(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
大気圧近傍の圧力下において、電圧印加電極と接地電極との間に処理ガスを導入しつつ高周波電界を印加することにより得られる放電プラズマを、放電空間外に配置された被処理体に導いて前記被処理体の表面処理を行うプラズマ表面処理装置であって、
前記電圧印加電極は、筒状に一体成形された固体誘電体に金属電極を挿入してなる構造からなり、円筒状の外周面を有し、
前記接地電極は、前記電圧印加電極の外周面に対応する形状の電極対向面を有する一対の金属電極で構成され、これら一対の金属電極の電極対向面がそれぞれ前記電圧印加電極の外周面と平行に対面するように配置され、かつ、前記接地電極の電極対向面は前記電圧印加電極の円筒状外周面の軸方向に沿って延びる断面円弧状の形態とされ、この電極対向面が前記電圧印加電極を前後から挟み込むように配置されることにより、前記電圧印加電極の頂上側に処理ガスの導入口が形成されるとともに、電圧印加電極の底部側に処理ガスの吹出口を形成し、かつ、前記電圧印加電極の外周面と前記接地電極の電極対向面との間に形成された放電空間で発生する紫外線が、前記接地電極によって前記被処理基板に直接照射されないように構成した
ことを特徴とするプラズマ表面処理装置。
前記電圧印加電極を構成する筒状の固体誘電体と該固体誘電体内に挿入される金属電極との間には、その隙間を埋める充填材が充填されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置。
前記接地電極を構成する金属電極としてアルミニウム製の電極が用いられ、前記電極対向面は陽極酸化処理された面で構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置。
前記接地電極を構成する金属電極としてアルミニウム製の電極が用いられ、前記電極対向面にはステンレス製の部材が装着されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置。
前記接地電極を構成する金属電極としてアルミニウム製の電極が用いられ、前記電極対向面にはセラミックス製の部材が装着されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置。
【背景技術】
【0002】
この種のプラズマ表面処理装置の一例を
図5に示す。このプラズマ表面処理装置は、電圧印加電極aと接地電極bとからなる対向電極間に所定の処理ガスcを導入しつつ両電極a,bに高周波電界を印加することによってこれら電極間の放電空間dに放電プラズマを発生させ、この放電プラズマを放電空間dの外に配置された被処理体Wに導いて被処理体の表面処理を行うように構成されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、このような構造のプラズマ表面処理装置において安定した放電プラズマを発生させるためには(誘電体バリア放電を行うには)、電圧印加電極aおよび接地電極bにおいて電極本体を構成する各金属電極eの電極対向面の少なくともいずれか一方(図示例では双方)の電極対向面を誘電体で被覆しておく必要がある。また、金属電極eと被処理体Wとの間での放電(アーク放電)を防止するためには、金属電極eの被処理体側も誘電体(絶縁体)で覆っておく必要がある。しかも、金属電極eの被処理体側の面だけを誘電体で覆っただけでは、金属電極背面のエッジ部分から被処理体側の誘電体の側面に沿って被処理体Wに放電(沿面放電)が生じるおそれがある。
【0004】
そのため、従来のプラズマ表面処理装置では、電圧印加電極aおよび接地電極bの各金属電極eをセラミックスなどの誘電体で形成された容器状のケースに収容し、金属電極eの四周を誘電体で覆うものが提案されている(特許文献2の
図8参照)。この種の誘電体のケースは、金属電極eを収容するためのケース本体fと、ケース本体fの背面に装着する蓋gとで構成されており、上記ケース本体fは、断面四角形の柱状のセラミックス焼結品に金属電極eを収容するための凹状の溝を切削加工によって形成した後に、この溝の両端をセラミックス製のブロックで塞ぐことによって、電極本体eを収容するための空間を形成させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の構成のプラズマ表面処理装置においては以下のような問題があり、その改善が望まれていた。
