(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータを用いた二次電池であって、該二次電池が、正極と、負極と、アルカリ電解液と、前記正極と前記負極を隔離し、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質体からなるセラミックスセパレータと、前記セラミックスセパレータの少なくとも一方の面に設けられる多孔質基材と、少なくとも前記負極及び前記アルカリ電解液を収容する容器とを備えてなり、前記無機固体電解質体が透水性を有しない程に緻密化されてなる膜状又は層状の形態であり、前記多孔質基材の厚さが100〜1800μmである、二次電池であって、
前記正極が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、
前記電解液が、前記正極が浸漬される正極電解液と、前記負極が浸漬される負極電解液から構成され、
前記容器が、前記正極、前記正極電解液、前記負極、前記負極電解液、前記セラミックスセパレータ、及び前記多孔質基材を収容し、
前記セラミックスセパレータが、前記容器内に、前記正極及び前記正極電解液を収容する正極室と、前記負極及び前記負極電解液を収容する負極室とを区画するように設けられ、それにより該二次電池がニッケル亜鉛二次電池とされてなるか、又は、
前記正極が空気極であり、
前記負極が前記電解液に浸漬され、
前記容器が開口部を有し、かつ、前記負極及び前記電解液を収容し、
前記セラミックスセパレータが、前記開口部を前記電解液と接触可能に塞いで前記容器と負極側密閉空間を形成し、それにより前記空気極と前記電解液を水酸化物イオン伝導可能に隔離し、それにより該二次電池が亜鉛空気二次電池とされてなる、二次電池。
前記多孔質基材の厚さをT(μm)、前記多孔質基材の気孔率をP(%)とし、前記多孔質基材の相対密度DをD=(100−P)(%)として定義したとき、T×D/100の値が50〜400である、請求項3〜5のいずれか一項に記載の二次電池。
前記多孔質基材がセラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の二次電池。
前記多孔質基材がセラミックス材料で構成され、該セラミックス材料が、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の二次電池。
前記層状複水酸化物が複数の板状粒子の集合体で構成され、該複数の板状粒子がそれらの板面が前記多孔質基材の表面と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなる、請求項10又は11のいずれか一項に記載の二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0013】
二次電池
本発明の二次電池は、水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータを用いたものである。本発明の二次電池は、ニッケル亜鉛二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池、及びその他各種のアルカリ亜鉛二次電池、並びにリチウム空気二次電池等、水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータを適用可能な各種二次電池であることができる。特に、ニッケル亜鉛二次電池及び亜鉛空気二次電池が好ましく、最も好ましくはニッケル亜鉛二次電池である。したがって、以下の一般的説明において、ニッケル亜鉛二次電池に関する
図1A及び1B並びに亜鉛空気二次電池に関する
図3A及び3Bに言及することがあるが、本発明の二次電池はニッケル亜鉛二次電池及び亜鉛空気二次電池に限定されるべきではなく、水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータを採用可能な上述の各種二次電池を概念的に包含するものである。
【0014】
本発明の一態様による二次電池は、正極と、負極と、アルカリ電解液と、セラミックスセパレータと、多孔質基材と、容器とを備えてなる。セラミックスセパレータは正極と負極を隔離し、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質体からなり、無機固体電解質体が透水性を有しない程に緻密化されてなる膜状又は層状の形態である。セラミックスセパレータの少なくとも一方の面には多孔質基材(好ましくはセラミックス多孔質基材)が設けられる。多孔質基材の厚さは100〜1800μmである。正極は二次電池の種類に応じて適宜選択すればよく、空気極であってもよい。負極も二次電池の種類に応じて適宜選択すればよく、例えば各種亜鉛二次電池の場合、亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物を含みうる。容器は、少なくとも負極及びアルカリ電解液を収容する。
図1Aに示されるニッケル亜鉛二次電池10のように、容器22は正極12及び正極電解液14も収容しうるが、
図3Aに示される亜鉛空気二次電池30のように正極を空気極32として構成する場合には、空気極32(正極)は容器46に完全に収容されている必要はなく、単に容器46の開口部46aを塞ぐような形で(例えば蓋のような形で)取り付けられてよい。なお、正極及びアルカリ電解液は必ずしも分離している必要はなく、正極とアルカリ電解液が混合された正極合材として構成されてもよいし、正極が空気極の場合にはそもそも正極側に電解液は不要である。また、負極及びアルカリ電解液は必ずしも分離している必要はなく、負極とアルカリ電解液が混合された負極合材として構成されてもよい。所望により、正極集電体が正極に接触して設けられてよい。また、所望により、負極集電体が負極に接触して設けられてよい。
【0015】
セラミックスセパレータ(以下、単に「セパレータ」ともいう)は正極と負極を隔離するように設けられる。例えば、
図1Aに示されるニッケル亜鉛二次電池10のように、セパレータ20が、容器22内に、正極12及び正極電解液14を収容する正極室24と、負極16及び負極電解液18を収容する負極室26とを区画するように設けられてもよいし、
図3Aに示される亜鉛空気二次電池30のように、セパレータ40が容器46の開口部46aを電解液36と接触可能に塞いで容器46と負極側密閉空間を形成するように設けられてもよい。セパレータは水酸化物イオン伝導性を有するが透水性(好ましくは透水性及び通気性)を有しないのが好ましい。すなわち、セパレータが透水性及び通気性を有しないということは、セパレータが水及び気体を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性や通気性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。このため、亜鉛二次電池の場合には、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのにのに極めて効果的な構成となっている。また、金属空気二次電池の場合には、空気中の二酸化炭素の侵入を阻止して電解液中での(二酸化炭素に起因する)アルカリ炭酸塩の析出を防止するのに極めて効果的な構成となっている。いずれにしても、セラミックスセパレータは水酸化物イオン伝導性を有するため、正極側(例えばアルカリ電解液又は空気極)と負極側(例えばアルカリ電解液)との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として正極及び負極における充放電反応を実現することができる。
【0016】
セラミックスセパレータは水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質体からなる。セパレータとして水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体を用いることで、正負極間の電解液を隔離するとともに水酸化物イオン伝導性を確保する。無機固体電解質体は透水性(好ましくは透水性及び通気性)を有しない程にまで緻密化されていることが望まれる。例えば、無機固体電解質体は、アルキメデス法で算出して、90%以上の相対密度を有するのが好ましく、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上であるが、亜鉛デンドライトの貫通を防止する程度に緻密で硬いものであればこれに限定されない。このような緻密で硬い無機固体電解質体は水熱処理を経て製造することが可能である。したがって、水熱処理を経ていない単なる圧粉体は、緻密でなく、溶液中で脆いことから本発明の無機固体電解質体として好ましくない。もっとも、水熱処理を経たものでなくても、緻密で硬い無機固体電解質体が得られるかぎりにおいて、あらゆる製法が採用可能である。
【0017】
セラミックスセパレータないし無機固体電解質体は、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質を含んで構成される粒子群と、これら粒子群の緻密化や硬化を助ける補助成分との複合体であってもよい。あるいは、セパレータは、基材としての開気孔性の多孔質体と、この多孔質体の孔を埋めるように孔中に析出及び成長させた無機固体電解質(例えば層状複水酸化物)との複合体であってもよい。この多孔質体を構成する物質の例としては、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスや、発泡樹脂又は繊維状物質からなる多孔性シート等の絶縁性の物質が挙げられる。
【0018】
無機固体電解質体は、一般式:M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は2価の陽イオンであり、M
3+は3価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1〜0.4である)の基本組成を有する層状複水酸化物(LDH)を含んでなるのが好ましく、より好ましくはそのようなLDHからなる。上記一般式において、M
2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg
2+、Ca
2+及びZn
2+が挙げられ、より好ましくはMg
2+である。M
3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl
3+又はCr
3+が挙げられ、より好ましくはAl
3+である。A
n−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH
−及びCO
32−が挙げられる。したがって、上記一般式において、M
2+がMg
2+を含み、M
3+がAl
3+を含み、A
n−がOH
−及び/又はCO
32−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは任意の実数である。また、上記一般式においてM
3+の一部または全部を4価またはそれ以上の価数の陽イオンで置き換えてもよく、その場合は、上記一般式における陰イオンA
n−の係数x/nは適宜変更されてよい。
【0019】
無機固体電解質体は水熱処理によって緻密化されたもの(すなわち水熱合成物)であるのが好ましい。水熱処理は、層状複水酸化物、とりわけMg−Al型層状複水酸化物の一体緻密化に極めて有効である。水熱処理による緻密化は、例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)に記載されるように、耐圧容器に純水と板状の圧粉体を入れ、120〜250℃、好ましくは180〜250℃の温度、2〜24時間、好ましくは3〜10時間で行うことができる。もっとも、水熱処理を用いたより好ましい製造方法については後述するものとする。
【0020】
無機固体電解質体は、透水性を有しない程に緻密化された膜状又は層状のいずれの形態であってもよく、膜状又は層状の無機固体電解質体が多孔質基材上又はその中に形成されたものであるのが好ましい。板状よりも厚さが薄い膜状又は層状の形態であると亜鉛デンドライトの貫通を阻止するための必要最低限の堅さを確保しながらセパレータの抵抗を有意に低減できるとの利点がある。膜状又は層状の形態の場合には、厚さが100μm以下であるのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことでセパレータの低抵抗化を実現できる。厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ膜ないし層として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0021】
