部が電解コンデンサの外装の外部に露出して陰極外部端子となる。一方、陽極体には、陽極リード線を介して陽極リードが電気的に接続され、該陽極リードの一部が電解コンデンサの外装の外部に露出して陽極外部端子となる。陰極リード及び陽極リードの取り付けには通常のリードフレームを用いることができる。次いで、樹脂等による封止によって外装を形成してコンデンサを得ることができる。このようにして作製されたコンデンサは、所望によりエージング処理を行うことができる。本発明に係るコンデンサは、各種電気回路または電子回路に装着して使用することができる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらによって何等制限されるものではない。
【0033】
実施例1〜2:
[焼結体の作製]
フッ化タンタル酸カリウムをナトリウム還元して、タンタル(Ta)の一次粉(平均粒径0.6μm)を得、これを造粒して二次粉(平均粒径115μm)を得た。二次粉を成形、焼結して焼結体(大きさ1.0×2.3×1.7mm、1.0×2.3mm面中央に0.24mmφのタンタルリード線を植立)を得た。
【0034】
[誘電体層の形成]
1.化成処理
焼結体を、2質量%リン酸水溶液に浸し、60℃、5時間、20Vで化成処理を行った。化成処理を行った焼結体の破断面を日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡JSM−7500FAで確認したところ、誘電体層が、一次粒子の外表を均一な厚み(約36〜39nm)で覆っていることを確認した。
2.酸化剤水溶液による処理
水洗浄、水除去、乾燥を行った後、実施例1は飽和過硫酸アンモニウム水溶液に1分間、実施例2は0.2%過硫酸アンモニウム水溶液に5分間浸漬した。酸化剤水溶液への浸漬後、処理した焼結体を引き上げて速やかにエタノールに10分間浸漬した。続いて125℃で15分乾燥した後、水洗して焼結体の内部空間に残った酸化剤の溶質を除去し、乾燥し、水を除去した。
【0035】
[半導体層、カーボン層、銀層の形成]
以上の操作により誘電体層を形成した焼結体を陽極体として、定法に従って、ベンゾキノンスルフォン酸をドーパントとしてピロールを電解重合し、導電性高分子からなる半導体層を形成した。次にカーボン層、及び銀層を定法に従って順次積層して固体電解コンデンサ素子を作製した。
得られた陽極体の破断面を走査型電子顕微鏡で観察して、誘電体層の厚みが一部厚くなっていることを確認した。実施例1及び実施例2共に粒子表層の誘電体層の一部において、厚みがおおよそ80nmになっている部分が存在することを確認した。
【0036】
比較例1:
酸化剤水溶液による処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、固体電解コンデンサ素子を作製した。走査型電子顕微鏡による観察により、誘電体層が、一次粒子の外表を均一な厚み(約36〜39nm)で覆っていることを確認した。
【0037】
実施例3:
タンタル一次粉の代わりに、水素吸収させたニオブ(Nb)インゴットを粉砕して得た粉末(平均粒径0.4μm)を一次粉として使用したこと、造粒して平均粒径100μmの二次粉を得たこと、酸化剤水溶液への浸漬を5分にしたこと以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサ素子を作製した。化成後の誘電体層は、42〜46nmの均一な厚みを有していたが、酸化剤水溶液による処理後の誘電体層は、一次粒子の一部表層が70nmの厚みを有することを走査型電子顕微鏡により確認した。
【0038】
比較例2:
酸化剤水溶液による処理を行わなかったこと以外は実施例3と同様にして、固体電解コンデンサ素子を作製した。走査型電子顕微鏡による観察により、誘電体層が、一次粒子の外表を均一な厚み(約42〜46nm)で覆っていることを確認した。
【0039】
実施例4:
タンタル一次粉の代わりに、三酸化タングステンを水素酸還元して得た粉末(平均粒径0.5μm)を一次粉として使用したこと、一次粉にケイ素粉(平均粒径0.7μm)を0.2質量%混合して二次粉(平均粒径85μm)を造粒したこと、化成の際、2質量%リン酸水溶液の代わりに0.5質量%の過硫酸アンモニウムを使用して15Vで化成したこと、酸化剤を0.2%過硫酸カリウムに変更したこと、酸化剤の乾燥を105℃で10分間行ったこと以外は実施例2と同様にして固体電解コンデンサ素子を作製した。化成後の誘電体層は、38〜42nmの均一な厚みを有していたが、酸化剤水溶液による処理後の誘電体層は、一次粒子の一部表層が90nmの厚みを有することを走査型電子顕微鏡観察により確認した。走査型顕微鏡による観察結果(倍率×105)を図1に示す。
【0040】
比較例3:
酸化剤水溶液による処理を行わなかったこと以外は実施例4と同様にして、固体電解コンデンサ素子を作製した。走査型電子顕微鏡による観察により、誘電体層が、一次粒子の外表を均一な厚み(約38〜42nm)で覆っていることを確認した。走査型顕微鏡による観察結果(倍率×105)を図2に示す。
【0041】
比較例4:
化成電圧を25Vとしたこと以外は比較例3と同様にして、固体電解コンデンサ素子を作製した。走査型電子顕微鏡による観察により、誘電体層が、一次粒子の外表を均一な厚み(約48〜52nm)で覆っていることを確認した。
【0042】
下記に記載の方法で容量、漏れ電流を測定した結果を表1に示す。
[容量]
LCR測定器(アジレント社製)に配線された導線を固体電解コンデンサ素子の導電体層と固体電解コンデンサ素子に植立した陽極リード線に当て、バイアス電圧4Vにて、120Hzにおける容量を測定した。
[漏れ電流]
固体電解コンデンサ素子に室温下で4Vを印加した。電圧印加開始から30秒経過時に、電源のプラス端子から固体電解コンデンサ素子の陽極リード線、固体電解コンデンサ素子の導電体層、さらに電源のマイナス端子に亘る回路の電流値(漏れ電流)を測定した。
【0043】



【表1】
【0044】
表1に示す通り、本発明に係る固体電解コンデンサ素子(実施例1〜4)は、比較例の固体電解コンデンサ素子(比較例1〜4)と同等またはそれ以上の容量を有し、かつ漏れ電流が低い。
酸化剤水溶液処理を行わない固体電解コンデンサ素子(比較例3、図2参照)では誘電体層の厚みがほぼ均一であるのに対し、本発明に係る固体電解コンデンサ素子(実施例4、図1参照)は、誘電体層の厚みが少ない部分と、多い部分とで1.5〜3倍程度の差異が生じている。
【0045】
以上の結果より、誘電体層の厚みに差異が形成されると、固体電解コンデンサ素子の漏れ電流を低い値に抑えられることが確認された。
図1
図2