【0007】
(1)従来の装置構成では、金属電極eを収容する誘電体のケースの製作費用が高く、装置全体の製造コストが高くなるという問題がある。すなわち、この種の誘電体のケースは受注生産により製造されるところ、誘電体のケースの材料となるセラミックスの焼結品は脆いため、ひび割れを生じさせずに切削加工で凹状の溝を形成するのは難しく、金属電極eを収容できる程度の深さの溝を形成するには、その加工に長時間を要することから、ケース本体fの製作コストが高額となっていた。
【0008】
(2)また、金属電極eから被処理体Wへの沿面放電を防止するために金属電極eの周囲(特に、
図5において上下左右の四方の周囲)を誘電体で覆っていても、ケース本体fとその蓋gとには接合部が生じるため、仮にこの接合部を接着等によって封止していても経年劣化等によって接合部に隙間が生じ、その隙間から被処理体Wに放電するおそれがあった。
【0009】
(3)さらに、従来のプラズマ表面処理装置では、放電空間がプラズマの吹出口を介してコンベアhの直上に配置される構造となっているため、放電空間と被処理体との間にはプラズマ放電によって発生する紫外線を遮蔽する遮蔽物が存在しない。そのため、従来のプラズマ表面処理装置では、プラズマ放電によって発生した紫外線が被処理物に照射されることとなり、この紫外線によって被処理体が変質・劣化等するおそれがあった。たとえば、被処理体Wの表面に紫外線硬化樹脂が塗装されているような場合には、この紫外線が被処理体Wに作用することによって被処理体Wの表面が変質してしまう等の問題があった。
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、被処理体への沿面放電のおそれがなく、しかも被処理体への紫外線照射の少ない電極構造を低コストで提供できるプラズマ表面処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係るプラズマ表面処理装置は、大気圧近傍の圧力下において、電圧印加電極と接地電極との間に処理ガスを導入しつつ高周波電界を印加することにより得られる放電プラズマを、放電空間外に配置された被処理体に導いて上記被処理体の表面処理を行うプラズマ表面処理装置であって、上記電圧印加電極は、筒状に一体成形された固体誘電体に金属電極を挿入してなる構造からなり、円筒状の外周面を有し、上記接地電極は、上記電圧印加電極の外周面に対応する形状の電極対向面を有する一対の金属電極で構成され、これら一対の金属電極の電極対向面がそれぞれ上記電圧印加電極の外周面と平行に対面するように配置され、かつ、上記接地電極の電極対向面は上記電圧印加電極の円筒状外周面の軸方向に沿って延びる断面円弧状の形態とされ、この電極対向面が上記電圧印加電極を前後から挟み込むように配置されることにより、上記電圧印加電極の頂上側に処理ガスの導入口が形成されるとともに、電圧印加電極の底部側に処理ガスの吹出口
を形成
し、かつ、上記電圧印加電極の外周面と上記接地電極の電極対向面との間に形成された放電空間で発生する紫外線が、上記接地電極によって上記被処理基板に直接照射されないように構成したことを特徴とする。
【0012】
すなわち、請求項1に係るプラズマ表面処理装置では、電圧印加電極を構成する金属電極が筒状に一体成形された固体誘電体内に挿入される構造とされているので、当該金属電極の筒状の外周面(接地電極や被処理体と面する外周部分)は継ぎ目なく誘電体で覆われることとなり、固体誘電体の継ぎ目を介した被処理体への放電の発生を防止することができる。
【0014】
そして、この請求項1に係るプラズマ表面処理装置では、電圧印加電極の頂上側から導入される処理ガスは、電圧印加電極の円筒状外周面に沿って
半円弧状に形成された放電空間を通って電圧印加電極の底部側に設けられた処理ガスの吹出口からが被処理体に向けて吹き出される
ので、被処理体は接地電極によって放電空間と遮蔽されることとなり、プラズマ放電によって発生した紫外線が被処理体に照射されるのが防止される。
【0015】
また、本発明の請求項
2に係るプラズマ表面処理装置は、請求項