セラミックスセパレータの少なくとも一方の面には多孔質基材を設けられる。多孔質基材28は透水性を有し、それ故アルカリ電解液がセパレータに到達可能であることはいうまでもないが、多孔質基材があることでセパレータ上により安定に水酸化物イオンを保持することも可能となる。また、多孔質基材により強度を付与できるため、セパレータを薄くして低抵抗化を図ることもできる。また、多孔質基材上又はその中に無機固体電解質体(好ましくはLDH)の緻密膜ないし緻密層を形成することもできる。セパレータの片面に多孔質基材を設ける場合には、多孔質基材を用意して、この多孔質基材に無機固体電解質を成膜する手法が考えられる(この手法については後述する)。一方、セパレータの両面に多孔質基材を設ける場合には、2枚の多孔質基材の間に無機固体電解質の原料粉末を挟んで緻密化を行うことが考えられる。例えば、
図1Aにおいて多孔質基材28はセパレータ20の片面の全面にわたって設けられているが、セパレータ20の片面の一部(例えば充放電反応に関与する領域)にのみ設ける構成としてもよい。例えば、多孔質基材上又はその中に無機固体電解質体を膜状又は層状に形成した場合、その製法に由来して、セパレータの片面の全面にわたって多孔質基材が設けられた構成になるのが典型的である。一方、無機固体電解質体を(基材を必要としない)自立した板状に形成した場合には、セパレータの片面の一部(例えば充放電反応に関与する領域)にのみ多孔質基材を後付けしてもよいし、片面の全面にわたって多孔質基材を後付けしてもよい。
【0022】
多孔質基材の厚さは100〜1800μmであり、好ましくは150〜1500μm、より好ましくは200〜900μm、さらに好ましくは250〜700μm、特に好ましくは250〜500μmである。前述のとおり、強度を高めるべく水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータを厚く構成した場合、水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータの抵抗が高くなるという問題がある。したがって、水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータを薄く形成して低抵抗化を図りつつ、実用に耐えうる高い強度をセラミックスセパレータに付与することが望まれる。その意味で、上述したようにセラミックスセパレータを多孔質基材(例えばアルミナ多孔質基材)上に形成することは、強度の懸念を低減しながら薄いセラミックスセパレータを形成できる点で有望な手法である。しかしながら、多孔質基材を二次電池に組み込むことで、電池のエネルギー密度が低下したり、電池の内部抵抗が上昇したりするといった別の懸念が生じうる。すなわち、同じ体積の二次電池を想定した場合、多孔質基材の厚さが大きい程、充填できる電極活物質の量が相対的に少なくなるため、二次電池のエネルギー密度が小さくなる。また、多孔質基材による抵抗が二次電池の内部抵抗の増大につながる。この点、多孔質基材の厚さを上記範囲内とすることにより、セラミックスセパレータの薄膜化による低抵抗化を強度低下の懸念を生じることなく実現しながら、多孔質基材の組み込みに伴うエネルギー密度の低下及び内部抵抗の上昇を望ましく抑制することができる。また、上記範囲内の厚さの多孔質基材であれば、崩れにくいため、製造及びハンドリングもしやすい。
【0023】
多孔質基材は10〜90%の気孔率を有するのが好ましく、好ましくは15〜80%、より好ましくは20〜70%、さらに好ましくは30〜70%、特に好ましくは30〜60%である。これらの範囲内の気孔率は上述した厚さとの組合せにより実現されるのがより望ましい。これらの範囲内の多孔質基材にあっては、所望の透水性を確保できるので、セラミックスセパレータに電解液を望ましく到達及び接触させることができ、その結果、電池としての機能を確保することができる。また、上記範囲内の気孔率の多孔質基材の表面であれば、透水性を有しない程に緻密なLDH含有セパレータ層を形成することができる。多孔質基材の気孔率が大きければ大きいほど内部抵抗は小さくなるが、上記範囲内の気孔率の多孔質基材であれば、崩れにくいため、製造及びハンドリングもしやすい。
【0024】
ここで、多孔質基材の気孔率は、多孔質基材の表面に基づいて測定されるのが好ましい。これは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、多孔質基材の表面の気孔率は多孔質基材内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、多孔質基材の表面が緻密であれば多孔質基材の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、多孔質基材の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
【0025】
多孔質基材の厚さをT(μm)、多孔質基材の気孔率をP(%)とし、多孔質基材の相対密度DをD=(100−P)(%)として定義したとき、T×D/100の値が50〜400であるのが好ましく、より好ましくは50〜350、さらに好ましくは50〜300、特に好ましくは100〜300、最も好ましくは100〜250である。多孔質基材は、強度を気にしないのであれば、厚さが小さく、かつ、気孔率が高い方が電池性能は向上する。これは、厚さが小さいほど内部抵抗の低下に寄与し、気孔率が高いほどセラミックスセパレータに電解液が到達及び接触しやすくなり内部抵抗が低下するからである。しかしながら、そのように厚みが小さく且つ気孔率が高い多孔質部材は、強度低下によりハンドリングしにくく、工業的な電池の生産には不向きとなりうる。一方、多孔質基材の厚さを大きくすれば強度は向上するものの、電池のエネルギー密度はそれだけ低いものとなる。そこで、T×D/100の値を上記範囲内とすることで、厚さTが小さい場合には気孔率Pを低め(すなわち相対密度Dを高め)に制御する一方、厚さTが大きい場合には気孔率Pを高め(すなわち相対密度Dを低め)に制御しながら、強度低下をできるだけ抑制するような形で、高いエネルギー密度と低い内部抵抗の両立を望ましく実現することができる。
【0026】
多孔質基材は0.001〜1.5μmの平均気孔径を有するのが好ましく、より好ましくは0.001〜1.25μm、さらに好ましくは0.001〜1.0μm、特に好ましくは0.001〜0.75μm、最も好ましくは0.001〜0.5μmである。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有セパレータ層を形成することができる。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行うことができる。この測定に用いる電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得ることができる。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能や画像解析ソフト(例えば、Photoshop、Adobe社製)等を用いることができる。
【0027】
多孔質基材は、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ及びジルコニアであり、最も好ましくはアルミナである。これらの多孔質セラミックスを用いると緻密性に優れたLDH含有セパレータ層を形成しやすい。金属材料の好ましい例としては、アルミニウム及び亜鉛が挙げられる。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、親水化したフッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。上述した各種の好ましい材料から電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性に優れたものを適宜選択するのが更に好ましい。
【0028】
アルカリ電解液は、二次電池に採用可能ないかなるアルカリ電解液であってもよいが、アルカリ金属水酸化物の水溶液であるのが好ましい。
図1Aに示されるように正極電解液14及び負極電解液18が存在する場合には、アルカリ金属水酸化物を含む水溶液が正極電解液14及び負極電解液18として用いられるのが好ましい。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。亜鉛二次電池の場合、亜鉛合金の自己溶解を抑制するために、電解液中に酸化亜鉛、水酸化亜鉛等の亜鉛化合物を添加してもよい。前述のとおり、アルカリ電解液は正極及び/又は負極と混合させて正極合材及び/又は負極合材の形態で存在させてもよい。また、電解液の漏洩を防止するために電解液をゲル化してもよい。ゲル化剤としては電解液の溶媒を吸収して膨潤するようなポリマーを用いるのが望ましく、ポリエチレンオキサイド,ポリビニルアルコール,ポリアクリルアミドなどのポリマーやデンプンが用いられる。
【0029】
容器は、少なくとも負極及びアルカリ電解液を収容するものであり、好ましくは樹脂製である。前述のとおり、
図1A及び1Bに示されるニッケル亜鉛二次電池10のように容器22は正極12及び正極電解液14も収容しうるが、
図3Aに示される亜鉛空気二次電池30のように正極を空気極32として構成する場合には空気極32(正極)は容器46に完全に収容されている必要はなく、単に容器46の開口部46aを塞ぐような形で(例えば蓋のような形で)取り付けられてよい。いずれにしても、容器は液密性及び気密性を有する構造を有するのが好ましい。容器を構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、変性ポリフェニレンエーテルであり、さらに好ましくはABS樹脂もしくは変性ポリフェニレンエーテルである。容器にはセラミックスセパレータ及び/又はセラミックス多孔質部材が上述した接着剤を用いて固定される。
【0030】
ニッケル亜鉛二次電池
本発明の好ましい態様によれば、ニッケル亜鉛二次電池が提供される。
図1Aに、本態様によるニッケル亜鉛二次電池の一例を模式的に示す。
図1Aに示されるニッケル亜鉛二次電池は充電が行われる前の初期状態を示しており、放電末状態に相当する。もっとも、本態様のニッケル亜鉛二次電池は満充電状態で構成されてもよいのはいうまでもない。
図1Aに示されるように、本態様によるニッケル亜鉛二次電池10は、正極12、正極電解液14、負極16、負極電解液18、及びセラミックスセパレータ20を容器22内に備えてなる。正極12は、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含んでなる。正極電解液14はアルカリ金属水酸化物を含んでなるアルカリ電解液であり、正極12が浸漬される。負極16は亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含んでなる。負極電解液18はアルカリ金属水酸化物を含んでなるアルカリ電解液であり、負極16が浸漬される。容器22は、正極12、正極電解液14、負極16、負極電解液18、セラミックスセパレータ20、及び多孔質基材28を収容する。正極12及び正極電解液14は必ずしも分離している必要はなく、正極12と正極電解液14が混合された正極合材として構成されてもよい。同様に、負極16及び負極電解液18は必ずしも分離している必要はなく、負極16と負極電解液18が混合された負極合材として構成されてもよい。所望により、正極集電体13が正極12に接触して設けられる。また、所望により、負極集電体17が負極16に接触して設けられる。
【0031】
セパレータ20は、容器22内に、正極12及び正極電解液14を収容する正極室24と、負極16及び負極電解液18を収容する負極室26とを区画するように設けられる。セパレータ20の少なくとも一方の面(図示例では負極16側)には多孔質基材28が設けられる。セパレータ20は前述のとおり水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しない。すなわち、セパレータ20が透水性を有しないということは、セパレータ20が水を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。このため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのに極めて効果的な構成となっている。もっとも、
図1Aに示されるようにセパレータ20に多孔質基材28が付設されてよいのはいうまでもない。いずれにしても、セパレータ20は水酸化物イオン伝導性を有するため、正極電解液14と負極電解液18との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として正極室24及び負極室26における充放電反応を実現することができる。正極室24及び負極室26における充電時における反応は以下に示されるとおりであり、放電反応はその逆となる。
‐ 正極: Ni(OH)
2+OH
−→NiOOH+H
2O+e
−
‐ 負極: ZnO+H
2O+2e
−→Zn+2OH
−
【0032】
ただし、上記負極反応は以下の2つの反応で構成されるものである。
‐ ZnOの溶解反応: ZnO+H
2O+2OH
−→Zn(OH)
42−
‐ Znの析出反応: Zn(OH)
42−+2e
−→Zn+4OH
−
【0033】
ニッケル亜鉛二次電池10は、正極室24に充放電時の正極反応に伴う水分量の増減を許容する容積の正極側余剰空間25を有し、かつ、負極室26に充放電時の負極反応に伴う水分量の減増を許容する容積の負極側余剰空間27を有するのが好ましい。これにより正極室24及び負極室26における水分量の増減に伴う不具合(例えば、液漏れ、容器内圧の変化に伴う容器の変形等)を効果的に防止して、ニッケル亜鉛二次電池の信頼性を更に向上することができる。すなわち、上記反応式から分かるように、充電時には正極室24で水が増加する一方、負極室26で水が減少する。一方、放電時には正極室24で水が減少する一方、負極室26で水が増加する。この点、従来の殆どのセパレータは、透水性を有するものであるため、セパレータを介して水が自由に行き来できる。しかしながら、本態様に用いるセパレータ20は透水性を有しないという緻密性の高い構造を有するため、セパレータ20を介して水が自由に行き来できず、充放電に伴い正極室24内及び/又は負極室26内において電解液量が一方的に増大して液漏れ等の不具合を引き起こしうる。そこで、正極室24に充放電時の正極反応に伴う水分量の増減を許容する容積の正極側余剰空間25を有することで、
図1Bに示されるように、充電時において正極電解液14の増加に対処可能なバッファとして機能させることができる。すなわち、
図1Bに示されるように、満充電後においても正極側余剰空間25がバッファとして機能することで、増量した正極電解液14を溢れ出させることなく確実に正極室24内に保持することができる。同様に、負極室26に充放電時の負極反応に伴う水分量の減増を許容する容積の負極側余剰空間27を有することで、放電時に負極電解液18の増加に対処可能なバッファとして機能させることができる。
【0034】
正極室24及び負極室26における水分の増減量は、前述した反応式に基づいて算出することができる。前述した反応式から分かるように、充電時における正極12でのH
2Oの生成量は、負極16におけるH
2Oの消費量の2倍に相当する。したがって、正極側余剰空間25の容積を負極側余剰空間27よりも大きくしてもよい。いずれにしても、正極側余剰空間25の容積は、正極室24において見込まれる水分増加量のみならず、正極室24に予め存在している空気等のガスや過充電時に正極12より発生しうる酸素ガスをも適切な内圧で収容できるように若干ないしある程度余裕を持たせた容積とするのが好ましい。この点、負極側余剰空間27は、
図1Aのように正極側余剰空間25と同程度の容積とすれば十分であるとはいえるが、放電末状態で電池を構成する際には充電に伴う水の減少量を超える余剰空間を設けておくことが望まれる。いずれにしても、負極側余剰空間27は正極室24内の半分程度の量しか水の増減がないため正極側余剰空間25よりも小さくしてもよい。
【0035】
ニッケル亜鉛二次電池10が放電末状態で構築される場合には、正極側余剰空間25が、充電時の正極反応に伴い増加することが見込まれる水分量を超える容積を有し、正極側余剰空間25には正極電解液14が予め充填されておらず、かつ、負極側余剰空間27が、充電時の負極反応に伴い減少することが見込まれる水分量を超える容積を有し、負極側余剰空間27には減少することが見込まれる量の負極電解液18が予め充填されているのが好ましい。一方、ニッケル亜鉛二次電池10が満充電状態で構築される場合には、正極側余剰空間25が、放電時の正極反応に伴い減少することが見込まれる水分量を超える容積を有し、正極側余剰空間25には減少することが見込まれる量の正極電解液14が予め充填されており、かつ、負極側余剰空間27が、放電時の負極反応に伴い増加することが見込まれる水分量を超える容積を有し、負極側余剰空間27には負極電解液18が予め充填されていないのが好ましい。
【0036】
正極側余剰空間25には正極12が充填されておらず且つ/又は負極側余剰空間27には負極16が充填されていないのが好ましく、正極側余剰空間25及び負極側余剰空間27に正極12及び負極16がそれぞれ充填されていないのがより好ましい。これらの余剰空間においては充放電時に水分量の減少による電解液の枯渇が起こりうる。すなわち、これらの余剰空間に正極12や負極16が充填されていても充放電反応に十分に関与させることができないため、非効率となる。したがって、正極側余剰空間25及び負極側余剰空間27に正極12及び負極16をそれぞれ充填させないことで、正極12及び負極16を無駄無くより効率的且つ安定的に電池反応に関与させることができる。
【0037】
前述のとおり、正極12とセパレータ20の間及び/又は負極16とセパレータ20の間に不織布等の吸水性樹脂又は保液性樹脂製の第2のセパレータ(樹脂セパレータ)を配置して、電解液が減少した場合であっても電解液を正極及び/又は負極の反応部分に電解液を保持可能とする構成としてもよい。吸水性樹脂又は保液性樹脂の好ましい例としては、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0038】
正極12は水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含んでなる。例えば、ニッケル亜鉛二次電池を
図1Aに示されるような放電末状態で構成する場合には正極12として水酸化ニッケルを用いればよく、
図1Bに示されるような満充電状態で構成する場合には正極12としてオキシ水酸化ニッケルを用いればよい。水酸化ニッケル及びオキシ水酸化ニッケル(以下、水酸化ニッケル等という)は、ニッケル亜鉛二次電池に一般的に用いられている正極活物質であり、典型的には粒子形態である。水酸化ニッケル等には、その結晶格子中にニッケル以外の異種元素が固溶されていてもよく、それにより高温下での充電効率の向上が図れる。このような異種元素の例としては、亜鉛及びコバルトが挙げられる。また、水酸化ニッケル等はコバルト系成分と混合されたものであってもよく、そのようなコバルト系成分の例としては、金属コバルトやコバルト酸化物(例えば一酸化コバルト)の粒状物が挙げられる。さらに、水酸化ニッケル等の粒子(異種元素が固溶されていてよい)の表面をコバルト化合物で被覆してもよく、そのようなコバルト化合物の例としては、一酸化コバルト、2価のα型水酸化コバルト、2価のβ型水酸化コバルト、2価を超える高次コバルトの化合物、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0039】
正極12は、水酸化ニッケル系化合物及びそれに固溶されうる異種元素以外にも、追加元素をさらに含んでいてもよい。そのような追加元素の例としては、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルピウム(Er)、ツリウム(Tm)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)および水銀(Hg)、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。追加元素の含有形態は特に限定されず、金属単体又は金属化合物(例えば、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物)の形態で含まれていてよい。追加元素を含む金属単体又は金属化合物を添加する場合、その添加量は、水酸化ニッケル系化合物100重量部に対し、好ましくは0.5〜20重量部であり、より好ましくは2〜5重量部である。
【0040】
正極12は電解液等をさらに含むことにより正極合材として構成されてもよい。正極合剤は、水酸化ニッケル系化合物粒子、電解液、並びに所望により炭素粒子等の導電材やバインダー等を含んでなることができる。
【0041】
正極12に接触して正極集電体13が設けられるのが好ましい。正極集電体13は
図1Aに示されるように容器22を貫通してその外側にまで延在して正極端子をそれ自体で構成してもよいし、別途設けられた正極端子に容器22内又は外で接続される構成としてもよい。正極集電体13の好ましい例としては、発泡ニッケル板等のニッケル製多孔質基板が挙げられる。この場合、例えば、ニッケル製多孔質基板上に水酸化ニッケル等の電極活物質を含むペーストを均一に塗布して乾燥させることにより正極12/正極集電体13からなる正極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の正極板(すなわち正極12/正極集電体13)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。
【0042】
負極16は亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含んでなる。亜鉛は、負極に適した電気化学的活性を有するものであれば、亜鉛金属、亜鉛化合物及び亜鉛合金のいずれの形態で含まれていてもよい。負極材料の好ましい例としては、酸化亜鉛、亜鉛金属、亜鉛酸カルシウム等が挙げられるが、亜鉛金属及び酸化亜鉛の混合物がより好ましい。負極16はゲル状に構成してもよいし、電解液と混合して負極合材としてもよい。例えば、負極活物質に電解液及び増粘剤を添加することにより容易にゲル化した負極を得ることができる。増粘剤の例としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、CMC、アルギン酸等が挙げられるが、ポリアクリル酸が強アルカリに対する耐薬品性に優れているため好ましい。
【0043】
亜鉛合金として、無汞化亜鉛合金として知られている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いることができる。例えば、インジウムを0.01〜0.06質量%、ビスマスを0.005〜0.02質量%、アルミニウムを0.0035〜0.015質量%を含む亜鉛合金が水素ガス発生の抑制効果があるので好ましい。とりわけ、インジウムやビスマスは放電性能を向上させる点で有利である。亜鉛合金の負極への使用は、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を遅くすることで、水素ガス発生を抑制して安全性を向上できる。
【0044】
負極材料の形状は特に限定されないが、粉末状とすることが好ましく、それにより表面積が増大して大電流放電に対応可能となる。好ましい負極材料の平均粒径は、亜鉛合金の場合、90〜210μmの範囲であり、この範囲内であると表面積が大きいことから大電流放電への対応に適するとともに、電解液及びゲル化剤と均一に混合しやすく、電池組み立て時の取り扱い性も良い。
【0045】
負極16に接触して負極集電体17が設けられるのが好ましい。負極集電体17は
図1Aに示されるように容器22を貫通してその外側にまで延在して負極端子をそれ自体で構成してもよいし、別途設けられた負極端子に容器22内又は外で接続される構成としてもよい。負極集電体17の好ましい例としては、銅パンチングメタルが挙げられる。この場合、例えば、銅パンチングメタル上に、酸化亜鉛粉末及び/又は亜鉛粉末、並びに所望によりバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)を含んでなる混合物を塗布して負極16/負極集電体17からなる負極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の負極板(すなわち負極16/負極集電体17)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。
【0046】
図1A及び1Bに示されるニッケル亜鉛二次電池10は1対の正極12及び負極16を備えたものであるが、密閉容器22内に正極12及び負極16を2対以上備えた構成としてもよい。この場合、正極12及び負極16を交互に並置して並列積層型のニッケル亜鉛二次電池に構成するのが好ましい。そのような並列積層型ニッケル亜鉛二次電池の一例が
図2に示される。