1に記載のプラズマ表面処理装置において、上記電圧印加電極を構成する固体誘電体としてセラミックス製の円筒パイプが用いられていることを特徴とする。セラミックス製の円筒パイプは既製品として流通しており低コストで入手することができる。そのため、この請求項3に係るプラズマ表面処理装置では、電圧印加電極を低コストで製作することができる。
【0016】
また、本発明の請求項
3に係るプラズマ表面処理装置は、請求項
2に記載のプラズマ表面処理装置において、上記電圧印加電極を構成する金属電極として金属製の円筒パイプが用いられていることを特徴とする。この種のプラズマ表面処理装置では、電圧印加電極の金属電極の内部には冷却液を通すための通路が形成されるが、この請求項
3に係るプラズマ表面処理装置では、電圧印加電極の金属電極として既製品の金属製円筒パイプを用いるので、当該パイプの内部空間を冷却液の通路として利用することができる。そのため、この請求項4に係るプラズマ表面処理装置では、電圧印加電極の金属電極について冷却液の通路を形成させるための製作コストが不要となり、電圧印加電極の金属電極を安価に提供することができる。
【0017】
また、本発明の請求項
4に係るプラズマ表面処理装置は、請求項1から
3のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置において、上記電圧印加電極を構成する筒状の固体誘電体と該固体誘電体内に挿入される金属電極との間には、その隙間を埋める充填材が充填されていることを特徴とする。この請求項
4に係るプラズマ表面処理装置では、電圧印加電極の固体誘電体と金属電極との間が充填材によって隙間なく(空気層を介在させずに)埋められるので、電圧印加電極の金属電極表面を大気から隔離することができる。そのため、このプラズマ表面処理装置では、電圧印加電極の金属電極表面が空気層に曝されたときに当該金属電極表面に生じるコロナ放電の発生を防止することができる。つまり、金属電極表面のコロナ放電による固体誘電体が劣化するのを防止することができる。
【0018】
また、請求項5に係るプラズマ表面処理装置は、請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置において、上記接地電極を構成する金属電極としてアルミニウム製の電極が用いられ、上記電極対向面は陽極酸化処理が施され
た面で構成されていることを特徴とする。この請求項5に係るプラズマ表面処理装置では、接地電極のとして加工が容易で安価に入手可能なアルミニウム製の材料が用いられるので接地電極の製作・成形コストを低く抑えることができる。しかも、電極対向面は耐プラズマ性に優れた陽極酸化処理が施されているので、放電プラズマによって電極対向面が劣化するのを防止することができる。
【0019】
また、請求項6に係るプラズマ表面処理装置は、請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置において、上記接地電極を構成する金属電極としてアルミニウム製の電極が用いられ、上記電極対向面には
ステンレス製の部材が装着されていることを特徴とする。すなわち、この請求項6に係るプラズマ表面処理装置では、接地電極のとして加工が容易で安価に入手可能なアルミニウム製の材料が用いられるので接地電極の製作・成形コストを低く抑えることができる。そして、このプラズマ表面処理装置では、接地電極の電極対向面の耐プラズマ性を向上させるために
、ステンレス鋼などの部材が装着される。ここで、接地電極の電極対向面が円弧状の断面を有する場合には、この金属部材として、たとえば、ステンレス製の円筒パイプを縦割りに2分割したものの一方を用いることができ、電極対向面の耐プラズマ性化を低コストで実現することができる。
【0020】
また、請求項
7に係るプラズマ表面処理装置は、請求項1から
4のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置において、上記接地電極を構成する金属電極としてアルミニウム製の電極が用いられ、上記電極対向面にはセラミックス製の部材が装着されていることを特徴とする。すなわち、この請求項