図2に並列積層型ニッケル亜鉛二次電池10’は、第1正極室24a(正極12を片面塗工した正極集電体13を備える)/セパレータ20/第1負極室26a(負極16を両面塗工した負極集電体17を備える)/セパレータ20/第2正極室24b(正極12を両面塗工した正極集電体13を備える)/セパレータ20/第2負極室26b(負極16を両面塗工した負極集電体17を備える)/セパレータ20/第3正極室24c(正極12を両面塗工した正極集電体13を備える)/セパレータ20/第3負極室26c(負極16を両面塗工した負極集電体17を備える)/セパレータ20/第4正極室24d(正極12を片面塗工した正極集電体13を備える)が順に並んだ構成を有している。なお、各々のセパレータ20の少なくとも一方の面(図示例では負極16側)には多孔質基材28が設けられている。この並列積層型ニッケル亜鉛二次電池10’は正極/セパレータ/負極を6対備えた構成に相当する。なお、
図2において、正極室24a,24b,24c,24dの構成要素は
図1の正極室24の構成要素と同様のため
図1Aと同じ符号を付してあり、負極室26a,26b,26cの構成要素は
図1Aの負極室26の構成要素と同様のため
図1Aと同じ符号を付してある。このように、正極室、セパレータ及び負極室をこの順に所望の回数繰り返して適宜配置することで、所望の数の正極及び負極を備えた並列積層型ニッケル亜鉛二次電池を構成することができる。
【0047】
亜鉛空気二次電池
本発明の別の好ましい態様によれば、亜鉛空気二次電池が提供される。
図3A及び3Bに、本態様による亜鉛空気二次電池の一例を模式的に示す。
図3A及び3Bに示されるように、本態様による亜鉛空気二次電池30は、空気極32、負極34、アルカリ電解液36、セラミックスセパレータ40、多孔質基材48、容器46、及び所望により第三電極38を備えてなる。空気極32は正極として機能する。負極34は亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物を含んでなる。電解液36は、負極34が浸漬される水系電解液である。容器46は、開口部46aを有し、負極34、電解液36及び第三電極38を収容する。セパレータ40は開口部46aを電解液36と接触可能に塞いで容器46と負極側密閉空間を形成し、それにより空気極32と電解液36を水酸化物イオン伝導可能に隔離する。所望により、正極集電体42が空気極32に接触して設けられてよい。また、所望により、負極集電体44が負極34に接触して設けられてよく、その場合、負極集電体44も容器46内に収容されうる。
【0048】
セパレータ40は、前述したとおり、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性(好ましくは透水性及び通気性)を有しない部材であるのが好ましく、典型的には膜状又は層状の形態である。セパレータ40が開口部46aを電解液36と接触可能に塞いで容器46と負極側密閉空間を形成することで、空気極32と電解液36を水酸化物イオン伝導可能に隔離する。セパレータ40の片面又は両面、好ましくは片面(電解液側)に多孔質基材48が設けられる。また、負極34とセパレータ40の間に不織布等の吸水性樹脂又は保液性樹脂製の保水部材を配置して、電解液36が減少した場合であっても電解液36を負極34及びセパレータ40に常時接触可能に保持する構成としてもよい。この保水部材は前述した第三電極38用の保水部材を兼ねたものであってもよいし、セパレータ40用の保水部材を別途用いてもよい。保水部材として市販の電池用セパレータも使用可能である。吸水性樹脂又は保液性樹脂の好ましい例としては、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0049】
空気極32は、亜鉛空気電池等の金属空気電池に使用される公知の空気極であってよく特に限定されない。空気極32は、空気極触媒、電子伝導性材料、及び所望により水酸化物イオン伝導性材料を含んでなるのが典型的である。もっとも、電子伝導性材料としても機能する空気極触媒を用いる場合には、空気極32は、そのような電子伝導性材料兼空気極触媒、及び所望により水酸化物イオン伝導性材料を含んでなるものであってもよい。
【0050】
空気極触媒は、金属空気電池における正極として機能するものであれば特に限定されず、酸素を正極活物質として利用可能な種々の空気極触媒が使用可能である。空気極触媒の好ましい例としては、黒鉛等の酸化還元触媒機能を有するカーボン系材料、白金、ニッケル等の酸化還元触媒機能を有する金属、ペロブスカイト型酸化物、二酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルト、スピネル酸化物等の酸化還元触媒機能を有する無機酸化物が挙げられる。空気極触媒の形状は特に限定されないが、粒子形状であるのが好ましい。空気極12における空気極触媒の含有量は特に限定されないが、空気極12の合計量に対して、5〜70体積%が好ましく、より好ましくは5〜60体積%、さらに好ましくは5〜50体積%である。
【0051】
電子伝導性材料は、導電性を有し、空気極触媒とセパレータ40(又は該当する場合には後述する中間層)との間で電子伝導を可能とするものであれば特に限定されない。電子伝導性材料の好ましい例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、鱗片状黒鉛のような天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等のグラファイト類、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉末類、ポリフェニレン誘導体等の有機電子伝導性材料、及びこれらの任意の混合物が挙げられる。電子伝導性材料の形状は、粒子形状であってもよいし、その他の形状であってもよいが、空気極32において厚さ方向に連続した相(即ち電子伝導相)をもたらす形態で用いられるのが好ましい。例えば、電子伝導性材料は、多孔質材料であってもよい。また、電子伝導性材料は空気極触媒との混合物ないし複合体の形態(例えば白金担持カーボン)であってもよく、前述したように電子伝導性材料としても機能する空気極触媒(例えば遷移金属を含有するペロブスカイト型化合物)であってもよい。空気極32における電子伝導性材料の含有量は特に限定されないが、空気極32の合計量に対して、10〜80体積%が好ましく、より好ましくは15〜80体積%、さらに好ましくは20〜80体積%である。
【0052】
空気極32は、水酸化物イオン伝導性材料を任意成分としてさらに含んでいてもよい。特にセパレータ40が緻密質セラミックスである水酸化物イオン伝導性無機固体電解質からなる場合、そのようなセパレータ40上に(所望により水酸化物イオン伝導性を有する中間層を介在させて)、従来から使用される空気極触媒及び電子伝導性材料のみならず、水酸化物イオン伝導性材料をも含有させた空気極32を形成することで、緻密質セラミックス製のセパレータ40による所望の特性を確保しながら、金属空気電池において空気極の反応抵抗を低減することが可能となる。すなわち、空気極触媒及び電子伝導性材料のみならず、水酸化物イオン伝導性材料をも空気極32中に含有させることで、電子伝導相(電子伝導性材料)と、気相(空気)とからなる三相界面がセパレータ40(又は該当する場合には中間層)と空気極32の界面のみならず空気極32中にも存在することになり、電池反応に寄与する水酸化物イオンの授受がより広い表面積で効果的に行われることになる結果、金属空気電池において空気極の反応抵抗が低減されるものと考えられる。水酸化物イオン伝導性材料は、水酸化物イオンを透過可能な材料であれば特に限定されず、無機材料及び有機材料を問わず、各種の材質及び形態の材料が使用可能であり、前述した基本組成の層状複水酸化物であってもよい。水酸化物イオン伝導性材料は、粒子形態に限らず、空気極触媒及び電子伝導性材料を部分的に又は概ね全体的に被覆するような塗布膜の形態であってもよい。もっとも、この塗布膜の形態においても、イオン伝導性材料は緻密質ではなく、開気孔を有しており、空気極32の外側表面からセパレータ40(又は該当する場合には中間層)との界面に向かって、O
2やH
2Oが気孔中を拡散できるように構成されるのが望ましい。空気極32における水酸化物イオン伝導性材料の含有量は特に限定されないが、空気極32の合計量に対して、0〜95体積%が好ましく、より好ましくは5〜85体積%、さらに好ましくは10〜80体積%である。
【0053】
空気極32の形成はあらゆる手法で行われてよく、特に限定されない。例えば、空気極触媒、電子伝導性材料、及び所望により水酸化物イオン伝導性材料をエタノール等の溶媒を用いて湿式混合して乾燥及び解砕した後、バインダーと混合してフィブリル化し、得られたフィブリル状混合物を集電体に圧着して空気極32を形成し、この空気極32/集電体の積層シートの空気極32側をセパレータ40(又は該当する場合には中間層)に圧着してもよい。あるいは、空気極触媒、電子伝導性材料、及び所望により水酸化物イオン伝導性材料をエタノール等の溶媒と共に湿式混合してスラリー化し、このスラリーを中間層に塗布して乾燥させて空気極32を形成してもよい。したがって、空気極32はバインダーを含んでいてもよい。バインダーは、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂であってよく特に限定されない。
【0054】
空気極32は5〜200μmの厚さを有する層状の形態であるのが好ましく、より好ましくは5〜100μmであり、さらに好ましくは5〜50μm、特に好ましくは5〜30μmである。例えば、水酸化物イオン伝導性材料を含む場合、上記範囲内の厚さであると、ガス拡散抵抗の増大を抑えながら三相界面の面積を比較的大きく確保することができ、空気極の反応抵抗の低減をより好ましく実現することができる。
【0055】
空気極32のセパレータ40と反対側に、通気性を有する正極集電体42が設けられるのが好ましい。この場合、正極集電体42は空気極32に空気が供給されるように通気性を有するのが好ましい。正極集電体42の好ましい例としては、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属板若しくは金属メッシュ、カーボンペーパー、カーボンクロス、及び電子伝導性酸化物等が挙げられ、耐食性及び通気性の点でステンレス金網が特に好ましい。
【0056】
セパレータ40及び空気極32の間には中間層が設けられてもよい。中間層はセパレータ40と空気極32の密着性を向上し、かつ、水酸化物イオン伝導性を有するものであれば特に限定されず、有機材料及び無機材料を問わず、公知各種の組成及び構成の層であることができる。中間層は高分子材料及び/又はセラミックス材料を含んでなるのが好ましく、この場合、中間層に含まれる高分子材料及びセラミックス材料の少なくともいずれか一方が水酸化物イオン伝導性を有していればよい。中間層は複数設けられてもよく、これら複数の中間層は互いに同種の及び/又は異なる層であってよい。すなわち、中間層は単層構成であってもよいし、2層以上の構成であってもよい。中間層は1〜200μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは1〜100μmであり、さらに好ましくは1〜50μm、特に好ましくは1〜30μmである。このような厚さであると、セパレータ40と空気極32の密着性を向上しやすく、亜鉛空気二次電池において電池抵抗(特に空気極及びセパレータ間の界面抵抗)をより効果的に低減することができる。
【0057】
負極34は、負極活物質として機能する亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物を含んでなる。負極34は、粒子状、板状、ゲル状等のいかなる形状又は形態であってもよいが、粒子状またはゲル状とするのが反応速度の点で好ましい。粒子状の負極としては、30〜350μmの粒径のものを好ましく用いることができる。ゲル状の負極としては、100〜300μmの粒径の無汞化亜鉛合金粉、アルカリ電解液及び増粘剤(ゲル化剤)を混合攪拌してゲル状に形成したものを好ましく用いることができる。亜鉛合金は、マグネシウム、アルミニウム、リチウム、ビスマス、インジウム、鉛等の汞化又は無汞化の合金であることができ、負極活物質として所望の性能を確保できる限り、その含有量は特に限定されない。好ましい亜鉛合金は、無水銀かつ鉛無添加の無汞化亜鉛合金であり、アルミニウム、ビスマス、インジウム又はこれらの組合せを含むものがより好ましい。さらに好ましくは、ビスマスを50〜1000ppm、インジウムを100〜1000ppmで、アルミニウム及び/又はカルシウムを10〜100ppm含む無汞化亜鉛合金であり、特に好ましくはビスマスを100〜500ppm、インジウムを300〜700ppm、アルミニウム及び/又はカルシウムを20〜50ppm含む。好ましい亜鉛化合物の例としては酸化亜鉛が挙げられる。
【0058】