7に係るプラズマ表面処理装置では、接地電極のとして加工が容易で安価に入手可能なアルミニウム製の材料が用いられるので接地電極の製作・成形コストを低く抑えることができる。そして、このプラズマ表面処理装置では、接地電極の電極対向面の耐プラズマ性を向上させるために、電極対向面に耐プラズマ性を有するセラミックス製の部材(たとえば、アルミナセラミックス製などの部材)が装着される。ここで、接地電極の電極対向面が円弧状の断面を有する場合には、このセラミックス製の部材として、たとえば、セラミックス製の円筒パイプを縦割りに2分割したものの一方を用いることができ、電極対向面の耐プラズマ性化を低コストで実現することができる。
【0021】
また、請求項8に係るプラズマ表面処理装置の製造方法は、請求項5から7のいずれかに記載のプラズマ表面処理装置
の製造方法において、上記接地電極を構成する金属電極の上記電極対向面
を切削加工によって形成
することを特徴とする。すなわち、この請求項8に係るプラズマ表面処理装置の製造方法では、アルミニウム製の接地電極における電極対向面が切削加工により形成されるので、たとえば、円弧状の断面を有する電極対向面を容易かつ安価に製作することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、電圧印加電極と接地電極との間に処理ガスを導入しつつ高周波電界を印加することにより得られる放電プラズマを、放電空間外に配置された被処理体に導いて被処理体の表面処理を行うプラズマ表面処理装置において、電圧印加電極が筒状に一体成形された固体誘電体に金属電極を挿入してなる構造からなり、接地電極が上記電圧印加電極の外周面に対応する形状の電極対向面を有する一対の金属電極で構成され、これら一対の金属電極の電極対向面がそれぞれ上記電圧印加電極の外周面と平行に対面するように配置されるので、電圧印加電極の金属電極の外周は固体誘電体で継ぎ目のない状態で覆われることとなり、固体誘電体の継ぎ目から生じる被処理体への放電を防止することができる。
【0023】
また、上記電圧印加電極の外周面を円筒状とし、接地電極の電極対向面を電圧印加電極の円筒状外周面の軸方向に沿って延びる断面円弧状の形態とし、この電極対向面が上記電圧印加電極を前後から挟み込むように配置することにより、
放電空間と被処理体とを接地電極によって遮ることができるので、プラズマ放電によって発生した紫外線が被処理体に照射されるのを防止でき、紫外線照射により被処理体が変質するのを防止することができる。
【0024】
また、上記電圧印加電極の固体誘電体にセラミックス製の円筒パイプを用いることにより当該固体誘電体の入手コストを低く抑えることができる。また、電圧印加電極の金属電極を金属製の円筒パイプとすることで金属電極の入手コストも低く抑えることができる。そのため、金属製の円筒パイプとセラミックス製の円筒パイプとで電圧印加電極を製作することにより、電圧印加電極の製造コストを大幅に削減することができ、プラズマ表面処理装置を安価に提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
実施形態1
本発明に係るプラズマ表面処理装置は、大気圧近傍の圧力下において、電圧印加電極と接地電極との間に処理ガスを導入しつつ高周波電界を印加することにより得られる放電プラズマ(プラズマ活性化した処理ガス)を、放電空間外に配置された被処理体に導いて被処理体の表面処理を行うプラズマ表面処理装置である。
【0027】
図1は、このプラズマ表面処理装置1の外観の一例を示す斜視図である。このプラズマ表面処理装置1は、
図1に示すように、被処理体である被処理基板wを載置して搬送するコンベア2の搬送経路上に配置される。
【0028】
具体的には、このプラズマ表面処理装置1は、下方を開放した細長い箱型の装置カバー3の内部に、高周波電力が供給されるリアクタ4(
図2参照)を収容してなる構造とされており、コンベア2の搬送経路を横断して(搬送方向Xに直交して)搬送経路上に設けられた装置基台5(
図2参照)に載置されている。ここで、装置カバー3は、電気的に接地された導体板(たとえばステンレス鋼などの金属板)によって構成されており、リアクタ4で発生する高周波電界が外部に漏れないようにするシールドケースとしての役割を果たしている。
【0029】
図2及び
図3は装置カバー3内に収容されるリアクタ4の概略構造を示す説明図である。具体的には、
図2はコンベア2の搬送方向Xに沿ってリアクタ4を切断した断面図である。また、
図3は
図2のIII−III線に沿って切断した断面図、すなわち、リアクタ4をコンベア2の搬送方向Xに直交する方向で切断した断面図である。
【0030】
リアクタ4は、プラズマ表面処理装置1において誘電体バリア放電により処理ガスをプラズマ活性化させるための部位であって、
図2および
図3に示すように、誘電体バリア放電を行う対向電極となる電圧印加電極6および接地電極7と、これら電極6,7間に処理ガスを導入するためのガス導入ブロック8とを主要部として構成されている。
【0031】
電圧印加電極6は、図示しない高周波電源から供給される高周波電力が印加される電極であって、高周波電源と接続される金属電極61と、この金属電極61の周囲を覆う固体誘電体62とから構成されており、本実施形態では、この電圧印加電極6は、筒状に一体成形された固体誘電体62の内部に金属電極61を挿入してなる構造とされている。
【0032】
金属電極61は、
図3に示すように、円筒外周面を有する電極本体部63と、この電極本体部63の両端に装着される電極蓋部64,64とから構成されている。電極本体部63は、接地電極7との対向電極を構成する部位であって、ステンレス鋼などの防錆性を有する金属製の中空の円筒パイプ(金属製の円筒パイプ)で構成されている。そして、その両端に装着される電極蓋部64は、
図3に示すように、電極本体部63の内部(中空部分)に冷却液を導入/排出するための冷却液配管65,65を接続するコネクタの役割を果たすものであって、冷却液配管65に連通する冷却液流通穴65aを有する金属製の部材で構成されており、電極本体部63の両端に溶接などの方法で固定的に取り付けられている。つまり、本実施形態では、金属製の円筒パイプの中空部分を金属電極61の冷却液流路として利用している。なお、この電極蓋部64と冷却液配管65とは着脱可能に接続されており、リアクタ4の脱着時などには冷却液配管65を金属電極61から取り外せるようにされている。
【0033】
このように、本実施形態では、電圧印加電極6の金属電極61は、金属製の円筒パイプの両端に冷却液配管65のコネクタとなる部材(電極蓋部64)を溶接するといった簡単な工程で製作できる。しかも、電極本体部63となる金属製パイプは汎用品として一般に流通している既製品を用いることができるので安価に入手でき、低コストで金属電極61を製作することができる。
【0034】
ここで、電圧印加電極6の長さ寸法(具体的には、電極本体部63の管長)は表面処理を行う被処理基板wの幅寸法(コンベア2の搬送方向Xと直交する方向の幅寸法)Lに応じて設定され、少なくとも電極本体部63の管長が被処理基板wの幅寸法L以上となるように設定される(
図3参照)。これにより、コンベア2で搬送される被処理基板wの表面全体を一度に表面処理することができるようになる。
【0035】
一方、電圧印加電極6の固体誘電体62としては、アルミナを焼結することにより一体成形された円筒外周面を有するセラミックス製の中空円筒パイプが用いられる。このセラミックス製の円筒パイプとしては、既製品として流通している円筒状のパイプが使用される。すなわち、本実施形態のプラズマ表面処理装置1では、金属電極61を覆う固体誘電体62としていわゆる注文製作による専用品を使用するのではなく、他の用途にも使用可能な既製品として流通しているセラミックス製のパイプを用いている。そのため、従来のプラズマ表面処理装置のように、セラミックス製のブロックを切削加工して容器状のケースを製作するのに比べて、固体誘電体の製作コストを大幅に削減することができる。
【0036】
固体誘電体62として使用するセラミックス製パイプは、金属電極61の外径寸法に応じて選択する。つまり、金属電極61を固体誘電体62内に挿入した際に、電極本体部63の外周面(外径面)と固体誘電体62の内周面(内径面)との間にできるだけ隙間が生じない管径のセラミックス製パイプが選択される。また、パイプの厚みとしては、誘電体バリア放電に必要な厚みを有するもの、具体的には、均一な厚さ数ミリメートル程度(たとえば、0.5〜3mm程度)のパイプが用いられる。さらに、このセラミックス製パイプの長さ(管長)は、電極本体部63の外周面を全長にわたって被覆できるように、少なくとも電極本体部63の長さ以上のものが用いられるが、パイプの長さは必要に応じて切断することで適宜調節することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、このセラミックス製パイプ(固体誘電体62)の両端を接地電極7の両端(コンベア2の搬送方向Xに直交する方向の両端)の電極保持部74で保持するように構成していることから、このセラミックス製パイプの管長は、該パイプの両端が少なくともこの電極保持部74に届くような長さに設定される(