負極34に接触して負極集電体44が設けられるのが好ましい。負極集電体44は
図3A及び3Bに示されるように容器46を貫通してその外側にまで延在して負極端子をそれ自体で構成してもよいし、別途設けられた負極端子に容器46内又は外で接続される構成としてもよい。負極集電体の好ましい例としては、ステンレス鋼、銅(例えば銅パンチングメタル)、ニッケル等の金属板若しくは金属メッシュ、カーボンペーパー、及び酸化物導電体等が挙げられる。例えば、銅パンチングメタル上に、酸化亜鉛粉末及び/又は亜鉛粉末、並びに所望によりバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)を含んでなる混合物を塗布して負極34/負極集電体44からなる負極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の負極板(すなわち負極34/負極集電体44)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。
【0059】
所望により、第三電極38が、電解液36と接触するが負極34と接触しないように設けられてもよく、この場合、外部回路を経て空気極32と接続される。かかる構成とすることで、負極34から副反応により発生しうる水素ガスを第三電極38に接触させて以下の反応:
第三電極: H
2+2OH
−→2H
2O+2e
−
正極放電: O
2+2H
2O+4e
−→4OH
−
により水に戻すことができる。別の表現をすれば、負極34で発生した水素ガスが第三電極38で吸収され自己放電をすることになる。これにより、水素ガスの発生による負極側密閉空間における内圧の上昇及びそれに伴う不具合を抑制又は回避できるとともに、(放電反応に伴い上記反応式に従い減少することになる)水を発生させて負極側密閉空間内での水不足を抑制又は回避することができる。すなわち、負極から発生した水素ガスを負極側密閉空間内で水に戻して再利用することができる。その結果、亜鉛デンドライトによる短絡及び二酸化炭素の混入の両方を防止するのに極めて効果的な構成を有しながら、水素ガス発生の問題にも対処可能な、信頼性の高い亜鉛空気二次電池を提供することができる。
【0060】
第三電極38は、外部回路を経て空気極32と接続されることで、上述したような反応により水素ガス(H
2)を水(H
2O)に変換可能な電極であれば特に限定されないが、空気極32よりも酸素過電圧が大きいことが望まれる。また、第三電極38は通常の充放電反応に関与しないことも望まれる。第三電極38は、白金及び/又は炭素材料を含んでなるのが好ましく、より好ましくは炭素材料を含んでなる。炭素材料の好ましい例としては、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、活性炭、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。第三電極38の形状は特に限定されないが、比表面積が大きくなるような形状(例えばメッシュ状や粒子状)とするのが好ましい。第三電極38(好ましくは比表面積の大きい形状の第三電極)は集電体上に塗工及び/又は配置されるのがより好ましい。第三電極38用の集電体はいかなる形状であってもよいが、好ましい例としては、線材(例えばワイヤ)、パンチングメタル、メッシュ、発泡金属、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。第三電極38用集電体の材質としては第三電極38の材質と同様の材質であってもよいし、金属(例えばニッケル)、合金又はその他の導電性材料であってもよい。
【0061】
第三電極38は電解液36と接触するが、通常の充放電反応と直接関係の無い場所に配置されることが望ましい。この場合、負極側密閉空間内に第三電極38と接触可能に不織布等の吸水性樹脂又は保液性樹脂製の保水部材を配置して、電解液が減少した場合であっても電解液36を第三電極38と常時接触可能に保持する構成とするのが好ましい。保水部材として市販の電池用セパレータも使用可能である。吸水性樹脂又は保液性樹脂の好ましい例としては、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。第三電極38は、必ずしも多量の電解液36で含浸されている必要はなく、少量ないし微量の電解液36で湿っている程度でも所望の機能を発揮することができるので、その程度の保水性能を保水部材が有していればよい。
【0062】
多孔質基材付きLDHセパレータ
前述のとおり、本発明においてセパレータを構成する無機固体電解質体は膜状又は層状の形態である。この場合、膜状又は層状の無機固体電解質体が多孔質基材上又はその中に形成されてなる、多孔質基材付きセパレータとするのが好ましい。特に好ましい多孔質基材付きセパレータは、多孔質基材と、この多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成されるセパレータ層とを備えてなり、セパレータ層が前述したような層状複水酸化物(LDH)を含んでなるものである。セパレータ層は透水性及び通気性を有しないのが好ましい。すなわち、多孔質材料は孔の存在により透水性及び通気性を有しうるが、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。セパレータ層は多孔質基材上に形成されるのが好ましい。例えば、
図4に示されるように、多孔質基材28上にセパレータ層20がLDH緻密膜として形成されるのが好ましい。この場合、多孔質基材28の性質上、
図4に示されるように多孔質基材28の表面及びその近傍の孔内にもLDHが形成されてよいのはいうまでもない。あるいは、
図5に示されるように、多孔質基材28中(例えば多孔質基材28の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材28の少なくとも一部がセパレータ層20’を構成するものであってもよい。この点、
図5に示される態様は
図4に示される態様のセパレータ層20における膜相当部分を除去した構成となっているが、これに限定されず、多孔質基材28の表面と平行にセパレータ層が存在していればよい。いずれにしても、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているため、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しない(すなわち基本的に水酸化物イオンのみを通す)という特有の機能を有することができる。
【0063】
多孔質基材は、その上及び/又は中にLDH含有セパレータ層を形成できるものが好ましく、その材質や多孔構造は特に限定されない。多孔質基材上及び/又は中にLDH含有セパレータ層を形成するのが典型的ではあるが、無孔質基材上にLDH含有セパレータ層を成膜し、その後公知の種々の手法により無孔質基材を多孔化してもよい。いずれにしても、多孔質基材は透水性を有する多孔構造を有するのが、電池用セパレータとして電池に組み込まれた場合に電解液をセパレータ層に到達可能に構成できる点で好ましい。
【0064】
セパレータ層は、多孔質基材上及び/又は多孔質基材中、好ましくは多孔質基材上に形成される。例えば、
図4に示されるようにセパレータ層20が多孔質基材28上に形成される場合には、セパレータ層20はLDH緻密膜の形態であり、このLDH緻密膜は典型的にはLDHからなる。また、
図5に示されるようにセパレータ層20’が多孔質基材28中に形成される場合には、多孔質基材28中(典型的には多孔質基材28の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成されることから、セパレータ層20’は典型的には多孔質基材28の少なくとも一部及びLDHからなる。
図5に示されるセパレータ層20’は、
図4に示されるセパレータ層20における膜相当部分を研磨、切削等の公知の手法により除去することにより得ることができる。
【0065】
セパレータ層は透水性及び通気性を有しないのが好ましい。例えば、セパレータ層はその片面を25℃で1週間水と接触させても水を透過させず、また、その片面に0.5atmの内外差圧でヘリウムガスを加圧してもヘリウムガスを透過させない。すなわち、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。もっとも、局所的且つ/又は偶発的に透水性を有する欠陥が機能膜に存在する場合には、当該欠陥を適当な補修剤(例えばエポキシ樹脂等)で埋めて補修することで水不透性及び気体不透過性を確保してもよく、そのような補修剤は必ずしも水酸化物イオン伝導性を有する必要はない。いずれにしても、セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)の表面が20%以下の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは7%以下である。セパレータ層の表面の気孔率が低ければ低いほど、セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)の緻密性が高いことを意味し、好ましいといえる。ここで、セパレータ層の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、セパレータ層の表面の気孔率はセパレータ層内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、セパレータ層の表面が緻密であればセパレータ層の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、セパレータ層の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)セパレータ層の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定はセパレータ層表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
【0066】
層状複水酸化物は複数の板状粒子(すなわちLDH板状粒子)の集合体で構成され、当該複数の板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなるのが好ましい。この態様は、
図4に示されるように、多孔質基材28上にセパレータ層20がLDH緻密膜として形成される場合に特に好ましく実現可能な態様であるが、
図5に示されるように、多孔質基材28中(典型的には多孔質基材28の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材28の少なくとも一部がセパレータ層20’を構成する場合においても実現可能である。
【0067】
すなわち、LDH結晶は
図6に示されるような層状構造を持った板状粒子の形態を有することが知られているが、上記略垂直又は斜めの配向は、LDH含有セパレータ層(例えばLDH緻密膜)にとって極めて有利な特性である。というのも、配向されたLDH含有セパレータ層(例えば配向LDH緻密膜)には、LDH板状粒子が配向する方向(即ちLDHの層と平行方向)の水酸化物イオン伝導度が、これと垂直方向の伝導度よりも格段に高いという伝導度異方性があるためである。実際、本出願人は、LDHの配向バルク体において、配向方向における伝導度(S/cm)が配向方向と垂直な方向の伝導度(S/cm)と比べて1桁高いとの知見を得ている。すなわち、本態様のLDH含有セパレータ層における上記略垂直又は斜めの配向は、LDH配向体が持ちうる伝導度異方性を層厚方向(すなわちセパレータ層又は多孔質基材の表面に対して垂直方向)に最大限または有意に引き出すものであり、その結果、層厚方向への伝導度を最大限又は有意に高めることができる。その上、LDH含有セパレータ層は層形態を有するため、バルク形態のLDHよりも低抵抗を実現することができる。このような配向性を備えたLDH含有セパレータ層は、層厚方向に水酸化物イオンを伝導させやすくなる。その上、緻密化されているため、層厚方向への高い伝導度及び緻密性が望まれるセパレータに極めて適する。
【0068】