図3参照)。
【0038】
ところで、固体誘電体62を構成するセラミックス製パイプの選定にあたり、電極本体部63の外周面と固体誘電体62の内周面との隙間が可及的に小さくなるようにした場合であっても、これらの間には製品の固体差や表面の凹凸などによる僅かな隙間(電極本体部63の表面が空気と接する部分)が生じるので、本実施形態では、このような隙間を埋めるために、これらの間に充填材(図示せず)を充填している。この充填材としては、耐熱性を備えた導電性のペースト(たとえば、カーボン系のゴム)やシリコン製のペースト(たとえば、シリコンゴム)などが好適に用いられる。このような充填材を充填することによって、高周波電界の印加時に電極本体部63の外周面が空気と触れることで発生するコロナ放電を抑制することができる。
【0039】
これに対して、電圧印加電極6の対向電極となる接地電極7は、
図2に示すように、電圧印加電極6の外周面に対応する形状の電極対向面7aを備えた一対の金属電極71,71で構成されている。
【0040】
すなわち、本実施形態では、電圧印加電極6が円筒状の外周面を有しているので、この接地電極7の電極対向面7aは、電圧印加電極6の円筒状外周面の軸方向(
図2の紙面に対して前後方向)に沿って延びる断面円弧状の溝の形態とされている。より詳細には、この断面円弧状の溝における円弧の形状は、電圧印加電極6の円筒状外周面と同心の円弧とされ、かつ、その径は、セラミックス製パイプ(固体誘電体62)の両端を接地電極7の電極保持部74で保持したときに、電圧印加電極6(固体誘電体62)の外周面と電極対向面7a(電極対向面7aに後述する保護部材73が装着される場合は保護部材73の内周面)との間に所定の放電空間(放電ギャップ)Gが形成されるように、電圧印加電極6の外径よりも大きな円弧を描くように設定されている(
図3参照)。また、この溝の長さ(コンベア2の搬送方向Xに直交する方向の長さ)は、上記電極本体部63の長さ以上に設定され、少なくとも電圧印加電極6の電極本体部63と対応する位置には電極対向面7aが配置されるようにしている。
【0041】
そして、これら一対の金属電極71,71は、各電極対向面7a,7aがそれぞれ電圧印加電極6の外周面と等間隔で平行に対面するように、金属電極71,71同士を突き合わせた状態で配置される(
図2参照)。換言すれば、この電極対向面7a,7aが上記電圧印加電極6をコンベア2の搬送方向Xの前後(
図2の紙面において左右)から水平に挟み込むように、金属電極71,71が配置されている。また、これら金属電極71,71は、これらの構成に加え、このように両者を突き合わせた状態で配置したときに、電圧印加電極6の頂上側の接合部にスリット状の処理ガスの導入口75が形成されるとともに、電圧印加電極6の底部側の接合部にもスリット状の処理ガスの吹出口76が形成されるように構成されている。
【0042】
ここで、処理ガスの吹出口76は、
図2に示すように、下方に突出するように構成されている。これは、この吹出口76の形状を利用して接地電極7を装置基台5上に位置決めするための構成であって、この突出部(吹出口76)を装置基台5となる金属製のベース板51に設けた係合穴52に嵌合させることにより、接地電極7が装置基台5上に位置決めされる。接地電極7とベース板51とはビス止めなどにより固定され、接地電極7はこのベース板51を介して電気的に接地される。つまり、本実施形態では、このベース板51は金属電極71とともに接地電極7の一部を構成している。
【0043】
しかして、金属電極71,71がこのように配置されることにより、このプラズマ表面処理装置1では、
図2に示すように、コンベア2の搬送方向Xの前後にそれぞれ半円弧状の放電空間G,Gが形成されることとなり、電圧印加電極6の頂上側の処理ガス導入口75から導入される処理ガスは、この半円弧状の放電空間G,Gを通って(
図2の矢符参照)、電圧印加電極6の底部側に設けられた処理ガスの吹出口76からが被処理基板wに向けて吹き出されることとなる。このように放電空間Gが半円弧状に形成されることから、プラズマ放電により放電空間Gで発生する紫外線は、電圧印加電極6側に張り出した電極対向面7aによって遮られ、コンベア2上の被処理基板wに直接照射されることがない。そのため、放電空間Gで発生する紫外線の照射によって被処理基板wが変質する(ダメージを受ける)のが防止される。
【0044】
ここで、接地電極7を構成する金属電極71について詳細に説明する。この金属電極71は、矩形断面を有するアルミニウム製のブロックを所定の形状に加工したものであって、具体的には、アルミニウム製のブロックに上記電極対向面7aとなる断面円弧状の溝や上記処理ガスの導入口75、吹出口76などを切削加工によって形成するとともに、冷却液の流路となる冷却液流路72を穿ったものである。このように、本実施形態では、金属電極71(接地電極7)の形状が一般的な平板電極と比較して複雑なものになるが、金属電極71はアルミニウム製とされているので複雑な形状であって容易かつ安価に加工することができる。
【0045】
一方、金属電極71をアルミニウム製の電極としたことにより、電極対向面7aの耐プラズマ性を向上させる必要がある。この点につき本実施形態では、金属電極71の電極対向面7aに耐プラズマ性を有する保護部材73を装着している。この保護部材73としては、耐プラズマ性を有する金属製の部材(たとえば、ステンレス製の部材)またはセラミックス製の部材が好適に使用され、これらが金属電極71の電極対向面7aにエポキシ系の接着剤などで接着されている。
【0046】
特に本実施形態では、電極対向面7aが断面円弧状を有することから、上記保護部材73としてステンレス製の円筒パイプやセラミックス製の円筒パイプを縦割りに2分割したものを用いることができる。つまり、2分割した各パイプ片を各電極対向面7a,7aにそれぞれ接着することによって各電極対向面7a,7aの耐プラズマ性を向上させることができる。なお、このときに使用するステンレス製またはセラミックス製の円筒パイプについても既製品を用いることができるので、保護部材73の製作コストは安価に抑えられる。
【0047】
そして、このように電極対向面7aに保護部材73を装着する場合には、金属電極71に形成する断面円弧状の溝(電極対向面7aとなる溝)は、電極対向面7aに保護部材73を装着した状態でも所定の放電ギャップGが確保されるように、保護部材73の厚みの分だけ断面円弧状の溝の径が大きく設定される。
【0048】
なお、接地電極7において電圧印加電極6を保持する電極保持部74には、電極印加電極6と電極保持部74との隙間から反応ガスが外部に漏れ出さないように、耐熱、耐プラズマ性を有するシール部材(図示例では、Oリング)77が装着される。このシール部材77は、
図3に示すように、電極本体部63よりも外側に配置されプラズマ放電に曝されないようにしている。
【0049】
ガス導入ブロック8は、図示しないガスボンベから供給される反応ガスを、接地電極7の上部にスリット状に開口する反応ガスの導入口75に対して均一に導入するために設けられた部位であって、
図2に示すように、接地電極7の上部に取り付けられており、ブロック本体81と、ガス拡散板82とを主要部として構成されている。
【0050】
ブロック本体81は、樹脂製(または金属製)の部材で構成され、
図3に示すように、コンベア2の搬送方向Xに直交する長手方向に貫通するガス導入路83と、その下方に反応ガスの導入口75に臨んで下向きに開口されたガス導入空間84とを備えている。ガス導入路83とガス導入空間84は、
図3に示すように、一定間隔で設けられる連通穴85によって連通されており、ガス導入路83の両端から供給される処理ガスは、この連通路85を介してガス導入空間84に導入される。
【0051】
ガス導入空間84には、上記連通穴85に対面する位置にガス拡散板82が配置されており、連通路85を介してガス導入空間84に導入される反応ガスは、このガス拡散板82に当たってガス導入空間84内に拡散された後、ガス導入空間84を介して接地電極7に設けられた反応ガス導入口75から放電空間Gに導入され、放電空間Gでプラズマ活性化されて吹出口76からコンベア2上の被処理基板wに吹き付けられる。つまり、コンベア2上を搬送される被処理基板wの表面処理が行われる。なお、ガス導入空間84の外周には、ブロック本体81と接地電極7との接合部から処理ガスが漏れ出さないように、ブロック本体81と接地電極7との接合部をシールするOリング86が配設されている。