特に好ましくは、LDH含有セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)においてLDH板状粒子が略垂直方向に高度に配向してなる。この高度な配向は、セパレータ層の表面をX線回折法により測定した場合に、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されることで確認可能なものである(但し、(012)面に起因するピークと同位置に回折ピークが観察される多孔質基材を用いた場合には、LDH板状粒子に起因する(012)面のピークを特定できないことから、この限りでない)。この特徴的なピーク特性は、セパレータ層を構成するLDH板状粒子がセパレータ層に対して略垂直方向(すなわち垂直方向又はそれに類する斜め方向、好ましくは垂直方向)に配向していることを示す。すなわち、(003)面のピークは無配向のLDH粉末をX線回折した場合に観察される最も強いピークとして知られているが、配向LDH含有セパレータ層にあっては、LDH板状粒子がセパレータ層に対して略垂直方向に配向していることで(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出される。これは、(003)面が属するc軸方向(00l)面(lは3及び6である)がLDH板状粒子の層状構造と平行な面であるため、このLDH板状粒子がセパレータ層に対して略垂直方向に配向しているとLDH層状構造も略垂直方向を向くこととなる結果、セパレータ層表面をX線回折法により測定した場合に(00l)面(lは3及び6である)のピークが現れないか又は現れにくくなるからである。特に(003)面のピークは、それが存在する場合、(006)面のピークよりも強く出る傾向があるから、(006)面のピークよりも略垂直方向の配向の有無を評価しやすいといえる。したがって、配向LDH含有セパレータ層は、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されるのが、垂直方向への高度な配向を示唆することから好ましいといえる。
【0069】
セパレータ層は100μm以下の厚さを有するのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことでセパレータの低抵抗化を実現できる。セパレータ層が多孔質基材上にLDH緻密膜として形成されるのが好ましく、この場合、セパレータ層の厚さはLDH緻密膜の厚さに相当する。また、セパレータ層が多孔質基材中に形成される場合には、セパレータ層の厚さは多孔質基材の少なくとも一部及びLDHからなる複合層の厚さに相当し、セパレータ層が多孔質基材上及び中にまたがって形成される場合にはLDH緻密膜と上記複合層の合計厚さに相当する。いずれにしても、上記のような厚さであると、電池用途等への実用化に適した所望の低抵抗を実現することができる。LDH配向膜の厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ等の機能膜として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0070】
上述した多孔質基材付きLDHセパレータは、(1)多孔質基材を用意し、(2)マグネシウムイオン(Mg
2+)及びアルミニウムイオン(Al
3+)を0.20〜0.40mol/Lの合計濃度で含み、かつ、尿素を含んでなる原料水溶液に、多孔質基材を浸漬させ、(3)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、層状複水酸化物を含んでなるセパレータ層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させることにより製造することができる。
【0071】
(1)多孔質基材の用意
多孔質基材は、前述したとおりであり、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ及びジルコニアであり、最も好ましくはアルミナである。これらの多孔質セラミックスを用いるとLDH含有セパレータ層の緻密性を向上しやすい傾向がある。セラミックス材料製の多孔質基材を用いる場合、超音波洗浄、イオン交換水での洗浄等を多孔質基材に施すのが好ましい。
【0072】
(2)原料水溶液への浸漬
次に、多孔質基材を原料水溶液に所望の向きで(例えば水平又は垂直に)浸漬させる。多孔質基材を水平に保持する場合は、吊るす、浮かせる、容器の底に接するように多孔質基材を配置すればよく、例えば、容器の底から原料水溶液中に浮かせた状態で多孔質基材を固定としてもよい。多孔質基材を垂直に保持する場合は、容器の底に多孔質基材を垂直に設置できるような冶具を置けばよい。いずれにしても、多孔質基材にLDHを略垂直方向又はそれに近い方向(すなわちLDH板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と略垂直に又は斜めに交差するような向きに)に成長させる構成ないし配置とするのが好ましい。原料水溶液は、マグネシウムイオン(Mg
2+)及びアルミニウムイオン(Al
3+)を所定の合計濃度で含み、かつ、尿素を含んでなる。尿素が存在することで尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物を形成することによりLDHを得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。原料水溶液に含まれるマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度(Mg
2++Al
3+)は0.20〜0.40mol/Lが好ましく、より好ましくは0.22〜0.38mol/Lであり、さらに好ましくは0.24〜0.36mol/L、特に好ましくは0.26〜0.34mol/Lである。このような範囲内の濃度であると核生成と結晶成長をバランスよく進行させることができ、配向性のみならず緻密性にも優れたLDH含有セパレータ層を得ることが可能となる。すなわち、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度が低いと核生成に比べて結晶成長が支配的となり、粒子数が減少して粒子サイズが増大する一方、この合計濃度が高いと結晶成長に比べて核生成が支配的となり、粒子数が増大して粒子サイズが減少するものと考えられる。
【0073】
好ましくは、原料水溶液に硝酸マグネシウム及び硝酸アルミニウムが溶解されており、それにより原料水溶液がマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンに加えて硝酸イオンを含んでなる。そして、この場合、原料水溶液における、尿素の硝酸イオン(NO
3−)に対するモル比(尿素/NO
3−)が、2〜6が好ましく、より好ましくは4〜5である。
【0074】
(3)水熱処理によるLDH含有セパレータ層の形成
そして、原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、LDHを含んでなるセパレータ層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させる。この水熱処理は密閉容器中、60〜150℃で行われるのが好ましく、より好ましくは65〜120℃であり、さらに好ましくは65〜100℃であり、特に好ましくは70〜90℃である。水熱処理の上限温度は多孔質基材(例えば高分子基材)が熱で変形しない程度の温度を選択すればよい。水熱処理時の昇温速度は特に限定されず、例えば10〜200℃/hであってよいが、好ましくは100〜200℃/hである、より好ましくは100〜150℃/hである。水熱処理の時間はLDH含有セパレータ層の目的とする密度と厚さに応じて適宜決定すればよい。
【0075】
水熱処理後、密閉容器から多孔質基材を取り出し、イオン交換水で洗浄するのが好ましい。
【0076】
上記のようにして製造されたLDH含有複合材料におけるLDH含有セパレータ層は、LDH板状粒子が高度に緻密化したものであり、しかも伝導に有利な略垂直方向に配向したものである。したがって、亜鉛デンドライト進展が実用化の大きな障壁となっているニッケル亜鉛二次電池に極めて好適といえる。
【0077】
ところで、上記製造方法により得られるLDH含有セパレータ層は多孔質基材の両面に形成されうる。このため、LDH含有複合材料をセパレータとして好適に使用可能な形態とするためには、成膜後に多孔質基材の片面のLDH含有セパレータ層を機械的に削るか、あるいは成膜時に片面にはLDH含有セパレータ層が成膜できないような措置を講ずるのが望ましい。
【実施例】
【0078】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0079】
例1:多孔質基材付きLDHセパレータの作製及び評価
(1)多孔質基材の作製
ベーマイト(サソール社製、DISPAL 18N4−80)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ベーマイト):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、5cm×8cmを十分に超える大きさで且つ厚さ0.5cmの板状に成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、1150℃で3時間焼成して、アルミナ製多孔質基材を得た。こうして得られた多孔質基材を5cm×8cmの大きさに切断加工した。
【0080】
得られた多孔質基材について、画像処理を用いた手法により、多孔質基材表面の気孔率を測定したところ、24.6%であった。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して多孔質基材表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われた。なお、
図7に多孔質基材表面のSEM画像を示す。
【0081】
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ約0.1μmであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0082】
(2)多孔質基材の洗浄
得られた多孔質基材をアセトン中で5分間超音波洗浄し、エタノール中で2分間超音波洗浄、その後、イオン交換水中で1分間超音波洗浄した。
【0083】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO
3)
2・6H
2O、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO
3)
3・9H
2O、関東化学株式会社製)、及び尿素((NH
2)
2CO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg
2+/Al
3+)が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg
2++Al
3+)が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を600mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO
3−=4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0084】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量800ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(3)で作製した原料水溶液と上記(2)で洗浄した多孔質基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70℃で168時間(7日間)水熱処理を施すことにより基材表面に層状複水酸化物配向膜(セパレータ層)の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、層状複水酸化物(以下、LDHという)の緻密膜(以下、膜試料という)を基材上に得た。得られた膜試料の厚さは約1.5μmであった。こうして、層状複水酸化物含有複合材料試料(以下、複合材料試料という)を得た。なお、LDH膜は多孔質基材の両面に形成されていたが、セパレータとして形態を複合材料に付与するため、多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削り取った。
【0085】
(5)各種評価
(5a)膜試料の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、膜試料の結晶相を測定したところ、
図8に示されるXRDプロファイルが得られた。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載される層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定した。その結果、膜試料は層状複水酸化物(LDH、ハイドロタルサイト類化合物)であることが確認された。なお、
図8に示されるXRDプロファイルにおいては、膜試料が形成されている多孔質基材を構成するアルミナに起因するピーク(図中で○印が付されたピーク)も併せて観察されている。
【0086】
(5b)微構造の観察
膜試料の表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。得られた膜試料の表面微構造のSEM画像(二次電子像)を
図9に示す。
【0087】
また、複合材料試料の断面をCP研磨によって研磨して研磨断面を形成し、この研磨断面の微構造を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。こうして得られた複合材料試料の研磨断面微構造のSEM画像を
図10に示す。
【0088】
(5c)気孔率の測定
膜試料について、画像処理を用いた手法により、膜の表面の気孔率を測定した。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して膜の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は配向膜表面の6μm×6μmの領域について行われた。その結果、膜の表面の気孔率は19.0%であった。また、この膜表面の気孔率を用いて、膜表面から見たときの密度D(以下、表面膜密度という)をD=100%−(膜表面の気孔率)により算出したところ、81.0%であった。
【0089】
また、膜試料について、研磨断面の気孔率についても測定した。この研磨断面の気孔率についても測定は、上記(5b)に示される手順に従い膜の厚さ方向における断面研磨面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得したこと以外は、上述の膜表面の気孔率と同様にして行った。この気孔率の測定は配向膜断面の膜部分について行われた。こうして膜試料の断面研磨面から算出した気孔率は平均で3.5%(3箇所の断面研磨面の平均値)であり、多孔質基材上でありながら非常に高密度な膜が形成されていることが確認された。
【0090】
(5d)緻密性判定試験I
膜試料が透水性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、
図11Aに示されるように、上記(1)において得られた複合材料試料120(1cm×1cm平方に切り出されたもの)の膜試料側に、中央に0.5cm×0.5cm平方の開口部122aを備えたシリコンゴム122を接着し、得られた積層物を2つのアクリル製容器124,126で挟んで接着した。シリコンゴム122側に配置されるアクリル製容器124は底が抜けており、それによりシリコンゴム122はその開口部122aが開放された状態でアクリル製容器124と接着される。一方、複合材料試料120の多孔質基材側に配置されるアクリル製容器126は底を有しており、その容器126内にはイオン交換水128が入っている。この時、イオン交換水にAl及び/又はMgを溶解させておいてもよい。すなわち、組み立て後に上下逆さにすることで、複合材料試料120の多孔質基材側にイオン交換水128が接するように各構成部材が配置されてなる。これらの構成部材等を組み立て後、総重量を測定した。なお、容器126には閉栓された通気穴(図示せず)が形成されており、上下逆さにした後に開栓されることはいうまでもない。
図11Bに示されるように組み立て体を上下逆さに配置して25℃で1週間保持した後、総重量を再度測定した。このとき、アクリル製容器124の内側側面に水滴が付着している場合には、その水滴を拭き取った。そして、試験前後の総重量の差を算出することにより緻密度を判定した。その結果、25℃で1週間保持した後においても、イオン交換水の重量に変化は見られなかった。このことから、膜試料(すなわち機能膜)は透水性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0091】
(5e)緻密性判定試験II
膜試料が通気性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、
図12A及び12Bに示されるように、蓋の無いアクリル容器130と、このアクリル容器130の蓋として機能しうる形状及びサイズのアルミナ治具132とを用意した。アクリル容器130にはその中にガスを供給するためのガス供給口130aが形成されている。また、アルミナ治具132には直径5mmの開口部132aが形成されており、この開口部132aの外周に沿って膜試料載置用の窪み132bが形成されてなる。アルミナ治具132の窪み132bにエポキシ接着剤134を塗布し、この窪み132bに複合材料試料136の膜試料136b側を載置してアルミナ治具132に気密かつ液密に接着させた。そして、複合材料試料136が接合されたアルミナ治具132を、アクリル容器130の開放部を完全に塞ぐようにシリコーン接着剤138を用いて気密かつ液密にアクリル容器130の上端に接着させて、測定用密閉容器140を得た。この測定用密閉容器140を水槽142に入れ、アクリル容器130のガス供給口130aを圧力計144及び流量計146に接続して、ヘリウムガスをアクリル容器130内に供給可能に構成した。水槽142に水143を入れて測定用密閉容器140を完全に水没させた。このとき、測定用密閉容器140の内部は気密性及び液密性が十分に確保されており、複合材料試料136の膜試料136b側が測定用密閉容器140の内部空間に露出する一方、複合材料試料136の多孔質基材136a側が水槽142内の水に接触している。この状態で、アクリル容器130内にガス供給口130aを介してヘリウムガスを測定用密閉容器140内に導入した。圧力計144及び流量計146を制御して膜試料136b内外の差圧が0.5atmとなる(すなわちヘリウムガスに接する側に加わる圧力が反対側に加わる水圧よりも0.5atm高くなる)ようにして、複合材料試料136から水中にヘリウムガスの泡が発生するか否かを観察した。その結果、ヘリウムガスに起因する泡の発生は観察されなかった。よって、膜試料136bは通気性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0092】
例2:ニッケル亜鉛二次電池の作製及び評価
(1)多孔質基材付きセパレータの用意
例1と同様の手順により、多孔質基材付きセパレータとして、アルミナ基材上LDH膜(サイズ:5cm×8cm)を用意した。
【0093】
(2)正極板の作製
亜鉛及びコバルトを固溶体となるように添加した水酸化ニッケル粒子を用意した。この水酸化ニッケル粒子を水酸化コバルトで被覆して正極活物質を得た。得られた正極活物質と、カルボキシメチルセルロースの2%水溶液とを混合してペーストを調製した。正極活物質の多孔度が50%となるように、多孔度が約95%のニッケル金属多孔質基板からなる集電体に上記得られたペーストを均一に塗布して乾燥し、活物質部分が5cm×5cmの領域にわたって塗工された正極板を得た。このとき、4Ah相当の水酸化ニッケル粒子が活物質中に含まれるように塗工量を調整した。
【0094】
(3)負極板の作製
銅パンチングメタルからなる集電体上に、酸化亜鉛粉末80重量部、亜鉛粉末20重量部及びポリテトラフルオロエチレン粒子3重量部からなる混合物を塗布して、多孔度約50%で、活物質部分が5cm×5cmの領域にわたって塗工された負極板を得た。このとき、正極板容量の4Ah相当の酸化亜鉛粉末が活物質中に含まれるように塗工量を調整した。
【0095】
(4)電池の組み立て
上記得られた正極板、負極板、及び多孔質基材付きセパレータを用いて、
図1Aに示されるようなニッケル亜鉛二次電池を以下のような手順で組み立てた。
【0096】
まず、ケース上蓋が外されたABS樹脂製の直方体ケース本体を用意した。このケース本体の中央付近に多孔質基材付きセパレータ(アルミナ基材上LDH膜)を挿入し、その3辺をエポキシ樹脂系接着剤(セメダイン社製、EP008)を用いてケース本体の内壁に固定した。正極板及び負極板を正極室及び負極室にそれぞれ挿入した。このとき、正極集電体及び負極集電体がケース本体内壁に接するような向きで正極板及び負極板を配置した。正極室に、正極活物質塗工部分が十分に隠れる量の6mol/LのKOH水溶液を電解液として注液した。正極室の液面高さはケース底より約5.2cmであった。一方、負極室には、負極活物質塗工部分が十分に隠れるだけでなく、充電時に減少することが見込まれる水分量を考慮した過剰量の6mol/LのKOH水溶液を電解液として注液した。負極室における液面高さはケース底より約6.5cmであった。正極集電体及び負極集電体の端子部をそれぞれケース上部の外部端子と接続した。ケース上蓋を熱融着でケース本体に固定して、電池ケース容器を密閉化した。こうしてニッケル亜鉛二次電池を得た。なお、この電池においては、セパレータのサイズが幅5cm×高さ8cmであり、かつ、正極板及び負極板の活物質塗工部分のサイズが幅5cm×高さ5cmであるため、正極室及び負極室の上部3cm相当の空間が正極側余剰空間及び負極側余剰空間といえる。
【0097】
(5)評価
作製したニッケル亜鉛二次電池に対して、設計容量4Ahの0.1C相当の0.4mAの電流で10時間定電流充電を実施した。充電後、ケースの変形や電解液の漏れは観察されなかった。充電後の電解液量を観察したところ、正極室の電解液の液面高さはケース底より約7.5cm、負極室の電解液の液面高さはケース底より約5.2cmであった。充電により、正極室電解液が増加し、負極室電解液が減少したものの、負極活物質塗工部分には十分な電解液があり、充放電を通して、塗工した正極活物質及び負極活物質が、十分な充放電反応を起こす電解液をケース内に保持できていた。多孔質基材付きセパレータはABS樹脂製の直方体ケース本体に良好な接着状態で接合が保持されていた。
【0098】
例3:各種仕様の多孔質基材を用いた電池特性等の評価
(1)多孔質基材付きセパレータの作製
原料配合比、成形圧、厚さ、焼成温度等の製造条件を適宜変更したこと以外は例1(1)と同様の手順により、2cm×3.2cmのサイズで、厚さ100〜2000μm、気孔率10〜90%の範囲内の各種仕様のアルミナ製多孔質基材を作製した。なお、多孔質基材の気孔率は例1(1)に記載される手法と同様にして測定し、便宜上、得られた値を1の位で四捨五入した概算値を評価指標として用いた。
【0099】
続いて、製造条件を適宜変更したこと以外は例2(2)〜(4)と同様の手順により、多孔質基材の洗浄、原料水溶液の作製、及び水熱処理による成膜を行い、多孔質基材付きLDHセパレータ(サイズ:2cm×3.2cm)を作製した。
【0100】
(2)正極板の作製
集電体の両面に正極活物質を塗工した正極板を2枚(正極塗工面が計2面)と、集電体の片面に正極活物質を塗工した正極板を2枚(正極塗工面が計4面)とを以下のようにして作製した。まず、亜鉛及びコバルトを固溶体となるように添加した水酸化ニッケル粒子を用意した。この水酸化ニッケル粒子を水酸化コバルトで被覆して正極活物質を得た。得られた正極活物質と、カルボキシメチルセルロースの2%水溶液とを混合してペーストを調製した。正極活物質の多孔度が50%となるように、多孔度が約95%のニッケル金属多孔質基板からなる厚さ0.5mmの集電体に上記得られたペーストを均一に塗布して乾燥し、活物質部分が2cm×2cmの領域にわたって片面又は両面に塗工された正極板を得た。集電体の両面に正極活物質を塗工した正極板の厚さ(すなわち活物質/集電体/活物質の厚さ)は1.8mmであり、集電体の片面に正極活物質を塗工した正極板の厚さ(すなわち集電体/活物質の厚さ)は0.9mmであった。
【0101】
(3)負極板の作製
集電体の両面に負極活物質を塗工した負極板3枚(負極塗工面が計6面)を以下のようにして作製した。銅パンチングメタルからなる厚さ0.2mmの集電体上に、酸化亜鉛粉末80重量部、亜鉛粉末20重量部及びポリテトラフルオロエチレン粒子3重量部からなる混合物を塗布して、多孔度約50%で、活物質部分が2cm×2cmの領域にわたって塗工された負極板を得た。このとき、正極板容量の4Ah相当の酸化亜鉛粉末が活物質中に含まれるように塗工量を調整した。集電体の両面に負極活物質を塗工した負極板の厚さ(すなわち活物質/集電体/活物質の厚さ)は0.6mmであった。
【0102】
(4)電池の組み立て
正極板、負極板、及び多孔質基材付きセパレータを用いて、
図2に示されるような6対相当の電極対を備えた並列積層型ニッケル亜鉛二次電池を例2に準じた手順で組み立てた。
【0103】
(5)各種評価
上記のようにして得られる各種仕様の多孔質基材付きセパレータを備えた並列積層型ニッケル亜鉛二次電池について、体積エネルギー密度及び内部抵抗の評価を行った。評価方法は以下のとおりとした。
<体積エネルギー密度>