【0052】
しかして、このように構成された本実施形態に示すプラズマ表面処理装置1では、電圧印加電極6が筒状に一体成形された固体誘電体62の内部に金属電極61を挿入してなる構造を備えることから、電圧印加電極6の金属電極61は継ぎ目なくその外周を固体誘電体62で覆われるので、固体誘電体62の継ぎ目から生じる被処理基板wへの放電を効果的に防止することができる。
【0053】
しかも、放電空間Gのプラズマ放電により発生する紫外線は、接地電極7によって遮られ被処理基板wには直接照射されないので、被処理基板wの変質も効果的に防止される。
【0054】
さらに、電圧印加電極6の金属電極61や固体誘電体62に既製品のパイプが用いられるので、電圧印加電極6の製作コストを従来のものに比べて大幅に削減することができる。
【0055】
実施形態2
次に本発明の他の実施形態について
図4に基づいて説明する。この実施形態に示すプラズマ表面処理装置は、上述した実施形態1に係るプラズマ表面処理装置1における接地電極7の構成を改変している。具体的には、実施形態1では接地電極7の電極対向面7aに耐プラズマ性の向上を図るための保護部材73を装着する場合を示したが、この実施形態では保護部材73の装着に代えて、金属電極71の電極対向面7aに陽極酸化処理を施している。
【0056】
具体的には、本実施形態では、切削加工により接地電極7の金属電極71に形成される電極対向面7aの表面に硬質アルマイト加工を施すことにより、電極対向面7aの耐プラズマ性の向上を図っている。なお、その他の構成は実施形態1と共通するので、共通する部分については同一の符号を付して説明を省略する。
【0057】
このように本実施形態に示すプラズマ表面処理装置によれば、実施形態1のものに比して保護部材73が不要となるので、保護部材73の製作・装着に係るコストを削減することができ、より安価なプラズマ表面処理装置を提供することができる。
【0058】
なお、上述した実施形態はあくまでも本発明の好適な実施態様を示すものであって、本発明はこれらに限定されることなくその範囲内で種々の設計変更が可能である。
【0059】
たとえば、上述した実施形態では、電圧印加電極6の金属電極61と固体誘電体62の双方ともに既製品のパイプを用いる場合を示したが、いずれか一方のみに既製品のパイプを用い、他方は専用品とすることもできる。この場合、上述した実施形態に示したものに比べて製作コストの低減効果は劣ることになるが、一方を既製品とすることでその分の製作コストの低減効果が得られる。
【0060】
また、上述した実施形態では、電圧印加電極6の金属電極61および固体誘電体62として中空の円筒パイプを用いた場合を示したが、筒状に一体成形された固体誘電体の内部に金属電極が挿入される構造であれば、その断面形状は円形に限らず、たとえば楕円形のような他の形状の中空パイプを用いることも可能である。
【0061】
さらに、上述した実施形態では、電圧印加電極6の固体誘電体62として、セラミックス製の中空円筒パイプを用いた場合を示したが、金属電極61を挿入する固体誘電体としてはセラミックスに限らず、ガラスなど他の固体誘電体を用いることも可能である。すなわち、一体成型されたガラス製の筒の内部に金属電極61を挿入するように構成することもできる。
【0062】
また、上述した実施形態では、プラズマ表面処理の対象である被処理体が被処理基板の場合を示したが、本発明のプラズマ表面処理装置における表面処理の対象は、基板状のものに限られず、たとえばフィルム、布地など様々なものを被処理体として表面処理を行うことができる。
【0063】
また、上述した実施形態では、電圧印加電極6の固体誘電体62として一体成形された中空の円筒パイプを用いが、たとえば、縦割りに2分割された円筒パイプを接合して筒状の固体誘電体を形成したもので代用することもできる。ただし、この場合、接合部を介した放電のおそれが生じるため、当該接合部から金属電極61の表面ができるだけ遠ざかるように金属電極61の形状を変形(たとえば、接合部に対面する金属電極61の表面に凹状の窪みを形成するなどして接合部と金属電極との間に空間を形成)し、これらの間に生じた隙間を充填材(たとえば、耐熱性を備えた導電性のペーストやシリコン製のペーストなど)で埋めるなど、接合部からの放電を防止する処置を行う必要がある。