厚さ300μmの多孔質基材を用いて作製した電池の、電池容器の寸法から電池容積を算出し、電池のエネルギー6.4Wh(=4Ah×1.6V)を上記電池容積で除することにより基準となる体積エネルギー密度(Wh/L)を算出した。各二次電池の体積エネルギー密度は、各二次電池に使用した多孔質基材の厚みの増減分を、電池容器の厚み寸法の増減分として、上記同様電池のエネルギー6.4Whを上記増減分を考慮した電池容積を除することにより体積エネルギー密度(Wh/L)を算出した。各二次電池の体積エネルギー密度は、厚さ300μmの多孔質基材を用いて作製した電池体積エネルギー密度を基準(100%)として規格化(normalization)して、相対値としてのエネルギー密度(%)を得た。
【0104】
<内部抵抗>
電池を一定の電流値で放電し、放電開始から2秒後の閉回路電圧(CCV)を充放電装置により測定した。放電前の開回路電圧(OCV)と、放電開始から2秒後の閉回路電圧(CCV)とを用いて、上記OCVから上記CCVを減じた値を上記電流値で除することにより電池の内部抵抗(Ω)を算出した。各二次電池の内部抵抗は、上記エネルギー密度(%)と同様に、厚さ300μmの多孔質基材を用いて作製した電池の内部抵抗を基準(100%)として規格化(normalization)して、相対値としての内部抵抗(%)を得た。
【0105】
(5a)多孔質基材の厚さとエネルギー密度の関係
気孔率50%(すなわち相対密度50%)として多孔質基材の厚さのみを変化させた場合における、多孔質基材の厚さ(cm)とエネルギー密度(%)の関係を調べたところ、表1に示される結果が得られた。また、
図13に、表2に示される多孔質基材の厚さ(cm)とエネルギー密度(%)との関係をプロットしたグラフが示される。
【表1】
【0106】
表1及び
図13に示されるように作製した多孔質基材の厚さで最も小さいサンプルは100μm(0.01cm)であった。100μmの多孔質基材であれば作製及びハンドリングが可能であった。100μm未満の厚さ(例えば80μm)の多孔質基材の作製も試みたが、ハンドリング時に割れたりして評価不能であった(すなわち、実質的に多孔質基材は作製不能であったといえる)。特に、厚さ200μm以上の多孔質基材にあってはハンドリング性がより良好であった。一方、多孔質基材の厚さが大きくなるにつれて、
図13に示されるようにエネルギー密度が低くなる。
図13から、多孔質基材の厚さが1800μm以下であるとエネルギー密度が80%以上(基準点である厚さ0.03cmに対して)と高くすることができる。特に、厚さが900μm以下であると、エネルギー密度が90%以上と高くなるので好ましい。
【0107】
(5b)多孔質基材の気孔率と内部抵抗との関係
多孔質基材の厚さを0.01cm(100μm)又は0.08cm(800μm)として気孔率のみを変動させた場合における、多孔質基材の気孔率(%)と内部抵抗(%及びΩ・cm
2)の関係を調べたところ、表2及び3に示される結果が得られた。また、
図14に、表2及び3に示される多孔質基材の気孔率(%)と内部抵抗(%)との関係をプロットしたグラフが示される。なお、多孔質基材の厚さが0.01cmの場合、60%以上の気孔率については、多孔質基材の作製又はハンドリングが困難であったため、評価を行わなかった。
【表2】
【表3】
【0108】
表2及び3に示されるように、気孔率が少なくとも10%の多孔質基材を用いることで、内部抵抗の測定が可能であった(すなわち電池として作動した)。この点、気孔率が5%となると、電流値が小さく、内部抵抗の測定が不能であった(すなわち電池として実質作動しなかった)。よって、本発明の二次電池に採用可能な多孔質基材の厚さの気孔率は10%以上とした。そして、
図14から分かるように、多孔質基材の厚さに関わらず、気孔率を20%以上にすると抵抗値が急激に低下した。よって、多孔質基材の気孔率は20%以上であるのがより好ましい。特に、多孔質基材の作製が容易になる200μm以上の厚さになると、気孔率が30%以上の範囲において内部抵抗が低い値で安定するので、多孔質基材の気孔率は30%以上がさらに好ましい。すなわち、多孔質基材の厚さが100μm及び800μmのいずれであっても気孔率が30%以上の範囲であると内部抵抗の変化が小さくなる傾向がある。もっとも、気孔率が大きければ大きいほど内部抵抗は小さくなる。この点、気孔率90%まではある程度厚さで多孔質基材を作製可能であるが、気孔率が90%を超えるとハンドリングの際に崩れてしまって多孔質基材を実際上作製できない。よって、本発明の二次電池に採用可能な多孔質基材の厚さの気孔率は90%以下とするのが好ましい。
【0109】
なお、多孔質基材の厚さが薄い場合、70%を超える気孔率であると上述のようにハンドリングが困難となる。また、気孔率70%を超えても、内部抵抗の低減効果は殆ど無いので、気孔率は70%以下がより好ましい(表2及び
図14において50%を超えるサンプルデータが示されていないのは多孔質基材の作製が困難であったことによるものである)。
【0110】
(5c)T×D/100の値と内部抵抗との関係
表4A〜4Dに示されるように様々な厚さ及び気孔率の多孔質基材について、多孔質基材の厚さをT(μm)、多孔質基材の気孔率をP(%)とし、多孔質基材の相対密度DをD=(100−P)(%)として定義したときにおける、T×D/100の値を算出した。そして、この値と内部抵抗(%)との関係を調べたところ、
図15に示される結果が得られた。
【0111】
図15に示されるように、T×D/100の値が50〜400の範囲であれば、抵抗値130%以下の低い内部抵抗を実現しやすい。
図15においてT×D/100の値が400を超えても内部抵抗が低いサンプルが存在するが、これらは厚さが大きく且つ相対密度が小さい(すなわち気孔率が大きい)サンプルであり、エネルギー密度的に損となる上、サンプルの作製も面倒となる。なお、T×D/100の値が50〜400の範囲内であっても、130%以上といった内部抵抗が大きくサンプルも僅かに存在するが、これらは厚さが小さく且つ相対密度が高い場合(主として相対密度が90%のもの)に相当し、多孔質基材としての使い勝手には比較的劣るものである。特に、T×D/100の値が50〜300の範囲であるのが、抵抗値120%以下とより低くなるため、より好ましい。
【0112】
【表4A】
【0113】
【表4B】
【0114】
【表4C】
【0115】
【表4D】
【0116】
例4:亜鉛空気二次電池の作製
(1)多孔質基材付きセパレータの用意
例1と同様の手順により、多孔質基材付きセパレータ(以下、単にセパレータという)として、アルミナ基材上LDH膜を用意した。
【0117】
(2)空気極層の作製
空気極触媒としてのα−MnO
2粒子を次のようにして作製した。まず、Mn(SO
4)・5H
2O及びKMnO
4を5:13のモル比で脱イオン水に溶かして混合した。得られた混合液をテフロン(登録商標)が内貼りされたステンレス製密閉容器に入れ、140℃で水熱合成を2時間行う。水熱合成により得られた沈殿物をろ過し、蒸留水で洗浄した後、80℃で6時間乾燥した。こうしてα−MnO
2の粉末を得た。
【0118】
水酸化物イオン伝導性材料としての層状複水酸化物粒子(以下、LDH粒子という)を次のようにして作製した。まず、Ni(NO
3)
2・6H
2O及びFe(NO
3)
3・9H
2Oを脱イオン水にNi:Fe=3:1のモル比になるように溶かして混合した。得られた混合液を70℃で0.3MのNa
2CO
3溶液に撹拌しながら滴下した。この際、2MのNaOH溶液を加えながら混合液のpHを10に調整して、70℃で24時間保持する。混合液中に生成した沈殿物をろ過し、蒸留水で洗浄後、80℃で乾燥してLDHの粉末を得た。
【0119】
先に得られたα−MnO
2粒子及びLDH粒子、並びに電子伝導性材料としてのカーボンブラック(Cabot社製、品番VXC72)を所定の配合比となるように秤量して、エタノール溶媒の共存下で湿式混合した。得られた混合物を70℃で乾燥した後、解砕する。得られた解砕粉をバインダー(PTFE、エレクトロケム社製、品番EC−TEF−500ML)及び水と混合してフィブリル化した。このとき、水の添加量は空気極に対して1質量%とした。こうして得られたフィブリル状混合物を厚さ50μmとなるように集電体(カーボンクロス(エレクトロケム社製、品番EC−CC1−060T))にシート状に圧着して空気極層/集電体の積層シートを得た。こうして得られた空気極層は、電子伝導相(カーボンブラック)を20体積%、触媒層(α−MnO
2粒子)を5体積%、水酸化物イオン伝導相(LDH粒子)を70体積%及びバインダー相(PTFE)を5体積%含むものであった。
【0120】
(3)セパレータ付き空気極の作製
アニオン交換膜(アストム社、ネオセプタAHA)を1MのNaOH水溶液に一晩浸漬させた。このアニオン交換膜をセパレータのLDH膜上に中間層として積層して、セパレータ/中間層積層体を得る。中間層の厚さは30μmである。得られたセパレータ/中間層積層体に、先に作製した空気極層/集電体の積層シートを、空気極層側が中間層と接するように圧着して、セパレータ付き空気極試料を得る。
【0121】
(4)負極板の作製
銅パンチングメタルからなる集電体上に、酸化亜鉛粉末80重量部、亜鉛粉末20重量部及びポリテトラフルオロエチレン粒子3重量部からなる混合物を塗布して、多孔度約50%で活物質部分が塗工された負極板を得る。
【0122】
(5)第三電極の作製
ニッケルメッシュからなる集電体上に白金ペーストを塗布して、第三電極を得る。
【0123】
(6)電池の組み立て
上記得られたセパレータ付き空気極、負極板、及び第三電極を用いて、
図3Aに示されるような横型構造の亜鉛空気二次電池を以下のような手順で作製する。まず、ABS樹脂製で直方体形状を有する蓋の無い容器(以下、樹脂容器という)を用意する。この樹脂容器の底に負極板を、負極活物質が塗工された側が上を向くように載置する。このとき、負極集電体が樹脂容器の底部に接しており、負極集電体の端部が樹脂容器側面に貫通して設けられる外部端子と接続する。次に、樹脂容器内壁の負極板の上面よりも高い位置に(すなわち負極板と接触せず充放電反応に関与しない位置)に第三電極を設け、不織布セパレータを第三電極と接触するように配置する。樹脂容器の開口部をセパレータ付き空気極で空気極側が外側になるように塞ぎ、その際、開口部の外周部分にエポキシ樹脂系接着剤(セメダイン社製、EP008)を塗工して気密性及び液密性を与えるように封止して接着する。樹脂容器の上端近傍に設けられた小さな注入口を介して樹脂容器内に6mol/LのKOH水溶液を電解液として注入する。こうして、セパレータが電解液と接触するとともに、不織布セパレータの保液性により電解液の増減に関わらず電解液が第三電極に常時接触可能な状態とされる。このとき、注入する電解液の量は、放電末状態で電池を作製すべく、樹脂容器内で負極活物質塗工部分が十分に隠れるだけでなく、充電時に減少することが見込まれる水分量を考慮した過剰量とする。したがって、樹脂容器は上記過剰量の電解液を収容できるように設計されている。最後に、樹脂容器の注入口を封止する。こうして樹脂容器及びセパレータで区画された内部空間は気密且つ液密に密閉されている。最後に第三電極と空気極の集電層とを外部回路を介して接続する。こうして本発明の亜鉛空気二次電池を得る。
【0124】
かかる構成によれば、セパレータが水及び気体を通さない程の高度な緻密性を有するため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止し、かつ、空気中の二酸化炭素の侵入を阻止して電解液中での(二酸化炭素に起因する)アルカリ炭酸塩の析出を防止することができる。その上、負極34から副反応により発生しうる水素ガスを第三電極38に接触させて前述した反応を経て水に戻すことができる。すなわち、亜鉛デンドライトによる短絡及び二酸化炭素の混入の両方を防止するのに好適な構成を有しながら、水素ガス発生の問題にも対処可能な、信頼性の高い亜鉛空気二次電池が提供される。
水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータを用いた二次電池が提供される。この二次電池は、正極と、負極と、アルカリ電解液と、正極と負極を隔離し、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質体からなるセラミックスセパレータと、セラミックスセパレータの少なくとも一方の面に設けられる多孔質基材と、少なくとも負極及びアルカリ電解液を収容する容器とを備えてなり、無機固体電解質体が透水性を有しない程に緻密化されてなる膜状又は層状の形態であり、多孔質基材の厚さが100〜1800μmである。本発明の二次電池によれば、セラミックスセパレータの薄膜化による低抵抗化を強度低下の懸念を生じることなく実現しながら、エネルギー密度の低下及び内部抵抗の上昇を望ましく抑制することができる。